2006年1月分


・本
 『遮断』/古処誠二(新潮社)
 『傭兵ピエール』/佐藤賢一(集英社)
 『終戦のローレライ(上・下)』/福井晴敏(講談社)
 『超妹大戦シスマゲドン1』/古橋秀之(エンターブレイン)
 『とある魔術の禁書目録8』/鎌池和馬(メディアワークス)
 『血に問えば』/イアン・ランキン(早川書房)
 『双頭の鷲』/佐藤賢一(新潮社)
 『戦う司書と恋する爆弾』/山形石雄(集英社)
 『クライム・マシン』/ジャック・リッチー(晶文社)
 『電蜂』/石踏一榮(富士見書房)
 『逆襲の魔王』/三浦良(富士見書房)
 『鉄コミニケイション(1〜2)』/秋山瑞人(メディアワークス)

・ゲーム
 『RE:』体験版(S.M.L)
 『ゴア・スクリーミング・ショウ』体験版(BLACK CYC)


2006-01-30.

・書店で見かけた筒井康隆の新刊があまりにもバトロワすぎて変にワクワクしている焼津です、こんばんは。タイトルだけ目にしたときはもっとおとなしい内容かと思ってました。240ページ強なのに参加人数が50人超ってことを考えると展開は結構駆け足なのかも。

2005年下半期の2chライトノベル板大賞、結果発表

 投票所のレスを毎日読み耽っていたので、一番よく見かける「あれ」が来るだろうと睨んでいました。予想的中。「今期のイチ押し」と力を込めて挙げるような本ではないんですけど、枠があったらとりあえず入れておきたくなる一冊です。上位10冊のうち読んだのは5冊で、積読3冊、未購入2冊。1作ほど意外なヤツがベスト10に食い込んできて驚きましたが、おかげで崩すのが楽しみになりました。

『その横顔を見つめてしまう〜A Profile 完全版〜』、定価は税込7140円

 心底微妙な値段。フルプライス(9240円)にしなかった分だけまだしも良心的ですが、リメイク元の『A Profile』を積んでいる身としては迷うラインだ。先に車輪の国〜をやってから態度決めます。

・秋山瑞人の『鉄コミュニケイション(1〜2)』読了。

 実はずっと『鉄コミュニケーション』だと思ってました。初めて気づいたときの驚愕は地味ながらも筆舌に尽くしがたい。未だ「コミュニケイション」表記に違和感を覚えるくらいですから先入観というものは恐ろしいですね。あとたまに「鉄」をそのまま「てつ」と読みそうになります。

 メディアミックス作品としてアニメやマンガに続き刊行された本ですけど、もう何年も前だからどういった状況で展開されていた企画なのか記憶がおぼろげ。マンガ版も読んだはずなのに、内容をほとんど覚えていません。はっきり照合できたのはアンジェラさんくらいかな。アイシールドで両目を隠したポン刀姐さん。他のロボットをすべて忘れても彼女だけはくっきりイメージが残っている。つくづく己の趣味が底を晒しています。

 大規模な戦争によって世界中が荒廃してしまった未来。コールドスリープから目覚めた推定13歳の少女ハルカは、ひょっとすると人類最後の女の子なのかもしれなかった。5体のロボットに囲まれて生活している彼女は、みんながいささか過保護だと不満に感じていて、隙あらば一人で勝手に「冒険」へ繰り出してしまう。好奇心旺盛を具現したアグレッシブな姿勢が導いたのは、ルークとイーヴァという、街の外──荒野の向こうからやってきたストレンジャーズとの出会い。新しい友情の始まる予感だったが……。

 いつまで経っても新刊を出さない(『ミナミノミナミノ』から既に一年が経過)秋山瑞人。当方の手元に残った貯蔵はもはやこの2冊だけでした。これを読めば当分は瑞人成分を補給することはできません。著者の発刊ペースは不定期なること山の如し。それを崩すとなれば感情方面も切実で、中身に掛かる期待もいっそう大きいわけですが、いざ読んでみれば事前の期待をあっさり上回る面白さで、少なくとも向こう2ヶ月は新刊にありつける可能性がないなんてこともどーだってよく思えてくるほどハイになれました。原作のことはろくに覚えていないけど、作者が好き勝手に伸び伸びと書いているだろうことはビンビンに伝わってきます。そうでなきゃ賢者的役割のクレリックが「つまるところがアイザック・アシモフはクソして寝ろってわけですよ」とか言い出すハズがない。到底映像化できないようなシーンが混ざっていたりするハズもない。もう紛うことなく秋山節満開です。ミズヒト狂い咲き。

 話自体はそんなにスケールが大きくもないし、大戦争云々も背景設定としてこまごまと説得力を付加する以外には関わってこない。何が面白いかと言ったら細部でしょう。とにかく細かい箇所へのこだわりが尋常じゃありません。文明が滅亡しちゃってすっかり廃墟になっている街、なんていうありふれている割に実感からはかけ離れている舞台を身近に味わうことができるよう、ハルカの送る日々、取った行動、周りのリアクション、風景との対比、もったいぶった言い回しや婉曲な表現、直截すぎる断定といろとりどりの遣り口でコツコツ刻んで確たる肌触りを築いていく。技術的に巧いとかどうとか言うより、文章でしか迫れない「光景の鮮やかさ」を追求する、グッとのめり込むような角度が篭もった執筆態勢の深さに瞠目しました。下手すると行間に作者の息遣いすら感じかねません。何度も転んで傷だらけになりながらも書いたっていう異常な手応えが読めば読むほどに跳ね返ってきます。楽しくて仕方ない。

 今後、きっと、何度も読み返すことになるでしょう。社会主義カレーを讃えるために、トリガーくんの虚勢を微笑むために、「じんみんかいぎ」の叫びを胸に響かせるために、「やさしくしてね」と言うアンジェラ姐さんへ邪念を募らせるために。というかなんか、ヤバいくらいに可愛くないですか、この本。全体的に。


2006-01-28.

・「メガネの力で殺してやる!」に笑って思わず『ネクラ少女は黒魔法で恋をする』を購入した焼津です、こんばんは。該当部分はリンク先の「立ち読み」で見れます。それはそれとして、同日発売の『かのこん2』は開き直りぶりがすごいなぁ。これどこのエロ小説?

『Fate/stay night』DVD版、3月29日に発売

 内容に変更はないとのこと。どうもTOP絵からしてパッケージだけ変えるみたいですね。現在CD通常版がちょっとした品薄状態ってことだから、今後はこのDVD版がメインになるんかな。発売は04年1月なのに、ホロウ効果があったとはいえ去年1年間だけで3万本近く売り上げたというんだから本当、オバケみたいなソフトだ。

『塵骸魔京 〜ファンタスティカ・オブ・ナイン〜』

 リンク先の一番下ですが、本編やってない人にはちょいネタバレなので注意。話の路線はほぼ予想通り。オリジナル・ストーリーということでそれなりに期待したいと思います。けどイラストはにしーじゃないのか。しかしこれはこれでいいかも。

・うっかり忘れかけていた拍手レス。

 最近のムービーは妙に力入ってるのありますよねぇ。……肝心の中身は別として
 良質なムービーを見ているとつい中身も面白そうだと思ってしまいます。一種の洗脳かしら。

 クレイジーダイアモンドで
 仗助の髪型にまつわるエピソードは何かの伏線かと思ってたんですが、あれっていったい何だったんだろう。


2006-01-26.

・買った本を読みもせずただ眺めてニヤニヤするのは昔ながらの趣味ですが、最近はリストを眺めているだけでニヤニヤできるようになった焼津です、こんばんは。書痴が拗れております。

 あと、以前はひたすら厚い本を崇拝する大巻巨書主義を貫いていましたものの、段々と薄い本特有のシャープな魅力にも目覚めてきました。ハードカバーで薄い奴となれば当然コストパフォーマンスは悪く、それゆえに却って無駄な高級感を堪能させてくれる。100ページちょいで千数百円とか最高ですね。発行部数が少なくて2000円近かったりするともうたまりません。更に聞いたこともない作家名や出版社名だともはや博打魂が炸裂しそう。実際にはまず買いませんが。でも書痴の根本には「自分が知らない本への憧れ」が常にあるのだと思います。

・三浦良の『逆襲の魔王』読了。

 勇者はたった14歳の少女だった──だのに、魔王は敗北した。一瞥で万軍をも屠る強大な魔力はまるっきり失われ、傍らに残ったものは一人だけの忠臣。屈辱の日から4年。傭兵に身を窶しながら復讐を誓う元魔王に対し、少女サラは勇者の役割を捨て去って新たなる魔王として魔物たちの頂点に君臨するや、あっという間に人間界を支配してしまった。勇者から魔王へ、魔王から人魔を統べる皇帝へと成り上がっていったサラ。しかし誰が知るだろう。実のところ、彼女は元魔王の男に恋をしていたのだ。復讐心を燃え上がらせる男と、恋心をひた隠しにする少女。ふたりの再会は目前に迫り……。

 プロローグを読んでまず思ったこと。「魔王、超YOEEEEEEEEEEE!」。思いっきり余裕ぶっこいていた野郎が5ページ目でもう負けてるんですよ。具体的に魔王のどのへんがどう強いのかまったく示されることなく終わってるんですよ。いくらなんでもあんまりです。そんなこんなで導入部分がほとんどギャグみたいになっていてリアクションに困りましたけど、いざ本編に入ってからの展開はなかなか。魔王時代は策を弄する手間もなく圧倒的なパワーで敵を一掃してきた主人公が、落魄後は魔力スッカラカンの状態で知謀と機転を巡らせて辛勝していくスタイルに変更するあたりなど、「弱さを受け入れて強さに変えていく」という感じでワクワクする。ヒロインは皇帝陛下としての威厳を保ちながらも、主人公と目が合っただけで胸を騒がせるほどの「恋する乙女」ぶりを発揮していて微笑ましい。このふたりが出会っちゃったらどうなるのか。その興味に意識が集中し、読んでいる間はとにかく先が気になって仕方なかった。

 一応は異世界を舞台にしたハイファンタジーで、テーマも「復讐」ですけれど、案に相違してダークファンタジー的な色合いは薄いどころか皆無。決して「明るい」とは言えないにしても、各々があくまでポジティブに己の信念を貫こうとするノリに関しては一切くすんだところのない熱血譚であります。また世界にまつわる設定とか魔物についての説明は極力省き、ヒロインと元魔王の対決構図に全力を注ぐ姿勢を取っている狙いは明らかに「シチュエーション重視」でしょう。辿り着く先は殺し愛か、相死相愛か、修羅の恋か。詳細はもちろん伏せておきますが、とりあえずクライマックスでやたらと盛り上がることだけは言及しておきます。

 文章はそんなに粗さを感じなかったものの、文と文との繋がりでちょっとテンポが悪いような箇所はあったかな。若干気取った書き方をしていて、それがいまひとつ板に付いてないような。『電蜂』とはまた違った意味合いでこなれていない印象を与えます。だけど話の引っ張り方や見せ方は面白いです。やっぱり設定勝ちしているし、新人ならではって熱意が篭もった語り口で壮絶な心理戦を描き切る粘り強さも見受けられ、読むのが単純に楽しかった。次回作にも期待できそうだ。今年は好みの新人を立て続けに引いて幸先が良いです。


2006-01-24.

・なんとなく、去年デビューしたライトノベル系の新人を数えてみたら50人を超えていてビックリした焼津です、こんばんは。何かの新人賞を取っている作家だけでも30人くらいはいるし、はっきり言って作者名と作品名と賞名が頭の中で繋がらない状態……。

第2回『Fate/stay night』人気投票開始

 まだ先だと思っていたのにもうスタートしていました。思い返せば先週、ライブドア騒動が始まったあたりから告知されていましたね。早速投票してきた次第。前回投票したのとは違うキャラで、というか、二票ともホロウで登場した新キャラに入れました。正直あまり伸びるとは思えない面子ですがまったり結果を待とうかと。

・石踏一榮の『電蜂』読了。

 反射的に「死ぬがよい」とか言いたくなるのをグッと我慢しなければならないこのタイトル、意味は「電話でドンパチ」。つまり携帯電話を使ってバトルを繰り広げるって内容を表しています。携帯電話でどうやって戦うのか。そのへんを詳しく書くのは面倒だし興趣を削ぐことになるかもしれないので割愛しますけど、「PK」という言葉を使っているあたりなど、世界設定のベースにオンラインRPGがあることは明白。同じ「ゲーム」を題材にしたライトノベルは『クリス・クロス』が有名で、読んでいて少し連想するところもありましたけど、最近の作例で言えば『リアライズ』の方に似てるかな。いえ、ライトノベルではないんですが。うえお久光の『シフト』も同系統の匂いがありますがまだ読んでいないので何とも言及できず。そういえば『リアルライフ』って作品もあったっけ。

 何の前触れもなく、スパムのように送られてきた招待メール。「Innovate」という見たことも聞いたこともない謎のゲームへの参加を促す本文に興味を惹かれ、つい軽い気持ちで登録してしまった。一旦登録すれば、降りることは不可能になるとも知らずに。「命を落とすこともあります」という注意書きの通り、安全どころか死ぬ危険さえ付きまとうゲームの世界へ足を踏み入れた少年。訳も分からず襲われたりしながらもパーティを得て順調にレベルを上げていく彼は、Innovateの正体が気になって仕方なくなるが……。

 基本的に仲間との協力を前提としたルールであってバトルロイヤル臭は薄く、「殺し合い」の雰囲気こそないけれど、油断すれば命を落とす。割と容赦のないストーリーです。殺したり殺されたりしない程度に戦って経験値を稼ぎレベルアップするのが要。何せクリア条件は「レベル100に到達する」ですから。印象としてはRPGから旅要素を排除し、代わりに能力バトルのエッセンスを盛り込んだ「ライトノベルらしいライトノベル」といったところ。文章は簡素というかむしろ、うーん……はっきり言って新人らしい粗さが目立ちます。視点にしろ説明にしろ構成にしろ、安定感に乏しい。物語のつくりに端整さを求める向きには辛いかもしれません。変に背伸びをせず、自分に手が負える範囲で一生懸命描こうとしている姿勢には好感が持てるにしても、アイデアの詰め込みすぎで崩れたバランスをフォローし切るには至っていないので据わりの悪さは依然残る。正に「新人らしい新人」です。

 だが、それでもなおストーリーテリングを完遂しようとする情熱が伝わってくるくらい内容は素晴らしく、いくつかの難点に目を瞑れば「荒削りの良作」として堪能できる仕様になっています。当方が難点として感じたのは、話をスムーズに進行させるためかいささか設定が御都合的で「無理に現実世界を舞台にすることもなかったような……」と疑問を抱かされたことが一つと、もう一つは単純にバトル描写が白熱しないこと。これらのおかげで前半はちょっと退屈だったものの、クライマックスに差し掛かってからの畳みかけはスリリングで一気に引き込まれました。引いた伏線をキチンと回収したうえでサプライズに結び付けており、あくまで「荒削りの」ではありますが、しっかりと面白さを発揮しています。敢えてこう来るか、とワクワクさせられる。

 小さくまとまるよりガツンと一撃に懸けてくる方がいい──荒削り偏愛気味な当方の嗜好で判じれば、充分「あり」と言える内容でした。登場人物たちが「こいつはクソゲーだ」と愚痴を垂らしながらもハマっていくあたりは皮肉というか業の深さが染み入ってくる。いくつか消化しきれなかった要素もありますけれど、だいたいが片付くように片付いたので続編は出ないかなー、と思いますけど。どうなんでしょう。ともあれ、久々に「新人らしい新人」の「ライトノベルらしいライトノベル」が読めて楽しかったです。決して出来がいいとは請け合えませんけど、こういうノリを愛しく感じるのは確か。


2006-01-22.

『白夜行』、120万部

 直木賞受賞に続いて東野関連のニュース。ドラマ化が追い風となってミリオンの壁を突破した模様。売上の半分以上はドラマ化が発表されてからということで、その効果を実感せずにはいられません。個人的に作者のベストと思っている作品だけになんか嬉しい話です。……ドラマは全然見ていませんが。部屋にテレビがないのでつい見忘れてしまう。

PULLTOPの『遥かに仰ぎ、麗しの』、WEBページをプレオープン

 雑誌で情報公開されていたとのことでタイトルは聞き及んでいましたが、まさかこんなに早くネットでの告知が始まるとは。藤原々々の絵もさることながら、シナリオを手掛ける丸谷秀人と健速が個人的に好みのライターであるだけに期待が膨らみます。

・ジャック・リッチーの『クライム・マシン』読了。

 日本語の本として作品がまとまるのはこれが初めてですが、長年「短篇の名手」と呼ばれ有名な作家だったようで。恥ずかしながらこのミスで海外編の1位を取ったと聞いて初めて名前を知りました。雑誌やアンソロジーの類を滅多に買わないため、どうしても短編のチェックが疎かになってしまいがちな自覚はあり、評判の良い短編集にはとりあえず手をつけてみることにしています。ジェラルド・カーシュはあまり肌に合わなかったものの、デイヴィッド・イーリイの『ヨットクラブ』はツボに入って嬉しかった記憶がある。このミスの歴史を紐解いても短編集がトップに来たのは国内だと『ミステリーズ』『奇術探偵 曾我佳城全集』くらいで、海外編ではこの『クライム・マシン』だけ。弥が上にも期待が盛り上がりました。

 作品は17編を収録。「タイムマシンを発明した」と言い張る男と殺し屋の会話から始まる表題作が一番長く、他は20ページ前後とか、中には10ページを切るものもあって短編というよりショートショートの感覚に近かったりします。解説でも触れられている通り作者の文体は非常にストイックで、徹底して無駄な描写を削ぎ落としている。ただ削ぎ落としたと言っても結果としてペラペラに薄い代物となっているわけではなく、軽量化を計りながらも紡ぎ出す一撃一撃の重さは不変で、ムエタイ選手みたいなみっしりとした密度が篭もっています。最後の一行、ワンセンテンスでけりを付けるために余分なものはあらかじめ外している。サプライズ重視の短編を読むときはどうしても結論を急いでしまうというか、オチに意識が行ってしまってついつい過剰に「先読み」をしてしまいますけど、そうした読者の焦りにも似た心情さえ無効化するように作者の構えは磐石。十手先を読んだつもりが三手で詰めを迫られるなど、予想を超えたテンポの良さが気持ちよくて「あとちょっとだけ」と思いつつも最後まで読み切ってしまいました。

 ストーリーテラーとしての自信を持った人はどうしても話のオチに全力をかける傾向があり、オチの威力を増大させようとして無闇に説明がくどくなってしまうこともままあります。そうした饒舌さのおかげでオチから炭酸が放出されてしまい、気の抜けたビールとなれば本末転倒もよいところ。ジャック・リッチーはどうかと言えば、さりげない顔つきで缶を振るやおもむろにプルトップを引き上げるような、逆にもっとのんびりしてほしいくらいのノンストップかつ緊急離着陸的語り口です。慌しい印象こそないけれど個人的に「無駄を削ぎ落としすぎ」と感じる箇所もあって、オチが分かりにくいとか、本当にオチてるのかと疑問を抱く作品もありました。とはいえ「日当22セント」や「殺人哲学者」に見られる軽快さは抜群で瞠目に値します。設定の妙+文体のキレ。短編ミステリの理想型を叶えている。

 それとシリーズ作品もあり、ターンバックルものとカーデュラもの、両方かなり面白い。これらの作品だけを集めてそれぞれ本にしてもらいたくなった。深読み探偵のターンバックル、明言はされていないにしても誰が読んでも「こいつ○○○だろ」と設定に言及したくなるカーデュラ、どちらも単独の連作集として刊行されればより一層はっきりとした魅力を捉えられるかと。ってなわけでなかなかの収穫な一冊でした。出来は業師ですが内容そのものは地味めなので、派手に喧伝して回りたくなる本ではありません。「最近短編集とか読んでないな」なんてふと思った時に読むとちょうどいい気がします。この調子なら恐らく今後も続々とリッチー作品が本にまとまっていくことでしょうから、実に楽しみ。

 余談。「歳はいくつだ」のチケットを破られてすごすごと帰っていく親子の姿が想像するだに切なくて身悶えします。直前まで自信と余裕に溢れていた父親とか、娘たちの「どうしたのパパ?」視線とか、もう考えただけで遣る瀬無くてたまりません。娘が一人ではなく二人いるというのも何気にポイント高い。


2006-01-20.

ねこねこソフトの休止宣言が割と素でショックな焼津です、こんばんは。格別ファンだったわけじゃありませんが、それでも次で最後かと思うとやっぱり寂しい……『White』のまどか先輩が好きだったなぁ。

・山形石雄の『戦う司書と恋する爆弾』読了。

 第4回スーパーダッシュ小説新人賞 <大賞> 受賞作。そろそろ2巻目が発売されている頃でしょうか。「間に合わない」と思いつつもなんとかギリギリで積みを崩すことができました。人間が死ぬと長い時を経て『本』となる世界を舞台に、最高の戦力を持つ「武装司書」と、存在を知ることすら禁忌とされる邪教「神溺教団」が争いを繰り広げる。主人公は体に爆弾を埋め込まれた、メガンテ以外の技能を持たない特攻雑魚。何の取り得もないキャラですが一応主人公なのでそれなりに活躍の場が用意されているし、空気化は免れています。

 ハミュッツ=メセタを殺す。それだけが「人間爆弾」コリオ=トニスの目的。彼は仲間の「爆弾」たちと一緒に武装司書ハミュッツのいる町へやってきた。しかし、仲間のひとりが体調を崩し「誤爆」してしまった日を境に状況が狂い出していく。ひょんなことから出会った『本』の欠片。「常笑いの魔女」という異名に反してほとんど笑みを見せない女性の記憶に触れ、コリオの感情は変化する。ハミュッツ=メセタを殺す。本当に、それだけが彼の目的なのか……。

 細かい設定はいろいろと出てきますが、どちらかと言えば緻密な世界観を紡ぐためというよりも単に雰囲気を醸すことを狙いとしている節があります。ファンタジーげな頽廃ワールドは前嶋重機の仄暗いイラストと合致していてグッド。シニカルでブラッキイな要素を滴らせているにしても、悪趣味な面を露骨に強調したりとか、センス・オブ・ワンダーな部分を激しく主張したりするような暑苦しいところはない。基本的に淡々と話を進めて何気ないところでポロッと個性をこぼす。このポロリズムがなかなか心憎い反面、いささか淡々としすぎて退屈に思えるシーンも多少見受けられました。良く言えば長さを感じずにスラスラ読めるのですけど、悪く言えば分量の割にあまり大した読み応えがない。ちょっと薄味ですね。

 ただ、話自体はシンプルにまとまっていて面白かった。あえて世界背景を掘り下げず「雰囲気」の域で留め、主人公とヒロインを的に絞ったシチュエーション重視のつくりで特殊なロマンスを成立させる。ある意味、これもボーイ・ミーツ・ガールでしょう。想う少年と、想われるだけではないお姫様。もっとえげつないくらい濃厚に二人の関係を描き込んで欲しかった気もしますが、あくまで甘さを控えた展開は「恋する爆弾」というユーモラスでいて悲哀を漂わせるタイトルに相応しい潔さです。尾を引かずにきっちりエピソードを完結されている。

 本書一冊のみに限れば「傑作」とまで謳うのは躊躇いを覚えますけど、これからの成長や進展を期待すれば充分に推せる内容。続編も楽しみ。


2006-01-18.

東野圭吾が直木賞受賞

 遂にですか……本当に待望っスね。今回は作品の出来もシャープで良かったし、ランキングで三冠達成したし、版元が文春だし、来るとは期待していましたけど実際に受賞の報せを聞いてホッとした感じ。長年「相性の悪い選考委員がいて受賞は絶望的」とか言われていただけに少しジーンと来ました。しかし推理作家が直木賞を取ることは何度かあったにせよ、こういうトリック重視の本格で獲得するのは珍しい模様。そういえば一時期騒ぎになっていた「本格か否か」の議論はどうなったんだろう。

 『白夜行』もドラマ化で話題を集めているし、近々書店が東野フェアを大々的に打ち出すのではないかと予感してみたり。

ケロQ、『陰と影』情報更新

 噴いた。今年に入ってなおいつ出るんだか分からない空気が続いている陰影ではありますが、地味〜に期待を抱いていく所存。

・佐藤賢一の『双頭の鷲』読了。

 14世紀の英仏百年戦争を題材とした小説。厚い、長い。文庫版は2冊に分けられていますが、ハードカバーで出た当時は1冊にまとまっていました。中身のボリュームで言えば上中下と3冊から成る『二人のガスコン』とほぼ一緒。3冊分の本と釣り合うだけの容積を持った話が全1巻に篭もっているわけですから、その威容たるや適当な場所に置いておくだけでも相当の迫力を放ちます。もしこれで内容がつまらなければウドの大木もいいところですが、いざ手をつけてみれば読んでも読んでも終わらない長さがなんとも頼もしくて心地良い。これぞ大長編、これぞ歴史ロマンといった塩梅です。

 ベルトラン・デュ・ゲクラン。膝まで届く長い腕とまんまるの異貌を持った男。出自は貧乏貴族に過ぎず、立ち振る舞いも粗野なことこの上なかったが、彼は自ら吹聴する通りに「戦の天才」だった。アングルとの戦いで疲弊するフランスにおいてこの不世出の英雄を見出したのが「賢王」シャルル五世。文弱と蔑まれてきた王家の若者は、子供がそのまま大きくなったようなデュ・ゲクランを起死回生の一手として使いこなす。悪童と呼ばれた少年時代、黒犬と恐れられた傭兵時代を経て、軍神と崇められるにまで至ったデュ・ゲクランの想いとは……。

 本書を読んで初めてその名を知りましたが、ベルトラン・デュ・ゲクランは実在の人物とのこと。架空の傭兵を主人公に据えた『傭兵ピエール』とはこの時点で趣を異にします。同じ百年戦争モノとはいえこっちは14世紀、ピエールは15世紀と時代が違いますし、物語上リンクするところもないに等しく、「姉妹編」というどこかよそよそしい響きの言葉が両書の関係を表す妥当な線かと。今回は多視点形式で綴ることによって群像劇の色合いを強める一方、30年くらいのスパンを用意して歴史の動きを追っていくため、「百年戦争時代のフランス」そのものが俎上に乗っている印象を受けます。当時の知識が皆無に近いので把握に苦労するところもありましたが、「壮大な歴史ロマン」の雰囲気を味わえただけでも充分な収穫。

 また中世への造詣が深い割になぜか劇画調の野卑なセリフ回しを多用する佐藤賢一の作風は健在です。デュ・ゲクランという主人公のキャラも相俟って戦乱の時代であるにも関わらず朗らかでユーモラスなストーリーを紡ぎ出している。このへんの読み口は先月読んだ『一夢庵風流記』に近い。戦争を手玉に取るのは得意なくせして政治的な駆け引きがまるでダメ、あげく女にも弱いというデュ・ゲクランは傾奇者というより拗ねた子供そっくりで、苦手な事態に遭遇すれば途端にそっぽを向いて「あー面倒くせー。俺もう知らね。好きにやれば?」という意思表示のパフォーマンスを露骨に始める姿は苦笑を誘いますけど、型破りな男が仕えるべき主君を得て躍進していく痛快さには胸がスッとする。とは言ってもひたすら痛快な内容ではなく、いっそ滑稽なぐらいの窮地が立ち現れるシーンがあり、思うがままには生きられない人の不自由さを描きながら「それでもなお足掻くこと」の意味を力強く叩きつけてきます。佐藤小説は「絶望的」であることを単に「絶望」としない信念の硬さを泥臭いほどの筆致で書くんだから楽しいし、いつまでも読み続けたいと思わされる。

 序盤はなかなか目を惹く場面がなくてちょっと退屈したこと、期間が長いせいもあってところどころで話が端折られていること、群像劇の様相が強いからか「ピエールとジャンヌ」に匹敵するほどのロマンスが見受けられなかったこと、血沸き肉躍る合戦描写が控え目なこと。それなりに不満な要素もあり、あくまで個人的な好みで言えば先に読んだ『傭兵ピエール』の方へ軍配を上げたい。とはいえ「読み応え」の点では劣るどころかむしろ勝っており、作品の質を云々すればこちらがよりお薦めであるかもしれない。うーん、甲乙付けがたいです。強いて書けばロマン重視なら『双頭の鷲』、エンターテインメント重視なら『傭兵ピエール』ってところでしょうか。端的に言えば両方推したいですね、もちろん。


2006-01-15.

・あ、そういえば『ひめしょ!』のお返しディスク、締め切りが明日だ。土壇場で気づいた焼津です、こんばんは。

『ゴア・スクリーミング・ショウ』の音声付体験版をザッとプレー。

 気になっていたソフトではありますが、OHPのストーリーやデモムービーを見るかぎりではなんかグチャグチャしていて実際どんな話なんだかさっぱり感触が掴めなかったから態度を決めかねておりました。大雑把にやってみたところでは伝奇っぽい味付けのサスペンス・ホラーって具合でしょうか。「人喰い鬼」という大昔の伝承が、現代の失踪事件に結びついていく……みたいな。結構オカルトな展開もあるようで、どこまでテンションが上がるかは未だ読み切れません。

 一応前半では三人のヒロインと平和な日常を過ごしておいて、後半に差し掛かった途端それが突き崩されていき、途轍もない落差が襲い掛かってくる寸法。エグいネタをやらせたら容赦がないBlack Cycだけにいろんな意味で不安です。演出の効果はバッチリで、少なくともホラーとしては鉄板な印象がありますけど。

 で、やっぱり一番気になるのはタイトルにもなっている怪人「ゴア・スクリーミング・ショウ」。獅子舞みたいな格好をしてボイスチェンジャー風の声でまくし立てる彼(?)自身については体験版でもほとんど、というより「一切」触れられていない。普通に考えれば悪役であり黒幕なんでしょうけれど、それでもやたらと気になります。ゴアが喋ってるとなんだか胸が苦しくなる。恋?

 エロゲーでダークな雰囲気のホラーってのはやはり珍しいし、注目したい気持ちがあることは確かです。しかし、今年も毎年恒例の──つまりまだちゃんと果たされていない「積んでいるものを崩す」という目標を達成するために馬謖斬りマインドで様子見の姿勢を取ろうかと。さて、新作を買う代わりにそろそろ何か積ゲーに着手しなきゃ。

・イアン・ランキンの『血に問えば』読了。

「軍隊は人を殺す訓練をするだけで、民間人に戻る前にそれを白紙に戻す作業は何一つやらない」

 イギリスはエジンバラを舞台にした刑事小説。リーバス刑事を主人公にしたシリーズとしては14冊目に当たる。ポート・エドガー校で起きた発砲事件は三名の死者と一名の怪我人を出した。うち一人は学園に侵入したリー・ハードマン──元軍人の男。彼はこめかみを撃ち抜いて自殺したのだった。事件は終着したかに見えたが、犯行の動機や経緯が判明しないかぎり民衆は納得しない。リーバス刑事はハードマンと同じく軍歴を持っており、その共通点から管轄が違うにも関わらず捜査の協力を要請される。事件を探るリーバスの行く手には軍部の影が立ちはだかり、捜査に横槍を挟む。また銃撃事件とは別に発生した火災で焼死者が出ており、直前その家にリーバスが訪問していたこと、彼が両手に火傷を負っていることから嫌疑が掛かり、いつ停職処分を喰らっても不思議ではない状態に陥った。それでもなおハードマンに己の身を重ね、没頭していくリーバス。彼が辿り着いた真相とは……。

 「孤高の刑事」という類型的なヒーロー像を、あくまで格好良くないタッチで描いています。両手がうまく使えないので「孤高」と言いつつ周りに助けられてばかりですけど。タバコすら一人では満足に吸うこともできないので様にならないことしきり。身内から疑惑の視線を向けられてものらりくらりと追及を躱して捜査を続けるリーバスのふてぶてしさが面白かったです。最初は単純に見えていた事件がだんだんと根深い代物であると判明してくる展開は堂に入ったもので、原稿用紙に直せば900枚は行く長さを苦痛に感じさせることもなくスラスラと読ませるくらいテンポが良い。もっとこう、リーバスやハードマンの抱えた「心の闇」みたいなものへ分け入っていくハードでダークでヘヴィな内容を予想していましたが、「元軍人」的な暗い部分を覗かせるシーンはいくつかあったもののハードボイルド式にあっさり流しているせいで大して尾を引かない。読みやすい反面、パンチの弱さが不満として残る。話も風呂敷を広げた割には畳み切っておらず、やや消化不良なムードが漂っていますし。

 リーバス刑事シリーズを読むのはこれが初めてであり、感触としてはまずまず。最近刑事小説に飢えていたので、多少の物足りなさはあったにせよ充分楽しめました。一応ポケミスの頃から注目していたシリーズなんですけど、「表紙の区別が付かない」「側面がなぜか黄色い」「そもそも売ってる本屋が少ない」というポケミスには若干程度の苦手意識があって、なかなか手に取る機会がありませんでした。そこにきて版型の変更と表紙のイラスト付与。旧来のファンには不評にしても、個人的には購入に踏み切るキッカケとなりました。他の作品もポツポツと読んでみることにします。


2006-01-13.

・今更ながら『いただきじゃんがりあんR』のOPムービーを拝見し、度肝を抜かれた焼津です、こんばんは。何度リプレーしても見飽きないあたりがすごい。あと最近は『春恋*乙女』のデモムービーもことあるごとに繰り返し視聴しています。エロゲーのデモで気分転換。言葉にすると締まらないこと絶頂だなぁ。

『とある魔術の禁書目録8』読み終えましたが、今回はかなり番外編の様相が濃かったですね。本も薄いし。おかげで日常シーンも減り、本編以上に日常の掛け合いを楽しみとしている当方は残念がることしきり。けど扉絵や導入を見る限りでは百合ん百合んな雰囲気のくせしていざシリアスへ突入すれば途端に熱血モードとなっちゃうのは鎌池のサガか。あと今回主役を務める白井黒子はある意味当麻よりはっちゃてると思う。こんなに弾けた子だったとは。あんな可愛い顔して……(*´Д`)ハァハァ

『PRINCESS WALTZ』、延期(2月24日→4月21日)

 「オルタ、おまえは出ろ。おれは飛ぶ」というセリフが聞こえるのは幻聴ですが、それにしたってこんなに延びるとは。これで更に延期ソフトが足を並べたりして「2月24日が激戦区の名を失うのはまさにこの夜である」とならなきゃいいけど……。

・遅れ気味ですが拍手レス。

 オカマのディープキスとは、すなわち準とのちゅーですね!ですよね!
 準はヤるときはヤる子ですから喰らいついたら離れないでしょうねぇ。

 傭兵ピエールは小説版漫画版両方読んだんですが、本当に泥臭いというか汗臭いというか、生々しくて
 濃いい臨場感が味わい深かったですな。(sf)

 あの汗臭さ&泥臭さは最近だと長谷川哲也を連想します。というか読んでる間のイメージは長谷川画風。


2006-01-11.

『魔人探偵脳噛ネウロ(4)』を読み、「反吐が出るほど嫌い」の元ネタを確認した焼津です、こんばんは。ぶっちゃけあのネタってもろにネタバレですが、ドーピングコンソメスープ同様そんなことがチラリとも気にならない強烈さ。さりげに主人公の大食いも化け物的なゾーンに突入しており、ネウロと主人公の共通点である「食欲の旺盛ぶり」が今後どうなるのか少し気になってもいる。

・そしてエロゲー界の逃げ水、『マブラヴ オルタネイティヴ』も遂にマスター盤の納め時みたいです。今宵はめでたき日にござる… めでたき日にござる… 

・あと『サバト鍋』の一般販売も日取りが決まったようで。2月3日。月末に発売するソフトと合わせて購入しようかな。「竜†恋」や「戒厳聖都」の評判いいみたいだし楽しみ。

いただきものコーナー犬江さんより頂戴した2006年の年賀絵を格納。エセルドレーダはめんこいのぅ。飼いたいのぅ。むしろ飼われたいのぅ。犬耳着物ロリ逆調教地獄変2006。おまえは這え、おれはお座りする。

 私信ですが、以前使っていたメアドは文字化けが起こりやすかったので去年あたりからYahooの方に変更しました。旧メアドの方も未だにスパムメールが届くのでたまにログインしては掃除しております。

・古橋秀之の『超妹大戦シスマゲドン1』読了。

 妹たる(Immortal)……不死身の、不朽の、滅びぬ、永遠の。

 ひょんなことから預かる経緯になったジェラルミンケース。中にはチョーカーとパッド状のコントローラーが収納されていた。生まれつき好奇心旺盛でしかも迂闊気味な妹・ソラは警戒心ゼロの気安さでチョーカーを首にはめてしまい、元来「妹いぢり」を趣味としている偏愛家の兄・サトルが握るパッドによって好き勝手に操縦されるハメとなる。兄の愛が妹の身に注がれることによってその力を何百倍にも高める「イモートロン・システム」──妹テクノロジーの結晶を手にしたふたりは秘密組織「プリオン」に目をつけられ、白昼堂々襲われた。振りかかる火の粉は払うまで。しぶる妹を強引に操作して繰り広げられるバトル。さあ戦え、妹よ。己が身の限り、兄の愛が尽き果てるまで……。

 アホなタイトル、アホな企画。それらをも凌駕するアホなストーリー。アホの三位一体と化した大河兄妹物語、ここに開幕であります。正にデウス・エクス・アニキ。内容に関しては前々から小耳に挟んでいましたし、作者サイトに置かれた高橋メソッドによる宣伝で目にもしていました。けれどそれでもなお実際に読んでみると「ひょえ〜」の一悲鳴に尽きる。格ゲーみたいに操作される超人妹やワイルド・ソウルを炸裂させる野獣ネコミミ妹はまだしも、「這い寄る純情」の邪神妹や「SUPER SONIC SISTER」の可変航空妹など、たとえ思いついたとしても実戦投入はためらわれる奇妹たちを惜しげもなく登場させ、ノリノリで活躍させるあたりは古橋秀之の面目躍如といった呈。無駄をなくして絞り込まれた映像的描写は脳内を席巻し、読んでいてアニメ版『シスマゲドン』が妄想放映されるくらいの完成度を誇っていて、異常な設定さえ飲み込めば極上のエンターテインメントに化けるだけの素質を備えてします。げに恐ろしきは古橋の器用さ。真面目に企画を遂行しつつ思いっきり自分の趣味で捻じ曲げていく豪腕ぶりに呆れの念さえ湧いてきます。これぞ業腕。これがフルハシ・デザイア・リリース・フェノメノン。

 後半から始まる妹グランプリ「S-1」は予想以上にド派手で一種のスペクタクルに達しており、さすがにあそこまでやるのは時期尚早というか2巻半ばあたりまで後回しにして、今回はひたすら前半のテイストで押し切った方が良かった気もします。いきなりインフレモードになってますし。企画の都合なのか古橋が戯れのできぬ男だからか、理由が判然としませんが……ひょっとすると、これってそんなに長く続かないのかも。というか古橋作品って諸事情から長く続いた試しがないような。良くも悪くも短期決戦型の人です。

 滲み出る「やる気」は『ブライトライツ・ホーリーランド』等、過去の作品と比べても劣るところがありません。見た目がアホらしくても作者が本気であることはビンビン伝わってきます。端役すら味のあるキャラがいてときどき主人公を食ってしまうほど個性を発揮するのがアレだったりしますけど、問答無用におもしろおかしい話を希求している方々へ是非ともプッシュしたい1冊。にしても、キャシィの容姿が別の意味で「邪神」にしか見えないのは当方のみであろうか。ちなみに当方はアマゾン・リターナー獅子神エリコが大のお気に入り。ザ・野性の証明。


2006-01-09.

 休日を削って読んだ。そうさせる力が、彼女(ローレライ)にはあった。

・というわけで福井晴敏の『終戦のローレライ(上・下)』読了(リンクは文庫版の1)。

 いきなり帯文(「人生を削って書いた。そうさせる力が、彼女(ローレライ)にはあった」)のパクリから書き始めてしまいましたが、実際風邪をひいて体調不良になったこともあって、これを読みながら養生しているうちに連休は終わってしまいました。養生にはとても向かない内容ではありましたけど、不満の類は一切ありません。にしてもこの帯文(ハードカバー下巻初版)、後ろに書いてる文章が明らかにネタバレな気が。

 1945年8月。かつて極秘のUボートとして連合国軍を散々に翻弄してきた潜水艦「UF4」は帰るべき祖国が降伏し、仕方なくその身を日本に寄せた。異常な妖気を漂わせて「日本にあるべき終戦の形をもたらす」と嘯く浅倉良橘大佐が絹見に下した命令は、その船に乗って海に沈んだ秘密兵器を回収すること。UF4から「伊507」と艦名を改められた潜水艦に乗り込む皇軍兵士たちは任務の機密性にキナ臭いものを感じながらも粛々と作戦をこなす。秘密兵器──ローレライ。もはや敗戦が確定した国家をも救う力とは何か。歴史に語り残されなかったもう一つの太平洋戦争が、海の奥、光を拒んで闇を抱く無明の果てから始まる。

 福井晴敏作品の特徴は、青臭さを否定しないでむしろ前のめりに突っ切る勢いの良さ、潔さにあると思います。今回もそれは抑えられるどころかむしろ何倍増にもなっていて圧倒されることしきり。『亡国のイージス』『月に繭 地には果実』という生硬な作風を隠そうともせず駆け抜けた力作は明確な粗さを意識させつつも「今後これ以上の話が書けるんだろうか?」と不安を喚起したものですが、もう杞憂も良いところであっさり超えちゃっています。海戦描写がやたらと長引いて少しダレそうになる場面もあり、途中までは亡国や月繭の方が上かも……と迷いを生じさせる部分もあるにせよ、最後まで読み切れば「現時点での最高傑作」と謳いたくなる。バランスを整えるのではなくてひたすら全力疾走して前のめりに安定する、力技とも言っていい方針で書き上げてみせた荒削りな情熱には胸を締め付けられました。

 それと福井作品のもう一つの特徴として「トンデモ要素」が上がる。スケールの大きな冒険小説というものは概ね壮大すぎていっそバカバカしいほどの陰謀や策謀が進行するのが珍しくありませんが、それにしたって福井晴敏の放つ法螺はMMR的で「な、なんだってー!?」の領域に差し掛かっています。詳しく書くとネタバレになるから触れませんが、ローレライの正体にしたって文脈からすると冒険小説というよりアニメやマンガですよ。ガンダム世代の本領発揮といった観すらある。ただ、「アニメ的、マンガ的」とは言ってもそうした言葉が使われる際自動的に付加される安易さ・安直さのイメージを示すのではなくて、逆に自ら進んで重い枷を選んで四苦八苦している様子さえ窺える次第。幾多もの制限を課した上で「いかにしてこの状況を切り抜けるか」というエンターテインメントの醍醐味、逆境へ立ち向かっていく熱い展開が目白押しです。目白押しすぎて窒息しかねないくらい。ある危機に対して解決策が編み出され、「ああ、これでやっと凌げるんだな」と安心したのも束の間、更なるピンチが立ち塞がってはまたしても頭を振り絞らなくちゃならない。そんな事態の連続。ピンチ→切り抜け→ニューピンチ→切り抜け→スーパーピンチ、のコンボが日常茶飯事です。さすがにここまでやってると「くどい」の一言が頭を過ぎったりもしますが、読んでる間は熱に浮かされた気分で夢中になってしまうため、「このくどさがイイ!」と猿のように喜んでしまいます。ホント男の子は単純ですね。

 噎せ返る濃度のテーマ性を秘めた重厚なストーリーではありますけれど、「良橘さん(*´Д`)ハァハァ」とか「続編『終戦のローレライDESTINY』(・∀・)キボウ!!」とか至ってお脳の可哀想なことを考えながらでも楽しめる良質な大作でした。3年寝かせた甲斐はありました。いよいよもって「これ以上の作品が書けるのか?」という不安は高まってしまいましたけど、ひとまず来月の新刊には期待したい。

 余談……相変わらず福井晴敏の書く女性キャラは男臭いというか、ひょっとして男女の区別をあんまり意識しないで描写してるんじゃないかと疑ってしまう。わざとかどうか知りませんがここまで「可愛らしさ」のファクターを排除しているのも珍しいような。


2006-01-07.

・暗黙に隔日更新を旨としているにも関わらず、昨夜は『PRINCESS WALTZ』の体験版をやっていてつい忘れてしまった焼津です、こんばんは。

 短くまとまっているため「雰囲気を掴む」という意味では最適の内容でした。反面、ヒロインが半数程度しか登場していませんから「キャラクターで惹く」という点で見ればやや辛いか。日常シーンは手堅くコミカルに描かれ、特にセンスが迸っているわけでもありませんがプレーしていてすぐ馴染めるよう調整の利いた丁寧な手つきが窺えます。一つ一つの場面を無闇にダラダラと引き延ばすことなく程好い長さで打ち切って次のシーンへ移行しておりテンポ良く楽しめる。調子は軽いけどシリアスな雰囲気を壊すところはないし、またシリアスとは言っても深刻になりすぎる気配はない。立ち位置を充分に把握したバランス感覚の優良さが安心を与える寸法。ただ、戦闘シーンは単調な演出の反復に頼っている気がしてうーん。本格的なバトルはまだですから確言できないにしても、やはりPULLTOPに戦いの駆け引きを期待するのはよした方がいいんだろうか。

 収録が第一話だけで強烈な「引き」があるわけじゃなく、何が何でも続きが見たいってほど夢中にはならなかったにせよ、この調子なら先々のストーリーも自然と堪能できそうな塩梅です。限りなく確定に近い位置付けで購入予定に加えておこうかと。

直木賞と芥川賞の候補作

 芥川賞はほとんど知らない作家ばかりなので予想しようもないですが、直木賞──遂に東野圭吾が来るでしょうか。これまで何度も候補に上がりながら受賞を逸してきた氏は選考委員に嫌われている節すらあり、巷で大評判とはいえ不安は拭えません。にしてもベテラン揃いの中に新人のデビュー作が混じっているのはビックリというか今回はあまり弾がないんじゃ……。

・佐藤賢一の『傭兵ピエール』読了。

 直木賞作家の第二長編。もう10年前の作品となりますか。1600枚の書き下ろしという新人にしてはなかなかの大業であります。15世紀、英国との百年戦争のさなかにあるフランスを舞台に繰り広げられる中世冒険活劇。主人公が貴族の私生児にして荒くれの傭兵だけに、猥雑で泥臭い描写が多く、中世といっても「ファンタジー」な雰囲気はありません。話もいきなり強姦される女の悲鳴が響くところから始まりますし。ただ、荒くれとはいえ性格は明るく、仲間に寄せる親愛と信頼は随一ですから好感が持てないこともなく。ピエールを始め、傭兵のみんなが結構魅力的です。

 いざ戦争となれば最前線に立たされ、使い捨てられる傭兵稼業。戦争がない間は盗賊として村や町へ押し入り略奪行為でも働かねば立ち行かなかった。私生児ながら貴族の家で育ったピエールは傭兵となるやあらゆる悪事に手を染め、遂には「シェフ殺し」と恐れられる傭兵長になっていた。陽気な面と残忍な面の二つを同居させている彼は実のところ女に弱く、このところも自らを「救世主」と名乗った少女ジャンヌのことが頭から離れなかった……。

 といったあらすじで、つまりジャンヌ・ダルクが物語のキーとなっています。神の声を聞いて、連敗続きだったフランス軍を勝利へ導いた聖女。最期は無惨にも火刑に処せられた彼女のことは誰もが知っており、自然興味もそこへ向かうことになる。だから当たり前のように作者も手を抜いておらず、互いに惹かれ合うピエールとジャンヌのロマンスが骨太なストーリーの中で絶えず一本の川として流れている次第。ただし、「ピエールとジャンヌ」はこの話の肝でありますが、あくまで内容は傭兵稼業が主であり、ピエール率いる部下たちもかなり前面に出張ってきている。特に第三部のあたりは彼らを焦点に据える傾向が強く、それまでの流れから見るとやや寄り道しているふうにも見え、長い作品だけあってか散漫に映る節もあります。時代考証は綿密ですけど構成面に粗いところがチラホラと。

 しかし、それのせいで話がつまらなくなるかと言えばそんなことはなく、新人らしい遠慮が何一つない力強い話運びで関心を引っ張っていってくれるんですから滅法面白い。1600枚の分量は正に読み応え抜群。良い意味でお約束や御都合主義、予定調和を守っていて、「そうなると思った」と呟きつつも夢中になれる熱さが全編に満ちています。傭兵が傭兵として踏ん張り、凄腕ではあるけれど時には迷って悩みを抱くこともある至って完璧超人ではないピエールが欠落や欠損を意識しながら歯を食いしばって前に進み、不屈たろうとする意気の高さが胸に来ます。

 後日談がエピソードを詰めすぎというか続編を書く手間を省いているようなところもあってちょっと歯痒いですけれど、これを期に佐藤賢一の小説をどんどん読んでいこうかと思います。今のところ既読は『ジャガーになった男』『カエサルを撃て』だけ。にしてもこの人は「うへへ」みたいなわざと低俗っぽい書き方をするのが作風なんだろうか。最初は違和感あったんですけど読むうちにだんだん馴染んできましたね。ちなみに気に入ったキャラはかわせみマルクとトマ。かわせみのような雄叫びとともに疾走して大盾を持ってくるマルクは絵的に美味しすぎる。そして几帳面な性格から冷淡で酷薄に映る会計役のトマ、愛敬と豪胆を兼ね揃えたピエールの横に並ばせると実に気持ちいい組み合わせだ。怜悧かつ無表情のくせして「あなたがいないとつまらんのですよ」みたいな対男子用口説きゼリフを素で放てる野郎はとても好みです。ベニッシモ。


2006-01-04.

・アクセス解析のログに残っていた検索ワード、「オカマのディープキス」に衝撃を隠し切れない焼津です、こんばんは。久々に斜め上を行く用語を見ましたよ……。あと「虎眼汁」という初めて触れる謎言葉もあり、ぐぐってみてようやく意味を悟った次第。ああ、あの「ぬるっ」ですか。なるほど。

・ミステリが好きになった一因に『古畑任三郎』があるので、当然昨夜の「今、甦る死」は逃さず視聴。いかにも三谷脚本らしい丁寧さで面白かったですが、2時間はちょっと長かったような。時間帯が時間帯だけにのんびりしたシーンに差し掛かるとちょっと眠くなりました。良かったところは複数の興趣を用意して飽きさせないつくりになっている点。気になったのは「鬼切村」という横溝パロみたいな舞台にしては特色が薄めというか、やっぱり倒叙形式で横溝は無理筋かなぁと思わされた点。ともあれ、この出来なら今日明日の分も期待できそうだ。

S.M.Lの『Re:』、体験版をプレー。

 読みは「アールイーコロン」。前作『CARNIVAL』を発売して以来ほぼ休眠状態だったS.M.Lのリリース第2弾となるソフト。『CARNIVAL』に引き続き川原誠が原画で桑島由一が監修ですが、ライターは瀬戸口廉也ではありません。Team N.G.X、つまりライター集団がシナリオを手掛けている模様。川原&瀬戸口って組み合わせに心底惚れ込んでいる当方としてはコンビ不成立の報せが非常に残念だけど、内容を考えると瀬戸口の作風が合うのかどうか微妙な塩梅なのでこれはこれでいいかな、と考えてもいたり。

 突然母親から「アメリカに行くから」と一方的に海外の移住を知らされた勇午。いまひとつ実感が湧かぬまま日々は過ぎ、引っ越しを目前としたクリスマス・イヴ、友人たちが送別会を兼ねたパーティを開いてくれた。何の奇跡か、そのイヴに限ってふたりの少女とキスする幸運に恵まれる。もう少し早く彼女たちの好意に気づいていれば。悔やんだのも束の間、彼は何者かの導きによって一週間前にタイムスリップする……というループ系(というより、リピート系?)の話。限りなくバッドエンドに近い結末を迎えてしまった「前週」と同じ轍を踏まないように奮闘するのが主な趣旨となるみたいです。この手の「やり直し」をギミックにしたストーリーはありふれているのになかなか廃れないもので、常に一定の興味を引きつける。現に当方も興味をそそられました。あまり個性のあるテキストではなくキャラクターも格別はっちゃけた人はいないから刺激や新鮮味には欠けるものの、ノリ良い話運びとベタベタながら好感の持てる友情要素が重なって嫌味なく堪能できた。クセのない『グリーングリーン』みたいな印象です。

 太い眉毛が凛々しい夏生、高身長かつ典型的な「素直になれない幼馴染み」の美優。恐らくこのふたりがメインのダブルヒロインで他が脇を固めるサブヒロインになるんでしょうが、両人とも割と魅力があり、確かにこのままうまく行けば学園青春恋愛エロゲーとして手堅い仕上がりになりそう。ただ、リピート系の学園モノでは設定を活かし切れず普通に終わってしまった『あののの。』という前例があるため、どことなく不安ではあります。たとえ時間ネタが消化できなかったとしても単純に恋愛過程のシナリオが良ければ満足できそうですが、さてはて。

・今月の主な購買予定。

(本)

 『魔人探偵脳噛ネウロ(4)』/松井優征(集英社)
 『タカヤ─閃武学園激闘伝─(2)』/坂本裕次郎(集英社)
 『とある魔術の禁書目録8』/鎌池和馬(メディアワークス)
 『9S(ないんえす?)SS』/葉山透(メディアワークス)
 『神栖麗奈は此処に散る』/御影瑛路(メディアワークス)
 『アクアポリスQ』/津原泰水(朝日新聞社)
 『ARIA(8)』/天野こずえ(マッグガーデン)
 『DRAGNET MIRAGE』/賀東招二(竹書房)
 『戦う司書と雷の愚者』/山形石雄(集英社)
 『銃姫6』/高殿円(メディアファクトリー)
 『レスキューウィングス』/小川一水(メディアファクトリー)
 『レキオス』/池上永一(角川書店)
 『荒野の恋 第二部』/桜庭一樹(エンターブレイン)
 『もっけ(5)』/熊倉隆敏(講談社)

 数量としてはぼちぼち。特異なセンスが冴えるネウロ、近所の本屋だと1巻の頃は新刊コーナーに置き場がなくて棚差のみの侘しい風情だったのに対し、最近はちゃんと平台を占めるようになってきました。ファンとしてそこはかとなく嬉しい。タカヤは1巻を読んだ感じ「明るい性格の主人公が徐々に強くなっていく」みたいな少年マンガの黄金パターンを踏襲するようで、こういうオールドスタイルに飢えていた当方には最適。とある〜は安定ともマンネリとも言える状態に落ち着いてきた鎌池の新刊。話の進行が恐ろしくスローペースというか脇道に逸れまくりというかむしろ本筋なんてあるの?という塩梅ですけど、のんびりしたテンポとお約束の熱さが心地良いのでそのへん至ってOK。9SSSは雑誌掲載分に書下ろしを含めた短編集。佳境に入った本編も楽しみですが平和な番外編もそれはそれで読みたいわけでして実に朗報。神栖麗奈〜は前後編の後編に当たります。1冊目の『此処にいる』と2冊目の『此処に散る』、違いを知らなければタイトルを誤差として同一視してしまいかねませんので注意されたし。アクポリは津原泰水だからデフォ買い。当方やすみっ子(「小林泰三と津原泰水が好き」の意)であります。ARIA──天野こずえは「前夜祭」の頃から追いかけてましたが、『クレセント・ノイズ』以降はなんとなく敬遠してました。『ARIA』は評判いいみたいなんでそろそろ読み出してみようかなと。

 竹書房の新レーベルは賀東招二のだけ買ってみようと思います。賀東、フルパニの新刊も出すみたいですがあっちはしばらく様子見で。戦う司書〜はシリーズ2巻目なので先に1巻の方を読んでしまいたいものの、たぶん発売するまでには間に合わないと思うので積むのを承知に買っときます。銃姫はシリーズ全巻どころか作者の全著を積んで(以下略)。レスキューウィングス、またなんかマルチメディア企画絡みの産物らしいですが、小川の新作なら堅かろう、と決断。『レキオス』は今月最大の注目新刊。ハードカバーで出たときから気になっていた1冊です。期待中。荒野の恋は完結するまで積む予定。『蟲師』と並んで妖怪マンガのトップ(あくまで個人的な)である『もっけ』はもちろん買い逃す手なし。

(ゲーム)

 なし

 『Re:』『Imitation Lover』『よつのは』『鳳凰戦姫 舞夢』『春恋*乙女』。気になるソフトはいくつかあるのに、どれもフィニッシュブローを欠く印象があって結論は「様子見&積みゲー崩し」。来月が期待作の軍勢待ち受けモードなので焦らないことにします。


2006-01-02.

・あけまめ。奇怪な略し方でインパクトを狙ってみる浅はかな焼津です、こんばんは。元日も二日も仕事が入り、辛うじて本を読む時間が取れたことが救いという状況。あと餅と蜜柑は食い放題です。うんざりするほど食い放題です。箱単位につき食わねば腐る勢い。

・2005年をランキング形式で振り返る、の続き。

[マンガ]

第一位 『シグルイ(1〜5)』
第二位 『シンシア・ザ・ミッション(1〜2)』
第三位 『スティール・ボール・ラン(3〜6)』
第四位 『餓狼伝(12〜17)』
第五位 『バジリスク(1〜5)』
第六位 『武装錬金(3〜9)』
第七位 『新暗行御史(1〜11)』
第八位 『ヴァンパイア十字界(1〜5)』
第九位 『ハチミツとクローバー(1〜8)』
第十位 『ニードレス(0〜3)』

 栄えある、かどうかは知りませんが一位に輝いたのは『シグルイ』。当方の今年におけるいくらか珍獣気味な言動を観察すれば「彼奴めシグルイに狂っておる」と一目瞭然であります。行住坐臥、常にシグルイ。物を喩えるときも虎眼か藤木か伊良子の三択。そしてことあるごとに「ぬふぅ」。仮に箒でも握らせれば「流れ」を真似しかねない危険さが根付いている始末。あきらかにもうダメです。ジョジョやバキに狂っていた頃と寸分違いない。二位は板垣マンガと型月へのリスペクトが窺える『シンシア・ザ・ミッション』。華奢な少女たちが待ったなしのバイオレンスを繰り広げる血みどろ爽快ごった煮ストーリーは各話の繋がりに乏しくてまとまりに欠く反面、それを意識させない勢いもあって楽しかった。『スティール・ボール・ラン』は3巻からレース要素が薄くなって予測不能のサスペンスにシフトしていったあたり、手放しには絶賛できませんが吸引力の凄さ自体は変わらず。『餓狼伝』は北辰館の大会が開催されるところをまとめ読みして熱狂。粘りつくような格闘へのこだわりが単純に面白い。ちなみに片岡輝夫が好きです。かなり。『バジリスク』はとうに完結している5冊を一気読み。分量に対し内容が詰め込みすぎな気もしましたが絶好のスピード感、そして「愛する者よ、死に候え」に象徴される殺し愛マインドに痺れました。

 『武装錬金』は正統派ジャンプ漫画であり、「これから面白くなるねぇ」ってところまで盛り上がったくせして一気に打ち切りの方向へ。切歯扼腕とは正にこのこと。『新暗行御史』は絵で気になっていたものの内容がよく分からず手控えしていました。いざ読んでみると水戸黄門的というか当方にとってはカオスレギオン的であっさり夢中に。ただ活貧党とか過去編とか、最近の巻はいまひとつ好みに合わず、12巻も積読状態。『ヴァンパイア十字界』、冒頭一話目で少し挫けかけましたが、その後はめきめきと面白くなっていきましたよ。吸血鬼VS○○という発想の無茶さ加減がいい。『ハチミツとクローバー』は少女マンガながらほとんど抵抗感を覚えることなく楽しめた。今もっとも続刊が待ち遠しい少女マンガでもある。青春ストーリーのこっぱずかしさを承知したうえで堂々と青春を描く姿勢に微笑みがやみません。小川雅史みたいなゴチャゴチャしたアクションマンガを想像していた『ニードレス』、実際の内容は思った以上にスッキリしていて読みやすかった。ギャグとバトルの配分がグダグダ寸前なのは好み。刊行速度が半年に1冊くらいであまり進まないのがじれったい。

 ランク外では『塊根の花』『センゴク』『宵闇眩燈草紙』『超・大魔法峠』『パンプキン・シザーズ』『マリオガン』『仮面ライダーSPIRITS』『ユーベルブラット』あたりも。他にもこまごました良作が多く、マンガを読む量が減った割には収穫が山盛りでしたね。

[ゲーム]

第一位 『あやかしびと』
第二位 『SWAN SONG』
第三位 『最果てのイマ』
第四位 『パルフェ』
第五位 『つよきす』
第六位 『プリンセスうぃっちぃず』
第七位 『塵骸魔京』
第八位 『CARNIVAL』
第九位 『ひめしょ!』
第十位 『刃鳴散らす』

 今年プレーした本数は17本。うち2本は途中までやって放置しているソフトですが、別につまらなかったからではなく忙しくて手を付けられないでいたらいつの間にか忘れてしまった、というパターンです。とにかく今年は遊んだゲームがどれも良作ばかりで、一つとしてハズレがなかった。正直「そろそろ地雷踏むんじゃないか?」と恐れる場面も何度かありましたが結局楽しめたかどうかで言えばオール勝利。少なくとも個人的にはすべてが「凡作」には留まらない出来であり、熱中させられることしきり。当方にエロゲーを卒業させまいとする不可視の力が働いているのではないかと邪推してしまうほどでした。

 で、やっぱり一番に楽しめたのは「あやかしびと」に相違ないでしょう。シナリオのボリュームが圧倒的で、プレー時間も今年最大。一つ一つのルートに満足感を覚えるだけの歯応えがあり、おおよそすべてのキャラに見所と見せ場がある。荒削りではあるし、「テキストがちょっとくどい、演出が今一歩、設定の割にバトルがやや地味」などの見方も否定できないが、マイナスを上回るプラスがあって独走状態。うしとら的な熱い少年マンガのノリをエロゲーで堪能できるとはいい時代になったものだとつくづく思います。二位の「SWAN SONG」、「シナリオを読ませる」ことにかけては随一。最上の物語濃度と美麗なCGが惜しげもなく提示される世界はフィクション狂いの人間にうってつけでした。一周目の魅力に比べて二周目が劣り、ゲーム全体での達成感が高まり切らなかった点、密度はともかくボリュームがそれほどでもなかった点から「あやかしびと」を抜くには至らなかった。とはいえそもそも路線が違うし比較するのが難しい2本ではあります。「最果てのイマ」は巷の評判こそ振るわないものの、当方のハートにはジャストミート。シナリオの詰めが甘いところはあるにしても、ほとんどパラノイアックとも言える設定への執着が異形の果実を結び、尽きぬ興奮を喚起してくれた。熱さでは「あやかしびと」、密度では「SWAN SONG」に軍配が上がる。けれど、勢いではイマが必勝する。眩暈を催されるシーンについて言及すれば枚挙に暇がないです。決して完成度が高いとは言えないだけにランクを下げてしまいましたが、風向き次第では一位に来てもおかしくないソフト。

 「パルフェ」は過不足なくトータルバランスに優れた内容で、減点を極力抑えながら加点を稼いでいます。前作「ショコラ」よりもヒロインごとの扱いの差が埋まってだいぶ公平になっているのもポイントが高い。もちろん軽重の違いはありますが、トップとボトムの差が断崖級だった前作とは比較するべくもありません。丸戸史明の器用さが強調されていたように思える。「つよきす」も「パルフェ」同様バランス型で目立った減点がないけれど、冒険を避けた慎重さがネックになって加点を妨げている面もあり。日常の楽しさをひたすら追及したおかげでシナリオがあまり激動せず、長い割には物足りなさが残る。とはいえ学園モノとしての面白さは今年のみならず近年最高かも。「プリンセスうぃっちぃず」はスタッフがシャブ中なんじゃないかと疑惑を寄せるほどハイテンションな前半に対して後半がおとなしめで、悪くはないけどちょっと肩透かしでした。あの、「プレーヤーが壊れるか作品が壊れるか」って緊張感漂うギリギリのチキンレースが熱かったのに。「塵骸魔京」、どうも従来のニトロファンから見ての評価が微妙ですが、個人的に「風のうしろを歩むもの」ルートのシナリオがすごく面白かっただけに擁護したい気持ちがビンビンにあります。ただ、他ルートのクオリティでちょっと誉められないところはあるし、本来必要であるはずのルートがすっぽり抜け落ちているなど、減点要素が重なってしまう。もっと上位を目指せたポテンシャルが窺えるだけに残念。

 「SWAN SONG」と同じ瀬戸口廉也がライターを務めている「CARNIVAL」は後日談の小説も含めれば他に匹敵するソフトがないほど心に突き刺さったストーリーです。エロシーンはあっても実質的には「攻略」できないヒロインが多いため、マルチシナリオ形式のエロゲーとしては完成度が低いかもしれない。しかし、的を絞ったがゆえの歪さがなぜか魅力になってしまっているから不思議なもの。「生きるって苦しいよね」という文句が何の衒いもなく染み渡ってくるのはエロゲーとしちゃ異様か。「ひめしょ!」は今年最後にやった一本。掛け合いのキレが素晴らしい、極上のコメディゲーム。どうでも良さそうな細部の説明が何気に念入りで、ときどき襟を正したくなる。でも伏線と睨んでいた仄めかしが実際は雰囲気を出すための設定に過ぎず、あまり入り組んだ理由がなかったのは期待の煽られ損か。また絵にしろ音楽にしろシナリオにしろ、ところどころでバラつきが目立ち、とてもアンバランスな仕上がり。プラスも多かったけどマイナスも多かった。十位の「刃鳴散らす」はコストパフォーマンスがあまりよろしくないけれど、剣術薀蓄を始めとして「こんなエロゲー、ニトロ以外じゃ絶対に出さねぇ」と確信できる要素に満ちていてエキサイティング&スリリング。ボリュームに不満があるためギリギリ十位ではありますが、チャンバラ欲が満たせたという意味では割かし満足。

 ランク外になってしまった「SEVEN BRIDGE」「ゆのはな」「らくえん」「Fate/hollow ataraxia」「AYAKASHI」の5本もいずれ劣らぬ傑作であり、ただ相手が悪かったと言うより外ない。「SEVEN BRIDGE」は後半の失速さえなければ五指には入っていたかもしれず。キリスト教徒とイラスム教徒の「神をも殺す」魔術大戦を背景にして繰り広げられる「黒い列車に乗って世界を巡り、目指すは暗黒大陸と化したヨーロッパ」という物語が醸す旅情ロマンは官能的ですらあった。「ゆのはな」は嫌味のない主人公と魅力的な登場人物の織り成すまったりコメディとして高水準の穏やか空気感を発しておりました。ゆのはの可愛いこと可愛いこと。ただ日常シーンにおいて同じことがあまりにも頻繁に繰り返され、コントの展開もひたすらワンパターンに陥りがちで、結果的に水増し気味となってしまっている印象が拭えなかった。オーラスたるゆのはシナリオが短めなのもちょっと。「らくえん」は何が何でも「隠れた名作」ということにしておきたい業界暴露型激痛青春エロゲーです。ヲタにとっての致命傷をなんの遠慮もなくザクザクと刻みに来る姿勢は正にガチ。ただ語ってほしいところを語ってくれなかったりで、ちょっと食いたらなさは感じました。「Fate/hollow ataraxia」はファンディスクとしては文句なしですし、ボリュームも質も普通のゲームに比肩しうる出来ではある。でもやっぱり相手が悪かった。今年やったのはどれも「普通のゲーム」じゃなかったですから。最後に「AYAKASHI」。実のところこれはアタリかハズレかの判断が一番タイトなソフトでした。好感の持てない主人公、イヤボーンばかりで面白みに欠けるストーリー。これだけで地雷判定したくなる気持ちも確かにありましたが、奇抜でいて格好いいアヤカシのデザイン、エイムルートで発揮される集大成的な情熱、サイドストーリーでちゃんと本筋を補完するキメの細かい対応……といったポイントが効果を発し、辛くも凡作直行コースから這い上がってくれました。出来のアレな子ほど可愛いと言いますように、判定がもっともギリギリだった「AYAKASHI」も妙に愛着を感じさせる。ともあれ、今年も昨年、一昨年に引き続き豊作でした。

・古処誠二の『遮断』読了。

 新年1冊目はこれ。『接近』と同じく戦時下の沖縄を舞台にした戦争小説です。主人公は十代ながら少年というより青年に近い年齢。戦争が終わり、誰一人として身寄りのない彼が老人ホームで寿命を間近にした頃、ある一通の手紙が届くところから始まって半ば回想形式で物語が綴られていく。

 佐敷真市。防衛隊員として借り出され、前線まで赴きながらも隊から脱走し、逃亡兵となった彼は初子──生後僅か四ヶ月の子供を捜しに故郷の村へと帰る。それは彼の子供ではなく、彼が戦場で切り捨てた友人の娘だった。妻子のために命を擲つことさえ決心した友人と、爆撃でとうに両親を失って今更恥を負うのが何だと生き足掻く真市。逃亡兵ゆえ友軍に見つかれば処刑されることは免れない状況下、彼は友人の妻とともに道を北上した。降りかかる砲弾と皇軍の目を恐れながら遡行するふたりは、片腕と足を失った軍人と出会う。真市の若さに不審を覚えたらしき少尉は猜疑の色を目に浮かべ、残された腕で彼らに銃を突きつける……。

 敵ではなく、本来味方であるはずの日本軍から逃れながら危うい戦地を歩く。当の子供が生きているのかどうかも確信が持てぬまま。重苦しい雰囲気のなか、息詰まる描写が淡々と、しかし絶えず続きます。生後四ヶ月で置き去りにされた赤ん坊が無事でいるとは思えないのに、それでも主人公は故郷へ向かう。戦争小説にミステリの意匠を付加する傾向が強い古処誠二ではありますが、今回はそうした要素が比較的鳴りを潜めており、タイトルの「遮断」に集約される内容が純粋に読み手の興味を引きつける。周りの人間がどんどん死んでいき、感覚や感情を遮断しなければ正気を保てないという戦地の過酷さ。「遮断」とは即ち、守りたいものや信じたいもの、貫き通したいもののために他の条理や倫理を削ぎ落とす積極的な防御姿勢に繋がり、登場する人物の誰もが何かを閉じることで推進する力を得ています。外から侵入する恐怖と現実を遮断しつつ、内側から漏れ出そうとする悲嘆や理解をも遮断して、ようやく「信じる」ということが可能となる。それが哀しくて怖かったです。鮮烈な印象を残すシーンがいくつもありました。

 若手の作家でありながら戦争小説を文学とエンターテインメントの端境で意欲的に書き続けるスタンスは特殊であり、いっそどっちかにはっきり傾倒した方が割り切った評価を得られるのかもしれませんが、この不安な立場に足を踏み締めている古処誠二に魅力を感じるのは確かであり、今後も偏ることなく見事な両立を目指してくれればいいな、と願うばかり。

・では新年初の拍手レス。内容が去年のものも引っ張っていることは気にしない方向で。

 おとボクの恥じらい瑞穂抱き枕カバーは、♂としてはノーカウントなんでしょうか?
 早速「恥じらい瑞穂」でぐぐってみます。……おおう。でも後ろは無地なんですか。

 アヤカシ4コマで角屋出てますよ〜。なるほどね〜
 一瞬角屋だと気づかなかった……。

 明けましておめでとうございます。
 はい、おめでとうございます。今年もどうかよしなに。


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