「ひめしょ!」
   /XANADU


 日記の内容を抜粋。


2005-12-07.

『ひめしょ!』、プレー開始。

 やや未来で且つパラレルな世界の日本を舞台にした微SF学園ドタバタラブコメ。ショタ系でいてツッコミの切れ味鋭い主人公もさることながら、「まぁ、細かいことは気にすんな、男の器と夢とチ○コはデカイ方が女にモテるって言うじゃないですか!」など、ヒロインたちが日常シーンで容赦なく伏字を飛ばすシモさが正にエロゲーならではってノリでたまらない。それにしても、このやたらと細長いエヴァンゲリオン体型は本当に凄いな……山田風太郎の忍法帖シリーズに「狢犬」とかいう名前で出てきても違和感がない気します。

 内容は予想通りというか、予想以上にお下品。明るい絵柄に反してゲロとザーメンの吐き荒れるカオスなイベントがざっくりと。ルートはどうもナナミに入っているみたいですが、割とお約束のネタを使いつつ適度に暴走し、結果的としてわけわからんパワフルな展開を生み出しております。短絡的に見れば面白いけど、ちょっとずつ全体の構成が不安になってきた。良くも悪くも前回の結果があまり反映されないギャグ漫画のような味わい。シナリオに関してはまだストーリーが大して動いてないので何とも言えないにしても、本筋とは関係なさそうな無駄会話がテンポ良くて楽しいです。

 今のところ気になっているのは、体験版でほとんど出番がなかったサキサカサキ。宇宙環境に適応するため身体の大部分を機械化したサイボーグ姫、という設定も面白いけど、無表情・無感動なキャラクターがどう転がっていくのか興味深い。


2005-12-09.

『ひめしょ!』、プレー中。

 奥平漂流。「水没都市」というなぜかエロゲーでよく見かけるガジェットが配されていたうえ、まさかああまできっちりサバイバル感の漂うイベントになるとは。てっきり『つよきす』の無人島みたいなまったりした展開になるものとばかり思っていました。なんというか、物凄い勢いでライターの趣味が出まくってるのではないかと。まだ割と序盤の方なのに根性勝負の熱血テイストが迸っており、釣られてこちらも手に汗握ってしまった。「当方のマウス先 やや熱いか…」と牛股師範ぶって嘯きたくなるほど。最初のうちはひたすらギャグとドタバタコメディで押して、最後の最後だけシリアス展開してしんみりと〆る──みたいな「笑えるエロゲー」の黄金パターンを想定していたために、こう早くもコメディ調を崩してくるとは、完全に裏を掻かれました。俄然楽しくなってきた次第。

 で、今はナコトの回想シーンが流れたあたりですが、ちょっとフラグに不整合がある気が。見ていないイベントについて言及されてるように感じる箇所がいくつかあって少し首を傾げた。うーん、選択肢の取捨がちゃんと反映されているのだろうか? 細かい引っ掛かりを覚えます。ま、それはそれとして。いざ学園内の描写が入ってきてみるや、「ひょっとしてこれ、青春学園モノとしても普通に面白くないか?」って想いがふつふつと湧いてきましたよ。どうも下ネタや極端なギャグのインパクトが強くてついそっちに目が行ってしまいますけれど、軽妙な会話の遣り取りに支えられた日常シーンがじわじわ地味に効いてくる。サブキャラがなかなかに魅力的。「主人公が女の子のふりをしている」という設定は相変わらず意識しにくくて半ば死にかけにせよ、本来敢えて退屈を味わうものである日常の掛け合いにほんのりと興趣の彩りを添えている。「未来でちょっとパラレルな日本」ってな舞台設定も、妙に細かいところに凝りすぎな気はしますが話の雰囲気をつくるうえで役立っていて面白い。こいつは当方にとってほぼ理想の形態を持った学園モノなのではないか、という予感が徐々に輪郭を孕んで明瞭になってきました。「ライターの趣味が出まくり」とはいえ、実に丁寧な仕事をしてくれるから嬉しいものだ。

 にしても、気になっているサキサカサキが全然これっぽっちも出てこない……彼女が活躍するのはまだ先の方なのでしょうか? CVが同じまきいづみの外跳ね娘にだんだん目移りしてきましたが。奇しくもナナミが言い当てた「ボケっとしているようで小賢しい」という性格、いかにもサブキャラって具合でツボに嵌まるのです。あと、ボイスの旨味を掛け合いで活かしまくってるポチは最強。オッドアイで犬耳な髪型と、いかにもクドい造型ながらそれを苦もなく流してみせる声優の演技&テキストのキレは惚れます。


2005-12-15.

『ひめしょ!』、プレー中。

「僕は!! ナコトさんが泣くまで!! 子宮を突くのをやめない!!」

 言いそうな雰囲気は嗅ぎ取っていましたが……コハルの野郎、本当に言いやがった。近未来のくせにオールドジャンプ読者とは。さすがポルチオ流星拳の使い手。恐るべし。

 とか笑っていたのも束の間、一周目はバッドエンドを迎えました。あっちゃんと二人きりになったので「まさか雅史エンド?」と慄いていたら、あっさりと自分探しの旅に出てやんの。「自分探し」って。今時そんなのハチクロくらいじゃないか。BEスキーとしてはさりげに意表を突かれて楽しかったです。

 そこでロードしてやり直し、現在はナナミルートを攻略中……やばい、立ち絵を見詰めているうちにナナミが変なカツラを付けたショートカットの赤毛っ子みたいに映ってきた。はっきり言ってコハルよりもこっちの方が女装少年みたいじゃないか。

 と、さっきからずっと話の内容に触れない断片的なことばかり書いてますが、決してストーリーがつまらないからではなく、今のところなかなか面白い展開に入ってきています。敢えて予想を外してもっと面白い方向へ持っていくところがたまらない。なんというか、ナナミが「ドラえもんの秘密道具を悪用する方法に気づいたのび太」さながらの表情をし始めたあたりが不安というか期待を煽るというか。テメエ、絶対にろくなことを思いつかないだろ──と、何かをする前から制止したくなる気分。カタルシスならぬカタストロフィの前兆にワクワクします。来たれ破滅。


2005-12-17.

『ひめしょ!』、プレー中。ナナミルートかな?

 「ひめしょ」というタイトルは「お姫さまと少年」の略くらいに思っていたが、違う。是即ち「秘め書」。つまりは「秘書≒メイド」で、ショタゲーとかお姫さまゲーに見せかけたメイドゲーだったんだよ!

 と、我ながらどうでもいい駄ネタはともかくとして。このゲームに出てくるメイドってのはアレですか、侍女式戦闘員の謂ですか。なんか耳にする欠片程度の情報から察しても、「メイド」と呼ばれる人種が性格破綻者か戦争狂にしか思えません。遂には「メイドとは現代の侍である」とかトンデモ主張までし始めますし。メイドブームが咲かせた徒花である「武装女中」の類は腐るほど見てきましたけど、さすがにこれだけ無茶苦茶だと……いっそ気持ちイイですね。

 地の文はなく、会話文とモノローグだけでシーン構成している割に誰が何をやっているのか活き活きと伝わってくる遣り取りが楽しゅうございます。話を進める手続きとして用意された会話でも、ただ内容を伝えるだけじゃなく適度に脱線してほのぼのしたムードを醸してみせる。強烈な下ネタが各所に配されているのでどうしてもそっちに目が行ってしまいますが、日常の中にぽつりぽつりとある何気ないコミュニケーションの数々が結構良い。ドタバタだけに終始せず、まったりとした味わいも漂わせていて心憎いばかり。基本的に一話完結方式で、前回の内容があんまり影響してこないって部分にはちょっと不安も募りますけど。毎回リセットしてるようなものだからなぁ。長編みたいな大きな流れを期待するより、読切作品を賞味する感覚でプレーするとちょうどいい塩梅かもしれない。

 それにしても濡れ場をピーピングするに留まらず解説まで加える某ヒロインには笑った。「また一つ腕を上げたわね、コハル!!」だの「あぁ‥いいなぁ‥アレ‥いいなぁ」だの「あぁ‥くそぉ‥なにがウンよぉ! なにちょっと可愛い女の子気取ってるのよぉ!!」だのとモノローグ形式で青山ゆかりボイスが読み上げるあのシーンはクオリティ高い。特に「あぁ‥くそぉ‥」のところは情感が篭もりすぎだ。「なにちょっと」の部分が実際には「ちょっ、なにちょっと」と、消えるギリギリで「ちょっ」という舌打ちじみた苛立ちの声が混じっている芸の細かさに脱帽。エロにすら丹精込めたネタが混ぜ合わされており、「もっと面白くする!」という気迫が溢れんばかりとなっている。エンターテイナーとしての業の深さが垣間見られた。

 ちなみに愚痴。もうここ数時間サキサカサキが影も形もないですよ……シナリオによっては全然出番がなくなるのか、あの人。


2005-12-19.

『ひめしょ!』、プレー中。とりあえず一周。

 やっとバッドエンドではない、ちゃんとしたスタッフロールが流れるエンディングへ到達。ナナミ狙いで進めていたのでたぶんナナミエンドだと思いますが、気のせいかやけにあっさり終わってしまってような。確かにこれまでのエピソードは大なり小なり波乱がありありだったにせよ、話を〆るにしてはおとなしすぎると言いますか、全然大団円って気がしません。「安らぎを得にいく」といった具合で穏やかな雰囲気が漂っているのは好ましいものの、なんかまだ裏がありそうでスッキリせず。でもまあ、他のキャラもどんどんプレーしていくとしましょう、と深く考えないで区切りをつけた次第。

 で。次の攻略対象に選んだのがサキサカサキ。CVがまきいづみ。「外はね」ことシマダカホの声もやっています。とりあえずカホは置くとしてサキ、宇宙環境に適応するため身体の80パーセントを機械化したからくり仕掛けの姫君であります。逆に言えば20パーセントだけ生体部品が残っているわけで、それはどこなのかと言うと、例えば舌。五感のうち味覚だけはアナログなので食事が趣味とのこと。にしても舌とは。「舌だけ生身のロボット」ってやけにエロい響きですね──っていやそういう気持ちがないわけじゃないんですがそうではなくて、ADポリスってアニメに『舌を噛む男』というのがあったなぁ、と連想しました。事故で瀕死の重傷を負って全身をロボコップ化されてしまった刑事が、唯一痛覚の残っている舌を噛むことで自分が生きていることを確認するとか何とか。昔にレンタルビデオ屋で見かけたのがえらく記憶に残っているだけで、中身を鑑賞したことはありませぬ。若本規夫が声やってるらしいし、機会があればいずれ……っと、脱線しました。

 ヒロインがロボットってのはギャルゲーでもエロゲーでもよくあることで別に珍しくありませんけど、「中途半端に人間としてのパーツが残っている」という状態が痛々しくもあり、逆にすべてがオーダーメイドのアンドロイドよりも突き抜けた気風を感じたりします。アンドロイドとサイボーグ、特に「生体部品をつかったアンドロイド」と「全身余すところなく機械化したサイボーグ」をそれぞれ呼び分ける必要があるのかなどといったことは興味の湧く命題で、まだ辛うじて人間の要素が残っているヒロインが敢えて自分のことを「ロボ」と認識されたいとを望んでいる、そんなギャップというかジレンマというか溝と煩悶のある状況を起点に主人公とのふたりの関係が始まっていく経緯にディスコミュニケーションからコミュニケーションへの回復を期待しています。単に「人間的」というポイントを終着駅にするくらいなら、「人間とロボ」の違うところと違わないところを明確にして受け容れて両者が折り合っていく道のりを示してくれたらなぁ、とか。適当に思考を遊ばせておるのです。

 けど、この無表情サイボーグ姫をどういう流れで、どういうエロシーンに持っていくのだろうか、と疑問に思っていましたが……

 

「ヤガミ君のお尻の中‥温かい‥」

 

 コロ助!? ロボだけにか!?

 「戯れなれば 肛虐にて…」とハイブロウな挨拶をかますだけに留まらず、衆人環視の中でケツの穴を舐めるのも厭わないって「公開アナル宣言」までぶち挙げる始末。ロジャー、ロジャー! 怖ろしい、本当に怖ろしい姫様が世の中にはいるものだな! 顔色一つ変えずにそんなことを言い放つあたりなど、「素直クールはこれほど邪悪になれるものなのか……」と心胆を寒からしめられた。当方もたまに忘れそうになりますが『ひめしょ!』の舞台は女子校で、主人公は女装姿なんですよ。そんなシチュエーションの下、教室でクラスメートたち(無論全員♀)に見られながら主人公の菊座を舌先にて愛で殺してやる、と鉄面皮に一方通告する尻好きプリンセス。誰が想定できるか、そんなシーン。最高だ! サキサカサキ、その溢れんばかりの淫クールぶりを兵器に変え、一瞬にしてフロンティアラインを越境してきました。今後のことを想像するだに楽しすぎてゾクゾクします。今後にレッツ注目。

 余談。ちゃんと修正パッチ当てましたけど、それでもまだテキストミスが多いですなぁ。「意外」が「以外」になっていたり。あとボイスとの不整合も目立ちます。意味や内容は変わらないんですけど、些細な差異も積もり重なるとちょっと気になるかな。この手の不具合はノベルゲーとして避けられぬ、ボリュームの長大化に伴う宿痾なのかもしれません。最近は分量が増えすぎで、どこのメーカーも細かいところがチェックし切れていない状況かと。


2005-12-21.

『ひめしょ!』、プレー中。サキ狙いで。

 このゲームはまきいづみに期待しつつ買った人間にはパライソかもしれないという疑惑が、サキを攻略にかかるや確信に変わりました。

 ──いづみボイスの鉄槌が下される。もはや我々はミスター・グラスに過ぎず、その身は鼓膜を通じて脳が溶け崩れると同時に、名状しがたい雄叫びを漏らしながら無惨千万の呈で砕け散るのであります。速やかな、音よりも疾き寂滅(ニルヴァーナ)──!

 と、思わずお脳がアホになるほど威力絶大のまきパワーが舞い降りはべりいまそかり。ネタバレするのが怖いからあれこれ書けませんけど、こいつは極上ですよ。前回「ディスコミュニケーションからコミュニケーションへの回復」とか分かったような口振りで言っていたことがもうどうでもよくなってまいりました。エンターテインメントの荒波に飲まれるとテーマ探究心は無力化されるのが世の定め。どんどん楽しくなっていくひめしょ界に反比例して睡眠時間がごっそり削られる。面白い作品は現実側のものをガチで壊しますね。味わいはどっちかと言えば「まったり」系なのに、やめられぬ、止まらぬ、省みぬ。サキと○○が気になってしょうがありません。

 今年はホント、面白いソフトに当たってばかりで、引きの良さがさすがに怖くなってきました。1本や2本のハズレがあってもご愛敬って感じで済まされるのに……ハズレがまったくないならないでそれはまた不安になるちっぽけな心理。ともあれ、ここらでダラけていたペースを一気に取り戻そうと思います。寝る間も惜しんで行く所存。


2005-12-23.

『ひめしょ!』、プレー中。

 サキシナリオ、いろいろ気になるポイントを残したままひとまず終了。んー、クライマックスの展開がめっちゃ慌しかったうえにどうもザルというか大雑把な印象が拭えなかった。土台、セリフの掛け合いとモノローグがメインで地の文には極力頼らないミクロ視点な構成なんですから、妙にスケールの大きい話を紡ごうとしても今一歩で迫真性が醸せない気がします。要素要素で個別に拾っていけば「おおっ」と思える部分は多いのに、全体を通して見ると「うーん」な煮え切れない感想。過程として繰り広げられたドタバタコメディがテンション高くてテンポ良くてキレも抜群だった分だけ、実に残念です。

 今後の進行でそこらへんが救済されることを祈りつつ、攻略対象をココへ変更(ターン)。ココはぶっちゃけ『ひめしょ!』で一番存在感の薄いヒロイン。それはもうポチやキョーコどころかクラスメートのシマダ・タカミ・カジワラの三人娘にも劣る勢い。人見知りが激しく言葉もたどたどしく態度は常にオドオドと縮こまる姿勢を崩さず、もはや忍術を駆使しているかの如き地味加減であります。辛うじて興趣をそそる箇所は「これで結構剣道が強い」ということ。小躯に裂帛の気合を込めて撃ちかかってくる凛々しさ、その幻視光景を心のガソリンにして邁進している次第。

 いえ、「蕾見してみいや」と絡んできたナンパ男に頬を膨らませるや流れ一閃──みたいなバイオレンスはさすがに期待してませんが。やはり青春モノの醍醐味として暴力よりもスポーツで魅せて欲しいって気持ちがあります。「努力・根性・気合」の三拍子をクリーンかつ泥臭く示してこそ学園ストーリーかと。ガッツ&ピース。そして夕日の差す川原。王道は踏破してこその王道でしょう。

 にしてもこのソフト、

「まぁまぁ、これもスキンシップだと思えば、ね?」
「ヤガミではレイプをスキンシップと呼ぶのですか!? 貴女達も! お止めなさい!」
「なにおぅ!? 皮を剥けって言ったのは、アンタだろーが!」
「私が剥けと言ったのは里芋です!! 妹じゃありません!!」
「芋も妹も似たようなもんだろが!! 面倒クセェ!! 姉も剥いちまえ!!」

 とか、ところどころで訳の分からん迫力に満ちていて、ホント好きです。

 次回更新時には恐らくナコトシナリオまで進めていると思います。開始からかれこれ2週間以上経ちましたし、そろそろ勢いに乗らないと間延びしてしまいそうなので、ちゃっちゃかペースアップを図ろうっと。


2005-12-25.

『ひめしょ!』、プレー中。

 ココシナリオがひとまず決着。でも思ったより長かったです。地味系でしかもウジウジしているという、下手すれば人気投票なんかでサブキャラにも遅れを取ってしまいかねないキャラだけに、当初はココ自体にそれほど強い個性や目立った魅力を感じませんでした。正直、集合イラストを見てもココ一人だけ妙に浮いている印象が拭い去れなかった。

 反面、シナリオに関しては今までの中で一番面白く、後半は夢中になってプレーした次第。「剣道の才能がある」ってポイントがキーに据えられている節があったため、一種のスポ根みたいなノリを期待していたんですけれど、それが巧い具合に的中してくれた感じ。いろいろとツッコミどころは多い気がするものの、緩急のリズムを掌握した話運びで細かいことを忘れさせて没入を促してくれる。そして一つ一つのシーンが「待ってました!」的な、いい意味で先が読めて尚且つワクワクと楽しめる内容に仕上がっており、実に退屈しなかった。ヒロインが地味なおかげもあってか相対的に主人公の存在が際立って感じられ、興味深く思えたこともある。決して捨てシナリオにはなっていなくて嬉しかった。

 才能はあるが、如何せん現状ではまだ弱い。確実な勝利を掴もうとするなら、未来に託す方が理に添う。……だからと言って、「弱い」ことだけを理由に今この瞬間にあるチャンスを諦めることができるのか? と「賢明さ」の所在を質す設問に対し、「諦められるものか!」と否定の意志を掲げて真っ向から抗う姿勢を整えるココの愚直な努力に胸がキュンと縮むのであります。地の文を使わず独白と台詞によって疾走感を刻む遣り口が素晴らしかった。燃えゲーには格好いい地の文が不可欠ってイメージありましたけど、本当のところではそんなにエッセンシャルなものではないのかもしれない。三人称視点を削ぎ落とされた掛け合いと試合の趨勢もなかなかに熱かったです。

 ってな具合に大いに楽しんだところでいよいよナコトシナリオへ進攻を開始。ナナミと並んでメインの座に位置するヒロインだけあってシナリオも「相応しかろう」と激期待しながら邁進したところ、しょぱなの過去編で幼ナコトと邂逅いたしましたが……なんです、この当方に眠る密かな欲望を読み取ったかの如き幼女は? お上品で高圧的なロリに見えて実は結構天然なエロっ娘なんて、現実には0.01パーセントとして実在する見込みがねぇ。まったくもってこんな存在、たとえヴァンダムが許しても理性が許しません。

 が、そんな理性も無に帰すほどの破壊力。初めて会ったその日に速攻でツンデレ結界を生成した挙げ句、舌まで入れるディープキス──ナコちゃんは戯れのできぬ女であります。高圧的のようでいてどこか抜けてるというか愉快に天然気味な彼女の性格を、いじめられっ子というか弄られっ子のようでいて実はいい根性してるコハルを触媒にして最大限に活かし、更にスパイシーなエロスを振りかけて凶悪な味わいを引き出すことに成功している。下ネタに関するリミッターがぶち壊れているあたりはまさしく18禁の本領発揮ですよ。ナナミが「素直になれない幼馴染み」とすれば、ナコトの位置は正逆、「素直を突き抜けた幼馴染み」。サキの素直クールぶりよりも触れがたい深遠なる恐怖を喚起してやみません。青山ゆかりのボイス、合っているとは思いましたがここまでハマリ役になるとは予想し切れなかった。これはきっと後に回した価値のあるルートでしょう。期待とその他が膨らむ一方です。


2005-12-27.

『ひめしょ!』、コンプリート。

 「雌豚メイド」なる新境地に開眼しつつ、ナコトシナリオはクリア。シキシマナコトは立派な傾奇者でございました。あとはいくつか取り残しのあった部分を埋めて無事コンプせり。なんだかんだで20日間も掛かりましたなぁ。年末で忙しくてなかなか時間が割けなかったせいもありますが、単純にプレー時間もかなーり長かったです。シナリオは昨今の水準からすればそんなに膨大ってほどもないですけれど、何せ地の文が皆無に等しく、会話とモノローグだけで進行する形式になっているからボイス量が多いこと多いこと。ヒロインのみならず主人公まで喋るんでシーンごとの所要時間が半端じゃない。遣り取り自体は軽快なおかげで、やってる間は大して長さを感じないのが救い。決して苦痛を覚える意味で「長い」ってわけじゃありませなんだ。

 ただ、正直言ってどのルートも終わった後で微妙にスッキリしないというか、「えっ、まだこれからでしょ?」と縋り付いて翻意を促したくなるモヤモヤ感を残したまま幕になるのが不満。多少の救済策は凝らされていますが、こう、密かに期待していた「すべてのシナリオを統括するトゥルールート」みたいなものがなかったのは痛い。てっきり伏線と思ってチェックしていた諸事項も特に励起することなく背景設定に留まってしまう始末。個性的なサブキャラの一人一人、近未来SFじみた設定の一つ一つ、端から端に至るまですべてが魅力的なんで、みんなにもっと見せ場を用意してほしかった。下手に面白かった分、欲求の燻り具合がすごいですよ。大仰なトゥルールートを用意しなかったのは変に超展開してグダグダになってしまうのを避けたというか、分限を心得て足を踏み出しすぎないよう自制した雰囲気で、バランス感覚の良さが窺えるにしても……ここはいっそ冒険してほしかったなぁ。または、「実はこれ、結構壮大な話なんじゃないか?」とプレーヤーに思わせ余計な期待を煽って皮算用させたりすることもなくギャグやコメディとしてのスタンスを徹底するかしてほしかった。ってなんだか私怨臭い要望ではありますが。

 しかしそうした不満を計上したうえでなお面白かったと言えます。手広いウケを狙わず、特定層だけを一点突破する勢いでアクの強い漫才、修羅場、シリアスを演じる内容にがっしりと浪漫回路を鷲掴みされてしまった。当方は昔からの乱読が影響し、趣味嗜好に関しては何とも言い表せないくらいに畸形化している自覚があり、もはや「お約束」を守っているだけでは満足できない面が多分にあります。そこに来るとこの『ひめしょ!』、不協和音スレスレで雑多に混ざり合った要素が小気味良いテキストによって綴られていくうち奇跡的な魔配合を成功させ、当方の畸形化した好みに驚くほどジャストフィットした次第。ショタではわわな主人公がヒロインに逆レイプされまくる展開は歪んでいるけど、かと言ってストーリーの芯が脆いわけではなく、むしろ細部へのフェティッシュなこだわりを晒すことで異様に強靭な粘りを見せ付けてきます。主人公がまたイイ性格をしている。被虐体質のヤガミコハルに一切陰湿なムードを覚えさせないのは、ただいじめられているばかりではなくて時にツッコミを入れ時に反撃する彼の冷静さ、したたかさが全編にキチンと敷衍されているおかげかと。なかなかに計算高い。しかしそれだけに収まらず、絶対に計算だけでは弾き出せない異常なテンポとノリの良さ、脳から妙な汁が噴く楽しさを激しく追求するセンスのキレ、あれもこれもが抜群で絶品です。

 とにかく「エロゲーなんだから下ネタなんて当然解禁でしょう」と当たり前の顔して述べてるような猥雑さがたまりません。どいつもこいつも下ネタは容赦なし。伏字とピー音が濡れ場のみならず日常シーンにまで乱舞します。下ネタ嫌いな人は確実にヒく反面、下ネタ大好きな人はがっちり食いつくこと請け合い。濡れ場そのものも頑張っていて、手抜きをしている印象はない。2時間に1回は遭遇し、かつ尺も長いです。笑いを入れる傾向が強く、シチュエーションのこだわりも言わずもがな。「王位継承権を持つ少年を巡って四人の婚約者候補が鞘当てし放題」という設定だけに微笑ましい嫉妬や修羅場は絶えないし、ハーレム状況だって必然としてやってくる。けどまあ主人公は受け身なので、決してウハウハな意味合いではありませんが。「種ぇ、種ぇ〜」と女性版虎眼が襲いかかってくる様をイメージしてください。思わず「これはひどいハーレムですね」と苦笑いしたくなります。

 「出生率が減少し、更に男子の比率が恐ろしいほど落ち込んでいる」って説明を敷いてから「主人公が女子校へ通う」というシチュエーションに結び付けてますが、当初からの不安通り、やっぱり主人公の女装云々はほとんど死に設定。主要キャラが全員秘密を知っているから「コハル=♂」を承知した掛け合いが大半で、下手するとプレーしてるこちらまで女装設定を忘れそうになります。サブキャラがコハルを女の子扱いしてようやく思い出すくらい。女装ネタが効を奏している場面も一応ありますが、基本的におとぼくみたいなノリを求めない方が吉でしょう。途中のエピソードでは学園にもスポットが当たるので「ありがちな女学園モノ」として楽しめる箇所もあるにせよ、後半は学園を離れる傾向にあり、「女学園」だけを目的にプレーするのはオススメしかねる。

 なんか異常なくらい楽しくて、締めるところはちゃんと締めて、おかしな超展開も(極力)ない。無難と言っていいのか蛮勇と言っていいのか判然としない混沌たるエンターテインメントでした。個人的にはとてもツボ。「惜しい」と臍を噛む要素も多々あれど、今年最後を飾るには申し分ない出来だ。しかしエピソードの内容とそれをリンクさせる手際や全体の構成から察するに、ひょっとしてシナリオライターの藤崎竜太は限定的なシチュエーション下における寸劇を描くのは得手で、逆に大きな流れを成すストーリーを紡いでいくのは不得手なのだろうか。

 余談。好きなヒロインはナコトとサキ。このふたりはお互いの絡みがあまりなくて残念でした。ナコトは憎めない腹黒さ、サキは酷薄なようで一途な様に惚れました。あとぶっちゃけ外見が好み。ナコトの「うわあああん」な表情と無表情なのに頬を赤く染めるサキはたまらぬふぅ(シームレス絶頂)。でもナコトは美味しいところを攫っていく割に自ルートの扱いが不遇。サキは他のシナリオでほとんど出番がなく、ひどく浮いてる。シナリオに関してはココが図抜けた印象ですね。望んでいたものを見事に遂げてくれた。エピソード単位ではナナミの漂流イベントが一番。ナナミと言えばポチ、声優さんの演技がもっとも輝いて聴こえたのはあの自他共に認める糞犬でした。サブキャラではやはり三人娘。ただタカミとシマダはそれなりに見せ場もあって満足しましたが、カジワラの影が薄いのは気になったかな。キョーコさんは便利屋とか狂言回しの役どころが多く、個人の掘り下げが浅いせいかちょっと魅力を感じにくかった。あっちゃんは爽やかな変態で、あまりの快活さに他のヒロインたちよりも萌えることがたまに。あっちゃん(*´Д`)ハァハァ。でも添い寝は勘弁な。他にも何人か気に入ったキャラがいるもののネタバレ含むので割愛。主人公のコハルは重度のマザコン(ただし母親は鬼籍に入っている)というキャラなのに、そのへんの影響が出てる性格は不思議と嫌味がなくて好感が持てました。苛められているときの表情よりも、怒ったときの表情が可愛らしい。

 ファンディスクなり続編なりでもっとこの世界やキャラたちを押し広げてスケールアップを図ってほしいなぁ、と思ったり。少なくともドラマCD程度では物足りない。焦がれるソフトです。


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