「Forest」
   /ライアーソフト


 日記の内容を抜粋。


2004-02-16.

『Forest』、プレー開始。

 突如として「森」に変貌していく新宿。通行人も建物もオブジェも何もかもが木々へ変わり果てていくなかで、なおも人間でいることを許された5人の男女たち。しかし、彼らには周りと違う形で「変貌」を強いられた。それぞれに与えられた役割──「ギフト」。超能力とも魔法とも形容できる人の域を超えた業であり、同時に本人を縛り付ける呪いでもあった。各々は受け取ったギフトを駆使し、「森」が出題する謎掛け──「リドル」に挑まなければならない。敗北は死を意味する。常識から隔絶された空間で「森」との戦いを強制される一行。彼らに明日はあるのか。

 一昨年の2月に発売された『腐り姫』、去年の2月に発売された『CANNON BALL』、共々に壮絶なバグでプレーヤーたちの心胆を寒からしめたライアー。そして今年も2月がやってきた。よりによって13日の金曜日。修正FD→修正CDとレベルアップしてきた実績より、「今度は修正DVDか?」などというネタも飛び交う中でいざ発売された本作は……拍子抜けするほどあっさりインストールが成功し、現在進めている範囲でもこれといったバグはなく。特に何の問題もありません。遂に3年目で負のジンクスは破壊しましたか。当方、洒落にならないバグを楽しむような趣味はないのでホッと胸を撫で下ろすことしきり。

 肝心の内容について。特に説明らしい説明がなく、わけがわからないまま進行していく序盤はさすがに苦痛でした。「森」とか「ギフト」とか「リドル」とか、そのへんは購入前にOHPで確認した情報から大枠を得ていましたけど、最初はもっと分かり易い地点をスタートにして始まるのだとばかり思い込んでいた。単に怪異や異常というより、ほとんど電波の世界に到達している空間。第一の「リドル」はマッド・ティーパーティーで、御存知『不思議の国のアリス』(および『鏡の国のアリス』)を下敷きに「見立て」がふんだんに盛り込まれいる。時間がループし、いつまで経っても終わることがなく、いつまで経っても意味が見出されることのない狂ったお茶会。打破するには、「ギフト」の力が必要だったが……と、この筋立ては良いとしても実際の回答法がチンプンカンプン。よく理解ができぬまま第一の「リドル」は終了しました。

 こんなノリが延々と続いていくようなら当方はやむなくギブアップするところでしたが、その後は少しずつ分かり易い方向へ進んでいく。時系列は錯綜していて、バラバラのエピソードが羅列されるのだけど、出だしほど強烈に意味不明なエピソードは出てこないから割合安心して読めます。パーティーを組むことになる「5人の男女」は関係があるようなないような、少し微妙な構成。唯一の男性である城之崎灰流が主人公っぽくもあるけど、奇天烈な名前同様、キャラクターもあまり普通っぽくないというか……んー、現時点ではあんまり掴めていません。

 恒例の「ディスク入れ間違い警告トラック」を聞いていたせいもあって伽子たん(*´Д`)ハァハァな当方ですが、今のところさしたる出番がなくてションボリ。病弱で、家庭教師の灰流を慕っている少女なんですけど、話にどう絡んでくるのか見えてこない。話そのものも全体像が見えてこないんだけれど。

 現在は「新宿漂流」のリドルをやっている最中。こっちはマッド・ティーパーティーよりもシチュエーションが面白い。大都会の中で漂流させられるってところが。ただ、意図してのものなのか、とにかく説明が少ない。「空気読んでほしいよね」とばかりにプレーヤーへ阿吽の呼吸を要求する。テキストはなかなか端麗でヒネリが利いており、読んでいて単純に面白いけど、シナリオは結構クセが強い。メタ・フィクションの様相も濃く、『腐り姫』あたりと比べても、プレーする人によって拒否反応が出るか出ないか、違いはハッキリしそうな予感。「ひと味違う」という毎度おなじみライアーソフトへの印象は正にそのまんまでした。センス・イン・ワンダーランド、脈絡を暗殺するストーリー・テリング、言葉と物語の万華鏡といった趣からして、『Fate/stay night』の奈須きのこあたりはまたぞろ大絶賛しそう……とか思っていたら本当に絶賛していたし。

 「イギリス縛り」というルールもあるようで、アリスを始めとしてナルニアとか、いろいろとイギリスの童話・伝承・物語をちりばめている様子。当方は元ネタの題名を聞いて「ああ」と納得する程度ですが、そっち方面に詳しい人は楽しいかもしれず。関係ないけれど、都知事がなにげにイイ感じのキャラをしてました。今後も出番があると嬉しい。


2004-02-17.

『Forest』、プレー中。

 ALICE IN BLACK(゚∀゚)サイコー!

「アリスはなぜ黒いの?」
「手垢にまみれたから」

 なんか、主要キャラ5人が共闘して異常事態に挑みかかる「リドル」より、本筋に関係なさそうなのんびりした日常イベントの方が楽しいかも。「リドル」がハチャメチャな分、至ってありふれた日常が癒しの効果を宿すというか。灰流にも少しずつ馴染めてきて、肩の力もだいぶ抜けてきましたし。

 しかしリドルはいよいよ「ザ・ゲーム」に差し掛かり、本筋の方も本筋の方で盛り上がってまいりました。この「ザ・ゲーム」、テイストがなんとなく冨樫調? 『レベルE』や『HUNTER×HUNTER』の。リドルとしての形式も前回までに比べてだいぶ整ってきたし、独自のルールも面白そう。ここらで一気にブーストかけてきそうな手応えがあります。振るは賽、抛つは命、得るはたった一つの望み。

 にしても、テキスト・センスはつくづく素晴らしい。三行までしか表示できないウィンドウ枠でよくもこれだけのものをまぁ。くだくだしいところがなく、端的に決まっていてついボイスも飛ばせず最後まで聞いてしまう。響きもイイが字面もキレイ。浮かぶイメージも明瞭。表示している文章とはまったく別のボイスを流し、視覚と聴覚の両方にそれぞれの情報を押し付けてくる演出は、たまに効果を成すものの、普段はちょっとキツイなー、って思いますが……それでも序盤で差した嫌気は完全に霧散した次第。今はとにかく先が気になってしょうがない。ただ、イギリス文学全般に疎い当方としては元ネタがほとんど分からず、もどかしい限り。

 クセは強いがハマれば天国、「物語」を愛する者にはうってつけの御馳走といった気配がぷんぷんします。満腹になるまでしっかり美味しくいただく所存。このまま順調にヒートアップしていってラストでコケさえしなけりゃ、少なくとも当方にとっては傑作となること間違いなし。期待と不安の比率で言えば七:三くらいか。いまいち雰囲気が把握できず不安だらけだった発売前および購入時に比べたらかなり上がってきました。よし、このまま突っ走っていってくれ。


2004-02-18.

『Forest』、プレー中。

 「物語」そのものが主役という考え方は大して珍しくもないし、主人公やヒロインを押し退けてストーリーやテーマ自体が異常に目立ってしまう場合もままあることです。特にシナリオ重視と呼ばれるタイプのものではヒロインの悲喜劇、生死さえも「物語」を肥え太らせるための餌となっている状況が多々見受けらる。ギャルゲーやエロゲーに「キャラの魅力」、もっと言えば単に「萌え」を求める向きからすれば、「物語」はヒロインたちの邪魔をしないよう脇に退くか、おとなしくヒロインたちの後を付いて行くか、その程度のものとして認識されることがほとんどであり、あくまでシナリオは「萌え」に奉仕する存在として捉えられていたわけですが──何も、「萌え」の対象をヒロインたちのみに限定する必要はないわけで。あたかもシナリオそれ自体が一ヒロインであるかのように「萌え」や「燃え」を向ける対象と見なしてもオールグリーン。

 で、『Forest』。もはやキャラクターの域まで達した「物語」は、相当に挑戦的で挑発的です。喩えは悪いかもしれないがツンデレ娘や寝取られ娘と比べても遜色のない難物ゆえ、当方は現在進行形で愉悦に身を浸しながらも行く先を危ぶんでおり、要するに五里霧中の桃源郷で遊ぶよう。霧が晴れたら呆気なく袖にされるのが定めか、はたまた赤い布でお互いの手首を縛って心中か。うっすらと「祝福の横溢する婚礼」も可能性として光を発していますが、無事そこまで辿り着けるものか疑問の余地はたっぷり。

 抽象的な心境説明はさておき、話もだいぶ進んだせいでそれぞれのキャラに対する愛着も増大傾向にあります。最初はどいつもこいつもクセが強いわそのくせハッキリしないわで「やっていけるのかな」とネガティヴ・ムードに陥ったけど、今やそれなりに全員の輝きと瑕が見えてきたので大丈夫っぽい。しっちゃかめっちゃかのファンタジー、「リアリティのかけらもない腐れメルヘン」のようでいて根底を支えているのはやっぱり人間のドラマや情念。「ザ・ゲーム」における黛薫の姿は見ていて胸が熱くなった。うざったがりの皮肉屋の嘲笑者でやたら癇に障る喋り方をする彼女は見た目の可愛らしさと裏腹になかなかカチンと来る造型でして、慣れないうちは普通に憎らしかったんだけど……個々が個々の足場で立っていると分かるにつれ、不意に彼女へ感情移入する自分に気づいたり。刈谷も然り、九月も然り。パーティーが凸凹コンビよろしく誰かの窪んだ欠点を誰かの突出した才能で埋めるのではなく、各々の知性に拠って無理難題に立ち向かう姿勢が新鮮。ここまで来て未だに「共闘」って雰囲気はしないけど、これもこれで「仲良し連中」「結束グループ」「補完集団」とは一風違った味わいがあって物珍しい。

 この先は広げた風呂敷を畳んでゴールインか、畳め切れずに人情紙吹雪の刃傷沙汰か。当方、「終わり良ければすべてヨシ」というタイプの人間では必ずしもありませんが、とりあえず終わりが悪ければ斜めに叩くタイプではあります。オチとかまとめは大事です。画竜点睛や竜頭蛇尾には「惜しい惜しい」と言いつつ評価の値を引いてしまいます。だから最後まで楽しませてくれ。「この『物語』はやればできる子なんですよ」だなんて、情けないことを言わせないでくれ、Forest。むしろ当方から評価という概念を奪い取る勢いで頑張れ。超頑張れ。


2003-02-19.

『Forest』、プレー中。

 分岐はしなくともフラグの立て方によって細部の展開が異なってくる仕組みになっているうえ、一度プレーし終えた話でも再プレーすると初回とは違ってくる部分があったりして、何げに攻略は手間が掛かる。しかしこうした煩雑さが「ゲームをプレーしている」という感覚を強めてくれる面もあるので、当方としてはOK。「傘びらき丸航海記」は異常に選択肢が多く、フツーに詰まる人も出てくると思いますが、あそこは分岐というよりエピソードの取捨選択といった色合いが濃いので、繰り返しプレーすることにより話の全体像が見えてくる寸法になっている。このゲームにとって「やり直し」は当り前の事項というか、基本的な前提と見るべき。

 それにしてもまったく……人に薦めにくいソフトです。「ハマれば天国、踏めば地獄」。英文学をネタの出典元としていることから「大人の童話」、もっと直截的に「エロい童話」を期待した人がいたならば、あまりにも壊滅的な状況のエロにしょんぼりするでしょう。手抜きではないが、アピールポイントになるほどの濃さはない。あくまでエロで言えば『黒の図書館』あたりに望みを掛ける方が無難で堅実。

 シナリオもシナリオで、「寝食を忘れる」か「睡魔に襲われる」か、プレーヤーの嗜好によってかなり傾注度が変わる。メタ・フィクションっぽく「物語」そのものをテーマとして取り上げる点や、自由闊達で読み応えのあるテキストについてはそれほど人を選ばないだろうけれど、一定以上に話を噛み砕かず、あくまで「空気を読め」と強いてくる姿勢が門戸を狭め、深度を掘り下げている。空気を読めた人はひたすら底の底を目指して楽しめる一方、読めない人は入口すら通れない有り様。

 割と感覚重視で考えることよりも感じることを喜ぶ当方としては今回ぴったりと肌に合って楽しめましたが、少しでも時期が悪ければ「ダメ、合わない」と投げていた可能性を否定し切れず。ライアーの新作じゃなかったら我慢できたかどうかも怪しい。合うか合わないかは、実際プレーするまで分からないですね。「ザ・ゲーム」なんかはルールが分かり易く、かつスリリングな展開を見せるため、割と広くの層にウケそうな内容なんですけど……それ以外はなかなか難しい。強いて書けば「面白ければなんだっていい」と鷹揚に構えてみせるのが自分のプレースタイル、という方にはチャレンジをオススメしたい一品。


2003-02-20.

『Forest』、プレー中。

 一周しました。「おまけ」のCGモードがほぼ埋まっていることからしてこのゲーム、一本道と見ても間違いない。とはいえ未回収のものもあり、再プレーは必要なんですが。まだ試していない選択肢の組み合わせもありそうですし、コンプまでにはもう少し時間が掛かりそう。

 前半でメチャクチャなことをやり過ぎたせいか、後半は次第に次第に真っ当な進行でストーリーをまとめに掛かりますが……やはり最後までファンタジーというか、メルヘンというか。「物語」を間に挟んだ男女が、あるべき結末を巡ってセッションを繰り返す「はじまりの物語」にて「『物語』を『語る』」という事柄について強調し、またストーリーの枠外で執拗に繰り返される「思い出した?」「おぼえている?」などの問い掛けにより、本編のストーリーが不確かな回想形式で進行していることを仄めかすなど、とにかく「物語」のフィクション性を強く意識した部分が目立ち、次第に観念的な様相まで覗いてくる。幸い、危惧したほど投げた結末ではなく、最後まで「物語」を語り抜いてくれたおかげで個人的には満足のいく閉幕を迎えました。

 しかし、いちいち解説を加えるのは野暮だ、とばかりに最低限の言及しかせず、結局説明量の不足は最後の最後までそのままでした。面倒臭い考察を経ずとも点在する物事を感覚的に繋いでいくことで何となく全体像は見えてきますし、あまり理詰めで考えていく必要もない……と言えばないのですが。「考えるな、感じろ」。書き手のみならず、読み手にも「物語」という概念への愛を試されているような感触があります。やはり『Forest』の攻略対象は「物語」それ自体かと。

 出典を英文学に求め、洪水の如き勢いでネタを連打するのが『Forest』の基本的なノリですが、英文学への造詣が浅い当方にも「なんとなく」程度には察せられる部分が多く、あまり苦にはならなかった。巧みなテキスト遣いと絢爛なイメージに幻惑され、細かいことなど気にも留まらず。ケルトの薫り漂うBGMも最高。特に「バックパイパー」と「On the bridge」は描かれる場面との相乗効果で耳にするたび胸が躍った。「ロンドンナイト」「Ennui」あたりも好きです。

 人によって激しく好悪が分かれそうなあたりはいかにも「実験作」ってムード。だが、「ザ・ゲーム」や「傘びらき丸航海記」に見られる試みはむしろゲームとして非常にオーソドックスというか、先祖還りを起こしたような気配があります。結構シンプルなんですけど、ユーザーフレンドリーになり過ぎない構成が適度な緊張感を持っていてワクワクさせられる。元の期待がさして高くなかった分、余計に楽しめました。「こんなの、本当に売れるのかな?」と要らない心配をしてしまいますが……良くも悪くもチャレンジャーの姿勢を崩さないライアーソフト、刺激たっぷりで面白いですね。


2003-02-21.

『Forest』、コンプリート。

 テキストのパターンがたくさんあるので回収し切ったという自信はありませんが……とりあえずCGと回想は埋め終わり。今回はこれといったオマケシナリオもないみたいです。まー、本編で好き勝手やった分、オマケではっちゃける必要もないわけだし。とはいえ物足らないことは確か。仕方なく警告トラックをもう一度聞き直して飢えを満たす。本編やった後だと尚更笑えて乙。

 ひと通りプレーし終わった後にデモムービー(ないしパッケージ)を見ると、輪になって踊る5人の姿がとても微笑ましい。最初はこれを目にして「努力! 友情! 勝利!」を幾分ライアーっぽく仕立てた程度の、少年マンガテイスト香る熱い共闘譚だとばかり思い込んでいたのに、実態はまるで別物でした。おのれライアーめ。ブランド名は伊達じゃない様子。

 異色の面白さはオナカイパーイに楽しんだことだし、次回作はもっとストレートな内容の一本を味わいたいところです。けれど、きっとその期待の斜め上を行くのがライアーソフトなんだろうなぁ、と思いつつ。来年の2月を心待ちにします。


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