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リレー小説「魔法少女忌譚修」(第13話−10/12)


2025-07-07.

・先月最終回を迎えた『ロックは淑女の嗜みでして』のアニメ、原作ファンとしても嬉しくなる出来栄えだったけど2期はいろんな意味で難しいだろうな……と感じている焼津です、こんばんは。それはそれとして原作者によるお祝いイラストいいよね……。

 最たる理由は「原作がまだそんなに進んでないから2期やれるほどのストックが貯まってない」ことである。ロックレディは連載開始が2022年で、単行本の1巻が発売されたのは翌年2023年TVアニメ化決定のニュースが報じられたのは2024年と、トントン拍子で企画が進行したんですが、そのぶん「エピソードの消化が早くてストックの補充が間に合わない」状態に陥っているんです。アニメ化決定が報じられた時点で原作は最新刊である5巻がもうすぐ発売される、というタイミングだったんですけど、先日アニメの最終回として放送されたエピソード(バッカスとの対バン決着)が収録されてるのってその5巻なんですよね。話数で言うと30話あたり。で、現段階での最新刊(7巻)に収録されているのが49話までで、掲載誌(ヤングアニマル)で読める最新話が55話。原作の半分以上が既に消化されてしまっているわけで、アニメオリジナル展開にするのでもないかぎり「すぐに2期をやる」のは難しい状況なんです。

 「でもヤンアニって隔週誌で月2冊は出るから、週刊誌ほどじゃないけどエピソードが貯まるのは早い方なんじゃない?」と思うかもしれません。しかし、アニメでやった以降のストーリーはバンドメンバーの家庭事情について掘り下げたり、フジロック出場を目指してまずは小さな目標の達成を目指したりといった、地道なエピソードの積み重ねをコツコツとやっていくので「このへんからこのへんまでが2期にちょうどいいな」って内容にはなっていないんですよ。もちろん、面白いことは面白い。新たなライバルも登場してバンド活動は白熱していく。ただ、ノーブルメイデンがどうのこうのといった学園パートが後回しになっていて、2期の範囲に突入しても「お嬢様要素がほとんど進んでない……」ってなることは明白である。長期連載を見据えてかなり長めのスパンでストーリー構成している節があるぶん、「ちょうどいい切りどころ」があんまりないのだ。

 良い方に捉えれば、「アニメ化した作品にしてはまだそれほど巻数が出ていない」のでアニメから入った人でも追いつきやすい、というメリットがあります。公式サイトのヤングアニマルWebでタイマーとチケットを駆使すれば最新刊の途中までは読めますし、とりあえず一度目を通してみてはいかがでしょうか。「アニメでやった範囲から先を読みたい」というのであれば31話から読み始めればいいんですが、原作とアニメで若干違うところもあるので可能なら最初からスタートするとモアベターです。

『北神伝綺』『木島日記』とともに三部作を成す『八雲百怪』、完全書き下ろし『八雲百怪異聞』発売

 知らん間に出ていてビックリした。「柳田國男」の弟子という設定の「兵頭北神」が主人公の『北神伝綺』、「折口信夫」の知人という設定の「木島平八郎」がメインキャラを務める『木島日記』、そして「小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)」を描く『八雲百怪』……大塚英志が原作、森美夏が作画を担当する一連のシリーズは「民俗学三部作」もしくは「偽史三部作」と呼称されており、『北神伝綺』と『木島日記』はマンガ版の後にノベライズ版も出た(『北神伝綺』の方はメチャクチャ時間が掛かったけど)ものの、『八雲百怪』に関しては出る気配が全然ありませんでした。一応『くもはち 偽八雲妖怪記』という小泉八雲絡みの作品に関しては小説版が出ているから、それを『八雲百怪』のノベライズ代わりにするということかな、って捉えて深く考えていませんでした。まさか普通にノベライズ版が出るとは。これも『ばけばけ』効果か? もちろん買うけど3190円(税込)ってスゴい値段だな。8月には『八雲と屍体 ゾンビから固有信仰へ』という八雲論の本も出るみたいだが、これに関しては購入しようかどうか検討中。ぶっちゃけ256ページで3300円(税込)はちと高価い……。

 そういえば『くもはち』は幻の西島大介版が今月末に出るみたいです。『くもはち』という作品、まず2003年に小説版がハードカバーで刊行され、2005年に山崎峰水(『黒鷺死体宅配便』の人)作画で漫画版が刊行、同月その漫画版に合わせて小説版を文庫化しました。で、山崎版とは別に西島大介によるコミカライズが『くもはち。』というタイトルで“メフィスト”に連載されていたのですが、これに関しては当時単行本化されなかった。20年以上の月日を経てようやく刊行される運びになったみたいです。朝ドラ効果すげぇな。

『地獄先生ぬ〜べ〜』原作マンガ全20巻が各77円に。お待たせしましたすごいセール。「BOOK☆WALKER」といった主要電子書籍ストアにて開催(電ファミニコゲーマー)

 リメイクアニメの放送が始まったので、それに合わせてのセールでしょうね。全巻まとめて購入しても1540円と既にクソ安ですが、クーポンが使えるところで買えば更に安くなります。「懐かしいな〜。でも全20巻? 思ったより巻数少なかったんだな」と思った方もおられるでしょうが、この電子書籍は文庫版が底本だから巻数が少ないだけで、恐らくほとんどの人がイメージするであろう新書サイズのジャンプコミックス版は全31巻です。タイトルの「ぬ〜べ〜」は原作の「真倉翔」が好きなマンガ『究極超人あ〜る』にあやかって当初「ぬ〜ぼ〜」(ふたつ合わせてアールヌーボー)にするつもりだったが、当時は森永製菓が「ぬ〜ぼ〜」というお菓子を販売していたため、「もし将来アニメ化が決まったときにスポンサーが森永のライバル会社だったらマズい」という理由で担当編集が変更させた……という経緯があります。読切版のタイトルは「地獄先生ぬ〜ぼ〜」のままだが、今となってはこっちの方に違和感を覚えるな。

 ぬ〜べ〜の単行本は1994年に刊行が始まって1999年に最終巻が出ていますが、人気作だったこともあり続編やスピンオフがいくつか出ています。最初の続編が『地獄先生ぬ〜べ〜NEO』(2014年〜2019年、全17巻)。生徒の一人だった「稲葉郷子」が新任教師としてかつて自分たちがぬ〜べ〜とともに過ごした懐かしの教室「5-3」へやってくるところから始まる。当然児童の面子は刷新されているが、本編キャラの何人かが成長した姿で再登場する。その次が『地獄先生ぬ〜べ〜S』(2019年〜2021年、全4巻)、タイトルの「S」は掲載誌である“最強ジャンプ”から来ている。NEOの続き……というより掲載誌に合わせて低年齢層向けに作り直したNEOという感じ。そして今月単行本が出たばかりの『地獄先生ぬ〜べ〜PLUS』(2025年、全1巻)、リメイクアニメの販促も兼ねてジャンプ+に掲載されたエピソードを集めた1冊。アニメの販促なので舞台となるクラスはNEO以降の新5-3ではなく郷子や美樹がいる旧5-3です。と、こんな具合で本編に相当する単行本は53冊も出ています。あと2006年に発売されたDVD-BOXの封入特典「地獄先生ぬ〜べ〜 一夜だけの復活」も去年から電子版が配信されている。ちょい短い(30ページくらい)が、これも含めると54冊。現在は“最強ジャンプ”で『地獄先生ぬ〜べ〜怪』という新作を連載中。ぬ〜べ〜が時空を超えて活躍する話で、時系列としては無印の頃になる模様。

 スピンオフは『霊媒師いずな』シリーズがある。ぬ〜べ〜では女子中学生だったイタコ少女の「葉月いずな」が女子高生になっており、本編から約3年後の地点よりスタートする。無印の『霊媒師いずな』(2008年〜2011年、全10巻)、その続編に当たる『霊媒師いずな Ascension』(2012年〜2016年、全10巻)、あと単行本未収録短編を集めた『霊媒師いずな 特別編』(2024年、全1巻)が電子版でのみ販売されている。関連作ではあるが、厳密には「本編と直接繋がるわけではないパラレルワールド」という扱い(ぬ〜べ〜には「まくらがえし」という対象者の意識をパラレルワールドに送る妖怪が存在しており、「パラレルワールドがある」ことは公式設定)です。事情があってぬ〜べ〜自身はもう戦える状態ではなくなっている。本編とスピンオフすべてを合わせると75冊、結構な大長編です。あまりにも長期に渡って展開しているため絵柄や作風がかなり変化してきており、全部読もうとすると少ししんどいかもしれません。無理にコンプリートを目指さず興味のあるエピソードだけ摘まんでいくスタイルでもOKだと思います。

 ついでだからアニメについても語っておこう。ぬ〜べ〜の旧アニメは1996年から1997年にかけて全48話が放送された。まだ連載中だったこともあり原作(無印)の途中で終わっています。人気はあったが続編が決まるほどの視聴率は稼げなかった。だいたい半分くらいのエピソードを消化したのかな。ぬ〜べ〜は「怪現象が発生し、それを解決する」という展開がひたすら続くため多少エピソードの順序を入れ替えても話が成立する構造になっており、原作の順番通りに映像化されたわけではないのでよっぽどのガチ勢でもないかぎりそのへんは把握し切れない。「みんなのトラウマ」として有名な「てけてけ」など、アニメ化されなかったエピソードもありますし。今月から放送が始まった新アニメは旧アニメの続編というわけではなく、ぬ〜べ〜こと「鵺野鳴介」が童守小学校に赴任してくるところから始まるリメイク作品です。原作は「立野広」が童守小学校に転入してくる場面から始まり、ぬ〜べ〜を見て「この学校、やべー先生がいるな……」とドン引きする展開だったが、リメイク版は逆に広が最初から童守小学校に通っていてぬ〜べ〜が新たに着任し、生徒一同「やべー先生だな……」とドン引きする導入に変わっています。ヤイバも現代向けに結構アレンジしていたけど、こっちもかなりアレンジが効いてますね。生徒たちは普通にスマホ使ってるし、原作では明るい性格だった広が少し陰のある少年になっています。

 1話目はぬ〜べ〜が登場するときに旧アニメの主題歌「バリバリ最強No.1」が流れるというファンにとって嬉しい演出もあった。あらすじとしては、広に「九十九の足の蟲」が成長して巨大化した姿である「衷妖」が取り憑いて感情が制御できなくなり暴力を振るってしまう……という概ね原作を踏襲した内容です。ただし尺に合わせるためストーリーが大きくなっており、乱暴な上級生をボコボコにしたり陰険なサッカー部の連中を半殺しにしたりといった「相手にも非がある」原作と違って「カッとなって父親を壺で殴り入院させてしまった」重々しい過去が描かれる。父親は暴れる広をどうにかしようと怪しげな霊能力者を雇って借金まで負っているので、広はインチキ霊能力者を彷彿とさせるぬ〜べ〜に拒否反応を示す。ほぼ一撃で終了していた原作と異なり、戦闘シーンもだいぶ盛られている。とはいえ瞬殺の部類であることに変わりはなく、このままぬ〜べ〜が鬼の手でワンパン無双する展開がしばらく続くのかな……と油断した矢先に謎の影が襲来し、ぬ〜べ〜を吹き飛ばしてしまう。なんとライバルキャラの「玉藻京介」が早くも登場! いや早すぎじゃない? 原作だと11話目、単行本の2巻から出てくるキャラですよ。そんなわけで同時配信された2話目は玉藻がメインの回となっています。気になる方はさっさと視聴すべし。本編にはまだ登場していないけど、OPには人気キャラの「ゆきめ」も出てくる。童顔でキュート系だったゆきめがクール系の美少女になっていて度肝を抜かれた。OPだからカッコつけてるだけで本編は相変わらず童顔キュート系みたいだけど。連載当時のゆきめの人気ぶりは凄まじく、彼女が初恋相手だった読者もチラホラいます。ネタバレになりますが……本来すぐに退場するゲストヒロイン枠だったにも関わらず、あまりに人気がありすぎたせいで復活し、作者がぬ〜べ〜とくっつけるつもりだったメインヒロインの律子先生を押しのけてぬ〜べ〜と結婚するエンドに辿り着いた件は今でも語り草です。連載マンガは読者の反応によって展開が左右されることがままありますが、ラブコメでもないのにヒロインが途中で変わる(しかも準レギュラー枠ですらなかったゲストキャラに)ってのはなかなか珍しい。ライトノベルだと“必殺 お捜し人”シリーズに驚いた記憶があるな……知らない人が見たら全巻の表紙に映っている少女(マギー)がヒロインだと思うでしょうが、実は一回も表紙に出てこない(口絵には出てくる)子と結ばれるんですよね。「『全巻の表紙に映っている子が負けヒロイン』なんて前代未聞だな」と、完結から四半世紀以上経った今でも印象に残っている。たまたまだけど、“必殺 お捜し人”シリーズが刊行されていたのってちょうどぬ〜べ〜の無印が連載されていた頃です。Kindle Unlimitedで全巻読めますから興味のある方は読んでみてください。

『灰原くんの強くて青春ニューゲーム』アニメ化企画進行中!!

 うおっ、灰原くんアニメ化とな。書籍版を1巻から追っているシリーズなので嬉しい。作者の「雨宮和希」は2017年に書籍デビューした小説家・シナリオライターで、最近は学マスこと『学園アイドルマスター』に関わっている(主な担当は「葛城リーリヤ」と「紫雲清夏」)。ぶっちゃけ灰原くん以前はあまりパッとせず長期化したシリーズもなかったのですが、2021年に始まった『灰原くんの強くて青春ニューゲーム』は今月出た最新刊が9巻と割合長く続いています。灰色の青春時代を送った主人公が、気付けば高校入学直前にタイムリープしていた……という、設定自体はありふれている「やり直し」系ライトノベルです。キャラクター同士の人間関係を丁寧に描写しており、青春の甘酸っぱさやほろ苦さがギュッと詰まった内容に仕上がっている。恋愛にまつわる騒動が長引くので、そこはちょっと好みの分かれるところかもしれません。

 少しネタバレになってしまうが、主人公には本命の女の子がいて、その子を射止めるためにクラスカースト上位の陽キャグループに潜り込もうと自己改造します。その過程で陽キャグループのメンバーの女子に惚れられたり、主人公が「高校デビュー」したことを知っていて協力してくれている幼馴染みの少女が実に彼に想いを寄せていることが発覚したりと、多角関係じみた展開になる。でも主人公はあくまで本命の子に一途なので「モテモテで困っちゃうな〜(照れりこ照れりこ)」というノリではなく「いや……マジで困るな……どうすんのこれ……」というテンションなのがバリ面白い。感情移入しつつ高みの見物を決め込める、恋愛モノの美味しい部分を切り出したようなストーリーでありながら、恋愛以外の青春要素もキッチリと進展させていく。

 ぶっちゃけ、アニメだと恋愛部分に尺を取られて主人公がバンド活動を始めるあたりとかまで描写する余裕もないだろうし、アニメそのものにはあまり期待していない。HJ原作のアニメは『夢見る男子は現実主義者』も想像以上に残念なことになってしまったしな……2年以上経つのに新刊が出ておらず、このままエタりそうな雰囲気が漂っているのがツラい。とりあえずアニメがそこそこの出来に仕上がって、原作ファンが増えればいいな、くらいの感覚でいます。

「GATE SEASON2 自衛隊 彼の海にて、斯く戦えり」制作決定、舞台は陸から海へ(コミックナタリー)

 ゲートの続編アニメ!? さすがにもう来ないと思っていたのでビックリした。『ゲート』は「地球と異世界を繋ぐ『ゲート』を通って異世界にやってきた自衛隊が活躍する」というファンタジー。Arcadia(アルカディア)、通称「理想郷」という投稿サイトで2006年から連載された小説が元になっており、2010年から書籍化を開始。前年の2009年に『ソードアート・オンライン』の書籍化が始まり、「Webで人気を稼いで書籍化し単行本を売る」という現在主流になっている形式が徐々に普及しつつあった頃でした。

 本編は2012年に全5巻(文庫版は各巻を上下に分冊しているので全10巻)で一旦完結し、その後2015年まで外伝を5冊(文庫版は以下略)刊行。「本編+外伝」の10冊(文庫版だと20冊)を便宜上「SEASON1」と呼んでおり、SEASON1の副タイトルが「自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり」です。2015年にアニメ版が分割2クールで放送され、SEASON1の前半3冊(接触編・炎龍編・動乱編)に当たる内容が映像化。当時はそこそこ話題になって「ロゥリィ・マーキュリー」というキャラのコスプレをする人が結構いました。このまま続きもアニメ化されるのかな……と待っていましたが続報はなく、静かに10年近くの月日が流れていったわけです。漏れ聞いたところによると、原作の版元である「アルファポリス」がアニメ効果を当て込んで文庫版を刷りまくり、出荷し過ぎたせいで返本の山になって経営を危うくさせたらしい。その影響もあったのかしら。

 原作はアニメ放送後の2017年から「自衛隊 彼の海にて、斯く戦えり」という副題のSEASON2を刊行開始。今度は海上自衛隊の隊員が主人公なので「海自編」とも呼ばれています。2020年にSEASON2は全5巻(文庫版は全10巻)で完結、2021年に今度は「銀座事件」というSEASON1よりも前に起きた出来事を綴る過去編『ゲート0 -zero-』が始まり、翌年の2022年に全2巻で完結。zeroはまだ文庫化されていません。こんな感じなので、ひと口にゲートと言っても単行本にして17冊もの作品があります。タイトルからすると今回は海自編のアニメ化みたいですが、SEASON1の続きはやらないのかな……SEASON2がメチャクチャヒットすれば可能性はなくもない? なおSEASON1の監督は『ラブライブ!』で有名な「京極尚彦」でしたが、SEASON2は「高橋亨」という人になる模様。

 余談。SEASON1の主人公「伊丹耀司」はオタクという設定で、特殊作戦群のメンバーに「セイバー」や「アーチャー」、「キャスター」などのコードネームを振っているんですが、元ネタはもちろんFate。伊丹自身のコードネームは「アベンジャー」。アニメ化したら伊丹の声優が「諏訪部順一」だったので「お前はアーチャーだろうが!」というツッコミが一斉に入ったとか入らなかったとか。こういうFateネタが今でも普通に通用するというの、冷静に考えると凄まじいことだな……。

荒川弘「黄泉のツガイ」TVアニメ化決定!スクエニ×アニプレ×ボンズの布陣で始動(コミックナタリー)

 これは時間の問題だと思っていたし、驚いているファンはほぼいないと思います。「ハガレン」こと『鋼の錬金術師』や『銀の匙』、エッセイ漫画の『百姓貴族』もアニメ化している「荒川弘」が現在連載している作品です。作者コメントで「アニメ化が決まったのはだいぶ前」と言っているし、連載開始と前後して企画が動き出したのだとしても不思議ではない。むしろ荒川弘の漫画でアニメ化してない作品ってあったっけ? というレベルだし。単行本が出てる作品だと『RAIDEN-18』くらいじゃないですか、アニメ化してないのは。

 もうすぐ10巻が出る『黄泉のツガイ』、どういう漫画なのかひと口に表現するのは難しいが簡単に言うと「和風ファンタジー」です。山奥の小さな村で狩猟生活を送っている少年「ユル」と、双子の妹「アサ」の数奇な運命を巡る物語。「ツガイ」と呼ばれるJOJOのスタンドみたいな存在を使役して戦いますが、「番(つがい)」と呼ばれるくらいなので必ず二個一対になっているのが特徴です。描いているのが荒川弘だけあってシンプルに迫力のある戦闘シーン目白押し。ただ、勢力図というか、「誰が何のためにどういう行動をしているのか」がとても入り組んでいて複雑ゆえザッと読んだだけではあまりストーリーが理解できないかもしれません。たぶん完結した後に読み返すことで「ああ、ここはあそこと繋がっているのか」と飲み込めてくるタイプの漫画だと思います。

 とりあえず1話目は公式サイトで読めますから気になる人は目を通してください。なんか私が奥歯に物が挟まったような口ぶりで紹介している理由がわかるはずです。久しぶりに読み返したけど、相変わらずクオリティがすげぇな……アニメになったらどんな感じか、既にイメージできるぐらい仕上がっている。

・定期的に発生する「チャンピオンクロス(およびヤンチャンWeb)の無料チケットが余り気味になる」問題、期限が来て消滅する前に程好く使える作品はないかな……と探して見つけたのが『きみは四葉のクローバー』だった。

 少し前に4巻が発売されたくらいの分量なのでちょうどいいボリューム。「次にくるマンガ大賞2025」のコミックス部門にもノミネートしている話題作です。簡単に書くと「イジメに遭っている少年を幼馴染みの少女が救おうとする話」です。サスペンス系で、嫌な気分になるシーンもふんだんに盛り込まれているから少しだけ気合を入れて臨んだ方がいいかも、という雰囲気。ムチャクチャ胸糞が悪くなる展開は今のところない(主人公の姉がだいぶヒドいので人によってはダメかもしれない)んで、「鬱漫画」とかではないです。主人公の名字は「宇津」ですけど……。

 四葉のクローバーの花言葉には「復讐」があるらしい――活動的で、友達もいっぱいいて、かつてはクラスの人気者だった少年「宇津宇一」。しかし、中学のときに起きた「ある事件」によって状況は一変。家庭は崩壊し、彼自身も凄絶なイジメのターゲットにされてしまう。それでも幼い頃に交わした約束をよすがに、辛うじて生き延びてきた宇一。でも、約束を交わした少女「よつは」も、今の宇一の姿を目にしたら失望してしまうかもしれない。「暗くてキモい」「死んじゃえ」 想像上のよつはに罵られ、心が折れそうになった宇一を救ったのは、数年ぶりに街へ戻ってきた本物のよつはだった……「宇一のこと!だーいすき!!」

 イジメのせいで心がボロボロになっている少年を、明るく天真爛漫なヒロインが救済する物語……ではあるんだが、よつはの天然キャラは作り物であり、実際の彼女はかなり覚悟のキマったアヴェンジャーです。「宇一を殺す運命なんて、私が殺してやる!」って感じの。公式アカウントもよつはの二面性をわかりやすく表現したイラストを掲載している。詳しい設定は後々明らかになってくるが、1話目の時点で「納棺されている宇一の遺体」とおぼしきカットが出てくるなど、「このよつはちゃんは未来からやってきたんじゃないか?」と窺わせる要素が次々とお披露目される。宇一へのイジメを止めるためにいろいろ行動するんですけど、ことごとく「未来予測」レベルの手を打っているんですよね。となると気になるのはコレが初周なのか、それとも何度か周回を重ねているのか? という点。

 明らかに「1回見たことのある場面だから」で実現できるような精度じゃないから相当「再走」してるだろうな、と感じていたけれど、そのへんの事情が明らかになるのは16話目、コミックスで言うと3巻の冒頭です。ここで物語の大枠が掴めるようになりますので、単行本を買ってまとめ読みする場合は3巻以上にした方が宜しいかと。宇一を助けるために涙ぐましい努力を重ねるよつはちゃんの奮闘劇、徐々にその片鱗を見せ始める「黒幕」、ストーリーが盛り上がってきているところなのでまさに「読み始めるなら今」って感じです。宇一の家族に関するエピソードが終わって、宇一と離れ離れになった後のよつはがどんな日々を過ごして「正規の末路」を迎えたのかが語られ、いよいよ黒幕に切り込んでいきそうな気配が漂っている。中学のときに起きた「ある事件」もまだ詳細は綴られていないが、そろそろ明らかになるか?

 最後に、「次にくるマンガ大賞」って名称はたまに見聞きするけど内容に関してはよく知らんな〜、という方向けにちょっとだけ解説。今から10年以上前の2014年にニコニコと雑誌の“ダ・ヴィンチ”が共同で立ち上げた一般投票によるマンガ賞です。時期的にちょうどニコニコ(ドワンゴ)がKADOKAWAと経営統合した頃ですね。“ダ・ヴィンチ”の発行元もKADOKAWAなんで、平たく書けば「KADOKAWAが運営するマンガ賞」ってことになります。なので投票するときの規約にKADOKAWAの名前が出てくるし、ノミネート作品の試し読みもニコニコ静画にアップロードされる。紙どころか電子の単行本すら発売されていないため基本的にジャンプ+でしか読めない『限界OL霧切ギリ子』(連載版)の試し読みもニコニコで読めます。

 「応募形式の新人賞ではないマンガ賞」は大きく分けて2種類あり、一般的にイメージされるのは「プロのマンガ家とかお偉いさんとかが選考委員をしている権威ある賞」だろう。「手塚治虫文化賞」とか「小学館漫画賞」とか「講談社漫画賞」ですね。これに対して「書店員や一般読者など、クリエーターでもお偉いさんでもない人たちが投票して決める草の根的な賞」、いわゆる「読者賞」的なものがいくつかあります。一番有名なのは2008年から始まった「マンガ大賞」かしら。ぶっちゃけ「次にくるマンガ大賞」はマンガ大賞の後追いめいた企画で、名称が被っているせいもあって混同されがちです。だから世間的な認知度に関しては若干微妙なところもあるが、受賞作品は実際に売れ行きが伸びるので全国の書店も積極的に乗っていく姿勢を見せている。

 特徴は「紙の雑誌に掲載され単行本も出ている」コミックス部門と、「サイトやアプリなどWeb媒体での発表が主体で単行本が出ているとは限らない」Webマンガ部門、ふたつの部門に分けて投票を募っていることだ。賞を開始した時点ではまだ紙書籍の売上が多く、「Webで発表されていて紙どころか電子の単行本すら出ていない」マンガが珍しくなかったからなんですけど、今やデジタルシフトが進んでマンガは電子書籍の売上の方が大きくなった(売上の7割くらいが電子)からコミックス部門とWebマンガ部門の垣根はだんだん曖昧になってきています。いずれ部門別ではなくなるかもしれません。ともあれ、「単行本の既刊が5巻以内のシリーズ」、もしくは「連載開始から1年前後しか経っていない」作品の中から「次にくる」と思われるマンガを読者から推薦してもらう「エントリー期間」(2週間くらい)があって、数千にも及ぶエントリー作品(今集計している「次にくるマンガ大賞2025」のエントリー作品数は9432)の中から実行委員がノミネート作品を絞り、一般投票を募る「投票期間」へ移行します(今年は6月20日開始で7月7日終了、ちょうど今日の午前11時が〆切だった)。で、2ヶ月くらい集計期間を置いて9月18日(木)に結果発表予定、というスケジュール。ノミネート作品を絞る段階で実行委員の恣意が混ざる可能性も否定できないが、1万近いエントリー作品の中から投票する作品を決める形式だと投票者の負担が大きすぎるので仕方ない部分もある。絞ってなお100作ありますからね、ノミネート作品。

 「次にくるって言うけど、もう来てるだろ」な作品が受賞しがちなこともあってマンガ好きの間ではあまりリスペクトされていない賞であるが、アニメ化された『メダリスト』はこの賞を獲ってから大きく売上を伸ばしているので、出版業界としては無視できない存在らしい。ただ、この賞で上位に入ったにも関わらず打ち切られてしまったマンガもあるので権威と呼べるほどではない。しかし、打ち切られるかどうかの瀬戸際に立っている作品の場合、「次にくる〜で好成績を残せば存続の芽が出る!」と僅かな可能性に賭けて投票するファンもいるわけです。今回のノミネート作品だと『超巡!超条先輩』が先月に投票開始を待たずして連載終了しており、「次のないマンガを指して『次にくる』ってどんな皮肉だよ」と思いつつ、上位に食い込めば連載再開の可能性も0ではないのでファンたちは最後の足掻きを繰り広げている。私も一票入れました。

 今回のノミネートはコミックス部門が40作品、Webマンガ部門が60作品。投票開始時点で知っていた作品だと『ありす、宇宙(どこ)までも』が好きなんですが、これはもう既にマンガ大賞を獲っているから「あえて投票しない」って人もいそうだな。あとは『写らナイんです』、『描くなるうえは』、『シルバーマウンテン』、『平成敗残兵すみれちゃん』、『本なら売るほど』、『マネマネにちにち』、『魔法少女201』、『百瀬アキラの初恋破綻中。』、『傷口と包帯』、『きゃたぴランド』、『サンキューピッチ』、『都市伝説先輩』、『モノクロのふたり』あたりが好きでどれに入れようか迷いました。知らないノミネート作品をパラパラと試し読みし、気になったのは『アイドルビーバック!』、『となりの猫と恋知らず』、『魔男のイチ』あたり。

 『アイドルビーバック!』はきららマンガで、アニメ化した『こみっくがーるず』の「はんざわかおり」による新作。解散してしまった地下アイドルグループの元メンバーが、「私にとってあのグループ以上のものはないし、このままアイドル引退しようかな」と思った矢先にコミュ障のボカロPと出逢い、もう一度アイドルの夢を追いかけ始める……という密かに熱いアイドル青春ストーリーで、試し読みが終わった直後に単行本をポチってしまった。『となりの猫と恋知らず』は「隣の席の女子とだんだん距離が縮まっていく何かエモい感じの青春ラブコメ」で、とにかくヒロインの「猫実」さんが可愛い。タイツの描写から作者の“癖”が伝わってくる。とりあえずマンガUPで読めるのでチマチマ読み進めています。『魔男のイチ』『魔入りました!入間くん』の「西修」と『アクタージュ』の「宇佐崎しろ」がタッグを組んだファンタジー。「魔法」が生き物で、定められた手順で討伐することによりその魔法を習得することができる世界。魔法が使えるのは魔女だけ――のはずだったが、ひょんなことから魔法を使える男、すわなち「魔男」が生まれてしまい……という話です。常識の通じない天然気味な主人公が大暴れする『マッシュル』系のマンガで、宇佐崎しろの画力に支えられて盤石な面白さを発揮している。カッコいい魔女なのにギャグ顔が魅力的なデスカラスさんにメロメロ。正直タイトルのダサさで敬遠していたけれど、面白いわコレ。単行本も買いたくなったが、紙で揃えるか電子で揃えるか迷っています。できたら紙の手触りとともに読みたいんだけど、サイズ的に電子で買ってタブレットで読む方がベターっぽいんだよな。


2025-06-28.

『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ キルケーの魔女』、今冬公開予定

 ジークアクスが円満終了した矢先にハサウェイの第二部の情報が来た! ガンダムファンのお祭りはまだまだ終わらない。ハサウェイもジークアクスと同じ「宇宙世紀モノ」であるが、「異なる歴史を歩んだパラレルワールド」であるジークアクスに対し、こちらは正史準拠である。そこを無視して作中年代だけ見ると、ジークアクスがU.C.0085でハサウェイはU.C.0105、20年後の物語に当たります。ちなみにZガンダムがU.C.0087、ガンダムZZがU.C.0088で、逆襲のシャアがU.C.0093、ガンダムUCがU.C.0096、ガンダムNTがU.C.0097です。サンダーボルトはU.C.0080前後の出来事を描いているが、ジークアクス同様パラレルワールド扱い(作者の「太田垣康男」が「辻褄合わせに汲々とするような歴史モノは書きたくない」という理由から違う世界線の物語にする承諾を取ったうえで連載をスタートさせた)なので正史には含まれない。タイトルのせいでややこしいが、『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』も「安彦良和の解釈に基づくガンダム」なので正史とは分けて考えられています。2022年に公開された映画『ククルス・ドアンの島』も商業上の理由で「THE ORIGIN」が付いてないだけで、設定はTHE ORIGINに概ね準拠しており、厳密には正史ガンダムじゃない。こんな具合に宇宙世紀モノは「正史か否か」の判定がメチャクチャ面倒臭いんですよ。増築に増築を重ねたせいで正史すらも辻褄の合わない箇所が多々ある(MSの開発時期とか配備状況とか)から永遠に議論が絶えない。

 宇宙世紀モノは初代ガンダムのU.C.0079から始まって80年代、90年代を描く作品が多く、U.C.0100以降になるとグッと空白が大きくなるんですよね。ジークアクスみたいに冒頭3話分の内容を映画として上映して、続きをテレビで放送する――という構想だったけど商業的に成功しなかったため映画1本で終わってしまったガンダムF91がU.C.0123、VガンダムがU.C.0153、アニメ化してないけど漫画作品が長期化しているクロスボーンガンダムはU.C.0133からスタートして170年代頃までストーリーが展開されている。『閃光のハサウェイ』はもともと「富野由悠季」が1989年から1990年にかけて刊行した全3巻の小説作品で、諸事情から(主に「Ξ(クスィー)ガンダムやペーネロペーの造型が複雑すぎて、動かそうとしたらアニメーターが死ぬ」という理由から)長らくアニメ化されなかったが、サンライズの「UC NexT 0100 PROJECT」(逆シャアのU.C.0093を起点に、空白の多いU.C.0100以降を「外伝」ではなく「本伝」として描く試み)の目玉として劇場三部作のアニメ化が決定、2021年に第一部が公開されました。原作の『閃光のハサウェイ』は逆シャアの没案をベースにした『逆襲のシャア ベルトーチカ・チルドレン』という小説の続編で、ハサウェイにとって初恋の少女である「クェス」の死に至る経緯が逆シャアとは違っているんですけど、アニメ版は逆シャアの設定に合わせるためそのへんを原作から変更しています。つまり、本来『閃光のハサウェイ』は正史に含まれないパラレルワールドの外伝的なストーリーだったんですが、「本伝」化するために設定を変更して正史に組み込まれた――という、これまた面倒臭い経緯があります。パラレルワールド扱いだった『Fate/Zero』がアニメ化に際して『Fate/stay night』の正式な前日譚になったのに少し似ているかな。実は奈須きのこ、「征服王インスカダル」をエクストラクラス(明言されていないが指揮官ポジションなので「コマンダー」だと思われる)の女性サーヴァントとして構想しており、「女イスカンダル」が第四次聖杯戦争に参加した物語こそが正史だったのだが、虚淵玄の書いたイスカンダルが素晴らしかったこともあり正史の方がお蔵入りになってしまった。ロード・エルメロイU世に登場した女性サーヴァントの「フェイカー」は「イスカンダルの影武者」というやや無茶な設定になっているが、このへん「女イスカンダル」の名残りとも言える。

 話が逸れた。『閃光のハサウェイ』のアニメはコロナ禍の最中ということもあって制作が遅れ、当初の予定では2020年公開予定だったのが翌年までズレ込みました。そして第二部『キルケーの魔女』はオーストラリアが主な舞台なんですが、渡航困難な時期だったこともありロケハンがなかなか進まず、これまた制作が遅延するハメに。今年2025年にやっと公開の目処が立ったというわけで、三部作なのに第一部から第二部まで4年も待たされることになりました。ホッと胸を撫で下ろす想いだが、次は4年も待たせないでほしいですね。ハサウェイ、ガルパン最終章、プリプリCH(プリンセス・プリンシパル Crown Handler)、いったいどれが一番先に完結するのやら。ハサウェイ第二部が公開されたら第三部の前に『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM ZERO』かな……本当、ガンダムは弾が尽きないのがスゴい。

◆速報◆ニンジャスレイヤー原作書籍シリーズが再起動! 第4部「エイジ・オブ・マッポーカリプス」も待望の書籍化開始!◆==

 やっとニンスレの書籍化が再開します、ヤッター。ニンスレこと『ニンジャスレイヤー』は1990年代にアメリカの出版社から刊行された小説『Ninja Slayer』を日本語に翻訳したモノ……といった体で発表されているネット小説です。事情をよく知らない本屋がつい翻訳コーナーに並べてしまうことで有名。企画は2005年頃から動いていたみたいだが、本格的に展開し始めたのは2010年あたり、そして2012年にKADOKAWAで書籍版が刊行スタートとなります。400ページ以上、時に600ページにも及ぶ厚い物理書籍がバンバカ刷られて書店に並んだわけですが、21冊目に当たる『ニンジャスレイヤー ネヴァーダイズ』を最後に刊行が途絶え、以降はコミカライズ版だけが出版されているような状態になりました。ネット上では第4部「AoM(エイジ・オブ・マッポーカリプス)」が2016年から始まっており、既に結構な量のストックが貯まっていたのですけど公式は「現時点で書籍化の予定はない」というアナウンスしかせず、このままネットのみの展開になるのか……と諦めかけていたところにこの報せが舞い込んだのだからファンは「ワッショイ!」と歓喜したわけです。

 第4部の書籍化に合わせ、第1部に当たる「ネオサイタマ炎上」の再編集総集編『ニンジャスレイヤー ネオサイタマ・イン・フレイム』も出す予定とのこと。「ネオサイタマ炎上」は書籍版の1〜4巻部分に相当(ちなみに5〜12巻が第2部で、13〜21巻が第3部に相当)しますが、現在の出版事情から再刊は困難(わざと安っぽいペイパーバック風に作っていたが、あれで割とコストが掛かっていたのだろう)ということで4冊分を1冊に圧縮した総集編を出すことで「初心者向けの入門書」にする模様です。ボーナストラックもあるので既刊を持っているファンも買ってほしい、とアピールしている。AoMは購入する気満々ですけど、「ネオサイタマ・イン・フレイム」の方はどうしようかな……最近は本棚の整理に力を入れているから、正直1冊でも余分な本は増やしたくないんですよね。商業展開が結構厳しいみたいだから、応援の意味もかねて購入したいところではあるけど……。

・高橋慶太郎の『デストロ246(1〜7)』読んだ。

 これの前日譚に当たる『デストロ016』の新刊が発売されて、「そういえば246は途中まで読んだ状態で積んでいたな」と思い出し、記憶も曖昧だったので最初から読み直して読み切った。作者の「高橋慶太郎」はアニメ化された『ヨルムンガンド』で有名な漫画家、FGOで「荊軻」や「ナイチンゲール」のキャラデザも担当している。『デストロ246』は女子高生の殺し屋や女子高生のヤクザが登場して銃をバンバカ撃ちまくり、男キャラはほとんどが登場してすぐに死ぬという「オスが長生きしない」系アクション。ヨルムンガンドの前に描いたデビュー作『Ordinary±(オーディナリー プラスマイナス)』の姉妹編だから、先に『Ordinary±』を読んでおくとより楽しめます。「文科省所属の殺し屋JK」という、それだけ書くとにんころよりも倫理がヤバそうな設定の漫画です。

 妻子を毒殺された富豪「透野隆一」は復讐を誓い、その手駒として南米マフィアによって育てられた17歳の殺し屋少女ふたりを買い取った。メイド服に身を包んだ見目麗しい二人組は冷徹な殺戮マシーンだが、「性的な奉仕はしない」という一点でプライドを保っている。復讐に取り憑かれた透野はふたりに「翠」と「藍」という名前を与え、学校に通わせる。「殺し屋」を激しく憎む透野は翠と藍に「殺し屋殺し」を指示し、その派手な遣り口は当然注目を集める。「文部省教育施設特査」(元のOrdinary±開始時点では文科省に統合される前だったのでこの名称を引きずっている、普通に考えれば現在は文科省になっているはずだが、あるいはデストロの世界では統合が起きていないのかもしれない)に所属し、「上」にとって都合の悪い存在を消す少女「的場伊万里」も翠と藍に目を付けられ、あわや交戦の火蓋が切られる……という寸前のところで逃げ出し、撒くことに成功。しかし後日、またしても顔を合わせることになり……。

 物騒な少女たちが軽口や罵声を交わしながら戦ったり戦わなかったりする、作者の“癖”が出まくった一作。これ読むと「『ヨルムンガンド』はまだ趣味を押さえて描いていた方なんだな」と実感する。高校生の頃『あぶない刑事』にハマった、とインタビューで語っている通り、豪快で大雑把なノリが全編を貫いている。イマリンや翠藍も充分にキャラが立っていますが、一番濃いのは眼鏡っ子にして現役JKヤクザの「万両苺」ちゃん。正確に言うと暴力団の看板は既に下ろしているのですが、売春組織の管理や違法薬物の売買などは続けており、コネクションもそのまんまなので「ヤクザ」以外の何者でもない。横浜全域を「シマ」と捉えており、横浜内で揉め事を起こされることを嫌う。荒事はボディガードの「佐久良南天」と「市井蓮華」に任せており、本人は非力であるが、毒物の扱いに長けているため暗殺能力は高い。翠&藍は「毒薬使い」ということで苺ちゃんに疑いの眼差しを向ける、ってのが前半の展開です。犯人探しが主軸の物語ではないからバラしてしまうが苺ちゃんは透野の妻子を殺した犯人ではなく、「毒物の扱いに関しては師匠ポジションの殺し屋から教えてもらった」ことを告白する。苺ちゃんの師匠に当たる殺し屋、それが『デストロ246』である意味ラスボス格に相当する「沙紀」です。

 その沙紀を主人公に据えた前日譚が現在連載中の『デストロ016』だ。ちなみにタイトルの「デストロ」は「デストロイ」を縮めたもので、「246」は国道246号(この周辺が主要人物たちのテリトリー)、「016」は16歳(当時の沙紀の年齢)をイメージしている。複数の勢力の思惑が交錯するせいで視点が散らばりがちだった『デストロ246』と違い、こっちは主人公(沙紀)を中心にしてストーリー構成しているので、ぶっちゃけ246よりも016の方が漫画としては読みやすいんですよね。まとめて読むならまだしも、時間を置いて読むと246の方は「どんな話だったっけ?」となってしまうのが難点。南天は可愛いけど。具体的な年代は明かされていないが、ざっくり「016は246の10年くらい前」というテイストで描かれている。246が2010年代くらいなので、016は2000年代くらいですね。時代としてはヨルムンガンドの頃に近く、実際にヨルムンのキャラもゲスト出演する。「えっ、ヨルムンとデストロって同一世界だったの!? でも246は飛行機が飛んでなかったか……?」というツッコミどころ(ヨルムンはラストで世界中の飛行機を飛ばせなくする計画が発動する)があるけど、パラレルワールドとかスターシステムとか、あるいはヨルムンガンド計画は発動しなかった(計画の発動する場面で終わっているので、本当に発動したかどうか、その状況が維持されているかどうかは定かではない)という解釈も可能だ。

 ついでに016の感想も書いたせいでなんか話が散らばっちゃったな……まだ南米にいる頃だから翠&藍は出てこないが、小学生の苺ちゃんとか幼女時代の伊万里とかも出てくるので246好きにとって016は外せない作品だし、仕方ない。主要キャラが7人(翠、藍、伊万里、苺、南天、蓮華、沙紀)もいるせいであまり「強い新キャラ」が出せなかった(強いて言えば紅雪=白頭鷲くらい?)246と違って、016は鳥に因んだ強い殺し屋少女たち(「鳥の名」を冠する殺し屋を育成する「止まり木」という組織があり、伊万里もそこの出身、コードネームは「梟」)が次々と登場するからエンタメ的に読んでも単純に面白いです。モズ、ハヤブサ、ノスリ等々。男の殺し屋も出てくるけど、作者が描いてて楽しくないからかそっちの方は瞬殺される。主人公の沙紀はレズビアンで、対戦した少女のおっぱいを役得とばかりに揉み回すのも楽しい。過去イチ作者の趣味が炸裂している漫画なんで、完結している246は後回しでもいいからとにかく『デストロ016』を読みましょう。あと、そういえば『デストロ246 ハンマーレイジ』というノベライズ作品があったな……忘れていた。オリジナルストーリーらしいので、一応目を通してみるつもりです。


2025-06-17.

・電撃文庫のXアカウントが『終わりのクロニクル』の佐山&新庄とおぼしきシルエットで新情報解禁を告知したので「なんだろう? 単なる電子化でここまで思わせぶりな予告するとは思えないし、まさかアニメ化? それとも続編開始? その両方?」とソワソワしながら待っていたらカクヨムネクストにてアイコントーク形式で連載決定というニュースだった焼津です、こんばんは。

 要は実質的なリメイクですね。小説形式だった原作を最近川上稔が力を入れているアイコントーク形式(昔のホームページでやってたアレ)にコンバートしていく模様。「加筆修正による全面リライト」「キャラクターデザインもさとやす氏によるリデザイン」ということで旧読者もふたたび楽しめるわけだ。というか、思った以上にキャラデザ変えてきてビックリ。印象の違いは塗りの影響もあるのかな……最近の『ファン学!!』はそこまでタッチの違いを感じなかったし。しかしこれ、旧バージョンの方はもう電子化しないつもりか……?

 大元の『終わりのクロニクル』は2003年6月に始まって2005年12月に終わった、分類上は「ライトノベル」ながら最終巻が1000ページを超えていたこともあって「ヘビーノベル」とも呼ばれる現代ファンタジーのシリーズです。展開期間は2年半、冊数にして14冊と、それだけ書くと「中規模サイズなのかな?」って錯覚しますが、総ページ数は約7000ページ、「一般的な文庫本」を300ページくらいと想定すると23冊以上。相当なボリュームを誇っています。量もさることながら、ストーリーのスケールも大きい。「川上稔の作品には7つの時代区分があって、これは2番目の時代『AHEAD』に位置するから『AHEADシリーズ』と冠されていて……」と説明されても川上作品に触れたことがない人には何が何やらサッパリわからないだろうから、そこらへんの解説はカットします。

 『終わりのクロニクル』は現代(刊行当時の、なんで今からもう20年以上前だけど)を舞台にした物語で、主人公の「佐山・御言」は生徒会副会長として辣腕を振るう「参謀」タイプのキャラです。超能力の類は一切有しておらず、悪辣なまでの智謀と粘り強い交渉力、ときにシンプルな暴力と運動力で困難を切り抜ける。開始時点で佐山は魔法や超科学など絵空事だと思っている、ある意味では普通の高校生だったのですが、祖父「佐山・薫」の遺した何かを受け取るために「奥多摩IAI」という企業まで赴くことになっていた。父「佐山・浅犠」が養子だったため血の繋がりはないものの、幼い頃に両親を喪った彼にとって薫は「育ての親」に相当する存在である。戦後、総会屋として散々酷いことをやってはいけしゃあしゃあ「佐山の姓は悪役を任ずる」と言い放っていた祖父が遺したモノとは? 目的地に向かう途中、悲鳴を耳にした佐山は人狼と交戦する武装少女「新庄」と遭遇する。能力を持て余し、何事にも本気になれなかった少年は、遂に「全力で取り組むべき課題」に出逢う――これは一人の少年があらゆる悪を凌駕する「悪役」と化す物語である。

 という感じで、冒頭はオーソドックスな「日常から非日常」への移行を伴うボーイ・ミーツ・ガールです。「自分を中心に世界が回っていると豪語するほどの自信家」の少年と「山奥育ちのため、常識が世間より10年ほど遅れている」少女の組み合わせ、ここにもう一つネタバレになるから書けないギミックが仕込まれていて多数の読者の“癖”を壊しました。主人公カップル以外にも複数のカップルが登場するからカップル好きにはたまらないんだよな。奥多摩IAIの地下には「UCAT」という秘密組織の施設があり、そこで主人公は「世界の秘密」を知ることになる。ちなみに「UCAT」の発音は「ユーシーエーティー」です。私は読んでる間ずっと「ユーキャット」だと思っていました。「世界の秘密」についてザックリ語りますと、佐山たちが住む「この世界」とは別にかつて十個もの異世界が存在していて、一定周期で異世界たちは交差・交流していたが、あるとき「全ての異世界が周期上で重なる」――つまり、何もしなければ「全世界」が衝突する運命の日がやってくると判明してしまった。運命の日は西暦に換算すれば1999年。各世界――隣り合って干渉し合う性質から歯車に喩えてG(ギア)と称される――には「概念」と呼ばれる独自の法則が存在しており、概念を五割以上奪い取られたらそのGは存在を保てず崩壊してしまう。生き延びるのは、奪い取った「プラス概念」のもっとも多いG。自分の住むGが生き残るため、他のGはみんな概念を失って滅んでもらおう――と関係者たちが考えた結果、世界を跨ぐ「概念戦争」が勃発した。そして「今」から60年前の1945年、第二次世界大戦の裏で概念戦争は終結。佐山たちの住む「この世界」、マイナス概念に満ちているせいで「最低のG」として蔑まれた「Low-G」が勝者となった。その勝利の立役者がUCATで、当時の中心人物の一人が佐山・薫、祖父だったのである。UCATは概念戦争に関するあらゆる情報を封印・隠蔽し、Low-Gの表社会に一部始終が漏れることなく時は過ぎていった。

 「Low-Gを生存させるために幾多もの異世界を滅ぼした」巨悪、祖父が遺したのは、生き残ってLow-Gに移ってきた各Gの難民たちとの戦後交渉。Low-Gの抱えるマイナス概念は「関西大震災」が発生した1995年12月25日に活性化を始め、計算の末に10年後の「2005年12月25日」に臨界点を超えるという結論が弾き出された。放置すれば、せっかく生き延びたこのLow-Gも他のG同様に滅ぶハメとなる。そこで各Gの概念をLow-Gに持ち込むため圧縮・物質化した「概念核」を解放し、プラス概念を加えることでバランスを取ろうという計画が立てられた。そうなればLow-Gは元の物理法則を保てなくなるが、滅亡するか否かの瀬戸際なので背に腹変えられない。移住してきた各Gの難民たちも、移住先が滅んでしまっては元も子もないので承諾してくれるだろう――というのは甘い考えで、中には「元の世界が滅んでしまったんだ、こっちの世界も滅ぶべきだろう」みたいな過激派もいて足並みが揃っていない。宥め、すかし、時には脅して概念核の使用許可を取り付ける必要がある。困難を極めるであろう任務に対し、UCATは「全竜交渉(レヴァイアサンロード)」という名を与えた……と、こんな具合で祖父から委ねられた戦後処理に尽力する主人公たちの活躍を描く冒険活劇陰謀策謀交錯譚です。シリーズ最大の特色である「世界の存亡を懸けたデスゲーム」が開始時点で既に終結しており、戦後交渉の中で少しずつ「当時どんな争いがあったのか」、どんな禍根が残っているのか明らかになっていく――っていうツイストの効いた仕組みだ。

 物語は2005年3月、春休みの最中に始まり、「臨界点」へ達する同年12月に一区切りとなる。1の上巻のプロローグは2007年の出来事を描いているので、実は時系列的に最終巻よりも後なんですよね。今読むと「こんなに早い時点からここまで情報出していたのか!」と驚くことになる。あのプロローグ、後で読み返せば書かれている意味がわかるので、初読時は「なんかよく意味がわかんないな」と思ったら流し読みしてOKです。次回作である『境界線上のホライゾン』ほどではないが、とにかく設定が多くて細かいことまで説明していたらキリがないシリーズである。ただ、主人公が「異世界とか概念とか、この作品独自の設定に関してまったく精通していない」地点からスタートするため、ホライゾンよりはフレンドリーな設計になっています。だからホライゾンがアニメ化する際に「クロニクルの方がアニメ向きだと思いますけど?」と原作者が言及して、アニメサイドに「それでもホライゾンをやりたい」と返された――なんてエピソードもあります。

 各Gは世界中の神話がモチーフになっており、任務名が「全竜交渉」なのも「神話には竜が付き物」だからである。たとえば最初の交渉相手である「1st-G」はゲルマン神話、いわゆる『ニーベルングの指輪』みたいな世界で「ファブニール」という機竜が出てきます。二番目の交渉相手である「2nd-G」は記紀神話、竜はもちろん八叉。このGの特徴として相手の意識に滑り込むような移動をすることで一切知覚されない体術「歩法」なんてものが飛び出す。「3rd-G」はギリシャ神話の世界、となれば出てくる竜はテュポーンである。出生率が異様に低下したため、労働力の穴埋めとして「自動人形」と呼ばれるアンドロイドや「武神」と呼ばれる巨大ロボの技術が発達したG。60年前に持ち込まれた自動人形たちは概念を失って停止していましたが、10年前の1995年、マイナス概念の活性化に合わせるかのように稼働を開始している。魔法や超科学など存在しない、そう素直に信じられた世界がだんだん変容していくので、そういう点も含めて「AHEAD(前へ)」なんですよね。キャラ同士の掛け合いの面白さも特徴の一つなんで、リライトによって新たな掛け合いが拝めるのも楽しみである。「大城・至」と「Sf」の遣り取りが好きなんだよなぁ……『終わりのクロニクル オリジン(仮)』、作中の年代も2005年から2025年前後に変更するのかな? とりあえず連載終了の時期をクリスマスに合わせてきそう。

 余談。↑の方で「川上稔の作品には7つの時代区分があって」という記述を読んだ時、「あれ? 6つじゃなかったっけ? 記憶違い?」と戸惑った方もおられるかもしれません。実は割と最近に「CITY」の後として「LINKS」という新しい時代区分が加わったんです。川上稔曰く「1999年の7月にTOKYOの神田、時館という時計塔で、ケリー・バンサム彗星と帝都軍が時間を巡る事件を起こして、世界が壊れた」そうで、壊れた世界を再構築?したのがLINKSになるみたいです。正直、新しすぎてまだ詳細がよくわからないんですよね。「♂だったのに目が覚めたら巨乳のダークエルフになっていた」という新シリーズ『ファン学!!』が展開中なので興味があるなら読むべし。これもアイコントーク形式だから先にカクヨム連載版を読んで感覚を掴んでからの方が良いかも。ぶっちゃけWeb連載版の方がカラーなので読みやすいんですよね……書籍版はモノクロだからアイコンの見分けがつきにくい。終わクロオリジン(仮)も書籍化されると思うので買うつもりだが、できればフルカラーにしてほしいな。お値段張ってもいいから。

堂本裕貴「愛してるゲームを終わらせたい」TVアニメ化、幼なじみの両片思いラブコメ(コミックナタリー)

 3年くらい前からやってるラブコメ漫画で、去年ちょっと長めの休載があったから心配してたけど、アニメ化に至ったのか。めでたい。「愛してるゲーム」というのはお互いに「愛してる」と言い合って照れた方が負け、という告白ゲームです。流行ったのは四半世紀も前だから今の世代には架空のゲームと認識されている節があるけど、一応それなりの年季を誇る実在のゲーム……らしい。実際にやったことがある人ってどれくらいいるんだろう? ほとんどの人にとって「聞いたことがある、やったことはない」という都市伝説みたいな存在だと思われる。さておき、『愛してるゲームを終わらせたい』は小学6年生の頃から「愛してるゲーム」を始めて、4年経った今になっても決着がついていない……という幼馴染みの男女が、「いい加減にこのゲームを終わらせて本当に付き合いたい」と考えながらも踏み込めずにいる「もどかしい」系のストーリーだ。ぶっちゃけ『かぐや様は告らせたい』の亜流みたいな企画だ(というか、かぐ告にも「愛してるゲーム」を扱った回がある)けど、ギャグ色が少ない「凡人たちの恋愛頭脳戦」なので「ピュアなラブコメが読みたい」という人にはうってつけの一作である。ヒロインの「桜みく」がメチャクチャ可愛いんだよなぁ。主人公もみくちゃん一筋で他の子に目移りしないから安心して読める。6月中はWebで無料公開分が拡大されているから、せめてポッキーゲームの回だけでも目を通しておいてほしいです。

 「サンデーうぇぶり」という小学館のWebコミックサイトで連載されている漫画なので、一応「サンデー作品」に該当するかな。かつては「ラブコメといえばサンデー」という時代があったけど、最近はマガジンやジャンプに押されて少し存在感が弱まってますね。アニメ化された『トニカクカワイイ』や、夏にアニメが放送される『帝乃三姉妹は案外、チョロい。』あたりは知名度が高めだけど、それ以外はあまり知られていないような……と感じがするのでいくつか紹介していこう。

 まず『百瀬アキラの初恋破綻中。』、とにかく画力が高くて1話目から引き込まれる。これも『愛してるゲームを終わらせたい』と同じく「主人公とヒロインはお互い相手のことが異性として好きなんだけど、片想いだと勘違いしている」両片想い系ラブコメで、ヒロインの「百瀬アキラ」は将来的に主人公の「久我山はじめ」と結婚する――という目標を掲げ、そのための遠大な計画(手を繋ぐ、家に招待するなど)を立てているけど、いつも空回りしてしまってなかなか計画通りに事が進まない。その様子を指して「破綻中」と表現しています。もう既に攻略が完了している相手を改めて攻略しようとしているわけで、空回りするのも当然だ。ややギャグ色が強く、「そうはならんやろ」という展開目白押しなので「なんか期待したのとはちょっと違う」ってなる方もおられるでしょうが、少しずつ着実に二人の関係が進展していくのでニヤニヤしながら見守っていきましょう。

 次に『となりの席のヤツがそういう目で見てくる』。主人公の「池沢」はちょっとチャラい雰囲気の男子。そこそこイケメンなのに平気でセクハラ発言をかますデリカシーのなさからモテずにいる。そんな彼は隣の巨乳メガネ女子「江口」をエロい目で見ていて、ニヤニヤ笑いながらからかうのだが、江口も江口で池沢のことをエロい目で見ているからセクハラ返しをしてくるのだった……という、下心全開系のラブコメ。要するにオープンスケベ同士でチキンレースを繰り広げるちょいエロ路線なんだけど、セクハラすることには慣れていてもセクハラされることには慣れていない池沢が羞恥に顔を赤らめる展開が多く、「どっちがヒロインかわからないな、これ」ってなる。1巻の時点で既にふたりとも下心の域を超えて普通に恋愛感情を抱き始めているのだが、双方とも「自分はあくまで性欲の対象であって恋愛対象と思われていない」と勘違いしてしまう。変型の両片想いラブコメなんですよね。傍から見ると完全に付き合っているようにしか見えないというか、いろんな段階をすっ飛ばしてしまったせいでお互いどうすればいいのかわからなくなっている、という滑稽なシチュエーションを描いています。しかし『江口さんはゲーム脳』といい、エロい女子に「江口」とネーミングする風潮はなんなんだろうな。

 『マネマネにちにち』『からかい上手の高木さん』『それでも歩は寄せてくる』の「山本崇一郎」が送る新作。「あっ、テレビCMで見たわ」って人もいるでしょう。野球部のマネージャーを務める女子3人の日常を描くオムニバス形式のコメディであり、ラブコメ要素はそんなに強くないからラブコメとして読むと少し物足りないかもしれない。が、その薄さゆえにか、『からかい上手の高木さん』や『それでも歩は寄せてくる』にいまいちハマれなかった私もこの『マネマネにちにち』にはハマった。モテたい割に異性からの好意には鈍感な「渚茜」が可愛い。あまりハッキリしたストーリーはないので、多少エピソードを飛ばして読んでも構わないあたりが気楽で良いです。

 最後に『レジスタ!』、4月に1巻が出たばかりの新作です。主人公は36歳のオッサン、過去に婚約者の不貞が原因で結婚の機会を逃して以来、誰に対しても熱い想いを抱けず索漠とした日々を送っていた。しかし引っ越し先のスーパーでレジ係の女性を目にした瞬間、死滅したはずの恋愛感情が突然甦ってしまう……という、「もう恋なんてしない」と思っていた不惑間近のオッサンが初恋みたいなパッションに翻弄されてしまうラブコメです。シチュエーション的には『スーパーの裏でヤニ吸うふたり』を彷彿とする部分があるけど、レジ係のヒロイン、実は女子高生だということが2話目で判明する(読者に対して、主人公は気づかない)ので一緒にタバコ喫んだりはしません。1話目だとあんまりエッチな描写がないけど、2話目ではねっとりしたカメラワークでヒロインの下着や太腿やお尻を映しているから、「爽やか路線だと思ったのにそこはかとなくインモラルな雰囲気が漂っている」ことに嫌悪感を覚える読者もいるだろう。作者は18禁アダルトコミック、いわゆる「エロ漫画」で活躍した経歴のある人なので完全にノリが「エロシーン始まるまでの前フリ的な日常シーン」なんですよね。「オッサンと女子高生が一線を越えるかもしれない」シチュエーションにドキドキできる人向けの漫画です。コンプラだの何だの意識しすぎて縮こまっている作品が多い中、こういう「オッサンとJKの恋愛物だなんて気持ち悪い」と叩かれそうなジャンルをまっすぐに突き進んでいく姿勢、応援したい。

 余談。ラブコメは好きだけど、浴びるほどエロゲーを味わった世代なのでやっぱり「ヤることヤらない」もどかしいストーリーにイライラしてしまう、というところはあります。大きな声では言えないにしても、やっぱり「恋愛しつつヤることヤってる」エロ漫画を読みたいって方も少なくないでしょう。そんなアナタにオススメしたい一作が『エロ小説みたいな青春Hを陽キャ彼女の水渡さんと』です。物理書籍はメロンブックス専売ですが、電子版はFANZAとかDLsiteでも取り扱われています。分類上は「同人」なので検索の際は注意。

 この作品、作者の「真白しらこ」が商業作品として発表した「Better than fiction」という短編の続編に当たります。飛ばしてもストーリーは理解できますが、「Better than fiction」を先に読んでおいた方がより楽しめる。単話販売されているのでAmazonとかでも購入可能。描き下ろし後日談のある単行本『彼女フェイス』を買うのが最上ですけど、さすがに短編ひとつのために単行本一冊の購入を薦めるのはちょっと……なので「検討してみてください」程度に留めておこう。真白しらこの商業作品はほぼすべて網羅している(「ステイタス」だけは毛色が異なる、という理由で収録されていない)からオススメではある。

 「Better than fiction」の主人公「新井」はエロ小説を読みながら「現実の女の子とこんなことが出来たら……」と夢想している陰キャ少年。ある日の放課後、客のいない小さな本屋でエロ小説を物色していたらクラスメイトでカースト上位の陽キャ女子「水渡」が話しかけてくる。彼女は「こういうの、本当に気持ちいいか試してみない?」と誘ってくるが……という感じでヤることヤって、付き合い始めてからのエピソードが『エロ小説みたいな青春Hを陽キャ彼女の水渡さんと』です。「Better than fiction」は好き(Hシーンもさることながら、ケラケラ笑う水渡さんとかHと関係ないコミカルなシーンも可愛い)だから、ちょっと高いけど買っちゃうか……同人だし高いのは仕方ない、と己を納得させながら購入したところ、想像以上のボリュームで驚いた。80ページ以上!? 元が描き下ろし含めて30ページくらいの作品なのに!? あとがきによると「アレもコレもやりたい」とネタを詰め込んだ結果、ここまで膨らんでしまったそうな。

 可愛くて巨乳で性欲旺盛で、ヤりたいシチュエーションに何でも応じてくれるという「男のロマン過積載だろ」なヒロイン・水渡さんとのヤりまくりな日々を綴った漫画であり、「やっぱりヤることヤってるラブコメはいいなぁ〜」としみじみしてしまう。事後に精液を垂らしながら日常会話しているカットとか、マジでたまらない。エロいのは当然として、水渡さんは本当に新井くんのことが好きなんだな……と伝わってくる内容に仕上がっており、股間はギンギンなのに胸がキュンキュン締め付けられる。あとがきで3作目についても触れていて、ボリュームをちょっと下げて60ページ以内にしたい、いつ頃発行できるのかはわからない、とコメントしています。体調の問題で夏コミは辞退したそうだから、最短でも次の冬コミだと思われる。たぶんその3作目で完結っぽいかな……番外編みたいなのをちょこちょこ出す可能性はあるかもですが。水渡さんと新井くんの肉欲にまみれた青春がまだ見れるだなんて嬉しすぎるぜ。というかこのふたり、あれだけ散々中出しS〇Xしまくっている割にお互いのことまだ名字で呼び合っているんだよな。付き合っていることを周囲には隠しているから、ってのもあるが……肉体関係から始まるカップルというのはエロ漫画界隈じゃ別に珍しくないけど、「名前呼びイベント」を消化しないまま粘膜接触を続けてるのはスゴいわ。あと、「付き合ってから2週間」ということで単に言及されていないだけかもしれないが、少なくとも描写されている範囲ではお互いの家を訪問するシーンがないんですよね……えっ、まさか「彼氏/彼女の部屋に上がってドキドキ」というイベントがまだ発生してないの……!? 順序がおかし過ぎてちょっと笑ってしまった。

 ちなみに、作者は以前商業で発表した漫画の続編を同人で出し続けて、その総集編に始まりの商業作品も収録した(かなり描き直したせいで絵柄が変わっている)という過去があるから、水渡さんシリーズの完結編を出した後で「Better than fiction」を含む総集編が発売されるケースもあるかもしれません。ただ、完結編すらいつ出るかわからない状況なので、総集編が出るのは何年後になるかちょっと想像がつかないな。それに総集編を出したシリーズ(先生×教え子)もまだ完結していなくて、今はシリーズ5作目(前日譚や番外編を含めると8作目)を執筆中ですし。「先生×教え子」シリーズは累計ページ数が300Pを超えるエロ漫画としては大長編に当たる作品で、シリーズ1作目「三月の雨」は先生好き好きオーラを出しまくっている少女「大塚宮子」が卒業式当日にやっと一線を越える、って話。その後は大学生になってからの話がほとんど(なんで宮子がそんなに先生のことを好きなのか、という理由を掘り下げる前日譚もあるけど、卒業式までに一線を越えちゃうと矛盾するので夢オチ)なんで、正確には「先生×教え子」というより「元先生×元教え子」ですね。宮子は真白しらこ作品の中でも特にファン人気が高いヒロインであり、今年の3月に開催されたイラスト展のキービジュアルで水渡さんと一緒に描かれていたりする。こうして並ぶと宮子の方が胸デカいんだな……とわかったりして興味深い。

・メアリー=ドゥの『悪役令嬢の矜持1』読んだ。

 最近はちょっと下火になりつつあるかな……という感じのジャンル、「悪役令嬢モノ」に属するシリーズです。同時期に副題以外はまったく同じタイトルの作品が書籍化されているせいでややこしい。向こうは『悪役令嬢の矜持 婚約破棄、構いません』と副題が固定されているのに対し、こちらは巻ごとに副題が変わる方式(たとえば1巻は「私の破滅を対価に、最愛の人に祝福を。」で2巻は「あなたが臨む絶望に、悪の華から希望を。」)なので、副題で書き分けるのもなかなか難しいところだし。ちなみにコミカライズ版もあって、そちらは副題を「婚約者を奪い取って義姉を追い出した私は、どうやら今から破滅するようです。」で固定している。実は2年以上前、新刊当時に購入して半分くらい読んでいたんですが、後半に差し掛かったところで気が乗らなくなって放り出してしまった。つい先日「そういえばまだ途中だったな」と思い出して再開し、チマチマ読み進めてやっと読み切ったんです。なんでそんなことになったのか? それを説明する前にまずストーリー紹介といきましょう。

 私の名はウェルミィ、悪名高きエルネスト伯爵令嬢である。元平民で、本来なら家督を継ぐ立場ではなかったにも関わらず、後妻になった母と貴族の父が揃って我が義姉「イオーラ」を虐げた結果、継承権がこの手に転がり込んできた。ここ数年、私のしてきたことは「悪辣」の二文字に集約されるだろう。イオーラをイジめ抜いた末、その婚約者である「アーバイン」を篭絡して婚約破棄するように仕向け、廃嫡された義姉を冷酷非情の「魔導卿」エイデス・オルミラージュ侯爵に売り渡した。生まれ育った家を離れ、遠い地に去っていくイオーラを私は満足げに眺め遣る。知っているからだ。この半年後に、私は「悪役令嬢」として断罪され、代わりに愛するイオーラ姉様が救われることを……。

 こんな具合に愛する義姉を救出するために父や母の期待に応えるフリして面従腹背を貫いていた令嬢の「破滅」を描く物語なんですが、彼女の書いた脚本通りに物語が進むのは80ページくらいまでで、そこから先は思いっきり計画が狂っていく。この作品、血縁関係が非常に入り組んでいるためテキトーに読み流してしまうとワケがわからなくなります。私自身整理する意味も兼ねてネタバレ全開で解説していきます。この話における一番の悪役である「サバリン・エルネスト伯爵」はなぜウェルミィの義姉であるイオーラを虐げたのか? という謎に関してですが、これは単純でイオーラは彼の娘ではないからです。サバリンには兄がいて、もともとはそっちが伯爵だったんですけど地方で視察中に死亡し、お腹の大きかった兄嫁とサバリンが再婚した――って経緯がある。つまりイオーラは先代伯爵の娘であり、サバリンにとっては姪に当たる(表向きには自分の娘として届け出ている)。しかし産後の肥立ちが悪く、イオーラを産んで間もなく前妻である兄嫁は死亡。血縁ではあるけど己の血を直接引いているわけではないイオーラのことが疎ましくなり、後妻(ウェルミィの母)とともに彼女をイジめていたわけです。「なんとかイオーラを始末して、自分の娘であるウェルミィに後を継がせたい」と陰謀を張り巡らせており、下手すると亡き者にされそう……とウェルミィは内心慌てつつ率先して義姉イジメを主導し、虐待の手綱を握ることでなんとか「死なない程度」に収めていたのだ。この時点でだいぶややこしい構図になっていますが、まだまだ序の口、話はここからどんどん複雑になっていきます。

 サバリンはウェルミィを「自分の血を引く娘」と信じて疑いませんが、実はウェルミィとサバリンの間に血縁関係は一切ない。後妻の「イザベラ」はサバリンと肉体関係を持った時点で既にウェルミィを身籠っており、「本当の父親」が別に存在する。それが「クラーテス先生」こと「クラーテス・リロウド」。サバリンはイオーラをこっそり呪い殺そうとして魔導具を使用しており、サバリンに気付かれないようもっとこっそり解呪すべく、ウェルミィはクラーテス先生のところに弟子入りしたのです。それが実の父とは知らずに……いや、「メチャクチャ特徴が私と似ているな? 他人とは思えないな?」と疑っていたけど、深く考え込まないことにしたらしい。少なくとも「自分ってサバリンの血を引いていない不義の子なのでは?」とほぼ確信に近い域で察してはいた模様。そういう事情もあって、伯爵家の血が一滴も流れていない自分がエルネスト家を継ごうなどとは毛ほども思っていなかったんです。正統後継者である姪っ子を殺そうとしている父(血縁ゼロ)と不義の子を産んで前妻の娘を虐げている母、ふたり諸共破滅するつもりで壮大な計画を組んだウェルミィでしたが、婚約破棄されたイオーラと新たに婚約して彼女を救うはずだった「魔導卿」エイデスはなんと公衆の面前でイオーラとの婚約破棄を宣言する。ウェルミィの計画が破綻した瞬間である。というか、100ページも進んでないのに二回も婚約破棄される令嬢なんてギャグ作品以外ではそうそういないだろう。

 ここからいろいろ遣り取りがあってウェルミィは断罪されることなくエイデスと婚約することになり、イオーラはまた別の男と結ばれることになるわけですが、それでめでたしめでたしと閉幕――にはならない。なんとこの時点で140ページくらい、まだ半分以上残っている。ここまでが「表」、ウェルミィ視点で紡がれるパートで、以降は「裏」、エイデスなど他のキャラの視点で「いかにウェルミィの計画を見抜いて欺いたのか」が綴られていく。言わば前半がひぐらしの出題編で、後半が解答編みたいな構成なんです。しかし、前半の時点でほとんどの謎は解かれており、後半で開示される新情報はそんなに多くない。舞台となる国の成り立ちとか、興味深い箇所もあるけどそのへんはあんまり悪役令嬢とは関係ないですもんね。だから「同じ展開を別の視点で辿っているだけ」な雰囲気が濃厚で、あまり気が乗らなくて読み進められなくなってしまったわけだ。後妻でありウェルミィの母であるイザベラが何を考えていたのかとか、当人視点じゃないとわかりにくい箇所を補完しているから決して蛇足じゃないんですけど。

 コミカライズが好調みたいだからコレもそのうちアニメ化しそうだが、上に書いた通り血縁関係とか出生の秘密とかが非常にゴチャゴチャしていてわかりづらい(ウェルミィはイオーラを「お義姉様」と呼んでいるけど、ふたりはほぼ同時期の生まれでほんの一ヶ月程度の差しかないとか、よく整理して読まないと頭バグりそうになる)んで、アニメのシリーズ構成をする人は大変だろうなぁ……と今から心配になってしまう。2巻は破滅を回避したウェルミィがふたたび悪役令嬢として社交界に舞い戻ってくる話みたいで、一気に登場キャラが増える。冒頭のカラー口絵だけで8人も新キャラが確認できます。まだ読んでいる途中なので断言はできませんが、たぶんこの2巻からが本格的に面白くなるシリーズなんだろう。ワクワクしています。

・拍手レス。

 EGコンバットの原作者さんのツイートで、小説の企画がストップ掛かったっぽい事が語られてましたね。秋山コンバットが読めなくなるのは悲しい物です。

 秋山瑞人が正式に「降りる」と発言したみたいですね……奇跡的に秋山版EGFが書き上がった場合は原作者(☆よしみる)も出版を止める気はないようだけど、四半世紀足掻いて書き上がらなかったんならもう……。



管理人:焼津