「虚月館殺人事件」真犯人推理(2018年5月15日の記事)


 『Fate/Grand Order』にて2018年5月11日から開催されたミニイベント「虚月館殺人事件」、ライター名こそ明かされていないが、メインキャラクターにホームズがいることから第二部より執筆陣に加わった「円居挽(まどい・ばん)」の可能性が高いと睨まれました。ホームズ譚を模した連続殺人事件が起こる『キングレオの冒険』、ホームズ譚を「正典」と見做す『シャーロック・ノート』、「無謬の推理」という特殊能力が暴走した結果オークになってしまったホームズが出てくる『オーク探偵オーロック』など、ホームズ関連の作品が多い人なので。

 とはいえピックアップされているメンバーがステンノ、メフィストフェレス、そしてジャガーマンと「どう考えても与太話の面子」だったせいもあり、まーたサーヴァントたちがくだらない動機で殺されて金シュワ(霊基消滅)していくドタバタ劇だろう、まぁそういうのも嫌いじゃないよ、とポップコーン片手に待ち構えていたのですが、予想に反して「真犯人を推理して投票しよう!」なんてキャンペーンやっちゃうくらいキッチリしたフーダニット(犯人当て)エピソードでした。円居挽は京大卒業生で、在学中は推理小説研究会に所属。京大の推理研は月に1回くらいの頻度でオリジナルの「犯人当て」を行う伝統があり、これに鍛えられてプロ作家になった会員たちもいる(このへんのインタビューでも語られています)。青春時代に新本格ミステリブームの洗礼を浴びた身としてはチャレンジするっきゃねぇ! とポップコーンを仕舞い込み、メモ帳片手に挑みました。

 この記事は考察のためではなく、単にネタバレ要素含む文章をトップページに掲載することが憚られるため――という理由で作成しているので細かい説明は省きます。閲覧者の皆さんはメインクエストを「その8 読者に提示されていない手がかりを使って解決してはならない」まで終わらせていて問題編に相当するシナリオはもう全部読み切った、という前提で綴っていく。

 いきなりですが、私の予想する真犯人は「ハリエット」だ。あなたを、犯人です。

 理由を述べていこう。まず、クリスが殺害された時点(23時25分)において「家族ではない第三者による証言」でアリバイが成立する人物はホーソーン、アーロン、アダムスカ、アン、伍の5名。彼らは伍以外22時から深夜の3時までポーカーをしており、伍も0時まで勝負を見学していた。この5人は容疑者リストから外していいと思います。アンや伍なら「ちょっとトイレに」と証言者たちの視界から外れた直後、目にも止まらぬ早業でクリスを殺害することは恐らく不可能ではないだろうが、その場合はダイイングメッセージの「mom」が引っ掛かる。プロフェッサーMは「アンがクリスの母親ではないか」と予想しているものの、問題は「クリス本人がそう思っていたか」です。シナリオを読み返すとクリスは「アン様は親も同然」と言及しており、「気付いていない」というのが私の印象である。知っていて気付かないフリをしている可能性もあるにせよ、少なくともこういう言い方をする以上は「アンが母親だと対外的に知られたくない」わけで、死ぬ間際に「商会への忠誠心ゆえ」根性で時計を壊したり血文字を書いたりするクリスが遺すようなメッセージだとは考えにくい。よってマーブル商会のメンバーは「たとえ実行可能でも容疑の対象外」とした。

 モーリスも容疑者リストに入っていますが、「入れ替えトリック」で使うための死体を調達できないことはシナリオの中で触れられているから除外。シェリンガムは正体がホームズだったので除外。ジュリエットと妹は肉親なので証拠能力は落ちるものの、「一緒にいた」ことを疑う理由もないので除外。主人公のアリバイは伍の「寝息が聞こえていた」って証言だけなので少し弱いが、「その時間に主人公の部屋へ主人公以外の誰かが訪れて眠った」という説を補強する材料もなく、素直に「主人公が寝ていた」と考える方が自然なので除外。ローリーとケインの2人は犯行時刻の少し前に空き部屋でかくれんぼをしており、ドロシーに見つけられて部屋に戻っているので3人とも除外。こうして消去していくと「ジュリエットの母親」が「午後10時か午後11時頃に休んだ」という非常にあやふやな証言しかない、容疑者の筆頭候補となります。で、「ジュリエットの母親」が「エヴァと見せかけてハリエット」というのが今回の肝になるワケダ。

 「ガワがステンノとエウリュアレだからてっきり双子だと思い込んだけど、よく読んでみると『ハリエットがジュリエットの妹』とは明言されていない!」という指摘は実のところ初日からありました。自力で気づいたわけではなく、他の人たちが言い合っているのを見て「ああ、そうか」となったクチなので自慢できることじゃないんですが……気づいてみると、なかなか巧妙なんですよね。エヴァとハリエットが登場するシーンではハリエットの方が先に名前を挙げられているし、食事のときにエヴァがクリスを自室に誘うようなセリフを口にしているし、主人公が「お母様」のアリバイをエヴァに確認した際「母は」と返されている。エヴァの容姿である頼光は「母」という一人称を頻繁に使うから見過ごしそうになるが、普通は自分のことを「母」呼ばわりしませんよ……クリスにとってハリエットは義母に当たる存在であり、どんな綴りか知らないが「ハリエット」よりは「mom」の方が短いだろうからそう書き残したんでしょうね。エヴァだったらたぶん「eva」だからそのまま書いた方が早くない?

 しかし、正直に言って投票する直前にちょっと迷いました。上ではドロシーをすぐに除外しましたが、読み返してみると彼女の証言、少し変なところがあるんですよね。浜辺に来ているシーンで「午後10時にローリーを寝かしつけて、そのまま一緒に朝までぐっすり寝てました」と発言しているんですが、ケインの証言だと「空き部屋でかくれんぼをしていたローリーとケイン」を11時20分頃に見つけている。そのシーンも実際に描かれています。主人公が居合わせていなかったので「主人公が知り得ない情報」だったけれど、ケインの証言によって「知り得た情報」に変わった。ドロシーは「ローリーが部屋を抜け出したので連れ戻し、再度寝かしつけた」ことを語っていない。彼女には「血の繋がりのない息子たちを排除してゴールディ家の実権を握り、自分の地位を安泰にする」という動機もある。クリスにとっては彼女も一応義母に当たります。

 が、これって結局のところローリーやケインがかくれんぼの件を喋ったらすぐにバレるんですよ。実際にバレた。「自身の犯行を糊塗するための偽証」にしてはお粗末すぎる。そもそもドロシーが犯人の場合は「11時20分頃にローリーたちを発見してから5分以内にローリーを自室に連れ戻してもう一度寝かしつけ、即座に部屋を出てクリスを殺害した」ことになる。ちょっと……いや、かなり無理があります。「犯行時刻の前後に起きていた」ことで疑われるのを嫌って証言を削ったか、それとも「子供たちの悪戯が高じてクリスを死に至らしめた」ケースを念頭に置いていて彼ら(特にローリー)を庇おうとしているのか。「そのまま一緒に朝まで」って言い回しは自身のアリバイというよりローリーのアリバイを強調しようとする意図を感じるんですよね。あと何より、ゴールディ家に対して脅迫状を送る理由がない。モーリスを殺すつもりなら無駄に警戒を高める必要はありません。

 ハリエットの動機は「ジュリエットとエヴァがアーロンの子かもしれないと疑っている(あるいはアーロンの子だと確信している)」ので、異母兄弟に当たるモーリス(およびクリス)と結婚させないため縁談に反対したり脅迫状を送ったり散々抵抗した挙句、殺害に踏み切った――ってところかな。アーロンは若い頃に様々な女性と関係を持ったと吹聴しているくらいなので、その可能性は真っ先に疑いました。ケインは確実にアーロンの子ではないとわかっているからローリーとの婚約に反対しなかったんでしょう。なんで主人公(ぐだ)にこんな未来予測(千里眼?)じみた状況が発現したのか、という根本的な部分に謎が残るけど、そのへんは明かされるのだろうか……本編に影響しない理由にするんだったら「憑依先の人物が特殊な体質・能力の人間だった」ことにして、「ぐだは巻き込まれただけ」って済ませればOKなんでしょうが。


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