2016年11月〜12月


2016-12-31.

・大晦日だし恒例の「今年一年を振り返る」みたいなのやっとこうか、と安易な発想を元に行動する焼津です、こんばんは。

 えーと、2016年はどんな年だったかな。国内は熊本をはじめ地震のニュースが多かった印象。海外はイギリスの国民投票でEU離脱が決まったり、アメリカの大統領選挙でトランプが当選したりで大騒ぎになった一年ですが、オタ界隈は『ポケモンGO』や『君の名は。』の超級ヒットを除けばそこまで激しい動きはなかった気がする。うん、思いつき次第どんどん書いていこう。まずイカベイこと『Dies irae 〜Interview with Kaziklu Bey〜』の発売。『Dies irae』の登場人物、聖槍十三騎士団黒円卓第四位ヴィルヘルム・エーレンブルグ=カズィクル・ベイを主人公にしたスピンオフです。ドラマCDはいくつか出ていますが、ゲーム形式での外伝はこれが初めて。アニメ化決定に伴って立ち上がった企画であり、もうこれだけでアニメ化する意味はあったんじゃないか? とさえ感じる。エロゲは『恋する乙女と守護の楯〜薔薇の聖母〜』発売に驚いたな、まさか8年ぶりの続編とは。あとはエルフのOHP閉鎖か。ほとんど活動休止状態に近かったとはいえ、歴史あるブランドだけに喪失感は拭えず。えー、それから虚淵玄が原案・脚本・総監修を務めた布袋劇『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』の放送。アニメではなく人形劇という事実に驚かされた。1クールでサクッと綺麗に終わったが、殤さんの目的からしてまだまだ旅は続くエンド。続編は既に決まっているし、外伝小説の企画も進行中とのことで楽しみは尽きない。虚淵は来年アニメ版『ゴジラ』の脚本もやるらしいし、なかなか仕事が途切れませんね。ニトロ繋がりで思い出した、『装甲悪鬼村正 贖罪編』がやっとノベルゲーム化されました。もともとはファンが投稿した二次創作SSで、コンテストの大賞を射止めた特典としてゲーム化が約束されていましたが、思った以上の大作だったせいか制作に5年も掛かってしまった。声は付かないけど家宰の牧村さんに新規立ち絵が追加されるなど、豪華仕様。あと、放送は来年以降だろうけど『されど罪人竜と踊る』アニメ化の報せにもビックリしたな。『終末なにしてますか? 忙しいですか? 救ってもらっていいですか?』のアニメ化よりも驚いたかもしれない。果たしてどこまで映像化できるのか、お手並み拝見といきたい。

 そして悲しい訃報も相次いだ年でした。津島佑子、ウンベルト・エーコ、両澤千晶、夏樹静子、あごバリア、望月三起也、プリンス、吉野朔実、松智洋、モハメド・アリ、永六輔、フィデル・カストロ、キャリー・フィッシャー……時の流れは止まらないものです。

・今年読んだ本、まずは小説編。小説と言ってもほとんどライトノベルだったな……もう「ライトノベル編」でいいか。

 数はそんなにこなせなかったけど、ハズレが少なく充実した一年であった。私自身の傾向としてはシリーズのまとめ読みが増えた感じです。以前は複数のシリーズの新刊を並行して追っていくような読み方でしたが、年々作品ごとに頭を切り替えたり、既刊の内容を思い出すことが難しくなってきましてね……ある程度巻数が溜まってからでないと没入しにくくなりました。なので新シリーズの類はあまりチェックできず。ライトノベル業界の傾向としてはネット小説、特に「小説家になろう」連載作品を書籍化するムーブメントが加速しました。もはや「なろう系」はライトノベルの「周辺」ではなく「中心」に近づいてきている気配があります。デビュー済のプロでさえ一旦なろうに連載して人気を稼いでから満を持して書籍化、みたいなケースが増えてきている。なろうの読者は中高生がメインなので書籍版はあまり買わないそうですが、そのメイン読者層の評判をもとに20代から40代にかけての可処分所得の多い人たちが書籍版に手を伸ばす、というビジネスモデルが形成されつつある模様。以前のライトノベルはほとんどが文庫書き下ろしでしたけど、なろう台頭によって漫画みたいな「連載分が溜まったら書籍化」というスタイルが確立され、更に判型も文庫(500〜700円)だけじゃなくソフトカバー(1000円〜1200円)の売り場が広がって少部数でも利益を得やすくなった。雑誌と違って連載時の原稿料が一切発生せず、書籍化の保証がなければ当然のようにタダ働きとなってしまうリスクを負いますが、『オーバーロード』(累計300万部)や『この素晴らしい世界に祝福を』(累計300万部)、『Re:ゼロから始める異世界生活』(累計200万部)などヒットしてアニメ化まで至ったときの爆発力は凄まじいものがある。数年前までは業界内部からもイロモノ視されている節がありましたが、今やもうなろう作品なくしてライトノベル業界は成り立たなくなりつつありますね……。

 そろそろ個別の感想に移ろう。まずはベスト3。

 鷹山誠一の『百錬の覇王と聖約の戦乙女』、今年は10巻から12巻までの3冊が出ました。私は8巻から積んでいたので5冊読み。今年読んだ中ではこれが一番面白かった。現代知識でチートしてハーレムを築く、俗に言う「チーレム系異世界召喚モノ」であるが、ストーリーも後半に入って「この世界はいったい何なのか?」が明らかとなり、とてもエキサイティングなムードを呈しています。美少女に囲まれながらも手を出さない「なんちゃってハーレム」と違い、主人公はキッチリ手を出したうえで「この世界」に骨を埋める覚悟を決める。なんとなく流される形で宗主(王様みたいなもの)を務めていた彼が、ようやく一つの目標を見据えて果断な行動を取るようになり、物語はどんどん熱くなってきています。かなり死人が出るタイプの戦記ファンタジーだがシリアス一辺倒というわけでもなく、ほどほどにコミカルな描写を入れてガス抜きするのも個人的にすごく好き。ただ主人公は組織のトップだから直接先頭に立って戦うことはなく、しかも戦闘要員は大半が異能を持った美少女なので「女の陰でバトルの解説」が嫌いな人に薦めにくい。成り上がり系って主人公が偉くなればなるほど「現場で活躍する」展開に無理が生じてくるんですよね……ジレンマだ。ただでさえ作画に労力が掛かる戦記モノ、更にスケールが大きくて2クール程度じゃ収まり切らないストーリー、このふたつの要件からアニメ化は困難というか無理だろうけど、なんとか売上を維持して大団円に漕ぎ着けてほしい。あと、ネタバレになりますが、この世界には本能寺後の織田信長も召喚されています。今のところ敵対関係にはないけれど、展開によってはノッブがラスボスになりそうでハラハラするぜ。

 鷹見一幸の『ご主人様は山猫姫』は2009年開始で2014年完結、「ちょっと前のライトノベル」に当たりますね。全13巻を、あまりの面白さで一気読みしてしまった。私の戦記ファンタジー熱に火を付けたのは『マッドネス グラート王国戦記』だが、それを一気に燃え上がらせたのは山猫姫である。ぶっちゃけ山猫姫を読んでなかったら「どれ、食わず嫌いしていたなろう系の戦記ファンタジーも読んでみようか」って気分にはならなかったと思う。一種の異世界ファンタジーですが、よくある中世ヨーロッパ風ではなく中華風。主人公も現代からの転生ではなく普通の現地民です。「延喜帝国」という大帝国が上層部の腐敗によって崩壊し始めた中、下級役人の主人公は天運と機転と弓術で迫りくる困難に立ち向かっていく。魔法じみた弓術や化け物じみた戦力の武官は出てくるが、テクノロジーとしての魔法や異種族としてのモンスターは一切出てこない、どちらかと言えばリアル寄りの戦記モノです。基本的な筆致はコメディ調で、「田中芳樹をちょっと緩くした感じ」と書けばだいたい伝わるかな。いや芳樹本人もだんだん緩い作風にはなってきていますが、この場合の比較対象は全盛期の芳樹です。怪しげな古代の秘宝とかではなく単なる「塩」が重要なファクターになるなど、一見地味に映る細部の作り込みの数々が話を大きく盛り上げる素地になっています。ちょっとダレる部分とてなきにしもあらずですが、「なぜ自分はこのシリーズをずっとスルーしていたんだ!」と大いに悔やむ出来ではありました。本編終了から50年後を舞台にした続編も構想していたみたいだが、今のところ出る気配はない。頼む、はよ来てくれ。

 佐藤ケイの『剣と炎のディアスフェルド』、あくまで私が読んだ範囲でだが、今年開始の新シリーズ1巻目としては一番の面白さだった。出だしはそれほどでもなかったけど、100ページ過ぎたあたりから止まらなくなって貪るように読み切ってしまった。異世界ファンタジーながらRPG風ではなく神話の流れを汲む『指輪物語』的なファンタジー。魔物の類も出てくるけれど、主軸はあくまで人間の国同士の争い。天然資源を狙って小国乱立地帯(ディアスフェルド)へ攻め込んでくる大国、小国たちは手を結び善戦することでどうにか休戦まで漕ぎ着けるが、内部のまとまりに不安が出てきたこともあって今度再侵攻があれば守り抜くことはもう難しい。座して滅びを待つわけにもいかず、小国の王子ふたりは国々の存続をかけてそれぞれ別々に動き始めるが……弟王子と兄王子、ふたりの視点で紡がれる動乱の戦記物語です。弟は小国に残り、ディアスフェルドを強引にでもまとめ上げるべく血塗られた道を歩む。兄は大国へ渡り、再侵攻を防ぐ重石となるべく高潔な騎士道を進みゆく。各パートが単独でも堪能できる面白さのうえ、対照的な内容で互いに引き立て合う。実に心憎い作りだ。話の途中で終わっているから2巻が出ないと困るが、あまり売れてる感じじゃないし出せるかどうか不安だな……とやきもきしていたところに2巻発売決定の報が届いて飛び上がりましたよ。あらすじに「完結」みたいな文言がないし3巻が出る望みもちょっとだけ湧きましたが、果たして出せるのかどうか。ガチで続き読みたいから気になる人は1巻ともども買ってください、お願いします!

 ほか、今年読んだシリーズ作品だと『我が驍勇にふるえよ天地』や、『最強喰いのダークヒーロー』『ようこそ実力至上主義の教室へ』『呼び出された殺戮者』も良かった。驍勇は主人公が無双の強さを誇る王道的なファンタジーで、まだ始まったばかりだが将来的には『キングダム』級の面白さになるかも。最強喰いは異能バトル、「もしアカギが異能バトルに参加したら?」という発想をもとに、最弱級の能力でありながら狡知と度胸だけで勝利していく主人公の姿を描く。主人公が何か秘めた目的を持って動いている感じで、その「目的」が明らかになった後で訪れるであろう展開にワクワクしています。よう実は現時点におけるMFのアニメ化最有力候補作。一つの街に匹敵する規模を持った巨大学園で仕組まれた課題を競い合う、サバイバル青春ストーリー。本気で殺されるとかそういう危険なデスゲーム要素は今のところなく、せいぜい『LIAR GAME』くらいの緊張感です。個人の優劣よりも「いかにうまく他人を動かすか」に掛かっていることから、「影響力のゲーム」あるいは「支配者の遊戯」といった趣がある。刊行ペースがそこまで早くない(だいたい4ヶ月に1冊)ため焦れるのが難点。『呼び出された殺戮者』はタイトルに違わずひたすら殺戮描写が続くバイオレンス・ファンタジー。殺戮以外の部分が割と雑だが、このタイトルを見て読もうって気になる人にとっては些細なことだろう。普通は「戦乱を招こうと陰謀を巡らせる勢力」が暗躍していたら「ああ、せっかく主人公が平和をもたらしたのに水泡に帰しちゃう! 余計なことしやがって!」と憤激しつつ残念がるところだが、殺戮者に関しては「ああ、一二三さん(主人公)また殺し合いができるってウッキウキやろうな〜、ほんまグッジョブやで」と逆にほのぼのしてしまう。この倒錯が最高。あとがきの口ぶりからすると最後まで刊行できるのかどうかちょっと不安なムード。Web版では続編もあるらしいから是非最後までやってくれ。

 なろう系もあれこれ読んだから最後に触れておこうか。まず藤孝剛志の『即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。』が面白かった、ってのが発端ですね。念じるだけで相手を殺せる、たとえ相手が視界の外にいても殺意を感知してカウンターで殺せる(つまり奇襲・狙撃・呪殺すべて無効化)、更には概念的な存在や現象的な存在さえ殺してしまえるチートぶりでどんどんエスカレートしていく悪趣味なぶっ殺しライトノベルです。凄惨さでは『呼び出された殺戮者』の方が上だけど、インフレぶりに関してはこっちが凌駕する。とにかく人の命が安い! 死にまくり過ぎて爽快感すら覚えます。イイ意味で無茶苦茶な内容に「なろう系も面白いやん!」って気分になり、次に読んだのが『剣士を目指して入学したのに魔法適性9999なんですけど!?』。発売予定リストで見かけたときはタイトルでちょっと笑ってしまったものの、即死チートを読むまでは買う気もしなかった一冊です。これが個人的には特大ヒットで、「よっしゃ! どんどんなろう系読もうぜ!」となりズブズブ沼にハマっていった。そこから上述した山猫姫の流れもあって戦記ファンタジーを主体に読み進めていくことに。『ウォルテニア戦記』は1、2巻があまり面白くなかったせいで投げ出しそうになったが、3、4巻で持ち直し、5巻からいよいよ本題開始となって盛り上がってきてから万事オーライ。これで刊行ペースがもうちょっと早ければ言うことナシだが、bobのイラストもあるしこれ以上は難しいか。『人狼への転生、魔王の副官』は主人公がある程度の地位に就いているところから始まり、割とサクサクテンポ良く進んでいく。あまり癖のない戦記ファンタジーで読みやすいが、目立つ特徴もなくどう推せばいいのか悩むな。血腥いシーンもいくらかあるけど、主人公が参加している戦線に関しては「ほのぼの征服」な雰囲気で、結構気軽なテイスト。人類と魔族の共存を目指していく戦記モノとしては比較的平和でそこそこ困難な代物であり、「奇を衒っていない奴を読みたい」という人にはオススメ。そこから『二度目の勇者は復讐の道を嗤い歩む』『再臨勇者の復讐譚』などの復讐モノを経て、肉体はロリっ子、中身はおっさんな「おっさん姫」が周囲の誤解で祭り上げられていく『夜伽の国の月光姫』に至る。最近は『異世界魔法は遅れてる!』(なろう系に見せかけた伝奇アクション)や『異世界迷宮の最深部を目指そう』(強制賢者タイムに晒されながら主人公がダンジョンでたびたび死にかける話)などを楽しんでいます。今後の予定としては『Only Sense Online』『金色の文字使い』『ぼくは異世界で付与魔法と召喚魔法を天秤にかける』『神話伝説の英雄の異世界譚』などそこそこ巻数が溜まっているシリーズにチャレンジするつもり。それ以外にもいろいろ買い込んでますが、書き切れそうにない……果たして読み切れるのか?

・今年読んだ本、漫画編。

 『のんのんびより』『鮫島、最後の十五日』『ちるらん』『凍牌〜人柱篇〜』『嘘喰い』『ムルシエラゴ』『干物妹!うまるちゃん』『双星の陰陽師』など既存のシリーズが相変わらず面白い年だった。

 新作で収穫だったのは『BLACK‐BOX』、ボクシングに異様な執念を燃やす主人公が餓狼の勢いで闘い続ける。「ボクサーやめますか、人間やめますか」な荒々しいノリで、これは続けば高橋ツトムの新たな代表作になるかもしれません。『リクドウ』と併せて読みたい。新作ではないが『ひとりぼっちの○○生活』も気に入った。人見知りの激しい少女「一里ぼっち」が一念発起して友達づくりに励もうと奮闘するコメディ。カタツムリのように鈍い歩みではあるが、それでも少しずつ前に進もうとするぼっちゃんに心温まる。『古見さんは、コミュ症です。』と併せて読みたい。ほか、『蟻の王』『中原くんの過保護な妹』『やがて君になる』『俺んちのメイドさん』『いきのこれ!社畜ちゃん』あたりもグッド。

 先月出た8巻で完結となった『狼の口』も素晴らしかった。「モルガルテンの戦い」を着地点に定めた歴史ロマン残酷物語であり、膨れ上がった憎悪が惨劇へと雪崩れ込んでいく過程を丹念に綴っています。まだ読んでいないという方は幸せだ、これから一気読みできるんですからね。一気読みは本当に気持ちいい。私もこないだ『ホークウッド』を一気読みする幸福に与った。百年戦争開始前夜から「クレシーの戦い」まで、傭兵長ジョン・ホークウッドを主人公に据えて描く。タイトルの割に最後らへんはホークウッドがあまり目立たず、「これじゃ『エドワード』だな」って感じになってしまったので是非とも続きを出してほしかったが……ちなみにこの「クレシーの戦い」の10年後に起こった「ポワティエの戦い」から始まるのが佐藤賢一の『双頭の鷲』。同氏の『英仏百年戦争』はスパンが長すぎて把握しづらい百年戦争のアウトラインを知るのにもってこいです。

・今年観たアニメ。

 いわゆる「完走」したTVアニメが45本(ショートアニメは含まない、含めると+20本)、もうちょっとで完走するけど録画分がまだ少し残ってるアニメが10本くらい、録画したままほとんど観ていないアニメが20本くらい、途中で観るのをやめたのが十数本……とにかく数が多くて追うのが大変だった、という例年通りの感想です。原作付きがそこそこ手堅く面白かった一方、オリジナルアニメはやや低調だったかな。『アクティヴレイド』『ハイスクール・フリート』『終末のイゼッタ』あたりは気に入ったが、手放しで誉められるかと問われれば……な塩梅だし。中んずく『ハイスクール・フリート』は惜しかった。「艦艇による海戦」をメインに据えたアニメでは珍しい題材だけに放送開始から期待はどんどん膨らんだが、進むにつれて萎んでいった。終わり頃はほぼ「ギテンちゃん(水雷長の西崎芽依)が可愛い」という理由だけで観ていた気がする。乗組員が女の子ばかりで、「日常系」な描写もあって、海戦描写は結構本格的で、けど死人は敵味方とも出なくて……と、まとめるのが難しいオーダーだけに仕方ない部分はあるが、これなら部活モノにした方がまだ良かったのではなかろうか。『アクティヴレイド』はいろんな要素詰め込み過ぎてとっ散らかってしまったイメージもあるが、概ね一話完結方式でサクッと観れるのが良かった。終わってみるとダイクの破壊神ぶりとミヴ(壬生知衣子)のひどすぎるソングが印象に残っている。『終末のイゼッタ』は3話で引き込まれたものの、あまり話を広げずコンパクトにまとめる方向に行っちゃって勿体ないというか食い足りなかった。「魔法少女が戦場に現れたら」という思考実験自体は大好きです。『魔法少女特殊戦あすか』もアニメ化されないかなー。あ、オリジナルアニメと言えば『ラブライブ!サンシャイン!!』もあったか。あれも最終話がアレでなければ今年1位に押せるアニメだったんだが……。

 原作付きに関しては『この素晴らしい世界に祝福を!』がトップで、『僕だけがいない街』『ふらいんぐうぃっち』『響け!ユーフォニアム2』が三強。このすばは原作を読んでいたから内容は知っていたが、アニメだとギャグの演出により磨きが掛かっていて面白さ倍増、更に倍! だった。駄女神ことアクア演じる雨宮天がすごかったですね。アカメや藤宮さん、アセイラムやエリザベスをやっていた頃の彼女は「声質いいけど演技が……」だったのに、気が付けばすっかり演技力も備わっていた。アクアでひと皮剥けた気がします。声優と言えばめぐみん役の高橋李依も躍進著しかった。『それが声優!』で一ノ瀬双葉役をやっていた頃はそんなに目立つ存在じゃなかったけれど、いつの間にか毎クール聴いてるような状態に。『競女!!!!!!!!』の「ア゛ァ゛ーッ!! 尻が潰れるゥゥゥ!!」も迫真の演技で笑いこけてしまった。『僕だけがいない街』は原作と比べて雛月加代が可愛かったですね……可愛すぎてサスペンス色が薄らいでしまったところもありますが。かなり端折られた部分もあるけど、1クール作品としてはキレイにまとまっている。ちなみに原作は再来月に9巻(外伝)が出ます。『ふらいんぐうぃっち』は原作の淡々とした空気感をうまくアニメ向きに翻案しており、理想的な映像化と言える。2期が来てほしいが、無理っぽいか? 『響け!ユーフォニアム2』は演奏・百合・青春、すべての要素が1期目よりもブラッシュアップされていて期待を上回るクオリティ。3期目はないかもしれませんが、何らかの形で続きが観れることを祈りたい。

 ほか、『この美術部には問題がある!』『モブサイコ100』『ReLIFE』『灼熱の卓球娘』あたりもまずまず。この美は表情豊かな宇佐美さんの可愛さで知らず知らずのうちに惹き込まれ、完走していた。モブサイコは絵作りこそ簡素なものの、グリグリとよく動くアニメーションのもたらす快楽は並々ならぬ。手を触れずに抜刀する桜威さんマジかっこいい。『ケンガンアシュラ』がアニメ化されたらこれくらい派手に動いてほしいな……うん、言うだけならタダだ。『ReLIFE』は『Rewrite』とか『Re:ゼロ』とか『Re:LieF』とか似たようなタイトルがあって混乱するが、薬を飲んで見た目だけ若返る「人生やり直し」ストーリーである。コミュ障の女の子と仲良くなったり同級生の恋路を応援したりで派手な展開はないが、この地味さが癖になる。話の根幹である「リライフ計画」にいろいろと無理があって細かいことを気にする方には到底薦められないけれど、細かいことを気にしない方々の間でだったらもっと観られてもいい作品。確かAmazonのプライム会員だったらAmazonビデオで全話無料だったはず。『灼熱の卓球娘』は絵柄で敬遠していましたが、いざ観てみるとまっすぐにアツいスポ根アニメで驚いた。原作の漫画も買いました。原作だと省略されている箇所もアニメだと丁寧に埋めていることが分かったりして面白い。お話的にはまだまだこれからといったところですが、2期は……うん。

・今年観た映画。

 洋画は50本くらい観たが、「飛び抜けて面白い!」という映画はなかった。強いて1位を選ぶとしたら『エンド・オブ・キングダム』かな。前半のテロシーンがピークになっていて後半は少し物足りなかったけど、アクション映画としては見せ場てんこ盛りで飽きさせないつくり。『ヒットマン』『13時間 ベンガジの秘密の兵士』『エージェント・ウルトラ』『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』『デッドプール』『ロスト・バケーション』あたりは機会があればもう一度観たい出来です。『スポットライト 世紀のスクープ』『ダウト〜あるカトリック学校で〜』はしんどいから観返さないかも……気力が充実していれば、あるいは。「二度と観るかよ!」なハズレ映画は『モンスターズ/新種襲来』、怪獣映画に見せかけておいて肝心のモンスターズがお飾りという罠。『スーサイド・スクワッド』は「二度と観るかよ!」ってほどじゃないけど正直期待ハズレでガッカリした。でもハーレイの尻目当てにまた観るかもしれない。

 邦画は稀に見るアタリ年で、次から次に傑作と出会えた。ダイジェスト感はあるがゾンビぶっ殺し映画としては最高な『アイアムアヒーロー』、退屈なラブコメと見せかけてガラリと空気が一変する『ヒメアノ〜ル』、道警の汚点として有名な「稲葉事件」を下敷きにした『日本で一番悪い奴ら』、どれも期待以上で満足しました。『HiGH&LOW THE MOVIE』はツッコミどころが山ほどあるけど、お祭り映画としては悪くない出来栄え。ただし続編の『THE RED RAIN』はちょっと……バイクチェイスはともかく銃撃戦は排するべきだった。ジョーク企画かと疑った『貞子vs伽椰子』も意外にちゃんとしたホラー映画として仕上がっていた。適度に怖くて適度にスリリング。オチは投げっぱなしだが、この組み合わせだと他に終わらせ方なんてないし妥当です。何より最大の収穫は『シン・ゴジラ』、全然期待しないで劇場へ足を運んだのに脳天ブチ抜かれて結局もう一回観ちゃった。オタクがくっちゃべる「俺ならこういう特撮映画つくっちゃるぜ!」という机上の空論を実現させてしまったような一本。庵野監督ってちゃんと面白い映画が作れる人だったんだな、と感激しました。あれだけ大量のキャストを動員させておきながら個々の特徴が際立っているのも凄い。「えっ? 蒲田に!?」など、一つ一つのセリフが放つインパクトまで計算されている。面白すぎて「EVAはもういいんじゃないか?」って気持ちになるほどでした。いやもうQの時点でだいぶどうでもよくなってたけど……初日に観に行って「こりゃ一部のオタクは絶賛するだろうけど興行的には厳しいだろうな」と思いましたが、蓋を開けてみればなんと興収80億円突破。仰天するしかなかった。

 アニメもアタリ年でしたね。キンプリ、ズートピア、ドリー、このへんだけでも充分なのに『GANTZ:O』やら『この世界の片隅に』やら傑作に恵まれてホクホク。極めつけは何と言っても『君の名は。』です。観る前は「新海誠の新作か〜、近場でやるなら観に行こうかな。でもあの人の作風はメジャー向きじゃないよね」くらいのテンションで、まさかこんな歴史的なヒット(現時点の興収213億!)を飛ばすことになるとは夢想だにしなかった。確かに、かつてないほど娯楽要素を高めた大衆向けの作品になっていますけど、芯の部分ではこれまでとそんなに違わないですからね。なんでこんな急にブレイクしてしまったのだろうか。不思議だ。オーソドックスな男女入れ替わりモノ、と見せかけて……なヒネリも功を奏したのだろうが、新海の映像美は知らない人にとってよほど凄まじい衝撃があったんでしょうか。


2016-12-30.

・12月と言えばファフナーの季節、そろそろ新情報来ないかなー、と思ってたらマジで新作『蒼穹のファフナー THE BEYOND』の告知が舞い込んできて欣喜雀躍した焼津です、こんばんは。

 まさか本当に来るとはな。ビヨンドというとアウトレイジやスタートレックを思い出すが、それはともかく完結編って雰囲気のタイトルではないですね。単なる予想だけどTHE BEYONDは新作劇場版で、その何年か後にTVシリーズで完結編をやるつもりなんじゃないかしら。完結編と言わず4期でも5期でもやってほしいが、さすがにそろそろ話を畳みそうなムードが出てきている。アノニマスはもうちょっと先っぽいけれどシュピーゲルの完結も近づいてるし、なんか勝手にしんみりしちゃうな……ついでにピルイエも決着させてええのよ、うぶちん。というかドイツ農民戦争篇まだ?

「将国のアルタイル」TVアニメ化!村瀬歩や古川慎ら出演、ボイス入りPVも(コミックナタリー)

 あ、戦記ファンタジーにハマった流れでつい先日まとめ買いした漫画だ。来月スピンオフの単行本も出るし、展開に力を入れている気配はあったけど、まさかアニメ化とは。この調子だと、ファンタジー色がかなり薄い(代わりにミリタリー色が強い)『軍靴のバルツァー』さえ映像化の企画が持ち上がってもおかしくない空気が漂うな……え? 気のせい?

「ブレンド・S」テレビアニメ化、JKがドSウェイトレス演じる喫茶店4コマ(コミックナタリー)

 こっちは想定内だな。きらら系の場合、2巻か3巻で終わらなかった漫画はそのまま自動的にアニメ化候補作となりますからね。さて、『ブレンド・S』。表紙の女の子を見て「凛々蝶さま?」と思った方もおられるやもしれぬ。あらかじめ書いておきますが、『妖狐×僕SS』とは何の関係もない。いぬぼくの作者(藤原ここあ)は既に故人であり、どんなにファンが望んでも新作が来ることはありません。中山幸(なかやま・みゆき)は単に「絵柄が似ている漫画家」です。以前は「中山みゆき 」名義で『百億の魔女語り』『セイギのミカタ』のイラストを描いていた。当時サイトをやっていたしpixivのアカウントもあったが、今はもうツイッターだけみたいですね。男装お嬢様ラブコメ『ぼくのキライな執事ッ!』の頃はまだそこまでクリソツじゃなかったけれど、名義を「中山幸」に変えてからの作品である『くだみみの猫』は知らずに読んだらいぬぼくのスピンオフと間違えそうなくらい雰囲気が似ています。単行本には藤原ここあがゲストイラストを寄稿していたくらいだから、何かの繋がりはあったかもしれない。

 目つきが悪いせいで「常に険しい表情をしている」と誤解されているヒロイン、彼女はいくつものバイト面接に失敗した末に一つの喫茶店へ辿り着く。そこは店員が何らかのキャラを作って接客する「属性喫茶店」だった……といった具合で、『ブレンド・S』は割とベタな調子のコメディ。ヒロインは心根が優しい子であるにも関わらず「ドSキャラ」を演じるハメになります。「キャラ作るとかバカバカしい」って投げ出したりしない真面目な性格&勘違いでM男をゾクゾクさせるアンジャッシュ状態により人気店員となって、個性的な同僚たちとともに愉快な日々を過ごす。ギャグはユルめ、特にこれといったストーリーもなく、その気になればいつまででも続けられそうな内容ではあります。私も単行本買ってますけど、正直言って「メチャクチャ面白い!」とか「すげぇツボに刺さる!」って漫画ではない。一個一個のネタの作り込みが甘いし、「ヒロインの目つきが言うほど悪いようには見えない」という部分もコンセプトからするとマイナスである。しかし、なんとなくダラダラと読み続けてしまうようなヌルい魅力があって切るに切れず現在に至っています。だから「お前も! お前も! お前も! みんな読め!」と暑苦しく熱心にオススメする気は毛頭なく、「気になるなら読めば?」くらいのテンションに留まる。「とにかく面白い漫画が読みたい!」って人には不向き、「キャラが可愛ければそれでいい」と割り切れる人ならあるいは……といった塩梅。それにしても、『ブレンド・S』が来たとなると次はいよいよ『スロウスタート』か? それとも『こはる日和』? あるいは『こみっくがーるず』という可能性も。この3つだとアニメで観たいのは『こみっくがーるず』かな。かおす先生の「あばばば」ぶりはアニメ映えしそう。『スロウスタート』も好きだけど、あれは「優しい世界にほんのちょっぴり混ざった寂しさ」が表現できないとコレジャナイになりそうだし。主人公は割と些細なことで悩み、心を痛めるのですが、その「些細なこと」が彼女にとっては「大きなこと」である――という点をいかにうまく伝えるかに映像化の成否が掛かると思う。

「ぼく明日」と「庶民サンプル」が同じ作者だと知りネットでは驚きの声 そして作者『七月隆文』さんのプロフィールから「庶民サンプル」が消える(まとレーベル@ラノベ新刊情報サイト)

 『聖獣紀』とか『獣人ハンター』とかド直球のエログロ伝奇バイオレンスを書いていた横溝美晶が『さくらのどきどきスクールパニック さくらんぼ爆弾(チェリー・ボム)探偵局』の作者だったことに比べれば衝撃は少ない。今見てもあらすじの温度差がすごい。さておき、『Astral』『君にさよならを言わない』とタイトルを変えて復刊されたが、『フィリシエラと、わたしと、終わりゆく世界に』はファンタジー色強すぎてぼく明日ファンにそのまま売り込むのは難しいかな……プロモーション次第ではこれも映画化できそうなくらいのヒットを見込めると思うが。

カクヨム人気小説「イックーさん」の書籍化が決定! なんで書籍化しようと思ったし・・・(まとレーベル@ラノベ新刊情報サイト)

 よりによってコレかよ……タイトルからお察しの通り『一休さん』のシモネタパロディ小説です。「イックーさーん!」「ハアァァアアアァァッァッンッ……イッ……た……」 これだけでだいたいのノリは伝わる。妄想力が逞しく、ちょっとした刺激でイッてしまう敏感な小坊主「イックーさん」が悟りの境地(賢者の刻)を利用して頓智を繰り出す、本当にくだらない小話が延々と続く。作者の迸るセンス、そして何よりコレを書き続けられる精神力に畏怖の念を禁じ得ない。一つ一つのエピソードが短く数分で読み終えられるうえ、基本的にどこからでも読み出せる構成になっているから暇潰しには持ってこいなんですが……よりによってスニーカー文庫行きか。このまま人気出たら『下ネタという概念が存在しない退屈な世界』に続くシモネタラノベアニメになっちゃう? そこまでイクとさすがに元ネタ方面から苦情が出そうだが。

・駒崎優の『闇の降りる庭』読んだ。

 書庫を整理していたら出てきた一冊。第5回ホワイトハート大賞「佳作」受賞作で、駒崎優のデビュー作でもある。本当は『足のない獅子』を読むつもりで書庫を漁っていましたが、これも一緒に見つけたのでまずは肩慣らしにと手を伸ばしてみました。トゥルニエの『聖女ジャンヌと悪魔ジル』に触発されて書き始めたという本書は、ジル・ド・レーが火刑に処されるシーンから幕を上げる。ジルを誑かし悪の道に引きずり込んだ魔術師「フランチェスコ・プレラッティ」は笑い声だけを残して獄舎から去り、悠々とフィレンツェに里帰りを果たしていた。「ルドルフォ・ダンドレア」と名前を変えた彼はある商家に取り入り、そこを拠点にふたたび悪徳の宴を催さんとするが……といった具合に、実在した錬金術師であるフランチェスコ・プレラッティを巡るややホラーがかったファンタジーに仕上がっています。ちなみに「フランチェスコ」の仏語読みは「フランソワ」。『Fate/strange Fake』にも「フランソワ・プレラーティ」の名で出てくるそうだが、Fakeは序章くらいしか読んでないのでよく知りません。それ以外だと篠田真由美の『彼方より』もフランチェスコをメインに据えた小説だったな。

 『闇の降りる庭』はフランチェスコを巡る話ですが、主人公は庭師の少年「シモーネ」で、フランチェスコ自身は敵役に当たる。「明らかに怪しいやろこいつ!」って匂いをプンプンさせてはいるものの、一応雇い主の客人ということで強く出られず、まごまごしているうちにすっかりフランチェスコの術中に落ちてしまった家をどうにかすべく奮闘するシモーネくんの健気な活躍が読み所となっています。お嬢様のチェチーリアがシモーネくんによく懐いていて仄かなロマンスを予感させますが、恋愛方面は特に踏み込まないで終わる。非常にあっさり風味。かなり淡々とした筆致で、全体的に盛り上がりが薄いと申しますか、230ページ弱の短さであるにも関わらずちょっと間延びしちゃっている。魔術師ルドルフォ(フランチェスコ)という異常な存在に対して常識的な方法で対処しようとする展開が、読者にとっては「無駄だ」と分かり切っているせいで盛り上がらないんですよね。それでも「仕掛け」がちゃんと施されており、クライマックスでドカンと来る構成にはなっていますが、少年向けではないかバトル描写が非常に大味で物足りなかった。結論としては「いかにも新人のデビュー作」の一言に尽きる。真面目なつくりで丁寧に書かれているけれど、読者への配慮を始めとしてまだまだいろんなものが足りておらず、エンターテインメントの次元に達していない。『足のない獅子』以降はもうちょっと娯楽寄りの内容になっていることを祈ります。

 余談。異端審問で「神の何たるか」を問われて「愚かな虚無から生まれた幻だ」と返す件は無性にカッコ良かった。中学生の頃に読んでいたら確実に真似して口走っていただろうな、このフレーズ。

・拍手レス。

 小説カオレギいいですよね!ゲームのほうは擁護の余地がないガッカリものでしたが…
 ゲーム版はやったことありませんが、中古屋のワンコイン投げ売りを見て概ね察しました。

 「セントールの悩み」の「悩み」がへ?って思うのはまさしくあの世界での主人公がフツーな存在だから、って感じですね。純度の高い妄想は実に的確な評だと思います。
 何ということのない一コマ一コマにさえ神経が行き届いていて、「並じゃねぇ……」と唸ります。妄想も極めれば一つの世界になるんだな、と畏怖の念さえ湧き上がる。


2016-12-22.

・年の瀬が近づいているけどその実感がまったくない、すっかり季節感の鈍化した焼津です、こんばんは。

 こないだもある書類に日付を記入しようとして、ボンヤリしていたせいか「7月」と書き込みそうに……いくら何でも時計が止まり過ぎだよ! 積読を整理しているときも「えっ、この本が出たのって7年前!? 一昨年くらいかと思っていた……」なんて慄くことはザラですからね。もう時間感覚がグチャグチャです。アジャストしようとしても無駄なので、開き直って『時の車輪』読み出したりしています。

 『時の車輪』はロバート・ジョーダンによる大河ファンタジーで、私が高校生の頃に流行ったシリーズですが、当時は読んでおりませんでした。これに関しては「気が遠くなるほど長いシリーズ」として記憶している人が多いと思います。全14部(+外伝)から成る大作であり、しかも日本語版では1部あたり5冊とか7冊に分かれているため、翻訳されているだけでも70冊以上。グインサーガほどではないが宇宙皇子よりも長い。1部あたりの長さは『ゲーム・オブ・スローンズ』の原作『氷と炎の歌』と同程度で、あっちは全7部で完結する予定(ホンマか?と疑っているファンもいるが)だから『時の車輪』はおよそ倍のボリュームということになる。完結直前に作者が亡くなり、12部以降は遺された原稿をもとに別の作家(ブランドン・サンダースン)が書き継いで完結させた。日本語版だと第12部までしか翻訳されておらず、ラストの13部と14部は現時点で翻訳される見込みはない。しかし、『ゲーム・オブ・スローンズ』のように海外でドラマ化される企画が進行中とのことで、もし実現すれば遅まきながらハヤカワも波に乗って13部と14部を翻訳するかもしれません。新装版か、あるいは新訳版として最初から出し直す可能性も……そうなったらもういっぺん買い直してもいいかな。今度こそ1部あたりの巻数を2冊か3冊程度に減らしてくれるだろう(実際12部は上下巻構成でそれぞれ700ページくらいあった)し。従来通り1部あたり5冊とか7冊で再刊行するようなら、さすがにスルーする所存です。

・最近読んだ本はライトノベルだと『我が驍勇にふるえよ天地』の2巻と3巻、漫画だと『古見さんは、コミュ症です。』の1巻と2巻、このへんが面白かった。

 『我が驍勇にふるえよ天地』は古いラノベ読みが「魔術士オーフェンはぐれ旅の新刊?」って勘違いしそうになるタイトルですが、まったく関係はない。「思い……出した!」「綴る!」で散々弄られたワルブレこと『聖剣使いの禁呪詠唱(ワールドブレイク)』の原作者・あわむら赤光による新シリーズであり、魔法とか超能力とかが出てこない王道戦記ファンタジー。魔法じみた力(動物と会話する能力で野生の獣を斥候に変える少女)や超能力じみたパワー(大薙刀一振りで七人の首を飛ばす主人公)は出てくるから完全にリアル路線ってわけでもないんですが……権力を握った貴族たちの腐敗と専横によって皇帝の威光が弱まり斜陽を迎えつつある「クロード帝国」を舞台に、自ら継承権を放棄した第八皇子・レオナートがなんやかんやあって自分の国である「アレクシス帝国」を築き上げるという話。副題が「アレクシス帝国興隆記」なので別にネタバレではない。レオナートたちが生きた時代の遥か後に語られている、という体裁なので、「後世の歴史家は〜」とか「余談であるがこの人物は後に〜」みたいな文章もちょくちょく出てきます。そのへんがちょっとウザったいというか興を削いでいる面もあるけれど、「架空の歴史に触れている」感覚が味わえることは確か。クロード帝国には「四公家」と呼ばれる皇帝でもおいそれとは手が出せないほどの権力を有した大貴族がいて、過去の経緯から主人公は四公家すべてを憎んでおり、1巻では北で叛乱を起こしたディンクウッド公を、2巻では南で叛乱を起こしたグレンキース公を容赦なく血祭りに上がる。じゃあ3巻では何々公を討って残り一公まで追い詰めるのか、と言えばさにあらず。四公家はあくまで内患であり、クロード帝国には本来戦いに備えるべき「外憂」、つまり敵対する他国がちゃんと存在しているのです。3巻から北の大国「アドモフ帝国」との戦争が本格化し、しばらく続きそうな気配。1巻目に「これでもかっ!」ってくらいの読み所を詰め込んだせいで相対的に2巻目と3巻目の盛り上がりは薄くなっているが、ここぞという場面における主人公の大活躍もあって割と熱くなれる。ヒロイック戦記ファンタジーとしては今年最大の有望株です。

 『古見さんは、コミュ症です。』は男女問わず誰もが見惚れる麗しきヒロイン「古見硝子」が、実はまともに会話することもできないほど対人恐怖症を極めたコミュニケーション能力壊滅少女だった……と判明するところから幕が上がる青春學園コメディ。主人公は平凡な少年で、まず彼が古見さんの友達になり、彼女の「友達100人」という野望達成のサポートに尽力する。いわゆる「コミュ障」を題材に採った漫画ですが、古見さんの口下手ぶりは常軌を逸しており、リアリティとかそういう尺度を持ち出すのがバカバカしいくらい戯画化されています。キャラの名前も幼なじみだから「長名(おさな)なじみ」、あがり症なうえ卑屈な性格だから「上理卑美子(あがり・ひみこ)」とダジャレに徹している。友達100人、キャラの名前がダジャレ……『ひとりぼっちの○○生活』(主人公の名前が「一里ぼっち」)じゃねーか! と叫びたくなりますが、読み口は全然異なります。『古見さんは、コミュ症です。』には古見さんと主人公(♂)の「友達以上……になかなかステップアップできない微妙な関係」をもどかしく楽しむラブコメめいた興味がありますけど、『ひとりぼっちの○○生活』はメインキャラみんな女の子だからラブコメ要素ほぼゼロ。百合感もあんまりないです。基本はコメディ調ながらヒロインである一里ぼっちのコミュ障ぶりが割とリアリティのあるタッチで描かれている。頭の中で綿密に「想定問答」を組み立てた結果、却ってアドリブが利かなくなって失敗してしまう……みたいな「友達いない子特有の不器用さ」が淡々と紡ぎ出されており、面倒臭くも可愛い。話題になっているからと『古見さん』を読んでみて、「なんか思ってたのとは違うんだよなぁ」と感じた人には『ひとりぼっちの○○生活』の方が合っているかもしれません。来月に3巻が出るし、読むなら今やで! と、『古見さん』の感想書いてるのになぜかカツヲ推ししてしまった。ぼっちに比べると古見さんは基本スペック高いから、友達100人なんて本人の意識次第で楽勝そうな気がするので、読んでいて「応援したくなる」というよりもただ「面白いから傍観したくなる」っていうノリなんですよね。読んでいてついついカッターナイフ片手に「硝丸組に入るんだ」と強要する古見さんとかを想像してしまう。

第156回「芥川賞・直木賞」候補10作決まる 恩田陸氏・冲方丁氏ら直木賞ノミネート(ORICON STYLE)

 芥川賞の方は宮内悠介しか知らないな……というか、この人は以前直木賞の候補じゃなかったっけ? 芥川賞は五大文芸誌(文學界、新潮、群像、すばる、文藝)に掲載された小説からノミネート作品を選ぶ傾向が強く、直木賞に行くか芥川賞に行くかの分岐点は「五大文芸誌に載ったかどうか」程度のことでしかないとは聞きますが。さておき、直木賞の候補者5人はすべて私の好きな作家なので内心密かに興奮しております。候補作は全部買ってるけどすべて積んでるので解説できません。作家についてのみ語る。

 五十音順に行きましょう。まず一人目、冲方丁。「沖方(おきかた)」と間違われることが多いけれど、正しくは「冲方(うぶかた)」です。さんずい偏ではない。故に『にすいです。』なんて本も出しています。かつて新人賞マニアだった私は『黒い季節』でデビューした頃から注目していましたが、正直言って最初はそんなに有望な新人だとは思っていなかった。2作目の『ばいばい、アース』は力み過ぎて完全に空回っており、下巻の途中で読み進めることが辛くなって挫折。後に3回くらい再チャレンジしてやっと読み切った。2002年から漫画単行本の刊行が始まった『ピルグリム・イェーガー』で徐々に読者側へ歩み寄る姿勢を見せ、2003年の『カオス レギオン』でやっと「作者の抱く熱意」と「娯楽要素」が折り合って、素直に面白いと感じられるようになりました。代表作は『マルドゥック・スクランブル』を第1弾とする“マルドゥック”3部作、あるいは『天地明察』『光圀伝』などの時代小説、もしくは脚本を手掛けたアニメ『蒼穹のファフナー』ですが、個人的には『カオス レギオン』をどんどん推していきたいですね。ちなみにカオレギの小説版は『聖戦魔軍篇』から刊行スタートしていますが、実のところこれはシリーズの最終巻に当たる。ジーク・ヴァールハイトとヴィクトール・ドラクロワ、かつて盟友だった二人の男はひとりの女性の死を契機として訣別してしまうのですが、『聖戦魔軍篇』では「女性の死」の真相が明かされ、ふたりの因縁が決着する――つまり、物語の興味をほぼジークとドラクロワだけに絞った内容となっていました。ジークと彼の従者である少女・ノヴィア、両者の出会いと旅を描く前日譚『0 招魔六陣篇』がドラマガで先行連載されていて、これが好評だったことも影響してか「途中過程」も描かれることに。『01 聖双去来篇』から『05 聖魔飛翔篇』まではソードアートオンラインで喩えると『プログレッシブ』みたいなものです。なので時系列に沿って読みたい方は0→01〜05→聖戦魔軍篇の順に手を伸ばすのがベストですが、なにぶん後から書き足された「途中過程」だけに「あの要素やこの要素が最終巻に反映されていないじゃないか!」って不満は多少出てくるかもしれません。時系列にそこまでこだわらない方は0→聖戦魔軍篇→01〜05の順で読む方がベターでしょう。候補に選ばれた『十二人の死にたい子どもたち』は「デビュー20年目にはじめて書く現代長編ミステリー」という触れ込み。このミスでも16位に選ばれていて、まずまずの評価を獲得している模様です。

 二人目、恩田陸。日本ファンタジーノベル大賞の最終候補に残った『六番目の小夜子』でデビューを果たす。最終候補止まりとはいえ下手するとそこらの受賞作よりも人気のある作品であり、その証拠に最初は文庫版だけ出版されていたのに6年経ったらハードカバー版も出た。初期はホラー要素を孕んだサスペンス小説の書き手といった趣だったが、『光の帝国』あたりからだんだん作風が幅広くなり何でもありになっていく。特徴は、「設定や書き出しがすごく面白いのに、風呂敷の畳み方が……」ってところですね。あまりカチッとしたプロットを組まないタイプの作家みたいで、ほとんどの作品は進めば進むほど尻すぼみになっていき「え? これがオチ?」な終わり方で〆る。『劫尽童女』は特にひどかった。ファンはもう「そういうもの」として受け容れているが、恩田陸初挑戦の人は取った本次第で「二度と読まねえ!」と頑なになりかねない。比較的オススメしやすいのが『夜のピクニック』。「80キロの道のりを一昼夜かけて延々歩き続ける」というだけで、『死のロングウォーク』の「スピードが落ちたら殺す」みたいな設定は一切ないのに、ダレることなく最後まで一気に読み切れる。修学旅行の夜をつい思い出してしまったりする、出色の青春小説です。『カオス レギオン02 魔天行進篇』(二万人の難民を引き連れ、新天地を求めてひたすら歩き続けるエクソダスなエピソード)と併せて読みたい。私が好きなのはSF学園モノの『ロミオとロミオは永遠に』なんですが、あれは長いから「ダレる」って人も多いんですよね。あと『MAZE』とかの神原恵弥シリーズも気に入っていますけど、人に薦められるかどうかは微妙。候補作の『蜜蜂と遠雷』は「構想から12年、取材11年、執筆7年」と謳う力作。読んだファンの弁によると「かつてないレベルのクオリティ」とのことで、崩す日が今から楽しみである。私の予想では最有力候補。

 三人目、垣根涼介。『午前三時のルースター』という大傑作でデビューしたが、なぜか評価はあまり宜しくなかった。爽やかすぎる作風がダメだったのか? 受賞後第一作の『ヒートアイランド』から評価が追いついてきて、3作目の『ワイルド・ソウル』でブレイク。吉川英治文学新人賞と大藪春彦賞のダブル受賞を果たした。初期3作はいずれ劣らぬ傑作ばかりなので断固としてオススメします。が、『ワイルド・ソウル』の出来が凄すぎたせいで、その後の作品はどれも見劣りしてしまう悩ましい事態に陥ってしまう。クライム・サスペンスを得意とする作家ですが、それ一色でイメージが固まることを恐れたのか『真夏の島に咲く花は』あたりからジャンルに囚われない方向へ舵を切る。馘首コンサルタントを通じて「お仕事」の意識を問う『君たちに明日はない』はドラマ化もされました。ここ最近は刊行ペースが落ちてなかなか新刊も出ない状態になってやきもきしていていましたよ。そんなところで発売されたのが今回候補となった『室町無頼』。むろん狂喜乱舞して即予約しました。そして積んでいる。

 四人目、須賀しのぶ。長らくコバルト文庫で活躍していた作家ですから、男性にとってはあまり馴染みのない人である。『流血女神伝』は「男が読んでも抵抗なく楽しめる少女小説」として割と有名だし、結構読んでいる人もおられるのやもしれぬが。一般文芸に進出したのは『スイート・ダイアリーズ』あたりからだっけ。従来のファン層以外で評判になったのは大長編『神の棘』以降ですね。去年の『革命前夜』は大藪春彦賞を獲って話題になった。候補作『また、桜の国で』はあっちこっちの書評でタイトルを見かけたし、結構有力かも。直木賞獲ったらキル・ゾーンとかも復刻されるかな。あ、そうそう、さっき名前を挙げた『神の棘』は文庫版で大幅改稿が入ってほとんど別バージョンと言っていい内容になりましたから、気に入った方はハードカバー版も併せて読むが吉です。

 ラスト、五人目は森見登美彦。この人は有名だし解説しなくてもいいかな……でも一応しとこう。恩田陸が獲り損ねた日本ファンタジーノベル大賞を『太陽の塔』で受賞。このとき24歳。今でもまだ30代である。同じ京大卒の万城目学よりも若い。受賞後第一作の『四畳半神話大系』はアニメ化されるほどの人気作となったが、ハードカバー版がなぜ新潮社ではなく太田出版から出ていたのかが未だに謎である。3作目の『夜は短し歩けよ乙女』がブレイクしたことで作家としての地位を盤石なものとする。夜は短し〜は来年アニメ映画化する予定。アニメと言えば『有頂天家族』の2期も決まったんですっけ。「クリスマスファシズム」など言い回しに独特のセンスがあり、ハマる人はとことんハマる。だいたいはギャグというか「笑い」の要素を含んだユーモラスな作品ばかりであるが、中には『きつねのはなし』みたいに「笑い」の要素を削り取った小説もあります。『夜行』もあらすじからすると『きつねのはなし』路線? 著者の新たな代表作との呼び声も高く、ひょっとしたらひょっとするかも。

・拍手レス。

 この世界の片隅には、老若男女の区別なくほぼ絶賛しか聞こえてこないという凄いことになってますね。上映館拡大に併せて興収もさらに伸びてますし、こちらも君の名は。並のロングランになる気がします。
 クラウドファンディングやってたくらいだし「大丈夫かな?」って心配した時期もありましたけど、それが嘘みたいな盛り上がりですね。何年かしたら「夏の風物詩」とばかりに幾度も地上波放送されるアニメになってるかも。


2016-12-13.

【速報】 なろう原作ラノベ「デスマーチからはじまる異世界狂想曲」のアニメ化が決定!!!(まとレーベル@ラノベ新刊情報サイト)

 あ、最近まとめ買いした奴だ。「巻数的にアニメ化の可能性は充分あるな」とは思ったけど、まさか本当にそうなるなんて。第二の『オーバーロード』狙いか? 『即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。』が面白かったのをキッカケに、今まで何となく敬遠していた「税抜1000円から1200円くらいのソフトカバーで売っているなろう系小説」を積極的に読み耽るようになりましたけど、読めば読むほど業界の主流がだんだん文庫系からソフトカバー系にシフトしつつあるのを実感しましたね。主流というか、まだ傍流といった方がいいかな。超売れっ子はあくまで文庫系に偏っているものの、中堅や新鋭の層はどんどんソフトカバー系に移ってきている感じです。文庫レーベルと比べて単純に値段が2倍近くになるから1冊あたりの利幅が大きく、比較的小部数でもやっていける、というのが強み。もちろん中には2、3冊で打ち切られてしまうシリーズもありますが、文庫系より「生存率が高い」というイメージもあって安心して買い続けられる。文庫レーベルは安いけど、とにかくヒットしないとすぐに打ち切られてしまうのが難点だ……多少割高であっても「打ち切られにくい」という安心感は金を払うに足る。いっそ、過去に打ち切られてしまったライトノベルたちがソフトカバーで復活してくんないかな、とすら願いたくなります。『リア王!』『Fランクの暴君』だったら倍額でも買い直すぞ。完結済の『ポリフォニカ』はさすがに買いませんが……「せめて合本しろ」って言いたくなります。

 しかしデスマがアニメ化となると、次は転スラか、それとも盾の勇者? 巻数はまだそれほどでもないけどCMよくやってる『蜘蛛ですが、なにか?』あたり来ちゃう? 大穴で『呼び出された殺戮者』

「セントールの悩み」アニメ化企画進行中、人馬JK主役に描く架空の人類史(コミックナタリー)

 予想はしていましたが、まさか本当に来るとは。セントール(Centaur、いわゆる「ケンタウロス」の英語読み)の少女を主人公とする日常漫画で、ジャンルとしては獣人・亜人モノになるかな? 「地域によって神聖視されたり、あるいは『馬の変種』として動物扱いされていた」など作中の設定がやたらと細かく、流行りとか抜きにして作者が心底好きで描いてるんだなぁと実感させてくれる。最新刊が14巻だからもう結構巻数が溜まっています。連載開始は5年前で、実は『モンスター娘のいる日常』よりも早く単行本が発売されている。そういう意味では「亜人/獣人ヒロインブームの先駆け」と言えなくもない作品ですが、不思議なほど好事家以外における知名度が低い。初めて知った人が「え? もうそんなに巻数出ているの?」と驚くくらい、ステルス状態でほそぼそと人気を繋いできました。『モンスター娘のいる日常』はヒロインたちの特異性もさることながら、「お色気」や「ラブコメ」という分かりやすい特徴があったため比較的人に薦めやすかった。『セントールの悩み』にもお色気や恋愛の要素がないわけではないが、モンむすほどハッキリ打ち出しているわけではなく、なんというかよりマニアックな雰囲気が漂う作風になっています。

 「架空の人類史」という表現は読んだ後だと言い得て妙ですが、読む前にこう言われてもピンと来る人はまずいない。あの漫画は物語というより「純度の高い妄想」って感じなんですよね。作者と読者の間で内輪なTRPGを繰り広げるノリだから、「獣人・亜人たちが当たり前のように存在する世界」を幻視しようとする意欲が働かなければ、単なる「取り留めのない漫画」としか映らない。なのでファンたちもそこまで熱心に布教活動を行わず、「同好の士」って見做した相手とだけ盛り上がっていた印象です。恐らく、アニメ化してもそこまで大きくファン層は拡大しないはず。どれだけ強固なコア層を築けるかに掛かっていると思う。私は「出来によってはBD買ってもいいかな」くらいの気分で期待しています。

 しかし、タイトルである『セントールの悩み』がいったい何なのかを知ったら初見の人はズッコケるだろうな……いろんな意味で第1話がリトマス試験紙になるだろうと予想します。

「ノベルゼロ」から何か面白いラノベ出た?(まとレーベル@ラノベ新刊情報サイト)

 『マッドネス グラート王国戦記』は面白かった。イギリスっぽい島国で第三王子が王太子を暗殺し、玉座を簒奪しようとしたため内乱状態に突入する、って話。「主人公が狂的なまでに純朴」というところから『マッドネス』のタイトルが来ています。あまり売れなかったのか、内乱が終了する2巻目でシリーズも幕切れとなってしまった。もうちょっと人気が出ていれば海の向こうの列強どもと渡り合う第二部が始まっていたかもしれない。残念。師走トオルの『無法の弁護人』もそこそこ。『タクティカル・ジャッジメント』の対象年齢を引き上げたようなリーガル・サスペンスで、手段を択ばない主人公のえげつなき法廷戦術に苦笑しつつもサクッと軽く楽しめる。あとは……うーん。今年2月に創刊したばかりとはいえ、正直「これだ!」というキラータイトルに恵まれていませんね。異世界転生(ないし異世界召喚)モノに偏っているなろう系小説とは別の切り口を確立していってもらいたいけど、まだまだいろんなものが足りていない。知名度の観点からすると完全新作より、安易だけど「往年の人気作の続き」みたいな方が耳目を集めやすいかも。もっとオッサンたちが「えっ? このシリーズ読めるの!?」って喜ぶような目玉を引っ張ってきてほしい。具体的に言うと『神々の砂漠』とか。

岩井俊二の傑作「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」、大根仁×新房昭之でアニメ映画化!(映画.com)

 十数年前にレンタルビデオで観たけど、「時間が巻き戻る」なんて要素あったっけ? と首を傾げていたら、どうも脚本は完全新規みたいです。原作は小学生たちのひと夏の思い出をノスタルジックに綴った一本。元がドラマだからすごく短くて「え? もう終わり?」と驚いた記憶があります。『Love Letter』で岩井俊二の作風に魅了され、レンタル屋にあったビデオをひと通り観ましたが、率直に言って打ち上げ花火〜はあまり印象に残っていない。『undo』は短いながらもインパクトがあって、「ワケがわからねぇ……」と呻きながらも呆然とする存在感があったな。『PiCNiC』もラストシーンが鮮烈。素直に「面白い!」と感激したのは『スワロウテイル』だ。岩井作品を初めて観るならまずは『Love Letter』か『スワロウテイル』をオススメする。脚本の大根仁は最近だと『SCOOP!』を撮った人ですね。『SCOOP!』は後半の展開がちょっと……でしたが、大筋としては程良い娯楽作品として出来上がっていた。さすがに『君の名は。』クラスのヒットは難しいだろうけど、そこそこに観れる映画になるのではないかと予想します。

・機村械人の『そのオーク、前世(もと)ヤクザにて』読んだ。

 第8回GA文庫大賞「優秀賞」受賞作。GA文庫大賞は1年に2回(5月と11月)締め切りがあって、この作品は5月〆、つまり前期に投稿されたものです。「優秀賞」は電撃小説大賞で言うところの「金賞」に相当する。この上に「大賞」という最高ランクの位が存在しますが、今まで大賞が出たのは第4回だけです。ちなみにそのときの大賞受賞作が『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』。タイトルの「オーク」と「前世」で察した人も多いでしょうが、本書はいわゆる「異世界転生ファンタジー」です。現代日本で暮らしていた主人公が、なんやかんやの末に剣と魔法の異世界へ行ってしまうアレ。主人公の元の職業がヤクザだということ、そして転生した体がオークだという点は特徴と言えば特徴だが、最近は『転生したら剣でした』とか転生したら盾だった(『緑王の盾と真冬の国』)とか『気づけば鎧になって異世界ライフ』とか何でもアリだからなぁ……『自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う』もあったっけ。ハッキリ言って異世界転生モノとしてはそこまで目立つ設定ではありません。

 かつては鬼(オーガ)として恐れられたヤクザ、気づけば今は嫌われ者の豚(オーク)……前世の記憶に突如覚醒した彼は、戸惑いながらも事態を受け入れ、奇妙な成り行きから「女ばかりの騎士団」で雑用係として働くこととなった。しかし、以前の生でも壮絶な闘いを繰り広げた末に絶命した侠である。享受する平穏など一時のものに過ぎなかった。前世の記憶にある「大麻」とそっくりな植物を見つけた日から、周りを巻き込んで運命は大きく回り始める……と、「異世界転生モノ」の定番を押さえつつ、割合淡々とした調子でストーリーは進んでいきます。

 ゴロツキを吹っ飛ばしたりなど、デモンストレーション的なアクションシーンを除けば、前半はバトルもあまりなくて地味な印象。もともと「オークとエルフの純愛モノ」という発想から出発している話なので「剣と魔法」はちょっと薄めです。虐げられたオークが下克上を果たして国盗り合戦に参加する、みたいな仰々しくスケールの大きい展開はありません。ファンタジーに「壮大さ」を求める人だと合わない可能性もありますね。逆に「そういう『壮大なファンタジー』とやらはじきに広げた風呂敷を畳めなくなって迷走するからイヤだ」と嘯く方にとってはちょうどいい仕上がりかもしれません。文庫本300ページ足らずという限られた分量の中で、過不足なくコンパクトに話をまとめてくれる。その手腕、新人離れした巧さがあります。反面、小粒感が漂うという事実も否めない。結局のところ新人賞作品は一冊の本として刊行することを想定した「端整なまとまりの良さ」が重視されるせいで、粗削りな魅力のある作品は敬遠されがちになってしまう。そのため、総じてどこでも小粒な良作が選ばれやすい傾向となっています。本書も客観的に見ると角が取れた読みやすい娯楽ライトノベルで、審査員が誉める気持ちもわかる。しかし、欲を言えばもっとゴツゴツと尖った一品にしてほしかったな。転生後の主人公がそれほど迫害されていないせいもあって、後半の爆発がやや弱く感じられる。少しネタバレになってしまうが、「主人公の前世」が物語の深部に根を下ろした構成となっているせいで、作品の表面を覆う「異世界ファンタジー」の雰囲気が後半に行くほど緩んでいっちゃうんですよね。「前世ネタ引きずりすぎだろ」と感じるか「前世の設定がちゃんと活きている」と感じるかは人によって異なりそう。

 まとめ。10年以上前に電撃文庫から出た『奇蹟の表現』を彷彿とする一作だった。『奇蹟の表現』は妻子を殺されたうえ瀕死の重傷を負ったマフィアのボスがイノシシ頭のサイボーグとして人生をやり直す話です。主人公があまり強くなくて、ボロボロになりながら一人の少女を救うため懸命に戦うクライマックスが印象的だった。あまり売れなかったのか3冊で終了し、作者の結城充考も『プラ・バロック』でミステリ作家として再出発するまで3年間も新刊が出せない状態に陥ってしまった。『そのオーク、前世(もと)ヤクザにて』は現在2巻まで刊行されているが、果たして3巻目やそれ以降は発売されるのだろうか。そして2巻も口絵をパラパラと眺めた程度であるがどうも1巻とは別の前世絡みなキャラが出てくるらしい。この調子で行ったらそのうち『蒼色輪廻』みたいになりそう。

・拍手レス。

 うーむ、主人公最強モノがワールドトリガーに似てると言われると、違和感が凄いですね。部分部分似てるところはあるようですけども
 他のなろう小説に比べると主人公の最強感が薄く、雑魚はともかくボス戦で結構苦戦するのでハラハラします。ただ別の異世界に飛ぶあたりからはちょっと……。


2016-12-07.

映画「君の名は。」興行収入200億円突破というニュースに改めて仰天している焼津です、こんばんは。

 いやー、何がすごいってまだそこらへんの映画館で平然と上映が続いてるってことですよ。夏の終わりに公開された作品だってのに、余裕で秋を越してしまった。この調子では越冬すらもありうる。来年の夏に夏休み映画としてふたたび人気を集めるなんてことも冗談じゃなくなりそう。興収200億クラスになると比較対象がハリポタ、アナ雪、タイタニック、千と千尋くらいしかないので今後の推移なんて到底予測できない。さすがに300億は行かないと思うが……新海の剣はどこまで昇る。

・えー、更新サボってる間に何をしていたかと申しますと、特に何も……いつも通り本を読んでアニメ観て映画鑑賞して、って具合です。

 映画は『この世界の片隅に』を観に行きましたけど、期待以上の出来で満足。辛気臭い文芸路線に陥っていないかな、という心配は杞憂だった。この作品に関してはあーだこーだ語るまでもなく「ヒロインのすずが滅法可愛い、観るべし」の一言で済む。仕草の一つ一つ、囁きの一つ一つがいちいち胸を締め付ける。これは映像化して正解だ。染み渡るような柔らかさが心に忍び寄る。嗚呼、こんなにも可愛いすずちゃんがあんな目に遭ってしまうとは……玉音放送を耳にしながら「弾薬が無うなれば銃剣を使え。銃剣折れたれば、刀を用いよ。刀折れたならば拳を使え。たとえ身は砕くとも、魂魄をこの地に止めて敵を討滅せよ!」と絶叫するシーンは泣けましたねぇ(一部記憶に混乱があります)。興行的には厳しいかも、という予想を裏切ってヒットを飛ばしているみたいで喜ばしいです。今年は予想外の傑作が次々と現れる年だなぁ。

なぜ『ファンタジー』=『中世ヨーロッパっぽい世界が舞台』という固定観念ができてしまったのか?(まとレーベル@ラノベ新刊情報サイト)

 『十二国記』とか『彩雲国物語』とか、女性向けだと中華系も結構人気があるみたいですけれど男性向けではグッと減る印象ですね。『ご主人様は山猫姫』くらいかな、比較的最近の作品でそれなりの巻数が出たものとなると。イスラム世界を描いた『ジハード』、記紀神話をベースにした『Kishin‐姫神』、古代オリエントを舞台にした『四方世界の王』など、一風変わった題材を好む定金伸治って作家もいましたが、結局大きなヒットを飛ばすことはなかったですね。インド神話あたりはネタの宝庫で狙い目というか非常に美味しい気がしますけど、最近の読者にはあまり馴染みがないからキツいかもしれない。『シャングラッド神紀』も続きが出なくて残念。

lightの新作『シルヴァリオ トリニティ』、またしても延期(12/16→01/27)

 おいおいまたかよ……「さらなるクオリティアップのため」なんてクソみたいな理由、今更いったい誰が信じるんだよ。素直に「作業が間に合わないため」って書けよ。これに関しては単独で予約を入れていたから他の発送予定が狂うとかいった事態は生じないけど、つくづくlightというかエロゲー業界には延期体質が拭い難く染みついてやがると実感しました。延期2回ならまだ慌てる段階じゃないけれど、これが3度、4度と続いたらさすがに検討し直さないといけなくなるかな。

「デート・ア・ライブ」時崎狂三のスピンオフ小説は東出祐一郎さんが執筆(まとレーベル@ラノベ新刊情報サイト)

 「きょうぞうちゃん」こと狂三(くるみ)のスピンオフが遂に始動か……劇場版第2弾は決まったようなもんだな。東出祐一郎は『あやかしびと』『ケモノガリ』『フェイト/アポクリファ』などを手掛けたことで知られるが、アマチュア時代の『吸血大殲』が印象に残っている人も少なくないだろう。バイオレンス色豊かなきょうぞうちゃんの姿が拝めるのだろうか……楽しみである。

『ユーベルブラット』の積読が溜まってきていたからまとめて崩した。

 やっぱりこの漫画、1冊ずつだと話の進展があまりなくて焦れるけど、まとめて読むと滅法面白いな。「英雄」と呼ばれた男たちの晩節が汚れ、後悔のうちに死んでいく救われなさが極上。ただ連載開始から10年以上経つこともあり、ストーリーの細部はだいぶ忘れてきている。いずれ機会をみて既刊読み直さないと。2009年の10巻から2012年の11巻まで2年半近くの間が空いたときはどうなるものかと心配したが、刊行再開以降は割と良いペースを保ってくれてホッとした。「非業の死を遂げたはずの主人公が甦り、復讐の旅に出る」という形式の復讐譚ではもっとも好きなシリーズである。経過した年月の割に話の進みが遅いのはアレだけど……それでも『redEyes』よりはいい方か。『redEyes』も『ベルセルク』に比べればまだまだマシなんだけどな。

 なろう小説にもこうした復讐モノは結構あって、『二度目の勇者は復讐の道を嗤い歩む』『再臨勇者の復讐譚』については続きを楽しみにしている。どちらも異世界召喚モノであり、「死んだはずの主人公が生き返って復讐に血道を上げる」という大枠は共通しています。ただし、『二度目勇者』は召喚時点まで時間が巻き戻る(主人公の記憶はそのまま、スキルはほとんどリセット)のに対し、『再臨勇者』は主人公が若返った状態で再召喚される(死亡から30年が経過し、他の連中は歳を取っている)ためシチュエーションが若干違う。前者は「裏切り」という事実自体が消滅しているので、やり返される側はワケが分からないまま殺されていく。ほとんど逆恨みに近く、その点はモヤッとするものの、「復讐対象が想像を絶する外道だった」と判明する展開もあって面白い。「一周目」の記憶を引き継いでいる主人公が効率的かつ効果的に復讐を遂げていく(前周では未然に防いでいた危機を、今周ではあえて防がない)あたりも「堕ちた英雄」感があってイイ。文章面で難を抱えていることと主人公の精神年齢が設定よりも低いこと、話の密度がやや薄いことから人にはススメにくいが、個人的には早く3巻を読みたい。再臨勇者は「お前、まさか……生きていたのか!?」と相手が驚愕する定番のシーンを盛り込んでおり、ストレートに復讐モノとして楽しめる仕上がり。『ユーベルブラット』に近いのはこっちの方ですね。文章も癖がなくてスラスラと読めるし、比較的ススメやすい出来。復讐は何も生み出さない、と言うが「復讐心を込めてうどんを捏ねればうどんが出来上がる」という言葉もある。復讐を原動力とする物語は、今後決して途絶えることはないでしょう。

・なろう小説と言えば、まだ途中の巻までだけど『盾の勇者の成り上がり』もなかなか面白い。

 中世ヨーロッパ風の異世界に召喚された主人公が「勇者」として世界を滅ぼす災厄へ立ち向かうハメに……というシチュそのものはありふれていて「またか」と言いそうになる。ステータスやスキルといった概念が存在する、「ゲームめいたシステムに支配された世界」って設定もありがち。本シリーズの変わっている点は、召喚された勇者が主人公以外に3人もいることですね。剣の勇者、槍の勇者、弓の勇者といった王道的な存在に対し、主人公はなんと盾の勇者。防御力が高い反面、一切の武器を装備することができない。それどころか「攻撃」と判定される行為は素手の場合を除いてまったく使うことができない。つまり、そのへんに落ちている石を持ち上げることはできるけど、それをモンスターに向かって投げつけて攻撃することは不可能。完全な補助要員であり、単独で戦うことができず「いかにも勇者らしくない」主人公はあろうことか強姦容疑の濡れ衣を着せられ、他の勇者たちから「見下げ果てた」とそっぽを向かれてしまう。攻撃役がいないと真価を発揮できない主人公はどうにかして仲間を作ろうと奮闘するが……。

 仲間と思った女に裏切られ、濡れ衣を着せられた主人公。ここで追われる身になればファンタジー版『君よ憤怒の河を渉れ』と化したでしょうが、勇者特権のおかげで捕縛・投獄といった事態だけは免れる。しかし悪名が広まってしまったためまともな仲間を集められなくて、やむなく奴隷の亜人少女を戦奴として仕込むことになります。仮にも勇者だというのに主人公が理不尽なほど迫害されまくる展開に違和感を抱く方は多いでしょうし、後々そのへんをフォローするような説明も出てきますが、なんと申しますか「主人公をイジメ抜いてやろう」という作者の意思があまりに露骨すぎて好みが分かれる本となっています。主人公を「神様の依怙贔屓」でひたすら優遇する某なろう小説にウンザリした直後だったから私自身は「これこれ、こういうのが読みたかったんだよ!」と快哉を叫びましたものの、それでもところどころで滲む強引さに顔を顰めることもあった。たとえば、いくら裏切られて人間不信になっているとはいえまったく良心の呵責なく奴隷(見た目10歳くらいの亜人少女)を購入し、「もしこいつが死んでも代わりの奴を買うだけだ」と思うシーンはあまりにも……擁護しがたいものを感じる。冤罪が晴れた後も他の勇者たちとは折り合いが悪く、終始喧嘩してばかりでろくに連携が取れず時間を空費している。このあたりも人によってはすごくイライラしそう。たまにおちゃらけたイベントもあって、『この素晴らしい世界に祝福を!』ほどではないにしろややコミカルな印象を与える作品ですが、進むにつれて災厄の規模が拡大していって死体もゴロゴロ転がるから実は意外とシリアス路線なんです。それだけに「勇者たちの不仲が原因で被害を抑え込めない」状況がもたらすストレスは並々ならぬものがある。ストレス耐性が低い方にはオススメしがたい。「ストレスもスパイス!」と言い切れる方にはちょうどいいかもしれません。

 今まで読んだ範囲で判断すると、ぶっちゃけ『盾の勇者の成り上がり』ってファンタジー版『ワールドトリガー』(誤解のないように補足しておきますと、連載開始はワートリよりも先)なんですよ。異世界同士の衝突、特殊なウェポンとスキル、チーム戦を前提としたバトル。なのでワートリ同様、盛り上がるまでが長い。キャラが出揃って下拵えが済んでからが本番です。1巻はあくまで前フリに過ぎず、2巻、3巻で徐々に楽しくなり、4巻まで至ってやっと「これは最後まで読まなきゃ」という気分になった。文章が言葉足らずで意味を汲み取りにくい箇所がある、主人公の陰湿な性格に本気でヒく場面がある、などの引っ掛かりもあるにせよ、壮大な設定と積極的な主人公イジメが織りなすハーモーニーは絶妙である。来月に最新刊の16巻が発売される予定で、分量的には2クールアニメ化しても不思議じゃないくらいだが、ある面においてリゼロ以上のストレスが降りかかってくる話だからアニメ化されても数話で脱落する視聴者が続出しそうだな……ともあれ正直まったく期待しないで手を伸ばしたシリーズだけに、この面白さは望外の収穫でホクホクだ。向こう一週間は盾の勇者を読みまくろう。


2016-11-20.

角川ホラー文庫から「バチカン奇跡調査官」がアニメ化決定!(まとレーベル@ラノベ新刊情報サイト)

 藤木稟か……高校生の頃、『陀吉尼の紡ぐ糸』から始まる“朱雀十五”シリーズを熱心に読んでました。シリーズの3作目と4冊目に当たる『黄泉津比良坂、血祭りの館』『黄泉津比良坂、暗夜行路』が好きだったなぁ。当時(最近に関しては読んでないからよく知らない)は伝奇と薀蓄をベースにする衒学的な作風だったため「京極夏彦の後追い」と見做されていた節がありましたね。ひどい人は「劣化京極」と呼んでいた。『上海幻夜』あたりから刊行ペースが落ちて熱も冷め、惰性で読んだ『夢魔の棲まう処』がつまらなかったから追うのをギブアップしてしまいましたが、その後も朱雀十五のシリーズは続いていたみたいです。『暗闇神事 猿神の舞い』、そして現時点でのシリーズ最新作『化身』。『上海幻夜』以降はファンの間でも評判が振るわず、そのせいもあってか角川ホラー文庫の新装版は『大年神が彷徨う島』(シリーズ5冊目)までしか刊行されておりません。実際、私も純粋に楽しんでいたのは大年神までだったな……そういえば『鬼を斬る』という小説に「朱雀十二」という名前のキャラが出てきたが、あれが十五の曽祖父だったんだっけ? じゃあ父親が十四で祖父が十三なのかしら。調べたところによると朱雀十八という十五の孫が登場するシリーズもあるらしい。そのうち朱雀九十九が宇宙僻村で事件を解決するSFも来るかもしれない。

 ジョークはさておき、今回アニメ化される『バチカン奇跡調査官』、現時点で本編に当たる長編が11冊、短編集が2冊の計13冊から成る伝奇ミステリで、なんと朱雀十五シリーズの冊数をとっくに超えちゃっている。今やこっちの方が藤木稟の代表作なんだな。文庫版の刊行は2010年からですが、もともとは単行本で2007年に出ていたのでスタートからそろそろ10年近く経つことになります。単行本で出ていたときはそんなに売れている気配もなかったし、あまり評判が良くなかったうえ柄刀一の『奇蹟審問官アーサー』と混同している人までいたが、文庫主体に切り替えた2011年あたりから徐々に人気が上がってちょくちょく平台で見かけるようになりました。アニメ化するほどとは思っていなかったのでビックリしましたが、いざ放送が始まったらTHORES柴本の絵を見て『トリニティ・ブラッド』を想起する人と想起しない人に分かれて「時代が変わった……」としんみりすることになりそう。便乗して『奇蹟審問官アーサー』のシリーズも復活しないかな。

【先出し週刊ファミ通】『かまいたちの夜』なのに“影”じゃない!? 挑戦的な新作『かまいたちの夜 輪廻彩声』を独占スクープ(2016年11月17日発売号)(ファミ通.com)

 誰の絵かと思ったら有葉(あるふぁ)じゃねーか。ゲーム原画は『ぼくの一人戦争』以来? 同人方面でも有名な描き手ですが、商業化したあかべぇの初期を支えた原画家でもあります。「あかべぇそふとつぅ」の「2(つぅ)」は同人サークル「AKABEi SOFT」が前身にあるからで、この同人時代から有葉は中心的な存在だった。ちなみに「あかべぇそふとつぅ」と「あかべぇそふとすりぃ」のふたつは混同されがちだが、「有葉が原画に加わっているかどうか」で区別することができます。つぅの方にはすべて関わっていて、すりぃの方は一個も関わっていない。ただ、今となっては知る人も少なくなってきただろうが、『車輪の国、向日葵の少女』の原画は当初蒼月しのぶが担当する予定だったので「つぅ=有葉ありきのブランド」というのは別に既定路線でも何でもなかった。気付けばそうなっていたという次第。有葉がゲーム原画の仕事をあまり手掛けないようになったため、自然とつぅは休止ブランド化していきました。

 久々に有葉原画のゲームやりたいなー、とは思っていたけれど、これは……うーん。SFC版のかまいたちは周回プレーが苦痛になるシステム(何せ選択肢でのセーブ&ロードはおろか、スキップ機能すらない。フローチャート? 何それ美味しいの?)だったからリメイク自体は歓迎すべきだけど、もう過去に何べんもリメイクされているソフトですからなんというか「過去のリメイクとの違いを出すために」苦し紛れで無理矢理特徴を作ろうとしている感じがありありと。「タイトルは聞いたことあるけど一度もやったことはない」って新規層にはちょうどいいのかもしれませんが……『あなただけのかまいたちの夜』なんてアンソロジー小説を買うほどハマった時期もあるし、竜騎士07の追加部分も気になるっちゃ気になるけど、今回はパス。これが有葉と衣笠コンビの新作ラブコメエロゲとかだったら一も二もなく飛びついていただろうな。

 余談。原作シナリオを手掛けた我孫子武丸は『Another』の綾辻行人や『一の悲劇』の法月綸太郎と同時期にデビューした作家で、90年代に流行した「新本格ミステリ」の書き手でもあった。ついこないだ「法廷画」をテーマにした『裁く眼』という新作も出したし、多作ではないにしろ現役バリバリである。小説作品は『殺戮にいたる病』が有名で、確かに傑作ではあるものの内容的にちょっとエグい。初めて読む方は『探偵映画』あたりから入るのをオススメします。映画の完成前に監督が失踪しちゃったので、残されたスタッフたちが結末をどうしようかと議論する話。『愚者のエンドロール』の元ネタに当たる作品でもある。シリーズ物がご希望であれば『人形はこたつで推理する』の“鞠小路鞠夫”シリーズかな。腹話術師とその人形が様々な事件を解き明かす、比較的ほのぼの系の話。個人的に一番好きなのは“速水三兄妹”シリーズ2作目の『0の殺人』。逆にイマイチだったのが『腐蝕の街』、近未来を舞台にしたハードボイルドというかクライムサスペンス。三部作で、完結編『禁忌の街』も雑誌連載していたが終了から何年経っても単行本化されていない事実でお察しいただきたい。人によっては最高傑作らしいんですけど、個人的には雰囲気づくりの時点から失敗している印象で全然合わなかった。でも『ディプロトドンティア・マクロプス』よりはマシかな……あれは本当に期待を裏切られた。同じシリーズの『狩人は都を駆ける』は面白かったので、「我孫子武丸は振れ幅の大きい作家」というのが結論です。新刊買うたびバクチ気分。

サブロウタの姉妹百合「citrus」アニメ化企画進行中(コミックナタリー)

 あっ、これ去年の拍手コメント(9月)で存在を知って買ったけどまだ読んでない奴だ。『捏造トラップ』もアニメ化だそうだし、いよいよ百合姫の時代が来る? 百合姫じゃないけど同じ一迅社の『大上さんとケルベロスゥ!』もアニメ化来ないかな。『やがて君になる』も日に日にアニメ化されそうなオーラが強くなっていくし、冗談抜きで大百合時代の幕開けかもしれない。伊藤ハチやマウンテンプクイチの絵がテレビで見られる日もそう遠くないだろう。そして『総合タワーリシチ』が奇跡の復活を遂げたり……しないか。気持ちを落ち着け、買い忘れていた『制服のヴァンピレスロード(2)』を購入してくる。

・青野海鳥の『夜伽の国の月光姫(1〜4)』読んだ。

 「小説家になろう」連載作品。通称「おっさん姫」。現代日本で暮らしていた主人公はヒキコモリの末、不摂生が祟って38歳のときに死亡。異世界で銀髪の姫君として転生する……という大枠自体は「よくある異世界転生モノ」である。「見た目は美少女、中身はオッサン」というギャップが特徴の一つだけど、それ以上に本書が他と一線を画している点は「ひたすらアンジャッシュ状態が続く」ところですね。つまり、主人公は「豊かなおっぱいに顔を埋めたい」とか煩悩まみれで私利私欲のために動いているのに、周りがその意図をいちいち勘違いして「母の愛に飢えているのね……なんて不憫な子!」やら「ああ、なんと高潔な魂を持った姫君なのだろう」やらと勝手に感動しながら救国の姫君として祭り上げていく。連鎖する勘違いが事態の拡大を招き、どんどん主人公が有名人になっていく(その自覚もあまりない)っていうコメディ調のファンタジーです。「勘違い」が無理矢理な部分もあって「このへん苦しいのではないか?」と感じさせるところもあるが、ここまで徹底しているとなれば立派な強みである。アンジャッシュのコントみたく両者の思惑が全然噛み合っていないのにトントン拍子で話が進んでいくあたりに愉快なおかしみと愛嬌があり、「細かいトコには目を瞑ってもいいかな」って思えてしまいます。

 舞台となるのはエルフや竜が存在して「魔力」という概念もあるけど、ビーム兵器じみた派手な魔法の撃ち合いは一切存在しない、やや地味目のファンタジー世界。おっさん時代の記憶を引きずり幼い頃から奇行を繰り返していたせいで母親に疎まれ、屋敷の一室に幽閉されてしまった主人公・セレネ(8歳、中身は+38歳)。前世でもヒキコモリだったことから幽閉生活をあまり気にしない彼女(彼?)だったが、さすがに毎日押し込められていては息が詰まるからと、夜中にこっそり抜け出しては自由行動する穏やかな日々を満喫していた。しかし、ある夜に大国のイケメン王子と遭遇したことからセレネの生活は大きく様変わりすることに……。

 せっかくのヒキコモリライフを堪能していたにも関わらず、「まだ幼い子供をこんなところに幽閉するだなんて!」と至極真っ当に義憤を燃やしたイケメン王子がプリズンをブレイクさせ、主人公は半ば強制的に外の世界へ連れ出されてしまう。一時的にせよ愛する姉とも引き離され、慣れぬ土地での生活を強いられた主人公は「何もかも王子が悪い!」と睨み付けて敵視するものの、周囲はそれを「籠の中から救い出してくれた異国のカッコイイ王子様に熱い視線を送っている」と勘違いして……ってな具合でおっさん姫の空回りと思い違いがドミノ倒ししていくわけです。主人公が一切成長しないまま成り上がっていく反ビルドゥングスロマンっぷりに惚れ惚れとする。ハッタリとか口八丁とかすらなく、ただただ話のすれ違いだけでストーリーを転がしていくのは一見して楽そうに見えるが、ホントに一切成長する要素ナシで立身出世譚を書こうとすると却って難しくなるんだな……と実感しました。むしろ「成長した」とか「逞しくなった」ってことにした方が作者としては楽なんですよね。そういうことにしておけば、主人公の精神はガッチリした土台の上に立つことができる。でも勘違いだけで周囲を感化させていく遣り方は、主人公の精神に何の変容も齎さず、アンバランスでどんどんジェンガ並みに不安定な展開となっていってしまう。ちょっと突いただけで崩れ去ってしまいそうな感じと言いますか。すべて勘違いなのだから、「これまでいろいろなものを積み重ねてきた」ってことにならないんですよね。経験値が溜まらず、レベルも上がらない。RPGで言うところの「縛りプレー」に近い。アンジャッシュ状態だけで物語を組み立てるのは案外至難の技なんだなぁ。どうしても無理矢理な箇所は出てきてしまうが、主人公のキャラでうまく押し切ってくれます。中身が頭の固くなりつつあったおっさんだからか、「異世界の言葉をうまく学習することができなかった」という設定になっており、セレネのセリフはすべてカタコトになっています。チャイカよりはマシかな、という程度。カタコトだから真意がうまく伝わらない、という形でアンジャッシュ状態を補強している点もさることながら、カタコト喋りが「単純に可愛い」のと「おっさんが無理して幼女を演じている感じがしない」のと二重の効果を生み出していて「巧いな」と唸りました。どうしても転生モノだと主人公が「自分のキャラを作っている感じ」になってしまいがちなんですが、この作品に関してはわざとらしさを消去して自然とキャラが立つ仕組みが出来上がっています。この時点で既に「勝ち」だと判定しても差し支えない。

 ストーリー構成は1巻から3巻までが第1部。4巻は番外編で、本編の合間にあった出来事や第1部の後日談がちょこっと盛り込まれている。SAOの2巻みたいな塩梅ですね。第1部だけでも物語は充分まとまっていると申しますか、どうもあとがきを読んだ感じだと書籍化が始まった時点では『夜伽の国の月光姫』って「既に完結済の作品」という扱いだったみたい。「小説家になろう」で第2部がスタートしたのは今年の8月になってからで、書籍版の4巻が発売された後。つまり「書籍版が好評で続編決定した」ってパターンなのかも。来月刊行予定の5巻から書籍版も第2部に入る(というか、5巻が完結編?)みたいで、今から楽しみ。

 結論。「アンジャッシュ状態を基調にしたコメディ系のファンタジーである」ってことを了解したうえで読むなら傑作と呼べるシリーズです。ちょっとだけとはいえ普通に死人が出るので「誰も死なないホンワカほのぼのストーリー」を求める人には不向きですが、そうでなければ1冊くらいは試しに読んでほしいところ。主人公が「いい子」でない方がやっぱりキャラは立つんだなぁ、と感じ入りました。いや、俺はあくまで「いい子」が主人公のファタンジー読みたい! って人には『マッドネス グラート王国戦記』をオススメしておこう。主人公が狂的なまでに「いい子」です。全2冊でサクッと終わるから、物足りない人には『ご主人様は山猫姫(全13巻)』あたりも推しておきます。ずっと食わず嫌いしていたが、いざ読んでみたらすごく面白かった。あとがきで書いていた「50年後を舞台にした続編」ってまだ来ないのかな……。

・拍手レス。

 アメリカでパージ法が制定されれば、真っ先に殺されるのはトランプ本人だと思うんですけどね・・・マスコミの背後にいる連中はトランプが邪魔でしょうがないみたいですから
 押し寄せる刺客にトランプが「ウェルカム・トゥ・ザ・ホワイトハウス!」とメタルウルフで撃って出てレッツパーリィする流れ。


2016-11-14.

・ドナルド・トランプが次期大統領になったと聞いて「パージ法の制定も近いか……」と思った焼津です、こんばんは。

 パージ法というのは映画『パージ』および続編『パージ:アナーキー』に出てくる架空の法律で、一年に一度、12時間だけ「あらゆる犯罪が容認される」というもの。窃盗や傷害はもちろん、殺人ですら処罰を免れる。国民の不満をガス抜きする意味と、自分の身を護ることができない弱者を淘汰して社会保障費を減らす意味があり、これによって作中のアメリカは失業率を大幅に引き下げたという。ツッコミどころ満載で細かい疑問点を挙げればキリがなく、観たときは「ムチャクチャだなぁ」「ありえへんやろこんなの」「あ、銃火器の売上が飛躍的に伸びるところだけはマジでありそう」と笑っていたけど、今再視聴したら真顔になるかも。本国では3作目も既に公開されているらしいが、日本ではいつ観られるんだろうな……あとこの機会に乗じて『メタルウルフカオス』が映画化されて欲しい。

『結城友奈は勇者部所属』劇場アニメ化決定!(電撃G's magazine.com)

 『鈴がうたう日』から17年半、併映(5分か10分くらい?)とはいえ遂に娘太丸作品がアニメ化か……って感慨深そうに書いてみたけど、実はそんなによく知らないんですよね。すずうたの時点では原画家の名前まで覚えてなくて、『PIZZICATO POLKA』に至ってようやく認識した感じ。読みも「こたまる」が正しいのに、ずっと「にゃんたまる」だと思い込んでいた。エロゲーの原画家としてより、SD担当で人気があったという印象です。過去に関わった作品では『プリズム・アーク』がアニメ化してるみたい。『こどもすまいる!』『うさかめコンボ!』ときらら系の4コマ漫画も手掛けているものの、どちらも2冊で完結。絵は賑やかで可愛らしい反面、ネタにあまり特徴がなかったですからね……個人的に好きな作風なので漫画作品は全部買っているけど、コマあたりの情報量が多いため読み慣れない人からすると「画面がゴチャゴチャして見辛い」って感想になるかもしれない。『結城友奈は勇者部所属』は『結城友奈は勇者である』のスピンオフ漫画で、こないだ出た3巻が最終巻らしいけどアニメ化に合わせて続編をやったりするのだろうか? ここのところコミカライズ続きだから、そろそろオリジナル作品も欲しい気分ではある。

【画像】エロゲヒロイン「んッ!うぶっ…く、くさいぃ…!」 浮浪者「そりゃ何年も風呂入ってねえからなぁw」(2次元に捉われない)

 陵辱系のエロゲーやエロ漫画でたまに見かけるシチュだけど、珍しいところでは『瀬里奈』(アトリエかぐや)に「数日間監禁されて汚れが溜まった主人公」のアレをしゃぶる、というシーンがあったな。汚ッサン以外というのはなかなかないパターンなので記憶に残っている。スレの24に出ている画像は『ひめしょ!』ですね。私にとっては名作ですが、一般的な知名度は低い。グリザイアとかでまた名前が徐々に売れてきている藤崎竜太がシナリオを担当したSFコメディ。隕石が降り注いだせいで地球の形が変わってしまった未来の世界を舞台に、女装主人公が女学園に紛れ込んであれやこれや。メインキャラ全員が主人公の女装を知っているので女装ゲーとしてプレーするのはあまりオススメしないけど、「メイド=侍」理論など頭おかしい要素満載で楽しいです。コメントでも指摘されていますが、関西弁でまくしたてている「ポチ」は真ん中のピンク髪ではなく右側の犬耳っぽい髪の子(この画像だとわかりにくいけど)です。公式のキャラ紹介参照のこと。世代によっては「えっ? この人が?」と驚く方が声優をやっています。ちなみに名前が「ポチ」になっているのは人間ではない(遺伝子操作か何かで生み出された亜人というか獣人、人権も与えられていない)からで、正式名称は「朝霞七式」。七式は型番であり、「朝霞基地所属の備品」という501機関の義体みたいな扱いだったはず。センゴクの王族であるナナミが気に入ってメイドとして取り立てた、みたいな経緯でしたね確か。元は「カーシー」と称する特殊K-9(軍用犬)部隊にいましたが、獣人兵は高い身体能力を発揮する代わりオツムが弱く、遺伝子操作の負荷も影響して運用から数年で頭がパーになってしまう。つまり長持ちしない。ポチもポンコツ化して処分される間際だったような気がする。同僚はもうみんな死んでるんだっけ……『ひめしょ!』は基本的に明るい話なんですが、背景設定は結構暗かったり血腥かったりします。あとムエタイ選手が攻撃喰らって笑うのは痛そうな顔すると判定のときに減点されて不利になるから、って夢枕獏が言ってた。

・保利亮太の『ウォルテニア戦記(1〜4)』と井戸正善の『呼び出された殺戮者(1〜5)』読んだ。

 「小説家になろう」連載作品。巻数は似たようなものながら、ウォルテニアの連載開始が2009年、殺戮者の方が2014年からなのでスタート時期は5年くらいの開きがあります。7周年を迎えてもまだ連載が続いるウォルテニア、実は5年くらい前に「フェザー文庫」というレーベルで一度書籍化されたことがある。様々な事情から刊行中止になってしまい、その後縁あってHJの方で刊行し直すことになりました。前々から気になっていた作品ではあったが、この「刊行中止」のせいでどうしてもネガティブなイメージが拭えず、最近になるまで食指が動かなかったんです。「また途中で刊行が止まったりしたら……」という懸念、それが晴れるまで1年近く掛かった。今月に5巻が発売予定ということで、そろそろ打ち切りの心配もなくなっただろうとまとめ買いに至ったわけです。『呼び出された殺戮者』の方はもともと積んであったのをこのタイミングで崩しただけ。どちらも「現代日本の高校生が剣と魔法の異世界に召喚される」部分に関してはごくありふれたファンタジー小説ですが、「もし召喚されたのが勇者ではなくサイコパス気質の人物だったら……?」という点で類似作品と一線を画しています。『ウォルテニア戦記』の主人公「御子柴亮真」は聖マッスルな肉体と老け顔のせいで実年齢よりも若く見られることがないが、なんとまだ16歳。『呼び出された殺戮者』の「遠野一二三」は18歳で、こっちもイラストだと若干老け顔ですね。まだ10代のふたりが殺して殺して殺しまくる。

 『ウォルテニア戦記』と『呼び出された殺戮者』の共通点は「異世界側の都合で勝手に召喚されたことを主人公が激怒する」ってところです。御子柴亮真(以下、御子柴さん)は周囲を取り囲む兵士をブチ殺したうえで逃走する。遠野一二三(以下、一二三さん)は王様の首を刎ね飛ばした上で「殺れるもんなら殺ってみろ」と開き直る。ふたりとも、まるで現代日本じゃなくて大藪春彦の小説から召喚されたような容赦のなさです。殺すだけでなく、必要とあらば拷問までする。こんな連中がもしアニメ化されて地上波で流れたらBPOが憤死しそうだが、オルフェンズの三日月さんが日5で堂々とヤクザ並みの凶行を繰り返している現状を考えれば案外平気だったりする……? 「すげえよ、ミコは」とか「すげえよ、フミは」とか言い合っている世界線をつい想像してしまう。

 さておきこの二作品。違いを言うなら、御子柴さんは「暗いサイコパス」で、一二三さんは「明るいサイコパス」ってところかな。御子柴さんの行動原理はすごく単純で、まず「自分が生き延びること」、これが最優先です。自身の命を守ったうえで「身内」と認めた人間だけを救う。身内以外には徹底して厳しく当たる。これだけなら「サイコパス」というほどでもないのだが、見極めの早さと思い切りの良さが超高校生級で、本能的に「ヤバい」と感じたら迷わず相手をブッ殺してしまう。戦争に対する忌避感も薄く、乱乱乱世な異世界にあっさり適応しちゃいます。アレっぷりの最たるところはひたすら根に持つところというかトコトン恨み抜く性格ですね。御子柴さんは自分を陥れた相手に噴出させる憎しみの念が途轍もなく深く、偏執的なまでの復讐心を滾らせる様子がとても気持ち悪くて素晴らしい。正直、1巻目を読んだ時点では「ハズレを引いてしまった」と思った(文章も「今、彼の前に中世ヨーロッパ風の町並みが広がる」とかですし……)が、御子柴さんが良い意味で気持ち悪くなってくるにつれ、どんどん引き込まれていった。ヒロインが気を許すまでの過程をすっ飛ばしていたり、2巻でいきなり御子柴さんが交渉術の天才という扱いになったり、いろいろと強引な点が多く「異世界ファンタジー戦記」を期待して読むとガッカリな部分もあるが、ファンタジーなんてただの飾り、これはあくまで「御子柴さん傳説」なんだ! と割り切って読めば癖になる面白さが詰まっています。タイトルにもなっている「ウォルテニア」が何なのか分かるのは4巻ラストになってからで、そこまでは長大なプロローグに過ぎなかったと表現しても過言ではないはず。

 『呼び出された殺戮者』はなろうだともう連載が終了していて、現在は『よみがえる殺戮者』という続編をやっているところです。主人公が戦闘訓練を積んでいて人を殺すことに躊躇いがない、ってところは御子柴さんと一緒ですが、単に「降りかかる火の粉は払う」主義を掲げている御子柴さんと違って、一二三さんの方はなんというか「火の粉を降りかからせるためにわざわざ放火しにいく」ようなノリ。日本にいた頃から抑え難い殺人衝動を抱えていて、人権意識の低い異世界に来ることができてラッキー、でも俺を召喚して利用しようとした身勝手な野郎どもは殺す! と終始一貫して自己中心主義を発揮する。殺し合いが好きで好きでしょうがなくて、嬉々として乱世を招こうとします。とにかく一二三さんは好き放題やっていて楽しそうと言いますが、異世界殺伐ライフをエンジョイ&エキサイティングしてるんですよね。手負いの敵を回復させてわざと逃し「よーっしゃ! 久しぶりに走り込みだな!」と追いかけるシーンとか、ブラックジョークが行き過ぎてコワイを通り越しほのぼのとしてしまう。恨みがましさが一切なく溌剌と殺しまくるので、読んでいて爽やかささえ感じます。他の連中が「やべえよ、やべえよ……皆殺しだよ……」となっている中で一二三さんのみウッキウキだったりとか、和むわ〜。いきなり神様が出てくるなど手抜きに見えてしょうがない展開も一部存在するし、最新刊である5巻の展開はかなり強引だと感じたが、吹き荒れる殺戮の嵐でそのへんの「う〜ん」な気分もさっさと帳消しにしてくれる。一二三さんに心酔し過ぎてもはや一二三さんよりも頭がおかしく見えるヒロイン「オリガ」も可愛いです。

 まとめて消化したのはたまたまでしたが「もし御子柴さんと一二三さんが同じ異世界に召喚されたらどうなってしまうんだろうなぁ」と美味しい妄想が膨らむ読み合わせで至極満足しました。でも、買っていたのが1巻だけだったらどっちも2巻には手を伸ばしてなかっただろうな。ウォルテニアは御子柴さんの逃亡生活が本格化するあたりで終わりだし、殺戮者は話の途中でブツッと切れてるし。まとめて読んで正解だった。

・拍手レス。

 バトル・オブ・ザ・ネイションズを偶に見てた人間としてはヘヴィファイトが題材とされるのはちょっと嬉しかったりします
 ヘヴィファイトがジャンルとして定着するくらい盛り上がってほしいですね。


2016-11-07.

・絵柄が好みで注目していた『お嬢様の半分は恋愛で出来ています!』が女装潜入ゲーだったことに驚く焼津です、こんばんは。

 主人公は「巨大な裏組織のエージェント」で、ボスから「お嬢様学園に潜入し、至高の淑女の称号を獲得せよ」と命じられる……って設定が『恋する乙女と守護の楯』、特に2作目の『薔薇の聖母』ともろに被っているが、お嬢様の半分〜の方はあらすじ読んだだけだと「裏組織」が具体的に何を生業にしているところで、どんな思惑があってこんな任務を課したのかがまったくわからないな。全体的にすごくふわっとしている。シナリオに期待したらアカン奴なのか? とりあえず体験版待ちかな。

「少女騎士団×ナイトテイル」単行本1巻でました!(ジンガイマキョウ)

 甲冑を身に纏って激しくバトる騎士道競技「ヘヴィファイト」、迫りくる重圧の向こう側にあるものを掴み取ろうと足掻く少女たちのガチンコな青春を描いた漫画。半年ほど前に連載が始まった、全犬江ファン待望のオリジナル作品です。無論私も即買いました。好きな子はウメちゃんです。源平コンビもいいけどな……とにかく皆様も奮ってご購入せよ。まだ設定面では不明点も多いが篭もった面白さは今更私があーだこーだ書くまでもなく盤石であり、ついさっき知ったばかりという方には「さっさと買って読め」と述べるより他ない。正直、秘めたポテンシャルは「いずれアニメ化されるかも……?」とかいうレベルじゃないですからね。仮にアニメ化が決まったとしても私の感覚からすると「まだそこは通過点だな」ってところです。『ローラーガールズ・ダイアリー』よろしくハリウッド映画化の可能性も見据えている、なんて書くと大袈裟すぎて冗談にしか聞こえないかもしれません。そのへんは話半分に聞いていただいても結構ですから、まずは読んでもらいたい。成年向けで有名になったとはいえ、タッチや嗜好の原点に存在するのは少年漫画、熱い血潮の流れがあります。ただ冒頭で「えっちなおじさん」が出てきて痴漢を働いたりしているので、『ガールズ&パンツァー』とかに比べるとお色気の度合いは高めですね。さすがに『ワルキューレロマンツェ』ほどではないですが……1巻時点では馬上槍試合で言うところの一騎打ち(ジョスト)がメイン(大会も剣道みたいな形式の団体戦らしい)ながら、今後の展開によっては乱戦(メレー)というかサバゲーみたいな大規模戦闘もあるかもしれない。古城の周辺に全世界から数万の騎士が集まって戦旗乱立する『ゲーム・オブ・スローンズ』並みの騎士道大戦勃発! とかやったら面白そうだけど、ライトノベルならともかく漫画やアニメでそれをやったらスタッフから死人が出そう。ちなみに騎士道物語と言えば『ティラン・ロ・ブラン』(全4巻)の文庫化が始まったのでみんなこっちも買おう。他では『アイヴァンホー』もオススメしたいところだけれど如何せん訳が古くて読みづらい……青い鳥文庫の翻訳版が比較的新しいものの、こちらは抄訳だし。求む新完訳版。

【雑誌情報】てぃ〜ぐる新作「隣の少女(仮)」詳細。原画:トモセシュンサク、シナリオ:衣笠彰悟 で2017年発売予定(つでぱふ!)

 リンク先タイトルはママ(正しくは衣笠彰「梧」)。それにしても『隣の家の少女』を彷彿とさせるタイトルでビクッとしてしまう。あらすじからすると『暁の護衛』よりこんぼくに近い路線? 暁以降ずっと衣笠トモセコンビで来ているけど、久々に有葉原画の作品も見たいな。

・鷹山誠一の『魔王殺しの竜騎士(1〜2)』読んだ。

 竜に跨り空を翔ぶドラゴンライダーの活躍を描いた小説。竜騎士モノは海外だと『パーンの竜騎士』が有名だし、『ヒックとドラゴン』『エラゴン』など映像化している作品もありますが、ジャンルとしてはややマイナーか。『百錬の覇王と聖約の戦乙女』の作者が「小説家になろう」で連載していた作品を書籍化したものです。巻数表記は「1・2」となっていますが、完結済なので「上・下」とした方が適切かも。1巻の本編は「強敵現る!」ってところで終わっているし、一冊ずつではなくまとめて一気に読むことをオススメします。

 一言で書けば「いかにもライトノベル的な異世界ファンタジー」だが、いくつか特徴があるので順々に説明していこう。人類軍と魔王軍との戦争が果てしなく続いていて云々という「よくある設定」を背景にしつつ、なんと魔王との戦いはプロローグの数ページだけで終わってしまう。倒しているからソードマスターより、ずっとはやい!! 本書は「魔王との戦いが終わって人の世に平和が訪れた後の時代」が舞台になっており、途中で魔王が復活したりとかはしません。一応、「別の大陸にはまだ魔族勢力が残存している」ということになっていて、関連作によって話を広げていくことも不可能ではないが、少なくともこの作品に限れば魔族との戦いは「過去にあったこと」、つまり歴史の一部であり現在進行形ではないってことです。戦争終結から38年が経過し、「魔王の脅威を知らない世代」が活躍する頃になって、とうに戦死したと思われた「魔王殺し」の勇者が再臨する――そんな「新たな伝説のはじまり」を綴る物語となっている。

 主人公は「ランス・スカイウォーカー」と名乗っていますが、これは偽名であり、本名は「ランスロット・オークニー」。38年前に魔王を討ち取った救世の英雄です。魔王は首を刎ね飛ばされながらも最後の力を振り絞って、どっか異次元みたいな場所へ繋がるワープゲートにランスロットを呑み込ませました。咄嗟に魔剣アロンダイトでワープゲートを切り裂いたランスロットは異次元行きこそ免れたものの、元の時代には戻れず未来世界でプチ浦島状態になってしまう。英雄たる業績を一旦リセットされた彼が「第二の冒険」として繰り出した先、それは「ドラゴンレーシング」という貴族たちの威信と平民たちの射幸心が絡み合う公営ギャンブルだったのです。

 このドラゴンレーシングは競馬の馬を竜に置き換えたようなもので、言えなれば「競竜」です。戦時中は竜に騎乗する兵士として活躍した主人公が、今度は競争の世界で天辺目指そうと無双街道を驀進していきます。『装甲悪鬼村正』をやったことがある人には「第三編 逆襲騎」みたいなノリだ、と言えば分かりやすいかな。戦争中は並ぶ者なき至高の竜騎士とされた主人公も、ただひたすらスピードを競うドラゴンレーシングは勝手の違うフィールドであり、「果たして強敵たちを凌ぐことができるのか?」というスリルが生まれます。基本的なノリはスポーツ小説のそれであり、多少の妨害工作こそあるものの「真性のゲス」とか「吐き気を催す邪悪」とかは出てこず、全体として爽やかな空気が保たれています。なんと言いますかこう、メチャクチャ続きが気になるって話じゃないんですが、心地良く読めるせいでやめ時がなかなか見つからず、つい最後まで読んでしまうってタイプの一品だ。ラブロマンスの面もメインヒロインほぼ一人に絞った構成となっていてダラダラ感がなく、微笑ましい。派手さや奇抜さこそないが「サラッと読めるファンタジー」のお手本と言い切りたくなります。

 長年魔族の奴隷としてその支配に苦しめられてきた人類が、竜を手懐けることによって遂には魔王すら打倒するに至った、という美味しい歴史設定があるだけに「もっと話を膨らませてほしかったな」という気持ちも正直ある。巻末の番外編でほんの少しだけ補完されているが、うーん、やっぱこれだけで終わるのはちょっともったいないよなぁ。なろうの方には同一世界を舞台にした「空に憧れ38年、転生したので竜騎士を志した。」って作品もあるが、ここ10ヶ月くらい更新されていなくて完結するのかどうか怪しい気配……ちなみにこれ、作品世界が一緒どころか「ハッキリ名前は書いてないけど、これって明らかにあの人だよね」というキャラが何人か出てきます。ただタイトルで知れる通り主人公が転生キャラ(「パイロットになりたい」という夢が破れてサラリーマンになるも、38歳で事故死、気づけば異世界の5歳児)になっているので、『魔王殺しの竜騎士』のイメージで読み出すと「何か違う」「コレジャナイ」って表情を強張らせることになるかも。内容も、つまらないと言うほどではないにしろ淡々としすぎで盛り上がりに欠け、一段落ちる出来だ。仮に書籍化するとしても相当手を入れないとアカン奴じゃないかしら。

 結論。多少物足りない部分もあるにせよ、「竜を駆ってレーシング」というロマンのある題材をソフトカバー2冊の分量にキチンと落とし込んでいて好感が持てる作品だった。続編は難しいだろうけど、同一世界の関連作はどんどんやってほしい。「空に憧れ38年、転生したので竜騎士を志した。」は書籍化の際に転生要素を抜いてもいいかも。そうなると今度は別の売りや特徴を付加しないといけなくなるかな? 学園要素と、あとはヒロイン二人の三角関係を強調していけばあるいは……差し当たっては『百錬の覇王と聖約の戦乙女』の方に注力して欲しい、ってのも本音ですけどね。あっちも今かなり面白くなってきているところですから。あと本書でドラゴンライダー物に関心を持った人には『テメレア戦記』という海外ファンタジーもオススメ。「ナポレオン戦争の頃にもし航空戦力として竜が両軍に存在していたら?」というifを描く。ピーター・ジャクソン(『ブレインデッド』『ロード・オブ・ザ・リング』の監督)が映画化するって話もあったけど、今のところ実現しそうな雰囲気はないな……。


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