2007年10月分


・本
 『スカイ・クロラ』五部作/森博嗣(中央公論新社)
 『黒博物館 スプリンガルド』/藤田和日郎(小学館)
 『WORKING!!(1〜3)』/高津カリノ(スクウェア・エニックス)
 『虐殺器官』/伊藤計劃(早川書房)
 『ロック・ラモーラの優雅なたくらみ』/スコット・リンチ(早川書房)
 『フルーツ』/木葉功一(小学館)
 『果断』/今野敏(新潮社)
 『風が強く吹いている』/三浦しをん(新潮社)
 『ブロッケンブラッドU』/塩野干支郎次(少年画報社)
 『BAMBOO BLADE(6)』/原作:土塚理弘、作画:五十嵐あぐり(スクウェア・エニックス)
 『とめはねっ!(2)』/河合克敏(小学館)
 『絶対可憐チルドレン(1〜10)』/西尾維新(小学館)
 『不気味で素朴な囲われた世界』/西尾維新(講談社)
 『銀魂(1〜20)』/空知英秋(集英社)
 『惑星のさみだれ(1〜3)』/水上悟志(少年画報社)
 『学園黙示録 HIGHSCHOOL OF THE DEAD(3)』/原作:佐藤大輔、漫画:佐藤ショウジ(富士見書房)
 『タビと道づれ(1〜2)』/たなかのか(マッグガーデン)
 『キングダム(1〜7)』/原泰久(集英社)
 『ナポレオン 獅子の時代(7〜8)』/長谷川哲也(少年画報社)
 『魔女(1)』/五十嵐大介(小学館)

・ゲーム
 『そして明日の世界より――』体験版(etude)
 『キラ☆キラ』体験版(1)(OVERDRIVE)
 『キラ☆キラ』体験版(2)(OVERDRIVE)
 『世界でいちばんNG(だめ)な恋』体験版(HERMIT)


2007-10-31.

・なにげなく読んだ『魔女(1)』で五十嵐大介に魅了された焼津です、こんばんは。

 絵に釣られて買ってみたらハズレだった、というパターンの逆で、表紙の絵柄に内心気が進まなかったもののタイトルに惹かれて手に取りましたが、なんだろうこの世界。一歩踏み出しただけであっさりと飲み込まれてしまった。あとはただ沈むが如く没我してページをめくり切った次第。まるで芳しき沼のようぢゃ喃。正直に書いてしまえばストーリーはさほど面白くないのだけれど、そんなことで有無を言わさない堅牢な骨が物語の中心をブッ貫いています。こりゃ他の作品も読まんといけませんね……積読は溜まる一方だというのに嗚呼。

HERMITの『世界でいちばんNG(だめ)な恋』、体験版をプレー。

 HERMIT(隠者)というだけあって存在感の薄いブランドであり、前作『ままらぶ』から数えて3年ぶりとなる新作がこの『世界でいちばんNG(だめ)な恋』略してセダメなわけです。ライターには1作目から変わらず丸戸史明が参戦。狙ったかどうかは分からないけれど、今のところHERMITは丸戸専用ブランド状態となっている。丸戸が加わったソフトは戯画から出たものとHERMITから発売されたものの2種類に大別することが可能ですが、どちらかと言えば戯画の諸作が有名ですよね。しかし、HERMITはその名の通りあまり売れ線を意識しないでほそぼそと制作を続けている分、丸戸が伸び伸びと書いている印象を受け、こちらの流れを支持するファンもいます。もちろん「戯画のパルフェとかこんにゃくは面白かったけど、HERMITのはなんか違う」と拒否反応を示す人もいる。ストーリーの組み立て方にちょっと昭和ライクな古臭さが滲み、書き手たる丸戸と趣味が合うか合わないか、そのへんの違いで評価も劇的に変わってくることでしょう。

 会社からクビを切られ、何もかも失い生きる希望をなくしかけていた主人公に伸べられた救いの手――穂香と名乗った心優しき女性に惚れてしまい、いざプロポーズしようと彼女が経営するアパートを訪れたら、なんと当の穂香は娘を残して他の男と出奔してしまったとのこと。手痛い失恋のショックに呆然とする主人公だったが、いま何より辛いのはアパートに残されちっちゃな若い身空で大家として必死に頑張っている少女・美都子に他ならないと察し、穂香への想いを断とうとしつつ「一人の大人として、美都子ちゃんの保護者を務めたい」と願うが……。

 さて、本作の主人公は28歳。もうすぐ三十路が近い青年です。学生主人公がほとんどのエロゲー界においてはちょっとだけ珍しい。ヒロインも全体的に年齢が高めで、「若い女の子は好きだけどそればっかりだと食傷するよ」という人にはちょうどいいかもしれない。しかし、144cmの小躯でありながらしっかりと懸命に暮らしている美都子ちゃんは健気さに裏打ちされた怒りっぽさがたまらなく可愛らしく、ロリスキーの需要を満たすこととて吝かに非ず。主人公が189cmの長身で45cmも差がある、という分かりやすい要素で凸凹ぶりを描くあたりなど、斬新ではないんですがツボを心得たシナリオで終始安心して寛げます。

 体験版は結構ボリュームがあって、普通なら2話目あたりで切るところなのに、その倍の4話分がプレーできる。「気がついたら真夜中だった」「ふと窓の外に目を遣ったら空が白んでいた」とならないよう、体験版と侮らずプレーを開始する時間には注意されたい。正直、1話目を終えた時点ではそんなに物凄くハマるということもなかったのですけれど、次の2話目で徐々に面白くなってきて、3話目ですっかり気に入った。そうなると4話目はやめるにやめられず、結局最後まで一気にやり通してしまいました。健気で可愛い大家さんにヘンテコな住人たちと、よくあるボロアパートもの(引き合いに出される『めぞん一刻』は読んだことない……)において王道と呼ぶに足る布陣であり、更にそこへ事態をややこしくするヒロインもいろいろと加わってきてコミカルな活況を呈します。修羅場、とまでは言いませんがヒロインがビンタを繰り出すような展開を書く傾向にある丸戸だけのことはあり、気の弱い主人公が周囲の母性本能を刺激しまくって誘蛾灯の如く次々と引き寄せ「あんたって人はー!」な場面を飽かず創出します。この、ある程度は先が読めるのだけど「よっ、待ってました!」と合いの手を入れたくなるテンポの良い展開がグッド。手堅くて抜かりのない筆致だ。

 11月は購入予定のソフトが多くて捻じ込む隙間がなさそうだから一旦様子見するつもりですが、また機会を見て査収する方針。少なくとも、思っていたよりかはずっとイイ出来になりそうです。ちなみに当方はモチ美都子たん(*´Д`)ハァハァ派なのであしからず。今回主人公にボイス付いてますが『あやかしびと』の双七と同じ人なのであらかじめ慣れていたしキャラ的にも違和感なかったからすんなり馴染めました。

・拍手レス。

 さみだれもいいけど、水上悟志は「サイコスタッフ」がどえらいですよ。未読なら是非。
 最近出た新刊ですね。さみだれの4巻と一緒に購入する予定。


2007-10-29.

・12月に公開される映画『XX(エクスクロス)〜魔境伝説〜』の原作『そのケータイはXXで』にいつの間にか外伝が出ていて寝耳に水な焼津です、こんばんは。

 その名も『XXゼロ 呪催眠カーズ』。『そのケータイはXXで』の過去エピソードに当たり、本編に出てきたとある殺人鬼が主人公を務める模様。完全にチェックから漏れていて、情報を見つけたときは思わずポカンと呆けてしまいました。上甲宣之は正直言って文章が(ゴニョゴニョ)なんですけれど、ことストーリーの疾走感にかけては卓抜しており、サスペンスの書き手として端倪すべからざる存在だと個人的に注目しています。あと作風からしてJOJO好きっぽく、ハイテンションなノリがとても肌に馴染む。それだけに新刊を見逃していたとは痛恨の極み、アッー。こりゃなんとも確保しなくちゃですよ。

・原泰久の『キングダム(1〜7)』読んだー。

 『三国志』よりも前、『項羽と劉邦』よりも更に前、春秋戦国時代にスポットを当てた大河コミック。「歴史に名を残す大将軍に成り上がる」という大望を抱き、後に「秦の始皇帝」となる若き秦王に仕え、彼の剣として存分に戦う少年・信が主人公を務めています。1巻から5巻の途中までが反乱を鎮圧して王都を奪還する第1部、5巻の後半から7巻にかけては魏国との戦争を描く第2部となっており、8巻から第3部が始まるみたい。つまり時期的にも巻数的にもちょうど今が読み時というわけで、実にラッキーでした。

 斉・楚・秦・燕・韓・魏・趙――俗に「戦国七雄」と呼ばれている国々が中華の覇権を巡って500年にも渡る乱を繰り広げていた頃、信(しん)は下僕の身分から解き放たれて戦陣の野へ馳せ出ることを夢見ていた。暇を見つけては欠かさず盟友の漂(ひょう)とともに厳しい訓練を重ねる日々。やがて通りかかった秦の大臣が漂を見初め、「彼だけを王宮に召し上げたい」と要望する。信は別れを惜しみながらも朋の栄達を祈って見送った。ひと月経ち、「王都で反乱が起きている」というキナ臭い噂を耳にした日の夜。信の寝泊りしている小屋に、瀕死の重態となった漂が訪れた。そして息を引き取る間際に「今すぐそこに行ってくれ」と言い残した場所へ駆けつけた信が目にしたのは、漂とそっくり瓜二つの顔をした少年――秦国の若き王であり、突如巻き起こったクーデターによって今にもその地位を逐われようとしている政(せい)だった……。

 亡き親友との誓いを果たすために全力ダッシュで死地を駆け抜ける。幕開け早々から熱い展開がノンストップです。クセがあってちょっと濃い独特の絵柄をしており、強いて言えば「『蒼天航路』を少年マンガっぽくした」というような作風で、初見ではあまり良い印象を与えないかもしれない。当方も評判に釣られて大人買いしてみたもののなかなか手を付ける気が湧かず、半年近く放置した末にようやく封を切ったほどです。ある意味でそれは正解でした。何せこのマンガ、読み出したら止まらない。剣のひと振りでいくつもの首が宙を舞う、って感じのハッタリ描写が多くて若干B級めいた雰囲気を匂わせるけれど、そんなこといちいち気に掛ける暇もないくらいハイスピードな勢いでガツガツ読ませちゃいます。主人公はバカで熱くて動き出したら一直線で、とにかく分かりやすくて没入しやすい。冷静な分析や解説は他のキャラたちが行い、主人公はひたすら突っ走って雄叫びを上げながら剣を振り回すことに専心する。シンプル極まりない構成です。歴史モノということもあってか青年誌に連載されていますが、少年誌に載っていてもきっと違和感はなかったでしょう。気が付いたら全巻読みつくしていました。

 反乱の鎮圧に参加し、それから初陣として戦場に出る。これといって捻りのないベタな流れではありますものの、良い意味でのベタ、「そうそう、こういうの読みたかった!」と膝を打ちたくなる部類の王道を踏み締めて進んでくれています。小難しい知識を抜きにして、ただ怪物みたいな連中に勇敢とも無謀とも言えるエネルギーで立ち向かっていく主人公の姿に燃えればいい。キャラクターに関する魅力においては抜かりありません。主人公の単純バカっぷりに辟易したとしても、脇を固める面々の強靭な個性でぐいぐい引っ張ってくれる。個人的には「山の王」楊端和と「秦の怪鳥」王騎が好きです。特に王騎。見た目といい「ンフフ」笑いといい、いかにもカマっぽい感じの将軍でありつつ、随所に不気味な強さをちらつかせていてインパクト莫大だ。てっきり出番ナシだと思っていた最新刊にもほんのりと見せ場があって嬉しかった。『ハチワンダイバー』『ライアーゲーム』『嘘喰い』、そしてこの『キングダム』……いつの間にやらヤンジャンの面子は凄いことになってますね。

・ついでに長谷川哲也の『ナポレオン 獅子の時代(7〜8)』も読む。

 非常に熱くて濃い漢のマンガながら、キャラクター数が膨大なうえ歴史背景を理解しないと全体像が把握しにくいストーリーなので、新刊が出る度にがっつくよりかはある程度まで買い溜めて一気読みした方が咀嚼しやすく、呑みこみやすい。そんなわけで寝かせていた7巻もろとも読み終えました。本当は9巻まで積むつもりでしたけど、8巻における橋上の攻防戦がやたらと評判イイので気になりまして。さすがに騒がれるだけあってシリーズ屈指の名場面となっておりますが、単行本としての見所が多かったのはむしろ7巻の方だった。ランヌやオジュローの存在感は「男魂」という倉田英之の形容を超えてもはやほとんど妖物の類です。ナポレオンは歴史マンガではない。もっとおぞましい何かだ。志怪スレスレのラインを低空飛行して物語はなおも続いていく。

 そういえば倉田英之で思い出しましたが、『R.O.D』の小説版ってまだ完結してないんですね……どちらかと言えば倉田英之の文章は小説よりもコラムの方が好き(“PC Angel”に連載していたコーナーとか『TRAIN+TRAIN』の帯文とか)で、『R.O.D』自体に対する関心はもうだいぶ薄れているからどうでも構わないと言いますか、ぶっちゃけコラムみたいな調子で書いたエッセイ本が出ないかなぁ。意外とそういうのは刊行してないんですよね。


2007-10-27.

・一昨日は「本編を十全に楽しむために体験版を途中でグッと堪えたまま発売日を待つことにする」とか書きましたけどゴメン、やっぱ無理でしたわ。結局『キラ☆キラ』の体験版最後までやっちゃいました☆な焼津です。こんばんは。

 己の意志の弱さに泣けましたが、体験版そのものはたっぷりとした分量があり、満足行くまで遊べました。いつ久我重明さんが「必要な分は見せたということだ、これ以上は見せぬ」と言い出すかハラハラしながらプレーしていたのに、思った以上の範囲まで収録されていて感激已むことなし。笑いどころも多く、カッシーのパンク絶頂発言「本当にクソッタレなお茶でした。ごちそうさまです。ファック」は聞いていて呼吸困難に陥るほど。

 まあ、あれです。面白そうなゲームの体験版を発売日まで中途半端な状態でキープするなんて、んな器用な禁欲ができる人間だったらそもそも積読とかなんて真似しないわけですよ。最初から分かり切っていたこと。あああ、それにしてもいよいよ発売が本気で楽しみ度MAXになってきた……これで延期かまされたら腸もげそう。

・原作:佐藤大輔、漫画:佐藤ショウジの『学園黙示録 HIGHSCHOOL OF THE DEAD(3)』読んだー。

 「原作:佐藤大輔」――この表記を見ているとフッと遠い目をしてしまいそうになりますが、ともあれ今のところイイペースで刊行されているゾンビ系パニック・スリラーです。今回も本編始まって早々に「頭だ! 頭を狙え!」とお約束の文句が出てきます。つまりはそういうノリ。3巻目となる今回で主人公たちはようやく一つのグループと合流しますけど、それはなんと右翼団体。例の街宣車はもちろんのこと、ボスが威風堂々とポン刀構えたりしている。いよいよ「学園」もクソもなくなってきました。まあ別にハイスクールはもうどうでも良くなって来ているので構いませんが。

 佐藤ショウジの描く乳と尻、そして緩慢に動くリビングデッドは相変わらずながら、今回は主人公たちが改めて「自分はどう動くべきか」を見詰め直すドラマ重視の展開になっています。終始ひたすらテンションが高いせいもあってあんまり緩急が付いておらず、読んでいて少々疲れるし、主人公たちのテンポに追随できなくなる場面もあるけれど、このハイな感じが気持ち良くもあるので変に落ち着くよりかはこのまま突っ走ってほしいかな、と思ったり。なんかよく分からんけど妙に楽しい世界ではあります。

 状況の割にはちょこちょことコメディ要素が混ぜられているのも特徴でしょうか。ヒロインのおっぱいを土嚢代わりにして伏射態勢を取る主人公には噴いた。SDキャラになった毒島先輩も可愛かったです。巻末には小学校に入学したばかりの沙耶と主人公のツーショット(沙耶の母親も後ろに映ってるけど)があり、そこでの沙耶がやけに穏やかな表情を浮かべているのもツボに嵌まった。

 きれいな顔してるだろ。ツンデるんだぜ、それ。嘘みたいだろ……。

・たなかのかの『タビと道づれ(1〜2)』も読んだー。

 少年漫画板のスレ名が面白い(このへん参照)ことで夙に有名な“コミックブレイド”に連載中のマンガ。作者名の切り方は「たな・かのか」であり、「たなか・のか」ではありませんので注意。忍者コメディだった前作『伊賀ずきん』とは打って変わって、「同じ1日を繰り返す町」を舞台とする比較的シリアスなループものになっています。奥付を見たら僅か5日で2刷になっており、よっぽど売れたのか、よっぽど初版の部数が少なかったのか……何にしても、予想を超える売れ行きだったみたいです。

 どことなくふんわりとした線の細い絵柄で、ポエミーなナレーションが多用されるあたりは少女マンガのテイストが濃く、少年・青年マンガ慣れしている男性読者には少々取っ付きにくいかもしれない。当方も最初はてっきり「雰囲気はいいけどそれだけで終わるアンビエント系コミック」かと思いました。読み進めるにつれ、「雰囲気だけにあらず」という確信を抱くに至ります。

 まず、ザッと大枠を説明しましょう。クラスに溶け込むことができず、学校へ行くのが嫌になった少女タビは、いつもと逆方向の電車に乗ったところ奇妙な車掌に手を掴まれ、「君はその手で望む世界へ行ける」と告げられる。彼女は咄嗟に一つのことを願った。すると、電車はトンネルを抜け、タビが5年前に住んでいた思い出の町に辿り着いた。駅のプラットホームに降りた瞬間、彼女のもとにふたりの人間が駆けつけてくる。駐在のニシムラさんと高校三年生のユキタ君。彼らは「同じ1日」を繰り返すこの町に閉じ込められたと語った。町の外へ出るはずの電車は来ず、徒歩で線路沿いを歩いてもトンネルを抜けたところで町の入り口に戻されてしまう。他の道を使って脱出しようとしても、必ずどこかで「足を踏み入れた途端に崩落する通行不可能の道」が現れて抜け出すことができない。町の人々はどうやらループを知覚しておらず「同じ1日」に疑問を持たない様子であり、困っているのは自分たちだけ。イレギュラーとしてやってきたタビが事態の突破口になるのではないか――と期待を寄せてくる。何が何だか分からないタビは寄せられる期待を重荷に感じてしまうが……と、こんな感じ。

 主人公を務める少女タビは別に学校でいじめられていたわけでなく、周りとのコミュニケーションがうまく取れなくて疎外感を募らせていた、いわゆる「はーい、じゃあ二人組をつくってー。……ん? ああ、奇数だから一人余るか。仕方ない、先生と組もうな」的ラストマン・スタンディングなヒロインです。その影響もあってかいちいち思考がネガティブであり、他のキャラと接するときも「嫌われないだろうか」と考えて消極的な行動に終始しがち。たまにイラッと来ることもありますが、徐々に人付き合いを恐れなくなっていきますのでストレスは溜まりません。一応、成長物語の体裁を守っています。

 「これ以上先には進めない」という道を作中では「路」と呼んでおり、つまりは一種の行き止まり……なんですけれど、やがて「路」の先へ行く方法が判明します。「テガタ」という痣のようなマークを持っていれば、それに対応する路を歩くことができるのだ、と。テガタは「セキモリ」と呼ばれる存在が所有しており、主人公たちはセキモリたちにテガタを「わけてもらう」ことで未踏の地に向かえるようになります。なんだか条件クリア型のお使いRPGみたいと言いますか、複数のセキモリを投入することで連載の話数を稼ごうとしているような設定ですけれど、ぶっちゃけ本作は「同じ1日がループする」ことよりもこの「テガタとセキモリ」の方がメインだったりする。セキモリは「奇妙な車掌」と契約してテガタを受け取る際、一つの願い事を叶えてもらいます。主人公のタビは「航ちゃん(タビにとって「友達よりももっと大切なひと」)と会いたい」で、それが反映されて舞台となる町に訪れたのであり、要するに町にいるセキモリの誰かが「同じ1日を繰り返してほしい」と願ったからループが発生したのではないか……と推測されるのです、いまのところ。だから仮にループが解決したとしても、ストーリーは依然として続くやも知れません。

 まだ謎が多いので明言はできませんが、恐らくこの作品におけるループとは「日常からの逸脱」を象徴する小道具の一つなんだと思います。まったくの異世界に迷い込んだわけではないけれど、正常な時間経過がありませんから「タビが行方不明になった」と地元で騒がれることはないし、本人たちがその気になればいくらでもモラトリアムな日々を送ることができる。「ひたすら日常が続くという非日常」をさりげなく覗かせ、淡々と静かな世界を描いています。ただ、いくらループを自覚していないとはいえ「町の人々」もフツーに存在しているんですから、モブキャラとの交流はもっと増やしていってほしい。なんだかほとんど無人みたいな感覚がして寂しいんですよ。

 変わらない日常の中、自らの意志で変わっていくことを選ぶ。たとえそれが傷や痛みを伴うものであったとしても、切り換えた道の先に待ち受けるものを信じて。「もっと突っ込んでほしいな」という感じで全体的に物足りなさの漂う作品ではありますが、2巻の表紙に釣られて買ったのは正解だったと自負。もし読むなら2巻まで一気に賞味することをオススメしたい。2巻はヒキが凶悪で、次回から物語が大きく動き出しそうな雰囲気超濃厚。

 関係ないけどブレイドの休載作家リスト、かつてガンガン読者だったため見覚えのある名前多過ぎで、眺めていて泣けてきます……。

・拍手レス。

 焼津さんは40代(文章力的な意味で)かつ20代(ネタのチョイス的な意味で)な人だと思います
 もっと若い感性を体得するためにケータイ小説でも読もうかしら……。

 キラキラ体験版ですが、演出に体験版固有のものがあったりします。
 文章に関係したものではありませんが、なかなか驚きのものですので最後までやってみるのもいいと思います。

 学園祭のカバー曲にいろんなバージョンがあるんですっけ。元ネタ知らない曲が流れて「???」に。


2007-10-25.

OVERDRIVEの新作『キラ☆キラ』体験版をちょろっとプレー。

 原画は『グリーングリーン』の片倉真二、ライターは『CARNIVAL』および『SWAN SONG』の瀬戸口廉也。主人公たちがパンクバンドを結成し、学園の文化祭を経て全国ツアーへと繰り出す青春エロゲーです。ちなみに片倉の原画家デビュー作『カナリア』もバンドものでした。当方は片倉の絵柄もそこそこ好きではありますが、何より瀬戸口儲ですから情報公開された時点で既に購入は確定しておりました。なのでわざわざ体験版をやる必要もなく、ただ座して待っていれば良かったんですけれど「システムのチェックくらいはしておこう」と、ほんの十分だけプレーすることを自分に許したわけであります。

 見通しが甘かったと言わざるを得ない。好きなライターが出す久々の新作を十分やそこらで切り上げられるわけがないじゃないですか……常識的に考えて……どうにか自制心を働かせて強引に途中で終わらせたものの、続きがやりたくてウズウズするというのが本音です。期待してたけど、期待以上に面白かった。もともとこなれた感じのテキストではあったが、今までより更に読みやすいタッチになっていてするすると先に進んでしまう。きっとエロゲーのシナリオ形式に慣れてきたんだろうな。程好く力が抜けていて、且つ「ここぞ」という場面での筆致に力感が篭もっている。シンプルに巧いです。

 前作『SWAN SONG』は力作だったにも関らず大して話題にならなくて、品薄になった頃にようやく「隠れた傑作」扱いされてプレミア価格が付き始めたものの、そもそも存在すら認識してないエロゲーマーの方が多いと思います。発売前の宣伝は異常に少なく、よほど網を張ってないと引っ掛からない状態でしたし。今回もスワソンに負けず劣らずの力作と化すに足る風情が随所に窺えて胸のワクテカは留まるところを知りませんが……今度こそは隠れたり埋もれたりしないで陽の目を浴びて欲しい、というのが儲としての切なる願いです。そして当方は本編を十全に楽しむために体験版を途中でグッと堪えたまま発売日を待つことにする。こいつが22日に控えている以上、『Dies Irae』が再延期する可能性についてはもう怖くなくなりました。いや、延期しないに越したことはないんですけどね? マジで。

・水上悟志の『惑星のさみだれ(1〜3)』読んだー。

「あたしを信じろ」
「あんなん打(ぶ)ち砕いたらあ!!」
「あんなんに地球は壊させへん!!」

「なぜなら」

「この地球(ほし)を砕くんは 私の拳やからじゃ―――――っ!!」
「さあ 雨宮夕日」
「忠誠を誓え」

 もうそろそろ4巻目が発売される頃合のマンガ。世界を滅ぼそうとしている悪の魔法使いは、一般人には見えない「泥人形」という化け物を操る。泥人形どもを認識し、打ち倒すことができるのは精霊(プリンセス)か騎士のみ。お姫様に選ばれ、惑星最強クラスの生物に成長していく少女・朝比奈さみだれと彼女に仕えるトカゲの騎士・雨宮夕日には、魔法使いを撃退する他にもう一つの目的を秘めていた。それは、姫自身の拳によって地球を破壊すること。自らの手で地球を滅ぼすためなら悪の魔法使いだろうが味方の騎士たちだろうが、誰もかもを敵に回して省みないつもりでいる二人。正体不明の魔法使い、姫君を装った幼き魔王、ふたつの脅威に晒された地球の運命や如何に……。

 「地球滅亡を目論む悪の魔法使いと戦う精霊憑きのお姫様&獣の騎士団」――対立構図だけ見ればどこにでもあるノリの現代ライトファンタジーながら、「実は姫様もまた地球滅亡を目論んでいるのでした」という驚愕の真相が2話目で早くも明かされる。過去のトラウマやら何やらが絡んで性格の歪んでいる主人公は恐怖を覚えるどころかむしろ畏まって姫の密命を受けちゃうもんだからサア大変。魔法使いを倒せても倒せなくても地球は滅亡の危機に瀕する、「こんな設定(展開)はイヤだ!」を地で行くストーリーとなっています。明るくシャープで女の子も可愛い絵柄だというのにメインキャラのほとんどがイカレた部分を抱えており、読み手を選びそうなアクの強さがこっそり潜んでいる。ヒロインのさみたんが元気良くて可愛いから何とか付いていけるものの、結構微妙なバランスの上に成り立っているっぽい作品です。ムチャなところが多いけど冒頭数ページでガシッと掴んでくる巧さがあり、話もシリアス一辺倒にせず適度なギャグを交えて進めていくから読みやすい。

 さて、1巻は導入編といった具合であんまり路線が見えてこないけれど、2巻でようやく「本編の始まり」を予感させる展開に入って盛り上がってきますね。さみだれに付き従う「獣の騎士団」は12体の動物とそれに対応した12人の人間、計24名のキャラクターから構成され、「動物と人間」は互いに感覚を共有し、セットで一つの「騎士」として機能するみたいです。いざバトルとなると動物の方はセコンドの如くアドバイスを飛ばすのみで、泥人形と取っ組み合うのは基本的に人間だけ。感覚を共有しているためか、人間の方が死ぬと動物も道連れになって消滅してしまう。どうやら魔法使いとの闘争は今回が初めてじゃないようで、騎士に助言を授ける動物たちの幾体かは「前回」にまつわる記憶が朧げに残っているそうな。12組の騎士が姫とともに地球の命運を懸けて出撃するってだけでもかなり壮大なのに、「何度目かも知れぬ魔法使いとの戦争」と設定面で更なる大風呂敷を広げていくものだから、これホントに収拾がつくのかな、と不安になってきたり。「獣の騎士団」は主人公(トカゲの騎士)を始めとする12組以外に黒竜(インビジブル)、霊馬(ユニコーン)、神鳥(フレスベルグ)の「幻獣の三騎士」も存在するらしいが、現時点で詳細は不明。下手すると邪気眼になりかねないムードもあってハラハラドキドキです。そのうち禁姫(フォビドゥンプリンセス)とかいって裏ヒロインが出てくるんじゃないだろうな……。

 異常な事態に巻き込まれた少年が、「地球を守る」系の抽象極まりない目標を達成するためにただ唯々諾々と戦うのではなく、愛らしくも魔王のように傲慢なヒロインへ忠誠を誓って「地球の平和? ハッ、くだらねぇ」と粋がって好き勝手やろうとするけれど、なんか弱っちいので結果的に姫や仲間に守られてしまい情けない思いをしながら前進していく青春ファンタジー。これで主人公が狡猾ならデスノの月(ライト)やギアスのルルーシュに匹敵する悪役(ヒール)となっていただろうに、悲しいかな、パワーも頭も度胸も平均クラスでときどき補正が入る程度なので「クールというより単にネクラなDQN」の域を出ない。しかし、だからこそ一心に悪を貫くか日和って善に転ぶか、先の読みにくいサスペンスフルな状態を生み出しているし、成長や変化を受け容れる余地がある。クールぶってるくせしてたまに熱血しちゃう人格的に全然完成していない未熟な騎士と、「パンツなぞいくらでも持ってけ!」と言わんばかりの勢いでスカートめくって豪快に敵を蹴り飛ばす恋知らずのウブい魔王。こんな連中に滅ぼされるかもしれない地球も散々ですが、サクサクと軽妙な筆致で繰り広げられる「終末の過ごし方」な物語にはいろいろと期待が募ります。「タイトルがパッとしない」「何が売りなのか分かりにくい」の二点が重なって着手が遅れましたが、3冊まとめて読めたんだからむしろ良かったか。4巻の発売も近いし。ついでに『エンジェルお悩み相談所』という単発作品も読んだけどこちらもなかなか。さみだれに比べてパンチが弱い反面、アクも少なくて読みやすかったです。

 ちなみに。2巻の表紙ではパンツが見えそうで見えない悩ましくも際どいハイキックぶりを誇示するヒロインですが、本編では結構な頻度でパンチラしていてビュリホー。それもいわゆる「空気パンチラ」と呼ばれる類の死んだパンチラではなく、ここで来てほしい、という絶好のタイミングで挿入される真正のパンチラです。見えすぎててパンチラというよりもパンモロなれど当方は気にしない。殺伐とした展開の一方でチョコチョコとラブコメめいた雰囲気を挟むのも好き。シスコンメガネの氷雨センセーが地味にツボですよ。あと、惑星を砕く最大の泥人形「ビスケットハンマー」はthe pillowsというロックバンドの曲が元ネタとのこと。『ひめしょ!』にも同じ名前の組織が出てきたっけ。

・拍手レス。

 焼津さん、20代だったんですかっ!?(失礼。文章からもっと上の方かと思ってました)
 ぶっちゃけ西尾維新よりも若い。

 銀魂のアニメ版では,丁度今九ちゃん編を放映してますよ.アニメの出来もかなり良いので是非どぞ
 というか、銀魂のアニメってまだやってるんですか……もう終了したかと思い込んでました。

 「そし明日――」見てみました。 ――目が、なぁ…といった感じです。気になりません?あのキラキラ
 「寒うない」って感じでむしろ好み。


2007-10-23.

『えむえむっ!3』の帯に「アニメ化」と書かれていた、という情報を目にして「そ、そんなまさか! あのマゾライトノベルが!?」と慌てふためくも、よくよく確認したら「アニメ化」の下に見えにくい字で「したい」と書いてある――つまり編集部の願望だけを述べたものらしく、驚いて損した焼津です、こんばんは。「ひょっとすると、なくもないかも……」と思ってしまうのが昨今のアニメ事情。

暴漢対策として考案された脅威のニンジャスカート

 語感からバルキリースカートみたいなのをうっすらと想像していたってのに、こりゃあ……。

 ライト点かないから夜間は使えないだろうとかツッコミどころも多い、いや多すぎるけど、見た目のインパクトだけで「エフッエフッ」と勇次郎笑いを漏らしてしまう威力。確かに暴漢もこんなものを目撃したら胃痙攣起こすほど爆笑して行動不能に陥るかもしれません。というか、咄嗟の時にこれを実用できるくらいの度胸があるなら他の防犯グッズ使って逃げた方が……。

・白倉由美の『おおきくなりません』の続編『やっぱりおおきくなりません』が徳間デュアル文庫から12月に発売予定。

 特に書く機会もないので触れた覚えがありませんが、当方は白倉由美スキーです。それも小説家になった以降の。というわけで『おおきくなりません』の続編がいきなり文庫で読めるというのは大きな喜びだったりします。めでたいめでたい。今月文庫化された『おおきくなりません』にも書下ろし新作が追加されているとは知らなくてスルーしちゃいましたが、ちゃんと買っておかなくちゃ。

 『おおきくなりません』は作者夫婦をモデルにした私小説風の物語です。「35歳なのに18歳と言い張って大学に通う元少女漫画家」と書けばまるでフィクションのキャラクターみたいですが、作者自身の経歴が実際そんな感じ。6年前に雑誌連載が始まり、翌年には単行本の1冊目が出たものの、2冊目がなかなか出なくてたっぷり5年間放置プレイを喰らっていました。どこがいいのかと聞かれても困る作風ではありますが、あの「モラトリアムは終わらない」な空気が妙に心地良いんですよね。

 ちなみに、同じファンでも白倉由美を「大塚の嫁」と捉えているか、大塚英志を「白倉の旦那」で捉えているかで層が分かれている気がする。当方はどちらかと言えば前者。このふたり、新婚当時はかなり甘々だったそうで、『おおきくなりません』の内容も「いかにも」なムードが濃厚です。

etudeの新作『そして明日の世界より――』、体験版をプレー。

 小惑星が地球に衝突し、人類を滅亡させる――残された猶予はあと三ヶ月。緑多き離島を舞台に、突然訪れた終末の報せに呆然としながらも懸命に生きようとする人々の姿を描くエロゲーです。ジャンルとしては学園モノおよび終末モノってことになるでしょうか。似た路線だとやはり『終末の過ごし方』が有名ですね。さて、この『そし明日――』はetudeブランド第2弾のソフトであり、植田亮が原画を、健速がシナリオを手掛けています。『こなたよりかなたまで』でデビューし、『遥かに仰ぎ、麗しの』にて人気を高め、過去の経緯から「自作自演で褒め称えている」という解釈が罷り通り、賞賛に対するカウンターとして「作者乙」「社員乙」と同じノリの「健速乙」なる用語まで定着させるに至ったライターの健速(たけはや)ですが、意外なことにフルプライスのソフトをピンで書くのは今回が初となります。こなかなはミドルプライス、『巫女舞』と『かにしの』は複数ライターの一人として参加、残る『キラークイーン』は言うまでもなく低価格の同人ソフト。今年は『あの日々をもういちど』で作家デビューも果たしたことだし、「健速乙」の嵐はこれ以後が本番となるのかもしれません。

 プレーしていてまず最初に思ったことは「CGが綺麗だなぁ」ということ。もっと正確に書けば「CGがすげぇ綺麗だなぁ」ってことです。やたらと光線の風味が強い塗りは好みの分かれるところでしょうけれど、それにしてもイベント絵と見紛うばかりの立ち絵が混ざっているあたりはここ十年のCG技術の進化をまざまざと見せ付けられるかのよう。まだ20代だってのにすっかり自分がオッサンになってしまった気分です。キャラはもちろん背景も整っていており、さりげない速度で空の雲が流れている演出には感激した。シナリオ買いはしても基本的に絵買いはしない(辛酸を舐めすぎて学習しました)当方なれど、これに関しては「絵だけでも元が取れそう」と思ってしまった罠。ギャグ顔の崩し方で巧いのとそうでないのとがあったり、若干バラつきはありますがほとんど誤差の域に収まります。いやホント綺麗だわ。

 CGばっかり誉めてるけどシナリオも捨てたものじゃない。際立って「巧い!」と唸る部分こそないものの、さらさらと喉越し良く読めるイイ意味で空気みたいなテキストを紡いでくる。キャラが全員善人で主人公に悪意を抱かず、ひたすら穏やかな雰囲気が持続するのは刺激に欠いて少し退屈であり、なんかこう、「毒にも薬にもならない」感じなんですけども奇を衒って外すことがない分、手堅いと言えば手堅い。エロゲーでは存在を抹消されがちな「主人公の両親」もちゃんと登場してきます。つーか、かーちゃん若け〜。最初見たときはてっきり姉貴かと。反面、ヒロイン姉妹の母親が亡くなっているっていう設定は「ありがち」と言えばそうなんですけれど、シナリオの中で無視することなく「明日は命日だ」「お墓参りに行こう」としっかり織り込まれているから「面倒臭いから出さない」みたいな手抜きではありません。地味だけど全体的に丁寧なつくり。

 攻略可能なヒロインはどうやら4名の模様です。幼馴染みで同い年ながら妹めいた位置付けの夕陽、初恋の相手でもあり学校の教師も務めている朝陽、美人だけど男友達みたいな感覚で接している青葉、病弱少女で他のヒロインよりも比較的付き合いの薄い御波。開始時点で全員と顔見知りだから出会いのシーンがなく、ボーイ・ミーツ・ガール好きとしてはちょっとガッカリでした。が、彼女たちと過ごす日常に慣れてくるとそのへんはどうでもよくなります。主人公への甘えがもはや依存に達していて少々ウザいがウザいところも含めて可愛い夕陽と、母親への屈折した感情から「自分の持つ女っぽさ」とうまく折り合いが付けられないでいるらしい青葉、この二人が気になる子かしら。朝陽は面倒見の良い癒し系のキャラだけど、登場人物の大半が善人であるこの世界においては正直あんまり目立たない。あと、ダブルエビフライみたいな髪型もちょっと……。御波はキャラデザ的に一番好きなんですが、あの容姿は「のんびりとした田舎の離島」を背景にするとかなり浮きますね。立ち絵が表示された瞬間、「は?」と目をパチクリさせてしまいました。

 「小惑星衝突」のニュースが流れて平穏な日常が終わりを告げる、という箇所までが体験版の範囲。ニュースが報道される前の「平穏な日常」が予想以上に長かったおかげで思った以上に感情移入することができました。なかなか話が動かないから眠くなる場面もありましたけど、ニュースが出てからは明るく朗らかで呑気なムードは一転、実感が湧かないながらも徐々に重苦しい方向へ突き進んでいきます。前フリが長かっただけにいっそう引き込まれる。ただ、誤字やセリフミスがチラホラと見つかり、テストプレーが不足してるんじゃないか……というよりも体験版の製作が突貫気味じゃないのかと疑ってしまう。朝陽のセリフを主人公が喋っているように表示されて音声も再生されなかったり。製品版ではなるたけ直してほしいところです。

 てなわけで「購入検討」から「購入確定」に繰り上げました。この調子で行けば「終末が近づいている→今更常識だの何だのに囚われる必要はない→なら、何人女の子と付き合ったっていいじゃないの」というロジックでハーレム展開を肯定できるわけで、密かに美味しいジャンルだったりするのか終末モノ。ただ、シナリオの後半でいきなり主人公が彗星を破壊する国家規模のプロジェクトに参加して己の命と引き換えに地球を救うスーパーウルトラアルティメットラストヒーローな展開に突入しやしないかと心配ではあります。地味でもいいですから人間関係を中心にうまくまとめてほしいなぁ。

・拍手レス。

 ぶきそぼ読みました、「あなたが―――蜘蛛だったのですね」と一言、頭に浮かぶそんな作品でした。
 略して「あなくも」。

 今のジャンプ漫画はけっこう安定してますよね。10年くらい前のジャンプ並みに。
 単行本派なのであんまりよく分かりませんが、格別ダメになった気はしませんね。


2007-10-21.

『そして明日の世界より――』の体験版が600MBオーバーでダウンロードするのもひと苦労な焼津です、こんばんは。原画の植田亮は結構好きな絵柄ですし、シナリオライターの健速も割と注目している(かにしのは体験版が合わなくてスルーしましたが)ので、とりあえずやってみて購入を検討したいと思っています。ちなみに「健速」の読みは「たけはや」なのですが、つい「けんそく」と読んでしまう当方はその時点で既にファン失格の道のりを歩み始めている気がする。

・空知英秋の『銀魂(1〜20)』読み終わり。

 ジャンプらしからぬ下ネタと際どいパロディを多用するギャグマンガ、という評判は聞いていましたし、アニメ化を果たしたのも知っていましたが、タイトルのアレさ加減と画力の微妙さからいまひとつ手が伸びないでいた作品。それをなぜ一気に20冊も揃えて読むことになったかと申せば、「柳生九兵衛という隻眼の剣士が実は男装をした美少女」という情報を小耳に挟み、次いでいくつかのCGサイトで九兵衛のイラストを見て「やべ、めっちゃツボだ」と居ても立ってもいられなくなったからです。秘蔵の諭吉さんを吐き出していそいそと全巻購入して来ましたが、肝心の九兵衛は初登場がかなり遅い(13巻)うえ、それ以降もあんまり出番がなくて絶望した! てっきり準メイン級のキャラかと思っていただけにガックリ感は悲愴の域に。15巻の女装コスチューム(というのも変だけど、男装がデフォルトのキャラクターだから)が可愛かったから、ほんのり胸は癒されましたけれども。

 さて、そんなわけでこのマンガはギャグやコメディを基調としつつも時折シリアスの混ざる、笑いあり涙ありアクションありの結構王道的な少年マンガです。幕末を背景としながらテキトーに現代も混ざって宇宙人やメイドロボが出てくる「なんちゃって時代劇」であり、確かにメイン級のヒロインが鼻をほじったりゲロ吐いたり、風俗ネタや痴漢騒ぎ、不謹慎スレスレのパロディなど「少年マンガとして如何なものか」と疑問に思う箇所も満載で、一歩間違えれば『幕張』になりかねない危うさはある。しかし、「結局野球をやらなかった野球マンガ」である『幕張』に対し、『銀魂』は一応「侍が侍として活躍する(こともある)時代劇マンガ」になっていて、主義主張がちょいストレートすぎてクサい感じもしますが、ある種のメッセージも篭められた親切設計。「主人公の銀さんが最終的に何をしたいのか分からない」という目標意識の欠如はお便りページで指摘されているものの、テキトーに見えてキメるときはキメるスタイルは終始一貫してブレがない。「『銀魂』はギャグが面白いんだけど、それ以外は……」「あれで中途半端なシリアス展開がなければなぁ」「バトルシーンは盛り上がらないし、長引きすぎてダレる」と巷で目にするマイナス意見も頷けるところはありますが、最初からギャグ特化で進んでいればたぶん十週打ち切りコースだったでしょう、このマンガ。ハチャメチャな漫才やっても底の部分では信頼や友愛といった磐石な人情がある、その雰囲気をクサいながらもキチンと示したからこそ目標がないにも関らず長続きしているのではないか、と思います。

 主人公の坂田銀時は頼光四天王の一人、「坂田金時」をもじったもの。金時は「金太郎」の童話・童謡で有名な人物ですが、個人的には富樫倫太郎の『地獄の佳き日』『雄呂血』に出てきた野生児バージョンの印象が濃い。「新撰組」をもじった「真選組」には土方十四郎、沖田総悟、近藤勲、山崎退といった面々が連なり、他にも「快援隊」だの「鬼兵隊」だのがあって、名前パロは枚挙に暇がない。たまに本名と混同しそうになることもあって、そういう意味では危険なマンガです。外国人の代わりにエイリアンが襲来し、江戸を征服してしまったパラレルな日本が舞台であり、物語のあちこちで時代モノの要素とSF的なガジェットが交錯するヘンテコなノリを、「こまけーことは気にするな」と言わんばかりの軽快かつ豪快なセンスで凌いでいく。上の方でシリアス展開を擁護しといて何ですが、やっぱり面白いのはギャグを中心とした回ですね。最初はまだまだ粗かったにせよ巻が重なるにつれて研ぎ澄まされ、どんどん噴き出す回数も増えてくる。せっかくシリアスなパートで築いたカッコ良いイメージをギャグパートで跡形もなく粉砕してみせるマッチポンプぶりが実に嵌まってます。しかし、難点が一つ。ネーム量がいささか多い。多すぎる。細かいコマの中にビッシリと文字を詰め込むので、視力が悪い人間には読みづらいことこの上なかった。

 九兵衛目当てで読み出したこともあって20巻分のボリュームを消費した割にはさほど満足感を覚えなかったものの、読んでいるうちにジワジワと肌に染み込んでくる魅力があり、今後も新刊が出れば買い続けていくことになりそうです。にしても東城歩、柳生四天王の中で武力的に最強っぽい風情を漂わせつつ、変態ぶりでは『銀魂』随一だな……サラリと流しているけど「私は若の便を顔面で受け止めることはできます」って、なんて破壊力に満ち溢れたセリフだろう。もう九兵衛と歩をメインに据えたスピンオフ作品を出してもいいくらいなんじゃないか。

・そして冨樫義博の『HUNTER×HUNTER(24)』も読みました。掲載ペースはふざけてるとしか言いようがないのに内容はしっかり面白いんだから尚更タチが悪い。主人公ゴンたちの活躍を尻目に、やることがないキメラアントの王様は盲目の少女と「軍儀」なるボードゲームに興じるんですが、この脇エピソードがなかなか楽しくてしばらくゴンやキルアの存在を忘れてしまった。なんだかんだで冨樫には「読ませる」センスと腕がある。あとは計画性さえ整っていれば完璧なのに……ともあれ、25巻が来年中に出ることを望む。26巻のことを考えるのはそれからだ。

・拍手レス。

 こんばんわ、亀で更にもう言われているでしょうが机の妖怪は愛子デス
 俺フィーのヒロインと同じ名前ですね。

 「ぶきぼく」は歪みが突き抜けてメタ的ギャグかと思いましたね
 戯言が終わった後でもああいう歪みが書けるんだ、と少し西尾を見直した心地。

 一番最初に読んだ評価がこちらで良かった。安心してニトロに飛び込めます。ありがとう。
 「最近のニトロはダメだ」みたいな論調で語られることも多いけれど、総じてクオリティの高いブランドだと思います。


2007-10-19.

XUSE、11月30日に『最果てのイマ フルボイス版』を発売

 いや、イマは大好きですけれどこのタイミングで発売されても厳しいですよ……予定は他のソフトでギッチギチに埋まってるし。それに声以外だとエロシーンくらいしか追加されない(しかもロミオが書いたものかどうかすら不明)みたいですから、ひとまず先送りにしたい。

乙一のJOJO小説が11月26日にようやく発売

 乙一がJOJOのノベライズをやるという話自体は随分前からありましたが、書いては消し、書いては消し……を繰り返してなかなか仕上げられなかったらしく、三年ほど前に「難航している」とアナウンスされたっきり音沙汰がないような状態でした。流れてしまったのではないか、という不安さえ漂っていましたけれど、遂に胸を撫で下ろす日が来たみたいです。これを皮切りに上遠野浩平や西尾維新といったJOJO好きの作家を集めてトリビュート企画始めたりしてくれないかな。

・西尾維新の『不気味で素朴な囲われた世界』読んだ。

 略称「ぶきそぼ」。『きみとぼくの壊れた世界』の続編で、舞台は高校から中学校に移る。と言っても過去編ではなく、本当に中学校へ視点が移行するだけで、時間軸に沿って眺めればきみぼくの後に当たります。高い塀がぐるっと立てられているせいで「囲われている」という雰囲気が強い上総園学園、ここでは音楽室の主であり、女子にも関らず学ランを纏い所属する部を廃部に、所属するクラスを廃教室に追いやった奇人、通称「静かなる人払い令」の病院坂迷路が鎮座している。決して言葉を喋ることかなく、表情だけで会話を成立させる彼女は前作の探偵役・病院坂黒猫の従妹にして今回の探偵役。そして、今回の事件は……。

 分針が止まったまま時針だけが動いている、壊れた時計塔――そこから墜落して死んだのは、串中弔士の実姉・小串だった。彼女の死と時を同じくして、止まっていたはずの分針が動き始める。死体にスタンガンを押し付けられた痕と索状痕が残っていたことから、警察は自殺や事故ではなく殺人の疑いが濃厚として捜査に乗り出す。姉の死後、一週間家に引き篭もりただひたすら眠って過ごした弔士は、先輩である病院坂迷路に呼び出されて「串中小串を殺した犯人を警察よりも早く見つけませんか」というまんまゲーム感覚の誘いを受け、渡りに舟とばかりに乗った。容疑者は四人。既に引退したものの生徒会長を務めた時期に様々な伝説を流布させた崖村牢弥と嘘しか喋らない「嘘つき村の住人」みたいなあべこべ少女の童野黒理、小串と同じUFO研究会に所属する二人のメンバー。弔士のクラスメイトにして相手の嘘を高い確率で見抜くことができる伽島不夜子。そして被害者の弟である弔士自身。「動き出した分針の謎」を鮮やかに解いてみせた迷路は、弔士に「犯人探し」の役割を振ってくる。彼は「人間嘘発見器」のふや子と一緒にUFO研の部室に乗り込むが……。

 4年前に刊行された前作が300ページ近い分量だった(ハードカバー版では400ページ超)のに対し、西尾維新久々の学園ミステリとなる本作は240ページほど。同時発売されたハードカバー版でも360ページ程度であり、少々ボリューム・ダウンしております。冒頭で「ブラコンの姉」が登場するのはきみぼくにおける「ブラコンの妹」夜月との対比になっているのかもしれませんが、今回はキャラクター面で言えば少し弱かったかもしれない。嘘しか喋らない女だの人間嘘発見器だの、特徴だけ挙げれば前作よりも濃いのだけれど、それが物語の面白さに寄与しているかどうかで述べれば微妙な線だし、正直言って序盤は「外した」感が否めなかったです。

 しかし、くろね子こと病院坂黒猫の従妹・病院坂迷路が舞台に上がるあたりから物語の歪みは加速し始める。「静かなる〜」と十傑集めいた異名を取るだけあって迷路のキャラクターはアレでした。本当に一言も喋らない。「あ」とか「え」みたいな片言隻句とて漏らしやしません。ただ視線や俯き加減、顔のちょっとした筋肉の動きから主人公が「まるで〜〜〜〜〜と告げているかのようだった」と読み取って無理矢理セリフに仕立てるのだから、強引を越えてもはや強烈だ。迷路よりも主人公の方が怖い。迷路さんは別に主人公と会話しているわけじゃなくて無言でテキトーにあしらっているだけなのに妄想で意味を汲み取っているんじゃないか、とサイコホラーじみた考えさえ浮かんでくる始末でした。

 嘘つき少女はまあいいとしても、人間嘘発見器は御都合すぎないかしら、などと旧弊なミステリファンは首を捻ってしまうわけですが、最近はこうした設定のキャラを割と見かけるし、世間的にはOKなのかな。『陽気なギャングが地球を回す』とか『本格推理委員会』とか。いや『本格推理委員会』は嘘発見じゃなくて「必ず当たる勘」だったっけ? ともあれ、中盤から終盤に掛けての畳み掛けは一見地味なようでいて西尾らしい歪さに満ちており、説明が苦しいせいでちょっと中途半端な気分が残るにせよ「最後まで読み通して良かった」と思わせる出来に仕上がっている。とはいえ、もう少しページ数が欲しかったかな……「異常への転換」を描く前段階としての「日常」が薄めで、助走が充分でなく言葉遊びチックな掛け合いもいまひとつ板に付いていない気がします。

 瓢箪から駒と言いましょうか、最初はほとんどネタみたいな調子で口にしていたそうですけども、こうして現実に出版されるに至って前作のファンとしては嬉しい気持ちが沢山溢れてきます。単発作品で前作とも繋がりも薄いから、これを起点にして読み始めても差し支えはありませんけれど、「あの人」がゲスト出演することを考慮すればやはりきみぼくから読むことをオススメしたい。三部作の掉尾を飾る『きみとぼくが壊した世界』もいつになるかは分からないが刊行する予定とのことで、大いに楽しみ。で、三部作とは関係ないけど今秋、『化物語』の続編にして前日譚『傷物語』が講談社BOXの創刊する新雑誌“パンドラ”にて一挙掲載されるとか。くやしい……でも買ってしまいそう。

・拍手レス。

 確かに皆本が一番純情そうですよねwもしチルドレン以外のキャラに惚れたらとんでもない事態にww
 そうなったら「あの未来」よりもずっと恐ろしい惨劇の幕が上がりそう。

 横島はいいキャラしてますよねw少年誌であれほど煩悩が強いキャラはいないんじゃないかとw
 パワーアップしてもあのバカな感じが治らないあたりナイス。

 怒りの日コミック化…? あれ、なんかムカムカする。
 まずはゲーム本編が出ないことにはどうにもこうにも。


2007-10-17.

・椎名高志の『絶対可憐チルドレン(1〜10)』読んだー。

 90年代に連載され、全39巻という当時で最長のボリュームを誇ったサンデーの人気作『GS美神 極楽大作戦!!』――当方はアニメから入ったクチなので『ゴーストスイーパー美神』という表記の方に馴染みが深く、「極楽大作戦!!」が付くのはどうにも違和感が拭えないんですけれど、ともあれラブコメとギャグとシリアスを程好い塩梅で混ぜ込んだ、良い意味でごった煮テイスト溢れるマンガでした。長かったせいもあってたびたびマンネリや失速状態に陥ったこともあるにせよ、バカでスケベで情けない主人公がなぜか人間以外の「女の子」たちに好かれながら徐々に成長していくストーリーは実に少年マンガ的で、えぐるようにツボに入ったものだ。第一話で主人公を殺そうとした幽霊っ娘のおキヌちゃんは未だ当方の心の中に住んでおります。あと名前は忘れたけど机と一体化してる子も好きだった。さておき、GS美神終了後はなかなか長期連載される作品がなく、次第に存在感を薄れさせていった椎名高志。彼が見せた起死回生の返り咲き、それこそが「絶チル」こと『絶対可憐チルドレン』なのであります。

 最初に読切版として掲載され、好評だったため短期集中連載となり、これもまた評判が宜しかったからようやく本格的な連載へ突入……という慎重な三段階を経てサンデー主要陣の佇む岸辺へふたたび漕ぎ着けた本作。1巻には読切版と短期集中連載版が収録されており、2巻以降が本連載分となっています。大まかな内容を書けば、「最強レベルの超能力を持つ三人の少女たち『ザ・チルドレン』が、犯罪者やテロリスト、自然災害、大規模事故を相手に大暴れ! 彼女たちを監督し、厳しく指導する役目を担った皆本光一は今日も今日とて振り回されてばかりで苦労を強いられるが、それでもちゃんと互いに強靭な信頼で結ばれているのだった」という感じのサイキック・コメディ。主人公の所属する国家権力的組織「バベル」の他にも、超能力者を毛嫌いして隙あらば抹殺しようとする広域テロリスト集団「普通の人々」だとか、各地から超能力者たちを集めて「来たるべき普通人との戦争」に備えているサイキッカー軍団「パンドラ」だとか、結構血腥い設定も多くてたまに死人も出るけれど、基本は「事件発生→チンドレル出動→事件鎮圧」のパターンを繰り返し、時に揶揄われ時に衝突しながらも絆を強固にする王道めいた筋立てとなっています。

 ぶっちゃけ雑誌掲載された読切版を目にした時点では「ギャグなのか、ラブコメなのか、そこそこシリアスなSFなのか、狙いがハッキリ絞られていなくて微妙だなぁ」と思ってしまい、本連載が決定して単行本が刊行されてからもいまひとつ手が伸びる気はしなかった。実際に続きを読んでみても「絞り切れていない」という感覚は残るし、作者の迷いが話のあちこちに滲んでいて危ぶんでしまうところはあります。が、体は正直と言いますか、椎名高志のノリにはご無沙汰でかなり飢えていたらしく、買い集めた既刊10冊を一気に読み尽くしてしまいました。読んでるうちにだんだん「絞るとか絞れてないとか、どーでもええやん」っつー気分になります。だって可愛いんだもの。オヤジ臭さとバカっぽさを全開にした薫も、眼鏡を掛けたしっかり者の京都娘なのに一番ウブな葵も、おとなしそうに見えて性格が極悪の紫穂も。三人とも仲が良いのに揃って嫉妬深いあたり最高です。ヤキモチを焼く10歳の小学生×3って、それなんて最終鬼畜兵器? 特にサイコメトラーの紫穂、彼女は少しでも相手の油断を見つけるとすかさず接触して心を読みに掛かるので、回りくどい心理戦を抜きにして速攻で修羅場をもたらす才能に恵まれている。ちっちゃな女の子に心底を見透かされるのってこう、Mな部分を刺激されてゾクゾクしますよねー。あのジト目がまた、たまらないです。サブキャラのナオミもいろいろと美味しいし、キャラ配置は磐石だと思います。

 予言能力によって「ある不吉な未来」がほぼ確定しており、その未来を如何に打破していくか……が現在の物語の要となっています。主人公が渡米して帰国するまでの間に出会った「謎の美女」(主人公にとっての謎ではなく、読者にとっての謎)みたいにまだいくつか埋められたままの伏線がありますので、GS美神クラスになるかどうかは不明にしても、この調子で進めば20〜30巻くらいは確実でしょう。主人公が秀才とはいえあくまで能力を持たない「普通人」であり、超能力を持ったヒロインたちとの間には本質的に飛び越えられない垣根がある。そうした容易ならざる「隔たり」を用意しているからこそ、彼と彼女らのまだロマンスとは言いがたい関係を見守る目にもついつい力が入る。ラスボスとおぼしき人物がなんだか憎めない奴で、クライマックスはちゃんと盛り上げられるのかなー、という不満もあったりしますけど、今しばらくはヌルいロリハーレムっぷりを楽しみたいものです。主人公の皆本が横島と違って真っ当な男であまり暴走しないのは寂しいが、振り回されながらもタフに付き合っていく健気な性格には胸キュン。

 余談。超能力のレベルが7段階なのは地震の震度から来ている(ただし震度は0、5弱・5強、6弱・6強があるから10段階)のはすぐに分かりましたが、キャラクターの名前の大半が『源氏物語』をベースにしているってことは7巻で末摘花枝が登場するまで気づかなかった……露骨だったりさりげなかったり、差はあるものの全体的にパロネタが多いですね。紫穂と賢木がゲームで対戦する場面のJOJOネタとか。「鋼の練筋術師」はかなり際どい。他誌ネタもお構いなしなのは椎名高志ゆえなのか、単に最近の風潮なのか。そして10巻のおまけマンガは髪フェチには大興奮なのでした。

・拍手レス。

 是非とも焼津さんの部屋の様子をぱしゃりと撮って、アップしていただきたいものです。
 素でヒかれそうです。本の置いてない区画とか一つもないですから。

 魔道書の一冊や二冊、迷い込んだ盗人の干からびた死体の一体や二体、本の下から出てくるのでは……と期待。
 そういえば夏場にゴキブリを視認しつつもロストしちゃって……どこかにまだいるかも。

 アスレチック書庫フイタwwwwそれはそれで体も動かせて良い書庫だとおも(ry
 跳び損ねて蹴っ飛ばしちゃうこともありますけどね……その光景はさながらバベル崩壊。


2007-10-15.

・「飛び降り」という文字列が「飛浩隆」に見えてしまった焼津です、こんばんは。焦がれすぎて幻覚が発生した模様。当方の中で“廃園の天使”はFSSみたいな存在になりつつあります。

・原作:土塚理弘、作画:五十嵐あぐりの『BAMBOO BLADE(6)』読んだー。

 アニメの放映も開始されて、正に今が旬の女子剣道コミック。『鹿男あをによし』『武士道シックスティーン』といった女子剣道ブーム萌芽の兆しを見せる作品が徐々に現れている状況を尻目に、バンブレはいつも通りお気楽な展開を継続……かと思いきや、「タマちゃん」こと川添珠姫が試合開始直前、思わぬアクシデントによって負傷してしまう。痛みを押し殺し、挫いてしまった足のことを隠し通そうとするタマキ。「何かおかしい」と気づき始める周囲。試合の行方は――といった調子でサスペンスフルにストーリーが流れていきます。

 タマちゃんは現時点で最強に位置するキャラであり、女子はおろか男子や成人男性にも勝てる奴がいないくらいの無敵っぷりなので、今までずっと危なげない試合運びが続いていました。基本的にバンブレはスポ根じゃなくてコメディ寄りですし、「タマちゃんがつおすぎだけど、まあ、いいか」と深く考えないで済ませられる部分があった。それだけに、「負傷による戦力低下」というハプニングは読者にハラハラさせて「タマちゃんが負けるかも」という危機感を抱かせ、普段漂わせているノホホンとした呑気なムードを裏切る好材料になっています。露骨な悪役も登場し、タマちゃんが怪我をおして奮起せざるを得ない方向へ持っていく。今回はシリアスとコメディの混ざり具合が丁度良かったです。「剣道マンガ」ってより「剣道部マンガ」と言った方がしっくり来る部活モノながら、部員たちのやや締まらない遣り取りも含めて賑やかな雰囲気を醸すあたりに「いつまでも読み続けたい」と思わせる魅力が溢れている。少なくとも竹刀が伸びたり回転したり、コジロー先生が「フフ、うれしいね。顧問の立場でなければ小躍りしたい気分だよ」とほざいたりしないし。安心して読める作品です。

 予告によると、次巻はようやくタマキに匹敵する「巨星」が登場するとのことで、今後ますますの盛り上がりが期待できることでしょう。川添珠姫、遂に敗北を知るか。ちなみに、先鋒の東がみんなのお弁当を食べ過ぎて腹痛に苦しみながら戦うシーンがあるのですが、胃腸が弱くて年がら年中腹を壊している人間にはすっげぇ共感が湧く描写でしきりに「うんうん」と頷いてしまった。腹痛には波があるんですよ……「もうダメだ!」と絶望した次の瞬間にフッと痛みが和らいで「収まったか……」と胸を撫で下ろしたのも束の間、またしばらくするとキリキリ激痛のボルテージが高まってくる。そう、寄せては返すペイン・ウェーブが断続的に腸を貫き、あえて一旦休憩を取る形式の拷問みたくきれぎれに腹腔を掻き回して(脱線が激しいので以下省略)

・河合克敏の『とめはねっ!(2)』も読んだー。

 アクセルをベタ踏みして爆走し、通行人ギリギリのところで止まったり、たまに撥ねたりするクレイジー・カーレースを描いたマンガ。という明白すぎる嘘はポイするとして、着々と世間の耳目を集めつつある書道部活マンガの2巻目です。柔道部と掛け持ちの望月結希、海外暮らしが長いせいで日本の常識に疎い大江縁――ふたりの素人を抱えている鈴里高校の書道部は、部長である日野ひろみの双子の妹・よしみが所属する鵠沼学園の書道部と対決することになった。それも、「一人が一画ずつリレー形式で書く」という変則的なルールで。温和な姉に比べて負けん気の強いよしみはヤル気満々、本気でツブしに掛かってくる。遊びに近いとはいえ勝負事に燃えるタチの望月は真剣そのものとなって先鋒を務めるが、よりによって書き順を間違えてしまう。二画目を任された縁は工夫を凝らして挽回を図るが……。

 書道の薀蓄を適宜交えつつ「リレー書道」といった読者の興味を引くイベントを盛り込んで退屈させない、実に良心的なマンガ。華やかさには欠けるし、今となっては若干古臭さの目立つ絵柄だけど、噛み締めるほどに味わいの増す一品となっております。終始一貫してシンプルで明瞭、ベテランらしい腰の据わった安定感でグイグイと読ませる。ただ、今回はちょっとラブコメの空気が薄いと言いますか、望月と大江の関係が進展する様子を見せないのでもどかしい。合宿が本格化する3巻以降に期待を掛けるべきでしょうか。

 「萌え」なんぞ何処吹く風、と言わんばかりに自由闊達な言動を示す長身で目の細い先輩・加茂が個人的にツボ。文化部らしからぬ熱気も少々添加されていますが、まだまだマッタリしていて地味さが拭えない本編、今後いかにして盛り上げていくのか注目したい。新聞の記事などでも取り上げられるくらいだから、差し当たって打ち切りの心配はない……と信じたい。

・拍手レス。

 紅発売日誤爆>ぬおおおお恥ずかしいっ、情報収集不足ですんません…。
 いやこれは明らかに発売延期&更新遅滞が常態化しているスーパーダッシュが悪いですから。

 女装美少年にご執心の貴方に、11月秋田書店より発売される「魔女の騎士」をお勧めしたく存じ上げます
 REDは「アキハバラ無法街」も気になっていたり。相変わらず素敵な核実験場ですね。

 焼津さんの本棚ってどうなってるのさ。書評見てるだけでも死ぬほどあるのにしていないのも含めたら…。
 棚どころか床置き甚だしく、積読タワー乱立により足場が分断、ジャンプしなければ行き来できないアスレチック書庫と化しています。


2007-10-13.

・なに? 女装の似合う美少年がイヤイヤながらも際どいコスチュームをまとって戦う魔法少女(偽)コメディが読みたいって?

 なら塩野干支郎次の『ブロッケンブラッドU』読めばいいじゃないの。

 というわけで出ました、『ブロッケンブラッド』の続編。17世紀にドイツの錬金術師が生み出した人工魔女の血統、人呼んで「ブロッケンの血族」に連なる少年が主人公の現代ファンタジーです。基本的にはパロネタを多用したギャグコメディであり、シリアス要素は皆無。ブロッケンの血族がどうこう、錬金術師云々……といった設定も順調に形骸化していって「いかにノイシュヴァンシュタイン桜子(主人公の芸名)に様々なコスプレをさせるか」、それのみに焦点を絞ったかのような内容に仕上がっています。桜子ちゃんの七変化は正義。魂もげて何か代わりに違うエネルギーが股間方面支部へ充填されてしまいかねない、まさしく桜花爛漫たる可愛さに満ち溢れている。

 前巻の後半でアイドルになっちゃった主人公、今回も芸能界から去ることは叶わず、依然としてアイドル街道を驀進しております。「下手くそながらに白球を追った小学生の夏の思い出――」とノスタルジックな調子のカラーページから始まり、次では一転、アイドルとなった彼が女装して始球式のマウンドに向かう。実に鮮やかな対比です。とにかくコスプレさせまくるためなのか、ストーリー展開はメチャクチャでイイ加減としか言いようがないんですけれども、小ネタや細かい演出の鋭さはレイピア並みであり、侮って読めば怪我をすること必至。画力の高さとセンスの鋭敏さが掛け合わさり、絶妙な女装快笑譚となっています。

 日記で既に何度か書いてますが、当方は女装キャラが好きです。もっと厳密に言えば「イヤイヤ女装しているのにすげぇ似合ってしまう罪深い子」がツボ。『ブロッケンブラッド』に座す主人公はその理想に限りなく近い。仕事とはいえ、バレンタインデーを当て込んだチョコレートのCMで「好きな男の子にチョコを渡して告白する野暮ったくも可愛い女の子」を演じてしまい、クラスで男子たちに「桜子ちゃんのCM見た?」「見た見た!」「スゲーイイよな!!」と興奮されて隣りの机でハードに落ち込む姿は非常に滑稽で美味しい。そこでCMを撮るときの回想が入って、スタッフに「ほら! 自分が好きな男の子にチョコを渡す時の気持ちになって!!」と叱咤されるや「そんな感情込められるわけがねぇ――っ!!!」と顔を凄ませるあたり、あの呼吸はホントにテンポが抜群だ。やさぐれ顔最高。ストーリーのやっつけ臭さは如何ともしがたいものの、シーンごとの面白さだけで充分お釣りが来る。クオリティの高さは全編に渡って維持していますね。

 巨乳キャラの花京院京香が再登場(だよね? 全然覚えのない人だけど)してポロリなハプニングも仕込まれていますが、何と言ってもお色気クイーンの栄冠はノイシュヴァンシュタイン桜子ちゃんで不変。映画の撮影で擬似触手に襲われる場面はシリーズ通して屈指のエロさを誇ります。断言してもいい、作品世界であの映画をDVDで鑑賞し、当該シーンでヌいた男たちは数知れないだろうと。つっても桜子には割とフツーに女性ファンも付いていて、ライブの回で女性客が画面に映ることもチラホラとあり、野郎臭さを程好く中和してくれる。読めば読むほど、細かい箇所がイチイチ心に響いてくるマンガです。

 ネタバレになるので解説はできませんが124ページ、あそこに滲む絶望感は笑えばいいのか泣けばいいのか、さっぱり見当がつかない複雑な気持ちを抱かせ、深く印象に残りました。主人公の行く末を思うと心が痛む。しかし作者に対しては「いいぞ! もっとやれ!」と拍手喝采したくてたまらない。終始理性が狂いっぱなしです。巻末には『ブロッケンブラッドV』の予告が張られていて、えーこれでまだ続くのかよ、とツッコミたくなるものの超楽しみであることは確か。単行本は来年中に間に合うかしら。それにしても今回、守流津愛(主人公の妹。9歳)の出番がほんのひとコマしか用意されてなかったなー……一応マジモンの魔女っ娘だってのに。あとパロディでは第4話のジョジョネタが一番ウケました。今年は恋楯が出てブロブラUも発売されて、いやあ、不本意女装スキーにはうってつけのイヤーですな。ホクホク。

10月26日発売予定だったcuffsの『Garden』、来年の1月25日にいけいけごーごー大ジャーンプ

 午後6時過ぎ、突然不安に駆られてcuffsのホームページに向かう → トップで延期が告知されてなくてホッとする → 壁紙が追加されたらしいので作品ページに飛ぶ → 「2008年1月25日(金)発売予定」を視認 → 悶え死ぬ

 ちょうど延期を発表する瞬間にアクセスしたみたいです。トップページをリロードしたら「発売延期のお知らせ」が出てきました。虫の知らせって本当にあるんだ……まあ、先にげっちゅ屋で告知されたみたいですけど。

 そりゃ延びるだろうな、とは予想していたけれど、まさか来年とはなぁ。どうやら3ヶ月かけて嘆きの橋を渡らねばならないようです。耐え抜こう。

『G線上の魔王』も延期(2007年11月29日→2008年1月)

 過密気味だったはずの年末のスケジュールが徐々にスカスカになってきました……この調子で注目作が全部飛んでったら笑う。そして泣く。

「妹(わたし)は実兄(あなた)を愛してる」の続編「姉(わたし)も妹(あのこ)も恋してる」

 修羅場SSスレ初期の傑作「わたあな」、遂に第2部が走り始めましたよ。掲載自体は既にスレの方で行われていましたが、修羅場的なシーンに辿り着くまで時間を要するためにブログへ移行しようかどうか――という運びとなった模様。「妹は実兄を愛してる」と言えばキモウトの楓がたまらなく可愛く、泥棒猫の樹里もクールな策士っぷりが嵌まっていた一品であります。当時あそこにSSを投稿していた当方は影響を受けることを恐れ(つまり無意識に内容をパクってしまわないかと危惧し)、他の諸作には極力目を通さないようにしておりまして、ひと通り自作を書き上げてから「やっと読めるぜー」ってな具合で一気呵成に堪能した次第。抑圧された分だけ大いに興奮したものです。つーか先に「妹兄」読んでたら「自分は読み手で充分だ」と判断して修羅場SS書こうとは思わなかったでしょうね、たぶん。

 ともあれ、一気読みした夜から「続編はまだかー、番外編はまだかー」と念じて待ち続けていたSSですので、こうやって無事第2部が始まってくれたことにはホクホクとえびす顔。前作を読んでいない、という方はまとめサイトのページからどうぞ。キレとコクのあるテキストでさくさくと読み進められます。「わたあの」はスレで連載するにしろブログで続けるにしろ変わらず追ってくつもりですが、スレの方が感想は書き込みやすいかな……うーむ。

『キミキス pure rouge』、インターネット配信開始

 妖技“主人公分裂”によって物議を醸しているアニメ版『キミキス』。原作はおろか東雲太郎のマンガ版も目を通していない人間ゆえ複数の野郎キャラが闊歩してヒロインたちと群雄割拠のキス魔境を繰り広げたところで何らダメージは蒙りませんけれど、原作ファンが怒る気持ちはさすがに分かってしまう。いっそハッキリ別物と割り切れるよう『接吻忍法帖〜摩央転生〜』にすれば良かったのでは。

 前述した通り原作を嗜んでおりませんから視聴は今後も継続していくつもりです。複数組のカップルの仲が同時進行するというのは、どこに重点を置いて注視すればいいのやら迷うシチュエーションですが。複数主人公というより主人公不在の群像恋愛劇って印象。あー、それにしてもヒロインの名前がな……「マオ」って呼ばれるとどうしても毛沢東を連想しちゃいます。

・拍手レス。

 「紅3(仮)」10月刊行予定。嬉しいけど、『電波』の方も忘れないでやってください…。ジュウ様可愛いよ
 あのですね、スーパーダッシュのサイトは更新が遅いことで有名で……つまり新刊の『紅〜醜悪祭(上)〜』は11月予定なわけで……ジュウ様は確かに片憲作品最萌のキャラですが。

 ギャース! 魔王が延期した。来年て…。
 「ここからが本当の地獄だ」にならないことを祈りたい。


2007-10-11.

『人類は衰退しました2』の発売告知が来たり、練炭の壁紙がカッコ良すぎたり、『GOTH』がハリウッドで映画化されるという報せが入ったり、歓喜と驚嘆でリアクションに困る焼津です、こんばんは。そういえば乙一、最近新刊出してないな……古屋兎丸との合作『少年少女漂流記』を「新刊」とカウントすべきか否かにもよりますけれど。

Marronの『ひまわりのチャペルできみと』、月乃エンド終了。

 発売から2ヶ月近く経ってようやく一周しました。個別シナリオに突入してからの展開は「( ゚д゚)」の連続であり、良い意味で開いた口が塞がらず、顎が外れそうになることしきり。誰が予想できるだろう、こんなストーリー。竹井10日の物狂いじみたセンスがなければ「ねーよw」の一言で片付けられていたはずです。未だに信じがたい気持ちでいっぱい。こんな無茶をも易々と許容させる土壌を築く、その一点において彼の才能はホンマモンだと思います。

 ただ、いろいろとバラまいていた伏線のほとんどが未回収なままエンディングを迎えてしまったけれど、あれは他のルートでキチンと回収されるのか、単なる装飾みたいなものとして役割を終えてしまうのか、今のところ予断が許されない感じ。まだ一周したばかりなので、本番はこれからでしょう、たぶん。しかし、二周目が終わるのはいつになるかな……今月中に攻略する自信はないです。

・三浦しをんの『風が強く吹いている』読了。

 緊張は刻一刻と高まっていったが、それさえも心地よかった。一人ではなかったからだ。竹青荘にいれば、ずっと一緒に練習し、生活してきたものの気配を、感じとることができた。
 一人ではない、走りだすまでは。
 走りはじめるのを、走り終えて帰ってくるのを、いつでも、いつまでも、待っていてくれる仲間がいる。
 駅伝とは、そういう競技だ。

 こういった著書も出しているくらいBL(ボーイズラブ)が好きな腐女子作家であり、端々にそのニュアンスを滲ませた作風ながら、一切路線変更をしないまま直木賞を取ってしまったという結構珍しいタイプの人です。直木賞作家でBL寄りの作風といえば高村薫ですけれど、その受賞作『マークスの山』が「警察小説として充分に通用する出来」と評価されたのに対し、三浦しをんが賞を取った『まほろ駅前多田便利軒』は「BL系のレーベルから発売されていても違和感がない」ともっぱら評判であり、そういう意味では高村よりも一般文芸とBLの橋渡しに役立っているのかもしれませんが、小学校を卒業するとともにBLへの関心を失った当方にはよく分からない。さて、そんな作者が書いた長編小説『風が強く吹いている』は箱根駅伝を題材に取り、愚直なほど一心に「走ること」をテーマとした作品になっています。確かにあちこちでBLっぽさを覗かせる部分はありましたが気にしなければ気にならない程度の希薄さであり、よっぽどBLが嫌いで袈裟まで憎い人でもなければ支障なく読めるはず。2007年の本屋大賞でも『一瞬の風になれ』『夜は短し歩けよ乙女』に次ぐ3位でした。と言っても、1位と2位が20点くらいの差だったのに対して2位と3位は200点以上離れているんですけどね。ソフトカバー(正確には仮フランス装)であることも手伝ってか、そんなに厚くなさそうに見えるものの、紙質が薄いため全体で500ページを越えるなかなか読み応えのある分量になっています。

 竹青荘――通称「アオタケ」。築ウン十年を誇る木造アパートであり、すっかり老朽化が進んで床が抜けるほどのボロアパートになっていたが、月三万円と山の手にしては破格の家賃で寛政大学の貧乏学生たちに重宝されていた。四年生の清瀬灰二は朝夕の炊事を担当し、なにくれとなく住人たちの面倒を見る寮母的な存在で、年下年上を問わず大いに頼られていた。そんな彼は十人目の入居者である蔵原走(かける)がやってきたとき、一同に向けって爆弾発言を放った。「このメンバーで箱根駅伝に参加する」と。正月に放映されてお茶の間の注目を引き寄せる、言わずと知れた伝統ある駅伝大会。「竹青荘はもともと陸上の錬成所だ」と驚きの真実を明かしてみせるハイジだったが、一度も参加経験のない寛政大学が、ほとんどド素人と言っていいメンバーでその大会に出場しようなど、無謀もいいところだった。あまり乗り気ではない面々を引っ張って日々の訓練メニューをつくり、実行していくハイジ。暴力沙汰を起こして逃げるように陸上部から去った過去がある走は、ハイジの持つ不思議な魅力に吸い寄せられてふたたび疾走の世界へ歩を戻すことになるが……。

 こなれていて読みやすく、エンターテインメントとしては申し分ない筆致でしたが、内面描写と地の文がチャンポンになっていて、しかもコロコロと頻繁に視点が切り替わるからちょっと落ち着かなかったかな。でも、内容に関してはすごく面白かった。いきなり「いくぞ、箱根駅伝」とムチャクチャなことを言い出し、乗り気じゃないとはいえさして頑なに拒むこともなく付いていき、練習を重ねて徐々にレコードを上げていく……とスポコンらしからぬトントン拍子の展開。メンバー同士の衝突も時折混ざるとはいえ概ね良い調子で進むから、物足りなくはあるけれどその分イライラさせられる場面が少なくストレスを感じることなしに読んでいけた。普通ならここであまりの順調さに「ふざけるな、御都合すぎるぞ」と文句を付けるところですが、穏やかなりに丁寧かつ綿密な描写を心掛け、ゆっくりと着実にこちらの没入を促してくれるものだから、なんか御都合主義とかそういったものを大して意識せずに同調してしまう。何にせよ、イイ意味でベタな小説です。

 そしてやはり一番の読みどころは、考えるまでもなくクライマックスの駅伝でしょう。後半200ページ、全体の約2/5を費やし、選手から選手へ襷が繋がれていく過程を連綿と綴られている。しかし、読み終わってみるとつくづく不思議で首を傾げずにはいられない。本当に200ページもあったのか? そんなに長かった気はしないぞ……と。前半の200ページくらいは期間が長く、様々なイベントが盛り込まれているおかげで体感として「濃い」印象があるのですが、クライマックスに関してはホントあっという間に過ぎ去っていったように思える。読み返してみればちゃんと200ページ分の字が詰まっています。だというのに、それが短編程度にしか捉えられない。苦しみと喜び、己の限界を突きつけられる辛さとそれでもなお走り続ける楽しさ。仲間へ万感を込めて託す一本の襷。リレー要素を有した長距離走という駅伝ならではの形式が、肉体の躍動する激しさと、湧き上がる不安に克ってペースを律し続ける、祈りにも似た意志の震えを汗の一滴も漏らさず封じ込めている。無性に走り出したくなる「たまらなさ」が溢れんばかりに篭もってます。

 「飛行機があれだけ高く飛べるのは……すさまじいばかりの、空気の抵抗があるからこそなのだ!!」は『逆境ナイン』の名言ですが、向かい風を食らってさえ走る喜びと楽しみを捨てず、それどころか更なる境地を目指して足を繰り出すランナーの業が実に気持ちよく描かれている。さすがにメインキャラが10人以上というのは多すぎて、キングやムサあたりにもっと見せ場を配しても良かったのでは、と思ってしまうけれどそれはいささか贅沢な悩みでしょうか。作風はちょっと好みに合わないところもありましたが、んなことを度外視しても一向に問題のない爽快感に打ちのめされました。ヒロイン(?)が「走る姿がこんなにうつくしいなんて、知らなかった」と涙を流しそうになるシーンを読めば、ありありと想像できて自分まで泣きたくなってくる。三浦しをんについては完全に食わず嫌い気味だったけど、他の作品も読んでみたくなりました。


2007-10-09.

・マンガのまとめ買いにハマりすぎて買い物依存症状態の焼津です、こんばんは。ネット通販って便利ですよね。10巻以上あるマンガをポチッと手軽に購入できてしまうんですもの。今月は恐らくマンガだけで100冊越えるなぁ……調子こいて俺フィー全巻買ったりしたから……後悔はしていませんけれども。

「ジンガイマキョウ」のTOP絵、『オイレンシュピーゲル』の夕霧

 無限の愛嬌とイカレたソングを振り撒きながら近寄るものすべてを細切れ肉に変えるプリティでキュアキュアな「歌って踊れる殺人ミキサー」、それがこの夕霧・クニグンデ・モレンツであります。程好くけしからんスタイルを誇り、いろんな意味で全身凶器。しかし標語といいこのコスチュームといい、MPBは相当な数のボンクラどもが揃っているに違いない。その止め処なきボンクラ魂に敬意を払いたい。

・木葉功一の『フルーツ』読んだ。

 少女暗殺者と刑事の凄惨な愛憎劇を描いた『キリコ』が代表作の木葉功一、初となる短編集。高校生のときに『キリコ』を読み、その一見して「下手」とも取れる太くて荒々しいタッチが醸し出す異様なド迫力に呑まれ、「こいつぁきっとすげぇマンガ家になる」と予感して早八年、悲しいことに依然としてまだまだマイナーな存在ですが、こうして知らない間に新刊を出して消えずにいてくれるだけでホッとします。というわけで3年ぶりの単行本だったのにすっかりチェックから漏れていた一冊です。検索して見つけたときは焦りました。一話完結のオムニバス方式で、それぞれに登場するヒロインを果実(フルーツ)に見立てていること以外は何ら共通点を持たない構成となっています。少女暗殺者が出てきたかと思えば次は江戸時代に遡って花魁が出てきたりと、次手がなかなか読めない。それでいて狙いを外すことなくキチンとテーマに沿って描き切ってみせるからやっぱり「すげぇマンガ家」です。

 本当に粗くてほとんどインパクト勝負だった『キリコ』の頃に比べると技術が向上して描線も洗練されてきてますので、さすがに「下手」の一言で切り捨てる読者も少なくなってきたと思います。確かにクセのある作風は相変わらずですし、人によって好みが激しく分かれるだろうことは容易に予想される。お気に入りはお気に入りなのですが、なかなか推しにくいところです。しかし、「桃」「柿」「サクランボ」「葡萄」「蜜柑」「林檎」、6つの果実が織り成す陽気でいて蠱惑に満ちた世界を食わず嫌いで回避するのはあまりにも惜しい。是非ひと口でいいから試しに齧ってほしい、と一ファンとして願うばかり。

 1編目が2003年の発表で本書が2006年出版だから、3年を費やして実ったフルーツ、といことになります。掛かった時間は伊達じゃない。500〜600円が相場のB6判コミックにおいて税込700円超はちょっと高い(てっきり大判サイズと思い込んでいたから届いてビックリ)けども、値段相応の中身が詰まってました。作者自身の報告によれば現在書き下ろし小説の仕事をやっていて、講談社から単行本を出す予定らしい。同時に連載マンガの企画も進行中ということで、キバイズムに被れている身としては両方とも期待せざるを得ません。

・今野敏の『果断』読了。

 副題「隠蔽捜査2」。つまり、『隠蔽捜査』の続編です。前回のゴタゴタで降格人事を喰らって所轄の署長に落ち着いた竜崎がまたしても警察組織を揺るがす騒動に巻き込まれる。事件現場に居合わせた彼の下した判断と命令は本当に正しかったのか? 長すぎず短すぎずの分量で前作同様ノンストップで最後まで読ませます。

 SITとSAT――コンセプトのまったく異なる二つの特殊部隊を前にして、大森署署長となった竜崎伸也は決断を迫られた。昼に発生した消費者金融狙いの強盗事件、犯人3名のうち2名は既に逮捕済だったが、残り1名は緊急配備の網を潜り抜けて逃亡し、拳銃を手にしたまま小料理店の店内に立て篭もったと見られている。発砲も確認され、人質たちの安否が気遣われたが、警察からの電話連絡に対し相手は応じる素振りを見せない。難航する交渉。情報の収集と運用を旨とするSIT(捜査一課特殊班)はなおも粘り強く交渉を続けるべきだと主張し、同じく現場に居合わせているSAT(第六機動隊第七中隊)は速やかな強襲を提言する。思案の末、竜崎はSATに突撃命令を下す。「速やかな強襲」は遅滞なく敢行され、事件は「被疑者死亡」の結果で以って幕を下ろした。が、SATが突入した時点で犯人の所持していた拳銃は残弾がゼロだったことが判明し、マスコミは「弾の尽きた被疑者を一方的に射殺した」としてSATを批難する論調を展開。現場で命令を出した竜崎にも、責任の矛先は向けられたが……。

 品川=第六機動隊というのは黒崎視音の『六機の特殊』で覚えましたが、いやあ、それにしてもやっぱり「SIT」だの「SAT」だのといった言葉が紙面に躍り出てくると途端に心がワクワクとしてきますねぇ。略称が似ているせいでたまに混同されるこの二つですが、刑事部と警備部なので所属が全然違います。あんまり知ったかぶりしているとボロが出そうなので詳しい説明は割愛しときますが、それにしても「SIT」が単に「捜査一課特殊班」の略だというのにはビックリしました。てっきりスペシャルなんたらチームの略かと。

 んで、あらすじに特殊部隊が出てくるせいで一見して派手な印象を与える本作、実を申せばアクション・シーンとかはなきに等しく、非常に地道で渋い警察小説に仕上がっております。1/3くらいで事件発生からSAT突入までを描き、あとの2/3は事後処理に費やされる感じ。こう書くといかにもかったるい遣り取りの連続を予想させてウンザリしちゃうかもしれませんが、周りの人間から「変人」扱いされている竜崎が主人公なんだから退屈とは無縁です。慣習に囚われず、おかしいことはおかしいと言い張って信念を貫こうとする彼の姿は読んでいて痛快だ。一方で幼馴染みの伊丹に対し「小さい頃あいつにいじめられた恨みは忘れられない」と執念深いところを覗かせたりするものの、今回そのへんの確執は掘り下げられなかったかな。一度書けば充分なのに二度三度と繰り返すあたりは竜崎の密かなしつこさが窺えて苦笑モノでしたけれど。

 進行する「事件の後始末」とは別に、竜崎の家庭もちょっとずつ変化を示し始めます。特に長男のエピソード、うちのサイトに来られる方なら思わずニヤリとしてしまうはず。クライマックスで出てくるDVDに固有名詞は出てきませんが、誰が読んだってアレはアレでしょう。世の中に警察小説は数多くあれども、キャリア組の主人公が○○○○に勇気を貰う話なんて初めて目にしました。これが切欠で竜崎がスッカリそっち方面に染まってしまったらどうしよう。と、いらん危惧を抱いてしまいます。ともあれ続きが楽しみ。以降もこの調子でどんどん竜崎シリーズを書いていってほしい。

・それから野尻抱介の『太陽の簒奪者』も読み終わって、これはオチの部分がどうしても好きになれませんでしたけど、全編を通じ作者の意欲がパッツンパッツンに漲っている力作なので是非ともオススメいたしたく。ハードSFという当方にとって鬼門のジャンルながら、非常に平易な文章および適度に抑えられた緊迫感で畳み掛けてくるもんで夢中になって読み耽ってしまいました。オチに関しては好みの違いで片付けられるでしょうし、たとえそこらへんが好みに合わないとしても読む価値は充分にある一冊だと思います。いきなり江戸時代から始まって高校の天文学部へ繋ぐ冒頭の飛びっぷりからして野尻流のストーリーテリングが冴え渡っていますよ。膨らむだけ膨らみ切った謎が快音を立てて弾けるカタルシスに酔い痴れたし。

・拍手レス。

 自分としては、10週で打ち切りENDに持っていくような気がして堪りません(H X H)
 打ち切りなら打ち切りで、伝説になるような突き抜け方をしてほしいものです。

 泣き虫弱虫諸葛孔明を読んだ後に三国無双をやると、張飛を使って敵兵を殲滅したくなるから困ります。
 あれほどぶっちゃけすぎた三国志は見たことがありませんね。

 劉備のキャラがあまりにも強烈すぎて、もはやあれ以外の劉備を想起することができなくなりました。

 ケータイ小説風「鬼哭街」に腹筋破壊されましたwwwww
 書いてて「ホスト☆聖夜」のイメージと混ざりそうになったり。

 Bカップ先輩と魔女っ娘だなんて…滅世のテレカは出来ておる喃。
 そういえば8月の壁紙でも近い位置にいましたね、このふたり。ヒンニュー・シュベスターとでも呼ぶべきかしら。


2007-10-07.

『H×H』の連載再開がYahoo!のトップで報じられていたことに驚きの焼津です、こんばんは。24巻買ってきました。まだ読んでおりません。しかし、「10週連続の掲載予定」か……つまりそれ以降は不定期に戻る見込みが強いと。まあ、まず本当に10週連続で載るのかどうか確認してからでないと皮算用になる可能性がバリ高ですけれども。

・スコット・リンチの『ロック・ラモーラの優雅なたくらみ』読了。

「なぜなら、ロック・ラモーラ、いつの日か、おまえは男爵や伯爵や公爵と食卓につくことになるからだ。あらゆる種類の商人や提督、将軍や貴婦人と肩を並べてな! そして、そのときには……」チェインズは二本の指をロックのあごにあてがい、目と目が合うまで顔をかたむけた。「そのときには、まわりのあわれなあほうどもは、まさか盗っ人と食事をしているなどとは夢にも思わないはずだ」

 “氷と炎の歌”のジョージ・R・R・マーティンが絶賛、ということで興味を持った一冊です。原題 "The Lies of Locke Lamora" 。ヴェネツィアがモデルとおぼしき水上都市カモールを舞台に繰り広げられる異世界ファンタジーにしてピカレスク小説。主人公の「ロック」はファイナルファンタジー6のロック・コールから来ているとのことで、どうやら作者は熱烈なFFファンの模様だ。2段組で580ページ、だいたい『エンディミオン』と同じくらいのボリュームを誇り、文庫化すれば1000ページ超えは確実でしょう。

 ロック・ラモーラ――5人のメンバーから成る「悪党紳士団」のリーダーであり、貴族たちの懐から口八丁手八丁でありったけ騙し取る見事な腕前によって「カモールの棘」と呼ばれている詐欺師。体裁を懸念してか、騙された当人たちが告発せずに口を噤んでいるせいでその実在を疑う向きもあるが、れっきとして存在し、「貴族を標的にしてはならない」という秘密協定も何のその、今日もまた新たなカモを仕留めようと入念に計画を練っていた。だが、カモールの暗黒街を牛耳る首領(カポ)バルサヴィと彼に敵対する正体不明の殺戮者「灰色王」との抗争に期せずして巻き込まれ、次第に身動きが取れなくなっていく。なんとか巻き返しを図ろうと、お得意の悪知恵を絞りに絞るロックだったが……。

 主人公は詐欺師。流行病によって両親を亡くして孤児となり、盗人の見習いとして引き取られたものの、様々な孤児を集めて一大グループを築いている盗人でさえ「手に負えない」と匙を投げ、「鎖つき(チェインズ)」と呼ばれる詐欺師に売り渡される。もともと詐欺の才能を持っていたロックは、そこで本格的にペテン師として覚醒していく。タイトルといい、イラスト付きの表紙といい、出だしの展開といい、まるで児童向けのファンタジーみたいな雰囲気が漂っていますが、「次は急所をぶったぎるって脅すところだ。宦官についていろいろ気のきいた冗談を聞かせながらな」なんて発言が飛び出すことからも分かります通り、親戚の子供に読ませたくなる類の本ではありません。あくまでターゲットはティーンより上の層。作者のスコット・リンチは26歳のときにこれの版権を売り、28歳で作家デビューを果たして、今もまだ30になっていないかなり若手の人です。だからかファンタジー作品として見ればいささか重厚さに欠くきらいはあるけれど、膨大な分量を最後まで読ませるテンポの良さと面白さはあり、「作者がまだ20代」という事項もそれほど気に掛からなくなってくる。

 さて、大まかな作品背景を解説しますと、人類が文明の火を灯す遙か以前に「古族」という種族が都市を築き、彼らが滅亡した今もそれは残り続けていて、後からやってきた人類は間借りする形で新たな街をつくり、やがて水の都「カモール」ができあがった……という感じ。古族は現在の人類(訳者あとがきによれば「時代のイメージはルネサンスから産業革命期あたりだろうか」)が解析し再生産することも単に破壊することもできない謎の素材「古硝子」で建物を組み上げていて、古硝子は黄昏時になると螢火に似た「擬光」を放つ、などなど、ロストテクノロジー的な装飾が各所に施されています。品種改良や新素材開発、薬品製造といった割合生活に密着した技術である「錬金術」とは別におどろおどろしく滅びをもたらす黒魔術っぽい「魔道」があって、カルザインというところで独占的に研究され秘法扱いになっているだとか、今後のシリーズ展開を睨んだ世界設定の作り込みに読んでいてワクワクさせられる。ただ、少なくとも現時点ではそんなに込み入ってはおらず、あくまで現実のノリに近いので、「ゴチャゴチャした設定のファンタジーは苦手」という方も比較的馴染みやすいのではないかと思います。

 ファンタジーめいた世界であえてコン・ゲームをやる、という発想からして面白く、そういう意味では設定勝ちと言えるでしょう。とはいえ、詐欺を主眼として見れば実にシンプルな手口ばかりであり、長々とした解説が必要な箇所はあまりない。ロックは頭が回り口がうまく度胸が豊富、即興で咄嗟に芝居を打ってあらゆる役柄をこなす。素早い変わり身で別人に成りすまし、相手を言いくるめたり騙くらかしたりするのが得意。転がり込んできた逆境も逆手に取って順境に変え、「ピンチのときがチャンスだ」を地で行ってしまう。作中では一杯食わされてかなりヤバいところまで追い込まれ、「優雅なたくらみ」と表現するには程遠い窮地へ落とされますけれど、決して諦めず己の「嘘」の威力を信じて周りをカモり続け、報復に至る道のりを着実に舗装してみせる。詐欺師キャラというと如何にもシニカルでムカつくイメージが湧いてきますが、案外とガッツに満ちた野郎です。なので、狡知と狡知がぶつかり合う頭脳戦を期待するよりも、ひたすら単純に目まぐるしい情勢の変化をハラハラドキドキ手に汗握りながら眺める方が吉。仲間たちとともにコン・ゲームを進める傍らで灰色王騒ぎに否応なく関っていく「現在」のパートと、チェインズに引き取られたロックが様々な技術と教訓を仕込まれて一端の悪党に成長していく過程を追った「過去」のパート、この二つが交互に挟まる構成で以って読者を飽きさせずに疾走感溢れるストーリーを紡いでくれます。

 全七部構想と壮大なスケールを用意しているせいか、重要人物らしいのに名前しか出てこないキャラクターなんかもいて若干出し惜しみされている印象はありますが、それでも物語のあちこちにさりげなく仕掛けた伏線を終盤で一気に回収して繋ぎ合わせる手腕は素晴らしく、ボリュームに相応しい極上のエンターテインメントに仕上がっています。このまま映画化できそうだな、と思ったら既にワーナー・ブラザーズが映画化権を取得していて来年には完成させる予定なんだとか。さもありなん。英米ではシリーズの2作目がもう刊行されているそうで、今度はカモールを飛び出して海賊モノになるみたいです。RPG世代の若手(といっても当方より年上ですけれど)が書いた軽やかなコン・ゲーム・ファンタジー。マーティンの絶賛に釣られて手を付けましたが、こりゃ下手するとマーティン以上に一般ウケするかもしんない。あと、個人的にはジャンっていうふとっちょの仲間が好きです。見た目は穏やかながらキレると手がつけられない、作中でほぼ最強の奴。邪姉妹(得物の名前)カッコヨス。

・拍手レス。

 焼津さんの『あずまんが』や『ペケ』に対する感想を見てみたくなりました
 あずまんがは「手抜き」と「省エネ」の違いを精妙無比な間の取り方で示す画期的な四コマだと思いました。ペケは立ち読みしましたけど、内容覚えてないです。


2007-10-05.

・高津カリノの『WORKING!!(1〜3)』読んだー。

 “ヤングガンガン”で連載中の四コママンガ。ファミレスでバイトする眼鏡高校生の少年を主人公に、同僚たちとのユーモラスでナンセンス、やや脱力気味な日常の遣り取りを綴っています。と書くといかにも「地味そうな勤労コメディ」って印象を受けそうですし、当方もそんなふうに感じていたせいがあってしばらく敬遠しておりましたが、いざ読んでみると思いっきり先入観を裏切られてあっさりハマってしまいました。

 まず、全然「勤労」ではありません。「ファミレスでのバイト」が大前提になっていてタイトルも「WORKING」だというのに、ちゃんと仕事をしているシーンなんて滅多に見かけないですよ。1巻くらいならまだちょっとは接客シーンも入ってますが、2巻以降はもう客自体が画面に出てきません。客が映ったら奇跡。ほとんどがバックヤードでの会話、「ダベり」と称しても違和感のないダラダラした掛け合いが大半を占めている。こう書いてもまだまだ地味そうな印象は拭えませんがご安心を、本作には一つの特徴があります。断言しても構いません、「登場するキャラクターの九割は変人」。主人公よりも年上なのに見た目が小学生で「健気な幼女」めいている先輩なんか序の口、ファミレスの店員なのに常時帯刀していてたまに抜き放つ銃刀法バリバリ違反のチーフやら、男性恐怖症が極まって異性を見ると反射的に殴りかかってしまうため女性相手にしか接客できない暴力ウェイトレスやら、一切仕事せず店の食料を摂取することだけに全神経を傾ける雇われ店長やら、「ああ、いかにもガンガンだなぁ」という設定のオンパレード。“ギャグ王”やそれ以前からあった「4コママンガ劇場」に馴染んだ世代にはとても懐かしいノリです。勤労要素を期待すると壮絶に肩透かしでしょうし、絵柄も「うまい」と誉められるタイプではなく「味がある」と形容される系統。話の進行に合わせてどんどん新キャラが投入され、人間関係にも少しずつ進展が生じていくから一旦ハマれば後は泥沼であり、ゆっくり消化するはずだったのに気づけば3冊全部読み終わっていました。

 言うまでもなく「WORKING!!」は「WARNING!!」と掛けた小ネタ。そりゃ警告もされるわ、という危険人物がぞろぞろ出てくるものの、主人公自身が結構しぶとい性格してるから「奇人変人どもに翻弄されて身も心もボロボロに」みたいな暗いムードは一切ナシ。つうか主人公も立派な変人ですよね。女装の似合うロリコンって終わりすぎ。いやむしろ始まってるのか。とにかく終始一定してほのぼのとしている、だらけ放題のカーニバルです。個人的にはやっぱチビっ子先輩の種島ぽぷらが可愛すぎて顔から何か出そう。覇王翔吼拳とか。他のキャラとの身長差が激しい(1巻の表紙は中心にぽぷら全身像が来たせいで主人公と店長の頭部が消失しているホラー)からと、必死に背伸びしたり挙手したりして自己主張する小動物的な忙しないプリチーに心を奪われまくる。デフォルメ絵も抜群の相性です。帯刀チーフの八千代さんや3巻で登場する山田も悪くない。惜しいのは主人公の妹・なずな。キャラとしては美味しいのだけど、顔が相馬という男キャラに似ているせいでしんなり。口から我道拳が出そうになります。

 ちなみに、作者のページで同じく「WORKING!!」という四コママンガが不定期連載されていますが、「ファミレスでバイト」という設定のみ共通で内容は完全に別物となっています。ウィキペによるとWEB版は別店舗の話でこっちの『WORKING!!』ともちょっとだけ繋がりがあるらしい。今月下旬には4巻が発売されるとのことで、是非とも押さえておきたいところです。

・伊藤計劃の『虐殺器官』読了。

「ぼくは無神論者だ。だから、地獄うんぬんについては気の利いたことは言えそうにないな」
「神を信じていなくたって、地獄はありますよ」
 アレックスはそう言って、悲しそうに微笑んだ。
「そうだな、ここはすでに地獄だ」
 ウィリアムズが笑う。ここが地獄だとしたら、ぼくたちの仕事は地獄めぐりということになる。ダンテもびっくりだ。
 しかし、アレックスはそうじゃないと言って自分の頭を指差した。
「地獄はここにあります。頭のなか、脳みそのなかに。大脳皮質の襞のパターンに。目の前の風景は地獄なんかじゃない。逃れられますからね。目を閉じればそれだけで消えるし、ぼくらはアメリカに帰って普通の生活に戻る。だけど、地獄からは逃れられない。だって、それはこの頭のなかにあるんですから」

 英題「GENOCIDAL ORGAN」。叢書“ハヤカワSFシリーズ Jコレクション”の1冊であり、第7回小松左京賞最終候補作。この回では円城塔の『Self-Reference ENGINE』も候補に上がってますが、結局一つも受賞作が出ませんでした。というより「小松左京賞」と聞いてすぐにピンと来る人ってどのくらいおられるのでしょうか。一応はSFの新人賞で、『神様のパズル』あたりがヒットした(映画化も決まったそうです)けれど、他の受賞作は大して話題になっていません。リストを見ると応募作の中に大迫純一の『ゾアハンター』や北野勇作『かめくん』があって「へぇ〜」って感じになりますけども。さて、Jコレクションで「最終候補作」といえば『血液魚雷』(第3回「このミステリーがすごい!」大賞)が思い浮かびますが、その作者である町井登志夫はなんと第2回小松左京賞受賞者。Jコレクション、最終候補作、小松左京賞、そして漢字四文字のタイトル……奇妙な符号もあったものです。おかげでちょっと取り違えそうになった時期もありました。

 虐殺の器官――すべての人間が生まれつきそれを備えていたとして、その器官を刺激する方法があれば、虐殺は意図的に起こすことが可能となる。9.11以降多発するテロへの対策として生体認証を始めとする個人情報の管理を徹底的に強化した社会。時にその個人情報を偽装しつつ任務をこなす、存在を秘匿された兵士たちがいた。敵地へ侵入して要人を無力化する「国家の暗殺者」、すなわち特殊部隊の蛇喰らい(スネークイーター)。アメリカ情報軍の特殊検索群i分遣隊に所属し、「濡れ仕事屋」と蔑まれながら暗殺任務をこなすクラヴィス・シェパード大尉は、世界各地にて発生する虐殺の首謀者を次々と葬り去っていくが、先々で「ジョン・ポール」なる謎のアメリカ人の影がチラつくことが気にかかっていた。虐殺の舞台を渡り歩く同国人――よもや、そいつこそが真の首謀者なのか。やがてシェパードは彼と出会い、その口から「虐殺器官」にまつわる凡そ信じがたい説明を聞かされるが……。

 海苔みたいな形をしたステルス機に乗って、敵地に差し掛かると棺桶じみた鞘(ポッド)にファラオよろしく身を収め、『ウルトラヴァイオレット』冒頭シーンの如く射出されて侵入する。環境追従迷彩で周りの色に溶け込みながら移動する彼らは、あらゆる攻撃に耐えるため事前に痛覚を遮断(厳密には「痛み」だけ殺して痛覚の信号は生かす)したうえ、良心の呵責によって判断を迷わされぬようカウンセリングめかしたマインドコントロールと薬物投与で戦闘適応感情調整が施され、何事にも動じることなく作戦を遂行するマシーンと化す。近未来のハイテクソルジャーであり、正にこれぞ「虐殺器官」って気もするのですが、主人公たちは虐殺する立場ではなくむしろ虐殺を停止させる方なので、タイトルは別の事柄を指し示しているわけです。まあ、主人公たちも標的を仕留めるまでの過程に「邪魔だから排除した」ってノリの殺戮を結構行っており、正義の味方とは呼びにくい。あくまで蛇喰らいにして濡れ仕事屋、描き出される構図は「暗殺者 VS. 虐殺者」なのです。いきなり虐殺された死体を描写する冒頭といい、母親を安楽死させたことに拭えぬ罪の意識を抱いたまま戦場での殺戮と暗殺から目を逸らしている主人公といい、なんとも凄惨で重々しく救いのないストーリーなのですけれど、語り口調が軽妙なせいか全体の雰囲気は変に明るいです。敵陣に突入する場面で「まさかのときのスペイン宗教裁判だ」と言い出す野郎がいたりして、何とも締まらない。他にもSWD(シリーウォークデバイス)なんてアイテムが出てくるし、作者はそんなにモンティ・パイソンネタが好きなのか。あとさすがにフジワラという豆腐屋の車が戦地に出てくるのは遊びすぎ。

 タイトルや表紙からしてひたすらブッ殺しまくりの悪趣味なB級ペーパーバックSFという匂いが濃厚に立ち込め、そうではないともあながち言えない内容なのですが、入念な描写と綿密な設定が織り成す世界を「ブッ殺しまくり」の一言で片付けるのはあまりに惜しい。確かにハイテク装備を活用して戦う件は読んでいて面白いし、物凄い勢いで波及していく虐殺のムーブメントにはハラハラさせられますが、黒幕に位置するジョン・ポールがほのめかす「虐殺の器官」、そして彼が各地でそいつを刺激し続ける動機も興味を引っ張る大きな要因となっています。二段組で文字が詰まっているから厚さの割には分量が多く、ただ死体が転がるだけの話だったら途中で飽きてしまうところでしょう。とはいえ、やっぱり虐殺器官云々は説明が突飛すぎると思いましたし、「バカバカしい」と理解を拒んでいた主人公が次第に納得して受け入れていく流れに乗れなかった部分はあります。「虐殺」がテーマなんだし、それが起こるまでの過程や理論にもっと生々しさと説得力がほしかった。どうにも「机上の空論」といった色合いが強い。あくまで机上の空論と割り切って読み進めていけば、これはこれで面白いのですけれど。

 罪と罰の果てに待つ地獄。該博な知識が蕩尽され、良い塩梅に浸れる仕上がりとなっています。題名がちょっと安っぽいせいもあって発売後しばらくはスルーしていましたけれど、某所で面白いという評判を聞いて手に伸ばしてみたら本当にその通りで最後までぐいぐい読まされました。荒削りでいろいろと難点が目立つものの、新人らしいフレッシュな読み応えが全編に溢れていてたまりません。ザックリと砕けた文章も目に心地良い。作者は「コジマニア」を自認するほど小島秀夫が好きらしく、本書も『メタルギア』のオマージュチックな箇所が大量にあるとのことですが、MGはやったことないのでよく分かりません。なんであれ、次回作が出たら読んでみたい作家ではある。

・拍手レス。

 声なき声を聞いてくれ。それが俺の最大級の賛辞だ。
 文脈がよく分かりませんが、賛辞をもらったからには「あざーす」と言わせていただきます。

 10/1の日記を見て、スカイ・クロラをパロったスカイガールズSSがあったらいいなぁと思ったり。
 スカイガールズと言えばエリーゼのデコキャラっぷりが神懸ってますね。


2007-10-03.

・更新するため「index.html」を開こうとしてうっかり近くにあった「k02.jpg」をクリックしてしまい、予期せずいきなり胡桃のドアップが画面に表示されて鼓動止まりかけた焼津です、こんばんは。可愛いけど心臓には優しくない子だ、綾瀬胡桃……確実に寿命が減りました。

・某ケータイ小説が某エロゲーを盗作したという疑惑騒動が巻き起こっている昨今、例によってメッセで「もしパクられたのが○○だったら……」というネタを話し合い、思いついたのが以下。

「The Host Slayer −スズのオト、オニのナミダ−」

 主人公の昆汰雄朗(コン・タオロウ)は不良高校生。親に反抗し、妹である瑠璃(ルリ)を可愛がりながらも学校に行かず、毎日喧嘩に明け暮れていた。汰雄朗には竜穂純(リュウ・ホジュン)という幼い頃からの親友がいて、「ブルー・クラウド」というグループとつるんでいたが、ある日彼らに裏切られ敵対する不良グループの中に取り残されてボコボコにされる。半死半生の傷ついた体を引きずって辛うじて自宅まで辿り着くと、静まり返った家の奥で瑠璃が事切れていた。ブルー・クラウドのメンバーたちに輪姦された末、殺されたのだ。妹の遺体に取りすがり、号泣する汰雄朗。揺らされて「ちりん」と鳴る腕輪の鈴。

 闇医者「杖喰い(ツエ・イーター)」のおかげで瀕死の重態から回復した彼は、姿をくらました穂純たちの行方を追い求め、「新宿で似た顔の男を見かけた」という情報に基づいて上京。穂純は「オニの目を持つイケメン」と呼ばれる一流ホストとなり、かつてブルー・クラウドの仲間だった四人のホスト、邪坊(ジャボウ)・将也(ショウヤ)・韻神(インシン)・歪尊(ワイソン)とともに歌舞伎町で名を轟かせていた。あえて警察に通報せず、穂純に近づいて自らの手で報仇雪恨を遂げるため、汰雄朗はホスト稼業に足を踏み入れて復讐の夜王と化す。瑠璃と瓜二つの援交少女・瑠依(ルイ)と運命的な出会いを果たし、「あにさま」と慕われることで心惑わされながらも、「おれに幸せになる資格なんか、ない……瑠璃のカタキを取らなくちゃダメだ」と非情に徹してナンバーワンホストの階梯を駆け上がっていく。

 股には一刀、倒すは五人――邪坊・将也・韻神・歪尊の四人から女を奪い、敗北感を味わわせたうえで彼らを闇に葬り去る汰雄朗。そして、瑠依が見守る前で遂に穂純との宿命の対決が始まった……(BGM:Supersonic Showdown)。

「穂純!てめーなんで瑠璃殺したんだよ!」
 タオロウは、叫んだ。
「うるせー汰雄朗!」
 ホジュンは問答無用で殴りかかってきた。
「ドカッ!」
「ギャッ!」
「バキッ!ボコッ!」
 悲鳴に構わずホジュンは殴り続ける。
「おまえにおれの気持ちがわかるかよ!!」
 叫びながら、ホジュンは殴り続ける。
 タオロウの顔面は血みまれになった。
「わかんねーよ!おれたち親友だったじゃねーかよ!!」
 タオロウは叫び返して反撃した。
「ガッシ!ボカ!」
「グワッ!」
 てのひらが血に染まっていく。
「キャー、やめて!!」
 ルイが叫んだ。
「ホジュンはどうでもいいけど、それ以上紫電掌使ったらあにさま死んじゃう!!」
 タオロウには、まったく聞こえていない。ひたすら叩き続ける。
「チクショウ!穂純!てめーがいなきゃ瑠璃は幸せでいられたのに!」
 それを聞いて、ホジュンの瞳に鬼火が灯った。
「バカヤロウ、おまえみたいな奴が兄だからいけないんだ!」
 怒りに燃えるホジュンが殴り返す。一発、二発、三発。どんどん殴り返す。
「おまえの妹!狂ってんだよ!狂ってんだよ!」
 ホジュンの形相は、もうフツウどころかオニそのものだった。その様子を見ていた、ルイは言葉を失ってしまっていた。

 殴り合いの末に穂純が明かした真実。「嘘だろ……」呆然と立ち尽くす汰雄朗の手から形見の腕輪が滑り落ち、スズの音が響き渡る。そこへ点々と零れるオニの涙。すべてを知った汰雄朗は声を張り上げ「あああああああーーーー!!!」と新宿のソラに絶叫して――

 ……すみません、いくら偏見だらけだからってこれはあんまりというものです。↑はこれの改変。しかし、ホント『鬼哭街』はネタにして弄りやすい作品だなぁ……。

・藤田和日郎の『黒博物館 スプリンガルド』読んだー。

 スコットランド・ヤードに実在し、犯罪の証拠品等を展示している「黒博物館(ブラック・ミュージアム)」を舞台に選んだ新シリーズの1冊目。本編に当たる「スプリンガルド」と番外編「マザア・グウス」の2つを収録しています。シリーズものとはいえ一冊読切なので、感覚としては『邪眼は月輪に飛ぶ』に近い。「スプリンガルド」という話はこれで完結しておりますが、『黒博物館』自体は今後も続くみたいです。

 ジャックと言えば「切り裂きジャック」――そんな常識が根付く50年も前に、ロンドンを恐怖のどん底に叩き落した「ジャック」がいた。うら若き婦人を襲い、目を爛々と輝かせ、口から青い炎を吐き、高笑いを上げつつ跳ねるように逃げ去っていく正体不明の怪人。人呼んで「バネ足ジャック」。犯人とおぼしき人物を見つけ出すところまでは来ていたが、ふっつりと犯行が途絶えたせいもあって逮捕まで至らなかった。しかし3年後、ふたたび姿を現したバネ足ジャックは次々と凶悪な殺害を繰り返す。さすがにこれは座視できない。たとえ相手が広大な領地を所有する貴族であっても。「スコットランド・ヤードの機関車男」ロッケンフィールド警部は単身、容疑者として有力視されているストレイド侯爵の邸に赴くが……。

 切り裂きジャック関連の解説書で有名な仁賀克雄の『ロンドンの怪奇伝説』により着想を得たゴシック活劇。「怪奇と冒険と浪漫の協奏曲」という謳い文句に違わぬ熱い一作に仕上がっています。連続殺人の真相を巡って進行するのでミステリと言えなくもありませんが、ノリとしては江戸川乱歩中期の怪人モノみたいな調子なので推理小説風の展開を期待すると「アルェー?」となるかもしれません。代わりに探偵小説チックな怪しくも美しいストーリーを望めば拍手喝采となること請け合いです。いやあ、単純にワクワクしました。絵柄やアクションは「いつもの和日郎」であり、ジュビロ節が炸裂しまくっているのですけれど、マヌケと表現しても差し支えない格好をしたバネ足ジャックがなぜか異常なくらいにカッコ良くて震えます。つくづく凄いマンガ家だこと。ネタバレになっちゃうので詳しくは書けませんが、クライマックスは「キタコレ!」と叫ぶしかない状況に突入していって弥が上にも盛り上がります。番外編の方も本編を読んだ後だと思わずニヤリとしてしまう要素が仕込まれていてメチャ楽しい。

 『邪眼は月輪に飛ぶ』同様、出来に関してはまったく危惧を抱いていなかったが、それでも予想以上に面白くて満足することしきりな一冊でございました。『からくりサーカス』は途中で読むのやめてしまいましたけど、改めて買い集めて読み直そうかな……全43巻というのはちょっと怯む分量ですが。それはそれとして幕間で登場する学芸員(キュレーター)さんが可愛すぎ。次の『黒博物館』でまた彼女と出会えるのだと考えると胸がほんのり温かくなります。

・拍手レス。

 最近の大田はファウストも出さないくせに、調子に乗りすぎだと思います。まじで。
 またファウスト出すとかいう話もあるそうですが、正直関心がなくなってきました。

 11月のコンボは天国か地獄か。 お返しCD今回は見送ります、『あやかしびと』の時ほど夢中にはなれず…
 バレバトもクラナドもひまチャきも終わっていない身としては忙殺地獄と化すこと必至。

 何というか、難儀な作家さんばかりですな。
 高品質とハイペースはなかなか一致しないみたいです……。


2007-10-01.

・部屋の中が古本臭い焼津です、こんばんは。久々に蔵書の整理をしたら埃やら何やらでもはや「臭い」という域を超えて味覚を刺激するレベルにまで達しました。さっきからずっと舌がピリピリします。まさしく「そのときの匂いは、味になる」。

ぶらさがりクマー

 猛スピードの対向車をジャンプで回避→欄干を飛び越えてしまい慌てて橋桁にしがみ付く、という経緯も物凄いが、やはりこの写真のインパクトは格別。見ているだけで不思議なほど笑いが込み上げてきます。「クマの走行速度は時速60キロ」とか言われるくらいだし体力はかなり保有しているのだろうけれど、それにしてもこの姿勢のままひと晩過ごしたって聞くと俄には信じられませんね。いやはや。

propplerの『Bullet Butlrs』、お返しCDの応募締切を明日(10月2日)まで延長

 そういえばバレバトまだ途中なので送ってなかったな……えーと、収録内容はCDドラマとカウントダウンボイス、システムボイス、それに壁紙か。今回は「あやかさんとしゅうげんくん」みたいなゲームの番外編は付かないんですね。「Bullet Butlersのキャラたちが学園ドラマに挑戦!」ってことで中身も『ろすちゃ』系ギャグの模様。

 これから慌てて出すのも面倒だし、潔く見送ることにしようかしら。何でもかんでも入手しようとするマニアの習性に最近ちょっと疲れてきましたし。

西尾維新スターターパック

 もはやネタの域すら超えた芸術的なボッタクリ商法に失禁しそう。

 『クビキリサイクル』『刀語 第一話 絶刀・鉋』、この組み合わせ自体が既に抱き合わせ臭いけれど、販売価格がバラで買った場合の単純な合計金額を軽く上回っている(1029円×2→2058円が2940円に)ところがミソ。袋と栞とシールに900円近い差額を付けるだなんて……これはひどい付加価値ですね。本当に未読者に売りたいなら「この機会でしか入手出来ません!」と煽るのやめましょうよ。誰がどう見たって既存のファンを対象にした搾取商法じゃないっスか。さすがに呆れ果てます。

 「西尾維新に興味はあるけど手を出すキッカケがない」という人の多くは恐らくクビキリを始めとした初期作が未だに文庫化されていないからで、1000円を超えるノベルスを買うことに躊躇、ってな理由により手が伸ばせないでいる気がします。ならさっさと文庫化すればいいじゃん、という話なのですが、クビキリは結構ボリュームがあるうえ刊行から5年経って本の価格もじりじり値上げされている(『ネコソギラジカル』も1冊あたりの厚さはクビキリと変わらないのに105円増)から、仮に文庫化したとしても差額はたぶん200円程度にしかならないだろうなぁ……5、6年経って文庫化したら値段が新書の時と同じだった、なんてケースも希ながら起こるのがこの業界です。『ヒトクイマジカル』あたりになると分冊されて元より高くなる可能性すらあり、つまりきっと今後もずっと講談社のターンが予想される。『きみとぼくの壊れた世界』も「ぶきそぼ」こと『不気味で素朴な囲われた世界』の発売に合わせて2000円近いハードカバー版を上梓する予定だとか、ホントやりたい放題。

・森博嗣の『スカイ・クロラ』五部作を読了。

 今までに見たことがない美しい
 翼がきっと一瞬だけ現れる。
 これまでに思ったこともない美しい
 ループを描くだろう。

 その一番美しいものこそ、
 お前の敵だ。

 戦争が繰り広げられているパラレルな日本を舞台に、「キルドレ」という歳を取らない子供たちが戦闘機パイロットとなって大空を翔けては殺し合って墜ちたり帰還を果たしたりする、少しファンタジーやSFの色合いを帯びた航空ロマン小説。来年にアニメ映画化される予定となっている。監督は押井守で、詳しくはこのへんを参照されたし。刊行順に並べれば『スカイ・クロラ』→『ナ・バ・テア』『ダウン・ツ・ヘヴン』『フラッタ・リンツ・ライフ』『クレィドゥ・ザ・スカイ』となりますが、著者のブログに

 「クレィドゥ・ザ・スカイ」は最後に発行されたが、最終巻ではない。「スカイ・クロラ」が最終巻だ。ノベルスや文庫が出揃ったあとには、このシリーズを読む人は、「ナ・バ・テア」から読むことになるだろう。いつも書いているが、シリーズを順番どおり読まなくても問題はない。それを示すために、意図的に最終巻から出した。

 とある通り、『スカイ・クロラ』はシリーズ第1弾であるにも関らず物語の結末を描いています。当方の知っている例で挙げると『カオス レギオン』みたいな感じ。あれは作者の意図でああなったわけじゃないようですが。ともあれ本シリーズ、時系列に沿って読みたいのならば、2作目の『ナ・バ・テア』から手を付ける方がいい。けれど、シリーズ全体の繋がりを見渡すために一旦『スカイ・クロラ』を読んでおいた方が内容は理解しやすい。このシリーズは構成がかなり意地悪で、語り手がちょくちょく変わるくせに一人称がすべて「僕」で統一されているため混乱しやすく、特に『クレィドゥ・ザ・スカイ』に至っては主人公自身が「自分の名前を思い出せない」という状態に陥り、漫然と読み進めていたのではストーリーの連関を見失ってしまう。なのでまず一番最初に『スカイ・クロラ』に目を通しておいた方が把握のためには良いんですが、実質的な完結編ということもあって最初に読むとあまり面白くない、というジレンマを抱えています。覚悟を決めて全冊読み通すつもりなら『スカイ・クロラ』から、ちょっと内容が気になってつまみ食いする程度なら『ナ・バ・テア』から、ってなところが推奨ルートでしょうか。

 たまによく分からない比喩が飛び出す森文体は相変わらず。シニカルでいて透明度の高い筆致は、他のミステリィ作品と違って「ただ単に書きたいもの」に近いせいか淡々としながらもどこか活き活きとしています。戦闘機モノなのにドッグファイトの描写が夢枕級というか、改行乱発モードできれぎれ(「背面へ。/ダイブに。/メータを見る/反転。/エレベータで機首を抑え。/さあ、勝負だ。/翼が光る。/向いた。/三、二、一。/撃つ。/離脱。/右へ。/アップ。/背面から、下へ落ちて。/敵機を見る。/どこだ?/上か。」――こんな調子)としていて、スピード感は出ている反面いまいち状況を想像しにくかったです。本の下半分が白い白い。でも、命を懸けて空を飛ぶ、墜落することを厭わない、ただ翼と空だけがあればいい……そんな切実な願いが全編に染み渡っているせいで、余白の白さや、ほとんど動かなくて停滞しているストーリーも気にならないほど爽快な冷たさが肌を襲ってきます。「ごらん。これが彼らの場所、あれが彼らの墓――」という素っ気ない一文がシリーズのニュアンスを的確に伝えている。

 正直、『スカイ・クロラ』を読み終わった時点ではあまり面白くないと思いましたが、『ナ・バ・テア』、『ダウン・ツ・ヘヴン』と続きを読み進めるにつれて徐々に引き込まれていった。雲の上、空気は薄いくせに色が濃い世界。構成がややこしいうえいろいろと謎が残る(解く手掛かりはあるっぽいですが)ため、あれこれと詳しく語れないのが難点だけど、「空バカのガキども」が気に入れば細かい箇所はテキトーに処理できます。シリーズとしては完結していますが、来年には短編集を刊行するとのことで、個人的に好きなキャラである笹倉やミズキの活躍を期待したい。というか本編、ミズキの出番が予想以上に少なくて舌打ち。せっかくの幼女だってのに……もったいない。

・今月の予定。

(本)

 『遠まわりする雛』/米澤穂信(角川書店)
 『メフィストの牢獄』/マイケル・スレイド(文藝春秋)
 『にこは神さまに○○(ナニ)される?』/荒川工(小学館)
 『時砂の王』/小川一水(早川書房)
 『 <本の姫> は謳う1』/多崎礼(中央公論新社)

 今月は新本格史上最強の迷作と評しても過言ではない中西智明の『消失!』が講談社ノベルスより復刊されます。中学生の頃に島田荘司を読んだのが切欠で新本格にハマり、時として様々なアホトリックやバカトリックを目にしてきた当方ですが、あんだけ衝撃を受けて開いた口が塞がらなくなるトンデモネタは他に思い当たらない。清涼院流水の『コズミック』とかとはまた違った路線で比肩しうるものがないオンリーワンのバカミスです。次回作が大いに期待されたものの、短編を一個発表したきりで2冊目の本は出ず終い。復刊するついでに唯一の短編「ひとりじゃ死ねない」も併録してくれないかなぁ。消失繋がりだからか阿井渉介の『列車消失』も復刊されるみたいで、これは確か全10冊から成る牛深警部シリーズの5作目でしたっけ。阿井渉介はカチカチ山に見立てた連続殺人事件とか、発見した死体が少し目を離した隙にミイラ化したりとか、割と新本格っぽい奇想を用いたミステリを数多く書いていたのにうまく時流に乗ることができず、ミステリ読者の間でもそれほど知名度が高くなかったマイナー作家です。奇想とはいえ基本的なノリが刑事小説なので、本格好きの読者にはあまり好まれなかったのではないかと思われる。そもそもトリックは地味なくせして変に強引だしなぁ……『列車消失』は比較的注目された作品ではありますが、牛深警部シリーズは立て続けに読んであのヘンテコ世界に慣れ切るのが乙なのであり、いきなり途中から読んでも肩透かしを喰うんじゃないかしら。実際、最初に『列車消失』を読んだときは「なんだこれ」って感じで、シリーズを1作目から読み直して「ああ、こういう世界なんだ」と納得した記憶があります。好きというほどではないけど、密かに阿井作品を気に入っている一人としてはシリーズの一冊だけをポンと復刊する遣り方には疑問。

 『遠まわりする雛』は古典部シリーズの新作で短編集。タイトル決定に難航したとのことで、コロコロと題名が変わりました。『心あたりのある者は』とか『雛様は帷の向こう』とか。先月読んだ『クドリャフカの順番』がとても面白かったので待ち遠しい。『時砂の王』は久々の新作で、しかも文庫書き下ろし。ちょっと有名になってきたから次回作はドーンとハードカバーが来るんじゃないか、と予想していただけにホッとしたような肩透かしのような。思えば小川一水ってまだハードカバーを出したことがないですね。ともかく、内容は個人的に好みな「時間モノ」らしいので期待。マイケル・スレイドはカナダの作家集団、奇抜で悪趣味でトリッキイな作風をしているため、激しく好みが分かれるものの病み付きとなった読者は根強く存在する。ここのところ1000円を超える分厚い本ばかり出していましたが、今回は1000円切るみたいだし薄めなのかしら。荒川工の新作はいろいろ手違いがあって二度もタイトルを間違われたそうな。『沙梨は魔王の○○になる?』は続刊の予定題名だろうか。ノリとしては『このはちゃれんじ』に近いらしいから、たぶんドタバタコメディでしょう。ワクテカします。『 <本の姫> は謳う1』は『煌夜祭』の人の受賞後第一作。『煌夜祭』一冊こっきりで消えるのではないかと危ぶまれた時期もありましたが、「1」とナンバリングしている本書からしてガンガン新作を出していってくれるのでしょう。そう信じたい。

(ゲーム)

 『Garden』(CUFFS)

 『Dies irae』はまた延びたけど気にしないで、わたしは兵器。「I am Tank.(BANG!)」とストレスでちょっと壊れかかっている昨今ですが、麻耶雄嵩や飛浩隆や秋山瑞人や高畑京一郎や浅井ラボや水村美苗の新作を待ちぼうけしている身には慣れた焦燥感です。オクルトゥムも陰と影も俺翼も、発表から2年以上経っていて動きはないけれど、地球は元気です。私もなんとか元気です。

 で、トノイケダイスケと☆画野朗コンビの新作『Garden』、体験版をプレーするや覿面に笑み崩れて購入確定となった次第。しかし、体験版がどうも急拵えな感じでボイスも入ってないし、開発が間に合っていない雰囲気すごく濃厚。これで来月に延期でもされたら、11月戦線は心底地獄と化します。11月って改めて数えたら期待作が8本あったんですよ……信じられますか? これまでに買った今年の新作の本数よりも多いんですから狂ってます。何本かは延期するんでしょうけども。いや『Dies irae』は逃げるなよ。逃げないで、お願い。

・拍手レス。

 猫被りルサルカの前に怒りの日がニヤニヤの日になってしまいますな。<体験版2
 バカ笑いと泣きべその立ち絵を眺めているだけで顔面が崩壊します。


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