2007年5月分


・本
 『精霊の守り人』/上橋菜穂子(新潮社)
 『闇の守り人』/上橋菜穂子(偕成社)
 『邪眼は月輪に飛ぶ』/藤田和日郎(小学館)
 『イリアム』/ダン・シモンズ(早川書房)
 『Damons(1〜5)』/原作:手塚治虫、漫画:米原秀幸(秋田書店)
 『とめはねっ!(1)』/河合克敏(小学館)
 『1000の小説とバックベアード』/佐藤友哉(講談社)
 『オリュンポス(上・下)』/ダン・シモンズ(早川書房)
 『苺ましまろ(4〜5)』/ばらスィー(メディアワークス)
 『かるた(1)』/竹下けんじろう(秋田書店)
 『えむえむっ!』/松野秋鳴(メディアファクトリー)
 『数学的にありえない(上・下)』/アダム・ファウアー(文藝春秋)
 『それでも町は廻っている(1〜2)』/石黒正数(少年画報社)
 『放浪探偵と七つの殺人』/歌野晶午(講談社)
 『チェーザレ 破壊の創造者(1〜3)』/惣領冬実(講談社)
 『前巷説百物語』/京極夏彦(角川書店)
 『バカとテストと召喚獣』/井上堅二(エンターブレイン)

・ゲーム
 『ドラクリウス』体験版(めろめろキュ〜ト)
 『Bullet Butlers』体験版(propeller)


2007-05-30.

propllerの新作『Bullet Butlers』、体験版をプレー。

 「バレットバトラーズ」と読む。当初の予定では「propller4作目のソフト」として発売されるはずだったのが、『はるはろ!』の無期延期に伴って前倒しとなり、来月末に「propller3作目のソフト」としてリリースされることになった一本。略称は「BB」「バレバト」「弾丸執事」など。ライターと原画は『あやかしびと』でコンビを組んだ東出祐一郎&中央東口が務めている。『あやかしびと』の体験版も長かったけど、負けず劣らず今回も長い。腰を据えてじっくりやるか、何度かに小分けしてプレーするかを選ぶことになると思います。

 科学と工業が発展する一方で魔法や亜人が生存している異世界――という、当方の狭い引き出しから持ち出せば『されど罪人は竜と踊る』『銃と魔法』を彷彿とさせる設定。某所の書き込みでは『シャドウラン』なるTRPGが元ネタと推測されていますが、さっきググって概要を知ってきたばかりの人間には「そんな感じもするけど、はて、どうなんだろう?」といったところ。出だしはかなり好みで面白かったです。まずザッと神話を語る。創造主、天界(ブレシグランド)、地上(ゴルトロック)、不死の王、八英雄。エルフだのドワーフだのゴブリンだのといった用語が踊るエピックファンタジーめいたあらすじに、「ノーライフキング」や「屍兵」といった言葉を散りばめて濃厚にリビングデッド臭を漂わせているところは少し笑いました。ライターの東出祐一郎は相当なゾンビ好きということで、前作にそうした要素のなかった反動がドカッと来たんでしょうか。「頭を砕くまで襲ってくる」としっかり弱点まで触れるあたりに一種のフェチシズムを感じたり。

 それから幼き日の主人公リックおよび兄の短いエピソードを流して本編へ。橋の上で死戦を繰り広げる、いきなりの山場に突入します。道路を大型トレーラーの横付けで塞がれ、魔法のバリアを張って銃撃を防ぎつつ状況を突破しようと尽力する主人公たち。到底異世界ファンタジーとは思えない、B級アクション映画めいた流れに興奮。相手が狂信の徒とはいえ主人公が普通人を殺戮しまくってるのはショックでしたが、変な言い訳はしないからどうにか乗り切れる。黒禍の口笛(ベイル・ハウター)とか、大量にルビを振ったテキストは……やはり、とても楽しいですねー。「身を粉にして主を守り抜く」という滅私奉公の忠臣モノのようでいて、「こんなところで死ぬわけにはいかない」と決意を固めるところなど、結構サバイバルめいたノリもある。「守るために死ぬ」のではない、「守り抜くために生き抜く」のだ、みたいな。

 ビッグブリッヂの死闘が終わって日常モードに入り、メインキャラクターたちを紹介する段になるとややダレますかなぁ。『あやかしびと』が人間関係を一から構築するところから書いているのに対し、『Bullet Butlers』はほぼ全員と面識があるため、主人公の「知人と接する感覚」に共感するまで少し手間が掛かります。ヴァレリアや雪には自分でも驚くほど関心が湧かなんだです。あと、セリフの掛け合いのテンポが悪い部分も点在。地の文にしろ会話文にしろ、丁寧に書いてくれるのはありがたいですけど、ボイスが付くと非常に間延びした印象を受ける箇所があります。特にギュスターブとレイスが会話を交わす場面。ふたりとものんびり喋っているんで緊迫したムードがいまひとつ……コメディチックなシーンでのホープのはっちゃけぶりは楽しくて、そこは救いでしたが。

 頻繁に回想シーンが入って過去と現在が交錯し、構成はちょっとブツ切り感覚。一つ一つのエピソードが長引きすぎないように配慮してくれているうえ、緩急も心得ているから、とりあえず最後まで楽しめました。『あやかしびと』で「第二のニトロプラス」と呼ばれただけのことはあり、アクション展開の盛り上がりは充分。レイスの立ち絵やイベントCGはヒロインよりも気合が入っているように見えるのは錯覚でしょうか? ただ、どーしても引っ掛かりを覚えるのはその喋り。演技は良いと感じるトコもあるけれど、どうもこう……遅い。戦ってるとは信じられない悠長さ。「こいつが一つのセリフを口にするたんびに10発くらい撃ち込めるんじゃねぇ?」とか思ってしまう。せめてもうちょっと早口にして欲しかった。

 他にも「何時」が「いつ」ではなく「なんじ」と読まれていたり、「Have a nice day」とルビを振ってるにも関らずそれを読まなかったり、ポツポツ気になる箇所が散見されます。どれも重箱の隅だけど、「細部に神が宿る。だが同時に悪魔も潜む」という言葉を連想して少し心配に。本当に前倒しの影響は出ていないのかしら……まあ、とはいえ、体験版以降は策謀が渦巻く世界へ身を投じて主従ともども翻弄されることになるんだろうし、心配を押しのけてワクワクさせてくれる要素も多く、「続きがやりたいか?」と訊かれれば無論やりたい。セルマの魅力もまだまだこれからドンドン引き出されていくことでしょう。そしてライターがライターだけに不死の王が復活して腐乱死体の軍勢と相見えるルートとか、派手な展開は絶対にあるはず。壮絶なぶちかましを期待せずにはいられません。期待は裏切らずに予想を裏切ってほしい。

 ちなみに、「九人目の従者」にまつわる描写はリックの先行きを暗示しているようでなんとも不安だ。これで「リックよ…戦う前に一つ言っておくことがある お前は私を倒すのに自己犠牲が必要だと思っているようだが…別になくても倒せる」になったら噴くけど。「フ…上等だ…オレも一つ言っておくことがある このオレに喪失した左手で魔銃を掴んだ兄がいるような気がしていたが別にそんなことはなかったぜ!」「そうか」「ウオオオいくぞオオオ!」 「さあ来いリック!」  リックの忠義が世界を救うと信じて…!

・井上堅二の『バカとテストと召喚獣』読んだー。

 第8回えんため大賞「編集部特別賞」受賞作。なんだかんだでこのえんため大賞も続いてますね。正直、生存率(デビューした作家が消えずに活躍する度合い)はそんなに高くないし、受賞作をシリーズ化してもあんまり成功しない(シリーズ化して今も続いてるのは『吉永さん家のガーゴイル』『狂乱家族日記』、それに『学校の階段』くらい)んですが、桜庭一樹や神野オキナ、野村美月など、しばらく経ってブレイクする作家も輩出していますから個人的にノーチェックで済ますわけにもいかない新人賞です。さてこの1巻が出たのは1月ですが、実は先月にもう2巻が出ています。早いですねー。イラストも葉賀ユイというコアな層に強く訴えかける絵師を起用していますし、なにげに勝負賭けてるんでしょうか。

 文月学園の生徒は二年次に進級する際、振り分けテストを受けてAからFまで6つのクラスに分けられる。クラス分けの基準はもちろん学力――つまりAが一番成績優秀で、Fが最低。頭の悪さは折り紙つきというか札付きな吉井明久は、もちろんFクラスにやってきた。最高クラスたるAはピッカピカでノートパソコンもエアコンも冷蔵庫も完備しているのに対し、Fは腐りかけの畳の上に座布団や卓袱台が置かれているだけ。壁はボロボロで教室の隅には蜘蛛の巣が張っている。「こんな環境で授業なんか受けられっかよ!」と憤怒も顕わにFクラスの面々が選んだ道は「試召戦争」。テストの点に応じて強さが変わる「召喚獣」を駆使して生徒たちが戦う、文月学園特有の試験。あるクラスが別のクラスに対して宣戦布告することで開始され、下位のクラスが勝つと上位のクラスと教室を入れ替えることができる。明久は憧れの女の子、姫路瑞希が振り分け試験の最中に高熱が原因で退席し、「無得点」扱いになってFクラスに回されたことを今も不服に思っており、「彼女が然るべき環境に戻れるようにしなくては」と奮起するが……。

 クラス対抗のテスト対決にちょっぴりラブコメ要素を混ぜたドタバタ学園コメディ。「召喚獣」という要素がやや浮いて見えますが、内容的に言って召喚獣同士のバトルはオマケに近く、むしろ「戦争」を行なう際の交渉や折衝、詭計や奸計を巡らせるあたりが読みどころなので警戒する必要はありません。逆に言えば、サモニングのところを期待すると非常に肩透かしを喰うんですが……そもそもどうやって召喚獣が発生するのか、理屈に関する部分はほとんど描かれていない。舞台となる世界が「魔法と科学の混在した云々〜」とかいったよくある設定のものなんだろうけど、そういう背景事情はさっぱり触れられることがないため、はきとは分からないです。「テストの点だけで競い合うのも地味だから思い切って召喚獣に変換してみた。そんだけ」と言われても信じてしまいそうな雰囲気。とはいえ試召戦争はSLGみたいな調子で進行し、微妙にゲーマーの心をくすぐる。

 本書の特徴は「余計な描写を極力省いてひたすらイベント重視の展開にしている」ことです。とにかくあらゆる説明を圧縮し、なるべく手短にまとめようと工夫が凝らされています。情景描写や心情描写もダラダラ垂らすことなくサラッと流す。おかげで普通なら2、3冊は掛かりそうな内容がうまく1冊にまとまり、熱中して最後まで一気に読めました。また、ポンポンと軽快に飛ばされるギャグやキャラクター間の掛け合いはテンポが良く、これだけ濃縮されているにも関らず慌しい感じがしない。ボケのみならずツッコミや切り返しも鮮やか。爆笑……とまでは行かなかったものの、終始ニヤニヤさせられて退屈しなかったです。若干強引だなぁと引っ掛かる部分もいくつかありましたが、勢いに任せて突っ走ってくれるのでそのへんの不満はだんだんどうでもよくなっていった次第。「面白けりゃいいんだよ、面白けりゃ」ってな具合に細かいことを気にしない人なら大いに楽しめるかと思われます。

 切り詰めている割にはキャラクターの個性が強く前面に押し出されていて、「誰が誰だかわからん」という事態に陥ることがなかったのも好印象。たとえば坂本雄二、いわゆる「悪友キャラ」の位置付けに当たる奴で、こいつが率先してクラスを導き、試召戦争全体の趨勢を見極めつつ謀を凝らす……とか書くとちょっと格好良い気もしますけど、「大丈夫だ、行って来い」と自信満々に送り出した主人公がボコボコにされて帰ってきても「やはりそう来たか」と冷静な態度を崩さないあたりはマジ外道。『泣き虫弱虫諸葛孔明』の孔明さんを彷彿とさせます。寡黙だけど保健体育の成績だけ異常に高くてあだ名が「ムッツリーニ」の男子とか、野郎の存在感がやたら濃いです。おかげでヒロインズの影はやや薄くなっている。が、そこはイラストでうまくカバーし、少なくとも空気化までは至ってません。

 そしてラブコメの要素はもちろんありますが、当然の如く主人公がニブチンだから嬉し恥ずかしなイチャイチャ描写は皆無に近い。忌憚なく書いてしまえば、ラブコメパートだけ抜き出すとそんなに目立った出来栄えでもない。けど、あえて恋愛方面を強調せず試召戦争を主体にしたことでむしろラブコメ要素をちょうどいいスパイスとして機能させている面もあり、一概に非難することもないとは思います。LOVE寄せが行なわれるであろう2巻、そこでトーンダウンしてしまうのか順当にテンションアップするのか。ちょっとした見物ですね。

 「テストの点数で勝負!」という発想の種をライトノベル的な土壌に撒き、「召喚獣」という奇抜なネタを収穫した一作。いろいろと極端だけど、それがイイ。幕間にテスト問題が出てきて主人公が珍回答を繰り広げる演出は素直に感心して笑いました。ラストで独り善がりなシリアスモードに入って読者を萎えさせる、というようなこともなく、良い意味でバカを貫いてくれる。このノリで行けば、あるいは新たな路線の開拓に繋がるかも。エロゲーで喩えると「3、4時間掛かってやっとプロローグが終わり、デモムービーが流れ出した」ってな感じなので、本編(つづき)がすごく楽しみだ。そういえばファミ通文庫の公式HPに短編を掲載していた気がするけどあれはどうなったんだろう。ザッと流し読みしただけなのでもう一度読み返そうと思ったら見つからない……あとで短編集に収録されるのかな。それはそれとして素で一番気に入った見た目のキャラが「秀吉」という名前で、明らかに男なのは ど う す れ ば い い ん だ 。あ、でも秀吉は○○だし……いやでも根本的な解決にはなってないような……。

・拍手レス。

 これは、是非実物を見てみたいよ〜な>幼女に見える焼津さん
 スキャナがないので見つけてもアップ不可な罠。

 あれ? おかしいな別に声優萌えじゃないのに。好きなのはキャラなのに。おかしいなモニターが滲んで…ゥゥ
 28日はいろいろと激動の日でしたね……。


2007-05-28.

propllerの新作『Bullet Butlers』、体験版公開

 置き場所がちょっと分かりづらいですね。気合いで見つけてください。

 できれば製品版を120パーセント楽しみたいから、ここはひとつ我慢を重ねたいところ……なんですが……ああ!(誘惑に負ける寸前で震えているか弱い自我の活躍にご期待ください)

・それはそれとして先週金曜日に発売された気になる新作ソフトの評判をチェック。

 リニューアルものを含まなければ20本ちょっと、ってところかな。一番の話題作は『君が主で執事が俺で』でしょう。略称は「君主」「きみある」「がでがで」など。既にアニメ化も決定しているとかで、すごい出荷数になった模様。個人的には体験版が合わなかったのでスルーしましたが……本編をプレーしたファンの間でも意見が分かれているみたい。落ち着いて評価が固まるまで少し掛かりそうですね。どうでもいいけど南斗星の眼帯見てたらグレッグ・イーガンの「決断者」という短編を思い出した。

 『顔のない月』の続編『桃華月憚』は現在アニメが放映中ということでこれもまた話題作なれど、発売されるや違う意味で話題沸騰。一応「パートボイス」という仕様は発売前に告知されたそうですが、既に公式通販の受付が始まっていた時期で、注文キャンセルを認めない姿勢が禍根を残した様子。逆に考えれば「本来なら半年後に発売される予定だったゲームをひと足もふた足の早くプレーできる」と、肯定的な捉え方もできますが……。

 『めいくるッ!』はやっぱり妹の恵理栖が攻略できないようで残念無念。『つくとり』は……え、発売してたの? 情報公開からそんなに経ってないのでまだまだ先かと思ってました。不覚。今時珍しい伝奇・推理・サスペンスの三拍子が揃ったっぽい一作ですが、まだ体験版もやってません。崩さねば。そして『ドラクリウス』、これは状況が許せば購入しようと画策していましたが、いろいろあって果たせず。個別攻略ではなくて「メインルート+サブルート」の計2ルート構成ではあるものの、プレー時間はそこそこ長くて楽しめるとか。感想の手応えからして「藤崎竜太が新しい作風をマスターした」っつーより「今回も藤崎イズムが満載」という印象。いずれ機会を見て買おうと思います。

・京極夏彦の『前巷説百物語』読了。

 御行奉為(おんぎょうしたてまつる)――

 『巷説百物語』を第1弾とする百物語シリーズにおいて象徴的な存在となっている「小股潜りの又市」、ファンなら誰でも知っているこの「御行奉為」という決め台詞を彼が放つに至るまでの経緯を綴った、後日談ならぬ前日談の位置付けに置かれている最新刊です。タイトルは「まえこうせつひゃくものがたり」じゃなくて「さきのこうせつひゃくものがたり」と読み、シリーズとしては4冊目。『後巷説百物語』でシリーズ自体は決着していますが、先にも述べた通り又市が御行となることを決意するエピソードなんかは書かれていなかったため、それを埋める形でリリースされました。収録作は「寝肥」「周防大蟆」「二口女」「かみなり」「山地乳」「旧鼠」の全6編。「旧鼠」だけ書き下ろし。どれも100ページオーバーで合計すると700ページを超えるという、いつも通りの京極本です。

 小股潜り――減らず口からそう呼ばれている双六売りの又市はある晩、奇妙な事態に遭遇する。上方(近畿)から江戸へ一緒に流れてきた相棒・林蔵が夜更けにも関らず大きな棺桶を大八車に乗せて曳き、その途上で首吊りをしようとしていた若い女と出会ったのだ。幸いにして林蔵が救ったため事なきを得たが、その女は又市が贔屓にしていた娼妓のお葉だった。彼女は廓から引き揚げられても当の旦那が死んでしまってまた廓に戻ってくる――そんな真似を四度も繰り返している。背後には「ねぶた参りの音吉」という男が潜んでいるようだが、いったい何があって世を儚もうとしていたのか? 又市は事情を聞き出すが……「寝肥」。

 結論から申せばファン向けの一冊ですね。相変わらず登場人物の掛け合いや薀蓄が滑らかで楽しく読めるものの、これを皮切りにしてシリーズを崩していこうとすると途中でダレてしまうかもしれない。時系列に添って並べれば一番先頭に来る本ですけれど、やはり読み始めるのは『巷説百物語』からがイイと思います。そして『続巷説百物語』の前後にこれに着手するのが宜しいのではないかと。記憶がだいぶ薄れていますのではっきり「どう読むのがベスト」とは申しかねますが……専用ページの年表を見れば分かります通り、『巷説』と『続巷説』と『後巷説』は完全に「『巷説』→『続巷説』→『後巷説』」という順になっているわけじゃなく、幾分シャッフルされた構成になっています。なので、時系列順に読んでいくのはちょっと面倒なんですよ。

 又市が声を掛けられてこっそり身を置くことになるのが損料屋。布団などの日用品を貸し出して「賃料」の代わりに「損料」、つまり汚した分や減らした分を取る商売なんですが、ゑんま屋は物ばかりでなく人や知恵も貸して依頼人の「損」を埋め、その代金をいただく――という裏の仕事もしています。又市は「人死にの損は決して埋まらない」と言い張って、策謀を巡らせるときも無用な血が流れないように頭を絞る。一介の若造が誰も害さずにあっちも立ててこっちも立てる、そんなしゃらくさい正義感を貫き通すことが果たしてできるのか……。

 言うなれば「必殺しない仕事人になりてぇなぁ」的又市の奮闘記。「刀は侍の魂」という主張を鼻で笑い無手で荒事をこなす浪人の山崎寅之助をはじめとして今回もキャラクターの魅力が強く、ある種のパターン化された遣り取りと展開に却って安心感を覚えるくらい。3編目の「二口女」までは読切の雰囲気が濃くてチマチマ読み進めていたものの、4編目となる「かみなり」以降は連作傾向が増し、シリーズの重要人物も出てきて盛り上がってきたからほとんど一気に読み通してしまった。名前を書いたらそいつが確実に死ぬと云う、デスノートみたいな絵馬の怪を扱った「山地乳」が個人的に面白かったです。デス絵馬の設定もさることながら、それに挑む定町廻り同心・志方兵吾の選んだ対決法も振るっている。兵吾さんマジ漢。

 単純に仕掛けの面白さで言えば『巷説』や『続巷説』にやや劣る気もしますが、こまごまとリンクする箇所も多く、やはり「ファン向けの一冊」という手応えに落ち着く。シリーズの入門書として読むより、いくらかハマってから取り掛かった方が一層楽しめると思います。まだ若く、「青臭い」と言われるのも納得な又市の姿はファンにこそ「乙」と感じられるでしょう。

・拍手レス。

 弾丸執事、セルマの立ち絵のひとつがどう見ても病んでます本当にありがとうございました
 ……体験版、やっぱ我慢できねーのでプレーするとします。

 チェーザレ…嫉妬付き近親相姦フェチにはたまりませんね。
 早く4巻と5巻と6巻と7巻と8巻くらい一気に出ないかなぁ。


2007-05-25.

『永遠のアセリア』が恐ろしいほど時間を食い潰すので一旦中止にした焼津です、こんばんは。下手なのにやり出すと止まらなくて、延々とゲームオーバーを繰り返しながら何時間もプレーしてしまいました。長時間やってると単純に熱中しちゃって、もう面白いかどうかとかそういう話じゃなくなる罠。

 この中毒感……久しいぜ……。

 関係ないけど、ここのところ横山秀夫の新刊が出てないですねー。文庫化とかではない純然たる新刊は『震度0』が最後で、もう2年近く経ってます。雑誌まではチェックしていないので連載とかしてるのかもしれませんが、こうも間が空くと無性に寂しい。まあ、もっと間が空いていて血の涙が出そうな作家もおりますけどね……マーク・Z・ダニエレブスキーとか。去年ようやく原書の新刊が出ましたので、邦訳版が出るのを今か今かと手ぐすねをひいて待ってます。またもや翻訳に苦労しそうな作品らしく、今年になるか来年になるか。あとさっき調べて知りましたけど、オランダでしか買えない1000部限定の新作を出してたって、ちょっ、なにそれ!? 『紙葉の家』の内容といい、この人の創作スタイルは既にイヤガラセの域へ達していると思う。くやしいっ……! でも……待ち望んじゃう!(ビクビクっ)

レオナルド博士とキリン村のなかまたち(ちょwwwwトイザらスwwww)

 いかん、呼吸困難になるほど笑ってしまった。博士のキャラクターが斬新すぎます。

・惣領冬実の『チェーザレ 破壊の創造者(1〜3)』読みました。

 チェーザレ――それは「カエサル」のイタリア式発音。紀元前の終身独裁官と同じ名前を持つ男、チェーザレ・ボルジアの人生を荘重華麗に描くっぽい歴史マンガです。「メディチ家」やら「ドメニコ会」やら「マキャヴェッリ」やらといったワーズからも分かりますが、舞台となる時代はまさにルネッサンス紀。革新と動乱の真っ只中にあるイタリアで壮大なドラマを繰り広げてくれます。読んでいて単純にワクワクしますし、細かい描き込みには圧倒される。連載が不定期であることや、通常のコミックスより200円くらい価格設定が高くなっていることも頷けるクオリティです。

 腐敗する教会権力、貧富の差が激しくなる一方の社会、「真の神の代行者」たらんとするチェーザレが胸に秘めた思惑とは? 新聞の記事で紹介されているのを見て気になって購入した作品であり、実を申すと読む前は物語の焦点となるチェーザレ・ボルジアについては何一つとして知りませんでした。そのせいでストーリーがまったく分からないなんてこともなく楽しめていますので、ひと通り読み終わるまではウィキペディア等で詳しいことを調べないようにする所存です。まあ、いくら当方が浅学の身とはいえ「名前も聞いたことがない」人物なのですから、結末は概ね予想できる気がしますけど……。

 込み入った政治の話が続くシーンもある一方、コロンブスやレオナルド・ダ・ヴィンチといった、「誰にでも分かる有名人」が登場して明快に盛り上げてくれる場面も多い。あまりにも細かく作り込まれているため、逆に細かいところをいくつか読み逃してもなお面白がれる要素がたくさん残ってくる。シンプルすぎる装丁がいささか取っ付きにくい印象を与えるけれど、「こだわり」が鼻に付かないマンガですので、深く考えず気楽に手を出してしまっても一向に構わないと思います。強いて言えば女っ気が少ないことが不満かな。まだまだ先は長いでしょうから、とりあえず期待はしておこうっと。

・拍手レス。

 ちょ、、、ぉぉおおお!!萌えるじゃないですか幼女に見える焼津さん!!
 親が頻繁に「昔は可愛かった」と繰り返す理由が分かりました。


2007-05-23.

・なんとなく手を出した『聖なるかな』体験版のゲームパートにハマり、今更になって前作『永遠のアセリア』を崩し始めた焼津です、こんばんは。いざ開始したら絵柄が全然違っていて衝撃を喰らったものの、ストーリー自体はこちらの方が面白そう。まだ序盤をチマチマやってる段階ですが。「長い」というのは聞いていましたけれど、プロローグに当たる部分もかなりあったし本当に時間掛かりそうなボリュームですね。なるかなが延期した8月に延期までにクリアできるかどうか……。

毒めぐさんからロリコン認定されそうになっている件について。

 ここでムキになって抗弁すればするほど疑惑の黒い霧がスプレッドしそうなのであえて甘受してみます。幼女とか少女とか大好き。あと幼女や少女にしか見えない男の子も大好き。というか幼稚園の集合写真を眺めていて「この娘可愛いねぇ」と指差したら怪訝な顔をした母に「何言ってんの、それあんたでしょ」と告げられて電流走る。新ジャンル「幼女としか見えない俺」。時の流れは残酷を通り越して無惨です。

 あと「毒めぐはロリコンじゃないけどね☆」と発言されてますが、確かに毒めぐさんはロリコンではない。もっとおぞましい何かだ。

朝倉涼子のふぃぎゃー

 後ろ手のナイフが素敵。太眉や流れる髪もなかなか好みです。しかしこういうのは一度買い出すと止め処がなくなること確実なので我慢せねば。以前にかぜぽのこれを見て危うく理性が決壊するところでしたけれど、どうにか耐え忍びました。

・歌野晶午の『放浪探偵と七つの殺人』読了。

 綾辻行人や我孫子武丸、有栖川有栖、法月綸太郎と並ぶ新本格第一期の作家ながら、他の面々に比べて知名度が低く、ひと際存在感が薄い歌野晶午。『さらわれたい女』『カオス』という映画の原作になったし、『葉桜の季節に君を想うということ』は“このミステリーがすごい!”や“本格ミステリ・ベスト10”で首位を獲得して二冠達成し、一旦ブレイクを果たしたものの、相変わらずマイナー作家臭が抜けていない気がするのは当方の思い込みでしょうか? 彼の作品は単発モノがほとんどで、シリーズはデビュー作『長い家の殺人』を含む「家」三部作に登場した探偵・信濃譲二のものしかありません。その信濃譲二にしても「家」三部作の掉尾を飾る『動く家の殺人』で退場してしまう。本書は信濃譲二シリーズ唯一の短編集であり、過去に遡って学生時代の活躍を綴る形式となっています。収録されている短編はタイトル通り七つ。どれも問題編と解決編に分かれていて、解決編はまとめて本の後部で袋綴じにされている(当方が読んだ新書版の仕様。文庫版では袋綴じがなくなって問題編と解決編も一緒にされているそうな)。「推理小説なんだから読者に推理をしてほしい」という願いの表れで、世の中にはその願いが強すぎるあまり、あえて解決編を書かなかったミステリまで存在します。ミステリは読者が積極的に推理してこそミステリたりうるのではないか、とか、そういう議論はゴチゴチの新本格オタだった頃に散々交わしまくって未だに胸焼けがするので省きますけど、こういう袋綴じはわざわざ開けるのが面倒臭い一方で無性にドキドキする。うーん、フェティッシュ。

 収録している作品は前から順に「ドア⇔ドア」「幽霊病棟」「烏勧請」「有罪としての不在」「水難の夜」「W=mgh」「阿闍利天空死譚」。「阿闍利〜」のみ『奇想の復活』が初出で、あとは“メフィスト”に掲載されたものです。ミステリの出題法というと「犯人はどんなトリックを使ったのか? そして犯人は誰なのか?」って調子を連想される方も多いでしょうが、本書はその時点からして既に工夫を凝らしています。たとえば「ドア⇔ドア」と「幽霊病棟」は両方とも犯人視点から描かれており、前者は「山科大輔の不手際はどこにありましたか?」と問う倒叙形式、後者は「なぜ死体が移動したのですか?」と「犯人すら分からない謎」を問う仕掛けになっている。「水難の夜」に至っては「何を指しての『水難』ですか?」とタイトルの意味まで訊いてくる始末。一編一編趣向を変えて飽きさせないように、かつ問いを具体的な内容にすることで、読者が漫然と話を追うだけでなくちゃんと焦点を見据えられるよう配慮しているわけです。都筑道夫の『七十五羽の烏』をコンパクト化する試みとでも言いましょうか。問い掛けの面白さに、推理が苦手な当方もついつい頭を捻って考えたりしました。正解率は……聞かないでください。

 全体的に歌野晶午らしい味付けがピリリと利いており、推理クイズとして読むと「ええー、そんなのありっスかー」という部分とてなきにしもあらずだけど、問題形式に縛られて退屈になるのを防いだ――と好意的な解釈も可能だ。ゴミ屋敷の殺人を描いた「烏勧請」はカラスに食い散らかされた死体描写の凄まじさもさることながら、フリーダムすぎる論理展開に驚かされます。「有罪としての不在」は一見するとただのフーダニット(犯人探し)だけど、百パーセント正解できる人はどれだけいるやら。「ゾンビになって疾走する死者」を描く「W=mgh」や「梯子も階段もない高塔で磔にされた死体」を扱う「阿闍利天空死譚」は謎の時点からしてワクワク感を誘います。が、個人的に一番気に入ったのは「水難の夜」。あれはすべての面において「鮮やか」の一言に尽きる。

 ワトソンみたいな特定の助手役を据えず、探偵役の信濃譲二だけがあちこちに神出鬼没するスタイルはマンネリを避けていて楽しい。正直に申して本格とか新本格とかいった路線はもう食傷気味でしたが、これは次の手が読めないこともあって最後まで飽きさせられなかった。サクサクとテンポ良くそれでいて太刀筋が見えない短編群。堪能しました。

・拍手レス。

 むい、あちしはこのコンボイはいただけねぇですなぁ。まるでクリーチャーみたいなんだもの。あとムダに→
 →ヒューマンドラマを噛ませてるのがアメリカンですね。ぶぅ。

 巨大ロボより巨大クリーチャーの方が好きなのでむしろキュンキュン。


2007-05-21.

・デスクトップの壁紙を張り替えたらアイコン群が絵に被ってしまい、仕方なく画像を反転させて凌いでいる焼津です、こんばんは。字がミラーモードになっていてあからさまに不自然だけど気にしない方針。むしろこれをオサレだと思い込みたい……無理か。

「月道」に猫宮のの絵(5月19日付)

 いずれ描かれるだろうとは思っていましたが、やっと来ました。やっぱりのんさん可愛いよのんさん。

 言わずもがなの解説をしておきますと『よつのは』のヒロインです。おっとり関西弁・世話焼き系幼馴染み・童顔幼児体型という「それどこのキマイラ?」な完璧っ娘。『幼なじみとの暮らし方』というのんさんオンリィのファンディスクが発売されていることからも窺えますように絶大な人気を誇っております。CD版では四人揃っていたパッケージ絵もDVD版だと猫宮ののピン。「ののたん・ねっと」なる専用サイトまで用意されているんだからその優遇ぶりは留まることを知らない。抱き枕も全部で4種類あるそうな。

 ちなみに彼女が背負っているのはランドセルに見えますが、あれはああいう形の鞄です。ランドセルじゃありません。年齢も18歳以上です。なので当方がどんなに「のんさん(*´Д`)ハァハァ」しようがロリコンとはなりませぬゆえあしからず。

・石黒正数の『それでも町は廻っている(1〜2)』読んだー。

 東京の下町にオープンしたメイド喫茶「シーサイド」。ただしオープンと言っても、もともとあった喫茶店の看板に無理矢理「メイド」という張り紙を付けただけ。店長は白髪の婆さん。従業員は元気いっぱいだけど仕事に対する熱意は欠片もない下町育ちの女子高生ただひとりのみ。そこに、多少はメイド像を理解しているクラスメイトの少女(メガネ巨乳)がやってきて……といった調子で始まります。最初の二、三話を読む限りでは「画力は高いけどひたすらノリがヌルいご町内コメディ」って印象でしたけど、四話目あたりから独特のセンスが迸るようになってきて、気づけばすっかりハマっていました。表現技法が藤子・F・不二雄のマンガに似ていて懐かしさを誘う面に加え、この無節操とも言えるネタ選びの遣り口には読んでいて飽きが来ない。

 たとえば第七話の「宇宙冒険ロマン」。ヒロインが弟妹たちと宇宙冒険ごっこに耽る地上から遥かに離れた宇宙、木星の地表では探査機が木星人と接触していて……という、「どこがご町内コメディだよ!?」なストーリーで、もはやメイド喫茶とは全然関係ない。ってかこのマンガ、そもそも「主人公のバイト先がメイド喫茶(もどき)」というだけで、メイド云々はさほど重要なファクターにはなっておりません。あしからず。話を戻して第七話、「メイドはともかく宇宙人なんか出してオチがつくのか?」と不安になりますが、地上と木星の二視点を巧みに切り替えつついともあっさりとキレイにまとめてくれる。余計な心配もいいところでした。(しかし木星ってガス状の惑星じゃないっけ……?)

 とはいえ、やはり一番の読みどころは2巻収録の「それでも町は廻っている(前編・後編)」か。表題作だけのことはあってインパクト大。どんな内容かはあえて書きませんが、この展開を事前に予想できる人はまずおりますまい。枠に嵌まることを潔しとせず、あくまで「なんでもあり」の多様性を見せ付けてくれる益荒男ぶりに震撼。いえ「なんでもあり」と申しても、決して勢い任せとしての「なんでもあり」ではありません。全力を懸けて話を面白くしようとする、入念な準備を下地とした上での「なんでもあり」。毎回きめ細かい配慮を施し、そのうえで好き勝手やってくれるのですから嬉しいかぎりです。先輩の部屋の置物がお宮を蹴っている貫一とか、エロ雑誌の名前が「スケベニンゲン」と「テラエロス」とか、万年筆の「筆」の部分にしつこく「しつ」とルビを振るとか、ホントこういうさりげなく無駄に凝ったセンスは大好き。

 ベースを見て「弦が太くて本数が少ない気がする…」「これ初心者用のギター?」とほざく歩鳥(ヒロイン)、「あんた 世界中のベーシストに一発ずつ殴られるよ」とツッコむタッツンこと辰野トシ子(メガネ巨乳)。そして常連客を無視した後でふと気づいたように「……ああ」「毎日居るからそういう形のイスかと思ったよ」と暴言を吐く店長(兼メイド長)。その他いろいろな脇役が織り成す『それ町』世界は一度魅入られたら抜け出せないこと請け合い。個人的には紺先輩がお気に入りです。先輩が風邪ひいてお見舞いに行くエピソードは、このマンガで初めて胸キュンを覚えた。一応ヒロインのパンチラとか弟と風呂に入る描写もあるのにまったくドキッとしないあたりは逆にすごい気もする。

 あと作者がミステリ好きっぽくてニヤリとさせられるところも。『奈良ボマー』は噴いた。ヒロインが愛読しているミステリの著者・島辺博人はもちろん架空の推理作家で、ウィキペによれば「島田荘司、渡辺啓助、森博嗣、綾辻行人」から一字ずつ取ったとのこと。いや渡辺啓助って。他の三人は80年以降にデビューした新本格とかそのへんの作家なのに、一人だけ戦前派の探偵小説家ですよ。確か百歳超えるくらい生存されていた長生きの人。渋いというか何というか。選集『ネメクモア』が出たとき当方は高校生で、地元の書店で見かけたものの高くて買えずに臍を噛んだなぁ……それはそれとして、一番ウケたのは以下のやり取り。

「今は しがない女子高生だけど ゆくゆくは女子高生探偵になるんですよ」

「ゆくゆくっていつまで高校生でいるつもりだ」
「もっとも」
「このままだと進級できないから 願いは叶うかもしれん」
「ハタチで女子高生探偵も有り得ない話ではない」

 20歳の女子高生探偵……そんなシリーズがあったらちょっと読みたい。単なるお色気モノになりそうな予感もしますけど。


2007-05-19.

藤原伊織が死去――享年59歳

 『テロリストのパラソル』で江戸川乱歩賞と直木賞をダブル受賞して有名になった作家です。一昨年に癌を告白した、というのは聞き及んでいましたけど、それでも「突然の訃報」としか思えなくてショック。端整なようでいて結構好みの分かれる文体をしており、和製ハードボイルドの中ではお気に入りの部類に属する方でした。もう既刊の本しか読めないとなると非常に残念だ……最近は知っている人の訃報が相次いでいて滅入りますね。どうかご冥福を。

映画『トランスフォーマー』のトレーラームービー

 変形シーンがカッコイイ。こういうガキョガキョガキョーンなギミックは時代を超えて野郎どものコドモハートを刺激しますなぁ。

お酢専用ロボット

 なにこの微妙にラスボス臭いデザイン。どこがお酢と関係しているっていうんですか。カッコ良すぎですよ。

・アダム・ファウアーの『数学的にありえない(上・下)』読了。

 原題は "Improbable" 。著者のデビュー作に当たりますが、日本では『ダ・ヴィンチ・コード』の向こうを張るような調子で売り込まれたせいでどことなく二番煎じ感が漂い、タイトルや装丁が垢抜けないせいもあって手を出しかねていました。しかしながら「このミス」でも5位にランクインするなど評判上々で、「食わず嫌いも悪いか」と反省して着手した次第。上下二冊合わせて600ページ以上に及ぶものの、『イリアム』『オリュンポス』を経た後ではそれほど長いとも思えず、むしろ物足りなさが残るくらいでした。

 突発的に襲い来る癲癇発作――そのせいでデイヴィッド・ケインは教職を失い、場末のギャンブラーへと身を持ち崩した。紙や計算機を一切使わずに複雑な数式を暗算する特技を持っているケイン。彼は慎重に勝率を計って金を賭けていたが、ある日、ここ一番という大勝負に敗北して多額の借金を負う。返すアテはない。そのうえ癲癇の症状まで更に激しくなり、まさに踏んだり蹴ったりの状況。仕方なく、「開発中でどんな副作用が出るか分からない新薬」を服むというイチかバチかの賭けに出た。結果、ケインは思わぬ「能力」を目覚めさせる。NSA(国家安全保障局)の秘密機関はこれを察知し、いち早く「能力」を確保するべくエージェントを派遣。かくしてハリウッド映画のような目まぐるしい追跡劇が始まる。「おいおい、これは夢か? 新手の妄想か?」 ケインは自らの「能力」に振り回されながら、秘密機関の魔手を逃れようと四苦八苦するが……。

 といった塩梅で進行するノンストップ・スリラー。息もつかせぬ展開の連続と、物語の各所に隠された仕掛け、クライマックスに差し掛かって励起する無数の伏線。新人とは思えない練り込まれたプロットで読者を魅了します。キャラクターはいまひとつ平坦でしたが……それはそれとして、話の重要部分を占める「能力」。いったいこれは何なのか? というところがまず最初の興味となり、書いてしまうとネタバレになっちゃうんですが、書かないとそれはそれで紹介しづらいのでバラします。

 ずばり「ラプラスの魔」。世界すべての情報(原子の位置と運動量)を収集し計算し処理することの可能な知性があるならば、それは過去・現在・未来を等しく知ることができる――という、もともとは物理学方面の概念ですが、伝奇やファンタジー等でも盛んに取り入れられたため「マンガやラノベで読んでことがある」って人も結構多いでしょう。無論当方もその一人。決定論の権化とも呼ぶべき架空存在であり、ハイゼンベルクの不確定性原理が「完全な予測は不可能」と断定したことで零落させられた“魔”。主人公はその力を「誤差を最小化する」ことによって実用に漕ぎ着ける。百パーセント必ずこうなる、とまで行かなくても「こうすれば九十数パーセントの確率でこうなる」と見込んで行動に移す――すると小さな一歩がやがて大きな波紋を描き出し、いわゆる「バタフライ効果」な現象を引き起こすわけです。成功へ至る前に、何度もトライ・アンド・エラーを繰り返して「失敗する未来」を観測する描写があり、感覚としては「未来予知」というよりも「精密なシミュレート能力」に近いものがある。完全な予知ではなくあくまで「確率論的な未来」であって、行動を選択した後も不安や迷いを捨て切れない危うさが残留するあたり、程好いサスペンスを生んでいます。

 バタフライ効果をいちいち精密に把握できるせいでちょっとした行動を取るのも恐ろしくなる、って描写がキッチリと為されているところは面白かった。高度に未来を計算できるからこそ、「選択」の重さを実感し、「自分の役目とは何か」を強く意識する。メインは「選択」であって「操ること」ではありません。意志を固め、為すべきことを決める。ただ漫然と見るだけならば、未来など飾りに過ぎない。

 数学、物理学、統計学、量子力学の知識(当然の如く「シュレディンガーの猫」も出てきます)を取り入れつつも平易な文体でサラッと説明し、あまり複雑にならないよう工夫が凝らされていますので、「ラプラスとか知らねー」って人も特に抵抗を覚えることなくスルスルと読んでいけるのではないかと思われます。逆に、邪気眼テイスト満載の作風に慣れていて「『ラプラスの魔』なんて前座もいいところですよ」という読者には薀蓄面がいろいろと微妙で不満に感じるかも。えー、そこで集合的無意識を持ってくるのかよ……みたいな。あと“魔”の能力を駆使して追っ手を躱す流れはスリリングだけど、正直悪役がショボいこともあってクライマックスは盛り上がりに欠く。プロットがしっかりしているから最終的にはどうにか持ち直しますが。

 恣意的に偶然を連鎖させることで「ありえない」を実現化してしまう能力を武器に変えて逃げ回る主人公。それをサポートする超強い美女とかも登場しますが、珍しいことにロマンス要素はゼロ。「お前らこんなときに何やってんだよ」的なキスシーンやベッドシーンがなく、おかげでひたすら筋に集中して読んでいけます。テンポ良く進んでいく反面、思ったよりスケールが大きくならないのでやっぱり「物足りない」という感想に落ち着きますけど、「一気読みできるサスペンス」っていう点では評価したい。二作目は他人の意識をハックしてちょっとだけ行動を操作するようなキャラたちが出てくるとのことで、翻訳を楽しみに待つとします。

・拍手レス。

 鬼哭街Dynamicを思い出しました
 検索――ヒット。一読後、漫画化したバージョンを想像すると笑いながら泣けた。


2007-05-17.

・「パンクラチオン」って「パンチラ」と「エレクチオン」を混ぜ合わせたような語感ですね。さも平然とシモい書き出しをできる男、それが焼津です、こんばんは。

「ジンガイマキョウ」5月16日付に毒島先輩絵

 一応触れておきますと、ゾンビでおっぱいでサバイバルなパニック・スリラー漫画『学園黙示録 HIGHSCHOOL OF THE DEAD』が元ネタ。何度読んでも砲弾みたいな乳に目が吸い寄せられる作品ですけど、ゾンビ描写やバイオレンスシーンもしっかり描き込まれていて良い具合にエログロしてます。しかし犬江さんのイラストは、こう、日に日にむっちりと破壊力を増していきます喃……その一方でカッチョイイ野郎絵も抜かりなく描かれたりしているのだからたまらない。

あざの耕平祭り

 見栄えはいいが実に使いづらい……それはともかく、今月から年末まで、復刊も含めて12冊(うち3冊が新刊)の本を出版する予定が組まれたあざの耕平のフェアサイトです。なにげに字野耕平名義の頃から知っていた(ずっと「宇」野耕平だと思っていましたけど)だけに、こういうフェアが催されているところを見ると佐藤友哉が三島賞を取って森見登美彦が山本賞を取ったのと同じくらい万感の思いが湧きまする。

 さて都心部ではそろそろ早売りが開始されている頃の『Dクラッカーズ』、実はこれが三度目の新装版(4巻が出た後に1〜3巻のカバーが刷新されたのが一度目、7-1巻が発売されたときに富士見ミステリー文庫自体のデザインが変わって既刊が道連れになったのが二度目。全10巻なのにすべてのバージョンを計上すると30冊超える罠)なので今更ファンに買わせるのはあざとすぎる気もしますが、内容そのものは面白いですから未読の方には是非ともオススメしたい。「カプセル状のドラッグをキメて悪魔を召喚してガチバトる」という概要だけ抜き出せばとってもアレなストーリーではあるものの、キャラクターズの魅力と物語の仕掛けが絶妙に合致したシリーズですので。特に男ツンデレの景ちゃんはすごく可愛い。正直ヒロインより萌える。ある挿絵を見たときの心情はまさに「男でもいい!」でした。

 ただ、このシリーズは盛り上がってくるまで少し巻数が掛かるので、ある程度まとめ買いして読むことを推奨。ファンの合言葉は「3巻からが本番」。でもファンタジア新装版では旧装版の1巻と2巻を合本して「T」としているので、そっちに習って言えば「Uからが本番」となりますが……うーん、巻数表記がズレるせいで古参ファンと新規ファンの会話に齟齬が来たさないか今から心配だ。ともあれ通読すればたちまち虜となり、羞恥心は淡雪の如く掻き消えて、風邪をひいてカプセル剤を飲むときについ「弾(カプセル)を込めろ、魔法使い(ウィザード)!」って口走る人になってしまうこと請け合い。

・竹下けんじろうの『かるた(1)』読んだー。

 この作者、もともとは「竹下堅次朗」という漢字名前でしたけど、去年に変更して現在のペンネームになった模様。『パープル』『カケル』など代表作の評判は聞き及んでいたものの、あまり熱心に読んでなかったせいもあって「自分には縁の薄いマンガ家」という位置づけでした。この『かるた』にしても最初はまったくチェックしていなかったんですが、あちこちからやたらと良い評判が伝わってきたのでたまらずに読んでみた次第。するとこれがなかなかのアタリで、一気に縁が濃くなってまいりましたよ。

 まず冒頭からして素晴らしい。ほんの数ページを読んだだけで早くも作品世界に引き込まれている自分に気づく。喧騒の溢れるゲームセンターでジョイスティックを繰りボタンを連打する主人公と、たった一人の部室で読み上げ機から流れる百人一首の歌に即応して黙々と札を掬い飛ばすヒロイン――この対比だけでもグッと心を鷲掴みされます。主人公の不注意によってヒロインが腕を折る怪我をしてかるた大会に出場できなくなり、勢いに任せて「その大会 オレが代わりに出てやる!」と口走って「ふざけるな!! 何様のつもりだ!?」と突っ撥ねられるページのテンポも最高。若干クセのある絵柄ながら、全体的に力が漲っています。

 タイトルがタイトルだけに、話はかるたがメイン。百人一首自体についてはサラッと触れる程度で、各歌の解説も全然しません。なので「情緒」という点で見ればいささか風情に欠くところもありますが、かるた取りをスポーツのように扱い試合を純粋に「バトル」として展開させているため、「上の句とか下の句とかわかんねーよ」というド素人の読者でも気にせず楽しめる仕様となっています。「かるただなんて……いかにもタルそう」という先入観を見事に裏切る。読む前は誰にも想像できない、この熱血ぶりがすごい。主人公が一切クヨクヨウジウジしないポジティブ野郎であることも作用して、かなりの爽快感が湧き上がります。こういう良い意味でバカな奴は見ていて飽きません。

 戦畳に響き渡る打撃音――馴染み深くて懐かしいけれど、さすがに今はやる機会もないかるたという遊びを題材に、ここまで殺伐と迫力に満ちたマンガを描くとは大したもの。駆け引きを交えつつもスピーディーな試合運びで読んでいて退屈しない。何より燃える。パッと見は賢そうなのに熱くてバカ極まりない、そんな主人公も好きです。ただ、読みどころをギュッと凝縮してキリの良いところまで進める構成にしたせいか、ラブコメっぽい描写はゼロに等しく、そこが少し残念ではありました。ヒロインが活躍する場面も負傷のせいで限られていますし。これは是非とも続刊を出していろいろねっちりと描き込んでいってほしいところです。試合描写もより濃厚にしたりとか。

 ちなみに当方は宮原先生に惚れましたが何か。第8話のディフォルメ絵が可愛すぎる。

・ついでに松野秋鳴の『えむえむっ!』も読んだー。

 主人公が生粋のドM――そんな、世にも珍しい設定で送るライトノベル。「美少女が、俺を、蹴ってくれました」というキャッチコピーが非常に印象的。もうすぐ2巻目も出ます。同レーベルで刊行されている『ゼロの使い魔』の平賀才人もちょっとM臭いところはありましたけど、こっちは「M臭い」とかいう次元ではなく徹底的にマゾヒストです。女の子に罵倒されたり暴力を振るわれたりすると瞬時に理性がバイツァ・ダストし、魂レベルで悦んでしまうのだからもはや業。そんな彼が「マゾを矯正したい」と、藁にも縋る気持ちで駆け込みます。よりによってドSの美少女のところへ。

 なんというか、完全に設定勝ち。M描写自体はフェティシズムがなくて普通にギャグっぽいから読み応えを感じさせないものの、友人が「俺……実は○○なんだ!」と己の嗜好をバラしても「主人公よりは変態度が低いな」ということであっさり流せてしまうあたりがオイシイ。同様に、ヒロインのサディズムが普通にヒくレベルに達していても「主人公が悦んでいるんだからまぁいいか」と受け入れられる。母親が「子宮にいる頃から息子と結婚しようと思っていた」とカミングアウトしてもあまり目立たない。「変態を笑って許容する」というのがこの作品最大の特徴でしょう。

 ヒロインに「ブタ野郎」と呼ばれたり殴られたり蹴られたり金的攻撃されたりしてもキモい笑顔を絶やさないのはある意味前向きでいいと思います。でもラブコメとして読むと、う〜ん……。『魔法薬売りのマレア』みたいに「ヒロインがドM」というのは興奮するけど、逆はちょっと厳しい。あとやっぱり作者は真性じゃないんだろうな。全体的にこう、「隠しても隠し切れない、自然と滲み出てしまう変態性」みたいなものがなかったです。無理に変態を書こうとした苦しさをところどころに感じる。

 このシリーズ、作者がモノホンの変態と化して違和感なく淡々とM描写が紡げるようになったら化けるかもしれない。

・拍手レス。

 鬼哭街の続編でなぜかタオローとかの3Ddeショボイ感じの格ゲーが思い浮かんだw
 いっそ『龍が如く』みたいなノリを希望。やったことないですけど。

 我流体術--紫電掌とかなんとか
 しかし使えば使うほど体がボロボロになる体術の特訓とか練習ってどうするんだろうか……。


2007-05-15.

・ダン・シモンズの『オリュンポス(上・下)』をなんとかして読み通したはいいけど終いには頭痛がしてきた焼津です、こんばんは。

 予想外な展開が目白押し(中には「それなんてエロゲー?」と聞きたくなるのも)で面白い箇所も多かったけど、それ以上に冗長な描写とか衒学趣味を発揮した箇所が大量でキツい……おかげで盛り上がるところとそうでないところ、濃淡の差が非常に激しくなっております。分量的には『イリアム』を上回っていますが、くどいせいもあって読み応えの点ではちっと劣るかもしれません。説明が泥縄だったり、未消化のまま終わる要素が山積みだったり。これがダン・シモンズの流儀というものなのかー!? でも後半でめちゃくちゃベタなツンデレが出てくるのには笑いましたし、オチの付け方も巧い。なんだかんだで2700枚(『イリアム』も含めると4800枚)を読み抜いた甲斐はあった。

第20回三島由紀夫賞および山本周五郎賞の結果

 マジかよ!? と二回も叫んでしまった。おかげで桜庭一樹が日本推理作家協会賞を受賞したことに対する驚きもすっかり吹っ飛んだ次第。まさかあの人が三島賞作家になってあの人が山本賞作家になろうとは……いやはや感慨深すぎて言葉にできない。らーらーらー、ららーらー。

例の美少女(♂)アイドルエロゲーの公式ページがオープン

 着替えしている最中の部屋に入っちゃって「きゃー!」というハプニングはもはや古典に認定してもいいくらいベタベタなシチュエーションですが、裸を見られる方がおち○ちん剥き出しにした男の娘で、見る方が女装している少年という状況はなんか奇怪な胸の高鳴りを誘引してやまない。あとTOP画像の「微妙にモッコリしたパンモロ」は夢に見そうで怖いです。

・ばらスィーの『苺ましまろ(4〜5)』読んだー。

 このマンガが好きであることを認めるのは大音声で「I am a Lolicon! Fooooo!」と叫ぶにも似たりですけれど、ともあれ単に「幼女萌えマンガ」で片付けるには惜しい作品。アニメ化やゲーム化のおかげで知名度が上がって「かわいいは、正義!」というキャッチコピーもすっかり有名になり、いかにも萌えをウリにしているかのようなイメージがバラ撒かれたものの、高度なボケとツッコミの織り成すナンセンスギャグはなにげに読み応えあります。独特の呼吸が病み付きになること請け合い。不定期連載でなかなか新刊が出ない(4巻と5巻は2年も間が空いた)反面、描き込みは細かくて安定感があり、一コマ一コマのクオリティは「抜群」の一言に尽きる。

 読むのは3巻以来なので実に3年ぶり。アナがぶりっ子だというのはすっかり忘れていました。四人の女子小学生と一人の女子高生をメインに据えて、たまに外出もするけど大半は家でダラダラとくっちゃべったり遊んだり宿題をしたり、ひたすらありふれた日常を面白おかしく可愛くたまらなく綴る――というのが基本スタイル。一話完結なのでどこから読んでも楽しめますが、通読すると五人の性格や人間関係が把握できてきていっそう面白くなる。ひとときもおとなしくしていない暴れん坊の美羽と地味キャラ街道まっしぐらな千佳の間に密かに漂う「名コンビ感」が良い。パッと見は「雰囲気マンガ」「空気マンガ」のようでいて噛めば噛むほど味が出てくるスルメの如きテイストが全編に染み込んでます。

 ほんわかとシュール、笑えて和む高品質な幼女コメディです。どーでもいいけどアナの所持金額が当方の財布を凌駕していて少しショック。

・拍手レス。

 「鬼哭街続編」、途中まであるあるwと思って読んでいましたが、ロボの辺りから吹いた
 ジャイアント紫電掌は食らったら即死確定w

 でもやっぱり使えば使うほど機体がボロボロになる諸刃の剣。

 モンキーターンを未読なんて、いけませんわ焼津様!青島さんのいじらしさがたまらんのです
 モキタンは愛蔵版が出たら揃えようかと思案しておりまする。

 何その鋼屋さん辺りが(黒幕になって)同人でやりそうな妄想。
 タイトルは『報仇雪恨キコクガイン』とかで。

 ここは発想の逆転ですよ。後が駄目なら前を捏造すればいいと。
 タオローの父親世代辺りでの紫電掌誕生秘話とか。Kikoku-Guy/Zero、ライターは奈良原で。

 紫電掌のメカニズムや打ち出すタイミングを含めた体術薀蓄を濃厚に描いてくれそうで(*´Д`)ハァハァ。

 特定単数?
 片説は依頼人しか読みませんので。

 米原秀幸氏にB級アクションを描かせれば右に出るものはいないと思う
 『Damons』だとジェスト・ローレンスあたりの描写が最高。

 釘打ちEndってなんだぜ?
 「カズィクル・胡桃」あるいは「胡桃・ザ・ネイラー」な初期案エンド。これとかこれをもっと過剰にした感じです。麻耶の人気が出てきたので取りやめにしました。

 佐藤友哉の長い夜がついに明けたようです
 こっちはまた延期ですけどね……。


2007-05-13.

・メッセンジャーで「もし5年後くらいに『新・鬼哭街』とか銘打って虚淵と全然関係ないライターが中途半端極まりない続編を出したら」という仮定の会話を交わして悪寒に駆られた焼津です、こんばんは。

 そもそも『鬼哭街』はキレイに完結しているんですから、どこをどう弄っても蛇足にしかならない。なのに「あれから十年……魔都上海にふたたび報仇雪恨の剣が哭く!」と続編映画のプロモーション映像みたいなのがありありと脳裏をよぎっていく。

「よう、タオロー」
「ククク……どうした、何を驚いている」
「ヒャハ。ばぁーか、お前に出来たことが俺たちに出来ないはずはねぇだろ」
「そう、我々は帰ってきたのだ」
「地獄の底から、な」

 ――甦るサイボーグ武芸者たち。

「くっ、いかん……この体では紫電掌が使えない!」

 ――追い詰められるコン・タオロー。

「フッ、こんなこともあろうかと用意していたよ」

 ――飄々と嘯く左道鉗子。

「見たまえ」

 ――彼の工房に隠されていた最終内家兵器。

「これこそはサイバネティクス技術の集大成、全身に経絡を搭載し気功を練り出す巨大な機械人形……
 人呼んで――『鬼哭鎧』!」

 果たすは人機一体。

「バカな!」
「完成していたのか!?」
「だがこちらにも秘蔵の最終外家兵器がある!」
「ならばさっさと出すがよい!」
「カモーン、ペトルーシュカ・オブ・ナイン! ショウタイムだ!」

 倒すは五人。

「おおお――ジャイアント紫電掌ォォォォォッッッ!」

 スパークする鉄拳。

「喰らえッ! ダブル六塵散魂無縫剣ンンンンンンッッッ!」

 机器人(ロボット)ゆえに可能となる二十重の剣戟。

「私は信じています。兄様なら、絶対に勝つ――と」

 すべては妹ルイリーのために。

「さあ、もう一度決着をつけよう――ホージュン!」
「望むところだ――シスコン野郎!」

 征け、タオロー! 愛と力のあるかぎり!

 サイバーパンク武侠片と思わせて荒唐無稽スーパーロボットADV、そんな誰も望まない明後日の方向に突き進んでいく『新・鬼哭街』は今後とも是非存在しないでいただきたいものです。あ、でもジャン・ジャボウの専用機「シックスアームズ・ダイヤモンド」はちょっと見たいな。何のヒネリもなく腕が六本あったりするの。「六掛ける六即ち三十六の拳撃! 摩擦熱で視界を紅蓮に埋め尽くす『阿修羅パノラマ憤怒弾』は、その名の通り三百六十度死角なしだぜ! フゥハハハーハァー」とか、いかにも噛ませ犬臭い勝ち誇り方をする様子を想像しただけでゾクゾクします。

フランスオタク少女動画

 さすがにゴスロリ着てもあんまり違和感ないですな……しかし日本におけるロリータファッション解説で「社会に対する違反行為の一つの形」とか「伝統に対する拒否」とかナレーションしているのは偏見じゃないかしら。どこのレジスタンスかと思いました。

・河合克敏の『とめはねっ!(1)』読んだー。

 『帯をギュッとね!』『モンキーターン』で有名な作者の新連載マンガ。今回は書道を題材にした青春モノです。タイトルは筆遣いの「止め」と「撥ね」から来ているんでしょうね。「払い」だけハブ。さて当方、帯ギュは全巻読み切るほど気に入っていたものの、モンキーターンの方は「知らないうちに始まっていて気づいた頃にはだいぶ進んでいた」という感じで完全に出遅れてしまい、読もう読もうと思っているうちに完結してしまって未だに読んでない体たらくで、作者のファンとは言い切りにくいところがあります。それでも帯ギュは本当に好きだったので、今回は出遅れないようにとしっかりチェックして購入に走った次第。

 主人公はカナダからやってきた帰国子女の男子高校生。と言っても割と普通の雰囲気で、同級生たちからは「ガッカリ」扱いされている。毛筆を持ったことは一切ないけれど、字はうまい、そんな彼が書道部に入って青春ストーリーの幕は上がるわけです。一巻では書道のごく基本的な知識について触れる程度で易しい内容に仕上がっており、「習字なんて小学生以来したことないなぁ」という自分も安心して楽しめました。まだ始まったばかりのせいか主人公の活躍している場面があんまりなくて、むしろサブキャラの方が存在感あるくらい……そこが不満と言えば少し不満ですが、帯ギュの頃から変わらない柔らかでいて腰の強いムードがこちらの興味をイイ具合に引っ張っていってくれる。個人的には随分と久しぶりに読んだ河合マンガだけど、ノリの良さは健在ですな。最初は書道に関心のなかったヒロインが徐々にその奥深さに気づいていくあたりなど、ツボもちゃんと押さえてます。手堅い。

 今回は文化系なので体育会系と違ってバイタリティ溢るる猥雑さに欠くものの、端整な調子でうまくまとめている。これ1冊で強烈にハマる、というほどの魔的な魅力こそないけれど、続けば続くほど面白くなっていく作品だと思います。どうか打ち切られないでおくれよ。

・佐藤友哉の『1000の小説とバックベアード』読了。

 去年の11月に雑誌“新潮”に一挙掲載された長編。原稿用紙370枚。佐藤友哉、通称「ユヤタン」が久々に発表した新作であり、つい先日三島由紀夫賞の候補作に選ばれました。しかしファンのほとんどは本気で受賞すると信じていない節が濃厚。前後してデビューした舞城王太郎や西尾維新が一定の評価を確立したのに対し、どちらかと言えば不遇続きで「成功」と縁がないユヤタン、そんな彼だからこそ惹き付けられる……普通なら一笑に付すかただのネタとして片付けたい心情ですが、「活躍してほしいけどあまりメジャーになってほしくない」という複雑な気持ちがあるのは確か。しかしながら最近は島本理生と結婚したことが報じられたこともあり、そろそろ「不遇作家」のイメージから脱却する方向に進んでいるのかもしれない。

 僕は片説家になった――それは不特定多数の読者を相手にする小説家とは違い、特定単数の依頼人が求める物語を複数の人間でチームを組んで書き上げるという職業だ。僕なりに頑張って仕事をこなした。けれど馘になった。「方向性が違う」のだそうだ。今は無職。稼ぎがないまま27歳の誕生日を迎えた。誕生日ご愁傷さま。そして片説家をやめさせられたショックから字を読むことも書くこともできなくなって踏んだり蹴ったりのところへ依頼人が訪れる。私のために小説を書いてほしい、と。片説ではなく小説を。ついでに失踪した妹も探してほしいと注文してくる。かくして僕は「小説」と対峙することになる。無職のまま。無目的のままで……。

 小説をめぐる冒険、をやや伝奇小説的なタッチで描いた一作です。読めば読むほど「小説」というものが何か新手の超能力みたいに思えてくるから不思議だ。内容を理解し把握するためには作者のこれまでの本、特に『クリスマス・テロル』あたりを押さえておきたいところですが、そもそも『クリスマス・テロル』自体が佐藤友哉作品に嗜んでいないと理解しにくいので、全著作を読む気力や時間がなければ別にスルーしても構いません。オール・オア・ナッシングで行きましょう。一人では書けない「片説家」、才能はあるのに小説を書かないとして忌み嫌われる「やみ」、謎の存在として立ちはだかる「日本文学」や「バックベアード」、そして陰謀臭く蠢動している「1000の小説」。ザッと並べても意味は大して伝わらないだろうけれど、オフビートというかナックルボールな雰囲気は嗅ぎ取れると思います。

 久々の新作ということもあってたっぷり友哉節を味わえて満悦したものの、今回は「『絶望した!』と叫んでよろめいて倒れそうになるけど本当は絶望していないので叩きつけられる直前になって体を捻り上手に受け身を取った」という気がしないでもないです。「小説を書きたいが、小説を信じられない」という苦悩や「小説とはいったい何だろう?」という疑問が、掘り下げている箇所も存在する一方で反復効果を狙って書割的に流されている場面がいくつか見受けられる。やたら断言口調の会話と思考と信念が重ねられ、主人公は迷いつつも常に何かを確信しているように装っていますが、全体的に行き当たりばったり即興演奏でうまく凌いだ匂いがプンプンと漂う。そこが器用で面白くもあり、同時に惜しい。脱輪しながらも結局最後まで普通に走り切ってしまった感じ。横転せず自爆もしない。花火みたく壮絶に散る光景を期待していると、異様な物足りなさが残ります。

 しかしある意味、本書は「ここからもう一度始める」という宣言なのかもしれません。突き進んで突き止めて突き詰める小説という媒体の無力さ、小説という手法の限界、小説という夢想のなれの果て。大部分が無駄と認めつつもすべてが無駄ではないと奮起し、譲らないもの/譲れないものをチラリと僅かに覗かせる。なんだかんだ言っても佐藤友哉は自前のナイフで物語を切り出せるタイプの作家だとは思います。ちょっとした会話の遣り取りにも、署名を施すように持ち味を紛れ込ませている。読んでいて「ああ、佐藤友哉だなぁ」と安心できる。とはいえ地口みたいな文章を連発するあたりは板に付いていない印象があっていささか見劣りします。そろそろ刊行されるはずの『灰色のダイエットコカコーラ』(どうせまた延期するんだろうけど……)とまだ見ぬ新作に、更なる躍進を望みたいところ。

・拍手レス。

 ダイモンズ、いいですねえ。今日日ではかえって珍しい、割とストレートな復讐譚ですな。
 チャンピオンはこういうマンガを連載してくれるあたりがイイです。

 aウムラウトはaeとかくそうな
 その場合の綴りは『Daemons』になりますね。


2007-05-11.

・来月から『秘曲 笑傲江湖』の文庫化が始まると聞いて早速購入リストに書き込んだ焼津です、こんばんは。

 『笑傲江湖』は金庸の武侠小説でも最高傑作と名高いシリーズなんですが、以前に古本屋で全7巻セットを格安(確か600円弱)で売られていたのに「重たくて持って帰るのが面倒だから」という理由で買い逃してしまった苦い記憶があります。なくなってから某所でレビューを見て急激に読みたくなったんだよなぁ。文庫なら嵩張らないし、今度は心置きなく買おう。それにしても、今月から『Dクラッカーズ』の復刊も始まるとあって予定が一気に膨らんできましたよ。12月にはDクラの完全新作も刊行される予定ですので、「Dクラはもう持っているよ」という人もそれだけは見逃すことなかれ。

lightの新作『Dies Irae』、ページ更新

 トップ絵とそれに合わせた前日譚が追加されています。しかしあと二十日で春も終わろうというのに発売日の表記が「2007年春発売予定」のままだというのはイイ度胸してますね。

道尾秀介の『シャドウ』が本格ミステリ大賞受賞

 順当、かな。しかし本格ミステリ大賞ってどの程度認知されてるんだろう……日本推理作家協会賞あたりと混同されることってないのかしら。

・原作:手塚治虫、漫画:米原秀幸の『Damons(1〜5)』読んだー。

 タイトルは「a」の上にウムラウト(・・)が付きます。読み方は「ダイモンズ」。手塚治虫の「鉄の旋律」という短編が原作とのことですが、どうも検索して調べてみた感じだと基本設定以外はストーリーもキャラクターも全然別物になっているみたい。「憎しみをパワーに変えていざ振るえ鋼の義手!」ってくらいしか共通点がない。そんな、「地上最大のロボット」に対する『PLUTO』というよりアニメ版『スクライド』に対する漫画版『スクライド』『駿河城御前試合』に対する『シグルイ』に近い、まさにチャンピオンの本領発揮といったテイスト溢れる本作を手掛けるのは『ウダウダやってるヒマはねェ!』『フルアヘッド!ココ』の米原秀幸。不良少年の喧嘩や海賊の冒険といったバイオレンスいっぱいな男臭い漫画を、シャープながら迫力に満ちたタッチで描いてきた漫画家です。年季の割にはチャンピオン読者以外にあまり知られていない人ながら、さすがに累計80冊を物してきた実力は伊達じゃない。グイグイ読ませる。

 「裏切者」と詰られ、友であった男たちに両腕と妻子を奪われたナノテクノロジーの研究者・兵斗(ヘイト)――彼は死の淵まで追い込まれながら、沸き上がる怒りと憎しみが命の緒を繋ぎ止めた。千切られた生身の腕の代用として、マッドサイエンティスト・ベッケル博士が与えた物は鋼鉄の義手。ヘイトは苛酷な試練の末、電動でもなければナノテクノロジーでもない、「ゼスモス」という科学では解明されない念動力によって「造られた腕」を繰る。もはや科学に未来を展望した心は潰えた。過去を清算するためなら神だろうと悪魔だろうと構わない、いくらでも手を組んでやろう。この交換可能な鉄腕で。標的は五人。すべて殺し尽くすそのときまで、白髪の復讐鬼と化したヘイトは流血の道をひた走り続ける……。

 手には鋼鉄、斃すは五人。忿怒と憎悪を原動力に、報仇雪恨を遂げんとするバリバリの復讐譚です。いや、本当にシチュエーションが『鬼哭街』っぽい。無論「っぽい」だけで、中身は米原節で満載。絶望のドン底から這い上がって「ゼスモス」という、なんかわけわからん力を自家薬籠中の物とするに至るまでを1巻の2/3近くに渡ってねっちりと描き込んでいます。ほとんどゾンビみたいな凄まじい表情もさることながら、「奴らを血祭りにあげるッ! それ以外は何もいらないッ!」と咆え猛るような言動がハートにビンビンと伝わってきます。復讐は何も生み出さない……だというのに、これだけの執念とパワーはどこから湧き上がってくるのだろう。理屈に則らず、ただ感情による「帰らないものを返せ!」という叫びが捩れ、骨髄を貫いて怨みの矛先に変貌する過程。「怒り狂う」のではない。忿怒が狂気を経て研ぎ澄まされ、遂には「暴力を振るいながら笑う」という域に到達する。ここまで来てようやく彼の復讐は禍々しい「美しさ」を帯びるのです。血で血を洗う、本来は「野蛮」と唾棄されるべき復讐劇が今もなお多くの読み手を虜にするのは、ひとえに怒りと憎しみの底でひっそりと紡がれる、暗い宝石のような「美しさ」があるからだと思います。

 1巻から2巻にかけての展開はハイスピードかつハイテンションで一気読みを強いられることは確実。斃すべき敵もこれまた曲者揃いで、やすやすとは討たせてくれません。程好くハッタリの利いたB級アクションにワクワクとします。3巻以降は巻き込まれそうになる一般人を庇ったり、新たに守る対象ができたりといった調子で、やや「復讐譚」の狙いが鈍っている気もして戸惑いましたけど。加えて「ゼスモス」関連でも動きがあったりと、なにげにストーリーが長期化しそうな雰囲気もあります。アクション描写が卓抜しているおかげもあって多少話が延びてもダレることはないんですが……なにぶん主人公も敵たちも脇役でさえも個性が強い漫画ですので、最後まで制御し切れるのかなぁ、とちょっぴり不安。それはともかくこの作品、一ページ丸々使った大ゴマとかも多いのですが、どれも表現が効果的でつい見惚れてしまう。死で死を贖う復讐劇や部分強化系アクションが好きな人にはオススメしたい。

・拍手レス。

 ポリ赤のイラストレーターは元々エロゲンガーですしねぇw>>
 http://catwalk.product.co.jp/products/RPG/rpg.html

 あー、こんなんもありましたね。ゲームパートの評判がアレでしたが。

 読者総ツッコミ「聖闘士焼津!?」
 「邪鬼眼は月輪に飛ぶ」いや無理だ、これは。

 ジャッキー(邪気眼の愛称)が発動したら月輪どころか惑星降格も無視して冥王星まで飛ぶはず。

 一月も前に驚愕の事実が曝されてる・・・なんてこったい!
 あれから一ヶ月、うちのような引き篭もりサイトが毒めぐさんRIG2さんのところとサイト付き合いしている現状に驚愕。


2007-05-09.

『うぃずりず(1)』を脊髄反射的に衝動買いした焼津です、こんばんは。

 だって帯のキャッチコピーが「金髪、碧眼、ランドセル。」ですよ。神掛けて抗えるものか。釣られた自分をむしろ誇りたい。

ポリフォニカの新刊に限定版が

 ライトノベルにも限定商法の波が……と思ったらアニメイトととらのあなだけでやるんですね。価格や内容は一緒で、それぞれカバーイラストだけが違うみたい。これが通常版で、これがアニメイト限定版これがとらのあな限定版。髪型やコスチューム、あと表情が微妙に変化してます。アニメイト版が下着姿で一番露出度高いけれど、スク水+黒タイツというフェティッシュな組み合わせのとらのあな版もエロい。というか塗りの質感が完全にエロゲーのそれだ。もともとがエロゲーに近い調子で始まった企画だから違和感はありませんけれども。

『大正野球娘。』のイラストレーターが小池定路であることに今更気づきました。

 しまった、チラッとしか見てなかったせいで全然認識してなかった! 某所で「小池さん」と書かれていたから「ひょっとして……?」と恐る恐る調べてみたらギャー。アボパを退社してからはノーチェックだったとはいえ、不覚すぎる。一応解説しておきますと、元アボガドパワーズの社員で、『終末の過ごし方』『フォークソング』『エムM×Sエス』の原画を手掛け、ライアーソフトの『ライアー大戦じゃんまげどん』にもスタッフとして参加している絵師さんです。と書いても分からない人が多いでしょうか……最新ソフトのじゃんまげすら3年以上前、終末〜はかれこれ8年も経ってますし。

 丸っこく温かみがあって可愛らしい、けれど撓やかで個性の強い絵柄と色遣いに燦たる魅力が横溢しており、未だに彼女(女性です)のことが忘れられないエロゲーマーは多いはず。無論当方もその一人なので、早速『大正野球娘。』を買いに走らねば。

・藤田和日郎の『邪眼は月輪に飛ぶ』読んだー。

 『うしおととら』『からくりサーカス』、そして一部では「富士鷹ジュビロ」の元ネタとして知られている作者の一冊読切長編マンガ。しかしこんな新作が出ているとはまったく知りませんでした。「ジンガイマキョウ」で犬江さんが紹介された(5/1付)のを見て「あわわ、買わねば」と慌てた次第。「邪眼」とか「魔眼」が大好物な人間にとってはタイトルの時点で既にそそられるものがあります。カバーイラストもストイックで格好良くて思わず涎が出そうに。

 今回は一冊読切なのでストーリー展開が重視され、もう一話目からスゴイことになっている。設定はザックリとあまり細かく説明されずに進んでいくこともあり、読み口は『うしとら』などの長編よりも短編作品のそれに近いかな。強いて言えば「瞬撃の虚空」(『暁の歌』収録)みたいな味わいです。ただ、「展開重視」とはいえやはり藤田和日郎、鋼線でも仕込んだかのように徹頭徹尾揺るぎなく一貫した描写を保っている。初読のみならず繰り返し読んでもなお面白い。

 緊迫したムードで怒濤となって押し寄せるアクション&サスペンス。それでいて人情味も忘れない、実にバランスの良い一冊に仕上がっています。代表作がどっちとも大長編なのでなかなか手を付けられず尻込みしてしまう、というジュビロ未体験の方にもオススメ。今回は広げるばかりじゃなく、ちゃんと風呂敷を畳むことまで考えて練り込まれていますね。それでも全5回だった予定が全7回に延びてしまったのはいかにも「らしい」ですが。次は講談社の方で『黒博物館 スプリンガルド』という新連載を始めるそうな。もちろんこちらにも大期待。

・ダン・シモンズの『イリアム』読了。

 夢の対決――何度聞いても心をくすぐられる、いい言葉です。古今東西を問わず、とにかく男の子という人種はこの「夢の対決」が大好きで、誰もが瞳をキラキラ輝かせ、興奮気味に声を高めながらああでもないこうでもないと空想に耽るものです。「○○と××、どっちが強い? 戦ったらどっちが勝つ?」 こういう益体もない命題に取り憑かれた経験のない男子なんて、果たしているものでしょうか? ウルトラマンと仮面ライダー、ゴジラとガメラ、柳生十兵衛と宮本武蔵、吸血鬼と宇宙人、ザ・ワールドとキングクリムゾン、ジャイアント馬場とアントニオ猪木、カンフーファイターとショットガン刑事etc……『ザ・キング・オブ・ファイターズ』『スーパーロボット大戦』、そして『吸血大殲』など、多々あるクロス・オーバー作品の根底を支えているロマンのうち、もっとも強大なのがこの「夢の対決」でしょう。対決しなくても「夢の競演」というロマンは残りますが、なおも「で、結局どっちが強いの?」と確かめたくなる心情を捨て切れない――男の子の抗いがたきSa-Gaであります。

 そんな、「ナリは大きくとも心性はガキのまま」という永遠のボンクラキッズたちにとってすこぶるつきのご馳走となる物語こそがこの『イリアム』。ホメロスの叙事詩『イリアス』を下敷きにして、「神々と英雄たちの戦争」を描いています。ギリシャ神話に名高いあのゼウスが、あのアポロンが、あのポセイドンが、あのハデスが、その他諸々の神様たちが、鬨の声を上げながら群がってくる何千もの勇将・勇士、馬どもの曳く山ほどの戦車と相対して殲滅戦を繰り広げる……しかもアポロンが放つ矢には熱源探知の機能があって必ず標的に中たる仕組みになっていたり、神々は量子テレポートを使って戦場のあちこちに出現したり、鏖将アキレウス(「アキレス腱」の語源になった人)はナノテクノロジーによって細胞レベルで全身が強化されていたりと、SF的なガジェットが随所にちりばめられていて、その絶妙なイカレ具合がロマン高揚にますます拍車を掛けます。

 本書の原題 "Ilium" 。前述した通りホメロスの叙事詩『イリアス』をベースにしてストーリーを紡いでおりますが、全体的にはSF色の強い意匠によって彩られており、また取り込まれている文学作品は実のところ『イリアス』一つに収まらないくらい膨大なので、元ネタの『イリアス』を知らない程度のことは痛痒ともしません。事実、アガメムノンとかアイネイアスとかカッサンドラとか名前しか知らなくて、ヘクトルに至っては名前すら知らず、ギリシャ神話で連想するのも『聖闘士星矢』『終わりのクロニクル』の3rd-Gという体たらくの当方でも楽しめましたよ? 冒頭はギリシャ系の名前と詳細のよく分からない設定および用語がひたすら羅列されるため、「覚えられねー、理解できねー」と悩まされることほぼ確実ですが、根気を持って読み進めればだいたい100ページくらいで雰囲気に慣れてきて後はスラスラ読めるようになると思います。いえ、「100ページ」と軽く書いてしまいましたが、「文庫の100ページ」ではありません。この本は原稿用紙換算で総計して2100枚ほどあり、本編が約750ページだから一ページあたり2.8枚、つまり280枚に及ぶ忍耐が必要となります。薄めのライトノベル一冊を丸ごと読み通す気概で取り掛かってやっと突端が掴める、という圧倒的なスケール。とにかく読んでも読んでも終わらない。これでつまらなければただの拷問ですが、頭が話に馴染んでくると滅法面白くてどんどんページをめくってしまう。確か『源氏物語』が四百字詰原稿用紙だと2000〜2500枚に相当するとかで、それに比べれば若干楽な読書ではありますが、驚嘆すべきはこの『イリアス』自体がシリーズの前編に過ぎないこと――『オリュンポス』という、あまりにも長すぎて遂に一冊にまとめられなくなった、当然『イリアム』も上回るボリュームを誇る後編でやっと完結することです。シリーズすべてを合わせれば5000枚近くにも迫り、もはや『月姫』に挑むのと同等の時間&覚悟が要件とされます。

 さて、ストーリーの解説に入りますと、『イリアム』は大まかに三つのパートに分かれています。『イリアス』さながらの合戦が繰り広げられる「紀元前の地球」パート、木星の衛星に棲むモラヴェック(自己進化したロボット)が仲間たちと一緒にある任務を帯びて航宙する「火星潜入」パート、ポスト・ヒューマンと呼ばれる支配者によって飼い殺された人類がポストの去った後もなお家畜然として生活している「未来の地球」パート。それぞれの関連が見えてくるまでが長く、固有の用語がさして詳しい説明もなく連呼されるため混乱を催しますが、とりあえずどれか一つに興味を絞って他は読み流す感じで進めていくと割かし楽に慣れます。オススメなのは「紀元前の地球」、絢爛で猥雑とした戦闘が延々と続く一方で「神々に叛旗を翻す」までの過程を描く、もっともエキサイティングなパート。もともと『イリアス』では人間たちの戦争に混じって平気で神々が干渉してくる様子が描写されており、ブラッド・ピッドが主演した映画『トロイ』ではそのあたりがバッサリ省かれしているそうですが、本作ではこれでもかとばかりにガンガン登場して「神すげぇ」と唸らせます。そして「アカイア勢 VS. トロイア勢」という攻囲戦の構図が、「神々への闘争」という段階に突入して「オリュンポスの神々 VS. アカイア勢+トロイア勢」に変化する流れは血が滾ること確実。

 もう一つオススメなのが「火星潜入」パート。こちらは「いかにもSF」といったムードで、SFの素養に欠く当方みたいな読者にはややとっつきづらいところもありますが、ふたりのキャラクターが活き活きとしているおかげで大して苦痛もなく読める。潜水艇「黒の女(ダークレディ)」に搭乗し、エウロパの氷海を探査しながらシェイクスピアを嗜む、小さなヒト型のマーンムートと、見た目は大きなカニに似ている「重装甲型耐真空仕様モラヴェック」で、プルーストを愛好するイオのオルフ。ロボットながらこのコンビは深い友情で繋がれています。彼らの軽快な掛け合いは、やたらと血腥い展開の多い「紀元前の地球」パートに対する一種の清涼剤として作用。アテナだのヘラだのヘレネだのアンドロマケだの、やたらおとろしい女神、勇ましい女性が多いなかで、普通に萌えることができるのはこのふたりくらいじゃないかしら。残った「未来の地球」パートは舞台裏を探る試みとなっており、情けないふとっちょのディーマンが少しずつ成長していくあたりに読み応えがあるものの、他2パートが有する魅力に比べればちょい劣るかも。

 一応、誤解のないように書いておきますと、本書は「人間たちがオリュンポスの神々に戦いを挑む」、まさにその瞬間までを描いた作品であって、「俺たちの戦いはこれからだ!(第一部・完)」っぽいエンドを迎えます。本格的な神人大戦を綴る第二部は『オリュンポス』上下巻にて。ダン・シモンズの本は短編集とジョー・クルツのシリーズしか手を付けたことがなく、『ハイペリオン』などの大長編は読破していない(『ハイペリオン』はちょっとだけ読んで放置中)から最後まで目を通せるか不安でしたが、あっさりと杞憂に終わる面白さでした。『オリュンポス』を読了したら、いくらか時間を置いた後に『ハイペリオン』に再チャレンジいたしたく思います。


2007-05-07.

・ずっと昼寝のターン。こんばんは、ジジイのファックにも劣るダラダラと弛み切った連休を送った焼津です。うーん、積読も思ったほど崩せなかった……ケーブルテレビでやってた映画を立て続けに見たりして疲れたせいもありますが。『ジャーヘッド』とか『トム・ヤン・クン』とか。

 『ジャーヘッド』は海兵隊映画ということで期待しましたが、なかなか面白かったです。「戦うべき敵が得られない」というシチュエーションは歯痒いものの、一つ一つのシーンが目を引き寄せる。進むにつれてBGMの曲調が暗くなっていき、燃やされた油田から噴き上がる炎や降りかかる黒い油の雨と相俟って終末的なイメージを紡ぎ出すあたりが印象的。あとシモネタが多めなのも個人的に嬉しかった。

 『トム・ヤン・クン』は「象のために戦う」という設定がユニークで、アクションも迫力があったけど……正直、アクションシーンぶち込みすぎ。限度量を明らかに超過していて、場面と場面の繋ぎ方が苦しくなっている気がしました。が、そこを割り切れば楽しめる映画ではあります。特に終盤近くのカポエラ使いはカッコ良かった。あそこだけ見たらカポエラ使いの方が主人公っぽくて、「あれ? なんでこっちが負けたんだろう?」と素で思えるくらいです。

「沃野」のイラストギャラリー公開

 素晴らしいいただきものコーナーがあるとはいえ基本的に字ばっかりなうちのサイト(かつて飛鳥彼方さんに「文字の亡霊」とかいうカッチョイイ二つ名をいただいた記憶も……)ですが、「『沃野』を読むことになった方々が毒めぐさんのイラストを知らないなんてことになったら勿体ない」ということで一念発起し、画像ファイルの扱いに慣れてない身で必死こいて画廊をつくってみましたよ。改めて見返すと関連イラストが普通に十点越していてビビりましたよ。震えましたよ。「沃野」を書き始めた頃はこうして縁を得ることなど欠片も予想しておりませんでした……そもそもあの頃はまだ「月道」復活してなかったですから。

 それと山姉の作者であるRIG2さんのサイト「にゅーくりあ・しっと」に例のイラストの反応が書かれております(「ひかえ室」5/6付参照)。自分も同じくらい慌てふためいていたことなどサクッと忘れて思わずニヨニヨ。しかし「想いは四年越し」とか「数年がかりで口説き落とした」とか、第三者視点から述べると執念深い純情ストーカーみたいに思えてくるのがなんとも。いえ、mixiに登録した初めての日に早速ページを探しに行ったこととか考えると、実際も大して変わらない気はしますが……なにぶん初めてだったので検索の使い方も分からず、「絵描きさんのマイミクを辿りまくる」というメチャ原始的な方法で突き止めた次第。mixi界の散策も兼ねていたとはいえ、あれは我ながら呆れる根性でした。

・上橋菜穂子の『闇の守り人』読了。

 むかし、たった一度だけ、おなじことがあった。ジグロと稽古しているうちに、あんなふうに、たがいの技がからみあい、ひとつの流れになってしまったのだ。
 そのときジグロが、なんともいえぬ目でバルサを見て、つぶやいたのだった。
「これは、 <槍舞い> だ。――おまえの技は、とうとう、ここまで達した……」と。

 “守り人”シリーズ第2弾。まだ文庫化されていませんから、「ポッシュ」というレーベルで出ているソフトカバーの軽装版にて読み申した。話は当然ながら『精霊の守り人』の続きですが、今回はバルサの故郷である北部・カンバル王国が舞台なので、前作みたいな和風テイストはなくてごくオーソドックスな異世界ファンタジーになっています。この変化を新鮮と取るか肩透かしと取るか、読み手の反応が分かれそう。個人的には「和風」って部分にさしてこだわりがありませなんだ故に「へー、こういうノリもいいな」と至って気楽に堪能させてもらいました。

 皇子チャグムを守るという依頼を無事に終えた流浪の用心棒バルサ――彼女はこの依頼を通じていろいろと思うところがあり、意を決して生地への帰路に就いた。25年前、まだ詳しい事情も分からずに父の親友であるジグロに連れられて去った北の大地カンバル。養父であり武術の師匠でもあるジグロ、今は亡き彼の背に着せられた汚名を晴らすため、ふたたびその土を踏む。「闇の守り人(ヒョウル)」、「青光石(ルイシャ)」、「王の槍」、「山の王」。過去と向き合ったとき、バルサは故郷の闇を知った……。

 といった調子で繰り広げられる「過去の清算」的エピソード。バルサの生い立ちについては『精霊の守り人』で既に触れられているため、今回はそれをより掘り下げたうえで進んでいく形となります。結構重たい内容だし、陰謀云々といった生臭い要素も絡んでくるので、あんまり子供ウケしそうにない話だなー、と思いつつ読んでいたら、あとがきに「大人の読者から最も支持されている」とあって納得しました。過去から逃げるのではなく、過去に向かって進撃する。そういう勇ましさが微かに匂っていて歳食った読者の胸をキュンキュンとさせる。ファンタジーとして見れば前作よりもグッと地味になったけれど、ストーリーは緊密さを増して更に面白くなっています。三十路のヒロイン・バルサは今回も好調ですよ。

 「闇」というだけにノワールな疾走感を期待した面もあったが、やはり児童文学としての配慮か後半は予想したよりもドロドロとした展開にはならなくて、割かしキレイにまとまっちゃったものの、クライマックスであえて粘り気のある怒りや悲しみを噴出させる遣り口は泥臭いながらも迫力があって引き込まれます。愛しながらも疎む気持ちや恨み、憎しみを捨て切れない、誰しもの魂が抱える負の重力。バルサは心の暗がりを越えて、新たなステージに辿り着くことができるだろうか。

 「槍舞い」という言葉に惹かれるモノを感じた人には是非ともオススメしたい一冊。

・拍手レス。

 ディエス・イレ。げっちゅ屋で7月予定になってるけど、まだまだこんなモンじゃないんでしょうね。。。
 ここから先が本当の地獄……いつになれば既視感(ゲットー)を破壊できるものやら。

 やっとロミオノベルの詳細が発表された訳ですが……騙されちゃダメだ騙されちゃダメだ
 読者の大半が「はかってくれた喃 ロミオめ!」と歯軋りする事態を期待。

 文庫化ホントにしましょうよー
 調べてみたら文庫サイズの同人誌なんてのもあるんですねー。ページ数がアレなので印刷料金は嵩むみたいですが。

 ふと思った。ディレクター:RIG2、ライター:焼津、原画:毒めぐ…そんなゲームが見てみたい、と。
 皆揃って気分屋属性ですので「ぼとむれす」どころか「たるたろす」と呼ぶべき恐ろしい制作状況になること請け合い。

 「精霊」の続編の闇の守人もすばらしい出来だとおもいます。ラスト近くの情景なんかとくに。
 素晴らしかったですねぇ。『闇の守り人』は、歳を食った人……いえ、オトナの人にも読んでもらいたいです。

 読み比べてたら麻耶たん屈指の萌えゼリフ「堪忍してえ」が無くなっててガーン
 あと誤字報告を Act.11「キチン」→「チキン」 Act.15「ミサキー」→「ミキサー」

 じゃあ目次のAct.13の横にこっそり隠しリンク張っておきますね。あと誤字直しました。報告感謝ですー。


2007-05-04.

アリスソフトの求人情報

 冒頭から変態じみたセリフをいともサラリとカッコ良く書いてます。さすがアリスは風格が違う。

「月道」にて「沃野」および「山本くんとお姉さん」絵(05/02付)

 山姉の世界で「沃野」が文庫化されている、といった趣旨のイラストです。とわざわざ解説してみる。「嫉妬文庫」という架空レーベル名に噴きました。表紙イラストの胡桃さんは相変わらず綺麗ですが、背中に何か隠しているのも相変わらずなのであまり近寄りたくない雰囲気。ちなみに「沃野」は現状で原稿用紙320枚程度、仮に電撃文庫で出したら、たぶん『ブラックロッド』と同じくらいの厚さになりますね。

 ……などと割合冷静にコメントしているようで内心は「あわわ、『月道』で、しかも山姉とのコラボなんてえらいこっちゃ〜」と周章狼狽してますけど、その心情を忠実に再現するとエクスクラメーションマークやフォント弄りを多用する破目になるため省略。それから、毒めぐさんの手による「沃野」イラストの転載許可が下りましたので「泥(なずみ)」に掲載。あちらは横幅が狭いですから、本格的な画廊はこちら側につくろうかと思案しております。

 あとバナーまで頂戴してしまいました。


 しかも二種類。長年ノーバナーの操を保っていた当サイトも遂にそれを捨て去る日がやってまいりました。ありがたく使わせていただきます。

 ついでに。毒めぐさんはサイトの方で告知されない方針みたいですのでこっそり宣伝。先月発売になった『MELTY BLOOD』のアンソロにカラーイラストを一点描かれております。気になる方はチェックされたし。

めろめろキュ〜トの『ドラクリウス』、体験版をプレー。

 めろキュー自体は去年に設立されたブランドで、これが第2弾のソフトとなりますが、制作しているXEROという会社はかれこれ6年前の『フーリガン』まで遡れる模様。通算するとこれが16本目くらいかな? 「吸血奇憚ADV」と銘打たれているだけあって吸血鬼モノ。シナリオライターは「藤崎竜太、他」……「、他」という表記がなんとも不安を誘います。原画師の名前はちゃんとふたりとも明記しているのに、なぜライターだけ伏せるのだろうか。

 真祖たる父親と人間たる母親のあいだに生まれたハーフの少年が主人公で、彼が吸血鬼として目覚めていくところから物語の幕は上がる。毎朝一緒に登校する幼馴染みが女子の制服を着ている割に実は男だったりで、「藤崎=ショタ」という公式を暗に裏付けるかのよう。おまけに主人公である荻島潤の容貌も中性的で、「骨格は女性に近い」とまで描写されている。菊地秀行の小説に出てきたらこれでもかとばかりに賛美されそうな路線のキャラデザです。体験版はヒロインがひと通り出揃ったところで終わり、主人公の婚約者やまきいづみボイスのメイドはほとんど出番がなくて残念なものの、大まかな感触は掴める長さでした。ちょっと飛ばし気味にやったので1時間程度でしたが、まじめにプレーすれば2時間くらい掛かるかもしれません。

 んー、まだストーリーが本格的には動き出していないのでなんとも言いかねる部分はありますが、面白かった箇所も結構多かったです。見た目はロリだけど百年単位で生きている魔女メイドのベルチェ(エルシェラント・ディ・アノイアンス)がイイ味出している。不遜なようでいて忠誠心に富んだ性格がうまく嵌まっており、トボけた口ぶりがなんともオイシイ。転校生として主人公のクラスにやってきた吸血鬼ハンターのリカは、なんと言いますか、しょっぱなから勘違い気味なうえヤムチャ化までしていてオイシイというより痛々しい。一応は戦闘系美少女なのに、出だしでこんだけ雑魚く見えるヒロインというのも珍しいな……少なくとも体験版じゃ予告編入れてなおイイトコなしです。許婚のお嬢様といづみメイドはなかなかオイシそうではあるが、さすがにあれだけの出番で具体的な感想を書くのは無理。現時点ではベルチェ一強といったところか。

 大筋としては「ありがちな吸血鬼モノ」という範疇に留まっており、学園モノとしての要素も含んでいるので、良く言えば手堅いが悪く言えば新鮮味に乏しい。主人公が「吸血鬼としての自分」に折り合っていこうとする、というあたりには興味をそそられるし、「設定フェチ」と自他共に認める藤崎竜太の「こまけーな、おい」って言いたくなる痕跡が随所に窺えるのは楽しいですけれど、アクションとかバトルは期待しすぎない方が良さげかな。あと、二つの原画が混ざっているせいでグラフィックが安定していないのはやっぱり難。特に立ち絵。別々の絵柄で描かれたキャラが同じ画面に収まっているのはすんごい違和感あります。もっと馴染んでほしい。

 複数原画と複数ライター、どうしても「複数」にネックを感じてしまう作品ですが、気になることは気になるのでチェックしておこうかと。あるいはひょっとすると、投げっぱなしジャーマンじみた藤崎の作風が複数ライター制によって緩和されるのかもしれませんし。

・拍手レス。

 ラフウッドは、頬をレッドにカラーし、見たこともないようなスマイルを嫣然とフロートしていた。
 一瞬ラフウッドさんが擬似重力(フロート)を手に入れたのかと思いました。

 おや、「君が主で執事が俺で」は買わないので?
 体験版やってみましたが、いまひとつそそられなくて……でも揚羽様は大好き。

 最近『人類』という言葉が『人妻』にみえて仕方がありません。
 「人類愛」が「人妻愛」に見えるわけですね。ヅマスキーの鑑かと。

 となると「日輪観」は「あらゆる隙間に肉棒を叩きこむ」ことになるのかー。すごいなー
 もはや瞑想でもなんでもない。

 初めまして。いつも読書録を参考にさせていただいています。
 はじめまして。本読みとしてそのお言葉は嬉しいかぎりです。


2007-05-01.

・密教の瞑想法に「月輪観」というものがあり、これは「がちりんかん」と読むそうですが、どうしても「ガチ輪姦」を連想してしまって内容に集中できない焼津です、こんばんは。「輪姦だけでも充分鬼畜なのに、ガチまで付いたらどんなに凄くなるんだろう……ゴクリ」って、なんかもう「オマーン国債」や「アナリスト」、「フェラーリ」に反応する中坊そのまんま。当方の中坊神経は未だに健在の模様です。

ニトロライターの本棚

 小学館ガガガ文庫から出る作品のうち、ニトロプラスが関った2冊について紹介する記事ですが、最後にニトロ所属ライターの本棚の写真が掲載されています。常日頃から他人の本棚に興味津々な人間ゆえ食い入るように眺めました。

 虚淵玄は海外翻訳小説が多いけど、なんかグチャグチャな並べ方で見づらい……上巻と下巻が離れたところに入っていたりと、見ていてパズルにでも取り組んでるような気分に。作風から言ってスティーヴン・ハンターは好きだろうと思っていましたが、やはりチラホラと点在。ハードボイルド、というより冒険小説やクライム・ノベルに偏っている印象があります。マイナーだけど個人的に気に入っている『拳銃猿』が置かれているのは少し嬉しい。ヤマグチノボルの著作がやや浮いて見えますが、確か巻末の解説を手掛けているんですよね。

 鋼屋ジンはスッキリしていて見やすい。マンガとライトノベルだらけなのは一目瞭然。書店カバーの上にわざわざ「ゴシック」とタイトルを表記しているのは妙に微笑ましいです。全体的に「さもありなん」といったラインナップ。映っているのはほんの一部みたいですが、その嗜好は存分に示されている。ロリとか。

 奈良原一鉄は量が少ないですね。どちらかと言えば古めの本が多い感じ。古本屋の一隅を眺めている気分になります。『用心棒日月抄』シリーズが揃っているところを見ると藤沢スキーなのかしら。誰かが「奈良原の文体は藤沢周平に似ている」と書いてた記憶が……。

 下倉バイオは上にあるフィギュアの尻や乳に目を奪われてしまいますな。そこから無理矢理視線を引き剥がしても、角度が角度だけにほとんど判別できない。せいぜいむげにんザスニ山積み、としか。『All You Need Is Kill』あたりは背表紙が特徴的なので分かりますが……。

・上橋菜穂子の『精霊の守り人』読了。

「いいかげんに、人生を勘定するのは、やめようぜ、っていわれたよ。不幸がいくら、幸福がいくらあった。あのとき、どえらい借金をおれにしちまった。……そんなふうに考えるのはやめようぜ。金勘定するように、過ぎてきた日々を勘定したらむなしいだけだ。おれは、おまえとこうして暮らしているのが、きらいじゃない。それだけなんだ、ってね」

 NHKでアニメ化もされて現在話題沸騰中の和風異世界ファンタジー。全10冊から成るシリーズの1冊目であり、初出は96年なのでもうかれこれ10年以上が経過したことになりますが、今年のはじめに出版された10冊目でようやくシリーズが完結したこともあって遂に文庫化されました。作者は数々の賞を獲得し、読書界での評判も高いものの、頑なに児童文学から離れず作品を発表し続けています。去年末に開始した新シリーズ『獣の奏者』は早くも一般文芸の方面からも厚い支持を得ている。

 この“守り人”シリーズ、児童文学系和風ファンタジーとしては荻原規子の“勾玉”シリーズやたつみや章の“月神”シリーズと並ぶ人気を誇っており、ハリポタがキッカケでファンタジーを読むようになった当方の如きヌルい層にさえ評判は響いてきています。しかしながら児童向けのデカい版型はイイ歳こいた人間が手を取るには若干抵抗があり、こうしてお手頃な文庫版が出るまでは読み出す契機を得られなかった。少し前にソフトカバー版も発売されていますが、こちらはアンテナに引っ掛からなくて、つい最近になるまで存在すら知りませんでした。ライトノベルならまだしも、児童文学は死角がいっぱいです……。

 牛車から転落し、青弓川の流れに飲み込まれた第二皇子チャグム――たまたま通りがかりで彼を助け出したことから、バルサの運命は大きく変転した。「短槍使いのバルサ」と呼ばれ、用心棒として名を馳せている彼女の腕を見込み、チャグムの母である二ノ妃は「この子を守ってほしい」と依頼する。曰く、チャグムは父親である帝に命を狙われている――と。正体不明の「何か」に取り憑かれたことで忌まれた皇子は、かくしてバルサと一緒の逃亡の旅に出る。放たれる刺客。身の裡に潜み続ける「何か」。彼を救うためには、その「何か」の謎を解かねばならない。生き残るために、バルサは槍を振るうが……。

 児童向けの和風異世界ファンタジーということで、こう、いかにも「情感の篭もった描写がなんたら」とか「自然の大切さが行間から云々かんぬん」といった解説が似合うようなノリを連想していたわけです。率直に言ってしまえば『もののけ姫』みたいな。しかし実際に読んでみると、「そういう先入観は捨てて掛かった方が良い」とすぐに諭される。たとえばバルサが二ノ妃にチャグムの護衛を依頼されるシーン、普通に行けばここは頭を下げて「ははっ」と謹厳に承るところですが、彼女はそうせずに「卑怯な仕打ち」と二ノ妃を糾弾します。なんとなれば、バルサに拒否権などないからです。断れば「秘密を知りすぎた」ということで生きて帰れなくなるし、受ければ受けたで命の保証がまったくないハードなミッションに身を委ねることになる。本来旅人であるバルサに「皇子を守る」という使命感を抱く理由はなく、「割に合わない」として拒否する選択肢があっても良さそうなものの、「身分の違い」や「権力の差」がそれを許さない。二ノ妃同様、ほとんどの読者はこうした「依頼の拒否権がないこと」について無頓着で、バルサがただ畏まって拝命すると思い込んでいるから彼女の抗弁を意外に感じるはずです。当方もそうだっただけに、「これはどうやら予想とは路線が違うな」と読む姿勢を変えて挑むことになりました。

 更に物語はチャグムに宿った精霊にまつわるエピソードでファンタジー系の雰囲気を深めつつ、それに付帯する「歴史の捏造」という児童文学にしてはやや特殊に感じられる題材で以って掘り下げられていく。ゆったりとしたムードの漂う場面は少なく、非常にスピーディでテンポ良く展開し、読み手を退屈させない。「環境音楽のような(眠たい)ファンタジーなんじゃないか」という懸念を振り切って軽快にエンターテインメントしてくれます。何より目を瞠ったのはアクションの面白さ。「短槍使いのバルサ」なんて異名があるんだから当然バトったりもするのですけれど、帝が抱える暗殺部隊「狩人」と繰り広げる戦闘シーンの迫力は実に熱い。熱すぎる。いっそファンタジー抜きで「狩人」との遣り取りに終始しても良かったのでは、とバカなことを考えるほど熱かった。はっきり言ってアクションやバトルには全然期待していなかったので、これは嬉しい誤算、思わぬ収穫でした。

 元が児童文学だけあって文章が平易で、ひたすら淡々と紡がれることもあっていささか物足りなかったものの、時に怒り特に激しく泣き叫ぶ直截的な感情表現が用いられる箇所もあってキチンと起伏は付いている。古代日本めいた空気を織り込みつつ、「弱者」や「権力」といった扱い方によっては生臭くなりかねない素材を巧く捌いた印象があります。これぞ児童文学の模範――と指して良いのかどうかはよく分かりませんが、なんにしろ、普段児童文学と縁のない日々を送っている方にも推すに足る出来。1冊目ということもあり、“守り人”が持つ全部の魅力をまだ出し切ってはいない気がしますので、今後も続刊を追っていきたいところ。これ1巻で充分なんてことはなく、まだまだ面白くなれる余地を残したシリーズだと思います。それにしてもバルサ、三十路のヒロインとは渋いですねぇ……「三十」という微妙な年齢に却って興奮する当方はもう手の施しようがありませぬ。

・今月の予定。

(本)

 『灰色のダイエットコカコーラ』/佐藤友哉(講談社)
 『とらドラ・スピンオフ!』/竹宮ゆゆこ(メディアワークス)
 『人類は衰退しました』/田中ロミオ(小学館)
 『創世の契約1』/花田一三六(中央公論新社)
 『廃帝綺譚』/宇月原晴明(中央公論新社)

 ゴールデンウィークでどれだけ積読を消化できるだろう……それはさておき、佐藤友哉の『灰色のダイエットコカコーラ』。何回延期したのか覚えてませんが、そろそろ出そうな気配です。結婚したり三島賞候補になったりで順風満帆なユヤタンですが新作はどうなっていることやら。電撃は珍しく一冊だけしか購入予定なし。「スピンオフ」というだけあって今回は番外編みたいですね。本編の再開も熱烈に期待。『人類は衰退しました』は田中ロミオの小説デビュー作であり、レーベルとしての妙な濃さがごく一部でのみ話題になっているガガガ文庫創刊ラインナップの一冊。んー、あんまり情報がないので期待しようにも取っ掛かりがない状態です。面白いといいな。『創世の契約1』は花田一三六が放つ渾身の大作ファンタジーの開幕編っぽい。作者ページの記載から察するに全5冊程度になる模様だ。“戦塵外史”の復刊で地味に名前を売りつつある136、これで飛躍はなるか。『廃帝綺譚』は『後(のちの)安徳天皇漂海記』というキャッチコピーにあっさり釣られました。どっちにしても宇月原の新刊ではあるから元より買うつもりでいましたが。

(ゲーム)

 なし

 ここんところずっと「なし」ですね。けど来月あたりでそろそろ注目作が発売されるはず……発売されるといいな……。


>>back