「黒と黒と黒の祭壇」
   /C's ware


 日記の内容を抜粋。


2003-11-10.

『黒と黒と黒の祭壇』、プレー開始。

 去年の5月にシーズウェアが発売したソフト。「黒」を三連呼したうえ、「蠱毒」を副タイトルに据えるセンスは紙一重のステキさです。そういえば佐藤友哉も「嘘と嘘と嘘の祭壇」なる章題を使っていたが……やっぱり狙っているんだろうか。

 シナリオライターは朱門優。今年9月に出た『めぐり、ひとひら。』も手掛けています。和風ファンタジーであるめぐりに対し、こっちの黒黒黒は異世界ファンタジー。同じファンタジーでありながら舞台や雰囲気が異なるものの、一部の設定は密かに共通しているとか。

 主人公はユディル皇国の第七皇子グルーヴェル。味方からは「聖地の守護者」と褒め称えられる名将であり、敵方の異教徒からは「殺戮の皇子」として恐れられる存在だった。取り戻しては奪われ、奪われては奪い返すといった戦いを延々と繰り広げてきた聖地レイアークにおいて10年もの間異教徒の侵攻を退けてきた彼に、突如「反逆者」の烙印が押された。皇女ユーディット──グルーヴェルの義妹にして、やがてはユディル皇国を統べる聖女となる姫巫女。彼女の賜った神託によってグルーヴェルは投獄され、公開処刑を待つ身となったのだ。国と民衆と彼女のために戦い続けてきたグルーヴェルにとっての、苦い裏切り。地下の牢獄で絶望する彼に、チッセと名乗る女が手を差し伸べる。その手を取ったとき、彼は自分が本当に「反逆者」となることを予感した。

 絶望と脱獄で幕を上げるストーリーは当然の如く暗い。義妹への怨嗟に満ちた主人公グルーヴェルは、きな臭い邪教の暗黒儀式に望んで参加する。唯一にして最大の聖女を汚し、堕落させることが目的とあっては、誰しも単純な調教エロゲーを想像するはずだ。攫うまでもなく最初からユーディットが捕まっているお膳立ての良さといい、いかにも手軽なエロを売りとしたゲームのように思える。キャラも少ないし、舞台は閉鎖環境にあるのだから尚更だ。実際、プレー開始から1時間ちょっとは変化に乏しいイベントが続く。これじゃ話を広げていくのは難しいんじゃないか、と微かな不安を覚え始めたところで急展開。

 なんなんだ、この燃えるシチュエーションは。

 あまりの差に少し呆けてしまった。「聖女を拉致監禁して処女のまま奴隷調教する」というコンセプトを聞いていったい誰が空中庭園で天使の軍勢を殺戮する展開を予想するだろう。皇女ではなく「反逆者」に(*´Д`)ハァハァするなんて。一瞬、ケロQやニトロの作品でもやってるんじゃないかと疑ってしまうほど、意外だった。

 たぶん、このソフトは調教エロゲーとしてはダメダメな内容になっている気がします。「処女調教」という狙いはマニアックでエロそうですが、現時点までの感触だとそっちは重視されていない雰囲気が濃厚。反面、燃えるダーク・ファンタジーとしては望外な出来となるかもしれない。焦らし勿体つけてムードを盛り上げるところや、『ヘルシング』ばりのイカレ台詞を多用するところなど、テキストがなかなかに熱い。

 この調子で素晴らしい内容に仕上がっていたら、一度は回避した『めぐり、ひとひら。』も再検討の必要に迫られる。めぐりは体験版をプレーしてシリアスな部分にはいくらか惹かれたが、どうにも日常シーンがだるくて購入予定から外してしまった。発売後に収集した評判は賛否両論につき、買おうとも諦めようとも決心がつかず、長らく迷っていました。幸い今月は出費の予定が少ないですし購入する余裕もありますが、さてはて。とりあえず黒黒黒を進めて判断を確かなものにしようかと。

 ちなみに、気の赴くままにプレーしていたら初回はあっさりバッドエンドになってしまいました。いや、もう、DOSゲーばりの唐突さ。バッドエンド好きの当方としてはこうやって理不尽なBEに襲い掛かられるのも悪くない感じです。


2003-11-11.

『黒と黒と黒の祭壇』、プレー2日目。

 またしてもバッドエンド。フラグを立て直そうとあれこれいじってみるもうまくいかず。んー、最初の方からやり直さないと行けないのか。このゲーム、物語の尺はあまり長くない気がするのですが、ひょっとすると攻略は結構面倒臭いかも。

 しかし、テキストは肌に合うし、オカルトやファンタジーの要素もちょうど良い濃度で混ざっている。状況、テキスト、BGM──これら3つが絶妙の調和を保ちつつ溶け合う様には思わず恍惚。攻略には詰まっていますけど、プレーしていて単純に楽しいです、はい。

 そしてチッセたん(このページの右端)マンセー。最初は「胡散臭い女だな」としか思わなかったが、進むごとに肝心の聖女がどうでもよくなるぐらい馴染んでくる。既に「処女調教」はゲームの目的ではなく、チッセたんと戯れるための手段と化している。「萌え」の要素などないと頭から決めてかかっていたが、迂闊だった。チッセたんの空々しい喋りと、その裏に隠されたモノのおかげで当方は順調に骨抜きにされていっております。もう、主人公と戦場とチッセたんがあればそれでいい気分だ。偏愛ムード横溢。


2003-11-14.

『黒と黒と黒の祭壇』、プレー再開。

 ちょっと間が空いてしまったが、とりあえずあれこれやって何とかバッドエンドを回避し、先に進むことができるようになった。要はこのゲーム、キャラを個別に攻略しようとか思わないでストーリーの流れに沿った選択をしていかないとすぐバッド逝きとなる模様。ひょっとして一本道なのか?

 「聖女を処女のまま調教する」という魅惑漂う設定は本当のことを言えば注目を集めるための餌にすぎず、黒黒黒の本質というか本領が発揮される場面は別のところにある。それが何なのか、実際プレーしてみないと掴めないのがマイナー化という貧乏籤を引いてしまった理由ではなかろうか。

 何十時間もやり込むほどの分量はなく、中身もそれほど濃くはない。偏愛対象とするにはちょっと小奇麗にまとまっちゃっているため不適。しかし、まとまり方が決して悪くはなく、小粒だけれど個性的といった印象がある。ニトロやケロQのような、ある種の熱狂的なファン層を生み出すほどのパワーはないが、「そっち系」の嗜好を持つ御仁には充分ススメられる。スナック菓子めいた手軽さの燃えダーク・ファンタジー。しかしそれでも、惚れる人は結構な深度で惚れるハズです。当方も何か、説明のつかない範囲で惹かれつつあります。

 やはりチッセ(このページの右端)か。彼女の存在は無視できない。狂言回しといった役どころで、いかにも腹黒そうで何考えてるんだか分からない笑みを浮かべていますが、本編では調教される聖女・ユーディットよりも長く主人公と接しており、胡散臭いながらもプレーが進むうちに愛着が湧いてくる。というより、燃えどころはあっても萌えどころがほとんどない黒黒黒において唯一の萌え要員。延々と空疎に響くお喋りが独特の可愛らしさを育みます。だが全身から溢れる胡散臭さによってチッセたんが何を言っても主人公は信用せず、ふたりは普通の恋愛ゲーみたく感情がすれ違う。何度主人公に「このニブチンがッ!」と野次を飛ばしたくなったことか。

 チッセたんに目が行き過ぎて肝心の聖女がだんだんどうでも良くなってくるという弊害はありますけど、ストーリーはちゃんとツボを押さえた展開となっているのでプレーしていて楽しいです、はい。「予想を裏切る」ことが一つの面白さとなっています。


2003-11-15.

『黒と黒と黒の祭壇』、コンプリート。

 こんなのトゥルーエンドじゃないっスよ。

 ……分量の割にやたらと選択肢が多く、またフラグ立ての条件も厳しくて、普段やっているヌルい難易度のノベルゲームと比べればかなり煩瑣でしたが、それでもある程度は苦労しいしい進められました。しかし、「ある程度」に達してからが進まない。チッセやレアルなど、他のキャラのイベントCGやエロシーンの回想欄は埋まっても、ユーディットにはかなりの空きがある。何か見逃しているルートがあるんじゃないかと散々再プレーを重ね、「もうこのシーン見るの飽きた……」と各所で思いながらもやっとこさ新規ルートを発見しました。蒔かれていた伏線が実り、着々と刈り取られていくのを見て満悦、これこそトゥルーエンドへの途だ──とばかりにプレーしましたが。

 このエンドはあんまりにも……・゚・(ノД`)・゚・

 いや、燃え展開もあるし盛り上がることは盛り上がります。それほどムチャクチャなオチをつけているわけでもなく、キレイっちゃキレイにまとまる。グランド・フィナーレとしては別段出来が悪くもない。けれど、これは当方を含めた「チッセたん萌え〜」なプレーヤーにはとてもムゴい終わり方。バッドエンド扱いでもいいから、せめてあそこに選択肢が欲しかった……。

 そんなこんなでやり終えました、黒黒黒。当初予想していた方向とは遙か別の路線へと突き進んでしまい、意外性があるという点については申し分のないストーリーでした。さりげに聞き及んでいた「燃え要素」についても過不足なく、イカレ台詞やシチュエーションの妙味で気分を盛り上げてくれる。選択肢を大量に仕込み、フラグ条件を厳しくしたせいか、ところどころで話の繋がりがおかしい部分も見受けられた(素手のキャラなのに「凶器を持って〜」という描写が出たり)けど、そういった些細な不整合を除けば物語としての仕上がりは良い。こまごました伏線もちゃんと回収されてゆくし、少ないキャラ数でああまで話を広げていくのは正直巧いと思いました。

 第一印象ではどうしても普通の調教モノにしか見えず、「話の幅が狭いんだろうなぁ」と高を括っていましたが、完全に裏切られました。当方としてはかなり気持ちイイ裏切られ方です。ただ、分量はそれほど多くもない。当方は攻略に詰まったせいでだいぶ時間がかかりましたが、効率良くやっていけば実際のところ10時間程度でひと通りクリアできます。フルボイスでこれくらいというのは小規模……とまでいかなくとも、中規模。長大化の目立つ昨今においてはボリューム不足と映りかねない。

 しかし、逆を返せばこのゲームは無駄が少ない。プレーヤーの飽きが来るような文章をダラダラ続けたりせず、サクサクと次へ次へ進んでいって退屈させられることがない。チッセたんの薀蓄はちょっと長いですけど、ハッキリ言って当方は彼女の演説を耳にしていて飽きを覚えたことはないです。攻略中もお気に入りのところはわざわざスキップを止めて聞き入ったり。テキストが魅力的ですね。たまに意味の分かりにくい言い回しや少し不自然に響く言い回しなどもありますが、ルビを多用した説明的なセリフ回しは燃える。復讐を誓った主人公の心情がいまいち不透明なところなど、内面描写が甘く、いくらか粗さを感じますがセンスは良い。ムードにぴったり嵌まっている。

 また、「ボリュームが少ないから話のスケールも小さいのではないか」という疑いに関してはまったくもって否。コンパクトにまとまっているくせしてテーマは結構壮大です。壮大なのにアッサリ決着を迎えてしまうところが一種の面白みとも言える。僅か数十ページの中で世界の秘密が明かされたうえで人類滅亡だの宇宙消滅だのと極端な結末を迎えるSF短編にも似た味わい。

 傑作と言うよりは佳作、逸品と言うよりは小品。過大の期待を込めてプレーすれば肩透かしかもしれませんが、「ちょっと燃えたい気分だなぁ」と軽い気持ちでやるにはちょうど良い内容です。『めぐり、ひとひら。』のおかげで再注目されつつある本作、とりあえず当方もオススメいたします。というか、めぐりも近く買いに行かないと。

 余談。当方は繰り返し述べた通りチッセ萌えですが、かと言って他のキャラクターたちもなかなか悪くはない面子でした。最初はキンキンした声にウザったさを覚えたレアルも美味しい活躍の場を与えられてうまく目立っていたし、メインのくせに「儀式の道具」扱いされていたユーディットも専用ルートではしっかり見せ場を演出して魅せる。何より意外だったのはベアトリーチェ。なんか強そうで脆そうな印象はありましたが、壊れた途端にあんな具合になってしまうとは。不覚にもクラッと来ました。

 そういえば、『きみとぼくの壊れた世界』に匹敵する「お兄ちゃん」連呼の狂的萌え台詞もありまして、ついこの間「夜月(*´Д`)ハァハァ」と興奮した記憶と混ざり合って変な笑いが止まらず、腹が苦しくなってしまいました。もう、どう形容すればいいのやら。致命的に萌えました。


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