2004年6月分


・本
 『ペロー・ザ・キャット全仕事』/吉川良太郎(徳間書店)
 『重力ピエロ』/伊坂幸太郎(新潮社)
 『ボーイソプラノ』/吉川良太郎(徳間書店)
 『ディバイデッド・フロント2』/高瀬彼方(角川書店)
 『ROOM NO.1301 おとなりさんはアーティスティック!?』/新井輝(富士見書房)
 『硝子のハンマー』/貴志祐介(角川書店)
 『さよならトロイメライ』/壱乗寺かるた(富士見書房)
 『さよなら妖精』/米澤穂信(東京創元社)
 『ヴぁんぷ!』/成田良悟(メディアワークス)
 『紅玉の火蜥蜴』/米澤穂信(東京創元社)

・ゲーム
 『姉、ちゃんとしようよ!2』体験版(CANDY SOFT)
 『巣作りドラゴン』(ソフトハウスキャラ)


2004-06-29.

・吐き気と頭痛がするぐらい『巣作りドラゴン』をやり込んで日曜日を潰した焼津です、こんばんは。累計で12時間もプレーしただなんて、この歳でありえない。腕がヘチョい分、ムキになってやめられなくなってしまうんですよ……とにかく最初の数時間はフェイリュミスに泣かされました。お前ら殺しすぎ。何度も再プレーを重ねた結果、「もう花嫁はマイトでいいから! 奴で充分だから!」と哀願したくなってくる始末。

 いや、面白いですよ、巣ドラ。SLG部分がメインなのでストーリーは大して込み入ったものでもなく、ライトファンタジーの「お約束」に沿った分かりやすい内容。それでいて決して手抜きではないし、ソフキャラ特有のヌルいテイストが絡み合っていて心地良く楽しむことができました。特に罪悪感も抱かず破壊と凌辱に勤しむ主人公・ブラッドの像はどこか曖昧としているが、その不透明感が却って作品世界に没入しやすい仕儀になっているかと。つまり個性がなくて平凡なキャラである分、言動が飲み込みやすくて、話そのものにも簡単に馴染める。

  体験版をした人なら分かると思いますが、案外と作業ゲーっぽい雰囲気が希薄で、やり込んでいてもなかなか飽きが来ません。オートの戦闘シーンがたまに見ていてダルく感じる程度。ゲームらしいゲーム、要するに「遊べるゲーム」としては合格点を弾き出せる出来です。ただ、全編に流れる空気が良くも悪くもあっさりしており、「まったり臭」とでも言うべき独特の生温いムードが濃厚で、そうした部分が肌に合わない人は面白がれないかもしれず。こってりしたシナリオやエロを目的とするなら回避推奨。

 チマチマとじっくり遊べて、まったり楽しめる。そんな一本につき、「もうWindows付属のマインスイーパーやスパイダソリティアには飽きたし、何か代わりにやり込めるものへ手ぇ伸ばそうか」みたいに気軽なマインドで臨むが最適。一つのことに掛かると夢中になってしまう癖がある人の場合は注意が必要ですけど……当方の二の舞になりかねません。

『水月』、KIDよりCS移植(MOON PHASE)

 フルボイス化──心情としては微妙です。当方はあの「声なき静けさ」が大好きだったので。まあそれはプレー時に音声オフれば済む話ですが、問題は追加シナリオ・追加CG。『水月』はコンプしてもいろいろ謎が残るというか、ぶっちゃけ未完成気味だったので、移植に際してそのへんを解決してくれるなら「買い」ですが……難しいでしょうね。ファンディスクの『みずかべ』もシナリオの補強より萌え・エロの補填を重視していましたし。「そもそも追加分に☆画野朗&トノイケダイスケが参加するのか?」「まさか『みずかべ』をカップリングして『これが追加シナリオ・CGです』とかってオチじゃ……」といった不安まで囁かれている始末。ちなみに「エロのない『水月』は『水月』と似て非なるもの」という意見にはちょっぴり同意します。

 それはともかく、トノイケと☆画野朗の新作『Aria』はいつになったら情報公開が始まるんですか? なんかもう話自体が立ち消えになってしまっているような雰囲気が漂っているんですけど。

野沢尚、死去

 驚きすぎてちょっと言葉が思い浮かばない。まだ44歳ですよ……必ずしも「好きな作家」だったわけじゃなく、作品にもアタリハズレがありましたが、それでもこれからどんどん「もっと面白い小説」を書いてくれるだろうと期待していたのに。彼の新作がもう読めないなんて、にわかには信じられません。『破線のマリス』『砦なき者』など、ニュース番組を題材に取っていた彼の訃報がニュース番組で流されている光景を前にして、最初は本当に何かの冗談じみた企画だと思ってしまいました。そして未だに「現実」という認識がうまく沁み透っていない。『リミット』『深紅』は好きです。ストーリー・テリングの何たるかを知っている見事な筆致でした。「残念」「惜しい人を亡くした」の言葉じゃ追いつきませんが、今はただご冥福を。


2004-06-27.

・ペプシブルーはインクを飲んでいるような気分が味わえるステキな炭酸飲料ですね。ヴァニラコークのしつこいまろやかさに負けず劣らずといった風貌。C2には見向きもしない当方ですが、これは下手すると愛飲してしまうかもしれない。

成田良悟のホームページで自作解説公開

 『バウワウ!』や『Mew Mew!』のシリーズ名は「ESSA!」ということでFA? 『バッカーノ!』の作品解説から察するにブートレガーズは未読だったみたいですね。

・25日組、なにやら30本ぐらいの新作が出たとかって話ですが、当方がレジへ運んだのは『巣作りドラゴン』のみ。他にもいろいろ物欲しげに手に取ったりもしましたが、軒並み棚へゴー・バック。数が数だけに冷やかしだけでもちょっとした娯楽に匹敵しますね。それにしても巣ドラ、よほど売れているのか、3店ほど回ってようやく手中に収めることができました。ブレイクなるか、ソフキャラ。

 とりあえずインストールするにはしましたが、まだプロローグを齧っただけ。体験版で得たノウハウは今日活かすとします。


2004-06-25.

・夢の中で川上稔が『アメリカンヒーロー・キラーズ』という新作を出していました。残念ながらタイトルと「俺たちが合衆国(ステイツ)の欺瞞(ヒーロー)を殺す!」という帯文しか知ることができなかったんですけど、どんな内容なんだかすげぇ気になります。あと既刊紹介の都市シリーズに「熱海」が混じっていたのも気になる……。

Littlewitchでキャラ人気投票1位獲得者の壁紙公開

 当方は荒山鳥人さんに入れました。入れまくりました。学ばぬ道化のごとく連日ジャンジャンと。渋すぎるオッサンが放つ自信満々のオーラには抗えません。

 ……そう言いつつ、さりげにシャルロットやエマ、リト子といった金髪勢にも票を投じましたが。ブロンド蝶最高。

『空の境界』、売上は既に累計20万部突破「Mystery Laboratory」経由)

 まだ「新刊」なのに……もはや冗談みたいな売れ行きですね。Fateが10万本以上売れているから「10万部は行くんじゃないか」とテキトーに読んでましたが、まさかその倍とは。

 あ、そういえば武内絵の『ヴァンパイヤー戦争』見かけました。天野絵が先入観としてある分、違和感も覚えますが、新鮮といえば新鮮。

・秋月涼介の『紅玉の火蜥蜴』読了。

 「涼介」なのに「火」とはこれいかに。

 ……掴みからいきなり滑ってしまいましたが、ともあれメフィスト賞受賞作『月長石の魔犬』の続編です。評価が微妙というか、どちらかと言えば不評の色が濃いものの、清涼院流水や蘇部健一ほど突き抜けたものはないせいで、メフィ賞において「中途半端」の認識を持たれている作家・秋月涼介。メフィ賞を知らない人はおろか、メフィ賞のことをそこそこ知っている人相手に名前を出しても「誰、それ?」という具合に通じないことも多い。ぶっちゃけ、マイナー作家です。2001年に『月長石の魔犬』でデビューし、2002年に2冊目の『迷宮学事件』、2004年に3冊目の本書と、刊行ペースが遅いせいもあって認知されにくい。

 シリーズのコンセプトは割と面白いんです。人間の首を切り落として代わりに犬の首を縫い付けるような常軌を逸したシリアルキラーたちを、なんとしても捕まえてやろうと刑事たちが奮闘する一方で、「殺人鬼を狩ることに情熱を燃やす殺人鬼」が警察よりも先に犯人を始末しようと暗躍する──ってな塩梅。難しい漢字を意図的に多用し、ルビを乱発するあたりを含め、ノリが新本格ミステリよりもライトノベルに近い。富士見ミステリー文庫のラインナップに加わっていてもたぶん違和感は覚えないでしょう。

 『月長石の魔犬』は犯行の奇抜さに大して真相がショボく、肩透かしだった記憶があります。それゆえ秋月涼介の評価を低く見積もっていました。『迷宮学事件』は多少の難こそあったものの普通に面白かったので少し評価を上向きにさせましたが、この『紅玉の火蜥蜴』は『月長石の魔犬』の続編ということもあって最初はスルーするつもりでいた。けど、今回はなぜかイラストが付いていたので僅かに興味を感じ、試しにパラッと冒頭を読んでみたところ……

 私は、炎が好きだ。
 炎の傍にいることが、好きだ。
 炎を観ていることが、何よりも大好きだ。

 ヘルシングの少佐テンプレと見紛うばかりの「炎LOVE」激白。思わず今年の“新潮”6月号に載っていた「矢を止める五羽の梔鳥」(舞城王太郎)の書き出し、「山火事大好き」がフラッシュバックしました。当方はこんなものを書くぐらいファイスタ大好きっ子につき、当然のごとく「炎ネタ」も好む傾向にあります。すっかり「スルー」という選択肢を忘れ、レジへ直行したことは言うまでもない。それが発売日早々のことですが、こうして一ヶ月以上経つまで積んでしまっていたことは言うまでもない。

 結論から書くと相変わらずオチはショボいです。話を膨らませた割に、かなりあっさりした結末を迎える。トリックらしいトリックもなく、謎解き要素を期待して読むと退屈しかねない。客観的に見ればnotオススメの一品。けれど、前作を経験し、「炎ネタ」を嗜好する当方の主観から見れば、思っていたよりも面白かった。これでもっと個々のキャラクターを活かすことができれば、一般的にオススメ可能な出来になるかと。正直、現状では静流と青紫のふたりをメインにする意図が分からない。活躍しない無駄なキャラが多くて、無駄にストーリーが長くなっている気がします。

 それとイラストですが、全体370ページに対して6ページあります。ライトノベルと比べてちょっと少ない。でも絵柄は好み。ネタバレ気味のイラストも入っているので、パラパラ見る際には注意を。それにしても、イラストレーターの鈴見敦って名前は見覚えがあるような、ないような……ハッ、もしや「鈴見=涼み」で秋月ほんに(ry

 まとめ。個人的には充分楽しめた一冊でした。富士見ミステリー文庫あたりで耐性ができあがっている人なら苦もなく読めるかと。ただ続編モノなんで、これから読み出すとキャラの関係が分かりにくかったりします。シリーズそのものを理解したい場合は『月長石の魔犬』から読み出すと吉(『迷宮学事件』はシリーズ的な繋がりがないので回避しても可)。それから、「イラスト付き」というポイントに「ライトノベルとか、そういった感じのはどうも……」と抵抗を覚える人は、素直に回避した方が吉。

 次が出るのは来年あたりかな……。


2004-06-23.

・虫に刺されて夏気分満喫。皮膚の痒みを憎む焼津です、こんばんは。

『神樹の館』詳細情報

 あとOHPも。閉鎖環境をバリ愛する者として大いに期待中。7月には体験版を公開予定とのことだから楽しみだ。

美遊の新作『幽明境を異にする』

 こちらも閉鎖環境モノの様子。タイトルだけでそそられます。前作『蒼色輪廻』はループゲーで、日記で言及するのを忘れていたんですが実のところプレー済。面白かったです。なんというか、ギャグとシリアスの配分が紙一重にギリギリ。虐殺シーンでしんみりしたり、濡れ場なのに腹を抱えたり、不謹慎なのに生々しくて引き込まれたりと、千変万化にして軽妙洒脱な筆致には翻弄されっ放し。路傍の石塊を無造作に拾い上げて凶器にするかのように、大作を志向しないB級特有の「安っぽさ」を逆手に取って二重三重に旨味を引き出すライターのセンスにゃすっかり惚れ込んだ次第。おかげで攻略の難しさも苦にせずハマってしまいました。スタッフが違うみたいなので確定じゃないですが、今のところ注目度は高め。

・成田良悟の『ヴぁんぷ!』読了。

 8冊目の著書にして4番目となるシリーズの開幕編たる本書はズバリ「吸血鬼モノ」。前作『デュラララ!!』の主人公もかなり奇抜な造型をしていましたが、今回も読者の予想を裏切って容赦なく度肝を抜く仕様となっています。たぶん成田良悟は三度の飯よりも「裏切り」が大好きなんでしょう。

 多視点形式でキャラがわんさか登場する点で言えばこれまでの3シリーズ(『バッカーノ!』『バウワウ!』『デュラララ!!』)と変わりなく、いつも通り騒々しくて賑々しい猥雑な内容。プロローグだけで40ページも使っているんだから大したものです。「お兄様」「下賎」などという言葉を日常会話で用いる生粋のお嬢様キャラにして妹キャラであるところのフェレットは、残念ながら少しばかり影が薄くて悲しい。ゴスロリ衣装時の挿絵がチラッと入っているので個人的には「まぁいいや」ですが。

 『デュラララ!!』で感じた「キャラ出しすぎ」という印象が今回はなく、ズラズラと登場するキャラクターを全員うまく配役して捌き切っている点については評価したい。後半に差し掛かってからの展開に力押しじみた強引さを覚えないでもないけど、勢いがあって面白いので不問。それぞれのキャラをうまく使いこなした分、遊びの要素が減ってしまい、却って個々の魅力が薄らいだ皮肉は感じますが、興味を引き込むパワーに関しては既刊の成田作品において一、二を争うクラスかと。張り巡らされた仕掛けの数々が実に心憎い。明快爽快痛快。

 それとセリフ回しにもインパクトがありますね。誤字が混じっていて萎えさせるあたりは毎度のことにつき「やはり成田作品だ」と諦めに似た心境で納得させられますが、それはともかく「あえてベタ」に走らずにイイ意味で斜め上を行くセリフを吐かせるのはGJ。凝っているのにストレートなところが好ましいセンス。

 ただ、難を言えば今回は主題らしい主題が特にないせいで、場面場面は面白いもののクライマックスに至る際の感動や盛り上がりにいまひとつ熱が入らなかったきらいがある。すべてのキャラを満遍なく活かした分、もっと目立っていいハズの奴が霞んでしまったりして、どうにも物語にコントラストができなかったような……。

 吸血鬼モノとしてよりも一個の群像ストーリーとしてオススメしたい一品。デビュー1年ちょいで8冊というペースもさることながら、勢いと面白さが一向に衰えないあたり、今後をどんどん期待したくなります。差し当たっての新作は来月の『Mew Mew!』ですか。『バウワウ!』の続編とのことですけど、今度はどういった攻め方を見せるのか。


2004-06-21.

・「ハムはビアソーハムと生ハムのみ好き」と告白したらグーで突っ込まれました。グーで。「ハムを選り好みするな」と言われてもロースハムやボンレスハムは嗜好の対象外であり、当方も徹底反抗。しかしこの歳になってハムで口論するとは……。

ANGEL BULLET ストーリー

 「Liar! Liar!」と某有名SFのタイトルみたいなノリで叫びたくなるくらいアレな内容。ライアーソフトってこんなんばっかりや。

・米澤穂信の『さよなら妖精』読了。

 狙ったわけではないが、前回の『さよならトロイメライ』に続き「さよなら」がタイトルに付いた作品。もちろん内容的な繋がりは一切ありませんけど。本書は“ミステリ・フロンティア”という1年ほど前に始まったばかりの新しい叢書の1冊で、著者にとっては3番目の長編となります。

 ユーゴスラヴィアからやって来た少女は、マーヤと名乗った。将来何になりたいか、さしたる目的意識もないまま受験に臨んでいた守屋路行は、彼女との交流を経て自分の心が変容していくことを感じた。常にはっきりした目的意識を持って行動し、疑問に思ったことはすかさず尋ねて知識を吸収するマーヤ。日常に転がる謎を解き明かす日々を楽しむ守屋。彼女の存在が意識の中で膨れ上がっていくが、出会いから2ヶ月の後、マーヤは日本を去っていった。紛争のムードが色濃くなっていくユーゴスラヴィア。どうしても彼女を忘れることができない守屋は「最大の謎」に挑む決心を固める……。

 『氷菓』『愚者のエンドロール』のシリーズとは無関係ですが、「日常の謎」──つまり殺人事件や変死事件、強盗事件や誘拐事件などといったミステリでよく取り扱われる非日常的な出来事をあえて題材にせず、日々の暮らしで目にし耳にするこまごまとした謎を解いていくタイプの作品であることは同じです。例えば、「なぜ雨が降っているのに持っている傘を差さなかったのか?」とか、本編とはあまり関連のない謎があちこちにちりばめられています。言わばちょっとしたクイズ、ちょっとした薀蓄、ちょっとした哲学の積み重ねで成り立っており、殺伐とした雰囲気がない分だけまったりと気楽に読み進められます。逆に言えば緊張感が少ないので、この手のジャンルはサスペンス要素に頼らず読者を最後まで引っ張っていく技量が要求されます。

 「さよなら」とタイトルにもある通り、日本を去ったマーヤが物語の核となるわけで、彼女の行方を掴めない主人公はなんとしても見つけ出そうと、過去の情報を頼りに彼女がどこの街の出身であるか類推しようとする。一種の「人探し」です。これが主題となるせいで取り留めのない回想も「注意して読み込まねばならない」と強いられます。ささやかな緊張感。おかげでイイ具合にストーリー全体が引き締まっている。

 謎解きそのものはディープではなく、幸福でいてほろ苦い青春の日常を味わうのがメイン。キャラクターの造型に若干クセがあるため、読む人によっては彼らの言動に釈然としないものを感じるかもしれず。そんなに奇抜ではないんですが。個人的には、米澤テイストとでも呼ぶべきそうしたノリが肌に合うので楽しく読めました。「青春小説」とも「ミステリ」とも微妙に異なる、「青春ミステリ」という言葉。その響きがよく似合う。ささやかでいて深刻。深刻だけど無力。「力強い寂しさ」とでも言えばいいのか。愛しくなる読後感でした。


2004-06-19.

・新パソの調子は良いものの、液晶モニタの様子がおかしい今日この頃。古くなった蛍光灯みたいにフッと光量が減ったかと思えば、「上半分だけ暗くて下半分は元通りの明るさ」という珍妙な状態になりやがりましたよ? 作業に支障は出ないから別にいいものの、微妙に気持ち悪い……店頭で一番安いモニタを買ったのが敗因かなぁ。

ミステリー界 なぜか似通う 賞の結果「Looked Room」経由)

 『葉桜の季節に君を想うということ』の実売が11万部というのは結構頑張っていると思うんですが、それでも評判の大きさに比べれば少ない方か。賞といえば最近買った横溝賞受賞作品がまだ積んだままだった。そのうち崩さないと。

・壱乗寺かるたの『さよならトロイメライ』読了。

 クセの強いライトノベルは好きですか?

 自他共に「クセが強い」と認めるこの作品、プロローグから少し文章を引用してみましょう。

 来るべき美人転校生の噂。先日うちの学校に訪れた時の話。この田舎町には明らかに不似合いな黒塗りのリムジンが数十台わが校に襲来。続々と降りてくる黒スーツのいかにも屈強な男たち。彼らは瞬時に軍隊の如く隊列を構成し、その中央がぱっと割れる。現れたのが真っ黒なワンピースに身を包んだお嬢様。しかし黒リムジンに黒スーツに黒ワンピース、よっぽど黒が好きなのかそれとも喪中なのか。もしや仮面ライダーブラックの末裔? おお、この素晴らしい思いつきを前の席でプロレス雑誌に没頭している佐藤に話してみたところ、「なんだそりゃ?」の返事。くそぅ、これがジェネレーションギャップってやつか。同級生だけどな。まぁ俺自身も仮面ライダーについてはライダーマンが顔の下半分を外部にさらしているくらいしか知らない。知らないことは言わないほうがいいね。教訓教訓。

 こんな感じです。多用される体言止め、少ない改行のもたらすみっちりと字の詰まった文面が露骨に人を選び、更には微妙なネタが拍車をかけています。プロローグを読んで本を閉じたくなった人の気持ちも分からなくはない。

 ストーリーは主人公が「美人転校生」に拉致されて勝手に退学手続きを取られたかと思えば全寮制有名進学校の特別棟に放り込まれ、「パートナー」なんて名乗るちっちゃい女の子(実年齢は一個下)に日常のこまごまとした世話を焼かれることになった……と豪快すぎるほど強引な展開。ここまで読んで本を閉じたくなっ(以下略)。

 クセの強い文体といえば最近売れまくっている西尾維新や舞城王太郎、あんまり売れてない佐藤友哉、なかなか新作を出さない滝本竜彦、直木賞作家の町田康、ライトノベルだとうえお久光や豪屋大介、鎌池和馬なんかがいますが、共通するのは「垂れ流しじみた口語体の文章」。思考をそのまま落とし込んだかの如き奔流テキストは単なる書き殴りとも目に映ります。もちろんこれはこれで独特のリズムやテンポをつくる必要があり、慣れずに使うと本当に電波だだ漏れの駄文になってしまいかねない。でも、たとえどんなに巧く書かれたとしても「こんな調子っ外れの文章は生理的に受け付けない」と心の中で両手を「×」にして拒否する読者も確実にいます。流行っているとはいえ「珍味」という見方が強い。

 このトロイメライもそうした「珍味」を楽しんでナンボの一作につき、抵抗を感じた人は我慢せずに本を閉じていいと思います。無理して読み進めても救いがあるかどうか微妙です。むしろ本を壁に叩きつけたくなるやもしれず。文体という障壁の向こうにまたもう一つ別の障壁が立ちはだかる設計。「金と時間を返せ!」と叫ぶ未来を忌避したいなら中身の確認はとてもとても重要です。

 当方は2ページ目くらいで順応し、あとはぬくぬくと楽しんで読むことができました。「選考委員は井上雅彦以外誰も推さなかった」というだけあって「井上雅彦賞」なる一種の奨励賞を取っていますが、井上雅彦ファンが読んで面白いかどうか、ちょっと判断がつきません。幻想美テイストはそれほど期待できないし、斬新さ、奇抜さをアピールするのもためらいが……。

 珍味だったらなんでもいいというわけじゃないんですけど、上記した作家の本が好きな当方としては肌に合って心地良かったですね。オススメはしませんけど、個人的には2巻以降を期待しています。


2004-06-17.

『MinDeaD BlooD』購入せり。かなりエログロが濃厚だとかで、割合評判がイイみたいです。グロが苦手の人にはキツイらしいけれど。属性的には双子姉妹&吸血鬼&鉈持った殺人鬼&輪姦嵐&グロの奔流。いちいちツボを突きまくり。これで買わなかったら当方の存在が嘘になります。回避不可。臨時出費があったせいで買うの遅れましたが、品切になってなくて良かった良かった。『巣作りドラゴン』が出るまではちまちま攻略していようかと。

新ブランドMeteor(メテオ)デビュー作『神樹の館』、シナリオは田中ロミオ

 『最果てのイマ』は未だに発売日が決定していないし、こっちの方が先に来そうですね。館モノは好きなだけに少し期待。

・貴志祐介の『硝子のハンマー』読了。

 4年ぶりの新作にして、「密室」に真っ正面から挑んだ著者初の本格ミステリ。「このミス」の「隠し球」コーナーで「書いてます、書いてます」と言っていたのがようやく刊行されました。最近はめっきり本格離れしてしまった当方ですが、やはり「密室」の4音が持つ響きには抗いがたいパワーを感じてついつい手に取ってしまった次第。余談ですけれど、貴志本は『青の炎』以外読了済。

 シチュエーションはごくシンプル、ビルの中にある企業の社長室で、社長が変死を遂げるといったもの。状況からして事故とは考えにくく、「殺人事件」と判じた警察は犯行機会が充分にあったとされる人物を容疑者として逮捕。ビル自体には警備員、監視カメラ、赤外線センサーなどの防犯対策が張り巡らされているため外部犯の仕業とは思えないし、また現場のフロアにいた秘書の目もあって、逮捕された容疑者以外の内部犯を想定するのも難しい。厳密な意味合いでの「施錠された部屋(Looked Room)」でこそないものの、セキュリティ上侵入不可能と見られる「密室」。容疑者となった人物の無実を晴らすため、弁護士は防犯のプロフェッショナルに捜査を依頼する。

 本格において、「密室」を扱う上での頭痛の種となるのがピッキング、合鍵作成等、ごく技術的な開錠法の存在です。「犯人はピッキングのテクニックを持っていた!」なんて真相で「密室の謎」を片付ける話なんてのは、超能力を持ち出すのと同じくらい「ええ〜?」な感じで面白みに欠きます。しかも超能力ならまだ西澤保彦の『念力密室!』みたいに捻り甲斐もありますが、ピッキングのマル秘テクニックを延々と書くだけでは到底本格ミステリにはできない。「本格」の定義は諸説ありますけれど、突き詰めていけば「謎→推理→解決」の過程に読者が参加できるよう手掛かりとなる必要な情報をすべて提示し、「これはOK」「それはNG」という150年以上にのぼる蓄積で構築された暗黙の了解・様式美に基づくフェアプレイを心掛けた作品……となるハズです。解き明かす際に専門知識が必要となる場合はあらかじめ説明していないとアンフェアですし、「ピッキングができるのは誰か」なんてことを論理的に推定できる構造になっていなければ本格たりえません。

 「機械トリック(針とか糸とかを使った機械的で物理的なトリック。『名探偵コナン』に多い)が良くてなぜピッキングがいけないのか?」とかいったことを議論すると長くなりそうなので割愛しますが、ともあれ昨今の密室モノ──いえ、本当のところあんまりチェックしてませんけど──は時代を下げてピッキングが横行する前の頃を舞台にしたり、「ピッキングも鍵の複製も不可能な特殊錠」と問答無用で設定してしまったり、そもそも錠前に頼らず「視線の密室」や「雪密室」などのシチュエーションに拠ったり、セキュリティを徹底したりと、様々な工夫が凝らされています。このガラハンも「錠前に頼らず」「セキュリティを徹底」という方面で頑張っていて、「セキュリティに穴はないか」と虱潰しに検証しつつ、仮説を組み上げては崩し、組み上げては崩し……とディスカッションを繰り返す。正統派スタイルであり、ディティールへのこだわりには読んでいてワクワクします。

 ただ、本格の孕む宿命的な問題、「エンターテインメントとしては退屈になりがち」といった部分が本書にも存在するあたりは残念。本格ファンは読みながら容疑者たちのアリバイ表や証言の要点をまとめたものを自作し、「誰に機会があったのか」「もしこの人物が嘘をついているとすれば、どんなふうに前提が覆されるか」を把握しておくコアな人も少なくはなく、そうした作業に一種の楽しさも覚えるわけですが、やはり事件の全体像を把握するのが面倒臭いって読者も多いわけです。何も特別に物臭な人たちというわけでなく、ドラマチックでもなんでもないアリバイ談義やら証言集やらを読まされるのは、数式を読み解いたり家電の説明書を読み込むみたいなかったるさを催しても仕方のないことかと。ディティールの掘り下げ、執拗な推理合戦は反面、ドラマ性を希釈する原因にもなりかねない。「人間が書けていない」は本格批判の常套句であり、推理に拘れば拘るほど人物描写がおろそかになっていく傾向を指摘しています。このガラハンもキャラクターの一部が「容疑者」という役割のみに留まり、それ以上の厚みが感じられなかったりする。主人公サイドの弁護士や防犯プロフェッショナルも、理論理性を重視して挑む姿勢がときたまドライに映る。登場人物に感情移入して読み込むタイプの人には、若干辛いかもしれない。

 ところでこの作品は二部構成になっています。第一部「見えない殺人者」が「問題編」とすれば、第二部「死のコンビネーション」は「解決編」。第一部は全体の約3/5、第二部が2/5程度。全体が500ページ弱なので、「解決編」だけで200ページはあることになります。やけに長い。よくある「解決編」は雑誌連載の最終回onlyでも足りるくらいですから、ちょっと異常な分量ですらあります。なぜそんなに長いのか説明は省きますけど、ここの部分における拘りが、良くも悪くもガラハンに普通の本格ミステリと違った味付けを施している寸法。エンターテインメントの観点で言えば、第一部よりも人気が集まると思います。でも自力で謎を解きたい人は、第二部へ入る前に立ち止まって推理するが吉。

 貴志祐介という作家の特徴には一つとして「細部への拘り」があると思います。多重人格を扱った『十三番目の人格』然り、保険業界を舞台にした『黒い家』然り、サバイバル・ゲームを描いた『クリムゾンの迷宮』然り。本書は「本格ミステリとしての拘り」を追求する一方、「本格ミステリでもそうそう拘らない細部」に至るまで手を尽くしており、本格離れを起こした当方も昔を懐かしんで楽しむことができました。けれど強く本格であろうとするがために犠牲にされた箇所があり、そこが評価を受ける際のネックにもなりそう。貴志の持ち味がすべて殺されてしまったわけではありませんが、本格ミステリ+貴志の持ち味(ハーフ・サイズ)といったテイストゆえ、本格好きには美味しい一品になりますけど、貴志ファンにとっては物足りない仕上がりかもしれません。

 本格ミステリとしては読み易い部類。オススメ。今年十位以内の収穫と見てほぼ間違いないかと。


2004-06-15.

・書店で『蹴りたい田中』を手に取り生暖かい笑みを浮かべつつも、『復活の地1』を購入。3部作なので完結まで積む気ですが、小川作品は1冊1冊のんびり読んでいっても面白さが変わらないという経験を得ており、「別に今すぐ読み出してもいいじゃない」という誘惑に負ける瀬戸際の焼津です、こんばんは。いいや、読んじゃえ。

「七人の妹」、開発無期延期

 ブランドが解散すると聞いていましたから、たぶんそうなるだろうとは予期してましたが……あのバカっぽさに密かな期待を抱いていた分、残念。

 それにしても「無期延期」と聞くと相変わらず『末期、少女病』の傷が疼くなぁ。助けて、キュラキュラ星人!

・新井輝の『ROOM NO.1301 おとなりさんはアーティスティック!?』読了。

 ヤバイ。正にヤバイ。具体例を持ち出すなら、徒手空拳の旧ザクでガンダムに特攻かますくらいのヤバさ。年寄りの冷や水級です。「鍵を持っていれば誰でもタダで使って構わない」というマンションの部屋等、舞台設定において幾分か奇妙な部分こそあれど、解くべき謎がどこにも見当たらず、代わりにやたら目に付く要素が「エロ」。これをヤバイと言わずして何と言う。

 「ミステリーなんて飾りですよ、偉い人にはそれ(ry」と言われて久しい富士見ミステリー文庫ですが、さすがにここまで事件らしい事件がないとなると度肝を抜かれる。同レーベルの、学園モノと思わせてアンダーグラウンドでの激しく超常的な闘争へもつれ込んでいく『Dクラッカーズ』でさえ話の核となる「謎」は毎回用意されていたのに、本書に至っては波乱の予感を振り撒きつつも大したことは起こらずTo be continued……というかそもそもこの「ROOM NO.1301」シリーズ、続きものだったんですか。話が1冊では完結せず、引きをつくって「以下次巻へ」って形で終わってます。いやあ、二重の意味で意表をつかれました。謎どころかオチまでないとは……。

 今年に入ってから「テーマはLOVE」と謳い出した富士ミスにとってはこのシリーズも主力の一つかもしれませんけど、それにしたってこれは「LOVE」というより「EROS」じゃないですか。さすがに直接的な濡れ場の描写こそないものの、「ヤッた」とキッパリ明言しているせいもあってかなりギリギリ臭が濃厚。エロに関しては『みなごろしの学園』ほど開き直っていませんが、むしろ一歩引いた距離感から放たれるエロティシズムがもどかしく何処かに突き刺さり、余計に威力を増している気がします。肝心の場面が書かれていないがゆえに、却ってエロ欲を喚起されるというパラドックス。エロゲーでやったらただのプロスパーですが、「エロシーンなくて当たり前」のライトノベルなればこそ発揮される強み。侮りがたし。

 ストーリーは平凡な一高校生である少年が、様々な少女たちとの交流を経て「恋」を知っていく、といった具合で、コンセプト自体は何の衒いもない青春モノ。ただ、ほとんどハーレム状況で、ヒロインたちはほぼ無条件に「主人公マンセー」と、中高生の妄想を「素材の持ち味を活かすため、保存料は一切無使用」ってくらいそのまま落とし込んだかのノリに戦慄を禁じえません。眼光穏やかに「露骨すぎるほど性的な萌え」というドスを呑んで真っ直ぐ突っ込んでくる、その迷いのないヒットマン姿勢──新井が新井であり続けるための信念「アライズム」の前に当方、為す術もなくヤラレました。ぶっちゃけツボに入ったんです、ハイ。もういいよ、細かいこととか。ヒロイン巨乳だし。

 新井輝は作品によって面白いか否かが激しく違ってくる不安定な作家につき、デフォ買いは博打と睨んでますけど、少なくともこのシリーズに関しては買い続けてもいいかな……ぐらいには傾倒。タイムリィなことに2巻も最近刊行されたし、しばらく追っていこうかと。


2004-06-13.

7月28日にスティーヴン・ハンターの新作“Havana”の翻訳版、扶桑社ミステリー(文庫)より上下巻で発売

 そろそろだとは思ってましたが、キ、キタ━━(゚∀゚)━━!!

 当方がスティーヴン・ハンター大好きっ子であることは周知の事実。『魔弾』でレップ中佐に惚れ、『狩りのとき』でソララトフに燃え、心の芯から虜になりました。ヒーローよりも悪役に入れ込んでいるあたりアレな感じですが。ともあれ、当方にとってスティハンは注目度随一の海外作家であり、“Havana”の翻訳も一日千秋の思いで待ち構えていました。いやぁ、嬉しさのあまりHDDクラッシュの件の憂さが吹っ飛びましたよ。ガチで。

 こいつで7月の締めはウッドボール。

lightの新作『Dear My Friend』、情報ページ更新

 とりあえず今のところ、7月発売のエロゲーでは一番の注目株。分けても黒崎小麦。精白か全粒か、強いて言えば全粒の印象。……自分で書いたネタだけど、分かりにくいというか全然意味が分かりません。

・高瀬彼方の『ディバイデッド・フロント2』読了。

 スタイリッシュの対極にある泥臭さ。こういうのもライトノベルの領分なんだな、と少し新鮮な気持ちで認識を改めました。

 敵は謎の怪物「憑魔」だが、一つの群れが全滅すると別の場所に異次元かどっかからうじゃうじゃと湧いてくる性質があるので、自衛隊員の主人公たちには「憑魔を滅ぼし尽くしてはいけない」というルールが課せられています。倒しても倒しても何ら根本的な解決策になっていないことを知りながら、それでも銃を取り、「隔離戦区」と名付けられた檻の中で戦い続ける彼らの姿は懸命でありながら不毛です。同僚はごろごろ死んでいくし、予算は削られそうな気配があるし、敵はますます厄介になっていくし、もはや単純な正義感や曖昧な希望だけではどうにもならないムードが濃厚。だから絶望して拗ねてヒネたことを口にするかと言えば、そうとも限らない。ストーリーはやがて、「──それでも、ここで生きようと思った」というキャッチコピーへと繋がっていく。泥臭い。けれど清々しい。

 ヒロインが根暗だったりと、ライトノベルの「お約束」を微妙に無視したノリも見られますが、キャラひとりひとりの心情が丁寧に物語へ織り込まれていくため、そうした部分が必ずしもマイナスにはなっていない。というか、ヒロインは前巻よりもグッとポジティヴになっていますし、「根暗っ子」が苦手な人も今回はフツーに楽しめるのではないかと。個人的には前巻の根暗加減が好きだったので今回の前向きぶりがやや残念。

 1年近く待たされたわけですが、これなら待った甲斐があったかな。一層面白くなっていて熱中しました。「3巻は秋に出る」という情報もありますし、次こそはそんなに待たされないだろう……と期待しています。最近、スニーカーの作品ってあまりチェックしていませんけど、このディバフロは『されど罪人は竜と踊る』『ランブルフィッシュ』と並んで今後が楽しみなシリーズ。


2004-06-11.

・迸るHDDクラッシュ。こんばんは、焼津です。

 三日前の夜、突然「カッカカタラ(ガリッ)カッカカタラ(ガリッ)」とリズミカルに凄い異音がしてノーパソが動かなくなりました。どうやら物理的に壊れたらしくてHDDを認識してくれない。何度も再起動を繰り返すとたまにHDDを認識することはあったんですが、途中でまた動かなくなってしまう。結局匙を投げました。当方、PC歴はそこそこ長いくせして知識はサッパリのド素人です……。

 幸い必要最低限のデータはバックアップを取っていたおかげで差し当たっての厄介はありませんでしたが……趣味で集めていた画像もろもろが逝ってしまったのは痛い。ごく一部はバックアップがありますが、容量にして1GB満たず。気に入ったら即保存、という保存魔ですから二度と見返すことがないファイルがほとんどですけど、それでも残念は残念。

 私用はノーパソ一台のみで、「そろそろ新しいのが欲しいな」と思っていたところなので良くも悪くも一つの機会と捉え、新しいパソコンを調達しました。ショップ製の安いやつ。それが配送されるまで待っていたせいで更新が遅れてしまったわけです、はい。

 できればデータはサルベージしたいけれども、業者に頼むとかなり高額みたいなので躊躇中。とりあえず3年半の長きに渡って役立ってくれたHDDに祈りを捧げておくとします。レスト・イン・ピース。

「煙か土か食い物」「暗闇の中で子供」に続く<奈津川血族物語>の最新作を今秋発表予定!(ケムリズム)「Locked Room」経由)

 やっと第三弾がお目見えですか。『暗闇の中で子供』以来単発作品や中短編がメインになっていたので、「次作はいつ来るんだろう」とじりじりしながら待っていました。3年、長かったです。番外編の『世界は密室でできている。』から数えても2年半。やはり長かった……。

佐藤友哉の新作予定、及び『エナメルを塗った魂の比重』新装版表紙(フリッカー)「Locked Room」経由)

 『ファウスト vol.3』の話題においてチラリとも名前が出ていない佐藤友哉ですが、仕事をしていないわけでも、させてくれないわけでもない様子。それにしても『エナメルを塗った魂の比重』の通称が「ユヤたんの一番エロい奴」とは……。


2004-06-08.

・冷蔵庫に仕舞い忘れたペットボトルのお茶がストレンジ風味を放っていてもキニシナイ焼津です、こんばんは。エグい味でも「これはこれで美味い」と思い込んでしまえば勝ちー。勝ちなのー。

・帰りに『空の境界(上・下)』購入。もちろん通常版。2年半前の同人版は講談社ノベルスを意識した体裁だったので「そのうち商業版が講談社ノベルスから出るかも」と冗談を言ったのが、もはやネタにもならずただの現実に過ぎないとは。『ファウスト』の第3号は原田宇陀児、元長柾木、奈須きのこの3名が競作するらしいし、時代の変化はホラーショウ。当方の予想斜め上を飛び去っていく。でもぶっちゃけ「新伝綺」という旗印はダサ……いえ、ピンと来ないです。響きや字面が『北神伝綺』とかぶっていて微妙。

『姉、ちゃんとしようよ!2』体験版をプレー。

 前作を途中でやめてしまって再開する機会がないまま今日まで至ってしまった次第。買ってもどうせ積むだけなのでしばらく様子見していようと思いつつ、「体験版なら手軽に楽しめるだろうなぁ」と誘惑を振り撒く思いつきに抗い切れず、手を伸ばしてしまいました。意志力の弱さに乾杯。

 ストーリーは前作の続き、らしい。特定ヒロインのエンド後というわけではなく、「誰ともくっつかなかった結果の延長戦」みたいな雰囲気。前作のプロローグでもチラッと触れられていた「主人公が10年間世話になった沖縄の一家」が今回の焦点となる模様。犬神家──と聞いて横溝のアレを思い出してしまいましたが、別に珍しくないでしょう。咄嗟に自己弁護。とはいえ、さすがに連続殺人とかは起きないかと。ヒロインの中に弁護士がいるので『逆転裁判』的な展開も可能っちゃ可能かもしれませんが……あ、でも『犬神家の一族』って弁護士が最初に死ぬんだったっけ。

 体験版をやった感じ、一番目立っているのは帆波ねぇやかな? 歩笑(ぽえむ)は名前のすごさとゴスロリ的外見の放つインパクトが首を刈るフックにも似て強烈だけれど、無表情&寡黙キャラなので動きに乏しく他の姉たちに埋もれがち。姉ズの人海戦術を前にして無力。帆波は容姿のインパクトこそ弱いものの、ひたすら行動力があるせいで良くも悪くも目立ちまくりです。彼女にうざったさを覚えるか、魅力を感じるかがこのゲームにおける岐路となりそう。当方は割合惹かれています。若女中を呼ぶような「ねぇや」という響きにも胸キュン。

 テキストにキレがある代わり、基本的なノリは「ヌルいコメディ」の域内に留まるため、「抱腹絶倒のギャグ」などといった笑いの要素を過剰に求めると肩透かしの可能性濃厚──といった塩梅ですか。しかし感触としてはなかなか良かったので、注目ランクを「様子見」から「機会を見て購入」へ上げておきます。発売日(今月25日)は他に注目しているソフトが7本もある激戦区につき、「特攻」の手札は手控え。安牌ゆえに当面は泳がせときます。


2004-06-06.

・そういえば『コン・エアー』見るのは昨日が初めてだった。噂に聞いていた「幼女と戯れるブシェミ」を目にすることができて満足。

・吉川良太郎の『ボーイソプラノ』読了。

 『ペロー・ザ・キャット全仕事』の続編。主人公はペローからヴィッキーに交代。近未来フランスの暗黒街「パレ・フラノ」の一角に事務所を構える私立探偵であり、眼帯、タバコ、矜持の三拍子揃ったハードボイルディアン。「卑しき街を行く誇り高き騎士」、フィリップ・マーロウの面影がバシバシ浮かんでいます。とはいえ街の支配者パパ・フラノには反骨しないがらも自らの信念を貫き切れていない面もあり、完全無欠のヒーロー探偵かといえば否。適度な皮肉と適度な人間臭さと適度な感傷をまとった正統派の主人公です。

 暗黒街の教会から、ひとりの司祭が消えた。彼の行方を捜してほしいと、別口からふたりの依頼人がやってくる。ひとりはアンジェロ──少女のように高い声を放つ美少年。彼は自分が司祭ドミトリの愛人であったことを認め、ヴィッキーに捜索を依頼した。金にならないうえ、司教は既に死んでいる可能性が濃く、気乗りしないヴィッキーは依頼を断る。だが、立て続けに訪れた客──ヴァロアも司教の行方を追ってほしいと頼んだので、嫌な予感を覚えながらも仕事を始めた。司祭はギャングとの付き合いがあったらしく、彼らとのトラブルによって失踪を余儀なくされたものと見られたが、捜査が進むにつれキナ臭さがどんどん増していく。こんな仕事からは手を引くべきではないか。嫌な予感が致命的なレベルにまで高まる。いつの間にか抜き差しならない状況に陥ってしまったヴィッキーは、事務所の前で人を殺す謎の化け物を目撃し……。

 ロマン・ノワールの香りを残しつつ、ジャンルはハードボイルド方面へシフト。チャンドラーの本は1冊しか読んでおらず、「マーロウ式ハードボイルド」がどんなものか確たるイメージを持たない当方としては漠然たる感触のみで語るより他ありませんが、「以前は刑事だった」「愛した女の命を救うことができなかった」などベタベタな背景を負っているあたりはいかにもそれらしいかな、と。

 比べると分かりますが前作より厚くなっています。ざっと50ページくらい。ダイナミックなシーンが多く、主人公が頻繁に危機的状況に陥る前作はスリルに溢れていて疾走感とともに気持ち良く読み通すことができましたが、今回は基本的にゆったりとしたテンポで物語が紡がれていくせいもあり、ちょっとダルさの湧くトコありました。前作のキャラも多く出てきて作品世界そのものは楽しいんですが、これが2冊目なので新鮮味は薄いですし、主人公の危機もそれほど身に差し迫ったものではないので緊張感に欠く。それでも新登場のアンジェロを含め、一定以上の魅力と個性を有したキャラたちが織り成す空気は肌に心地良く、彼らの遣り取りを傍観しているだけでスッと作品世界に入っていけます。ややクサいものはありますが、雰囲気の良い作品。

 ストーリーの核となるべき「真相」がそれほど面白くないせいで読み終わってもあまり達成感はなかったんですが、レギュラーキャラをますます気に入ってしまいましたし、この「パレ・フラノ」を舞台にしたシリーズはもっと読みたい。スーパーハカーのイザベラさん(*´Д`)ハァハァ。

・ふりかけをお茶漬けの素と間違えてご飯に熱湯をかけてしまった晩の遅く。湯を排除しても無駄だと判じ、むしろお茶漬けの素を足して更にお湯かけ。微妙な味わいのご飯を楽しみました。

 知り合いにこのことを話したら「お前はあれだ、自分に非があってもあれこれゴネてなかなか謝ろうとしないタイプだな」と断定されました。新手の精神分析? お茶漬け判断。彼によればお湯をかけすぎて狙ったよりも薄味にしてしまう人は浪費癖があり、お湯を少なくして辛めで食べる人は忍耐強さに欠けるとのこと。無論、真偽は不明。


2004-06-04.

・頭痛は叩けばなんとかなると信じている節がある焼津です、こんばんは。たぶんどうにもなっていないはずです。

Paint Madnessの日記絵(6/1日付)を見てかつてない感情を(以下略)

 確かに「はみ」や「チラ」も芸術的でグッドデザイン賞クラスですが、オチのほのぼのぶりを含めて壮絶に和みました。うん、睡眠不足でも仕事山積みでもまだまだ戦える気力が錯覚と疑う暇もないくらい湧いてきますよ?

・伊坂幸太郎の『重力ピエロ』読了。

 冒頭一行目から引き込まれる。これまで多視点構造が基本だったのに対して本作は主人公の一視点に固定されているが、ストーリー・テリングには弛みというものがまったくない。ハナっからエンジンは全開で最後の最後までずっとそのまま。細かく章を分けていき、少しでも読者が退屈せぬよう素早い手つきで新しいエピソードを盛り込んで常時ストーリーに波紋を広げさせる、そのエンターテインメント精神に脱帽です。最初の50ページくらいは完全に時間の経過を失念して読み耽りました。

 母親が未成年のレイプ犯に襲われ生まれてきた弟。主人公は弟のことが好きだし、「あいつは生まれてこなければ良かった」などとは塵ほども思っていない。しかし、母に苦痛と屈辱を与えたレイプ犯を憎まないかと言えば、そんなわけもない。「もし、あのとき自分が無力な存在でなければ……」と考えつつ、仮に時間を遡って現場へ居合わせたとして、母を助ければ弟は生まれてくることがないのだと承知しながら犯行を止めることができるかどうか、といったことに煩悶する。弟も弟でいろいろ悩みながら人生を駆け続けていく。

 世界が『オーデュボンの祈り』『ラッシュライフ』と共通しており、関連を匂わすシーンもありますが、あくまで単発作品ですので「前作を読んでいないと事情が分からない」ということはありません。去年は結構話題になったみたいで書店でもコーナーをつくって山積みしているところがありましたし、「面白い」と絶賛しているサイトも多かった。どうしてもデビュー作から読みたくて『オーデュボンの祈り』の文庫化を待っていた結果、1年以上も読み出すのが遅れてしまい、当方が触れるのも「いまさら」って雰囲気。多種多様なレビューと感想に溢れていて、あれこれ述べていっても似たり寄ったりの内容になりそうですからダラダラ書きません。単刀直入に書いてしまいます。パワフルでエネルギッシュだけど脂っこくなくてあっさり風味の香る青春小説。カラッとファンタスティック。ミステリ──謎解き要素は作品を構成する一つの部品に過ぎず、そこを強調するよりもむしろ「ただただ読んでいて面白い」と正直に打ち明ける方が話は早い。もっと話を早くしたいなら、当方の文章を読むよりも書店に行って本書の冒頭に目を通せばいい。一瞬でケリがつきます。やたら薀蓄がちりばめられているし、逆説的な言い回しが多いし、文章センスもまだ少し垢抜けない。それでも、溢れるほどの意欲と心地良いスピード感は賞賛に値するかと。伊坂節が唸りに唸る。

 なんとなく退屈している、なんだか最近面白い小説にぶち当たらない、なにげに新鮮味がほしい──と、倦んで倦んで倦み切った状況に小気味良く風穴を開けてくれる一冊です。や、当方はここのところずっとアタリ続きですが。ソフトカバーで持っていて手が疲れず読み易い、という点も密かにポイント。あ、それから実は前後して『陽気なギャングが地球を回す』も読了しているんですが、こちらもこちらで面白かった。愉快な4人組の強盗が愉快に活躍するクライム・ノヴェル。伏線が一気に収束していくクライマックスは快感。だが、もう少しサスペンス要素を仕込めれば更に盛り上がったような気も。ちょっと「陽気さ」が裏目に出ている。


2004-06-02.

・三食ラーメン、三食カレーの単調食生活に適応中の焼津です、こんばんは。少しサラダが恋しい。

SIMPLE 2000 シリーズ Vol.61 THE お姉チャンバラ - お姉ちゃんが血みどろバトル!

 ちょうどデイヴッド・イーリイの『ヨットクラブ』を読んで「イーリイすげぇ。イーリイやべぇ」と心底驚き、アホの子のように口を開けていた当方が、もっと大きく開けっ広げてしまうくらいの衝撃。SIMPLE 2000、もはや止める人は誰もいないんでしょうか。

 ところで当方は『ゾンビリベンジ』が好きです。大好きです。『ザ・ハウス・オブ・ザ・デッド』に匹敵するほど気に入っています。ドリキャス版を買って何度も何度も繰り返しプレーし、「休日がまるまる『ゾンリベ』に消えた」という過去さえある始末。もちろん、使用したキャラは毒島力也のみ。ぶっちゃけ他のキャラは使ったことがありませぬ。というわけでして、これが男クッサいキャラが血をブシャブシャ撒き散らし大活躍するゾンビ鏖殺ゲーなら喜び勇んで購入予定に加えていたかも。「お姉チャン」だとチト微妙。

 話ズレますが、『ヨットクラブ』で特に凄かったのは「面接」「カウントダウン」「タイムアウト」の3編が一気に押し寄せる中盤あたり。読んでいてクラクラしました。

・吉川良太郎の『ペロー・ザ・キャット全仕事』読了。

 第2回日本SF新人賞受賞作。刊行時24歳。「1976年6月17日生まれ」とあるので現在は27歳で、もうすぐ28歳ですか。結構若い。

 ソフトメーカーでの単調な仕事にうんざりしていたジョルジュ・ペロー。彼は骨董店で手に入れた怪しげなディスクから、途轍もない技術を引き出し、会社をやめることにした。サイボーグ動物への精神憑依。人の肉体を捨て、白と灰の毛に覆われたアメリカン・ショートヘアーの身体を手に入れた彼は暗黒街の至る所に忍び込んでは盗聴・盗撮し、そのネタをもとに強請って大稼ぎ。だが調子をこきすぎたのか、街を牛耳るギャングに目をつけられ危機に陥った。彼は生命と、自由と、孤独を守り抜くため、猫に乗り移ってフランスの宵闇をひたむきに駆け続ける……。

 近未来のフランスを舞台にしたノワール色の漂うスタイリッシュSF。帯で「自由を愛する!」と叫んでいる割にギャングから脅されて冷や汗かきかきビビりまくる、案外ヘタレな主人公でした。でも当方の基準でいえば好感の持てるヘタレ。人間嫌いで、「自由と孤独」に重要な価値を見出している彼の行動原理はシンプルだし、後悔や自虐もサラッとしていて湿っぽくない。

 文章はテンポも良く、読み易い。「肉体の修道士」など、言い回しにもセンスが感じられる。以前目にした短編「ぼくが紳士と呼ばれるわけ」も、一読して好印象を抱きましたし、吉川良太郎のテイストは当方好みと捉えて間違いない模様。内容はSF版『吾輩は猫である』といった趣。設定面のつくり込みはそれほど濃い感覚がせず、どちらかと言えば薄口? おかげでいちいちページを繰るために手を止める必要もなく、娯楽小説としてはリズミカルに読み進められる。『異邦人』なんかのパロディがあったり、文学的な遊び要素も存在しています。

 「主人公が猫になって暗黒街をうろうろする」というシチュエーションは絵的に魅力大ではあるけれど、その筋立てのみを耳にすれば非常に地味ぃに聞こえます。「暗黒街を往く猫」のイメージは確かに美味しい。それでもやっぱりストーリーは単調になってしまうのではないか……と思えばさにあらず。動的で、なかなか盛り上がるシーンがふんだんに詰め込まれている。アクションの主体が猫であるにも関わらず、実に燃えます。「今は、蛮勇こそが真の勇気だ」とか、クールを気取っている割に熱い独白が多く、読んでいるこちらとしては頬がニヤニヤ、背筋がゾクゾク。猫が戦うってのも結構様になるもんなんですね。そういえば『キャッツ&ドッグス』とかいう映画があったっけ。

 感想は要約すれば一言「気に入った!」。淡々とした語り口でありながら、ソリッドなスピード感と緊迫した空気がヒリヒリ痛いスリル感に満ちている。秋山瑞人といい、冲方丁といい、小川一水といい、最近の若手SF作家は当方のツボを突きまくって困ります。まったくもって嬉しい困惑。こんなに面白いと他の著書も読みたくなるじゃないですか。まだ他にもいろいろ積んでいる本が山とあるのに。


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