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2026-08-27.

・4巻の発売日も近づいてきたし、そろそろ崩す……かぁ、と『汝、暗君を愛せよ』を3巻まで読んだ焼津です、こんばんは。

 かなりの話題作なので今更解説する必要もない気がするけど、知らん人がいるかもしれんし念のため書いておきます。作者は「本条謙太郎 (ほんじょう・けんたろう)」で、元はネット小説。「小説家になろう」や「カクヨム」、「ハーメルン」といった投稿サイトで2024年に開始し、2部構成で同年末に完結。連載期間は約半年といったところです。2025年から大幅な加筆修正を施しつつ書籍化、来月出る4巻で本編は終了します。後日談というか、「主人公亡き後に刊行された」って体裁の「評伝」があるので書籍版は恐らく全5巻になるでしょう。単発ファンタジー作品としては長いが、いわゆる「なろう系」としてはちょっと短い、そんなサイズのシリーズです。

 主人公「ぼく」は現代日本からの転生者。祖父の代から続く造園会社を継いで若き社長になるもやる気が空回りし、遂には世を儚んでお空にダイブしちゃって、気が付いたら異世界の王様に転生していた……という、書き出しそのものは正直に言ってありきたりだ。「低い身分から成り上がっていく」のではなく既に至尊の地位に就いている――この点に関しては少し珍しいが、『転生したら皇帝でした』などの前例があるため設定についてもそこまでオリジナリティを感じない。じゃあ何が珍しいのかと言うと、「魔法」や「チート能力」、それどころか「戦記要素」もほとんどなく、ストーリーのほぼ全てが「政治」を中心に展開していく、ファンタジーとしてはかなり地味な作品に仕上がっているのだ。なのに読ませる。「この世界で生きている」人々の息遣いが感じられるような、リアリティが……というよりは「解像度が高い」小説である。

 「ぼく」が生まれ変わったのは「サンテネリ」という、地球で言うとフランスっぽい国の若き王様「グロワス十三世」だった。前世での空回りに懲りて「自分の力で何とかしよう」という英雄願望を捨て、徹底的に周囲に頼る「愚王」「暗君」ムーブでどうにかサバイブしていく。しかし自己評価の低さとは裏腹に、王周辺の人物たちは「とんでもないお方だ」と瞠目する事になる……基本のノリとしては「勘違いモノ」や「忖度モノ」に近いかな。「自己評価の低さ」と「周囲から寄せられる高評価」のギャップで読者の心をくすぐる、そういう意味ではなろう系らしいキャッチーな作品と言えなくもない。

 ただ、「勘違い無双」なテイストは1巻が最高潮で、2巻に差し掛かるとトーンダウンしてしまうんですよね。1巻が「主人公の成功」を描く物語なら、2巻は「主人公の失敗」を描く物語で、「なろう小説的な、ひたすら上手くいってヨイショされ続ける気持ち良さ」を求める人は鼻白むかもしれない。そして一人称形式で進むのも2巻までであり、こっそり日本語で日記を書いていた「ぼく」は転生した「この世界」へ同化する事を決意して、日記の執筆をやめてしまう。3巻は主人公である(正確には「主人公であった」と表記すべきか?)グロワス十三世の内心は直接描かれず、各セリフや三人称で綴られる様々な描写から汲み取るしかない。「もう『ぼく』の事は充分にわかっただろう?」と補助輪を外してしまうのだ。2巻のラストで未来のサンテネリが出て来て、グロワス十三世の名前は残っているものの少なくとも「名君」「偉大な王様」としては語り継がれておらず、むしろその娘の方が有名になっている……と暗示される。織田信長は知っていても、織田信秀(信長の父)は歴史好き以外あまり知らないようなもんですね。信秀、暗君ではないんだけど、暗君じゃないからこそ却って印象に残らない。信秀を主人公に据えた小説作品としては『青銭大名』があるけれど、よっぽど売れなかったのか発売から14年経つ今もなお文庫化や電子化はしておりません。まぁ、正直「信長の父である織田信秀が主人公です」と言われて「うおおお! 読みてえ!」ってなる人はあんまおらんよな。信秀主人公ではないが、信長が生まれるところから始まるので信秀の出番が多い『蒼き信長』という歴史小説もあります。

 閑話休題。主人公が軍を率いて大活躍するタイプの戦記ストーリーではなく、むしろ「戦費がない」「兵たちの疲弊が激しい」という理由で戦争を回避しようと根回しするタイプのストーリーゆえ、同じ「最高権力者に転生する(実権があるとは言ってない)」ファンタジーの『転生したら皇帝でした』とはまた読み口が違っています。どちらかと申せば『栄光なき天才たち』に近いかな。確実に歴史を動かした存在でありながら、その偉業は大衆に理解されず、歴史の波に埋もれていく……そんな「忘れられたワケではないが顧みられる事が少ない」王様の肖像を丹念に綴っていく小説です。転生を除けばファンタジー要素は少なく、作中に「魔力」という用語が出てくるものの、これも「方便の類であって実在はしない」って扱いになってます。チートスキルで無双、みたいなのには飽きてきたけど「本格ファンタジー」も胃にもたれる……中間ぐらいの「読みやすい濃度」が欲しい、という方にうってつけのシリーズだ。

 まだ書籍化はしていないが、なろうやカクヨムには関連作も掲載されています。前日譚に当たる『ラケディア、麗しの』(「暗君」は銃が実戦配備されている近世くらいの時代感覚だが、「ラケディア」は槍や弓で戦っていた頃の話であり主人公がスパルタっぽい都から旅立つ事を余儀なくされる追放モノ、作中で広まっている宗教「正教」の創始を巡る話らしい)、現代日本が舞台だけどなぜか「暗君」の記憶を有している「ぼく」が主人公の『地に落ちて死なずば』紙に刷った同人誌もあり、時期は不明ながら商業出版の予定もある)、そして最近連載が始まったばかりの『或る指導者の青年時代』(現代日本から転生してきた「私」が主人公、「暗君」よりはちょっと未来、ロシアっぽい国で皇太子の友人になった「私」が歴史を動かしていく)の3つ。『地に落ちて死なずば』は商業出版が告知されているし、ラケディアや或る指導者はまだ途中なので、「紙で読みたい」派の人は今すぐアクセスせずにのんびり待つのも手です。

『風の白猿神2 幻惑の聖域』発売決定。

 期待していたとはいえ、実際に報じられると「“幻想(ユメ)”じゃねえよな……!?」というリアクションになってしまう。『風の白猿神』、31年ぶりの新装版&続編決定です。元はシリーズタイトルだった「神々の砂漠」が巻タイトルに格下げとなって『風の白猿神』がシリーズタイトルへ変更された件に関しては思うところもあるが、「続編決定」という大ニュースに比べれば些細なものだ。

 久々に実家の書庫から引っ張り出してきてチマチマ読み返しているが、さすがに90年代の作品だけあってベースとなるノリは古臭い。あの頃の角川書店から出ていたオタク向け漫画の数々、そしてほんのり少女漫画っぽいテイストが感じられる。こう書いて伝わるのかどうかよくわからないが、『イズミ幻戦記』とか『真夏の国』みたいなノリなんですよね……なろう小説やカクヨム小説に馴染んだ世代が読んだらどういう感想になるのか、ちょっと興味が湧く。

 気が早いと言われそうだが、1巻と2巻が売れて3巻以降も発売されて大団円まで漕ぎ着けられるといいなぁ。

「ぼくの地球を守って」広瀬アリス主演でドラマ化!監督は三木孝浩、2027年秋に配信(映画ナタリー)

 ぼく地球(たま)、近頃やたら原作不足が叫ばれているのでそのうちアニメ化するかも……とは思っていたが、ドラマ化は予想外だった。あれを、ドラマ化……?? 簡単に言うと「転生物のファンタジー」なんですが、なろうやカクヨムでよくやってる「トラックに撥ねられて異世界転生、前世の知識やチートスキルで無双」な話ではなく、「前世から続く因縁」が軸です。興趣を削ぐかもしれないのであまり細かく説明できないが「前世」の舞台は宇宙であり、ファンタジーばかりでなくSF要素や「前世で何があったのか?」を紐解いていくミステリ要素も入っている。

 まず前提として、80年代頃に「前世ブーム」というのがあったんですよ。このへんの詳しい事はWikipediaの「戦士症候群」というページに書かれているのでそちらを参照してください。フィクションに感化された少年少女たちが雑誌の投稿スペースで「前世の仲間」に向かって連絡をくれるよう依頼する、割と他愛のないムーブメントだったのだが、1989年に女子中学生や女子小学生が「死の淵に立って前世の記憶を覗くため」と称して自殺未遂騒ぎを起こし、社会問題化した。大塚英志の『僕は天使の羽根を踏まない』冒頭やケロQの『終ノ空』で描かれた「アタマリバース」「スパイラルマタイ」(「死の間際」という極限状況へ己を追い込む事によって前世の記憶を取り戻す、という儀式。具体的に書くと、高島ざくろたちは高所から飛び降りる事で前世の記憶を甦らせようとしたが、失敗して死亡した)もこの事件をモチーフにしている。

 掲載誌が“花とゆめ”だった事もあり、恋愛要素も強く、前世では同じ年頃だった男女が転生時期のズレによって歳が離れてしまい、男子小学生と女子高生になってしまう――という、ほんのりインモラルなシチュエーションも描かれる。傍から見ると「おねショタ」だが、肝心の少年は「これじゃ異性として意識してもらえない!」と嘆くワケです。前世では女性だった人物が転生後は男性になっているなど、結構設定が複雑なんですよね。基本的に読者は「前世」と「今世」の人物をそれぞれ別々のキャラクターとして認識しているが、両者の魂は一緒なので、当然ながら今世において前世の出来事をいろいろと引きずっている。この二重構造ゆえTVアニメ化が難しく、30年以上前にごく短いOVAが出たきりとなっていました。このドラマが成功すればぼく地球ファン長年の悲願であるTVアニメ化も実現するか?


2026-08-12.

「ドカ食いダイスキ! もちづきさん」TVアニメ化!制作はパッショーネ(コミックナタリー)

 もちづきさんがアニメ化する事自体は、作品がメチャクチャな勢いでバズっていたし、先月頃から公式が匂わせるようなポストしてたから特に驚きはない……が、またパッショーネか! 『生徒会にも穴はある!』、『FX戦士くるみちゃん』、『ニセモノの錬金術師』と、ここのところ話題作な漫画のアニメ制作告知でたびたび目にしていたスタジオです。『異種族レビュアーズ』や『ぬきたし THE ANIMATION』を作ったところ、と書いた方がわかりやすいだろうか? 「ヤバいアニメをよく手掛けるスタジオ」というイメージになりつつある。

 『ドカ食いダイスキ! もちづきさん』はややぽっちゃり気味な主人公「もちづきさん」(本名は「望月美琴」)が仕事や日常生活で受けたストレスを趣味の「ドカ食い=過度な暴飲暴食」で発散させる、という「健康は投げ捨てるもの」なホラー食事コミック。路線としては『てんむす』など一時期流行ったフードファイト物に近いが、もちづきさんは別に誰と競うでもなく、純粋に趣味で大食いをしている。「ドカ食い趣味がバレるのは恥ずかしい」という想いもあるのか、家族にさえ隠そうとしています。その摂取カロリーは凄まじく、一日で5000キロカロリーを超える事も……もはや「命を削る」レベルにまで達している。おかげで「死神さん」が半レギュラーキャラと化している始末だ。

 真似すると危険というか、真似したくても日本人の胃袋にとってコレはキツいんじゃないですかね……肥満率の高いアメリカならそうでもないのかな? アメリカ人の摂取カロリーは、よく食べる人だと4000キロカロリーに及ぶそう。食べたぶんだけ運動すればまだマシなんですが、もちづきさん、デスクワークのうえプライベートでもあんまり運動してないんだよな……あらゆる臓器が悲鳴を挙げてそう。「打ち切りが決まったら主人公死亡エンドになる」とも噂されている本作、何とか生きたまま最終回を迎えて欲しいものだ。

「Destiny Unchain Online」TVアニメ化、吸血鬼少女になったゲーマー少年の青春冒険譚(コミックナタリー)

 公式略称は「DUO」。フルダイブ型のMMORPGをやり込むという、平たく言えば「シャンフロみたいなやつ」です。原作は小説ですがたった3冊しか書籍化されておらず、コミカライズの際にかなりアレンジされているらしい(小説版は未読)ので、たぶん漫画版準拠でアニメ化されると思う。シャンフロとの違いは「主人公の容姿が可愛い事」ですね。主人公の「満月紅(みつき・こう)」は中学3年生の少年、もともと中性的な顔立ちだったが、父親の開発したゲーム「Destiny Unchain Online」にテスターとして参加したところ、バグか何かでアバターが女の子になっちゃった! という一種のTS物です。

 フルダイブ型のゲームで肉体的な性別を変更すると「リアルに深刻な影響が出る」という理由で禁止されているハズなのだが……しかも父親は「3ヶ月ずっとログインし続けてくれ。あっ、学校はログインしたままオンライン登校できるから」と言い出す。ふざけるな、と思いながらログアウトしようとしたが――ログアウトできない! ってな感じで「デスゲーム要素はないけどログアウト不能なプチSAO」状態です。「父親が茅場晶彦」とか、あまりにイヤすぎる……説明が面倒なので「正体は男」という事実を隠し、謎の美少女ゲーマー「クリム」(紅=クリムゾン、でクリム)となり、レア種族「ノーブルレッド」(要は吸血鬼)としてその名を轟かせる紅。彼はいつしか「赤の魔王」と呼ばれるようになっていた……ってところから副タイトルの「吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました」が来ています。

 漫画版1巻ラストの仄めかしからすると紅の母親はホンモノの吸血鬼(真祖?)で、父親が人間だから紅はハーフヴァンパイアに当たるっぽく、ゲーム内アバターが女の子になったのも「肉体の性別が可変」ゆえじゃないかと予想され、精神に釣られて現実側の肉体まで女の子になりつつあるようだが……本編はずーっとゲーム攻略に話が費やされており、最新刊で母親の話が出てきたから久々に思い出したというか、リアル周りのアレコレは「そういえばそんな設定もあったっけ」レベルに記憶があやふやになっていました。まだ期限の「3ヶ月」が経過していないし、ハーフヴァンパイア疑惑云々は一旦棚上げしてもOKです。

 紅の知り合いもゲームをプレーしており、「古谷聖(ふるや・ひじり)」(プレイヤーネームは「フレイヤ」)が一応ヒロインのポジションに位置している……が、シャンフロ同様「ヒロイン(?)」状態であり、ラブコメ要素はほとんどありません。フレイヤちゃん、おっぱい大きいし可愛いんだけど、個性はそんなにないんだよな。他に弟子ポジションの子など多彩なキャラクターが次々と登場するため、「進めば進むほど面白くなる」あたりはシャンフロと共通している。個人的に好きなのはメンバー全員が褐色バニーで統一されている「黒兎組」というギルドなんだが、確か登場が9巻あたりなのでアニメだと早くても2クール目あたりの登場になりそうなんだよな。シャンフロ並みに長く続くアニメになって欲しい……まだ制作スタジオもメインスタッフもキャストも何もわかってないので何とも言えないが、気合の入った作画してくれるところだと嬉しいです。やはり「絵の良さ」が魅力の一つですからね。

・岡崎隼人の『ハンドレッドノート 名探偵 司波仁の事件簿』読んだ。

 こいつの千里眼について、「ギフテッド」だの「天賦の才能」だの言うやつがいる。
 んなわけあるかよ。仁の体はきっちりツケを払わされてんじゃねえか。ギフトどころか、これは一種の呪いじゃねえか? むしろこれさえなければ、仁は名探偵なんて因果で危険な仕事に就かなくてもよかったんじゃないか? そんなことすら思う。

 20XX年──少子化対策の成功・一極集中化・移民によって人口爆発が起こり、3000万人を突破したTOKYOは治安も最悪となり、「犯罪都市」の汚名を蒙っていた。処理能力がパンクした警察は完全にお手上げ状態となり、民間の探偵組織に捜査活動を外注(アウトソーシング)し始めた。日本一の民間探偵組織、それが「ネスト」である。ネストは捜査活動に従事する構成員を「名探偵」と呼び、なんと既に100人もの「名探偵」を擁していた。推理能力以外はいろいろと欠如しているモノが多い「名探偵」たちを支えるため、「記録者(レコーダー)」という補佐役を2名ずつ配属させ、「3人1チーム」を原則としてあらゆる事件捜査の依頼を受け付けている。「司波仁(しば・じん)」も「名探偵」の一人であり、現場に残された様々な痕跡を即座に見抜くその能力は「千里眼」と呼ばれていた。ゆえに仁をトップとするチームの名称は「ホークアイズ」である……と、こんな感じの設定でお送りする「ちょっと緩めのJDC」なシリーズの1冊です。漫画版も複数あるが、これは小説版。

 『ハンドレッドノート』は講談社が展開するメディアミックス的なシェアワールド企画であり、YouTubeやTiktokでの動画配信を主体としている。なので名探偵を補佐するメンバーが「助手」ではなく「記録者」と呼ばれているワケだ。企画の開始が2023年5月なので、そろそろ3年が経ちます。動画配信以外だとコミカライズが盛んで、マガポケ読んでるとたまに「1話目を読んだらポイントプレゼント」で作品を見かける。ネスト所属の名探偵チームには序列があって、事件解決の功績に応じてランキングが決まる。本書の主人公である仁のチーム「ホークアイズ」は序列21位。他のチームは序列100位(つまり最下位)の「アグリーダック」、序列63位の「コフィンロビン」、序列50位「ナイトアウル」、序列17位「スワロウテイルズ」、序列9位「クラウンクレイン」といった感じ。ホーク(鷹)、ダック(アヒル)、ロビン(駒鳥)、アウル(梟)、スワロウ(燕)、クレイン(鶴)――チーム名は全て鳥類で統一されています。序列1位のチームは今のところ公表されていないが、「エンペラーペンギン」だったりするのか……?

 シェアワールド物ですが、「舞台は近未来(スマホがもう使われていなかったり現金が珍しくなっていたりする)」、「警察の検挙率がダダ下がりしているせいもあって民間の探偵組織が権威化しつつある社会」、「ネストは一般の依頼も引き受けているが警察からの委託で動く事もある」、このへんの設定さえ飲み込んでおけばどこから読んでもOKです。司波仁は『ハンドレッドノートーホークアイズー』というコミカライズでも主人公を務めているが、そちらも話としてのダイレクトな繋がりはない(舞台とキャラクターが共通しているだけでエピソードはそれぞれ独立している)から別に読む必要はない。読んでおくとビジュアルイメージを掴むのが楽、という程度。コミカライズ読んだり動画を見たりすればすぐわかりますが、このハンドレッドノートという企画、基本的に女性向けなんですよね。なのでこの小説版からいきなり読み出すと表紙を飾っている仁以外のビジュアルイメージが大きくズレてしまう可能性が高い。実際、私も読み終わった後に「枯柳杖道(かれやなぎ・じょうどう)」の容姿を確認して思わず叫んでしまった。「どこが『おっさん』やねん! Vtuber並みの若々しいルックスやないか!」と。ちなみに年齢設定は30歳です。

 ぶっちゃけ『ハンドレッドノート』という企画そのものにはほとんど関心がなかった。マガポケやコミックDAYSでポイント欲しさに各コミカライズを1話だけ読んだりしているが、ほとんど流し読みに近いため内容もあんまり覚えていない。ホークアイズの話も複数回読んでるハズだが、キャラ名を全然記憶していなかった。「じゃあなんでこの本読んだんだよ」って話になりますが、単純に作者の「岡崎隼人」が好きだからです。メフィスト賞作家で、デビュー後長らく沈黙していましたが、少し前に復活してポツポツと新作を出している。

 本書『名探偵 司波仁の事件簿』は連作短編の形式を採っており、プロローグとエピローグを除くと4つの事件を取り扱っている。それぞれの事件は独立していますが、進むにつれて作中の人間関係が変化していくので頭から順番に読む事をオススメします。エピソードごとに語り手が変わるのも特徴の一つか。

 冒頭一発目の「第一話 祝福された子供たち ―司波 仁の憂鬱―」はチュートリアルめいたエピソード。「この作品はこういうノリでお送りします」とわかりやすく伝えてくれる。金持ちや犯罪者など、後ろ暗い事をしてあぶく銭を稼いでいる連中たちを襲撃し、大金を奪っていく強盗グループ――通称「影法師」。防犯カメラで撮影された映像から、実行犯のほとんどは年端も行かない子供たちだと推測されている。警察の威信をかけて捜査に取り組んでいたようだが、遂に音を上げたらしく、ホークアイズにお鉢が回ってきた。現場に臨場した仁は、すさかず床に「SOS」の文字が残されている事を見抜く。被害者の指によって書かれたモノだが、被害者は頭部を撃たれて即死しており、とてもダイイングメッセージを残せるような状態にはなかった。じゃあ誰が残したメッセージなのか? 仁の千里眼は現場に残留した「もう一つの手掛かり」を見逃さなかった……スピーディな展開で読者の興味を惹き、映像向けの派手な大捕り物もキチンと織り込んでいるお手本のような一本。この事件を経てホークアイズは「凪人」と呼ばれる孤児を引き取る事になります。本書はこの凪人の成長譚といった側面もある。

 「第二話 squeed!!!!!!!!! ―物怪瑠衣の当惑―」は視点を「記録者」の一人、「物怪瑠衣(もののけ・るい)」に変更して進行する。「squeed(スクウィード)」というシューズのブランドが流行し、「エアマックス狩り」さながらの「squeed狩り」が横行して世間を騒がせていた。squeed狩りの被害によって意識不明の重態になった青年「藤本圭吾」の姉「沙良」は「弟を襲撃した犯人たちを捕まえて欲しい」とホークアイズに依頼する。捜査を進めるうち、瑠衣の中で疑問が膨らんでいく。姉が心臓の病気を抱え、治療費が家計の負担になっているため進学を諦めるほどだった圭吾が、なぜ高価で数も少ないsqueedの靴を履いていたのか……? 非常にわかりやすく伏線を敷いているおかげで意外性とかは全然ないエピソードだが、依頼人である沙良のセリフが印象に残る。

 「第三話 夢の護り手 ―枯柳杖道の後悔―」。視点はチーム最年長の杖道に移る。両親がドラッグディーラーで、警察に捕まった事から児童養護施設に送られる運びとなり、そこで壮絶なイジメに遭って施設を脱走、「ハレルヤモール」という大昔に潰れたモールの跡地に築かれたスラムで少年時代を過ごした「早瀬匠海」。そんな過酷な生い立ちにも関わらず、必死にバスケの腕を磨いてプロ選手になった彼は地元にとって「期待の星」だった。しかし、チームのトップリーグ昇格をかけた大事な試合だというのに、匠海の動きは鈍かった。調子が悪いのか? 否、仁の千里眼が出した答えは違った。「わざと手を抜いている」――地元の星の八百長疑惑を巡るエピソードです。これもストーリー展開は割とシンプルで、意外な展開とかはない。試合開始後に「事件」を察知し、試合が終了するまでに素早く解決するRTAぶりを楽しむべし。

 ラストを飾る「第四話 star, dust, stardust ―柏手凪人の告白―」は第一話の事件関係者だった凪人を視点に据えて展開し、「ゴミは一生、ゴミのままだ」という諦念に立ち向かっていく締め括りのエピソード。凪人にとって「古巣」に当たるハレルヤモールが何者かによって襲撃された……ミラーレンズつきのフェイスマスクで顔を隠し、迷彩柄のタクティカルジャケットで武装した、体格からして男とおぼしき襲撃犯は夜中にモール跡地へ侵入し、寝ている子供たちを撃って回った。使われたのは非殺傷のライオットガン、「非殺傷」とはいえプロボクサーのパンチ並みの威力があり、直撃すれば骨折、当たり所が悪ければ死亡する事もありえる。状況からして人狩り(マンハント)の「ゲーム」をやっていたと考えられるが……これも事件自体はごく単純で、推理要素はそんなにない。行き場を失い逃げてきた子供たちの吹き溜まりであるハレルヤモールを蹂躙しようとした犯人たちに叩きつけた凪人の「答え」。胸糞の悪い事件ながら、読後感は爽やかです。

 石田衣良のIWGP(池袋ウエストゲートパーク)シリーズと、大沢在昌がたまにやってるSFっぽい設定のハードボイルド(『B・D・T [掟の街]』とか『影絵の騎士』の「ヨヨギ・ケン」シリーズみたいな)をミックスしたが如き読み口で、なかなか好みの一冊でした。一個一個の事件はそこまでインパクト大きくないのだが、いろんな要素を詰め込んでコンパクトにまとめる手際が良い。「メディアミックス物だから……」「シェアワールド物だから……」と敬遠せず、「近未来の探偵モノ」がイケるクチの人なら是非とも試してみて欲しい。ただ、全体的にあっさりめの文体で、「おっさんは言った」とか「おっさんが言う」みたいなテキストが頻出するから、読み応えのある文章を期待すると少し辛いかもしれない。表現技法の一種とはいえ、「言った」「言う」というテキストが10回も出てくる83ページはさすがにやりすぎだと思いました。

 シェアワールド物だけど、他の探偵チームやネスト本部に関する描写が出て来ないところも「読みやすい」と感じる一因になっているかな。「100人もの名探偵が在籍している」という設定から清涼院流水のJDC(日本探偵倶楽部)シリーズみたいなノリを期待すると肩透かしかもしれませんが、逆にそのへんの設定にヒいちゃっている人はコレを読んでみて「あっ、割と普通の話なんだ」と気付いてみるのも一興。作者のファンは、「メチャクチャ面白い」というほどではないにしろ普通に楽しめるでしょう。いやホント、良くも悪くも「普通におもろい本」なんですよね……これといってネタ的な要素がないので、ハンドレッドノートや岡崎隼人に興味がない方にはアピールするポイントが少ないと申しますか。アニメ好きよりも海外の刑事ドラマ好きの方が肌に合うかも。

・拍手レス。

 星を継ぐアイドルは本当に人が死ぬタイプのライブで驚きましたねー。今後の展開が楽しみです

 まだアニメ化とかは期待する段階ではないので、差し当たって「打ち切られませんように」と祈っています。

 自分のファースト東野圭吾は『分身』でしたね。レモンを丸かじりというフレーズが子供ながらに印象に残りました。ここ数年は、それまでやってなかったジュブナイルへの挑戦(クスノキの番人)などもしていたので、高齢作家の二度目の羽化を期待していました。非常に残念。

 『分身』は積んでますね。たぶん実家の書庫にあると思うので今度捜しに行こう。ガリレオ以外の「加賀恭一郎」シリーズや「マスカレード」シリーズ、「五代努」シリーズが全部宙に浮いてしまった事を思うと残念でならないです……。


2026-07-29.

・ヤングアニマルの新連載『星を継ぐアイドル』、もちづきさんの最新話を読みに訪れた際、視界に入ったので何となく読んでみたが「またトンデモない漫画が始まったな!?」とブッ飛んだ焼津です、こんばんは。

 原作は『魔法少女イナバ』の「猫にゃん」。さすがに2作も連載を並行させるのはキツいからか、作画は別の人になっています。作画担当は「橘夏々」。ストーリーは「娯楽一切禁止でスマホの所持すら許されず厳しく育てられたお嬢様『綺羅星 耀(きらぼし・かがや)』、彼女はふとした事から往年のアイドル『セイコ』の動画を見てしまい、その輝きに目を焼かれてしまう……」という、「ほーん、抑圧されているお嬢様が『自分らしく』生きるためにアイドルを目指すストーリーなのね。わかりやすいっちゃわかりやすいけど、ありがちかな」って代物なんですが、進むにつれ加速度的に話がおかしくなっていく。

 「あの学園では アイドルとしての才で 人の価値が決まる」「入学すれば スタァになるか さもなくば死」「当学園では 日本国憲法及び刑法を採用してませんニャ」――なんとまぁ『魁!!男塾』とか『七つの魔剣が支配する』みたいなノリの漫画なのである。2話目で人を殺そうとするアイドル候補生とか普通に出てくるしな……こいつも気が付いたら飛影みたいにしれっと味方ポジションに収まっていたりする可能性もあります。まだ始まったばかりなのでここからブレイクするかどうかはわからないが、以前「マガポケ」でやってた『雄(オス)!マスラオ学園』に次ぐくらいのインパクトはあった。

 ちなみに、タイトルの元ネタとおぼしきホーガンの『星を継ぐもの』とは今のところ何の関係もないが、このテンションなら「月面編」に突入しても不思議ではない気がする。月人(ルナリアン)アイドル「カグヤ」、「耀(かがや)」といい感じで対になりそうだから案外冗談ではないかも。

亜月ねね「みいちゃんと山田さん」2027年アニメ化!2人の声が入ったスペシャルPV(コミックナタリー)

 最近のアニメ界はあまりにもバーリトゥード(何でもあり)すぎるな……まさか『ヤニねこ』に続き、コレまでアニメ化するとは。

 「みい山」こと『みいちゃんと山田さん』はもともとツイッターで連載していた個人制作マンガで、Kindleインディーズ(要するに同人)を経て講談社の「マガポケ(マガジンポケット)」というアプリで連載し、商業化した作品です。商業化の際にスケールが膨らんでおり、単行本はこれまでに6冊出ている。連載はもうすぐ終了なので、7巻で完結です。

 ストーリーは語り部の「山田さん」が墓参りをするシーンから始まり、2012年1月、まだ山田さんが歌舞伎町のキャバクラで働いていた頃まで遡る。墓参りの際に「もうあれから何年経ったんだろうね?」というセリフがあるので、「現在」は概ね2020年前後と思われます。山田さんはキャバクラの店内で「みいちゃん」と呼ばれる子に出会う。本名は「中村実衣子」。源氏名と本名を使い分ける事もできず、トンチンカンな受け答えばかりしていたみいちゃんは、やがて何者かに殺され、死体となって発見される。そんな感じで、山田さんがみいちゃんと出会って別れるまでの12ヶ月間を綴るストーリーです。

 殺人事件が絡んでくるが、別にミステリではない。強いて言えば『嫌われ松子の一生』『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』に近いかも? 山田さんとみいちゃんの交友をメインに描きつつ、みいちゃんがこれまで辿って来た人生の道のりを振り返っていく。描き込みの少ないあっさりした絵柄なのでビジュアル的なインパクトは薄まっているが、内容は割とえげつない。路線としては『闇金ウシジマくん』寄りです。みいちゃんは何らかの障害があるのではないかと思われるが、本人も家族もそれを頑として認めようとはしないため、明確な診断は下されない。若葉睦の「モーティス」と一緒で、いくら「症状」があっても診断を受けないかぎり、病気や障害は「ない」扱いになってしまう。そういうセンシティブな題材を選んでいるが、お世辞にも慎重な手つきとは言えず、「煽情的」「悪趣味」という誹りは免れない内容です。読んだ人の間でも好悪の差が激しく、大っぴらに「好き」とは言いにくい漫画だ。私は「嫌い」というほどじゃないが、じゃあ「好き」なの? と訊かれると返答に困る。率直に言って「嫌いじゃないけどそんなに何度も読みたくはない漫画」です。

 それはそれとしてCV、山田さんの方は「潘めぐみ」だろうけど、みいちゃんは誰かわからないな。相変わらず私の音感は弱い……よほど特徴のある声以外は当てられない。一発で聞き分けられる声ヲタってスゴいっスよね。

ゆずソフト『千恋*万花』が2027年アニメ化決定。原作キャスト完全続投、主題歌はKOTOKOが担当(電撃オンライン)

 「期待はしていたけど実現するとは思ってなかった」な1本だ。『千恋*万花』は「ゆずソフト」が2016年に発売したソフトであり、もうかれこれ10年前になる。和風伝奇っぽいノリで、ある意味『E×E』のリベンジみたいなところはあるかな? 世界展開に成功したとかで、全世界セールスは100万本に到達していると云う。スゴい。そりゃアニメ化もするわ。

 エロゲー、婉曲表現すると「美少女ゲーム」は翻訳含むローカライズが成功すると海外でもセールスが結構伸びるらしく、「今が一番売れている」というブランドもいくつか存在するらしい。国内市場ではかなり存在感が減っていてしょっちゅう衰退論が唱えられるエロゲー界だが、まだまだ滅びるのは先の話のようだ。

 しかし、10年前のソフトがアニメ化するなら「あれも。これも」と期待してしまうな。近い時期のソフトだと『時計仕掛けのレイライン』、『見上げてごらん、夜空の星を』、『サクラノ詩』、『オトメ*ドメイン』、『千の刃濤、桃花染の皇姫』、『景の海のアペイリア』、『金色ラブリッチェ』あたり?

  ふたたび還って来るというのか、エロゲー原作アニメの黄金時代が……。

作家・東野圭吾さん死去、68歳 映像化作品多数『容疑者Xの献身』『白夜行』『マスカレード・ホテル』『流星の絆』…(オリコンニュース)

 は? 嘘でしょ?

 あまりにも唐突なニュースでそれ以外のリアクションが思い浮かばなかった。どこかのタチの悪いジョークに引っ掛かってしまったんじゃないだろうな……と震える手でチェックしたが、どうも本物のニュースらしい。絶句しました。言わずと知れた「ガリレオ」シリーズの原作者であり、100万部を突破した著書は数知れず。3年前に「国内累計発行部数1億部突破」の報も流れた、小説家としては最強クラスのベストセラー作家です。それがまさか、60代の若さで亡くなるとは……タイプする指から力が抜けてしまう。

 長々と綴る気力もないので手短にまとめますが、私が彼の著書を読んだのはEVAの旧劇場版『シト新生』公開日だった。上映まで少し間があるので、それまで時間を潰そうと手に取ったのが『変身』だった。なんで選んだのかは思い出せない。正直、時間を潰せれば何でもいいとさして深い考えもなく掴んだ気がする。結果、ほとんど総集編に近かった『シト新生』よりも遥かに衝撃を受け、そこから東野作品の数々を貪るように読み耽った。1997年、もう30年近くも前の事だ。

 東野圭吾がブレイクしたのは1998年の『秘密』がヒットしたからで、それ以前はごくマイナーな扱いだった。本好きの集まりに出て「いま東野圭吾にハマってる」と熱心に語ってもほとんどは「誰それ?」といううっすい反応。辛うじて知っている人がいたとしても「あー、乱歩賞作家の。読んだ事はないな」で話が終わってしまう。「マジでスゴい小説家なんだよ!」と熱弁しても「ふ〜ん」と暖簾に腕押しで、誰も読もうとしてくれなくて悔しい思いをした。ゼロ年代に入ってからはそんな状況が嘘みたいにヒットを飛ばしまくったが、鳴かず飛ばずで読書家にすら顧みられなかった時期があったんですよ……ハァァ〜、溜息しか出ない。受け容れ難い想いが強く、冥福を祈れるようになるまでもうちょっと時間が掛かると思います。今はただ目を閉じ無心で合掌するのみ。



管理人:焼津