2010年2月分


・本
 『神と世界と絶望人間 00-02』/至道流星(講談社)
 『ご主人さん&メイドさま』/榎木津無代(アスキー・メディアワークス)
 『末代まで!1』/猫砂一平(角川書店)
 『ラガド 煉獄の教室』/両角長彦(光文社)
 『僕は友達が少ない(1〜2)』/平坂読(MF文庫J)
 『ぷれいぶっ!』/高遠豹介(アスキー・メディアワークス)
 『ゴミ箱から失礼いたします』/岩波零(MF文庫J)
 『機巧少女は傷つかない1』/海冬レイジ(MF文庫J)
 『羽月莉音の帝国』/至道流星(MF文庫J)

・ゲーム
 『素晴らしき日々』体験版(ケロQ)


2010-02-26.

・最近『ココロコネクト ヒトランダム』というライトノベルが気になっているんですが、気になっている割にタイトルがうろ覚えで、「えーと、何だったっけ……確か……『ココロ ランツクネヒト』」と言ってしまう焼津です、こんばんは。既に5回くらい言ったかもしれません。頭の中では「心」「コネクト」「人」「ランダム」と理解しているのに、毎回口をついて出るのは「ランツクネヒト」という体たらく。まさにエレベーターとエスカレーターの「わかってんねんで!」状態です。それにしても、「庵田定夏」という作者名を見るにつけ『ソウル・アンダーテイカー』を思い出して切なくなる。

暁WORKS、『るいは智を呼ぶファンディスク-明日のむこうに視える風-』公式サイト公開

 本編である『るいは智を呼ぶ』のフルボイスverも同時発売するとのこと。フルボイスといってもるい智で声が付いてなかったのは智ちんだけなので、そんなに大きな違いはない。が、ファンにとって智ちんボイスの補完は悲願だったわけで。やれやれ、また買い直さないといけないのか……とため息をつきかけましたが、発売日に公開されるパッチを当てれば旧来の本編もフルボイス化して遊べるとのこと。これは嬉しい。ただ、るい智をインストールしていたHDDは壊れちゃったからまた入れ直さないといけない……押入れの奥に仕舞ったんで取り出すのが少々面倒だ。けど怪奇腹黒貧乳ボク女に声が付くのであれば致し方なし。時間を見つけて捜索するとしよう。あ、書き忘れましたが、智の声優はふーりんこと佐本二厘に決まったようです。うちのサイトに来る人だとDiesの香純、と書けば通じるかな。まだ香純のイメージが強くて公式サイトの「ご挨拶」を聴いても違和感的なものが込み上げてくるのは禁じえないものの演じ分けは充分できており、やってるうちにすぐ慣れそうな気はします。

 FDは後日談というより、アナザールートみたいな内容になる気配。呪いがまだ解けていない時期の「本筋」を軸に都合4つのルートへ分かれるそうな。「他にも前作ヒロイン達はHシーン有ショートストーリーあり」とのことで、オマケ的な派生エンドが用意されているのかもしれない。ルートは央輝、恵、宮和、サイドエピソード。個人的に望むのは、真耶が幸せになれる結末ですね、やはり。境遇から何からひたすら不憫でしたもの。あとはあんまり多くを求めておらなんだです。真耶の扱い以外はだいたい本編の内容で満足しましたので。

light、webラジオ「Happy light Cafe」更新

 今回は待ってましたの正田崇出演回。テンション低い受け答えながらも耳寄り情報満載だ。今回はネタバレ多めなので注意。「サントラ(のボーナストラックのシナリオ)は終わった、ドラマCDの方もほぼ終わり」「1月は久々に実家に帰って遊んだ、去年休みがなかったのは自業自得だから仕方ない」「サントラのボーナストラックのシナリオ、20分くらいの予定だったのが1時間コースに」「テキストが50KBある、モルゲンデンメルング(2枚目のドラマCD)とほぼ同量」「ボーナストラックというより、サントラにドラマCDが丸ごと1個付いてくる感じになってしまった」「書かなきゃいけないキャラが多い、ほぼ全員が出演する」「エレオノーレは俺の嫁」「人気投票は派閥間の貶し合いになるから嫌、上位キャラの支持派が下位キャラの支持派に向かって『ざまぁw』みたいな」「人気投票の代案としてカップリング投票を考えている、1位になった組み合わせはどんな組み合わせだろうと正田がショートストーリーを書く、みたいな」「11年前の出来事を描いたドラマCDではある事情から黒円卓が防御力ゼロ状態になり、神父が物の役にも立たない男と化す」「双頭鷲(ドッペルアドラー)の目的は神父討伐」「新キャラ5人はひとりひとりが旧キャラと対応している、ベアトリスの幼馴染みとか、年取ってるから爺さんだけど」「パラロスからやってる人は気付いていると思うが、正田のシナリオは『神様の交代劇』であり、全部繋がっている」「パラロスのサタナイルが神を斃して、そのサタナイルをメルクリウスが斃して、メルクリウスが退いてマリィに移って、更にその次が新作の世界」「雰囲気はガラッと変わるが、根幹は共通している」

 Dies版「フラグの折れたエンジェル」Navel『俺たちに翼はない』の人気投票記念SSとして公開したショートストーリー、男性部門と女性部門それぞれで1位を取ったキャラクターふたりの掛け合いを眼目とする番外編)来そうな雰囲気。個人的に見たいのはシュピーネと綾瀬博士かな。綾瀬博士、ファーブラじゃ存在自体が半ば抹消されてるんでアレですけれど、シュピーネとの接触があってもおかしくなさそうなキャラではありました。もう少し望みがありそうな組み合わせではシュピーネとラインハルト、死天使気取りで思い上がっていたシュピーネさんが獣殿と出会っておしっこチビりそうな勢いでビビるところが見たい。パラロスとDiesの世界が繋がっているのは、両方とも「神に挑む」というテーマがある(あとツォアルと玲愛ルートのエンディングが相似している)時点で薄々感じていたことだけど、明言されると驚いてしまうな。可能性としては「サタナイルが神に挑んで敗北、その後にメルクリウスが挑んで勝利」みたいなケースも想定していました。パラロスではチート級の強さを誇っていたサタナイルも、メルの○○○○○には勝てなかったのか……なんか狂気太郎の「地獄王」を思い出すな、この無常観。

・更新ペースを落としたおかげで積読の消化が随分と捗るようになりました。崩し終えたライトノベルの中から5つほど選んで短めの感想を書いてみます。

 平坂読の『僕は友達が少ない(1〜2)』。素っ気なくも非常にストレートなタイトルが印象強い。友達の少ない連中が寄り集まって「隣人部」なる部活動をはじめ、「友達をつくるにはどうすればいいのか?」と議論を重ねて右往左往し空回りする青春を描いた日常コメディです。同作者の『ラノベ部』とほぼ一緒のノリでこれといったストーリーはなく、ショートコントのような遣り取りが最後まで続く。途轍もなく緩いくせして作者の趣味が出まくっており、「ああ楽しんで書いているなぁ」というのが伝わってきます。いきなりヒロインふたりがゲロ吐くシーンから開始するのはアグレッシブすぎるっつーか、甘酸っぱいを通り越して単に酸っぱいが、なんとなく最後まで飽きさせない微妙な面白さが詰まっています。ヒロインたちの魅力を厭味ナシに引き出せているあたり、作者の進歩が窺える。来月に出る3巻も期待しています。

 高遠豹介の『ぷれいぶっ!』。最近名前見ないな、と思った矢先に発見した新シリーズ。主人公は現代日本の高校生で、異世界に召喚されて魔王を斃し世界を救った勇者なんですが、ぶっちゃけ斃した魔王がかなり貧弱な部類だったらしく、多数存在する勇者の中でも「下から数えた方が早いレベル」でしかなかったと判明する衝撃の学園ファンタジーです。「主人公がガチで最弱」という設定のライトノベルは珍しい。大抵はなんだかんだで秘められたパワーとかが炸裂しますからね。弱いくせに見栄っ張りで、なかなか現実を認めようとしない主人公にはじめのうちは苛立つものの、「本当に強い勇者なんだ」と信じてくれる天然気味なヒロインのために意地でも見栄を張り続けようとする姿がキチンと「男の子」していて最終的には好感を持ちました。信念と呼べるほどでないにしても、何かしら貫けるものがある少年は見ていて快い。多少のバトル展開は用意されているにせよ、基本は緩めのコメディゆえダラダラした掛け合いをのんびり楽しむが吉。劇的に面白い、というタイプじゃないけれど、読んでいるうちにだんだん気に入ってくる地味な滋味を有した一冊です。しかしこれ、ヒットしたら確実にタイトルをアナグラムしたエロ同人誌が出るだろうな……。

 岩波零の『ゴミ箱から失礼いたします』。タイトルからつい「オナニーのしすぎで孕ませたゴミ箱から愛娘が爆誕」みたいなストーリーを妄想してしまいましたが、別にそんなことはなかったぜ。なんとなくゴミ箱に入りたくなった主人公が実際に入ってみたら抜け出せなくなり「妖怪ゴミ箱男」と化してしまう腰砕け青春コメディです。サドいヒロインと終始ゴミ箱に入っている主人公との掛け合いが眼目であり、やや『化物語』を彷彿とさせるが、設定の残念さで言えば明らかにこちらが上だ。物言わぬゴミ箱と心を通わせるシーンが無駄に感動的で困る。一応「ゴミ箱から抜け出す」という目的があるので定型通り起承転結を踏まえたストーリーになっていますが、大部分はダラダラしてあまり本筋と関係ない遣り取りで埋められていて、読み口はちょっと『僕は友達が少ない』に似ています。ヒロインの毒舌漫才がちとワンパターンでだんだんマンネリ気味になるし、主人公のクラスメートや本音をノータイムで喋ってしまう男といったサブキャラの絡みが中途半端で消化不良の感があるけれど、それなりに楽しめたことは確かだから2巻も読んでみたい。もう発売しているらしいし、見かけたら買っておこう。ちなみに、一番の難点はうっかりするとゴミ箱の匂いが鼻に甦ってきてしまうことですな。

 海冬レイジの『機巧少女は傷つかない1』。ヒロインの名前は夜々(やや)であり、『Clover Point』の小鳥遊夜々を思い出して「夜々かわいいよ夜々」と呟きながらページをめくったら、書き出しがまさしく「夜々かわいいよ夜々」で噴いた。精巧なアンドロイドのヒロインが人間型だったり竜型だったりするロボットを相手に壮絶なバトルを繰り広げるパラレル英国ファンタジーです。前世紀のイギリスが舞台とはいえ大半のストーリーが学園内で進行するため、それっぽいムードはほとんどない。単なる異世界ファンタジーと思っていても特に支障はないです。まだ開幕編なので話が本格的に盛り上がるのはまだまだ先でしょうが、主への愛が始終暴走しまくっている夜々の魅力はとにかく至高。「たとえ火の中、お布団の中」を有言実行して自動同衾するくらいは序の口、常に淫らな言動を絶やさないセクハラロイドぶりに全当方が震撼しました。他の女とふたりっきりで過ごしてから寮に帰ると物凄い勢いで腰にしがみついてきてズボンのファスナーを下ろそうとし、「あの女狐がふざけたことをしてないか、ニオイで確かめるんです!」と息巻くキモ可愛さに溜息が出た。なんという粘着嫉妬人形。この作品、あからさまに特定嗜好持ちの読者を狙い撃ちにしています。これが『バクト!』で散々叩かれた海冬レイジなのかと目を疑う美味しさでした。来月の2巻も楽しみながら、もう一個のシリーズ『グリモアリス』も気になってきました。グリモアリスはミステリー文庫時代の「夜想譚」(全3冊)とファンタジア移行後の「幻想譚」(既刊5冊)2種類ありますが、去年「夜想譚」も無事復刊されましたので現在は8冊すべてがファンタジア文庫で入手可能につき、いずれまとめて購入するとしよう。

 至道流星の『羽月莉音の帝国』。「革命部」を立ち上げ、株式公開を当面の目標とし、ゆくゆくは国として独立することを目指す――世にも稀な「建国」テーマの経済ライトノベルです。絶世の美少女であるヒロインをモデルにした写真集がブレイクしていきなり6000万円ゲットとか、恐ろしいほどのトントン拍子で進むため、リアリティ重視の人は付いていけないかもしれません。個々の造型自体は割と手堅いものの、これといって特別な才能を持たないくせしてことあるごとにビッグマウスを叩く少年やら、自分の体型を気にしていて「貧乳」と言われるたびに激怒して殴りかかる少女やら、テンプレート的な行動を何度も飽かずに繰り返すキャラクターがいてゲンナリしてくる……という面もあります。特に主人公の鈍感ぶりは底なしで、幼馴染みの少女・沙織が勇気を振り絞って「巳継は私のこと……どう思ってる?」「お、女の子としてどうなんだろうなって」と訊ねているのに、自分の気持ちを交えず客観的な評価だけ並べ立てる始末。鈍感主人公はライトノベルのお約束っちゃお約束ですけれど、これは数ある中でも極めてヒドい部類に属します。従姉の莉音は異性と認識してドキドキするのに、沙織はまったく意識せず告白に近いセリフをいちいち聞き流すという不自然なまでのダブスタっぷりに沙織派である当方の怒りが有頂天。発売前に「この作者の本を読むなら『羽月莉音の帝国』から入るのが手軽かも」というようなことを書きましたけど、いざ読み終わってみれば『雷撃☆SSガール』の方がオススメしやすかった。「ライトノベルの王道」を意識しすぎて却って滑っている気がしないでもありません。そのせいもあってか前半が少しタルい。とはいえ、誇大妄想にも等しいテーマに対して熱心に取り組んでいる点で他と一線を画していますし、「株式公開」を巡るクライマックスは程好い長さにまとまって前半のタルさも見事に解消されていきますから、結果トントン。良いところと悪いところ、それぞれが等分にハッキリと出ている作品なので、受け手の好悪も激しく分かれることでしょう。なんだかんだで個人的には気に入りました。4月に出る2巻も読まなくっちゃって思います。

・拍手レス。

 『めぞん至高天』……そういう妄想はしちゃいますよねぇ。自分も学園日記村正、とか考えました。湊斗さんは変哲のない学生で、幼馴染の村正、ヤンデレ気味な妹の光がいて。家の近所には雄飛と小夏やふき、ふな姉妹が住んでいて。学校にいけば一条さんと正宗の正義の暴走風紀委員が見回りをしていて、香奈枝さんや獅子吼はリムジンで登校して、生徒会長茶々丸陛下はニヤニヤ笑いながら何か企んでいて、雪車町は校舎裏でヤニをふかし、華麗なる雷鳥先生が華麗なる授業を行う、という。……本編がアレだっただけに、この手の妄想は止まらんなぁ。
 村正の場合は『装甲平家物語』とか『フルメタル・フランス革命』とか、あの世界における歴史を妄想せずにはいられない。劔冑を纏った悪魔公ヴラド3世が装甲スルタン・メフメト2世の野営地に夜襲をかけるシーンなど、想像しただけで脳が蕩ける。当然ヴラドの武装はパイルバンカーな。


2010-02-22.

・「もし『Dies irae』が『グラズヘイム荘』というアパートに住む黒円卓の織り成す日常ストーリーだったら……」という妄想が何の脈絡もなくふと湧き上がった焼津です、こんばんは。

 屋根の上にはグリンカムビを象った風見鶏。オーナーはラインハルト、管理人はイザーク、でもゴミの分別にうるさいのはシュピーネ。生活の時間帯が異なるせいで他の住人たちとほとんど顔を合わせることがないヴィルヘルム。同室のベアトリスを気遣ってベランダで煙草を吸うエレオノーレ。時間にルーズだったり寝起きがしゃっきりしなかったりで割とだらしない妹の面倒を甲斐甲斐しく看る戒。連れ立って銭湯に行く玲愛、神父、リザ。「リングヴィ・ヴァナルガンド」と名づけた原付で珍走するシュライバー。「60年前とは違う、今の私なら負けないわ」と息巻いて訪問してきたルサルカ婆さんと対局するため黙々と碁盤を出してくるマキナ爺さん。当然の如く引き篭もっているメルクリウス。しかしある日、メルの息子と名乗る少年・藤井蓮がグラズヘイム荘にやってきて、物語は大きく動き出す――そんな『めぞん至高天』。

 ロンギヌスの箒を掲げたラインハルトが「清掃十三自治会」を率いて草刈り、溝掃除、ゴミ拾いを一斉に行う「混沌より溢れよ汚れの日」だとか、早朝に起きられないから深夜こっそりゴミ捨てするヴィルヘルムを見て「この男は駄目だ――」と冷笑しゴミ袋をそっと部屋の前に戻しておくシュピーネとか、分別が面倒で違う曜日に不燃物を出しに来た螢(燃やせるゴミの日だけは誓いを立てているので忘れない)へ満面の笑顔で「そぉら!」とカラス除けのゴミネットを投げつけるシュピーネとか、ルームメイトの恋人の妹という迂遠な関係である螢にどう接したものか態度を決めかねるエレオノーレとか、ニコニコ笑って蓮に飴をあげるルサルカ婆さんとか、弟を溺愛してやまないロリ姉ヘルガ(ときどき鬼女)の裸エプロンとか、いくらでも暮らしの光景が目に浮かびますね。しかし、香純や司狼やエリーは蓮の同級生として絡ませることができるけれど、マリィはどうしたものか……十数年前に公園あたりで一目惚れしたメルクリウスがベビーカーから攫って育てた赤ん坊とか……それはさすがにヒドすぎるか。博物館のギロチンの下に捨てられていたマリィを拾って育てたことにしておこう。

発売中止になった唐辺葉介の『暗い部屋』が再始動していた?

 サイトができただけで、まだ具体的な情報は出ていない模様。なんとも不安を誘うイラストだ。紙媒体で売られるのかどうかさえ判然としないが、とりあえず注目していきたい。

・両角長彦の『ラガド 煉獄の教室』読了。

「真相は誰にもわからない。なぜなら、誰もわかりたいとは思わない種類の真相だからだ」

 第13回日本ミステリー文学大賞「新人賞」受賞作。作者名は「モロズミ・タケヒコ」と読みます。積読の山の頂点へ安置する前に冒頭10ページ程度だけチョロっと読んでおこうかな、と至って軽い気持ちで本を開き、そのまま300ページ以上の分量を一切中断することなく読み切ってしまった。少なくとも、サスペンス要素に関してはかなり上質なものを有している作品であります。中学校に刃物を持った男が侵入し、衆人環視の教室内で生徒を滅多刺しにした――という「事件」の状況を再現してシミュレートする「実験」が物語の要となってくる。犯人は既に捕まっており、「事件」そのものは終結しているのですが、泥酔して興奮状態にあった犯人の記憶は曖昧極まりないので、「実験」を通して詳細を明らかにすることがストーリーの目的なんです。様々な検証を行いつつ、新たな証言が出るたびに修正を加えていき、少しずつ核心が露わになってくる。そして単純な無差別殺傷ケースに見えた「事件」は、徐々に異なる様相を晒し始めます。タイトルの「ラガド」はスウィフトの『ガリヴァー旅行記』に綴られた都市の名前で、そこの大学では多くの研究者が「具体的な成果はなにひとつあがらない」空理空論の研究に従事しているらしい。ちなみにラガドは空中に浮かぶ島、ラピュタによって支配されているそうです。

 細かい経緯を端折った「結果」がまず提示されて、後から肉付けする形で情報の開示が進む。最近の作品で挙げれば『毒殺魔の教室』を彷彿とさせるスタイルが採用されている本書、特徴は何と言っても随時表示される「教室図」でしょう。全ページの下部1/4くらいが常に空きスペースとなっており、本文で「事件」の状況に触れられるごとに大まかな図――教壇、窓、生徒たちの席、廊下に繋がる戸――を出して「○番の生徒はここにいて、犯人はここから向こうに移動していた」という具合に分かりやすく視覚化してくれるのです。慣れないうちはちょっとウザったいし、あまり意味がないように思えるのですが、話がややこしくなってくるにつれてありがたみが理解できる寸法となっている。読者を混乱させない、テンポ良く進行させる、この二点にひたすら心を砕いたストーリーテリングであり、なればこそ当方の一気読みも易々と可能になりました。40人いる生徒の全員(死亡した被害者を除く)が一斉に事件当時の出来事を回想し、乱舞する教室図とともに「真相」を組み上げていくクライマックスは圧巻の一言に尽きます。帯に踊る「こんな設定のミステリーを読んだことがない」(石田衣良)や「終盤の、異様なまでの迫力に興奮」(綾辻行人)といった言葉も決して大仰な宣伝文句ではありません。ただ、「真相」を切り出す手法が斬新かつスリリングなのであって、肝心の「真相」自体は割と賛否両論あるんじゃないかな。平凡とか陳腐とかではなく、また逆に超展開とかでもなく、あっちこっちで露骨に伏線を覗かせておいて「ひょっとして……いや、そんなわけは……でも……」と読者に薄々感づかせる仕組みとなっており、畳み方としては結構丁寧なのですが、受け容れられるかどうかで意見が分かれるものと予測されます。

 平易な文章と弛みのない構成で紡がれた、「雰囲気が厭らしいんだけど先が気になって読むのを止められない」タイプのハイスピード・サスペンスミステリ。間違っても爽やかな気分にはなりませんから、「救いのない事件に隠された救いのない真相」を知りたくない方は避けるが吉です。「救いなどいらぬ」と豪語するあなたは、試してみる価値あり――かもしれない。うーん、個人的にはすごく楽しめたし、ありかなしかで申せば「ギリギリあり」な結末であるものの、判定の難しさゆえ他人にオススメするのは若干躊躇われる一冊であります。

・拍手レス。

 Leaf作品の延期、シャフトのアニメの未完成はよくあることとして慣れてしまいましたw 最終的に完成すればいいかなーと
 Leaf作品に注目するのは久しぶりだったのでうっかり忘れており申した。油断大敵。

 今更おれつばコンプ・・・・・・遅筆で面白いライターって、ファンにすげえ葛藤を与えるんだなあ
 やっぱり量と質、両方を兼ね揃えるのは難しいですね。中には「気分が乗れば速筆、乗らなければとことん遅筆」というタイプもいて厄介だ。

 先日ニュースで子供の精神病特集をやってたんですが、親に虐待された子供が血を全部抜いて入れ替えたいと言ってるのを見てどこの吸血鬼だよと思いましたよ・・・コンプレックスを抱える人間の考えることは似通ってくるもんなんですかね・・・
 ある種の「瀉血」に近い発想なのかも。


2010-02-19.

light、「Happy light cafeバレンタイン公開録音スペシャル」を配信

 「(事前登録キャンペーンのファンブックは)何故かシュピーネ率が高い?」……胸が熱くなると申しますか、「寒うない」寒い筈がない。焼津の胸の内に、紅蜘蛛が燃えていた――という気分です。共通ルートで必ず退場する永劫回帰団員として有名な彼にも報われる刻が近づいてきた模様。風……なんだろう吹いてきてる確実に、着実に、シュピーネさんのほうに。それはともかく、次回作に関してもチラッと触れられるみたいでとてもワクワクします。ええい発送はまだか!

吉村夜の新刊『アスカ ―麻雀餓狼伝―』、今月25日発売

 麻雀ライトノベルといえば「この表紙は詐欺です」のキャッチコピーでほんのり話題を呼んだ『ナナヲ・チートイツ』がありますけれど、まさかあれに続く作品が世に出ようとは……麻雀モノはルールが分からなくても解説と雰囲気だけでだいたいなんとなく楽しめるから結構好きです。『病葉流れて』も「相変わらず麻雀のルールは覚えられないが面白ぇ」と呻いた次第。同じように将棋もルールを覚えられない。チェスは辛うじて覚えることができましたが、十数回やって一回しか勝てなかったヘボっぷり。恐ろしく勝負事に弱いので、麻雀を覚えなかったのはむしろ正解だった気がする。ともあれ、吉村夜の本はもう6年くらい読んでいませんので、久々に買ってみんとす。

Leafの新作『WHITE ALBUM2 -introduction chapter-』、発売延期(2月26日→3月26日)

 発売日延期のお知らせとお詫びに事情が書かれていますが、「ふざけている」としか言いようがありません。分割したんだから後編はともかく前編の発売日くらい守れるだろう――と軽率に信じて予約を入れた当方が浅はかでした。3月26日は『世界でいちばんNGな恋』廉価版もあるわけで、「うーん……WA2とNG恋で丸戸史明がダブってしまった」になりそう。

・猫砂一平の『末代まで!1』読んだー。

 第12回学園小説大賞「大賞」受賞作。6年ぶりに出た大賞作品だそうです。ちなみに前回の大賞は『バイトでウィザード』です、と書いたら購入意欲がちょっぴり減退する人は同志。忘れもしない6年前、 原田たけひとのイラストに釣られたんじゃよ……ともあれ、学園小説大賞は「角川学園小説大賞」を改めたもので、スニーカー大賞とは別枠でかれこれ13年に渡ってひっそりと続けられてきたライトノベル系新人賞です。13年もやってるんだから当然相当な数の新人を輩出した(ザッと数えて20人以上)わけですけれど、現在活動している作家は10人に満たない。高殿円、野島けんじ、林トモアキ、岩井恭平、十文字青あたり。日日日もこの賞を取ってますし、「現在活動している」とは言いがたいが、滝本竜彦も一応この賞を取ってデビューしました。なのでラノベ好きからの注目度を率直に申しますと、「びみょー」の一言に尽きます。

 主人公は霊感体質で、一般人には見ることのできない幽霊を視ることができる。それゆえ「心霊研」に所属する幽霊「お岩さん」と「花子さん」をうっかり視てしまい、結果として末代まで祟られることになって……と、導入自体は至ってごくフツー。タイトルに若干のインパクトがあるものの、出だしは弱いと言わざるをえません。「ああ、なし崩しで心霊研に入部した主人公が幽霊のヒロインたちとドタバタラブコメを繰り広げるんだろうな」と先の展開が分かりきっている既視感に苛まれますが、入部してから一気に話が動き出します。心霊研とは、部室代わりの保健室にたむろして幽霊たちとくっちゃべって過ごす部活――ではない。なんと、「100キロババア」(マッハババアなど異称多数)に乗って優劣を競う「老婆走」で優勝することを目的とした一種のレース部であったのだ。かくして主人公はややスポコンめいた青春を送ることになります。100キロババアで青春ストーリーってなんだよ、『100KBを追いかけろ』に対抗心を燃やしているのかよ。とツッコミを入れたくなる設定ながら、いざババアに乗って走り出せば気分は爽快、スピード感に魅せられた主人公はあっさり老婆走の虜になって前向きに努力し始める。設定はアレでも、ちゃんと書けばワクワクするもんですね。「お岩さん」や「花子さん」など、「さん」が付く系統の幽霊(エンジン)はレアで速い、とか細かいネタを積み重ねてそれなりの土台を築く丁寧な仕事ぶりにも好感が持てた。

 ヒロインたちはあまり特徴がないし、ハイテンションな掛け合いが多くて辟易するため「激しく萌える」とかそういうことはないものの、主人公がなんだかんだで自分の意志を発揮して頑張るあたりなど、学園モノでありがちな無気力男子に陥っていないところが良かった。挿絵のイラストも作者本人が描いているおかげで齟齬なく楽しめる。1巻目ということもあってか充分に盛り上がる前に終わってしまいやや燃焼不足な印象が漂う反面、続きもしばらく追ってみようと思えるだけの面白さはあった。「説明がくどい」とマイナス評価を受けている部分もありますが、ダラダラのんびりと読み進めたせいもあってか個人的にはさほど気にならなかったです。正直、もっとダメな作品ではないのか……と危惧していましたから、予想以上にイケる味わいでホッとした経緯。4月に2巻が出るそうなので、期待しております。

・あとガガガ文庫の『やむなく覚醒!!邪神大沼』が予想を凌駕する勢いでツボに入り、咽ぶほど笑い転げた。それまで平凡な少年だったのに、突然「全邪協」なるところから邪神マニュアルとスターターキットを送り付けられ、渋々邪神として覚醒していく主人公の日々をきれぎれに綴った不条理ナンセンスギャグコメディです。1話1話が短くキリ良くまとまっており、絶妙なテンポで読める。「・魔法陣を覗き込まない。/ なかなか妖魔が現れないことがありますが、身を乗り出して魔法陣を覗き込まないでください。急に尖った妖魔が召喚されると顔に刺さります。」等、こまごまとした注意書きがいちいち横隔膜にキます。徹頭徹尾ひたすら非常にくだらないストーリーであり、シリアス要素など皆無。ゆえに最後まで心置きなく呵々と愉快に過ごせました。これは是非とも続編をチェックせねば。

・拍手レス。

 夢枕の獏さんは、大分前から「作品の完結が先か、人生の完結が先か」なんて言われてるのに、一向に話を畳みに行かず、むしろどんどん広げようとしてるから凄いよなぁ。いや、プロとしてはどうなんだろう、と思わないでもないけど。餓狼伝とか、最初の方を読み直すと、後書きで頻繁に「あと3巻位で終わる」「次の次くらいにはラストになる」とか言ってるんですよね。書きながら書きたいことが増えていってるのかな。
 『獅子の門』はやっと来月に新刊が来るみたいです。紹介文が「さらに拡がりを見せる、総合格闘技大河浪漫」なあたり、やっぱり畳む気はなさそうだ。

 ムダツモなき改革、本気でアニメ作ってたんだなぁ。スタッフ全員の正気度判定が狂っていたとしか思えん。というか、時勢的に不謹慎な感じもするのだが……
 麻雀とかギャグとかでボカせる域を超越してますからね。どうなるものやら。


2010-02-15.

“競馬”シリーズで有名なディック・フランシスが死去したというニュースを見て呆然とした焼津です、こんばんは。日本ではつい先日に新刊が出たばかりだというのに……今年は作家の訃報が多くて凹みます。

ラノベしか読んだことない俺にオススメのミステリ小説を教えてくれ!(VIPPERな俺)

 自分が初心者だったときに読んで感銘を受けたミステリ、比較的入手が容易な奴を5作ほど選んでみた。

 『斜め屋敷の犯罪』(島田荘司)
 『平家伝説殺人事件』(内田康夫)
 『消えたタンカー』(西村京太郎)
 『消失!』(中西智明)
 『毒入りチョコレート事件』(アントニイ・バークリー)

 『斜め屋敷の犯罪』は御手洗潔シリーズの第2弾。本来なら第1弾の『占星術殺人事件』を薦めるべきであろうが、あちらのトリックは金田一少年のアレに借用されたことで有名だからオミットした。北海道に建つ「斜めに傾いた屋敷」流氷館で起こる密室殺人の謎を追う長編です。この作品はとにかくインパクト重視、解決編に唖然とすること確実であり、当方が新本格と呼ばれるジャンルにハマったきっかけの一つでもあります。島荘こと島田荘司は年々作品の説教臭さが強くなっていくことで辟易する読者も少なくないのですけれど、文章の読みやすさと話の分かりやすさは新本格界隈でも群を抜いている。初期作では『北の夕鶴2/3の殺人』『火刑都市』『漱石と倫敦ミイラ殺人事件』も出色。『平家伝説殺人事件』はテレビドラマでお馴染み、浅田光彦シリーズの1冊。初期も初期、確か2冊目あたりだったと思います。今でこそ赤川次郎、西村京太郎と並んで量産作家のイメージが強い内田康夫ですが、初期は「新しい時代を切り拓こう」というチャレンジ精神に横溢していて読み応えのある作品がチラホラ点在しています。3、40冊ほど読んだところで飽きて、以降はまったく手をつけなくなりましたが、『平家伝説殺人事件』はまた読み返してもいいかな、と考えるくらい面白かった記憶がある。幸いなことに細かい筋立てはうろ覚えになってきたから、虚心で楽しめそうだ。初期の内田作品は『王将たちの謝肉祭』『「萩原朔太郎」の亡霊』も良い。『消えたタンカー』は十津川警部シリーズのこれまた初期作。タイトルの割にタンカーがあまり関係ないけれど、壮大なスケールで展開するストーリーが単純明快に面白い。初期西村といえばスパイ小説『D機関情報』も傑作。

 『消失!』は長らく「幻の怪作」と呼ばれていた作品で、2年半前にようやく復刊されました。作者はこれ1冊こっきりで文字通り「消失」しましたが、それでもなお語り継がれるだけのことはあってインパクト絶大。ここまで開いた口が塞がらなくなったミステリは他だとジョエル・タウンズリー・ロジャーズの『赤い右手』ぐらいだ。『毒入りチョコレート事件』は去年新版が出たことだし、ついでの海外枠としてご紹介。俗に「古典」と言われる20世紀前半の名作ミステリ群は翻訳の古さも相俟って読みにくいものが多く、中高生時代の当方は周りから執拗に「古典読め」とせっつかれてそうした作品に手を伸ばしたものの、ほとんど心躍らない代物ばかりで大いなる苦痛を立て続けに味わったものでした。『黄色い部屋の謎』は全然余裕だったけど、続編『黒衣婦人の香り』はあまりにも楽しくなさすぎて泣きたくなった。そんな中でまったく苦痛を感じずに読み終えた稀有な一冊、それが『毒入りチョコレート事件』だったわけです。タイトル通り、毒入りのチョコレートを巡る事件が主題なわけですけれど、ただ普通に推理を重ねるのではなく、登場人物ひとりひとりがそれなりの妥当性を有した「仮説」を披露し合って推理合戦に興じる擬似連作ミステリになっています。短くテンポ良く進行するため、「古典」とは到底思えないほどのリーダビリティを発揮し、最後までスルスルと目を通せる。この多重解決スタイルは後世のミステリにおいてもちょくちょく取り入れられており、たとえば我孫子武丸の『探偵映画』や米澤穂信の『愚者のエンドロール』なんかが毒チョコへのオマージュとして有名です。

ケロQ新作『素晴らしき日々 〜不連続存在〜』、各章のタイトルとあらすじ公開

 『素晴らしき日々』は6つのエピソードから成る。しかし体験版では“Down the Rabbit-Hole”だけプレー可能で、残り5つについては触れられず終いだったため、「他はどんなのだろうか」とずっと気になっていました。なのでこの情報は渡りに舟です。“Jabberwocky”が前後編に分かれていることもあり、視点人物は水上由岐、間宮卓司、高島ざくろ、悠木皆守、間宮羽咲の5人のみ。タイトルはどれもアリス関連で、“Down the Rabbit-Hole”は不思議の国〜の第1章、“It's my own Invention”は鏡の国〜の第8章、“Looking-glass Insects”は同じく鏡の国〜の第3章、“Jabberwocky”は鏡の国〜に出てくる作中詩で、“Which Dreamed It”は鏡の国〜の最終章。つまり、鏡の国寄りですね。ヒロインの名前が「鏡」というのも単なるらきすたパロではなかったようだ。

 “Down the Rabbit-Hole”は女の子同士がイチャイチャする、いわゆる「百合」に終始する内容だったが、他は格闘あり電波ありですかじ節が唸る模様。「二人の少女が、文学と化学を武器に現実へ戦いを挑む」という“Looking-glass Insects”に興味を惹かれる。うーむ、様子見したい気持ちと攻め込みたい気持ちが半々で、迷うなぁ。『陰と影』へ辿り着く日がいつか訪れるだろう、と信じるためにもやっぱり手を伸ばしてみるか……。

・榎木津無代の『ご主人さん&メイドさま』読んだー。

「――だから俺はあいつを連れて帰る。迷いはない。命を賭ける。おっぱい揉みたい」
「で、でも、そんな身体で、そんな身体で行ったら……おにいちゃん死んじゃうよっ!!」

 第16回電撃小説大賞「銀賞」受賞作。副題は「父さん母さん、ウチのメイドは頭が高いと怒ります」。タイトルは「ごしゅじんさん あんど めいどさま」ではなく、「ごしゅじんさん と めいどさま」と読む。自らを「メイドさまである!」と広言して憚らず、「主人公<UMAI棒」という価値基準から決して主人公を様付けしようとせず、「ご主人」と呼び捨てる――そんな傲岸不遜金髪巨乳メイドをヒロインに据えて繰り広げられるドタバタハイテンションギャグコメディ。後半は熱血スーパーバトル展開に入るが、パンツ一丁で戦ったりするんで、正直シリアスとは言いがたい。ハッキリ申せば、タイトルとあらすじだけを判断材料にしていたらまず購入していなかったであろう一冊。電撃小説大賞の受賞作だから、とりあえず読んでおこうか……という感じで手にしました。結論から述べますと、予想を裏切る傑作でした。バカバカしい、途轍もなくバカバカしいが、勢いとセンスが備わっていて面白い。「バカバカしい」と「つまらない」は紙一重ですが、この作者は一髪千鈞を引く集中力で見事紙一重の勝負を凌ぎ切りました。

 主人公の名前が「五秋陣(ごしゅう・じん)」で、幼馴染が「桜条沙天(おじょう・さあま)」、メイドさまが操る超パワーは「命努力(めいどりょく)」で、愛刀の銘は「豪崩死(ごほうし)」。作中に出てくる架空のアニメは「食玩のシャケ」。そもそも舞台となる「日本」の正式名称が「大日本ポン帝国」で、なぜか首都が秋葉原。かくの如くやたら気の抜けるダジャレとパロネタが大量投入されており、またちょこちょことネットスラングの類が仕込まれていますので、嫌いな人は冒頭数ページで投げ出すこと請け合いなノリです。ぶっちゃけ、合わなかったら早めに投げ出した方が吉。前半でダメなら、後半は確実に付いていけなくなります。『仮面のメイドガイ』に匹敵するか、あるいはあれすらも上回る無茶苦茶さ(ヒヒイロカネミスリルカーボンナノチューブ繊維製って何だよ、混ぜすぎだろ)で終始読者を圧倒する。文章自体はとても丁寧で、内容の割に驚くほど密度が高いものの、少し気負いすぎな印象があり。楽しいんだけど、結構疲れる。一気に読めるかと思いましたが、実際は三回ぐらいに分けて読み通しました。

 大まかな筋立てはベタベタというかテンプレ(ある日家に見知らぬメイドがカムイン→ラッキースケベとか周りのやっかみとか、ラブコメチックにひと通りドタバタする→しかしメイドを連れ戻そうとする連中が現れ、いきなり超常バトルに→順調に刺客を撃退するメイドだったが、やがて強敵との戦いに敗北→「彼女は僕の許婚だ、返してもらうよ」と掻っ攫っていくイケメン→満身創痍で立ち上がり、「メイドを取り戻す!」と熱く決意する主人公→そしてラストバトルへ……)で、特筆するようなこともない。見所はあくまでハイテンションギャグと、ストレートなお色気描写でしょう。態度が尊大で、ことあるごとに「頭が高い!」と相手を蹴り飛ばすヒロイン「メイドさま」は一見ツンデレのように誤解されるかもしれませんが、実際は主人公に一途であり、開始時点で既に「おっぱい揉んでも構わない」と認めるほどです。ただ一定の条件を満たさないかぎり、欲望剥き出しの主人公が肌に触れると自動的に迎撃してしまう設定が付与されているため、お約束通り寸止め連発。もどかしい反面、「ヒロイン自身はまったく拒んでいない」という状況は中高生的なエロスを程好く愛撫してくれる。メイドたちのバトルも、「メイド服を破壊してすっぽんぽんにすれば無力化」と昔のアニメを彷彿とさせる代物です。こいつ……もう映像化を視野に入れてやがる……! 桜条沙天を始めとするサブヒロインたちの存在感がやや希薄だったものの、主人公とメイドさま、ふたりのキャラをしっかり立てて盛り上げまくっていることを考えれば些細なことだ。クライマックスは勢いのみで押し切ろうとするかのような強引さだが、その「勢い」が充分すぎるくらい発揮されているおかげで不覚にも燃えてしまった。ツッコミどころ込みでひたすら叫び散らしたくなるバカ熱血っぷりです。単純明快にスカッとする。

 バカバカしさもここまで来ると清々しい。読む前はまったくと言っていいほど期待しておらず、「スペースが勿体無いし、読み終わったらさっさと処分しよう」とさえ考えていたのに、いざ読み終わってみれば「続刊を熱望せざるをえない。処分? するわけないじゃないですか」という心境に陥っていました。これで銀賞だというのだから、本当に電撃は贅沢な賞ですね。伊達に応募総数が4000を超えていない(長編に絞れば3000弱ですが)。パロネタは「意地があんだよ――メタボリックにはッ!」というスクライドネタ、「我はただ、この一刀に賭ける侍女」という鬼哭街ネタが気に入った。ラストバトルでメイドさまが納刀して構えた瞬間、脳裏に「剣理殺人刀」が鳴り響いたニトロオタは当方だけではあるまい。ところで主人公の名前、「ごしゅう・じん」は当然ながら「ご主人」のもじりだろうが、響きのせいでつい「五囚人」を連想してしまった。主人公が変態大関なんで、ブタ箱エンドになっても違和感がない。

・拍手レス。

 『トリック×ロジック』の面子の豪華さに吹きましたが、本業やれよって気もしますw 館シリーズの新刊とか
 我孫子はもはや小説よりもゲームシナリオの方で有名になってきている気がする。来月『さよならのためだけに』という新刊を出すそうですが。

 日昌晶って日日日のことじゃなかったんだ。ごく自然に日日日の方を連想してたから、「あれ、そんなに書いてなかったっけ?」と疑問に思ってた。
 後発の作家に間違われることを思うと不憫ですが、出版社側はむしろ日日日と勘違いして購入されることを期待していたりして。

 COMICリュウは、夢枕獏原作、伊藤勢画の闇狩り師だけ読んでます。というか、伊藤先生は何故にそんな際どい雑誌でばっかりの連載なのか。結構古参の漫画家で実力もある人だと思うんだけどなぁ。いい加減、「次の刊もちゃんと出るのだろうか」という不安に苛まれるポジションから脱却してほしいです、ファンとして。
 リュウでやってる闇狩り師はキマイラとのコラボなんですっけ。そういやキマイラも随分新刊出ていないような……もう完結しないでしょうね、あれ。


2010-02-10.

“月刊COMICリュウ”2010年3月号の付録「ネムルバカ1.5巻」を読んだ焼津です、こんばんは。

 この付録だけを目当てに買いましたが、うーん、さすがに「付録だけで690円(税込)の価値がある」とまでは言い切れない内容だった。単行本『ネムルバカ』に未収録の(というか、単行本発売記念で掲載されたんだから収録されないのは当たり前なんだが)番外編「サブマリン」(17ページ)の再録を中心に、ゲスト原稿を交えて50ページほどの小冊子としてまとめられています。「サブマリン」は本当に番外編で、最後にルカがちょっと登場するだけ、入巣の出番はまったくありません。大学に入ったばかりのルカが初々しくて、「へえ、センパイにもこんな時代があったんだ」とほのぼのするが、あんまり期待しすぎると肩透かしを食う。ゲスト原稿は水上悟史のルカ&入巣イラスト、つばなの4ページ漫画「入巣の自信」が良かった。なので、「あくまで雑誌目当てで買った」場合ならば充分満足しうる代物でしたけれど、付録だけを目的に購入するのは――少々勇み足だったかもしれない。コスパさえ度外視すれば良かったことは良かったので、別に後悔はしておりませんが。ただ、今月号に掲載される『ネムルバカ』の番外編第2弾は何かの単行本に収録されるまで待つとします。

「昆虫男子」 人と話すときに目を合わさない、見た目がとっつきにくい、昆虫と話すなどの特徴(痛いニュース(ノ∀`))

 「昆虫のような眼をした男」という比喩だとウォルフガング・シュライバー木暮塵八を思い出すこともあり、なんか殺し屋を指す用語みたいに聞こえます。というか、ここまで行ったらもう「ムシケラ」と表現するのと大差ない気がする。

7人の作家とチュンソフトが贈る極上のミステリー『トリック×ロジック』

 大山誠一郎以外は有名どころの作家が揃っています。中でも意外なのは麻耶雄嵩か。『隻眼の少女(仮)』はどうなってるの? と訊ねたくて仕方ありませんが。もう何年待っているのかさえ記憶が曖昧になってきました。少なくとも『螢』以降でしょうから、だいたい5年程度? 当方自身が麻耶儲でなければ『隻眼の少女(笑)』と書いているところです。

厨 二 臭 い 銃 の 使 い 方(ぶる速-VIP)

 数百発の跳弾を一点に集中させてブレイクショット。あるいは、アサルトライフルのフルオートで秒間10発の精密射撃。どちらもエロゲーの話です。

イアン・ランキンの新作『死者の名を読み上げよ』、ポケミスから3月10日発売予定

 待ちに待ったリーバス・シリーズの新作が遂にキタワァ*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(n'∀')η゚・*:.。..。.:*・゜゚・*。タイトルから察するに第16長編 "The Naming of the Dead" の翻訳かしら。『獣と肉』の次ですね。原書では2年ぶりの新刊でしたが、邦訳としては実に5年ぶりとなりますよ(合間に第2長編『影と陰』が訳出されてますが)。リーバス・シリーズは一匹狼気質の刑事ジョン・リーバスを主人公とするミステリ。途中からシボーン・クラークという女性刑事が加わりますが、色恋沙汰の要素は希薄で、淡々と事件を捜査し続けるのが基本スタイル。「一匹狼」と書くとなんだか格好良さそうだけど、若い頃の恋愛で失敗し、従軍経験でトラウマを負い、帰還後に結婚して娘も生まれたけど現在はバツイチ、「夫としても親としても失格だった」と夜中に我が身を振り返って泣くような至って情けない男です。読んでいると、呆れを通り越してこちらの目まで潤んでくる。仕事とアルコールに溺れ、「休暇が疎ましい、することが何もない」とこぼすワーカホリックぶりにも涙。ポケミス、つまり新書サイズで2100円(税込)というのはかなりイイお値段だけど、その分読み応えがあることを期待する。レジナルド・ヒルの『死は万病を癒す薬』が600ページ近かったことを考えると、同程度は望んでもイイはず。

 にしてもこのシリーズ、最初はポケミスで刊行されて、途中でハードカバーに変わって、初期作や代表作を文庫で発売してから数年に渡って沈黙し、久々の新作だと思ったらまたポケミスに戻ってるって……ちっと移動が激しすぎないか? シリーズそのものは好きなんだけど、版型がバラバラで綺麗に揃えられず、非常にもどかしい。初期の第3長編から第6長編も相変わらず未訳のままだしなぁ……長らく幻扱いされてきたディー判事シリーズが短編集1冊を残してすべて翻訳されたことを思えば、あながち希望が絶無なわけでもないんですが。

・至道流星の『神と世界と絶望人間 00-02』読んだー。

 『雷撃☆SSガール』の続編で、タイトルにも「雷撃☆SSガール2」とありますが、前作の主要人物は一切登場しません。ブランフォート財閥云々という共通の用語こそ出てくるものの、ほとんど別作品と割り切っても構わないでしょう。前作のヒロイン、水ノ瀬凛を気に入った読者が「ふたたび彼女が活躍するのか」と思って読み出すとガッカリするやもしれません。しかし、SS(世界制服)ガールの役割を担う新ヒロインもちゃんと投入されておりますので、『雷撃☆SSガール』が楽しめた読者ならば手を伸ばしても大丈夫。今度は関西弁の金髪ロリです。まあ、下巻では成長してロリじゃなくなるみたいですが……言い忘れましたがこの『神と世界と絶望人間 00-02』、正確に申しますと「雷撃☆SSガール2」そのものではなく「雷撃☆SSガール2の上巻」です。下巻に当たる『神と世界と絶望人間 03-08』は来月1日発売予定。タイトルの数字は「2000年から2002年まで」および「2003年から2008年まで」を意味しており、登場時点では8歳だったリザも最終的には15歳となる模様だ。

 父が死んだ――突然の訃報に動揺したのも束の間、スタンフォード大学の学生であった桜井海斗は白昼堂々、ニューヨークの路上で拉致され、謎の男たちから監禁と拷問を味わわされる憂き目に遭う。連中は執拗に「父親から渡されたデータを寄越せ」と要求してくるが、奴らが欲しがる「データ」など微塵も心当たりがない。が、海斗は悟った。ジャーナリストであった父は殺されたのだ。こいつらの秘密に近づきすぎてしまったがために。海斗が何も知らないことを確信した暴漢たちは、ボロ屑同然の彼を道端に放り捨てた。意識不明の重体から回復した海斗は、生前に父から譲り受けたペンダントの中に「データ」が隠されていたことを知る。それは世界一の財閥であるブランフォート家が、「世界統一政府」を樹立するために企てた計画の数々が記されていた。その「データ」をきっかけとして、海斗は経済的に世界を支配する「神」との闘争に身を投じることとなるが……。

 「世界大戦もベトナム戦争も9.11のテロも、すべて巨大財閥が仕組んだ策謀だった!」という、いわゆる陰謀論的な解釈を下敷きにして展開する復讐ストーリー。陰謀論嫌いの人が読むとウンザリするだろうことは確定である。当方も「世界規模の陰謀がどうのこうの」という話は誇大妄想じみていてそんなに興味を掻き立てられないが、巨大財閥を相手に戦う主人公が決して「正義のため」「人類のため」といったお題目を唱えず、ただひたすら「父を殺された恨み」だけを糧に復讐心を募らせるダークヒーロー的な面を備えているあたりが面白く、夢中になって読み耽りました。普通ならお約束に則って「ブランフォート家の計画は悪!」と断じ、「たとえ民衆が愚かだとしても……エリート面した連中が人々の自由を踏みにじるなんてこと、絶対に認めない!」と激しく熱血しそうなものですが、この主人公、衆愚論者なのでブランフォート家が練り上げた世界統一政府の構想自体は肯定的に捉えているのです。「もし父が殺されていなければ、奴らに協力していたかもしれない」と考えるほど。愚かな人類に救うだけの価値があるかどうか、根本的な懐疑を抱いている主人公は大儀に拠らず、私怨のみで神に等しい経済力を握る財閥へ立ち向かっていきます。下手に思想対決の要素を盛り込んだりしない、このへんの割り切りが気持ちいいですね。説教かまして相手の主張を退けない分、終始ブレがなく小気味良く読める。金髪ロリのリザはヒロインというよりもどちらかといえばマスコット役に近く、水ノ瀬凛ほど活躍しませんが、経済話ばかりで潤いがなくなってきた頃にここぞというタイミングで登場してくれて、丁度良い具合に和みます。最後まで一気に読み通すモチベーションを維持できたのも、リザあればこそでしょう。憎悪の深さから復讐鬼と堕しかけた主人公が、曲がりなりにも人としての心を喪失せず、「この少女を幸せにしてやりたい」と願って行動し続けるのも頷ける。傍から見れば間違いなくロリコン野郎ですが。

 陰謀論が基底にあることと、「民衆は愚かだ!」という衆愚論がストーリーを駆動させる燃料になっていることから、読んだ人すべてが楽しめる話とはなっていないかもしれません。文章が砕けていて読みやすいのも長所である一方、「風情に欠ける」「軽すぎる」と批難を浴びる要因になりかねない。が、ライトノベルの文脈にしっかり経済要素を織り込んできたことは評価すべきことだろうと思いますし、個人的にとても楽しめたので強くオススメしておきたい。ただ、まだ上巻だからキリが良くないんですよね。来月になって下巻が刊行されてからまとめて買った方がベターかも。また今月中旬か下旬にはガガガ文庫から『羽月莉音の帝国』が出る予定で、巻末広告に躍る「部費は420億円!」の語句からしてやっぱり経済系ライトノベルだろうと推測されるため、至道流星未読者はまずこの『羽月莉音の帝国』に手を伸ばしてみるのがいいやもしれず。ぶっちゃけ講談社BOXは割高というか少々ボッタクリなお値段(来月の新刊も含めたシリーズ3冊合計でたぶん4000円強になる)ですし。

・拍手レス。

 日昌晶って日日日っぽいペンネーム
 日日日がデビューしたときは日昌晶を思い出して遠い目をしたものでした。

 『俺の姉がこんなに貧乳のわけがない!?』……こいつは凄え。もう少し突き詰めれば、攻めの消力に転じることも可能かもしれん……
 『オレの妹のエロさが有頂天でとどまる事を知らない』といい、俺妹にパクられの波が来ている模様。


2010-02-07.

・怪談モチーフ第3弾にしてシリーズ最大のボリューム(約770ページ)を誇る『数えずの井戸』をようよう読み切った焼津です、こんばんは。

 タイトルで察しがつくやもしれませんが、今回の元ネタは「番町皿屋敷」。冒頭で怪談を解説し、怪談の元となった事件の結果を語ったうえ、「なぜそんなことになったのか?」という顛末をお菊(夜な夜な井戸に化けて出ては皿を数える女)が屋敷に上がる前から丹念に辿っていく。ページ数で分かる通り、分量的にはひたすら長い話ですが、密度はそれほどでもない。余白や改行が多く、また語り口が軽妙なおかげで「長さ」を感じにくい……というのもありますが、密度がそれほどでもない気がする最大の原因は立ち上がりの遅さでしょう。なにせ、お菊が屋敷に上がって奉公を開始するのが400ページあたり――全体の半分を過ぎたあたりでやっと「番町皿屋敷」らしくなってくるのです。語りのペースが悠長な京極作品の中でも一、二を争うゆっくり加減だ。「数える」という行為を通じて「たかだか皿一枚ごときで人が死ぬ」怪談の異様さを浮き彫りにする試みは端倪すべからざるものがあり、見方によっては怪談シリーズ随一の出来かもしれませんが、正直途中で痺れを切らせる人が現れても不思議じゃない一冊だとは思います。面白いことは確か。当方もクライマックスは夢中になって読み耽りました。しかし、これが最適な長さであろうかと問われれば答えに窮する。大半が淡々とした展開で埋め尽くされており、「長さに見合う読み応え」とまでは請け合えない。リドル・ストーリー形式(思考する材料を与えたうえで詳細は読者の判断に委ねる形式)が採用されている部分もあって、多少の謎を残しつつ幕を引くラストに「すっきりしない」と不満を募らせる向きもありましょう。怪談シリーズを読んだことがない人には、これよりも『嗤う伊右衛門』の方をオススメしておきたいです。前作や前々作をお読みの方は、気兼ねなくお買い求めください。長いといっても『邪魅の雫』ほどじゃありませんから、安心して目を通せるかと。

『俺の姉がこんなに貧乳のわけがない!?』

 URLを見た時点で脱力したが、このタイトルを目の当たりにしたことで消力の域に達した。もう何も言えない。

日昌晶の新刊『試験に出る竜〈ドラゴン〉退治』、3月9日発売予定

 素で驚いた。おいおい、何年ぶりだよ……と調べてみたら、前作から実に8年近く経っています。サラリーマンが異世界に派遣されるデビュー作『覇壊の宴』はエグい展開連発だったため、「面白いんだけど絶対に一般ウケはしないな」と言われ、確かに一般ウケするどころかろくに認知されないまま表舞台から姿を消すことになりました。これを機に復活するのか、それとも上梓後にふたたび永い眠りに就くのか。ともあれ安いので気楽にポチっておこう。しかしスマッシュ文庫か……そんなレーベルができるなんて、さっきまでまったく知らなかったわ。500円均一というと、昔に徳間デュアル文庫がやってた「デュアル・ノヴェラ」を思い出す。その一冊だった『微睡みのセフィロト』は埋もれた佳品ですが、来月にハヤカワ文庫で復刻されるみたいだ。予価は630円(税込)。当然のように値上がりしてやがるぜ。

HERMIT、『世界でいちばんNG(だめ)な恋』の廉価版を3月26日に発売

 はいはい、廉価版ったってどうせ5000円くらいするんでしょ……と価格を見たら3000円切っていて顎抜けた。廉価版『SWAN SONG』の実に半額。もはやショップ値引きがなくても充分だよ、こりゃ。ずっと買い逃していましたので朗報と呼ぶより他ないです。そういえば『この青空に約束を―』はすぐに廉価版が出るだろうと思って放置していたけれど、アテが外れてずっと買い逃したままになっているな。未だに体験版すら終わってないから、別に構わない気もするっちゃするのですが。

ケロQ新作『素晴らしき日々〜不連続存在〜』の体験版をプレーし終わった。

 『終ノ空』のリメイクというかリテイクというかリファインというか……とにかくオルタナティブな位置づけにあるソフト。『終ノ空』はケロQのデビュー作、99年発売だからもう10年以上前になりますね。水上行人、若槻琴美、高島ざくろ、間宮卓司、計4名の視点によって紡がれるパルプ・フィクション的なストーリーで、哲学薀蓄ありレイプあり自殺あり妄想と現実の混濁化ありと好き放題な内容から話題になりました。絵に釣られて購入し「合わねぇ」と嘆く人もいる一方で、「これは名作」と持ち上げる人もいる、平たく言って毀誉褒貶な一本だったわけです。今回は水上行人を女性化して水上由岐に、若槻琴美を双子化して若槻鏡・司の姉妹にと大幅な変更を加えつつ、高島ざくろや間宮卓司、音無彩名、名前しか出てこないが横山兄妹といったキャラまでキッチリ投入されています。新規ユーザーが置いてけ堀にならないかと心配になる。話そのものは徹底的に作り直されており、かつて物語の発端であった「投身自殺」が「ヌイグルミの落下」に切り替わっていたりするし、時折チラチラ『終ノ空』との繋がりを匂わせる言葉が挟まれるものの、本筋には絡ませないであっさり終わってしまう。ゆえにもはや別物と言って差し支えないでしょう。相違点よりも、重なる部分を探した方が早いくらいだ。

 今回は「4つの物語」ではなく「6つの物語」で話を構成する模様。体験版のエンディングがそのままスタッフロール流れてもおかしくない雰囲気だったところから察するに、体験版は1個の物語を丸々収録しているのかしら? 視点人物は水上由岐。冒頭にちょろっとだけ間宮卓司が登場するけれど、彼が退場して以降は若槻姉妹と高島ざくろしか出てこなくなり、終始ひたすら4人の少女がイチャイチャくっつき合ったり嫉妬し合ったり牽制し合ったりする甘ったるい展開に突入。「これなんて百合ゲー?」と真顔で聞きたくなった。先に言っておくと描写されるのはキスシーンのみです。まぁヤッてることはヤッてるんでしょうが……正直、体験版の段階では他愛もない遣り取りが大半を占めていて、核心に迫るシーンはほんの一瞬か二瞬程度しかありません。『終ノ空』の特徴とされた哲学談義もなりを潜めており、小難しいテキストはほんの小匙一杯という感じです。2009年9月25日予定→2010年2月26日予定→2010年3月26日予定と、現時点で既に2回の延期をかましており、当初の予定から半年もズレて作中で自虐ネタにもされているくらいなんで、「とんでもなくグダグダな出来なんでは……」と危惧していたが、思ったより柔らかくて触り心地も良かった。物凄く続きが気になる、ってほどではないにせよ、10年前に『終ノ空』をプレーした人間として心惹かれる部分はありましたね。いつか『陰と影』に至れることを祈って、当座凌ぎにやってみるのも悪くないかも。にしてもケロQ、ブランド設立から10年以上経つ割に、出したゲームがこれだけかよ……姉妹ブランドも含めれば辛うじて10本だが、FDや完全版を除いて計算するとたった6本しかありませぬ。これがライアーソフトの同期とは信じがたい。

・拍手レス。

 セイレムの魔女たちははじめから追加ルートもあれば神ゲー扱いだったと今でも思います。
 確か追加シナリオは声なしだったんですっけ。『奴隷市場 Renaissance』『セイレムの魔女たち(ボイス補完版)』『奴隷物語』の3作すべてを網羅した「菅沼恭司トリロジーBOX」がいつの日か出ることを夢想いたしております。


2010-02-03.

・林トモアキの新刊『レイセン1』が届き、早速貪り読んだ焼津です、こんばんは。好きな作家の新刊でも平気で3日は積む当方なのに、梱包を解いた3時間後にはもうフィニッシュしていた。自分が如何にヒデオに飢えていたか、悟らざるをえない。

 『レイセン』は『お・り・が・み』および『戦闘城塞マスラヲ』の続編というか後日談です。企画段階の仮タイトルが「ひでおアフター」だっただけに、ゲームで言うところのFD(ファンディスク)みたいな内容。“トモアキ・サーガ”(林トモアキの作品群はすべて同一の世界観を共有している)にとっては傍流に当たるんじゃないかしら。聖魔杯を終え、ふたたびニートに戻ったヒデオが名護屋河睡蓮(『お・り・が・み』のヒロインである鈴蘭の妹)とタッグを組んで宮内庁神霊班の仕事をこなす様子を連作形式で綴っている。シリアス要素の少ないやや緩めのコメディで、派手な見所こそ欠けるものの、『マスラヲ』好きなら充分楽しめる出来。あれだけ苦労を経てもニート気質が燻っているヒデオが不思議といとおしいです。それと今回はあとがきが暴露話だらけで面白かった。「終了後に『マスラヲ』アニメ化の話が来たけど、1クールで魔殺商会も削るとか言ったから蹴った」とか「『マスラヲ』の『戦闘城塞』は作者が考えたものではなく、勝手に付けられた」とか、なかなか興味深い。2巻から早くも新展開が訪れるってことで、遠慮なくワクワクさせてもらいます。

130cm、『鬼まり。』の追加ダウンロードサービスを決定

 「姉メインのFDなのに姉との本番がない」ということで騒ぎになり(参考リンク)、13cmの社長(130cmは13cmの姉妹ブランド)が「本番がないとダメなんですか?」「今回の評価は非常に残念です」とコメント(参考リンク)して議論を呼び、最終的に追加ダウンロードサービスを提供することになった模様(参考リンク)です。発売後に無償のアペンドパッチを配布するのが最近の流行なんでしょうか。『セイレムの魔女たち』が追加シナリオを無料配布したのが確か6年くらい前だったっけ。何と言っても「怒りの庭」が有名ですが、マイナーなところではFizz『さくらテイル』で随分ひどい終わり方した(らしい)朋乃ルートの追加シナリオを制作すると告知しています。みかげ姉が変身しなければ買っていた(あのモッサリ感がいいんじゃないか!)かもしれないソフトなので密かに気になっているものの、具体的な進捗状況はまだ報告されていないようだ。

・今月の購入予定。

(本)

 『レイセン1』/林トモアキ(角川書店)
 『象牙色の賢者』/佐藤賢一(文藝春秋)
 『煙の樹』/デニス・ジョンソン(白水社)
 『新・雨月(上・下)』/船戸与一(徳間書店)
 『中の下!1』/長岡マキ子(富士見ファンタジア文庫)
 『釘食い男』/アルベール・コーエン(国書刊行会)

 今月は故・伊藤計劃のデビュー作『虐殺器官』を皮切りに、『ラギッド・ガール』や『Self-Reference ENGINE』といった評判の高いハヤカワ日本SFが相次いで文庫化されます。高くて手を出しづらかった、という方はこの機会に是非。ほか、文庫化される作品では女子剣道を題材に採った『武士道シックスティーン』がオススメ。

 『レイセン1』は上で感想書いたので割愛。『象牙色の賢者』は『黒い悪魔』『褐色の文豪』と続いてきた“デュマ家”3部作の完結編。ナポレオンとの関係が険悪だったことで知られるデュマ将軍、言わずと知れた『巌窟王』『三銃士』の作者・大デュマ、そして『椿姫』の小デュマ――正直、デュマ将軍や大デュマに比べると小デュマは少々地味に映るけれど、やっぱり三代揃わないと“デュマ家”って感じがしませんので待望しておりました。にしても『黒い悪魔』や『褐色の文豪』は文庫化される気配がまったくありませんね、不思議。『黒い悪魔』なんて刊行からもう6年も経つのにな……『煙の樹』は全米図書賞を受賞して話題になったらしいが、そもそも全米図書賞ってよく知らないな。ぐぐってみたところによると、トマス・ピンチョンの『重力の虹』なんかが獲っているそうだ。詳しいあらすじは分からないが、ベトナム戦争時代を軸とした話になる模様。658頁で3990円(税込)とヘヴィ級のボリュームに釣られてホイホイと予約してしまった。分厚い本を想像したらこう、体の奥がじゅん…となりますの。

 『新・雨月(上・下)』は副題「戊辰戦役朧夜話」。あらすじに「戊辰戦争で闘った各藩の勇者」と書いてあることから察するに、連作形式か何かで群像劇を描くつもりなんじゃないかしら。作者のライフワークとなりつつある“満州国演義”の冒頭が戊辰戦争の会津だったので、ひょっとして繋がる部分があるかも……と考えたみたりするのが楽しい。『中の下!1』は新人のデビュー作。「異性とのお付き合いを目的とする『カップル試験』」というあたりが如何にも面白くなさそうだったのでスルーしかけたが、「中二病が横行するラノベ業界で、小学生レベルにまでさかのぼるエロバカラブコメでいざ勝負!」なるコピーを見て気が変わった。全力で釣られるとしよう。『釘食い男』はサルコジ大統領も愛好する『選ばれた女』のアルベール・コーエンによるピカレスク・ロマン。「ピカレスク・ロマン」はしょっちゅうクライム・ノヴェルとかロマン・ノワールと混同される傾向があるけれど、これは作者や出版社からして『ラサリーリョ・デ・トルメスの生涯』の流れを汲む本式ピカレスク小説か? ところで『選ばれた女』は今の邦題よりも『寵姫』という仮タイトルの方が仄かにエロそうで良かったと思う。

(ゲーム)

 『WHITE ALBUM2 -introduction chapter-』(Leaf)

 今月は注目作がこれしかない。タイトルに「2」とある通り、『WHITE ALBUM』の続編です。前作から十数年後という設定で、ストーリー面の繋がりはほとんどないみたい。ライターも変わってますし。またタイトルに「introduction chapter」とある通り、これは導入編(イントロダクション)に過ぎず、一本では完結しません。次のキャプチャーで話をまとめるつもりらしい。なんか最近は分割商法が常態化して嘆かわしいと思いつつ、業界も苦しいから仕方ないのかな、と諦めモードに入ってきたり。完結して評価が固まるまで待つのも手ですが、とりあえずこれをやってみて、面白かったら次も買う、つまらなかったらここで見切る、と判断するために――つまり有料体験版的な意味合いで――購入するつもり。何より、冊子系の特典を付けられると弱い。こう、書き下ろしノベルがあったら、逆らえなくなる。ずっと前に『planetarian』の初回版を買い逃して、後悔したので。

・あ、それと今月から更新が不定期になります。本格的に積読と積ゲーの消化に努めていく所存。最低週一回は更新していきたいところですが、ネタがない場合においては沈黙しなければならない。

・拍手レス。

 切なさが止まらない。タカシの後日談読みたいなあ。あと少女Aルートも。
 今年出る(のか? マジで?)アフターストーリーに期待。少女Aはせめて名前で呼ばれるようになってほしい。

 サリンジャーの訃報に驚きました。去年から今年にかけて作家の訃報が多すぎる・・・
 確か去年にライ麦畑の続編を勝手に出されそうになって差し止め要求してましたね。「まだ元気なんだ」と感心したのに、突然の訃報で驚きました。

 フラグの折れたエンジェル素晴らしかったですね。6ページ目くらいから目頭が熱くて「……あかん」と呟いていました。もう一回本編がやりたくなるあたり、アフターのSSとして素晴らしい出来だったと思います。
 タカシルートでさえ仮面の下をあまり覗かせなかった明日香が、心を剥き出しにして声を張り上げる終盤は「失恋の王」たる王雀孫の本領が遺憾なく発揮されております。失うことから全ては始まる。

 >FDラッシュ 130cmは何かと話題を提供してくれますね。充分ニヤニヤできたんで個人的には満足だったんですけど、「鬼まり。」
 まさか発売から5日でアペンド制作を告知するとは……デジャヴる喃。今年もエロゲー界は話題に事欠かないみたいです。


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