2006年7月分


・本
 『ヤングガン・カルナバル ドッグハウス』/深見真(徳間書店)
 『閉鎖都市 巴里(上・下)』/川上稔(メディアワークス)
 『パンツァーポリス1935』/川上稔(メディアワークス)
 『告白』/町田康(中央公論新社)
 『ばいばい、アース(上・下)』/冲方丁(角川書店)
 『機甲都市 伯林(1〜5)』/川上稔(メディアワークス)
 『創雅都市 S.F』/川上稔、さとやす(メディアワークス)
 『矛盾都市 TOKYO』/川上稔、さとやす(メディアワークス)
 『RUN RUN RUN』/山下卓(徳間書店)
 『灰色の北壁』/真保裕一(講談社)
 『ららら科學の子』/矢作俊彦(文藝春秋)

・ゲーム
 『AYAKASHI H』体験版上の巻(CROSSNET)


2006-07-30.

・1000ページオーバーの超極厚文庫本『カズムシティ』を見た目で即買いした焼津です、こんばんは。やはり分厚い本の放つ官能には抗えねえ。前作『啓示空間』も1000ページを超える威容を誇っていましたが、スペオペというか宇宙モノだったんで苦手意識を感じてスルーした次第。今回はミステリ要素もある(っぽい)ハードボイルドSFだからチャレンジしてみることに。あと「英国SF協会賞受賞作」ってアオリにもなびいたことは確かです。

CROSSNET、『AYAKASHI H』体験版上の巻公開

 体験版に「上」とか「下」とか付けるのも珍しい。去年10月に発売された『AYAKASHI』の続編で、同時に『Maple Colors H』に次ぐ“Hシリーズ”の第2弾でもあります。ということは、いずれ『アヤカシパック』も発売するんだろうか。さてはて。

 前作のメインヒロインだったエイムのエンド後から1ヶ月、平穏な日常に戻っていったはずの主人公たちがふたたび波乱の日々を送ることに……なストーリー。これ一本で行くのか、それとも複数のシナリオが併録されている中でこれが主筋となるのか、詳しいことはよく分かりません。「今度の『AYAKASHI』 はエロコメだ!」とあるくらいで、なるほど確かに今回はエロとコメディの要素が多い。第一話の前半でさえ、いくつかエロに突入しているシーンがある。なにぶんエイムエンド後なのでエイムとは既に関係を持っていて、他のヒロインとも開始時点で経験があったりなかったり。ジト目で見られたり「浮気者」となじられたりで、ささやかな嫉妬も味わえます。コメディ面でも、ディフォルメによるギャグCGがここぞというときに出てきて軽快な雰囲気を醸す。前作はちょっとドタバタが弱い気もしたのでそのへんはよろしいかと。まあ、全体的に前作やってないと分かりにくいネタが多いのでファン向けですかね。

 「アヤカシ使いではないのにアヤカシに対抗する力を持っている」という謎の集団・皇霊会が出てきて、アヤカシ使いのグループと結んでいた休戦条約を破棄して一気に緊張状態に陥るのが差し当たっての興趣。新キャラも皇霊会の面々。記憶が正しければ前作ではまったく触れられたことのない組織なんで、後付っちゃ後付ですが、無理のない範囲で接着しているからさして気にならなかったです。今回のメインっぽい新ヒロイン・白髪菊理は「世間知らずの傲岸不遜な和風お嬢様」といった塩梅で、切り揃えられた前髪がエエっすねえ……かなり好み。ただ若干オバカというかマヌケ臭いところがあるのはなんとも。オバカと言えば陽愛、今回は髪を下ろした形態が基本になる様子。絵的には結ぶ奴よりこっちがグッと来ますね。

 アクションとかを含む伝奇要素もあるみたいですが、やはりエロコメの方が主体(少なくとも序盤は)で「街中なのに突然エロい目に合ってしまう」という日常と地続きな展開があったりするのは美味しかった。ただ、ぼんやりしていたら平気で人体が真っ二つになる、なにげにエグくて殺伐とした世界の前作に比べるとちょっと緊迫感が薄くてヌルい気も。「テンションが上がっていくのは2〜4話」とあるから体験版以降はどうなるか未知数ですが。んー、第一話の前半でこれってことは総プレー時間は10時間ちょっとぐらいかな。価格帯を考えればもうちょっと多いか、他にもいろいろと追加要素がある感じもします。少々月日が経ったせいで『AYAKASHI』の愛着は薄まりつつありましたが、新ヒロインに惚れたので9月の情勢次第で挑んでみるかも。


2006-07-28.

・「太平洋戦争」をミスタイプして「大変酔う戦争」と打った焼津です、こんばんは。あれか、へべれけウォーズか。「飲まなきゃ殺ってらんねぇ!」とべろんべろんになって標的が歪みまくって味方を撃ち放題の銃撃戦か。中国兵が酔拳でどんどん強くなっていくのか。ロシアがウォトカで無敵モードか。日本は激戦地の沖縄で泡盛か。と自分ツッコミ。

・なんでも今月から福岡でまんぼうシールとかいう制度が実施されているそうです。「万引き防止」を縮めて「まんぼう」と、まあネーミングの良し悪しはさておいて、新刊書店で本を買う際にこのマンボウの描かれたシールを貼ってもらわないと中古売買できないシステムをつくりあげていく、という狙いの模様。今のところ福岡だけで全国に普及する見通しはないみたいですが、なんというか、いろいろと気の長い試みですね。ぐぐってみた感じではやはり概ね不評のようです。貼り直しを防ぐためなのか粘着性まで高く剥がれにくいようで。当方は田舎宅ゆえスペースが有り余っているのをよいことに買った本を後生大事に取っておく、蔵書家というか死蔵家ですから、万が一このシールが普及するようならオンライン書店のみの利用となってしまいそう。

・矢作俊彦の『ららら科學の子』読了。

「ウビ ペデース、イビ パトリア」口から言葉が転がり出た。
「何ですか、それ?」と、傑が尋ねた。
「立っているここが祖国だって、そういう意味だよ」

 高校生の頃から気になっていたのに、今の今まで読む機会がなかった矢作俊彦――特にきっかけらしいきっかけもなく、ふと「読んでみようかな」と思って手に取った本書は第17回三島由紀夫賞受賞作です。強いて書けばそれがきっかけだろうかな。ミーハーなので賞モノにはとことん弱い。タイトルはもちろん『鉄腕アトム』の歌ですが、別にアトムやロボットが主題となっているわけではありません。主人公がアトム世代であることと、彼がふたたび訪れた東京の街がある意味で手塚治虫的な未来都市になっていたことを指しています。「50歳の少年」というキャッチコピーが強烈だ。

 1960年代、全共闘真っ盛りの時代に「警官殺人未遂」の罪で指名手配され、中国へ密出国を果たした男がいた。それから30年。文革の余波を受け奥地の山村で農民として働いていた彼は、蛇頭と接触し日本に渡ってきた。「十年ひと昔」、その言葉の三倍に当たる年月の重みが体を浚っていく。見覚えのあるものが消え失せ、見知らぬものが建ち並び、自然と口をついて出てくる言葉はとっくに死語となっていて、代わりに意味の分からない言葉や概念が常識ヅラをして使われている。実家とは連絡が取れず、仕方なく学生闘争でともに戦った友人の世話になって日本での生活を再開する。驚きが過ぎ去るのに合わせて徐々に意識が現代へと馴染んでいくが、それでもまだ自分が何かの客人であるような感覚は抜け切らない。やがて肉親の中で今も生きているのは歳の離れた妹だけと知り、ふらふら街を彷徨う傍らで彼女の行方を追おうとするが……。

 真っ先に思いつく言葉は「浦島太郎」。テレビが一台しかなく、新聞も週遅れで入ってくる村に30年もいた主人公はすっかり時代の流れから取り残されていて「浮く」こと甚だしい。その様子が滑稽でありながら、全体的に切なさを喚起させる調子で淡々と描かれています。主人公の名前を出さず、「彼」だけで押し通しているスタイルはいかにもハードボイルドチック。しかし、展開に関して言えば「ふらふら街を彷徨う」が大部分を占めており、ほとんどストーリーはなきに等しい。日本に来てすぐに知り合った女子高生とか、全共闘時代の思い出とか、莫賓という村で過ごした日々の回想とか、唯一の肉親である妹の行方とか、蛇頭とのトラブルとか、話を盛り上げる要素はいくつかあるものの、「マフィアに囚われた少女を救い出すため単身敵地に乗り込む」みたいな分かりやすい活劇を用意していたりはしない。事件らしい事件もなく時間が流れていって、一つ一つ、少しずつ主人公の気がかりが解消される――基本的にのんびりとした内容です。

 30年前日本を出る前に建設中だった建物が、帰ってきた頃には完成しているどころか既に老朽化して打ち捨てられ、「過程を知ることもなく終わっている」様を目撃してショックを受けるといった部分をはじめ、主人公が経た体験自体は特殊ながら、それをしつこくない程度の味付けで肌身に悟らせる生々しさが全編に染み渡っています。30年の断絶を解して接する「東京」ひいては「日本」の齟齬に、怒りの矛先を向けることもなく呑み込む主人公の姿は「登場に遅れすぎて、最早やるべきことがないヒーロー」を思わせる。切ない。けれど、主人公は変化ばかりに目を留めるわけではなくて、逆に「変わらないもの」も見逃さない。あまりの変わらなさに呆れたりもする。その呆れは19歳当時と変わっていないつもりでいた自分自身にも向けられる。己の時計の針を止めたまま漠然と時間を過ごしてきた彼が、変化する時代への驚きと変わらないものへの呆れを基底に「歳を取った」と実感し、玉手箱の助けを借りずに「老い」を得ることで、「自分の目的は何か」を自然と見出す。浦島太郎もただ打ちのめされるばかりではない、というちょっぴり希望の篭もった視点が心地良かった。

 友人の助けがやたら手厚かったり、女性キャラがすんなりなびいてきたり、妹が四十近くになっても兄のことを引きずっていたりと、少々都合が良いというか「おい、それはキモウトじゃないか」って部分もありましたが、事件らしい事件を抜きにしてただ「東京漂流」という大筋で読ませるだけの筆力は充分に感じられた次第。未来は無条件にただただきれいになっていくものだと思い込んでいた、と述懐する主人公はしかし、依然としてごみごみしている世界を別段嘆くでもない。周りが変化しようと、己が歳を取ろうと、「ただ自分がいる」という孤高だけは手放さない。人生を暮らすのでもなく、人生を過ごすのでもなく、人生を行く――という感覚はこういうものだろうか。終盤、主人公が「ロボットと人間のあいだで引き裂かれ続けた鋼鉄の自我」アトムと重なってくるにつれ、「50歳の少年」って言葉に胸が熱くなってしまう。「ちいさなおともだち」どころか「おおきなおともだち」という表現でも追いつかない、歳を食いすぎた男の子が繰り広げる夢と希望のファンタジー。文体はハードボイルドだけど、文脈はあくまでファンタジーだと思います。

・拍手レス。

 暁です。復活しました。またよろしくお願いします。 http://kt0hya.gozaru.jp/
 リンクページ変更しておきました。またリクエストしてしまいましたが、調子に乗ってすみません。こちらからも、今後ともよろしくお願いします。


2006-07-25.

『少女ファイト』おもすれー。日本橋ヨヲコ久々の新刊ながらまったく衰えも何も窺わせない仕上がりで素直に熱中した焼津です、こんばんは。題材はバレーボール。一種のスポ根ですが、よくある猛特訓とか、バレー薀蓄とか、そのへんはあまりメインじゃなくて、あくまで群像劇が主体になっています。早い段階でドドドッとまとめて登場するからゆっくり読まないとキャラの見分けがつかなくなります。キャラの見分けをつけずに筋だけ追ってしまっては魅力半減かと。毎回青臭い作風が特徴の作者だけに今回も独特の青さを感じさせますが、以前の作品と比べるとマイルドでかなり熟成してきた手触りがあります。攻撃的な印象が薄まって、どっしり構えたスタイルの磐石さが濃厚になっていると言いますか。それでいて熱と迫力に満ちたネームは相変わらず。作画方面はあんまり詳しくないんでよく分からないんですが、パースとかもなんだか読んでいてスッと滑らかに入っていける調子になっていて気持ちよかった。この出来だと従来のファンのみならず日本橋ヨヲコ未体験読者にも自信を持って推せますね。また続きの楽しみなマンガが増えました。

2chライトノベル大賞 2006上半期、結果発表

 うわ、すげえ。今年は某シリーズに注目が集まりましたが、期間内に2冊出ているので「票が割れるのでは」と心配されたところ、なんと割れつつもワンツーフィニッシュの結果に。読んでないものでは同率三位の上の方がほぼノーチェックだったので早速買いに行こうかと。

・真保裕一の『灰色の北壁』読了。

 彼がこの巨大極まりない壁に取りついて、もう丸三日がすぎた。世界の名だたるクライマーが裾野から見上げるたびに、未知なる冒険心を抱かずにはいられない山。いくら登れども、覚めない悪夢のように凍てつく壁が天の極みをめざして延々と続く。ここは、愚かな人間どもの足跡を最後まで残させまいと神が抵抗を続ける場所なのだ。

 表題作含む3編を収録。タイトルからてっきり登山を扱った小説なのかと思い込んでいた『クライマーズ・ハイ』が日航機墜落事故を焦点に据えた報道小説で、面白いことは面白かったんですけど、山方面への期待が逸らされて少し鬱憤が溜まってしまっていました。それを解消すべく手に取った本書は紛うことなく山岳小説。新田次郎文学賞まで受賞している。真保裕一の山岳モノというと映画化された『ホワイトアウト』が有名ですが、未読です。あっちは冒険小説の様相が濃いらしいものの、こっちはそういう部分が希薄。だからと言って終始淡々として盛り上がりがないなんてこともなく、変わったアプローチで物語を面白く読ませてくれる。

 最初に収録された「黒部の羆」は遭難者救助にスポットを当てた話。遭難現場に急行する男も昔遭難した経験があったり、遭難した二人の若者の間で確執が繰り広げられたりと、そのままマンガに出来そうな明瞭なドラマ性が豊富でさくさく進む。3編中一番読みやすい印象を受けた。そのまま終われば単なる山岳救助モノですけれど、ちょっとした捻りもあって飽きさせません。あとタイトルの「黒部の羆」はひげもじゃな男の二つ名なんで本当に熊が出てきたりはしない。続く表題作「灰色の北壁」は作中作が挿入される仕組みとなっている作品。ヒマラヤの、「ホワイト・タワー」と呼ばれ畏怖されるカスール・ベーラ北壁がストーリーの焦点。あるクライマーの偉業とその疑惑について書いたノンフィクション「灰色の北壁」――作者である「わたし」は疑惑の真相を追及するが……。本編に対して導入部や作中作の文章は少し仰々しい雰囲気で、それがアクセントになって程良い緊張感を味わうことができました。「ここは山ではありえなかった」とか、話を全否定するかのような表現も飛び出しますが、ホワイト・タワーについての会話で

「それほどすごい壁ですか」
「ええ。タワーなんて、あの壁を見たことのない者が名づけたとしか思えません。わたしには、この世界の端をさえぎる壁に思えましたね」

 と、遠景における「山」と近景における「山」との、断絶に等しい違いを端的に指摘してそのスケールを想像させるなど、作者の手腕は冴え渡っている。当方みたいな素人にも分かるようノンフィクション形式で丁寧に情報を提示してくれる構成もありがたい。つくづく、クライマーのバイタリティが異常なまでの太さを有していると痛感させられます。高所恐怖症のある身としては八千メートルどころか八十メートルの断崖を思い浮かべるだけで眩暈が。実際に上り下りするとなれば八メートルでもきついでしょうし、桁違いのゾーンを垣間見せてくれるだけでも充分に興味深い。「疑惑」を巡る展開にも仕掛けが施されていて、そのトリックが判明することでむしろドラマとしての幅が広がるあたりは絶妙です。ミステリとして巧いというより、ミステリ要素を活用して物語の風味を引き締めるのが巧いなぁ。

 最後を飾る「雪の慰霊碑」も悪くありませんが、さすがに三作目ともなるとパターンが読めてくるし、捻りも少ないので話の流れが察知できてしまう。その点で他二編とは異なって新鮮に楽しむことができず、残念でした。収録順は逆にした方が良かったのでは。ともあれ、平均80ページとやや短めの作品集でありながら、登山要素を満足行くまで賞味できる一冊ではありました。『ホワイトアウト』もいい加減読み頃だろう、と気づいてきたので予定に組み込むつもりです。


2006-07-22.

・ドッと気になるソフトの情報が一気に表に出てきてチェックに勤しまねばならぬ焼津です、こんばんは。

Littlewitchの新作『ロンド・リーフレット』

 大槍葦人と北側寒囲の組み合わせってのはかなり予想外なんですが、パッと見た感じでは案外大丈夫そう。要注目リストに登録っと。

PILの新作『仏蘭西少女』

 「手掛けたゲームの出来がみんなアレ」という伝説で有名なTonyと、名前でよく丸戸史明と混同される丸谷秀人の組み合わせ、これも結構意表を突かれた。Tony伝説はともかく、「頽廃と幻想の究極愛」というテーマがどうも心配。とりあえずは注目作ってことに。

Lump of Sugarの新作『いつか、届く、あの空に。』

 出ることは随分前から囁かれていましたが、ようやく情報公開となった朱門優シナリオの新作。メインで書くのはこれが3作目ですけれど密かにファンの付いてるライターです。「ノベル式天体観測シネマ」といういまいちピンと来ないジャンル名なれど、ここはひとつ彼を信じて注目。

・山下卓の『RUN RUN RUN』読了。

 本当は若い子なんて死ねばいいと思っている。

「新潟アアアア!」

「天使の羽根なんてぜんぶもげちゃええええ―――!」

 ノベライズで作家デビューを果たし、オリジナル小説の『BLOODLINK』で一部に強固な支持層を築きながら、みるみる発刊ペースで下がって発売予定のリストに名前が上がっても気づけばいつの間にか逃げてしまう「なんで新作すぐ延期してしまうん?」系の作家に仲間入りして久しい著者の最新長編。初のハードカバー作品であり、ジャンルとしてはロードムービーノベル。「夜中に新宿で出会った3人の女たちが冬の新潟へ温泉旅行に赴く」という、たったそれだけのストーリーです。「それだけのストーリー」をきっちり一冊読ませるだけの面白さは、もちろんあります。文章は平易ですが、状況にしっくりと馴染む表現を持ってくるセンスは卓越しているし、さらりと印象的な言葉を打ち出す巧さもある。上に引用した三つ、これだけストレートに作中人物の心理を晒し出しておいて嫌味のない雰囲気に留める腕は並ならぬ。特に「新潟アアアア!」は旅の目的地に辿り着いた感動を一瞬で鮮明に切り抜いていて呆然とさせられました。

 17歳の女子高生、24歳のキャバ嬢、30間近の編集者。それぞれ年齢も立場もバラバラな女性たちが、一緒に車に乗って旅館のある新潟へ向かっていく車中で徐々に打ち解け、意気投合していく。その過程でポロリポロリと各々の抱える事情を漏らしてはしんみりとする、至って王道的なロードムービーです。泊まった先の温泉宿で湯煙殺人事件が起き、美人三姉妹が名推理で犯人を崖の端まで追い詰めるとかいったイベントもない。しかしだからといって「普通の話」というのも抵抗があります。初対面の三人がいきなり温泉に向かって旅行して仲良くなる話が「普通」と言えるもんかと。普通じゃない。普通じゃないんだけど、なんだか普通以上に自然で穏やかでホッとする、ちょっとひねくれた楽しさが詰まっています。溜息が溶けていくような柔らかい感じに包まれている。

 旅行と言っても要するにやっていることはエクソダスで、現実逃避っぽいムードもある。仕事も学校もほっぽり出して新潟散策に耽る彼女らは有体に言ってダメ人間だ。そのダメっぽさに関しては自覚的な書き方がされており、「こんなことでなにかを成し遂げた気になんかなってはいけないんだ。なんにもできない。手も足も出ない。今はこのどん詰まりの世界の果てで、ひとまずそれを受け入れよう」と戒める向きもあります。それが湿っぽかったり悲観の色合いを帯びていたりしないのは、「ひとまず」と言い置いているからだし、次の文章として「すべてはそこからだ」と前方へ推進する意志が示されているからです。途中、重いエピソードもありますが、決して明るさが失われることはありません。底抜けではなく、ちゃんと底のある明るさ。ダメ人間の持ちえる楽観となけなしのタフネスがブレンドされていい塩梅となっています。

 元より「文章がうまい」と評価される著者だけあって、ハードカバーでも場違い感のないきっちりとした仕上がり。桜庭一樹とか橋本紡とかのハードカバー作品と並べても充分フィットするでしょう。作品世界に引き込む力と物語を引っ張っていく力は見事なので、「ロードムービー」という言葉に心惹かれる人はもちろん、ピンと来ない人にも等分にオススメしたい。

・拍手レス。

 ばいアス文庫。待ちも待ったり五年間。夢いまだ届かず。by sf
 いや新書版持ってるんですがっ。それでも読みたい文庫版。by sf

 読んだ直後のせいか、むしろ待つのが楽しみな心境の今現在。そういや来月は小説版『シュバリエ』の単行本が出るらしいです。

 丸谷秀人の新作情報がっ!…女郎蜘蛛寄りか…
 登場人物も少ないみたいだし、ちょっと様子見がちに注目しようかと。

 都市シリーズもいよいよ残り僅かですね。そこでゲーム版OSAKAを薦めてみんとす。
 確か文庫17冊分ですっけ。メチャクチャ長そうなのでやり切れるものだか不安だったり。


2006-07-20.

『創雅都市 S.F』『矛盾都市 TOKYO』を立て続けに読了。

 両方ともA5サイズのイラストノベルですが、路線や雰囲気はかなり違いますね。描くことで存在する街・S.F(サンフランシスコ)の方は主人公サラが手掛ける市役所の仕事とオフな日常をのんびり且つ痛快に綴った一冊で、イラストの比率も高く、どっちかと言えばコミックの感覚に近い。大規模なバトルもあるんですが戦闘シーンはバッサリ端折られているからシリアスを期待すると肩透かしかも。しかし、香港や巴里、倫敦、伯林といった他都市との関連がチラッと触れられているのは都市シリーズにハマってきた身としては嬉しいです。特に巴里、倫敦、伯林は描かれた時代が「現代」からやや離れているため、ミッシングリンクが埋まったような趣もあり。あと単純にギャグ絵が面白かった。テキトー極まりなさを剥き出しにした、作者本人による巻末都市解説にも爆笑。あれは必見。

 一方TOKYOはイラストより小説部分の比率が高い。上下二段なので結構しっかりした分量があるかと。自販機なんかが擬人化されてるのは終わクロの3rd-Gあたりと同じノリにしても、「夜風」だの「夏の暑さ」だの「暇な時間」だのといった抽象的な「もの」や「こと」にさえキャラクター性が付与される、矛盾しまくりというか「なんでもあり」な街・東京を舞台にして繰り広げられるエピソード群は完璧に時系列がバラバラで、話題が行ったり来たりと右往左往します。最初のうちは都市の性質もあって「わけわかんねー」と混乱しますが、30ページも読めば慣れます。要は日付を念頭に入れて読めばよいだけです。体育祭とか文化祭とか、一つの話題にまつわるエピソードをあえて固めずに散らしているのは、もどかしいようでいてなかなか心地よい取り留めなさが味わえる。エピソードも基本的にバカ騒ぎが多くて楽しい。これまでの都市シリーズでは一番終わクロにノリが近いんじゃないかな。内容的にもOSAKAの直後でチラホラと関連する箇所もあり。都市シリーズらしい個性の強さが見事に旨味として抽出された一冊。読んでてある作品を思い出しましたが、ネタバレになるので言えず切歯扼腕。

 好みとしても、また「熱烈にオススメしたい度」としてもTOKYOに軍配が上がりますが、さとやすの絵がたらふく堪能できるS.Fも、ややこしく考える必要がなくて息抜き的には最高。まあ、「ファンなら両方買えばいいじゃない」という微マリーアントワネット偽妃っぽい発言で締め括りたいと思います。次は現時点で最新の都市、DT(デトロイト)へ。

・最終巻も出たことだし、溜まっていた『デスノート』をまとめ読み。第二部に入ってから魅力が減じたという意見はよく見聞きしますが、緩やかに同意。やはり後半はまとめて読んでもあまり熱中できなかった。頭脳戦がどうこうというより、「デスノート」を通じて人間と死神が共犯者になる――月とリュークの緊密な関係が根底にあってこそ面白かった気がします。リュークの存在が背景化したあたりからテンションが下がってしまったのでは。

 それにしても少年マンガとは思えぬ醜い展開を晒す最終巻、回想シーンが切ないですね。側面的に見ればデスノは人間と死神のラブストーリーだったのかも。と超テキトーな感想を書いてみる。いえ、「月×リューク」とかそういうことが言いたいわけではありません。断じてあしからず。


2006-07-18.

・ここ最近物凄い雨が続き、気の滅入ることしきりな焼津です、こんばんは。なんか道路がほとんど川のようになってる瞬間がありましたよ。

『機甲都市 伯林』全5巻、遂に読み切りました。『パンツァーポリス1935』の後継的作品であり、同時に都市シリーズの総決算じみた内容でもあり、それまでの作品に比べてボリュームが大幅に増量されています。全体で約1800ページ。『終わりのクロニクル』だと1(上)から2(下)までに相当するわけで、今だとあんまりインパクトを受けませんが、分量の割に作中での時間経過が短かった終わクロに対しこっちは1937年から1943年まで6年間を通じて進むストーリーになっており、スパンの長さが味わえる仕様になっている。主人公カップルであるヘイゼルとベルガーも、頻繁に全裸での接近遭遇を経験するくせに寸止めを繰り出したりして読者をやきもきさせる。もどかしい連中だなもう君らは。

 1巻冒頭イラストで『パンツァーポリス1935』に登場した3人の後ろ姿が描かれたりして少し前に再読した身としては感激でしたが、本編においては彼らの出番一切なし。名前はちょこちょこ出てきますし、ヒロインのヘイゼル・ミリルドルフ自体が1935で敵役だったオスカーの娘だから繋がりはそこそこあります。1935にチラッと「中学に上がった娘のお祝いに」云々といった件がありましたけど、まさかあれがロングパスになるとは。総量が多いせいもあってか文章はゆったりとやや冗長で、まとめて読もうとすると疲れます。説明的なセリフもやたらと目立つ。丁寧と言えば丁寧ですが、さすがにちょっとくどい気もしました。それでもやはり「総決算」の三文字に値する要素がギュッと詰まっていて、戦闘機バトルあり重騎バトルあり言実詞を通しての意志バトルあり、おまけに神器を使ったバトルもほんのちょびっとあり、単独で読んでも楽しめる構造ながら都市シリーズを通しで読んできているといっそう嬉しくなります。水蒸気好きなところとかも相変わらず。口絵ページのお遊びや、扉の使い方、作中作(伝承を絵本化したもの)の収録など、細かい部分にも凝っている。3巻の41ページとか、4巻の反独昂揚新聞に載った小説とか、かなり爆笑。

 続き物でありながら1話完結を意識したストーリー展開になっていますんで、無理して一気に読破しようとせずとも1冊1冊個別に読んでいって充分に堪能できます。ヘイゼルとベルガーの関係がちょっとずつ進展していくのを見守りつつ、多彩なキャラクターが織り成す物語に浸っていけば実にええ湯加減。ボリューム・イズ・パワーです。主人公の成長が読み取れるという点で都市シリーズ最強の王道作品かと。ただまあ、身体的な方面の成長が容易に窺えるのに比してへーぜるさんのうっかりしたところはまんまというか、時に昔よりひどくなっている場面があるようにも思えて仕方ない。エロ犬(ベルガー)への対応がどんどん強気になっていく点では微笑ましいが。男ツンデレってのもたまにはいいものだ。

 しかし終わクロを先に読んだせいか、ふたりの遣り取りにヒオ&原川がダブることしきり。まさかへーぜるさんが先代無自覚エロスマスターだったとは。あのオスカーの娘なのに。(*´Д`)ハァハァ(←オッサンの顔を思い出すことで却って興奮する末期ギャップ萌え病)

 個人的には3巻から4巻にかけての盛り上がりが最高潮でした、といったところで次の都市に移行。えーと、『電詞都市 DT』……は8th cityなのか。巴里が5th(ちなみに伯林は1935があるので1st)だったから、間に6thと7thが来るはずですね。ということは『創雅都市 S.F』『矛盾都市 TOKYO』(この2つは一般書店に流通しておらず当初は“電撃hp”にて通販されておりましたが、現在入手するにはぱちぱち屋で注文というのが手っ取り早い)を先に着手すべきですか。冊子系の限定商品に弱い(『腐り姫読本』で飲まされた煮え湯も懐かしい)当方は既にゲット済みなのでサクサクと読んで参ります。

Lump of Sugarで朱門優シナリオの新作が情報公開されるのもそろそろ、って兆しが見えてきてワクワクしております。あと移植版『あやかしびと』の予約を入れるのもそろそろって頃合でしょうかな。未だ初回版にするか通常版にするか迷っていたり。価格差がある場合はつい安い方を買ってしまうのが常なんですがさてはて。


2006-07-16.

・更新遭遇頻度がはぐれメタルスライム並みのサイトへ久しぶりにアクセスして、たまたま更新された直後だったりすると何かいいことありそうな予感に打ち震える焼津です、こんばんは。当方がブクマしてるサイトは一ヶ月に一度とか、一年に一回くらいだけ奇跡の如く更新されるところがあるので一層。

・冲方丁の『ばいばい、アース(上・下)』読了。

  <剣の国(シュベルトラント)> こそは、 <剣(シュベルト)> と <花(シュベルテル)> の咲きみだれる国(シュベルトストライヒ)――
 剣楽とは、剣士たちがその剣撃(シュベルトストライヒ)をもって世界に己の存在を問い、世界を穿孔する行為(デュルヒ・ブレッヒェン)をいう。自分がそこに存在する証しを立てることで、世界はその存在の影に穿たれる。それこそ真に花が咲くということ(デュルヒ・ブレッヒェン)であり、それがこの国の神を第一に楽しませるのだ。

 とまあ、こんな調子でルビが連打され、言葉遊びに満ちたストーリーがハードカバー1000ページに渡って綴られる大作です。基本的に2段組(部分的に1段組あり)なので超テキトーに計算すれば原稿用紙3000枚にものぼるでしょうか。およそ新人が受賞後第一作として出す本の分量ではありません。当時の角川も無茶をしたものだ。斯様に「出版されたことが脅威」な作品でありますが、発刊後の注目度は恐ろしく低く、ほぼ黙殺されました。当方自身、これの存在を知ったのは発売から1年以上も経ってからです。訳が分からんくらいに壮麗な天野喜孝のカバーイラストもあって、上下並んだときの迫力は並々ならぬものがあった。が、垢抜けないタイトルにいまひとつ関心を覚えず、しばらくはスルーしていた次第。いざ読み出してみると、上記の引用の如く取っ付きにくい文体で辟易させられましたが、慣れてくるとこれがなかなか面白いファンタジーであることに気づいて熱中。貪るようにして上巻を読み終えましたが、諸々の事情もあって下巻は読み切れず途中放棄してしまった。面白いんですけれど、あまりに粗削りで若々しい情念に溢れていて、結構疲れる作品ではありますね。再チャレンジとなる今回もうっかり挫折しそうになる局面がいくつかありました。良くも悪くも、化け物じみた本。

 一応は「剣と魔法のファンタジー」という体裁を取っていて、尋常ならざる大剣を背負った少女がそいつを豪快に振り回して向かい来る剣士たちをバッタバッタと薙ぎ倒す痛快な展開が目白押し。舞台となる世界にしても、「花」という概念が単なる植物の域を越えて動物や鉱物の範疇をも飲み込んだものになっていて、「水媒花(サカナ)」「風媒花(トリ)」「ユリ科の大剣」「剣を育てる」「剣苗」なんて語句が飛び交うようなところになっています。キャラクターも猫とか牛とか兎とかの、いわゆる亜人系ばかりで、「何の特徴もないただの人間」は主人公ただ一人。それゆえ、ときたまどの種族にも属していないという孤独感に襲われる。アイデンティティに悩むのが亜人ではなく人間という、通常のファンタジーの逆を狙った設定も加えて、独特の雰囲気に包まれた世界をどうにか成立させようとする熱意がビンビン伝わってきます。「世界の謎」みたいな部分は「空に浮かぶ聖星(アース)」とかの件から容易に推測されるし、意外性を仕組むものではないんですが、細かく見ていけば見ていくほど「あ、コレはアレで、コッチはアッチに繋がっているんだな」と気づかされる丹念な作り込みがある。王道ファンタジーの面白さの中に少し王道から外れた風味を熱心に織り込んだ、創作料理的な一品に仕上がっています。

 執拗に付記されるルビもさることながら、文章はなんでもかんでも説明してしまおうとする気迫に満ちていて、つまりちょっとくどい。まじめに読んでいるとダレそうになる場面も多々あって、これがために当方は一度挫折したし、その後もたびたび挫けかけました。「くどさ」が一種の味わいとなっている描写もあるにはありますけど、特に後半に差し掛かってからは読者置いてけ堀なんじゃないかという作品本位・作者本位のスタイルを徹底するようになり、付いていくのがやっと。ひと通り読み終わってみると「面白かった」と思えるシーンはほとんど上巻に集中していて、下巻には印象に残っている箇所がさしてありません。なんか少し前に見に行った『ウルトラヴァイオレット』って映画みたいだ。

 既に5年半が経過しているせいもあってか、そこここの会話文に古びたテイストを感じますね。しかしながら、あくまでキャラの魅力は骨太で、読んでいて飽きさせないものがあります。個人的に気に入ったのがアドニス。懐疑者(クエスティオン)の名を持つ彼は世界や神に対して根深い懐疑を抱いており、ある意味で主人公のベルよりも主人公らしい造型。剣士の死体から剣を拾い集め、剣士の遺族たちに恨まれ憎まれてもどこ吹く風、「剣盗人」の悪名が定着している彼は実践においてその行為が伊達や酔狂として発するものではなく、必要不可欠なものとして行うことであると苛烈に証明する。刻印(スペル)が重要な意味を成す世界において、彼固有の刻印が単語ではなく記号の「?」であることが示される件も興味深かった。上巻のラストでは懐疑を乗り越えて更なる力を手に入れるために過酷な修行を積む展開まであって、おいおい、こいつ本当に主人公なんじゃねぇかと思わされることしきり。ダーク方面に覚醒する、アナキン的なヒーローと言えましょうか。ぶっちゃけ、パワーアップ後のアドニスよりも懐疑に惑いながら無数の剣を犠牲にして戦っていたアドニスの方が好きですけれども。

 シーンとして好きなのは上巻ラストのベルとベネディクティンの遣り取り。二度と現れないんじゃないか、と思われていたベネディクティンとの再会、はじめは「嫌な奴」と悪印象を持っていて、その印象が基本的に覆されぬまま馴染み合っていく過程など、『ばいばい、アース』に留まらず冲方作品の中でも屈指の名シーンであると勝手に思い込んでいます。結論としては「面白いのは上巻だけど、上巻の面白さを余すところなく堪能するためにも敢えて下巻まで読むべきである」って感じ。丸ごとオススメ、とはいきませんが、破壊力のあるファンタジーをお求めなら是非推したい。きっと今の冲方にはこういう粗削りで熱くて当たって砕けろな作品は書かないだろうなぁ。と実感しつつも、改稿バージョンが出ないかと期待中。一時持ち上がった「文庫化する」とかいう話は今どうなってるんでしょうねぇ……。


2006-07-14.

・クライマックスに差し掛かった『ばいばい、アース』を優先させるべきか、それとも地上波初登場の『リベリオン』を正座して視聴するべきか。大いに迷った末、『ばいばい、アース』を読みながらチラチラと『リベリオン』を見る、なんの斬新さもなくただ忙しないだけの解決策を採った焼津です、こんばんは。吹き替えで見るのは初めてだから違和感というか、日本語を聞きつつも記憶から英語が甦ってきて二重音声状態に。気のせいか吹き替えだと微妙に笑いどころが強調されてコメディっぽさが増してるような。一片の憐れみをも催すことない最後の命乞いも失笑感大。それにしてもやはりガン=カタの無駄にこだわった動きは痴れ者ライクでかっちょいい。バイクを蹴って跳躍するシーンは何度見ても着地の姿勢に疑問が湧きますが……。次回作はガン=カタの創始にまつわる話とか体系化されるまでの流れを追うタイプのB級アクションを期待いたしたく。

第135回直木賞受賞者決定

 同時受賞。しかしどちらも読んでない作品でした……うーむ。書くことがないんでメッタ斬りへのリンクを張っておきます。

USB接続ミサイルランチャー

 今やおもちゃをパソコンで制御する時代なのか。

・拍手レス。

 伯林3巻て言うと、ああ、寸止め犬。そしてさよならペッタンへーぜるさん。
 気のせいか、へーぜるさんは体や心の成長に比例してうっかりぶりまで割増になってるような。

 化学を専攻している私ですが、エーテルっていうと月上物質とか第五原質とかいう奴が必ずいます。
 そういう奴は、大概組成式とか構造式とか忘れているのです。てゆーか私のことですが。

 エタノールの構造式すら覚えてない人間がここに。


2006-07-12.

・懐疑者(クエスティオン)アドニスがたまらんくらいにカッコいい『ばいばい、アース』をゆるゆると味わって読んでいる焼津です、こんばんは。上巻だけは数年前に一度目を通していたんですが、今更になっていきなり下巻から読み出しても訳が分からないのでもっぺん最初から読み直しています。いくつか覚えのあるシーンもありましたけど、ほとんどは記憶に残ってなくて素直に楽しめた。再読して一番気に入ったキャラのアドニスも、実は名前どころかどんな奴だったかさえさっぱり忘れていました。「俺の娘に手を出すのは百年早え!」ってぶん殴られるシーンは覚えていた――というか、そこしか覚えてませんでしたよ。死者の剣を拾って我が物とし、集めに集めてその総数約300本を数えるという「剣盗人」アドニス。無数の剣がなければ成立しない彼の凄絶極まる剣技には息を呑む。

 先日『パンツァーポリス1935』を未読作品と同じくらいの感覚で堪能できたことも含めて考えると、新作を漁るまでもなくこれまで読み溜めてきた旧作を再読するだけで充分すぎるほど楽しめるのではないか、と思ったりもします。積読が山ほどあるせいで既読作品の読み直しとか、基本的にあまりしないんですよね……少数の気に入った本を何度も読み返して隅々まで味わい尽くすのと、あらゆる本を一期一会的に読み流してひたすら数を稼ぐのと、いったいどっちがいいのか。迷うところではありますが、当方としてはやはり後者の立場に重きを置きたい気分。面白い作品を読み返して得られる安定した愉悦感よりも、面白いかどうかもはっきりしない作品を試みに読んで得られる不安定な新鮮味の方がワクワクするような、そんなタチなので。しばらくはがむしゃらに未読の山へ挑みかかっておこうかと。

 一方の『機甲都市 伯林』は現在3巻へ到達。そろそろ折り返しとなるわけですが、それにしてもこれといい『ばいばい、アース』といい全編のルビがドイツ語まみれで、読んでるうちに奇妙なシンクロシニティの感覚に襲われることしきり。なんか気をつけて掛からないと混ざってしまいそう。作風は違うけれど暑苦しいまでの情念が篭もってる点では一緒だから、頭ん中で冲方の世界観と川上の世界観が押し合いへし合いしてますわ。

新海誠の新作『秒速5センチメートル』

 サイトとかチェックするのすっかり忘れていたけれど、辛うじてアンテナに引っ掛かりました。連作短編とのことですが、3話とも同一主人公を軸としたストーリーみたいなので、感覚的には3部構成の映画に近いのかも。とりあえず予告編を見てみましたが相変わらずというか、以前よりもいっそう磨きの掛かったビジョンに惚れ惚れ。タイトルの「秒速5センチメートル」が何を意味するか判明する件が特に心憎い。感想は「本編見てぇ!」の一言に尽きますね。ただまあ、印象として受ける話の雰囲気とか手触りがこれまでと一緒なのは少し新鮮味に欠けるかもしれない。どうあれ楽しみであることに変わりなし。

・拍手レス。

 エアリアルまでで挫折してるワタシには、あの文体を読めるってだけで尊敬です。目と胃が痛く…
 正直エアリアルはキツかった……終わクロ読まなかったら都市シリーズはあそこで断念してたかも。

 流体=全ての元 遺伝詞=流体を方向付けるもの と言う認識でおっけーかと
 OK、把握しました。

 ちょwwwwキモ姉wwww
 いやあ、ホント、キモ姉って面白いですね。

 あれ?なんだか円卓へようこその絵が浮かんでしまいますよ?「敗残兵」サイコー!
 敗れ、しかし残る兵(つわもの)。英雄とはまた違ったロマンが。


2006-07-10.

・人に借りた『もやしもん』が予想以上に面白く、明日は本屋で全巻揃えて購入しようと心に決めた焼津です、こんばんは。「菌類が肉眼で見える」という特異な設定もさることながら、農学部を舞台にした青春モノとしても上出来。ちょっと泥臭いムードと見事な描画がマッチしてイイ感じに作品世界を作り込んでいます。菌がどうこうという以前に、単純にストーリーテリングがうまいかと。にしてもこの借りてきた本、全体に異様なくらい甘ったるいブルーベリー臭が立ち込めているのはなんでだろう……ヤニ臭いとかならまだ分かるんですが。

・propellerスレでFlyingShineNewsのURLを見かけ、荒川工の日記をメイン目的として読み漁り。『CROSS†CHANNEL』の話題とかがあって懐かしいなー。そして荒川日記の面白いこと面白いこと。「2003/04/22」のトピック「敬語美幼女」は最近ロリへの関心が薄まってきた当方にも(*´Д`)ハァハァ。しかし、エイプリールフールネタのやまじゅん語連打。リアルタイムで読んだ記憶はありましたが、あれ書いたのゆゆぽ(竹宮ゆゆこ)だったのか……。

・町田康の『告白』読了。

 以前読んだ『パンク侍、斬られて候』で腹が痛くなるほど爆笑し、「他の町田作品を是非とも読みたい」と願ったものの、パンク侍が「著者初の長編時代小説」と謳われているところを見ると同系統の過去作はないだろうと踏み、新作で良げなのが出るまで待ち姿勢を取ることにしました。するとこの『告白』はやたら評判が良かったし、パラパラとめくったところパンク侍と同じく時代小説(とはいえ江戸時代ではなく明治時代)だったので、おほほん、そなの、やっと同系統の長編が出たんやね、と嬉しくなりながら本格着手した次第。

 明治26年に発生した「河内十人斬り」をモチーフに、城戸熊太郎という村で爪弾きにされている極道もんの内面描写をしつこく丹念に行って、彼が感じる意識の流れをいささか揶揄気味に綴っていく。しつこいと書いたが、本当にしつこい。ねっちりねっとりねばねばと、執拗に説明を重ねてくる。河内弁をふんだんに盛り込んだ口語体の文章は頻出する擬音表現と相俟って非常にユニークというかナンセンスな雰囲気を醸し出しますが、恐ろしくテンポが良くてスラスラ読めた。時代小説とは思えない語彙や言い回しもポンポン飛び出し、それが違和感をもたらすのではなく絶妙な滑稽味として働くあたりは一種の極まった芸でしょう。クスッ、ではなくゲラゲラと笑わされました。

 周りから賢い、賢いとチヤホヤされて育った子供がある日挫折を経験して「自分って本当はそんなに賢くないんじゃね?」と疑惑を得た地点から思考の下り坂を転げ落ち、もはや途中で「まともな人間として生きよう」と改心しようとしても歯止めが利かないほど勢いがついてしまって穀潰し以外の何者でもない人生を墜落していく様がおかしくも悲し。思弁的な心理をうまく言語化できなくてずぶずぶ内向の泥沼に陥っていく熊太郎――藁にも縋る思いで「他人とのコミュニケーションを成立させよう!」と編み出す解決策は理屈っぽいというか屁理屈っぽく、系統立っているのにどう見ても根本的におかしくて失笑の嵐なんですが、やがてだんだん笑えなくなっていく過程を生々しく体験させてくれる。みすぼらしい自我を自覚するがために、それを隠蔽しようとして上っ面だけの更にみすぼらしい自己像をまとう。カッコ悪いのをごまかそうとしてカッコつけるから余計にカッコ悪くなってしまうという負のスパイラルを人生レベルにまでスケールアップさせた残酷無残ショー。この居たたまれなさは尋常じゃない。

 見た目も厚いが、紙質が薄いせいで実際は見た目以上にボリュームがあります。読んでも読んでもまだ続きがある。読んでる最中はまさに騙し絵でも喰らっているような有様。しかし、読みやすさというか、こちらの注意を引きずり込んで出口なしのミキサーに放り込みグチャグチャの思念世界へトリップさせる手腕が犯罪級に巧みであり、苦もなく耽溺。腹が減ったからといって即座に「腹減ったー」と口にして空腹を訴える直線行動を嫌い、ひたすら迂回に迂回を重ね、周りからすれば奇行としか受け取れない生き方をする他なかった主人公は感情移入できるかといえばそりゃできませんが、彼の主張は屁理屈なりに理路整然として筋が通っていることもあってついつい肩入れしてしまう。盆踊りの夜に異性をバリバリに意識してなんとか声をかけようとしても口が強張って声が出ない件とか、下手な青春小説よりもドキドキハラハラさせられる。十人斬りという凶行と比してみればあまりにも情けない、しかしその分だけ、「気の狂った殺人鬼」というありふれたアングルから離れて見ることのできる熊太郎が、その生の実感に満ちた情けなさによって読者であるこちらを、あー、なんと言うんだろう。切ないような、遣る瀬ないような、半笑いで眺めるしかないような。曰く言いがたい心境に陥らせてくれる。「ジェントルなカオス」とでも呼ぶべき意味不明スレスレの文体が、その感覚をよりいっそう加速させます。酔うわこれ。

 貫井徳郎の新作に一家四人惨殺事件の真相を様々な証言者の言葉から追求していく『愚行録』というのがありますが、本書は差し詰め『愚考録』といったところか。賭博に熱狂する人間が「普通に考えれば博打で儲かるわけがねえ」と理性で了解しつつ、それでも自分は特別に幸運が作用して儲かっちゃったりなんかするよと信じて疑わず結局素寒貧になる愚かしさまでも克明に描き出すところなど、なまじ気持ちがわかるだけに痛々しい。真面目な労働に耐えられず怠惰に生き、内実がないにも関わらず空疎な見栄を張り続け、にっちもさっちもどうにも行かなくなった果てに待ち受ける十人斬りの地獄。恐ろしくも愉快なのは、穏やかな混沌で満ち溢れた町田康の文体に心底慣らされた身にはその地獄さえ熊太郎の日常において地続きであると自然に信じられることでしょう。パンク侍をボリュームだけではなくインパクトやクオリティの面でも上回っているっつー印象を得ました。


2006-07-07.

・発売から2週間、奇しくも七夕の日に『サマーデイズ』が回収される事態にアニバーサリィな感覚を得る焼津です、こんばんは。購入はしなかったけど直前まで買おうかどうかちょっと迷っていたソフトだけに、一歩間違えれば他人事じゃなくなっていただろうって乾いた笑みが漏れると言いますか、心中複雑です。「大義を信じたときが騙されたときだと、日本人捕虜と日系二世語学兵は教えてくれている」という『七月七日』の帯文を、「大義→完成」、「日本人捕虜と日系二世語学兵→初回版購入者と大容量修正パッチ」みたいに弄りたい気分。久々に読み返した『七月七日』が胸に迫る内容だったからか、いっそう切ない心境に陥りました。

・全5巻の『機甲都市 伯林』に挑む準備として『パンツァーポリス1935』も読み返し。

 確かにいっぺん読んだはずで、口絵のカイザーブルグは概ね覚えてましたが、ストーリーに関しては見事なくらい記憶になかった。もう本当、これっぽっちも脳みそに掠らない。さすがにここまで綺麗に忘れているとは思わなかった。物語を要約すれば「軍部の追及を避けながら戦艦で宇宙を目指す in ドイツ」な感じで、眼目は無茶苦茶反則的な機動をするカイザーブルグとその敵が繰り広げる空中戦。一種の戦闘機モノですね。「遺伝詞」という都市シリーズ特有の概念がまだなくて、代わりに「流体」というものが出てきますが、ほぼ同一のものと見做して宜しいのかしらん。都市シリーズとしては短い方だし、ストーリーもさして捻りがなくストレートですが、余分な要素がないせいもあって一気にサクッと読み切れました。川上稔的なアクの強さはないものの、敵味方それぞれのキャラが良い味を出していて楽しく熱く盛り上がった。やはりヴァルターの徹頭徹尾ふざけきった傲慢さが爽快。川上作品のキャラは基本的にポジティヴで、ノリとかあんま変わらんですな。次からいよいよ伯林。wktkしながら挑むとします。

 それにしてもイラストのしろー大野、懐かしい……この人、今は何してるんだろう。『オズヌ』は未完のままだし、しびとの剣のマンガ版も2巻以降出てないみたいだし。描線が力強くて結構好きだったんですが。

・拍手レス。

 いつも書評を参考にさせていただいております。
 傾向とかバラバラですが、どれも面白いのは確かなのでガンガン参考にしてくださいませ。

 超こえぇ。なんだこの兄弟は……!
 なんたる燃えか……!

 戦乱の世は殺し愛でFA。

 はわわ、敵が(以下略 でコレ
 http://www.k3.dion.ne.jp/~izuphil/10/s11.jpg
 が脳裏を掠めた私はいい感じに病んでいるかもしれない・・・

 こうして見ると容姿がかけ離れすぎだなぁ。

 最後はHELLSING風っ!?
 そういえばアーカードを脳裏に浮かべていた気が。

 み、見事なやんでれですw
 病んでこそ花。

 乙一いいですね。全体でいえば『GOTH』が好きですが、『ZOO』も「SEVEN ROOMS」がイイ。
 そのへん読んでないからってのもありますが、やっぱり「夏と花火と私の死体」ですね。あれのインパクトがおっきかった。

 ひぐらしより怖い(笑)
 これがPia殺し間へようこそ!!ですか?

 イメージイラストは鉈を持って微笑むキンカンで。

 姉さんっ!
 「姉さん」だと近親臭、「姉さま」だと百合臭が漂う不思議。


2006-07-05.

・都市進攻計画、というか要するに川上稔の都市シリーズを他の本と並列して読み続けることもすっかり習慣と化して、ようやく『閉鎖都市 巴里(上・下)』が読み終わった。

 上下合計800ページ弱と、川上作品にしてはそれほど長くもない分量だが、内容的にはページ数を超えて読み応えのある仕上がりになっています。「記述することによって初めて存在する」という性質を持った仏蘭西が舞台で、手記や書類や文献や記憶槽の書き込みといった「残された記録」だけで全体が編纂される特殊な構成のため、川上稔がよく使う改行連打や会話文が控え目になっており、みっちりと文章が詰まりまくっている。記述者たちが己の内面と向かい合う部分も多く、どちらかと言えば心情描写が淡白だったそれまでの都市シリーズに対して、かなり機微の細かいテイスト。がらりと作風が変わっています。無論、作者は同じですから「ああ、このへんはいかにも川上稔だなぁ」と思う箇所は多く、文章を読んでいて違和感を覚えることはありません。むしろ、「今回はたっぷりじっくり読める!」と嬉しくなった次第。おかげで読了まで時間が掛かった。

 舞台となる仏蘭西は「外の世界から孤立し、終戦直前の一年間を何度も繰り返している」って設定で、つまり未だに独逸軍に占領されているわけです。そこへ「外の世界」からやってきたベレッタは、55年前の当時に巴里に滞在していた同名の祖母ベレッタになりすまし、やがて仏蘭西を解放へ導いていく。「何度も繰り返している」という設定からするとループものみたいに見えるし、実際一種のループものと受け取っても構いませんが、物語として綴られるのは一周分だけですので……感覚としては歴史改変モノの方に近い。やり直しは一回きり。「既に決まっている未来」をどう消化し変えていくか、がポイントとなるわけです。

 それはさておき。前作OSAKAは能力バトルの様相が濃かったですが、今回戦いの主軸となるのはロボット。「重騎」と呼ばれる人型ロボに記乗(ライトブリング。平たく書けば「人機合一」のノリ)してガッツンガッツンやり合います。派手派手しさやケレン味が増し、これまでとはまた違った白熱感。特にライバルキャラの独逸兵ハインツ・ベルゲは全身を義体化することで記乗時の反応速度を跳ね上げ、通常の100倍とかそういうレベルのスピードで認識してバトる。先々月に『機神飛翔デモンベイン』を低スペック機でプレーして通常の10倍くらいの遅さでアクションパートを戦い抜いた身としては、ちょっぴり共感するものがあって楽しかったり。あんまりロボットバトルとか興味をそそられないタチですけれど、一文一文から力強さが漲ってくるような描写には惹き込まれました。

 作風を変える、という試みが成功し、都市シリーズの新たな魅力を引き出しています。香港とかOSAKAを読んだけど文体に馴染めない……ってな人には、いっそ巴里の方が読みやすいのかも。ただ巴里は詞認筆・加詞筆とかの個性的な要素が目立つし、遺伝詞に関してはもはや説明するまでもない了解事項として書かれているし、主人公がアメリカ人で占領軍のドイツ兵や占領されている側のフランス人が出てくるせいもあって英語と独語と仏語が入り乱れているし、癖は強い。文章は読みやすくてもノリに馴染めるかどうか。薦めたいけどチト薦めにくいジレンマ。とにかく、慣れることができたらメチャおもろい。路線としてはOSAKAの方が個人的な好みに合致するけど、巴里は巴里で他にない魅力を発揮してくれて大いに気に入りました。満足。次はいよいよ伯林。復習として『パンツァーポリス1935』も読み返すことにしよう。あれを読んだのはかれこれ8年前……飛行機が多段変形する、というくらいしかもう覚えていません。

・「桃夭学園どきどき日誌」はこまめに投票していたましたが、掲示板も覗かなくなってすっかりサイレント参加者になっていた「web私立桃夭学園」。当方の所属する1年生が競技で初めて1位を獲得しました。サイレントとはいえ参加者なので結構嬉しかったり。

第135回直木賞・芥川賞候補作

 芥川賞はいつも通りノーチェック。直木賞は『安徳天皇漂海記』『遮断』『愚行録』と6作中の半数を読んでますが、この中で強いて挙げるとすれば『安徳天皇漂海記』でしょうか。第一部から第二部への切り替えがスリリングで、それでいて全体のバランスが崩れていない。『遮断』に関しては作者の古処誠二がまだ上を狙える感じだし、来なさそう。『愚行録』は序盤から中盤にかけて力作臭を漂わせたものの、思ったよりも早くページが尽き、結果として小さくまとまってしまった印象があります。残りの未読作品では『風に舞いあがるビニールシート』が評判いいですね。何が受賞するか、報せが来るのを楽しみに待つとします。


2006-07-03.

・厚さの割に安い値段 あらすじに載った見覚えのあるタイトル…… この二つの符号が意味するものはひとつ……!

 やられた…… 再録だ……! (ざわ…)

 『失はれる物語』は目次を見れば分かるように 収録作品のほとんどが…… 過去本からの再録だった……! (ざわ…)

 買ってから気づいた焼津です、こんばんは。乙一作品はあんまり読まずに作家買いしてるから、タイトルの「失はれる物語」自体が『さみしさの周波数』所収のものであるとは知らなんだ。最近はこの手の再録モノや改題モノ(文庫化の際にタイトルが変わる本は新作と間違えやすい)をキチンと把握できるようになっていたはずなのに。「乙一の短編2本初収録!!」の惹句に惑わされなければ…こんなことなんかに…! 「よかったじゃないですか 帯文のせいにできて」「乙一の生書き下ろしゲ〜ット」 くやしい…! でも…買っちゃった!(ビクビクッ) いえ、まあ、1/3くらいは再録じゃないし、知っててもたぶん買った気がしますけどね。しかし『GOTH』『ZOO』の無理矢理な分冊といい、乙一作品の売り方はなにげにえげつないなぁ。

・深見真の『ヤングガン・カルナバル ドッグハウス』読了。

 シリーズ5冊目。第一部を完結させる巻でもありますが、実のところ、これまでの巻の中でもっとも薄い。本編がだいたい200ページぐらいです。そのせいもあってか、前巻『天国で迷子』から間を空けて読むと少し物足りなさを感じる。待っておいて一気読みするが吉だったか。

 今回の話というよりシリーズ全体の紹介になりますが、『ヤングガン・カルナバル』は高校生の少年少女が犯罪組織のヤングガン(若き殺し屋)として活躍し、胸糞の悪い悪党どもをバンバン撃ち殺す爽快B級アクション・バイオレンスとなっています。「人殺しの是非について」とか、くどくどだらだらと思い悩んで葛藤することもなく、スパッと割り切って格闘と銃撃の宴に耽ってくれるから読みやすい。殺し屋を務める傍らで漫研に所属して、本業と同等なくらい熱意を込めているあたりなど、活劇と穏やかな日常のギャップも面白く、淡々としたノリがむしろ心地良かったりします。ガンアクションだけに銃とかの薀蓄も垂れますが、基本的にあらゆる説明や描写が簡潔にまとまっていて、たとえ短い分量の中でもしっかり読者を楽しませるエンターテインメント精神が発揮されている。結構たくさんのキャラが出てくる割にはキチッと捌いてみせているし、バイオレンス小説としての部分以外でも見所がある感じです。ただ、やっぱり「淡々としたノリ」が独特で人を選ぶところかもしれません。文章で魅せるとか、そういうタイプじゃないし。個人的にはもうちょっとクドい味付けでもいいんじゃないかなー、と思ったりも。

 たくさん出てくるキャラの中で主人公格なのが木暮塵八と鉄美弓華のふたりで、同じ組織の殺し屋という位置付けにある少年少女にしては、あまりこうべったりした雰囲気にならないパートナーとして付き合っている。それぞれ恋愛対象となる人物は他にいて、それぞれの事情を抱えて日常を送りながら時に仕事で手を組んで互いを守り合う。いい具合にストイックで抑制が利いた関係。今回、初めてふたりが名前で呼び合うシーンが出てくるんですが、そうしたさりげないシーンでぐッと来る感覚があるのも当シリーズの魅力かと。

 ややこしいこと抜き、単純明快にして痛快無比、アクション映画みたいなハイテンポのスピード感に溢れたバイオレンス小説です。適度に脱力した気負わなさがグッド。ちなみに、エロスもあるにはありますが、暴力描写と比べると薄め。行為がほのめかされても詳細は綴られなかったりとか。深見汁が炸裂しまくった『アフリカン・ゲーム・カートリッジズ』の如くガチレズで攻められても困りますので、これくらいがちょうど宜しい気もします。10月からは第二部が開始とのことで、今から楽しみ。


2006-07-01.

・今更な話題ですが、それにしても「は、はわわ、ご主人様、敵が来ちゃいました!」な諸葛亮はあんまりだと思う焼津です、こんばんは。この手の女性化ネタは元から多かったですけれど、そのうち本当に「使徒タープリンセス」とかがエロゲーで出るんではないかという気がしてきました。あ、そういや『女信長』まだ買ってなかった。

・今月の予定。

(本)

 『少女ファイト(1)』/日本橋ヨヲコ(講談社)
 『紅2』/片山憲太郎(集英社)
 『ソラにウサギがのぼるころ2』/平坂読(メディアファクトリー)
 『未来日記(1)』/えすのサカエ(角川書店)
 『HELLSING(8)』/平野耕太(少年画報社)

 少女ファイトは日本橋ヨヲコ久々の新刊。ということ以外は何も知りません。ヘヴンズドアの最終巻から既に3年近く、待ちに待った一冊ですよ。紅2は「パソコンがクラッシュした」という理由で延期していた新刊であり、前巻を大いに楽しんだ当方としてはずっとお預けを食らった犬の気分でしたがようやく報われる。メインヒロインが7歳だけにロリコン向けと見られているシリーズだが、お姉ちゃんである夕乃さんが非常に良いヤキモチを焼くので嫉妬面から見ても美味しい。ソラウサは前巻の弾けぶりに「続き出るんかいな」とちょっぴり心配になったものの無事出るようでホッとしたり。平坂読は「ヤっちまった」感の強い作品ほど面白くなるあたり、因果な作風してるなぁ。未来日記は一種の能力バトルロイヤルなのに、ヒロインがゴチゴチのサイ娘ストーカーという素晴らしいマンガ。だからぶっちゃけヒロインだけで買い。ヘルシングは1年半ぶり。日本橋ヨヲコほど長くないけど、これも待ちに待った新刊です。同月に『以下略。』というのも発売されるそうで、こちらについては何も知らないんですが、一応押さえておこうかな。

(ゲーム)

 なし

 ホント、今月は気になるソフトが一本もないです。遂にOverflowが謝罪文をアップしたサマデイ周りの動きを観察しつつ、のんびりスクデイを進めることになりそう。

・拍手レス。

 米国オタクにツンデレという単語が浸透していて驚いたかばねです。単語はまだの様でしたが殺し愛の概念も>
 良きものとして受け入れられていて更に驚きました。>
 いや、殺し愛というと焼津さんが浮かぶのでwww

 そういやハリウッド映画もヒロインの気が強かったりで割とツンデレのノリですね。しかし殺し愛=当方って、ちょwww

 Key作品のレビューは書かないんですか?
 最後にやった鍵ゲーは『AIR』で、以降はずっと積みですから……

 web拍手小説、そろそろ新作など…w
 では即興の「お姉chan Must Die」を。我ながらこれはひどい。前半と後半であらすじが変わってるし。


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