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2026-10-08.・「ヴァンパイア十字界」2027年にTVアニメ化 内田雄馬&島田愛野が出演(コミックナタリー)
ヴァ、『ヴァンパイア十字界』のアニメ化!?!? 今は令和やぞ!? と仰天したニュースです。『ヴァンパイア十字界』は『スパイラル〜推理の絆〜』、『絶園のテンペスト』、『虚構推理』など数々のアニメ化作品の原作を手掛けてきた「城平京」による漫画作品(作画担当は「木村有里」)なんですが、連載時期は2003年から2007年にかけて……連載開始どころか、連載終了から数えてもそろそろ20年近く経過する作品なんです。先月『ヴァンパイア十字界 犬には犬の歌』という新連載がスタートすると聞いて「もしかして……」とは思いましたが、マジでアニメ化とはな……今年、あまりにも「“幻想(ユメ)”じゃねえよな…!?」案件が多すぎる。
謎解き要素ありのバトル系ファンタジーといった趣で、主人公は「ローズレッド・ストラウス」という名の吸血鬼。彼はかつて「夜の国」と呼ばれるヴァンパイアの国の王だったが、1000年前に何かがあって「夜の国」は滅亡している。「夜の国」はなぜ滅んだのか? そしてストラウスは何のために亡国から1000年経った今も戦い続けているのか? 「流れから察するにこういう話かな?」という予想が幾度も裏切られ、「真相」が二転三転するスリリングな作品です。全9巻と、アニメ化する漫画にしては「やや短い」って印象を受けるかもしれないが、「上・中・下巻の読み応えたっぷりな小説をコミカライズした感じ」をイメージしてもらえるとわかりやすいかも。
2クールあれば綺麗に収まりそうだが、まぁ現実的に考えて1クール構成かな。仮に2クール構成だとしても分割になるでしょう。20年も経ってアニメ化されるぐらいなのでメチャクチャ面白い事は確かなんですが、問題は「序盤があまり盛り上がらない」点なんですよね……「黒き白鳥(ブラックスワン)」や「腐蝕の月光」といった謎めいたワードが出てきて初見読者からすると「???」ってよくわからないまま進行していくし、正直バトルシーンの描写もちょっと安っぽい。評価は高いのにアニメ化まで至らなかった事情の一つだと思います。逆に言えば、そのへんをアニメ独自の脚色でカバーできれば大きく跳ねる……かもしれません。
・庵野秀明が製作総指揮・監督、出渕裕が共同監督「宇宙戦艦ヤマト√2199」制作決定(コミックナタリー)
情報が公開された途端、案の定「シン・ヤマト」という言葉が飛び交いましたね。というワケで「庵野秀明」と「出渕裕」による『宇宙戦艦ヤマト』の劇場長編アニメーションが制作決定です。実写映画ではありません。私も一瞬「『SPACE BATTLESHIP ヤマト』の精神的続編かな?」とはちょっと思ってしまいましたが。庵野監督、実写ヤマトの艦デザイン自体は気に入っているそうです。
記事に「庵野は「宇宙戦艦ヤマト」に多大な影響を受けて育ったと語っており」と書かれているが、これはリップサービスではなく本当の事で、過去のインタビュー記事で何度も言及しています。当時はビデオがなかったのでカセットテープで音だけ録って、繰り返し何度も聞いていたらしい。特に波動砲の発射シークエンスは完璧に暗記しており、若い頃には挨拶感覚でしょっちゅう暗誦していたという真偽不明の噂も囁かれている。エヴァンゲリオンでオペレーターたちのセリフが大量に用意されているのも完全にヤマトの影響です。
しかし、シン・ゴジラ、シン・ウルトラマン、シン・仮面ライダー、実質的なシン・ガンダム(ジークアクス)とやってきて、実質的なシン・ヤマトもやるとなったら、もう残るのはシン・ナウシカとシン・マクロスぐらいか。個人的に観てみたいのは『シン・ブルークリスマス』ですね。
・阿津川辰海の『デッドマンズ・チェア』読んだ。
「コトダマ犯罪調査課」シリーズ第2弾。『バーニング・ダンサー』の続編です。「コトダマ」という、メチャクチャ平たく書いてしまうとJOJOの「スタンド」とかH×Hの「念能力」みたいな異能が実在する世界を舞台に、コトダマを持った刑事たちが「コトダマ犯罪者」を取り締まる異色の警察小説。異能バトル&謎解きミステリといった趣で、JOJOやH×H、あと『嘘喰い』や『ガス灯野良犬探偵団』を彷彿とさせる読み口だ。
先に書いておきますが、この「コトダマ犯罪調査課」シリーズは巻ごとの「個別ストーリー」とは別にシリーズを通じて進行する「全体ストーリー」があり、シリーズ順に読まないと「重大なネタバレ」を踏んでしまう事になります。「1作目のあらすじは面白くなさそうだったので、飛ばして2作目から読み出した」なんていう変則的な読み方をした場合、「やっぱ1作目から読んだ方がよかった……」と後悔するかもしれません。そこは注意してください。
発端は小さな事件だった――落ちていたスズメや鳩の死体に矢傷のようなものが観測された、という程度の。当初は「クロスボウを不法所持している人物の動物虐待事案」として捜査を開始するが、同様の傷を負った鴉の死体が発見され、「徐々にターゲットが大きくなってきている……」と警察官たちは不安を募らせる。この犯人はやがて人間も狙うようになるのではないか? コトダマの中には「射る」という「光るエネルギー体のようなものを射出する」狙撃にうってつけな能力があり、現場に矢の類が残っていない事実と照らし合わせ、犯人が「コトダマ使い」である可能性は高まっていた。事件を捜査するため横浜の山下公園にやってきた警視庁公安部第五課、通称「コトダマ犯罪調査課」(またの名を「SWORD」、「Spirits of WOrd Research Division」の略)の刑事「永瀬スバル」は、そこで人の死体と遭遇する。狙撃犯、符牒「未詳12号」が遂に人を殺したのか? しかし死体を検分し、気付いた。「――手口が違う」 明らかに矢傷ではなく、首の骨を折られた事が死因だった。どういう事だ? この公園には狙撃犯とは別の殺人者がうろついていたのか?
一方、永瀬の同僚である「小鳥遊沙雪」は山下公園で出会った少女「楊美鈴(ヤン・メイリン)」とその連れ「李天祐(リー・ティエユウ)」とともに逃避行を繰り広げていた。美鈴と李は愛し合う仲ながら、それを美鈴の父に認めてもらえず上海から駆け落ちしてきたらしい。美鈴の父「楊崩(ヤン・ホウ)」はコトダマ使いによって構成されるマフィア集団、通称「楊会」を率いており、追っ手として何人かのコトダマ使いが差し向けられているという。横浜の地で、SWORDとコトダマフィアが激突しようとしていた……!
前作以上に異能バトルの様相が強くなっており、脳内でコミカライズしながら読み進めました。結論から言いましょう。「前作より面白かった」と。前作『バーニング・ダンサー』は正直、警察小説っぽい捜査パートと異能バトル的なアクションパートがうまく接合しておらず、ちょっとチグハグな印象でした。設定の面白さと作者の筆力、あと「意外な真相」で押し切っていたものの、鍋にブチ込んだ様々な材料がうまく調和していたとは言い難い面もあった。2作目である本書はそのへんがブラッシュアップされ、謎解きミステリの部分と異能バトルの要素がうまく溶け合っている。それでもなお一部浮いているところはありますし、真相の一端も「それでいいのか?」と疑問を抱く箇所はありますが、確実に1作目より進歩しています。
このシリーズの面白いポイントは、「各コトダマの概要だけ判明していて詳細が不明なので、そのへんを巡って情報戦や頭脳戦の余地がある」ってところですね。コトダマは2年前、某国に落ちた隕石がもたらしたもので、全世界に広まっているもののまだあまり研究が進んでいない。コトダマの一つ「知る」の使い手がコトダマに関するルールを把握し、それを各国語向けに書き残しているので、「コトダマは一つにつき使い手は一人きりで重複しない」「コトダマは使い手が死ぬまで保持される」「使い手が死ぬとコトダマは別の誰かに受け継がれる、誰に受け継がれるかはランダムで予測不可能」といった総則が判明しています。そして「地球に降り立ったコトダマは100個」として、具体的に100個全部を列挙している。具体的にどういう能力は不明ながら、大まかにその能力の名称と特徴は明かされているのだ。例えばあらすじで述べた永瀬スバルのコトダマは「入れ替える」、A地点にあるモノとB地点にあるモノの位置を一瞬で入れ替える事が出来る。ただしコトダマにはいくつかの制約があり、作中においてそのへんを「限定条件」と呼んでいます。「入れ替える」の場合だと、「肉眼で視認が必要、物陰に隠れているモノなどと入れ替える事は出来ない」「発動時にトリガーとして指を鳴らす必要がある」などが限定条件だ。美鈴を上海に連れ帰ろうとしている楊会の追っ手たちも厄介なコトダマを使ってSWORDの面々を苦しめるが、何かしら限定条件があるハズなのでそこを起点に攻略していくわけです。
この限定条件はルールブックで明かされているワケではなく、各自それぞれ探っていくしかないワケですが、「俺のコトダマはこういう能力で、限定条件は〇〇」と説明してもそれが正しいとは限らないんですよね。能力を偽っている可能性や、限定条件がデタラメの可能性もある。バトルの際はそうした腹の探り合いが発生するからワクワクします。「妙だと思ったんだ。限定条件が〇〇なら、あの時の行動に説明がつかない」「くっ……!」「そう、お前のコトダマが持つ真の限定条件は――××だ!」 こんなん男の子なら誰でも好きでしょ。
「SWORD危うし!」な展開の連続で、グイグイと読ませます。尺的にアニメ化やドラマ化は難しいだろうが、是非ともコミカライズ化して欲しいな、と思いました。「真相」は割と予想の範囲内ではあったが、クライマックスの畳み掛けが凄まじい。この「コトダマ犯罪調査課」シリーズは海外作家「ジェフリー・ディーヴァー」にオマージュを捧げており、タイトルがどことなく「リンカーン・ライム」シリーズっぽい(『バーニング・ダンサー』→『コフィン・ダンサー』、『デッドマンズ・チェア』→『エンプティー・チェア』)のもわざとだそうです。今回のタイトル『デッドマンズ・チェア』はそのまんま「死者の椅子」という意味。死者の椅子とは何なのか? それは最後まで読めばわかります。
個別ストーリーは今巻内で決着するものの、「全体ストーリー」は次巻に持ち越しとなる。早ければ次巻で決着して「三部作・完」になるかもしれないが、100個あるコトダマ全部を出すつもりなら十部作ぐらいになるかもしれないな……「というか、『全世界で100個』なのに事件の舞台が1作目も2作目も日本なの、御都合主義じゃない?」って疑問を抱く人もいるでしょう。ちょいネタバレなので直接読むつもりの方は以降を飛ばして欲しいが、コトダマの中には「偏る」というものがあり、これによって確率を操作して「コトダマ使いが日本に集まる」ようになっている可能性が高い。そもそも、「コトダマは日本語がベースになって生まれた」という説もある。果たして全体ストーリーで「コトダマそのものの謎」へ切り込んでいくのか否か。今はただ続刊を待つしかありませぬ。
2026-10-05.・声優・矢口アサミさんが逝去。アニメ『たまごっち』くちぱっち役や『銀魂』坂田銀時(幼少)役、『BLACK LAGOON』ソーヤー役などを担当(電ファミニコゲーマー)
矢口アサミさんって……エレオノーレ・フォン・ヴィッテンブルグの声優じゃないですか! 突然の訃報で呆然とした。当然、御門龍明の役も担当されています。もう神座関連の新作が出ても別の声優を起用するしかないのか……Diesの07年版から20年近く経つし、「こういう事もある」としか言いようがないけれど、素直にショックだ。どうか安らかに。
・「満州アヘンスクワッド」新体制で連載再開&アニメ化決定、ヤンマガWebで無料公開中(コミックナタリー)
新体制で復活、というニュースに歓喜したのも束の間、まさかのアニメ化決定でビックリだ。『満州アヘンスクワッド』は2020年から「コミックDAYS」で連載開始したWeb漫画だったが、人気の広まりによって翌年2021年から「ヤングマガジン」、つまり紙雑誌に移籍。順調に巻を重ねていったが、作画を担当していた「鹿子」が病気により逝去。当然ながら連載は休止となります。「作画担当を変更して新体制で連載を再開する予定」という旨は告げられていたがなかなか続報がなく気を揉んでいたところ先日「ツルシマ」の作画により再開するとの報せが舞い込んできた。これに喜んだ矢先の「アニメ化決定」だったんで驚いたワケです。
ストーリーは昭和12年(西暦1937年)から始まる。舞台はタイトル通りの満州国。関東軍の「日方勇」は軍務の最中に右眼を負傷し、「もう兵士としては使えない」という理由で後方に回され農場でこき使われる身となった。類稀な嗅覚を持つ勇は、農場の片隅にこっそりアヘンの原料となるケシを栽培している区画がある事を嗅ぎつける。ペストに罹患した母を救うため金が必要だからと、アヘン製造に手を染める勇だったが、薬学知識のある彼が作ったアヘンは非常に質が高く――「これは間違いなく売れる」と確信したチャイニーズ・マフィアのヒロインと手を組み、大陸の暗部に君臨する「闇のエンペラー」としてのし上がっていく。クライム系の歴史ロマンです。関東軍云々、満州云々と史実要素が混ざっているためお堅い印象を受けるかもしれませんが、読み口としては『プロジェクトX』&『ミスター味っ子』といったところ。のし上がっていく過程で当然「商売敵」が次々と立ちはだかってくるのですが、「このままじゃダメだ……もっと中毒性の高いアヘンを作らないと!」と奮起するノリが「邪悪な料理漫画」のテイストなんですよね。審査員にマジックマッシュルームを出した秋山醤もドン引きするレベル。料理バトルみたいなノリでアヘンバトルを繰り広げ、「改良に改良を重ね……試行錯誤の末、遂に新しいアヘンが完成した!」というストーリーは、モノがアヘンじゃなければ感動間違いナシです。
ヒロインの「麗華」が実在する上海マフィア「杜月笙」の娘という設定だったりと、歴史に興味がある人なら引き込まれる要素もいくつかあるが、歴史知識がなくても充分楽しめる内容に仕上がっている。プロローグで「ラストエンペラー」溥儀の妻「婉容」について触れているが、婉容が亡くなったのは1946年なので、概ね終戦のあたりで話が終わるんじゃないかと予想しています。本編では婉容、まだ登場すらしていないので、ストーリーにどう絡んでくるのかよくわからないのだけれども……。
・竜胆マサタカの『災禍級魔術師は運命(サイコロ)を砕く1』読んだ。
副タイトルは「ゲーム世界に転生して破滅エンド回避を目指していたら、原作キャラ達から執着された件」、ほぼこの通りの内容です。作者の「竜胆マサタカ」は去年『悪魔の剣で天使を喰らう』で書籍デビューした人だが、そっちの方はよく知らない。災禍級〜も別の本買う際に平台で見かけてつい買ってしまった、というだけで別段発売前から注目していたワケじゃないです。なんとなく買った本がそこそこ好みだった、その程度の話。
7つの国が争う「シャイア」という大地――そこが「生前」にゲームで見知った世界である事を、屍体漁り(スカベンジャー)の少年「ジャック・リンカー」に転生した「彼」は思い出した。「フレアエルド」と呼ばれる大陸を舞台にしたRTS(リアルタイムストラテジー)のゲームシリーズ『フレアエルド戦記』、シリーズ1作目よりも更に前の時系列に位置する外伝で「すべての国が滅ぶ」とされている大陸、それこそがシャイアである。外伝は新暦90年からスタートするゲームであり、前世の記憶を取り戻したのは新暦85年。あと5年以内に手を打たねば、大陸諸共死ぬ運命にあった。「シャイアが滅んだ」というのが「正史」である以上、滅亡の回避は困難だが、実のところ不可能ではない。外伝には滅亡を回避する「トゥルールート」が存在する。難易度の高さゆえ生前は到達できなかったが、攻略wikiで読んだ「トゥルーに到達するための条件」は覚えている。乏しい魔術の才能を現代知識で埋め合わせ、「災禍級魔術師」として名を馳せ滅亡回避のRTAに勤しむジャックだったが、女心に疎すぎる彼は気付いてなかった。自分の振る舞いが「ヤバい女たち」のハートを射抜きまくっている事を……。
てなワケで、「無自覚な行動によって重たいヒロインたちの執着を招き寄せる」という、最近流行ってるのかそうでもないのかよくわからないジャンルに属する1冊です。基本的な読み口はまぁ、ありがちな「ゲーム世界に転生して破滅的なエンドを回避しようと奔走するファンタジー」なんだが。「大陸ごと滅ぶってんなら、何とか金を稼いで別大陸(フレアエルドとか)に逃げればいいのでは?」という疑問が湧くが、そのへんに関しては1巻の時点ではよくわからなかった。何かこの大陸から脱出できない事情でもあるのか? 一応、「生前の主人公が一番やり込んだのは本編ではなく外伝」「外伝は本編に比べて規模が小さいので、『個人が大局に影響を及ぼす』余地がある」といった事情もあるにはあるが、深く考えずに読んだ方がよさそうです。
「7つの国」をざっくり説明すると、まず主人公が前世の記憶を取り戻した時に居た場所が「ヴェイル王国」、かつてはシャイアを二分する勢力の一つだったが、冷遇されていた王子と王女が騎士団を率いて叛旗を翻し、賛同した北部の山岳地帯が独立してしまったため落ち目になっている封建国家、人口30万で国力は4位。その「旧ヴェイル王国から独立した北部山岳地帯」が「カタリナ騎国」、新興国家なので人口10万・国力7位とドン尻だが勢いはある。このふたつと国境を接している森林地帯の国が「森羅衆」、エルフではないが「エルフみたいなもの」をイメージしてもらえるとわかりやすい、王国ではなく宗教国家で「精霊」なる目に見えぬ概念が信仰対象、人口15万で国力5位。大陸の中心に位置し、かつて旧ヴェイル王国と覇を競っていたシャイア最大の国家が「イシドゥラ」、人口150万で国力1位だが、ゲーム開始時(つまり新暦90年)に隕石が落ちてきて壊滅的な被害を受け混乱の時代が始まる。イシドゥラの北西に位置する資本主義国家が「ルルジフ」で、イメージ的には「ドワーフの国」(念のため書いておくと、本書にいわゆる「亜人」は出て来ない)、人口12万で国力6位。残りの2国は1巻の時点だとあまりストーリーに絡んでこないが、唯一の共和制国家「キスレイン共和国」(人口50万・国力2位)と医療大国「ケテルネック」(人口40万・国力3位)。国力順に並べると
イシドゥラ>キスレイン>ケテルネック>ヴェイル>森羅衆>ルルジフ>カタリナ
ってなります。主人公はまずヴェイルで記憶を取り戻すが、「ヴェイルは戦災孤児が成り上がれるような国ではない」と判断し、2年半ほど修行に時間を費やした後で出国。戸籍が管理されていないのか、割と簡単に出入国できる感じです(閉鎖的な印象の森羅衆とかはまた別だろうが)。で、まず向かうのは資本主義国家であり製造業の盛んなルルジフ。ここで自身が成り上がるために必要な「得物」を職人に作らせようと画策する。その過程で賊に襲われかけていた女性「ウラハ・イスルギ」を助けるのだが、彼女はゲームで活躍するネームドキャラの一人。面識を得たのは幸いだったが、厄介な事にウラハは主人公に執着して徐々に「重たい女」へ変貌していく……と、こんな具合に行く先々で女を惚れさせ、ゲームのストーリーを捻じ曲げていく流れになります。「ひょっとしてシャイア、滅亡を何とか回避できたとしてもジャック周りの修羅場で壊滅しちゃうんじゃない?」と思ってしまう。表紙に3人の女性が映っているが、これ以外にもあと3人くらいに惚れられる。この調子で進むと「ジャック争奪戦」に参加するヒロインは10人前後になるんじゃないかな……なお数が多い分、個々の「惚れる過程」がちょっと弱いかな、と感じる欠点はあります。
主人公が「災禍級」と呼ばれるチート魔術で無双して成り上がっていく点では「よくあるチーレム物」なんだが、あんまり性欲とかはなさそうでエッチなサービスシーンは……ありません。一部、「ひょっとして男女の関係なのでは?」と窺わせる描写もあるが、ハッキリとは書いていない。今のところ可愛いのは語尾が「ござる」の行き倒れサムライガール、「カザマ・フジイロ」ですね。「ござ?」「ござぁ」「ござ!」と「ござ」のバリエーションで感情表現するのは正直くだらなすぎて笑ってしまった。ふざけているけど、いざジャックに危害が加えられそうになると無言で相手の首を斬り落とそうとする(間一髪ジャックが止める)など、この子もなかなかに重たい子である。
まとめ。メンタルがヘヴィな子がいっぱい出てくるラノベが読みたい、という人にはオススメの1冊。ただし1巻ではあまりストーリーが進行せず、ゲーム本編開始時点どころか一番最初に出てくる「序」のシーンにすら辿り着かない。「無事に第2巻の刊行が決定いたしました」と報告しているので最低2巻までは出るハズだが、3巻以降はどうなるかわからない。ぶっちゃけ「完結するまで待ってからまとめて買う」のが一番安全です。一応「カクヨム」に掲載されているWEB版は今年完結したんで、売上さえ良ければ最後まで刊行されるでしょう。「早く最後まで読ませてくれ!」 私の願いはそれだけです。
2026-09-27.候補作5冊のうち3冊がKADOKAWAの本じゃん、KADOKAWA主催だからって手前味噌すぎるだろ……と思われるかもしれないが、最近だと第15回みたいにKADOKAWAの本が1冊しかない回もあります。読書好きでも「山田風太郎賞って、名前はたまに見かけるけどあまり詳しく調べたことないな」って人は多いだろうし、ここはひとつ「各回のカドカワ率」を手掛かりに振り返ってみましょう。
第1回(2010年)【カドカワ率 2/5 = 40%】
記念すべき第1回の受賞作は『悪の教典』。カドカワの本は『Another』と『ペンギン・ハイウェイ』で、正直どっちが来ても異論はなかったと思われる。しかし『天佑、我にあり』の海道龍一朗、最近は全然名前見かけなくなったな……何年か前に『華夜叉 室町潰爛』という本が徳間書店から出る予定と告知されていたが、結局発売はされませんでした。
第2回(2011年)【カドカワ率 2/6 = 約33%】
受賞作は『ジェノサイド』。初のカドカワ受賞作だが、これなら納得の1冊(文庫は上下2冊になったけど)。少し前に映画が公開された『藁にもすがる獣たち』も入ってますが、そう、この本なんと15年前の作品なんですよ。ニュース聞いた時「えっ、今頃!?」ってビックリしましたね。
第3回(2012年)【カドカワ率 2/5 = 40%】
受賞作は『光圀伝』と『晴天の迷いクジラ』、初の同時受賞。候補者に誉田哲也の名前があるのが意外かもしれないが、この人、初期は伝奇・ホラー・サスペンス系統の作家だったんで実は「山田風太郎」のイメージからそんなに外れてないんですよね。
第4回(2013年)【カドカワ率 2/5 = 40%】
受賞作は『巨鯨の海』、と書いても時代小説好き以外にはあまりピンと来ないかもしれない。この第4回、なぜかリンクミスがあって『巨鯨の海』をクリックすると『光秀の定理』に飛び、『光秀の定理』をクリックすると『七帝柔道記』に飛ぶ。ページ作られたの「2013年10月28日」だから実に13年近くもミスが放置されてるというの、なかなかに味わい深い。
第5回(2014年)【カドカワ率 1/5 = 20%】
受賞作は『二千七百の夏と冬』、紀元前7世紀を舞台に「縄文人と弥生人」の邂逅を描いたもはやファンタジーに近い古代ロマン小説だが、ハッキリ言って知名度はそんなに高くないかもしれない。KADOKAWAの本は伊岡瞬の『代償』のみで、カドカワ率は過去最低の20%に落ち込んだ。ちなみにこの『代償』、受賞を逃した後にブレイクして50万部も売れたヒット作になります。
第6回(2015年)【カドカワ率 1/5 = 20%】
受賞作は『鳩の撃退法』。カドカワ枠の作品は『孤狼の血』のみ。これが受賞してもおかしくなかったと個人的に思うが、まぁ佐藤正午じゃ相手が悪かったか。またしてもリンクミスがあり、『Red』のところに『孤狼の血』のURLが貼られている。ひょっとして誰もチェックしてないのか、このページ。
第7回(2016年)【カドカワ率 2/5 = 40%】
受賞作は『罪の声』。納得の結果なので特に語る事はない。映画化した『室町無頼』も候補に入ってますね。このページも例によってリンクがズレているが、ここまで多いところを見ると「昔はリンクが正しかったのにシステム移行か何かの際に表示がズレてしまった」パターンか……?
第8回(2017年)【カドカワ率 2/5 = 40%】
そろそろ気付いた人も多いだろうが、山風賞の候補作はだいたい5本くらいで、多いと6本になる感じなんですよね。で、毎回1本か2本はKADOKAWAの作品が入っているから「『カドカワ枠』が設けられているのでは?」「カドカワ有利判定の力が働いているのでは?」みたいな陰謀論も出てくるワケです。この回の受賞作もKADOKAWA刊の『ヒストリア』なんでそういう疑いを向けられるのだが、過去のKADOKAWA受賞作は『ジェノサイド』と『光圀伝』のみ、『ヒストリア』も相当な力作だから客観的に見て「忖度」みたいなものは感じられない。本当にカドカワ有利なら『代償』や『孤狼の血』も獲ってるハズなんですよ。そんな事より『ヒストリア』の作者名、「池上永一」と表記すべきところが「KADOKAWA」になってるの何なんだよ。たぶん第7回の結果をコピペした際、『室町無頼』の「新潮社」を「KADOKAWA」に直そうとしてミスしたんじゃないかと思われるが……。
第9回(2018年)【カドカワ率 3/5 = 60%】
過去最大のカドカワ率。ページを確認した人は「あれ? でもKADOKAWAの本は2冊だけじゃない?」と首を傾げるかもしれない。違うんですよ……『信長の原理』は新潮社じゃなくてKADOKAWAから出てる本なんですよ……これもたぶんコピペした際に新潮社の部分をKADOKAWAに直し忘れたんだと思われる。おまけに『滅びの園』のリンクは貼り忘れてるし、もうグダグダ。あっ、受賞作は『宝島』です。この後に直木賞も獲って「製作費25億円」で実写映画化され、話題になりましたね。興行収入は、うん……。
第10回(2019年)【カドカワ率 1/5 = 20%】
受賞作は『欺す衆生』、「機龍警察」シリーズで有名な月村了衛が作者です。アニメファンには「『神秘の世界エルハザード』の脚本家」と言った方が通りがいいかも。KADOKAWAの候補作は『営繕かるかや怪異譚 その弐』のみ。「あれ? 『童の神』が角川春樹事務所から出ているけど、これはカドカワ判定じゃないの?」って不思議になるかもしれませんが、角川春樹事務所はかつて角川書店の社長だった角川春樹がコカイン密輸で逮捕され辞任・収監のコンボを決めた後、出獄して新たに立ち上げた会社なのでKADOKAWAグループには属していません。ゆえにカドカワ判定じゃないです。
第11回(2020年)【カドカワ率 2/5 = 40%】
受賞作は『じんかん』、『カンギバンカ』というタイトルでコミカライズされています(打ち切りっぽい終わり方だったけど……)。作者は「羽州ぼろ鳶組」シリーズや『イクサガミ』の今村翔吾。後に別の作品で直木賞を獲っています。山風賞は「直木賞の前哨戦」みたいな扱いをされる事もありますね。例によってこのページもリンクがズレているが、もう指摘し疲れたのでスルーします。
第12回(2021年)【カドカワ率 3/5 = 60%】
候補作の半数以上がKADOKAWA作品で、受賞作もKADOKAWA作品……結果だけ見ると手前味噌感がスゴいが、肝心の受賞作が『黒牢城』。この後直木賞も獲っている作品だから誰も文句は言えないだろう。作者は「古典部」シリーズや「小市民」シリーズでお馴染みの米澤穂信。
第13回(2022年)【カドカワ率 2/5 = 40%】
受賞作は『地図と拳』。これも後で直木賞獲ってますね。2年連続で候補に上がりながら立て続けに受賞を逸した浅倉秋成、「相手が悪かった」としか言いようがない……。
第14回(2023年)【カドカワ率 2/5 = 40%】
受賞作は『藍色時刻の君たちは』。作者は前川ほまれ。「……誰?」って反応になる人がほとんどかもしれない。私はたまたま『跡を消す』や『シークレット・ペイン』を知っていたから「へー、あの人が」という反応だった。「震災があった宮城県の港町を舞台にヤングケアラーの高校生たちの青春と成長を通し、人間の救済と再生を描く」というやや重ための内容だけに、気軽に手を伸ばしにくい一冊である事は確か。
第15回(2024年)【カドカワ率 1/5 = 20%】
受賞作は『万両役者の扇』。この作品ではないが、作者の蝉谷めぐ実は後に直木賞を獲っています。唯一のKADOKAWA作品である『彗星を追うヴァンパイア』、作家名を見てピンと来た人もいるでしょうが、かつてスニーカー文庫で『サクラダリセット』を書いていた河野裕の作品です。「第38回山本周五郎賞」の候補作でもあり、「山田風太郎」と山本周五郎の字面が似ているせいもあってちょっと混乱する。
第16回(2025年)【カドカワ率 3/6 = 50%】
『神都の証人』と『ミナミの春』のダブル受賞。このミス1位に選ばれた『失われた貌』や直木賞候補にもなった『飽くなき地景』といったタイトルもあり、なかなかの面子。
と、ざっくり振り返ってみたが、確かに毎回最低1作はKADOKAWAの本が候補作に入ってるんですよね、山風賞。「カドカワ枠は、ありまぁす!」と唱えられたら否定し切れない部分はある。ただ、ここ見落としがちなんですが、KADOKAWAの受賞作自体はそんなに多くないんですよ。過去に16回やって『ジェノサイド』、『光圀伝』、『ヒストリア』、『黒牢城』の4作だけ。実に4回に1回程度の頻度。そもそも直木賞の候補に上がっている作品も多く、「忖度が働いている」という意見は少々疑わしい。繰り返しますが、本当に忖度が働いているなら『代償』や『孤狼の血』が獲っていたハズなんですよ。以上、Q.E.D.。
・阿津川辰海の『犯人はキミが好きなひと』読んだ。
「あんたは要するに悪女好きなんだ。もう既に悪いことに手を染めているにせよ、計画的に悪巧みしているにせよ、そういう女性のオーラを感じ取って、好きになっているわけ。つまりあんたは悪女レーダー、もっと悪く言えば、女を見る目がないってこと」
連作形式で送る、「先に犯人の目星が付いている」事を前提にして進行する異色の青春ミステリ。連載時のタイトルは『失恋名探偵』でしたが、単行本化に際して改題。中学2年生の夏から始まって、高校2年生の冬に終わる。約3年半の出来事を全6話構成で綴っています。基本的に1個1個のエピソードはそれぞれ独立しているが、「あの事件の……」と過去に発生した事件について少し触れている箇所もあるので、特別な理由がなければ頭から順に読んでいった方がいいです。
主人公は「瀧花林(たき・かりん)」。幼い頃からアニメ・漫画・小説で描かれる「名探偵」に憧れ、自らも探偵になろうと大真面目に志している少女である。そんな彼女には幼馴染みの少年がいた。名前は「幣原隆一郎(しではら・りゅういちろう)」。花林が「リューイチ」と呼ぶ彼には、ある特殊な体質が備わっていた。それが「惚れた女は必ず何かしらの悪事を働いている(もしくはこれから働く)」という、星の巡りが悪いとしか思えない体質――花林名付けるところの「悪女レーダー」「悪女センサー」であった。ある連続ミステリードラマでリューイチが「この人が可愛くて好き」と指した女優が犯人……という事もなくドラマが最終回を迎えた後、その女優が麻薬所持の容疑で逮捕されるなど、「実績」には事欠かない。コイツの悪女センサーを利用すれば、私も名探偵よろしく鮮やかに事件を解決してみせる事ができるのでは? 気付いた花林は容赦なくリューイチの体質を利用し、彼が片想いを寄せる子たちの悪事を次々と暴き立てる。その結果リューイチは失恋してしまうため、「お前は疫病神だ! この……失恋名探偵め!」と花林を非難する。花林もリューイチに対して恋愛感情があるワケでもなし、別に好かれなくてもいい……だがあんたの悪女センサーは骨の髄までしゃぶり尽くしてやる! とばかりに付きまとって、ありえないくらいの頻度で殺人事件に遭遇していく……。
100カノの「ビビーン!」、アレの変種みたいな設定のミステリです。あくまで「ビビーン!」と来るのはリューイチだけで、相手の子がリューイチに惚れるとは限らないのですが……先述した通り物語は全6話構成で、それぞれ別の事件が発生します。当然、リューイチが好きになる相手も毎回変わる。恋多き男なのだ。「リューイチが好きになったという事は、この女が犯人で間違いない……だが、具体的な犯行の経緯がわからない!」というのが基本形になります。読者の感覚としては倒叙ミステリ(コロンボや古畑などのように最初に犯人サイドを見せておいて、「犯人がどうやって追い詰められていくのか」を描くタイプのミステリ)に近い。ただ、さすがにそればっかりではマンネリ化してしまって面白くないので、回によっては「恋路を邪魔されないようリューイチが片想い相手を隠そうとする」などの変型パターンも出て来ます。「悪女センサーなんて何の証拠にもならんやろ……そんなもんを推理の根拠にするなんて邪道すぎないか?」と思う方もおられるかもしれませんが、あくまでこれは「リューイチの特殊体質」が大前提になっている作品であり、多少無理にでもそれを飲み込んだうえで取り組んでください。西澤保彦作品のようなものです。あと、逮捕される時にこの体質が証拠になるワケじゃないです。花林以外はリューイチの体質について知らないか、聞かされてもまともに取り合わない。
では各編の簡単なあらすじと感想を書いていこう。
「第一話 死者からの伝言」 … 中2の6月、鶴戸第一中学校に通う花林は、リューイチが熱い眼差しで「近野ゆいな」を見つめている様子を眺め、即座に察した。ははあ、今回の「犯人」はあの女か。鶴戸第一の卒業生であり、教育実習生としてやってきた近野は「コンちゃん」と呼ばれ、男子たちから絶大な人気を誇っている。リューイチごときにとっては高嶺の花としか言いようのない存在だが、そんな事はどうだっていい。あの女は必ず何かをしでかす。注視していたところ、間もなく旧校舎で堀田先生の遺体が発見される。犯人はコンちゃんだと花林は確信するが、問題はそれを「どのように立証すればいいだろう?」という事だった……チュートリアルみたいな回ですね。一応密室状況だが、割と早い段階で「追撃を恐れた被害者が部屋に逃げ込んで鍵を掛けた」という事実が判明する。後は犯人(コンちゃん)を立証する手続きのみで、「ダイイングメッセージ」が主眼となります。出版社がポプラ社だし、想定している読者層は10代の若者なのかな? と思ってしまう部分がある。正直肩透かしな真相で、「歯応えのある特殊設定本格ミステリ」を期待するとガッカリかもしれない。良くも悪くもこの1編目で「合う/合わない」が判明する試金石めいた内容になっている。ある程度、「キャラ小説」と割り切って楽しんだ方がいいかもしれません。作中の時系列的には現時点で一番最初のエピソードですが、実は発表順としては5話目。つまり「過去編」として書かれたものです。このシリーズ、本当は高校編から連載スタートしているんですよね。
「第二話 四月はアリバイ狂騒曲」 … 自分の恋路を邪魔する花林から離れたがっていた隆一郎は黙って東京都墨田区の「領国高校」を受験し合格するが、そこは「名探偵」を目指す花林の事、熱心なストーキング活動の末に志望校を突き止め自らも受験&合格した。あんたは絶対に逃がさない……私が名探偵になるための踏み台となれ! 1年生の期間は特に大きな事件もなく終わったが、2年生に進級して早々、美術教師「安城沙彩」が美術室で何者かによって殺害された。リューイチの片想い相手から犯人を炙り出そうとする花林だったが、彼は頑として口を割ろうとしない。「いたとしても、お前には教えてやるものか」 周りに聞き込んで音楽教師の「八木秀美」がリューイチの好きな相手ではないか? と推定するが、八木先生には鉄壁のアリバイがあった……というワケで今回はアリバイ崩し。リューイチの片想い相手がハッキリしないまま進行していくという、2話目にして変化球じみた一本。正直、ミステリとしてはコレが一番面白かったかな。真相はぶっちゃけ読めるのだが、構成がしっかりしていて短編ミステリとしての読み応えが抜群。事件は解決するが、「惚れた相手が殺人犯だった」という最悪な失恋パターンが続いたせいもあって落ち込んでいるリューイチに花林も思わず絆されてしまうのだった。ちなみに雑誌掲載時のタイトルは「ライターは知っていた」、第二話だが掲載順としては一番最初のエピソードに当たります。
「第三話 キミが犯人じゃなければ」 … GWが明けてから一週間経った頃。リューイチは領国高校最寄りの駅から二つ離れた駅付近に建つ純喫茶「兜」の店に入り浸っていた。5月になって通学路でリューイチを見かける事が少なくなった事から「行動パターンを変えた……すわ新しい恋の始まり(そして事件の予兆)か!?」と察した花林は先回りするかのように店へやってきた。待ち伏せされて嫌な顔をするリューイチ。彼の態度から店で働く女性「鹿野」が今回の「悪女」だろうと睨む花林。やがて店のバックヤードでマスターの遺体が発見されるが、花林が目を付けていた鹿野はバックヤード隣の倉庫に閉じ込められており、犯行は不可能な状況であった……「容疑者が脱出不能な部屋に閉じ込められていた」という変型密室モノです。作品としてはコレが一番変化球かな? 好みによっては本書のベストに挙げる人も出てくるかも。一方的に利用される立場だったリューイチが小細工を仕掛けて花林を利用しようとする一幕があるなど、若干頭脳戦の様相も示し始めます。「頭脳戦」と言えば聞こえはいいが、要するに殺人の容疑者を庇おうとしているので、このへんで「倫理観はどうなってんだ、倫理観は!」と苦言を呈したくなる人も出てくるかも。花林はリューイチの体質を百発百中と信用しているが、リューイチ本人は「そんなハズない!」と否定的なので、そこに温度差が生じているんですよね。そういう意味ではシリーズの分岐点となる一編かも。
「第四話 海岸通りでつかまえて」 … 夏休み直前、終業式の前日に金持ちのお嬢様「坂巻千棘」が話しかけてきた。なんでも、坂巻家はプライベートビーチがあるから夏休みに遊びにこないか、とのこと。誘いの狙いは見え見えだった。千棘は、花林の幼馴染みである隆一郎に気があるのだ。異性を好きになる事はあっても、異性から好かれる事など絶無に等しいリューイチにしては珍しい、恋の予感。しかしリューイチにとっての「恋の予感」とは、すなわち「事件の予感」であり、嫌な予感は的中してプライベートビーチで死体が発見される。愕然とする花林のもとにリューイチから電話が掛かって来て、「今乗ってるタクシーの運転手を好きになった。この人、多分人を殺している」と告げてくる……もっとも構成が複雑な一編で、ちょっと混乱する人も出てくるかも。花林とリューイチが別行動し、ビーチとタクシー、ふたつの場所でストーリーが進行していく。でも正直、トリックは簡単にわかってしまうというか……状況が複雑なせいで、逆に「情報を整理してシンプルに考えればこういう事じゃない?」とすぐに真相が見えてしまう。真相が見えてしまうと後は消化試合なので、あまり面白みがない。恐らくアンケートを取ったらこのエピソードの人気が一番低いんじゃないかな、と思いました。
「第五話 ポイズン・レター」 … 2025年9月13日から15日、土日祝の3日間にかけて開催される領国高校の文化祭。最終日の15日に、花林は隆一郎から相談を受ける。「差出人不明のラブレターを貰った」と。封筒の中には文化祭のステージで声を張り上げているリューイチの横顔を描いたスケッチが入っていて、添えられた手紙には「14日の午後5時、風間神社で会ってもらえないでしょうか……?」と書かれていた。リューイチ曰く、呼び出しに応えて指定時刻に神社へ向かったが、30分待っても誰も来なかった。イタズラなのか、それとも怖気づいて逃げ出したのか、理由は判然としないが重要なのはただ一つ。リューイチが、その手紙の差出人に対して好意を抱いてしまっているという事だった……青春ミステリではそんなに珍しくない「差出人不明のラブレター」にこうもツイストを利かせるのは面白いな、と思った。差出人が何かの事件の「犯人」になっている可能性が高いものの、今のところ領国高校周辺でこれといって重大な事件は起こっていない。じゃあ、学外の人間が文化祭期間に紛れて下駄箱にラブレターを投じ、どこか遠くで事件を起こしている? 雲を掴むような状況に、花林の名推理が唸る。なかなか作り込まれていて面白いエピソードだったが、「それは反則やろ!」という想いがなくもない。良くも悪くも「ミステリのためのミステリ」って感じの話。でも嫌いではないです。最後に「花林の中で、何かが変わろうとしていた。それを、花林は恐れていた」という不穏な一文が入って〆。普通の青春物なら「やれやれ、ようやく幼馴染み同士がお互いの気持ちに気づいてくっつくのか」と胸を撫で下ろすところだが、「好きになったひとが必ず何かの犯人」という設定の作品だけに不安しか湧かないぞ!
「第六話 あなたの愛を……」 … 他はすべて雑誌掲載作品だが、これだけ書き下ろし。本書の締め括りとして特別にしたためられた一編となっています。クリスマスシーズン、遂に隆一郎に彼女ができた。相手はなんと坂巻千棘。千棘が一方的に好意を寄せているだけだと思っていたのに、いったいいつの間にリューイチは彼女の事を好きになっていたのか? 嫌な予感しかしない花林。坂巻家開催のクリスマスパーティーにのこのこ出席する花林だったが、そこで長らく音信不通だった千棘の叔父「郁次郎」が姿を現わす。そしてお定まりの流れで千棘の家族と遺産相続にまつわる生々しい話をし始めて……絶対に殺されるやろ、このオッサン、と思いながら読み進めていたところ朝早くに花林が「い、郁次郎さんがナイフで刺されて死んでる!」と叩き起こされ、「それ見た事か」とばかりに推移を見守っていたら、あったハズの遺体は消えていた! 一種の消失モノですね。現場検証であっさり「窓から運び出して、後は橇に載せて谷底へ突き落としたんだろう」とネタ割れするものの、遺体がないし警察も大雪で来れないし、事件を進展させようがない。でも、多分千棘が犯人なんだろう。そう考えた花林は「何とかして警察が真相を突き止めるよりも先に自首を促さなきゃ」と頭を振り絞る。書き下ろしのラストエピソードとあって総決算みたいな内容です。総決算だけにネタバレ抜きで語るのが難しいな……恐らくここまで読み進めた人のほとんどは状況を察してしまうだろうが。うーん、ちょいネタバレ気味になりますが、結論を書いてしまうと「隆一郎と花林の関係」は完全決着とならず、続けようと思えば続けられる雰囲気で終わっています。今のところ続きが雑誌掲載されたという話を聞かないし、具体的な続編の予定もあるワケではなさそうだからこれで完結……かもしれませんが、まだどちらとも言えない。
まとめ。「惚れた相手が犯人なので決して結ばれない」という悲しい宿命を負った少年と、名探偵になるためその少年を徹底的に利用しようとする悪魔のような少女。ふたりの腐れ縁を描いた変則バディ・ミステリです。帯に「どんでん返し」とあるから、何かとんでもなく悲惨なオチが待ち構えているのではないか……と不安になる人もいるかもしれませんが、ネタバレにならないギリギリで言及しますと、数々の青春ミステリ(『仮題・中学殺人事件』や『密閉教室』、『あいにくの雨で』など)を思い返せば比較的「爽やかな幕切れ」と言える終わり方です。そこまで後味は悪くない(良いとも言い切れない)ので、あまり怯えずに手を伸ばしてみてください。
大丈夫、辰海のミステリだよ。タツミステリだよ。
・拍手レス。
まさかブラック・ブレットが再始動する日が来るとは。時間がかかってもいいから完結まで刊行されるといいですね。。。
これでまた途中で音信不通になって未完、なんて事になったりしたら半端に供給を受けたファンの精神が耐え切れずガストレア化してしまう……。
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管理人:焼津