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リレー小説「魔法少女忌譚修」(第13話−10/12)
2025-12-30.・年末なので今年の一年を振り返ってみようと思う焼津です、こんばんは。
1月、冬アニメ放送開始。最後まで観た作品は十数本、そのうち最もハマったのは『BanG Dream! Ave Mujica』です。メディアミックスが盛んな「バンドリ!」プロジェクトに属するアニメ作品の1つ、TVシリーズとしては通算5期目に該当します。5期目と言っても1〜3期との繋がりは薄いので、「Ave Mujicaって評判になってるから興味あるんだよな、でもバンドリ全然知らないから迷ってる」って人は生真面目に1期目から視聴しなくてもOKです。4期目(It's MyGO!!!!!)とは繋がりが深いと申しますか、「実質的にMyGOの続編」「本に喩えると『下巻』に当たるエピソード」だからMyGO→Ave Mujicaの順で鑑賞することをオススメします。
「現役女子高生たちがバンドするアニメ」なのにキャッキャウフフな遣り取りが小数点以下のパーセンテージに留まり、後はひたすら昼ドラみたいなドロドロした展開が続く。1話1話手探りでストーリーを作っていっただけあって「着地点が見えない」というライブ感は凄まじく、私もすべてのエピソードを複数回視聴するぐらい熱中しました。正直ズッコケるような部分もあったけど、毎週「早く続きを観せろ!」とここまで焦れたアニメはまどかマギカ以来ですね。私は基本的にアニメってリアタイしない(録画or配信で観る)んですが、コレだけは例外で全話リアタイしましたよ。だから最終回のライブが閉幕した後、続編アニメの告知来たときはテンションがブチ上がって夜中だというのに雄叫びを上げかけました。しかも続編アニメは「Mujicaの新作劇場版」「MyGOとMujica共通の続編に当たる新規TVシリーズ」と2つもあるんだからたまらない。ちなみに、同じクールの話題作として『メダリスト』があります。「米津玄師」の主題歌「BOW AND ARROW」のPVに「羽生結弦」が出演して驚愕しました。ただこのPV、公開が結構遅くて3月になってからだったんで1月じゃなくて3月の話題で触れるべきだったかな……いいや、3月のところでもう一回言及することにしよう。
訃報は「デヴィッド・リンチ」、カルト的な作品でコアな人気を誇っていた映画監督です。高校生の頃に『ロスト・ハイウェイ』を観て「ワケわかんねぇ〜」と呻いたっけな、懐かしい。あの当時あったレンタルビデオ店はもう全部潰れてしまった。高校卒業した後にツタヤとかゲオが出来たから、市内にまだレンタル店は残っているけど……。
2月、『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀 最終章』公開。2016年から始まった日台共同制作の布袋劇が10年近い年月を費やし、遂に完結へ至りました。興味ない人は全然チェックしていないかもしれませんが、TVシリーズを4期までやって劇場版も最終章含めて3つあるという結構なボリュームの作品です。舞台となるのは「萬興(ばんこう)」なる中華っぽい国、200年ほど前に発生した魔界の軍勢による侵攻「窮暮之戰」で中央地帯が呪われた領域になり、東西が行き来できなくなった。西側を「西幽(せいゆう)」、東側を「東離(とうり)」と呼ぶようになり、もはや別々の国として歩み出すしかないのか……と人々が諦めかけていたところ、通れるはずのない中央地帯を踏破して西幽から一人の男がやってきた。その名は「殤不患(しょう・ふかん)」。果たして彼の目的とは? ……と、大掴みに書いたらこんな話。「武侠片」の一種なんで、大義よりも個人的な事情を優先して闘っている連中がほとんどです。殤不患の相棒みたいなツラして出てくる「凜雪鴉(りん・せつあ)」というキャラが本当に最悪で、敵ならブッ飛ばせば済む話なんだけど一応味方だからこいつ殴っても何も解決しないんだよな……と厭らしさが極まっていてスゴい。殤不患のCVが「諏訪部順一」で凜雪鴉が「鳥海浩輔」だからDiesファンにとっては「双首領やんけ!」って組み合わせで自動的にPANTHEONを思い出して切なくなる。
で、PANTHEON復活を夢見ている「正田崇」と「Gユウスケ」はどうしているかと申しますと、「戦略的迂回案」としてそれまで進めていた第零神座の物語『事象地平戦線アーディティヤ』を中止し、大雑把な構想だけ語られていた第五神座の物語『Dies Entelecheia』を開始しました。このへんファン以外にはわかりにくいのでざっくり解説していきますが、かつてゲーム会社に所属していたシナリオライターである正田崇には「神が交代するたびに世界が作り変えられる」という壮大な連作“神座万象”シリーズの構想がありました。「第〇神座」というのは「〇番目の神が作り変えた世界」って意味で、アニメ化した『Dies irae』は「第四神座」の末期に当たる。まぁ「神の交代する瞬間」が一番盛り上がるんで、だいたいは各時代の末期が舞台となります。正田崇の構想だと「第九神座が最後の神座世界になる」予定でしたが、そのへんをエンタメ作品として成立させることが難しく「構想だけで終わるかもしれない」という危惧がありました。しかし、『Dies irae』のアニメ化に伴ってソシャゲ企画が持ち上がり、「神座万象シリーズの締め括り」に当たる作品として『Dies irae PANTHEON』が告知されます。細かい部分を無視して平たく言えば「FateにとってのFGO」みたいなポジションです。しかし、いろいろあって企画は実現せず、正田の所属していたゲーム会社も潰れました。それでも諦めず、「PANTHEONでやるつもりだった物語」を支援サイトに掲載し、同人小説として再出発することになります。
再出発後、最初に完成したのが第一神座(初代の神が君臨した世界)の物語『黒白のアヴェスター』。これに続いて発表されたのが第零神座の物語、つまり神が君臨する前の「空位の時代」を描いた『事象地平戦線アーディティヤ』だったんですが、見切り発車で書き出したこともあって暗礁に乗り上げました。「シリーズ全体の整合性を取るために先に第五神座の話を書いた方がいい」と判断し、今年2月から始まった新たな物語が『Dies Entelecheia』です。位置的には「『Dies irae』の後日談」であり「『神咒神威神楽』の前日譚」となる。私は支援プランに加入していないから連載は追っていませんが、無料開放期間のときに序章の一部だけ読んでいます。面白かったので書籍化が待ち遠しい。他にも『黒白のアヴェスター』のゲーム化企画が動いている……はずなんですが、どうも開発会社との間でトラブルがあったみたいで順調に進んでいないみたいなんですよね。つくづくファン泣かせなシリーズだ。ゲームと言えばこの月にインディーズゲームとして発売された『都市伝説解体センター』が各所で話題を呼びました。私も買ったけど、まだ途中までしかやってない……。
3月、35年の歴史を誇る雑誌“ドラゴンマガジン”が休刊。遂に紙媒体で「ライトノベル文芸誌」というジャンルが消滅しました。文庫で書き下ろしの長編を出して雑誌にノリの違う短編を載せる、『スレイヤーズ』や『オーフェン』や『フルメタル・パニック!』でお馴染みの手法も過去のものとなってしまった。なろうやカクヨムなどの投稿サイトが伸長したことで雑誌の役割がなくなった、というのが大きいのだろう。ちょっと前に新刊が出た『キノの旅』も元々は新人賞に落選した作品で、「選考委員からはあまり評価されなかったが、読者がどう評価するかわからない」ため試しとばかりにライトノベル文芸誌へ全文掲載してみたところ、反響が大きくて書籍化が決まった……という経緯があり、「雑誌の時代」の恩恵を受けた最後の世代って印象がある。アニメ化までした問題作『撲殺天使ドクロちゃん』も雑誌で募集していた短編新人賞の落選作品で、誰かが連載を落としたときの備え、いわゆる代原(代理原稿)としてストックされていたものです。ちなみに連載を落としたのは『Hyper Hybrid Organization』の「高畑京一郎」。ライトノベル関係の話題で言うと、『東京レイヴンズ』が6年ぶりくらいに新刊を出してビックリしましたね。
先述しましたが『メダリスト』の主題歌「BOW AND ARROW」のPVに「本物のメダリスト」である羽生結弦が出演し、世間がどよめきました。「BOW AND ARROW」はフィギュアのショートプログラムを意識した再生時間になっていますが「曲調が速過ぎてこれを踊れる選手なんてほとんどいない、そこが難点だ」と言われ、「じゃあ踊れる人を連れてくればいいじゃない」とばかりに羽生結弦のショートプログラム版まで配信するの、控え目に表現しても「力業」でしょう。既に2期も決定している『メダリスト』ですが、ストーリーはここからどんどん面白くなるのでアニメ勢の方々も期待していいです。
4月、春アニメ開始。いろいろあったけど、一番の話題作は『機動戦士Gundam GQuuuuuuX(ジークアクス)』か。「スタジオカラー」と「サンライズ」が手を組んで制作した異色のガンダムアニメで、パッと見アナザーガンダム(宇宙世紀に属さないガンダム、最近は「オルタナティブ」と呼ぶらしい)っぽいのに蓋を開けてみれば「ガンダム(RX-78)にアムロではなくシャアが乗った世界」という大胆すぎるifを描いたパラレルワールド系のUC(宇宙世紀)作品でした。『Beginnig』と称して冒頭を全国の劇場で先行公開し、興行収入35億円という特大のヒットを飛ばしたのには度肝を抜かれた。ガンダム映画の興収トップは『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』で50億超えていますが、Beginnigはそれに次ぐ2位。あくまで先行公開、「待っていればテレビで放送される」のにここまで観客が集まったのは制作サイドにとっても予想外だったそうだ。
『水星の魔女』に続く女性主人公のガンダムで、内容を『水星の魔女』と比較されるのではないかと予想されていましたが、大量に埋設されたネタの数々に「それどころじゃない!」とガンダムファンたちは毎週必死で考察と議論を交わすハメになりました。4話のタイトルが「魔女の戦争」だったから『水星の魔女』と絡めてネタにする流れはあったし、公式も後に#ガンダム魔女界隈なる謎のフレーズとともにハロウィン特別イラストを公開したりしていますが、4話に登場したオリジナルキャラクター「シイコ・スガイ」の強烈さに脳を焼かれる視聴者が続出しそれどころではなくなった。「モブ顔」「少女のような若々しさ」「なのに子持ちの人妻」「そしてメチャクチャ強い」とキャラ立ちの凄まじさで瞬間的に主人公のマチュ(アマテ・ユズリハ)よりも話題になった。1クールしかないのでメイン以外のキャラはそんなに出番多くないが、サイコガンダムのパイロット「ドゥー・ムラサメ」も忘れられない子でしたね。やってることはテロリストだけど、「人の造ったニュータイプか」と呟かれて「自らの意思で進化したボクらこそニュータイプに相応しい!」と吼える姿はその直後に容赦なく撃墜されたことを鑑みると「蟷螂の鎌」そのもので趣深い。「主題歌を手掛けた米津玄師が脚本を見せてもらって爆笑した」という噂が流れ、本人が「そら笑うだろ」とコメントしましたが「爆笑ポイントが多過ぎてどこで笑ったのか絞り込めない!」とファンたちも頭を抱えました。EDテーマを歌った「星街すいせい」が、指名手配犯になってしまって呆然とするマチュに被さるようにして流れる「もうどうなってもいいや」という自身の歌に対し「いやどうなってもよくないだろ」とツッコミを入れる珍事も発生。シャアとシャリア・ブルが人気になってananの表紙になったり、マルちゃんの「赤いきつね」「緑のたぬき」とコラボしたりと好き放題かましてるのも笑ってしまう。マルちゃんのコラボは少し前に『水星の魔女』でもやっていますが、そのときはスレッタとミオリネだったのに……なんでマチュとニャアンを差し置いておっさんコンビが出張ってるんだよ! マチュたちのコラボCMこそ作られたものの、パッケージはそのままだし、おじさん優遇コンテンツになってしまった。
ジークアクス以外で良かったのは『ロックは淑女の嗜みでして』、『ウマ娘 シンデレラグレイ』、『アポカリプスホテル』、『ざつ旅 -That's Journey-』、『日々は過ぎれど飯うまし』、『忍者と殺し屋のふたりぐらし』あたり。ショートアニメの『リコリス・リコイル Friends are thieves of time.』も新作への「繋ぎ」として楽しめました。シンデレラグレイは恐らく完結までアニメ化してくれるだろうが、それとリコリコ以外の作品は続きが放送されるかどうか不安だな……ひび飯は特に雰囲気が良かったんで、何としても2期3期とやってほしいんだけど。それにしても、今年はやたら「青山吉能」のCVを聞く機会が多かった気がする。『ぼっち・ざ・ろっく!』の「ぼっちちゃん」こと「後藤ひとり」役をしている声優です。『Wake Up, Girls!』というアニメでデビューした人で、芸歴的にそろそろ「新人」から「中堅」に移行するポジションの方なんですが、ぶっちゃけぼっちちゃん以外ではあまり当たり役に恵まれていなかった。しかし今年になって『ある魔女が死ぬまで』の「メグ・ラズベリー」、ひび飯の「小川しのん」、『フードコートで、また明日。』の「山本」、『ブスに花束を。』の「鶯谷すみれ」、『帝乃三姉妹は案外、チョロい。』の「帝乃三和」、『転生悪女の黒歴史』の「イアナ・マグノリア」と印象的な役を立て続けに演じている。面白いのは一番知名度の高いぼっちちゃんではなく「ある魔女」の「ズベリー」で認知されている傾向が強いことですかね。「図太い性格したお調子者、でも根は優しい」というズベリーのキャラが青山の演技とマッチしているせいか。ちなみにズベリーという愛称(?)は本編に出てくるネタで、視聴者が勝手に言い出したわけではありません。
5月、実写映画『岸辺露伴は動かない 懺悔室』公開。岸辺露伴の映画としては2本目に当たる。前作『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』は原作が120ページくらいの中編であるのに対し、『懺悔室』はなんと50ページ弱の短編。原作は本当に岸辺露伴がほとんど動かず懺悔室で「罪の告白」を聞くだけの内容なんで、「これを2時間近くの映画にしたの!?」と驚かざるをえない。興行収入は8億円強、12億超えたルーヴルに比べるとやや苦戦した印象です。
20日に出た夢枕獏の『キマイラ聖獣変』、これで“キマイラ”シリーズは暫定的に完結となりました。“キマイラ”シリーズはかつて“キマイラ・吼”と呼ばれていたシリーズで、1982年に開始し、40年以上に渡って展開していましたが、構想が膨らみ過ぎて「書いても書いても終わらない」という終着駅のない旅みたいな状況に陥っていました。作者が大病を患ったこともあり、「寿命が尽きるまでに書き切れるかどうかわからない」ため現時点で考えている最終巻の内容を書いて先に出そう――ということで発売されたのが聖獣変です。内容的には完結編というより後日談の体裁で、「いろいろあって俺たちもイイ歳になった」みたいな雰囲気でストーリーを締め括りに入っている。一応、これが“キマイラ”シリーズの最終巻という位置付けになっていますが、聖獣変に至るまでの過程がいっぱい欠け落ちているので、これから空白を埋めていく作業がまだまだ残っている。SAOで喩えると「アインクラッドの攻略はもう終わったけど、そこに到達するまでの過程を大幅に省いちゃったから、補填するべくプログレッシブを書いている」ような状況。空白を埋め切る前に作者が体調面の理由で書けなくなる可能性はあるし、体調が安定していたとしても書いているうちに聖獣変と繋がらなくなっちゃった……となる可能性もある。本当の意味で「終わった」と思っているファンはほぼいないはずだ。もう疲れて追う気のなくなった人はいるかもしれないけど、そういう人のための「区切り」として用意されたのが聖獣変なのかもしれませんね。
一方、長年最終章が発売されなかった小説『E.G.コンバット』は原作者である漫画家「☆よしみる」が小説版の作者である「秋山瑞人」の正式な降板を発表。既に幻となりかけていたEGF(『E.G.コンバット Final』)は本物の幻となって霧散しました。☆よしみる曰く秋山がスランプに陥り書けなくなってしまった、とのこと。『E.G.コンバット』は☆よしみる本人が漫画版として最初から最後まで描き直すことになったらしい。あくまで「秋山版『E.G.コンバット』」を待ち望んでいた私のような読者にとっては辛いニュースであるが、「とにかく『E.G.コンバット』の完結を見届けたい」という方は☆よしみるをフォローして報告をひたすら待ちましょう。
6月、映画『国宝』公開。「吉田修一」の小説を映画化したもので、公開前からそれなりに期待する声はあったが、あまり派手な宣伝は打たれず割合ひっそりと上映が始まった。すると口コミでどんどん評判が広まり、普通は日数の経過に伴って減っていくはずの客足がむしろ増えていくという異常事態に。初週は『リロ&スティッチ』と『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』の後塵を拝し動員ランキング3位だったのに、2週目で2位に上がり、3週目でようやく動員ランキングのトップに立って、その後も勢いが止まらずV4をキメた。あれよあれよという間に興行収入は100億円を突破、その後もロングランが続いて10月に「150億円突破」のニュースが舞い込み、11月には173.7億を突破して『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』(173.5億円)を追い抜き実写邦画のトップとなりました。既に180億円も突破しており、年末年始も興行を重ねて来年には200億円すら上回りそうな勢い。
配給は「東宝」ですが、自社製作ではなく製作委員会方式です。東宝の取締役がインタビューで「2018年(原作の単行本が出た年)時点で既に『国宝』を撮ろうと提案する社内プロデューサーが存在していたが、歌舞伎界という大衆ウケしにくい題材で、自社製作なんかにしたら到底費用を回収できないと思った、見る目がなかった」といった趣旨のことを語っています。興収面に関してどれだけ期待されていなかったかと言いますと、原作小説は朝日新聞で連載されていたにも関わらず「朝日新聞社」が製作委員会に入っていない……つまり版元の朝日さえも「映画はそんなに客入んないだろうし、お金出したくない」と渋るくらいでした。原作小説は単行本(ハードカバー)で出版された後に文庫化されていますが、単行本の時の部数が6万部、文庫版は映画が公開される前の時点で35万部くらい、上下巻なので巻割20万部程度、売れていることは売れているが特大ヒットが見込めそうな規模ではなかったんです。ちなみに現在は累計200万部を突破し、巻割でも100万部以上となっています。原作者の吉田修一が東宝の試写室で『国宝』を観て「100年に一本の映画ですね」とコメントした逸話も残っており、これがそのまま宣伝文句に転用された。私も観ましたが、奈落から迫り上がってくるシーンが巨大ロボの発進シークエンスみたいで好きです。あと「この贋物(ニセモン)がァッ!」と喜久雄を蹴る観客役の俳優が誰なのか気になって仕方がない。
面白いのは、『国宝』の映画で製作幹事を務めたのは「MYRIAGON STUDIO(ミリアゴンスタジオ)」というところで、なんと「アニプレックス」の子会社。そう、アニヲタなら誰でも知っているあのアニプレックスです。もともとは「オリガミクスパートナーズ」という会社だったけど、アニプレが全株式を取得して完全子会社化し、名称を変更。アニプレがこれまでアニメ作品で培ってきたノウハウを活かして「実写作品のプロデュース」を行うために魔改造したんです。ここのところアニメ作品ばかりが興収ランキングの上位を占める状況が続いていますけど、アニプレはこの状況を喜ぶどころか逆に憂慮しており、「このまま邦画が衰退していったら映画界全体の活気がなくなってしまう」と邦画の振興へ舵を切ることにしたそうだ。ミリアゴンに改称したのが2023年で、『国宝』がミリアゴンとしての初プロデュース作品(正確にはミリアゴンが生まれる前のアニプレックス時代から企画を立ち上げているが)。「大量生産品ではなく伝統工芸品のような、オートクチュールの映画を作る」というコンセプトで12億円もの制作費を投じた。
あくまで「制作費」のみで、宣伝や広報なども含めると数字はもっと大きくなる。朝日が「とても元が取れない」と出資に二の足踏んだのもむべなるかな。母体がアニプレだから『鬼滅の刃』や『魔法少女まどか☆マギカ』などの経験を元に「クオリティ向上のために巨費を投じられる」のがミリアゴンの強みという。ミリアゴンとしても国内興行のみでのリクープ(利益回収)は難しいと考え、海外展開によって帳尻を合わせる――みたいな目算だったらしいが、予想に反し国内だけで充足するほどの興行収入になった。『国宝』の原作単行本が出たのが2018年、監督の「李相日」が実写映画の『キングダム』を観て「吉沢亮」に目を付けたのが2019年、企画が立ち上がったのが2020年、クランクインが2024年で、2025年にやっと公開。『国宝』のプロデュースで中心的に動いた人物は『キングダム』の企画プロデュースをしたPでもあり、その実績を買われ2020年にアニプレへ入社してミリアゴンの設立にも関わったとのこと。『キングダム』の実写化が成功していなければ、『国宝』もどうなっていたかわかりません。アメリカで公開されてアカデミー賞の「国際長編映画部門」と「メイク&ヘアスタイリング部門」の2部門で候補になった、というニュースにもビックリしたが、度肝を抜かれたのは大晦日に銀座の「歌舞伎座」で特別上映会を行うという告知。松竹のお膝元である歌舞伎座で、松竹のライバルたる東宝の映画を流すというのはなかなか信じがたい事態である。『国宝』効果で松竹の歌舞伎興行も上向きになったから、無視できない存在なのは確かなんでしょう。「映画の内容を全肯定することはできないが、魅力のある作品であることに間違いはない」といった感じかしら。「松竹・東宝 主催」の表示がまぶしい。表記順からしてこの企画、松竹が主導ってことだもんな。
7月、夏アニメ開始。個人的にあまり数はこなせなかったけど、良作に恵まれて楽しく過ごせた。話題作は『その着せ替え人形は恋をする Season2』、『瑠璃の宝石』、『サイレント・ウィッチ 沈黙の魔女の隠しごと』あたりかしら。私がもっともハマったのは『わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?)』、アニメの出来が良かったから各話3度以上は周回しちゃった。原作は「みかみてれん」のライトノベル、紙書籍版持ってるのにセールのときについ電子版も買ってしまうぐらい好き。コミカライズのクオリティも高かったが、「百合はジャンルとしてニッチすぎるからそこまで力の入ったアニメではないだろうな」とさして期待していなかったんです。ところがどっこい、「えっ、百合アニメにここまで手間を掛けてるの!?」という出来で驚愕しました。残念ながら原作からカットされているシーンも多かったが、このクオリティでアニメ化したうえ「残り5話も制作します!」と宣言してくれたのだから感謝しかない。13話〜17話の『ネクストシャイン!』部分は来年1月1日の午前1時という一般人なら寝ている時間帯に一挙放送されます。ありがとう、ありがとう。この調子で2期も頼む。/p>
ライトノベルといえばかつてアニメ化し、「現実に負けた」と話題になった『りゅうおうのおしごと!』本編が完結。放送後に主演声優の「内田雄馬」と「日高里菜」が結婚したことで話題になった。なお内田雄馬の姉「内田真礼」は今年の9月に「石川界人」と結婚。内田雄馬と石川界人が義理の兄弟になったと界隈がどよめいた。このふたり、もともと仲良し声優として有名で同じマンションに住んでた時代もあるんですよね。「じゃあ姉と結婚しても不思議じゃないか」と納得する人多数。一応界人が義兄になるが、雄馬の方が歳上です。
18日に『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』公開。総集編的な特別上映や先行上映を除いた『鬼滅の刃』の映画としては2本目に当たる。シリーズの最終章『無限城編』を三章に分けて公開する、という試みです。ラスボス「鬼舞辻無惨」の本拠地が「無限城」と呼ばれる異空間で、ここに飛び込んだ主人公たちは無惨率いる「十二鬼月」の幹部たちと最終決戦を繰り広げることになる。前回の映画『無限列車編』は興行収入400億円というバグみたいな数字で業界関係者も腰を抜かしましたが、コロナ禍という特殊な状況だったし、まだ原作の連載が続いていた当時と違って今は連載も終了して時間もだいぶ経っているから、さすがに「また400億」は難しいんじゃないかな……ブームが下火になったとはいえファンの人気は根強いから100億は確実に超えるだろうけど、200億、300億あたりのラインは厳しいのでは? みたいな下馬評が囁かれていましたが、まさか初動が前回を上回るとは。満席に次ぐ満席で、あまりにも忙しくてポップコーンや氷を切らす映画館が続出、バイト従業員が口を揃えて「俺らがこれから出勤するのは地獄だ」と表現する阿鼻叫喚の大混雑。私は混んでるのがイヤだから、かなり時期をズラして観に行きました。夏映画として公開されたのにまだ各地で上映が続いており、このまま年を越してお正月映画戦線に混じることは確定しています。下手すると春休みの時期でもまだやってる映画館ありそうだな……。
今回は世界興収も凄まじく、日本円にして1000億を優に超える。ハリウッド映画とかだとそこそこ見掛けますけど、日本の映画で世界全体の興収が1000億円超えた作品は他に存在しないのでとんでもないことです。米ドルに換算するとざっくり7億ドルくらい、アニメ映画としては『カールじいさんの空飛ぶ家』くらいの規模ですね。ちなみにアニメ映画として世界一の興収を誇っているのは今年公開された中国の3Dアニメ映画『ナタ 魔童の大暴れ』。米ドル換算で約22億ドル。日本だとテレビでCM打ちまくっていた『ヨウゼン』よりも知名度が低いけど、中国国内の人気は桁違いで観客動員数が3.2億人、22億ドルのうち19億ドルくらいは中国での稼ぎです。「魔童の大暴れ」はシリーズ2作目に当たり、前作『ナタ〜魔童降臨〜』(2019)は7.4億ドルくらいだったから一気に3倍になっている。ちなみに『ナタ転生』という中国のアニメ映画もあるけど、直接的な繋がりはありません。『ヨウゼン』含めてみんな『封神演義』が元ネタってだけです。『封神演義』を知らないと話がわかりにくいので、中国以外の国だとそこまで大きくヒットしていない(それでも現地の華人や華僑が観に来るのでそこそこ稼いでいる)。
閑話休題。『鬼滅の刃』の制作会社「ufotable」は無限城の構築に難航し、他のラインを止めてスタッフを結集させることで何とか第一章の完成に漕ぎつけたという。明言されていないが、止めたラインは恐らく『原神』と『魔法使いの夜』と『活撃 刀剣乱舞』劇場版と『ガールズワーク』(はさすがにもうポシャっているか? 未だに公式サイトが残っているので判断つかないんだよな……)。そりゃ全世界で1000億超えるような作品を完成させるためならラインを止めるのも仕方ないか、と他作品のファンは諦めるしかなかった。逆に考えれば「無限城編作るような会社がまほよのアニメを制作するのマジ?」って感覚である。ufoとアニプレは『空の境界』劇場版をキッカケに躍進した経緯があり、アニプレのプロデューサーが鬼滅アニメ化の際にufoへ声を掛けたのも「『Fate/Zero』で夜間の戦闘シーンに関しては実績があるから(鬼滅の敵たちは陽光を浴びると消滅するため、戦闘シーンは概ね夜間)」で、TYPE-MOON・アニプレックス・ufotableのトライアングルは切っても切れない関係にあります。無限城編は三部作なのであとは第二章と第三章の公開を待つばかりであるが、具体的な予定はまだ告知されていない。間が空いて多少ブームが下火になると仮定してもそれぞれ興収300億ぐらいは固いだろうから、国内だけで累計1000億円は狙えるわけか。全世界では……どこまで行くのかもう想像がつかないや。
8月、「FGO」こと『Fate/Grand Order』が10周年ということでいろんな施策が行われましたが、もっとも話題になったのは「聖晶石1000個の配布」。シナリオの最新章をクリアしていること、って条件はありましたが熱心なプレーヤーのほとんどは発表があった時点で既にクリア済だったため実質「1000個もの石が突然降って湧いた」ように感じられて狂喜しました。FGOのガチャは石3個で1回(大昔は4個で1回だった)、更に10回ガチャるごとにオマケで1回追加されるんで、1000個あれば333回+33回で計366回もガチャを回すことができます。ピックアップ対象の☆5サーヴァントは「329回ガチャって一度も出現しない場合、330回目で確定になる」仕組みですから回すガチャを絞れば最低1騎は好きな最高レアリティのサーヴァントが手に入る、言うなれば「交換チケットを配布したに等しい状況」ゆえ大盛り上がりでした。同日実装された「所長」こと「オルガマリー・アニムスフィア」に全部突っ込んで宝具5以上にするプレーヤーなんかもいる一方、「目当てのキャラが来るまで取っておこう」と貯蓄に回したプレーヤーもいました。私? 私は玉兎(水着式)が天井だったのでそこでほぼ消えましたね……今年は配布含めて26騎のサーヴァントが実装されましたが、微課金勢の私でも「小野小町」と「ダンテ」の2騎以外は入手できたのでまずまずの結果だったと思います。
他は……「うえお久光」の復活かな? 『悪魔のミカタ』というシリーズで一時期は「西尾維新」に並ぶ人気があったものの、15年ほど前に最後の新刊を出してからパタッと消息が途絶えていた作家です。現在『闇のセンパイ』というホラーを連載中で、これが終わったらずっと止まっている『悪魔のミカタ』や『シフト』の続きも書いてくれる……かも。訃報は「土師孝也」、『北斗の拳』の「トキ」役やハリポタのスネイプ先生の吹替で有名だった声優です。FGOのモリアーティやプリンセスプリンシパルのノルマンディー公、あとは何と言ってもファフナーの溝口さんが印象的でした。
9月、『劇場版 チェンソーマン レゼ篇』公開開始。TVシリーズがあまりパッとしなかったこともあり、公開前の段階だとそこまで騒がれていなかった印象ですが、いざ封切りしてみると「良かった!」「絶対に見るべき!」という高評価が続出。東宝のお偉いさんも初日の反応に手応えを感じて「これなら50億狙える!」と宣言しましたが、あれよあれよという間に国内の興行収入は99億円を突破。ギリギリ年内に100億行くかもしれない。世界各地でも人気が跳ねて、国内と合わせた興収は280億円! 鬼滅のせいで感覚がおかしくなっていますが、これもかなりスゴい数字ですよ。激しいバイオレンスシーンがあることも影響して観客の大半は男性ながら、意外に女性客も「デンジとレゼの切ない恋物語」みたいな視点で恋愛映画として受容しており、デート目的のカップル客も多いそうな。米津玄師の主題歌による効果も大きいのか? ただしファミリー層は壊滅的です。アメリカだと年齢制限が厳しく、「娘が『彼氏とのデートでレゼ篇を観る』というから映画館まで送ってあげたところ、R指定(17歳未満は保護者の同伴が必要)と言われ、急遽一緒に観るハメになって気まずかった」という珍エピソードも報告されている。親を連れていくのはハードルが高いし、兄とか姉とかいとことか、「歳の近い保護者」がいない子は鑑賞するのも困難だろう。それでもボックスオフィスで1位を獲ってるんだからスゴい。
制作スタジオはTVシリーズと同じく「MAPPA」。配給は国宝や鬼滅などと同じ東宝ですが、珍しいことに『チェンソーマン』はMAPPAの単独出資。アニメでよくある製作委員会方式ではなく、ぜ〜んぶMAPPAがお金出して「制作」も「製作」もやってるんです。『呪術廻戦』などで稼いだ金をオール・イン。非常にハイリスクですが、こうすることで製作委員会の連中から口出しされることなく純粋にクオリティを上げる映画作りが可能になったという。『鬼滅の刃』は製作委員会に参加する企業を集英社・アニプレックス・ufotableのたった3社に絞ることで意思疎通のしやすい制作環境を構築しましたが、MAPPAの方がより自由度の高い環境で、もはやアニメスタジオの目指す「究極」と申しても過言ではない。単独出資のアニメ映画は、たとえば「スタジオジブリ」の『君たちはどう生きるか』がそうなんですが、あれが公開されるまでろくに宣伝を行わなかったのはテレビ局や広告代理店が製作に一切関わっていなかったからです。「あえて宣伝しない」というイカれた戦略を取るためにジブリが全部金を出したのだ。「鈴木敏夫」プロデューサーは「今回に限っては、回収できない自信がある。だから参加しないでほしい」と周囲に言って回ることで製作委員会の編成を阻止したそうな。回収できなくてもいい、と嘯きながら世界興収でキッチリ400億も稼いでいるあたりはいかにも鈴木敏夫らしいというか。単独出資はアタれば儲けを総取りできるが、コケれば損失を全部自社で被ることになる。リンクの分散が許されず、端的に言って「賭け」です。結果的にMAPPAは大勝しました。レゼ篇の制作費は推定で5〜9億円、宣伝とか諸々の費用を考慮するとだいたい10億円はブッ込んでるかと思われます。興収のうち半分は劇場の取り分、残りを配給と分け合う形になりますが、配給の取り分は概ね20%、残り80%――つまり280億円のうち112億円がMAPPAの取り分。10億ブッ込んで112億帰ってきたんなら税金でごっそり持って行かれることを考慮しても大成功でしょう。続編『チェンソーマン 刺客篇』の制作も決定しており、とりあえず第1部「公安編」は完走できそうな雰囲気になっています。とにかくジャンプアニメは押し並べて好調で、ヒットの規模が他とは桁違いな印象ですね。
10月、秋アニメ開始。『野原ひろし 昼メシの流儀』がなぜかニコニコで大人気になったりと予想外の事態はあったが、いまひとつパンチに欠けるクールだったかな。原作が好きでダンス表現に期待していた『ワンダンス』も「う〜ん……」な出来だったし。『グノーシア』や『アルマちゃんは家族になりたい』、『最後にひとつだけお願いしてもよろしいでしょうか』など面白いアニメはいくつかあったものの、「ハマる」ところまではいかなかった。強いて言えば『私を喰べたい、ひとでなし』かな? 原作は「待てば無料」系のところでだいたい読んでいたけど、アニメの出来が良くてまとめて読み返したくなったから単行本全部買っちゃった。あとヒロアカの最終章が盛り上がっていたみたいだけど、私は原作を途中までしか読んでないんで付いていけなかったんです……ライトノベル方面では「キネティックノベル大賞」が受賞作の大量取り消し措置を行って物議を醸していたっけ。
時事ニュースに目を向けると、自民党の「高市早苗」総裁が第104代首相に選出され、日本初の女性総理大臣が誕生。フィクションだと『攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG』の「茅葺総理」が「日本初の女性首相」でしたが、あれは西暦2030年あたりという設定なんで現実の方が僅かに早かったですね。あとはノーベル賞に日本人科学者が2名も含まれていたことが大きなニュースになっていたっけ。
11月、競走馬の「フォーエバーヤング」がアメリカのレース「BCクラシック」に優勝。日本の馬としては初の快挙ということで話題になりましたが、馬主が『ウマ娘』の運営「Cygames」の親会社「CyberAgent」の社長である「藤田晋」、誕生年月日が「2021年2月24日」でちょうど『ウマ娘』のサービス開始日……優勝直後に『ウマ娘』への登場を匂わせる投稿があってお祭り騒ぎになりました。『ウマ娘』プロジェクトを開始→CMに「武豊」を起用→武の勧誘に押し切られた藤田社長が馬主になることを決意→フォーエバーヤングを落札(命名は落札後)→様々なレースを制したうえでBCクラシック優勝という流れなので、『ウマ娘』プロジェクトが現実の競馬史に影響を及ぼしたという信じがたい事例である。「馬主から許可を取るのが大変だし、自分たちで馬買ってレースに勝たせて実装すればいいんじゃないか」みたいな冗談は初期からありましたが、まさか本当に自給自足し始めるとは……仮に来るとしても「ハルウララ」みたいな「強くはないが愛敬のあるマスコット路線」がせいぜいと思っていました。フォーエバーヤングは他にも海外のG1を制しており、獲得賞金額が日本円に換算して30億近く、額面だけで言えば国内最高額(時代が違うと物価も異なるため単純比較は難しい)で、どれだけ優遇しても「身内贔屓」と非難できないほどの戦績を誇っている。いずれ彼(彼女)を主役にしたアニメも制作されるんじゃないかな。いやサウジがもう作ってるんですけど。難点は「ライバルがほとんど海外勢」で実名を使えないだろう、ということか。そもそもモデルが現役競走馬のため、ウマ娘に実装されているキャラとは時代が重ならないんですよね。せめて父に当たる「伝説の名馬リアルスティール」がいないと絡ませづらい。アニメ3期にはそのリアステをモデルにした「ゲンジツスティール」が登場しており、しれっと名前変えればキャラデザは使い回せるだろうが……。
MLB(メジャーリーグベースボール)のワールドシリーズ(ナショナルリーグの王者とアメリカンリーグの王者が対決する優勝決定戦)で「ドジャーズ」がカナダの「ブルージェイズ」を破り、2連覇を達成。「先に4勝した方が優勝」というルールゆえ早ければ10月中に決着するはずだったが、互いに3勝3敗のまま最大試合数である第7戦までもつれ込み、その第7戦も延長11回まで争う激闘ぶりで多くの野球ファンが熱狂しました。第7戦の舞台はブルージェイズにとってホームに当たるトロント。事前の予想だとブルージェイズの方がやや有利と見られ第7戦でもブルージェイズのファンが「勝った!」と思う瞬間は何度かあったが、最終的に「中0日」で登板したドジャーズの投手「山本由伸」によってその夢を阻まれた。「山本がいなければ勝ててたのに……」とブルージェイズのファンが悲嘆に暮れただけのことはあって、ワールドシリーズのMVPに選ばれたのも山本由伸。彼は英語圏だとなぜか「傲慢な大口を叩く自信家」として弄られており、「実際には言っていない語録」がミーム化しているという。「何としても負けるわけにはいかないので」という発言が拡大解釈されて「Losing isn't an option(負けるという選択肢はない)」と宣言したことになってしまい、捏造フレーズを刻んだTシャツまで作られた挙句、優勝後のスピーチで本当に「Losing isn't an option」と口にするハメになった件は笑えるようでいて時代を映している面もあり、興味深い。ヨシの言ってない語録で好きなのは「リリーフ陣の負担を減らせるように少しでも長いイニングを投げたい」という発言が誇張された「ブルペンのドアを施錠しておけ」です。
映画は『果てしなきスカーレット』が21日に封切り。前作『竜とそばかすの姫』が興収66億だったこともあり業界人は「順調なら50億前後、内容次第で100億も狙えるのではないか」と読んでいたらしい(ハコの押さえ具合からして東宝も本気で100億超えに挑んでいた節がある)が、蓋を開けてみれば記録的な不入りで逆に話題となった。最終的な興収はまだ確定していないが、現時点で6億円前後。興収のデイリーランキングでも圏外に消えてもはや集計するのも困難な状態となっており、ここからの伸びはあまり期待できない。「6億は超えるけど7億には届かない」くらいで決着しそう。竜そばの1/10にも満たないという、製作費(概算25億円)を顧みれば「危機的」としか言いようがない数字です。ざっくり22億円の赤字ですからね……監督インタビューで「もちろんスタジオ地図としてはね、この映画がヒットしなければもう潰れるしかない、 でもいつも常に映画作りってそうなんで、そういう風な格好でいつもやってます」と語っており、「マジでヤバいのでは?」と不安になる。300館規模の公開で3000万円〜4000万円程度とおぼしき『ChaO』(8月公開)や250館規模で概算5000万円の『トリツカレ男』(11月公開)に比べればまだ数字はいい方だけど、座席数が全然違う(果てスカの初週座席数はChaOやトリツカレ男の10倍近い)ので……ブロックバスター(特大ヒット作)となることを期待されていたタイトルだけに着席率の低さが信じがたいレベル(5%前後)でした。今年の映画は興収が二極化しましたね……100億円を超える大ヒット作が3本(コナン、国宝、鬼滅)生まれ、「100億超えるだろう」と目されているヒット作も2本ある(チェンソーマン、ズートピア)一方で大半は10億円に満たなかった。邦画・洋画すべて合わせて今年公開された映画の本数はざっくり1500本くらい、そのうち日本国内で興収10億円を超えた作品は50本前後です。
鬼滅のせいで何もかも感覚がおかしくなっているが、本来「興収10億円」というのはかなり高い壁なんですよ。毎年「日本映画製作者連盟」という団体が興収10億以上の映画をまとめて公表していますが、去年(2024年)は公開本数1190本に対し邦画が31本、洋画が10本、全体の3.5%以下です。過去を振り返ると、あれだけオタク業界に大きな影響を及ぼしたハルヒの劇場版『涼宮ハルヒの消失』(2010)も8億ぐらいでした(来年リバイバル上映される予定だから、そこで2億以上積めば10億超えますが)。2011年に公開された『映画 けいおん!』が深夜アニメの劇場版として初の10億円を突破(最終的には19億円まで到達)し、2013年の『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ[新編]叛逆の物語』が初の20億円突破、更にこの記録を『ラブライブ!The School Idol Movie』(2015/28.6億円)や『ガールズ&パンツァー 劇場版』(2015/24.4億円)、『劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-』(2017/25.2億円)が追い抜いていきましたが、なかなか30億円突破は果たせず「この『30億の壁』を超えていった作品が次の時代を作るだろう」と囁かれたものでした。しかし皆さんご存知の通り『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』(2020)が400億円を突破しまして……「刻むだろっ!普通もっと…!段階をっ…!」となったわけです。『鬼滅の刃』、原作はジャンプ漫画だしもっと昔なら残酷描写を減らしたうえで夕方か夜の浅い時間帯に放送していたんでしょうが、2000年以降どんどん「深夜アニメ」というスタイルが定着していったため「わざわざ残酷描写を減らさなくても深夜にそのまま流せばいいだろう」と集英社の意識も変わり、視聴者が「放送よりも配信を重視する」スタイルに移ったおかげで鬼滅、呪術(あと未達成だけど近々達成しそうなチェンソーも)と「深夜アニメ発の100億円超え映画」が連発される結果になりました。ちなみに「ジャンプ原作」を禁止カードにすると興収30億を超える深夜アニメ映画はまだ出てきていません。え? ジークアクス? アレは本編の放送が始まる前の先行公開なんで「深夜アニメ発」と言っていいのか微妙なところ。劇場公開された時点では「深夜アニメである」ことすら明かされておらず、公開からだいぶ経った後に放送時期が告知され、そこでようやく「深夜アニメだったのかよ!」とわかって驚いたぐらいです。
そもそも興収が20億超えた作品も先述した4つ以外だと、今年2月に公開された『ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-』のみ。全国85館というやや小規模な館数でスタートし、4月に10億突破。劇中で繰り広げられるラップバトルの勝敗を毎回「観客がスマホアプリで投票した結果」に基づいて判定し、上映内容が48通りに分岐する(投票ポイントが5つあって、まず6つのチームが3組に分かれて1対1でラップバトルして各試合の勝利チームを選び、更にその中から決勝に進むチームを1つだけ選んで、決勝で待ち構えている女王チームと雌雄を決する……2×2×2×3×2=48通り)という、超特殊な「インタラクティブ(双方向)映画」です。7つあるチームのうち、「どこのチームが優勝したか」でエンディングも変わる寸法だ。つまり、最低でも7回見ないと全エンディングを制覇することができない仕様なんですが、「大阪の劇場で観るとほぼ確実に大阪のチームが優勝するため他のエンディングを見られない」っていう票の偏り問題も発生したんだとか。新宿チームが勝つところを見たければ新宿の映画館に、池袋のチームが勝つところを見たければ池袋の映画館に……と「遠征」「越境」するファンも続出したらしい。一旦上映終了になった後もアンコールの声に応えてリバイバル上映を繰り返し、10月には動員数100万人、興行収入25億円を突破した。100館以下の公開館数で延べ100万人以上を動員した映画は日本初です。
逆に言えば、そこまで熱烈なファン層を動員してもなお「30億の壁」は破れなかったという証明でもあるわけだ。来年公開されるまどかマギカの新作『ワルプルギスの廻天』が伸びれば「ジャンプ原作でない深夜アニメ発の映画」として初の「30億突破」という記録を残せるかもしれないが……『叛逆の物語』から12年以上、往時に比べて熱心なファンが減ってるのか増えているのかよくわからないんですよね。普通に考えれば「間が空き過ぎ」「いくら日5で再放送されたとはいえ『始まりの物語』『永遠の物語』『叛逆の物語』すべてを押さえていることが前提なのはキツい」「ファミリー層は絶望的だし、カップルがデート映画として選ぶかと言うと……」ってな具合に不安材料が次々と見つかるから、「内容次第」と保留しつつ「コアなファン層が初週に集まって、二週目以降はガクンと落ちてそんなにロングランしない」超初動型になりそうな予感がします。個人的には超楽しみにしていますけどね……本当、内容次第では二度三度と行くつもりです。
訃報はミステリ作家の「西澤保彦」、ループ体質の主人公が事件を未然に防ごうとしたり、人格が次々と入れ替わる状況で「〇〇の肉体で殺人を行ったのは誰なのか」を突き止めようとしたりなど、SFやファンタジーのような設定を導入した「特殊設定ミステリ」と呼ばれる作品を数多く手掛け、界隈に大きな影響を与えました。日本推理作家協会賞は獲っているが、作品数の割に賞レースとほぼ無縁で、このミスなどのランキング本で1位になった作品もなく、タイミングに恵まれなかった作家です。未読の方にはやはり鉄板の『七回死んだ男』をオススメしたい。
12月、遂にFGOの第二部が「終章」で完結の時を迎えた。FGOはサービス開始の時点で「どこまでやれるか」不透明だったが、遊んでくれたプレーヤーへの礼儀としてどんなに儲けが厳しくても最低限第一部はやり切ると覚悟を決めていたそうです。そのうえで可能ならば第二部もやるつもりであちこちに仕込みを済ませていた。もしFGOがヒットしていなければ某PANTHEONの如く幻となっていた第二部が遂に幕を引く――長年プレーしてきたファンにとっては万感の想いが押し寄せる瞬間です。FGOは2015年にサービスを開始し、2016年末に第一部が完結、2017年は「1.5部」という繋ぎのエピソードを展開し、同年末に第二部のプロローグを配信、そして2018年から満を持して第二部の本編が始まりました。つまり、第一部の展開期間は「約1年半」なんですけど、第二部は「約8年」と長さが全然違う。そんな待ちに待った終章において、全ての始まりである特異点「炎上汚染都市 冬木」が作中世界においても「原初の特異点」であることが判明して衝撃が走りました。確かに「特異点」という概念、FGO以外のFate作品には存在しないので「冬木の聖杯戦争に無理矢理介入した結果生じた」と考えれば平仄が合う。
そしてラスボスとなる「〇〇〇・〇〇〇〇〇」も登場、なんか……凄まじい出自に反してあっという間に化けの皮が剥がれていくスピード感が面白くて……倒される前からマスコット化するという予想外の事態に。プレーヤーから「〇〇〇ちゃん」呼ばわりされてる様子に笑ってしまった。レイド戦では宝具に「超巨大特攻」のあるふじのんと「人類の脅威特攻」のあるバサトリアが大暴れ、伐採完了すると夢火を落としてくれるから林檎かじって周回に励みました。しかし大量の空想樹もみるみる伐採されていき、本腰を入れて周回しようと思った時にはもう枯れてる、という事態が頻発。結局予定していたほどは回れずしょんぼりです。本編のラストバトルは演出をじっくり見せることに特化した内容で、難易度自体はさほどでもなく令呪を使わないまま終わった。一番活躍したグランド鯖は剣トルフォで、次がふじのん。バサトリアは「たぶん強すぎてクエストがすぐに終わってしまうだろうから」と出撃自体させなかった。現状ラストバトルは1回しかプレーできないので、まだクリアしてない方は令呪使用を前提にじっくり時間かけて味わってほしいです。
ほか、ネットの一部では「スピキ」と呼ばれるミームが大流行。元ネタは韓国産のソシャゲ『トリッカル』で、「スピッキー」というキャラの本国版声優の演技が非常に特徴的だったことに端を発するミームです。スピッキーは「不気味な」とか「薄気味悪い」を意味する英単語「SPOOKY」がネーミングの由来なんですが、韓国語は長音をあまり重視しない(たとえば「高速道路」を「コーソクドーロ」と言っても「コソクドロ」と言っても同じ言葉だと認識するし、「スーパースター」の発音も「シュパスタ」になる、日本人からすると韓国語が早口気味に聞こえるのはこのへんも影響している)ため発音が「スピキ」になります。韓国版プレーヤーが7月に投稿したMAD動画が10月になってグローバル版プレーヤーたちに発掘され(時間差があるのはグロ版のサービス開始が今年の10月からなんで)、11月頃から日本でこの「スピキMAD」を作る人が大量発生し、12月頃からYoutubeのオススメ欄へ頻繁に出てくるようになったせいもあって『新感染』ばりの勢いであっという間に広まってしまった。韓国では「疫病」と表現されていて笑った。
ミーム化する過程で本来の「スピッキー」と「スピキ」はかけ離れた存在になっており、もはや別のキャラ扱いだ。要するにスピッキーの偽物がスピキなんですが、ややこしいことにスピッキーは「周囲の認識を操作して別人になりすます」能力を保有しており、修道服みたいな衣装に身を包んでいるのも「シスターだから」ではなく「ある宗教団体のトップの物真似をしているから」です。何か深遠な目的があって変装したわけではなく、「服が可愛いから」真似しただけ。なりすましで勝手に作った教義を信徒に押し付けようとしたのも「できるからやってみた」程度の思惑しかない。悪意はないけど思慮もなく、当然の成り行きとしてとっちめられても「悪いことしてないのに〜」と泣き出して被害者ヅラする。「反省する」という機能が付いていない、非常にタチの悪いクソガキなんです。つまり「本物のスピッキー」もある意味で「偽物」。だから、MADの中では「スピキのフリをするスピッキー」や「スピキをスピッキーに変えてしまうスピッキーウイル保持者」などというスピキに輪をかけてワケの分からない存在が登場する。
『トリッカル』の運営は「EPID Games」という中小企業で、害のないパロディやミームに対しては好意的だからスピキMADも黙認……どころか公式MADまで投稿する始末。「公式も乗っかった」ことでますます勢いづき、日韓双方でスピキMADブームが過熱していった結果、韓国版スピッキーの声優がクリスマスキャロルを歌う動画がアップロードされたり、スピキに「粉雪」を歌わせるMADが話題になったり、日本版スピッキーの声優がスピキの真似をする動画をアップロードしたりしています。韓国版声優お気に入りのスピキ動画は「スピキはばかじゃないんですから!「完全版」feat.スピキ M/V」で、なんと100万再生を突破している。公式サイドは「なんでCMに起用したコミーより、バターやスピッキーの方が人気あるんだ」とボヤきながらもブームに全力で乗っかり、「謎のペット出現!」と煽ってスピキの実装を匂わせた挙句、「目に涙を浮かべたスピッキーを模して作ったぬいぐるみ」という扱いで本当に実装を告知してしまった。この『トリッカル』、会社の代表が自宅を担保にして資金調達した逸話が有名(ちなみに権利書はまだ取り戻せていないらしい)で、収益面に関しては結構厳しいみたいだからなりふり構ってられないのだろう。この貪欲さは見習いたい。
最後に、今年観た映画のベスト選出。私的な今年のトップは『バーフバリ エピック4K』。本国では2015年と2017年に、日本では2017年に少し間隔を空けて公開された『バーフバリ 伝説誕生』と『バーフバリ 王の凱旋』、2本(前後編)の映画を編集して1本に作り直した、まぁ簡単に言うと総集編です。『バーフバリ』は国内で上映されたノーカット版と海外向けに歌とダンスのシーンを大幅に削ったインターナショナル版の2種類あり、ノーカット版が5.5時間くらいに対しインターナショナル版が5時間弱。『エピック4K』はそこから更に1時間近く削って225分、4時間弱に編集しています。それでも長いから途中で10分くらいのインターバル(休憩時間)が入る。アヴァンティカ(ヒロイン)のシーンがだいぶ減っていることはさすがにわかったけど、私の記憶力がよわよわなせいでどのへんが追加映像なのかは区別が付かなかったな。何であれ、スクリーンでの鑑賞に値するド迫力映画であることに変わりはない。『バーフバリ』2部作は地元で上映しなかったからBDで視聴するしかなく、当時かなり悔しい思いをしたものだけど、『エピック4K』のおかげでようやくその悔しさが晴れた。それも込みでトップに据えたくなるわけですけど、あくまで「純粋な新作」で選ぶとしたら「延々と殺戮劇が続く踊らないインド映画」『KILL 超覚醒』か「映像と音響の快楽を追求したアニメの極北」『劇場版 チェンソーマン レゼ篇』の2択かな。鬼滅、国宝、ゾンサガ、わたなれ、落下の王国あたりも良かったけど「映画としての満足度」に関しては『バーフバリ エピック4K』(1位)、『KILL 超覚醒』『チェンソーマン レゼ篇』(同率2位)って感じでした。
・そういえば「どじろー」の『陰キャ同士のセックスが一番エロいよね』の単行本が発売されました。連載当時から話題を喚んでいた18禁アダルトコミック、要はエロマンガです。とにかく陰キャ女子の「天野」が可愛くてエロいので「最近エロマンガってあんまり買ってないな〜」という方もこの機会にどうぞ。電子版はFANZA限定なのでエロマンガの物理単行本を家に置いておけない方はFANZAで購入しよう。(※追記)……って、更新後にチェックしたらAmazonで『陰キャ同士のセックスが一番エロいよね』の取り扱いがなくなっている!(在庫切れどころかページ自体が消滅) 記事を書いていた頃には確かにあったのに! もおお、これだからAmazonは! 仕方ないので紙書籍版が欲しい方はFANZAかとらのあなかメロンブックスあたりで買ってください。
「紙書籍版を買うつもりだけど、一冊だけだと寂しいな〜」って方に併せ買いして欲しい単行本もオススメしておこう。「ぱてくらー」の『変態世界の歩きかた』と「犬江しんすけ」の『お隣の贄』、比較的最近出た新刊です。『変態世界の歩きかた』はヒロインの名前がスゴすぎることでバズりまくった「御奈新ヶ万出機内さんはオナニーが我慢できない」を収録しているナンセンス・エロギャグ集。『お隣の贄』は犬江さん(今はSNS主体でサイトの方は更新されていないけど、実はうちのサイトとほぼ同期で相互リンクしていた時代もあります)が同人で出していた同題シリーズをまとめたもの+描き下ろし、同人版の総集編もあるけど商業版の方が安いです。NTR(寝取られ)物がイケる人なら『アブカノ+』あたりもイイかもだが、これ、同人作品だった『アブカノ』(1作目)を商業化したもので描き下ろしが30ページ程度なんで、電子版でも大丈夫な人はFANZAで同人版を買った方がリーズナブルです。今なら半額セール&20%OFFクーポンで220円(税込)、続編の『アブカノ2』と一緒にポチっても440円(税込)、ワンコインでお釣りが出るレベル! 超安い! あ、「電子でもOK」の方はさっき挙げた『変態世界の歩きかた』はFANZA以外のところで買った方がいいです。FANZAって基本的に新刊の値引きはあんまりしないしポイント還元もないので、クーポン使えるところとかで購入した方がオトク。ただ、ショップによっては消しが濃かったりするから注意しましょう。
エロ以外でオススメなのは『ARIA完全版 [ARIA The MASTERPIECE] (8)』、本編完結後に発表されたエピソードや未収録番外編をまとめた愛蔵版です。『ARIA The MASTERPIECE』の7巻が出たのは8年前だから、ARIA好きな人でも8巻が出たことを意外と知らなかったりする。私もアンテナ低かったせいで発売ギリギリになってようやく知ったくらいですからね。価格は2200円(税込)、大きさ・分厚さを考慮すると文句のない値付けではあるが、8年前に出た7巻が1500円(税込、当時は消費税8%時代なので本体価格1389円)だったことを考えると少し遠い目をしてしまう。なかなか気軽に本の買えない時代になってしまった。
・クリストファー・ノーラン監督の新作『オデュッセイア』、2026年公開予定
映画ファン待望の新作情報がようやく明かされました。「クリストファー・ノーラン」監督というのは簡単に言うと『ダークナイト』とか『インセプション』を撮った監督です。近年は『インターステラー』(2014)、『ダンケルク』(2017)、『TENET』(2020)、『オッペンハイマー』(2023)といった大作映画を手掛けており、「3年周期だからそろそろ来るのでは?」と囁かれていました。ノーランは物凄くこだわりの強い監督で、撮影には未だにフィルムカメラを使用している。『オデュッセイア』を撮るために新型70mmフィルムカメラまで開発されたというのだから並外れています。大作映画の監督でここまでフィルムにこだわっているの、今じゃノーラン以外だと「クエンティン・タランティーノ」くらいじゃないでしょうか。タランティーノはフィルム上映可能な映画館「ニュー・ビバリー・シネマ」や「ビスタ・シアター」のオーナーにもなっているという筋金入りのシネフィル(映画狂)です。
さておき『オデュッセイア』、原題は"The Odyssey" 。そのまま訳せば「オデッセイ」(オデュッセイアの英語読み)ですが、日本語版のタイトルはギリシャ語読みとなっています。これは2015年に公開された映画 "The Martian" (原作小説の邦題は『火星の人』)を日本公開時『オデッセイ』というタイトルにしてしまったため、被りを避けるために仕方なく……という感じでしょう。日本人からすると「オデッセイ」はホンダの車を連想してしまいがちだから、というのもあるかもしれない。『オデュッセイア』は古代ギリシャの詩人「ホメロス」が残した叙事詩で、作中の時系列としては同じくホメロスの叙事詩『イリアス』の後日談みたいなところがあります。『イリアス』はいわゆる「トロイア戦争」を描いた叙事詩で、古代ギリシャ側がトロイアのことを「イリオン」と呼んでいた(トロイアの築いたのは「トロス」という王様で、その子供が「イロス」、つまり「イロスの国」という意味)ことに由来する。トロイア戦争にはいろんな英雄が参戦しましたが、その一人が「トロイの木馬」の立案者として名高い「オデュッセウス」。彼は終戦後、妻子が待つ故郷の国「イタケー」に向けて船を出すが、海神「ポセイドン」を怒らせてしまったせいもあって様々なトラブルに襲われ、なかなか帰り着くことができない……という内容の叙事詩が『オデュッセイア』です。なんと戦後のトロイアを出立してから紆余曲折を経てイタケーに帰郷するまで10年くらい掛かっています。前フリに当たる『イリアス』はトロイア戦争が長引き過ぎて10年目に差し掛かった頃、総大将のアガメムノンがアポロンに仕える神官の娘「クリュセイス」を妾にして寵愛した結果アポロンが怒って疫病の流行を招いたため、神の怒りを解こうとオデュッセウスがクリュセイスを返しに行く……というような場面から始まる(有名なシーンで、「クリュセイスを父親のもとへ送り届けるオデュッセウス」という絵も描かれている)。要するにオデュッセウスは戦中・戦後含めて20年くらい故郷を留守にしていたことになります。引き連れた部下ともども「家に帰りたい」想いは半端じゃなかっただろう。
故郷に辿り着くまで様々なトラブルに遭遇したことから「オデッセイ」は「長大な冒険」や「放浪譚」の代名詞にもなりました。映画にもなったSF小説『2001年宇宙の旅』の原題も "A Space Odyssey" 。アイアイエーという島(伝承によっては半島としているケースもある)で魔女「キルケー」と懇ろになったエピソードや怪物「セイレーン」の歌声に魅了されて理性を喪失したときの備えとして部下に命じ己を船の帆柱(マスト)に縛り付けさせたエピソードなど、後世の創作でネタにされた逸話や要素は枚挙に暇がない。たとえばオデュッセウスの妻の名前が「ペーネロペー」……そう、来年劇場版第二部がやっと公開される『閃光のハサウェイ』のモチーフの一つが『オデュッセイア』なんです。読み物としては『イリアス』よりも『オデュッセイア』の方が圧倒的に面白い。なのに、オマージュ作品はあっても『オデュッセイア』そのものはあまり映画の題材にはされてこなかった。一応『ユリシーズ』がある(ユリシーズはオデュッセウスの英語読み、「オデュッセイア→オデッセイに比べてオデュッセウス→ユリシーズは違いすぎじゃない?」と思うでしょうが……オデュッセウスの名前をラテン語読みに変換する際、何かの手違いでDがLになって響きが変わってしまったそうです)けど、70年も前の作品だ。原作が有名で、面白いエピソードも山盛りなんですけど、山盛りすぎて取捨選択が難しく「どのエピソードを残してどのエピソードを削るか」でみんな途方に暮れてしまうんです。ホント『オデュッセイア』、「面白いけどコレは削っても成立するな」ってエピソードが多いんですよ。イタケーに到着する手前あたりで「ナウシカアー」なる王女(『風の谷のナウシカ』の「ナウシカ」は彼女に由来するネーミング)に惚れられるけど、ペーネロペー一筋なオデュッセウスを見たナウシカアーは彼を引き留めず「私もことも忘れないでください」と囁き、そっと送り出す……っていうしっとりめのエピソードがあります。脚本を構成する立場の人からすると「キルケーと懇ろになる逸話」を消化した後でこれまでやるのはさすがに映画としてクドい、ってなるでしょう。なかなか帰ってこない父を心配して息子の「テレマコス」が捜索の旅に出る、という「テレマコスの冒険」要素まで入れたら高確率で収拾がつかなくなる。かと言って枝葉末節を削り過ぎて「イタケーに帰る」という本筋しか残さなかったら『オデュッセイア』の混沌とした魅力も薄らいでしまう。「雑多なエピソードの寄せ集め」だからこそ冒険譚としてワクワクする面がありますので。「『オデュッセイア』、やりてぇ〜」と思いつつ二の足を踏む監督がほとんどだったと予想しています。
あと、上半身は美しい娘の姿をしているが下半身は恐ろしい怪物の「スキュラ」、一つ目の巨人「キュクロプス」など、ファンタジーめいた存在が次々と登場してくるため、そのへんをどう処理するのかって問題もある。キュクロプスはドラクエの「サイクロプス」(キュクロプスの英語読み)みたいな単純に力の強い巨大な原始人として描くのか、それとも「天目一箇神」にも通じる鍛冶神の一種として描くのか? 神話上だとキュクロプスは鍛冶神「ヘファイストス」の徒弟として神々の武器や防具の作成に従事したことになっており、ゼウスの雷霆「ケラウノス」もキュクロプスが作ったとされている。古い時代の鍛冶師は火の温度を測るため火を直視せざるを得ず、「片目の視力を失う」のが職業病だったことから鍛冶師の象徴は「単眼」とされていました。『オデュッセイア』におけるキュクロプスは「人喰いの単眼巨人」でしかなく鍛冶要素はオミットされているが、由来を含めて深読みすれば「実は鍛冶師の集団」と見做すこともできる。こんな具合に各エピソードの「表象」と「本質」に関してはかなり議論の余地があるわけで、「オデュッセウスが苦労の末に故郷へ帰る話」をどう彩るか、非常に悩ましいわけだ。そもそも「ホメロスという詩人」は実在せず、あくまで象徴として冠されている名前であって、実際のところ『イリアス』や『オデュッセイア』は各地の吟遊詩人(アオイドス)が歌った内容をまとめた、日本で言うところの『平家物語』みたいなものじゃないか、という見方もあります。ストーリーにあまり一貫性がなく、エピソードが継ぎ接ぎに見えるのもそのせいだ、と。私はとりあえず期待しているが、評価はだいぶ割れそうな予感がするな。既に「時代考証的に鎧や衣装のデザインがおかしい」と批判する人が現れているらしいですし。個人的に鎧や衣装のデザインくらいはええやろ……の心境ですが。
・「デモンベイン/継接の世界《パッチワークバース》」幕開けにあたり
やっと……やっと『斬魔大戰デモンベイン』が本格始動する……! 「待望」の二文字では言い表せない想いに胸が熱くなります。うちのサイトってデモベの二次創作を掲載するために始まったんだもんなぁ。そもそも「デモンベイン」とは何か? ということについてはリンク先の記事に詳しく書いてあるのでザッと触れる程度に留めますが、要は2003年にニトロプラスから発売された「巨大ロボットの出てくるエロゲー」です。もともとは「虚淵玄」主導で「ロボット系のエロゲー企画」を進めていましたが難航し、「もっと若い感性を持ったクリエイターに委ねよう」ということで当時個人サイトを運営していた「鋼屋ジン」(当時は違うハンドルネームだったけど、そのへんの説明は割愛)に声を掛け、「ロボットが出てくる」部分を引き継いで鋼屋ジンの提案した企画が「クトゥルー神話をベースにしたスーパーロボット物」であり、「邪神を滅ぼす」ということで『斬魔大聖デモンベイン』のタイトルが決まった(CS移植版は『機神咆吼デモンベイン』)。デモベの企画を考えるうえでもっとも参考になった、いわゆる「元ネタ」に当たる小説が『タイタス・クロウの事件簿』から始まる「タイタス・クロウ・サーガ」で、デモベの主人公「大十字九郎」もタイタス・クロウから来ている。「大(タイ)+(足す)九郎(クロウ)」。なお、余談ですが、虚淵は鋼屋の友人である「東出祐一郎」(この人も当時は違うハンドルネームだった)にも声を掛けようか思案したそうです。しかし東出は「一般企業に就職しました」と当時のHPで報告していたため「カタギをこの業界に誘うのは……」と躊躇って取りやめたんだとか。結局その企業をやめてクリエイターとしてデビューすることになるんですが、タイミング次第では「ニトロゲーを出す東出祐一郎」もあり得たでしょう。
デモンベインの詳しいストーリーについて述べると歯止めが利かなくなるためやめておきますが、簡単に言うと「並行宇宙」が重要なポイントになってくる物語です。エンディングによっては大十字九郎が「旧神(エルダーゴッド)」と呼ばれる超常的な存在になったりするし、人のままハッピーライフを送るルートもある。で、「別のエンディングの未来」が次元を隔てた他ルートの運命に影響を及ぼすことがしょっちゅうある。続編『機神飛翔デモンベイン』には「九朔(くざく)」という新キャラが登場しますけど、この子は「別の世界線」で生まれた九郎の息子なので本名は「大十字九朔」。彼のいた世界では「魔導大戦」という規模の大きな争いが発生しており、『機神飛翔〜』も分類上は「魔導大戦モノの一部」という扱いになっている。『機神飛翔〜』の後日談として雑誌に掲載された短編「D2」(現在は「機神大嵐」というタイトルで非公式同人誌『DEMONBANE FANZIN Vol.1 UNOFFICIAL CHRONICLE DEMONBANE CAUSAL SEQUENCE』に収録されている)で「より大きな戦いが始まる」ことが予告され、その「より大きな戦い」について掘り下げるのが最新企画の『斬魔大戰デモンベイン』です。
2022年に公式書籍として『斬魔大戰デモンベイン』が刊行。『斬魔大聖デモンベイン』におけるifルートの一つ、「大十字九郎がヒロイン(アル・アジフ)を喪い、狂乱状態に陥ってデモンベインと合一、邪神のみならず全ての並行宇宙さえも滅ぼす大災厄『渦動破壊神』に成り果ててしまう」という最悪の結末から始まる。開幕時点で並行宇宙はたった一つを除いて全部滅び去っており、残されたラストワンも「昇滅」を目前に控えている。三千大千世界が塵芥と化す一瞬手前の猶予に時空介入し、「デッドエンド」を食い止めることが物語の目標となります。主人公の「ボク」はRPGやソシャゲを意識してあまり細かく設定が作り込まれておらず、「無知な存在」=「プレーヤー/読み手の分身」といった性格が強い。名前や性別も可変。解説でも「いつの間にか性別が変わる」とされている。そんなことある!? と叫びそうになるが、「ボク」の正体、どうも渦動破壊神に殺されたアザトースの残りカスっぽいので……この本の在庫はまだ公式通販にありますが、電子書籍版も売っているから「サイズの大きい本は置き場に困る」という方はそっちで読むのも手です。
諸事情からデモンベインを商業作品として展開することは難しいみたいで、今後は支援サイトで散発的に小説を発表する形式になるとのこと。どっかのPANTHEONみたいな話ですね。本編を読むのには支援が必要らしいが、本編前の番外編に関しては無料とのことで、「昔デモベにハマってたな〜、懐かしい〜」という方や「デモベ? よくわかんないけど巨大ロボは好き」という方は気軽に読んでみてはいかがだろう。ちなみにデモベは外伝作品もいくつかあります。絶対に押さえておきたいのは『機神胎動』から始まる「古橋秀之」版のデモベ、いわゆる「古橋デモベ三部作」ですね。デモベのライターである鋼屋ジンは古橋秀之の大ファンで、その作風に関してはかなり古橋の影響を受けている(ついでに書くと「秋山瑞人」の影響も受けており、デモベ本編にも『猫の地球儀』ネタが混ざっています)。20年くらい前の本だからさすがに新品はもう売ってないだろうが、現在電子版は全巻Kindle Unlimited対象だから読み放題、今ちょうど年末年始のセール中で1冊100円ちょっとの投げ売り状態ゆえまとめてポチってもさして懐は痛みません。
それと、タイトルにデモンベインとは入っていないが鋼屋ジン原作の『ダイン・フリークス』(全3巻)も関連作品で、確か「渦動破壊神」の名前が出たのもコレが初だったはず。「D2」では存在が仄めかされるだけで名前とかは明かされていなかった。私はやってないから知らないが、ニトロプラスの格ゲー『ニトロプラス ブラスターズ』に『ダイン・フリークス』のヒロイン?である「寄車むげん」が登場し、「D2」から『ダイン・フリークス』に繋がる間のエピソードが語られる模様。寄車むげんの左眼(金瞳)は「ヨグ=ソトースの瞳」であり、「因果律を自在に操る」とされているがそれでも渦動破壊神には敵わなかった……流れとしては、『斬魔大聖デモンベイン』のBADエンドの中で渦動破壊神が誕生し、並行世界全てを昇滅させる超特大レムリア・インパクトを発動→完全に昇滅する寸前で「銀の鍵」により残り僅かな時間が無限大に引き延ばされる→寄車むげんがヨグ=ソトースの瞳を駆使し、最後の宇宙(ダイン・フリークスの世界)を捻出→襲来してきた渦動破壊神に寄車むげんが敗北、最後の宇宙さえも昇滅は確定となるが、まだ抗う者たちがいた……という感じです。正統な宇宙はもう総て粉砕されたんだけど、その欠片を寄せ集めることでギリギリ成立している「継接の世界(パッチワークバース)」が『斬魔大戰デモンベイン』の舞台となります。断片化した世界を特異点よろしく巡りながら渦動破壊神に立ち向かっていく、「鋼屋ジンとNiΘだけでFGOみたいなことをやろうとする」かなり無謀でワクワクする企画なのだ。
さあ、古参も新規もレッツ・デモベ!
・「ブチ切れ令嬢は報復を誓いました。」TVアニメ化、ティザーPV公開 大西沙織が主人公役(コミックナタリー)
えっ、アレ、アニメ化すんの!? ビックリした……調べてみると今年の8月、最新刊(7巻)が出た時に「アニメ化企画進行中」の告知があったみたいですね。ぶっちゃけ5巻あたりであまり話が進まなくなってダレてしまい、「もうちょっと話にケリがついてからまとめて読もう」とチェックを疎かにしてしまった。一応好きなシリーズなのにアニメ化の情報をキャッチするまで4ヶ月も遅れるとは。
『ブチ切れ令嬢は報復を誓いました。』はなろう連載作品で、2022年から書籍化を開始しています。3年かけて7巻まで出てるから、だいたい年2冊くらいのペース。簡単に言うと「バカ王太子の婚約者だった公爵令嬢が『他に好きな娘ができた』という理由で婚約破棄され、国や実家からの救済も見込めず『この国、もうアカンわ』と見限って隣国に逃亡、舐め腐った真似をしやがった祖国へ報復の鉄槌を下すべく動き出す」異世界ファンタジーです。少し前までアニメやっていた『最後にひとつだけお願いしてもよろしいでしょうか』をもう少し陰湿にした感じの話ですね。
1巻がKindle Unlimitedの対象だったから読んでみたんですよ。表紙も明るいし、言うてそれほど苛烈な報復ではなくバカ王太子が「ギャフン!」と言う程度のコメディっぽい調子だろう、と。予想を裏切る結構ガチな報復っぷりで少しヒきました。報復対象はカス揃いですが、巻き添えで無辜の人々も被害に遭ってるし。それに対しバカ王太子どもがもっと非道な行為をすることでヘイト管理しようとしており、治安が『北斗の拳』並みになっている箇所もある。ネタバレというほどでもないが、本編の合間合間に「未来の出来事」を綴る断章があり、そこでは主人公の祖国「ハルドリア王国」は既に滅亡している。加えて主人公は歴史上の偉人として各地に名を残しているらしい。つまり、「報復は完遂された」ことを先に明示したうえで「この国が滅亡するまでの過程をお楽しみください」っていうノリで進むストーリーなんです。そのへんちょっと『幼女戦記』っぽいところがある。主人公の復讐にかける熱意はガチで、孔濤羅ばりに慈悲の欠片もなく戮滅していくから『鬼哭街』めいた雰囲気もあります。襲ってきた野盗を嬲った末にブチ殺したりする(片腕斬り飛ばして「お、俺の腕ェェェ!」と狂乱している野盗に「ほら、返すわよ」と投げつけ、受け取ろうと咄嗟に伸ばした残りの腕も切断する――という件は何度読んでもヒく)し、「これ本当にテレビで流せるの?」って心配になったり。明らかに最ひとのスカーレットよりヤバい。
作中の世界では魔力を物質化させて「神器」と呼ばれる各自固有のアイテムを生み出せる設定(スタンド能力みたいなものと思ってもらって構わない)になっており、主人公の神器は「七つの魔導書」……本来ならそれぞれ一つしか持てない神器を「七つで一つだから」という屁理屈で七種類も使い分けられるブッ壊れチートです。強さ的には「『精霊幻想記』のリオくんよりは控え目かな」というくらい。一度暴れ出すともう手が付けられない。逃げ延びた隣国で商会を起こし、財を貯えながら地位を確立していく、なろう系で言うところの「内政」に相当するパートが長くてちょっとダレがちなのは難点かな。正体不明の女の子を拾って懐かれ、ひっそり母性本能を満たしていく展開も好みが分かれるところかもしれない。最初は順調だった報復のペースもだんだん落ちてくるし……アニメは1期の範囲ならまだ大丈夫だろうが、2期の範囲に差し掛かると盛り上がりに欠けるかもしれません。
私もなろう版は詳しくチェックしてないのでよくわかりませんが、なろうでの連載は3年前、書籍版の2巻が出たあたりから更新が止まっているみたいです。無事に完結できるのかしら、このシリーズ……あと、アニメ化と言えば『ルリドラゴン』もアニメ化します。しかもスタジオは「京都アニメーション」。京アニがジャンプアニメを作る時代かよ! これはメイドラゴンとのコラボへの期待も高まる。
・藤孝剛志の『即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。〈後始末篇〉』読んだ。
アニメ化もした「即死チート」の本編完結後ストーリー、いわゆる「後日談」です。本編がキレイに終わっていたこともあり、あまり後日談に興味が湧かず刊行時はスルーしていましたが、少し前にKindle Unlimitedのラインナップに加わっていたので「タダなら読んでみるか」と気軽にダウンロードしてみました。
ネタバレになるけど、もったいぶってもしょうがないので書きますと、本編14巻(完結巻)で主人公「高遠夜霧」たち一行は異世界を支配する神の如き存在「大賢者」を斃し、大賢者によって神の座を逐われた旧き神がその権能を取り戻したことで元の世界に送り返され、無事ハッピーエンドを迎えました。帰還してすぐに話が終わってしまうこともあり、「あれから彼らはどう過ごしているのか?」って気になっていた読者向けに差し出されたのがこの「後始末篇」というわけです。一部のキャラ……いや、ハッキリ書いた方がいいか。「花川大門」(アニメしか観てない人には「モブ顔のデブ」と言った方がわかりやすいかもしれない)はチート能力で無双したいからと異世界に残る決断をしており、後日談ながら「現代日本のエピソード」と「異世界のエピソード」が混ぜこぜになっています。このオフビートぶりが「即死チート」の魅力とも言えますが、少々取り留めのない印象があることも確かです。
構成としては雑多なエピソードを寄せ集めた「ACT1」、神のような存在が別の神のような存在に向けて高遠夜霧に関する忠告を行う「ACT2」、そしてアニメの宣伝パート(刊行時はちょうどアニメの6話あたりが放送されるタイミングだった)の3部に分かれていますが、正直「ACT1とACT2に分ける意味あったか?」と首を傾げる内容。本編の形式に合わせたかったのかもしれないが、ホント形式だけ合わせてるムード。各エピソードを短く紹介して感想を述べていきます。
「初めての異世界」 … 花川が異世界に初めて召喚されたときのエピソード。つまりこれに関しては後日談(アフターストーリー)じゃなくて前日譚(プリクエル)です。アニメで観た人も記憶が薄れているかもしれないので念のため解説していきますが、花川とか一部のクラスメイトは修学旅行のバスが異世界に飛ばされるよりも前に一度異世界へ召喚されたことがある、という設定になっています。そこで魔王(やその背後にいる裏ボス)を倒したら用済みとばかりに現代日本へ送り返されたわけですが、「誰が魔王や裏ボスを倒したのか」という点も掘り下げている。これ単独で読むと意味が良くわからず困惑しますが、「軌刃」とか後のエピソードと繋がってくるのでモヤモヤを抱えたまま読み進めてください。ぶっちゃけ、これだけ読むとそんなに面白くはない……いつもの藤孝剛志のノリだな、とは感じますが。
「獣人」 … ここからが後日談のスタート。異世界から帰還した面々は数ヶ月後、心の整理を付けるためにとカラオケ店でパーティを開くことになったが、参加者はまばらで盛り上がらない。異世界に召喚される前から「獣人」という特殊な出自を持つ「鳳春人」は、獣人たちを統べる宗家が壊滅状態に陥っていると聞かされて……という感じで夜霧くんは登場せず、春人が主人公みたいなエピソードになっています。獣人たちの本拠地は「黒神島」という孤島で、『姉ちゃんは中二病3 夏合宿で人類滅亡!?』の舞台にもなっている。つまりこのエピソード、『姉ちゃんは中二病』というやや半端なところで打ち切られたシリーズともリンクしているのだ。でも読んだの10年以上前だから、あんまり覚えてなかったです。作者もあとがきで「島に上陸して遺跡を調査して……という話のつもりだったのですが『姉ちゃんは中二病』を読み返すと島が沈んでいました。何余計なことしてんだよと、過去の私に文句を言いたくなりました」と書いているぐらいだし、まぁ覚えていなくても平気な内容です。『姉ちゃんは中二病』は全巻Kindle Unlimited入りしてるので気になる人は先に読んでおくのも一興。ここから春人が獣人界のトップに成り上がっていくストーリーも書けなくはないのだろうが、あまり作者に「書きたい」という熱意がなさそうである。
「名前」 … ヒロイン「壇ノ浦知千佳」が使う古武術「壇ノ浦流弓術」に関するエピソード。書籍化していないが、同じ作者がなろうで連載している「壇ノ浦流弓術でどうにかなりますか? 〜即死チート外伝〜」(カクヨムだと「無理ゲーみたいな異世界ですけど、壇ノ浦流弓術でどうにかなりますか? 〜即死チート外伝〜」と微妙にタイトルが違う)の主人公「極楽天wヌ」もチョイ役で登場する。壇ノ浦流弓術はもともと『姉ちゃんは中二病』に出てきた「壇ノ浦千春」(知千佳の姉)が使っていた古武術で、この「名前」にも千春が登場するから「『姉ちゃんは中二病』のスピンオフ」という側面も有している。こう書くと「よほどの藤孝ファンしか楽しめない話」のような気がしてくるが、内容は「wヌちゃんに壇ノ浦流弓術の技を教える際、なんかカッコいい技名を付けといた方がいいんじゃないか?」という至ってしょうもない代物なんで予備知識とかは不要です。作家が必殺技のネーミングをこねくり回している舞台裏を覗き見る感じで楽しかった。
「異能」 … 「イヅナ」という危険な異能力者が「機関」の収容施設から脱走した。彼は脱走する際、収容されていた他の異能力者たちも逃がしており、「機関」は大混乱に陥っている。「機関」所属のエージェント「キャロル・S・レーン」は異世界でコンビを組んだ誼だからと、「二宮諒子」にイヅナたち脱走者を捕縛する任務の手伝いを頼み込むが……雑多なエピソードの寄せ集めである本書だが、一応この逃亡者たちがストーリーの軸になっています。このへんから短編集っぽさが薄れてちょっと長編っぽいノリになる。前フリみたいなエピソードだからキャロルたちがイヅナ一派を捕縛するために動き出すのは次以降です。
「ロボ」 … 日本の裏社会を牛耳る、獣人たちの支配者「皇家」。当主である「皇楸」が急死したことで後継者争いが勃発し、孫娘の「皇槐」はあれよあれよという間に没落していった。今は安アパートの一室で両親と倹しい三人暮らしを送る日々。「このままだと将来的にヤバいのでは……せめて高校くらいには通った方がいいんじゃないか?」と不安がる槐を、昔馴染みの高遠夜霧が訪ねてくる……と、ここでようやく本編主人公の夜霧が登場。「獣人」とも繋がる話になります。私はアニメ途中で観るのやめたからよく知らないが、槐ちゃんの出番はたぶんカットされただろうし、アニメ勢からすると「誰?」と戸惑うでしょうね。「即死チート」の小説版は書籍限定の書き下ろしとして夜霧が日本で過ごしていた頃の前日譚を収録(プレオーフェンみたいなノリ、と書けば古いラノベ読みには伝わるか?)しており、そこに登場するキャラが槐ちゃんです。夜霧にとって貴重な「殺したくない相手」であり、それを利用すべく「見た目が槐にそっくりなアンドロイド」が刺客として制作された――という経緯がある。暗殺計画自体は阻止したが、外見が槐に酷似しているロボを処分するのは忍びない……ということでロボの処遇をモデルになった皇槐本人に委ねる、といったエピソード。ワケが分からないでしょう? でも「即死チート」全巻読んだ人にとっては「これこれ、このワケ分かんなさが藤孝イズムなんだ!」って嬉々としてしまう。「異能」の続きに当たるエピソードですから「異能」を飛ばすと更にワケが分からなくなりますゆえ注意。
「悪霊」 … イヅナが逃した異能力者の中には「悪霊」としか呼びようがない、不可視で名前もない奴がいた。そいつは解放後もこれといった目的を持たず本能のまま貪る暮らしを送ろうとしていたが、たまたま「壇ノ浦もこもこ」のテリトリーに入ってしまい……という、もこもこさんメインのエピソード。知千佳の守護霊としてアニメ勢にもインパクトを残したと思われるもこもこさんだが、悪霊を暴力でボコボコにする様子は端的にただ「つよい」と述べるしかない。彼女の本領発揮であり、遂に壇ノ浦流弓術が「弓術」である所以が明かされる。こんなエピソードで明かしちゃうの!? もこもこさんファン必見の一編だ。
「軌刃」 … 逃亡異能者グループの首魁「イヅナ」がメインのエピソード。彼はもともと「対象を切断する」異能を所持しており、異世界に召喚された際もそのチカラを使って好き勝手に振る舞っていた。日本に帰還後、異世界で強化したチカラによって「機関」から脱走した彼は、暇潰しに壇ノ浦流弓術の道場に赴いて「道場破り」をしようと試みるが……書かなくてもわかると思いますが、出迎えた知千佳がアッサリ一蹴して終わりです。異世界だと戦力がインフレしていてあまり目立たなかった知千佳だけど、やっぱり常人離れした強さだな、と再確認しました。
「異世界ハーレム計画」 … 花川の後日談。異世界でチート無双できるほど高レベルの勇者になっていた花川だったが、「ここで調子に乗るとまた痛い目に遭う、あくまで慎重に、慎重に……」と欲望を隠しながらもハーレム建立を夢見ていたが……詳しいオチについては触れないでおくが、誰が読んでも「うまく行かないんだろうな」と察してしまうハーレム計画に涙。これがノクターンなら花川のアッチも大活躍できていただろうに。ちなみにノクターン系のコミカライズで最近オススメなのは『異世界ラクラク無人島ライフ』、程好いエロさでワクワクします。
「氏族」 … 「獣人」関連のエピソード。熾烈を極める皇家なき世の後釜争い、遂に鳳春人のところにも刺客が送り込まれてきて……という具合の話なんだが、修羅場を潜ってきた春人が容易く撃退することはわかりきっているので特にコメントすることがない。さすがに獣人云々で引っ張るのも限界でダレてきた印象が漂う。
「ベータテスト」 … 霊体だけど電子機器を駆使することで資金を得ているもこもこさん、今度は新たなソシャゲをリリースすることで稼ごうと目論むが……といった感じで異世界での経験をベースにFG〇とかプ〇コネみたいなガチャ搾取ゲームを制作しようとする、本書の中でもっともしょうもないエピソード。一応本編にも「詫び石でガチャを回す」スキルのキャラが出てきたからその繋がり、と言えなくもない。ちなみにガチャで使う石の名前は「星結晶」、3個で1回引けて、30個で10連が回せる。うん、昔のFG〇だな(FG〇は4個で1回、40個で10連の状態からスタートし、やがて3個1回・30個10連にディスカウント、更にそこから30個で11連に改修……という歴史を辿っている)。
「蛇足」 … 「全知」の存在である「僕」が新たに神格を獲得した「君」に向けて高遠夜霧の危険性をレクチャーする、という二人称小説。ノリとしては『エースコンバットZERO』の「あいつのことか ああ 知っている 話せば長い そう 古い話だ」に近い。いくら宇宙を破壊することができる力を得ても夜霧(アレ)には手を出すな、と親切心から忠告する「僕」に対し「君」はまったく聞き入れる気配がなく、「最強」を目指して鼻息荒く高遠夜霧に喧嘩を吹っ掛ける。結果は記すまでもない。
「TVアニメ放送中!」 … 宣伝として書かれた文章、恐らく紙書籍版では折り込みチラシのように挟まれていたモノだろう。とっくに放送が終わって2期の兆しもない今、特に語ることもない。強いて言えば、「あまりにも次々といろんなキャラが死んでいくため声優の兼ね役が多く、ある声優は『死ぬ相手』と『そいつを死なせる相手』を交互に演じるハメになった」というこぼれ話が面白かった。
読切エピソードばかりでは間が保たないからか「イヅナ」というキャラを軸に連作長編としても読めるような構成になっていますが、本編主人公である夜霧の出番が少なく、ほとんど他のキャラの視点で夜霧と関係ないエピソードが紡がれているせいもあって「即死チート」の後日談として読むと、なんというか大人しい……あまりイカレっぷりを感じない内容で正直微妙でした。イヅナ自体にあまり魅力を感じないし、夜霧くんも現代日本で大虐殺はマズいからと異世界ほど大暴れはしません。本編みたいなムチャクチャっぷりを楽しみたい人にとっては「コレジャナイ」な一冊でしょう。続けようと思えば続けられる雰囲気で終わっていますけど、あと少しで刊行から2年経つのに全然音沙汰がないところからしてたぶんコレで完結か。個人的には「どうしても続きが読みたい」というほどではない。もし〈後始末篇2〉みたいなのが出て、Kindle Unlimitedの対象になったら読むかもな、というテンション。
〈後始末篇〉と言いつつあんまり後始末が出来ているようには感じられない、そんな本です。つまらなくはない、どちらかと言えば「面白い」寄りだけど、「読み返すことないだろうし、Kindle Unlimitedに入るまで待ってて良かった」というのが本音です。今は全巻がアンリミ対象なので、「アニメは観てた」という人もこの機会に原作を読んでみてはいかがだろう。えーと、アニメは篠崎がドラゴンになるあたりで終わっているのか。原作で言うと4巻あたりなので、5巻以降を読めばOK……のはず。
2025-12-22.・『ナイツ&マジック』4年ぶりの新刊が出ると聞いて昂っている焼津です、こんばんは。
うおおおお! 4年も間が空いたから正直11巻の内容あまり覚えてないけど楽しみだぜ! 確か空島みたいなところに行って現地の戦いに巻き込まれる話だったっけ? 戦いが一段落して次の展開が始まるとか、そんなんだったような……我ながら記憶があやふや過ぎる。たぶん新章だと思うからあんまり覚えてなくても楽しめる、はず。巨大ロボ好きの主人公が異世界の美少年に転生し、エンジニア魂を炸裂させて当地の常識を覆す新機体を次々と生み出すロマン重視のロボアクション・ライトノベルです。アニメ化から8年以上経ったけど、さすがにもう2期目は望み薄かなぁ。コミカライズも終わっちゃったし。ヒーロー文庫の本はちょいちょいアンリミに来るんで、読んだことなくて興味のある人はKindle Unlimited対象になったら既刊をまとめて読んでみてもいいんじゃないかと思います。
・TVアニメ『わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?)』(略称:わたなれ)の続編(第13〜17話)、放送・配信日が決定!新年早々、全5話を一挙公開!
時期的に捻じ込めそうなのが年末年始のあたりしかないんで大晦日か正月の二択だろうな、と思っていました。正月早々にネクストシャインとは幸先がいい。初日の出と掛けることもできますからね。午前1時放送ということは、大晦日恒例のFate特番を視聴する習慣のあるオタクはほぼそのままの流れで雪崩れ込む感じになるかな?
なお、SNSとかでは勘違いしておられる方々が散見されましたけど、わたなれの第13〜17話は「2期の前半」ではなく「1期の終盤」です。もともとわたなれのアニメは「全17話」として企画されており、恐らく「5話分の放送枠がないから少し間が空くけど年末年始のあたりに一挙放送しよう、その間何もないと視聴者の熱が冷めてしまいかねないし、イベント的に先行上映して話題作りしよう」程度のノリで公開されたと思われるのがネクストシャイン、ってわけです。観に来るのが一部のファンだけだとしても、そのファンたちが「スゴかった! 期待していいよ!」と熱を込めて周りに伝えてくれれば劇場まで足を運ばなかった人々もテレビ放送を心待ちにしてくれるだろう……ぐらいの狙いで上映したら満席続出になって関係者も相当ビックリしたという。
観に行きたかったけど遠すぎてムリだった方、行動範囲内だったけど都合が合わなくて鑑賞できなかった方も是非この放送を観ていただいて「これを……映画館で流したのか……!?」と戦慄してほしい。放送終了後に「TVアニメ2期決定!」のニュースが報じられることを信じて私もワクワクしながら待機するとします。
・岩代俊明「PSYREN -サイレン-」TVアニメ化!ジャンプでの連載終了から約15年を経て(コミックナタリー)
ティザーサイトの時点でURLが「https://psyren-anime.com/」、カウントダウンとともに表示される「ベルが鳴り続ける公衆電話」……「誰がどう見たって『PSYREN -サイレン-』じゃねぇか!」とジャンプ好き界隈が沸きました。名作であることに間違いはないけど、連載終了から15年も経っているし、今更望み薄かな……と諦めかけていた頃に「TVアニメ化決定!」の報が舞い込んだんだからテンション上がるのもむべなるかな、です。Animejapanの「アニメ化してほしいマンガランキング」に3度ノミネートし、うち2回が10位以内にランクインした作品なんですが、正直あのランキングってそこまで効果があるとは思ってなかったんでPVの中に「3度ノミネート」と出てくるのはビックリした。
もう少し細かく解説しよう。『PSYREN -サイレン-』(正確にはRが左右反転した鏡文字になっている)は“週刊少年ジャンプ”誌上において2007年から2010年にかけ約3年間連載されたマンガです。単行本は全16巻。ベルが鳴っている公衆電話の受話器を取るところから物語が転がり出すため、ティザーサイトの「鳴り続ける公衆電話」を目にした瞬間ピンと来たファンも多かった。個人的には『フォーン・ブース』という映画の方を先に連想しちゃうけど。出だしはサスペンスっぽい雰囲気ですが、ゴリゴリの異能バトルコミックです。作者の「岩代俊明」は『みえるひと』という作品でデビューし、『PSYREN -サイレン-』完結後は『カガミガミ』という新連載をスタートさせるも、全5巻という短さでひっそりと終わってそのまま“週刊少年ジャンプ”誌上から姿を消してしまった。「いまひとつ華はないけどマンガが上手い」と評価する人も多く、その作風を引き継いだ元アシスタントたちが『ブラッククローバー』や『怪獣8号』をヒットさせています。
私はリアルタイムでずっと連載を追っていたわけではなく、「そろそろ大詰めっぽい」という噂を聞いて単行本まとめ買いしたんですよね。確か13巻が出たあたりだったかな? 面白いんだけど、未読の人に「どこが面白いのか」を伝えるのが難しい内容で、そのせいもあっていまいちブレイクし切らなかった印象がある。眼鏡っ子の割に性格が大人しくないヒロインが魅力的で、読んだ人は「じゃ ここにいなよ… えいえんに…」とか「腕一本もーらった」とかインパクトのあるセリフを口にする雨宮さんに夢中になること請け合いなんですが……読んでない人にはそのへんのニュアンスが伝わりづらい。ストーリーが本格的に盛り上がってくるのが4、5巻あたり、そこまで読めばもう後は一直線ながら、御新規さんをそこまで引っ張り込むのが非常に難しかった。アニメ化のおかげで「引きずり込みやすくなったぞ!」と満悦することしきりです。主人公が弱い状態から徐々にパワーアップしていってインフレ化していくのではなく、むしろ「強すぎて危険な力を制御し、性能を落としながら使い勝手を良くしていく」という「デチューン」に重きを置いたあたりが新鮮で面白かった。ちなみに私の好きなキャラは「天樹院マリー」です。
アニメ化まで漕ぎつけられなかったこともあって壮大なストーリーの割に全16巻というやや微妙な巻数で終わってしまったが、これでも当時は「よくここまで頑張った」「正直数巻で打ち切りになるかと思った」って声が相次いだんですよ。ライトノベルで言うと『Dクラッカーズ』みたいなポジションの作品。丁寧にやれば3クールぐらいで収まりそうだが、まぁ良くて分割2クールとかでしょうね。主人公「夜科アゲハ」役の声優は「安田陸矢」、まだ20代の若手であまり目立つ出演作はないかな……『さわらないで小手指くん』の小手指くんとかやっていますが。ヒロイン「雨宮桜子」役は「風間万裕子」、『魔法少女にあこがれて』の「アズールはもう駄目だ」でお馴染み「マジアアズール(水神小夜)」が有名か。監督は「小野勝巳」、シンフォギアのG以降とかヒプノシスマイクのTVシリーズ(劇場版は別の人が監督)などを手掛けている。シリーズ構成は「吉田伸」で、『遊☆戯☆王』関係の仕事を数多くやっている模様、そのとき小野監督とも一緒に仕事したことがあるみたい。制作スタジオは「サテライト」、結構古くからあるところで『創聖のアクエリオン』や『マクロスF』、シンフォギアシリーズなどが代表作です。ただ、『マクロスF』のメインスタッフは「エイトビット」、シンフォギアシリーズのメインスタッフは「スタジオKAI」と、それぞれ別のスタジオに移っているため、面子はだいぶ入れ替わっているんですよね。割と最近のところでは『Helck』や『ユーベルブラット』、『戦隊レッド 異世界で冒険者になる』などを制作しています。全体的に「期待できるけど不安もある陣容」かな。
集英社も「アニメにしっかりと力を入れれば世界的なヒットが見込める時代になった」ことは認識しているハズなので、今回もそれなりの資金とマンパワーを投じてくれるだろうが……とにかく今のアニメ界は人手不足で、「金があってもなかなか巧い人が集まらない(ほとんどが別の現場で拘束されている)」という苦境に陥っています。出来がどうなるかは結局蓋を開けてみないとわからない。ドキドキしながら放送の日を待つとしよう。
・“最凶”中華料理マンガ「鉄鍋のジャン!」TVアニメ化、あおきえい×TROYCAで2026年に(コミックナタリー)
『PSYREN』もビックリだけど、こっちもこっちでまさか過ぎる! 90年代の“週刊少年チャンピオン”に連載されて一世を風靡した外道料理マンガです。「主人公が悪役」「ダークヒーローを超えてもはやヴィラン」と形容されるぐらい凶悪な顔立ちで、言動もかなりヒドい。コンプラ重視の方針なら絶対にアニメ化できない作品。審査員のペットを勝手に調理して提供したり毒ガスを散布して物理的に料理対決を妨害しようとするようなキャラまで出てくるというムチャクチャぶり。対戦相手がガスマスクしてる料理マンガなんて初めて読んだな……。
監督は「あおきえい」、『喰霊-零-』や『放浪息子』、『Fate/Zero』などを手掛けた人です。この人はもともと熱心な『鉄鍋のジャン』ファンで、何年も前からアニメ化を熱望していました。制作は「TROYCA」、あおきえいが取締役をやっているスタジオ。『アルドノア・ゼロ』とか『やがて君になる』とか、最近だと『ATRI -My Dear Moments-』を作っている。クオリティもさることながら、「本当に原作通りの内容をやるつもりなのか?」という点が大いに気になりますね。PVでは予防線張りまくって「原作発表当時の世相・表現を尊重し過激な表現が含まれる場合があります」と江戸川乱歩の復刊作品みたいな注意書きしてることに笑ってしまう。発表当時でも充分異端だったよ! だから今までアニメ化されなかったんじゃないか!
どうしてもアレな部分ばっかり目立ってしまうが、「鮫肉を調理せよ」みたいなミッションが興味深くて普通に料理マンガとして読んでも面白い部分はあります。今では当たり前になっている「XO醤」や「刀削麺」なども当時としては新しく、物珍しかった。後半はかなりゲテモノ路線に突入していくからなかなかキツいんだけど、さすがにそこまではアニメ化しないかな? あとキャストはまだ発表されてないが、PVの声を聞いた感じだと主人公「秋山醤」役は「戸谷菊之介」かしら。『チェンソーマン』の「デンジ」を演ってる声優さん。しかし、ジャンのアニメ化が成功したら往年のチャンピオン連載作品アニメ化ラッシュとか来ちゃうのかな……『ウダウダやってるヒマはねェ!』と『覚悟のススメ』は一応OVAがあるけど尺が短いし、フルリメイクの可能性はゼロじゃない。あとは『フルアヘッド!ココ』とか、『アクメツ』とか、マンガ版『スクライド』とか、『ギャンブルフィッシュ』とか。個人的には『刀真』という単行本すら出なかった打ち切り作品が好きなんで、単行本化&劇場アニメ化のコンボをキメてくれたら最高だなって。
・金子玲介の『死んだ石井の大群』読んだ。
メフィスト賞作家「金子玲介」の受賞後第一作。平たく書けば「2冊目の本」です。金子玲介は2024年5月に『死んだ山田と教室』でデビューし、8月に本書を、11月に『死んだ木村を上演』を刊行した。3ヶ月に1冊という新人としては驚異的なペースである。すべてタイトルに「死んだ」の三文字が入っていることから「死んだ三部作」と見る向きもあるが、キャラとかストーリーの繋がりはなく、それぞれ独立した長編小説になっています。なので気になった本から読み出せばいいし、食指が動かないのであれば無理に読む必要もありません。
突然、真っ白な部屋の中で目覚めた「石井唯」。彼女の周りにいた人々は何か黒い首輪のような物を嵌めていた。角度的に見えないが、恐らく自分も嵌められているのだろう。ワケもわからず戸惑う人々に、どこからともなくアナウンスの声が響く。<大変お待たせしました><これより、第一ゲームのルールを説明いたします> まるで絵に描いたようなデスゲームの開幕。しかも、隣にいた女の子の名前は「石井灯莉」――自分と同じ「石井」姓。会場の壁面に投影されたリストには、唯含めて333人もの「石井」の名が連ねられていた。まさか、全国から石井姓の人間だけ攫ってきてデスゲームを開催するというのか? いったい何のために? 困惑しながらも、次々と首輪が爆発して生首が飛んでいく現実を前に、夢現の心地で流されていく唯だったが……。
強制的にデスゲームに参加させられた「石井唯」視点から始まり、何の前触れもなく失踪した石井姓の人間を捜索する私立探偵「伏見と蜂須賀」、言わば「内部と外部」の視点を交互に切り替えながら進行していく一風変わったデスゲーム小説です。探偵の捜索パートは結構退屈で、デスゲーム部分を目当てに読み出した人はここでテンションが落ちてしまうかもしれません。極端なアドバイスになりますが、「探偵パートがあまりにもつまらない」と感じた場合はいっそ飛ばして唯視点の章だけ読み進めてもOKです。一応、デスゲームの結果が出るあたりで物語にも決着が付く仕様になっていますから、探偵パートは読まなくてもオチを理解することは可能になっている。どうしても細部が気になる、という場合のみ遡って探偵パートを読めばいい。
全1冊、250ページ弱で終わるように構成されているためデスゲームの数もそんなに多くなく、探偵パートを飛ばすと1、2時間程度で読み通せます。開催されるゲームは3つ、「デッド・ドッジ・ボール」と「禁字しりとり」と「最初からグー、永遠にグー」。デッド・ドッジ・ボールは壁から射出されるボールに当たってキャッチし損ねたり、ラインの外側に出ると即死亡。当たった人以外がバウンド前にボールを拾った場合はセーフです。あと顔面セーフで、後頭部に当たった場合もセーフ。非常にシンプルなゲームで、映像化したらここのシーンが予告編とかで使用されまくりそう。というかコミカライズもあるんですよ、この作品。そもそも『死んだ石井の大群』のマンガ版を1話だけ読んで金子玲介に興味を持ち、『死んだ山田と教室』から読み出した……という流れだったりする。ついでに書くと『死んだ木村を上演』のコミカライズもあります。『死んだ山田と教室』もちょっと前にマンガ版が始まったらしいが、そっちはまだ読んでいません。舞台化もしているからそのうちドラマ版とか映画版も来そうだな。
「禁字しりとり」は通常のしりとりに「使ってはいけない字」を混ぜた特殊ルールで、たとえば「ご」が禁字だった場合は「しりとりの『り』からです」と言われて「り、りんご!」と答えた途端に爆死します。禁字を含んだ返答はすべて無効と見做され、この場合次の人はまた「り」で始まる「禁字を含まない答え」を考えないといけない。アウトが出ることで禁字の特定が進み、セーフと判定されることで安全な字もわかってくる。「禁字かどうかわからない字を極力使わず、安全とわかっている字だけで返答する」のがセオリーになり、ちょっとだけ頭脳戦要素が出てきます。「り」と「ん」が安全と判明したから「倫理」と答えてアウトを避けつつ「り」攻めする……みたいな感じ。デスゲーム物が好きな人はこの章が一番興奮するんじゃないでしょうか。しりとりだけじゃなくて「じゃんけんグリコ」の要素も入っていて、「答えた字数の分だけ階段を上がってゴールを目指す」ルールになっていますから「安全を取りつつなるべく長い言葉を答える」ことで勝利に近づく。たぶん福本伸行がこのネタでマンガ描いたら最低3年は引っ張るんじゃないか、と思うぐらいの面白さなんだけど、金子玲介は若い(1993年生まれ、まだ32歳だ)から60ページ弱でこの章を終わらせています。制限時間の短いゲームだしちょうどいいスピード感なんですが、正直勿体ないとも思いましたね。必要最小限の描写しかしていないので、「こいつ……『り』攻めしやがった!」みたいな心理描写もほとんど省かれている。私個人はもうちょっと引き伸ばしていいと感じましたが、このへんはデスゲーム好きでも意見の分かれるところかもしれない。
最後のゲームは説明が難しいし、ネタバレになりかねないので説明は省略します。恐らく読んでいる人のほとんどは途中で「仕掛け」に気付くと思います。だって333人も「石井」を集めてデスゲーム開催するなんて、あまりにも大掛かり過ぎるから「納得のいく設定」を考えたらどうしても候補は絞られてくる。「清涼院流水」とか「西尾維新」だったらこの程度のブッ飛んだ設定は何の衒いもなくかましてくる可能性がありますけど、『死んだ山田と教室』を読んだ感触からすると金子玲介は至って常識人っぽいので……「仕掛け」「オチ」「どんでん返し」みたいな部分に期待する人にはちょっとオススメしにくい。純粋に「軽く読めるデスゲーム物が読みたい」という方には推せます。
良くも悪くも「納得のいく」デスゲーム小説。デスゲーム物に対して無茶苦茶だったり、理不尽だったりという「不条理要素」を求める人が読むとガッカリするかも。「『蒼穹のファフナー』を無理矢理1冊の小説にしたらこんな感じになるか?」と思った一品でした。新規性は薄いけれど作者の器用さが伝わってくる。決して王道的な作品というわけじゃないが、斬新なモノ、奇抜なモノを受け付けなくなってきた私みたいな人間にはちょうどいい出来栄えです。
・拍手レス。
往年のラノベ読者なら触れたことはありそうな阿智太郎先生の消息がこんなところでわかるなんて…という記事を見かけたのでシェアを https://dengekionline.com/article/202510/50743 びっくり…
筆名の「エチタロウ」で噴いた。同人エロゲの制作費がどれくらい掛かったのかとか、赤裸々に書いていてコラムとしても面白いです。シェア感謝。
2025-12-14.・サボり気味だったFGO、何とかソロモンが加入するところまで進めて第2部終章を迎える準備が整った焼津です、こんばんは。
クエストクリア条件で加入する初の☆5サーヴァントがまさかコイツになるとは……要求する素材も比較的おとなしめで、割と簡単にスキルマさせられるのがありがたい。サポーター系かと思ったら意外とアタッカー寄りだった。そして、終章に備えて始まった363騎のサーヴァントをピックアップする『サーヴァント全騎ピックアップ召喚』。データ量多すぎてガチャ画面を開くだけで重たくなる。回したいピックアップもないではないが、年始からバレインタインにかけて怒濤の新規ガチャが来そうなので我慢、我慢。今はただ始まりの地、「炎上汚染都市 冬木」で第2部の終わりを見届けることに専念するとします。
・ウンベルト・エーコの『薔薇の名前』、【完全版】を12月25日に刊行予定、上下巻で合計6820円(税込)
海外ミステリの中でも一、二を争う名作でありながらなぜか文庫版が発売されないことでお馴染みの『薔薇の名前』、日本語版の発行から35年の時を経て遂にニューバージョンのお出ましだ。「完全版」とはいうものの、内容的にはそこまで大きく変わらないみたいなので、ファンやマニア以外は旧バージョンで妥協してもOKかと。正直、カバーデザインに関しては旧版の方が格好良いもんな……私も買い直そうかどうか少し迷ったりしたが、旧版はもうだいぶボロっちくなってきたのでこの機会に買い直すことにしました。出版不況のこの御時世、紙の新装版が出るだけでもありがたいと思わなくては。
・「コードギアス」最新作「星追いのアスパル」制作決定!「奪還のロゼ」のテレビ放送も(コミックナタリー)
派生タイトルが多いことで知られるコードギアスにまたしても新たなタイトルが! 『星追いのアスパル』、現時点ではタイトルとスタッフと「完全新作である」ことしかわかっておらず、どんな内容なのかは一切不明。ギアスのスピンオフの中には江戸時代に相当するあたりの年代を描いた『漆黒の蓮夜』みたいな作品もあるので、舞台となる時代がルルーシュとかとは全然違う可能性もあるし、そもそも同一世界なのかどうかすら怪しい。監督は「野村和也」、比較的最近の作品だと『憂国のモリアーティ』をやった監督ですね。シリーズ構成は「野アまど」、ひたすら「変な小説」を釣瓶打ちして定期的にSNSでバズっている『野アまど劇場』でお馴染みの作家です。アニメファンには珍作『正解するカド』や『バビロン』、映画『HELLO WORLD』の人として認識されているかもしれない。アニメの方には関わっていないが『ファンタジスタドール イヴ』という前日譚(プリクエル)も書いている。『ファンタジスタドール』は『コードギアス』の監督「谷口悟朗」が関わった作品でもあり、その縁で来たのかな? 変わった作品の多い作家だが、「試しに1冊くらい読んでみてもいい」というのであれば『know』あたりがオススメ。
『奪還のロゼ』は去年(2024年)に劇場で先行上映された後、Disney+で独占配信されていた作品らしい。なんかタイトルはチラッと見た覚えがあるけど、Disney+に加入してまで観たい気持ちがなく、あまり深く調べていなかった。『復活のルルーシュ』の5年後、ブリタニア人の傭兵兄弟「アッシュ」と「ロゼ」がネオ・ブリタニア帝国に占領された合衆国日本の「ホッカイドウブロック」に潜入し、「皇サクヤ」を救出する作戦に従事する……というようなストーリーを全12話で紡いでいる模様。ヒロインの皇サクヤは「皇神楽耶」の親戚で、CVは「上田麗奈」。本当に仕事が途切れないな、うえしゃま。
・『ラブライブ!蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ Bloom Garden Party』、2026年5月8日に全国劇場公開
“ラブライブ!”プロジェクトの1作でありながらアニメが制作されていなかった「蓮ノ空」、遂に劇場タイトルとして来年に全国公開される運びとなりました。「蓮ノ空って何?」という方向けにまずは軽い解説から。『ラブライブ!』自体は知っていると思うので省略しますが、無印(2013)→サンシャイン(2016)→ニジガク(虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会、2020)→スーパースター(2021)と来て5番目のプロジェクトに当たるのがこの『ラブライブ!蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ』、公式略称「蓮ノ空」です。「Link!Like!LoveLive!」という「現実の時間と連動しているラブライブ!アプリ」を中心に展開しているプロジェクトで、2023年頃からスタートしています。
物語の舞台は石川県金沢市の山奥に佇む「蓮ノ空女学院」。100年以上の歴史を誇る伝統校で、全寮制。「こんなところで青春を浪費するのはイヤだ!」と脱走を計画した主人公「日野下花帆」がスクールアイドルに出逢って思い直し、スクールアイドルの全国大会である「ラブライブ!」への出場を目指して頑張る、というような話です。「100年以上の歴史を誇る伝統校」なので生徒たちは「1年生」「2年生」「3年生」という区切りとは別に、宝塚みたいな「〇期生」という分類でも呼ばれる。主人公の花帆ちゃんは103期生です。「〇期生が入学した年」を「〇th」としてカテゴライズしているため、物語の開始点は「103th」。花帆ちゃんたちは101期生の先輩が卒業するところを見送って、次章「104th」へ向かう。後輩の104期生を迎え、いろいろと恩のある102期生の卒業を見送り、物語は遂に最新章「105th」へ移行。映画『Bloom Garden Party』はこの「105th」に該当するエピソードなので、蓮ノ空に関する予備知識がまったくない状態で観ると混乱を来す可能性が高いです。観に行くつもりであれば事前に公式が用意しているダイジェスト集に目を通しておくことをオススメします。ダイジェストどころか本編ストーリーもYoutubeで配信されていますから、時間があるのであればそれを全部視聴するのがベストなんですが……累計で3、40時間くらいあるのでよっぽどのガッツがないと厳しい。とはいえ「蓮ノ空に入学するところからの付き合いだった103期生(花帆ちゃんたち)が遂に卒業の時を迎える」「涙ながらに卒業を見送った102期生(先輩たち)がOGとして再登場する」って趣旨の映画なんで、ファンと感動を分かち合いたいのであればやはりある程度の予習が必要かと。蓮ノ空は現実の時間とリンクしているおかげで「作中のキャラクターたちと同じ時間を共有している」ような感覚が味わえるのが醍醐味なんですが、その仕様のせいで後から入ってきた新規層が若干居づらいという「閉じた(コアなファンだけで固まった)コンテンツ」となっている面があります。閉じているからこそ心地良い、という面もあり、単純に良いとも悪いとも言い切れない特徴である。
脚本を担当するのは「丸戸史明」、数々の名作エロゲを手掛けたシナリオライターであり、『冴えない彼女の育てかた』の原作者でもある。リコリコと同じクール(2022年夏)に放送された『Engage Kiss』のシリーズ構成と脚本も担当している。この人は「ヒロイン同士の掛け合い描写」に定評があり、先述した冴えヒロの原作にも『Girls Side』というシリーズがあるくらいだ。ちなみに、蓮ノ空の原作シナリオを手掛けているライターの一人が「みかみてれん」――アニメが大ヒットしている「わたなれ」こと『わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?)』の原作者で、この劇場版に関しても協力していると明言しています。監督は「黒ア豪」、2021年のアニメ『シキザクラ』を作った人です。制作スタジオも「サブリメイション」で、やっぱり『シキザクラ』を作ったところ。黒アはサブリメイションの取締役だから当然そうなるよね、っていう。サブリメイションの制作したアニメ、『シキザクラ』以外だと『サイダーのように言葉が湧き上がる』くらいか? 面白いかどうか以前に、近場で上映するかどうかを心配しないといけない感じかもしれません。
・「令和のダラさん」TVアニメ化!ともつか治臣のオカルトコメディ(コミックナタリー)
パッと見「画力の凄まじいホラー漫画」、でも実際に読んでみると意外とコメディ寄りの作風、かと思いきや読み進めるうちにガチホラー要素も出てきて……というツイストの利いたコミック『令和のダラさん』が遂にアニメ化とな。やったー!
「ダラさん」こと「屋跨斑(ヤマタギマダラ)」が嵐の夜に壊れた祠から復活する、という導入そのものはホラーの定番なんですけれども、復活を目撃した肝心の子供たちがダラさんを恐れずなんか懐いてしまったせいでなし崩しにほのぼのした雰囲気になってしまう。読み口としては『江戸前エルフ』に近いモノがあるかな? ダラさんのモデルは言うまでもなく都市伝説の「姦姦蛇螺」、もとはTwitterやニコニコ静画で連載されていた作品であり、プロトタイプ版ではハッキリ「姦姦蛇螺」と名乗っている。商業化に際して「そのままではマズいから……」と変更されました。スマホやタブレットに「カドコミ」というアプリをインストールすれば「初回無料」で読めますので、「気になるけど単行本を購入する踏ん切りがつかない」という方はまずカドコミで読んでみてから判断すれば宜しいかと。個人的にはこの漫画、紙媒体で読んだ方が面白いと思いますけどね。
監督は「まほあこ」こと『魔法少女にあこがれて』の「鈴木理人」(ちなみにまほあこの監督は二人体制で、もう一人が「大槻敦史」)。アニメーション制作もまほあこの「旭プロダクション」であり、ほぼ「まほあこがヒットしたから制作が決まった」ようなものと思ってもいいんじゃないでしょうか。なんであれ放送が待ち遠しいです。
・金子玲介の『死んだ山田と教室』読んだ。
第65回メフィスト賞受賞作。えっ、第65回!? 昔は「メフィスト賞を制覇してやる!」と意気込んで受賞作が出る度に買って読んでいましたが、いつしかチェックだけで済ませるようになり、気付けばチェックすらやめて今何回までやってるのかもわからなくなっていました。この作品は2024年発売ですが、刊行されている中では最新の受賞作です。第66回は『女王陛下に捧ぐ、王家の宝の在処』に決定しているが、まだ具体的な刊行予定は立っていません。この機会に振り返ってみたが、私がメフィスト賞を熱心に追っていたのは第31回の『冷たい校舎の時は止まる』までですね。「辻村深月」のデビュー作。この次の受賞者が「真梨幸子」で、受賞作のタイトルが『孤虫症』だったからどうしても食指が動かず、コンプリートを断念してしまった。以降は読んだり読まなかったりで歯抜け状態。メフィスト賞は募集を開始したのが1995年だから、そこを起点にすると今年で30周年。しかし「メフィスト賞」という名称が決まったのは翌年の1996年だから、来年が30周年になります。だいたい年に2作は受賞作を刊行していた計算になるか。一番多い年は1998年で6冊も出ている。当時は私も高校生だったから、お小遣いの工面には苦労しました。
思い出話はこのへんで切り上げるとして、『死んだ山田と教室』。ハッキリ言って変なタイトルです。「教室」というからには学園モノかな、って程度のことしか伝わらない。帯の推薦文からして感動路線っぽい。実写映画化して、予告編でメロウな主題歌が流れる中、俳優たちがドタバタ騒いだ後に大仰な演技で「山田ァーッ!!」とか絶叫してそう。ぶっちゃけ興味を惹かれるかどうかで言えば、あまり惹かれない一冊である。しかし、受賞者の「金子玲介」は精力的に書きまくっており、デビューから1年半で5冊も著書を出している。いくつかの作品はコミカライズも始まっているし、さすがにちょっと気になってきた。「とりあえずデビュー作から読もうか」と手に取った次第です。
山田が死んだ。飲酒運転の車に轢かれて、あっさりと。啓栄大学附属穂木高等学校、通称「穂木高」の二年E組に所属し、クラスメートの誰からも慕われる人気者だった山田の急逝で、クラス全体が沈んだ空気になった。気分転換させようと席替えを提案する教師に対し、生徒たちの反応はいまいち薄い。<いや、いくら男子校の席替えだからって盛り下がりすぎだろ> どこからともなく入ったツッコミの言葉、それは紛れもなく死んだはずの山田の声だった。声はスピーカーから響いてきていたが、放送部のイタズラなどではない。どうも山田の魂が教室のスピーカーに乗り移ってしまったらしい。こうして影も形もないのに声だけはある、幽霊なのか何なのかよくわからない存在に成り果てた山田と二Eの面々による奇妙な青春延長戦が始まった……。
という具合で、分類上は「幽霊譚」。おどろおどろしい雰囲気や湿っぽいムードもそんなにない(皆無というわけでもない)ので、比較的ポップなノリの青春ストーリーに仕上がっている。クラスメートは死んだはずの山田と会話できることに喜び、生前と同様のバカバカしいトークに興じるが、時は流れ進級の日を迎える。これでもう二Eのみんなとはお別れか……山田、このまま成仏してしまうのかな、と思いきや全然そんな素振りではなくて普通に存在し続けています。え? じゃあ山田、このままずっと地縛霊みたいになってしまうの……? と不穏な空気が漂い出してからが本番です。
「姿がなく、教室でしか会話できない幽霊」という設定が絶妙で唸りました。高校の教室って出入りが激しいから、一旦進級してクラスのメンバーが入れ替わってしまうと「こっそり山田に会いに行く」のが難しくなるんですよ。放課後でも誰か残っていたりするし。かと言って誰も来ないような夜の時間帯は学校に忍び込まないといけないからハードルが高い。人目を盗みながら死んだ山田と言葉を交わす元二E勢だったが、だんだん山田に会いに行くのが面倒臭くなってくる奴も当然出てきます。というか、「生きてる山田は好きだったけど死んで声だけになった山田は不気味」と拒否反応を示す生徒もいる。本来なら悲しみを乗り越えて悼むべき存在が中途半端な形で存続してしまっているせいで、悲しみが宙ぶらりんになっちゃっている。徐々にギスギスしたムードへ変わっていくので、コメディを期待した人にとってはちょっと苦しいかもしれません。かつては人気絶頂だったのにつまらなくなって読者が離れていって、でも打ち切るほど売上が悪いわけじゃなく、連載がダラダラと続いてしまって終わりの見えなくなった漫画を眺めるみたいな、心がキュッとなる話です。
個人的にも身につまされる小説ですね。誰もいない夜の校舎で寂しさを紛らわせるために延々とラジオパーソナリティの真似事をしている山田とか、アクセス数の減ったサイトで延々と更新し続けている自分の姿を眺めているかのようで……自分自身で読み返す日記みたいなものとして書いているからモチベを保てているだけで、他人の反応に飢えていたらとっくに更新をやめていたと思います。イイ歳して何やってんだ……という感じがしないでもないが、去年はいろいろあってモチベが底を尽きかけて閉鎖宣言した後にモチベが回復し、何事もなかったかのように更新を再開するというクソダサいムーブをかましてしまったし、もはや恥の意識など微塵も残っていない。
ある意味で『CROSS†CHANNEL』の続きを目の当たりにしているような気分に陥る一作。取り残されて、みんな大人になっていく中で「バカな男子高校生」として振る舞うしかないピーターパンのアイロニーを紡ぎ出している。ハッピーエンドかどうかは受け取り方次第だが、少なくとも「胸糞悪い現実だけ書いて終わり」の小説ではありません。読み終わって、席替えのところを読み返すとしんみりしてしまう。それにしても久保の現況にはビックリした。これ、次回作の布石とかじゃなくマジで単なる一生徒の消息に過ぎないの? ホントに?
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管理人:焼津