2024年1月〜12月


2024-12-23.

・遂に『黒白のアヴェスター Refusal─拒絶』の情報が公開されて「マジで出るんだな……」と感慨深くなっている焼津です、こんばんは。

 要するに『黒白のアヴェスター』のゲーム版です。小説版を全年齢向けにフルボイス化したもので、前編・後編のふたつに分けて発売する予定。「Refusal─拒絶」は前編に当たります。単純にボリュームが多くて分割しないと完成まで時間が掛かるから、という事情もあるだろうが「善悪二元論」をテーマにした話なので「ふたつ」にしたという面もあるでしょう。パッケージ版のリリース予定はなく、SteamでDL版のみ販売する予定。CVに関してはドラマCD版のキャストが続投ですね。そういえばドラマCDは1巻が出たきりで2巻目以降が来なかったな……。

 「で、『黒白のアヴェスター』って何?」とまったく知らない人向けに解説しようとしたらどこから手をつければいいのか迷う。「真我の果てに無慙へ至る──殺戮の荒野を行く男の軌跡」というあらすじを読んで即座に理解できるのは熱心なファンだけだろう。簡単に言いますと、『黒白のアヴェスター』は“神座万象シリーズ”という長大なサーガの一部を構成する作品です。サーガの一部ではありますが、作品としてはこれ一つで完結している。“神座万象シリーズ”は「この宇宙には『神座』と呼ばれる『そこに至った者が神に成れる特殊な領域』があって、たびたび神の交代劇が発生している。神が交代すると歴史もリセットされ、法則すら書き換えられてしまう」という設定になっており、作品ごとに雰囲気がガラッと変わるのが特徴です。これは最初から「神座シリーズ」という大きな構想があったわけではなく、シナリオライターの「正田崇」が『Dies irae』というゲームを作っているときに「話の最後で実は前作(『PARADISE LOST』)と繋がっていたことが明らかになったらプレーヤーもビックリするんじゃない?」みたいなことを考えた結果として出来上がったもので、要するに後付けだ。パラロスもディエスもストーリー構造――ラスボス的な存在が「神の創り上げた法則」を打ち砕くため非道な儀式に手を染めていて、主人公たちはそれを阻止しようとする――が共通していたから繋げやすかったんですよね。

 で、「神座に至った者」を至った順番に「第〇天」と呼び、その第〇天が治める世界を「第〇神座」と呼ぶのですが、それに倣って書けば『黒白のアヴェスター』は「第一神座を舞台に、やがて第二天に至る男が殺戮の荒野を行く話」となります。神座には誰でも到達できるわけではなく、最低限何らかの資質が必要であり、実際に至れるかどうかは別として「神座に至る資格」を有している人間を「神格」と呼ぶ。神格にはそれぞれの理念や渇望に基づく型(スタイル)があり、そうした「願い」を象徴するために漢字二文字の熟語で表すのが通例となっている。ぶっちゃけ、あだ名のようなもんです。第一天となった神格の理は「真我」、第二天となった神格の理は「無慙」ですので「真我の果てに無慙へ至る」という、予備知識のない方だと「何を言っているのかよくわからない」ってなるあらすじの一文も神座シリーズのファンなら「ああ、真我(第一天)から無慙(第二天)へ座が交代する第一神座時代のストーリーなのか」と容易に読み解けるわけだ。

 遡ること数年前、『Dies irae』のアニメ化に合わせて“神座万象シリーズ”の巨大な構想をアプリゲーム『Dies irae PANTHEON』として発表するはずだったのですが、アニメがコケたりアプリの共同開発会社が逃げたり(しかも二度も)したせいで資金が尽きて開発凍結となってしまいました。神座シリーズは第一天から始まり、第九天を最後にして終わる(恐らく神座が解体されて「神座のない世界」になる)という大枠が示されていて、『Dies irae PANTHEON』は第七神座を舞台にいずれ「最後の神」となる主人公(第九天)がこれまでの神座世界を振り返る(感覚的には超高性能なシミュレーターを使って「神座に刻まれた記録」をもとに再現された仮想神座世界へフルダイブする、みたいなノリ)……そんなゲームに仕上がる予定でした。第九天(主人公)の最初に知る神座世界が第一神座で、つまり『黒白のアヴェスター』は『Dies irae PANTHEON』の第一部として公開される手筈になっていたストーリーを再構成したものになります。『Dies irae PANTHEON』は全八部構成で各神座の歴史を疑似体験して「神座なんてモノぶっ壊した方がいいだろ」的な結論に辿り着いた第九天が、あくまで「神座のある世界」を維持することにこだわる黒幕と対決する――という“神座万象シリーズ”の振り返りであるとともに締め括りでもあるファン垂涎のゲームになるはずだったんです。“神座万象シリーズ”は2004年発売の『PARADISE LOST』が第一弾で、2007年発売(当初は未完成で、2009年にやっと完成した)『Dies irae』が第二弾、2011年発売の『神咒神威神楽』が第三弾、2017年か2018年くらいにローンチ予定だった『Dies irae PANTHEON』が第四弾(完結編)になるはずでした。「予定」「はず」ばかりの文章で打ってて本当に悲しくなる……ちなみに『Dies irae』や『神咒神威神楽』と同じ正田崇・Gユウスケコンビのゲーム“相州戦神館學園シリーズ”は“神座万象シリーズ”とは完全に別のシリーズで繋がりはありません。作中に神座シリーズの格ゲーとかも出てくるけど、お遊びレベルであって設定的な接続はない。

 『Dies irae PANTHEON』がポシャったため、『黒白のアヴェスター』が“神座万象シリーズ”の第四弾となります。2019年から2021年にかけて支援サイトで連載された小説版は既に完結しており、現在はシリーズ第五弾『事象地平戦線アーディティヤ』が連載中である。これは「神座世界が生まれた経緯」を綴るエピソード0めいたストーリーです。空位とはいえ神座そのものは存在しているため便宜上「第零神座」と呼ばれる世界が舞台になっています。ゆえに神座シリーズを発表順で並べると『PARADISE LOST』→『Dies irae』→『神咒神威神楽』→『黒白のアヴェスター』→『事象地平戦線アーディティヤ』となりますが、作中の時系列に沿って並べ替えるとアーディティヤ(第零神座が舞台、第一天が生まれるまで)→アヴェスター(第一神座が舞台、第二天が生まれるまで)→パラロス(第二神座の末期が舞台、第三天が生まれるまでを描いているが、第三天が主人公というわけではなくむしろラスボス)→ディエス(第四神座が舞台、第五天が生まれるまで)→神咒(第六神座が舞台、第七天が生まれるまで)になります。お気づきになられた方もおられるでしょうが、第三神座を舞台にした話と第五神座を舞台にした話は現状ありません(パラロスやディエスのエンディングにちょろっと出てくる程度)。第三神座の話を描こうとすると「パラロスの後日談、ディエスの前日譚」という性格が強くなりすぎるし、第五神座はジャンル的には「美少女ロボットアクション」らしいが「バッドエンドになることが確定している胸糞の悪いストーリー」なので単独の作品として成立させることが難しいんですよね。だからこそ『Dies irae PANTHEON』に組み込む形で発表する予定だったんですが……『黒白のアヴェスター』のゲーム版と『事象地平戦線アーディティヤ』の連載が完結してプロジェクトが順調ならば、いよいよ『Dies irae PANTHEON』が本格的に動き出すかも、と期待しています。正直タイトルは変えてほしいですけどね。ディエスのアニメ化に合わせてサービス開始する予定だったから『Dies irae』と付けているだけで、内容的には“神座万象シリーズ”の総決算なわけですし。シンプルに『PANTHEON』でもいいと思うけど、識別性を高めるために『八百万のPANTHEON』とか『神座万象PANTHEON』とかでもいいです。思い入れがあるのでPANTHEON表記だけは残してほしい。

 うーん、神座シリーズの解説が長くなってしまって肝心の『黒白のアヴェスター』そのものについてはほとんど触れてないな……全4巻の小説で、同人誌として少部数の発行に留まっているため単価が高く、全巻揃えると1万円近くします。「神座万象・第十四機関」という正田崇とGユウスケのサークルから出ており、今のところ「とらのあな」専売。通販でも購入できます。というか、とらのあなってもう実店舗がほとんど残ってないんだっけ。時系列上では2番目の神座シリーズ作品であり、パラロスの前日譚という側面もある(ただしパラロスの頃には神座シリーズの構想はなかったからパラロスに「アヴェスターの後日談」という性質はほぼない)。アヴェスターの時点だと神座の影響が及ぶ範囲は単一宇宙のみで、超宇宙規模で見れば割とスケールの小さい話だが、バトル面に関しては「単騎で惑星を滅ぼす」程度は当たり前、序章の時点で「500の銀河を滅ぼしてきた」キャラが登場するなど「宇宙が消滅しない程度」の範囲において神座シリーズ最強のインフレぶりを轟然と見せつけてくる。神座は「古い神が新しい神に倒されて交代する」仕組みなので天が進めば進むほど強くなっていく理屈になっていますが、それはあくまで「世界を支配する神の強さ」が増していくのであって、神や神格以外との戦闘スケールはむしろ縮小する傾向にある。ディエスも、あらすじを要約してしまえば「ナチスの残党どもが極東の地方都市で怪しげな儀式を行うため無辜の市民を殺しまくっていたところに主人公たちが巻き込まれる話」であり、敵役の脅し文句が「この街、地図から消しちまうぞ」だからアヴェスターを読んだ後に見返すと感覚が狂って「牧歌的だなぁ〜」などと錯覚してしまう。アヴェスターだと一撃で100万単位の人が死にますからね。「『ストンピングで地殻が割れてマグマが噴き出す』みたいなバカバカしいくらいのインフレバトルを大真面目に描き切った作品」ゆえインフレバトルそのものに抵抗がある人以外は神座シリーズの予備知識がなくても全然大丈夫です。全然大丈夫なのにわざわざ神座シリーズの解説をしたのは「おいで、こっちの沼は深いぞ」と誘いたくなるファンの習性。

 「もともとは『Dies irae PANTHEON』の一部だったっていうし、あらかじめ『Dies irae』の内容知っといた方がいいのかな……でもアニメの出来はアレで、ゲームの方はシナリオがすごく長いらしいし……」と迷っている方は、とりあえずディエスのことはペンディングしていきなりアヴェスターに突入しちゃいましょう。ディエスとアヴェスターは同じ神座シリーズとはいえ、だいぶ離れている(第一神座と第四神座)んで話の繋がるポイントがほとんどなく、せいぜい設定を理解する上での補助線が得られる程度。ディエスは神座設定が初めて導入された(パラロスは遡及的に導入されたから「初」とは言い難い)作品であり、神座シリーズでも特に重要な位置を占めているからいずれは触れてほしいが、後回しでもまったくOK。なお第四神座を開闢させた第四天はパラレルワールドから襲来し、宇宙ごと滅ぼして神座を奪ったうえでその支配領域を多元宇宙規模に広げたという第一天〜第三天とは別格のヤバさを誇っていて、神座世界における「中興の祖」に位置づけられる。2007年発売の未完成版では「上から目線で偉そうなことを宣いつつ、結局大したことは何もしていない」せいでファンから「ニート」と呼ばれたものですが……。

 また話が逸れた。『黒白のアヴェスター』は先述した通り「善悪二元論」がテーマで、ゾロアスター神話がベースになっています。アヴェスターの世界「第一神座」では第一天「真我」の理によって世界全体がふたつの勢力にわかれている。「善」と「悪」、あるいは「光」と「闇」、あるいは「白」と「黒」――誰しも生まれた時点で己がどちらに属しているかを直観する。陣営は血縁・地域に関係なく生じ、親子同士で殺し合うことなど日常茶飯事。それが当たり前の世界だから、誰もおかしいなどと疑問を持たない。何よりも遵守すべき本能的理、これすなわち真我(アヴェスター)。「善・光・白」サイドの戦士「マグサリオン」は立ちはだかるすべてを滅ぼし尽くしてやろう、と瞋恚の炎を滾らせている。立ちはだかる「悪・闇・黒」サイドの強敵たち、「七大魔王」――それぞれ単独で星々をも無に帰すことができる超常の魔将ども七名。魔王は全員討たねばならない、これは大前提である。且つ、討伐に時間を掛け過ぎてもいけない。時間が経てば、魔王は七を定員として補充されるからだ。星から星へ渡り歩き、時として敵どころか味方さえも血祭りに上げる野蛮な旅を続けるマグサリオン。彼の殺戮行はやがて「神」に切っ先を向けるところまで到達するが……という「ゆきゆきて、真我」な宇宙一匹狼ぶっ殺し劇場です。アヴェスターの世界では真我に対する理解が強いほど戦闘力も増加する(第一天の加護が得られる)仕組みになっており、「すべての者が二つの陣営に分かれて対立している」とはいえ超常的な強さを有しているのはひと握りで、善サイドの戦士は多い時でも100万人くらいしかいなかったらしい。とある事情で壊滅状態に陥って本編開始時点だと1000人ほどしか残っておらず、戦力的には風前の灯火である。ただ悪サイドは下剋上が頻発する社会で、七大魔王同士で争うことも珍しくないから辛うじてバランスが保たれていた。善サイドもそれこそ善戦して過去に何度か魔王を討っていますが、時間経過によって補充され、本編開始時点で七大魔王が勢揃いしてしまっている。

 魔王たちはハチャメチャに強く、それに対してマグサリオンは執念こそスゴいものの武才に関しては「凡庸」と評されており、普通に戦えば到底勝ち目なんてない。普段はバグ技みたいなのを駆使して凌いでいますが、それにも限界がある。じゃあ何を要にして戦うのか? というところで出てくるのが「戒律」という設定です。ケルト戦士の誓約(ゲッシュ)みたいなもので、自身の行動に一定の縛り(禁忌)を設けることで膨大な力が得られるって寸法だ。破ると最悪即死する。たとえば「サムルーク」という女戦士は「怪我をしても治療しない」という戒律を抱えている代わりに「怪我をすればするほど強くなる」性質を有している。ド強い戦士や魔将には何らかの形でド強い戒律が絡んでおり、それをうまく利用して戦え! って感じです。戒律を有する者はたとえそれが明確な弱点であったとしても「どうにかする」行為が禁忌に抵触するのであれば、放置するしかない。単純な力較べではなく駆け引きの余地が産まれてくるわけです。マグサリオンの戒律は進むにつれて徐々に明かされていきますが、「こりゃエロゲー化は絶対に無理だな」という内容。歴代神座の中でもっとも対人殺傷に特化した天であり、「丁寧な暮らし」ならぬ「丁寧な殺し」を徹底している。

 「星霊」と呼ばれる人外の存在がいるなど、ムードとしては異世界ファンタジー系ながら、第一神座のベースになった世界(第零神座)がスペオペみたいなワールドだったせいで「他惑星に転移する技術」みたいなSF系のギミックもところどころに残っている。他にも「転墜」(善だった者が悪に、悪だった者が善に反転する現象)など面白い設定がいろいろあって引き込まれます。書籍は紙版しか販売されておらず、電子媒体で読みたい場合は支援サイト「Fantia」に登録して記事ごとに購入するしかないみたいだが、私はFantiaやってないから詳しいことはよくわからないんだよな……紙版は↑にも書いたが全巻揃えると1万円近くするうえ本が分厚くてちょっと読みづらい。特に最終巻は厚すぎて指が痛くなる。これから入るつもりの人はゲーム版の配信を待つのがオススメです。パッケージ版の販売がないのは少し残念だが、ゲーム版が実現するだけでも充分ありがたい。ちなみにアヴェスターとは関係ないが『Dies irae 〜Acta est Fabula〜』発売15周年を記念して秋葉原でコラボカフェが開催中されていました(現在は期間終了)。メニューに関しては「正田崇氏考案」とのこと、ナハツェーラーをイメージしたイカスミパスタはちょっと食べてみたかったかな。ヴィルヘルムをイメージしたトマトジュースとか金平糖もあるんかな、と思ったけどなかった。既存絵流用とはいえシュピーネさんのグッズもあるの笑ってしまう。それにしても、ルサルカは人気があるからしょうがないとはいえ、シュライバーにポジションを奪われる正ヒロインたちの立場……そこは髪色的に玲愛先輩でもいいだろ。あと双首領のコラボドリンクはそれぞれあるのに主人公(藤井蓮)のメニューは一切ないのが不憫。司狼でさえ焼きうどん作ってもらってるのに……蓮くんに飲食のイメージがあまりない(強いて言えばプッチンプリン?)から仕方ないっちゃ仕方ないが。とりあえずコラボカフェの画像が視界に入り「おっ、この眼帯の子が可愛いな」と気になって詳細を調べた人の反応が気になるところだ。

エロカワ先生ラブコメ「よわよわ先生」TVアニメ化、「推しシーン」を選ぶ投票企画も(コミックナタリー)

 初期から追っている漫画なので嬉しい。『よわよわ先生』は不気味なオーラを発しているせいで周囲から怖がられている「鶸村ひより」、通称「こわこわ先生」をヒロインにしたコメディ。その実態は「こわこわ」どころか何をやらせても失敗するへっぽこ極まりない「よわよわ先生」だった! という感じでポンコツ教師のひよりちゃんをサポートするべく主人公の男子高校生「阿比倉くん」がラッキースケベに遭遇しつつイチャイチャと頑張るお話です。とにかく絵が良くてノリが良くてサービスシーンも多い、絶品肉増しドカ盛り具沢山チャーハンな漫画なんですよ。初期は絵柄やネタの方向が定まっておらず、ちょっとボンヤリした雰囲気が漂っていますが、割と早い段階で作風が確立して面白くなる。ひより以外のサブヒロインもいっぱい登場します、個人的には「つよつよギャル」の幼なじみと「あまあまお姉ちゃん」な阿比倉姉が好き。ここ最近の話では阿比倉くんが先生に対する想いを自覚したり、自覚はないけど先生も阿比倉くんに惹かれていたり、サブヒロインの一人が阿比倉くんに告白したりとラブコメ的な動きが激しくなっていて盛り上がっている。順当に進めば卒業までずっと我慢して、卒業後に告白して付き合い出してEND……って流れになるかなぁ。マガポケには男子高校生とヤっちゃった女性教師が主人公の漫画とかもあるから卒業前に一線を越える可能性とてなくもないが、越えたらさすがに物議を醸しそうである。いや、『よわよわ先生』ってかなりエッチな漫画なので「ぶっちゃけ一線を越えてる男女よりもエロいな」ってシーンもふんだんにあるんですけれど……「ニップレスが剥がれなくなった!」と困り果てている先生のためにあの手この手で剥がそうと阿比倉くんが努力する回とか、「教え子にニップレスを剥がしてもらおうとする教師とかおかしいでしょ! これなら健全交際してる方がマシだよ!」って逸脱ぶりなんだけど、あまりにエッチな回が多すぎて感覚が麻痺してくるんですよね。とにかく「成人指定されない範囲でエッチな漫画」が好きな人にはオススメの作品です。単行本なら乳首券も発行されています。乳首や局部を目撃する場面が多すぎて、最近の阿比倉くんは裸の女性がそばにいても動じなくなってきているんだよな……むしろデートとかの方が照れてるまであるよ。

「ヘルモード」がTVアニメ化、ハム男・藻・鉄田猿児がお祝い(コミックナタリー)

 おっ、ヘルモアニメ化するのか。「そのうちアニメ化しそう」とは思っていたけど本当にするとビックリ。『ヘルモード』は「小説家になろう」で連載中の異世界転生ファンタジー。タイトルに「はじまりの召喚士」が付くということは厳密に言うと小説版ではなくコミカライズの方がアニメ化するみたいですね。「レベルアップするまでの経験値が膨大でレベルは上がりにくいけど、レベルキャップがないので無制限に強くなれる」ヘルモードを選択した主人公が廃ゲーマー特有の飽く事なきやり込み精神によってどんどん強くなっていく話です。設定は少しシャンフロっぽいけどノリはだいぶ異なる。はじめの方は単調な経験値稼ぎ描写が続いて退屈するかもしれませんが、ある程度進むと「ここがどういう世界なのか」がわかってきてスケールやワクワク感も大きくなる。コミカライズ版は読んでないからどんな内容か知らないけど、小説版通りにやると盛り上がる前に最終回を迎えそう。いい感じにアレンジするのかな。

『メギド72』、2025年2月の7.2周年をもってオンライン版は完結、以降はオフライン版として配信の予定

 ここんところずっと復刻イベントばっかりだったし、新キャラの実装ペースも鈍っていたし、本編ストーリーもだいぶ大詰めの雰囲気だったし、薄々予感していた事態ではあるが……終わっちゃうのかぁ。実装されるメギドは8魔星の「モレク」が最後なのかな? 「8魔星」というのはいわゆる〇〇四天王とか××八部衆とか、ああいうものだと捉えてもらえればだいたい合っています。しかし、だとすると東方編のギリメカラとマガツヒ、本編のプロセルピナとレオナールはこのまま未実装なんだろうか。残り2ヶ月でどうにか間に合わせてくる可能性もあるが、さすがに厳しいと言わざるを得ない。個人的には「せめて8魔星のプロセルピナだけでも実装してほしい」ってのが偽らざる気持ち。やはりここまで来たらアジトに8魔星全員が勢揃いしてほしいです。ちなみに8魔星の面子は「ベルゼブフ、サタン、マモン、ルシファー、エウリノーム、バールベリト、プロセルピナ、モレク」。

 私が『メギド72』をプレーし始めたのは2018年11月、サービス開始が2017年12月7日ですから1周年を迎える少し前の時期ですね。「開発期間が3年半に及ぶ」という触れ込みのゲームでしたから、初期から関わっているスタッフにとっては10年物のプロジェクトになります。それだけに「作り込み」や「熱」も凄かったが、ゲームバランスを壊しかねないほど強力なキャラが実装された後に「仕様の間違いでした」という理由で修正(ナーフ)されたり、ファンの間で「暴奏族神(ジズガミ)」と呼ばれる「ギミック性の高い敵以外は概ね吹っ飛ばせる」高火力な強キャラが実装されて「とりあえず暴奏族神でゴリ押し、ダメならそのとき考える」という攻略法が一般的になったり、運営側が暴奏族神対策としてあれこれ工夫した結果難易度が高くなり過ぎて「みんなの編成」(そのクエストをクリアした人の編成とリプレイ動画が閲覧できる機能)をコピーするプレーヤーが増え、結果的に「みんなの編成」が同じようなパーティばかりになってしまい「〇〇持ってないプレーヤーはどうすればいいんだ!?」と頭を抱えるハメになる(これは〇〇持ってないとクリアできないわけではなく、〇〇がいると比較的短いターンでクリアできる――という状態。『メギド72』のバトルはターンごとのカード運が絡んでくるため、長期戦にもつれ込むと不安定な要素が増えて難しくなる)など、ゲーム面はだいぶ厳しいことになっていました。ストーリー後半のクリア報酬として入手できるキャラ「プルソン(バースト)」が非常に強力で、「ストーリーの難所はだいたい全体化プルソンで押し通れる」んですけど、プルソンを全体化するには別の手段が必要で……と「〇〇を××するための△△が必要、△△を入手するためには(以下略)」な感じで攻略手順が複雑化しすぎてしまってエンジョイ勢は途中からほとんど付いていけなくなった印象があります。

 私もしばらく放置気味でしたが一念発起して攻略を再開し、「必要なキャラはだいたい揃ってるけど、まずは各キャラの専用霊宝を獲得しないと……」って遠回りする局面が何度も生じて少しゲンナリしました。FGOはストーリーの難所なんて石割ってコンティニューすれば強引に突破できますけど、『メギド72』はギミック性の高いバトルが多いから「コンティニューしまくってゾンビアタック」じゃ通用しない局面も多いんですよね。「キャラとかストーリーは好き」というライト層がこぼれ落ちていって熱心なやり込み勢だけが残っていったのも仕方ないことだと思います。

 とはいえ、編成がうまくハマってイイ具合に回り始めたときの快感は他のゲームでもなかなか味わえない代物だったし、やっぱり独自の魅力を持つゲームではありました。集めた仲間たちはオフライン版で今後も会うことができるわけですけど、ストーリーの更新がなくなる以上、そうそう起動することもなくなるかな……と正直感じている。ぶっちゃけタブレットの空き容量がキツくなっているしなぁ。しばらくは置いておくつもりですけど……それにしてもマギレコ、スタリラ、メギドと私のプレーしていたソシャゲがどんどん閉幕してくの、なかなか寂しいですね。今やってるのはもうFGOとロスフラ、プリコネくらいかな。FGOはそろそろ第二部の完結が迫ってきているし、ロスフラも「大詰めの雰囲気」が漂っているし、プリコネも「いつまでも続く」というムードじゃなくなってきているし。「ソシャゲが生活の一部だった頃もあったな」と懐かしむ日がそう遠くないうちに訪れるのかしら。

猫にゃんの読切「魔法少女イナバ」公開中

 SNSで話題になっていたから読んだけど、かなり『劇光仮面』だコレ。むしろこの漫画のおかげで『劇光仮面』がどういう作品なのか伝わりやすくなったまである。特撮の世界にしか存在しない「ヒーローの変身スーツ」を徹底的にリアルに再現して「変身」することに情熱を燃やしている主人公「実相寺二矢(じっそうじ・おとや)」が、現実世界には存在しないはずの「本物の怪人」と遭遇してしまい……ってな話なのですが、「本物の怪人」が出てくるまでが長いのでなかなか構図を見下ろすことができないんですよね。「魔法少女イナバ」は読切なのでこれ一本で起承転結が付いており、『劇光仮面』の精髄(エッセンス)を取り出して要約したような仕上がりになっています。「どんな作品なのか伝わりにくい」状況を危惧してか、本家『劇光仮面』も御新規向けの入門的なエピソードを出したりしていたんですけど、まさかこんな形でフォロワーが湧き出してくるとは。

 劇光は連載作品なので「一般市民としてのモラル」と「変身ヒーローという劇(はげ)しい光を追い求めるロマン」の板挟みに苦しむ様子も描かれており、社会生活を送るのに支障を来すほど「踏み越えて」しまっているイナバの「城戸兎衣」とはだいぶスタンスが違うが、話としてのイカレぶりは大差ないです。鎧のように頑丈な防具は強い衝撃を受けて凹んだり変形したりすると使用者を圧迫する拷問具になっちゃう、という現象を「スチールレイヤー(鉄を着る者)たちは、これをエクゾスケレット(外骨格)の反転と呼ぶ」という説明で結んでおり、「スチールレイヤー間で常識になるって、そんなに高頻度で防具を凹ませてるの!? そもそも一部界隈とはいえ『スチールレイヤー』という概念が当たり前のように普及してるの!?」と現実感が崩れていくような酩酊を味わうことができます。今ならKindleで高ポイント還元中(12月26日まで)なので興味のある方はこの機会にどうぞ。

 話を戻してイナバ。ラストシーンといい、個人的には月村了衛の『神子上典膳』も思い出しました。「これだけの目に遭ってもまだ戦い続けるんだな……」という無限闘争者に対して向ける畏怖の感触が似通ってると申しますか。イナバを気に入った人は『劇光仮面』だけじゃなく『神子上典膳』も読もう。それはそれとして「正義のマントを覇王(はお)って参上!」という口上が好き。

ジェイムズ・P・ホーガンの“星を継ぐもの”シリーズ第5弾にして最終巻『ミネルヴァ計画』ようやく刊行

 確か去年の冬くらいに出るはずだったのに何度も延期してようやく発売したんですよね……シリーズ既刊は新版として再刊されているが、旧版の『星を継ぐもの』(シリーズ第1弾)は名作SFとして名高く、100回以上も重版されたという。星野之宣によるコミック版を読んだ人も多いんじゃないだろうか。『星を継ぐもの』の原書は1977年刊行で、翻訳されて日本語版が出たのは1980年。翻訳版から数えても40年以上経っています。月の洞窟で発見された宇宙服姿の身元不明遺体を「検屍」するため国連宇宙軍によって招き寄せられた原子物理学者「ヴィクター・ハント」――死後5万年は経過している木乃伊(仮称「チャーリー」)を前に、彼は途方もない謎の領域へ踏み込んでいくことになる……という、SFなんだけどミステリ作品みたいなアプローチで大いに興味をそそられる仕上がりとなっています。コミック版の影響もあってか『星を継ぐもの』が飛び抜けて有名で「続編が出ている」ことはあまり知られていませんけど、ハント博士が出てくる作品としてこの後に『ガニメデの優しい巨人』が上梓され、シリーズ第3弾に当たる『巨人たちの星』で一旦展開が止まったため「三部作」と認識される時代が続きました。

 『巨人たちの星』の原書は1981年刊行。その10年後である1991年にシリーズ第四弾『内なる宇宙』の原書が刊行されてシリーズは再開となります。『内なる宇宙』の日本語版刊行は1997年だからそこそこ掛かっている。そして今回発売された『ミネルヴァ計画』の原書は2005年刊行、なんと20年近く経ってやっと翻訳されたのです。作者のジェイムズ・P・ホーガンは2010年に69歳という若さで亡くなっており、シリーズ第6弾が出る可能性は消滅しました。「こんなに長く翻訳されなかったの、面白くないからでは……?」と薄々不安がっていたSFファンも少なくないが、名作シリーズの最終巻とあって無視することなど不可能、首を長くして待ち望む人が後を絶ちませんでした。1540円(税込)となかなかの価格だが、ボリュームは570ページと充分な量。シリーズ物なので最初から順番に読んでいった方がいいし、この年末年始の空いた時間にチャレンジしてみては如何だろう。ちなみにシリーズ名の表記は安定せず、昔は「ガニメデ三部作」とか「ガニメアンシリーズ」、「ヴィクター・ハント博士シリーズ」、「巨人たちの星シリーズ」など様々な呼ばれ方をしたが、結局『星を継ぐもの』が一番有名ということで「星を継ぐものシリーズ」と呼ぶのが無難という扱いになっています。あと『星を継ぐもの』とは関係ないけど、「SF繋がり」「同じくシリーズ第5弾」というだけで触れますと『戦闘妖精・雪風』の新刊『インサイト』が2月に出ます。「10年以内に出れば早い方」と言われる『戦闘妖精・雪風』ですが、今回はなんとたったの3年ぶり。

スティーヴン・ハンターの新刊『フロント・サイト1 シティ・オブ・ミート』発売、2巻と3巻も近刊予定

 狙撃手「ボブ・リー・スワガー」のシリーズで有名なスティーヴン・ハンターの新作です。スワガー物はシリーズというよりサーガの様相を呈しており、この『フロント・サイト1』はボブの祖父である「チャールズ・F・スワガー」が主人公。チャールズは『Gマン 宿命の銃弾』でも取り上げられた人物ですね。感覚的にはスピンオフ作品であり、シリーズ読者の方がより一層楽しめるだろうがここから読み始めても別に問題はない。邦訳版は三部作みたいな形で刊行されるが、公式が「スワガー・サーガ中篇三部作第一巻」と謳っている通り本来は中編作品で、原書 "Front Sight" は1冊に3つの中編を収録している。つまり日本語版は分割刊行なのだ。中編といっても270ページあるし、原書丸々翻訳したら800ページくらいになるわけだから仕方ないかな……と容認しています。さすがにトシなので800ページもある文庫本を手に持って読むのはつらい、3冊に分けてもらった方がマシである。

 続く『フロント・サイト2 ジョニー・チューズデイ』は1月刊行予定(早いところだと年内に並ぶかも)で、今度はボブの父「アール・スワガー」が主役を務めるとのこと。じゃあ『フロント・サイト3 ファイヴ・ドールズ』は何事もなければ2月刊行かな。3はボブ・リー・スワガーが主人公らしい。要はスワガー三代記であり、ここからサーガに入っていくのもアリかもしれません。私はぶっちゃけボブの娘である「ニッキ・スワガー」が大きくなってきたあたりから積んでるので、ここ10年くらいのスワガー・サーガはあまり知らないんですよね。出版社の公式サイトに原書刊行順のリスト(『囚われのスナイパー』まで)と各作品解説(『第三の銃弾』まで)があるので参考にどうぞ。基本的にどの作品もオススメだけど『四十七人目の男』はかなり珍作度が高い(『忠臣蔵』がベースなのでラストシーンは雪降る中の討ち入りだが、赤穂浪士の代わりに帯刀した自衛隊員たちがヤクザの屋敷にカチ込むという無茶苦茶な展開)から覚悟して読んだ方がいいです。あと『ハバナの男たち』はサーガ外の作品である『魔弾』(扶桑社版のタイトルだと『マスター・スナイパー』)や『真夜中のデッド・リミット』とクロスオーバーする内容でハンターファンなら大興奮間違いナシだが、単体の作品として読むとそんなに……なので注意。

KADOKAWAのセールで『強殖装甲ガイバー』の電子書籍版が1冊33円、既刊32冊を購入しても94パーセントOFFの1056円という破格の安さに!(他のサイトによるとセールは1月9日まで、ただしAmazonは早めに終わる可能性あり)

 伝説の未完作品です。1985年に連載を開始し、掲載誌を変更しながら続けてきた特撮風伝奇アクション漫画。来年で40周年を迎えますが、2016年に刊行した32巻以降はほとんど動きがなくここ数年はずっと休載しています。『redEyes』(1999年に連載開始、2022年に刊行された最新26巻以降はほぼ動きナシ)が可愛く見えてくるレベルだ。『ゾアハンター』『神曲奏界ポリフォニカ ブラック』の「大迫純一」がガイバー好きということで前々から気になっていたが、「どうにも完結しそうな雰囲気がない」という理由で手を伸ばすことを躊躇していたんですよね。Kindleだと1056円だが、ここから更に割引の利く電子書籍サイト(ebookjapanとか)で購入すればもっと安くなる。この機会に買ってしまおうかな。他のセール対象作品だと『ニンジャスレイヤー』も1冊33円が14冊で462円、ワンコイン以下なのでオススメ。あと『武装少女マキャヴェリズム』も安すぎて(全13巻で429円)つい電子版買っちゃったわ。

葉山透の『0能者ミナト』、7年ぶりの新刊で遂に完結

 ナインエスに続いてミナトも幕引きか……幽霊や化物などオカルト絡みの事件を霊能力ゼロの主人公が解決していく、という趣旨の現代ファンタジーです。「死なない死刑囚をどうやって殺すか」というテーマのエピソードなんかもあったりして、読み口としてはミステリに近い。伝奇・冒険寄りのナインエスとはまた違った魅力があるシリーズなので、完結は寂しいけれど未完のまま放置されるよりはずっといいです。あとはルーク&レイリアくらいか……さすがにアレの新刊は出ないかな。もう15年以上経ってますからね。

・今村昌弘の『屍人荘の殺人』を読んだ。

 第27回鮎川哲也賞受賞作。新人のデビュー作であるにも関わらず「このミステリーがすごい!2018年版」「2018本格ミステリ・ベスト10」「〈週刊文春〉2017年ミステリーベスト10」と3つのミステリ系ランキングで1位を獲得し、第18回本格ミステリ大賞も受賞するという破竹の進撃ぶりを見せつけた。私は刊行当初「ダサいタイトルだな」と思ってスルーしてしまったが、あまりにも評判が良かったため結局購入し、それでもなかなか気が進まなくて読み続けられない……という低意欲状態に長年陥っていました。長編は気合を入れないと読めないけど短編なら気軽にイケるんじゃないか、と本書のスピンオフである『明智恭介の奔走』を先に読むことでやっと興味に火が点きました。いろんな意味でネタバレ禁止のムードが強かった本書、2019年に映画化されて予告編でかなりの要素が明かされているので、以降はかなり踏み込んで感想を書いていこうと思います。肝心な要素はなるべく伏せるつもりですが、ネタバレに対する配慮は少ないのでこれから『屍人荘の殺人』に挑むつもりであれば読まない方が吉です。

 S県娑可安(さべあ)湖の畔に佇むペンション「紫湛荘」――神紅大学映画研究部の夏合宿が行われる場所に、我らが神紅のホームズ「明智恭介」が潜り込む。夏に若者たちが人里離れたペンションに集まって合宿するなんて、何か事件でも起きない方が不思議なシチュエーションであり、日夜「解かれるべき謎」を探し出すことに腐心する明智がこれを見逃すはずもなかった。いつもの如く巻き込まれて同行する神紅のワトソンこと「葉村譲」、そして過去いくつもの難事件を解決に導き警察からも一目置かれているという探偵少女「剣崎比留子」。かくして役者は揃い、事件の幕が上がる――ただしそれは本格ミステリというよりも、どちらかと言えばジャンル的にはパニックホラーに近かった。紫湛荘から少し離れた場所で行われたロックフェスで某機関の仕掛けたテロによりパンデミックが発生、一万人近い観客がゾンビと化してしまったのだ! 多少の犠牲を払いながらも紫湛荘へ立て篭もることに成功した一行、電波が通じなくなっているため外部との連絡は取れないが、待っていればそのうち自衛隊か何かの救助が来るはず。しかしその希望を打ち砕くように紫湛荘の内部で不可解な事件が起こり、一人、また一人と死んでいく。外にはゾンビの群れ、内には冷酷な殺人者。下手すれば全滅もあり得るこの状況、果たして生き延びることができるのか……。

 「ゾンビが大量発生する」状況によってクローズド・サークルが成立する特殊設定ミステリです。私は映画の予告編を観ていたから知っていましたが、短編集の『明智恭介の奔走』とは全然ノリが違う……! 知っていてなお『明智恭介の奔走』→『屍人荘の殺人』の順で読むとショックを受けました。『明智恭介の奔走』が『屍人荘の殺人』よりも前の事件という時点で既に嫌な予感がしていたけど、まさか明智さんがあんなことになるだなんて……メルカトル鮎みたいに1作目で退場した探偵が「時系列的にはそれより前だから」という理由で新作に登場する例はあるんですが、活き活きと名探偵を目指していた明智さんの変わり果てた姿を拝むのはやはりクるものがありますね。正直半ばゾンビ化した状態でレギュラーキャラになったりするんじゃないかって期待しちゃいましたよ。蘇った死人が探偵になるのは『生ける屍の死』みたいな前例もありますし。

 さておき「某機関のテロ」云々はシチュエーションを作り出すためのギミックに過ぎず、そのへんあまり深く掘り下げられずサラッと流されます。メインとなるのは「ゾンビが大量発生した」状況を利用してアドリブで巧みに犯行計画を組み上げる殺人者の方。トリックはもちろんのこと、動機も含めて読み応えのあるネタ満載で「評価が高いだけのことはあるなぁ」と感心しました。細部を詰めているだけで発想自体は割とシンプルというかわかりやすい。本格ミステリはマニアしか楽しめない名作もあったりしますが、これは「特定のマニア」よりも「多くの読者」に届くよう心配りされている。強いて難点を言うなら、探偵役である剣崎比留子にあまり魅力が感じられないことか。怪事件を引き寄せる呪われた体質である彼女は「名探偵」になるつもりなどさらさらなく、ただ自身がサバイブするために立ちはだかる謎を切って捨てる、その名の通り「剣」の如き存在です。名探偵に憧れる明智さんと対比する意味合いもあったのだろうが、やはり明智さんのどこか憎めないムードに比べると剣崎さんのキャラは弱いかなぁ……これはシリーズの1作目で、まだ2作目、3作目が控えているのだから早計な判断は禁物であるが。剣崎比留子シリーズは毎回特殊設定ミステリになっているらしく、次作『魔眼の匣の殺人』は「予知」がテーマとのこと。勢いに乗ってこのまま読んでいきたい。

・拍手レス。

 日記ログを漁ったりしてお勧めを啜っているのですがお勧めの小説のまとめとかはありますでしょうか?

 昔は「アバウト」のところでお勧め小説〇選みたいなの定期的にやってましたけど、もう10年以上サボっているから現状ちゃんとしたまとめはないですね……せっかくなので感想書いてないけどお勧めなの一つ触れておきますと、天祢涼の『希望が死んだ夜に』から始まる仲田蛍シリーズ。一貫して「子供絡みの事件」を扱っているので重たくてしんどいのですが、読み始めたら止まらなくなるリーダビリティの高さ。「推理力」ではなく「想像力」で事件に向かっていく蛍も印象的です。4冊目が『少女が最後に見た蛍』という短編集で比較的読みやすく、そこから入るのもアリかも。

 都市伝説先輩、紹介ありがとうございます。3話がやたらと飛ばしてましたね。シゲル。。。

 シゲル、名前だけチラッと出てきて嬉しくなりましたね。

 正田さんのツイッターで、ゲーム版「黒白のアヴェスター(前編)」が告知されていましたね。声優陣が豪華すぎて、ちゃんと資金を回収出来るか不安にぬるレベルでした

 パッケージ版が出ないところを見ると結構ギリギリなのかもしれませんね。後編の開発が楽になるくらいは売れてほしいなぁ。バカ売れしてPANTHEON再開への弾みになってほしい気持ちもあります。


2024-11-25.

ジャンプ+で始まった新連載『都市伝説先輩』がツボに入って毎週の更新を楽しみにしている焼津です、こんばんは。始まって2ページでもう面白いよこの漫画。

 読んでもらった方が早い内容だけど、一応解説。雨男が雨を呼ぶように、ただ怪奇スポットの近くにいるだけで怪異を招き寄せる都市伝説男の「くぐつ」――オカルトが大好きで積極的に怪異と遭遇したい新入生「もくめ」は、彼に頼み込んで怪異を引き寄せてもらおうとするが……というホラー系爆釣コメディです。作者は『雀児』の「平岡一輝」。くぐつ先輩も麻雀好きみたいだからそのうち「シゲル」(『雀児』のナコ先生の元カレ、ほぼ回想にしか出てこないのに読者人気が圧倒的だった)がゲスト出演するかもしれない。結構絵柄を変えてきており、若干藤本タツキに寄せたテイストを感じますね。怪異大好きなもくめちゃんと金に釣られて協力してしまうダメ男なくぐつ先輩のコンビが非常にイイ味を出しており、『写らナイんです』あたりとはまた違った魅力を醸しています。『雀児』が割と短期で終わってしまったことが悔しかったのか、「今度こそ人気出て売れて長期連載できる漫画にしてやる!」という気迫がページのあちこちから伝わってくる。2話ラスト付近で歯磨きしながらテレビ見てるもくめちゃんの尻が絶妙。

「雨夜の月」TVアニメ化決定、コミックDAYSで2巻分無料公開キャンペーンも(コミックナタリー)

 『笑顔のたえない職場です。』だけでなくこちらもアニメ化が決まったのか。『雨夜の月』は「くずしろ」の漫画作品で、2021年より講談社のWEB漫画サイトコミックDAYSで連載されている。くずしろさんは多作家で、現在4本の漫画を並行して連載しています。連載している漫画の半数がアニメ化されるなんてスゴいな……こりゃ残りの2本も時間の問題かしら。

 『雨夜の月』はいわゆる「耳の不自由な人」をテーマにした青春漫画で、ややシリアス路線の作品であるがそこまで堅苦しい内容ではないので興味本位で気軽に読み出してもOKです。タイトルは「雨で隠れた月みたいに、存在するけど見えないもの」という意味。舞台は岩手某所。ヒロインである女子高生「及川奏音(おいかわ・かのん)」は耳が不自由だけど、先天的なものではなく後天的な障害なので普通に喋れるし唇を読めば相手の言っていることはだいたいわかる、分類上は「感音性難聴」だからまったく聞こえないわけではなく少しは音が拾える、しかし「なんでろう学校に通わないの?」「手話なんて知らないんだけどー」「本当に聞こえていないの?」という周囲の無神経な反応にウンザリしており、「理解してもらうこと」をほとんど諦めて殻の内に籠もるような生活を送っている。主人公の「金田一咲希(きんだいち・さき)」は隣の席ということもあり奏音と仲良くなろうと話しかける。どんなに突き放しても引き下がらない咲希の粘り強さに頑なだった奏音も徐々に心を開いていく。縮まる距離に咲希が抱くのは「友情」か、それとも……っていう百合の香り漂うストーリーです。

 なんと申しますか、「話が面白い」というより「雰囲気が良い」漫画なんですよね。奏音をキッカケに「耳の不自由な人」への関心を抱く咲希ですが、自分の中に偏見があることに気づいて悩んだり迷ったりする。主人公をはじめとしていろんな人物の思考と感情を繊細かつ丁寧に描いており、あまり派手な展開はないけれど自然と引き込まれます。クールに見えて寂しがりやで距離感がバグっていて「〇〇のときに来るよ」と言ったら「〇〇がなきゃ来ないのね」と面倒臭い彼女みたいなセリフを吐く奏音も可愛い。ぶっちゃけ奏音と咲希がどんどん仲良くなっていってお互いを意識しまくる様子をニヤニヤ見守るという野次馬的な面白さがあることも否定できません。「なんか暗そうだし、肩肘張って読まなきゃいけないような息苦しさを感じる」とパスしたくなる人もいるかもしれませんが、「コメディではない」というだけであってニヤニヤしたりフフッとなるところも多い漫画ですからそこまで構えなくても大丈夫です。ゆっくり進行だったストーリーが大きく動き出すのは単行本でいうと4巻あたりゆえ、そのへんまでを目安に読んでもらえれば。

 ちなみにくずしろ作品はだいたい繋がっているというか同一世界が舞台になっているので、『笑顔のたえない職場です。』の方にも『雨夜の月』のキャラが出てくる回があります。第49話の「しかと見学していくといいわ!!」、奏音たちが修学旅行中に会社見学として出版社を訪問するエピソードです。特に名前出してキャラ紹介とかはしていないので、『雨夜の月』を読んでいない人は「可愛いモブキャラ」と思うかもしれない。以前ショートアニメ化した『犬神さんと猫山さん』のキャラたちも会社見学に来ていて懐かしさを感じてしまいますね。

ネクストン系列のレーベル「エムズトイボックス」のブランド「だーくワン!」より新作エロゲ『催眠性指導 -Secret Lesson-』、12月20日に発売予定。既にマスターアップ済。

 少々長ったらしいタイトルになってしまったが、要するに「ネクストンというゲーム会社」に属している「エムズトイボックスというレーベル」の中にある「だーくワン!というブランド」から『催眠性指導 -Secret Lesson-』という新作エロゲが出るってことです。「レーベルとブランドって何が違うの?」と申しますと、実はそんなに違いはありません。昔は一つのブランド(銘柄)でいろんなエロゲを出してるところもありましたが、陵辱ゲーを出した後に純愛ゲーを出したりするとその純愛ゲーにハマった人が「このブランドの過去作をプレーしたい!」とうっかり陵辱ゲーに手を伸ばしてしまって「全然違うやんけ!」とメーカーへ苦情が飛んでくることもあったので、業界全体が「作風やジャンルに応じてブランドを使い分ける」方向に進んでいきました。仮に「かもめソフト」というブランドがあった場合、最初はまぜこぜでいろんなソフトを出していたけど途中から明るくて恋愛重視のエロゲを出すときは「かもめ白」、暗くて陵辱色の強いエロゲを出すときは「かもめ黒」から発売することにした――って感じですね。「かもめソフト」というブランドの中に「かもめ白」と「かもめ黒」というブランド内ブランドが新設されたわけです。これは途中で使い分けることを思いついたから「ブランド内ブランド」という入れ子みたいな形になったわけで、最初から使い分けるつもりで管理部門を立ち上げた場合はブランドというよりレーベルになる。「エムズトイボックス」は複数のブランドを取りまとめる位置にあって、これ自体をブランドと呼んでもそんなに間違いではないが、少なくとも今のところ「エムズトイボックス名義で直接発売したソフト」は存在していません。必ずだーくワン!みたいな「レーベル内ブランド」からソフトをリリースしています。つまり昔よりもブランドの使い分けが細かくなった結果ややこしくなっちゃってる、というだけのことだ。

 さて、そろそろソフトそのものの解説に移ろう。『催眠性指導 -Secret Lesson-』はだーくワン!にとって7本目(『搾精病棟』シリーズをひとつにまとめた『搾精病棟 〜COMPLETE〜』もカウントするなら8本目)のソフトに当たる。だーくワン!のデビュー作『催眠学習 -Secret Desire-』と同じく「原画:愛上陸」「シナリオ:NATORI烏賊」という布陣で制作されており、タイトルが似ているから続編や関連作のようにも見えるが話そのものの繋がりはない。舞台も異なる。ひょっとすると設定上は同一世界なのかもしれないが、あくまで「ひょっとすると」レベルなので基本的に別ゲームと考えていいです。原画を担当している愛上陸が同人誌として展開していた『催眠性指導』シリーズが元になっており、このシリーズで名前の売れた愛上陸(個人ペンネームではなく「waon」と「越前」の共同ペンネーム)をイラストとして起用したのが『催眠学習』というエロ小説で、それをゲーム化したのが『催眠学習 -Secret Desire-』――だから実は『催眠性指導』の方が『催眠学習』よりも展開期間の長い作品なんです。最初の同人誌が2016年発行だからもう8年もやってますね。『催眠性指導』は全校集会で全学生に催眠術を掛けた眼鏡で肥満気味の主人公「田中はじめ」が性指導という名目でいろんな女の子を欲望の捌け口にする、非常にシンプル且つエロい話だ。どういう経緯で催眠術を習得したのかとか、そんなまどろっこしい説明は一切しない。一時的に催眠を解いて正気に戻らせる、という催眠モノにありがちな展開も排しており、最初から最後までずーっと催眠に掛かりっぱなしの状態が維持されている。田中はじめが童貞を捨てた瞬間についても言及されておらず、ストーリー開始時点で既に性指導という異常な行為に慣れ切っています。設定マニア的にはもっといろいろ細かい設定を知りたいところだが、そんなのいちいち掘り下げても読者への奉仕にはならないから……と、あくまでお手軽・お気軽に催眠エロを楽しみたいライト層向けに時系列だの整合性だのをあまり気にしなくて済む大らかなノリを貫いています。

 『催眠性指導 -Secret Lesson-』はそんな『催眠性指導』シリーズのゲーム版ですが、かなりオリジナル要素が強く、どちらかと言えばアナザーストーリーの類です。公式サイトで紹介されている「女性キャラクター」14名のうち、原作に登場するのは「御影友姫」「藤間渚」「高梨雫」「鈴村香帆」の4名のみ。残り10名はすべてゲーム版オリジナルヒロインです。原作キャラである4名にしても、担当回があるのは御影友姫だけで他はみんなチョイ役ばかり。ゲーム版には「結城愛莉」という性指導の助手がいますが、原作にはそもそも助手なんて存在しません。感覚的にはもはや『催眠性指導』の設定を借りた壮大な二次創作である。シリーズのファンからすると未知がいっぱいで楽しみな一方「原作のメイン級ヒロインたちは登場しないの?」と不安になるが、エムズトイボックス広報曰く「HPでのご紹介は14名ですが、EVでの登場するキャラはこれまでのシリーズ(一部除く)ヒロイン+αです」。一部除く、ってことは小説版のオリキャラである椚木詩織・佳織母娘とか朝岡和季は出てこないのかな? 原作ヒロインはチョイ役や「ほぼ名前だけ」の子も含めると25人くらいいます。『催眠性指導5』のヒロインとして予告されている「柊鈴香」は小説版で田中はじめの幼なじみとして登場しましたが、『催眠性指導5』が出ていないせいでまだその設定が生きているのかどうかも定かではない。ゲーム版のオリキャラも足すと総勢40名弱、参加する声優の数も凄いことになっていて「抜きゲー界のアベンジャーズ」とまで豪語する人もいます。シナリオ容量は3.5MB以上、この数字ではピンと来ないかもしれませんが文庫本に換算するとおよそ10冊分。同じエロゲで比較すると『Fate/stay night』よりは短いけど『装甲悪鬼村正』よりは長い、くらいのボリュームです。イベントCGの枚数は131枚、差分抜きで100枚を超えるソフトは珍しいのでこれも結構な量だ。CG枚数に関しては体系的に調査・比較している人が少ないので私もよく知らないんですよね……確か10年かけて作った『仏蘭西少女』が165枚だったっけ。

 エロゲの常として初回限定版が用意されていますが、注目すべきはそのお値段。なんと16500円(税込)。昔は8800円(税抜)がエロゲのフルプライスでしたが、ここ数年で9800円(税抜)が新たなフルプライスの基準となり、1万円超えることが珍しくなくなったとはいえ複数のソフトを詰め合わせたパック版ではない新作が15000円(税抜)とは。もはやオーバードプライスである。私みたいなほぼエロゲから引退した「元エロゲーマー」からすると「フルプライス2本分」の価格であり最初は目を疑いましたよ。間違えて豪華版(抱き枕カバーとか付いてくるやつ)か何かをチェックしちゃったかな、って。特典付きダウンロード版も同じ価格で、特典なしのダウンロード版は少し安くなりますがそれでも13200円(税込)。分割してチマチマ売られるよりはまとまってドンと出してもらう方がいいし、好きなシリーズではあるので購入することにしました。しかし、この歳になってもまだNATORI烏賊がシナリオ書いたエロゲを買うことになろうとはな……抜きゲー、それも催眠モノを得意とするライターで、かれこれもう20年以上もこの業界で飯を食っている古参です。『催眠学習』は買おうかどうか迷って結局買わなかったけど、せっかくだからこの機会にDL版をポチっちゃおうかしら、とFANZAにアクセスしたら「購入済み」と表示されて驚愕。ああ、そうだ、去年セールで安くなっていたから勢いでポチったんだった。バタバタしていてすっかり忘れていました。セールで衝動買いした挙句に忘れてしまう、私もそんな人間になってしまったんだな……。

・今村昌弘の『明智恭介の奔走』を読んだ。

 映画化もした『屍人荘の殺人』のスピンオフに当たる短編集。小説に出てくるような名探偵に憧れる大学生「明智恭介」をメインに据えており、『屍人荘の殺人』よりも前の出来事を描いている。『屍人荘の殺人』の冒頭で明智さんと出逢い、これまでの今村作品で活躍してきた探偵少女「剣崎比留子」は登場しない。って、こう書くと「まさか明智恭介さん、『屍人荘の殺人』で死んじゃうの? だから時系列的に『屍人荘の殺人』より前の話しか紡げないのでは?」と不安になるかもしれませんが、その疑問にお答えしますと……知りません! 『屍人荘の殺人』は評価が高いから何度か読もうとしたけれど、盛り上がってくる前に他の本が読みたくなって放置し、「映画化決定」の報せを聞いて興味が再燃したから発掘して読み直そうとしたけど途中でまた別の本が読みたくなって放置……というような行為を繰り返したため、未だに通読できていないのです。さすがにこの『明智恭介の奔走』を読んでやっと本格的に取り組む気持ちが湧いてきたが、記憶があやふやすぎて一からまた読み直しています。なので安心してください、今回の感想に『屍人荘の殺人』を始めとする剣崎比留子シリーズのネタバレは一切ありません。読んでないんだからやりようがない。そして『屍人荘の殺人』をまともに読み通していない私でもしっかり楽しめたので、ここからいきなり読み出してもまったく問題ありません、と太鼓判を押しておく。

 関西では名の知れた私大である「神紅大学」にはミステリ系のサークルがふたつある。最近流行りのライトミステリを中心に浅めのファン(ヴァン・ダインや都筑道夫の名前すら知らないレベル)が集まる大学公認サークル「ミステリ研究会」と、古典作品や本格推理をこよなく愛するマニアックな大学非公認サークル「ミステリ愛好会」――ミス愛の会長である三回生「明智恭介」は「本物の名探偵」になるべく方々に名刺を配って依頼を募っている、誰がどう見ても変わり者の大学生だった。同じミス愛に所属する(というか明智以外で唯一の会員である)「葉村譲」は、若干不承不承ながらも助手役として様々な事件に関わることとなるが……。

 殺人事件は発生せず、せいぜい盗難レベルの事件が起こる程度。地味と言えば地味な内容のミステリですがそのぶん興味を「謎解き」に絞っており、「長編ミステリはしんどくてなかなか読み切らないから短編くらいでサクサク読めるミステリが欲しいなぁ」という私の気分にうってつけな一冊でした。全体が300ページ弱、短いのだと40ページ切るくらいで、長くてもせいぜい70ページ程度。少し空いた時間にチマチマ読むにはちょうどよいボリュームと言えましょう。明智恭介のネーミングはたぶん「明智小五郎」と「神津恭介」から来ているんでしょうが、「葉村譲」は「葉村晶」と「信濃譲二」あたりが由来なのかな。では各エピソードの紹介と感想に移ります。

 「最初でも最後でもない事件」 … 雑誌掲載時は「明智恭介 最初でも最後でもない事件」でしたが、書籍収録に伴って改題されている。今はほとんど使われていない神紅大学の旧サークル棟に窃盗犯が忍び込んだ。幸い容疑者はすぐに確保されたが、当人は「自分以外にも侵入者がいて、そいつに襲われて気絶したんだ」と証言する。前科があり、頻繁に嘘をついて証言をひっくり返すこともある男だっただけに警察は「単に転んで気絶しただけだろう」とまともに取り合わなかったが、明智恭介は「別の侵入者がいたと仮定して推理しよう、その方が話として面白い」と事件へ首を突っ込んでいく……存在したかどうかもわからない「謎の侵入者」を巡って「神紅のホームズ」を自称する明智恭介が事件解決に乗り出す、本書の中では比較的オーソドックスなストーリーの一編。真相だけ見るとそんなにスゴい話ではないのだが、そこに辿り着くまでの道筋が丁寧で読ませる。何より明智恭介のキャラが魅力的で、「名探偵なのか、はたまた迷探偵なのか」と彼の行動から目が離せません。一発目としては充分な内容でしょう。

 「とある日常の謎について」 … シャッター通りと化している寂れた商店街「藤町商店街」に位置するボロビルが、なんと2000万で売れたという。誰が、いったいどんな理由でそんな大金を払ってボロボロのビルを買ったのか? 居酒屋で常連客たちが話す「日常の謎」に、アロハシャツ姿の一見客・明智恭介は嬉々として嘴を突っ込んでいくが……この作品はミステリ好きの間で有名なとあるエピソードを下敷きにしており、そのエピソードを知っているか知っていないかで反応が変わってくる一編です。ちょっとネタバレになりますが、繰り返し書店が出てくる割に何か本を買ったという描写が一向に出てこないので「ん? ひょっとしてこれ、アレのオマージュなんじゃないか?」と私も途中で気が付きました。それぐらい有名なエピソードなんですけど、そこを解説しちゃうと面白みがなくなるので触れられないというジレンマ。寂れた商店街にも「寂れる前」があったことを淡々と綴る話でもあるので、「とあるエピソード」を抜きにしてもしんみりした雰囲気に浸れます。

 「泥酔肌着引き裂き事件」 … 雑誌掲載時は「泥酔肌着切り裂き事件」だったので微妙にタイトルが変わっている。ある夜、飲み会で泥酔した明智をタクシーに乗せ、マンションに送り届けた葉村。翌日明智から呼び出されて彼の部屋に向かうと、玄関に引き裂かれていた黒い布が落ちていた。「これは昨日、俺が穿いていたパンツだ」 泥酔していたせいで記憶が残っていない明智は、なぜパンツがビリビリに破れているのかという心底どうでもいい謎を一緒に推理しろと強要するが……本書の中でもっともバカバカしい事件を描いた一編。というか明智さん、黒パンツ穿くんだ……「生けるミステリ」である明智さんを観察するのが趣味という葉村もさすがにこれは「バカミス」だと気乗りしません。「バカミス」とは「バカバカしいミステリ」を指すスラングであり、罵倒的な表現のため定義が難しく、たとえ誉めているつもりであっても安易に「〇〇はバカミス」などと決めつけると論争っつーか喧嘩になりかねません。『六枚のとんかつ』みたいに自覚的なギャグとして書いてるパターンもありますけど、あれはあれで「わざとバカバカしく書いていてシラける」という意見もある。「大真面目に書いた結果としてバカミスになるのが至高」と主張する派閥もあってなかなか複雑なんです。さておき「泥酔肌着引き裂き事件」、状況こそバカバカしいもののミステリとしては真面目にロジック展開しており、短編作品としては本書随一の仕上がりかもしれません。ページ数も少ないし、「試しにどれか一編だけ明智恭介モノを読んでみたい」という方はこれをチョイスしてみるのも一つの手である。

 「宗教学試験問題漏洩事件」 … 神紅大学の宗教学を担当する柳教授の研究室が何者かに荒らされ、金庫の中に仕舞っていた期末試験の試験問題を収めたUSBが盗み出されたという。大学側は大事にしたくないからと警察に届け出ず、内々で処理する方針を固めた。当然宗教学の試験問題は作り直しとなる。そう、盗難なんて発生したら「試験問題の作り直し」になるのは当たり前、犯人はそんなこともわからずにUSBを盗み出したのだろうか? たまたま騒動の際に近くに居合わせていつもの如く首を突っ込んだ明智恭介は、犯人の思惑もさることながら「関係者の誰にも犯行が困難だった」状況に頭を悩ませる。ページ数の割にはやや複雑なシチュエーションを描いており、「謎解きの密度」を重視する人にとっては美味しい一編だろう。個人的には「さすがにちょっと無理があるんじゃないかな」と感じたので評価が下がってしまったけど、このトリックに納得できる人ならば本書随一の面白さと思えるかも。ちなみにこの事件、『屍人荘の殺人』冒頭で名前だけ触れられていたものでようやく全容が明らかになったわけですが、作中で新たに「版権イラスト大量投下事件」なるものに言及しておりまだまだ語られざる事件が存在する罠。

 「手紙ばら撒きハイツ事件」 … 依頼人の管理するアパートで、ストーカーとおぼしき人物の綴る気持ち悪い手紙が複数の住人のポストにばら撒かれていた――どうせ警察はまともに捜査してくれないだろうから、と探偵事務所に持ち込まれた依頼。所長の田沼は、人員不足から仕方なくアルバイトの大学生・明智恭介を伴って現場に向かうが……明智恭介のバイト先である「田沼探偵事務所」を描いた一編。田沼所長が語り部を務めており、いつもは探偵役として葉村を振り回す明智さんが助手役に回っているのがなかなか新鮮です。普通、ストーカーは特定の人物にしつこく付きまとって迷惑な手紙を投函し続けるものなのに、なぜこのケースでは複数の住人に手紙がばら撒かれているのか? これじゃストーカーというよりアパートそのものに対するイヤガラセではないか。捜査の端緒が掴めずに苦労する田沼所長、一方明智さんは助手として役に立とうと奮起するが、どうにも空回りしてしまう。明智さんがまだ一回生だった頃、つまり2年ほど前のエピソードなので葉村とも出逢っておらず、ちょっと頼りない感じです。これを初々しいって捉える人と、「もっと自信満々の明智さんが見たいんだよ!」って人とで読み口は異なってくるでしょう。謎解き面は「構造がやや複雑だけど解決の道筋はシンプル」という印象。

 読めば読むほど名探偵になりたくて努力している、変人だけどいじらしいワナビーな明智恭介が愛らしくなってくる一冊。表紙見返しに「待望の<明智恭介>シリーズ第一短編集!」と書いてあるから恐らく第二短編集や第三短編集も出るはずだが、それはそれとして『屍人荘の殺人』以降で明智さんがちゃんと生きているのかどうか不安になってきたな……早く『屍人荘の殺人』を読み終えたい気持ちと読むのが怖い気持ちが鬩ぎ合う。いや迷ってたってしゃあない、肚を決めるか。次回更新までに読み通して感想書きます、と宣言しておこう。

・拍手レス。

 しなこいもマキャヴェリズムも続いて欲しかった……。WADARA購入したので読むのが楽しみです!

 つくづく残念……MADARAはさすがに今読むと時代を感じる部分が多いですが、熱気というか「当時の少年少女が夢中になった壮大でワクワクするムード」は伝わると思います。


2024-11-15.

・ふと気が向いて『しなこいっ』を読み返した焼津です、こんばんは。やっぱ面白ぇ〜。

 アニメ化した『武装少女マキャヴェリズム』のコンビによる連載デビュー作です。一応マキャヴェリズムとも繋がるポイントがあるけど、作品としては独立している。結構古い漫画で、連載開始はもう15年以上も前……15年!? 自分で解説していて時の流れに愕然としてしまった。もともとは「ジャイブ」という会社が出していた月刊誌“コミックラッシュ”の連載作だったんですが、ラッシュの紙書籍版が終了し電子書籍に完全移行する際、「紙媒体で続けたいから……」という理由で2011年に“月刊少年エース”へ移籍。タイトルは『竹刀短し恋せよ乙女』に変更されました。移籍作品はストーリーが途中から始まるせいもあって人気が伸びにくく、2013年に連載終了。ハッキリ言ってしまえば打ち切り作品です。しかしなんだかんだ5年も続いたマンガではあるので、リアルタイムで読んでいた私にとっては結構思い入れのある一作だ。作画面でちょっと……な部分はあるにせよ、勢いと熱があって読み返すに足る面白さを備えている。ちなみに、無印の『しなこいっ』(全4巻)はジャイブ時代の単行本で、『完全版 しなこいっ』(全2巻)は移籍に伴ってKADOKAWAから刊行されたものであり、収録内容は「ジャイブ時代の単行本+単行本未収録エピソード+連載前の読切」となっている。このためジャイブ時代の単行本→『竹刀短し恋せよ乙女』の順番で読むと単行本未収録エピソードが抜けてしまうためストーリーが繋がらなくなります、注意。

 個人的には面白いと思っていますが、ストーリーにおける重要ポイントの説明を後回しにし続けたせいで全体像がわかりにくいという欠点があり、読み出した人は「剣戟モノだということはわかるけど話がよく見えない」と戸惑うかもしれません。整理していきましょう。『しなこいっ』はダブル主人公制で、男主人公の「榊龍之介」と女主人公の「遠山桜」がいます。物語は男主人公である龍之介の母「辰子」が立ち合いのさなかに命を落とすシーンから始まる。辰子の命を奪った相手は「鳴神寅(とも)」。龍之介は母の仇である寅を討つために旅立つ……という筋書きであれば「ほう、復讐モノか」とすぐに呑み込めるでしょうが、『しなこいっ』のストーリーはやや捻れており、龍之介が倒そうとしているのは仇の寅ではなくその娘、「鳴神虎春」なのです。寅は消息不明になっており、「娘である虎春が殺したのではないか」と噂されている。鳴神家の当主だった(高齢のため現在は退いている)「忠勝」は裏社会に根を張る「組織」の創始者であり、その影響力をもってすれば人の死を隠蔽するぐらい容易だという。龍之介は虎春の居場所を掴むため、鳴神家と関係のある道場を巡って道場破りの真似事を繰り返しており、ある日女主人公「遠山桜」の通う道場を襲撃する――という形でふたりの物語がクロスしていく。女主人公「遠山桜」は「短剣道」という短い竹刀(55センチくらい)を使う競技の選手で、本人は組織云々についてはまったく知らないが、祖父の「荒馬」が組織と関わっていた。荒馬は「番号持ち」という幹部クラスの存在であったが、組織における「番号」の意味合いが変わってきたこともあってその立場から降りようとする。すんなり足抜けとは行かず揉めたみたいで、組織の関係者たちが接触した直後に不審な死を遂げている。「組織の関係者たち」と迂遠な書き方をしたが、ハッキリ書いてしまえば鳴神忠勝と鳴神寅のふたりであり、鳴神家は桜にとっても仇の可能性が高いんです。道場破りということで最初は険悪な出遭いとなってしまった龍之介と桜のふたりですが、敵が共通しているらしい(あと龍之介の母である辰子は桜にとって憧れの剣士だった)とわかってきて共闘する運びに。そんな二人を「番号持ち」の刺客が次々と襲い掛かる……大枠としてはこんな感じです。

 「組織」はあくまで物語を動かすためのギミックであり、フレーバー程度の設定しかなくそこらへんはあまり深く掘り下げられない。「恋せよ乙女」というくらいなのでラブコメ要素もあるけど、正直弱め。あくまでバトルに次ぐバトルが読みどころの剣戟アクションです。刺客だったり味方だったりする「番号持ち」は一番から十一番(予備)まで11人いますが、打ち切りのせいでまともに出番のない奴もいる。ちなみに女主人公の桜は当人の与り知らぬところで勝手に「六番」に認定されている。この番号、単純な強さの序列を示しているのではなく別の意味が込められているものの、経緯がわかるのはだいぶ先。「なんで番号持ちに認定されたヒロインが他の番号持ちに襲われるのか?」というのが複雑なところで、簡単に言うと「組織も一枚岩ではないから」になるんですが……番号持ちは組織の創始者である鳴神忠勝に盲従する「忠勝派」と、老耄がひどく暴君と化しつつある忠勝に付いていけなくなってきた「反忠勝派」、現在の鳴神家当主であり忠勝とは異なる思惑を抱いている鳴神虎春を中心にした「虎春派」の三陣営に分かれていて、桜を番号持ちに加えたいのが忠勝派、桜を組織のゴタゴタに巻き込みたくないのが反忠勝派、桜を排除したいのが虎春派――スタンス的に手が取り合えるはずの反忠勝派と虎春派が「保護か排除か」という桜の処遇などを巡って対立してしまっているので組織に蔓延る忠勝派を駆逐できないでいる。こうした詳しい事情が最終話の手前あたりでようやく判明するんですよね。打ち切りが決まって「もう尺がないから」と重要人物が次々と公園に集まってくるエピソード「かくして役者は総て壇上に」、勢いが完全にソードマスターヤマトのそれで笑ってしまう。

 最終決戦は見開きでイメージが描写された後、バッサリとカットされています。最終決戦の前に龍之介と虎春の決着は既についていたんで、「最低限ファンのやってほしかったことは叶えてくれた」と言える。まともな戦闘シーンがなく、ほぼ顔見せだけで終わってしまった「三番」の「因幡月夜」も次回作『武装少女マキャヴェリズム』のメインキャラになったしVtuberにもなったから扱いとしてはだいぶ恵まれている方だ。なおマキャヴェリズムの後半には虎春も出演している。一番可哀想なのは「八番」の「八寝間齋天」(『しなこいっ』では「八寝間齊天」だったが、どっちが正しいのかよくわからない)か……本来なら桜が次に戦う相手となっていたはずの棒術使いで、対八寝間戦を想定した修行も長めに積んでいたのに。桜の師匠「猪口安吾」(十一番)とも因縁があるらしいが、尺不足で詳細は霧に包まれている。というか若い頃の安吾師匠、何度見ても別人だなこれ。あの顔から速水奨(ドラマCDでCVを担当した)の声が出るってマジ? あとは「生死不明」という扱いにしてしまったせいで回想にちょこちょこ出てくることぐらいしかできなかった寅さん、顔芸しながら「おしまい おしまい」と嘯くシーンが好きなので残念でした。生きているのか死んでいるのかはハッキリしましたが、尺がないから「ハイ、この話題終わり! 次!」ってなっちゃうのが悲しい。いろいろともったいないところがあるマンガですけど、やっぱり好きだなぁ、と再確認しました。

『MADARA ARCHIVES』電子版がセール、全巻購入でも396円という破格の安さに、11月21日まで

 『MADARA』の豪華愛蔵版として刊行された『MADARA ARCHIVES』、全部で4セットあって各セットごとに単行本3冊が収録されているんだから1冊あたり33円(税込)になるわけでメチャクチャ安い。通常だと16280円だから概ね98%オフですね。ちなみに電子版はセット版だけでなく単巻版(各単行本をバラ売りしたもの/全12巻)もありますけど、セール対象はセット版のみ。単巻版は対象外なので間違えないよう注意しましょう。

 MADARAについて語り出すと思い入れが深いせいもあって長くなり過ぎてしまうので詳しいことは割愛して、概要のみザックリと。MADARAとはもともとゲーム雑誌に連載されたマンガであり、掲載媒体の関係もあってセリフは横書き、ページを開く方向も逆だから慣れないうちは戸惑うかもしれません。原作者である大塚英志がゲームの企画として考えていたネタであり、導入で察する人も多いだろうが手塚治虫の『どろろ』がベースになっている。生まれてすぐ化物たちに体のあちこちを奪われ、義手や義足などのカラクリ(ギミック)で補っている主人公「マダラ」が己の出生の秘密を辿りつつ壮絶極まりない闘争へ身を投じていく貴種流離譚なヒロイック・ストーリーで、本来の体を取り戻せば取り戻すほどギミックがなくなり弱体化していく……という「レベルアップして強くなる」通常のRPGとは逆に「レベルダウンして弱くなっていく」というのが企画コンセプトでした。作画を担当した田島昭宇(FGOでテスカトリポカのキャラデザをした人)の技術向上は凄まじく、初期と終盤ではほとんど絵柄が別物になっている。

 原作の大塚英志が勢いで「MADARAは108の物語から成る」と宣言したせいで途轍もなく構想規模の大きい物語となってしまったが、実際に108個もストーリーがあるわけではないのでそこは安心してほしい(108の内訳は「8の本編と100の外伝」なのだが、そもそも本編が8個もありません)。メディアミックスも盛んだったし、「これ本当に108の中に入れていいのか?」と迷うようなスピンオフ(『幼稚園戦記まだら』とか『少年忍者バサラくん』とか)まで含めると全容を掴むのも困難な一大プロジェクトながら、『MADARA ARCHIVES』はプロジェクトの「芯」に当たる部分――「田島昭宇が描いたマンガ作品」のみを収録している。

 まず『魍魎戦記MADARA』、すべての始まりとなったマンガです。他と区別するために「MADARA壱」と呼ぶこともある。セット版と1セット目と2セット目、単巻版の1〜5巻がコレに当たる。ゲーム雑誌で連載されていたマンガなので突然ステータス表示が出てくるなど「ゲームっぽい演出」が加えられていたが、ARCHIVESではステータス表示がなくなって普通のマンガっぽくなっています。出だしは「人間vs化物」というオーソドックスなファンタジーだが、進むにつれてどんどんスケールアップしていく。人気が出たおかげでゲーム化も果たしたけれど、「ファミコンソフトの発売に合わせて完結させないといけない」事情もあって終盤はやや駆け足気味。マダラはラスボス「ミロク」を追うべく次の戦場に向かって時空超越し、「戦いはまだまだ始まったばかりだ」というところで終わる。MADARAのキャラたちは何度も転生を繰り返して時代と舞台を変えて争う、いわゆる「転生戦士モノ」(現在なろう等で流行っている異世界転生モノとはだいぶノリが異なる)なんですが、全員が全員同じタイミングで転生するわけではないので若干のラグが生じることもある。

 その「ラグ」を描いたのが『魍魎戦記MADARA赤』、マダラたちが先に転生して取り残される形になった「聖神邪」をメインキャラに据えたエピソードで、時系列的には「MADARA壱」の後日談に当たる。「赤」は「アカ」ではなく「ラサ」と読む。人間同士の争い(一部人外化してるけど)が軸になっている。私が初めて読んだMADARA作品であり、田島昭宇の画風には衝撃を受けたものでした。セット版の3セット目、単巻版の7〜9巻が該当します。似たようなタイトルとして『MADARA青』(全5巻)があるが、これはもともと『ギルガメシュ・サーガ』というタイトルで発表していた「花津美子」のマンガ作品であり、MADARA関連作品ではあるがARCHIVESには収録されていない。同題のせいでややこしい「MADARA青」(田島昭宇が描いた短編)は『MADARA転生編』に収録されています。赤が完結した後『多重人格探偵サイコ』の連載が始まったこともあり、以降は田島昭宇がMADARA作品に本格的に取り組むことはなくなりました。

 『魍魎戦記摩陀羅BASARA』は「MADARA壱」や「MADARA赤」よりもだいぶ後――つまり「転生後」のストーリーを紡いでいる。「伐叉羅(バサラ)」という少年が主人公だから現在は「BASARA」となっているが、連載当時のタイトルは『魍魎戦記MADARA摩陀羅弐』。なので旧来のファンは「MADARA弐」や「摩陀羅弐」と呼ぶこともある。作中の時系列的には壱→赤→弐だが、発表順は壱→弐→赤です。セット版の4セット目(ラスト)、単巻版の10〜12巻が該当。大塚英志が「108の物語」云々と大風呂敷を広げたのもこのMADARA弐あたりからだったそうだ。転生後ゆえ大幅に状況が変わっており、MADARA壱の続編として読もうとすると最初は「???」になるかも。そもそもMADARAにおける「転生」はメディアミックスによるシェアワールド化を想定してか細部が物凄く曖昧になっている。これがたとえばガンダムの宇宙世紀モノであれば、後付けだらけとはいえ年表を持ち出して「ここらへんの出来事」と指すことができますけど、MADARAは転生する先が「同じ世界の別大陸」ということもあれば「まったくの別世界(パラレルワールド?)」ということもあり、転生の順序がハッキリせず年表に起こすことができないんですよ。「時空を超越する以上、過去に転生することもある」ので、もう何が前世で何が来世なのかワケがわからない。設定上「転生編」が最後ということになっているけど、MADARA壱が最初というわけではない(壱よりも昔に当たる「マダラの前世」が存在する)し、起点や経路を図にすることができない。とにかく俯瞰して見下ろそうとしても手掛かりが少なすぎるんです。

 『MADARA転生編』はMADARAにおける「108番目のエピソード」、つまり完結編に位置づけられる。ラジオドラマとして放送されたらしいが聴いたことないのでよく知りません。舞台を現代日本に移し、転生戦士たちの長きに渡る闘争へ終止符が打たれる……ということでファンからの期待は大きかったものの、いろいろ問題があったのかマンガ作品としては未完に終わりました。転生編がスタートしたのは1990年頃で、まだ他のMADARA作品が動いている最中だったから「完結編はもうちょっともったいぶる必要がある」って事情もあったんです。MADARAはメディアミックスも盛んだっただけにいろんな権利が絡んで、原作サイドが「そろそろ終わらせたい」と願ってもその意向が通りにくい状況に陥っていたんじゃないだろうか。マンガ版の『MADARA転生編』は短編の寄せ集めで、転生編に該当するのは「赤い綬陀矢」と「風の沙門」のみ。他はMADARA壱やMADARA赤の外伝です。言うなれば「完結編のプロローグだけ掲載している短編集」です。単巻版の6巻で、セット版の2セット目に収録されているんですが、これだけ縦書きになっていてページを開く方向が逆だから電子のセット版を購入した場合は巻末から読み出さないといけません。

 転生編の続きは『MADARA MILLENNIUM』というタイトルで小説化するも未完。後に改題加筆して『僕は天使の羽根を踏まない』というタイトルで一応小説作品としては完結します。ただ、「転生編」の後日談として書かれた小説『摩陀羅 天使篇』は未完。「天使篇」はラスボスに敗北した後を綴るEXTRAエピソードであり、雰囲気は非常に陰鬱でショッキングな展開が目白押し。「転生編」でMADARAを終わらせたかったのに諸事情から終わらせることができなかった大塚英志の鬱憤をブチ撒けたような内容、当時小学生だった私は絶句したものでした。「終わらない昭和」を背景にMADARAのみならず様々な大塚原作マンガがクロスオーバーするアベンジャーズじみた作品で、「企画書は提出済みだからKADOKAWAがその気になれば今からでも完結させられる」状態らしいが、もうKADOKAWA側に大塚英志の担当者が残っていないため目処が立たないとのこと。大塚の構想では「摩陀羅が弥勒化し並行世界すら消滅させる破壊神となってしまう」「108ある世界のうち107が既に消滅」という「主人公がラスボス化」な展開もあったらしいが、今から出すと『斬魔大戰デモンベイン』と被っちゃう(並行世界の一つでデモンベインが渦動破壊神と化し、たった一つの世界を残して他の並行世界すべてを滅ぼしてしまう、残った世界も滅亡寸前だが時間を引き延ばすことでギリギリ存続している)な……ちなみにMADARAと同じく田島・大塚コンビの作品『多重人格探偵サイコ』にも「転生編」や「天使篇」のキャラが出演していますが、これは同一世界というよりスターシステム的な奴かな。噂によると田島と大塚はかなり疎遠になっている(『僕は天使の羽根を踏まない』のイラストも田島ではないし、『多重人格探偵サイコ』も途中から田島の描きたいことを優先させたため大塚の脚本から外れていった)そうだから、よほど有能で敏腕な編集者が橋渡しするんでもないかぎり田島・大塚ががっつりコンビを組んでMADARA新作に取り掛かるなんて奇跡は起こらないでしょうね。

 結論を申し上げますと、「物凄く壮大で、田島昭宇の絵もどんどんレベルアップして読み応えのあるマンガになっていくけど、物凄く複雑で、マンガ作品としては完結していない」ため新規の方には微妙にオススメしづらいです。「続きは小説で!」なうえ小説も厳密には完結していないからなぁ……でも全巻まとめて買ってもワンコイン未満というのはやっぱり破格の安さですから、迷うぐらいならさっさと購入するが吉です。MADARAとは関係ないけど『Get Backers 奪還屋』が全39巻セットで429円というセールも開催中でなかなかヤバい。

三枝零一の新作『魔剣少女の星探し 十七【セプテンデキム】』 2025年1月10日発売予定

 えっ、将軍(三枝零一のネット上の綽名)の新作が!? そういえばウィズブレを完結させたら新作も出すとか言っていたような……私の記憶はズタボロなのでいまいちハッキリしないが、とにかく新作! 今までずっとウィズブレしか書いて来なかったから、24年ぶりの新シリーズ開幕ですね。まさかこんな日が来ようとは……。

 ウィズブレこと『ウィザーズ・ブレイン』は2001年に始まったシリーズであり、「物理学に基づく魔法を使って戦う」という非常に厨二心をくすぐるSFファンタジーで多くの読者を魅了しましたが、だいぶ遅筆で新刊がなかなか出ないことも有名であり、「9年近く新刊が出なかった」という暗黒期まで存在するほどです。それでもなんとか再開し、1年足らずの間に4冊も新刊を出して完結させた&短編集も出したんだから暗黒期についてはファンも既に水に流している。あと将軍は関係ないけど、同じ日に『錆喰いビスコ』の完結巻も出ます。少し間が空いたけどウィズブレに比べれば……という感じなのでそこはそんなに驚かなかったが、360ページで1089円(税込)という価格設定にはビックリしたな。確認しないでレジに持って行ってギョッとなる人も現れそう。

・葉真中顕の『鼓動』を読んだ。

 映画にもなった小説『ロスト・ケア』でデビューした作家「葉真中顕(はまなか・あき)」の最新作。なお『ロスト・ケア』以前にも「はまなかあき」名義で『ライバル おれたちの真剣勝負』という将棋を題材にした児童小説を出版しており、3年ほど前に現在の名義で再販しています。『鼓動』は2年ぶりの新刊で、単著としては13冊目に当たる。評価は高く第37回山本周五郎賞の候補にもなっています。ただ、ライバルが『地雷グリコ』だったせいで受賞は逃すという『エレファントヘッド』みたいな現象が……3つも賞を獲っているので他の作品について調べているときでもたびたび立ちはだかってくるんですよね、『地雷グリコ』。

 2022年、6月。まだコロナ禍のさなかにあった頃。公園でホームレスの女性が殺され、その遺体が燃やされた――通報を受けて駆け付けた警察官たちは、現場から離れようとした男性をその場で逮捕。48歳で無職だという被疑者「草鹿秀郎」は容疑を認め、「父親のことも殺した」と供述する。確認のため公園の裏手に位置する被疑者の自宅へ赴いたところ、階段脇の物置から腐敗の始まった高齢男性の遺体と凶器とおぼしき血まみれの包丁を発見。長年自宅に引きこもっていた草鹿は「末期癌の父親を介護したくなかったので殺した」と嘯く。いわゆる「無敵の人」の犯行は世間の耳目を集めると予想され、「ひとつも瑕疵がないようしっかりと裏取りを行え」と捜査員たちに指令が下った。草鹿は反省の弁こそ述べないものの受け答えはしっかりしており、事件はほぼ決着していて後は証拠固めをするのみかと思われたが、被害者であるホームレス女性の身元がなかなか掴めない。所持品として見つかった健康保険証は偽造されたものであり、記載されている住所もデタラメで現実には存在しなかった。目撃情報を頼りに少しずつ被害者の足取りを辿っていく刑事たち。その先に待ち受けていた真相とはいったい何か……。

 物語は被疑者である「草鹿秀郎」の生い立ちを回顧する過去パートと、刑事「奥貫綾乃」が事件を捜査する現在(2022年)パートが交互に進行していく形式で綴られる。奥貫綾乃は既刊の『絶叫』『Blue』にも登場するキャラであり、シリーズ作品としては3冊目に当たるが話は独立しているのでここから読み出しても問題はありません。草鹿は1974年生まれという設定なので1976年生まれの作者と同年代。私は80年代生まれだから少しズレているのですが、「ジャンプが170円だった」「ファミコンソフトに夢中になった」など読んでいて懐かしくなる要素がいっぱいで多少のズレは気にならなかった。当時を知る人なら「『BASTARD!!』のカラーページを切り抜いてクリアファイルに入れたものを学校に持って行ってオタクとイジメられた」という箇所に「あぁ〜」と溜息みたいなものが出てしまうだろう。今や『BASTARD!!』よりも煽情的な少年マンガなんて珍しくなくなっているが、80年代や90年代の頃は「『BASTARD!!』なんて人前で大っぴらに読むものではない」という空気が確実にあったし、ナイショ話で「『BASTARD!!』の単行本を持っている」ことを打ち明ける子もいるぐらいだった。もう少し時代が下ると『プリンセス・ミネルバ』とか『爆れつハンター』をコソコソ楽しむ子が増えていったかな……『ときめきメモリアル』みたいなギャルゲーも割と「恥ずかしいもの」扱いでしたね。大学卒業以降は具体的な漫画やアニメのタイトルが出てこなくなり、「社会の動き」だけで時間の流れを表現するようになるため「被疑者がオタク」というのは要素の一つに過ぎなくなる。そこは少し物足りなかったかな。「引きこもり」という要素が主で、「オタク」という属性に関しては従というかフレーバーです。

 あまり複雑な謎はないから「これ犯人の過去を掘り下げる意味があるのかな?」という疑問が湧く瞬間もあったけど、丁寧な文章でリーダビリティを高めており退屈せずスイスイと読めた。少しずつ明らかになっていく身元不明女性の素顔。やがて予想だにしなかった事実が明らかになる……という具合にサプライズ要素も仕込まれていますが、「驚天動地のどんでん返し」みたいなノリではなく「ちょっとビックリ」ぐらいのテンションです。あっという間に読み切ってしまうスピード感が売り。良くも悪くも『絶叫』や『Blue』みたいな重厚感はなくて読みやすいです。トシのせいか気合を入れて取り組まないといけないような作品には胃もたれするようになってきたんですよね……。

・拍手レス。

 俺は星間国家の悪徳領主!を読みましたがテンポよく進んで往年の勘違い物らしさがあって面白かったです。紹介に感謝

 趣味に走りつつ読者の期待に応える内容で面白いですよね。なろうは結構SF物もあるし、これからどんどんアニメ化していってくれないかなぁ。


2024-11-09.

・最近1巻が出た(出る)漫画、『聖なる乙女と秘めごとを』『ゆめねこねくと』をオススメする焼津です、こんばんは。

 『聖なる乙女と秘めごとを』は「ヤンマガWeb」で連載中のエロコメ。童貞の主人公が異世界に召喚されるところから始まり、この手のお約束として特別なスキルを女神から与えられるのですが、なんとそれがエロ限定。戦闘能力は一切なく、従って「魔王を倒せ」みたいなクエストも発注されません。主人公がこなすべきクエストは「次代の女神候補である聖女たち4人に性指導を施す」という予想外の代物。なんでもこの世界は女神の任期が1000年らしく、主人公を召喚した女神はそろそろ任期が切れるため次代の育成に本腰を入れ始めたという。女神はエッチであればエッチであるほど世界に繁栄と豊穣をもたらす――男子禁制たる花の都「マロア」で、世のため人のため異性に対する免疫ゼロの乙女をエロエロにせよ! 概要は非常にバカバカしいが、可愛い女の子たちが少しずつ性の快楽に溺れていく過程を淡々と丹念に綴っており、この静かなムードが却って興奮を煽る仕様となっている。潮を噴いたヒロインが仰向けになって両手を組み、「上はお祈り、下は大噴水、これな〜んだ?」となるシーンは芸術的な美しさだ。1話目が長いこともあって1巻は4話までしか収録されていないけど、本番は第12話の「赴くままに花を散らせば」以降。人々が見守る中で公開素股プレイをすることになった主人公とヒロイン、だが高まる気持ちを抑えられなくなったヒロインは「神よお許しください」と囁いて主人公の承諾を得ないまま挿入してしまう。「寸止めとかする気ねぇから!」と力強く言い切る内容で、もうほぼエロゲですね、これ。キスシーンもねっとり描いていて素晴らしいし、是非長期連載してほしい一作。

 『ゆめねこねくと』は簡単に言うと「『To L〇Veる』+『ドラ〇もん』」なドタバタエロコメディ。秘密道具ならぬ宇宙商品を与えられた主人公の周りで巻き起こるエッチな騒動を勢いのある筆致で小気味良く描いており、「これはアニメ化待ったナシだな」と確信させてくれる。新人なので若干画力が不安定なところはあるが、それすら気にならなくなっていくほどノリがばっこり抜群で面白い。今ならマガポケで最新話以外無料公開中です。ギャグもエロも高水準なうえ魅力的な女の子がどんどん増えていくのが嬉しいよね……ドラ〇もんポジションのナノは順調にヒロイン力が低下していっているが、委員長や先輩といった魅惑的なキャラたちがアツいデッドヒートを繰り広げていて目が離せない。ノリは異なるけど『よわよわ先生』『カナン様はあくまでチョロい』『生徒会にも穴はある!』と肩を並べて「講談社えっちコメディ四天王」となり得る資質があります。え? 上で挙げてる『聖なる乙女と秘めごとを』や『恥じらう君が見たいんだ』は四天王入りしないのかって? 本番までイッてるのは「えっち」というより「エロ」で個人的にちょっとカテゴリが違うと申しますか……最近だと『色憑くモノクローム』もあるし、四天王の面子は人それぞれかもしれません。『みょーちゃん先生はかく語りき』あたりになるとエロなのかえっちなのか分類が難しいんだよなぁ。

・前回感想を書いた京極夏彦の『狐花』、来月にもう文庫版が出ると知ってブッ魂消た。ハードカバー版が出たの7月ですよ? 半年も経っていない……なんぼなんでも早すぎない? 300ページ弱で968円(税込)と文庫にしてもそこそこお高い一品ですが、ともあれ気になっている方は文庫版が出るまで待つという選択肢が増えて良かったのではないかと。

『うたわれるもの ロストフラグ』5周年イベント「願い焦がれしあの唄を」開催中

 まあ、そう来るよね……と納得するしかない人選。ロスフラ5周年記念として今月下旬に開催される廻逅祭ガチャの目玉はハクオロ最初の妻でありヒミカの母でもある「ミコト」と確定したも同然ではないか。大物中の大物だからいつかは来ると思ったけど本当に節操ないなロスフラ!

 ミコトはハクオロがまだ「アイスマン」と呼ばれていた(つまり人類がまだ滅んでなかった)頃、アイスマンの遺伝子を複製して作られた実験体の一人であり、同世代の「ムツミ」と違ってあまり特殊な力は持っていないが、彼女がいなければ『うたわれるもの』の壮大なストーリーは始まらなかった。『うたわれるもの』のキャラにとっては神話に出てくる女神のような存在である。ロスフラのイベントストーリーにおいて「日天之神(ラヤナソムカミ)」と呼ばれるシーンがあるけど、マジで日天之神(太陽神)はミコトが由来の可能性もあります。というか、うたわれ本編だとスオンカスがカルラを讃えるときに引き合いに出す程度で割と謎に包まれた神だったんですよね、ラヤナソムカミ。単に「私の太陽」くらいの意味だろうと深く気に留めてなかったが、女性を讃えるために用いるなら女神と捉えた方が自然か……?

 他、追加ストーリーでミコト以外のいろんな情報も明らかになっています。まず、黒エルルゥは黒ウィツの依代ではないことが確定しました。黒ウィツの依代である「黒き皇」と契約して超常の力を得たのであって、ディーの先代に当たる「黒き皇」はまた別個に存在しているらしい。ディーみたいに完全に人格を消し飛ばされたわけではなく、「世界平和のためにすべての國を統一する」という願いだけが残っていて、それを叶えるために大戦を繰り広げていた模様。でもどこかで(クンネカムンがラルマニオヌを滅ぼしたあたりで?)限界が来て依代が亡くなり、思念だけの状態に戻って眠りに就いたところへディーが接触してきた……という感じなのかな。白ウィツ側に比べて黒ウィツ側は語られていないことが多くてどうしても推測だらけになってしまう。ロスフラ本編のストーリーでようやくアクタの黒い仮面が黒ウィツ由来のものと確定したけど、黒ウィツがロスフラ世界においてどれだけの影響力があるのかよくわかってないし。というか最近のロスフラ、細かい謎をうっちゃって本編を畳みにかかっているのではないかという不安もうっすらと漂う。せめて「悪漢ラクシャイン」の真相だけでもハッキリさせてほしいのだが……。

※悪漢ラクシャインとは? …… うたわれ1作目で記憶喪失の主人公「ハクオロ」はクッチャ・ケッチャの皇「オリカカン」から「お前の正体は我が義弟ラクシャインではないのか」と疑いをかけられる。ラクシャインは妻子と何百もの同胞を己が欲のために殺し、瀕死の重傷を負ったうえで行方不明になった。記憶のないハクオロは「自分はそんな悪人だったのか……!?」とショックを受け、オリカカンの言葉を信じたトウカは「悪漢ラクシャイン」と罵るが、オチをバラすとすべて濡れ衣でハクオロの正体はラクシャインではなかった。やがてオリカカンは至近距離でハクオロの顔を見るが、仮面を付けてなお別人とわかるぐらいラクシャインには似ておらず「あいつに謀られた!」と気づいて激怒した直後、吹き矢による毒針を受けて悶死する(アニメではニウェに射殺された)。

 ウルトリィの解説によるとオリカカンは強烈な暗示を掛けられ、偽りの記憶を真実と錯誤して行動していたという。暗示を掛けた「あいつ」は黒ウィツの依代たるディーだが、どこまでが「偽りの記憶」だったのかはハッキリしない。オリカカンの部下が大人しく従っていたことを考えると少なくとも「ラクシャインという義弟がいた」ことや「その妻子や同胞が死んだ」ことは確かだろう(ラクシャインや大量死自体が存在しないのであればいくら何でもクッチャ・ケッチャの連中が間抜けすぎる)が、そのラクシャインが本当に「妻子と何百もの同胞を己が欲のために殺した」のかどうかは不明。たとえばニウェが暗殺部隊を動かしてラクシャインに濡れ衣を着せた、という可能性もあるし、ラクシャイン本人が下手人だとしても「己が欲のため」ではなく他に理由があったのかもしれない。「ラクシャイン裏切り説」の場合、一人で虐殺を起こしたとは考えにくいからある程度の手勢を率いていたはずで、彼らにも裏切り者のラクシャインに従うだけの事情はあったはず。順序としては「オリカカンの妹(ラクシャインの妻)を始めとしたクッチャ・ケッチャの民がたくさん死ぬ→真偽は不明だが義弟のラクシャインが首謀者であると確信し、追い詰めたものの深手を負わせたところで取り逃す→せめて死体だけでも持ち帰ろうと捜索しているさなかにディーが接触、暗示を掛けられる→ラクシャインは生き延びてハクオロと名乗っていると思い込む」って感じだと思う。あくまで「記憶がなくなる前のハクオロはとんでもない悪漢だったのではないか」と揺さぶりをかけるのがクッチャ・ケッチャ編の狙いであって、「本物のラクシャインがどんな人物で、何を思い、何を為したか」はストーリー上あまり重要ではない。「悪漢」として罵られているという事実だけあれば充分であり、その内実は求められていなかった。下手に訳アリだったりすると「ハクオロの正体は悪漢ラクシャインなのではないか」というサスペンスがボヤけてしまう。なんであれラクシャインは死んでもおかしくないくらいの手傷を負って行方知れずになっているから、恐らくそのまま落命したのであろうし詳しい真相は闇の中……「ハクオロがラクシャインではない」と判明した時点でクッチャ・ケッチャ編はほぼ終了したも同然なので、今後も深く掘り下げられることはないだろう、と流されていたのがうたわれミステリーの一つ「悪漢ラクシャイン」です。うたわれ1作目は後半がかなりバタバタして説明の足りない部分多いから、ぶっちゃけラクシャイン云々はすぐにどうでもよくなっちゃうんですよね。

 しかしロスフラでまさかの登場を果たし、「彼に関する真実も明らかになるのでは?」と期待されました。が、今のところ判明しているのはロスフラ世界においてラクシャインは教団(カラザ)の旗長(複数の部下を率いる将軍のような役職)で「咎渇旗」と呼ばれていることと、シシクマという國からの出向者でありシシクマのために暗躍してるっぽいことくらい。元の世界における来歴はもちろん、ロスフラ世界に迷い込んだタイミングすらもわかっていない。素直に考えるなら、深手を負った直後にロスフラ世界へ転移したからうたわれ1作目では捜索隊に見つからなかった、ってことなんだろう。大社襲撃の際、繋がりが露見しないようしくじった襲撃犯たちを始末する(&始末を命じる)件があり、そこらへんを読むと「目的のためなら手段を選ばない男」「しかし冷酷に徹し切れるわけではなく『悪く思うな』などと漏らしてしまう」などといった印象が得られる。結局、彼は悪漢なのか? 悪漢ではないのか? その答えが出る日は訪れるのであろうか。

・青崎有吾の『地雷グリコ』読んだ。

 第24回本格ミステリ大賞、第77回日本推理作家協会賞、第37回山本周五郎賞と3つも賞を獲ったうえに第171回直木賞の候補にもなった(受賞は逃した)話題作だから今更解説不要の一冊ではあるが、面白かったのだから感想を書き残しておくことにします。作者の「青崎有吾」は鮎川哲也賞を受賞してデビューしたミステリ作家であり、当初は「マニアックな人気がある」という感じだったが“アンデッドガール・マーダーファルス”シリーズがアニメ化したり“ノッキンオン・ロックドドア”シリーズがドラマ化したりした末にこの『地雷グリコ』がトドメを刺して「売れっ子作家」の仲間入りを果たしたという印象がある。最近は“シャーロック・ホームズ”シリーズのパスティーシュである『ガス灯野良犬探偵団』の漫画原作を担当していて、こちらも面白いのでオススメ。1〜2巻はメンバー集めをしながらストーリー展開していくので少し盛り上がりに欠けるところはあるが、3巻あたりでだいぶキャラが出揃ってきてヒートアップします。

 話を『地雷グリコ』に戻す。ほとんどの人にとっては「変なタイトルだなぁ」というのが偽らざる第一印象でしょう。本書は連作形式で、「射守矢真兎」という女子高生をメインに据えて5つの物語(+エピローグ)を綴っている。表題作の「地雷グリコ」は一番最初の物語で、「本書がどういう趣向の小説であるか」を示す、要はチュートリアルみたいな内容になっています。漫画で言うとカイジ、ライアーゲーム、嘘喰い、賭ケグルイ、ジャンケットバンクなどに近接した「頭脳戦モノ」であり、既存のゲームをアレンジしたオリジナルゲームに様々なものを賭けて真兎が挑んでいく……という、構成自体は非常にシンプル。だんだん勝負の内容がエスカレートしていくものの、最初の「地雷グリコ」で賭けているのは「文化祭における屋上使用権」と、割合他愛もないものである。どうしてもこういう頭脳戦モノはギャンブル要素と分かちがたく、雰囲気が殺伐としてしまいがちだが、そのへんをうまくコントロールして「程々に爽やかなノリ」を生み出すことに成功しています。この匙加減が難しいんですよね……傍から見れば他愛のない勝負でも、本人たちは真剣にやっている、ということを説得力を持って描かねばならない。内容どうこうというより、この「雰囲気づくり」に成功している点が高評価の理由なのかな、と思いました。

 もちろん頭脳戦パートも抜かりなく作り込まれている。「地雷グリコ」はチュートリアルということもあってかシンプルにまとまっており、先が読めた人も少なくないだろうけど、「坊主衰弱」「自由律ジャンケン」「だるまさんがかぞえた」「フォールーム・ポーカー」と進むにつれてゲームも複雑化していき「そう来たか!」と唸る展開の連続となります。個人的に「だるまさんがかぞえた」は完全に意表を衝かれた。こういう頭脳戦モノは駆け引きが複雑化するにつれて読者の方が付いていけなくなる……という現象が起きてしまいがちですが、「読者にとって馴染みのある既存のゲームをアレンジする」工夫によってだいぶ理解しやすくなっており、頭脳戦モノが苦手な方でも比較的「付いていける」仕上がりです。

 ストーリーの後半に差し掛かったあたりで真兎と因縁があるらしい生徒の名前が出てきて「宿命の対決」みたいなノリへ移行していきますが、散々引っ張った末に「以下次巻(刊行時期未定)」なんていう噴飯物のエンドを迎えることもなく、ちゃんとこの本で因縁が決着します。ひどいのだと因縁が決着するどころか「そもそもどんな因縁があるのか」すら伏せたまま引っ張ろうとするシリーズもあるわけですから、一冊でキッチリとキリの良いところまで収めているのはポイントが高い。インタビューによると「地雷グリコ」は単発作品として書かれたもので最初は連作化するつもりもなかったそうだが、読んだ編集者が気に入ったおかげでシリーズ化することになったとのこと。これだけヒットしているのだから当然続編の執筆も視野に入っているだろうが、実は『地雷グリコ』、本にまとまるまで6年くらい掛かってるんですよね……やはりゲームと小説を融合させるのが大変らしい。このペースだと次の巻が出るのは早くても3年後とかになりそう。インタビューにおける編集者の口ぶりからすると単純な続編じゃない可能性もあり、その場合は思ったより早く出るのかもしれません。ちなみにコミカライズもスタートしており、いずれアニメ化なりドラマ化なりする可能性も高まってまいりました。分量的にちょうど1クールで収まりそうだからサイズ感としてはちょうどいい。とにかくあまり尖ったところはないけれど「こういうのでいいんだよ、こういうので」って要素で固めた、非常にバランスの良い青春頭脳戦小説です。頭脳戦モノじゃないけど青春小説と言えば『成瀬は天下を取りにいく』もイイですよねぇ、とにかく成瀬のキャラが立っていてストーリーがどうこうというより彼女の行動をひたすら追っていきたい気持ちになる。続編の『成瀬は信じた道をいく』もあっという間に貪り読んでしまった。3作目が待ち遠しい。

・拍手レス。

 面白いですよねらーめん再遊記。なんというか話作りが巧いんですよね。

 社長をやめて身軽に動けるようになったぶん、話作りの幅が広がって自由にあれこれやれる感じになってますね。


2024-11-02.

・「ラーメンハゲ」の呼び名で親しまれている芹沢サンの登場する漫画、『ラーメン発見伝』『らーめん才遊記』『らーめん再遊記』を一気読みした焼津です、こんばんは。

 三部作の第一部に当たる『ラーメン発見伝』の連載開始は1999年と四半世紀も前、さすがに古びている箇所も多いが、「ラーメンという料理そのものではなく、ラーメン店という業態にも注目している」側面のおかげで料理漫画としてのみならずビジネス漫画としても楽しめる多層的な作品に仕上がっています。脱サラしてラーメン店を開業することが目標という主人公「藤本浩平」の試行錯誤および決断までの軌跡がハッキリと見えた点に関しては一気読みして正解だったと思う。反面、10年に及ぶ長期連載をまとめて味わったため似たようなパターンの展開が目についてしまったことと、「毎回何らかのオチをつけないといけない」制約がクドく感じられた点はマイナスであったが……ラーメンハゲこと「芹沢達也」はライバルキャラとして登場し、顔芸を披露しつつビジネス的な観点が抜け落ち気味な藤本サンを揶揄する厭味ったらしい野郎として何度となく立ちはだかるが、口と態度が悪いだけでアドバイスは割と的確だから憎めない。なんだかんだで最終巻まで読み通したときに感動が押し寄せてくるの、芹沢サンの存在あってこそだもんなぁ……ちょくちょく登場するキャラと言えば「東京ラーメン花輪亭」の片山サン、反省しないし彼が出てくるとギャグ色が強くなるし三号店(つけ麺)回はギャグでごまかせないほどヒドいし、イヤな意味で印象的な人だった。キレて包丁を振り回したりなど問題行動の多い「らーめん厨房どきゅん」の武田サンは作者的に動かしやすいキャラなのか才遊記や再遊記にも顔を出していますね。野性タイプと見えて結構クレバー。逆に、レギュラーキャラになるかと思ったらあんまり出番がなかったのは「中嶋屋」の中嶋サン。湯切りのパフォーマンスを得意とする、女性客からの好感度が高いイケメン店長ってことでメディアの寵児になっているけど、本編に絡むのは六麺帝のあたりだけ。特に裏の顔があるわけではなく普通にイイ人っぽいから、漫画のキャラとしてはインパクトが弱くて出番に恵まれなかったんだろうか……あれで『喧嘩ラーメン』の「Hama竜」竜神拓也みたいなダーティ野郎だったらキャラは立つだろうけど、それだと格が落ちちゃうし、やっぱり中嶋サンは善人でいて欲しい。

 三部作の第二部に当たる『らーめん才遊記』は『ラーメン発見伝』の続編で、前作完結からほとんど間を置かずに連載開始したが主人公は藤本サンから新キャラ「汐見ゆとり」に変更されている。ラーメンハゲこと芹沢サンはゆとりの上司として続投。家庭の事情で子供の頃に一度もラーメンを食べたことのなかったゆとりはたまたま食べたラーメンに感激し、自らもラーメンに関わる仕事を志す。主な業務は不採算ラーメン店の改善提案……といった具合に、発見伝よりも「お仕事漫画」のテイストが強くなっています。そのせいもあってか発見伝を飛ばして『行列の女神』というタイトルでドラマ化も果たしました。「スキンヘッドに眼鏡の厳つい男」は実写だとアクが強すぎると判断されたのか、芹沢サンの性別が変更されて鈴木京香になっていますけど……さておき新主人公のゆとり、歯に衣着せぬというか遠慮容赦ない言動が多く、読者も作中人物も軒並みイラッとさせる絶妙なウザキャラに仕上がっています。決めゼリフの「ピッコーン!」といい、「おもしれー女」を通り越してもはや奇人の域に達している。コンペに負けて悔し泣きするゆとりの姿を見て芹沢サンがニヤニヤするの、仮にも上司たる者の振る舞いか? と思いつつホッコリしてしまう。ただ、「客が不入りなど問題を抱えたラーメン店の関係者がやってくる→問題を分析し、解決しようと試行錯誤する」というお仕事モノの王道パターンを基本フォーマットとしつつ、結局分かりやすさを優先してラーメン対決に雪崩れ込んでしまいがちなのが残念だったかな。前作に比べてライバル的なキャラの存在感が弱いため、大会編(なでしこラーメン選手権)もいまひとつ盛り上がり切らない。難波サンはあまりにもガラが悪すぎてイメージを回復できなかったし、接客はダメダメだけどラーメン作りは天才的という麻琴ちゃんも「麺神降臨!」(眼鏡パリィィィン)があまりにも……シリアスな空気を中和したかったんだろうけど、ちょっとリアリティレベルを下げ過ぎてしまった気がする。ちなみにドラマ版は大会編を全部カットしているので麻琴ちゃんの出番はありません。そんな『らーめん才遊記』も最終回まで読んだらなんだかんだで感動しちゃったわけですから私もチョロい男だ。

 三部作の第三部に当たる『らーめん再遊記』は前作の完結から6年後、才遊記のドラマ化(『行列の女神』)に合わせて連載開始しました。第二部も第三部も「さいゆうき」だから耳で聞くとややこしい。引き続き芹沢サンやゆとりが出てくるので、「発見伝のスピンオフ」的な部分もあった才遊記と比べて再遊記は「才遊記のストレートな続編」といった印象がある。ただし、主人公はゆとりから芹沢にスライドし、ゆとりは2巻を最後にほぼ登場しなくなります。寄る年波には勝てないのか、ラーメン作りに対する熱意を失いつつある芹沢……という導入が侘しくて切なくなる。発見伝でも才遊記でもカリスマ的存在だった芹沢サンが、こんなにもしょぼくれてしまうだなんて。ラーメン愛を取り戻すべく芹沢サンは社長業から退き、「自分」を捨てて末端のおっさんバイトからやり直そう、とチェーン店で働き出す。一見すると心を入れ替えて謙虚に振る舞っているかのように見えるが、酒の席で激しく罵り合う人たちを眺めながら美味しそうにゴクゴクとビールを飲むシーンや「青春の蹉跌は蜜の味だな♪」と嘯くシーンなど、「根性の悪さは変わってねぇな」と安心させてくれます。枯れつつあるけど枯れ切ってはいない、そんな中年の芹沢サンを存分に活かした話作りになっており、作劇的な意味では発見伝や才遊記よりも面白い。「完膚なきまでの復讐ほど気分爽快、ストレス解消、かつ自己の尊厳を回復させるものはない」などセリフ回しもキレッキレであり、このシリーズやっぱり芹沢が一番キャラ立ってるよなぁ、と実感します。再遊記は現在も連載中であり、これまでのエピソードは「ラーメン頂上決戦編」(1巻)→「チェーン店バイト編」(2〜3巻)→「自販機ラーメン編」(3〜4巻)→「背脂チャッチャ編」(4〜5巻)→「塩匠堂編」(5〜7巻)→「飲食店再生師・小宮山浩司編」(7〜8巻)→「インスタントラーメン編」(8〜9巻)→「天才・原田正次編」(9〜11巻)で、来年発売予定の12巻から「麺屋 炎志編」が始まる模様。個人的に好きなエピソードは「自販機ラーメン編」かな、話の転がり方が予想外でワクワクしました。「塩匠堂編」はエピソードとしてはそんなに好きじゃないんだけど、読んでいて切なくなる内容で忘れがたい。「インスタントラーメン編」は冗長に感じて少し退屈しました。実在の商品を実名で紹介しているため、そこかしこに「配慮」の空気が滲み出て勢いを削いでしまった気がする。続く「天才・原田正次編」が良かったからすぐに持ち直しましたけど。発見伝が全26巻、才遊記が全11巻、再遊記が既刊11巻なのでまとめて読むと48巻と相当なボリュームであり、なかなか気軽に「読んでネ!」とは言い難いが、芹沢サンの活躍する回をまとめた『ラーメン発見伝の芹沢サン』および『らーめん才遊記の芹沢さん』というセレクションも刊行されていますので「手っ取り早くラーメンハゲについて知りたい」という方にはこちらをオススメします。

「俺は星間国家の悪徳領主!」来年4月TVアニメ化 花江夏樹ら出演、監督は柳沢テツヤ(コミックナタリー)

 おおっ、原作が好きなのでこれは嬉しい。『俺は星間国家の悪徳領主!』『乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です』の「三嶋与夢」による異世界転生SFです。タイトルから「悪役令嬢の男版?」と思われそうだが、「死んでゲームか何かの世界の悪役に転生する」というパターンではありません。生涯を真面目に過ごしたにも関わらず妻子に去られた挙句、身の覚えのない横領の罪を着せられ借金まみれで死の床に就いている主人公が「異世界転生」という機会を得て「次はもう真面目に生きるのはやめだ……他人を踏み躙って高笑いをあげる、悪代官みたいな存在になってやる!」と決意する、言うなれば「悪役志願」のストーリーです。首尾良く星間国家の辺境貴族の息子に生まれ変わったものの、肝心の領地は荒廃し切っており、まずは立て直すところから始めないと悪徳領主にすらなれない――というわけで領地改善に取り組み、当然のように民から救世主の如く祭り上げられていく。主人公本人は悪徳領主として振る舞っているつもりなのに稀代の名領主みたいな扱いを受けるという、一種の「勘違い/忖度系コメディ」でもあります。武力面もメチャクチャ強くてほとんどの敵を瞬殺してしまえるくらいであり、本人は横暴に振る舞っているつもりなのに「果断な武闘派」として畏怖を集めていくことになります。また、前世で結婚生活に失敗している(托卵=妻の産んだ子が自分の血を引いていなかったことも明らかになる)せいか、口では「ハーレムを作る!」と豪語しつつも女性に対しては及び腰、気を許しているのはメイドロボだけ――と奥手なところもあって憎めない。メイドロボとの掛け合いが少し『終わりのクロニクル』っぽいところも個人的にツボなんですよね。

 とにかく「愉快」と「痛快」を追求したような作りのストーリーで、読んでてひたすら楽しいです。あんまり先のことは考えてないんだろうな……と窺わせるライブ感重視の展開ながら、巻ごとの読みどころをキチンと用意していて読者を満足させてくれる。毎回キリの良いところで終わるから比較的アニメ化しやすいシリーズだとは思います。アニメはたぶん1クールだろうから3巻のロゼッタ編あたりまでかな。私が好きなのは妹弟子が出てくる6巻だから2期目に早くも期待している。主人公は「一閃流」という流派の免許皆伝を有しているんですが、これはもともと詐欺師同然のオッサン「安士」がでっちあげた偽物の流派であり、奥義「一閃」(目にも止まらぬ超高速の抜刀術、と見せかけて実際は鞘から抜くフリをしているだけ。あらかじめ切れ込みを入れておいた丸太が時間差で真っ二つになる大道芸)は決して会得することができない――はずなのに、なぜか主人公はこれを再現してアップデートしてしまう。怖くなった安士は主人公のもとから逃げ出すのですが、それを「何も求めずに去るだなんて……師匠、なんて無欲な人だ」と勘違いして感激する流れは爆笑モノ。妹弟子も当然「一閃」を使えるわけで、安士師匠、自身の武芸の腕はそんなにだけど瓢箪から駒を出すワザマエに関しては天才的である。今アニメやってる『嘆きの亡霊は引退したい』的な面白さ。主人公も弟子を取るようになり口から出まかせにすぎなかった一閃流がだんだんホンモノになっていく様子を見守るの、謎の感動があります。最新刊はその安士師匠がメインなんですが、直接手ほどきを受けたせいで目が曇りまくっていて安士のことを微塵も疑わない主人公や妹弟子に対し、「本当にそんな大層な人物なのか?」と疑いの眼差しを向ける主人公の一番弟子「エレン」がイイ味出しています。

 最新刊は先月出た9巻だから、アニメが始まる頃には10巻を超えてるかな。同じ世界を舞台にした外伝として『あたしは星間国家の英雄騎士!』(既刊3冊)もありますが、面白さは本編と比べたらやや落ちる。落ちこぼれ扱いされている少女騎士が左遷先で奮起するという王道的なストーリーで、本編が変わり種というかひねくれているからこういうのも書きたくなったんだろうな……と思わせる内容です。

「エリスの聖杯」アニメ化!令嬢役は市ノ瀬加那、悪女の亡霊役は鈴代紗弓(コミックナタリー)

 売れ行きがいまひとつだったのか4巻が電子書籍のみで紙書籍が発売されなかった、なんてこともあった作品なのに、まさかアニメ化まで漕ぎつけるとは……『エリスの聖杯』は5年ほど前にGAノベルから書籍化されていた異世界ファンタジーですが、途中で書籍化が止まってしまい、ファンたちが嘆いていたところ今月から出版社を変えて再出発することになりました。なんといっぺんに5冊も刊行されます。1〜3巻が再刊、4巻が初書籍化、5巻が完全書下ろしといった内訳です。内容は簡単に言うと「悪役令嬢モノ」。といっても「現代日本から乙女ゲームの世界の悪役令嬢に転生」みたいなパターンじゃありません。10年前に稀代の悪女として首を刎ねられた令嬢「スカーレット」が亡霊として子爵令嬢「コニー」に取り憑き、コニーの問題を解決してあげる代わりに自分の復讐に手を貸すよう話を持ちかける。幼い頃にスカーレットが処刑される光景を目の当たりにしていたコニーは、やがて無二の相棒になっていく……という、一種のバディ物です。再開だけでも嬉しいのにアニメ化まで決まったんでファンはもうお祭り騒ぎですよ。正直もう悪役令嬢モノには食傷気味……という方にも試しに読んでみてほしいシリーズです。

蝸牛くも×so-binが手がける迷宮冒険譚「ブレイド&バスタード」アニメ化(コミックナタリー)

 へー、ブレバスもアニメ化するのか。原作は『ゴブリンスレイヤー』の「蝸牛くも」による小説で、内容はかなりウィザードリィっぽい……というか、版元が正式にウィザードリィの商標を取得して出版した、正真正銘のWiz小説です。ウィザードリィはノベライズ作品こそ多いもののアニメ化されるのは91年のOVA以来で、来年放送なら実に34年ぶりとなる。「ウィザードリィっぽい作品」はいくつもあるからそんなに久しぶりな気は全然しないけど。版元の「ドリコム」には「DREノベルス」というレーベルがあり、↑の『エリスの聖杯』が移籍したレーベルもこのDREノベルスです。新興レーベル(2022年10月刊行開始)なのに2本もアニメ化決定とはスゴいが、正直この2作以外の作品はあまり知らないんだよな。なにぶん新興なので弾が少ないし知名度も低い。私もさっき刊行リスト眺めて「えっ、あわむら赤光の新刊出てたの!?」ってビックリしたくらいです。『エリスの聖杯』と同じく「夕薙」がイラスト描いている『悪徳貴族の生存戦略』は結構好きなんだけど、いつまで待っても3巻が出る気配ない……って打った後に調べたら来年に1年8ヶ月ぶりの新刊が発売されるみたいで更にビックリした。

・某漫画が連載終了後に作者自らエロ絵を描きまくって物議を醸していますが、そういえば連載中なのに作者自ら「メインキャラの一人がモブ男子に脅迫されてヤられる同人漫画」をFANZAとかで売り出した『恥じらう君が見たいんだ』には衝撃度を受けたな……もともとヤング誌連載で本編も充分エロいから「イメージがぶっ壊れる」というほどでもなかったし、『BASTARD!!』という前例もあるから割合すんなり呑み込めました。

 さて、こういう「作者自ら描いたセルフ同人漫画」は結構存在するわけですが、そんな中から「この手の話題で挙がっているところを見たことがない作品」を一つ紹介します。『Blue blue lagoon』、河内和泉の『EIGHTH』非公式アナザーストーリーです。『EIGHTH』は「遺伝子工学」をテーマにしたアクション物で、『Blue blue lagoon』はヴァレリヤ(リエラ)というキャラをメインに据えた同人作品。ヴァレリヤは登場自体はかなり早い(Wikipediaによると5巻、ちなみに『EIGHTH』は全16巻)けど正体が明らかになるのはだいぶ先で、12巻になってやっと表紙を飾るまでに至っている。そして13巻と14巻でも表紙を飾っており、「唯一『EIGHTH』で表紙三連勤を果たしたヒロイン」と化しました。当初は敵対ポジションで主人公のナオヤを苦しめるけど、いろいろあってヒロインの一人に。本領発揮が遅かったため作者にも描き足りない気持ちがあったのか、連載終了後に非公式二次創作として『Blue blue lagoon』をスタートさせます。現時点で7冊(総集編だと2冊)、合計して200ページ以上の結構なボリューム。「もしナオヤとヴァレリヤが結ばれたら」という仮定に基づいて制作されており、「ナオヤとヴァレリヤ」の組み合わせが正史となったわけではないが他のヒロインが好きだった読者にとっては複雑な気持ちかもしれない。私にとっては「どういう形であれ『EIGHTH』の新作が拝めるのはありがたい」が本音でした。『EIGHTH』、連載当時ですらそこまで注目を集めない割とマイナーな漫画だったもんな……この『Blue blue lagoon』をキッカケに本編へ興味を抱いて読み出した層もいるらしい。作者の河内和泉は「公式というか権利者・作者がどう描こうが自由なのと、本人が描きたい、ないし読みたいと思ってくれる人がいると否定的な人よりも優先されます/読みたい人優先なのはずっとそうなのです/なんかやだなあと思うという気持ちはわかる わかるが 描くなは無理筋がすぎる」とコメントしている。なお、結構きわどい描写はあるものの『Blue blue lagoon』は成人指定じゃなくて一応全年齢対象です。

『うたわれるもの ロストフラグ』5周年イベント「願い焦がれしあの唄を」開催中

 

 このエルルゥ、ファンの間では「黒エルルゥ」呼びされているみたいですけど一部で「エルンガー」と呼ばれていて笑ってしまった。

 さておき今回のイベントは「白き同盟、黒き楔」(1.5周年イベント)および「いつか運命の輪の中で」(4周年イベント)の続編的な位置づけのストーリーです。「白き同盟、黒き楔」はうたわれ1作目(散りゆく者への子守唄)の数十年前、多くの国が二つの陣営に分かれて争った「大戦」の時代を描いたもので、老婆としての印象が強い「トゥスクル」が若々しい姿で登場して話題を換びました。「いつか運命の輪の中で」はまだ幼い頃のクオンがロスフラの世界に迷い込み、「ヒミカ」という少女や仮面を外した(つまり『二人の白皇』以降の)ハクオロと出逢う話。ヒミカはハクオロにとって最初の妻である「ミコト」との間に生まれた娘であり、トゥスクルやエルルゥ、アルルゥのご先祖様に当たる。なのでクオンとヒミカは生きていた時代が全然違うけど異母姉妹になるんです。時空が歪んでいるロスフラでしか紡げないストーリーである。

 で、話を戻すと画像の黒エルルゥ、あのエルルゥが嫉妬心のあまり闇堕ちした姿……ではなくトゥスクルの姉の方のエルルゥです。うたわれヒロインのエルルゥにとっては「伯祖母」(大伯母)に当たる。ややこしいけどトゥスクルの本名は「アルルゥ」で、昔話として語られる姉妹草「エルルゥとアルルゥ」に因んで命名されています。うたわれにおけるエルルゥは「病気だった妹アルルゥを助けるため、高価な薬と引き換えにムティカパへ身を捧げた伝承上の女性(伝承エルルゥ)」「伝承エルルゥが好きだったとされる花(花エルルゥ)」「トゥスクルの姉であり黒のウィツァルネミテアと関連が深い女性(黒エルルゥ)」、「1作目のヒロイン(エルルゥ)」「その他、花エルルゥに因んで命名された単なる一般女性(一般エルルゥ)」と5通りが存在しているわけで、頭こんがらがる。

 トゥスクル(アルルゥ)は姉のことを深く慕っていたが、あるとき両親村の連中(確認したらトゥスクルの両親は彼女の幼い頃に亡くなっていた)が森の主(ムティカパ)への人身御供として姉を差し出したことを知り激怒、「こんな糞虫どもと一緒にいられるか!」と村を出奔してしまいます。そして村から離れた場所で行き倒れていたところを記憶を失う前のハクオロさんに拾われ、彼からトゥスクルの名を与えられる。ハクオロさんを父のように敬愛するトゥスクルは彼のために戦場で毒ガスを散布しまくり、「腐姫」と恐れられるほど敵兵を殺しまくっていく。ハクオロ率いる「白き同盟」は当初こそ優勢だったが、思わぬ人物の裏切りによって一転して劣勢に追い込まれる。起死回生の策として敵対勢力「黒き楔」の首魁を討つべく少数精鋭で本拠地に乗り込むトゥスクル、そこにはなぜか死んだはずの姉とムティカパの姿が……というあたりで記憶が途切れており、「トゥスクルの姉の方のエルルゥ」に関してはたくさんの謎が残ったままでした。「黒き楔」側のボスはハクオロさんと違って思念だけで肉体を持たない、一種の精神寄生体みたいな存在だからディーより前の依代だったのでは? と考えられましたが、ハッキリしたことはわからないまま今に至っている。黒エルルゥにどの程度理性が残っているのか不明であるが、その言動から察するに黒ウィツに無理矢理体を乗っ取られたわけではなく、トゥスクルがハクオロさんを慕うように黒ウィツを慕っていた可能性もある。だとすると自我がある状態で妹を攻撃した(致命傷は避けた?)んだろうか。薬師として一流の腕前があるうえ「森の母(ヤーナマゥナ)」(動物と心を通わせる力)の素質も有している、更に黒ウィツから何らかのパワーを授けられている疑惑もあるんだから結構強いというかチートキャラなんですよね、黒エルルゥ。なんであれ限定キャラとしてガチャ実装されることはほぼ確定しているのでファンは震えて待つしかない。

・京極夏彦の『狐花 葉不見冥府路行』読んだ。

 タイトルは「きつねばな はもみずにあのよのみちゆき」と読む。デビュー30周年記念企画の一環として新作歌舞伎用に書き下ろした作品。京極作品にしてはやや文章があっさりしているけど脚本形式というわけではなく、ちゃんと小説になっています。時は江戸時代。「お葉」という上月家の奥女中が病み臥せっているという。聞くところによれば、お葉は「生きているはずのない男」を目の当たりにして怯え切り、憔悴しているとのこと。「上月監物」はお葉のことなど生きようが死のうがどうでもよいと思っているようだったが、彼女が漏らしたいくつかの名前が過去の悪行と関係していることに懸念を寄せていて……と、あらすじだけ読んでもピンと来ない内容です。要するに『狐花』はお葉を中心とする「死んだはずの男がうろつき回る怪事」と監物を中心とする「過去に犯した悪事」、ふたつの「事」を巡る二層構造のストーリーになっているわけです。ずっと露見せず隠し通せてきた悪事と超常的な現象、まったく独立した別々の事象なのか、それとも何か関連があるのか……雲を掴むような状況に困惑するなか、安倍晴明とゆかりのある武蔵晴明神社の宮守「中禪寺洲齋」が憑き物落としとして上月家に招かれる。

 中禪寺洲齋は「京極堂」こと「中禅寺秋彦」の曾祖父に当たる人物で、江戸時代の生まれだから“巷説百物語”シリーズとの関連もある(最終巻である『了巷説百物語』に登場する)。なので強いて言えば“百鬼夜行”シリーズのスピンオフというより“巷説百物語”シリーズのスピンオフと捉えた方が近い。なぜ「強いて言えば」と迂遠な前置きをしたのかと申しますと、この『狐花』は洲齋よりも監物たち事件関係者の方が出番が多く、洲齋が顔を出すのはプロローグに当たる「死人花」と憑き物落としのために呼ばれるラスト3章の「地獄花」「捨子花」「狐花」のみ。全9章なので半分以上影すら見せないわけです。「じゃあファンサービス程度の出演に留まるのか」と言えばそうでもなくて、洲齋の出自など個人的な事柄もガッツリ明かされる。250ページ程度と京極作品にしてはやや短い一冊であり、「腹一杯読みたい」という方には物足りないだろう。演者の存在感で魅せることを前提としているのか、小説作品として読むと「事件関係者が多い割に個々の印象が希薄」という感想になる。1000ページ超えの本が珍しくなくてなかなか気軽に手を出せない京極作品の中では「空き時間に読むのもちょうどいいボリューム」なのだが、“百鬼夜行”シリーズや“巷説百物語”シリーズ、あと“書楼弔堂”シリーズ(洲齋の息子、つまり秋彦の祖父である「輔」が登場する)に興味がない「過去の京極作品とほとんど縁のない人」だと引き込まれるポイントがほとんどないかもしれない。この本をキッカケに他のシリーズへ手を伸ばしてみる御新規さんが出てこないとは限らないが……基本的に既存ファン向けの一冊です。

 京極作品をまったく読んだことがない人にオススメする入門書的な小説は、『巷説百物語』『嗤う伊右衛門』あたりかなぁ。『巷説百物語』は「御行の又市」と呼ばれる男が妖怪や化物に対する畏れを利用して様々な仕事をこなすシリーズの第1弾で、短編集だからサクサク読めます。『嗤う伊右衛門』は『巷説百物語』の前日譚に当たる長編……というより、発表順が『嗤う伊右衛門』→『巷説百物語』だから「『巷説百物語』は『嗤う伊右衛門』の後日談に当たる」と書いた方が適切か。あくまで作中の時系列が『嗤う伊右衛門』→『巷説百物語』というだけで、物語はそれぞれ独立しており、併せて読む必要もないし前後を気にしなくてもいいです。何せ『嗤う伊右衛門』よりも過去のエピソードである『前巷説百物語』がだいぶ経ってから刊行されたくらいですし。『嗤う伊右衛門』は長編とはいえ文庫で400ページもなく、『狐花』ほどではないが割と短めなのでそこまで気合を入れなくても読み通せます。京極夏彦のデビュー作『姑獲鳥の夏』と比べて格段に読みやすい。『姑獲鳥の夏』は前半をわざとゆったりした筆致で綴っている(急展開して加速する後半のインパクトを強調する狙いがある)ので、結構な人が「とりあえずデビュー作から」と手を出しては前半に耐え切れず挫折しちゃうんですよね……単純なページ数で言えば“百鬼夜行”シリーズの中でも少ない方(新書版だと400ページちょっと、文庫版でも600ページくらい)なのに。やっぱり『姑獲鳥の夏』にもチャレンジしたい、って方もまず『巷説百物語』や『嗤う伊右衛門』で京極夏彦の作風に慣れてから挑む方が宜しいかと。どっちか一冊に絞るなら僅差で『嗤う伊右衛門』の方がオススメ。そういえば『嗤う伊右衛門』はハードカバーの新装版が出ます(解説や対談が新録されている)けど、値段が値段なので熱心なファン以外は購入を躊躇うところだろう。私はもうすぐ出る“書楼弔堂”シリーズの最終巻『書楼弔堂 霜夜』を優先して『嗤う伊右衛門』の新装版はスルーするつもりです。

・白井智之の『エレファントヘッド』読んだ。

 『Thisコミュニケーション』の感想を漁っているとき、この作品を「デルウハ殿よりもひどい」といった趣旨で評している人がいたため、気になって手を伸ばしてみました。作者の「白井智之(しらい・ともゆき)」は10年ほど前に横溝正史ミステリ大賞の最終候補に残り、受賞こそ逃したものの候補作『人間の顔は食べづらい』で小説家デビュー。第二作の『東京結合人間』は日本推理作家協会賞の候補になるも再び受賞は逃し、第三作の『おやすみ人面瘡』も本格ミステリ大賞の候補に選ばれたが受賞はできず……といった具合に評価されながらも無冠だった時期が長い作家です。去年やっと本格ミステリ大賞を獲って無冠状態から脱しました。著作は何冊か持ってるけど全部積んでいて、「なんかえげつない作風らしい」ということしか知らなかったです。『エレファントヘッド』は去年刊行された小説で、長編作品としては最新作に当たる。「あらすじを読んでもよくわからない」作品ながら読んだ人の間では評価が高く、本格ミステリ大賞の候補作にも選ばれています。ライバルが『地雷グリコ』だったんで受賞は逃したんですけども……あ、『地雷グリコ』も読んだんで次回の更新で感想書きます。

 さて、「謎もトリックも展開もすべてネタバレ禁止」だの「絶対に事前情報なしで読んでください」だのといった惹句が並んでいるせいであらすじ紹介をやりにくいことこの上ないです。私も事前情報は「デルウハ殿よりもひどい奴が出てくる」ぐらいしか知らないまま読んでぶっ飛んだから言っていること自体には同意しますが、「絶対に事前情報なしで読んでください」という文句で貴重なお金と時間を割いてくれる読者は稀であり、さすがにもうちょっと読みどころを紹介したいと思います。物語は東北に位置する架空の街「神々精(かがじょう)市」(多賀城市のもじり?)の医科大学附属病院、精神科の病棟付近で幕を上げる。「精神科」というワードで「散々話をしっちゃかめっちゃかにした末に『全部妄想でした』みたいなくだらないオチがつくパターンじゃないだろうな……?」と懐疑的になった方もおられるかもしれないが、あらかじめ書いておくと安易に妄想や幻覚で片づけるような単純なストーリーではありません。現実離れはしているが相当に複雑で入り組んでおり、奇怪なパズルが紐解かれていく様子を眺めるようなえも言われぬ面白さがあります。少しネタバレしますが、本書は「複数の並行世界でストーリーが進行する」形式になっており、「それぞれの世界線で起こした行動の影響が別の世界線へ波及する」仕組みなんです。結果、ある世界線では普通に歩いているだけの人が突如まるで風船みたいに膨らんで爆裂四散してしまう。西澤保彦がよくやっていた特殊設定ミステリとたまにやっていた猟奇ミステリをミックスしたような、眩暈がするほどバッドテイストかつバッドトリップな世界。普通の人間ならただ戸惑い翻弄されるだけの状況だが、その法則を理解し悪用しようとする奴が現れたもんだからさあ大変。パズル感覚で人を死に追いやり自らも窮地に追い込まれる最低野郎の末路を君自身の目で見届けろ!

 とにかく胸糞の悪くなる要素目白押しなので誰にでも薦められる一作ではないが、「よくこんなこと思いつくな」と感心してしまう奇想が目一杯詰め込まれているので後半の疾走感は物凄い。細かい伏線も多く、途切れ途切れに読むと繋がりを忘れてしまいかねないからなるべく短時間で一気に目を通すことをオススメします。積んでいる他の著作も読みたくなってまいりましたが、作風が作風だけにまとめて読むと胃もたれしそうだな……。

・拍手レス。

 再び色々とネタ紹介をいただきありがとうございます。フルメタル・パニック!Familyと、Thisコミュニケーションを何となく積んでいたのですが、おかげさまで読みたくなってきました。

 やっぱり「これ面白かった」って報告する場所と機会があるの、いい気晴らしになるので今後もちょこちょこ更新していきたいです。最近はホラーコメディの『写らナイんです』、霊感ゼロなのに強烈な除霊体質を持つ「橘みちる」ちゃんのキャラが立っていてじわじわ好きになってきています。

 おぉ、Thisコミュニケーション! 毎月毎月「最低」を更新していくデルウハ殿は圧巻でしたが、中でも「こんな俺でも選んでくれるか?」は凄まじかったですね……

 悪魔って案外穏やかな顔するんだな……と放心したシーンですね。


2024-10-15.

・来月2巻が出るということで「そろそろ読み時か」と『フルメタル・パニック!Family』に手を付けたら「やっぱりフルパニおもしれ〜」となった焼津です、こんばんは。公式略称は「フルメタ」だし、ほとんどのファンが「フルメタ」と呼んでいることは知っていますが、私の脳内では20年以上前から「フルパニ」で定着してしまっているため変更不可能なんです。

 『フルメタル・パニック!Family』は、1998年から2010年にかけて展開したライトノベル『フルメタル・パニック!』の続編です。本編のラストから20年後、結婚して二人の子供を授かった宗介とかなめの非日常な日常が綴られる。本編とFamilyの間に『フルメタル・パニック!アナザー』という関連シリーズもあるんですが、あれは本文書いてるの別の人だし、主要陣も刷新されているからノリが結構違うんですよね。「ファンが読みたかった正統続編」という意味ではFamilyこそが待望のシリーズと言えます。一話完結方式で、相変わらず方々から身柄を狙われているかなめを護るために各地を転々とする相良家の慌ただしい日々を淡々と紡いでおり、裏で何か巨大な陰謀が進行する……みたいな大きいストーリーはありません。その気になればいつでも終わりにできるし、その気になればいつまでも続けられる。今のところそういうユルいノリです。

 1巻目に当たる本書は3話+ショートストーリー1個の構成で、1話あたり7、80ページという「短編にしては長いが中編にしては短い」ボリュームだ。個人的にはこれぐらいが程好い量だな、と感じました。1話目は相良家(偽名使ってるけど)の引っ越し先の隣家に住む少年「田中一郎」視点で描写されるエピソード。長女の「夏美(ナミ)」と仲良くなる一郎くんだったが、突然の襲撃によって一家はまた引っ越すことに……という、ラブコメが始まりそうな雰囲気の中で何も始まらないまま終わってしまう。シリーズが長く続けばまた一郎くんにも再登場の機会があるかもしれないが……長女の名前が「夏美」と書いて「ナツミ」ではなく「ナミ」と読ませるの、『燃えるワン・マン・フォース』が好きなファンはいろいろと感じるものがあるだろう。2話目は宗介がファミレスの仕事をしようとするも研修期間中にクビになって落ち込む、旧短編集だったらもっとギャグまみれになっていただろうな、というシーンから始まるエピソード。さすがに宗介たちも大人になっているので旧短編集みたいなドタバタ感は薄く、ふもっふ好きな人にとっては寂しいと感じるかもしれない。もっとも感慨深かったのは林水会長の変化か。良くも悪くも「ラノベやアニメに出てくるようなキャラ」といった印象が強い個性バリバリの会長閣下が、いろんな苦労を経た末に「世慣れた愛想の良いおじさん」に変貌しているのを目撃した瞬間、「ああ、ふもっふみたいなノリはもう完全に終わったんだな」と痛感しました。林水は旧短編集が主戦場のキャラであり、宗介たちを取り巻く「騒がしい日常」の象徴みたいな存在である一方、本編へ登場して宗介に「日常の終わり」を告げる役目を負った存在でもありました。卒業を見送るようなきちんとしたお別れをする余裕もなく離れ離れになってしまったふたりが20年の時を越えて再会するんですから込み上げてくるものは当然ございますよ。挿絵の林水がまたイイ表情してるんだ、これが。3話目は口絵にもなっているかなめ、蓮、瑞樹、恭子が久しぶりに集まって女子会するシーンから始まります。会話の内容に時の流れを感じて遠い目すること請け合い。あれだけ仲の良かったかなめと恭子がお互い子育ての忙しさやら何やらでほとんど会えておらず、むしろ独身で身軽な瑞樹の方と仲良くなっているのも「時の流れ……!」って言葉を失っちゃう。あと陣代高校の制服が出てきて「まだイケると思ったから」と割合ノリノリで着替えるかなめの姿を見て『ヒストリー・オブ・バイオレンス』(アラフォーの奥さんが学生時代に着ていたチアリーディングの衣装で旦那に迫る映画)が脳裏をよぎった。

 クルツやマオといったミスリルの同僚に関しては名前だけで実際に登場はしないけど、2巻のあらすじからすると次で出番があるみたいですね。うーん、フルパニ熱がン年ぶりに再燃してきて本編や短編集を読み返したくなってきたな……まだ実家に既刊が残ってるから、時間さえあればまとめて読み返せるんだけども。それより途中で止まっているアナザーを再開すべきかしら。迷っているうちにFamilyの2巻が出ちゃいそうだ。甘ブリとかコップクラフトに関しては依然として進展がなく、もうだいぶ諦めの念が強くなってきているけど、Familyの続きが出るんならとりあえずいいか(妥協)。

・秋アニメが始まる時期ですが、楽しみにしている作品はやっぱり『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀4』。長期展開の影響でうろ覚えになってきている箇所も多く、放送開始前は少し不安になったけど観てみるとやっぱり面白い。1期目の頃は飄々としていた主人公「殤不患」も2期3期を通じいろいろと背負い込んでしまったせいでムードが暗くなっているが、そこを補うように「捲殘雲」(1期目の頃は功名に逸る血気盛んな若者というキャラだった)の成長を見せて中和してくれる。まだストーリーは本格的に動き出す前だけど、キャラの遣り取りを眺めているだけでワクワクします。2016年に放送を開始した東離劍遊紀の物語もそろそろ大詰めであり、今放送している4期と来年上映予定の劇場版『最終章』でいよいよ完結。どんな結末を迎えるかまだわからないが、とりあえず不患さんが不幸になるエンドだけはやめてほしい……というのが偽らざる気持ち。

『少女☆歌劇 レヴュースタァライト -Re LIVE-』(スタリラ)、9月30日を以ってサービス終了

 長らくチェックしていなかったせいもあり、知らないうちにサ終していてビックリしました。ストーリー面は「アルカナ・アルカディア」編がピークで、「シークフェルト中等部」が追加されて以降はあまり盛り上がらなくなっていたから、そう長くは続かないだろうな……という気はしていましたが。6年も続いたならソシャゲとしては大往生か。私自身は4周年を迎えたあたりまではプレーしていたものの、5周年の前にやめてしまった。タブレットの容量がキツくなっていていくつかゲームを消さないといけない事情があり、またスタリラは割と日課がキツい(次々といろんな要素が足されていったため真面目にデイリーミッションをこなそうとすると時間が掛かり過ぎる)ゲームのため音を上げてしまったんです。

 振り返ると、キャラとシナリオ、曲は良かったけどゲーム部分は本当にひどかったな……矢継ぎ早に新ギミックが搭載されるためインフレが激しく、「毎月のように環境が壊れる」ソシャゲになっていました。加えて「アンコール」と称して過去に実装した衣装の上位版を用意し、カードのイラストこそ新たに描き直しているものの3Dモデルやモーションはそのまま使い回す(さすがにクライマックスACTという奥義に当たる部分は新モーションだけど)手抜きぶりも常態化しており、ガチャの追加ペースも凄まじかったな。「最高レアを上回る新最高レア」が実装されるという「もう後がなさそうなソシャゲ」特有の振る舞いも見られて、あのへんから終了のカウントダウンが始まったような気がする。

 アニメでは聖翔の舞台少女に絞ってストーリーを展開していましたけど、アプリでは他校の舞台少女たちがたくさん出てきて交流するのも大きな魅力でした。「夢大路栞」役の「遠野ひかる」(最近はマケインの「八奈見杏菜」役として注目を集めている)とか、「巴珠緒」役の「楠木ともり」(GGOの2期で久しぶりに「レン」役を担当している)とか、スタリラのキャラを通して名前を覚えた声優も多いからもうプレーしていなかったとはいえサ終しちゃったのはやっぱり寂しいです。『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』はメディアミックス作品で、その中でも特にスタリラが稼ぎ頭だったという話だから、恐らくスタリラがなければ劇場版も『舞台奏像劇 遙かなるエルドラド』もなかっただろうな……と考えるとしみじみしてしまう。正直今はCSゲーやるほどの元気がないから遥かなるエルドラドには手を出していないが、また無心にスタァライトを浴びれる日が来るといいな。

・六内円栄の『Thisコミュニケーション(1〜12)』を読んだ。

 月刊誌“ジャンプスクエア”で2020年から2024年にかけて、つまり4年間に渡って連載されたマンガです。今年の5月に最終巻である12巻が刊行されました。このマンガ、恥ずかしながら私は拍手コメントでオススメされるまで存在自体知らなくて、「せっかくオススメされたんだから……」と無料公開されている範囲だけ読むつもりが止まらなくなり、気づけば最終巻まで読み切っていました。タイミング的にちょうど「秋マン」(集英社が毎年秋にやっているフェア)開催中で電子版が半額だったのもある。定価でも買いたい面白さなのに「今なら半額!」と言われて止まれるはずがないでしょう。

 さて、全12巻というそれなりのボリュームを短期間で読み通したくらいなのだから当然私はこの『Thisコミュニケーション』を「面白いマンガ」と認識しているわけですが、じゃあどうやればこの面白さが未読の人に伝わるのか……という話になると頭を抱えてしまう。『Thisコミュニケーション』の妙味はネタバレ抜きで語ることが難しく、かと言って「ネタバレとか気にしないよ」という人に対してもスッと理解できるように説明するのが難しい。ジャンプ+で最初の方を無料で読める(11月24日までなら15話まで、単行本で言うと4巻まで無料だ)から、最低でも1話目を読んでくれたら話が早くなる。ここから先は「1話目だけ、あるいはそれ以上読んだよ」という方、もしくは「ネタバレは気にしないから先にアンタの感想を聞かせてくれ、1話目を読むかどうかはそれから考える」という方向けに書いていきます。「まだ1話目読んでないけど、ネタバレ抜きでこの作品の魅力を教えて!」という方は、無茶振りなので他の誰かに頼んでください。

 1話目の冒頭に「長野県松本市」と書いている通り、物語の舞台は明確に日本となっています。ただし『Thisコミュニケーション』の世界では20世紀後半に「イペリット」と称される謎の怪物が発生し、自分たちにとって住み良い環境を作るため地上の生物を殲滅するべく毒ガスを散布し始めたことで人類は壊滅状態に陥っている。21世紀になって標高の低い地域はほぼ全滅、高地や極地などまだ毒ガスの届いていない一部の地域では辛うじて生き延びた人々がコミュニティを形成していた。主人公「デルウハ」(本名はもっと長いが作中では基本的にこの呼び名で通している)は、食料が切れて死ぬ寸前にそんなコミュニティの一つに辿り着く。そこは80年前の大戦の折りに建造された研究所であり、終戦に伴い軍人は撤退、あとは研究者と一般人、そして「女狩人(ハントレス)」しか残されていなかった。ハントレス――幼い子供たちを薬漬けにし、体のあちこちをいじくり回して作った強化兵。戦車や地雷を持ち出さなければ太刀打ちできないイペリットを肉弾戦で身軽に討伐しうる極めて強力な存在であったが、彼女たちを鍛える「教官」に相当する大人が不足していたせいか精神的に幼く、まとまりが悪くてチームプレイもままならない惨状にあった。加えて攻撃力の高さに反し耐久面は紙であり、ちょっとした被弾であっさり死んでしまう。それでも何とかやってこれたのは、「死んでも肉体が再生する(ただし死ぬ前の記憶は一部失われる)」というハントレス特有のリジェネレイト体質があるおかげ。死んでも蘇ってまた戦う、ヴァルハラ戦士(エインヘリアル)の如き少女たち。かつてUNA(世界連合軍)に所属していた元軍人のデルウハは、彼女たちを最大限に「有効活用」しようと知恵を振り絞る。導き出されたのは、「都合の悪い事態が発生したらハントレスたちを殺害して記憶を消し、都合の悪い事態そのものを『なかったこと』にする」という悪魔じみた発想。「味方殺しのデルウハ」が、遂にその本領を発揮する時が来た……。

 主人公ではなくヒロインたちに「死に戻り」させる、最低で最悪なサバイバル・ストーリーです。「特殊な力を持った少女たちが人類を滅ぼそうとする謎の怪物に立ち向かう」という、『ストライクウィッチーズ』や『アサルトリリィ』みたいなよくある「少女強化兵」路線をベースに歳食った主人公が教導役を務めるタイプのマンガかな、と思わせておいていきなり主人公が少女をSATSUGAIするシーンを放り込む、控え目に申し上げてもクレイジーな作品です。ギャルゲーでセーブ&ロードを繰り返すような感覚で幼き少女たちを血祭りに上げ、巧みに好感度を操作する。これで主人公が「人間殺すのが大好きな異常者」とかだったらサイコサスペンスの一種と捉えることができるというか枠にハメて読むことができるのですが、デルウハ殿はただ殺人行為に慣れているだけで別に人殺しが好きというわけではなく、「殺した方が合理的だから」という理由で手を血に染める。3巻の帯に「倫理0:合理主義100 それは悪魔の構成比率」とあるように、彼はすべての倫理観を置き去りにして驀進していく。反省もなく改心もしない、一般的なマンガであれば悪役にしかならないような男が「人類最後の砦」を支える守護者になっているという、皮肉過ぎるシチュエーションは悪趣味すぎてもはやギャグです。デルウハの凶行がいちいちホラー映画みたいな演出で描写されているのも悪趣味オブ悪趣味であり、この尖り過ぎた作風に夢中になる人と「今の僕には理解できない」ってなる人、反応はキッパリ二つに分かれるでしょう。「デルウハの非倫理的な所業を許容できるかどうか」が一つの関門となっており、更にその関門を乗り越えても「『殺害による記憶の操作』を前提としたトリック」があちこちに仕込まれているため、少しでも集中力が欠けると「『嘘喰い』や『ジャンケットバンク』の頭脳戦に付いていけなくなる感じ」を味わうハメになる。私も注意散漫な状態で「『犯人たちの事件簿』みたいで面白〜」と笑いながら読み進めていき、だんだん話がわからなくなってきたので引き返して読み直したりしました。デルウハとハントレスの疑心暗鬼な頭脳戦が繰り広げられる一方、怪物たるイペリットもどんどん新型が出てきて攻略が難しくなるので常に二正面作戦を展開しているような忙しさがあるんですよね。内容が濃くて中だるみもなく、「全12巻」というボリューム以上の満足度。1冊1冊に中身がギッチリ詰まっています。福本伸行が描いたら7話目(ピッチングマシーンの回)だけで1冊は使いそうだ。

 ストーリーだけ要約して書けばシリアスなバトル系ダーク・サスペンスといった趣だが、「真顔でギャグを言っているようなシーン」が頻出するため全体的な基調はダークというよりブラックジョークです。ストーリー後半で発生する某人物の死因など、「これで悲しめってのは無理があるだろ」という代物です。ひっきりなしに窮地へ追い込まれるデルウハ殿だが、「自分で蒔いた種」としか言いようがない場面もあり、「俺はちゃんと計算してるんだよ」「計算機買い直せよ」という昔読んだ小説の遣り取りがふと頭をよぎったり。あまりにも最低すぎて読者から「最低殿」というあだ名まで付けられたデルウハ殿、それでも憎めないのは行動原理が終始一貫しているからでしょう。マンガのキャラは悪か善かといった属性よりも「ブレない」というファクターによってある種の強度がもたらされる。「もっと他にやり方はなかったのか?」という疑問は読者として当然持つべきであるし、「デルウハに比するほど優秀で、デルウハよりもまともな倫理観を持ち合わせた元軍人が主人公だったら」という夢想を羽搏かせるのも健全である。けど終わりかけの世界であそこに辿り着いたのはデルウハだった、その数奇を噛み締めることで私は納得しました。さあ君もタイヤの代わりに倫理を溝に落として駆け抜けたデルウハ殿の軌跡を見届けよう! なお作者「六内円栄」のXでは最終巻の内容を踏まえたDLCマンガが公開中。完結の余韻に浸りながら読むのも一興です。

・リー・チャイルドの『反撃(上・下)』読んだ。

 “ジャック・リーチャー”シリーズの2作目。原題 "Die Trying" 、「死ぬ気でやり遂げる」というような意味です。『キリング・フロアー』のときは「除隊から半年後」だったリーチャーが「除隊から14ヶ月」になっているので前作から約8ヶ月経過しています。一人称視点だった文章が今回は三人称視点になっていて少し戸惑いました。リーチャーシリーズは作品によって一人称だったり三人称だったりと融通を利かせているらしい。今回に関してはシーン切り替えが多いから三人称の方が自然ではあるな。舞台はアメリカ中西部イリノイ州シカゴ、ただし事情があってすぐに移動……というか拉致されてしまいます。前作の「いきなり逮捕」に続き「いきなり拉致監禁」の憂き目に遭うリーチャー、半端ない巻き込まれ体質だ。

 発端はほんの親切心だった。足の不自由な女性が杖を落としてしまったから、拾ってあげて荷物もちょっと持ってあげただけ。なのに謎の集団に銃を突きつけられて女性と一緒に攫われてしまったジャック・リーチャー。その気になれば不埒者をブチのめすこともできたし、隙をついて逃げ出すことも容易だったが、足の不自由な女性――ホリー・ジョンスンの身を案じて大人しく傍観者に徹した。しかしある日、いい加減リーチャーの存在が邪魔になってきた犯罪者どもはショットガンをブッ放して彼を殺害しようとする。ホリーが説得したおかげもあって事なきを得るが、「奴らは私を殺そうとした……こうなったら黒幕も含めて全員血祭りにあげないと気が済まない」とリーチャーは怒りに燃えた。攫われて行き着いた先はアメリカ北西部モンタナ州の山中、リーチャーとホリーの身柄を拘束する謎集団の正体とはいったい何なのか……?

 いわゆる「舐めてたオッサンがメチャクチャ強かった」という『イコライザー』的な展開のアクション小説ですが、リーチャーの「反撃」が本格的に始まるのは下巻以降で、上巻は攫われたホリーの行方を追うFBIの地道な捜査パートが長々と描写されるため少しかったるいところはあります。意外と動きが少ないんですよね。蘊蓄的な文章の数々が興味深い一方、「話が進まないな……」と焦れる面もある。あと、防犯カメラに映っていた「ホリーの杖を拾ってあげるリーチャー」の姿が「ホリーから杖を奪って身動きできなくする暴漢」と勘違いされて犯人一味と誤認される流れには笑ってしまったが、「今回の件は世間に公表せず秘密裡に処理する、犯人一味は全員即座に射殺しろ」という命令が下されたせいで笑いが引っ込んでしまった。巻き添えで拉致されたうえに、本来身柄を救出してくれるはずのFBIが「問答無用で射殺」の方針を立てているだなんて……不運に不運が重なり過ぎだろ、ジャック・リーチャー。

 FBIの捜査官がリーチャーの経歴を確認するシーンで「なぜ除隊したんだ?」と疑問を抱くところもシリーズを追っていくうえで読みどころの一つとなっています。『キリング・フロアー』では「ソ連崩壊に伴って人員削減が進められた」と語り「時代にそぐわない軍人がお払い箱になった」かのような印象を与えたリーチャーですが、捜査官は「無能な者ならともかくこれだけ優秀だった将校が単なる人員削減で軍から去るのは妙だ」と指摘する。容疑者と見做しているので「何かろくでもないことをして英雄から悪漢に堕したんだろう」とあまり深く考え込まずに決めつけられるが、読者はリーチャーの人となりを知っているから「もっと複雑な理由があるはず」と反論したくなる。リーチャーの元上司「ガーバー将軍」も登場して「彼は悪漢になるような男ではない」ことを力強く明言するが、結局除隊した理由については触れなかった。シリーズ8作目『前夜』が軍人時代のリーチャーを主人公にした話なので、たぶんそちらの方で詳しく掘り下げられるはずですが……。

 今回はリーチャーが凄腕のスナイパーであることを証明するシーンが随所にあり、なるほど確かにスティーヴン・ハンターの“ボブ・リー・スワガー”シリーズを彷彿とさせる内容となっています。敵集団の発言から隠された真意を読み解くミステリっぽい謎解きパートもありますが、『キリング・フロアー』に比べるとだいぶ控え目でやっぱりアクション要素の方が強い。相変わらず敵と見做した連中を容赦なくブッ殺しまくっている。ただ、黒幕というか敵集団のボスの正体が結構ショボい感じで、上下合わせて700ページもあるボリュームに相応しい内容かと問われると少し返答に窮する。『キリング・フロアー』は新装版が出たのにこの『反撃』に関しては新装版や復刊がなかったの、ちょっと納得してしまうところはある。リーチャーのキャラが魅力的だから何とかなってるような一作だ。吊り橋効果もあってかヒロインのホリーともイイ雰囲気になるが、風来坊のリーチャーが一箇所に留まるはずもなく、あっさり別れた後でウィスコンシン州に向かう。じゃあ次の舞台はウィスコンシンなのか……と言うとさにあらず、数日過ごしてからまた旅立ちます。次作に繋がるような「ヒキ」は作らない。たぶんシリーズ完結編もこういう「いつもの調子」で終わるんじゃないかなぁ、と想像しています。

・拍手レス。

  久しぶりに見に来たら復活されている・・・よかった・・・ 最近(最近?)完結したので「Thisコミュニケーション」をオススメしておきますね。ジャンルはサスペンスコメディかなぁ・・・

 最初はよくある「特殊な力を持った少女たちが人類を滅ぼそうとする謎の怪物に立ち向かうアレ」かと思いましたが、だんだん『犯人たちの事件簿』みたいになっていくので笑っちゃいました。ジャンプ+で15話(単行本4巻)まで無料だからとりあえずそこまで目を通そうか、と読み出して気が付いたら最終巻まで辿り着いていたという。


2024-10-01.

・長年積んでいた麻雀漫画『麻雀バトルロワイヤル 萬(ワン)』(全8巻)を崩したら「ホクトのケン」ことケン先輩の口癖が「ん、〇〇」なせいで脳裏に砂狼シロコがチラついて仕方なかった焼津です、こんばんは。ん、先生はもっと他家の都合を考えるべき。

 『麻雀バトルロワイヤル 萬(ワン)』はコンビニコミックとして発売された時のタイトルで、元は『フリー雀荘最強伝説 萬 ONE』という題名で連載されていた作品であり、作者名も連載当時は「本そういち」名義でした。最近の著作物は「須本壮一」名義で統一されており、コンビニコミック版をベースにした電子版『フリー雀荘最強伝説 萬(ワン)』(全5巻)も刊行されている。「ん? コンビニコミック版がベースなのに全8巻が全5巻になってない?」と不審に思った方がおられるやもですが、コンビニコミック版は本編に当たる『フリー雀荘最強伝説 萬 ONE』のみならず、ライバルキャラ「赤い彗星の西」をメインに据えたスピンオフ『麻雀新世紀 赤の伝説』、本編の続き『新フリー雀荘最強伝説 ワン』もまとめて収録しているため巻数が多くなっています。「近代麻雀誌上でアカギと覇を競った」という触れ込みですが、連載期間は1997年から2003年にかけての6年ほどであり、アカギでいうとだいたい仲井編から鷲巣麻雀の5回戦あたり……アカギが致死量の血液を抜かれたところまで。20年以上前の作品ですからあちこち古さを感じるところはある(若い読者はパソコンモニタの厚さにビックリするだろう)ものの、スピード感のある展開と丁寧な解説で良質な麻雀漫画に仕上がっています。

 主人公「萬一(よろず・はじめ)」は「麻雀の神様に愛されている」と形容されるほど凄まじい運を持っている割に技術面が拙いことと粗忽なことが重なってイマイチ強くなれないでいる青年。1話目で天和が成立したにも関わらず、なんと気づかずにそのまま打ってしまう。そんな萬にケン先輩が基本的なテクニックをレクチャーしていく、という形式でストーリーが進行していきます。レッスン要素強めのオムニバス形式だから序盤はやや退屈ながら、会員制麻雀ルーム「スターズ」に入るあたりからバトルロワイヤル要素が強くなって盛り上がってきます。萬は主人公だから要所要所で勝ってはいるんですが、未熟さゆえに無惨な敗北を喫してボロ泣きするシーンもちょくちょくある。主人公が超人化しやすい麻雀漫画にしては珍しく、主人公が情けないままで強くなっていく。そのせいかあまり萬が目立たず、ケン先輩の方が主人公に見える回も多いですね。

 次々と立ちはだかる敵の中には卑怯な手を使うヘイト役のキャラもいますけど、根っからの悪人というわけではないため不快感もそこまで高まらない。本編のラスボスに当たる打ち手も結構苛酷な生い立ちで、主人公よりラスボスの方に同情してしまう読者もいるんじゃないかしら。「わからないよ…そんなコト」の見開きが切ない。ただ、スピンオフと続編をまとめた6〜8巻らへんはぶっちゃけあまり面白くなかったです。6巻から7巻前半(『麻雀新世紀 赤の伝説』)はスピンオフということを考慮すれば気楽に読めるノリだしギリギリでアリか……と譲歩できるものの、7巻後半から8巻(『新フリー雀荘最強伝説 ワン』)は続編として読むにはいささかガッカリな内容だった。萬に好きな女の子ができて、その子のために頑張る――という具合に青春恋愛要素を絡めようとしているんですけど、麻雀パートとうまく接合できなくてチグハグっつーか「麻雀漫画としても青春漫画としても中途半端」な状態に陥っています。「麻雀の難問を解かないとSEXできないラブホテル」なんていうしょーもないエピソードを立て続けに2話もお出しされたときはどうしようかと。ギャル雀に来ているのに時間潰しで始めたネット麻雀にハマってしまう西のエピソードが辛うじて楽しめたかな。

 最近の麻雀漫画で面白かったのは『オーラス−裏道の柳−』、『麻雀小僧』の押川雲太朗と『天牌』の嶺岸信明がタッグを組んだ新作。派手さとか独自性はあまりないけど淡々とした感じが読みやすくて好きだった。8巻で終わっちゃったのが残念。麻雀漫画以外で面白かったのは『平成敗残兵☆すみれちゃん』とか『スライム聖女』

 『平成敗残兵☆すみれちゃん』は御多分に漏れず「すしカルマ」という比較的最近に出てきたキャラが話題になっているのが気になって読み出した。売れない地下アイドルを辞めた後、定職にも就かずバイトで稼いだ金をパチンコに注ぎ込んで溶かしている、絵に描いたようなノーフューチャー女のすみれちゃん(31歳)。イトコである「雄星」は、「推し=最高にカッコ良かったすみれちゃん」を取り戻すため同人写真集の作成・販売を持ちかけるが……という、やってることは『【推しの子】』『2.5次元の誘惑』『その着せ替え人形は恋をする』と被るところがあるんだけど肝心のすみれちゃんがクズ過ぎるせいで全然違う味わいになっています。はじめの頃はせっかく得た報酬をパチンコに突っ込んで無にしてしまった、程度のまだ可愛げがあるクズぶりながら、300万円もの金を横領した挙句返せなくなって借金を背負ってしまうあたり(単行本だと2巻)は展開の早さも相俟って笑ってしまった。「もはやAVに出演しまくって返すしか……」と追い詰められたところで意外な展開に入って更に盛り上がるわけですけれど、SNSで話題炸裂した「すしカルマ先生」が登場するのは3巻から。「すしカルマ」という変な名前はサークル名兼ペンネーム、つまりエロ同人作家であり、30過ぎて絵柄が古くなってきた&性欲も枯れてきてラブコメというかガキの恋愛に興味が持てなくなってきた(かと言って社会人経験がないから不倫などを含む大人の恋愛もよくわからない)&元アイドルなので容姿は優れている方だけど最近白髪が目立ち始めた……と侘しさ満載のキャラです。あまりにも話題になったせいでタイトルに冠しているすみれちゃんを差し置いてバナーにまで顔を出すレベルとなった。明日の見えない敗残兵と化していたすみれちゃんやすしカルマ先生が「夢をもう一度」とばかりに再起していくサクセスストーリーになる……のかどうか現状では読み切れないが、続きが楽しみな作品の一つではあります。なおプロトタイプに相当する読切「平成敗残兵☆すみれちゃん(31)」もWebで公開されていますが、内容は連載版の1話目とほぼ一緒なので間違い探し級の相違点が気になる人以外はわざわざ目を通さなくてもOK。

 『スライム聖女』は異世界ファンタジー、いわゆる「悪役令嬢モノ」に該当するが現代人が転生するパターンではなく、森に遺棄された聖女(とは名ばかりの非道を働きまくった少女)の死体にスライムが入り込んで乗っ取る――という、設定だけ見ればややエグい話である。幸いスライムが善良な性格をしているおかげで爽やかな読み口となっているけど、「生前の聖女」が「これは殺されても仕方ないな……」とドン引きするぐらいヒドいのでそれなりにエグみは残る。性格はともかく「聖女」と呼ばれるくらい稀少な存在なのに護衛も付けず単独行動する場面が目立つなど、「設定の合理性」よりも「ストーリーの都合」を優先するつくりに馴染めないところはあるにせよ、極悪令嬢「ジェリィ」を乗っ取ったスライムが見せる顔芸の数々がとにかく可愛くてほぼ「スライムの顔芸見たさに読んでいる」漫画となっています。いえ、単行本で言うと2巻あたりの範囲から他の聖女も出てきて賑やかになってくるんで顔芸以外の読みどころもちゃんとありますよ。基本的に善良ではあるが別段聖者になりたいわけではないスライムが「周りが聖女としての振る舞いを期待しているからとりあえず聖女のフリしとこ」程度のノリで雑にロールし、周囲が様々な忖度を張り巡らせた結果として「稀代の聖女」として祭り上げられていく……という勘違いモノの鉄板展開を堪能しつつ、ひたすら食い意地の張っているスライムを愛でる、そういう「いンだよ細けェことは」なコメディです。

アニメ「ぐらんぶる」6年の時を経て2期制作を発表!内田雄馬らキャストは続投(コミックナタリー)

 へー、『ぐらんぶる』のアニメ2期やるんだ。……『ぐらんぶる』のアニメ2期!? 1期やったのって2018年の夏ですからまだ平成ですよ。つい先日完結した『呪術廻戦』の連載開始も2018年というくらいなのだから、普通はアニメの2期が来るなんて考えられないほど間が空いています。主人公「北原伊織」が大学生活をスタートさせるところから始まるダイビング漫画ですが、ことあるごとに全裸のシーンが挟まり、ヒロインですら全裸の男たちを見てもノーリアクションになるという異常なギャグ空間が展開される。原作者はバカテスの井上堅二。なにぶん10年も続く長期連載漫画なので登場キャラクター数も多く、ギャグの合間に進行する恋愛模様も読みどころの一つとなっています。ただし時間経過がかなり遅く、作中ではまだ伊織たちも一年生のままなんですけどね……連載開始時点は大学入学の時期、つまり春で、最近やっと秋の学祭が始まったところ。もう相当記憶がおぼろげになっているが、確か1期目でやったのって原作5巻くらい、沖縄編のあたりまでだったような気がする。今月出る最新刊が23巻なので全体から見ると1/4にも満たない。伊織の妹「栞」どころか存在感の強いサブキャラ「毒島桜子」も登場する前でした。2期は栞の手紙が届くところから始まるらしいが、だとしたら青女(青海女子大)の学園祭にまつわるエピソードは飛ばすのか? それともエピソードを前後させて栞編の後に青女学祭編をやるのかしら。

 6巻以降の『ぐらんぶる』の展開はざっくり「青女学祭編→栞編→夏休み編→沖縄再上陸編→伊織争奪戦編→伊豆秋祭編」といった塩梅で、仮に2クールあったとしても夏休み編までが限界だと思われる。夏休みのあたりはとにかくエピソードが多く、6冊分くらいありますからね。それに『ぐらんぶる』は「〇〇編」みたいな分類が難しい単発的な日常エピソードもふんだんに盛り込まれており、全部やろうとしたら4クールは掛かりそう。2期制作発表に合わせて期間限定でマガポケコミックDAYSなどで過去エピソード無料配信を行っていますから、原作を読んだことない人や久々に読み返したい人はこの機会にどうぞ。私も久々に読み返しているけど、「イトコだけど伊織と千紗に血の繋がりはない(伊織の父が養子のため)」って設定すっかり忘れていたな……それと真面目にダイビング漫画してることに驚かされる。周知の通り『ぐらんぶる』はどんどんダイビング要素が希薄になっていく(シャークスクランブルを描いた20巻から先はほぼダイビング要素がない)作品なので「ダイビングに懸ける青春」を期待する方にはオススメしがたいが、とにかく時間があるなら無料のうちに読めるだけ読んじゃってください。ちなみに私が好きなキャラは千紗の姉の「奈々華」さんです。1巻の頃はまるでヒロインみたいな雰囲気だったのに、今やすっかりシスコン仮面に……。

『アサルトリリィ Last Bullet』、延期していたエイプリルフール企画「リリィにバブ・ソングを」開催

 ラスバレの延期中だったエイプリルフール企画が7月に開催されて終了間際の8月にプレーしたことを10月になってから話す、という今更過ぎる話である。夢の中で幼稚園児化したリリィに囲まれた楓・J・ヌーベルが眠りに就いて(つまり夢の中の夢の中で)「幼児退行したリリィたちが駄々をこねる」幻覚を視た――という複雑な入れ子構造によって齎される曲であり、展開される映像には軽くAC部みを感じる。歌詞もかなりギャグ寄りなんだけど、リリィたちが「10代の若さで国防の重責を担わされ、常に明日をも知れぬ身」であることを踏まえると「そりゃ駄々もこねたくなるわな……」って気持ちになってしまうのが味わい深い。アプリの方では「リリィでアイドルグループを結成して必死に歌とダンスを練習し衣装も作ったのにヒュージの襲撃でメンバーが死亡したためファーストライブを開く前に解散した」みたいなエピソード(使われなかった衣装を新たなアイドルリリィが受け継ぐ、という流れ)やってるぐらい死と隣り合わせの青春である。「寝るまでトントンしてー!」と真顔で歌う夢結さまを想像すると笑ってしまうが、「夢でも会いにきて」と泣きながら眠る絵を眺めると笑えなくなってしまう。アサルトリリィまったく知らない勢向けに解説しますと、「白井夢結」という子はシュッツエンゲル――マリみてで言うとスール――の上級生「川添美鈴」が戦死した現実をずっと受け止め切れずにいて、「夢の中で」のみ再会できることが心の支えになっており、アニメの次回予告でも「続きはまた、夢の中で」がお馴染みのフレーズと化している。

 ローンチ時点ではプレイアブルキャラが19人しかいなかったラスバレも新キャラがどこどこ追加されたおかげで、現在は既に60人を超えています。特に主人公「一柳梨璃」の所属先であるガーデン「百合ヶ丘女学院高等学校」は全体の半分以上を占めており、総勢35名と、もはや一クラス分の人数に達している。川添美鈴みたいな故人も含まれているので生存しているキャラに絞ると少し減るけど……レギオン(チームのようなもの)も確認できるだけで十数個あり、さすがに覚え切れなくなってきました。私に分かるのは何度見てもローエングリンのレギオン制服(百合ヶ丘には一定の戦果を収めたレギオンに与えられる「聖白百合勲章」があり、これを受章したレギオンはオリジナルの制服を作る権利も与えられる)がえっち過ぎるということだけだ……。

・リー・チャイルドの『キリング・フロアー(上・下)』を読んだ。

 98年度アンソニー賞の新人賞とバリー賞の新人賞をダブル受賞した長編ミステリで、原題はそのまま "Killing Floor" 。元軍人の「ジャック・リーチャー」を主人公にしたシリーズの1作目です。原書が発売されたのは1997年だからもう27年も前の作品である。翻訳版の刊行が2000年、そこから数えても24年経っています。本書がリー・チャイルドの処女作であり、彼は1954年生まれだからデビュー時点で既に40歳を超えていましたが、今はもう70歳だ。ジャック・リーチャーのシリーズは現在も続いており、今月には29作目の "In Too Deep" が発売される予定となっている。激しいアクションと興味を惹く謎解きが重なった作風は『極大射程』『ザ・シューター』の原作)のスティーヴン・ハンターが引き合いに出されるほどで、私がこの本を買ったのも当時ハンター作品にドハマりしていたからですね。日本ではあまり人気が出なかったのか3作目の『警鐘』以降はあまり翻訳されなくなったけど、9作目の『アウトロー』がトム・クルーズ主演で映画化されてからはまたポツポツと刊行されるようになりました。ただ順番はグチャグチャで、こないだ出た『副大統領暗殺』なんて原書は2002年刊行の6作目。4作目と5作目に至ってはまだ翻訳すらされていない。邦訳の止まっていた期間が長いせいもあってなかなか英語版に追いつかず、原書の刊行順で読もうとすると歯抜けの多さに頭を抱えるシリーズとなっています。各話完結方式なうえ作中の時系列はバラバラみたいだから無理して刊行順に読まなくてもいいみたいだけど……。

 父親が将校で、物心つく前から各国の米軍基地を転々とする生活だったため「故郷」と呼べるものを持たないジャック・リーチャー。彼自身も将校として長らく憲兵隊に務めていたが、今現在は堂々たる無職の身である。定職に就く気などさらさらなく、バックパッカーのようにふらりふらりと様々な土地を渡り歩く風来坊なリーチャーはほんの気まぐれでアメリカ南部ジョージア州の田舎町「マーグレイヴ」に立ち寄ったところ、身に覚えのない殺人容疑で逮捕されてしまう。その気になれば抵抗して無礼な警官どもを叩きのめすこともできたが、ひとまずは大人しく従って手錠を受け入れるリーチャー。すぐに晴れるかと思われた嫌疑は、いかにも無能そうな署長が「現場の近くで見かけたのはこいつに間違いない!」と言い切ったことで深まってしまい……。

 リーチャーが逮捕された後も殺人事件は発生し続け、とある現場が非常に凄惨な有様で「殺戮の床(キリング・フロアー)」と形容されたところからタイトルが来ている。アマゾンプライムで配信されているドラマ『ジャック・リーチャー 〜正義のアウトロー〜』のシーズン1がこの『キリング・フロアー』を元にしています。冤罪だし、無実が証明されたらとっととこの町を出よう……というリーチャーの思惑は身元不明だった被害者の正体が明らかになった途端、吹っ飛んでしまう。何が何でも事件の裏に隠された陰謀を暴かねばならなくなったリーチャーは、非合法的な手段も躊躇わず行使するようになっていく。フレーバー程度だと軽く捉えていた要素が後々になって重要な伏線になってくるなどミステリ的な意匠も多くちりばめられているが、悪党どもを容赦なくブッ殺していくタイプの話なんで、読み口としてはミステリというより冒険小説に近い。少しネタバレになるがマーグレイヴ(架空の町)で進行する陰謀劇の焦点は「紙幣偽造」であり、先に『ハイパーインフレーション』を読んでいると「あっ、これ『ハイパーインフレーション』でやってたところだ!」と理解が早くなります。それとは関係ないけど住吉九の新連載『サンキューピッチ』が面白い。てっきり『デッド・オア・ストライク』とか『球神転生』みたいなイロモノ路線かと思って読み出したが、想像よりも真面目に野球漫画やってて驚いた。真面目にやっていてもなお隠し切れぬ「癖」や「狂」が滲んでくるところが味わい深い。

 話が逸れた。そんなわけで『ハイパーインフレーション』読者にもオススメしたい『キリング・フロアー』であるが、問題はこの作品、翻訳権を買ったのが相当昔だからか日本語の電子版が出ていないんですよね……一応新装版もあるんですけど、それすら12年前なので新品で入手するのは困難。古本屋か図書館に頼るしかない状況です。ただでさえ歯抜け翻訳なのにごく最近の本を除いてほとんど電子化されておらず、なかなか新規を引き込みにくい布教者泣かせのシリーズです。楽天家であり自信家であり過去のトラウマとかも抱えていない、スパッと鋭利な精神を有するジャック・リーチャーの粘り強くて冷静なところがカッコ良く単純に主人公目当てで読んでも楽しめるうえにストーリーそのものもうねりがあって面白く、もっとたくさんの人に読まれていい作品だろうと信じています。主人公以外の登場人物も個々のキャラ立てがうまいんで理解しやすく、スルスルと読める。名前が不明だから登場人物表に載っていないサブキャラだけど、床屋の老人もイイ味出してるんだよなぁ。リーチャーと懇ろになった女性との性描写がやたら多いのは少しウンザリしたが、逆に言えばマイナス点はそれくらいか。

 最後にトリビアめいた余談をいくつか。アメリカの田舎町を舞台にした小説なので作者もアメリカ人だろう、と思い込んでしまいそうになるが実はリー・チャイルド、イングランド生まれの英国人である。英国を舞台にすると「窮屈で、心理描写の多い作品」になりそうだから、あえて開放的なイメージのあるアメリカをセレクトした模様。確かにイギリスじゃ「住所不定の放浪探偵」という設定は怪しすぎて成立しそうにないな。『キリング・フロアー』を出した翌年にアメリカへ移って、以降はずっとアメリカ住み。あと、冒頭でも触れた通りジャック・リーチャーのシリーズは30年近くに渡って展開されていますが、さすがに作者のリー・チャイルドも高齢になってきたためシリーズの権利を弟のアンドリューに譲ったそうです。24作目の "Blue Moon" まではリー・チャイルド単独名義ながら、25作目の "The Sentinel" 以降はアンドリュー・チャイルドとの共著形式。この弟、現在は「アンドリュー・チャイルド」と名乗っていますがもともとは「アンドリュー・グラント」という本名(ちなみにリー・チャイルドの本名は「ジェームズ・D・グラント」)で作家活動していたらしい。日本では翻訳されていないのでどんな作品かよくわからないが、諜報員や刑事を主人公にしたスリラーっぽい。しばらく共著形式で続けた後、いずれリー・チャイルドは完全に執筆を引退してアンドリュー単独名義に切り替わる予定とのことだ。弟と言っても14歳くらい離れているのでアンドリューはまだ50代なんですよね。

 こういうシリーズ物の引き継ぎは過去にも例がある(『ボーン・アイデンティティー』とかの原作に当たる“ジェイソン・ボーン”シリーズもロバート・ラドラムの死後にエリック・ヴァン・ラストベーダーが引き継いだし、『レッド・オクトーバーを追え!』の“ジャック・ライアン”シリーズもトム・クランシーとの共著時代を経た後にマーク・グリーニーが引き継いだ、ディック・フランシスの競馬シリーズも息子が新作を書いている、『ミレニアム』に至ってはスティーグ・ラーソンの急死後にダヴィド・ラーゲルクランツが書き継いで一旦終わらせてから更にカーリン・スミルノフがシリーズを再開させた)が、一番「すごいな……」と感じたのは原作・田中芳樹の『KLAN』。全12巻(番外編も入れると全13巻)というそこそこ長期のシリーズながら芳樹が書いたのは最初の1冊だけ。2〜4巻は霜越かほる、5〜6巻は浅野智哉、7〜9巻と番外編は白川晶、10〜12巻は岡崎裕信と、ほとんどリレー小説のような有様です。この話題を掘り下げていくとクトゥルー神話大系とか、パスティーシュが大量に存在するシャーロック・ホームズとか、グインサーガとかも出てくるけど、結局最強なのは「宇宙英雄ペリー・ローダン」シリーズか……今でも月に2冊新刊が発売されており、日本版だけでも700冊をとっくに超えています。原書は1600冊分を超えるボリュームなので全然翻訳が追いつかない。ローダンはドイツ発の小説なんですが、実はドイツにはローダンよりも長い(ローダンと同じように複数作家制でローダンよりも7年早く始まっているためどうしても追いつくことができない)「ジェリー・コットン」というFBI捜査官を主人公に据えたシリーズがあるというのだから驚きです。翻訳版が出ていないせいか、日本での知名度はとても低い。日本ではほとんどの人が知っている『サザエさん』も海外だと触れる機会がほとんどない、みたいな現象か。調べてみると1960年代に『FBIハリケーン大作戦』などのタイトルで映画が上映されていたり、2010年にドイツで制作された映画 "JERRY COTTON" が『ミッション:エクストリーム』というタイトルでDVD化されているみたいだけど、いやー、ホントに知らないな……「原書は既に3500巻を超えている」とか言われると200巻超えの『ゴルゴ13』すら短いような気がしてきて感覚がおかしくなる。脱線がひどいので話をジャック・リーチャーに戻すと、『キリング・フロアー』の次に書かれた2作目が『反撃』(原題 "Die Trying" )。これも積んでいるので次回更新までに読もうと考えています。


2024-08-16.

・久しぶりにサイトを覗いたら「3ヶ月以上更新がないため」という理由で広告が表示されていたので、相変わらず気力は払底しているけど形だけでも更新しておくかぁ、と何食わぬ顔で戻ってきた焼津です、こんばんは。

 最近読んだ作品で面白かったのは『無敗のふたり』です。サムネイル見て「なんか『オールラウンダー廻』っぽい雰囲気の格闘漫画が始まったな」と思ったら作者が「遠藤浩輝」で、同じ人なんだからそらそうだわ、と納得しました。MMA(総合格闘技)で大成したいと願いつつパッとしない戦績の主人公が、難アリだけど凄腕のトレーナーと組んで破竹の快進撃を繰り広げる、みたいな概要としては「よくある格闘モノ」です。しかし格闘描写が理詰めで非常に分かりやすく、『オールラウンダー廻』より更に磨きが掛かっている。まだ連載を開始したばかりで単行本もようやく1巻が出る頃、もうちょい巻数が溜まってから読みたいって方もおられるでしょうが、中身が濃い&細かいので現状でも充分に堪能できます。メインは男性陣だけど、例によって女性キャラも魅力的。MMAを扱った格闘漫画と言えば『レッドブルー』も面白いですよね。主人公の青葉くん、根暗という領域を超えて性根が歪んでいるせいで読んでいると戦っている相手の方が主人公に見えてくるという不思議な作品である。

【期間限定】「BBプレゼンツ☆セレブサマー・エクスペリエンス! 〜逆襲のドバイ〜」開幕!

 マギレコ終わっちゃったし、ロスフラはエンドコンテンツに手を出さなければ日課もほとんどない緩ゲーだし、メギド72はたまに更新される本編を追いかける程度だし、ラスバレはどんどん追加される新キャラを覚え切れなくなってきているから気が向いたら起動するくらいの頻度だしで、唯一真面目に毎日遊んでいるゲームになりつつあるFGOで恒例の夏イベントが開催されました。「2030年のドバイ」を舞台にしたなかなか規模の大きそうなイベントで、「明らかにシエル先輩」なキャラが出てくる、まだ名前は明かされていないけどザビこと「岸波白野」(『Fate/EXTRA』シリーズの主人公、FGOの「藤丸立香」と一緒で本来はプレーヤーが任意の名前・性別を設定する)が顔を覗かせるなど、それだけでも話題性は充分なんですが「イベントストーリーが奏章Vへ続く」「奏章Vは期間限定で、前編・中編・後編と3回に分けて配信する」と無茶苦茶なことを言い出したから型月界隈は騒然となった。

 FGOやってない人は「奏章って何?」と首を傾げるところでしょうけれど、簡単に言うと「FGOの第二部に属する、番外編みたいなムードを放っているけど一応本編に属するストーリー」です。FGOの第二部は既に第一章から第七章まで配信されており、そのままエピローグに当たる終章へと向かう……かと思いきや、その前に一旦「奏章」を挟む形式になりました。故に奏章Tは第八章、奏章Uは第九章、奏章Vは第十章に該当すると言えなくもない。というか第二部は第5.5章「地獄界曼荼羅 平安京 轟雷一閃」や第6.5章「死想顕現界域 トラオム 或る幻想の生と死」、章としては認められていないけどトラオムの前段に当たるため実質「第6.25章」な「非霊長生存圏 ツングースカ・サンクチュアリ」もあり、これらを含めると本当はとっくに十章を超えていたりする。「エピローグに当たる終章」は2025年に開幕予定となっており、「終章を十周年(FGOは2015年配信開始)に合わせるための時間稼ぎでは?」と勘繰られたりもしています。FGOには第一部と第二部の間に配信された「Epic of Remnant」、通称「1.5部」があり、奏章はそれに近いのですけれど「あくまで番外編であってプレーしなくても第二部に進める」1.5部と違って奏章はクリアしないと終章に辿り着けないため扱いは明確に異なります。

 「エクストラクラス」がテーマになっており、「奏章T 虚数羅針内界 ペーパームーン」ではアルターエゴ、「奏章U 不可逆廃棄孔 イド」ではアヴェンジャーのクラスが掘り下げられました。次の奏章Vで南欧を舞台にルーラーを取り扱って完結する……はずでしたが、今回の発表により急遽追加分が生じたため「※今まで公表していた『奏章V』は『奏章W』となります」など混乱するようなアナウンスまで出る始末。シナリオで「4つ……いや、3つ」と言い直す箇所があったから「奏章って実はWまであるんじゃない?」と予想する人も多く、追加自体はそこまで驚くことではないのだが、大半は「順当にルーラー編を終わらせてから満を持して奏章W追加」のパターンだろうと読んでいただけに「ルーラー編は後回し! 奏章Vは水着イベントの続編として配信します! 期間限定です!」はさすがに斜め上すぎて……この水着イベント自体は数ヶ月後にメイン・インタールードへ追加され、クリアすると奏章Vも開放される仕組みになるそうですが、今後のスケジュール次第では「奏章Vをプレーできないまま奏章Uから奏章Wに向かうプレーヤー」も出てくるんだろうな、と。あまりにもライブ感を重視した方針に唖然としてしまう。衝撃で半ば思考が吹っ飛んでしまったが、あらかじめ予想されていた奏章Wは「フォーリナー編」であり、奏章Vが恐らく「ムーンキャンサー編」でスライドした奏章Wが「ルーラー編」だということは、ひょっとして奏章はWどころじゃなくXまであるんじゃ……?

 8月28日から配信予定の「奏章V 新霊長後継戦 アーキタイプ・インセプション」は「奈須きのこ」執筆で、先述した通り前編・中編・後編と3回に分けて配信するくらいなので相当なボリュームになっていると考えられます。配信期限は「10月31日(木) 12:59まで」、2ヶ月以上あるからほとんどのプレーヤーにとっては余裕だろうけども、自由時間が限られている人にとってはキツいかもしれない。後日メイン・インタールードに追加される予定とはいえ、「数ヶ月後」だから途中まで進めた状態で期限を迎えてしまうと再開は来年までお預けになってしまいます。しかも奏章Vは「メインクエストを進めると新規サーヴァントが加入」、つまり配布サーヴァントが存在するみたいなので「来年まで待てない!」というのであれば何としても突破しなくてはならない。アペンドスキルの件で揉めている(これについて解説すると非常に長くなるので割愛)さなかにこうもアクロバティックな発表を行わなければならない運営の心中は如何ほどであろうか。それはともかく水着イベントのCMとは別に奏章Vの告知映像も公開されています。「舞台は引き続き未来のドバイ」ながら、「水着勢に加えてアルクェイド(アーキタイプ:アース)も出演」と爆弾じみた情報が投下されている。七周年で実装されながらシナリオには一切絡まなかったアルクェイド(アーキタイプ:アース)がまさかのお出ましとは……もはや奏章というより「スーパー型月大戦」である。面子的にCCCコラボイベント「深海電脳楽土SE.RA.PH」の再来とも言えるし、CCCの外伝に当たる漫画『Foxtail』のコラボイベントじみた側面もある。『Foxtail』は「サクラファイブ」としてCCCに登場するはずだったけど容量と予算と納期の都合で没キャラとなってしまった3人(キングプロテア、ヴァイオレット、カズラドロップ)をサルベージした企画であり、「EXTRAのifストーリーであるCCCのそのまたifストーリー」というややこしいポジションに落ち着いています。「きのこ、CCCにサクラファイブを全員出せなかったことがよっぽど心残りだったんだろうな……」としみじみしてしまう私は水着イベントも奏章Vも「いいぞ、どんどんやれ」って反応ですが、「あくまでFGOが好きなのであって、別にスーパー型月大戦が見たいわけではない」という人からすれば盛り上がっている他のファンたちと温度差を感じてしまうのも仕方がないでしょう。「型月独自の設定に依拠する部分が多い水着イベントを二部構成で、しかも本編に食い込んでまで展開する」の、控え目に申し上げてもかなりの賭けだ。果たしてどんな目が出るか。

 ちなみにガチャは周年の水着エレちゃんで苦しんだ反面、シエル先輩は割とあっさり来てくれた。試運転のために冬木を回っていたら剣相手に有利を取れたので「やっぱりシエル先輩だから弓なのか」と感心したり。彼女の代行者としてのコードネームが「弓」で、シエル(CIEL)もフランス語で弓を意味する言葉――というのはきのこの勘違いで、実際は「空」を意味する言葉。L'Arc-en-Cielというバンド名が「空の弓=虹」から来ているという知識が半端に残っていたせいで取り違えてしまい、気づいた頃にはもう修正不能だった……というのは有名な話です。でも「ラルク」だとアルク(アルクェイドの略)と若干被るから、勘違いしてなかったとしても「ラルク先輩」はたぶん成立していなかったただろうな。ちなみに私、月姫リメイクはシエルルートの途中で止まっているから宝具の第七聖典見てビックリしたり。そろそろ再開しなきゃ。PU2を回す余裕はまだあるものの、「BBドバイ」を狙うかどうかに関しては現在考えを保留中。リボンの色が赤じゃない時点で正体はBBじゃなさそうだし、もう少し様子見したい。奏章Wの角っ子も気になっているから石はなるべく温存したいんだよなぁ。

・拍手レス。

 なんだかんだ10年近く読ませていただいています。焼津さんに共感することも多いので、今後も急がずで構いませんので、触れているアニメ、漫画、小説、ゲームを記していただけると嬉しいです。

 過疎ってても読んでくれる人がいるかぎりは……と踏ん張りたいところですけど、なかなか気力が維持できず厳しいところです。

 嫉妬修羅場ヤンデレヒロインスレだったかな?もう大分昔の為定かではありませんが沃野から辿ってこのHPに辿り着いて時々見ていた身としては残念ではあります。お疲れさまでした。

 「沃野」とはまた懐かしい。書いてたの2006年頃だったかな……私もさすがに当時の記憶は曖昧になってきていますね。

 良かった。焼津さん生きてたわ。

 はい、一応生きてます。

 生存報告ありがとうございます。ご健在であれば何よりかと思いますmm

 はい、ギリギリ生きてます。

 A great website.

 なぜ英語なのかわからないけどThank you.

 焼津さんのホームページに出会ったのは高校生の頃。多くの影響を受け、私も立派な中年になりました。生きてると色々ありますよね・・・。どうか無理をされず。ご健勝を祈っております。

 お心遣い痛み入ります。私もホームページを立ち上げたときはまだ大学生でしたけど、あっという間に歳を食ってしまいました……なんとかかんとか生きていこうと思います。

 無理せずゆっくり休みながら、気が向いたら復帰してくださいませ〜

 とりあえず「最低3ヶ月に一度」を目標に休み休みやっていこうかと。

 Dies iraeの記事を検索サイトから去年の夏に発見し、時折ブログを興味深く拝読していたものです。 ひさびさに訪れたところ、実質的な閉鎖と聞き驚きました。28歳の自分にとってこのブログはDies iraeの発売当時の雰囲気やさまざまな美少女ゲームが生きた年代を感じさせる、貴重な記録の場所であり、とても居心地の良いすてきなサイトでした。現時点でサイトを消す予定は無いとのことなので、過去の記事をゆっくりと拝読させていただきます。 いままでお疲れ様でした。再びお会いできる時を楽しみにしておりますが体調やリアルのほうを第一で。ご快復をお祈り申し上げます。

 お心遣いありがとうございます。「さまざまな美少女ゲームが生きた年代を感じさせる」ホームページは以前「エロゲーレビューサイト」という形でたくさんあったのですが、もうほとんどが閉鎖されてウェブアーカイブで漁るしかなくなっていますね……ここもレビューサイトの芸風にかなり影響を受けており、あの雰囲気を僅かでも伝える役割が担えているのだとしたら嬉しいです。


2024-03-31.

・長い間更新が止まっていましたが、とりあえず生きている焼津です。

 ただ、物凄く身辺がバタバタしているのとメンタルがアレで長文を紡ぐエネルギーが湧いてこないのとで、今後も当分は更新停止状態が続きそうです。率直に言って復帰の目処は立っていません。長年運営してきて愛着もあるサイトなので突然全ページ消去みたいな真似をするつもりはないですが、これで実質閉鎖という感じでしょうか。何食わぬ顔でしれっと再開する可能性とてなきにしもあらずですが……未来のことは未来の自分に任せるとします。

 先述通りメンタルがアレなので新アニメを追いかけることもままならず、ほとんど録画のみで再生もしていなくて、冬クールで最後まで追いかけることができたのは『ダンジョン飯』だけ。連続2クールで春も引き続き楽しめるのが救いです。ソシャゲはFGOを続けているけどイドを突破するのはだいぶ先になりそう。本は漫画なら辛うじて読めるけど小説はちょっとしんどい。現況はそんな具合です。

・拍手レス。

 どうしても思い出せなかった作家名(古泉迦十)、こちらの日記ログで無事確認できました。ありがとうございます。

 どういたしまして。古泉迦十といえば新作の『崑崙奴』が今年中に刊行予定だそうですが、具体的な時期はまだ不明みたいですね。

 焼津さんが丸二ヶ月も更新されないなんて今まで無かったように思いますが、ご無事でいらっしゃいますでしょうか……。

 心配をおかけしてすみません。何か書かねばと思いつつ、言葉が出てこなくて時間が掛かってしまいました。


2024-01-18.

・冬アニメ、あれこれチェックしてみましたが私好みの作品は今のところ『治癒魔法の間違った使い方』『勇気爆発バーンブレイバーン』な焼津です、こんばんは。

 『治癒魔法の間違った使い方』はライトノベルが原作。元はなろう小説で、連載が始まったのは2014年だからもう10年前になる。書籍化を開始したのが2016年、2020年に完結編となる12巻が刊行された。アニメ化が発表されたのは2023年、つまり「完結後にアニメが始まる」という即死チートみたいなパターンですが、本編最終巻でアニメ化が報じられた即死チートと違ってこちらは最終巻が出てから3年以上経っている。たぶんコロナ禍の影響で諸々のスケジュールが遅れたんじゃないかしら。現在は『治癒魔法の間違った使い方 Returns』という続編を展開中。現代日本の高校生たちが剣と魔法の異世界に召喚されてしまうベッタベタのファンタジーながら、凛々しい黒髪美少女って印象だったスズネがウッキウキで異世界に順応してキャラ崩壊していく様子を早めに見せることによりこちらの興味をうまく引いてくれる。あとは何と言ってもローズさんの存在感、見た目だけでも充分に迫力があるのに「CV.田中敦子」なんだもんな……「強そう」以外の感想が出てこない。ホント、ローズさんが出てきた瞬間「別のアニメが始まった?」と錯覚しましたよ。原作読んでないから今後の展開は知らないが、とりあえずスズネとローズさん目当てで追いかける所存。

 『勇気爆発バーンブレイバーン』は巨大人型ロボ界のレジェンド「大張正己」が監督するロボアニメ。原画や絵コンテとかはいろんな作品で手掛けているけど、TVアニメの監督をするのは『スーパーロボット大戦OG -ジ・インスペクター-』以来だから十数年ぶり? TV以外なら『境界戦機 極鋼ノ装鬼』とか『ガンダムビルドメタバース』があるみたいだけど。前半でリアルロボット寄りの作風を醸しアーマードコアとかフロントミッションみたいなムード漂わせつつ、後半でいきなり宇宙から飛来してきた謎の敵が襲い掛かるスーパーロボット寄りの展開へと急転。通常兵器を搭載した主人公たちのロボではまったく歯が立たない……と絶望しかけたところに舞い降りる顔のついた巨大ロボ。胡散臭いけど他に選択肢もないからと主人公が乗り込むや、熱血ロボアニメの主題歌みたいな曲が流れ始め、謎の敵どもを鎧袖一触屠り去っていく。その機体の名は……ブレイバーン! 昔MF文庫Jから出ていた『エイルン・ラストコード』をちょっと思い出してしまった。タイトルが「勇気爆発」の時点でリアルロボット路線をいつまでも続けるつもりじゃないのはハナから明らかだったが、ここまで大胆にやるとは。ネットでブレイバーンが「湿度高そうな押しかけ女房」と呼ばれていることに笑ってしまった。ヒビキやミユなど女性キャラクターも可愛いので当面は視聴継続の方針。

「笑顔のたえない職場です。」2025年TVアニメ化!少女マンガ家のガールズコメディ(コミックナタリー)

 『笑顔のたえない職場です。』はマンガ家を主人公にしたマンガ、いわゆる「マンガ家マンガ」です。最近本編で「主人公の作品がアニメ化決定した」というエピソードをやけに綿密に描いていたから、「これひょっとして『笑顔のたえない職場です。』自体もアニメ化コースに入ったのでは……?」と囁かれていました。ただ、くずしろさんは非常に連載作品が多い(定期的に新刊が出るシリーズだけでも5本ある)マンガ家ですから「他の作品のアニメ化かも」という線もあり、確実視するところまでは及んでいなかった。マンガ家マンガとしてかなり際どい「匂わせ」だっただけに作者も内心ハラハラしていたのではなかろうか。

 くずしろさんは過去に5分枠のショートアニメとはいえ『犬神さんと猫山さん』でTVアニメ化を経験しており、これが初というわけではない。ストック的に充分なことを考えると今回は30分枠でしょうから、そういう意味では初体験かな。『笑顔のたえない職場です。』はマンガ家「双見奈々」とそのアシスタント「間瑞希(はーさん)」、双見の担当編集者である「佐藤楓」、双見の同業者(つまりマンガ家)でありアシスタント時代の同僚でもある「梨田ありさ」、この他様々な人々を交えてコミカルかつ真摯に「マンガが作られる現場」を綴っていきます。ほぼ女性キャラしか出てこない(男性キャラが「いないわけではない」レベルの存在感に留まっている)ので百合マンガとして読むことも可能。ただし、初期は主人公が「担当の佐藤さんにネーム送りたいけど、こんな遅くだし、もし彼氏とヤッてる最中だったらどうしよう」と心配するエピソードとか、送ったネームの返事がなかなか来なくて「放置プレイ」だの「焦らしプレイ」だの言い出す回があったりして、「読者の反応次第ではお色気路線に進む気もあったのか?」と窺わせる部分がある。そのため初期と最近とでだいぶ雰囲気が違う。「アニメ化で気になった」という方が最初の数話だけ読んで「こういう話か……パス」とならないか心配です。私はコミックDAYSで全話無料公開されていたときにまとめ読みし、はじめのうちは「あんまり好みの作風じゃないな〜」と思いつつ惰性で読み進めているうちに多彩なキャラに魅了されてズブズブにハマってしまった。今月末まで3巻分無料公開されていますから、時間のある方は読めるだけ読んじゃってください。くずしろさんの他の作品のキャラクターがちょこちょこゲスト出演し、クロスオーバー的な面白さまでさりげなく仕込まれているあたりも沼です。

 なお、人気はあるはずなのに紙書籍版が増刷されていないのか、本屋に行っても最新刊とその手前くらいしか売ってない。今購入するとしたら電子版しか選択肢がない……でも紙で読みたい! とモヤモヤする状況が続いていたわけですが、アニメ化決定ともなれば間違いなく紙版も増刷されるであろう。やっと『笑顔のたえない職場です。』全巻を紙で揃えられる……こんなに嬉しいことはない。あ、それはそれとしてアニメ版の放送も楽しみです。

「〈物語〉シリーズ」再始動!「オフシーズン・モンスターシーズン」アニメ化決定(コミックナタリー)

 知らない人は「〈物語〉シリーズってまだ続いているの!?」とビックリするでしょうが、原作はまだまだ続いてるんですよね……『化物語』が2006年刊行なので再来年で20周年を迎えます。本編だけカウントすれば29冊(電子版は『化物語』が上・中・下の3分冊になっているため30冊)、番外編の『佰物語』とか『混物語』も含めれば30冊を超えます。

 あまりに長くなったため熱心なファン以外は「どこまでアニメ化したんだっけ?」とうろ覚えになりがちな〈物語〉シリーズですが、最初のアニメである『化物語』は2009年の夏クールに放送(全15話、ただしラスト3話はネット配信で2010年に終了)、アニメ2作目の『偽物語』は2012年の冬クールに放送(全11話)、アニメ3作目の『猫物語(黒)』は年末特番として2012年の大晦日にまとめて放送(全4話)、アニメ4作目『〈物語〉シリーズ セカンドシーズン』(『猫物語(白)』から『恋物語』までの5作品)は2013年の夏クールと秋クールに放送(全28話)、アニメ5作目『憑物語』は年末特番として2014年の大晦日にまとめて放送(全4話)、アニメ6作目『終物語』はやや変則的で原作の上巻と中巻に当たる部分を2015年の秋クールに放送し、下巻に当たる部分は夏特番として2017年の8月に二夜連続で放送(全20話)、アニメ7作目『暦物語』も変則的で公式アプリにより2016年から配信(全12話だが1話あたりが短いので30分枠に換算すると全6話)、アニメ8作目『傷物語』は初の劇場版として三部作を2016年から2017年にかけて上映、今年2024年には三部作を一本にまとめ直した総集編を公開中、アニメ9作目『続・終物語』は2018年に劇場先行公開した後に2019年の5月から6月にかけてテレビ放送(全6話)。割と途切れなく展開してきた〈物語〉シリーズながら、ここ5年近くはアニメ化してなかったんですよね……長くなりましたが、要するに原作の本編18冊目までアニメ化済です。本編だけに限ればあと11冊残っている。

 今回アニメ化が報じられた「オフシーズン」は19冊目に当たる『愚物語』から22冊目に当たる『結物語』までの4冊、「モンスターシーズン」は23冊目に当たる『忍物語』から28冊目に当たる『死物語(下)』までの6冊、合わせて原作10冊分が範囲となります。残りの1冊である『戦物語』は「ファミリーシーズン」という新たなシーズンに属している。ファミリーシーズンは去年始まったばかりなのでいつ終わるか全然わからない。ともあれ「オフシーズン・モンスターシーズン」、制作はもちろんシャフト。丁寧にやれば4クールは掛かるボリュームだけに相当な気合を入れて臨んでいるのだろう。私個人としてはシャフトに『アサルトリリィ』の新作をやってほしいんだけども……ラスバレでやってるストーリーの量が多すぎてまず無理だろうな、とも感じている(ラスバレのストーリーはアニメ『アサルトリリィ Bouquet』の続きに当たり、本編シナリオのみならずイベントシナリオでも結構重要なエピソードをやっている)。〈物語〉シリーズはもうだいぶ前から積んでいるけど、いい加減一念発起して崩しに掛かるべきか……。


2024-01-12.

『スキップとローファー』の作者が絶賛していることで気になり、キャンペーンで電子版が3巻まで無料だったからなんとなく読んでみた『青野くんに触りたいから死にたい』、予想を凌駕する面白さにより即ハマって電子書籍で全巻買い揃えた焼津です、こんばんは。なぜ私はこんな傑作を今まで見落としていたんだ……ドラマ化もしているらしいが全然知らなかった……あらすじからすると第11話の「奪還」までを映像化したみたいです。

 思い込みが激しくて周りと少しズレている女の子・優里ちゃんが主人公の、切ない恋愛ストーリーでありながら不気味な何かが忍び寄ってくるホラーでもある青春マンガ。そう、タイトルからはイメージしにくいけど結構ガッツリめのホラーなんです、これ。些細なことがキッカケで隣のクラスの「青野くん」に恋をしてしまった優里ちゃん、コミュ障ながらも行動力のある彼女は思い切って青野くんに「好きです!」と告白する。あまり会話したことのない子だしよく知らないけど満更でもない、とばかりに青野くんはあっさりOKを出し、晴れて彼氏彼女の関係になった……のも束の間、青野くんは交通事故に遭って亡くなってしまう。付き合った期間はたったの2週間。でも優里ちゃんにとっては「青野くんに出逢うまでの人生」より遥かに濃密な時間であった。ある夜、青野くんがいない世界に耐え切れなくなってリストカットを試みた彼女のもとに「青野くんの幽霊」が現れる。幽霊だから触れることはできないけど言葉を交わすことはできる。「青野くんに触りたい」という理由で死を望む優里ちゃんを必死に説得する青野くんは、彼女が絶望して命を絶たないようそばに寄り添うことを決意するが……といった具合で大枠としてはよくある感じのゴースト・ラブストーリーです。「こんなに近くにいるのに触れ合うことができない」「優里ちゃん以外には青野くんが見えないので彼の存在を信じてもらえない、『青野くんはここにいるよ』なんて言ったら頭のおかしい奴と思われるから言えない」と、はじめの方ではふたりのもどかしい関係をたっぷり描いている。その一方、「成仏できないせいで青野くんの悪霊化が進んでいるのでは……?」と疑わせる不穏な描写も散見され、甘酸っぱい恋とおぞましい恐怖が同時進行していく。読み始めたときは「感動的なBGMとともに青野くんがキラキラした粒子を放ちながら消えていって、滂沱と涙を流しつつ見送った優里ちゃんが数年後のエピローグで大人になって爽やかな笑顔を浮かべるEND」を思い描いていたけど、今やってる最終章のタイトルが「受肉編」であることを考えるとそんなキレイな終わり方は到底迎えられる気がしない。

 読みどころの一つは「ふたりの温度差」ですね。恋人同士とはいえ付き合って2週間なので実際のところそこまで関係は深くないんですよ。セックスはおろかキスの一つも済ませていない。青野くんは自分の死にショックを受けている優里ちゃんの姿を見て心を痛めているが、優里ちゃんが青野くんに執着するほどは彼女に対して執着していない。簡単に言うと優里ちゃんは青野くんのためならあらゆるものを犠牲にできそうな「心の奈落」を抱えているが、青野くんは優里ちゃんを救うためなら神にも悪魔にもなってやろうという超越的な気概がない。なので遣り取りのそこかしこに温度差が滲み、怪異の付け入る隙を生む。青野くんは憑依能力があり、いくつか条件を満たせば生きた人間の体に入り込むことができます。で、たとえば通りかかった男子生徒に憑依したとして。その状態で優里ちゃんとキスをしたら「青野くんと優里ちゃんはキスをした」ことになるのでしょうか? 思い込みが激しく、青野くんの魂や精神を絶対視している優里ちゃんは憑依した体が誰であろうと憑依中は青野くんであり、「青野くんとキスをした」認識になるとハッキリ答えます。「でも体は別人だし、それって『彼女が他人とキスしてる』ってことじゃないか?」という思いを拭えずモヤモヤする青野くん。時折青野くんではない、異質な何かが紛れ込むが、優里ちゃんはそれさえも彼の一部とばかりに受け入れようとしてしまう。「お互い想い合っていても心がすれ違うことはある」という恋愛モノの王道を特殊なシチュエーションで掘り下げていきます。優里ちゃんが異界に迷い込んだり、「四ツ首様」なる怪しげな伝承が出てきたりなど、進むにつれて伝奇色が濃くなっていくあたりは私好みである。事態はどんどん悪化し、「青野くんのためなら……」と耐えていた優里ちゃんの健気な覚悟すら粉砕する煉獄へと転げ落ちていく。

 ホラーな部分を強調してしまったが、この作品はギャグとかコメディに関してもイイんですよ。ハッキリ申し上げて上手いとは言いかねる絵ですが非常に味があり、各キャラクターの感情を巧みに表現しているし「間」の取り方も優れている。1巻収録の第4話「もう一人の青野くん」、不登校の同級生のところへプリントを届けに行った優里ちゃんがなし崩しで家に招き入れられてお菓子を食べるハメになるんですが、物凄く気まずそうな顔でドラ焼きをむしゃむしゃ食べるコマがあり「この絵柄でしか表現できない絶妙な雰囲気だ……」と感服しました。あと2巻収録の第6話「幽霊勉強会」で青野くんの姿が見えず「悪霊化したかもしれない」と警戒する藤本くんに対し「消えちゃってたらどうしよう……」と青ざめる優里ちゃんが「消えたんなら成仏したってことで喜ぶべきだろ」的なことを藤本くんから言われて「でもこんな寂しい消え方は違うでしょうが!」と田中邦衛ばりに激昂するシーン、薄気味悪い展開のさなかに突如ブチ込んでくるので笑えないんだけどやたら印象に残る。4巻収録の第16話「青野くんと渡瀬さん」における「そんな素敵な青野くんが この世界から消えてしまうのが一番正しいことだなんて この世界ってクソじゃんねぇ」って笑顔でしみじみと語る優里ちゃんの索漠も言葉に尽くしがたい。ネタバレになるから詳しくは解説できないが、9巻収録の第47話「ナイトメア@」、散々怖い目に遭わされてきた優里ちゃんが「恋も絶望も」「全てわたしが選んできたものだから」「いまさら運命がしゃしゃり出て我が物顔するなら運命を殴り殺してやる」と殺意高めの真情を吐露するシーンも噴いた。とにかく様々な面において「天才の所業か!」と唸ることしきりな『青野くんに触りたいから死にたい』、機会があったら読んでみてください。作者の「椎名うみ」は他にも『崖際のワルツ』という短編集を出しているので青野くんすべて読み切った後はこちらをどうぞ。

文庫化したら世界が滅びる? 『百年の孤独』がついに……(Forbes JAPAN)

 G・ガルシア=マルケスの『百年の孤独』が遂に文庫化だと? むしろなんで今まで文庫化されてなかったんだ、って話だが文庫化しなくても安定して売れていたから先送りになったんだろうな……翻訳で一番最初の版が1972年刊行なので50年越しの文庫化ということになる。探せば「戦前に一度だけ翻訳された本が21世紀に初文庫化」みたいなケースもあるだろうから最長記録とは行かないだろうが、なかなかない話ではある。これで「『百年の孤独』の文庫版を見つけたと思ったら島荘の『切り裂きジャック・百年の孤独』だった」みたいなジョークも過去の物となるな。正確な刊行時期は不明とのことだが、少なくとも来年中に新潮文庫から出す予定らしい。私が持っているのは99年刊行の改訳版で、さすがにくたびれてきたから文庫版を買い直そうか検討中。

 記事でも触れられているが、『薔薇の名前』もいつまで経っても文庫化しない作品として有名ですね。個人的には「早く『引き潮のとき』を文庫化してくれ」って東京創元社に言いたくなります。『引き潮のとき』、元は早川書房から刊行されていたSFで“司政官”シリーズ最後の作品に当たる。ハードカバー版は全5巻で合計1800ページ以上という凄まじいボリューム。もう15年以上も前だけど東京創元社は“司政官”シリーズを創元SF文庫で出していた時期があり、「『引き潮のとき』も出します」と告知していたのに一向に出る気配がない……ジェイムズ・P・ホーガンの『ミネルヴァ計画』も、最初は「2023年冬予定」だったのが「2024年春予定」になり、今確認したら「秋刊行」(リンク先真ん中あたり)になっている始末だ。そもそもこのリスト、秋田禎信の『ノーマンズ・ソサエティー』が未だに載ってる時点で「ホントかよ?」ってなっちゃうんだよな。もう記憶が曖昧になってきているけど2017年3月の時点で「今秋の刊行を予定しております」と告知しているから最低でも6年は遅れている勘定になります。創元はアーナルデュル・インドリダソンやネレ・ノイハウスの新刊を出してくれるありがたい出版社であるが、時空の歪みだけはどうにかしてほしいものだ。

「凍牌〜裏レート麻雀闘牌録〜」2024年アニメ化!裏レート雀荘を荒らす高校生雀士描く(コミックナタリー)

 ええっ、あの挨拶感覚で指を切り落としたり眼球を抉り出したりする『凍牌』をアニメ化すんの? 画面が規制で真っ黒になるんじゃないかしら……さておき、『凍牌』は2006年に連載を開始した麻雀漫画です。掲載誌は“近代麻雀”ではなく“ヤングチャンピオン”。裏レートの麻雀界で「氷のK」の異名を取る少年「ケイ」が主人公を務めており、バキみたいに何度かタイトル変更を挟みつつ2021年で一応本編は完結しました。結果的に無印(全12巻)・人柱篇(全16巻)・ミナゴロシ篇(全10巻)の3部作となって総計38巻というなかなかのボリュームに収まっている。現在は『凍牌 コールドガール』という主人公を交代した続編が連載中である。

 カイジとか天牌とかむこうぶちとかも結構死人が出る麻雀漫画ではあるが、『凍牌』の血腥さはそれらを遥かに凌駕しており、絶望と恐怖に顔を歪めた人々が次々と無惨な死を遂げていくためバイオレス要素が苦手な人にはオススメしがたい。「悪役がヒロインを裸に剥いて手にアイスピックを突き立てる」程度は序の口、「対局中に切腹して臓物垂らしながら打牌」という正気を疑うような展開の数々が読者を待ち構えている。チャンピオン系の漫画は『trash.』『DEAD Tube』といったグロの乱れ撃ちな作品がたくさんあるから『凍牌』は比較的おとなしく見える、というだけでチャンピオン以外の基準に照らし合わせると『凍牌』も充分ムゴい。アニメはだいぶ表現がソフトになるんじゃないかと思います。気になるのは、まだ作風が固まってなかった初期……Kのキメ台詞を「はい凍死」にしようとしていた痕跡があるんですけど、あのへんアニメでもちゃんと拾うのか、それとも作風が固まってからのノリに合わせるためスルーするのか。そもそもどこまでアニメ化するのかって話なんですよね。個人的には竜凰位戦――無印(第1部)のクライマックスまでは最低限やってほしいんですけども。

 ちなみに『凍牌』の関連作として『牌王伝説 ライオン』(全4巻)およびその続編『牌王血戦 ライオン』(全5巻)があります。このふたつは『凍牌』におけるK最大のライバル「堂嶋」を主人公に据えたスピンオフであり、且つミナゴロシ篇(本編第3部)はライオンシリーズの出来事を反映した内容になっているため人柱篇(本編第2部)を読んだ後くらいに目を通しておくとより楽しめます。掲載誌が違う(というか出版社も違う)せいで本編よりも麻雀要素が濃い目だったりする。「高津」を主人公にした『麻闘伝 ぬえ』ってスピンオフもありますが、これは2冊で終わっていて打ち切り臭漂うから食指が動かずまだ読んでいない。アニメ化記念ということでいい加減崩そうかな。あと作者の「志名坂高次」は『モンキーピーク』『イゴールの島』など原作を担当した漫画も多く、ファンでも追いかけるのが大変です。『凍牌』以外の自ら作画を手掛けた作品(『バクト』『悪童』など)も面白いのだが、あまり長く続かないのが難点。いろんな意味で忘れられないのが『BW(ビューティフルワールド)』か……全3巻という割合短めの作品なんですが、ヤケクソレベルでネタを詰め込んでいて顎が外れそうになる。バイト感覚で麻雀打ち始めた主人公がいつの間にか人類の存亡を懸けた闘いに巻き込まれてるんだもんな……スケールアップが急激すぎる。

米澤穂信の小説・小市民シリーズがTVアニメ化!梅田修一朗&羊宮妃那が出演(コミックナタリー)

 作者である「よねぽ」こと米澤穂信がビッグになりすぎたせいで続きがなかなか出なくなってしまった“小市民”シリーズがアニメ化とな。ミステリにあまり興味がない人向けに解説すると米澤穂信は直木賞作家で、『氷菓』の原作者です。『氷菓』の原作である“古典部”シリーズと並ぶ人気シリーズ、それがこのたびアニメ化される“小市民”シリーズというわけです。

 “小市民”シリーズの1冊目は2004年に文庫書下ろしで刊行された『春期限定いちごタルト事件』、2004年と言っても12月発売なのでまだ20年は経っていない。男子高校生の「小鳩くん」と女子高生の「小山内さん」は過去に探偵の真似事をして大いに後悔し、今後はでしゃばらないよう控え目な人間、つまり「小市民」になるべく自制の日々を送っていた。しかしそんな二人の前に次々と魅惑的な謎がやってきて……という、ジャンルとしては「日常の謎」に属するタイプのミステリです。謎だけでなくキャラクターの掘り下げも重視しており、“小市民”シリーズをキャラ小説として読んでいる人も少なくない。シリーズ第2弾の『夏期限定トロピカルパフェ事件』はさほど間を置かず2006年に刊行されたが、シリーズ第3弾の『秋期限定栗きんとん事件(上・下)』は2009年、シリーズ番外編の『巴里マカロンの謎』に至っては2020年と、実に11年ぶりの刊行となってしまった。4部作のラストを飾る『冬期限定ボンボンショコラ事件』は今年の4月下旬発売予定となっており、『秋期限定〜』から実に15年ぶりの本編再開を迎えることになります。それだけでも嬉しかったのに、アニメ化まで付いてくるとはね。よねぽ作品と言えば『犬はどこだ』も好きなんですが、続きまだかな……てっきり“紺屋S&R”シリーズとして連作化するものとばかり思っていたのに。

 余談。Amazonで『巴里マカロンの謎』の商品ページを見ると登録情報のところに「文庫:686ページ」とありますが、これは明確な間違いで実際は300ページくらいです。『秋期限定栗きんとん事件』だって上下合わせても500ページほどしかないんだから、686ページなんてありえない。そんだけあったら普通に分冊していただろう。


2024-01-06.

・冬アニメはとりあえず『ダンジョン飯』『即死チートが最強すぎて、 異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。』を観た焼津です、あけましておめでとうございます。『異修羅』も録画したけどまだ再生していない。

 『ダンジョン飯』はウィザードリィ風の異世界を舞台にしたグルメ・ファンタジー。地下ダンジョンの深層で炎竜(レッド・ドラゴン)に飲み込まれた妹「ファリン」を救出すべく、冒険者の「ライオス」が仲間とともにふたたびダンジョンへ潜る。地上と地下を行ったり来たりする暇もないから食料はすべて現地調達、魔物であろうと喰えるモノは何でも喰う、そんな強行軍で炎竜のもとへ向かう一行だったが……といったシチュエーションの話です。原作は“ハルタ”に連載されていた漫画、全14巻で既に完結済。アニメ1話につき原作2話分を消化するペースがこのまま続くのであれば、4クールぐらいで最後までやれるかな? ダンジョンに生息する魔物の設定が非常に細かく、「それを如何にして美味しく食べるか」が主題になっている。原作も読んだことあるけど、コマが小さくて視力の悪い私には少し読みづらさを感じるところがありました。アニメはそういった心配もないし、フルカラーのおかげで料理がいっそう美味しく見えるし、願ったり叶ったりである。これからマルシルはどんどん不憫な目に遭うんだろうな、ってワクワクします。制作はTRIGGER、以前に原作のCMアニメを作ったところです。ここなら作画もそう大きく崩れることはなさそうで安心している。というか、ひょっとして漫画原作のTRIGGERアニメってこれが初? ダンジョン飯が終わったら『桐谷さん ちょっそれ食うんすか!?』もアニメ化してくんないかな。

 『即死チートが最強すぎて、 異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。』(長すぎるので以下即死チート)はなろう小説が原作の異世界ファンタジー。なろう作品としては少し古めで、連載開始は2016年、足掛け8年で2023年に本編が完結。小説の書籍版は全14巻、来月に全編書下ろしの後日談『後始末篇』が刊行される予定となっています。コミカライズのタイトルには「ΑΩ」が付け足されているが、内容は概ね原作準拠であり、アナザーストーリーというわけではありません。立ち塞がる敵をひたすら即死させていく身も蓋もない治安激悪ぶっ殺し珍道中ゆえ、OP見ても「これ誰だったっけ?」ってなるキャラが多い。とにかく即死チートは使い捨ての登場人物がたくさんいるので覚え切れないんですよね……作画はそれなりレベルだけど声優陣は割合豪華というか、知千佳役の声優が「富田美憂」なの、若干イメージと違うんだけどツッコミシーンが多いキャラだけに「これはこれで」と納得してしまった。さすがに花川の声はキモさ控え目で不満が残るところだけど。放送コードに引っ掛かるからかだいぶボカし気味になっているが、花川は「自分で陵辱するのは趣味じゃないから」という理由で東田と福原が目の前で知千佳を輪姦す様子を眺めてNTR彼氏気分で興奮した後にショックで自失している知千佳を慰めつつ奴隷の首輪嵌めてオモチャにするプランをまくし立てるっていう、アニメで描かれているよりも遥かにゲスい奴なんですよ。「花川はレベル99、夜霧が即死させたドラゴンのレベルは1000(ついでに書くと東田も1000)、それに対して賢者シオン(CV.堀江由衣)のレベルは1億超えでしかも秒単位でレベルアップし続けている」という原作にあったハッタリ的装飾をバッサリ削っているせいで作中のパワーバランスもかなりわかりにくくなっているが、そのへんあまり細かく説明してもテンポが悪くだけだしな……と悩ましさを感じる。即死チートは私がなろう系を読み出すキッカケとなった作品だけにそこそこ思い入れがあり、アニメも全話観るつもりでいるが、花川たちの件といい、「ドラゴンカーセックスの要領でドラゴンチ〇ポぶち込まれて死亡」という事実をボカしていた件といい、ブラックなネタは大半が削られそうな雰囲気である。そこが残念と言えば残念か。アニメ化記念なのか各種電子書籍サイトで原作小説の1〜3巻、漫画版の1〜2巻が無料販売中なので、原作の内容が気になる人はポチって読んでみてください。

FGOのお正月福袋は「紅・B全体宝具【伍】」を回して狙い通り姫君(アーキタイプ:アース)を引くことができました。

 未所持キャラを狙うか宝具レベル上げを狙うか結構悩んだのですが、結局「誰が重なっても損しない」と判断できるところをチョイス。中でも一番欲しかったのが姫君だった。聖杯を入れてレベル100にはしていましたが、宝具1だとどうしても火力不足と感じること多かった(「空想具現化」は単純な威力のみならず混沌特攻の倍率も宝具レベルに依存するという珍しい仕様)ですからね。アペンドスキルも解放せずサーヴァントコインを温存していたんで、将来的にはレベル120も達成可能です。絆レベルを必要なだけ上げていない現状ではまだ無理。所持済みの中でもっとも重ねたかったサーヴァントをドンピシャで引き当てることができたわけで、こりゃ新年早々から幸先が良い。ちなみに2番目に欲しかったのがトネリコ(水着モルガン)です、闇コヤンとの相性が良くて雑に周回したいときに組み合わせると便利だから可能ならば火力を底上げしておきたかった。

 お正月新規実装サーヴァントは☆5セイバーの「ヤマトタケル」、今月中旬に『Fate/Samurai Remnant』のコラボイベントが開催される予定なので先行実装されました。もうサムレムとコラボするんだ……やるとしてもゴールデンウィークだろうと油断していた。夏の水着イベント以降、ずっと貯石に励んで天井分の在庫はあったから「全砲門開け! ヤマトを仕留める!」ってドメル顔で臨んだところ割と早めに召喚できてチャレンジ終了。礼装は☆5の「女神の御籤」がよく出たというか、なんなら☆3礼装や☆4礼装よりも多かったくらいです。ただ4枚止まりで完凸はできなかった。あと1枚だけ……とガチャ続行したくなったけど、冷静に考えて完凸できたとしてもそこまで頻繁に使う概念礼装ではないだろうし、間近にサムレムコラボ、来月にバレンタインイベントも控えているのでグッと我慢して撤退。サムレムコラボは恐らく配布☆4、限定☆4、限定☆5という布陣になるだろう(PU2でもう一騎限定☆5が追加になる可能性もある)けど、「各マスターも歴史上の人物なので誰が来るか読み切れない」んですよね。シルエットで予想が付いてる人もいますけど……シルエットと言えばエフェメロスちゃんはいないっぽい。最短でバレンタイン実装と睨んでいたけど、こりゃ少なくとも今年中には来ないかな。今年と言えば、夏開催の水着イベントはオーディール・コール到達が条件という異例の厳しさで、「去年が実質アヴァロン・ル・フェ・アフターだったことを考えると今年はミクトラン・アフターなのではないか」と予想されており、早くも戦々恐々としています。水着サーヴァントと言い張って勇者王カマソッソが降臨する可能性もゼロではない……?

上山道郎「悪役令嬢転生おじさん」TVアニメ化決定!本日発売の6巻帯で発表(コミックナタリー)

 月刊誌連載で単行本の刊行スピードもそこまで速くない(年に1冊か2冊程度だ)からアニメ化が発表されるとしてもあと2年は先と思っていたけど、もう発表が来たのか……『悪役令嬢転生おじさん』『怪奇警察サイポリス』『ツマヌダ格闘街』で知られる漫画家「上山道郎」の新作であり、「ぼくの読みたい悪役令嬢マンガを描きました」と2019年11月頃から投稿を開始したネット漫画が元になっている。翌月12月にはもう商業連載が決定しており、如何に短期間で人気が炸裂したかを物語っている。

 ツマヌダ終了(2016年)以降、打ち切り続きで危機感を覚えた上山道郎が最近のトレンドを分析したうえで「自分のやりたいもの/自分がやれるものは何か」と自問自答した末、「悪役令嬢モノのフォーマットを利用して『昭和生まれのオタクおじさんが金髪縦ロールのお嬢様に転生する』というギャップを描くコメディ」に辿り着いたわけです。転生した先は娘がハマっていた乙女ゲームの世界で、若干の知識はあるが詳しいことはわからず、戸惑いながらも真摯に「攻略」を進めていく……という内容になっています。周りが10代の子ばかりなのでどうしても保護者目線になってしまったり、昭和生まれなので喩えが古くなってしまったりなど、そういった部分を楽しむ「ざまぁ要素がほとんどないほのぼの系」の悪役令嬢モノに仕上がっている。最近のなろう系のノリには付いていけない……というオールドタイプの読者にも優しい作りとなっており、タイトルのインパクトに比べれば中身の方は割と地味かつ堅実なストーリーです。まだ制作スタジオもスタッフもキャストも何も明らかになっていないのでアニメの出来がどうなるかは未知数、とりあえず続報に期待したい。

“ちゃおデラックス”で連載されている『メイドは恋する蜂谷くん』という女装漫画が気になっていてコミックス買おうかどうか迷っているうちに三が日が明けた。

 主人公「蜂谷くん」は特に女装趣味とかのない男子高校生、好きな女の子に告白したら「婚約者がいるから」とフラれてしまった。その婚約者とは親が金持ちなうえ本人もイケメンとして名高い「池貝くん」。好きな子への想いを諦め切れない蜂谷くんは「池貝くんが他の女に惚れれば婚約を破棄させることができるのでは……?」と考え、妹の名前を借りて池貝邸へ女装メイドとして潜り込み、「俺が池貝くんをオトす!」と変な方向に意欲を燃やすのであった――って、そんな感じの割とリアリティラインを低めに置いた設定です。蜂谷くんはハッキリ言っておバカな男の子なので全体的な雰囲気は明るく、軽めの女装ラブコメとして楽しめそうな雰囲気だ。さすがに店頭でちゃおコミックスを買う勇気はないが、今は電子書籍で簡単にひっそりと購入できるからまったく大丈夫である。それにタブレットで読む場合、電子版の方が紙より大きいサイズで堪能できるってメリットがあるんですよね。正直、最近は新書サイズの漫画を読むのが辛くなってきているからデジタルへの移行が進みつつある。デジタルもディスプレイやタブレットを長時間眺めていると目や頭が痛くなってくるという難点があり、一長一短ですが。

・拍手レス。

 僭越ながら個人的に当たりだった「TS衛生兵さんの戦場日記」をお勧めしておきます

 先日2巻が出ましたね。結構ニッチなところを狙ってきたような作風だったので続き出るかどうか心配だっただけにホッとしました。


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