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2026-10-13.

・『鵺の陰陽師』のアニメ化が決定したりつり乙3の製作が決定したり、「“幻想(ユメ)”じゃねえよな……!?」案件が立て続けに襲い掛かって来て驚き疲れている焼津です、こんばんは。

 まず鵺から行こう。放送は2027年、来年の予定です。2023年から連載を開始し、現在の最新刊は先月出た16巻。アニメ化作品としては結構掛かった方です。例えば、『呪術廻戦』のアニメ化発表は2019年11月で、単行本の7巻が出た翌月くらいです。ちょっと遅かった印象のある『鬼滅の刃』でも2018年6月で、単行本の11巻が出た頃。まぁ、鵺は一時期「戦いは最終局面へ――!!!」みたいなアオリ書かれて打ち切り疑惑が濃厚に漂ったりしたので、アニメ化が決まってしばらく存続できそうなだけでも御の字です。制作は「スタジオ雲雀」、あまり有名ではないが結構な老舗で『KAIKANフレーズ』や『らいむいろ戦奇譚』なども手掛けた過去がある。ファンが「なかったこと」にしているので有名なあの『つよきす Cool×Sweet』にも関わっているが……スタジオ内に「Lerche(ラルケ)」という制作チームを抱えており、2010年代頃からはラルケ名義で請ける事が多い模様。『カーニバル・ファンタズム』や『Fate/Grand Carnival』もラルケ名義でしたね。監督は「橋本裕之」、「ごちうさ」こと『ご注文はうさぎですか?』を手掛けた事で知られている。現在放送中の『魔法少女育成計画restart』も監督しています。シリーズ構成の「瀬古浩司」は元ガイナックス社員の脚本家で、『呪術廻戦』のシリーズ構成や脚本も担当している。オリジナルアニメは『デカダンス』くらいか。声優は学郎役が「三浦魁」、鵺役が「大西沙織」、七咲役が「鈴代紗弓」。ボイコミ時のキャストで続投しているのは鈴代紗弓だけか(ボイコミの学郎役は「伊月登宇聖」、鵺役は「沼倉愛美」だった)。キャストはまだ不明ながら公式サイトのキャラ紹介には代葉やトメちゃんも載っており、この感じだと5巻、「美執村編」までを1クールでやるんかな? 話が本格的に盛り上がってくるのは3クール目あたりだと思うので気長に待ちたい。

 「つり乙」こと『月に寄りそう乙女の作法』はエロゲブランド「Navel」が展開する「女装主人公モノ」のシリーズ。つり乙というのは公式略称だが、「Navel乙女シリーズ」がシリーズとしての正式名称です。過酷な生い立ちを持つ主人公「小倉朝日」がなんやかんやあって女装してお嬢様学校へ通う事になる。メインライターは「東ノ助」だが、「王雀孫」も関わっている。無印(1作目)の発売が2012年で、『月に寄りそう乙女の作法2』が2014年、ここから数えると(来年に発売されると仮定して)13年ぶりくらいの新作となるが、つり乙は関連作が多いのでこのへんの事情がちょっとややこしい。2021年に発売されたコンプリートボックスには6本のゲームが収録されており、列挙すると

 『月に寄りそう乙女の作法』(12年10月)
 『乙女理論とその周辺』(13年 8月)
 『月に寄りそう乙女の作法2』(14年12月)
 『乙女理論とその後の周辺』(16年 5月)
 『月に寄りそう乙女の作法2.1 E×S×PAR!!』(17年5月)
 『月に寄りそう乙女の作法2.2 A×L+SA!!』(17年12月)

 つまり『月に寄りそう乙女の作法』と『乙女理論とその周辺』、2系統のタイトルがあるワケです。未プレーの人にこのへんを説明するのが面倒臭い。簡単に言ってしまうと、これまでのつり乙シリーズには主人公が2人いたんです。1人はさっきも言った小倉朝日、もう1人が「小倉朝陽」です。似ていますけど字が違います。小倉朝日の本名は「大蔵遊星」で、女装時の偽名が小倉朝日。遊星の息子に当たる存在が小倉朝陽、本名「桜小路才華」です。名字でわかるかもしれませんが、前作ヒロイン「桜小路ルナ」との間に出来た子供。つり乙1(便宜上こう書く)からざっくり20年経った、言わば「ネクストジェネレーション」がつり乙2です。これまでのつり乙シリーズは「朝日(遊星)モノ」と「朝陽(才華)モノ」の2つに分かれていて、『乙女理論とその周辺』と『乙女理論とその後の周辺』は朝日(遊星)モノ、『月に寄りそう乙女の作法2.1 E×S×PAR!!』と『月に寄りそう乙女の作法2.2 A×L+SA!!』は朝陽(才華)モノに属します。『乙女理論とその周辺』はつり乙1のバッドエンド後、「フィリア女学院日本校」に通えなくなった朝日が異母妹「里想奈(りそな)」の勧めで渡仏し、「パリ本校」へ通う事になる。エロゲにしては珍しい「パリが舞台」のストーリーです。登場人物も当然外国人が多い。『乙女理論とその後の周辺』はアフターストーリーに当たります。『E×S×PAR!!』や『A×L+SA!!』はつり乙2のアフターストーリー、「2.1」や「2.2」とナンバリングされているが、これはあくまで便宜上のモノであって必ずしも2.1→2.2の順でやらないといけないワケではありません。単に収録されているアフターストーリーのヒロインが異なるだけです。要するに分割のFD(ファンディスク)なんですよね、これら。まぁ、詳しいプレー順に関しては公式サイトの「シリーズ推奨プレイ順について」を参考にしてください。

 上記のような事情から朝日と朝陽、二人の女装主人公についてはもう充分に掘り下げが済んでおり、「コンプリートボックス」なる商品も発売されて「Navel乙女シリーズ」はシリーズとしての展開をほぼ終了した……ハズだったのに、ここに来て「つり乙3を出します!」というニュースが流れたワケだからファンはビックリしました。3って事は、今度は朝陽の息子が女装するのか? えっ、それってつまり、朝日の孫……? 思わず顔が宇宙猫となってしまいそうになります。親子三代に渡る、かつてない女装大河の幕開けとなるのか……? それにしてもNavelよ、けれ夜な(けれど輝く夜空のような)はどないなっとんねん。うぶごえ騒動の時に「今回の障害によるプロジェクトの進行自体への影響は一切ございません」とアナウンスしたのが最後で、もう半年近くまともな情報が出てないぞ。

・完全新作アニメーション『NARUTO-ナルト-×NINKU-忍空-』制作決定、全4話で放送・配信時期は未定

 『忍空』が、『ナルト』とのコラボという形とはいえ令和の世に完全新作アニメで甦る!? またしても「“幻想(ユメ)”じゃねえよな……!?」案件の到来だ。『忍空(にんくう)』とは1993年から“週刊少年ジャンプ”で連載を開始した漫画で、諸事情から1995年にストーリーの途中で連載休止。そこから10年経った2005年に『忍空 〜SECOND STAGE 干支忍編〜』というタイトルで続編をスタートさせ、2011年に完結しました。単行本の巻数は前者が9巻、後者が12巻で、計21巻。72巻も続いたナルトに比べれば割と小規模なプロジェクトだが、1995年に『幽☆遊☆白書』の後番組としてアニメ化された事もあり、90年代に青春を過ごしたマンガ好き・アニメ好きにとってはそこそこの知名度を誇っている。「瞳孔のない黒眼」「陰影の少ない、白と黒のコントラストがハッキリした画風」「独特なタッチの描き文字」など、当時としても異質な絵柄であったため「怖い」「気持ち悪い」と感じる子供も少なくなかったが……。

 アニメが放送開始した時点で原作は5巻までしか刊行されておらず、その状態で全55話の企画として走り出したため、原作通りの内容にしたら当然ネタにするエピソードがすぐに枯渇してしまいます。アニメはマンガ版の設定を採用しただけの、ほぼオリジナルに近い内容と化しており、アニメから原作に入った新規読者はあまりの違いにビックリする、というのが恒例行事でした。私もその一人。カエルみたいな顔をした主人公「風助」が低年齢層向けっぽいムードを放っているものの、内容は結構シリアスなんですよね。異世界というかパラレルワールドな日本が舞台で、本編の50年前に「戦国時代」が始まり、3年前に戦争が終結。「EDO(エド)」という新たな時代が幕開けとなった。3年前の、関ヶ原的な「天下分けめの一戦」で活躍したのが「忍空組」という武装集団である。彼らは忍者の「技」「スピード」、空手の「パワー」を組み合わせた徒手格闘術を駆使し、刀や銃を用いず、また刀や銃が一切通じない無敵の集団として名を馳せた。EDO暦3年、戦乱の終わりによって存在意義を失った忍空組のメンバーは散り散りとなり、一部の残党が賊徒化。庶民の暮らしを脅かしていた。主人公「風助」は忍空組の1番隊隊長だった超強キャラ。「忍空」としてのプライドを持ち戦国時代を戦い抜いた彼は現在の荒れ果てた状況に心を痛めており、各地を回って世直しの旅を行っている。

 忍空組はかつて流派ごとに1番隊から12番隊まで12のグループに分かれていて、それぞれに十二支の文字が振られていた。1番隊は「子(ね)」の組なので、「子忍」と通称されている。各流派の隊長はそれぞれの十二支の最強格という事で「干支忍」と呼ばれています。ちょっとややこしいですが、整理すると「かつて存在した武装集団」全体を指す用語が「忍空組」で、彼らの使う格闘術は「忍空」なんですが、彼ら忍空の使い手自身も「忍空」と呼ばれている(区別が必要な際は「忍空使い」と表記)、流派ごとに十二支の名称が振られていて、特に最強格の隊長を「干支忍」と称する――ってワケです。戦国時代が終わった時点で干支忍以外の忍空使いは100人ほどいて、そのほとんどは野に散っているが、何割かの連中は群れ集って「忍空狼」なる新たな武装集団を結成している。自分たちのおかげで平和が訪れたというのに、EDO幕府の大名や金持ちどもは忍空使いを蔑ろにしている! と怒りを募らせた忍空残党は国家を転覆させて自分たちが頂点に立とうと目論む。テロリスト集団に堕した忍空狼と、それを止めるための干支忍の戦い……というのがアニメが始まった時点における原作の大まかな構図です。

 背景設定として「MUROMACHI幕府」の頃に当時の忍空たちが政権を掌握しようとして暴走し、「忍空使い以外を皆殺しにする」と宣言した――というのがある。結果として「旧干支忍」12名によって鎮圧されるが、この騒動こそが歴史に埋もれた闇、「忍空戦争」。まるでこれの再来だ、という事で「干支忍vs忍空狼」の争いを「第二次忍空戦争」と呼んでいます。旧干支忍は風助たちの師匠「麗朱」ひとりを残し、「同じ事が起こらぬように」と11名が一斉に自害。それから間もなく戦国時代が始まり、麗朱は苦悩の末、戦乱を終わらせるために封印していた忍空を復活させる。望み通り戦乱の世は終わって平和が訪れるが、結局「忍空を復活させる」という判断が新たな戦争の火種になってしまった、という皮肉な展開です。忍空狼も元々は「警察では手に負えない凶悪犯を取り締まり、戦争の火種を潰す」闇の自警団だったんですが、部下の裏切りによって組織を乗っ取られてしまった、という経緯がある。第二次忍空戦争が終わった後は「コマンド・アーマー編」「五大老編」と散発的なストーリーが続き、「もう忍空を人殺しには使わない」と宣言していた風助が手加減できずに相手を殺してしまったり、怒りの鉄拳で腐れ外道の首をもいだりなど展開が迷走。苦肉の策として過去に遡り、まだ戦乱が続いていたMUROMACHI暦のエピソード……要するに風助と橙次の出会いから始まるエピソードZERO的な前日譚を幕上げさせました。麗朱が各地に散らばっている干支忍たちへ集合命令を発し、いよいよ忍空組が結成される……という手前のところで連載が休止。集合場所に辿り着いてすらいないので、打ち切り感が半端ないです。『忍空 〜SECOND STAGE 干支忍編〜』はこの続き、風助が集合場所に向かうところから始まります。なんやかんやの末に干支忍12名が揃って「完」となりますが、結局「天下分けめの一戦」は描かれず終いだった。たぶん、「本格的な戦争ともなるとスケールが大きすぎて手に負えない」と描くのを諦めたんでしょう。

 アニメでは「干支忍vs忍空狼」の構図が大きく変更され、「帝国軍」なるアニメオリジナルの組織が敵役として出てくる。アニメでは本編の7年前に将軍家を復活させようとする「帝国」とそれに反対する「共和国」がぶつかり合って戦争勃発。本編の3年前に「忍空隊」と呼ばれる武装集団が現れて帝国軍をあと一歩というところまで追い詰めるが、総帥だった麗朱が突如解散を宣言し、表舞台から姿を消す。戦争は帝国の勝利となり、EDO暦が始まった。忍空の元隊長だった風助は世直しのためではなく「生き別れた母」の行方を追って各地を旅している……と、かなり設定がアレンジされています。「忍空狼」も出て来ますが、原作に比べてだいぶスケールが小さくなっており、確か3話くらいで全滅する。「生き別れた母」もアニメ独自の設定で、原作だと父親ともども風助の故郷で眠っています。原作では味方だった「黄純(きずみ)」(7番隊「午忍」隊長)が敵として立ちはだかるなど、アニメは「原作に比べてテーマ性こそ薄いが物語はドラマチック」という仕上がりになっています。ハッキリ言って現在の作品でやったら噴飯物の改変なんですが、当時は「原作に忠実」がそこまで求められていなかった事もあり、アニメはアニメで人気があったんですよね。「大戦のさなか、僅か数十名の部隊で帝国軍を壊滅寸前にまで追いつめた集団があった。その名は忍空隊。辛うじて戦争に勝利した帝国軍は彼らの力を恐れ討伐に乗り出した。今、本当の忍空を知る者は少ない」というアニメのナレーションに親しんだ人も多いだろう。実際にこの『NARUTO-ナルト-×NINKU-忍空-』のニュースが流れた時に「本当の忍空を知る者は少ない」がトレンド入りしたくらいだもんな……。

 しかし、こうなると期待したくなるのが「原作準拠での『忍空』再アニメ化」なんですが……問題は、「シリーズ構成が難しそう」という事ですね。原作『忍空』の時系列を整理すると、

 0.風助が生まれる前、MUROMACHI幕府の時代に忍空使いが暴走、旧干支忍たちが自分たち以外を粛清した上、麗朱のみを残して自害。これによって忍空使いは麗朱だけとなる。(第一次忍空戦争)
 1.第一次忍空戦争から間もない頃、MUROMACHIの将軍家が弱体化した事により50年に渡る戦国時代へ突入。MUROMACHI暦155年に風助と橙次が出会い、忍空としての道のりを歩み出す。(旧単行本の7巻あたり、文庫版や電子版の5巻)
 2.MUROMACHI暦157年、将軍が家臣に弑殺された事により戦乱は混迷の極みに達する。麗朱が各地に散らばる干支忍へ集合命令を出し、風助たちは集合場所である「虹を翔る銀嶺」を目指す。(旧単行本の8〜9巻あたり、文庫版や電子版の6巻)
 3.旅の途中ではぐれた橙次たちと合流し、再び目的地「虹を翔る銀嶺」を目指す風助。麗朱が攫われる騒動があった末に干支忍12名が遂に集結する。(『忍空 〜SECOND STAGE 干支忍編〜』)
 4.将軍家対夜叉蠍連合軍、「天下分け目の一戦」へ雪崩れ込む。忍空組の活躍によって将軍家が勝利し、元号が「EDO」に改まる。忍空組は解散し、干支忍たちはまた平和な世で再会する事を誓い合う。
 5.EDO暦3年、戦乱が終結したとはいえ各地で不安定な状況が続く。特に解散した忍空組の残党が賊徒化した事は社会問題になっており、バラバラになった干支忍たちはそれを取り締まったり何もやる気が湧かず放置したりしている。
 6.忍空組残党の一部が元5番隊隊長「赤雷」の作った秘密自警団「忍空狼」を乗っ取り、「忍空至上主義の社会を築く」という目的を掲げてテロリスト化。忍空使いの頂点に立った選ばれしたった一人の者だけが持つ事を許される、「天は割れ大地は裂け全人類はおろか全宇宙さえも操ることが可能」という超スゴい秘術を記した巻物「釈迦の証」を奪取しようと目論むも風助たちに阻まれ失敗に終わる。(第二次忍空戦争)
 7.忍空狼は消滅したが、それで劇的に治安が回復するワケでもなく戦国時代の亡霊「コマンド・アーマー」や権力を振り翳して好き勝手する「氷刹」(EDO幕府幹部「五大老」のひとり)などを懲らしめる。不殺の誓いを破っており、読者が困惑する。

 こんな具合で、「5〜7」までを「ファーストステージ」、「1〜3」までを「セカンドステージ」と呼び分けています。「0」や「4」はナレーションや伝聞等で語られるだけで具体的な描写はほとんどない。特に「4」の「天下分け目の一戦」は詳細が一切不明です。掲載順は「5→6→7→1→2→3」で、もしこの通り原作に忠実にアニメ化してしまうと盛り上がるまでのポイントが長く、かと言って作中の時系列通りに「1〜3、5〜7」の順でやってもなんかしっくり来ないというか……こうして見ると、つくづくアニメ版の改変は英断だったな、と思います。桐山さんの作風ってシュール寄りなので「原作通りにアニメ化」は向いてないんですよね。

 ちなみに、原作電子版は現在セール中で、『忍空』全6巻(文庫版がベースなので単行本より巻数が少ない)、『忍空 〜SECOND STAGE 干支忍編〜』全12巻が各100円、21冊まとめて買っても2100円という破格値になっています。クーポン等が使える書籍ストアで買えば更に安くなる。短編集の『忍空 零』は残念ながらセール対象外です。

・野村美月の『楽園(ハレム)への清く正しき道程(ルート)(1〜4)』読んだ(正確にはこのシリーズ、ナンバリングが存在しないのだけれど、便宜上の巻数として表記しています)。

 1巻が発売されたのは2015年、実に10年以上前のシリーズだ。蔵書整理の時に見つけて、なんとなくパラパラ読んでるうちに熱が入って読み切ってしまった。作者の「野村美月」は、一般的に“文学少女”シリーズで知られている。本シリーズもイラストは“文学少女”シリーズと同じ「竹岡美穂」が手掛けています。野村美月は多作家で、他に「ヒカルが地球にいたころ……」シリーズ、「吸血鬼になったキミは永遠の愛をはじめる」シリーズ、「むすぶと本。」シリーズでも竹岡美穂とタッグを組んでいるし、今年『団地の恋人』という新作も出しているから「いつもの」と言えば「いつもの」なんですが……。

 さておき、野村美月作品は“文学少女”シリーズが有名で、有名すぎて「他のシリーズは読んだ事ない」って人も結構多いと思います。何を隠そう私はデビュー当時から読んでいた、一応は「古参」の部類に属する読者である(コバルト文庫から出ていた別名義の作品群はさすがに読んでないが……)。随分と前なので忘れられてきているが、野村美月は「デビュー作含めて3ヶ月連続刊行、しかも3冊すべて別のシリーズ」という破天荒な真似をして話題になるほど速筆の作家でした。複数の名義を使い分けている事でも有名であり、あえてタイトルは書かないが2005年にピンでエロゲーのシナリオも書いています。メイドがいっぱい出てくる内容で、ハーレムルートも存在する。できればノベライズしたかったらしいが、「売上的に厳しい」という事情で企画は見送られた。この「楽園への清く正しき道程」シリーズも「幸せなハーレムを完成させてみたい」という想いから出発しており、「エロゲー的なストーリーをライトノベルでやる」という試みになっています。作風的にはラノベというより児童向けファンタジー、もっと言うと「お伽噺」に近いノリかな?

 主人公「ルドヴィーク」は町の服屋で働く好青年。着飾った女性を見るのが大好きで、趣味と実益を兼ねて町娘たちを相手にせっせと営業を行う、どこにでもいる「仕事熱心な庶民」だった。しかし実のところ彼は王様の隠し子であり、流行り病によって三人の王子を立て続けに喪った祖国「ローデシア」は「庶子だけど、もうお前しか直系は残ってないんだから仕方ない」と強引に彼を玉座に就けてしまう。突然の事態に目を白黒させつつ、「とにかく直系の子を増やす事が急務、お妃様を迎えてどんどん子作りに励め」と圧を掛けられるルドヴィークだったが……といった調子で、周りから要求される形でハーレムを築いていく事になります。「ハーレム王に、俺はなる!」と固く決意して邁進するタイプの話ではないので、「周りに流されてハーレム作っちゃう男はちょっと……」という人には少々薦めづらいか。

 主人公に好感が持てるし、「周りから要求されてハーレムを作っていく」というコンセプトも面白かったが、ハッキリ言って「ヒロインたちの魅力」がちょっと弱かったかな……読んでいてこう、ワクワク感とかドキドキ感がなかった。喜劇の色合いが強くて艶笑ムードが弱いと申しますか。主人公が爽やかなイケメンのせいで「難攻不落なヒロインたちを次々と攻略していく」っていう痛快感がなく、読んでいてちょっと間延びした印象が漂い、「エキサイティングではない読み口」になってしまった感触があります。ハーレム物としては、もう少しピリリと来るようなスパイスが欲しかったところか。「七番目だけは手に入らない」がスパイスと言えばスパイスだが、それだけで持たせるのは難しかったかな。

 以下、巻ごとのあらすじと感想を書いていきます。

 

「おまえは、望めば楽園の主にもなれるだろう」

 楽園の……主?

「他人がうらやむすべてを、おまえは手に入れる。地位も、富も、愛情も、平穏もだ。そのために必要な一番目から六番目までは、おまえのものだ」

 まるでルドヴィークの未来を、はるか先まですっかり見通しているように――少女の声が神託のように、呪いのように、暗い森の中を流れてゆく。

「だが、七番目だけは、おまえのものにならない」

 七番目がどんなものかわからないのに、ルドヴィークは少女がそう断言した瞬間、心をえぐり取られたような気持ちになった。

「泣き叫ぶほどに願う、たったひとつのものを、おまえは決して手にすることは叶わないだろう……」

「0番目は北国産のツンドラ王妃?」

 タイトルで戸惑うかもしれませんが、野村美月は本来「ギャグ・コメディ」路線を得意とするタイプの作家なので、このシリーズも基本的な調子は「コミカル」そのものです。北の大国「エンドラ帝国」からやってきた第三皇女「カテリナ」を巡るエピソード。17歳という、皇女としては嫁き遅れスレスレの年齢で輿入れしてきた少女――見た目は非常に麗しい反面、性格は大いに難アリだった!

 簡単に言うと「ツンデレ」とか「素直になれない」系のヒロイン。特に悪い事をしていない主人公に対し、散々ヒドい態度で接してくる。可愛い事は可愛いが、この時点ではギリ腹立たしさが勝つかな……ぶっちゃけヒロインよりもサブキャラ(人妻)とのエピソードの方が印象的だった。カテリナが若干デレる形で終わるが、「わたしには心に決めたかたがいる」という理由でルドヴィークの求愛を拒む。要するに「攻略失敗エンド」です。だからタイトルが「0番目」なんですね。

 「わたしはわたしの恋を、あなたはあなたの恋を、お互いに助け合いながら成就するの。そうよ、わたしたち同盟を結んで、同志になりましょう」と提案するカテリナ。北の大国だけに同志(タワーリシチ)ってか、ガハハ! さておき、「ヒロインが主人公の恋路を応援する」という共通点があるから、強いて言えば『とらドラ!』系のラブコメと言えなくもないか?

 

「七番目は手に入らないんだろう。もう一番目も六番目もいらないから、七番目をおくれよ」
「それは無理だ。七番目は、決して手に入らない」

「1番目はお嫁さんにしたい系薄幸メイド」

 ナンバリングがなく、サブタイが「1番目〜」だから混乱しそうになるが、シリーズ2冊目です。「心に決めたかた」のためにルドヴィークと子作りするつもりはない、と明言するカテリナ。しかしルドヴィークの事自体は「いい人」だと思っているし、国王として世継ぎを作らねばならない立場である事は理解しているので、彼のために側室候補を見繕おうと「城内お嫁さんにしたい子番付レース」を肝煎りで開催する。レースの勝者は、寵姫として陛下の「お慈悲」を賜る事ができる――そんな噂がまことしやかに囁かれた影響もあり、様々なメイドと令嬢がアピール合戦を繰り広げる……平たく言えばミスコン回です。

 熾烈なレースの裏側でルドヴィークは仕事を押し付けられ虐げられている煤まみれのメイド「ミーネ」を発見し、「素材は悪くないのだから」と彼女を輝かせるべく頭を捻る。前回が「じゃじゃ馬ならし」なら今回は「マイ・フェア・レディ」かな。シンデレラよろしくイジメられていたメイドの子がめきめきと魅力を開花させていくストーリーが進む一方で、「番付レースに不正な介入が行われている」疑惑も発生する。なんやかんやの末にルドヴィークとミーネの仲が進展し、その様子を見たカテリナの胸がチクリと痛む。かくして王様は「一番目」、寵姫のミーネを得るのだが、「第一王子はカテリナ王妃の産んだ子でないと困る」という政治的な事情により初夜はお預けになるのでした。ちゃんちゃん。

 

「四番目も五番目も、六番目も、いらないよ」

 ルドヴィークはもう一度、強い口調で言った。
 四番目から六番目までを得ることがなければ、予言ははずれたことになり、七番目は決して手に入らないという予言も実現しないように思えて。
 青い髪の少女は、ルドヴィークの精一杯の抵抗をさめた眼差しで見つめて言った。

「それでも四番目と五番目は、このあとおまえのもとを訪れる。六番目もいずれはおまえのものになる。そして七番目だけは、永遠に手に入らないだろう」

「庶民出身の国王様がまたご愛妾を迎えられるそうです」

 3冊目。今回の表紙は1巻時点から登場していた女騎士「エヴァリーン」とフォルマ公爵令嬢「テレーゼ」、ダブルヒロイン回です。たぶん1冊に1人のペースだと間に合いそうにないから「巻き」に入ったんじゃないかな。

 幼い頃から騎士になるための訓練に明け暮れ、男っ気がまったくなかったエヴァリーンを心配し、実家の両親が勝手に婚礼の段取りを組んでしまった。相手は10歳も年上の、熊のような大男。なんでも闘技場で10年に渡ってトップに君臨している「絶対王者」なのだとか。思いも寄らぬ突然の縁談に呆然とするエヴァリーン、そして幼馴染みの女騎士の縁談がまとまったという話を聞いてショックを受けるテレーゼ。彼女はローデシア王国で「もっとも高貴な令嬢」と見做され、王族と結婚して王妃になる事が内定していたが、3人いた王子は軒並み流行り病でこの世を去り、北の大国から来た皇女が正妃の座に収まったため、嫁ぎ先を見失った「哀れな行かず後家」と陰口を叩かれていたのだ。こないだ18歳の誕生日を迎え、未婚の貴族令嬢として「賞味期限切れ」の烙印を押されてしまった赤毛の少女は、それでも友人であるエヴァリーンの未来を案じていた……もはやこれ、百合なのでは? そういう読み口でした。

 なんやかんやあった末にふたりとも寵姫として選ばれるワケですが、共通の友人であるグレーテはほとんど掘り下げられないまま他国への輿入れが決まった。もうちょっと出番あるかと思ったので少し残念。巻末の章「四番目と五番目」で更に愛妾おかわりとなるが、四番目(アーデルハイド)は不本意な婚姻を避けるための形だけの愛妾、五番目(ロッティ)は「女学校へ放り込まれたくないから」という理由での緊急避難的な愛妾化。ロッティはルドヴィークの義妹ですが、母親の再婚相手の連れ子なので血の繋がりはありません。

 なんとこの1冊だけで4人ものヒロインが楽園(ハレム)入り。あまりにも爆速すぎる。このへん、もっと巻数かけて書きたかったのではないだろうか……「家族がふえるよ!」「やったねルドちゃん!」な展開に胸の痛みを抑え切れず、カテリナは「わたしの役目は終わったので、実家に帰ります」という置き手紙を残して失踪。果たして彼女が決して手に入らない「七番目」だったのか? だとすると「六番目」は何なのか? いよいよ物語は最大の謎へ向かって突き進んでいきます。

 

「カテリナ王妃が、僕の七番目なのか?」

 青い髪の少女が答える。

「そうとも言えるし、そうでないとも言える」

「国王様と楽園の花嫁たち」

 4冊目にして最終巻。これまで散々引っ張ってきた「七番目」や、カテリナの言う「あのかた」がようやく登場します。先に言っておきますが「あのかた=七番目」ではありません。置き手紙を残して城から姿を消したカテリナ王妃――ルドヴィークは周囲の反対を振り切って大雪の中、彼女を追いかけに飛び出す(単身ではなく一応供は連れている)。カテリナは「決して手に入らない七番目」なのか? 不安に苛まれながら、ようやく彼女のところまで辿り着くが……。

 狂言回しのような役割を演じてきた「青い髪の少女」が上記引用部の如く『サムライ8』語録めいた事を言いながら、遂に核心へ切り込んでいく。「七番目を得るには、他のすべてを捨てなければならない。それが七番目を得るただひとつの方法だ」 絶対に手に入らないと強調してきたのに、ここに来て言い回しがちょっと変わった。結局、「七番目」って何なのさ? 引っ張り続けてきた謎の答えがやっと明かされるワケですが、まぁ、だいたいの人が予想した通りの内容というか……そんなにビックリするようなアンサーではありません。これまでに比べファンタジー色が一気に強くなるが、1巻目の時点で「これは伏線だろうな」って描写があったし、特に意外性とかはない。ついでに「青い髪の少女」の正体とおぼしきモノも仄めかされるが、これに関しては「ああ、そうなの」ぐらいの感覚。200ページくらいでシリーズとして書くべき事は全て書き終えたので、残りの数十ページはエピローグのようなもんです。それがハッピーエンドかどうかだなんて、わざわざ言う必要があるでしょうか? これは「幸せなハーレム」をテーマにスタートしたシリーズなんですよ、当然超絶ウルトラミラクルハッピーエンドです。ちなみにサブカップルも誕生していてなかなか笑えます。

 

 まとめ。「幸せなハーレム」を目指したファンタジーという事で読後感は爽やかだったが、ドタバタ喜劇をベースにお伽噺めいた雰囲気に仕上げたせいもあって、ちょっと噛み合わなさ・刺激の足らなさも感じる「惜しい」シリーズだった。刊行当時もそれほど売れなかったのか、明らかに巻数が短縮されたようなムードが漂っている。四番目と五番目、つまりアーデルハイドとロッティは露骨に割を食ってる印象だな……本当はそれぞれに1巻ずつ割いて、完結後に後日談風の短編集も1冊出して、全体で計7巻くらいにしたかったんじゃないだろうか。庶民の主人公がいきなり王様に! そして楽園(ハレム)建造計画へ! というコンセプトそのものは面白かったのだが、正直1巻目が微妙で、2巻、3巻と徐々に盛り上がってきた……ってところで駆け足になってしまうのが残念。元庶民なのを活かしてお忍びで行動し、悪事の尻尾を掴まえて「余の顔を見忘れたか?」する『暴れん坊将軍』チックなあたりも個人的に好みでした。サブキャラはグレーテちゃんが出番少ないながらもイイ味出していたのに対し、メイドのリタは完全にミーネの引き立て役になっていてイイとこナシだったな……そして12歳のバウラちゃん、惹かれていた男を母親(未亡人)に盗られて脳が破壊される展開はライトノベルだとなかなか見ない展開で、そこは素晴らしかったと思います。少女を天使だなんだと持て囃すカタブツも熟れた体を持て余す豊満な未亡人にあっさり篭絡されてしまう、この変なリアリティが好きです。

・拍手レス。

 「ヴァンパイア十字界」は青春の一作ですね。
  続き//久しぶりに本棚から出して読みました。相変わらずおもしろいです。しかし伝奇モノかと思っtte宇宙人出て来るのは卑怯っすよね?
 訂正//しかし伝奇モノかと思って読んでたのに宇宙人出て来るのは卑怯っすよね?

 最近アニメになった『PSYREN -サイレン-』とはまた違った感じでストーリーが二転三転するのが面白いですよね。いきなり宇宙人が出てくるのは、強いて言えば「セイバーハーゲン」の名前が伏線と言えなくもない、かな……。(元ネタは『バーサーカー赤方偏移の仮面』のフレデリック・セイバーヘーゲン)


2026-10-08.

・「ヴァンパイア十字界」2027年にTVアニメ化 内田雄馬&島田愛野が出演(コミックナタリー)

 ヴァ、『ヴァンパイア十字界』のアニメ化!?!? 今は令和やぞ!? と仰天したニュースです。『ヴァンパイア十字界』は『スパイラル〜推理の絆〜』、『絶園のテンペスト』、『虚構推理』など数々のアニメ化作品の原作を手掛けてきた「城平京」による漫画作品(作画担当は「木村有里」)なんですが、連載時期は2003年から2007年にかけて……連載開始どころか、連載終了から数えてもそろそろ20年近く経過する作品なんです。先月『ヴァンパイア十字界 犬には犬の歌』という新連載がスタートすると聞いて「もしかして……」とは思いましたが、マジでアニメ化とはな……今年、あまりにも「“幻想(ユメ)”じゃねえよな…!?」案件が多すぎる。

 謎解き要素ありのバトル系ファンタジーといった趣で、主人公は「ローズレッド・ストラウス」という名の吸血鬼。彼はかつて「夜の国」と呼ばれるヴァンパイアの国の王だったが、1000年前に何かがあって「夜の国」は滅亡している。「夜の国」はなぜ滅んだのか? そしてストラウスは何のために亡国から1000年経った今も戦い続けているのか? 「流れから察するにこういう話かな?」という予想が幾度も裏切られ、「真相」が二転三転するスリリングな作品です。全9巻と、アニメ化する漫画にしては「やや短い」って印象を受けるかもしれないが、「上・中・下巻の読み応えたっぷりな小説をコミカライズした感じ」をイメージしてもらえるとわかりやすいかも。

 2クールあれば綺麗に収まりそうだが、まぁ現実的に考えて1クール構成かな。仮に2クール構成だとしても分割になるでしょう。20年も経ってアニメ化されるぐらいなのでメチャクチャ面白い事は確かなんですが、問題は「序盤があまり盛り上がらない」点なんですよね……「黒き白鳥(ブラックスワン)」や「腐蝕の月光」といった謎めいたワードが出てきて初見読者からすると「???」ってよくわからないまま進行していくし、正直バトルシーンの描写もちょっと安っぽい。評価は高いのにアニメ化まで至らなかった事情の一つだと思います。逆に言えば、そのへんをアニメ独自の脚色でカバーできれば大きく跳ねる……かもしれません。

・庵野秀明が製作総指揮・監督、出渕裕が共同監督「宇宙戦艦ヤマト√2199」制作決定(コミックナタリー)

 情報が公開された途端、案の定「シン・ヤマト」という言葉が飛び交いましたね。というワケで「庵野秀明」と「出渕裕」による『宇宙戦艦ヤマト』の劇場長編アニメーションが制作決定です。実写映画ではありません。私も一瞬「『SPACE BATTLESHIP ヤマト』の精神的続編かな?」とはちょっと思ってしまいましたが。庵野監督、実写ヤマトの艦デザイン自体は気に入っているそうです。

 記事に「庵野は「宇宙戦艦ヤマト」に多大な影響を受けて育ったと語っており」と書かれているが、これはリップサービスではなく本当の事で、過去のインタビュー記事で何度も言及しています。当時はビデオがなかったのでカセットテープで音だけ録って、繰り返し何度も聞いていたらしい。特に波動砲の発射シークエンスは完璧に暗記しており、若い頃には挨拶感覚でしょっちゅう暗誦していたという真偽不明の噂も囁かれている。エヴァンゲリオンでオペレーターたちのセリフが大量に用意されているのも完全にヤマトの影響です。

 しかし、シン・ゴジラ、シン・ウルトラマン、シン・仮面ライダー、実質的なシン・ガンダム(ジークアクス)とやってきて、実質的なシン・ヤマトもやるとなったら、もう残るのはシン・ナウシカとシン・マクロスぐらいか。個人的に観てみたいのは『シン・ブルークリスマス』ですね。

・阿津川辰海の『デッドマンズ・チェア』読んだ。

 「コトダマ犯罪調査課」シリーズ第2弾。『バーニング・ダンサー』の続編です。「コトダマ」という、メチャクチャ平たく書いてしまうとJOJOの「スタンド」とかH×Hの「念能力」みたいな異能が実在する世界を舞台に、コトダマを持った刑事たちが「コトダマ犯罪者」を取り締まる異色の警察小説。異能バトル&謎解きミステリといった趣で、JOJOやH×H、あと『嘘喰い』や『ガス灯野良犬探偵団』を彷彿とさせる読み口だ。

 先に書いておきますが、この「コトダマ犯罪調査課」シリーズは巻ごとの「個別ストーリー」とは別にシリーズを通じて進行する「全体ストーリー」があり、シリーズ順に読まないと「重大なネタバレ」を踏んでしまう事になります。「1作目のあらすじは面白くなさそうだったので、飛ばして2作目から読み出した」なんていう変則的な読み方をした場合、「やっぱ1作目から読んだ方がよかった……」と後悔するかもしれません。そこは注意してください。

 発端は小さな事件だった――落ちていたスズメや鳩の死体に矢傷のようなものが観測された、という程度の。当初は「クロスボウを不法所持している人物の動物虐待事案」として捜査を開始するが、同様の傷を負った鴉の死体が発見され、「徐々にターゲットが大きくなってきている……」と警察官たちは不安を募らせる。この犯人はやがて人間も狙うようになるのではないか? コトダマの中には「射る」という「光るエネルギー体のようなものを射出する」狙撃にうってつけな能力があり、現場に矢の類が残っていない事実と照らし合わせ、犯人が「コトダマ使い」である可能性は高まっていた。事件を捜査するため横浜の山下公園にやってきた警視庁公安部第五課、通称「コトダマ犯罪調査課」(またの名を「SWORD」、「Spirits of WOrd Research Division」の略)の刑事「永瀬スバル」は、そこで人の死体と遭遇する。狙撃犯、符牒「未詳12号」が遂に人を殺したのか? しかし死体を検分し、気付いた。「――手口が違う」 明らかに矢傷ではなく、首の骨を折られた事が死因だった。どういう事だ? この公園には狙撃犯とは別の殺人者がうろついていたのか?

 一方、永瀬の同僚である「小鳥遊沙雪」は山下公園で出会った少女「楊美鈴(ヤン・メイリン)」とその連れ「李天祐(リー・ティエユウ)」とともに逃避行を繰り広げていた。美鈴と李は愛し合う仲ながら、それを美鈴の父に認めてもらえず上海から駆け落ちしてきたらしい。美鈴の父「楊崩(ヤン・ホウ)」はコトダマ使いによって構成されるマフィア集団、通称「楊会」を率いており、追っ手として何人かのコトダマ使いが差し向けられているという。横浜の地で、SWORDとコトダマフィアが激突しようとしていた……!

 前作以上に異能バトルの様相が強くなっており、脳内でコミカライズしながら読み進めました。結論から言いましょう。「前作より面白かった」と。前作『バーニング・ダンサー』は正直、警察小説っぽい捜査パートと異能バトル的なアクションパートがうまく接合しておらず、ちょっとチグハグな印象でした。設定の面白さと作者の筆力、あと「意外な真相」で押し切っていたものの、鍋にブチ込んだ様々な材料がうまく調和していたとは言い難い面もあった。2作目である本書はそのへんがブラッシュアップされ、謎解きミステリの部分と異能バトルの要素がうまく溶け合っている。それでもなお一部浮いているところはありますし、真相の一端も「それでいいのか?」と疑問を抱く箇所はありますが、確実に1作目より進歩しています。

 このシリーズの面白いポイントは、「各コトダマの概要だけ判明していて詳細が不明なので、そのへんを巡って情報戦や頭脳戦の余地がある」ってところですね。コトダマは2年前、某国に落ちた隕石がもたらしたもので、全世界に広まっているもののまだあまり研究が進んでいない。コトダマの一つ「知る」の使い手がコトダマに関するルールを把握し、それを各国語向けに書き残しているので、「コトダマは一つにつき使い手は一人きりで重複しない」「コトダマは使い手が死ぬまで保持される」「使い手が死ぬとコトダマは別の誰かに受け継がれる、誰に受け継がれるかはランダムで予測不可能」といった総則が判明しています。そして「地球に降り立ったコトダマは100個」として、具体的に100個全部を列挙している。具体的にどういう能力は不明ながら、大まかにその能力の名称と特徴は明かされているのだ。例えばあらすじで述べた永瀬スバルのコトダマは「入れ替える」、A地点にあるモノとB地点にあるモノの位置を一瞬で入れ替える事が出来る。ただしコトダマにはいくつかの制約があり、作中においてそのへんを「限定条件」と呼んでいます。「入れ替える」の場合だと、「肉眼で視認が必要、物陰に隠れているモノなどと入れ替える事は出来ない」「発動時にトリガーとして指を鳴らす必要がある」などが限定条件だ。美鈴を上海に連れ帰ろうとしている楊会の追っ手たちも厄介なコトダマを使ってSWORDの面々を苦しめるが、何かしら限定条件があるハズなのでそこを起点に攻略していくわけです。

 この限定条件はルールブックで明かされているワケではなく、各自それぞれ探っていくしかないワケですが、「俺のコトダマはこういう能力で、限定条件は〇〇」と説明してもそれが正しいとは限らないんですよね。能力を偽っている可能性や、限定条件がデタラメの可能性もある。バトルの際はそうした腹の探り合いが発生するからワクワクします。「妙だと思ったんだ。限定条件が〇〇なら、あの時の行動に説明がつかない」「くっ……!」「そう、お前のコトダマが持つ真の限定条件は――××だ!」 こんなん男の子なら誰でも好きでしょ。

 「SWORD危うし!」な展開の連続で、グイグイと読ませます。尺的にアニメ化やドラマ化は難しいだろうが、是非ともコミカライズ化して欲しいな、と思いました。「真相」は割と予想の範囲内ではあったが、クライマックスの畳み掛けが凄まじい。この「コトダマ犯罪調査課」シリーズは海外作家「ジェフリー・ディーヴァー」にオマージュを捧げており、タイトルがどことなく「リンカーン・ライム」シリーズっぽい(『バーニング・ダンサー』→『コフィン・ダンサー』、『デッドマンズ・チェア』→『エンプティー・チェア』)のもわざとだそうです。今回のタイトル『デッドマンズ・チェア』はそのまんま「死者の椅子」という意味。死者の椅子とは何なのか? それは最後まで読めばわかります。

 個別ストーリーは今巻内で決着するものの、「全体ストーリー」は次巻に持ち越しとなる。早ければ次巻で決着して「三部作・完」になるかもしれないが、100個あるコトダマ全部を出すつもりなら十部作ぐらいになるかもしれないな……「というか、『全世界で100個』なのに事件の舞台が1作目も2作目も日本なの、御都合主義じゃない?」って疑問を抱く人もいるでしょう。ちょいネタバレなので直接読むつもりの方は以降を飛ばして欲しいが、コトダマの中には「偏る」というものがあり、これによって確率を操作して「コトダマ使いが日本に集まる」ようになっている可能性が高い。そもそも、「コトダマは日本語がベースになって生まれた」という説もある。果たして全体ストーリーで「コトダマそのものの謎」へ切り込んでいくのか否か。今はただ続刊を待つしかありませぬ。


2026-10-05.

・声優・矢口アサミさんが逝去。アニメ『たまごっち』くちぱっち役や『銀魂』坂田銀時(幼少)役、『BLACK LAGOON』ソーヤー役などを担当(電ファミニコゲーマー)

 矢口アサミさんって……エレオノーレ・フォン・ヴィッテンブルグの声優じゃないですか! 突然の訃報で呆然とした。当然、御門龍明の役も担当されています。もう神座関連の新作が出ても別の声優を起用するしかないのか……Diesの07年版から20年近く経つし、「こういう事もある」としか言いようがないけれど、素直にショックだ。どうか安らかに。

・「満州アヘンスクワッド」新体制で連載再開&アニメ化決定、ヤンマガWebで無料公開中(コミックナタリー)

 新体制で復活、というニュースに歓喜したのも束の間、まさかのアニメ化決定でビックリだ。『満州アヘンスクワッド』は2020年から「コミックDAYS」で連載開始したWeb漫画だったが、人気の広まりによって翌年2021年から「ヤングマガジン」、つまり紙雑誌に移籍。順調に巻を重ねていったが、作画を担当していた「鹿子」が病気により逝去。当然ながら連載は休止となります。「作画担当を変更して新体制で連載を再開する予定」という旨は告げられていたがなかなか続報がなく気を揉んでいたところ先日「ツルシマ」の作画により再開するとの報せが舞い込んできた。これに喜んだ矢先の「アニメ化決定」だったんで驚いたワケです。

 ストーリーは昭和12年(西暦1937年)から始まる。舞台はタイトル通りの満州国。関東軍の「日方勇」は軍務の最中に右眼を負傷し、「もう兵士としては使えない」という理由で後方に回され農場でこき使われる身となった。類稀な嗅覚を持つ勇は、農場の片隅にこっそりアヘンの原料となるケシを栽培している区画がある事を嗅ぎつける。ペストに罹患した母を救うため金が必要だからと、アヘン製造に手を染める勇だったが、薬学知識のある彼が作ったアヘンは非常に質が高く――「これは間違いなく売れる」と確信したチャイニーズ・マフィアのヒロインと手を組み、大陸の暗部に君臨する「闇のエンペラー」としてのし上がっていく。クライム系の歴史ロマンです。関東軍云々、満州云々と史実要素が混ざっているためお堅い印象を受けるかもしれませんが、読み口としては『プロジェクトX』&『ミスター味っ子』といったところ。のし上がっていく過程で当然「商売敵」が次々と立ちはだかってくるのですが、「このままじゃダメだ……もっと中毒性の高いアヘンを作らないと!」と奮起するノリが「邪悪な料理漫画」のテイストなんですよね。審査員にマジックマッシュルームを出した秋山醤もドン引きするレベル。料理バトルみたいなノリでアヘンバトルを繰り広げ、「改良に改良を重ね……試行錯誤の末、遂に新しいアヘンが完成した!」というストーリーは、モノがアヘンじゃなければ感動間違いナシです。

 ヒロインの「麗華」が実在する上海マフィア「杜月笙」の娘という設定だったりと、歴史に興味がある人なら引き込まれる要素もいくつかあるが、歴史知識がなくても充分楽しめる内容に仕上がっている。プロローグで「ラストエンペラー」溥儀の妻「婉容」について触れているが、婉容が亡くなったのは1946年なので、概ね終戦のあたりで話が終わるんじゃないかと予想しています。本編では婉容、まだ登場すらしていないので、ストーリーにどう絡んでくるのかよくわからないのだけれども……。

・竜胆マサタカの『災禍級魔術師は運命(サイコロ)を砕く1』読んだ。

 副タイトルは「ゲーム世界に転生して破滅エンド回避を目指していたら、原作キャラ達から執着された件」、ほぼこの通りの内容です。作者の「竜胆マサタカ」は去年『悪魔の剣で天使を喰らう』で書籍デビューした人だが、そっちの方はよく知らない。災禍級〜も別の本買う際に平台で見かけてつい買ってしまった、というだけで別段発売前から注目していたワケじゃないです。なんとなく買った本がそこそこ好みだった、その程度の話。

 7つの国が争う「シャイア」という大地――そこが「生前」にゲームで見知った世界である事を、屍体漁り(スカベンジャー)の少年「ジャック・リンカー」に転生した「彼」は思い出した。「フレアエルド」と呼ばれる大陸を舞台にしたRTS(リアルタイムストラテジー)のゲームシリーズ『フレアエルド戦記』、シリーズ1作目よりも更に前の時系列に位置する外伝で「すべての国が滅ぶ」とされている大陸、それこそがシャイアである。外伝は新暦90年からスタートするゲームであり、前世の記憶を取り戻したのは新暦85年。あと5年以内に手を打たねば、大陸諸共死ぬ運命にあった。「シャイアが滅んだ」というのが「正史」である以上、滅亡の回避は困難だが、実のところ不可能ではない。外伝には滅亡を回避する「トゥルールート」が存在する。難易度の高さゆえ生前は到達できなかったが、攻略wikiで読んだ「トゥルーに到達するための条件」は覚えている。乏しい魔術の才能を現代知識で埋め合わせ、「災禍級魔術師」として名を馳せ滅亡回避のRTAに勤しむジャックだったが、女心に疎すぎる彼は気付いてなかった。自分の振る舞いが「ヤバい女たち」のハートを射抜きまくっている事を……。

 てなワケで、「無自覚な行動によって重たいヒロインたちの執着を招き寄せる」という、最近流行ってるのかそうでもないのかよくわからないジャンルに属する1冊です。基本的な読み口はまぁ、ありがちな「ゲーム世界に転生して破滅的なエンドを回避しようと奔走するファンタジー」なんだが。「大陸ごと滅ぶってんなら、何とか金を稼いで別大陸(フレアエルドとか)に逃げればいいのでは?」という疑問が湧くが、そのへんに関しては1巻の時点ではよくわからなかった。何かこの大陸から脱出できない事情でもあるのか? 一応、「生前の主人公が一番やり込んだのは本編ではなく外伝」「外伝は本編に比べて規模が小さいので、『個人が大局に影響を及ぼす』余地がある」といった事情もあるにはあるが、深く考えずに読んだ方がよさそうです。

 「7つの国」をざっくり説明すると、まず主人公が前世の記憶を取り戻した時に居た場所が「ヴェイル王国」、かつてはシャイアを二分する勢力の一つだったが、冷遇されていた王子と王女が騎士団を率いて叛旗を翻し、賛同した北部の山岳地帯が独立してしまったため落ち目になっている封建国家、人口30万で国力は4位。その「旧ヴェイル王国から独立した北部山岳地帯」が「カタリナ騎国」、新興国家なので人口10万・国力7位とドン尻だが勢いはある。このふたつと国境を接している森林地帯の国が「森羅衆」、エルフではないが「エルフみたいなもの」をイメージしてもらえるとわかりやすい、王国ではなく宗教国家で「精霊」なる目に見えぬ概念が信仰対象、人口15万で国力5位。大陸の中心に位置し、かつて旧ヴェイル王国と覇を競っていたシャイア最大の国家が「イシドゥラ」、人口150万で国力1位だが、ゲーム開始時(つまり新暦90年)に隕石が落ちてきて壊滅的な被害を受け混乱の時代が始まる。イシドゥラの北西に位置する資本主義国家が「ルルジフ」で、イメージ的には「ドワーフの国」(念のため書いておくと、本書にいわゆる「亜人」は出て来ない)、人口12万で国力6位。残りの2国は1巻の時点だとあまりストーリーに絡んでこないが、唯一の共和制国家「キスレイン共和国」(人口50万・国力2位)と医療大国「ケテルネック」(人口40万・国力3位)。国力順に並べると

 イシドゥラ>キスレイン>ケテルネック>ヴェイル>森羅衆>ルルジフ>カタリナ

 ってなります。主人公はまずヴェイルで記憶を取り戻すが、「ヴェイルは戦災孤児が成り上がれるような国ではない」と判断し、2年半ほど修行に時間を費やした後で出国。戸籍が管理されていないのか、割と簡単に出入国できる感じです(閉鎖的な印象の森羅衆とかはまた別だろうが)。で、まず向かうのは資本主義国家であり製造業の盛んなルルジフ。ここで自身が成り上がるために必要な「得物」を職人に作らせようと画策する。その過程で賊に襲われかけていた女性「ウラハ・イスルギ」を助けるのだが、彼女はゲームで活躍するネームドキャラの一人。面識を得たのは幸いだったが、厄介な事にウラハは主人公に執着して徐々に「重たい女」へ変貌していく……と、こんな具合に行く先々で女を惚れさせ、ゲームのストーリーを捻じ曲げていく流れになります。「ひょっとしてシャイア、滅亡を何とか回避できたとしてもジャック周りの修羅場で壊滅しちゃうんじゃない?」と思ってしまう。表紙に3人の女性が映っているが、これ以外にもあと3人くらいに惚れられる。この調子で進むと「ジャック争奪戦」に参加するヒロインは10人前後になるんじゃないかな……なお数が多い分、個々の「惚れる過程」がちょっと弱いかな、と感じる欠点はあります。

 主人公が「災禍級」と呼ばれるチート魔術で無双して成り上がっていく点では「よくあるチーレム物」なんだが、あんまり性欲とかはなさそうでエッチなサービスシーンは……ありません。一部、「ひょっとして男女の関係なのでは?」と窺わせる描写もあるが、ハッキリとは書いていない。今のところ可愛いのは語尾が「ござる」の行き倒れサムライガール、「カザマ・フジイロ」ですね。「ござ?」「ござぁ」「ござ!」と「ござ」のバリエーションで感情表現するのは正直くだらなすぎて笑ってしまった。ふざけているけど、いざジャックに危害が加えられそうになると無言で相手の首を斬り落とそうとする(間一髪ジャックが止める)など、この子もなかなかに重たい子である。

 まとめ。メンタルがヘヴィな子がいっぱい出てくるラノベが読みたい、という人にはオススメの1冊。ただし1巻ではあまりストーリーが進行せず、ゲーム本編開始時点どころか一番最初に出てくる「序」のシーンにすら辿り着かない。「無事に第2巻の刊行が決定いたしました」と報告しているので最低2巻までは出るハズだが、3巻以降はどうなるかわからない。ぶっちゃけ「完結するまで待ってからまとめて買う」のが一番安全です。一応「カクヨム」に掲載されているWEB版は今年完結したんで、売上さえ良ければ最後まで刊行されるでしょう。「早く最後まで読ませてくれ!」 私の願いはそれだけです。



管理人:焼津