2009年2月分


・本
 『放課後プレイ』/黒咲練導(アスキー・メディアワークス)
 『アクセル・ワールド1』/川原礫(アスキー・メディアワークス)
 『ロウきゅーぶ!』/蒼山サグ(アスキー・メディアワークス)

・ゲーム
 『俺たちに翼はない』(Navel)

・ドラマCD
 『俺たちに翼はないドラマシリーズ 第1章 林田美咲』(ランティス)
 『俺たちに翼はないドラマシリーズ 第2章 渡来明日香』(ランティス)
 『俺たちに翼はないドラマシリーズ 第3章 玉泉日和子』(ランティス)


2009-02-27.

・竹井10日の新作『東京皇帝☆北条恋歌1』をさして期待せずに読んでみたら意外と面白くて感心した焼津です、こんばんは。ここんところやってるノベライズ仕事は正直「うーん、ちょっと」な出来だったので、思ってもみない収穫でした。地の文がいささか簡素にすぎるせいで不安も抱いたりしましたが、竹井ファン的には杞憂もいいところ。

 「恋の専制主義」だの「独裁的学園ラブコメ」だのといったキャッチコピーが表す通り、何かあればすぐ権力を振り翳して死刑だ極刑だと喚く魔神宰相(ただしツンデレ)がヒロインとして登場し、いくらコメディでも若干ヒくところはありますものの、脱力気味のゆるキャラとして降臨する東京皇帝さんがイイ感じに雰囲気を和らげてくれるので目くじらを立てるほどヒドくはなかった。1巻はまだ話の途中というか、山場らしい山場もなく幕を下ろすけれど、むしろ無理に話を畳もうとしないのんびりした筆致のおかげで存分に寛げます。やっぱオリジナルの方が伸び伸びしていて楽しいっスね。ユルいながらもギャグの切れ味は良く、これから続きを買ってみてもいいかなー。次回は三角関係に突入しそうだし、素でドキドキしております。ただ、「『合衆国日本!!』の時の格好いいポーズ」とか、「『かわいいは正義!』」とか、喩えに『らき☆すた』が出てきたりとか、パロネタが多かったのは気に掛かったか。

宮本昌孝の『剣豪将軍義輝 新装版(上・下)』、発売

 やはり続編の『海王』が刊行された影響でしょうか。今まで読んだ「戦国時代を舞台にした小説」の中でも一、二を争う面白さだけに改めて推しておきたい。当方が戦国時代モノにハマったのはこれと『センゴク』によるところが大きいです。

 室町幕府の第13代将軍・足利義輝の幼年期から青年期まで(30に満たぬ若さで逝去したため、その先がない)を三部構成で綴った内容であり、途中の諸国漫遊描写などフィクションも多く含まれていますが、最初から最後までまったく退屈することのない無上の娯楽小説となっている。織田信長や上杉謙信、武田信玄に塚原卜伝などなど、登場する顔ぶれも豪華です。詰め込みすぎなところもいくつか見受けられるけれど、それでもなお消化不足には陥っていないあたりが凄い。ちなみに、番外編として『将軍の星』ってのがありますけど、こちらもいずれ新装版が出るのかな?

『俺たちに翼はないドラマシリーズ 第2章 渡来明日香』『俺たちに翼はないドラマシリーズ 第3章 玉泉日和子』を聴く。

 まずは明日香の方。冒頭に収録されている歌で早くも噴いた。歌い出しが「ウザい男どもが今日も声掛けてくる」で、サビが「笑顔つくるの辛い」や「笑顔さえ面倒臭い」とか、どれだけネガティブなんだよプリンセス。で、今回の話は体育祭。3年の秋です。恐らく9月か10月くらい。年度が違うけど、鷹志がケータイのカメラでこっそり明日香の体操着を写したのも体育祭の頃ですね。すげえじゃん羽田、パパラッチ羽田じゃん。それにしても、ドラマ本編が始まった途端に高内や森里が出てくるのは非常に暑苦しかった。森里はまだしも高内までこういう学園行事に燃えるタイプだったとは。明日香はいつも通りローテンションでダラダラしてる。そして針生が出てくるのはまだ予想の範囲だったが、前巻に引き続いて林田美咲が出演するのは意外でした。美咲は日和子が明日香と仲良いと信じ込んでいる(実際は美化委員会の先輩後輩だった時期があるだけで、それほど交流はない)から、片想いの相手である「羽田先輩」が明日香の恋人って情報を伏せている……というのは確かPreludeでも語られていましたね。そして肝心の羽田鷹志、今回もセリフなしです。出番はありますが。

 内容的にゃ「地域住民との触れ合い」という名目で美空学園の関係者以外まで絡んでくるあたりが見所。誰が出てくるかは聴いてみてのお楽しみ。個人的に面白かったのは騎馬戦か。針生暴れすぎだよ針生。ゲーム本編でもなかったぐらいのレッツパーリィな活躍を見せつける。針生“メタルウルフカオス”蔵人です。真性の人間嫌い(厳密に言えば、興味を持てない相手に対してはとことん冷淡)というだけで、根っこの部分は皇帝や陛下と大して変わんねぇなー。挑発には乗らないと言いつつしっかり乗っていて笑った。こいつってば絶対少年マンガとか熱血アニメとかにハマっていた時期あるはず。あとは高内を指して「誰このキャバ嬢」と訊ねる小ネタにウケました。「ハリウッドのおっさん」呼ばわりするくらいだから少しは針生と付き合いあるのかと思いきや、ほとんどなかったんだな、高内。小ネタと言えば、山科の親父が競馬で借金膨らませたという新情報もあった。トシ兄さんといい、山科の一族は結構ダメ人間率高そうですね。

 次に日和子の方。文化祭だから前巻に引き続き秋の話ですね。日和子の親友・林田美咲もやっぱり登場します。本編じゃさっぱりだったくせにドラマCDでは結構出番多くね、リンダ。ストーリーは、2年B組(日和子たちのクラス)が文化祭の出し物でお芝居をやることになり、リンダに推挙された日和子が脚本を執筆することになるというもの。プロ作家としてデビューしたものの、舞台劇に関してはまったく経験のない日和子、何を書けばいいものか……迷った末に、以前のバイト先であるレストラン「アレキサンダー」へ足を運ぶ。まだ声優変更する前だったらしく、ヒノエリの声が本編とは違いますね。でも、アレキサンダーの面々と繰り広げる「寸劇ごっこ」がだんだんグダグダになっていくあたりは本編と一緒。「シンデレラの顔も三度まで!」と怒る日ょ子さん愉快です。ジュリエット玉泉が迫真の演技かますのも面白かった。本気でお姫様願望強いんだな、たまひよ。明日香と組んだらダブルプリンセスもヨユー。超ヨユー。

 店長の狩男は露骨なシモネタを封じられた状態になってます(なんでもセリフの7割が発禁を喰らったとか)が、それでおとなしくなるということはまったくなく、遊び心たっぷりにストーリー前半部を牽引していきます。後半は文化祭当日なんでマスターが店を離れるわけにもいかず、代わりに美咲が出張ってくる。「ヒロインの家のシャケを咥えた熊の置物役」を任されるところにリンダの真髄を見た。公式サイトの自己紹介ボイスともさりげなくリンクしてますね。本編じゃ非攻略どころかまともに顔を出すシーンすらなかった子とは思えないほど美味しい立ち位置を占めている。ヒノエリから日和子を庇ったりとか、普通に友達想いな場面もありましたし。やべえ、どんどんみさきちシナリオが読みたくなってきた……。

・拍手レス。

 あ、あれ?『ロウきゅーぶ!』の昴って退学になってましたっけ?休部で離散したメンバー集めて一年後復活みたいなことかいてあったような・・。ちょっと見直してきます!(見直してから言え
 P39でミホ姉が「今日付けでついに昴が退学になったと聞いて」と発言し、エピローグでも「現状プー」と語っていることからそう読み取りましたが……ただ、読み返すと「化学の宿題」なんて単語もあって、いまいちハッキリしないですね。


2009-02-24.

『俺たちに翼はない』本編をやり尽くしてしまったせいで曰く言い難い寂寥感に苛まれている焼津です、こんばんは。しかしこんなこともあろうかと、あらかじめドラマCDを全巻買い込んでいた当方に死角なし。まだまだ俺翼は終わらない、終わらせません。

・まず1枚目となる『俺たちに翼はないドラマシリーズ 第1章 林田美咲』を聴く。

 林田美咲は本編において一度たりともフルネームが出ることのなかった「隠れすぎな隠れキャラ」。一章の主人公・羽田鷹志に片想いしている、やや天然で暴走気味のお嬢系後輩少女です。彼女が鷹志に想いを寄せる経緯は「ある日の美咲」(Preludeに収録されている番外編)で明かされます。「ある日の美咲」が美空学園に入学してから半年程度経った冬、俺翼本編が更にその一年後の冬。そしてこのドラマCDはちょうど両者の真ん中に位置する「夏の臨海学校」を題材に採っており、「冬の物語」という印象が強い俺翼からすると異端っつーかやや新鮮な内容になっています。まあ、本編で夏の話が出てこなかったのは「衣替えで半袖の制服を描いたりとか、手間が掛かって煩雑だから」ってな理由っぽいですけど……そういえば、本編で卒アルを制作するくだりでも確か臨海学校の話題がチラッと出てましたね。時期は夏休みの直前で、夏休みの期間が40日くらいみたいだから、具体的な日付は7月20日前後じゃないかと思われます。

 美空学園の臨海学校は一年から三年まで全校参加の一大イベントらしく、二年生の美咲が三年生の鷹志に接近するチャンスとなっています。なのでリンダこと林田美咲は張り切って参加するわけですが、さすが勘違い超特急恋する乙女行き、支離滅裂なハシャギっぷりを見せつけるばかりで少しも憧れの先輩に近づく素振りを見せない。結局、美咲は鷹志と顔を合わさぬまま(というか鷹志はセリフ一つないまま)終わります。日和子や明日香、山科、高内とその取り巻き、蔵人といった面々も登場するのでメンバー的には豪華ながら、美咲と絡むのはほぼ日和子だけで(他は高内とちょっと言葉を交わしたくらい)、相変わらずの隠れキャラ気質を発揮した見事なハインドぶりでした。徐かなること林の如く。話そのものは取るに足らないが、出だし早々に王テイスト満点のセリフが頻出するし、楽しめたことは楽しめました。みさきちとたまひよの愉快な掛け合いを好む人にはオススメしておきたい。そうでなければ、別にスルーしてしまっても構わない一本だと思います。Preludeの「良かったですね……せんぱい……」や例の叫びに匹敵するような印象深いセリフがなかったのは少し残念か。

・蒼山サグの『ロウきゅーぶ!』読んだー。

 第15回電撃小説大賞「銀賞」受賞作。タイトルはバスケットボールの和名「籠球(ろうきゅう)」と「休部」を掛けたものらしい。たまに「ロリきゅーぶ」と間違われています。バスケへの情熱を失いかけていた少年が、年若き叔母の策謀に踊らされて女子バスケ部の臨時コーチを務めることに……という、割合ベッタベタなノリのスポコン・ライトノベルです。電撃でスポコンというと『若草野球部狂想曲』を思い出しますね。スポコンはかつてマンガ界で隆盛を極めた時期がありましたけど今はすっかり廃れたジャンルとなっており、ライトノベルではそもそも廃れる以前に流行った時期があったかどうかさえ疑わしい。ちょこちょこと『暴風ガールズファイト』みたいな作品も出てくるにせよ、やはり活字でスポコンは地味すぎるのか、なかなかヒットに結びつきません。なので真っ向から「スポーツに懸ける青春」を描いたと評判の本作も大して注目されずに終わるのではないか、と危惧を抱いた次第です。確かに、女子バスケ部を題材に選んで女の子ばっかり登場させれば多少は華やいだ雰囲気が醸される。しかしそれだけで不利を埋められるかと申せば……って悩ましく思いながら読み進めて驚いた。ぶっ魂消た。女子バスケ部は女子バスケ部でも「小学校の」女子バスケ部かよ! よく見たら帯に「コーチはロリコン!?」って書いてあるよ! 別に主人公はロリコンじゃなかったし濡れ衣だよ、「!?」が如何にも東スポ臭いよ。なんとも狙いすぎるくらいに狙った売り方してるわ……。

 先輩の不祥事――「小学生との恋愛騒動」で一年間の休部、活動謹慎が決定した七芝高校バスケ部。スポーツ特待生として入部したにも関わらず、ほんの数日で居場所をなくした長谷川昴はやる気というやる気をごっそり失ってしまった。すっかり無気力と化した昴のもとに一人のぐんしー策士が訪れる。「ミホ姉」こと篁美星、昴とほんの7歳程度しか違わない叔母。職業、教師。それも小学校。彼女は女子バスケ部の顧問を務めており、バスケに関する知識を持たない自分の代わりとしてコーチを頼めないか、と打診してきた。無関係な不祥事の煽りで「ロリコン」の蔑称を浴びた昴にとって到底気の進む話ではなかったが、説得されて渋々現地に赴くと、そこにはメイド服を纏い「お帰りなさいませ! ご主人様!」と唱和する5人の少女たちが……。

 脱力のあまり本を閉じること数度、広告戦略以前に本文自体が狙いすぎるくらいに狙った代物でした。無論、メイド服の件はギャグであって試合中まで着ていたりはしないのですが、この時点でかなりの読者が音を上げたことでしょう。とはいえ高校生コーチと小学生チームメイツ、年齢差はせいぜい4歳くらいなのでそこまで激しく犯罪臭が漂うわけでもなく、ラッキースケベもせいぜい「ブルマが見えた」「背中に胸が当たった」レベルであってお色気要素は薄い。従って序盤さえ切り抜けられれば、あとはごく真っ当なスポコン小説として楽しめるはずです。文章がややくどい(たとえばあとがきの一部を引用しますと、「泥船かの如く処女航海前から沈没しそうだった作品を灼熱の炉で焼き固め(ちなみに『炉』に意図的な暗喩は含まれておりません)、上薬で極彩色の彩を添えて下さりましたこと、心より感謝しております」、こんな具合)せいで読みにくさを感じる箇所もありましたが、新人のデビュー作であることを考えれば許容すべき範囲内に収まっています。見方を変えれば「丁寧な文体」と言って通じるところもあるんですよね。

 キャラの個性はそこそこ立っていて書き分けもできているし、特訓パートも長引かず手短にまとめているし、本番の試合も適度な緊張感を保って描いているし、ちゃんと熱中できるスポコン作品ではあります。ただ、如何せん「狙いすぎ」の部分があり、またその割には萌え系描写が比較的無難なラインに留まっているので、面白くはあるけれどあまり強い印象が残らない一冊となっている。荒削りなのは文章くらいで、あとはフツーに整っちゃってるんですよね。読切エンターテインメントとしてはこれで充分なんですが、気鋭の新人が放つ一発目としてはもうちょいインパクトが欲しかったか。とりあえず、「小学生の女子バスケ部」という設定にヒかない人だったら安心して読める出来には違いない。なんだかんだ書きつつ当方も後半は夢中になって読み耽りました。単発っぽいキレイな終わり方しているくせに続編が出るそうで、次回は合宿編とのこと。楽しみ。

・拍手レス。

 毎度お馴染み、わからんネタだと微妙に悔しいAXLの嘘予告が始まりましたな。
 初回は見逃してしまいました……今日やってるのは分かりやすい方ですね。「カジュ貴…」なセーラが可愛すぎて笑える。

 レビューおつかれさまです!公式の自己紹介聴く限り、「吉川」の読みは「キッカワ」が正解みたいですよ。前後の内容から、小鳩はゆとりだから、正しい名字の読み方が分からないんじゃないですかね?
 面と向かって誤読されて訂正しない吉川さんの心情がいまひとつ不明ですね。ニックネームか何かと思っているのかしら。


2009-02-21.

・大槻ケンヂの掌編集『ゴスロリ幻想劇場』『ゴシック&ロリータ幻想劇場』というタイトルで文庫化されましたが、どうも収録作に異同があるらしい。とりあえずメモ代わりにここへ書き記しておかんとする焼津です、こんばんは。

 えーと、まず『ゴスロリ幻想劇場』には15個の掌編が収録されていまして、文庫版の『ゴシック&ロリータ幻想劇場』は「7つの掌編を追加&2つの掌編を削除」したバージョンに当たり、要するに合計20個の掌編が収録されています。追加された7編が「巻頭歌――エリザベス・カラーの散文詩」「夢だけが人生のすべて」「英国心霊主義とリリアンの聖衣」「おっかけ屋さん」「新宿御苑」「ボクがもらわれた日」「サラセニア・レウコフィラ」、削除された2編は「ステーシー異聞・再殺部隊隊長の回想」と「決戦ドレスは紅茶の後で」、ステーシー異聞の方は『ステーシーズ』にまとめられています。つまり、純然たる「なかったこと」にされた作品は「決戦ドレスは紅茶の後で」だけなんですよね。なんか、ホームズの末裔とかがゴスロリ服着てバリツする話だったっけ。いずれ本格的なバリツネタの小説を書きたい、というようなことをオーケンが語っている(冗談かもしれませんが)こともあり、ひょっとするとそっちの方でまとめる予定なのかもしれません。

 ザッと計算すれば追加分だけで60ページほどの増量になっており、読んでみましたが出来も悪くなかった(個人的に「英国心霊主義とリリアンの聖衣」と「新宿御苑」が気に入った)ので、『ゴスロリ幻想劇場』を既に買って読んだ人でも未読部分目当てに購入して構わないだろうと存じます。値段も税込でちょうどワンコインですし。にしても、『戦士の名は赤ちゃん』を本にするって話はどうなったんでしょうか……お流れ?

『魔法少女アイ参』、アペンドディスク付の完全版(?)を3月3日に発売予定

 動きの早さだけは誉めるべきか……3ヶ月未満でリメイク(と言っていいのかよく分からないが)を発売した例はこれまでなかったと思います、たぶん。しかし肝心のアペンドディスクがどんな内容なのやら、詳細に関してまったく告知されないあたりからして「ごらんの有様だよ」ふたたび、という予感がヒシヒシ湧いてくる次第。

 というか、「付」って。本体はアイ惨そのまんま? 再プレスする金すら惜しむとは……いやはや。

Navelの『俺たちに翼はない』、コンプリート。

 オーラスたる四章後編をクリアし、無事に全編をやり終えました。詳しい感想はこちら(ネタバレ有り注意)にて。ザックリした感想を申せば、「ひたすら時間を忘れて没頭してしまい、しかも費やした時間が少しも惜しくない内容だった」くらいで事足りるかな。1月の末頃から2月の半ばにかけて、限定的とはいえ「俺翼をプレーするために生きている」と述べても過言ではないドハマり状態を呈していましたし。ハマりすぎてPreludeの「ある日」連作をふたたびやり直してしまった。うあー、こんな短いオマケ程度のシナリオにもガッツンガッツンと伏線入れてやがんなー、と感嘆することしきりです。

 発表から4年半以上、発売予定が告知された日から1年以上、当初の発売予定日から半年以上と、どこから数えてもとにかく「待たされた」という念の強いソフトながら、まったくもって忍従の甲斐がある出来映えを誇っています。内容的に受け付けないというか拒否反応を示す人も少なくなさそうで、ぴらむに、いえ気軽に薦めるのは憚られますが……久々に「やっぱ自分はエロゲーってもんが好きなんだなぁ」と心底しみじみと実感させられた一本でもありますので、ここは是非空気を読まずに推したいところ。一章から三章まで、個別の体験版が出ていますからどれか一つでも試してみて感触を掴んでいただけたら、いち王儲として幸いです。

 さて、「ある日の狩男」も終わらせちゃったことだし、あとは背後に積んでいるドラマCDシリーズ(全5章)聞いたらひと通り俺翼ワールドを堪能したことになるか。ムービーにも出演してるくせして本編じゃあまりにもぞんざいな扱いをされた林田美咲がヒロインを務める1枚目は一際期待を寄せています。つか、みさきちの空気っぷりは普通に詐欺じゃないかな。いくら隠れキャラだからって最後の最後まで隠れ通しで許される法はないでしょう。なんか、『ギャラクシーファイト』のローウェやボーナスくんにも匹敵する隠れっぷりなんですよね、彼女。下手すると気づかないまま終わりそうな可能性もあるという。FDで救済されるのかしら。さあNavel早く『俺たちに翼はない〜Accelerando〜(仮称)』を制作する作業に戻るんだ。

 そうそう、Navelと言えばスタッフ日記コーナーに王雀孫の担当回が来てます。ヒロインズの身長はなんだか数値が変だなー、と思っていましたが、単なるコピペミスかよ。ギャフン。

・川原礫の『アクセル・ワールド1』読んだー。

 第15回電撃小説大賞「大賞」受賞作。副題「黒雪姫の帰還」。今やライトノベル系新人賞でもっとも注目される賞となった電撃小説大賞、今年の大賞受賞作はなんと始めからノンブル(巻数表記)付きで、続編の刊行を明確に意識したうえで販売されています。大賞取った作品がシリーズ化されることは別段珍しくない(というより、過去の大賞作品は大半がそのままシリーズ化されている)けれど、最初からノンブル付きだったという例はこれまでありません。電撃文庫はノンブルに慎重で、新シリーズを出版する際も「1」とか「T」とかあんまり付けないんですよね。「1」と表記しておいて2巻目がいつまで経っても発売されなかった本があるせいでしょうか。さておき、この『アクセル・ワールド』。直訳すれば「加速世界」で、本編の内容もだいたいそんな感じになっている。作者は「ソードアートオンライン」という別名義にて発表したネット小説で有名な人らしいものの、そっちは全然知らん。これも文庫化されるそうで、巻末の広告からするとなんか『クリス・クロス』っぽい雰囲気です。……って、検索して初めて知ったけど、マリみてにも『クリスクロス』なんつータイトルの巻があったのか。ビックリしました。

 太っていて、汗かきで、自信がなく、いじめられっ子――昔からそんな調子で、毎日辛い思いを引きずって過ごしていた中学生ハルユキの前に、一人の少女が手を差し伸べた。学内で一番の有名人、類希なる美貌を有する副生徒会長、人呼んで「黒雪姫」。彼女はハルユキと直結(有線直結通信)し、「BRAIN BURST」という謎のアプリケーションを送信してくる。迷いながらも「この現実が壊れるなら」と指先でそれを起動したハルユキ。瞬間、彼は1000倍に加速する世界、「アクセル・ワールド」へと足を踏み入れることになって……。

 説明するのを忘れていましたが、話の舞台となるのは2040年頃、首筋に挿す「ニューロリンカー」という携帯端末を通じて脳をネットに接続し、五感を通じて様々な情報がダウンロードできるようになった「ややサイバーパンクチックな日本」です。まだ完全に肉体を捨てるところまで行かず(中にはそういう人間もいるみたいですが)、生活および学業の補助やコミュニケーションツールとして利用されている。ニューロリンカー同士をケーブルでじかに繋ぐ「直結」はセキュリティ的な問題もあって通常親兄弟か恋人・配偶者の間でしか行われないアクションとなっており、主人公は始まって早々にフラグを立ててしまうわけですよ。何せ一種の「合体」であり、紛れもない「結合」ですからね、それも衆人環視の中で遂行するとあっては……考え方によっちゃかなりエロい構図だ。

 さて、ニューロリンカー云々といった「発達した情報社会」にまつわる設定は物語の土台を築くためのものであって、本題は「ブレインバースト」というソフトの方。平たく書けば脳の認識スピードを加速し、1000倍――つまり1秒を1000秒(16分40秒)に引き延ばすっつープログラムです。解説書いてる川上稔の用語で言えば「加圧」に近いか? 加速するのは原則的に思考と認識だけであって肉体は追随せず、代わりにアバターを介して体感時間30分、実時間1.8秒のリミットとともに加速世界(アクセルワールド)を動き回る仕組みとなっています。そして当然の如く、敵と遭遇し次第、超常バトルに突入。概要だけ拾い読みすればSFサイキック小説と勘違いしそうになりますが、ミソとなるのは「対戦するのはあくまでアバターである」というところ。つまり、感覚としてはサイキックってより単に「手の込んだゲーム」なんですよ。ブレインバーストを使えばいくらでも凄いことできるのに、よりによってゲーム。それも体力ゲージや必殺技ゲージ、制限時間の付いた昔懐かしい対戦格闘ゲームです。段階が進めばMMOじみた「集団戦」も始まるらしいが、1巻の時点ではまだ主人公のレベルが低いからそこまで到達しません。ブレインバーストには回数制限があり、カウントが0になると加速不可能状態に陥ってしまう。それを防ぐために、バーストリンカーたちは対戦を通じてバーストポイントを奪ったり奪われたりする、ってな寸法となっています。加えて、一定数のポイントを獲得するとレベルアップしてデュエル用のアバターが強化される。単純明快、凝っている割に分かりやすい設定だわ。おかげでサクサクと没入できました。アストラル体を飛ばしてどうのこうの、なんていう一昔前のサイキック小説よりもこっちの方が今の世代には受け容れやすいのかもしんない。

 主人公が不細工なのはまだしも、ウジウジといじけきった自己嫌悪の塊なのは精神的にキツくて読み始めが少々辛かったが、一度決心を固めれば熱血少年マンガにも負けない意地を突き通してくれるので最終的な読み心地はそんなに悪くなかった。むしろ良かった。個々の設定や展開だけを抜き出せばごくごく新味のない、ありがちなボーイ・ミーツ・ガールなんだけども、配列が整っているおかげか順当に盛り上がってワクワクさせられる。混じり気なしに「続きが読みたい」と思いました。でも、うーん、強いて書けばキャラクターがありがち……というか無難の域を出ないかな。主人公がヒロインのために戦おうとするのも理屈としては飲み込めるが、感情面での焚きつけが足りなくて、「状況に流されている」っていう感触が拭えなかった。「これしか買えなかった」ケーブルの件は露骨すぎて蕩けたが、お互いが惚れ合う過程はもっと欲しかったところ。次巻はストーリーの続きとともに主人公カップルのLOVE寄せも期待したい。そして巻末解説の川上稔はイイ具合に狂っていて安心しました。他所の本でも猫被らないなこの人。しかしホライゾンの2巻はいつになったら出んの?

・拍手レス。

 放課後プレイ買いました、最後の展開で沃野が思い出されたのか何かの運命か。
 あれが「最後」ではなく「スタートラインに立った」のだと思いたい。まだ放課後は始まったばかりだぜ……。

 http://d.hatena.ne.jp/ruitakato/
 どうやらマジっぽいですな、高遠るい作画のジェネラル・ルージュの凱旋

 ネット書店でも既に入荷してますねー。地元の本屋で見かけたら買っておこう。

 シンジくんがエロゲに…               いいぞもっとやれ
 まじこいのことっスね。第二形態のルル山といい、さすがにこのキャスティングは予想外すぎる。


2009-02-18.

AXLの新作『Like a Butler』、マスターアップ

 体験版も出てるんでちょろっとやってみた。登場人物たちの顔見せがひと通り済んだだけのあたりで終了するため、物語の向かう先がいまひとつよく分からなかったが、例によってAXLらしく安定した出来映えでした。でも今回は個人的にあまり惹かれる要素がなかったかな……面白くなりそうな気配はあったんだけど、「こりゃ面白い」という確信を掴む前に終わってしまったんであやふやな印象。体験版の範囲内ではそれほど大きな盛り上がりってないんですよね。すごい窮地に陥るってわけでもなく、本編に入ってからもしばらくはこのまま平和な状態が続きそうな具合であるからして、つまりヒキが弱い。序盤に何か「切り抜けなければならないピンチ」が用意されていれば違っていたかもしれません。うーん、そろそろ「予約して発売日に買う」という己の習性を矯正したいところだし、ここは一旦スルーして様子を見ようかと。

 と、そう書きつつも、実はセーラ・アップルトンと秋津原瑞穂のふたりが気に入っていたりする。セーラは事前情報からこう、「カタコトで喋る空気の読めないバカ女」という身も蓋もないイメージを抱いておりましたのに、意外と愛嬌があって憎めなかったっつーか惚れた。「かじゅきもういい」にイラっとするどころか胸がトキメス・トリスメギストス。思わず咄嗟に『超昂女セーラ』というFD企画まで脳裏をよぎりました。瑞穂は中の人が設子とか「やちまたー」を演じた声優さんなので、どうしてもボイスから設子を連想してしまいイメージの調整に苦慮しましたが、今回は丁寧かつ無礼なメイドという役柄であり、愛想があるのかないのか判然としない茫洋とした受け答えが妙に嵌まっていて良かったです。そしてサラサラさんこと御星更紗は例によって例の如くゆかりキャラでした。以上。

 ……え? 弓野奏? そういえば、一応あの子がメインヒロインだったか。出番が多い割には不思議と影が薄い気がする。勇気振り絞ったセリフを主人公に「ふーん」と流されてショック受ける描写は可愛いが、まだ「溜め」の段階なのか活躍らしい活躍、見せ場らしい見せ場は訪れず、「雌伏がデフォルト」というキャラになってしまっている。いきなりアウェーに連れてこられたという事情はあるにせよ、もちっと「あるじ」らしいところを見せなければ、すぐに他のヒロインたちに存在を喰われちゃいそう。本編ではどれだけ主人公とプレーヤーの庇護欲をそそれるか、が勝負になるでしょうね。

Navelの『俺たちに翼はない』、プレー中。

 三章「成田隼人編」の後編をクリア。この章はフラグ立ったときと立たなかったときで前編の内容がだいぶ変わりますね。大まかな流れは一緒なんですけれど、具体的に書けばフラグが立つと鳴の出番多くなり、反対にフラグが立たないと亜衣の出番増えるって寸法。あるいは一章か二章で既にフラグがスタンディングしてると、自動的に鳴ルートへ差し掛かる道を断ち切られる。俺翼というソフトは「とにかく真っ先にフラグの立った章が優先される」ようで、そこが攻略のポイントになっています。つまり、三章を攻略したければ一章や二章のフラグはしっかりポッキリ折っとけー、ってことです。こういう攻略法を昔ながらの言い回しでは「オンリープレーに徹する」と申します。基本に忠実たれ。さすれば攻略に詰まることはありません。

 で、ようやくお目見えした真・成田隼人編。驚いたことに、鳳鳴の出演シーンがメッチャ増量されてます。三章のメインヒロインなんだから前面に出張ってくるのは当たり前っちゃ当たり前ながら、フラグ立てずにやると存在自体が記憶から抹消されそうなほど影の薄い役回りになってしまうので、一・二章の攻略を優先したプレーヤーは雲泥の差とも呼べる扱いの違いっぷりに喫驚を禁じえないはず。おお、この娘、本当にメインヒロインだったんだー、的な。理屈として頭に叩き込んでいたことがようやく実感して染み渡ってくる塩梅。さすがに出番多いと中の人の熱演も相乗してキャラ立ってきますね。幼く明るくか弱く、というイメージを裏切るかの如く結構イイ性格した図々しさと舐め切った言動で主人公を振り回してくれる。主人公が鳴に惚れる過程が若干弱いかな、と思わなくもないが、そこはそれ、周りから弄られまくる主人公が可愛いのでヨシ。つか、この章はヒロインよりも主人公が可愛くて鳴さん微妙に立場なくね? あと待望だった鳴と亜衣のプチ修羅場も目撃できて余は満足ぢゃ。大岡裁きで子を取り合う母のように左右の腕を引っ張り合う少女たち、という構図は次世代にも語り継いでいきたい魅惑のレガシーです。

 忘れかけていた本題「自転車探し」も俎上に載せられ、「鳴はなぜなくした自転車にこだわっていたのか?」という謎も解き明かされる。いや、別そんな大した謎じゃなく、ごくごく素朴な代物なんですけど。しかも一個の自転車を巡って二転三転した割にはオチが脱力必至であり、何とも締まらない話になっています。そんかわし隼人と鳴はラブラブで、見ていて頬が緩むこと緩むこと。中でもエロシーンは愉快で笑った。地の文にさりげなく紛れている「肉の細道」とか、玉袋揉みながら「もんまり、もんまりー」とか。「鳳ア鳴」は本気でヒドいと思いました。しかし、前編が終わらないうちからエッチに突入するんで「あれ? これって四章やんの? それとも迂回して終わんの?」と疑問がよぎったところ、自転車探しにケリがついたところでおもむろに四章前編へ。然る後、後編が幕上げします。

 前編と比べれば圧倒的に短く、また後日談めいた性格も強いため、後編というよりか「少し長めのエピローグ」っつー感触。まあ、それでも2時間くらい掛かりますが。前編がキレイに終わりすぎた反動か、後編は割と崩す方向に行ってますね。「俺らのシリアスは全部ギャグへの前フリ」を地で証明するテンション。何気に『それ散る』を彷彿とさせる細かい引っ掛け要素が用意されているのも如何にもしゃらくさくて嬉しい。ただ、亜衣の処遇が……不憫すぎるような。女生徒Aよりも報われていない気がしますよ。同じ片想いでも、物陰からストーキング紛いの熱い視線を送るタイプじゃなく、こう、近くにいるのに届かない、みたいなノリなんで。村上春樹の「螢」(僕はそんな闇の中に何度も手をのばしてみた。指は何にも触れなかった。その小さな光はいつも僕の指のほんの少し先にあった。)にも似たもどかしさが付きまとう。コーダインこと亜衣ぽんが攻略できないのは何か重大なバクではないかと推測されますので、是非ともFD『俺たちに翼はない〜Requiem〜(仮称)』の発売を目処にfixしてほしいものです。え、やだ、そんなFD、ホントに出るとしてもいったい何年後のことよ。あと、カラスこと針生蔵人が「保護観察中の身」と漏らしているけど、やっぱり例の「セントヘレナの連中十数人を返り討ち」が原因なんでしょうか。

 ひと通り一章から三章までをやり終えますと、死んだはずのDJコンドルがなんとなく復活を果たし、四章を攻略するフラグが立ったと告げます。恐らく四章は核心中の核心に触れる内容となっているはずですから、迂闊に踏み込まぬよう攻略制限が掛かっていたのでしょう。逆に言えば一〜三章さえオールクリアしているなら、四章の後編へ至る道筋はハナクソほじりながらでも易々と罷り通ることができる。にしても、これが終わればたぶん俺翼はコンプ、ってことになるのか。感慨もひとしおのような、なんだかちょっと寂しいような、複雑な気分。つってもPreludeのおまけシナリオ「ある日の狩男」やドラマCDシリーズはまだ手付かずのままですし、恐れることなく立ち向わん。

・拍手レス。

 Like a Butlerの体験版は一区切りついてからですかね?AXLはあいかわらず良い仕事してますよ〜
 今回は少し短い気がするっつーか、もうちょっと先まで見たかった……。

 電撃放課後プレイ、追加納品のようです。ここで存在を知った俺大歓喜!
 このコメント見て早速注文した当方も大歓喜です。


2009-02-15.

・参加者全プレの「一巻が売れないと打ち切られる「しなこいっ」をなんとか延命させようキャンペーン!」(リンク先の下方)とか必死すぎる盛り上げ企画やっていた『しなこいっ』が無事先月末に増刷されていたそうでほんのり喜んでいる焼津です、こんばんは。

 前にも書いたけどタイトルは「竹刀短し恋せよ乙女」の略。ゴチャゴチャしていてストーリーが分かりづらい等の難点もあるけれど、絵柄と剣術描写がすごく好みで是非とも2巻以降が読みたいと思っていたんですよね、あのマンガ。打ち切られなくて良かったと胸を撫で下ろしております。今更すぎるけど応援の意を込めてチラッとバナー張っとこ。

「しなこいっ」紹介ページ

Navelの『俺たちに翼はない』、プレー中。

 二章「千歳鷲介編」の後編をクリア。一応選択肢は出てくるけどそれはお遊び程度で、キホンまっすぐ一本道ですね。日ょ子まっしぐら。ツン系というか愛想がなく、融通が利かない難儀な性格をしている玉泉日和子、結構ナチュラルに暴力を振るう場面もあるためウンザリするプレーヤーもいるかもしれません。しかし関係が進むにつれ、徐々に蕩けて弾けて乱れていく日ょ子を見ればアラ不思議、ズブッと心臓に恋の矢が突き立ってしまいます。お尻のぷりんとしたキューピッドが放つ可愛らしい矢などではありませんよ、そりゃもう鏃にエグい返しが付いた「抜けば死ぬ」系の致命的アローですよ。鷲介が取り乱して支離滅裂な言動に走るのもむべなるかな、といった塩梅。日和子の生返事癖とか、「いつになったら機会が訪れるんですか」という叱責に対し後々「いつになったら心の準備ができるんですか」と逆襲する鷲ちゃんとか、細かい部分を繰り返し利用して輻輳状態を作り出す手際も卓越しております。王雀孫の器用さが惜しみなく発揮された章と言えるでしょう。

 舞台はほとんどアレキサンダー内に限定され、それ以外は出版社や街のエピソードがポツポツと絡んでくるのみ。冒頭は一章の前編と繋がっていて、鷲介が明日香と会話するシーンも収録されていますが、S香様の出番はそのワンシーンだけ。鷹志君の問題がどうなったかは有耶無耶なまま。放りっぱでエンドを迎えるのでちょいと落ち着かないものの、たまひよとの関係はこれ以上なく濃密に描いてくれますから良かった、自分はこのエロゲーをプレーして良かった。タマちゃん先生はまこと素晴らしい。ヒロインが小説家――という設定は絵的に地味でアピールポイントが少なく、また小説家としての仕事を描こうとするとクドくなってしまったり逆に薄すぎて実感が湧かなかったりする。「適度」と呼べる範囲を保つのが難しいネタです。そのへん、おれつばは群像劇という要素を活かし、鷲介や日和子が一瞬だに会うことのないキャラクターさえ細川玉木(日和子の筆名)の本を読んでいる、なんつー別章のなにげない日常描写で「細川玉木っちゅう作家がいる」ことを無理なく物語に織り込むわけです。とにかく、おれつばは人間関係の交錯が面白くて仕方ない。ヒロインの日和子からして、実は渡来明日香や女生徒Aこと林田美咲と面識があるわけですし……ってアレ? そういやこれ、本編じゃ全然触れられなかったな。Preludeでは明日香と日和子が先輩・後輩の間柄で会話を交わすシーンがあったし、そこを踏まえて一章終盤の「前に委員会で会ったことある子=玉泉日和子」と類推できる仕組みになってるんですが。うーん、冷静に考えると日和子の立ち位置って微妙にヤバいよな。本編では描かれずに終わったアレコレを想像するだけでゾクゾクしやすぜ。

 人間関係で思い出しました。アレキサンダーの男性従業員の中に「テラヒドス」みたいなネットジャーゴンをまくし立てる奴がいて、声優さんの熱演に不快を通り越して感心しちゃったんですが、アレ、要はにちゃんねらーに対する皮肉か何かだろうと決め付けながら聞いていまして。ふと名前欄を見たら、「山科」――って、こいつ「トシ兄さん」かよ! 解説しときますとPreludeで「週に二回のバイト以外、部屋にこもってネット三昧」と言われていた京のいとこ。他にも美咲の発言である「ピューなんとか賞」が持ち上がったりします。クソ、こんなところにまで「Preludeやってないと分からないネタ」混ぜるなんて、Navelのエゲツなさは際限ねぇな。

 ともあれ、アレキサンダーはオールウェイズ楽しかったし、ひょこたん可愛くて腸が捩れまくったし、日和子と恋人同士になった以後もちょっとだけ話が進みますし、至れり尽くせりで特に目立った文句が出てこない章でした。平和ボケ一歩手前のピースフル時空間がたまらんわぁ。あとキナコさんの制服姿が予想以上にピッタリ嵌まっていて思わず胸がギュンター・グラス。はてしなき望月。あれで街に飛び出していった日和子とたまたま遭遇して「鷲介さんはそんなに制服が好きなんですか!」と荒れ狂われたら完璧だったのに。ムネーン。

・その『俺たちに翼はない』、発売から2週間経って潮時と見たのか、隠しキャラが公開されています。まだ攻略中で、「どんな隠しキャラがいるのか知りたくない」という人はしばらく公式サイトを避けること推奨。

・拍手レス。

 今回の電撃小説大賞「アクセルワールド」、解説を川上氏が担当してるんですが…、アレにGOサイン出した担当編集は正直イカれてます(褒め言葉)
 アクワ、実は既に読み終わってます。でも感想書くのは俺翼が一段落ついてからになりそう。そしてカワカミンのアレは確かにイカれていました。


2009-02-12.

『ヘブンズ・ドア』という映画がやけに既視感を誘うなぁ、と思ったら何てことはない、『ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア』のリメイク作品だった。ひどく得心の行っている焼津です、こんばんは。しかし男二人のコンビを男女のカップルに変更するとか、ホントにラブロマ系が好きですね、邦画。男同士で色気がないからこそ、出だしの低調さを裏切るようにしてジワジワ盛り上げていく――って芸当が可能なのになぁ。クサくなりすぎないかちょっと心配ですけれど、評判は悪くなさそうで興味をそそられます。

Navelの『俺たちに翼はない』、プレー中。

 一周目はバッドエンドだった……気を取り直して頭から再攻略に掛かり、一章「羽田鷹志編」の後編に到達しました。後編へ辿り着くにはどうも前編で明日香のみならず瑠華(こと山科京)ともフラグを立てなければならないらしい。一章はダブルヒロイン制で、明日香と京、どちらかを選ぶ仕様になっています。どちらも選ばないとバッドエンド直行。何事も成し遂げることができず「空っぽの物語」として終わるのかと思いきや、このバッドエンド、最後に意外な救いの手が差し伸べられる。なので必ずしもバッドエンドとは言えない。虚を衝かれたと申しますか、こういう不意打ちはBEスキーとしても嬉しいですわ。問題はPreludeやってないとネタの意味が分かんないかもしれないってことですね。

 後編の主な内容は「卒業文集の制作」で、鷹志と明日香と京、そして針生蔵人の4人が班を組んであれこれ会話を交わしながら作業を進めていく、っつーただそんだけの、何の変哲もない代物となっています。合間合間で高内にイジメられるのがムカつきますが、それを除けばごくフツーに青春していて清々しい。大まかな話の流れは明日香ルートも京ルートもほぼ一緒で、共通パートが多い構成となっている。明日香寄りの選択肢を取れば明日香、京寄りの選択肢を取れば京。ごくごくシンプルゆえ攻略に手間取ることはありません。けども、山科京は自律神経がアレで安定剤を服用しまくっている割とガチな依存っ子であり、別の意味で攻略が難しいかもしれず。明日香ルートは一本道ながら京ルートには分岐があって、しっかり付き合えばグッドエンド、蔑ろに扱えば無論バッドエンド。返信がなくてもガンガンとメール送って相手の受信フォルダをいっぱいにしてしまうようなメンヘラを蔑ろにすればどんな目に遭うか、さほど想像力が豊かでない方でも予想がつくと思います。当方もたやすくピキーンと来ます。放課後に京をほっぽらかして帰るかどうかって選択肢が表示されたとき、「選べというのか……これを……」と呻いた。そして震えながら「帰る」をポチリ。恐ろしい。心底恐ろしい。このときばかりは自分という人間が仕込まれたバッドエンドをすべて確かめないと気が済まない性格であることをつくづく恨んだ。もちろんNavelは僕らの恐怖を裏切らずに鮮血の結末をご提供しくさった。こ、怯ぇ〜。直前の修羅場は案外とのんびりしていて愉快だったのに……声優さん、迫真の演技をしすぎです。

 明日香ルートは鷹志が明日香の力を借りてグレタガルド云々の問題を乗り越えてともに結ばれる、王道的かつ正統派のストーリー。一切ケレン味がなく、変化球を求める向きには退屈で不満を覚えるかもしれませんが、程好い具合にまとまっており安心して雀孫テキストを楽しめます。とにかく明日香のキャラが良い。良すぎる。受け答えのテンポが実に歯切れ良くて、「なんだと」「そういう日もある」という口癖(ってより、定番の決めゼリフ?)もうまく嵌まっています。普段は媚びの少ない低音ボイスが、両想いになった途端、えも言われぬ艶を帯びるあたりも良い。元よりイチャイチャラブラブ描写には定評のある王雀孫のこと、お互いの好意の矢印がぶつかり合う様をこれでもかと丹念に見せ付けてくれる。特に結ばれてからのふたりは濃厚なバカップル臭を漂わせているので、読んでいて頬がニヤけてしょうがなかった。明日香かわいいよ明日香。初見の印象からここまで伸びる例も珍しい。あと、初夜ではしおらしかった子が明くる朝に足コキ→前立腺マッサージのコンボを決める例も珍しい。S香様真性だよS香様。あらゆる意味で最高のプリンセスです。とはいえ、告白して即エッチ、翌朝を迎えればもうエンディング――と終盤の展開が駆け足で、仮面彼氏・仮面彼女だった鷹志と明日香が「本当の彼氏彼女」になってからのイベントがほとんどなかった点は悔やまれますが。もっと嬉し恥ずかしな学園ライフを覗き見たかったぜ……卒業まであと2ヶ月ちょっとはあるんだから、せめて一個か二個はイベント欲しかった。残念極まりなし。にしてもこのルートにまで「Preludeやってないと分からないネタ」を突っ込むなんて、さすがにヒドくね?

 京ルートは……というか、そもそも山科京の説明自体がまだだったか。立ち絵では右顔面が髪の毛で隠れている、まるで鬼太郎みたいな容姿をした子です。妖怪アンテナっぽい毛もある。上述した通り神経がアレでアップダウンの差が激しく、また依存癖があるようで、付き合いだすと加速度的にベッタリ度が増していく。端的に書けば「重い」の一言に要約されます。アップ時のアイアムゴッド系トークはまだ笑えるものの、ダウン入ったときの超卑屈な発言の連続には辟易することもしばしば。おれつば中、もっとも好悪の分かれるキャラでしょう。位置づけとしては『君望』のマナマナ、『つよきす』のよっぴーに相当するかと。明日香と鷹志の組み合わせが「バカップル」だとすれば京と鷹志は「京依存」。あっ、誤字った……でも間違いじゃない気もするしいいか。正直ヒくところもあって個人的には好めないシナリオですが、「至高」と噂のフェラ顔は確かになかなかのものであると認めるに吝かでありません。ベリッシモ(上等だぜ!) 他、主人公の特性を活かし、「想いの重さを感じられない」という処理を施している部分に関しては素直に面白かった。でも結局のところ不穏なのか不穏じゃないのかいまいちハッキリしないまま幕を下ろすため、若干据わりの悪さがありますね。

 この章はメイン張ってるダブルヒロインもさることながら、年上なのに留年して同級生になってしまった先輩、針生蔵人が印象深いですね。十数人の不良どもを返り討ちにして「インテリヤクザ」の異名を取った人。Preludeやったとき、「こいつと鷹志が仲良くなったらオモロいだろうなぁ」と、その状態を半ば「ありえないこと」として認識しつつ望んでいたら、マジで微弱な友情を築く展開カムイン。ちょっと流れに御都合な雰囲気を感じないでもないが、まー些細なことです。実際オモロいんですから。何がオモロいって、そりゃ鷹志の影響でギャルゲーにドハマりしてしまうベッタベタでお約束なイベントが。つーか渡された『シャッフル!オン・ザ・ステージ』について「どいつも同じ顔じゃねぇか」と爆弾発言かますなんて、ホント自重を知らない先輩だ(一応、「ギャルゲーに馴染みがないからすべてのキャラを“アニメ絵”でひと括りにしてしまったんだろう」という鷹志のフォロー的解釈が入りますけども)。あとは王雀孫自身の発言(俺翼はいいからアリステイルで誰が一番萌えたか? とかの話をしようぜ)をパロった「まあ、明日香なんて三次元のクソ女はいいから、バーベナ学園で誰がいちばん萌えるか? とかの話をしようぜ」というセリフがあったり、ホンに先輩ってば自由すぎっわ。美空学園のアンチェイン・ピープルだわ。よもやここまでネタに走る人とは思わんかったわ。

・拍手レス。

 「名前のわからないものにぴったりの名前をつけてやる職業」なんてのがあったらすごく儲かるんじゃないかと思います。作品タイトルに限った話じゃなく。
 商売でやるとしたらコピーライターの職掌になりそうですね。ただ、付けるだけじゃなく普及させる段取りまで組まないと実用性が低くて儲からないような。


2009-02-09.

・ニタニタと笑み崩れながら『放課後プレイ』を読み耽っている焼津です、こんばんは。若干エロいタイトルながら成年コミックではありません、あしからず。最後ギリギリのトコまで行ってるけどな!

 放課後、引きこもり気味のゲーマー男とSっ気たっぷりで黒タイツ着用なゲーマー女がゲーム関連の話題でくっちゃべってイチャイチャドキドキする、ただそれだけの内容です。しかし、それだけで充分極まりない。パッツン黒ロング&ツリ目の三白眼&黒タイツと三拍子揃ったヒロインのサド容姿がツボを突きすぎですんで。おどろな髪大好きっコとしては表紙イラストを目に止めただけでエレクトせざるをえません。こういう毛の末端まで神経の通ってそうな靡きヘアーはホントたまらんですよ。ギルティギアもミリアばっか使ってたっけな……ことあるごとに主人公を踏んだり蹴ったりと暴虐の限りを尽くすヒロインさんですが、開始時点で既に付き合っているらしく、勿体ぶることなしにしょっぱなからデレまくっています。顔に「ベタ惚れ」という文字が浮かび上がりそうな勢いで迫るのだからヤバイ、もうオチとかどうでもいい。しかし肝心なところで押し切れず、結局いつも有耶無耶になってしまう。毎回、デレとデレの間に微妙なヘタレが入ってます。言うなればデレヘデレです。ところで今気づいたんですが林田球って「リンダキューブ」のもじりですか?

 ヒロインと男のふたりしかキャラが登場せず、まさに「ふたりだけの世界」を満喫させてくれる『放課後プレイ』。いつエロシーンに突入してもおかしくない雰囲気を放っていて、読んでるこっちがドキドキだ。つか、ホントふたりしか出てこないのでわざわざ名を呼び合うシーンもなく、こいつらの名前が不明で紹介文書きづらいわー。「部長」というのがいるらしいけど、話題の端にチラッと上る程度で顔を出すことは一度もない。かなり閉じていますね、環境。ちなみにこのマンガ、「Studio BLUE MAGE」というCGサイトでプッシュされていたことが切欠で注目したっつーか、要するに2008年07月26日付の絵を見て「買わねば!」といきり立ち、1巻が発売される先月末までの半年間を指折り待機していた次第です。んでここ、『雷撃放課後プレイ』っていう同人誌を出しているそうで、『放課後プレイ』に巡り逢わせてくれたお礼もかねて同人ショップの通販で注文しようと勇んで検索したら、なんと在庫切れ。なんてこった。アフタースクールならぬアフターフェスティバルだよ老媽(おっかさん)。悔しいけど『祭り後プレイ』だと浴衣着てお粧ししたサド嬢が男と連れ立ってうら寂しい境内をトボトボ歩いて最終的に茂みの陰で怪しい行為に及ぶ様子が滾々と脳裏に湧いてきてそれはそれで読みたい気がするよ大哥(アニキ)。チクショウ、入手できないと知るとスゲェ欲しくなるな……「お礼もかねて」などというお為ごかしはかなぐり捨て、他を押しのけてでも購入する気概で臨むべきだったか。時既にお寿司。

 ところで、なんとなく「1巻」と書きましたが……実はこの本、ノンブル(巻数表記)が打たれておらんのです。話もキリの良いところで終わるので「ひょっとして一冊完結なんだろうか」と不安になって調べたところ、“電撃PlayStation”の付録「電撃4コマ Vol.71」に最新話が「放課後プレイ Sadistic」というタイトルで掲載されている模様。他にも「放課後プレイ アペンド版」やら「放課後プレイ2」やらがあるそうな。初日から物凄い売れ行きで早々に品切に陥った書店も珍しくなく、一週間で重版が決まったとのことですし、未収録分をまとめた2巻目的の刊行はまず安泰かと。ワクワク、というよりギラギラして待つとします。

天才的な作品タイトル(アルファルファモザイク)

 短編小説あたりが凝っているタイトル多いって印象あります。長編だと本の題名にもなりますから、ある程度マーケティングとの兼ね合いが必要になってきますけれど、短編はそういった制約が少ない分だけ自由度が高くなるんじゃないでしょうか。「日々移動する腎臓のかたちをした石」(『東京奇譚集』所収)とか、格別村上春樹が好きでない当方も心を掴まれました。アヴラム・デイヴィッドスンの「そして赤い薔薇一輪を忘れずに」(『どんがらがん』所収)はタイトルがオチになっていて、こういう仕掛けも短編ならではですね。そしてここ数年読んだ中でもっとも圧倒されたタイトルが「墓から伸びる美しい髪」(『苦悩のオレンジ、狂気のブルー』所収)、これが単に「墓から伸びる髪」だったらおどろおどろしいイメージを抱くだけですが、「美しい」の形容詞一つでそういうホラーっぽいムードを払拭してしまう。「墓から伸びる/美しい髪」――前半部と後半部のギャップも本文を読み出せばたちまち解決するわけで、巧いナァと唸った次第。

Navelの『俺たちに翼はない』、プレー中。

 遂に四章へ到達。「???編」です。さすがにネタバレなので伏字です。つーかこれ内容に触れらんないな……何を書いてもネタバレになってしまう鬼仕様であり、詳細なる感想の記述はオミットせざるをえない。抽象的に表現すれば「うわぁ」ないし「あちゃあ」の一言に尽きます。予想できたかどうかで申せば、まったく想像しておりませんでした、この展開。いざ迎えてみたら「あー、あれはそういうことだったのか」と納得できる点もいくつかあるのですけれど、手が込んでいるというか何というか……6年半も待たせたのは伊達じゃねぇなオイ。いろいろパネェことになってるなマジで。全然さりげなくないそれ散るネタまでありました。

 というわけで「???編」への言及は避け、以降は一章から三章の後編にまつわる感想に徹しようかと。いずれおれつば全体の感想文をまとめるつもりなので、そのときはネタバレ全開で「???編」について語りたく存じます。じゃ今回はこのへんで。

・拍手レス。

 lightは許してませんが、「さかここ」が面白かったから、「どんちゃんがきゅー」も買ってしまいそうな悪寒。
 というか完全版の配布開始が今年下半期って遠すぎるっつーの。

 今年中に間に合うかどうかも半信半疑。香純・マリィの2ルート改稿verだけでも出ればいい方だと思います。

 ソリッド・ファイター完全版の通販が始まったようですよ。近所や隣の府のアニメイトまで探して見つからなくて、絶望したのも良い思い出に出来そうです。
 この調子でE.G.コンバットも良い思い出に変えてくれないかなぁ……。

 泡坂作品は『生者と死者』のネタが凄かったですね。訃報はショックです
 袋綴じがしてあってそのまま読めば短編、開封すれば長編になる、って奴ですね。ヨギ・ガンジー・シリーズは亜愛一郎シリーズとはまた違った味わいがあって好きでした。

 僕らのハンサムは健在でした、次回作はいつになることやら。
 忘れた頃にまた会えるはず。


2009-02-06.

『王様の仕立て屋〜サルト・フィニート〜』の既刊を大人買いした焼津です、こんばんは。

 目下、好きなときに好きなだけサルフィニを味わえる日々を送っております。ああ至福。イタリアを主な舞台として繰り広げられるスーツ職人ストーリーながら、靴やピザなど他のトピックスもふんだんに盛り込まれていて飽きません。たまにお色気が入るけど、絵柄はさっぱりとしていて簡素、格別「すごい」ってほどじゃない。ほとんどのエピソードも基本的にはビジネス物ないし人情物です。中には「スーツ一つでここまで劇的に状況が変わるかよ」とツッコみたくなる話もありますが、それはジャンル漫画のお約束というか世界観であり、料理漫画においてトラブルが何でも料理で解決され、バトル漫画ではあらゆることが力によって決着するのと同じことです。理屈自体は分かりやすくて論旨も明確かつ明快ですし、服飾の類にまったく感心がない人間でもつい夢中になって読み耽ってしまう。登場人物たちの傍若無人さには少しばかり辟易するものの、そこらへんはコメディとして割り切れるから些細なこと。気風がよく、どんな事態に直面してもしっかりと仕事をこなす主人公に好感が持てます。紙面から「職人の技と心意気」が伝わってくる良作だ。購入代金として諭吉さんが一人姿を消したのに、まったく恋しがらずに済むクオリティを誇っている次第。あ、ちなみに女性キャラは「ジラソーレの没個性」ことコンスタンツェ・ゼルビーニがお気に入りです。全選手入場ネタでもオチに使われていて笑った。

泡坂妻夫、死去

 一報に接した瞬間、悲鳴が漏れた。しばらく何も書けなくて絶句していましたが、今ようやく頭の中が整理できてポツリポツリと一文字ずつ搾り出せるようになってきました。『亜愛一郎の狼狽』を始めとする“亜愛一郎”三部作や、『11枚のとらんぷ』『乱れからくり』『湖底のまつり』といった初期長編、驚きの大仕掛けが施された『しあわせの書』など、著書は傑作揃い。中学生だった頃からこの人の描き出す奇想が大好きで、「G線上の」と来ればアリアよりも鼬を先に連想し、『ひぐらしの鳴く頃に』でダム云々の話題が出てくると即座に『湖底のまつり』を思い出し、バキの「ITEッ!」を目にしたも即座に「『乱れからくり』(冒頭で隕石が降り、人死にが出る)!」と叫んだものでした。筆名の泡坂妻夫は本名である厚川昌男のアナグラム、という話も有名です。まだ亡くなる歳ではないと思っていただけに、ショックと同時に戸惑いの念が隠せません。昨年末に刊行された「このミス」でも今年の予定を語っていたじゃないですか……それがなぜ……なんだか言葉を連ねても混乱が深まるばかりです。

 泡坂先生、どうか、安らかに。

Navelの『俺たちに翼はない』、プレー中。

 三章の「成田隼人編」おわた。前情報として公開されていた口調から如何にもチンピラっぽい凶暴なイメージを抱いていた主人公だが、実際やってみれば案外と締まらない感じの巻き込まれキャラだった。腕は立つけど対人能力が低く、毒づきながらもみるみるうちに相手のペースに呑まれてしまう。「強いのにヘタレっぽい」というなかなか味のある造型に仕上がってます。一章の主人公・羽田鷹志もああ見えて腕っ節は強そうだったっけ……そろそろこのあたりで章と章との繋がりが朧げに見え始め、やがて終盤に至るや、おれつばという物語を包むグレタガルド云々といったネタの真意が暴露される。アリかナシかで言ったら断然「アリ」の方を支持するけど、にしてもえらく大掛かりな仕掛けだなぁ。

 この章はとにかく登場人物が仰山いるパートで、最初にキャラ紹介を見たときは「覚え切れるかよ!」と悲鳴を上げたものの、話の流れに沿って眺めていくと意外に混乱することなくすんなりと受け容れることができました。概要としては、柳木原の夜の街で何でも屋を営んでいる(依頼がない間はバイトして稼いでいる)成田隼人が、鳳鳴という少女から盗難自転車の捜索を頼まれ、それが切欠で……というわけでもないけれど、奇妙かつ不幸な偶然の重なりから自警団気取りのグループ「柳木原フレイムバーズ」と、天才パーカッショニストたるハリュー・クロードを信奉する暗黒教団「R−ウィング」、ふたつの非行少年集団が繰り広げる抗争の渦中へ飛び込むハメとなる。フレイムバーズの三馬鹿やR−ウィングの面々など、風体から喋りから、やたらと個性的な面子が取り揃っています。ダジャレ豚ことLR2001のラップ紛いなトークは長々としてウザったい、と発売前から評判だったので少しばかり身構えておりましたが、じかに聞いてみると――確かにウザいっちゃウザいが、そんなに我慢できないってほどじゃありませんでした。見た目がもろにギャル男で「チョリーッス」とか平気でほざくバニィDも普段なら明らかに許容しかねるタイプのキャラだけど、声優さんの熱演も相俟って結構聞けます。てか、この章はボイスがないと辛い内容ですね。一章や二章でも割かし砕けた感じのナマっぽいセリフが多数盛り込まれていたけれど、三章に至っては砕けすぎてボロボロ、咲夜らへんは声を当てられなかったらアブない奴というより単にアホな野郎と見做されていたことでしょう。実際アホだけど。『新本格魔法少女りすか』のりすかを思い出す(と書いて通じるだろうか?)倒置法会話術の使い手たる幼女・アリスも、外しそうでいて外さず、ユーザーのハートをしっかり狙ってくる。発音じゃなくて文法がおかしいガイジンキャラってなにげに珍しいよね。

 対立する二つの勢力と中立に位置する主人公、と来れば咄嗟に『赤い収穫』『用心棒』の元ネタ)を連想しますが、両勢力と関わりを持ちながらも抗争には無関心で特段これといって謀を凝らすこともなく、成田隼人はひたすら「個人的な都合」を優先して彼らから距離を置こうとする。しかしもちろんそれじゃあ面白くないので、厄介な事態がイヤガラセの如くピンポイントかつ狙い澄ましたタイミングで発生し、やむなく翻弄される道筋を辿っていくのです。サブキャラ大量出演でずっと賑やかなのは楽しいし、ダレそうになる頃合を見計らってサスペンスを盛り込むサービスも心憎い。前編ながら物語の核心に切り込むとあってかなりの尺が用意されていましたけど、最後まで熱中させてくれました。でも鳴のフラグ立てなかったせいか、おしまい近くは自転車探しの話題が全然出てこなくて、本気でヒロインの存在を忘れそうになる瞬間もしばしば訪れた。野郎の殴り合いとかばっかりで、艶っぽいネタとかほとんどなかったよ。エロゲーとしてどうなのこれ。

 個性バリ強なサブキャラ連中に出番を食われまくり、相対的に印象が薄くなっている悲劇のヒロイン「ホーメイ」こと鳳鳴は、ぶっちゃけてしまえば雪村小町互換(中の人も一緒)な感触が濃厚なれど、昔からの知り合いではなく初対面の男女ということで小町にはなかったボーイ・ミーツ・ガールな甘酸っぱいスメルを漂わせてくれます。でも個人的に胸キュンなのはコーダインですがね、圧倒的に。少なくとも当方がプレーした流れでは彼女がヒロインとしか思えなかった。あー、攻略されてくれとまでは言わないから、早く鳴と亜衣のふたりがハヤッくんを取り合う修羅場演じてくれへんかなー。そして何よりかにより思ったのは、「西又絵で戦闘シーンを描くのは無理がある」っつーこと、これに尽きます。御大の絵柄自体はそんなに嫌いじゃない(でも好きかと訊かれれば「いやべつに」と即答します)けど、ありゃどう考えても向いてませんよ……。

 さて次は幾重にも秘密のベールで梱包された四章へといざ赴かん。4年近くに渡って情報封鎖されてきた未知領域とあって、胸の高鳴りが止まりませんぜ。うわスゲほんとドキドキする。ゲームやっててこんなに純粋にアツくなるのはどれくらいぶりだろう。えーと、ゲーセンの格ゲーでラスボス登場に興奮→足ピーンって伸びて筐体に膝ぶつけちゃって悶絶したのが先週の日曜日だったから、5日ぶりくらいか。

・拍手レス。

 お〜久しぶりにAXL作品が購入予定に!自分も体験版が楽しみです
 いっそ体験版やらないで買ってみようかな、と迷っていたりも。

 求めていたものとは若干違いましたが、六年半待っただけの甲斐はありましたよ?
 買った当日か翌日に全クリとかだったら泣いてたところですが、今のところドップリ漬かって順調に楽しんでます。


2009-02-03.

・戦場のド真ん中に位置する非武装地帯(DeMilitarized Zone)へ出店したコンビニエンスストア、という頭おかしい設定で綴られるコメディ『コンビニDMZ』の決めゼリフ、「いらっしゃいませファッキンガイズ!」が妙に忘れられない焼津です、こんばんは。

 舞台となるのは、笑っちゃうくらい熾烈な戦闘が繰り広げられている紛争地域。周りでは頻繁に銃撃と爆撃が発生し、脳漿や臓物をブチ撒けた死体がゴロゴロ転がる殺伐たる状況に反して「うまいけ棒」っつー駄菓子を愛好する軍人や身だしなみにこだわる「おしゃれスナイパー」が出てきたりと、なんだかやたらと気が抜けるようなムードのなか終始ほのぼのとしたコンビニライフが展開される。いわゆる一種の不条理ギャグか。箒で枯葉を掻き集めているのかと思いきや、よくよく見れば空薬莢だった――ってな小ネタも仕込まれています。

 女キャラの乳が異様な大きさで、巨乳というよりブーデーに見えたりもするが、「値下げも値上げもなし すべてくそ定価です」みたいな軍隊調の下品な言い回しが不思議とコンビニ業務にマッチしている。そこらへんの様子が面白い。異常な設定の割に雰囲気はヌルいというかユルく、平野耕太系の狂ったノリを期待すればやや肩透かしにせよ、とりあえず買ってみて良かったと思う代物でした。程好く痴れたギャグ漫画を読みたいファッキンガイズにオススメ。

Navelの『俺たちに翼はない』、プレー中。

 現在、二章に当たる「千歳鷲介編」の前半戦を終えて三章「成田隼人編」へ突入したところ。二章はコミカルな掛け合いが多く、『それ散る』に通ずるノリの良さが全編を支配していて、とにかく笑えるネタが多い。ホントいろいろ仕込まれていました。が、とりあえず……「米寿とベージュを掛けやがったのか!」と。これだけは言いたかった。マスターの狩男は下ネタにこだわりすぎで若干しつこいけれど、当方自身が下ネタ大好き人間なので仔細ないというか、むしろ楽しかったです。エロゲーは18禁なんだから他のソフトたちも追随してもっと際どいところを狙うべきなのです。まさに「移植前提でポルノがつくれるか!」。ただこの章、ひたすらコメディに徹してハイテンションなムードが続くせいもあって、シナリオ書いた王雀孫は相当キツかったらしいですね。終始矢継ぎ早にネタを消費するんで、ゲラゲラ笑いつつも「ここまでよくやるなぁ」と感心しちゃいました。

 で、千歳鷲介編。定職にも就かずちあちこちの短期労働で口に糊しているフリーターが、店長から乞われて行きつけのレストランで働き始めることに……という、要するに「バイトもの」に属する内容となっています。レストランとかファミレスとかいった系統の接客業に焦点を据えたエロゲーは、設定的に無理なく自然とヒロインたちに可愛い制服を着せることができるため、学園モノほどじゃないにしろそこそこ人気のあるジャンルです。ユーザーからしても「特定の職業」を題材にするより「特定のバイト」を題材にした方が親しみ抱きやすいのかも。常におちゃらけた態度で他人を迎合する、そんな根っからピエロ気質の千歳鷲介が恋をした相手は「笑わない女」こと学生作家の玉泉日和子(ペンネーム・細川玉木)。デビュー作が好評だった割に受賞後第一作の長編が鳴かず飛ばずで、ふたたび元のバイト先であるレストランに出戻ってくる。根っから真面目気質というか固くて融通の利かない性格をしている日和子は、度重なる不幸な偶然(うっかり着替え見ちゃった、みたいなラッキースケベ)も影響してどんどん鷲介を嫌っていく。人から嫌われることに恐れを抱いている鷲介は何とか挽回しようと努力して……という、要するにラブコメの「最悪な第一印象を地道に払拭していくことで親密になる」パターンを踏襲した筋となっています。この章でもたびたび「グレタガルド」の単語は出てきますが、直接話題として取り上げられることはなく、一章との関連は不明確なまま。主人公とヒロインの関係が徐々に上向いてきた、っつーあたりで前半がエンド。幕間を挟んで三章がオープン。ネタの密度が濃い章だったせいか、一章ほどには不満を感じさせない幕引きでした。でも相変わらず全体のストーリーがよく分からねー。でもキナコさんのちょいポッチャリした顔つき(中んずく猫口ver)に癒されるから構わんわー。

 三章は奇人変人が跋扈する夜の街を舞台に自称「ハードボルイド」の便利屋が主役を張る章らしく、如何にもIWGP路線の匂いを発していてこれはこれで面白そうだったけど、Preludeに収録されていた千歳鷲介編のプロローグがどこまでの範囲だったか、何となく気になったのでおれつば本編を終了しPreludeの方を起動。サラーッと「千歳鷲介編プロローグ」をプレーしてみ……あれ? コレえーりんの声違くね? どー聞いても別人としか思えない。い、いったい当方の知らぬところで何が起こっていたというんだ? マジで知らないうちに声優変更とかあったのかしら。戸惑いながら調べたら、公式サイトに去年の12月8日付けで「声優変更のお知らせ」が出てますね。耳の錯覚ではなくガチだったみたいです。ハー、まったく情報をキャッチしておりませんでした。己の不明を羞じつつプロローグを進めたところ、合コンごっこの翌日、鷲介がアレキサンダーに電話して即採用される場面で結となってました。なんだ、体験版の範囲ではまだ働き出していなかったのか。ついでに一章の体験版もわざわざダウンロードしてチェック入れてみたけど、なんと、こっちは前半が全部詰め込まれているじゃないの。うーん、予想以上に扱いの差があるんだなぁ……。

 余談ながら。スカートめくるガキとか、鷲介のスタッフ番号が「21」とか、BasiL時代のネタがさりげなく混ざっていることにしみじみ。まったくもってデジャヴる喃。

(本)

 『青酸クリームソーダ』/佐藤友哉(講談社)
 『神君幻法帖』/山田正紀(徳間書店)
 『されど罪人は竜と踊る5』/浅井ラボ(小学館)
 『プリンセス・トヨトミ』/万城目学(文藝春秋)
 『アッチェレランド』/チャールズ・ストロス(早川書房)

 『青酸クリームソーダ』は久々のユヤタソであり久々の鏡家サーガ。タイトルから察するにこれまで雑誌掲載された短編群が中心になるんでしょう。書き下ろしもあるかも。ユヤタソと言えば“新潮”に一挙掲載したダンダラみたいな題名の方も早く書籍にまとまってほしいものだ。『神君幻法帖』は時代伝奇アクションであり山田風太郎オマージュ。山田正紀の時代物は結構面白いのでごく普通に期待しております。『されど罪人は竜と踊る5』はガガガ版の5冊目。順番からするとそろそろ短編集? 詳しいこたぁよく分からんが予価からして今回も分厚そうだ。『プリンセス・トヨトミ』は待ちに待った万城目学の新作。ドラマ化やら映画化やらですっかり有名になってしまい、ベストセラー嫌いの人に敬遠されているのではないかといらぬ心配を抱いている今日この頃です。変テコな設定なのにジワジワと染み透るような面白さがある、例のマキメワールドを今回も是非堪能させてほしい。『アッチェレランド』はチャールズ・ストロスの代表作であり、待望の一冊。これが読みたくてストロス作品を買い続けていたようなもんです。タイトルは舞台がアッチェレ王国であることを指していて……と本気で思い込んでいた間抜けな時期もありましたが、音楽用語で「だんだん速く」の意味。綴りを見れば「アクラセレータ」と似ているのでなんとなく分かる。連作形式のSFで、要するにサイバーパンクかな? 素養がないためちょっと説明しにくいけれど、妙に引き込まれるパワーが宿っています。

(ゲーム)

 『Like a Butler』(AXL)

 買うならこれ。ただ、まだ体験版やってないから保留中。LaB以外だと『タペストリー』くらいか、気になるのは。体験版やったらGユウスケの絵はますます磨きが掛かってすこぶる魅力的だったし、セリフを吹き出しで表示する『パンドラの夢』みたいなシステムも雰囲気にうまく馴染んでいた(ただFFDとかに比べて動作が重く、処理にもたつくのが難)けれど、なんつーか……一向に心がざわめくような感じを得られなかった。lightに関しては『Dies Irae』のアレコレにケリがつくまで傍観する方針で行くことにします。ちなみに「タペストリー」と言えば、スティーヴン・ハンターの『さらば、カタロニア戦線』の原題が「スパイのタペストリー」だったっけ。

・拍手レス。

 propeller新作……暗黒絵師?
 SD絵担当とかかな。それとも濡れ場担当……って、んなことしたら「いつ空」以上の騒ぎを呼ぶこと必定。

 一生掛かっても使い切れない金を持っていても、なお金儲けに血道を上げる連中がいるのにね・・・積読なんてかわいいもんでしょうにorz
 庭に埋めた3億6千万円をギられちゃったとかいう話もありますね。積読など児戯の如。


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