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リレー小説「魔法少女忌譚修」(第13話−10/12)
2025-12-22.・『ナイツ&マジック』4年ぶりの新刊が出ると聞いて昂っている焼津です、こんばんは。
うおおおお! 4年も間が空いたから正直11巻の内容あまり覚えてないけど楽しみだぜ! 確か空島みたいなところに行って現地の戦いに巻き込まれる話だったっけ? 戦いが一段落して次の展開が始まるとか、そんなんだったような……我ながら記憶があやふや過ぎる。たぶん新章だと思うからあんまり覚えてなくても楽しめる、はず。巨大ロボ好きの主人公が異世界の美少年に転生し、エンジニア魂を炸裂させて当地の常識を覆す新機体を次々と生み出すロマン重視のロボアクション・ライトノベルです。アニメ化から8年以上経ったけど、さすがにもう2期目は望み薄かなぁ。コミカライズも終わっちゃったし。ヒーロー文庫の本はちょいちょいアンリミに来るんで、読んだことなくて興味のある人はKindle Unlimited対象になったら既刊をまとめて読んでみてもいいんじゃないかと思います。
・TVアニメ『わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?)』(略称:わたなれ)の続編(第13〜17話)、放送・配信日が決定!新年早々、全5話を一挙公開!
時期的に捻じ込めそうなのが年末年始のあたりしかないんで大晦日か正月の二択だろうな、と思っていました。正月早々にネクストシャインとは幸先がいい。初日の出と掛けることもできますからね。午前1時放送ということは、大晦日恒例のFate特番を視聴する習慣のあるオタクはほぼそのままの流れで雪崩れ込む感じになるかな?
なお、SNSとかでは勘違いしておられる方々が散見されましたけど、わたなれの第13〜17話は「2期の前半」ではなく「1期の終盤」です。もともとわたなれのアニメは「全17話」として企画されており、恐らく「5話分の放送枠がないから少し間が空くけど年末年始のあたりに一挙放送しよう、その間何もないと視聴者の熱が冷めてしまいかねないし、イベント的に先行上映して話題作りしよう」程度のノリで公開されたと思われるのがネクストシャイン、ってわけです。観に来るのが一部のファンだけだとしても、そのファンたちが「スゴかった! 期待していいよ!」と熱を込めて周りに伝えてくれれば劇場まで足を運ばなかった人々もテレビ放送を心待ちにしてくれるだろう……ぐらいの狙いで上映したら満席続出になって関係者も相当ビックリしたという。
観に行きたかったけど遠すぎてムリだった方、行動範囲内だったけど都合が合わなくて鑑賞できなかった方も是非この放送を観ていただいて「これを……映画館で流したのか……!?」と戦慄してほしい。放送終了後に「TVアニメ2期決定!」のニュースが報じられることを信じて私もワクワクしながら待機するとします。
・岩代俊明「PSYREN -サイレン-」TVアニメ化!ジャンプでの連載終了から約15年を経て(コミックナタリー)
ティザーサイトの時点でURLが「https://psyren-anime.com/」、カウントダウンとともに表示される「ベルが鳴り続ける公衆電話」……「誰がどう見たって『PSYREN -サイレン-』じゃねぇか!」とジャンプ好き界隈が沸きました。名作であることに間違いはないけど、連載終了から15年も経っているし、今更望み薄かな……と諦めかけていた頃に「TVアニメ化決定!」の報が舞い込んだんだからテンション上がるのもむべなるかな、です。Animejapanの「アニメ化してほしいマンガランキング」に3度ノミネートし、うち2回が10位以内にランクインした作品なんですが、正直あのランキングってそこまで効果があるとは思ってなかったんでPVの中に「3度ノミネート」と出てくるのはビックリした。
もう少し細かく解説しよう。『PSYREN -サイレン-』(正確にはRが左右反転した鏡文字になっている)は“週刊少年ジャンプ”誌上において2007年から2010年にかけ約3年間連載されたマンガです。単行本は全16巻。ベルが鳴っている公衆電話の受話器を取るところから物語が転がり出すため、ティザーサイトの「鳴り続ける公衆電話」を目にした瞬間ピンと来たファンも多かった。個人的には『フォーン・ブース』という映画の方を先に連想しちゃうけど。出だしはサスペンスっぽい雰囲気ですが、ゴリゴリの異能バトルコミックです。作者の「岩代俊明」は『みえるひと』という作品でデビューし、『PSYREN -サイレン-』完結後は『カガミガミ』という新連載をスタートさせるも、全5巻という短さでひっそりと終わってそのまま“週刊少年ジャンプ”誌上から姿を消してしまった。「いまひとつ華はないけどマンガが上手い」と評価する人も多く、その作風を引き継いだ元アシスタントたちが『ブラッククローバー』や『怪獣8号』をヒットさせています。
私はリアルタイムでずっと連載を追っていたわけではなく、「そろそろ大詰めっぽい」という噂を聞いて単行本まとめ買いしたんですよね。確か13巻が出たあたりだったかな? 面白いんだけど、未読の人に「どこが面白いのか」を伝えるのが難しい内容で、そのせいもあっていまいちブレイクし切らなかった印象がある。眼鏡っ子の割に性格が大人しくないヒロインが魅力的で、読んだ人は「じゃ ここにいなよ… えいえんに…」とか「腕一本もーらった」とかインパクトのあるセリフを口にする雨宮さんに夢中になること請け合いなんですが……読んでない人にはそのへんのニュアンスが伝わりづらい。ストーリーが本格的に盛り上がってくるのが4、5巻あたり、そこまで読めばもう後は一直線ながら、御新規さんをそこまで引っ張り込むのが非常に難しかった。アニメ化のおかげで「引きずり込みやすくなったぞ!」と満悦することしきりです。主人公が弱い状態から徐々にパワーアップしていってインフレ化していくのではなく、むしろ「強すぎて危険な力を制御し、性能を落としながら使い勝手を良くしていく」という「デチューン」に重きを置いたあたりが新鮮で面白かった。ちなみに私の好きなキャラは「天樹院マリー」です。
アニメ化まで漕ぎつけられなかったこともあって壮大なストーリーの割に全16巻というやや微妙な巻数で終わってしまったが、これでも当時は「よくここまで頑張った」「正直数巻で打ち切りになるかと思った」って声が相次いだんですよ。ライトノベルで言うと『Dクラッカーズ』みたいなポジションの作品。丁寧にやれば3クールぐらいで収まりそうだが、まぁ良くて分割2クールとかでしょうね。主人公「夜科アゲハ」役の声優は「安田陸矢」、まだ20代の若手であまり目立つ出演作はないかな……『さわらないで小手指くん』の小手指くんとかやっていますが。ヒロイン「雨宮桜子」役は「風間万裕子」、『魔法少女にあこがれて』の「アズールはもう駄目だ」でお馴染み「マジアアズール(水神小夜)」が有名か。監督は「小野勝巳」、シンフォギアのG以降とかヒプノシスマイクのTVシリーズ(劇場版は別の人が監督)などを手掛けている。シリーズ構成は「吉田伸」で、『遊☆戯☆王』関係の仕事を数多くやっている模様、そのとき小野監督とも一緒に仕事したことがあるみたい。制作スタジオは「サテライト」、結構古くからあるところで『創聖のアクエリオン』や『マクロスF』、シンフォギアシリーズなどが代表作です。ただ、『マクロスF』のメインスタッフは「エイトビット」、シンフォギアシリーズのメインスタッフは「スタジオKAI」と、それぞれ別のスタジオに移っているため、面子はだいぶ入れ替わっているんですよね。割と最近のところでは『Helck』や『ユーベルブラット』、『戦隊レッド 異世界で冒険者になる』などを制作しています。全体的に「期待できるけど不安もある陣容」かな。
集英社も「アニメにしっかりと力を入れれば世界的なヒットが見込める時代になった」ことは認識しているハズなので、今回もそれなりの資金とマンパワーを投じてくれるだろうが……とにかく今のアニメ界は人手不足で、「金があってもなかなか巧い人が集まらない(ほとんどが別の現場で拘束されている)」という苦境に陥っています。出来がどうなるかは結局蓋を開けてみないとわからない。ドキドキしながら放送の日を待つとしよう。
・“最凶”中華料理マンガ「鉄鍋のジャン!」TVアニメ化、あおきえい×TROYCAで2026年に(コミックナタリー)
『PSYREN』もビックリだけど、こっちもこっちでまさか過ぎる! 90年代の“週刊少年チャンピオン”に連載されて一世を風靡した外道料理マンガです。「主人公が悪役」「ダークヒーローを超えてもはやヴィラン」と形容されるぐらい凶悪な顔立ちで、言動もかなりヒドい。コンプラ重視の方針なら絶対にアニメ化できない作品。審査員のペットを勝手に調理して提供したり毒ガスを散布して物理的に料理対決を妨害しようとするようなキャラまで出てくるというムチャクチャぶり。対戦相手がガスマスクしてる料理マンガなんて初めて読んだな……。
監督は「あおきえい」、『喰霊-零-』や『放浪息子』、『Fate/Zero』などを手掛けた人です。この人はもともと熱心な『鉄鍋のジャン』ファンで、何年も前からアニメ化を熱望していました。制作は「TROYCA」、あおきえいが取締役をやっているスタジオ。『アルドノア・ゼロ』とか『やがて君になる』とか、最近だと『ATRI -My Dear Moments-』を作っている。クオリティもさることながら、「本当に原作通りの内容をやるつもりなのか?」という点が大いに気になりますね。PVでは予防線張りまくって「原作発表当時の世相・表現を尊重し過激な表現が含まれる場合があります」と江戸川乱歩の復刊作品みたいな注意書きしてることに笑ってしまう。発表当時でも充分異端だったよ! だから今までアニメ化されなかったんじゃないか!
どうしてもアレな部分ばっかり目立ってしまうが、「鮫肉を調理せよ」みたいなミッションが興味深くて普通に料理マンガとして読んでも面白い部分はあります。今では当たり前になっている「XO醤」や「刀削麺」なども当時としては新しく、物珍しかった。後半はかなりゲテモノ路線に突入していくからなかなかキツいんだけど、さすがにそこまではアニメ化しないかな? あとキャストはまだ発表されてないが、PVの声を聞いた感じだと主人公「秋山醤」役は「戸谷菊之介」かしら。『チェンソーマン』の「デンジ」を演ってる声優さん。しかし、ジャンのアニメ化が成功したら往年のチャンピオン連載作品アニメ化ラッシュとか来ちゃうのかな……『ウダウダやってるヒマはねェ!』と『覚悟のススメ』は一応OVAがあるけど尺が短いし、フルリメイクの可能性はゼロじゃない。あとは『フルアヘッド!ココ』とか、『アクメツ』とか、マンガ版『スクライド』とか、『ギャンブルフィッシュ』とか。個人的には『刀真』という単行本すら出なかった打ち切り作品が好きなんで、単行本化&劇場アニメ化のコンボをキメてくれたら最高だなって。
・金子玲介の『死んだ石井の大群』読んだ。
メフィスト賞作家「金子玲介」の受賞後第一作。平たく書けば「2冊目の本」です。金子玲介は2024年5月に『死んだ山田と教室』でデビューし、8月に本書を、11月に『死んだ木村を上演』を刊行した。3ヶ月に1冊という新人としては驚異的なペースである。すべてタイトルに「死んだ」の三文字が入っていることから「死んだ三部作」と見る向きもあるが、キャラとかストーリーの繋がりはなく、それぞれ独立した長編小説になっています。なので気になった本から読み出せばいいし、食指が動かないのであれば無理に読む必要もありません。
突然、真っ白な部屋の中で目覚めた「石井唯」。彼女の周りにいた人々は何か黒い首輪のような物を嵌めていた。角度的に見えないが、恐らく自分も嵌められているのだろう。ワケもわからず戸惑う人々に、どこからともなくアナウンスの声が響く。<大変お待たせしました><これより、第一ゲームのルールを説明いたします> まるで絵に描いたようなデスゲームの開幕。しかも、隣にいた女の子の名前は「石井灯莉」――自分と同じ「石井」姓。会場の壁面に投影されたリストには、唯含めて333人もの「石井」の名が連ねられていた。まさか、全国から石井姓の人間だけ攫ってきてデスゲームを開催するというのか? いったい何のために? 困惑しながらも、次々と首輪が爆発して生首が飛んでいく現実を前に、夢現の心地で流されていく唯だったが……。
強制的にデスゲームに参加させられた「石井唯」視点から始まり、何の前触れもなく失踪した石井姓の人間を捜索する私立探偵「伏見と蜂須賀」、言わば「内部と外部」の視点を交互に切り替えながら進行していく一風変わったデスゲーム小説です。探偵の捜索パートは結構退屈で、デスゲーム部分を目当てに読み出した人はここでテンションが落ちてしまうかもしれません。極端なアドバイスになりますが、「探偵パートがあまりにもつまらない」と感じた場合はいっそ飛ばして唯視点の章だけ読み進めてもOKです。一応、デスゲームの結果が出るあたりで物語にも決着が付く仕様になっていますから、探偵パートは読まなくてもオチを理解することは可能になっている。どうしても細部が気になる、という場合のみ遡って探偵パートを読めばいい。
全1冊、250ページ弱で終わるように構成されているためデスゲームの数もそんなに多くなく、探偵パートを飛ばすと1、2時間程度で読み通せます。開催されるゲームは3つ、「デッド・ドッジ・ボール」と「禁字しりとり」と「最初からグー、永遠にグー」。デッド・ドッジ・ボールは壁から射出されるボールに当たってキャッチし損ねたり、ラインの外側に出ると即死亡。当たった人以外がバウンド前にボールを拾った場合はセーフです。あと顔面セーフで、後頭部に当たった場合もセーフ。非常にシンプルなゲームで、映像化したらここのシーンが予告編とかで使用されまくりそう。というかコミカライズもあるんですよ、この作品。そもそも『死んだ石井の大群』のマンガ版を1話だけ読んで金子玲介に興味を持ち、『死んだ山田と教室』から読み出した……という流れだったりする。ついでに書くと『死んだ木村を上演』のコミカライズもあります。『死んだ山田と教室』もちょっと前にマンガ版が始まったらしいが、そっちはまだ読んでいません。舞台化もしているからそのうちドラマ版とか映画版も来そうだな。
「禁字しりとり」は通常のしりとりに「使ってはいけない字」を混ぜた特殊ルールで、たとえば「ご」が禁字だった場合は「しりとりの『り』からです」と言われて「り、りんご!」と答えた途端に爆死します。禁字を含んだ返答はすべて無効と見做され、この場合次の人はまた「り」で始まる「禁字を含まない答え」を考えないといけない。アウトが出ることで禁字の特定が進み、セーフと判定されることで安全な字もわかってくる。「禁字かどうかわからない字を極力使わず、安全とわかっている字だけで返答する」のがセオリーになり、ちょっとだけ頭脳戦要素が出てきます。「り」と「ん」が安全と判明したから「倫理」と答えてアウトを避けつつ「り」攻めする……みたいな感じ。デスゲーム物が好きな人はこの章が一番興奮するんじゃないでしょうか。しりとりだけじゃなくて「じゃんけんグリコ」の要素も入っていて、「答えた字数の分だけ階段を上がってゴールを目指す」ルールになっていますから「安全を取りつつなるべく長い言葉を答える」ことで勝利に近づく。たぶん福本伸行がこのネタでマンガ描いたら最低3年は引っ張るんじゃないか、と思うぐらいの面白さなんだけど、金子玲介は若い(1993年生まれ、まだ32歳だ)から60ページ弱でこの章を終わらせています。制限時間の短いゲームだしちょうどいいスピード感なんですが、正直勿体ないとも思いましたね。必要最小限の描写しかしていないので、「こいつ……『り』攻めしやがった!」みたいな心理描写もほとんど省かれている。私個人はもうちょっと引き伸ばしていいと感じましたが、このへんはデスゲーム好きでも意見の分かれるところかもしれない。
最後のゲームは説明が難しいし、ネタバレになりかねないので説明は省略します。恐らく読んでいる人のほとんどは途中で「仕掛け」に気付くと思います。だって333人も「石井」を集めてデスゲーム開催するなんて、あまりにも大掛かり過ぎるから「納得のいく設定」を考えたらどうしても候補は絞られてくる。「清涼院流水」とか「西尾維新」だったらこの程度のブッ飛んだ設定は何の衒いもなくかましてくる可能性がありますけど、『死んだ山田と教室』を読んだ感触からすると金子玲介は至って常識人っぽいので……「仕掛け」「オチ」「どんでん返し」みたいな部分に期待する人にはちょっとオススメしにくい。純粋に「軽く読めるデスゲーム物が読みたい」という方には推せます。
良くも悪くも「納得のいく」デスゲーム小説。デスゲーム物に対して無茶苦茶だったり、理不尽だったりという「不条理要素」を求める人が読むとガッカリするかも。「『蒼穹のファフナー』を無理矢理1冊の小説にしたらこんな感じになるか?」と思った一品でした。新規性は薄いけれど作者の器用さが伝わってくる。決して王道的な作品というわけじゃないが、斬新なモノ、奇抜なモノを受け付けなくなってきた私みたいな人間にはちょうどいい出来栄えです。
・拍手レス。
往年のラノベ読者なら触れたことはありそうな阿智太郎先生の消息がこんなところでわかるなんて…という記事を見かけたのでシェアを https://dengekionline.com/article/202510/50743 びっくり…
筆名の「エチタロウ」で噴いた。同人エロゲの制作費がどれくらい掛かったのかとか、赤裸々に書いていてコラムとしても面白いです。シェア感謝。
2025-12-14.・サボり気味だったFGO、何とかソロモンが加入するところまで進めて第2部終章を迎える準備が整った焼津です、こんばんは。
クエストクリア条件で加入する初の☆5サーヴァントがまさかコイツになるとは……要求する素材も比較的おとなしめで、割と簡単にスキルマさせられるのがありがたい。サポーター系かと思ったら意外とアタッカー寄りだった。そして、終章に備えて始まった363騎のサーヴァントをピックアップする『サーヴァント全騎ピックアップ召喚』。データ量多すぎてガチャ画面を開くだけで重たくなる。回したいピックアップもないではないが、年始からバレインタインにかけて怒濤の新規ガチャが来そうなので我慢、我慢。今はただ始まりの地、「炎上汚染都市 冬木」で第2部の終わりを見届けることに専念するとします。
・ウンベルト・エーコの『薔薇の名前』、【完全版】を12月25日に刊行予定、上下巻で合計6820円(税込)
海外ミステリの中でも一、二を争う名作でありながらなぜか文庫版が発売されないことでお馴染みの『薔薇の名前』、日本語版の発行から35年の時を経て遂にニューバージョンのお出ましだ。「完全版」とはいうものの、内容的にはそこまで大きく変わらないみたいなので、ファンやマニア以外は旧バージョンで妥協してもOKかと。正直、カバーデザインに関しては旧版の方が格好良いもんな……私も買い直そうかどうか少し迷ったりしたが、旧版はもうだいぶボロっちくなってきたのでこの機会に買い直すことにしました。出版不況のこの御時世、紙の新装版が出るだけでもありがたいと思わなくては。
・「コードギアス」最新作「星追いのアスパル」制作決定!「奪還のロゼ」のテレビ放送も(コミックナタリー)
派生タイトルが多いことで知られるコードギアスにまたしても新たなタイトルが! 『星追いのアスパル』、現時点ではタイトルとスタッフと「完全新作である」ことしかわかっておらず、どんな内容なのかは一切不明。ギアスのスピンオフの中には江戸時代に相当するあたりの年代を描いた『漆黒の蓮夜』みたいな作品もあるので、舞台となる時代がルルーシュとかとは全然違う可能性もあるし、そもそも同一世界なのかどうかすら怪しい。監督は「野村和也」、比較的最近の作品だと『憂国のモリアーティ』をやった監督ですね。シリーズ構成は「野アまど」、ひたすら「変な小説」を釣瓶打ちして定期的にSNSでバズっている『野アまど劇場』でお馴染みの作家です。アニメファンには珍作『正解するカド』や『バビロン』、映画『HELLO WORLD』の人として認識されているかもしれない。アニメの方には関わっていないが『ファンタジスタドール イヴ』という前日譚(プリクエル)も書いている。『ファンタジスタドール』は『コードギアス』の監督「谷口悟朗」が関わった作品でもあり、その縁で来たのかな? 変わった作品の多い作家だが、「試しに1冊くらい読んでみてもいい」というのであれば『know』あたりがオススメ。
『奪還のロゼ』は去年(2024年)に劇場で先行上映された後、Disney+で独占配信されていた作品らしい。なんかタイトルはチラッと見た覚えがあるけど、Disney+に加入してまで観たい気持ちがなく、あまり深く調べていなかった。『復活のルルーシュ』の5年後、ブリタニア人の傭兵兄弟「アッシュ」と「ロゼ」がネオ・ブリタニア帝国に占領された合衆国日本の「ホッカイドウブロック」に潜入し、「皇サクヤ」を救出する作戦に従事する……というようなストーリーを全12話で紡いでいる模様。ヒロインの皇サクヤは「皇神楽耶」の親戚で、CVは「上田麗奈」。本当に仕事が途切れないな、うえしゃま。
・『ラブライブ!蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ Bloom Garden Party』、2026年5月8日に全国劇場公開
“ラブライブ!”プロジェクトの1作でありながらアニメが制作されていなかった「蓮ノ空」、遂に劇場タイトルとして来年に全国公開される運びとなりました。「蓮ノ空って何?」という方向けにまずは軽い解説から。『ラブライブ!』自体は知っていると思うので省略しますが、無印(2013)→サンシャイン(2016)→ニジガク(虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会、2020)→スーパースター(2021)と来て5番目のプロジェクトに当たるのがこの『ラブライブ!蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ』、公式略称「蓮ノ空」です。「Link!Like!LoveLive!」という「現実の時間と連動しているラブライブ!アプリ」を中心に展開しているプロジェクトで、2023年頃からスタートしています。
物語の舞台は石川県金沢市の山奥に佇む「蓮ノ空女学院」。100年以上の歴史を誇る伝統校で、全寮制。「こんなところで青春を浪費するのはイヤだ!」と脱走を計画した主人公「日野下花帆」がスクールアイドルに出逢って思い直し、スクールアイドルの全国大会である「ラブライブ!」への出場を目指して頑張る、というような話です。「100年以上の歴史を誇る伝統校」なので生徒たちは「1年生」「2年生」「3年生」という区切りとは別に、宝塚みたいな「〇期生」という分類でも呼ばれる。主人公の花帆ちゃんは103期生です。「〇期生が入学した年」を「〇th」としてカテゴライズしているため、物語の開始点は「103th」。花帆ちゃんたちは101期生の先輩が卒業するところを見送って、次章「104th」へ向かう。後輩の104期生を迎え、いろいろと恩のある102期生の卒業を見送り、物語は遂に最新章「105th」へ移行。映画『Bloom Garden Party』はこの「105th」に該当するエピソードなので、蓮ノ空に関する予備知識がまったくない状態で観ると混乱を来す可能性が高いです。観に行くつもりであれば事前に公式が用意しているダイジェスト集に目を通しておくことをオススメします。ダイジェストどころか本編ストーリーもYoutubeで配信されていますから、時間があるのであればそれを全部視聴するのがベストなんですが……累計で3、40時間くらいあるのでよっぽどのガッツがないと厳しい。とはいえ「蓮ノ空に入学するところからの付き合いだった103期生(花帆ちゃんたち)が遂に卒業の時を迎える」「涙ながらに卒業を見送った102期生(先輩たち)がOGとして再登場する」って趣旨の映画なんで、ファンと感動を分かち合いたいのであればやはりある程度の予習が必要かと。蓮ノ空は現実の時間とリンクしているおかげで「作中のキャラクターたちと同じ時間を共有している」ような感覚が味わえるのが醍醐味なんですが、その仕様のせいで後から入ってきた新規層が若干居づらいという「閉じた(コアなファンだけで固まった)コンテンツ」となっている面があります。閉じているからこそ心地良い、という面もあり、単純に良いとも悪いとも言い切れない特徴である。
脚本を担当するのは「丸戸史明」、数々の名作エロゲを手掛けたシナリオライターであり、『冴えない彼女の育てかた』の原作者でもある。リコリコと同じクール(2022年夏)に放送された『Engage Kiss』のシリーズ構成と脚本も担当している。この人は「ヒロイン同士の掛け合い描写」に定評があり、先述した冴えヒロの原作にも『Girls Side』というシリーズがあるくらいだ。ちなみに、蓮ノ空の原作シナリオを手掛けているライターの一人が「みかみてれん」――アニメが大ヒットしている「わたなれ」こと『わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?)』の原作者で、この劇場版に関しても協力していると明言しています。監督は「黒ア豪」、2021年のアニメ『シキザクラ』を作った人です。制作スタジオも「サブリメイション」で、やっぱり『シキザクラ』を作ったところ。黒アはサブリメイションの取締役だから当然そうなるよね、っていう。サブリメイションの制作したアニメ、『シキザクラ』以外だと『サイダーのように言葉が湧き上がる』くらいか? 面白いかどうか以前に、近場で上映するかどうかを心配しないといけない感じかもしれません。
・「令和のダラさん」TVアニメ化!ともつか治臣のオカルトコメディ(コミックナタリー)
パッと見「画力の凄まじいホラー漫画」、でも実際に読んでみると意外とコメディ寄りの作風、かと思いきや読み進めるうちにガチホラー要素も出てきて……というツイストの利いたコミック『令和のダラさん』が遂にアニメ化とな。やったー!
「ダラさん」こと「屋跨斑(ヤマタギマダラ)」が嵐の夜に壊れた祠から復活する、という導入そのものはホラーの定番なんですけれども、復活を目撃した肝心の子供たちがダラさんを恐れずなんか懐いてしまったせいでなし崩しにほのぼのした雰囲気になってしまう。読み口としては『江戸前エルフ』に近いモノがあるかな? ダラさんのモデルは言うまでもなく都市伝説の「姦姦蛇螺」、もとはTwitterやニコニコ静画で連載されていた作品であり、プロトタイプ版ではハッキリ「姦姦蛇螺」と名乗っている。商業化に際して「そのままではマズいから……」と変更されました。スマホやタブレットに「カドコミ」というアプリをインストールすれば「初回無料」で読めますので、「気になるけど単行本を購入する踏ん切りがつかない」という方はまずカドコミで読んでみてから判断すれば宜しいかと。個人的にはこの漫画、紙媒体で読んだ方が面白いと思いますけどね。
監督は「まほあこ」こと『魔法少女にあこがれて』の「鈴木理人」(ちなみにまほあこの監督は二人体制で、もう一人が「大槻敦史」)。アニメーション制作もまほあこの「旭プロダクション」であり、ほぼ「まほあこがヒットしたから制作が決まった」ようなものと思ってもいいんじゃないでしょうか。なんであれ放送が待ち遠しいです。
・金子玲介の『死んだ山田と教室』読んだ。
第65回メフィスト賞受賞作。えっ、第65回!? 昔は「メフィスト賞を制覇してやる!」と意気込んで受賞作が出る度に買って読んでいましたが、いつしかチェックだけで済ませるようになり、気付けばチェックすらやめて今何回までやってるのかもわからなくなっていました。この作品は2024年発売ですが、刊行されている中では最新の受賞作です。第66回は『女王陛下に捧ぐ、王家の宝の在処』に決定しているが、まだ具体的な刊行予定は立っていません。この機会に振り返ってみたが、私がメフィスト賞を熱心に追っていたのは第31回の『冷たい校舎の時は止まる』までですね。「辻村深月」のデビュー作。この次の受賞者が「真梨幸子」で、受賞作のタイトルが『孤虫症』だったからどうしても食指が動かず、コンプリートを断念してしまった。以降は読んだり読まなかったりで歯抜け状態。メフィスト賞は募集を開始したのが1995年だから、そこを起点にすると今年で30周年。しかし「メフィスト賞」という名称が決まったのは翌年の1996年だから、来年が30周年になります。だいたい年に2作は受賞作を刊行していた計算になるか。一番多い年は1998年で6冊も出ている。当時は私も高校生だったから、お小遣いの工面には苦労しました。
思い出話はこのへんで切り上げるとして、『死んだ山田と教室』。ハッキリ言って変なタイトルです。「教室」というからには学園モノかな、って程度のことしか伝わらない。帯の推薦文からして感動路線っぽい。実写映画化して、予告編でメロウな主題歌が流れる中、俳優たちがドタバタ騒いだ後に大仰な演技で「山田ァーッ!!」とか絶叫してそう。ぶっちゃけ興味を惹かれるかどうかで言えば、あまり惹かれない一冊である。しかし、受賞者の「金子玲介」は精力的に書きまくっており、デビューから1年半で5冊も著書を出している。いくつかの作品はコミカライズも始まっているし、さすがにちょっと気になってきた。「とりあえずデビュー作から読もうか」と手に取った次第です。
山田が死んだ。飲酒運転の車に轢かれて、あっさりと。啓栄大学附属穂木高等学校、通称「穂木高」の二年E組に所属し、クラスメートの誰からも慕われる人気者だった山田の急逝で、クラス全体が沈んだ空気になった。気分転換させようと席替えを提案する教師に対し、生徒たちの反応はいまいち薄い。<いや、いくら男子校の席替えだからって盛り下がりすぎだろ> どこからともなく入ったツッコミの言葉、それは紛れもなく死んだはずの山田の声だった。声はスピーカーから響いてきていたが、放送部のイタズラなどではない。どうも山田の魂が教室のスピーカーに乗り移ってしまったらしい。こうして影も形もないのに声だけはある、幽霊なのか何なのかよくわからない存在に成り果てた山田と二Eの面々による奇妙な青春延長戦が始まった……。
という具合で、分類上は「幽霊譚」。おどろおどろしい雰囲気や湿っぽいムードもそんなにない(皆無というわけでもない)ので、比較的ポップなノリの青春ストーリーに仕上がっている。クラスメートは死んだはずの山田と会話できることに喜び、生前と同様のバカバカしいトークに興じるが、時は流れ進級の日を迎える。これでもう二Eのみんなとはお別れか……山田、このまま成仏してしまうのかな、と思いきや全然そんな素振りではなくて普通に存在し続けています。え? じゃあ山田、このままずっと地縛霊みたいになってしまうの……? と不穏な空気が漂い出してからが本番です。
「姿がなく、教室でしか会話できない幽霊」という設定が絶妙で唸りました。高校の教室って出入りが激しいから、一旦進級してクラスのメンバーが入れ替わってしまうと「こっそり山田に会いに行く」のが難しくなるんですよ。放課後でも誰か残っていたりするし。かと言って誰も来ないような夜の時間帯は学校に忍び込まないといけないからハードルが高い。人目を盗みながら死んだ山田と言葉を交わす元二E勢だったが、だんだん山田に会いに行くのが面倒臭くなってくる奴も当然出てきます。というか、「生きてる山田は好きだったけど死んで声だけになった山田は不気味」と拒否反応を示す生徒もいる。本来なら悲しみを乗り越えて悼むべき存在が中途半端な形で存続してしまっているせいで、悲しみが宙ぶらりんになっちゃっている。徐々にギスギスしたムードへ変わっていくので、コメディを期待した人にとってはちょっと苦しいかもしれません。かつては人気絶頂だったのにつまらなくなって読者が離れていって、でも打ち切るほど売上が悪いわけじゃなく、連載がダラダラと続いてしまって終わりの見えなくなった漫画を眺めるみたいな、心がキュッとなる話です。
個人的にも身につまされる小説ですね。誰もいない夜の校舎で寂しさを紛らわせるために延々とラジオパーソナリティの真似事をしている山田とか、アクセス数の減ったサイトで延々と更新し続けている自分の姿を眺めているかのようで……自分自身で読み返す日記みたいなものとして書いているからモチベを保てているだけで、他人の反応に飢えていたらとっくに更新をやめていたと思います。イイ歳して何やってんだ……という感じがしないでもないが、去年はいろいろあってモチベが底を尽きかけて閉鎖宣言した後にモチベが回復し、何事もなかったかのように更新を再開するというクソダサいムーブをかましてしまったし、もはや恥の意識など微塵も残っていない。
ある意味で『CROSS†CHANNEL』の続きを目の当たりにしているような気分に陥る一作。取り残されて、みんな大人になっていく中で「バカな男子高校生」として振る舞うしかないピーターパンのアイロニーを紡ぎ出している。ハッピーエンドかどうかは受け取り方次第だが、少なくとも「胸糞悪い現実だけ書いて終わり」の小説ではありません。読み終わって、席替えのところを読み返すとしんみりしてしまう。それにしても久保の現況にはビックリした。これ、次回作の布石とかじゃなくマジで単なる一生徒の消息に過ぎないの? ホントに?
2025-12-07.・ネットに溢れる「スピキ」のミームにだいぶ脳を汚染されてきた焼津です、こんばんは。ぼんやりしていると何処からともなく「チョワヨーチョワヨー」という幻聴が聞こえてくる……!
該当のミームについて詳しく知りたい人はピクシブ百科事典をお読みください。元ネタは今年日本での配信が始まった韓国産ソシャゲ『トリッカル』のキャラクター「スピッキー」。シスター服のような格好をしていて、「他人になりきる」ことに執着を燃やす幽霊キャラという設定。名前は「スプーキー」のもじりだそうだ。韓国版の声優がなんというか癖になる独特な甲高いボイスをしており、MADが作られまくったんです。その結果、「四つん這いで移動し、ごく少数のセリフしか口にすることができない、スピッキーによく似た謎の生物」として独立していき、鳴き声から「スピキ」と呼ばれるように。可愛いんだけど不憫な境遇がよく似合う。スピッキーは幽霊なんだけど、このスピキに関しては幽霊なのかそうじゃないのかよくわからない。「謎の生物」としか言いようがない。
とにかく動画サイトに大量のMADを投稿している人がいて、1個見ると2個3個と際限なく見てしまう。そういう点ではなかなか危険なミームだ。もうサジェストされるオススメがスピキに染まりつつある。抜けられるか、この沼から……?
・『落下の王国 4Kデジタルリマスター』を観てきました。評判に違わぬスゴい映画だった。観終わった直後よりも反芻が進んだ少し後の方でスゴさが沁み出してくる遅効性の一本。
インド出身の映画監督「ターセム・シン」が構想から完成まで30年近くの時を費やした映画である。日本では2008年に公開され、翌年DVDとブルーレイも発売されているが、売り切れた後は再販されず配信でもラインナップに上がらなかった。この映画を作るためにターセム・シンは私財を擲った末に破産し、権利関係が複雑になっているんだとか。「たまにBSで放送される程度、地方のレンタル店もどんどん潰れているので、観たくても観るのが難しい」ポジションになっていました。今回の4Kデジタルリマスター版は新規カットも追加されているとのことで、全国の落下erは手ぐすねを引いて公開の時を待っていたらしい。私はアンテナが低いので、この映画に関しては4Kデジタルリマスターの上映を伝えるニュースで初めて知りました。というかターセム・シンの代表作『ザ・セル』も観たことない……馬の輪切りのアレは当時飽きるぐらい予告編見せられたから知っている。『インモータルズ -神々の戦い-』は観たことあります。正直「映像センスはスゴいけど話が面白くない」という感想でした。
『落下の王国』の舞台はロサンゼルスにある病院。時は1915年、まだ「映画」という概念が世間にそれほど広く普及していなかったものの、映画に関わる仕事をする人間が増え始めていた頃。スタントマンの青年「ロイ」は恋人を同業者(映画俳優)に盗られ、失恋のショックでヤケになり「命綱もなしに鉄橋から飛び降りる」という無謀なスタントに挑み両足を骨折。身動き一つできず、「もう死にたい」と世を儚んでいた。同じ病院に入院している5歳のおしゃまな少女「アレクサンドリア」を手懐けて自殺用のモルヒネを盗って来させようと画策したロイは、彼女が夢中になるような「お伽噺」を即興で語り出す。「これは愛と復讐の叙事詩(エピック)だ」とフカしながら……。
物語は「現実パート」と「お伽噺パート」に分かれています。お伽噺パートは思いつきでストーリーを転がしているから、ひたすらその場しのぎで支離滅裂な展開が続く。登場人物も病院の職員やロイの関係者など、近くにいる人たちをモデルにしてテキトーに配役しています。悪役の「オウディアス総督」は恋人を寝取った俳優で、当然の如く私怨も混じっている。ロイの話はガバガバで穴だらけだからところどころアレクサンドリアちゃんのツッコミが入りますが、そのたびに「再現映像」めいたお伽噺パートが止まったりやり直しになったりします。真顔でキメポーズ取ってたお伽噺のヒーローたちが「あ、リテイクですね」とばかりに場面を修正する。あのへんのテンポはお笑い芸人のコントみたいで面白かった。アレクサンドリアちゃんの生い立ちがなかなかハードなこともあり、「心の弱いクズ男に利用される純真な幼女の話」として観ると感動が削がれる部分もあるけど、アレクサンドリアちゃん可愛いからどうにか切り抜けられた。子役の女の子が幼いため演技をさせるのではなく「ほぼアドリブで喋らせる」という方針で撮ったらしい。子役の「カティンカ」はロイ役の「リー・ペイス」が本当に歩けないと思い込まされていたと云う。
「ロイの語り」と「アレクサンドリアの想像」が重なり合ってメタな物語が紡がれていくあたり、往年の名作エロゲ『Forest』を彷彿とさせます。この映画の特徴は何と言っても映像表現の凄まじさ、極力CGを使わず(時代設定と矛盾する電柱や電線だけCGで消した)アナログな手法で「観たことがないような世界」を描き出している。とにかく意味がわからなくても格好良くて見惚れてしまう。いくら「キメポーズ」や「キメシーン」が格好良いからと言ってそればかり繋いでいたら普通はMADにしかならないはずなんですが、この映画は監督の豪腕じみたセンスによって不思議と「映像による物語」が成立している。超絶技巧としか言いようがないのに、やってることは「女の子に指摘されてしれっと話を修正する」しょうもない詐欺師のコントで、このギャップに笑ってしまう。どうしても「お高く止まったアート路線の映画」と偏見を抱かれがちなんですが、あくまでこれ、娯楽要素バリバリのエンタメ映画です。「エンタメ」と「アート」は必ずしも対立しない、否、むしろ高め合えさえするのだと示してくれます。自棄的になっているロイのお伽噺はクライマックスで悲劇に突入し、アレクサンドリアちゃんは泣き出してしまう。「俺の物語(人生)はハッピーエンドじゃないんだよ!」と酒に溺れながら叫ぶロイに向かって「『あなたの』じゃない、『私たちの』物語よ!」と言い返すアレクサンドリアちゃん。「語り手」と「聞き手」の共同作業によって物語が見出されていく、「ボクは君におとぎ話をしてあげよう」なド級のド直球ファンタジーである。
インタビューによると監督は学生の頃からこの映画の構想があったらしいが、理解して金を出してくれる存在がなかなか現れず、やがてデビュー作の『ザ・セル』が当たったことで懐に余裕のできた監督が自主製作で撮り始めたそうだ。実は最初から4Kで撮っていたが、当時は4K画質で上映できる映画館が限られていたため、日の目を見ていなかったらしい。「カルト映画」みたいな扱いを受けているようだけど、実のところカルト要素はほとんどない。ただ再販や配信がないせいでそういうイメージを持たれただけであって、内容はあくまで愛と救済の英雄譚です。「お伽噺の世界」が過剰なほどカラフルでケレンに満ちているのも「幼児が持つイマジネーションの豊富さ」を表しており、対比するために現実パートの映像を少し色褪せたような風合いにしている。「子供だけが遊びに行ける空想の王国」を再現している映画なので、観る者のノスタルジーを喚起するんですよね。
予告編で映像美のスゴさはある程度伝わると思いますが、やっぱりデカいストリーンで鑑賞したときの迫力は別格というか完全に別物でした。『劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト』と一緒で、「映画館で観てナンボ」な作品。観に行ける範囲でまだ上映中ならば、足を運ぶことを強くオススメいたします。全国43館という小規模公開ながら、興収はあっという間に1億円を突破。満席続出ということで話題を呼んで上映館も次々と追加になり、まだ上映を開始していない館も含めて全国90館くらい、倍以上のスケールとなっています。
・『わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?)ネクストシャイン!』、続映決定!
2週間で終わる予定が3週間に延びました。最近でもウルズハントの劇場版が期間延長してたし、ジークアクスの先行上映なんて一旦上映が終了した後に再上映までしてるから前例がまったくないわけじゃありませんが……そのへんは「ガンダム」というブランドを背景にしていることを考慮すると、ネームバリューがそこまでない「わたなれ」がしれっと期間延長をキメてるのスゲェな、って。映画館からすれば「集客できる作品なんだからもう少し続けたい」ってことなんでしょうね。2週目は上映回数が増えたり上映シアターが大きくなったりした影響で動員ランキングの1位や2位になる映画館が出てきました。わたなれは上映館が少ないから興収ランキングとかには食い込まないけど、そのぶん1つ1つの映画館に客が集中しやすいんですよ。3週目にはなぜか突然応援上映が生えてきたし、あまりに行き当たりばったりすぎる興行で面白い。このままズルズルと延長に延長を重ねてクリスマスと年末年始も乗り越えてほしいが、さすがに厳しいか。『ズートピア2』(初日4.1億円、土曜までの2日間で10億円突破、アナ雪2すらも上回るペースゆえ興収100億超えはほぼ確実な勢い)という巨象が劇場を席巻している中で1週間サバイブできるだけでも充分破格である。
僅かながら上映館も追加されて、これで全国34館に。上映館の存在しなかった長野と和歌山に来たおかげで範囲が22都道府県にまで広がりました。一番インパクトがあるのは「立川シネマシティ」の参戦ですね。あそこは音響にこだわりのある映画館として有名で、「香穂ちゃんのASMR」を極上の音質で聴けるとあっては「馳せ参じねば……!」となっているファンも多いだろう。緊急決定につき1週間限定という非常にタイトなスケジュールになっていますが、席の埋まり具合によっては「おかわり」もあるかも。とにかく、私の言いたいことは「うちの地元の映画館でもやってくれ!」ということです。
・空前の惨敗 『果てしなきスカーレット』の興行をどこよりも早く総括する(Real Sound映画部)
わたなれと同日公開された『果てしなきスカーレット』、コケっぷりがスゴいことになってるな……初週3位でしたが、2週目はなんとTOP10圏外。金ローで冒頭7分放送という施策まで打ったのに、地方では既に1日1回、朝早くか夜遅くの辺鄙な時間帯にこじんまりしたシアターでひっそりと上映している状態であり、もうシネコンの中では完全に存在感を失っています。今年は『宝島』も大コケしていた(製作費25億円に対し興収6億円)が、過去の作品で言うと実写版『テラフォーマーズ』(製作費15億円に対し興収8億円)あたりまで遡らないとここまでの大コケはないですね。コケている映画自体はいくらでもありますが、「製作費が10億円を超えているのにその回収すらままならない超大作」というのは数えるほどしかないです。
そもそも日本の映画で製作費を10億円以上掛ける作品自体が珍しく、更にその中で大コケした映画となるとかなり数が絞られる。ジブリの『かぐや姫の物語』も製作費52億円に対して興収25億円だから大赤字っちゃ大赤字ですが、これは単純に製作費を掛け過ぎただけであって少し事情が異なるかな。ジブリの受けたダメージは大きかったけど、製作費に目を瞑れば動員はそこまで悪くないので、各地の映画館もさして痛手を被ってはいない。知名度があって、且つコケっぷりが凄まじく、映画館も多大な影響を受けた作品は3Dアニメ版『ファイナルファンタジー』ですね。日米合作で制作費150億円、プロモーション費用も含めると200億円近く掛かったのに、日本国内の興収は10億円止まり。全世界でも100億円程度で大赤字になって、スクウェアがエニックスと合併するハメになった伝説の一本です。あれに比べればスカーレットのコケっぷりはまだ可愛い方。まぁ「アレと比べないと可愛く見えない」のは相当深刻だし、当時はフィルムがデジタル化されておらず物理的なフィルムで上映する関係上「一日の上映回数に限界があった」とか「シネコン」という業態がまだ珍しく全国には普及していなかったため「上映できるスクリーン数が少なかった」という別の事情も絡んでくるから話は複雑です。
FFの頃と異なり今はフィルムがデジタル化しているため、鬼滅やコナンみたいに複数のスクリーンを使って一日に何十回も上映することが可能になっています。この「電車の時刻表」とも形容される過密スケジュールによって「当たればデカいんだけど外れたら劇場にとって大ダメージ」というギャンブルめいたハイリスク・ハイリターンな状況がもたらされる。「鬼滅シフト」や「コナン・シフト」を敷いていたときは期待通りヒットしてくれていたからリスクが顕在化することはなかったものの、先月敷かれた「スカーレット・シフト」が遂に各映画館の興行に大きな穴を穿ってしまった。そういう意味では確かに「空前の惨敗」と言えます。「一回の上映で入った観客が100人」と「十回の上映で観客が計100人」というの、配給側からすれば「数字的には一緒」ですけど映画館にとっては天と地ほどの違いがあります。シアターを稼働させる費用が10倍掛かるわけですし、「他の映画に回していれば……」と後悔するような機会損失も発生している。スカーレット・シフトを組んでいた11月21日〜27日は一日あたりの来場者が急減したわけで、劇場にとっては悪夢を見ている気分だったでしょう。「ガラガラの映画館」で誰よりも蒼褪めるのは制作陣や配給会社の職員ではなく映画館の支配人です。当然、リスクを承知したうえで極端なシフト組んだんだからコケた作品を恨むのは筋違いだが、映画館関係者が今後「細田守監督作品」に対してトラウマのような感情を抱くことは避けられません。『ズートピア2』の公開が始まったことで世間はもうこの件に対する関心を半ば失いつつあるように見えるが、映画関係者は「細田監督クラスでも一歩間違えればこうなってしまうのか……」と心胆寒からしめられたに違いない。「失敗の原因」を分析し、「こういう事態を避けるための対処法」について真剣に議論を交わすはずだ。ケーススタディの材料として長く語り継がれることになるだろう。
公開から10日間での興収は4.1億円で、最終的な興収は恐らく7、8億円程度に落ち着くと見られる。『サマーウォーズ』のだいたい半分、今年公開された映画だと『ひゃくえむ。』ぐらいのスケールですね。9月19日に全国203館で公開し、初週約1億、1ヶ月かけて5億、2ヶ月かけて7億を突破しました。『果てしなきスカーレット』もロングランできればあるいはもっと上を狙えるのでは……という感じですが、現状だと難しそう。まだ「海外市場での挽回」という線も薄く残っているが、細田作品って海外評価は高いけど興行的にはそんなに……なんですよね。例えば『未来のミライ』はカンヌ国際映画祭の監督週間に選出されてプレミア上映されたり、アカデミー賞、ゴールデングローブ賞、放送映画批評家協会賞などにノミネートされたり、アニー賞やフロリダ映画批評家協会賞を受賞したりでかなり注目を浴びた(このため英語圏では「『サマーウォーズ』の」とか「『竜とそばかすの姫』の」ではなく「『未来のミライ』の細田守監督」と紹介されることが多い)けど、1000館以下の小規模公開だったこともあり興収は81.2万ドル(当時のレートで約9000万円)です。『竜とそばかすの姫』は1300館公開で336万ドル、当時のレートで3.8億円ぐらいと結構稼いでいる。今は円安だし、この10倍あれば何とかなりそう。全米での公開は今月12日からの予定ですが、これは先行上映であり、通常上映は来年2月から始まる段取りとなっている。このぶんだと国内では早期に上映終了して来春あたりアマプラとかネトフリとかサブスクの見放題に来そうかな。「テレビやスマホの小さな画面じゃなく劇場の大スクリーンで鑑賞したい」という方は早めに出かけた方が良さそうです。
・川原礫の小説「デモンズ・クレスト」TVアニメ化 堀口悠紀子の描き下ろしイラスト公開(コミックナタリー)
「デモクレ」アニメ化か……簡単に言うと「現実とゲームが混ざり合った異常な世界で小学生たちがサバイバルを繰り広げる」という、SAOをより殺伐とさせたような内容です。結構バタバタと人が死ぬ。「主人公たちが小学生」という点で倫理的に問題があるのでは……とアニメ化を危ぶまれていましたが、企画通ったんですね。作者がSAOの合間に書いてるようなシリーズなので刊行ペースは遅く、概ね1年1冊で今年ようやく4巻目が発売された。なのでストック的に人気が出たとしても2期はないか、あるとしても相当先になると思います。割とえげつないノリなので、ゾンビ物とかデスゲーム物が苦手な人はパスした方がいいかも。逆に悪趣味展開大好きピーポーは要チェックです。
・藤本タツキ「ルックバック」2026年実写映画化、監督は是枝裕和 2種のビジュアル公開(コミックナタリー)
「いやいや、実写化って……」と呆れかけたが「監督は是枝裕和」でさすがに顔色が変わりましたね。2018年に『万引き家族』でカンヌ国際映画祭のパルム・ドールを受賞した実力派の中の実力派です。2023年の『怪物』も話題になりました。映画好きの藤本タツキ(『ルックバック』の原作者)がこんな話を断るはずもない。パルム・ドール持ちの是枝が監督で、原作は興収100億突破が確実視されている『チェンソーマン レゼ篇』のタツキ、加えて2024年にアニメ映画化していて高い評価を得ている作品となれば配給も力を入れてガンガン宣伝しまくるでしょう。
既に撮影は終了していて現在は編集(ポスプロ)段階に入っているとのこと。キービジュアルで主人公たちは背中を向けており、キャスティングについて一切触れられていない。是枝監督の新作でもないかぎりまずやらないような告知だ……漫画の実写版にはあまり興味が持てない人間だけど、さすがにこれは映画館で観ようかな。
・市川哲也の『あの魔女を殺せ』読んだ。
鮎川哲也賞受賞作家による長編ミステリです。著書としては6冊目に当たる。刊行されたのはもう2年ほど前ですが、もうすぐ市川哲也が『シュレディンガーの殺人者』という新作を出すってことで「そういえば『あの魔女を殺せ』まだ読んでなかったな」と思い出して手を伸ばした次第です。人里離れた山奥の館で凄惨な事件が巻き起こる、というシチュエーション自体はよくある「クローズド・サークル」ながら、この作品はある異常な要素を追加した「特殊設定ミステリ」になっている。勿体ぶっても仕方ないので書いてしまいますが、「魂を入れ替える魔女の秘術」が実在することになっているんです。
グロテスクなのに目が離せない、蠱惑的な生人形を制作するアーティスト集団「常夜三姉妹」。彼女たちは吊り橋を渡らないと辿り着けない、俗世から隔絶した山の奥の瀟洒な館に棲んでいた。客人たちを招き入れ、「新作」をお披露目した翌日に惨劇の幕が上がる。完全に閉鎖されているわけではないが、扉を施錠されて「密室」に近い環境で黒焦げの焼死体となって発見された長女「朝子」。次女の「夕子」と三女の「夜子」は思わせぶりな発言をしながら館中の人形を破壊し、廃棄して回る。いったい彼女たちは何を恐れているのか? なおも惨劇は止まらず、外界との連絡が断たれた中で流血の宴が続く。何も知らない者は慌てふためくばかりだが、事情を知る者は静かに察する。これは「魔女」が被るべき当然の酬いなのだと……。
常夜家は欧州から流れてきた「魔女」の家系で、その始祖は魔女狩りの嵐が吹き荒れていた時代に権力者に取り入って己の身を守るため「魂を移し替える魔術」を編み出した――という設定になっています。死期が近づいていた権力者の妻の体から魂を引き剥がし、代わりの器として用意した年若い侍女の肉体に移植する。すると死にかけていた妻は若々しく健康な体を手に入れて甦り、侍女本来の魂はしばらく宙を彷徨っているが寄る辺もなくなってやがて消滅するように霧散してしまう。大枠としてはこんな感じです。更に「ご苦労だったな、お前はもう用済みだ」と権力者から口封じされることを防ぐため、「移植された魂」は「術者の魂」とリンクする仕組みになっており、術者が死ぬと移植された魂(例え話だと「妻」の魂)も死ぬ。設定そのものは異常だけどルールがキチンと存在していて、それが謎を解く手掛かりになっているわけだ。
この魔術が使えるのは常夜の血を引く女だけで、術者たる常夜家の人間たちは移植魔術に対する抵抗が強いため「魂の移し替え」ができない。たとえば常夜家の老婆が娘や孫に命じて自分の魂を他の何かに移し替えようとしても、魂が「他人の肉体」を拒否してしまうせいで移植が成功しない。常夜ファミリーは他者を疑似的に若返らせることはできるが、自分たちにはそれを適用することはできない、という皮肉な仕様になっています。他にも「移し替えは一度だけで、二度三度と行うことはできない」などのルールがありますけど、煩雑になるので列挙はやめておきましょう。
実のところ「三姉妹に強い恨みを持っている存在」は早い段階で明かされます。常夜三姉妹と言っているけど本当は四姉妹で、四女に当たる「命」のモノローグが冒頭に綴られています。常夜は魔女の家系ゆえか子供ができにくく、四姉妹の祖母「黄泉」は跡継ぎを絶やさないため娘に次々と男をあてがったせいで四姉妹の父親は全員別人となっている。異常な環境で魔術を叩き込まれたこともあり、姉妹たちに「肉親の情」なるものは存在しない。だから事件の首謀者として真っ先に読者が思い浮かべるのは常夜命なのだが、そもそも命は館に来ていないんですよね……「こっそり付いてきてどこかに隠れているのでは?」という考えが脳裏をよぎりますが、第一の事件があった後に「殺人鬼がどこかに潜んでいるかもしれない」と捜索するパートも入るんですよ。そのときに見逃した可能性もゼロじゃないが、「潜伏して殺人の機会を虎視眈々と狙っている」と考えるのはかなり無理がある。彼女は魔女の血を引く者であっても忍者じゃないんですから。あくまで「魂を移し替える魔術」だけが伝えられているのであって、気配を消したり箒で空を飛んだりするような魔法が使えるわけじゃない。
じゃあ人形作家の館であちこちの部屋に人形があるんだから、魂を人形に移し替えて『チャイルド・プレイ』ばりの大暴れを繰り広げたのでは……というアイデアも、さっき書いたルールであっさり否定される。常夜家の人間は「魂の移し替え」自体ができないし、仮にできたとしても「移し替えは一度だけ」なので元の体に戻ることができません。「憑依(ポゼッション)」みたいな感覚で気軽に使える能力ではない。というか、根本的な問題として「無機物に魂を移し替えても駆動させる仕組みがないので動けない」んですよ。黄泉の日記に「軍から戦闘用のゴーレムを造れないかという相談があったが、できるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリだった!!)」みたいな記述もある。これがもっと未来ならアンドロイドのボディに人間の魂を移植して……という代理人形(プロクシード)みたいな真似もできたかもしれませんが、一応現代設定なのでそういうSFチックなテクノロジーは絡んでこない。「WHO」と「WHY」は明確なのに「HOW」が見えてこない、他に怪しい登場人物もいるけど筋がキレイに繋がらない……というもどかしい状態が延々と続きます。展開もかなりスロースターターで、300ページもないのに館で事件が起こるのは100ページ以降だから、気の短い人はちょっとイライラするかもしれません。
しかし、ラスト数十ページで真相が解明されていくと「ああ、特殊設定のルールはここと繋がって……結果的にそうなるわけか!」と膝を叩きたくなるぐらいウマくハマっていきます。一部、ルールの解釈を巡って際どい部分もあります(矛盾というより、ルールを勘違いしそうになる箇所がある)けど、「異常な設定に相応しい異常な真相」が拝みたい人であれば満足の行く結末になっているでしょう。無理があるかどうかで言えば、正直無理寄りかな。このへんはちょっとノイズだったな……ってポイントもあるから手放しで賞賛できるわけじゃないにしろ、「型破りなミステリ」を目指したことに関しては素直に拍手を送りたい。
まとめ。「変なミステリ」や「悪趣味なミステリ」を読みたい人にうってつけの一冊。事件が終わってからようやく警察が駆けつける話なんで、「ストーリーに警察がまったく絡んでこない本式のクローズド・サークル」が読みたい方にもオススメです。読み終わって真っ先に某作家の名前が思い浮かび、その作家が好きな人にもプッシュしたくなったが、それをやると逆算で真相が見えてしまう……という悩ましい状況のせいで泣く泣く名前を伏せるしかなかった。謎解き要素が多いからミステリの文脈で語るべき作品ではあるけど、意匠的にはホラーとして読んでも全然大丈夫だと思います。普通に「うげっ」ってなりますから。
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管理人:焼津