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リレー小説「魔法少女忌譚修」(第13話−10/12)
2025-01-06.・焼津です、あけましておめでとうございます。昨年はいろいろとアレで更新もままならない状態でしたが、今年は多少マシになる……かな……なるといいな……って感じですのでゆるゆるとやっていこうと思います。
・新年ということで冬アニメの放送も開始、個人的な注目作は『グリザイア:ファントムトリガー』と『BanG Dream! Ave Mujica』の2本です。
『グリザイア:ファントムトリガー』はゲーム制作会社「Frontwing(フロントウイング)」が設立10周年を記念してスタートした“グリザイア”プロジェクトに属する、要はゲーム原作のアニメです。フロントウイングはちょうど2000年設立なので、プロジェクトのスタートは2010年。既に開始から15年にもなる一大プロジェクトと化している。新作アニメということで「とりあえず1話目だけ観てみた」という方はハッキリ言ってよくわからなかったでしょう。それもそのはず、TVアニメ版の『グリザイア:ファントムトリガー』はストーリーの途中から始まっているのです。だから舞台に関する説明もほとんどないし、キャラ紹介も概ね終わった後なので特に解説もないまま登場人物が次から次へと顔を出してくる。混乱するのも仕方ありません。
まず背景となる概要から語っていきましょう。“グリザイア”プロジェクトの作品は大きく分けて3つあります。『グリザイアの果実』『グリザイアの迷宮』『グリザイアの楽園』から成る「初期三部作」(「風見雄二」が主人公)、現在アニメ放送中の『グリザイア:ファントムトリガー』(「蒼井春人」が主人公)、ソシャゲとして配信されたけどサ終して今は買切型として販売されている『グリザイア クロノスリベリオン』(「真崎新」が主人公)。他にも『アイドル魔法少女ちるちる☆みちる』とか『グリザイア 戦場のバルカローレ』といったスピンオフもあるが、そのへんは割愛します。
もっとも知名度が高いのは2014年から2015年にかけてアニメが放送された初期三部作でしょう。学園とは名ばかりの、訳有りな少年少女を集めた鳥籠みたいな施設「美浜学園」で巻き起こる様々な騒動――風見雄二たち在校生が「巣立つ」までの過程を綴っており、ストーリーは三部作でキチンと完結しています。ファントムトリガーはその初期三部作から数年後の世界を舞台にしており、ある意味では続編とも言えるのですが主要陣は一新されているし、美浜学園もすっかり様変わりしている(一度廃校になってから運営が変わって再開した)ので「初期三部作の内容を知らないとファントムトリガーの話を理解できない」わけではありません。知っていると細かい繋がりがわかって面白いし、「タナトスさん」のモデルも判明して作品世界への没入度が高まりますが、ストーリー自体は独立している。ファントムトリガーの1話目を観て「よくわからない」という感想になってしまうのはその人が初期三部作の内容を知らないからではなく、TVシリーズ版のファントムトリガーは「いきなり第4章から始まっているから」なのです。
ファントムトリガーの原作は01から08までの全8章(番外編の5.5も含めると全9章)であり、実は第1章から第3章までの内容はOVAとして既にアニメ化されている。円盤も発売されていますが、DVDやBDなど映像関連の流通ではなくゲーム関連の流通経由で販売されたため、たとえばAmazonで「DVD」のカテゴリで検索してもヒットせず、「PCソフト」のカテゴリで検索しないと引っ掛かりません。配信サイトでもOVAは『グリザイア:ファントムトリガー THE ANIMATION』、TVシリーズは『グリザイア:ファントムトリガー』という具合に別枠扱いとなっているため、「知らないと最初から観ることができない」ややこしい仕組みとなってしまっている。サイトにもよるが第1章と第2章は単に『グリザイア:ファントムトリガー THE ANIMATION』というタイトル(01や02が付いている場合もある)で、第3章は「スターゲイザー」というサブタイトル付きで配信されていることが多いかも。で、新年早々に放送ないし配信された「マザーズクレイドル」は04、原作第4章に相当する内容なわけです。円盤は今からだと入手困難だ(入手できても少々お高い)し、動画配信サイトで第1章から第3章を視聴した後に「マザーズクレイドル」を観ましょう。1月8日までの期間限定だけどYoutubeのブシロード公式チャンネルでも無料配信されています。
「で、結局ファントムトリガーってどんな話なの?」という点についても触れておきますと、訳アリの少年少女を集めた「学園とは名ばかりの鳥籠」だった「美浜学園」が一度解体され、「特殊技能訓練校という名目で若き殺し屋たちを育成する」超物騒な組織になってしまった――という、初期三部作以上にアクション要素が強い物語です。「狂犬」と呼ばれるヒロインがヤクザをボコボコに殴って殺してしまうなど、出だしからフルスロットルで飛ばしている。ダークでシリアスな雰囲気の話かと思いきや「忍者」なるモノが現在も存続しているなど、そこかしこにB級映画めいたノリもブチ込まれています。美浜学園の姉妹校もいくつか存在しており、「防弾仕様の修道服」を纏ったシスターまで出てくる有様なので、どちらかと言えばそのイカレっぷりを楽しむタイプの作品かと。複数のライターがシナリオを担当している他の作品と違ってファントムトリガーは「藤崎竜太」がピンでシナリオを書いているため、かなり強く作家性が醸されているんですよね。そのせいか合わない人はまったく合わないが、ハマる人はがっつりハマる。なお『グリザイア クロノスリベリオン』は藤崎竜太が関わっていないため雰囲気は少々異なるが、ファントムトリガーと同時代の話なのでA組の面々も登場します。それどころか初期三部作のキャラたちが「コールドスリープの影響でほとんど歳を取っていない」というスゴい設定で「S組」として編入してくる。“グリザイア”プロジェクトにはまだ発表されていない未知の新作もあるって噂だし、このまま「グリザイア20周年!」を迎えそうなムードが漂っている。しかしFateやうたわれや神座万象やグリザイアがプロジェクトとして現役なの、冷静に考えると凄まじいな……デモベとか村正は現役とカウントしていいかどうか怪しいところ。そしてオクルトゥムは未だに幻のまま。2015年に開発中止になった『ジャスミン』が今頃になって開発再開するくらいなので0.001%くらいはまだ望みが残っている気もする。
『BanG Dream! Ave Mujica』は“バンドリ!”プロジェクトに属するアニメであり、2023年に放送された『BanG Dream! It's MyGO!!!!!』(以下MyGO)の続編……というか裏面? みたいな作品です。“バンドリ!”は「ギターやベースなどの楽器が弾ける声優を集めて作中と同じバンドを作って、リアルでライブを行う」ことを売りにしたプロジェクトであり、歌唱能力や演奏能力を求められるせいで演技面がちょっと……なキャラが混じっているのがほぼ毎回の伝統となっている。メディアミックス企画で、スマホ向けアプリゲーム『バンドリ! ガールズバンドパーティ!』(ガルパ)が主力商品となっているが、2017年からアニメもたくさん制作されており、TVシリーズとしてはこれが5期目となる。
と言っても1期目〜3期目のキャラはほとんどが高校を卒業しており、4期目のMyGO以降はカメオ出演レベル。なので「バンドリまったく知らない」って方も1期目からではなく4期目(MyGO)から観ればOKです。もちろん、1期目〜3期目やスピンオフ作品も観ておいた方がより楽しめるので観る気力と時間があるのなら挑むが吉。特に『BanG Dream! Morfonication』はAve Mujicaの主人公である「豊川祥子(とがわ・さきこ)」がバンド結成の夢に取り憑かれるキッカケとなった「Morfonica」を描いたエピソードなので、先に見ておくと「また倉田ましろちゃんが他人の人生を狂わせている……」(MyGOの主要キャラである「長崎そよ」も中学生の頃にMorfonicaの演奏を聴いたことが契機となってバンド活動に興味を抱いた)と感慨深くなります。そのましろちゃんも1期目〜3期目の主人公である「戸山香澄」に憧れてバンド始めた子なので繋がりを意識するならやはり全部観た方がベター。劇場版やスピンオフアニメも履修することを考えると、ざっくり24時間程度――丸一日あれば事足りる。極めようとすればガルパの膨大な量のシナリオを読むしかないが、サービス開始から8年近く経っているゲームだけに隅から隅まで目を通すのにどれだけ時間が掛かるか検討もつかない。
家庭の事情で学生バンド「CRYCHIC(クライシック)」を辞め、商業バンド「Ave Mujica(アヴェ・ムジカ)」の立ち上げに奔走した女子高生「豊川祥子」――物語は彼女の荒れた家庭環境を映して終わったMyGOの続きとなります。MyGOもバンドメンバー同士が感情をぶつけ合う割とギスギスした話でしたけど、Ave Mujicaはそれ以上にギスギスしそうな雰囲気が漂っており、放送開始前から胃が痛くなりました。商業バンドとして「稼ぐ」ことも視野に入れており、「sumimi」というユニットで活躍している現役アイドルの「三角初華」、芸能人夫婦の娘で幼い頃からメディア露出していて知名度がある「若葉睦」、動画配信者として名が売れている「祐天寺にゃむ」といった話題性重視のメンバーを集めつつ、「頼まれたらどのバンドでも弾くが、一箇所に居つくことはない」という傭兵じみたベースの「八幡海鈴」を引き入れた豊川祥子。初華や睦とは絆があり、海鈴はビジネスライクな態度に徹してくれるから付き合いやすいが、問題はにゃむ。祥子の経済状況を身なりだけで瞬時に見抜くなど観察力が高く、油断すれば主導権を奪われかねない危うさが付きまとう。また、初華や睦は絆があるとはいえ初華は祥子に向ける感情が重たいし、睦は空気が読めず変な行動をするところがある(時間が経っても薄れない「ゴディバきゅうり事件」の衝撃)から最悪のタイミングで最悪なことを言い出す可能性が高いんだよな……カウントダウン画像でこんな表情をしているのが意味深。Ave Mujicaは「人形劇」がテーマなんですが、メンバーの中でもっとも抑圧され「お人形」のような扱いをされてきた子が睦なので、ストレスがそろそろ爆発しそうな気配である。前作と違って今作の睦は感情表現が豊かになりそうだけど、果たして豊かになってよかったやつなのかな、コレ。OPの映像と歌詞は「メンバーの精神がどんどん壊れていく」ことを暗示しているし、別人格が生えてきて「ルーシー・モノストーンの再誕……!」みたいなことにならないか。とりあえずsumimiの「純田まな」は可哀想な目に遭いそうオーラが凄まじくて不安になる。
それとネットの考察読んで一番怖くなったのは、CRYCHICのライブ後SNSに書き込まれて燈へショックを与えた「ボーカル必死過ぎ」のコメントがライブ会場に居合わせていた初華の捨て垢によるものだという説が囁かれていることですね……もしそうだとしたら、MyGOの第10話で燈に優しく接していたのは「罪滅ぼし」とか「もう祥子が彼女たちのところには戻らないという確信が得られたから」とかいった事情が絡んでくることになり、感動的だったエピソードの意味合いがまるきり変わってくる。想像以上にドロドロしたものを抱えているかもしれないんだな……。
・【期間限定】「2025年お正月福袋召喚(男女別×三騎士・四騎士・EXTRA別×宝具タイプ・効果別)」!
FGOの福袋、限定サーヴァントが多すぎるせいで相変わらずひと目見ただけじゃ何が何だかワケがわからないな……男女別に分けているとはいえ性別不詳だったりするせいで両方に入っているキャラもいる(たとえば蘆屋道満はほとんどのプレーヤーが男だと認識しているけど、アステカ神話の女神「イツパパロトル」の霊基を取り込んでいるため性別が曖昧になっている)し。例年ならじっくり検討して悩み抜いた末に引く袋を決めるところですが、今回は2種選ぶことができるから割合すんなりとチョイス完了。「福袋召喚2025(紅・EXTRA・A宝具【参】」と「福袋召喚2025(紅・EXTRA・B宝具【肆】」です。A宝具【参】の狙いは未所持の「上杉謙信」か「BBドバイ」ですが、青子の宝具レベルが上がるならそれはそれでアリ。B宝具【肆】の狙いはピックアップが終了したばかりの「ファンタズムーン」。ちなみにズムーンより前のクリスマスイベントで活躍した「ロウヒ」が福袋にいないのは恒常だからです。ということでさっさと回しましたが、A宝具【参】ではBBドバイが、B宝具【肆】ではファンタズムーンが引けてほぼ狙い通りの結果となりました、ヤッター。両方ともピックアップのときにそこそこ回して出なかったサーヴァントなので嬉しい。できればイベント中に引いてレイド戦で冤罪ファンタズム(ファンタズムーンの宝具は悪特攻なので、ニトクリスオルタのスキルとかで無理矢理エネミーに悪属性を付与すると物凄い火力が出る)キメまくりたかったところだけど、贅沢は言うまい。
今年のFGOは「奏章W」が春開幕で、年内に第二部終幕までやる予定とのこと。奏章Wは恐らく「ルーラー」をテーマに据えた章であり、クリアした後に「フォーリナー」と向き合う「奏章X」が来るのでは……と予想されているので、終幕は年末ギリギリになる可能性が高いです。終幕に向けて「グランドグラフシステム」という「自分だけのグランドサーヴァント」を7騎選出するシステムも搭載される。これは通常の概念礼装に加えて絆礼装も同時に装備できるという新システムであり、「聖杯を入れてレベル100以上にしていること」「保有スキル3つすべてをレベル10にしていること(アペンドスキルは含まれない)」「絆レベルが10以上であること(じゃないと絆礼装が獲得できない)」が使用するうえでの条件となります。クラスに関する縛りに関しては明言されなかった。エクストラクラスが多いし、そのへんの縛りに関してはだいぶ緩くなるんじゃないかしら。Fateの基本設定だと「聖杯によって召喚される7騎のサーヴァントのうちセイバー、アーチャー、ランサーの三騎士は固定。ライダー、キャスター、アサシン、バーサーカーの四騎士は非固定。エクストラクラスが召喚された場合、四騎士のいずれかが欠ける」ということになっている(アインツベルンがアヴェンジャーもしくはルーラーを召喚した冬木の第三次聖杯戦争では四騎士のどれかが欠けていたし、第四次聖杯戦争も本来は「エクストラクラスのイスカンダル」が召喚されたせいで欠けた四騎士がある。「『Fate/Zero』は厳密に言うと正史ではなくパラレルワールド」と言われる所以もそのへんにある)が、この設定がFGOの世界にまで適用されるかどうかは不明です。
ニューイヤー2025ピックアップ召喚の目玉は「Fakeのセイバー」こと「リチャード1世」、獅子心王(ライオンハート)の異名で有名なイングランド王です。アニメはこれから放送なのに真名がっつりバラされてるのは笑ってしまう。第一臨が鎧姿、第二臨が当世風の衣装で、第三臨はちょっとビックリするような格好になります。原作者(成田良悟)曰く「宝具と第三霊基は小説の最終巻ネタとかではなく、正真正銘、『FGOのための』宝具と獅子心王です」とのことなのでアレが見れるのはFGOだけ! Fakeと言えば大晦日の特番で第1話が先行公開されていましたが、普通に面白くて見入ってしまった。「キッツィーランド」という『魔法使いの夜』ネタも混ざったりしていて、「成田良悟がノリノリで好き勝手書いてる!」という原作のノリも伝わってくる。「ぶっちゃけ『Fate/strange Fake』ってFateにおいてどんな位置づけなの? 予備知識とかなくても楽しめる系?」という疑問にお答えしておきますと、感覚的には「『Fate/stay night』の後日談(第五次聖杯戦争の数年後。冬木の大聖杯はstay nightの約10年後に解体されるが、それよりは前)」なのですが、一種のパラレルワールドになっているため細かいところは整合していません。「成田良悟に好き勝手書いてほしい」というきのこの思惑から「Fakeの世界でのみ許されている例外的事象」が多く、もはやスピンオフという枠組みには留まらない。全力全壊スタァライトブレイカー的な型月クロスオーバー物語だ。成田良悟は細かいネタを拾って「アレとコレを繋げるのか!」と読者をビックリさせるのが大好きな書き手(小説版BLEACHを読むとよくわかる)だから予備知識があるとより一層愉しめますが、それ以外のネタも大量にブチ込んでいるので予備知識がなくてもないなりにエキサイティングすることができる。ただ、良くも悪くもゴチャゴチャした雰囲気がずっと続きますから、群像劇が苦手な人はキツいかもしれない。『バッカーノ!』や『デュラララ!!』の作者がFate書いたらそりゃこうなるよね、と納得してしまう内容。巻数的にはロード・エルメロイU世シリーズの方が多いけれど、「単独のエピソード」としてはFateシリーズ最長になる見込み(現時点での最新刊は9巻で、まだ完結していない)です。ZeroアニメからFateに入ってきた人は多いが、FakeアニメからFateに入ってくる御新規さんも結構いるんじゃないだろうか。
・今村昌弘の『魔眼の匣の殺人』を読んだ。
『屍人荘の殺人』の続編で、“剣崎比留子”シリーズ第2弾となる長編ミステリ。前作で「娑可安湖集団感染テロ事件」を引き起こした謎の組織「班目機関」の情報を集めるため探偵を雇って調査させていた比留子は、W県I郡の旧真雁地区に「魔眼の匣」なる施設があったという情報を掴む。曰く、そこでは超能力の研究が行われていたという。現在は研究員たちも撤収しているため研究所としての機能は喪失しているが、研究対象だった女性がまだ残っているらしい。「魔眼」の真義を確かめるべくミス愛会員の葉村譲とともに旧真雁地区へ向かう比留子、そこで目にしたものとは……? という感じで、ゾンビが大量発生するパニックホラーとしての側面があった『屍人荘の殺人』に対し、若干オカルトのムードはあるものの「予言者が住む僻村を舞台にしたミステリ」といった塩梅で特殊性はやや低い。あまり派手な要素がないので宣伝内容を見て「出版社も魅力を伝えるのに苦労したんだろうな」といろいろ察してしまう。
2日の間に男女2人ずつ、4人が死ぬ――旧真雁地区で「サキミ様」と呼ばれる女性が告げた予言。「サキミ様の予言は必ず当たる」というのが地元の常識であり、疑う者などひとりもいない。すなわち絶対の告死。予言に巻き込まれることを避けるために地元住人のほとんどが退去した旧真雁地区に、比留子や譲を始めとした客人たちが入り込む。「予言なんて本当に当たるのか?」 地元の人間ではないから半信半疑どころではない比留子たちだったが、事故としか思えない状況で突然ひとりが死んだ。予言が本当ならあと3人。外部に繋がる橋が焼け落ち、「魔眼の匣」に寝泊まりするしかなくなった一行は生き延びるために何をすればよいか考え始めるが……。
てなわけで今回のテーマは「予知」。サキミ様の予言は必ず当たる。つまり、どうやっても予言された未来は変えられない。予知や予言をテーマにしたフィクションにおいて、ソレが変えられる未来(不確定未来)であるか変えられない未来(確定未来)であるかは非常に重要であり、不確定未来の場合はソレを回避する(良い未来の場合はそこに辿り着く)ための戦いがストーリーの軸となります。しかし、確定未来の場合は「どう足掻いても絶望」であり、ストーリーの組み立てが「絶望を受け入れる」みたいな後ろ向きの路線になる傾向がある。班目機関でもサキミ様の予言は「本物」と太鼓判が押されたが、予言される内容が確定未来であるため扱いに難儀し、結局研究を放棄するハメになった――という経緯が明かされます。班目機関は内部の人間でも一部の研究者しかタッチできない「極秘案件」がいくつかあるんですが、サキミ様の予言はあらゆるプロテクトを無視して極秘案件を暴いてしまう(その案件が失敗して甚大な被害が出る、みたいな形で)から扱いが難しいんですよね。確定未来であるがためにサキミ様の予言は「警告」という形で関係各所へ知らされる、内容が多方面に知れ渡っているから悲劇が起こった後で隠蔽するのも困難。不確定未来なら避ける余地があるぶん利用価値アリと見做せるわけで、つくづく確定未来の予言者は立場がないなぁ、と痛感してしまった。
サキミ様以外にも「予知能力があるのでは?」という登場人物がいて、物語は更なる混迷へ突入していく。本書の肝は「予知を信じる人」と「予知を信じない人」、「半信半疑の人」という具合に予知能力の受け止め方が各人様々で、そのグラデーションが事件に複雑な模様をもたらすところです。たとえば「予知を信じない人」であっても、「予知されたこと」を利用して行動すれば「予知を信じる人」が「予知が当たった!」と真に受けてくれるのである程度アドバンテージを得られる。何が誰にとってアドなのか、それをいちいち考慮しないと事件の全体像が見えてこない難渋なパズルであり、特殊設定ながらも本格ミステリ度は高い。ただ、どうしても動きが少ないというか、エキサイティング要素――文庫で400ページというボリュームを支えるために読者を興奮させる工夫は少し足りないかな。犯人視点で「別の真相」が見えてくるなど凝った構造で解決編はなかなか飽きさせないのだが、解決編の手前あたりがややダルかったです。本格ミステリは丁寧に書けば書くほどダルくなる面がある(それゆえ「本格に小説的な面白さなど無用」と主張する過激派もいる)から、そこらへんは好みの問題かしら。
ちなみに『屍人荘の殺人』は8月の事件で、本書の事件は11月末。つまり前作から3ヶ月ちょっと経っています。比留子は体質的に約3ヶ月の周期で怪事件を招き寄せるので、この調子で行けば3作目で3月頃、4作目で6月頃(葉村は二回生、比留子は留年しなければ三回生になる)、5作目で9月頃、6作目で12月頃、7作目でまた3月頃……というペースで進むことになり、だいたい11作目か12作目で比留子が卒業(あくまで留年しない前提で)しますね。この“剣崎比留子”シリーズは刊行ペースがちょい遅めで1作目が2017年、2作目が2019年、3作目が2021年と概ね2年に1冊でしたが、4作目はまだ出ていません。去年出た『明智恭介の奔走』はスピンオフの短編集です。今月も来月も刊行予定にないから、“剣崎比留子”シリーズの4作目は早くても来年の2月以降となる。このペースじゃ、仮に「12作目の長編で完結」だとしても20年は先の話だ。短編作品で時間経過させるのであればもう少し早まるかな……綾辻行人の“館”シリーズだって30年以上かけてようやく完結に近づいているくらいだし、笠井潔の“矢吹駆”シリーズはフランス篇だけに限っても45年経った今もまだ完結に辿り着いていないくらいだから、根気強くないとミステリファンなんてやっていられません。ミステリのシリーズ物はその気になれば無限に続けられる(たとえ作者が亡くなっても誰かが引き継げば可能な)構造だからすべてにおいて「完結編」が必須というわけではないのだが、“剣崎比留子”シリーズは特殊設定を付けるための口実とはいえ「班目機関」と何かしらの決着をつけることを期待している読者も多いだろうから完結編は完結編として大々的にやりそうな気がします。何なら班目機関と決着をつけた後でまた新たな謎の組織を出すことも可能なんだけど、さすがにそこまでやられるとウンザリするかな。
ネタバレを避けるためかレギュラー陣以外で『屍人荘の殺人』の関係者は出てこない(出てくると誰が生き残って誰が死んだかハッキリしてしまう)から『魔眼の匣の殺人』を先に読み出してもそこまで支障は来さないが、特に事情がないのであれば素直に時系列に沿って『屍人荘の殺人』→『魔眼の匣の殺人』の順に読んだ方がベターです。そしてこの次に出ているのが、現時点での“剣崎比留子”シリーズ最新作である『兇人邸の殺人』。『魔眼の匣の殺人』の文中で意味深に言及されていた「O県I郡の大量殺人」と関係があることを仄めかしているが、果たして。
2024-12-23.・遂に『黒白のアヴェスター Refusal─拒絶』の情報が公開されて「マジで出るんだな……」と感慨深くなっている焼津です、こんばんは。
要するに『黒白のアヴェスター』のゲーム版です。小説版を全年齢向けにフルボイス化したもので、前編・後編のふたつに分けて発売する予定。「Refusal─拒絶」は前編に当たります。単純にボリュームが多くて分割しないと完成まで時間が掛かるから、という事情もあるだろうが「善悪二元論」をテーマにした話なので「ふたつ」にしたという面もあるでしょう。パッケージ版のリリース予定はなく、SteamでDL版のみ販売する予定。CVに関してはドラマCD版のキャストが続投ですね。そういえばドラマCDは1巻が出たきりで2巻目以降が来なかったな……。
「で、『黒白のアヴェスター』って何?」とまったく知らない人向けに解説しようとしたらどこから手をつければいいのか迷う。「真我の果てに無慙へ至る──殺戮の荒野を行く男の軌跡」というあらすじを読んで即座に理解できるのは熱心なファンだけだろう。簡単に言いますと、『黒白のアヴェスター』は“神座万象シリーズ”という長大なサーガの一部を構成する作品です。サーガの一部ではありますが、作品としてはこれ一つで完結している。“神座万象シリーズ”は「この宇宙には『神座』と呼ばれる『そこに至った者が神に成れる特殊な領域』があって、たびたび神の交代劇が発生している。神が交代すると歴史もリセットされ、法則すら書き換えられてしまう」という設定になっており、作品ごとに雰囲気がガラッと変わるのが特徴です。これは最初から「神座シリーズ」という大きな構想があったわけではなく、シナリオライターの「正田崇」が『Dies irae』というゲームを作っているときに「話の最後で実は前作(『PARADISE LOST』)と繋がっていたことが明らかになったらプレーヤーもビックリするんじゃない?」みたいなことを考えた結果として出来上がったもので、要するに後付けだ。パラロスもディエスもストーリー構造――ラスボス的な存在が「神の創り上げた法則」を打ち砕くため非道な儀式に手を染めていて、主人公たちはそれを阻止しようとする――が共通していたから繋げやすかったんですよね。
で、「神座に至った者」を至った順番に「第〇天」と呼び、その第〇天が治める世界を「第〇神座」と呼ぶのですが、それに倣って書けば『黒白のアヴェスター』は「第一神座を舞台に、やがて第二天に至る男が殺戮の荒野を行く話」となります。神座には誰でも到達できるわけではなく、最低限何らかの資質が必要であり、実際に至れるかどうかは別として「神座に至る資格」を有している人間を「神格」と呼ぶ。神格にはそれぞれの理念や渇望に基づく型(スタイル)があり、そうした「願い」を象徴するために漢字二文字の熟語で表すのが通例となっている。ぶっちゃけ、あだ名のようなもんです。第一天となった神格の理は「真我」、第二天となった神格の理は「無慙」ですので「真我の果てに無慙へ至る」という、予備知識のない方だと「何を言っているのかよくわからない」ってなるあらすじの一文も神座シリーズのファンなら「ああ、真我(第一天)から無慙(第二天)へ座が交代する第一神座時代のストーリーなのか」と容易に読み解けるわけだ。
遡ること数年前、『Dies irae』のアニメ化に合わせて“神座万象シリーズ”の巨大な構想をアプリゲーム『Dies irae PANTHEON』として発表するはずだったのですが、アニメがコケたりアプリの共同開発会社が逃げたり(しかも二度も)したせいで資金が尽きて開発凍結となってしまいました。神座シリーズは第一天から始まり、第九天を最後にして終わる(恐らく神座が解体されて「神座のない世界」になる)という大枠が示されていて、『Dies irae PANTHEON』は第七神座を舞台にいずれ「最後の神」となる主人公(第九天)がこれまでの神座世界を振り返る(感覚的には超高性能なシミュレーターを使って「神座に刻まれた記録」をもとに再現された仮想神座世界へフルダイブする、みたいなノリ)……そんなゲームに仕上がる予定でした。第九天(主人公)の最初に知る神座世界が第一神座で、つまり『黒白のアヴェスター』は『Dies irae PANTHEON』の第一部として公開される手筈になっていたストーリーを再構成したものになります。『Dies irae PANTHEON』は全八部構成で各神座の歴史を疑似体験して「神座なんてモノぶっ壊した方がいいだろ」的な結論に辿り着いた第九天が、あくまで「神座のある世界」を維持することにこだわる黒幕と対決する――という“神座万象シリーズ”の振り返りであるとともに締め括りでもあるファン垂涎のゲームになるはずだったんです。“神座万象シリーズ”は2004年発売の『PARADISE LOST』が第一弾で、2007年発売(当初は未完成で、2009年にやっと完成した)『Dies irae』が第二弾、2011年発売の『神咒神威神楽』が第三弾、2017年か2018年くらいにローンチ予定だった『Dies irae PANTHEON』が第四弾(完結編)になるはずでした。「予定」「はず」ばかりの文章で打ってて本当に悲しくなる……ちなみに『Dies irae』や『神咒神威神楽』と同じ正田崇・Gユウスケコンビのゲーム“相州戦神館學園シリーズ”は“神座万象シリーズ”とは完全に別のシリーズで繋がりはありません。作中に神座シリーズの格ゲーとかも出てくるけど、お遊びレベルであって設定的な接続はない。
『Dies irae PANTHEON』がポシャったため、『黒白のアヴェスター』が“神座万象シリーズ”の第四弾となります。2019年から2021年にかけて支援サイトで連載された小説版は既に完結しており、現在はシリーズ第五弾『事象地平戦線アーディティヤ』が連載中である。これは「神座世界が生まれた経緯」を綴るエピソード0めいたストーリーです。空位とはいえ神座そのものは存在しているため便宜上「第零神座」と呼ばれる世界が舞台になっています。ゆえに神座シリーズを発表順で並べると『PARADISE LOST』→『Dies irae』→『神咒神威神楽』→『黒白のアヴェスター』→『事象地平戦線アーディティヤ』となりますが、作中の時系列に沿って並べ替えるとアーディティヤ(第零神座が舞台、第一天が生まれるまで)→アヴェスター(第一神座が舞台、第二天が生まれるまで)→パラロス(第二神座の末期が舞台、第三天が生まれるまでを描いているが、第三天が主人公というわけではなくむしろラスボス)→ディエス(第四神座が舞台、第五天が生まれるまで)→神咒(第六神座が舞台、第七天が生まれるまで)になります。お気づきになられた方もおられるでしょうが、第三神座を舞台にした話と第五神座を舞台にした話は現状ありません(パラロスやディエスのエンディングにちょろっと出てくる程度)。第三神座の話を描こうとすると「パラロスの後日談、ディエスの前日譚」という性格が強くなりすぎるし、第五神座はジャンル的には「美少女ロボットアクション」らしいが「バッドエンドになることが確定している胸糞の悪いストーリー」なので単独の作品として成立させることが難しいんですよね。だからこそ『Dies irae PANTHEON』に組み込む形で発表する予定だったんですが……『黒白のアヴェスター』のゲーム版と『事象地平戦線アーディティヤ』の連載が完結してプロジェクトが順調ならば、いよいよ『Dies irae PANTHEON』が本格的に動き出すかも、と期待しています。正直タイトルは変えてほしいですけどね。ディエスのアニメ化に合わせてサービス開始する予定だったから『Dies irae』と付けているだけで、内容的には“神座万象シリーズ”の総決算なわけですし。シンプルに『PANTHEON』でもいいと思うけど、識別性を高めるために『八百万のPANTHEON』とか『神座万象PANTHEON』とかでもいいです。思い入れがあるのでPANTHEON表記だけは残してほしい。
うーん、神座シリーズの解説が長くなってしまって肝心の『黒白のアヴェスター』そのものについてはほとんど触れてないな……全4巻の小説で、同人誌として少部数の発行に留まっているため単価が高く、全巻揃えると1万円近くします。「神座万象・第十四機関」という正田崇とGユウスケのサークルから出ており、今のところ「とらのあな」専売。通販でも購入できます。というか、とらのあなってもう実店舗がほとんど残ってないんだっけ。時系列上では2番目の神座シリーズ作品であり、パラロスの前日譚という側面もある(ただしパラロスの頃には神座シリーズの構想はなかったからパラロスに「アヴェスターの後日談」という性質はほぼない)。アヴェスターの時点だと神座の影響が及ぶ範囲は単一宇宙のみで、超宇宙規模で見れば割とスケールの小さい話だが、バトル面に関しては「単騎で惑星を滅ぼす」程度は当たり前、序章の時点で「500の銀河を滅ぼしてきた」キャラが登場するなど「宇宙が消滅しない程度」の範囲において神座シリーズ最強のインフレぶりを轟然と見せつけてくる。神座は「古い神が新しい神に倒されて交代する」仕組みなので天が進めば進むほど強くなっていく理屈になっていますが、それはあくまで「世界を支配する神の強さ」が増していくのであって、神や神格以外との戦闘スケールはむしろ縮小する傾向にある。ディエスも、あらすじを要約してしまえば「ナチスの残党どもが極東の地方都市で怪しげな儀式を行うため無辜の市民を殺しまくっていたところに主人公たちが巻き込まれる話」であり、敵役の脅し文句が「この街、地図から消しちまうぞ」だからアヴェスターを読んだ後に見返すと感覚が狂って「牧歌的だなぁ〜」などと錯覚してしまう。アヴェスターだと一撃で100万単位の人が死にますからね。「『ストンピングで地殻が割れてマグマが噴き出す』みたいなバカバカしいくらいのインフレバトルを大真面目に描き切った作品」ゆえインフレバトルそのものに抵抗がある人以外は神座シリーズの予備知識がなくても全然大丈夫です。全然大丈夫なのにわざわざ神座シリーズの解説をしたのは「おいで、こっちの沼は深いぞ」と誘いたくなるファンの習性。
「もともとは『Dies irae PANTHEON』の一部だったっていうし、あらかじめ『Dies irae』の内容知っといた方がいいのかな……でもアニメの出来はアレで、ゲームの方はシナリオがすごく長いらしいし……」と迷っている方は、とりあえずディエスのことはペンディングしていきなりアヴェスターに突入しちゃいましょう。ディエスとアヴェスターは同じ神座シリーズとはいえ、だいぶ離れている(第一神座と第四神座)んで話の繋がるポイントがほとんどなく、せいぜい設定を理解する上での補助線が得られる程度。ディエスは神座設定が初めて導入された(パラロスは遡及的に導入されたから「初」とは言い難い)作品であり、神座シリーズでも特に重要な位置を占めているからいずれは触れてほしいが、後回しでもまったくOK。なお第四神座を開闢させた第四天はパラレルワールドから襲来し、宇宙ごと滅ぼして神座を奪ったうえでその支配領域を多元宇宙規模に広げたという第一天〜第三天とは別格のヤバさを誇っていて、神座世界における「中興の祖」に位置づけられる。2007年発売の未完成版では「上から目線で偉そうなことを宣いつつ、結局大したことは何もしていない」せいでファンから「ニート」と呼ばれたものですが……。
また話が逸れた。『黒白のアヴェスター』は先述した通り「善悪二元論」がテーマで、ゾロアスター神話がベースになっています。アヴェスターの世界「第一神座」では第一天「真我」の理によって世界全体がふたつの勢力にわかれている。「善」と「悪」、あるいは「光」と「闇」、あるいは「白」と「黒」――誰しも生まれた時点で己がどちらに属しているかを直観する。陣営は血縁・地域に関係なく生じ、親子同士で殺し合うことなど日常茶飯事。それが当たり前の世界だから、誰もおかしいなどと疑問を持たない。何よりも遵守すべき本能的理、これすなわち真我(アヴェスター)。「善・光・白」サイドの戦士「マグサリオン」は立ちはだかるすべてを滅ぼし尽くしてやろう、と瞋恚の炎を滾らせている。立ちはだかる「悪・闇・黒」サイドの強敵たち、「七大魔王」――それぞれ単独で星々をも無に帰すことができる超常の魔将ども七名。魔王は全員討たねばならない、これは大前提である。且つ、討伐に時間を掛け過ぎてもいけない。時間が経てば、魔王は七を定員として補充されるからだ。星から星へ渡り歩き、時として敵どころか味方さえも血祭りに上げる野蛮な旅を続けるマグサリオン。彼の殺戮行はやがて「神」に切っ先を向けるところまで到達するが……という「ゆきゆきて、真我」な宇宙一匹狼ぶっ殺し劇場です。アヴェスターの世界では真我に対する理解が強いほど戦闘力も増加する(第一天の加護が得られる)仕組みになっており、「すべての者が二つの陣営に分かれて対立している」とはいえ超常的な強さを有しているのはひと握りで、善サイドの戦士は多い時でも100万人くらいしかいなかったらしい。とある事情で壊滅状態に陥って本編開始時点だと1000人ほどしか残っておらず、戦力的には風前の灯火である。ただ悪サイドは下剋上が頻発する社会で、七大魔王同士で争うことも珍しくないから辛うじてバランスが保たれていた。善サイドもそれこそ善戦して過去に何度か魔王を討っていますが、時間経過によって補充され、本編開始時点で七大魔王が勢揃いしてしまっている。
魔王たちはハチャメチャに強く、それに対してマグサリオンは執念こそスゴいものの武才に関しては「凡庸」と評されており、普通に戦えば到底勝ち目なんてない。普段はバグ技みたいなのを駆使して凌いでいますが、それにも限界がある。じゃあ何を要にして戦うのか? というところで出てくるのが「戒律」という設定です。ケルト戦士の誓約(ゲッシュ)みたいなもので、自身の行動に一定の縛り(禁忌)を設けることで膨大な力が得られるって寸法だ。破ると最悪即死する。たとえば「サムルーク」という女戦士は「怪我をしても治療しない」という戒律を抱えている代わりに「怪我をすればするほど強くなる」性質を有している。ド強い戦士や魔将には何らかの形でド強い戒律が絡んでおり、それをうまく利用して戦え! って感じです。戒律を有する者はたとえそれが明確な弱点であったとしても「どうにかする」行為が禁忌に抵触するのであれば、放置するしかない。単純な力較べではなく駆け引きの余地が産まれてくるわけです。マグサリオンの戒律は進むにつれて徐々に明かされていきますが、「こりゃエロゲー化は絶対に無理だな」という内容。歴代神座の中でもっとも対人殺傷に特化した天であり、「丁寧な暮らし」ならぬ「丁寧な殺し」を徹底している。
「星霊」と呼ばれる人外の存在がいるなど、ムードとしては異世界ファンタジー系ながら、第一神座のベースになった世界(第零神座)がスペオペみたいなワールドだったせいで「他惑星に転移する技術」みたいなSF系のギミックもところどころに残っている。他にも「転墜」(善だった者が悪に、悪だった者が善に反転する現象)など面白い設定がいろいろあって引き込まれます。書籍は紙版しか販売されておらず、電子媒体で読みたい場合は支援サイト「Fantia」に登録して記事ごとに購入するしかないみたいだが、私はFantiaやってないから詳しいことはよくわからないんだよな……紙版は↑にも書いたが全巻揃えると1万円近くするうえ本が分厚くてちょっと読みづらい。特に最終巻は厚すぎて指が痛くなる。これから入るつもりの人はゲーム版の配信を待つのがオススメです。パッケージ版の販売がないのは少し残念だが、ゲーム版が実現するだけでも充分ありがたい。ちなみにアヴェスターとは関係ないが『Dies irae 〜Acta est Fabula〜』発売15周年を記念して秋葉原でコラボカフェが開催中されていました(現在は期間終了)。メニューに関しては「正田崇氏考案」とのこと、ナハツェーラーをイメージしたイカスミパスタはちょっと食べてみたかったかな。ヴィルヘルムをイメージしたトマトジュースとか金平糖もあるんかな、と思ったけどなかった。既存絵流用とはいえシュピーネさんのグッズもあるの笑ってしまう。それにしても、ルサルカは人気があるからしょうがないとはいえ、シュライバーにポジションを奪われる正ヒロインたちの立場……そこは髪色的に玲愛先輩でもいいだろ。あと双首領のコラボドリンクはそれぞれあるのに主人公(藤井蓮)のメニューは一切ないのが不憫。司狼でさえ焼きうどん作ってもらってるのに……蓮くんに飲食のイメージがあまりない(強いて言えばプッチンプリン?)から仕方ないっちゃ仕方ないが。とりあえずコラボカフェの画像が視界に入り「おっ、この眼帯の子が可愛いな」と気になって詳細を調べた人の反応が気になるところだ。
・エロカワ先生ラブコメ「よわよわ先生」TVアニメ化、「推しシーン」を選ぶ投票企画も(コミックナタリー)
初期から追っている漫画なので嬉しい。『よわよわ先生』は不気味なオーラを発しているせいで周囲から怖がられている「鶸村ひより」、通称「こわこわ先生」をヒロインにしたコメディ。その実態は「こわこわ」どころか何をやらせても失敗するへっぽこ極まりない「よわよわ先生」だった! という感じでポンコツ教師のひよりちゃんをサポートするべく主人公の男子高校生「阿比倉くん」がラッキースケベに遭遇しつつイチャイチャと頑張るお話です。とにかく絵が良くてノリが良くてサービスシーンも多い、絶品肉増しドカ盛り具沢山チャーハンな漫画なんですよ。初期は絵柄やネタの方向が定まっておらず、ちょっとボンヤリした雰囲気が漂っていますが、割と早い段階で作風が確立して面白くなる。ひより以外のサブヒロインもいっぱい登場します、個人的には「つよつよギャル」の幼なじみと「あまあまお姉ちゃん」な阿比倉姉が好き。ここ最近の話では阿比倉くんが先生に対する想いを自覚したり、自覚はないけど先生も阿比倉くんに惹かれていたり、サブヒロインの一人が阿比倉くんに告白したりとラブコメ的な動きが激しくなっていて盛り上がっている。順当に進めば卒業までずっと我慢して、卒業後に告白して付き合い出してEND……って流れになるかなぁ。マガポケには男子高校生とヤっちゃった女性教師が主人公の漫画とかもあるから卒業前に一線を越える可能性とてなくもないが、越えたらさすがに物議を醸しそうである。いや、『よわよわ先生』ってかなりエッチな漫画なので「ぶっちゃけ一線を越えてる男女よりもエロいな」ってシーンもふんだんにあるんですけれど……「ニップレスが剥がれなくなった!」と困り果てている先生のためにあの手この手で剥がそうと阿比倉くんが努力する回とか、「教え子にニップレスを剥がしてもらおうとする教師とかおかしいでしょ! これなら健全交際してる方がマシだよ!」って逸脱ぶりなんだけど、あまりにエッチな回が多すぎて感覚が麻痺してくるんですよね。とにかく「成人指定されない範囲でエッチな漫画」が好きな人にはオススメの作品です。単行本なら乳首券も発行されています。乳首や局部を目撃する場面が多すぎて、最近の阿比倉くんは裸の女性がそばにいても動じなくなってきているんだよな……むしろデートとかの方が照れてるまであるよ。
・「ヘルモード」がTVアニメ化、ハム男・藻・鉄田猿児がお祝い(コミックナタリー)
おっ、ヘルモアニメ化するのか。「そのうちアニメ化しそう」とは思っていたけど本当にするとビックリ。『ヘルモード』は「小説家になろう」で連載中の異世界転生ファンタジー。タイトルに「はじまりの召喚士」が付くということは厳密に言うと小説版ではなくコミカライズの方がアニメ化するみたいですね。「レベルアップするまでの経験値が膨大でレベルは上がりにくいけど、レベルキャップがないので無制限に強くなれる」ヘルモードを選択した主人公が廃ゲーマー特有の飽く事なきやり込み精神によってどんどん強くなっていく話です。設定は少しシャンフロっぽいけどノリはだいぶ異なる。はじめの方は単調な経験値稼ぎ描写が続いて退屈するかもしれませんが、ある程度進むと「ここがどういう世界なのか」がわかってきてスケールやワクワク感も大きくなる。コミカライズ版は読んでないからどんな内容か知らないけど、小説版通りにやると盛り上がる前に最終回を迎えそう。いい感じにアレンジするのかな。
・『メギド72』、2025年2月の7.2周年をもってオンライン版は完結、以降はオフライン版として配信の予定
ここんところずっと復刻イベントばっかりだったし、新キャラの実装ペースも鈍っていたし、本編ストーリーもだいぶ大詰めの雰囲気だったし、薄々予感していた事態ではあるが……終わっちゃうのかぁ。実装されるメギドは8魔星の「モレク」が最後なのかな? 「8魔星」というのはいわゆる〇〇四天王とか××八部衆とか、ああいうものだと捉えてもらえればだいたい合っています。しかし、だとすると東方編のギリメカラとマガツヒ、本編のプロセルピナとレオナールはこのまま未実装なんだろうか。残り2ヶ月でどうにか間に合わせてくる可能性もあるが、さすがに厳しいと言わざるを得ない。個人的には「せめて8魔星のプロセルピナだけでも実装してほしい」ってのが偽らざる気持ち。やはりここまで来たらアジトに8魔星全員が勢揃いしてほしいです。ちなみに8魔星の面子は「ベルゼブフ、サタン、マモン、ルシファー、エウリノーム、バールベリト、プロセルピナ、モレク」。
私が『メギド72』をプレーし始めたのは2018年11月、サービス開始が2017年12月7日ですから1周年を迎える少し前の時期ですね。「開発期間が3年半に及ぶ」という触れ込みのゲームでしたから、初期から関わっているスタッフにとっては10年物のプロジェクトになります。それだけに「作り込み」や「熱」も凄かったが、ゲームバランスを壊しかねないほど強力なキャラが実装された後に「仕様の間違いでした」という理由で修正(ナーフ)されたり、ファンの間で「暴奏族神(ジズガミ)」と呼ばれる「ギミック性の高い敵以外は概ね吹っ飛ばせる」高火力な強キャラが実装されて「とりあえず暴奏族神でゴリ押し、ダメならそのとき考える」という攻略法が一般的になったり、運営側が暴奏族神対策としてあれこれ工夫した結果難易度が高くなり過ぎて「みんなの編成」(そのクエストをクリアした人の編成とリプレイ動画が閲覧できる機能)をコピーするプレーヤーが増え、結果的に「みんなの編成」が同じようなパーティばかりになってしまい「〇〇持ってないプレーヤーはどうすればいいんだ!?」と頭を抱えるハメになる(これは〇〇持ってないとクリアできないわけではなく、〇〇がいると比較的短いターンでクリアできる――という状態。『メギド72』のバトルはターンごとのカード運が絡んでくるため、長期戦にもつれ込むと不安定な要素が増えて難しくなる)など、ゲーム面はだいぶ厳しいことになっていました。ストーリー後半のクリア報酬として入手できるキャラ「プルソン(バースト)」が非常に強力で、「ストーリーの難所はだいたい全体化プルソンで押し通れる」んですけど、プルソンを全体化するには別の手段が必要で……と「〇〇を××するための△△が必要、△△を入手するためには(以下略)」な感じで攻略手順が複雑化しすぎてしまってエンジョイ勢は途中からほとんど付いていけなくなった印象があります。
私もしばらく放置気味でしたが一念発起して攻略を再開し、「必要なキャラはだいたい揃ってるけど、まずは各キャラの専用霊宝を獲得しないと……」って遠回りする局面が何度も生じて少しゲンナリしました。FGOはストーリーの難所なんて石割ってコンティニューすれば強引に突破できますけど、『メギド72』はギミック性の高いバトルが多いから「コンティニューしまくってゾンビアタック」じゃ通用しない局面も多いんですよね。「キャラとかストーリーは好き」というライト層がこぼれ落ちていって熱心なやり込み勢だけが残っていったのも仕方ないことだと思います。
とはいえ、編成がうまくハマってイイ具合に回り始めたときの快感は他のゲームでもなかなか味わえない代物だったし、やっぱり独自の魅力を持つゲームではありました。集めた仲間たちはオフライン版で今後も会うことができるわけですけど、ストーリーの更新がなくなる以上、そうそう起動することもなくなるかな……と正直感じている。ぶっちゃけタブレットの空き容量がキツくなっているしなぁ。しばらくは置いておくつもりですけど……それにしてもマギレコ、スタリラ、メギドと私のプレーしていたソシャゲがどんどん閉幕してくの、なかなか寂しいですね。今やってるのはもうFGOとロスフラ、プリコネくらいかな。FGOはそろそろ第二部の完結が迫ってきているし、ロスフラも「大詰めの雰囲気」が漂っているし、プリコネも「いつまでも続く」というムードじゃなくなってきているし。「ソシャゲが生活の一部だった頃もあったな」と懐かしむ日がそう遠くないうちに訪れるのかしら。
SNSで話題になっていたから読んだけど、かなり『劇光仮面』だコレ。むしろこの漫画のおかげで『劇光仮面』がどういう作品なのか伝わりやすくなったまである。特撮の世界にしか存在しない「ヒーローの変身スーツ」を徹底的にリアルに再現して「変身」することに情熱を燃やしている主人公「実相寺二矢(じっそうじ・おとや)」が、現実世界には存在しないはずの「本物の怪人」と遭遇してしまい……ってな話なのですが、「本物の怪人」が出てくるまでが長いのでなかなか構図を見下ろすことができないんですよね。「魔法少女イナバ」は読切なのでこれ一本で起承転結が付いており、『劇光仮面』の精髄(エッセンス)を取り出して要約したような仕上がりになっています。「どんな作品なのか伝わりにくい」状況を危惧してか、本家『劇光仮面』も御新規向けの入門的なエピソードを出したりしていたんですけど、まさかこんな形でフォロワーが湧き出してくるとは。
劇光は連載作品なので「一般市民としてのモラル」と「変身ヒーローという劇(はげ)しい光を追い求めるロマン」の板挟みに苦しむ様子も描かれており、社会生活を送るのに支障を来すほど「踏み越えて」しまっているイナバの「城戸兎衣」とはだいぶスタンスが違うが、話としてのイカレぶりは大差ないです。鎧のように頑丈な防具は強い衝撃を受けて凹んだり変形したりすると使用者を圧迫する拷問具になっちゃう、という現象を「スチールレイヤー(鉄を着る者)たちは、これをエクゾスケレット(外骨格)の反転と呼ぶ」という説明で結んでおり、「スチールレイヤー間で常識になるって、そんなに高頻度で防具を凹ませてるの!? そもそも一部界隈とはいえ『スチールレイヤー』という概念が当たり前のように普及してるの!?」と現実感が崩れていくような酩酊を味わうことができます。今ならKindleで高ポイント還元中(12月26日まで)なので興味のある方はこの機会にどうぞ。
話を戻してイナバ。ラストシーンといい、個人的には月村了衛の『神子上典膳』も思い出しました。「これだけの目に遭ってもまだ戦い続けるんだな……」という無限闘争者に対して向ける畏怖の感触が似通ってると申しますか。イナバを気に入った人は『劇光仮面』だけじゃなく『神子上典膳』も読もう。それはそれとして「正義のマントを覇王(はお)って参上!」という口上が好き。
・ジェイムズ・P・ホーガンの“星を継ぐもの”シリーズ第5弾にして最終巻『ミネルヴァ計画』ようやく刊行
確か去年の冬くらいに出るはずだったのに何度も延期してようやく発売したんですよね……シリーズ既刊は新版として再刊されているが、旧版の『星を継ぐもの』(シリーズ第1弾)は名作SFとして名高く、100回以上も重版されたという。星野之宣によるコミック版を読んだ人も多いんじゃないだろうか。『星を継ぐもの』の原書は1977年刊行で、翻訳されて日本語版が出たのは1980年。翻訳版から数えても40年以上経っています。月の洞窟で発見された宇宙服姿の身元不明遺体を「検屍」するため国連宇宙軍によって招き寄せられた原子物理学者「ヴィクター・ハント」――死後5万年は経過している木乃伊(仮称「チャーリー」)を前に、彼は途方もない謎の領域へ踏み込んでいくことになる……という、SFなんだけどミステリ作品みたいなアプローチで大いに興味をそそられる仕上がりとなっています。コミック版の影響もあってか『星を継ぐもの』が飛び抜けて有名で「続編が出ている」ことはあまり知られていませんけど、ハント博士が出てくる作品としてこの後に『ガニメデの優しい巨人』が上梓され、シリーズ第3弾に当たる『巨人たちの星』で一旦展開が止まったため「三部作」と認識される時代が続きました。
『巨人たちの星』の原書は1981年刊行。その10年後である1991年にシリーズ第四弾『内なる宇宙』の原書が刊行されてシリーズは再開となります。『内なる宇宙』の日本語版刊行は1997年だからそこそこ掛かっている。そして今回発売された『ミネルヴァ計画』の原書は2005年刊行、なんと20年近く経ってやっと翻訳されたのです。作者のジェイムズ・P・ホーガンは2010年に69歳という若さで亡くなっており、シリーズ第6弾が出る可能性は消滅しました。「こんなに長く翻訳されなかったの、面白くないからでは……?」と薄々不安がっていたSFファンも少なくないが、名作シリーズの最終巻とあって無視することなど不可能、首を長くして待ち望む人が後を絶ちませんでした。1540円(税込)となかなかの価格だが、ボリュームは570ページと充分な量。シリーズ物なので最初から順番に読んでいった方がいいし、この年末年始の空いた時間にチャレンジしてみては如何だろう。ちなみにシリーズ名の表記は安定せず、昔は「ガニメデ三部作」とか「ガニメアンシリーズ」、「ヴィクター・ハント博士シリーズ」、「巨人たちの星シリーズ」など様々な呼ばれ方をしたが、結局『星を継ぐもの』が一番有名ということで「星を継ぐものシリーズ」と呼ぶのが無難という扱いになっています。あと『星を継ぐもの』とは関係ないけど、「SF繋がり」「同じくシリーズ第5弾」というだけで触れますと『戦闘妖精・雪風』の新刊『インサイト』が2月に出ます。「10年以内に出れば早い方」と言われる『戦闘妖精・雪風』ですが、今回はなんとたったの3年ぶり。
・スティーヴン・ハンターの新刊『フロント・サイト1 シティ・オブ・ミート』発売、2巻と3巻も近刊予定
狙撃手「ボブ・リー・スワガー」のシリーズで有名なスティーヴン・ハンターの新作です。スワガー物はシリーズというよりサーガの様相を呈しており、この『フロント・サイト1』はボブの祖父である「チャールズ・F・スワガー」が主人公。チャールズは『Gマン 宿命の銃弾』でも取り上げられた人物ですね。感覚的にはスピンオフ作品であり、シリーズ読者の方がより一層楽しめるだろうがここから読み始めても別に問題はない。邦訳版は三部作みたいな形で刊行されるが、公式が「スワガー・サーガ中篇三部作第一巻」と謳っている通り本来は中編作品で、原書 "Front Sight" は1冊に3つの中編を収録している。つまり日本語版は分割刊行なのだ。中編といっても270ページあるし、原書丸々翻訳したら800ページくらいになるわけだから仕方ないかな……と容認しています。さすがにトシなので800ページもある文庫本を手に持って読むのはつらい、3冊に分けてもらった方がマシである。
続く『フロント・サイト2 ジョニー・チューズデイ』は1月刊行予定(早いところだと年内に並ぶかも)で、今度はボブの父「アール・スワガー」が主役を務めるとのこと。じゃあ『フロント・サイト3 ファイヴ・ドールズ』は何事もなければ2月刊行かな。3はボブ・リー・スワガーが主人公らしい。要はスワガー三代記であり、ここからサーガに入っていくのもアリかもしれません。私はぶっちゃけボブの娘である「ニッキ・スワガー」が大きくなってきたあたりから積んでるので、ここ10年くらいのスワガー・サーガはあまり知らないんですよね。出版社の公式サイトに原書刊行順のリスト(『囚われのスナイパー』まで)と各作品解説(『第三の銃弾』まで)があるので参考にどうぞ。基本的にどの作品もオススメだけど『四十七人目の男』はかなり珍作度が高い(『忠臣蔵』がベースなのでラストシーンは雪降る中の討ち入りだが、赤穂浪士の代わりに帯刀した自衛隊員たちがヤクザの屋敷にカチ込むという無茶苦茶な展開)から覚悟して読んだ方がいいです。あと『ハバナの男たち』はサーガ外の作品である『魔弾』(扶桑社版のタイトルだと『マスター・スナイパー』)や『真夜中のデッド・リミット』とクロスオーバーする内容でハンターファンなら大興奮間違いナシだが、単体の作品として読むとそんなに……なので注意。
伝説の未完作品です。1985年に連載を開始し、掲載誌を変更しながら続けてきた特撮風伝奇アクション漫画。来年で40周年を迎えますが、2016年に刊行した32巻以降はほとんど動きがなくここ数年はずっと休載しています。『redEyes』(1999年に連載開始、2022年に刊行された最新26巻以降はほぼ動きナシ)が可愛く見えてくるレベルだ。『ゾアハンター』や『神曲奏界ポリフォニカ ブラック』の「大迫純一」がガイバー好きということで前々から気になっていたが、「どうにも完結しそうな雰囲気がない」という理由で手を伸ばすことを躊躇していたんですよね。Kindleだと1056円だが、ここから更に割引の利く電子書籍サイト(ebookjapanとか)で購入すればもっと安くなる。この機会に買ってしまおうかな。他のセール対象作品だと『ニンジャスレイヤー』も1冊33円が14冊で462円、ワンコイン以下なのでオススメ。あと『武装少女マキャヴェリズム』も安すぎて(全13巻で429円)つい電子版買っちゃったわ。
ナインエスに続いてミナトも幕引きか……幽霊や化物などオカルト絡みの事件を霊能力ゼロの主人公が解決していく、という趣旨の現代ファンタジーです。「死なない死刑囚をどうやって殺すか」というテーマのエピソードなんかもあったりして、読み口としてはミステリに近い。伝奇・冒険寄りのナインエスとはまた違った魅力があるシリーズなので、完結は寂しいけれど未完のまま放置されるよりはずっといいです。あとはルーク&レイリアくらいか……さすがにアレの新刊は出ないかな。もう15年以上経ってますからね。
・今村昌弘の『屍人荘の殺人』を読んだ。
第27回鮎川哲也賞受賞作。新人のデビュー作であるにも関わらず「このミステリーがすごい!2018年版」「2018本格ミステリ・ベスト10」「〈週刊文春〉2017年ミステリーベスト10」と3つのミステリ系ランキングで1位を獲得し、第18回本格ミステリ大賞も受賞するという破竹の進撃ぶりを見せつけた。私は刊行当初「ダサいタイトルだな」と思ってスルーしてしまったが、あまりにも評判が良かったため結局購入し、それでもなかなか気が進まなくて読み続けられない……という低意欲状態に長年陥っていました。長編は気合を入れないと読めないけど短編なら気軽にイケるんじゃないか、と本書のスピンオフである『明智恭介の奔走』を先に読むことでやっと興味に火が点きました。いろんな意味でネタバレ禁止のムードが強かった本書、2019年に映画化されて予告編でかなりの要素が明かされているので、以降はかなり踏み込んで感想を書いていこうと思います。肝心な要素はなるべく伏せるつもりですが、ネタバレに対する配慮は少ないのでこれから『屍人荘の殺人』に挑むつもりであれば読まない方が吉です。
S県娑可安(さべあ)湖の畔に佇むペンション「紫湛荘」――神紅大学映画研究部の夏合宿が行われる場所に、我らが神紅のホームズ「明智恭介」が潜り込む。夏に若者たちが人里離れたペンションに集まって合宿するなんて、何か事件でも起きない方が不思議なシチュエーションであり、日夜「解かれるべき謎」を探し出すことに腐心する明智がこれを見逃すはずもなかった。いつもの如く巻き込まれて同行する神紅のワトソンこと「葉村譲」、そして過去いくつもの難事件を解決に導き警察からも一目置かれているという探偵少女「剣崎比留子」。かくして役者は揃い、事件の幕が上がる――ただしそれは本格ミステリというよりも、どちらかと言えばジャンル的にはパニックホラーに近かった。紫湛荘から少し離れた場所で行われたロックフェスで某機関の仕掛けたテロによりパンデミックが発生、一万人近い観客がゾンビと化してしまったのだ! 多少の犠牲を払いながらも紫湛荘へ立て篭もることに成功した一行、電波が通じなくなっているため外部との連絡は取れないが、待っていればそのうち自衛隊か何かの救助が来るはず。しかしその希望を打ち砕くように紫湛荘の内部で不可解な事件が起こり、一人、また一人と死んでいく。外にはゾンビの群れ、内には冷酷な殺人者。下手すれば全滅もあり得るこの状況、果たして生き延びることができるのか……。
「ゾンビが大量発生する」状況によってクローズド・サークルが成立する特殊設定ミステリです。私は映画の予告編を観ていたから知っていましたが、短編集の『明智恭介の奔走』とは全然ノリが違う……! 知っていてなお『明智恭介の奔走』→『屍人荘の殺人』の順で読むとショックを受けました。『明智恭介の奔走』が『屍人荘の殺人』よりも前の事件という時点で既に嫌な予感がしていたけど、まさか明智さんがあんなことになるだなんて……メルカトル鮎みたいに1作目で退場した探偵が「時系列的にはそれより前だから」という理由で新作に登場する例はあるんですが、活き活きと名探偵を目指していた明智さんの変わり果てた姿を拝むのはやはりクるものがありますね。正直半ばゾンビ化した状態でレギュラーキャラになったりするんじゃないかって期待しちゃいましたよ。蘇った死人が探偵になるのは『生ける屍の死』みたいな前例もありますし。
さておき「某機関のテロ」云々はシチュエーションを作り出すためのギミックに過ぎず、そのへんあまり深く掘り下げられずサラッと流されます。メインとなるのは「ゾンビが大量発生した」状況を利用してアドリブで巧みに犯行計画を組み上げる殺人者の方。トリックはもちろんのこと、動機も含めて読み応えのあるネタ満載で「評価が高いだけのことはあるなぁ」と感心しました。細部を詰めているだけで発想自体は割とシンプルというかわかりやすい。本格ミステリはマニアしか楽しめない名作もあったりしますが、これは「特定のマニア」よりも「多くの読者」に届くよう心配りされている。強いて難点を言うなら、探偵役である剣崎比留子にあまり魅力が感じられないことか。怪事件を引き寄せる呪われた体質である彼女は「名探偵」になるつもりなどさらさらなく、ただ自身がサバイブするために立ちはだかる謎を切って捨てる、その名の通り「剣」の如き存在です。名探偵に憧れる明智さんと対比する意味合いもあったのだろうが、やはり明智さんのどこか憎めないムードに比べると剣崎さんのキャラは弱いかなぁ……これはシリーズの1作目で、まだ2作目、3作目が控えているのだから早計な判断は禁物であるが。剣崎比留子シリーズは毎回特殊設定ミステリになっているらしく、次作『魔眼の匣の殺人』は「予知」がテーマとのこと。勢いに乗ってこのまま読んでいきたい。
・拍手レス。
日記ログを漁ったりしてお勧めを啜っているのですがお勧めの小説のまとめとかはありますでしょうか?
昔は「アバウト」のところでお勧め小説〇選みたいなの定期的にやってましたけど、もう10年以上サボっているから現状ちゃんとしたまとめはないですね……せっかくなので感想書いてないけどお勧めなの一つ触れておきますと、天祢涼の『希望が死んだ夜に』から始まる仲田蛍シリーズ。一貫して「子供絡みの事件」を扱っているので重たくてしんどいのですが、読み始めたら止まらなくなるリーダビリティの高さ。「推理力」ではなく「想像力」で事件に向かっていく蛍も印象的です。4冊目が『少女が最後に見た蛍』という短編集で比較的読みやすく、そこから入るのもアリかも。
都市伝説先輩、紹介ありがとうございます。3話がやたらと飛ばしてましたね。シゲル。。。
シゲル、名前だけチラッと出てきて嬉しくなりましたね。
正田さんのツイッターで、ゲーム版「黒白のアヴェスター(前編)」が告知されていましたね。声優陣が豪華すぎて、ちゃんと資金を回収出来るか不安にぬるレベルでした
パッケージ版が出ないところを見ると結構ギリギリなのかもしれませんね。後編の開発が楽になるくらいは売れてほしいなぁ。バカ売れしてPANTHEON再開への弾みになってほしい気持ちもあります。
2024-11-25.・ジャンプ+で始まった新連載『都市伝説先輩』がツボに入って毎週の更新を楽しみにしている焼津です、こんばんは。始まって2ページでもう面白いよこの漫画。
読んでもらった方が早い内容だけど、一応解説。雨男が雨を呼ぶように、ただ怪奇スポットの近くにいるだけで怪異を招き寄せる都市伝説男の「くぐつ」――オカルトが大好きで積極的に怪異と遭遇したい新入生「もくめ」は、彼に頼み込んで怪異を引き寄せてもらおうとするが……というホラー系爆釣コメディです。作者は『雀児』の「平岡一輝」。くぐつ先輩も麻雀好きみたいだからそのうち「シゲル」(『雀児』のナコ先生の元カレ、ほぼ回想にしか出てこないのに読者人気が圧倒的だった)がゲスト出演するかもしれない。結構絵柄を変えてきており、若干藤本タツキに寄せたテイストを感じますね。怪異大好きなもくめちゃんと金に釣られて協力してしまうダメ男なくぐつ先輩のコンビが非常にイイ味を出しており、『写らナイんです』あたりとはまた違った魅力を醸しています。『雀児』が割と短期で終わってしまったことが悔しかったのか、「今度こそ人気出て売れて長期連載できる漫画にしてやる!」という気迫がページのあちこちから伝わってくる。2話ラスト付近で歯磨きしながらテレビ見てるもくめちゃんの尻が絶妙。
・「雨夜の月」TVアニメ化決定、コミックDAYSで2巻分無料公開キャンペーンも(コミックナタリー)
『笑顔のたえない職場です。』だけでなくこちらもアニメ化が決まったのか。『雨夜の月』は「くずしろ」の漫画作品で、2021年より講談社のWEB漫画サイトコミックDAYSで連載されている。くずしろさんは多作家で、現在4本の漫画を並行して連載しています。連載している漫画の半数がアニメ化されるなんてスゴいな……こりゃ残りの2本も時間の問題かしら。
『雨夜の月』はいわゆる「耳の不自由な人」をテーマにした青春漫画で、ややシリアス路線の作品であるがそこまで堅苦しい内容ではないので興味本位で気軽に読み出してもOKです。タイトルは「雨で隠れた月みたいに、存在するけど見えないもの」という意味。舞台は岩手某所。ヒロインである女子高生「及川奏音(おいかわ・かのん)」は耳が不自由だけど、先天的なものではなく後天的な障害なので普通に喋れるし唇を読めば相手の言っていることはだいたいわかる、分類上は「感音性難聴」だからまったく聞こえないわけではなく少しは音が拾える、しかし「なんでろう学校に通わないの?」「手話なんて知らないんだけどー」「本当に聞こえていないの?」という周囲の無神経な反応にウンザリしており、「理解してもらうこと」をほとんど諦めて殻の内に籠もるような生活を送っている。主人公の「金田一咲希(きんだいち・さき)」は隣の席ということもあり奏音と仲良くなろうと話しかける。どんなに突き放しても引き下がらない咲希の粘り強さに頑なだった奏音も徐々に心を開いていく。縮まる距離に咲希が抱くのは「友情」か、それとも……っていう百合の香り漂うストーリーです。
なんと申しますか、「話が面白い」というより「雰囲気が良い」漫画なんですよね。奏音をキッカケに「耳の不自由な人」への関心を抱く咲希ですが、自分の中に偏見があることに気づいて悩んだり迷ったりする。主人公をはじめとしていろんな人物の思考と感情を繊細かつ丁寧に描いており、あまり派手な展開はないけれど自然と引き込まれます。クールに見えて寂しがりやで距離感がバグっていて「〇〇のときに来るよ」と言ったら「〇〇がなきゃ来ないのね」と面倒臭い彼女みたいなセリフを吐く奏音も可愛い。ぶっちゃけ奏音と咲希がどんどん仲良くなっていってお互いを意識しまくる様子をニヤニヤ見守るという野次馬的な面白さがあることも否定できません。「なんか暗そうだし、肩肘張って読まなきゃいけないような息苦しさを感じる」とパスしたくなる人もいるかもしれませんが、「コメディではない」というだけであってニヤニヤしたりフフッとなるところも多い漫画ですからそこまで構えなくても大丈夫です。ゆっくり進行だったストーリーが大きく動き出すのは単行本でいうと4巻あたりゆえ、そのへんまでを目安に読んでもらえれば。
ちなみにくずしろ作品はだいたい繋がっているというか同一世界が舞台になっているので、『笑顔のたえない職場です。』の方にも『雨夜の月』のキャラが出てくる回があります。第49話の「しかと見学していくといいわ!!」、奏音たちが修学旅行中に会社見学として出版社を訪問するエピソードです。特に名前出してキャラ紹介とかはしていないので、『雨夜の月』を読んでいない人は「可愛いモブキャラ」と思うかもしれない。以前ショートアニメ化した『犬神さんと猫山さん』のキャラたちも会社見学に来ていて懐かしさを感じてしまいますね。
・ネクストン系列のレーベル「エムズトイボックス」のブランド「だーくワン!」より新作エロゲ『催眠性指導 -Secret Lesson-』、12月20日に発売予定。既にマスターアップ済。
少々長ったらしいタイトルになってしまったが、要するに「ネクストンというゲーム会社」に属している「エムズトイボックスというレーベル」の中にある「だーくワン!というブランド」から『催眠性指導 -Secret Lesson-』という新作エロゲが出るってことです。「レーベルとブランドって何が違うの?」と申しますと、実はそんなに違いはありません。昔は一つのブランド(銘柄)でいろんなエロゲを出してるところもありましたが、陵辱ゲーを出した後に純愛ゲーを出したりするとその純愛ゲーにハマった人が「このブランドの過去作をプレーしたい!」とうっかり陵辱ゲーに手を伸ばしてしまって「全然違うやんけ!」とメーカーへ苦情が飛んでくることもあったので、業界全体が「作風やジャンルに応じてブランドを使い分ける」方向に進んでいきました。仮に「かもめソフト」というブランドがあった場合、最初はまぜこぜでいろんなソフトを出していたけど途中から明るくて恋愛重視のエロゲを出すときは「かもめ白」、暗くて陵辱色の強いエロゲを出すときは「かもめ黒」から発売することにした――って感じですね。「かもめソフト」というブランドの中に「かもめ白」と「かもめ黒」というブランド内ブランドが新設されたわけです。これは途中で使い分けることを思いついたから「ブランド内ブランド」という入れ子みたいな形になったわけで、最初から使い分けるつもりで管理部門を立ち上げた場合はブランドというよりレーベルになる。「エムズトイボックス」は複数のブランドを取りまとめる位置にあって、これ自体をブランドと呼んでもそんなに間違いではないが、少なくとも今のところ「エムズトイボックス名義で直接発売したソフト」は存在していません。必ずだーくワン!みたいな「レーベル内ブランド」からソフトをリリースしています。つまり昔よりもブランドの使い分けが細かくなった結果ややこしくなっちゃってる、というだけのことだ。
さて、そろそろソフトそのものの解説に移ろう。『催眠性指導 -Secret Lesson-』はだーくワン!にとって7本目(『搾精病棟』シリーズをひとつにまとめた『搾精病棟 〜COMPLETE〜』もカウントするなら8本目)のソフトに当たる。だーくワン!のデビュー作『催眠学習 -Secret Desire-』と同じく「原画:愛上陸」「シナリオ:NATORI烏賊」という布陣で制作されており、タイトルが似ているから続編や関連作のようにも見えるが話そのものの繋がりはない。舞台も異なる。ひょっとすると設定上は同一世界なのかもしれないが、あくまで「ひょっとすると」レベルなので基本的に別ゲームと考えていいです。原画を担当している愛上陸が同人誌として展開していた『催眠性指導』シリーズが元になっており、このシリーズで名前の売れた愛上陸(個人ペンネームではなく「waon」と「越前」の共同ペンネーム)をイラストとして起用したのが『催眠学習』というエロ小説で、それをゲーム化したのが『催眠学習 -Secret Desire-』――だから実は『催眠性指導』の方が『催眠学習』よりも展開期間の長い作品なんです。最初の同人誌が2016年発行だからもう8年もやってますね。『催眠性指導』は全校集会で全学生に催眠術を掛けた眼鏡で肥満気味の主人公「田中はじめ」が性指導という名目でいろんな女の子を欲望の捌け口にする、非常にシンプル且つエロい話だ。どういう経緯で催眠術を習得したのかとか、そんなまどろっこしい説明は一切しない。一時的に催眠を解いて正気に戻らせる、という催眠モノにありがちな展開も排しており、最初から最後までずーっと催眠に掛かりっぱなしの状態が維持されている。田中はじめが童貞を捨てた瞬間についても言及されておらず、ストーリー開始時点で既に性指導という異常な行為に慣れ切っています。設定マニア的にはもっといろいろ細かい設定を知りたいところだが、そんなのいちいち掘り下げても読者への奉仕にはならないから……と、あくまでお手軽・お気軽に催眠エロを楽しみたいライト層向けに時系列だの整合性だのをあまり気にしなくて済む大らかなノリを貫いています。
『催眠性指導 -Secret Lesson-』はそんな『催眠性指導』シリーズのゲーム版ですが、かなりオリジナル要素が強く、どちらかと言えばアナザーストーリーの類です。公式サイトで紹介されている「女性キャラクター」14名のうち、原作に登場するのは「御影友姫」「藤間渚」「高梨雫」「鈴村香帆」の4名のみ。残り10名はすべてゲーム版オリジナルヒロインです。原作キャラである4名にしても、担当回があるのは御影友姫だけで他はみんなチョイ役ばかり。ゲーム版には「結城愛莉」という性指導の助手がいますが、原作にはそもそも助手なんて存在しません。感覚的にはもはや『催眠性指導』の設定を借りた壮大な二次創作である。シリーズのファンからすると未知がいっぱいで楽しみな一方「原作のメイン級ヒロインたちは登場しないの?」と不安になるが、エムズトイボックス広報曰く「HPでのご紹介は14名ですが、EVでの登場するキャラはこれまでのシリーズ(一部除く)ヒロイン+αです」。一部除く、ってことは小説版のオリキャラである椚木詩織・佳織母娘とか朝岡和季は出てこないのかな? 原作ヒロインはチョイ役や「ほぼ名前だけ」の子も含めると25人くらいいます。『催眠性指導5』のヒロインとして予告されている「柊鈴香」は小説版で田中はじめの幼なじみとして登場しましたが、『催眠性指導5』が出ていないせいでまだその設定が生きているのかどうかも定かではない。ゲーム版のオリキャラも足すと総勢40名弱、参加する声優の数も凄いことになっていて「抜きゲー界のアベンジャーズ」とまで豪語する人もいます。シナリオ容量は3.5MB以上、この数字ではピンと来ないかもしれませんが文庫本に換算するとおよそ10冊分。同じエロゲで比較すると『Fate/stay night』よりは短いけど『装甲悪鬼村正』よりは長い、くらいのボリュームです。イベントCGの枚数は131枚、差分抜きで100枚を超えるソフトは珍しいのでこれも結構な量だ。CG枚数に関しては体系的に調査・比較している人が少ないので私もよく知らないんですよね……確か10年かけて作った『仏蘭西少女』が165枚だったっけ。
エロゲの常として初回限定版が用意されていますが、注目すべきはそのお値段。なんと16500円(税込)。昔は8800円(税抜)がエロゲのフルプライスでしたが、ここ数年で9800円(税抜)が新たなフルプライスの基準となり、1万円超えることが珍しくなくなったとはいえ複数のソフトを詰め合わせたパック版ではない新作が15000円(税抜)とは。もはやオーバードプライスである。私みたいなほぼエロゲから引退した「元エロゲーマー」からすると「フルプライス2本分」の価格であり最初は目を疑いましたよ。間違えて豪華版(抱き枕カバーとか付いてくるやつ)か何かをチェックしちゃったかな、って。特典付きダウンロード版も同じ価格で、特典なしのダウンロード版は少し安くなりますがそれでも13200円(税込)。分割してチマチマ売られるよりはまとまってドンと出してもらう方がいいし、好きなシリーズではあるので購入することにしました。しかし、この歳になってもまだNATORI烏賊がシナリオ書いたエロゲを買うことになろうとはな……抜きゲー、それも催眠モノを得意とするライターで、かれこれもう20年以上もこの業界で飯を食っている古参です。『催眠学習』は買おうかどうか迷って結局買わなかったけど、せっかくだからこの機会にDL版をポチっちゃおうかしら、とFANZAにアクセスしたら「購入済み」と表示されて驚愕。ああ、そうだ、去年セールで安くなっていたから勢いでポチったんだった。バタバタしていてすっかり忘れていました。セールで衝動買いした挙句に忘れてしまう、私もそんな人間になってしまったんだな……。
・今村昌弘の『明智恭介の奔走』を読んだ。
映画化もした『屍人荘の殺人』のスピンオフに当たる短編集。小説に出てくるような名探偵に憧れる大学生「明智恭介」をメインに据えており、『屍人荘の殺人』よりも前の出来事を描いている。『屍人荘の殺人』の冒頭で明智さんと出逢い、これまでの今村作品で活躍してきた探偵少女「剣崎比留子」は登場しない。って、こう書くと「まさか明智恭介さん、『屍人荘の殺人』で死んじゃうの? だから時系列的に『屍人荘の殺人』より前の話しか紡げないのでは?」と不安になるかもしれませんが、その疑問にお答えしますと……知りません! 『屍人荘の殺人』は評価が高いから何度か読もうとしたけれど、盛り上がってくる前に他の本が読みたくなって放置し、「映画化決定」の報せを聞いて興味が再燃したから発掘して読み直そうとしたけど途中でまた別の本が読みたくなって放置……というような行為を繰り返したため、未だに通読できていないのです。さすがにこの『明智恭介の奔走』を読んでやっと本格的に取り組む気持ちが湧いてきたが、記憶があやふやすぎて一からまた読み直しています。なので安心してください、今回の感想に『屍人荘の殺人』を始めとする剣崎比留子シリーズのネタバレは一切ありません。読んでないんだからやりようがない。そして『屍人荘の殺人』をまともに読み通していない私でもしっかり楽しめたので、ここからいきなり読み出してもまったく問題ありません、と太鼓判を押しておく。
関西では名の知れた私大である「神紅大学」にはミステリ系のサークルがふたつある。最近流行りのライトミステリを中心に浅めのファン(ヴァン・ダインや都筑道夫の名前すら知らないレベル)が集まる大学公認サークル「ミステリ研究会」と、古典作品や本格推理をこよなく愛するマニアックな大学非公認サークル「ミステリ愛好会」――ミス愛の会長である三回生「明智恭介」は「本物の名探偵」になるべく方々に名刺を配って依頼を募っている、誰がどう見ても変わり者の大学生だった。同じミス愛に所属する(というか明智以外で唯一の会員である)「葉村譲」は、若干不承不承ながらも助手役として様々な事件に関わることとなるが……。
殺人事件は発生せず、せいぜい盗難レベルの事件が起こる程度。地味と言えば地味な内容のミステリですがそのぶん興味を「謎解き」に絞っており、「長編ミステリはしんどくてなかなか読み切らないから短編くらいでサクサク読めるミステリが欲しいなぁ」という私の気分にうってつけな一冊でした。全体が300ページ弱、短いのだと40ページ切るくらいで、長くてもせいぜい70ページ程度。少し空いた時間にチマチマ読むにはちょうどよいボリュームと言えましょう。明智恭介のネーミングはたぶん「明智小五郎」と「神津恭介」から来ているんでしょうが、「葉村譲」は「葉村晶」と「信濃譲二」あたりが由来なのかな。では各エピソードの紹介と感想に移ります。
「最初でも最後でもない事件」 … 雑誌掲載時は「明智恭介 最初でも最後でもない事件」でしたが、書籍収録に伴って改題されている。今はほとんど使われていない神紅大学の旧サークル棟に窃盗犯が忍び込んだ。幸い容疑者はすぐに確保されたが、当人は「自分以外にも侵入者がいて、そいつに襲われて気絶したんだ」と証言する。前科があり、頻繁に嘘をついて証言をひっくり返すこともある男だっただけに警察は「単に転んで気絶しただけだろう」とまともに取り合わなかったが、明智恭介は「別の侵入者がいたと仮定して推理しよう、その方が話として面白い」と事件へ首を突っ込んでいく……存在したかどうかもわからない「謎の侵入者」を巡って「神紅のホームズ」を自称する明智恭介が事件解決に乗り出す、本書の中では比較的オーソドックスなストーリーの一編。真相だけ見るとそんなにスゴい話ではないのだが、そこに辿り着くまでの道筋が丁寧で読ませる。何より明智恭介のキャラが魅力的で、「名探偵なのか、はたまた迷探偵なのか」と彼の行動から目が離せません。一発目としては充分な内容でしょう。
「とある日常の謎について」 … シャッター通りと化している寂れた商店街「藤町商店街」に位置するボロビルが、なんと2000万で売れたという。誰が、いったいどんな理由でそんな大金を払ってボロボロのビルを買ったのか? 居酒屋で常連客たちが話す「日常の謎」に、アロハシャツ姿の一見客・明智恭介は嬉々として嘴を突っ込んでいくが……この作品はミステリ好きの間で有名なとあるエピソードを下敷きにしており、そのエピソードを知っているか知っていないかで反応が変わってくる一編です。ちょっとネタバレになりますが、繰り返し書店が出てくる割に何か本を買ったという描写が一向に出てこないので「ん? ひょっとしてこれ、アレのオマージュなんじゃないか?」と私も途中で気が付きました。それぐらい有名なエピソードなんですけど、そこを解説しちゃうと面白みがなくなるので触れられないというジレンマ。寂れた商店街にも「寂れる前」があったことを淡々と綴る話でもあるので、「とあるエピソード」を抜きにしてもしんみりした雰囲気に浸れます。
「泥酔肌着引き裂き事件」 … 雑誌掲載時は「泥酔肌着切り裂き事件」だったので微妙にタイトルが変わっている。ある夜、飲み会で泥酔した明智をタクシーに乗せ、マンションに送り届けた葉村。翌日明智から呼び出されて彼の部屋に向かうと、玄関に引き裂かれていた黒い布が落ちていた。「これは昨日、俺が穿いていたパンツだ」 泥酔していたせいで記憶が残っていない明智は、なぜパンツがビリビリに破れているのかという心底どうでもいい謎を一緒に推理しろと強要するが……本書の中でもっともバカバカしい事件を描いた一編。というか明智さん、黒パンツ穿くんだ……「生けるミステリ」である明智さんを観察するのが趣味という葉村もさすがにこれは「バカミス」だと気乗りしません。「バカミス」とは「バカバカしいミステリ」を指すスラングであり、罵倒的な表現のため定義が難しく、たとえ誉めているつもりであっても安易に「〇〇はバカミス」などと決めつけると論争っつーか喧嘩になりかねません。『六枚のとんかつ』みたいに自覚的なギャグとして書いてるパターンもありますけど、あれはあれで「わざとバカバカしく書いていてシラける」という意見もある。「大真面目に書いた結果としてバカミスになるのが至高」と主張する派閥もあってなかなか複雑なんです。さておき「泥酔肌着引き裂き事件」、状況こそバカバカしいもののミステリとしては真面目にロジック展開しており、短編作品としては本書随一の仕上がりかもしれません。ページ数も少ないし、「試しにどれか一編だけ明智恭介モノを読んでみたい」という方はこれをチョイスしてみるのも一つの手である。
「宗教学試験問題漏洩事件」 … 神紅大学の宗教学を担当する柳教授の研究室が何者かに荒らされ、金庫の中に仕舞っていた期末試験の試験問題を収めたUSBが盗み出されたという。大学側は大事にしたくないからと警察に届け出ず、内々で処理する方針を固めた。当然宗教学の試験問題は作り直しとなる。そう、盗難なんて発生したら「試験問題の作り直し」になるのは当たり前、犯人はそんなこともわからずにUSBを盗み出したのだろうか? たまたま騒動の際に近くに居合わせていつもの如く首を突っ込んだ明智恭介は、犯人の思惑もさることながら「関係者の誰にも犯行が困難だった」状況に頭を悩ませる。ページ数の割にはやや複雑なシチュエーションを描いており、「謎解きの密度」を重視する人にとっては美味しい一編だろう。個人的には「さすがにちょっと無理があるんじゃないかな」と感じたので評価が下がってしまったけど、このトリックに納得できる人ならば本書随一の面白さと思えるかも。ちなみにこの事件、『屍人荘の殺人』冒頭で名前だけ触れられていたものでようやく全容が明らかになったわけですが、作中で新たに「版権イラスト大量投下事件」なるものに言及しておりまだまだ語られざる事件が存在する罠。
「手紙ばら撒きハイツ事件」 … 依頼人の管理するアパートで、ストーカーとおぼしき人物の綴る気持ち悪い手紙が複数の住人のポストにばら撒かれていた――どうせ警察はまともに捜査してくれないだろうから、と探偵事務所に持ち込まれた依頼。所長の田沼は、人員不足から仕方なくアルバイトの大学生・明智恭介を伴って現場に向かうが……明智恭介のバイト先である「田沼探偵事務所」を描いた一編。田沼所長が語り部を務めており、いつもは探偵役として葉村を振り回す明智さんが助手役に回っているのがなかなか新鮮です。普通、ストーカーは特定の人物にしつこく付きまとって迷惑な手紙を投函し続けるものなのに、なぜこのケースでは複数の住人に手紙がばら撒かれているのか? これじゃストーカーというよりアパートそのものに対するイヤガラセではないか。捜査の端緒が掴めずに苦労する田沼所長、一方明智さんは助手として役に立とうと奮起するが、どうにも空回りしてしまう。明智さんがまだ一回生だった頃、つまり2年ほど前のエピソードなので葉村とも出逢っておらず、ちょっと頼りない感じです。これを初々しいって捉える人と、「もっと自信満々の明智さんが見たいんだよ!」って人とで読み口は異なってくるでしょう。謎解き面は「構造がやや複雑だけど解決の道筋はシンプル」という印象。
読めば読むほど名探偵になりたくて努力している、変人だけどいじらしいワナビーな明智恭介が愛らしくなってくる一冊。表紙見返しに「待望の<明智恭介>シリーズ第一短編集!」と書いてあるから恐らく第二短編集や第三短編集も出るはずだが、それはそれとして『屍人荘の殺人』以降で明智さんがちゃんと生きているのかどうか不安になってきたな……早く『屍人荘の殺人』を読み終えたい気持ちと読むのが怖い気持ちが鬩ぎ合う。いや迷ってたってしゃあない、肚を決めるか。次回更新までに読み通して感想書きます、と宣言しておこう。
・拍手レス。
しなこいもマキャヴェリズムも続いて欲しかった……。WADARA購入したので読むのが楽しみです!
つくづく残念……MADARAはさすがに今読むと時代を感じる部分が多いですが、熱気というか「当時の少年少女が夢中になった壮大でワクワクするムード」は伝わると思います。
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