2006年6月分


・本
 『魔法薬売りのマレア』/ヤマグチノボル(角川書店)
 『制覇するフィロソフィア』/定金伸治(集英社)
 『デトロイト・メタル・シティ』/若杉公徳(白泉社)
 『空の剣』/高橋三千綱(集英社)
 『LOVE』/古川日出男(祥伝社)
 『塵骸魔京』/海法紀光(エンターブレイン)
 『果てしなき渇き』/深町秋生(宝島社)
 『わたしを離さないで』/カズオ・イシグロ(早川書房)
 『狼と香辛料2』/支倉凍砂(メディアワークス)
 『旧宮殿にて』/三雲岳斗(光文社)
 『骸の爪』/道尾秀介(幻冬舎)
 『奏(騒)楽都市 OSAKA(上・下)』/川上稔(メディアワークス)
 『猫泥棒と木曜日のキッチン』/橋本紡(メディアワークス)
 『七姫幻想』/森谷明子(双葉社)
 『弥勒の掌』/我孫子武丸(文藝春秋)
 『トーキョー・プリズン』/柳広司(角川書店)
 『獅子の門 雲竜編』/夢枕獏(光文社)

・映画
 『ウルトラヴァイオレット』


2006-06-29.

・なんかパソコンの挙動が怪しくなってきたので急遽データを退避させ、予定よりも早く新マシンに切り替えるハメとなった焼津です、こんばんは。なんというタイミングの良さ。まるで新パソが、己が届いてもなお使われている旧パソに嫉妬して六条御息所ばりの呪いでも掛けたかのよう。という発想がナチュラルに浮かぶあたり、もはや病気。末期修羅場病。

・夢枕獏の『獅子の門 雲竜編』読了。

 肉体のぶつかり合いを飽くことなく描き続ける格闘シリーズ6冊目。再開後の刊行ペースは2年に1冊と、決して早くはないが、14年にも及んだ停止期間を思えばこの安定ぶりが嬉しくもある。とはいえ、当方は今年になって読み出したから、別に待たされてはいませんが。1巻から5巻までを一気読みしてハマり、即座に購入した6巻である本書を「もったいない」という理由でなかなか読み出せずにいましたものの、あんまり積みすぎて熱が冷め切るよりは早めに崩しておいた方がよかろうと、やっと着手する決心がついた次第。

 率直に書けばこのシリーズ、1冊目である『群狼編』や2冊目である『玄武編』はさほど盛り上がらない。徐々に高まりつつ鼓動が感じ取れる程度で、明瞭に面白くなってくるのは3冊目の『青竜編』以降。主人公である、芥菊千代と志村礼二(『獅子の門』には複数の主人公キャラが登場する)とが繰り広げる格闘──漲る緊張感が肌に痛かった。4冊目の『朱雀編』はほとんど久我重明が主人公になっていて違う意味で面白い。そして5冊目、『白虎編』はもはや、これ目当てで『獅子の門』を読み出しても構わないだろうという域に達している。ド迫力の肉体賛歌に酔い痴れること間違いなし。

 で、最新作の本書。焦点が限界突破的な格闘に絞られ、「4人の若き狼たちが爪を研ぎ牙を鳴らす」という群像要素はやや弱くなってきた印象があった。それぞれの立場の違いが表れていない、なのに思わせぶりな新キャラが登場するという、消化が進まずに具材ばかり放り込まれた調子で、物語としては泥沼化しそうな予感も湧いてきましたけど、格闘に関しては文句なしの勢い。少しネタバレになりますが、今回は芥菊千代と志村礼二との再戦があり、因縁を持ったふたりがふたたび激突する。シリーズ全体においてもベストバウトに近かった『青竜編』のあれを上回れるのか、という不安もあったが、杞憂だった。一言でまとめれば、狂っていた。文体も試合展開も何もかも。夢枕獏特有の文体に慣れていてですら、あれは圧倒されます。もし獏文体を知らない人が読めばどうなるか。試みにテキトーな奴を捕まえて見せたところ「これなんて新手の詐欺?」とまで言い切った。というわけで詐欺クラスの熱狂と認定。実にクレイジーでした。

 理屈がどうこう、というレベルを、SFやファンタジーに走らず超越してみせます。いやむしろ格闘のセンス・オブ・ワンダー、肉体のファンタジーとでも呼べばいいか。血みどろ、汗みどろ、肉みどろの阿鼻叫喚。理詰めのバトルとはまた違った味わいがありますね。ペース通りに進めば再来年には次巻が読めるということで、ワクワクしながら待ってます。お願いですからザ・ワールドとか使ってシリーズを止めないでくださいよ……。


2006-06-27.

・新パソが到着。データの移行とかは面倒臭いのでまだ旧パソで作業していますが、とりあえず記念に『School Days』をインストールしてみた焼津です、こんばんは。サマデイの騒動がきっかけで興味が再燃したものですから。結構なスペックのマシンですけれど現時点ではスクデイ専用機と化しております。

・柳広司の『トーキョー・プリズン』読了。

「けれど──たとえそうだとしても──騙す者だけでは、やはり戦争は起こらない。騙す者と騙される者がそろわなければ、戦争ははじまらないのです」

 著者の最新長編。ガラパゴス諸島を舞台に「ダーウィンが『種の起源』の着想に至る契機となった事件」を描いた『はじまりの島』を読んだことがあるくらいで、それほどよくは知らない作家です。『坊っちゃん』のパスティーシュである『贋作『坊っちゃん』殺人事件』や、ソクラテスを探偵役に据えた『饗宴』、『シートン動物記』を連作ミステリに仕立てた『シートン(探偵)動物記』など、題材の選び方が面白いので他にもいくつか読んでみたいなとは思っていますが。

 1946年、終戦後の東京──戦争犯罪者を収容する巣鴨プリズンに、従軍前はニュージーランドで私立探偵を営んでいたフェアフィールドが、ある行方不明者の手掛かりを追って訪れる。調査の許可と引き換えに与えられた仕事は、「囚人の一人である貴島悟の記憶を取り戻す」という奇妙な代物だった。捕虜への虐待を容疑として逮捕された貴島は、開戦から終戦までの5年に渡る記憶をすっかり喪失し、裁判が行える状態ではなくなっていた。牢の中に囚われながらも鋭い観察力と推理力を発揮し、過去二度も脱走を試みた前科を持つ彼は、看守たちアメリカ人にも気味悪がられている。巣鴨プリズンに発生した「密室状況」での看守の不審死を捜査する傍ら、捕虜収容所で所長を務めていた頃の貴島の素顔に迫ろうとするフェアフィールドだったが……。

 焼け野原になった東京で、ニュージーランドの探偵が監獄の事件と失われた貴島の記憶を解き明かし掘り起こそうとする。しかし、主人公が探偵として活動するとはいえ、実質的な探偵役としてのカリスマを備えているのは「囚人探偵」貴島悟であり、彼がこの作品の中心人物であると見做しても差し支えはないでしょう。牢に繋がれた天才、というと『羊たちの沈黙』におけるレクター博士が典型で、貴島にしても悪魔じみた風情で綴られる場面もあるが、どちらかと言えばホームズ寄り。サイコ要素もないので比較的おとなしい。終戦を迎えた東京で暮らす人々や「結局誰が悪かったのか」という戦争責任を巡る問題、そしていくつもの証言が織り成す貴島の「悪辣な所長」としての過去、といった部分が強烈なインパクトを放って興味を惹きつけるため、あらすじ上では重要視されている「巣鴨プリズンに発生した『密室状況』の不審死」というポイントの印象がやや希薄。謎解きよりもむしろ、部外者である主人公が場違いな感触を意識しつつ、特異な空気の漂う「終戦後の東京」へ切り込んでいく過程がドラマチックでスリリング。戦争責任や民主主義が話題に昇るなど、テーマとして重いし全体の雰囲気もやや暗めではあるが、そこにばっかり傾かないよう配慮されて書かれているせいもあってか読み応えは悪くない。辟易させられることもなく、自然と引き込まれる感じです。地下道から出てきたあたりのキョウコの激白(上記斜線の引用はその一部)がひと際印象的だった。「騙された」という免罪符は、それほど無邪気なものではないのだと。

 あまり派手な展開もないし、調子が出てくるまではゆったりとした筆致が続くため、「読み始めたら止まらない」みたいな中毒性の高い作品ではありません。戦争が背景になければ成立するはずもなかった事件という、重い手触りのある内容。「民主主義というやつはなにも、それをつくる人たち以上によいものではないのだよ」の一言がズンと来る。『オデュッセイア』が絡んでくるのも最初は単なる衒学趣味かと思ったが、意外とすんなり馴染んでくる狙いがあって腑に落ちた。密室云々、囚人探偵云々といった彩りや飾り付けよりもむしろ根っこに当たる箇所に歯応えがある。素っ気ないタイトルだけど、「スガモ・プリズン」ではなく「トーキョー・プリズン」となっているところに、東京すべて──巣鴨プリズンの外を逆に監獄と見做す壮大な見立て精神を感じた。

・拍手レス。

 読んだ瞬間「今日からヤのつく自由業!」と浮かんで吹き出した(笑
 美形のヤに囲まれて勢い任せの極道耽美生活。普通にありそうなネタで怖い。

 七姫物語読んでるんですか? 焼津さんに運命を感じてきましたよ。
 4巻がいつ出るか分からない状況なので3巻はストックしてますが。2巻の七姫絵はたびたび見返してうっとり。

 塵骸魔京を攻略ー。……わだつみの民を救う為に戦う九門になりてー!
 『塵骸魔京〜リッスン・トゥ・ザ・ボイス・オブ・シー〜』とか、そんなのの発売を待ちませう。

 夜刀氏と海法氏は別人だと書いてありますよ。あとがきに。
 それを一人二役のネタと見る向きもあれば素直に本当と受け取る向きもあり、依然真偽は定かじゃないです。


2006-06-25.

『ウルトラヴァイオレット』見てきましたー。

 『リベリオン』のカート・ウィマー監督映画。昨日仕事が終わった後にネットでチェックして「あ、今日が公開初日なのか」と知り、ちょうど近所の映画館でレイトショーをやっていたから見に行きました。本当に近所で、歩いて10分も掛からず。普段あんまり映画を見る趣味がないせいもあって初めての来館になりましたが。チケットは余裕で購入。ガラガラってほどじゃないけれど空いていて真ん中あたりのいい席が取れました。

 で、内容。近未来的な世界が舞台に二つの勢力が衝突し、その間に「シックス」と呼ばれる少年がいて、ミラ・ジョヴォヴィッチ演じるヒロインは彼を守り抜こうとして両方を敵に回す。孤立無援(って言い切るほど助けがないわけじゃないけど、状況はキツい)──「単対多」というガン=カタ本領発揮の構図が描かれるわけです。予算配分が傾いているのか、ぶっちゃけ派手なシーンは前半に集中。開始してしばらくはノンストップのスペクタクルに「すげー」と圧倒されます(CGがちょっとナニなのは目を瞑るとして)が、おしまいの決戦あたりでは演出というのもあるだろうけれど戦闘シーンの描写が省かれて銃声や剣戟の音だけになっているシーンもあったり。ダグラスだかダモクレスだかいうラスボスとのタイマンもなんだかかんだか。印象に残るシーンもいくつかあったし、ガン=カタっぽいアクションもあったし、問答無用の破壊劇に織り込まれた一種の様式美さえ窺わせるB級テイストもしっかり堪能できて面白かったけれど、進むにつれて気抜けする感じは否めなかった。ストーリーも分かりづらく、しかもだんだんテンポが悪くなってくる。そこが残念。

 雰囲気としては『リベリオン』より『マルドゥック・スクランブル』『微睡みのセフィロト』みたいな世界に近いかも。あのへんの劇場化作品が見てみたい、という欲望を抱く当方にはうってつけで、不満があるにしても充分楽しめた。上映中ずっとにやけまくっていたし。映像美で魅せる作品かと。愛は10倍に、憎しみは100倍にして返す女・ヴァイオレットの憤怒に満ちたセリフがツボでした。7月地上波に登場する『リベリオン』も楽しみだ。

・我孫子武丸の『弥勒の掌』読了。

 軽妙でさらりと読みやすい文章が特徴ながら、非常に遅筆な作者の新刊。といっても、出たのは去年ですが。妻が行方不明になり、「あんたが殺したんじゃないか」と警察に容疑を掛けられ、無実を晴らすために妻の捜索を始めた教師・辻恭一。妻を殺され、「犯人は絶対に見つけ出して復讐してやる」と執念を燃やす刑事・蛯原篤史。ふたりを結びつけたのは、「救いの御手」という新興宗教だった……って具合で進行するサスペンス・ストーリー。解説やインタビューでページ数が膨らんでいますが、実際の分量は260ページ強。割合短いです。おかげでダレることなく一気に読めた。

 『殺戮に至る病』以来13年ぶりの書き下ろし長編で、待望したファンも多かったんですが、狂喜して絶賛──するほどの力作ではなかったのがやや残念。すぽーんと綺麗に一本背負いを決めるような鮮やかさはあるものの、新興宗教の絡め方にヌルさというか、物足りなさが。短いページ数の中で難度の高い技を放つ腕前はさすがに「巧い」と思うにしても。

 と、不満は残ったけれど、これを読んで久々にミステリ熱が高まってきたことは確か。謎解きの面白さが徐々に感覚的なものとして甦ってきた。本格方面へどんどん挑んでみようと企ててみまする。


2006-06-23.

・山田芳裕の『へうげもの』に一発で魅了された焼津です、こんばんは。作者が『デカスロン』の山田芳裕であることに加えて、内容は最近興味が湧いてきた戦国モノとなれば順当な面白さが期待できる、と睨んでいましたが……これがまた実に期待以上の代物。第一話のタイトル「君は“物”のために死ねるか!?」が持つインパクトを味わった時点で既にやられた。

 天下が信長の手から秀吉のところへと移りつつある頃を舞台に、千利休の弟子・古田左介(織部)を主人公にした、戦乱と物欲のストーリー。「物欲」がテーマだから全編薀蓄尽くしなのかな、と思いきやそうでもなく、物を絡めた人間ドラマに重きが置かれていました。迫力のある絵柄が予想を越えてフィットし、歴史モノに見られがちな古臭さやもっさり感を廃し切ったのは凄い。決めゼリフを放つシーンのカッコ良さにはゾクゾク来ます。良い意味でハッタリの利いたマンガかと。

『サマーデイズ』の修正パッチ、1GB越え

 Overflow おぬしはやはり 物が違う…

 大容量状態の圧倒的修正パッチが証明するのはまさに歯車的バグ嵐の小宇宙。22日から23日にかけて複数のバージョンが出ており、

 Ver.1.01A(2.3GB)→Ver.1.01B(1.2GB)→Ver.1.02B(153MB)→Ver.1.02(1.6GB)

 という流れ。1.01Aと1.01Bで1.1GBも違うのは重複したファイルを削ったとかで、パッチとしての中身は変わらないそうな。他のVerと比較してやけに小さい(一般的なパッチと比べれば充分デカいですが)1.02Bは「パッチのパッチ」って感じで、Ver.1.01AかVer.1.01Bを適用した後に当てる。そして現時点で最新の1.02がファイナルアンサー……となればいいのですが。まだまだ大変みたいです。

・森谷明子の『七姫幻想』読了。

 岩根、木立、草葉、皆言問うた遥かな昔

 岩も木も草も、言葉が発することができた遠い昔。神代の物語を始める決まり文句だ。

 鮎川賞を受賞してデビューした作者の、3冊目となる著書。織女の異称である「秋去姫」「朝顔姫」「薫(たきもの)姫」「糸織姫」「蜘蛛(ささがに)姫」「梶葉姫」「百子姫」、7つそれぞれに見立てた物語を連作形式で綴る七夕ミステリです。最近ずっと新刊が出ない『七姫物語』とタイトルが似ているから……と、ほとんど冗談みたいな理由で読み出した本でしたが、なかなかのアタリで楽しめました。

 連作形式とは書きましたけど、一つ一つの話は独立しています。泉に棲まう使い神──要は蜘蛛──が張り巡らす、標(しめ)と呼ばれる白い糸。それによって密封されていた館の中、大王が不審な死を遂げた。標は脆弱な結界だが、一度破ると張り直すことができない。従って大王が殺されたとなるならば、容疑者は館の中に限定される。という趣向の「ささがにの泉」など、どれも謎解き志向が強い。おかげで編が改まるごとに新鮮な面白みが感じられるのですが、連作だけあって各編の間には何かしらの繋がりがあり、進めば進むほど巨大な全体像が浮かび上がってくる。別に、だからといって最後の最後でドデカいサプライズが待ち受けているでもなく、静々とした雰囲気が保たれたまま物語は幕となります。バラで読んでも引き込まれるし、俯瞰して眺めれば一種のサーガとして味わうこともできる。実に美味しい構成。

 ゆったりと緩やかに語られていく分、出だしでちょっと退屈を覚える難点はあるにしても、いざ謎解きが始まって話の裏に隠されていた絵図が掘り起こされる段に入ると、俄然目が冴えてきます。「ささがにの泉」からダイレクトに繋がる「秋去衣」、建物の外に出て土を踏んだ記憶が一切ないという超箱入りのヒロインが登場する「朝顔斎王」の2編が個人的にお気に入り。恋愛の要素も色濃く混ぜられていて、ほんの気持ち程度、隠し味の如く耽美な気配が漂うのも乙。時代の流れを貫く何か、ってものを男女の綾を通して伝えようとする試みが目に心地良かった。


2006-06-21.

『よつのは』のヒロイン・猫宮ののをメインとしたFD『幼なじみとの暮らし方』が発売されると聞き、内心密かに猛る焼津です、こんばんは。「半同棲生活」、中途半端さが却ってクるこの響き。『よつのは』は体験版だけプレーして本編を積んでいる当方でも早速購入予定に組み込みたく。……組み込むのはいいけど『よつのは』も崩しとかないと。

・川上稔の都市シリーズ攻略計画、現在『奏(騒)楽都市 OSAKA(上・下)』が読み終わって『閉鎖都市 巴里(上)』に移行したところ。巴里は設定が面白くてワクワクする。

 で、OSAKAの方。学園モノ、というか学生モノか。学園生活の描写とかほとんどないし。学生紛争がキッカケで関東と関西に分割された日本という最近だと『群青の空を越えて』を連想する背景をもとにドカバキと痛快異能バトルを繰り広げる、少年マンガの味わいが濃いストーリー。『風林火嶄』とか、あのあたりのノリが好きなのでかなりツボに入って一気読み。都市シリーズとしてはあまり込み入っていない内容で、ストレートにゴリゴリと熱くて楽しめた。「近畿動乱」という、終わクロにとっての「概念戦争」や香港の「第一次〜第五次神罰戦争」みたいな、概要だけ説明されて詳細は断片的な情報のみ開示される「語られない物語」も進むにつれて全体像が脳裡に浮かんできて本編の熱が高まった。「痛快」の二文字だけで終わるストーリーじゃないにしても、とにかく勢いの良さが印象に残る作品でした。夕樹と清犠が好き。

・橋本紡の『猫泥棒と木曜日のキッチン』読了。

 曜日シリーズ第2弾。前作『毛布おばけと金曜日の階段』が2002年、これが2005年だから、3年ぶりに刊行ってことになりますね。文庫で発売された毛布おばけ〜に対し、なぜか今回ハードカバーで出ていますが、「四六版で文芸路線を打ち出そうというメディアワークスの思惑」の他に、「前作(毛布おばけ〜)のセールスが厳しかった」って事情があった模様。ハードカバーは単価が高くなるので、販売数のペイラインも下がります。ただ、どうやら本書も売上に関しては芳しくないらしく。今後曜日シリーズが継続されるのか、危ぶまれるところ。ちなみに、「シリーズ」と書きましたが、キャラとか話に繋がりはありません。強いて言えば雰囲気のみ。

 お母さんが家出した。書き置きも何もなしに、ある日突然、ふいっと消えてしまったのだ。まだ5歳の弟・コウは寂しがったけど、お母さんが家にいた頃から炊事・洗濯・掃除とひと通りのことをこなしていたわたしは特に支障らしい支障を感じることもなかった。いつも通りに家事をこなし、いつも通りに学校へ行く。いてもいなくても、大して影響なし。母がいなくなってから増えた日課と言えば、健一と一緒に、道路で轢き殺されて転がっている猫の死体を庭に埋めることぐらいだった……。

 親が子を捨てると同時に、子が親を捨てた。一見すればどんよりと暗くなりそうな題材をあえて明るく前向きに描いてみせるのは『毛布おばけと金曜日の階段』と同一。「暗いはずなのに、なんか変に明るい」って独特の雰囲気が曜日シリーズにおける特徴だと思います。超能力とか魔法とか、その手のネタが一切絡まないストーリーはなんてことない青春の日々をだらだら綴っているようでいて、よくよく読めば非常に引き締まった意識が伝わってくる。分量はそれほど多くない。200ページ強で、字の組み方もやや疎だ。しかし、「要らないところは削ぎ落とす」という遣り方が徹底していて、とにかく語り口に無駄がなくてテンポが良い。クリスピーな食感でサクサクと読めます。字がいっぱい詰まっていれば充実感を醸せるってわけじゃないことを、反証気味に示してくれました。

 話としては結構重い要素もあります。何せ章題に、「地獄の詰まった箱」なんてのが付いてたりするんですから。ノリは毛布おばけよりも、桜庭一樹の青春モノに似ているかもしれない。『推定少女』『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』あたり。しかし、あとがきで「常に光を見つめながら書いてました」と述べているだけあって、鬱とかそういった風情はない。愚行の積木を厭わず毅然と屹然と立ち向かっていく、「呑気な人間」の内側で燃える情熱に圧倒される思いだった。全体的に穏やかな筆致で、読み方次第では「真剣味が足りない」と受け取れるかもしれないが、ある種の潔さが漲っていることは確か。実のところ当方、橋本紡はそれほど気に入っている作家ではないんですが、こと『毛布おばけと金曜日の階段』だけは例外でした。もちろん、本書もその例外に加わった。曜日シリーズ、すげぇ好きです。タイトルは正直パッとしないものの、内容に関しては是非とも推したい。願わくば続きを。こいつだけはなんとしても希望したい。


2006-06-19.

・ときたま目にする「やっくん」という語句が、「ヤの付く職業の人」と同じ意味合いで使われる隠語ではないと最近になってようやく気づいてきた焼津です、こんばんは。テレビを見なくなった弊害がここに。

・道尾秀介の『骸の爪』読了。

 デビュー作『背の眼』に続く霊現象探偵・真備庄介シリーズ第2弾。間に『向日葵の咲かない夏』を挟むので、著書としては3冊目に当たります。発表時の予定タイトルは『殺す仏』でしたが、いつの間にか変更されていた模様。ところでこのシリーズ、「霊が関わっているとおぼしき怪現象」のみを依頼として受ける探偵の活躍を、作者と同じ名前の「道尾秀介」が記録するという、探偵モノとしては割合オーソドックスなスタイルを取っている。題材が霊現象とはいえ、雰囲気はどちらかと言えばホラーやサスペンスよりも新本格系のミステリに近いです。……え? ひょっとして、「新本格」ってもう死語?

 滋賀県の山間に位置する仏所、瑞祥房──職人たちがせっせと受注された仏像をつくっているところへ取材と観光を兼ねて訪れた作家・道尾秀介は、その晩にいくつもの怪異と遭遇する。暗い部屋の中を蠢く何かの気配、頬をひくつかせて笑う千手観音、冬も近いというのに這い出してきた蛇、「マリ」と懸命に何度も呟く声、社の付近に漂う白い靄、そして割れた頭部から血を流す仏。翌朝、それとなく「マリ」という名前に心当たりはないかと訊ねると、途端に険悪な空気となった。東京へ帰ってきた道尾は真備庄介を連れ、ふたたび瑞祥房に足を運ぶが……。

 徹頭徹尾、伏線尽くめ。あらゆる情報が一体になって最終的にひとつの絵図を描き出すという、本格系統のミステリにおいて理想とされる構成を持った一冊です。怪異や謎がいちいち解かれて説明されてしまう、京極夏彦のような遣り口が嫌いでなければ楽しめること間違いなし。全体のプロットといい細部の詰め方といい、技術的には巧く、伝奇調というか怪談風のストーリーを綺麗にまとめ上げていますが、あまりおどろおどろしい書き方をしてないせいもあってか、ホラーやサスペンスを期待すると「ヌルい」って印象を受けるかも。クライマックスに差し掛かってからが圧巻。

 今はなきホラーサスペンス賞の出身者ですが、やはりスタイルとしては鮎川哲也賞あたりの本格マインドを重視するタイプに似ている。キャラクターには大して魅力を感じないものの、文章は読みやすかったし、内容的にもしっかり身が詰まっているので、創元推理の国内作家みたいな本格ミステリが好きな方にはオススメしたい。ちなみに、これが初めて読んだ道尾作品なので、遅まきながら『背の眼』や『向日葵の咲かない夏』も読んでおいとこうかと。

・拍手レス。

 ぶっちゃけ灼眼のシャナの良さが分からないっす。世界観良さげだったけどシナリオが……。語ってプリーズ!
 いきなり10巻を読む。これが最強の対症療法。本編は三角関係とか少年の成長とか狂発明家とかババアにゴマするロリコンが見所。

 名乗るのはお久しぶりです。大層前にダン十字九セイニを描いてみたいとのたまわっていたかばねです。>
 >飛翔効果か?あの時気持ちばかりで足りなかったナニカが舞い降りてきてくれたので描いてしまいました。>
 >http://www.geocities.jp/yutakaoubu/images/ >
 >demobe-shoGOTH.jpg 股間に目玉は思っていたよりアレなんですが>
 >全体的にはそんなにクレイジーにならなくて残念です。何が足りないんでしょう??>
 >やはり到底文章には追いつきませんでしたw

 いや、これ、充分キてますよw 見た瞬間にビリッと肌が震えました。これだけの画力がありながらもったいない。だがそれがいい。
 足りないもの……ない気もしますが強いて言えば、こう、天使的な雰囲気?(←自分自身よく分かっていない曖昧さが滲む口調)
 ともあれ、ありがとうございます。こういう挿絵っぽいイラストを描いてもらえるのは無類の嬉しさがありますね。


2006-06-17.

・今更ながら『カミヤドリ』におけるヴィヴィの尻描写に魅了されている焼津です、こんばんは。巨大ハサミ状の武器もさることながら、ぱんつはいてない褐色肌のヒロインが素晴らしく。割とストーリーそっちのけで読んでます。

『パルフェ』実写化「皇帝φ機構-Emperor System Zero-」経由)

 実写版は「オリジナルストーリー」とのことですが、詳細はこちら。思わず『Faith/stay knight』が脳裡をよぎったのは気のせいですか?

・三雲岳斗の『旧宮殿にて』読了。

 特に理由はないんですが、ここんところ本格寄りのミステリにあまり関心が湧かず、すっかりご無沙汰になっていました。リハビリ的な意味合いも兼ねて「読みやすく、それでいて本格の風情を保ったミステリ、できれば短編集」を求めた結果、本書が選択された次第。かの芸術家レオナルド・ダ・ヴィンチを探偵役に据えたシリーズで、『聖遺の天使』に続く2冊目となっています。副題は「15世紀末、ミラノ、レオナルドの愉悦」……なんかこれだけでだいたいの説明になってますね。

 一話完結方式で5つのエピソードを収録。ちょっと目を離した隙に絵画が紛失したりなど、ささやかな事件から殺人まで、それなりのバラエティに富んでいます。絵画紛失事件にしても、「描きかけで、しかもただの肖像画につき芸術的な価値に乏しい作品だからわざわざ盗む奴がいるとも思えない」というホワイダニット(なぜやったのか)系の興味が仕込まれていて、ささやかながらも飽きさせない。塔の最上階に幽閉されていた令嬢が失踪する事件、厳重に見張られていたはずの彫像が消失する事件など、「消える」ことが眼目になっている話が多いのは少しワンパターンな気もしますが。文章は非常に読みやすかった。どれも過不足なくまとまっており、書き慣れた作家特有の巧みさを感じさせます。

 一番気に入ったのは「二つの鍵」。金の鍵と銀の鍵、二種類の鍵があって、金の鍵で施錠すれば銀の鍵でしか開錠できず、銀の鍵で施錠すれば金の鍵でしか開錠できない。そんな仕掛けが施された箱の話。トリックに頼らず、ごく明快なロジックだけで真相を導き出していく流れが楽しい。短い尺の中で容疑者たちのキャラクターを立たせ、そのうえでパズラー精神を満たすなんて、そう簡単にやれるもんじゃないと思います。雰囲気も良いし、なにげにアタリとハズレの落差が大きい三雲作品としては「アタリ」の筆頭に位置するシリーズじゃないでしょうか。のんびりとでもいいから是非続編を出してほしいですね。

・拍手レス。

 デモ×沙耶SS、まさかあの壊れた流れで最後に感動が来るなんて……すごいや。
 書いた本人もまさかあんな結末に向かうとは予想できず……暴走の産物ですね。

 香港は仕掛けられた小ネタ探しが楽しいですよー
 上巻第四幕、第二節開始から109Pページまでの会話がしりとりになってたりとか
 下巻第二幕「七言詩の経過」は七行ごとに七文字の一文が挿入されたりとか。
 ttp://f11.aaa.livedoor.jp/~ashou/kmwp.htm
 この辺りに詳しく書かれていたと思われるので、見直すのも一興ですよ

 語られざるストーリー、言わば「裏香港」の全体像もそこのサイトがなければ掴み切れなかったです。濃い作風だけど、それを咀嚼しうる濃いファンの存在でなんとかついていける次第。


2006-06-15.

・終わクロが完結してからとんと新刊の報せが聞こえてこないし、間を埋める意味も兼ねて都市シリーズへの着手を開始した焼津です、こんばんは。

 『パンツァーポリス1935』『エアリアルシティ』は既に読んでいるので『風水街都 香港(上・下)』から。「遺伝詞(ライブ)」云々といった独自の要素がややとっつきにくさを感じさせる。風水(チューン)や五行(バスト)にしても、語義通りに解釈しようとすると却って混乱。いったん先入観込みのイメージを捨てて、更地にしたところから読み出し、ようやく追いつけるようになった。文章等は『終わりのクロニクル』とさして変わっていないが、ギャグの比率やイカレ具合はおとなしめでちょっと物足りないかも。ただ、「語られたストーリー」の中にちょいちょいとほのめかしを仕込んで「語られざるストーリー」の大枠を組み上げる構成は、少し複雑ながら巧妙でスリリング。解説サイトとかを読んでやっと全体像が把握できた。なんとも欲張りで挑戦的な物語だこと。

 同じ作者とはいえ、都市シリーズに終わクロの魅力を、終わクロに都市シリーズの魅力を求めると齟齬を来たすことが徐々に分かってまいりました。「間を埋める」のではなく、川上稔という作家に対しての認識をより広く「切り拓く」ような姿勢で続くOSAKA、巴里に挑んでみようかと。

・支倉凍砂の『狼と香辛料2』読了。

 異世界が舞台のファンタジーでありながら主人公は行商人。ストーリーの方もあくまで商取引が眼目となる、異色の経済系ライトノベル。練り込まれた内容からして「この作者、遅筆なんじゃないか」とも危ぶまれましたが、前作から4ヶ月で無事続編を刊行となりました。400ページ近いボリュームがあるわけだし、執筆ペースはそこそこなのかもしれません。

 さて、商業がネタになっている物珍しさからも注目を浴びたシリーズですが、それ以上に続編を熱望されたのは「ホロかわいいよホロ」と理性が溶けた発言を繰り返させてしまうほどの魅力を持ったヒロインにあります。「わっち」「ありんす」と言葉遣いは独特ながら、慣れると恐ろしいくらいに馴染む。見た目の年齢以上に歳を重ねてきた人外ヒロインであり、一筋縄ではいかない厄介な性格もなぜだか憎めない。無論当方も魅了された一人ではありました。けれど、さすがに「ホロかわいいよホロ」などと口走るまで落ちてはいない──なんて強がりながら読み出したところ、僅か50ページで顔面が「にやけ」方面に向かって崩壊。声には出さなかったものの、内心、物凄い勢いで「ホロかわいいよホロ」が炸裂。あっさり陥落していました。本当、油断してると骨抜きにされますよ、これ。

 今回のあらすじを一言で書けば「信用取引で失敗して借金まみれのどん底に叩き込まれた主人公、その運命や如何に」といったところ。ドデカい借金を返すために別のところから金を借りようとしてなりふり構わない挙に出る件を、「人間関係をすり潰して金に換える」と表現するあたりとか、実に生々しい。起死回生を図って打つ一手もなかなかダーティ。ヒロインの愛らしさに萌え狂っているうちに、気が付けば話がクライム・ノヴェル調にすり替わっている寸法であり、ポルナレフ的驚愕が味わえることは請け合いです。だからこそ熱中してハラハラできるわけでもありますが。

 物語が動き出すまでが遅く、後半はちょっと端折っているような部分が目立つのはちょっと勿体ないと思いました。いえ、あくまで相対的に後半の分量が足りなく感じられるってことが惜しいだけで、前半の展開がのんびりしているのは構わないというかむしろグッジョブです。ふたり旅を送っているロレンスとホロのそれとないイチャイチャぶりは時にバカップルの域に達していて微笑ましすぎ。前作を超える盛り上がりが見られたということは、このシリーズが決してフロックの産物ではないという証左になりうるでしょうか。俄然、続きが気になってまいりました。今年中にもう1冊くらい読めたら万々歳じゃ喃。


2006-06-12.

・最近、電撃文庫の新刊に関しては「おお、○○の新刊が出るのか!」と喜ぶことより「ああ、××の新刊は出ないのか……」と溜息をつくことが多くなってきた気のする焼津です、こんばんは。ともあれ『灼眼のシャナS』『狼と香辛料2』を購入。シャナの方は短編集。既に読み終えましたが、バトルとかがあるのは一話目の「マイルストーン」だけで、あとのはまったりしたエピソードですね。「マイルストーン」がしっかり熱い分、全体のバランスは取れていると思いますが、少し物足りなさも。狼〜はこれから読む予定。

・カズオ・イシグロの『わたしを離さないで』読了。

 原題 "Never Let Me Go"。日本生まれで英国育ちな作家の最新長編。過去の長編はすべて翻訳されており、中には絶版のものもありますが、つい先日文庫化した『わたしたちが孤児だったころ』など、代表作は比較的入手しやすい状態。当方にはありがちな「名前だけ覚えて知った気になっている作家」のひとりでありまして、実際に作品を読んだのはこれが初めてです。「女性一人称による回想録」という、なんだか全編がかったるいノスタルジーに包まれた小説を連想させる形式につき、食指が伸びかねていましたけど、あちこちで好評の声が挙がっていることもあって「食わず嫌いや読まず知ったかはどうか」と反省し、思い切って挑んだ次第。

 間もなく「介護人」としての生活を終えるキャシー・Hは、請われるままにこれまでの暮らしを語り始めた。彼女にとっては一つの故郷に当たる、生まれ育った施設「ヘールシャム」。大人びた少女たちと子供っぽい少年たちとが、「保護官」に教育を受けながら騒がしく慎ましく過ごしていく日々。やがて成長していく彼・彼女らは性の知識とともに、「提供」の事柄も吸収する。保護官たちがしきりに推奨していた、生徒による絵画や小物、詩歌の作成。「教わっているようで教わっていない」と言い切り、生徒ではない何かに向けて憤っていたルーシー先生。16歳になり、施設を離れ、やがて介護人になる道を選んだキャシー。ルースやトミーといった掛け替えのない存在を今も心に宿し、思うこととは……。

 綿密で流暢な文体。ですます調が、先入観である「かったるいノスタルジーに包まれた小説」の印象を強化するものの、じっくり腰を据えて掛かれば多くの少年少女が独特な社会を形成している「ヘールシャム」という空間へ没入することはたやすい。一種の養護施設とはいえ、基本的な雰囲気はそこらの学園モノに近いですから。寄宿舎が付いていて、放課後も友人が一緒にいる。似たような体験があってもなくても、やたらと郷愁の念を刺激される内容ではあります。しかし、「かったるい」とか呑気なことを言っていられるのも100ページあたりまで。そこらへんまで読み進めると、一発目の爆弾が来ます。「……え?」とページを繰る手が止まり、パラパラと前のあたりを読み返してしまう。決してサプライズ重視の構成ではないんですが、驚かずにはいられない。問題の箇所を過ぎてからも断続的に爆弾は投下され、気付けばもはや「かったるい」という面影は跡形もなく消え去っています。言わば文学的爆撃。語りのリズムは淡々として終始変わりないのに、読んでるこちらの心境はすっかり一変してるって寸法。作者の「綿密で流暢な文体」に寒気がして鳥肌が立ってきます。

 プロットだけぶっこ抜けばありふれているかもしれない。手を出す前にこの構想を聞かされていたら、ひどく平凡で陳腐な世界観を想像し、読む気をなくしていた可能性もそれなりに高い。具体的なことを何も知らぬまま、伏線らしい部分も見過ごして、「まだ気づかなかったのか?」と呆れられる地点に来てようやく思い知る……というのが理想的なパターンでしょう。こんな書き方自体がネタバレじみているのかもしれませんが、なんであれ是非ともかったるさの皮膜に挫けることなく読み進めてほしいです。丹念に描き込まれ、なんてことないのにひどく心を締め付ける過去の「鮮やかすぎる景色」と、地続きなのに遠く隔てられている現在の「明るい物悲しさ」。手触りは軽いようで重い。三部構成のうち、真ん中に当たる第二部は他と比べて地味でしたけれど、一番人間関係が濃密に表出していて惹き込まれました。我々の抱く陳腐な想像が切り裂かれ、その傷口をめくって裏側に畝る襞々を見せつけられたような心地がする。好みかどうかで言えば否定的な感情もあるが、細かいことを抜きにして打ちのめされる作品ではあった。


2006-06-10.

・そろそろパソコンを買い替えようかと思案している焼津です、こんばんは。ずっと先延べにしていましたが、機神飛翔の起動がかなりギリギリだったこともあり、いい加減頃合と判断。機種とかメーカーに関してはさっぱり疎いので、主にフィーリングで行こうかと。

・深町秋生の『果てしなき渇き』読了。

 第3回『このミステリーがすごい!』大賞受賞作。応募時のタイトルは『果てしなき渇きに眼を覚まし』で、ペンネームも古川敦史。選考委員がこぞってジェイムズ・エルロイの名前を挙げている通り、元警官の主人公が繰り広げる無軌道な「捜査」の一部始終を描いた典型的クライム・サスペンスです。しかし、ノワールではない。あえて闇に目を凝らそうとはせず、あくまでB級感覚のセックス&バイオレンスを盛り上げるために闇を移植した感じ。表層だけを削ることでエンターテインメントに徹することができているし、かなりバランスの良い作風なんじゃないだろうか。

 娘が失踪した──バッグいっぱいに詰まった、異常な量の覚醒剤を残して。現職中に起こした「事件」がもとで仕事と家族を失った元警官の藤島は、消えた娘の足跡を追い始める。仕事にかまけてばかりで家庭を顧みなかったせいか、娘である加奈子の記憶は希薄だった。容貌が整った、しかし表情の乏しい子という印象がある。捜査を進めるうち、不良グループとの付き合いがあったことが分かってきた。覚醒剤はその線で手に入れたものなのか? やがてその不良グループと、コンビニで発生した多重殺人事件、そしてヤクザとの関係が浮かび上がる。加奈子は一向に見つからない。まだ生きているのかどうかも分からない娘の姿を追い求め、彼は深みに嵌まっていく……。

 主人公が元警官でバツイチ、ストーリーの目的は行方不明の娘捜し、絡んでくる要素として不良グループやヤクザや殺人事件など。大筋、実にベッタベタなクライム・サスペンス。「いつかどこかで読んだことのあるような話」です。新鮮味に欠けるし、「心の闇」とか謳っている割にはノワール方面の掘り下げも浅い。テーマ性を強く意識する読者にすれば、ひどく通俗的で薄っぺらく見えることでしょう。暴力描写も、過剰というほどではないにしろ全編に溢れていて野卑。これでもかというくらいにB級の雰囲気をまとわりつかせた作品であります。だからこそ、B級バイオレンスが好きな読者にはたまらない。馳星周の荒んだテイストと永瀬隼介の煤けたスメルをミックスしたような、引き込まれて一気に読める勢いがある。父親なのに一番娘のことを知らない、ということで関係者の証言から「藤島加奈子」という少女の像を構築していく流れは『火車』めいていますが、『火車』と違って本来それなりに緊密であるべき「父と娘」の両者が他人の如く隔てられている倒錯感は面白い。娘への執着が病的に昂じてほとんどストーカーみたいになってくるあたりも皮肉。失踪するまでろくに言葉も交わさなかったというのに。

 ヤクザを始めとしていろんな悪人が出てくるものの、主人公以上に「救えねえ」と思う奴がいなかったってのも凄い。「よりを戻そう」と思いつつ元妻をレイプしたりと、「行方不明の娘捜し」ってタイプのストーリーでこんなに感情移入できない主人公というのも珍しい。ゆえにむしろ、最後の最後まで離してくれない奇妙な引力を発揮する。暗黒太陽か。あと文章もこれがデビュー作とは信じられないくらいこなれています。「闇の深さ」を測るのではなく、「闇が単に闇でしかないことの虚しさ」を浮き彫りにする度し難い情念の物語。感情移入できないのに、なぜか主人公に肩入れしてしまう。個人的にかなり好きだけど、人に薦めるのは迷うところ。


2006-06-08.

・前々回に紹介した『空の剣』、主人公の男谷精一郎の師匠が平山子龍で、彼は「剣説」にて「剣術とは敵を殺伐することなり」と述べているんですが、直後にDMCを読んだら「殺せ殺せ殺せ、敵など殺せ! SATSUBATSUせよ! SATSUBATSUせよ!」と吼え猛る姿が目に浮かんできて仕方ない焼津です、こんばんは。何せ「地獄道場」の主ですからな……。

・海法紀光の『塵骸魔京〜ファンタスティカ・オブ・ナイン〜』『塵骸魔京〜ライダーズ・オブ・ダークネス〜』読了。

 昔、読んだコミックを思い出す。
 どんなヒーローもそうだった。どれほど変なパワーを持っていても。どれだけ凄い力があっても。なぜだか結局、最後の最後は。
 拳と拳で殴り合う。

「食らえ(テイクジス)!」

 ニトロプラスのソフト『塵骸魔京』をノベライズしたもの。最初は全1冊で刊行される予定だったのが、何らかの事情で分冊された。だから、要するに『塵骸魔京(前編)』と『塵骸魔京(後編)』。海法紀光は原作ライター・夜刀史朗の変名(というより、夜刀が海法の変名)という説が濃厚だけど真偽は不明。内容的にはほぼ完全にオリジナルで、これまた何らかの事情で原作には収録されていなかった牧本美佐絵のシナリオを補完するような形になっている。

 学校に通い、責任感ある委員長を務め、「普通」に憧れる少女は、改造人間だった。N9ファンタスティカ──製薬会社「ストラス」の研究によって生み出された強化実験体。全身を軟体化し自在に伸び縮みする能力を有した彼女には強固な洗脳が掛けられていた。否応もなくストラスに服従し、下される任務「人外抹殺」を黙々とこなす日々。が、ある日ふとしたことから洗脳が解け、脱走。本能的に目指した先は、九門克綺という名の、彼女が恋心を抱くクラスメイトの少年だった……。

 「牧本美佐絵=ファンタスティカ」は割とネタバレなんですが、この本はそれが前提になっているんでバラさなきゃどうにも説明ができません。感情の機微が分からない(つまり場の空気が読めない)少年・九門克綺と、表面上はしっかり者の委員長で実際は悲劇の改造人間という少女・牧本美佐絵の血臭漂うラブストーリー。というのが小説版の大枠です。原作では恋愛の要素が希薄だった分、唐変木な克綺が徐々に美佐絵へ心を傾けていくノベライズならではの展開が興味深い。上巻(ファンタスティカ・オブ・ナイン)は原作のストーリーを再構成しておさらいする部分が多く、既にプレーしている身としてはちょっと退屈でしたが、下巻(ライダーズ・オブ・ダークネス)に入ってから一気に加速して面白くなります。特にクライマックス、あれは本当に「おおお!」って感じですごく盛り上がりました。なんでこれが原作に収録されなかったんだ。残念無念。

 オリジナルストーリーなので、原作をやっていなくても別に問題ありません。ただ、これを読んだ後で原作に手をつけたらいろんな意味で「おいおい!?」って言いたくなるかも。繰り返しますが、原作は何らかの事情により牧本美佐絵シナリオが収録されておりません。あしからず。うーん、面白かったけど、やはりこれはゲームのシナリオとして楽しみたかった。CGやBGM、それにボイスが付けばもっとインパクトが増して熱くなっただろうに。ま、読めただけでもいいか。これであと恵のシナリオさえ補完されたら「未完成」と揶揄された塵骸魔京も体裁を保てるはず。ちなみに、今回ヒロインである美佐絵もさることながら、脇役に回った風のうしろを歩むものと雪典も位置的に美味しかった。雪典は原作での扱いが不遇すぎたせいもありますが。

・拍手レス。

 はじめまして、ブックレビュー参考にさせてもらってます。山姉いいですよねー。
 山姉はセリフがないシーンでもキモいお姉ちゃんの感情起伏が伝わってくる描写とか、ベリィグッド。

 冬の巨人、未定だとか…… 軍神の方が先に出るんじゃないっすかねーorz
 今の気分をリンクで表現するとこんな感じです。


2006-06-06.

『霊長流離オクルトゥム(仮)』はどうやら今年中に発売されることはなさそう。2007年か……まあ、ひとまず、企画がまだ生きていることに安堵してみる焼津です、こんばんは。田中ロミオ畢生の大作になるようなら2008年だろうとその翌年だろうと待つ所存。

・古川日出男の『LOVE』読了。

 感想を書きづらい作品。三島由紀夫賞を受賞し、いつだったかの新聞広告にも「品切続出!」と打たれていた。品川・目黒のあたりを舞台にした現代小説で、いくつかのエピソードが収録されており、それぞれ焦点となる事柄は違いますが一部のキャラなどが交錯する。形式としては連作に見えるんですが、作者本人は否定しています。「長大な短編」とかなんとか。実際、連作モノとしては話の関係があまり密接ではないし、かと言って短編集と呼ぶには漂う空気が似通いすぎている。一つ一つの話はちゃんと閉じていて、それぞれが微妙に繋がっていて、そのくせ全体としては一向に閉じていない。物語が終わっても作品世界は全然終わったりしない、ある種の強靭さが窺えます。

 特徴は古川日出男ならではの「自意識過剰」な文体と、複数のキャラクターが各々の思惑で個別に行動しておきながらも最終的には絡み合って一つの結論を出す構成。最近だと伊坂幸太郎や成田良悟で顕著に見られるスタイルかと。鴨肉を食べたから明日は自分の体がカモでできている→「カモが命じた、ガー、と」など、ごくナチュラルに変な説明を馴染ませる。軽妙かつ巧妙な語り部の口上と、進むにつれて加速しスクランブルする物事とがガッチリ噛み合い、一つの世界観を形づくるにまで至っています。

 「前作『ベルカ、吠えないのか』に対する猫的アンサーである」と書かれている通り、猫が象徴的な存在としてあちこちに顔を出すものの、全体を貫くストーリー性みたいなものは薄い。筋だけを追ってしまえば「あれ? 結局何の話なの、これ」となりかねません。パズルのピースから面白い図形のものだけを選りすぐって並べたような、全体像を掴み切るには材料が足りないけれど読んでいて面白い一冊。本当に感想が書きづらい。

・文庫化した『太陽の塔』を再読中。森見登美彦の文体に和む。ストーリーは京大生のダメライフを綴ったもの。くだらない内容と言えばそうなんですが、ダラダラと楽しむ分にはもってこい。そろそろ短編集もまとまらないかなぁ。


2006-06-04.

・最近まとめ読みしてハマった修羅場SSは「山本くんとお姉さん」(及び「山本くんとお姉さん2 〜教えてくれたモノ〜」)。こんばんは、すっかり嫉妬ヒロイン中毒の焼津です。「山本くん〜」はメインヒロインたるお姉さんのキモ姉ぶりが素晴らしく、また主人公の激烈な空気の読めなさも良い。彼はどこの九門克綺ですか? そして対抗馬に当たる梓や藤原さんもなにげに策士だったり腹黒だったりで当方ワクワクすっぞ。

・巷で話題の『デトロイト・メタル・シティ(1)』を読む。……ギャグ漫画だったのか。てっきり青春モノだと思っていました。デスメタルにハマった少年たちがことあるごとに「ファック!」「ファック!」と叫びながらギターで殴り合い、多大な流血を経て徐々に友情と狂気を深めていくようなノリの。いや、よく考えたらそれもギャグか。最初の数話はいまひとつ勢いが出てないけれど、途中から面白くなりますね。タンバリンをリズミカルに犯すシーンなんて空前絶後だ。「こんなバンドがやりたかったわけじゃない!」と思いつつもやめられない主人公、その二重性がなかなかに笑える。なにげにファンの連中もイカれていて楽しい。このままどんどんレジェンドを築いていってほしいものです。

・高橋三千綱の『空の剣』読了。

 副題「男谷精一郎の孤独」。「幕末の剣聖」と呼ばれた男を主人公に据えて描く、青春小説調の剣豪モノです。高橋三千綱は「名前を見聞きしたことはあるけど、作品についてはあまり知らない」というぼんやりした印象の作家で、読むのはこれが初めてに当たります。半端に見知っているような感覚がする作家ってのは、不思議となかなか手を出す気がしないもので、この作品についても存在自体は本屋で目にして認識していましたが、ほぼスルーしていて「いずれ読もう」とすら思っていませんでした。それが一転してすんなり読了となったのは、『天馬、翔ける』が中山義秀文学賞を取ったときにこれが候補作として挙がっていたからで、芋づる式に興味が湧いた次第。

 男谷精一郎、15歳──小躯ながら、「地獄道場」と恐れられた兵原草盧での厳しい修行に耐え抜いた少年。しかし、兵原草盧は閉鎖の憂き目に遭い、男谷も師の平山子龍から破門を言い渡される。鬱屈を抱えたまま3年半ぶりの実家に戻った彼は、心機を一転するために旅へ出ることを決意する。最終目的地は秩父、まだ会ったことのない実母が住むところ。供も連れず、たった一人で行く道の先々には様々な障害が立ちはだかり……。

 15歳の冬。ワン・シーズンのみに焦点を絞った長編です。だから当然話題として上ってくるのも男谷精一郎の少年期だけで、彼の生涯についてはほとんど言及されず、伝記的な内容にはなっていません。あくまで青春小説調。破門を宣告された男谷が、敬愛する師匠と会うことのできない状況の中で「一人旅」という突破口を見出し、そこを起点に成長していくストーリーは透明感が高く、清々しい。もちろん旅路が平坦なわけもなく、いろいろな厄介事が発生して起伏に富む。読んでいて飽きさせません。

 何より文章が良かった。時代小説だからといって古々しい雰囲気じゃなく、仰々しさを排して現代小説のノリに近づけている。全体的にゆったりとした筆致で緊迫感は薄く、伸びやかな表現をじっくり楽しむことができた。剣豪モノというと、こう、硬くて荒々しい印象を受けてしまいますが、そんな先入観をやんわりと否定するように紡ぎ出される文の一つ一つが新鮮。

 たとえば二章から三章にかけての、

 白刃は、秋月家の斜め向かいにある、本多肥後守の下屋敷の角を曲ったとたん、生きている光のように美しく伸びてきた。
 それは不思議な光だった。
 輝きの中に人の発する怨念が籠もり、白光はさらに伸びると黄金をちりばめたような赤色に変った。
 それが自分に向って突き出された抜き身の刀が、陽光を受けて反射したものだと気付いたのは、身を反転してかろうじてその切っ先から逃れたときだった。

 や、立ち合い稽古で「ドシン」と床を踏み鳴らして相手を威嚇ないし己を鼓舞した他流の門弟に、

 この人は、自分の未熟さを、ああいう形で表したのだ。
 それは稚ない方法だと精一郎は思った。だが、竹刀を構えて向き合ったときは、相手を見下す思いも、相手の技倆を怪しむ思いも消えていた。そこには、敵、がいるだけであった。

 と対峙するシーンなど、淡々と静かな流れの中でくっきりと輪郭を描き取る腕に痺れました。どんな状況であれ、剣を手にして立ち向かうならば一刀にて必殺するのみという境地。青春要素を絡めた剣豪小説としてはほぼ理想的なスタイルではないでしょうか。事件と事件が繋がっているようで繋がっていないような、どっち付かずのプロットにちょっと据わりの悪さを覚えたものの、スルーしないで良かったと安堵することしきりな一冊。がっつり気に入りましたので、前書きで触れられていた中村一心斎のシリーズも読んでみようかと。


2006-06-02.

・「まきいづみスレの住人さえはっきり聞き取ることができない」と評判の黒崎なつきサンプルボイス3を試聴。

 ……前半は「ああ、歯が当たってる〜」? 後半は……なんだろう、「はれえ、おりこんまで」? 結論、解読不能。人類はまだまきいづみの領域へ到達できないのだと痛感した焼津です、こんばんは。

『Dies irae(ディエス・イレ) Also sprach Zarathustra』、速報ページ開設。

 ジャンル表記に安堵。これが「学園伝奇バトルオペラ」の企画で合ってるんですね。今回も正田崇テイストは相変わらずみたいで、早くも期待がいや増すばかり。冬予定と言ってるからには、実際の発売は来年あたりになるかなぁ。

・ヤマグチノボルの『魔法薬売りのマレア』読了。

 ロードムービー調のファンタジー。ストーリー自体はいま一つ煮え切らないんですが、ヒロインの造型がすごい。「小生意気に見えて実はマゾ」という、ある意味で最終兵器な妹。「ぶん投げて。兄さま、マレアのことゴミみたいにぶん投げて……」と内心で呟いたりとか。これはツンマゾと呼ぶべきなのか、マゾデレと呼ぶべきなのか。どちらにしろ、兄へ傾ける愛の歪み具合はガチ。怖ろしい13歳が野に放たれてしまったのは疑いなきこと。あとはこれでヤマグチ特有のスラップスティック臭が濃いドタバタラブコメだったら最高でしたね……雰囲気順守みたいでチト残念。

・ついでに定金伸治の『制覇するフィロソフィア』も読みました。

 『とるこ日記』を別にすれば『ブラックランド・ファンタジア』以来の新作で、実に2年ぶり。この人もすっかり遅筆家のイメージが定着してきました。死人が出るほど厳しさで有名な「帝塾」を舞台にした学園モノで、ぶっちゃけ『魁!!男塾』を中心とした20年くらい前の少年ジャンプの世界。パロディであることを自覚した文章はたまにメタ方向のギャグを飛ばしますが、基本的にノリは能力バトルであってコメディではありません。「哲学」そのものを能力として闘う、ほとんど冗談みたいな設定を大真面目にやっています。「『実存は本質に先立つ』ッ! ゆえにサルトルキックは目的を超克しッ! 回避は不能だッ!」とか(いやこれは単にいい加減なネタで本書とは無関係なんですけれど)、本当にそんな調子で繰り広げられる。「死ね。しかし、美しく死ね」と死生観も凄絶。前半は割とゆったりしているのに、後半で展開がバタバタして強引な部分が目立ってしまうのは難点にせよ、続編が出ればますます面白くなるタイプの作品かも。

 ……ちゃんと続きを書いてるのかどうかは知りませんけど。一冊きりで終わったら男塾というより男坂ですね。

・今月の購入予定を一部。

(本)

 『冬の巨人』/古橋秀之(徳間書店)
 『ゼロの使い魔8』/ヤマグチノボル(メディアファクトリー)
 『ヤングガン・カルナバル ドッグハウス』/深見真(徳間書店)
 『女信長』/佐藤賢一(毎日新聞社)
 『時計を忘れて森へいこう』/光原百合(東京創元社)

 緊縮なんて知らん、買いたいものを買うまで。と開き直ってこの3倍は購入するつもり。書痴街道まっしぐら。『冬の巨人』は何度目の正直と言えばよいのやら。デモンベインのノベライズ『軍神強襲』も期待してますが、まずはこっちを読みたい。『ゼロの使い魔8』、前巻のクライマックスがツボで大いに盛り上がった。そろそろ新展開の兆しもあるし楽しみ。『ヤングガン・カルナバル』は今まで特に触れる機会がありませんでしたけど、実はかなり好きなシリーズ。今回の『ドッグハウス』で一旦区切りが付くみたい。ちなみに深見作品は『アフリカン・ゲーム・カートリッジズ』が最高と思っています。『女信長』、正直言ってタイトルはマヌーですけれど、佐藤賢一は最近急速に気に入ってきた作家なので突っ込んでみようかと。『時計を忘れて森へいこう』は「日常の謎」系統に属するミステリで、待望の文庫化。8年も掛かるとはさすが創元。そのくせ『さよなら妖精』は2年で文庫落ち。いかなる法則が働いているのやら。

(ゲーム)

 『SummerDays』(Overflow)
 『委員長は承認せず!』(Chien)

 注目はしていますが、ふたつとも熱烈に焦がれるほどの期待はないので、ひとまず様子見姿勢。サマデイは前作と違って修羅場なさそうな雰囲気ですし……まあ、その予想をあっさり裏切ってくれちゃう気もしますが。委員長〜は体験版が短かったせいもあって決断までは至れず。

・拍手レス。

 奇跡を起こすたびに使徒たちが「お美事」「お美事にございまする」と賞賛し、
 神殿で暴利を貪る商人たちを虎拳にて制裁。
 挙句の果てには磔にされても自ら釘を手から引き抜き、十字架を担いで笑みを浴びせつつ悠然と立ち去る
 別の意味で伝説になりそうな救世主像ですな。ダヴィンチ・コードもびっくりです。

 若メシアがかじき代わりに十字架を振り回したらハックルボーン神父と見分けが付かなくなりそう。


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