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2026-11-01.

・遂に「古典部」シリーズの新作(と言っても短編だけど)が出るというニュースに血が沸き立った焼津です、こんばんは。

 過去のエピソードとかではなく、「「いまさら翼といわれても」の後の物語。シリーズの時計の針が進みます。」と明言されてやり、ネットでは「やっと千反田えるが蔵から出てくる!」と大騒ぎです。現時点で「古典部」シリーズ最新のエピソードとなっている「いまさら翼といわれても」はある事情から蔵の中に入ったえるちゃんと外にいる奉太郎が会話するシーンで終わっている。この短編を収録した単行本『いまさら翼といわれても』は2016年11月30日の刊行で、もう10年近くの月日が流れており、「えるちゃん、10年間も蔵に入ったまま」とファンがよくネタにしていたものでした。

 なぜこんなに間が空いてしまったのか? 理由の一つは「単純に作者が忙しいから」でしょう。スニーカー文庫からデビューした米澤穂信も今や直木賞作家であり、それどころか直木賞の選考委員にさえなっている。多作家ではないとはいえ、こなす仕事量は膨大です。なかなか「古典部」にリソースを回す余裕がないと考えられる。そもそも『いまさら翼といわれても』自体、6年半ぶりくらいの新刊でしたし。「古典部」はいわゆる「日常の謎」というジャンルに属するシリーズで、ぶっちゃけこのジャンルってどうしても話が地味になりがちだからなかなか新作を出しづらいんですよ。サザエさん時空で年月経過がないパターンならまだしも、「主人公たちの成長」を軸にしている場合は特に進めば進むほど「どう展開させるか」が難しくなっていく。「日常の謎」の代表格である北村薫の「円紫さんと私」シリーズも、もう10年以上新刊が出ていません。

 「古典部」シリーズは時間経過とともにキャラクターたちの関係が少しずつ変化していく趣向で、たぶん『いまさら翼といわれても』がちょうどシリーズの折り返しあたりに位置してるんじゃないかと思うんですよ。恐らくあと6冊くらい書けば奉太郎たちが卒業を迎えて完結する、と私は見ています。もう『氷菓』から四半世紀近く経っており、ここから今のよねぽが6冊出すとなるともう四半世紀は掛かりそうなんですが……「2051年、遂に古典部シリーズ完結!」というニュースを幻視してしまうが、果たしてその頃まで私は生きているのだろうか?

・『アイプラ』2027年3月1日をもってサービス終了。『学マス』開発元・QualiArtsによるアイドルマネジメントRPG、約6年の歴史に幕(ファミ通.com)

 遂にアイプラこと『IDOLY PRIDE』がサ終か……ゲームの方はやってないけど、2021年に放送されたアニメ版は観ました。と言ってもリアルタイムではあまりのキャラの多さに1話で挫折し、放送が終わった後に全話まとめて視聴、って形だったんですが。もう随分と経つからネタバレで語りますが、このアイプラは「長瀬麻奈」というアイドルが人気絶頂の中で交通事故に遭って急逝してしまうんです。マネージャーをやっていた主人公「牧野航平」は当然ショックを受けて塞ぎ込むが、そんな彼のところに麻奈の幽霊がやってくる。幽霊とはいえ麻奈の前で情けない格好はできないからと再起する航平、そんな彼が新たに担当するアイドルの中には麻奈の妹である「長瀬琴乃」、そして麻奈の心臓を移植された「川咲さくら」がいて……という感じで、他に8人くらい新人アイドルが出てきますけど、アニメは基本的に「琴乃とさくら」の二人を軸に進行していきます。琴乃をメインボーカルに据えた「月のテンペスト」、さくらをメインボーカルに据えた「サニーピース」、ふたつの5人ユニットが競い合う形式ながら、序盤はともかく終盤はそこまで険悪な雰囲気ではない。クライマックでは航平と「麻奈の幽霊」との別れが描かれており、この時にBGMとして流れる「song for you」が涙腺直撃クラスで……お姉ちゃんとして妹である琴乃の事は大好きだけど、それでも「song for you」は自分の曲なんだから「私が一番上手く歌える」という譲れない矜持を麻奈が抱いているところもまたグッと来るんですよね。長瀬麻奈verの公式PVは是非とも見て欲しい。

 要はアイマスと「あの花」をミックスしたようなアニメなんですが、同年に「たんもし」(『探偵はもう、死んでいる。』)という「亡くなった名探偵の心臓を移植された女子高生がその志を引き継ごうとするアニメ」が放送されたため、「心臓アニメ」という概念が爆誕。同じく2021年に「セレプロ」(『SELECTION PROJECT』)という「事故で亡くなった人気アイドルの心臓を移植された子と、亡くなった人気アイドルの妹が、同じアイドルオーディションに参加するアニメ」も放送され、アイプラとのあまりにもあまり過ぎる被りようが話題を喚びました。ついでに翌年の2022年には「先天的な心疾患に対処するため人工心臓を移植されたヒロイン」が登場する『リコリス・リコイル』が放送され、「また心臓アニメか!」「今期の心臓枠」と揶揄されたり。

 「TRINITYAiLE」や「LizNoir」といった他ユニットが活躍する2期ないしスピンオフアニメもやって欲しかったが、まぁさすがに実現しませんでしたね。残念。アニメが放送された2021年、長瀬麻奈役の「神田沙也加」が急逝するという一件もあったせいでいろいろと忘れがたくなってしまった。「他に適役がいない」という理由でキャスト変更せず、最後まで「長瀬麻奈(CV.神田沙也加)」を貫いた事は今後も語り継いでいきたい。

・箕輪尊文の『弾丸とヒマワリ』読んだ。

 第72回江戸川乱歩賞受賞作。応募時のタイトルは『天使の負託―エンジェル・バレット―』だったが、受賞後に改題された。英題は「THE BULLET AND SUNFLOWERS」とそのまんま。作者の「箕輪尊文(みのわ・たかふみ)」は1993年生まれの会社員で、乱歩賞には第63回から応募を開始し、この10年何度も応募を重ねてやっと受賞に至ったと云う。第65回に『歌舞伎町 ON THE RUN』、第67回に『夜が明けたら』で最終候補に残っていますね。

 本書は「自衛隊」がストーリーに絡んでくるミステリです。と言っても『UNKNOWN』や『未完成』みたいに駐屯地で事件が発生するタイプではなく、退官した自衛官たちが事件に巻き込まれていく……というタイプ。「本庄恵梨香」と「野島武」、元自衛官であるこのふたりの視点を主にして進行していきます(たまに事件を捜査する刑事など、事件関係者の視点に切り替わる箇所もある)。

 陸自の第八次PKO(Peacekeeping Operations=平和維持活動)部隊として派遣された、アフリカはサハラ北部に位置する「東キアノス共和国」――長く続いた内戦が数年前にようやく終結し、この国は平和と治安を取り戻した……そう聞いていた。しかし、あの時、少女が手にしていたAK47の銃口がこちらに向けられ――「防衛」のために放たれた銃弾が、幼い少女の命を奪った。たとえ正当防衛であろうと「自衛官が年端もいかない子供を撃ち殺した」などという事実、世論が許さないだろう。上層部はこの一件を揉み消す事にした。「なかった事」になっても、現場にいた者たちの心の傷は癒えない。これ以上の勤務は無理だと、本庄恵梨香と野島武は退官の道を選んだ。広場恐怖症を発症した本庄は定職に就かずピザ店でのバイトを続け、不眠症を患っている野島は違法(ないし脱法)ドラッグに溺れながらクスリのP(プッシャー=密売人)を副業として営んでいた。別々の道を歩み、連絡も途絶えていたふたりだったが、ある殺人事件をキッカケにふたたび道が繋がり始める……。

 こんな具合です。本庄パートでは「福田紬」という女子高生が何者かによって射殺され、遺体の手に国連メダル(PKO活動に従事した自衛官に贈られるモノ)が握り締められていた……という事件の謎を追い、野島パートでは「エンジェル」なる違法薬物とおぼしきカプセルの噂に翻弄される。クスリの正式名称は不明だが、噂では「エンジェル・バレット」――天使の弾丸と呼ばれている。ダウナー系のドラッグで、何でも「天国みたいに気持ちいい」んだとか。噂だけで、実物を見た者はいない。なぜなら、「エンジェル・バレットを手に入れた」と自慢していた奴はみんな死んでいるからだった……女子高生射殺事件と謎の薬物エンジェル・バレット、両者はいったいどこで結びつくのか?

 安定感のある文章で、率直に言って「メチャクチャ面白い」ってワケじゃないが読みやすく、サクサクと話が進んでいく。タイトルの「ヒマワリ」は平和の象徴として日本から運ばれてきたヒマワリがPKO派遣先である東キアノス共和国に植えられていた、というエピソードから来ています(それとは別のエピソードも関係してくるが、説明は割愛します)。東キアノス共和国(言うまでもなく架空の国名です)は南部と北部に分かれ、北部は「元副大統領を首魁とする反政府勢力が実質的に支配する」地域となっている。自衛隊が派遣されたのは南部の首都「キアノ」。ある日、「豪雨の影響で崩壊した道路を早急に復旧させて欲しい」という依頼が国連司令部から寄せられ、現地へ向かった本庄や野島たちはそこで前述の「子ども兵射殺事案」に直面する。この一件がトラウマとなって、本庄や野島の心を苛み続ける。

 女子高生射殺事件とエンジェル・バレットの接点が見え始めてからが本番ですが、姉が自殺したショックから自暴自棄になって「エンジェル」を欲している少女「南川杏子」の面倒を野島が診るサブエピソードなども面白い。クライマックスは畳み掛けるような展開で一気に読ませます。が、終盤、ピンチに陥るシーンで「迷彩服を着てピエロマスクを被った謎の人物」というデスゲームの司会者みたいなのがいきなり出てくるのはズッコケたというか、そこはフルフェイスマスクとボイスチェンジャーで良かったんじゃないですか!? 本文中にも「迷彩ピエロ」と出てくるので違和感がスゴかったです。そこを除くと「事件の真相」そのものは程好く凝っていてミステリの満足度はまずまずだった。一方で明確に「ここは弱いな」と感じてしまう部分もあり、満場一致での受賞とならなかったのも頷けたというか、選評で黒川博行から「リアリティー皆無」「文章の巧さに比して登場人物のキャラクターに魅力がない」と指摘されているのも「ククク…ひどい言われようだな まぁ事実だからしょうがないけど」って感じでした。受賞後にだいぶ加筆修正したっぽいので、応募時はもっとアレだったようですが……。

 まとめ。自衛隊と防衛省が揉み消した「子ども兵射殺事案」、女子高生射殺事件、そしてエンジェル・バレットと、バラバラの要素に少しずつ繋がりが見えてくる構成自体は面白かった。反面、この三要素のうち「エンジェル・バレット」部分は掘り下げが浅くて肩透かしだな、という印象。あと、加筆で「キャラクターの魅力の弱さ」は補ったみたいだが、それでもやっぱりこの本を「キャラの魅力」で売るのはかなり無理があるな……渋い題材だけに講談社側もどういう方針で推すか決めるのに苦心したらしく、公式サイトに漫画まで載せています。今や乱歩賞もイラストや漫画を載せてライト文芸とかキャラ文芸みたいなノリで売ろうとする時代なんだなぁ……と少し遠い目をしてしまいました。去年の『殺し屋の営業術』がそういう方針でヒットしているから、というのもあるんでしょうし、遡れば『ぼくらの時代』があるんだから今更ですが。というか『ぼくらの時代』、作中の時代は概ね1970年代の後半あたりなので、もう半世紀近く前の話になっちゃうのか……私が読んだのは90年代後半で、その時点でもう「そこそこ古いな」という印象だったが、今や「古い」なんてレベルじゃねぇな。

 さておき『弾丸とヒマワリ』、内容的にシリーズ化は難しいだろうし続編は出ないと思うが、差し当たって作者の受賞後第一作には期待しています。


2026-10-29.

・村上龍の訃報に驚いた焼津です、こんばんは。

 「村上と言えば春樹か龍」と言われるぐらい有名な作家で、沢山の著作があるから正直「これはちょっと……」な作品もチラホラあったけど印象的な作品を多く手掛けている。具体的に書くと『コインロッカー・ベイビーズ』、『愛と幻想のファシズム』、『五分後の世界』、『半島を出よ』など。半自伝的な『69 sixty nine』も結構好き。個人的に『歌うクジラ』以降はあまり興味が持てなくなり、近作は『オールド・テロリスト』くらいしか買ってない。遺作になった『ユーチューバー』もスルーしてしまった。

 昔はブックオフとかの100円コーナーに行くと「む」のところにこの人の本がいっぱいあって、暇を持て余した金のない読書好きがテキトーに見繕っては読んでいたものです。私も修学旅行のバッグに『フィジーの小人』を突っ込んで、空いた時間にパラパラ読んでたな……以前はあんなに投げ売りされていたのに、今や「追悼ブースト」と言わんばかりに各地で古本価格が上がっている模様。実家に行けばボロボロの状態とはいえ大量の龍作品が置かれたままになってるから、今度寄った時に何かテキトーなのを持って帰るかな。デビュー作の『限りなく透明に近いブルー』はあまり面白くないので、初めて龍作品に触れるのであれば『海の向こうで戦争が始まる』や『イビサ』あたりをオススメしたい。

・小説『魔王2099』が完結へ。第1巻発売から2099日の節目に発表(電撃オンライン)

 アニメにもなった『魔王2099』が遂に完結だ。この機会にちょっと振り返ってみましょう。

 まず、『魔王2099』とはどんな話なのか? 出だし(プロローグ)は至ってありふれたものです。大陸暦1599年、「不死」の頂点たる魔王は「定命」の代表たる勇者によって討ち果たされる。これによって「不死戦争」は終結。しかし不死の頂点である魔王が滅びるハズもなく、500年の時をかけてようやく復活する。ただ、500年の間に世界はすっかり変わってしまって……ジャンルが「異世界ファンタジー」から「サイバーパンクSF」になっていたのだった! という魔王ミーツ科学文明な一風変わったシリーズです。魔王は神々が「定命の者たちからの信仰」によってその存在を成り立たせるように、「人々から寄せられる畏怖の念や服従心」によって存在を強化する。「じゃあ、配信者になって『畏れ』を集める、かぁ……!」と決意、「こんばんモータル〜、どうもー定命の者共、生の苦しみ味わってる? 魔王ベルトール=ベルベット・ベールシュバルト、即ち余である」と今日も元気に画面の向こうの「臣下」に挨拶するのだった。

 アニメにもなったんで見た人は結構いると思いますが、世間的に「大ヒットした」とは言い難い状況なので知名度はそこまで高くないと思います。アクションシーンはかなり頑張っていたが、魔王様の「真の姿」がクソダサくてガッカリした記憶がある。アニメ化した範囲は原作の2巻までで、3〜5巻、そして発売が決定した6巻(最終巻)はアニメ化されておりません。恐らく今後もする事はないでしょう。

 とにかく『魔王2099』は「順風満帆」とは言いにくい軌跡を辿ってきた作品です。概略を書いていきますと、「第33回ファンタジア大賞」に応募(ちなみに応募時のタイトルは『剣と魔王のサイバーパンク』)し、見事「大賞」の座を射止め、2021年1月に刊行スタート。ちなみにこれの前の第32回で「大賞」を獲っているのが『スパイ教室』です。2021年4月には2巻が刊行され、このペースなら年に2〜4冊程度で安定するのではないか……と期待されましたが、どうもセールスが芳しくなかったらしく一旦打ち切りになります。作者の「紫大悟」は翌年、『断頭台の花嫁 世界を滅ぼすふつつかな竜姫ですが。』という新作を出して仕切り直している。が、どういう経緯なのか詳しい事はわからないが、2023年に突然アニメ化が決定。同年、2年ぶりとなる新刊(3巻)も発売されます。その翌年の2024年10月、秋クールにアニメの放送を開始。これに合わせて10月に4巻、11月に5巻と2ヶ月連続刊行された。ここから『魔王2099』の快進撃が始まる……と良かったのですが、アニメ化パワーを以ってしてもセールスはあまり伸びなかったらしく、6巻の刊行予定がハッキリしないまま2年近くの月日が流れました。「またしても打ち切りなのか……」とファンが暗い顔をしていたところに↑の情報が舞い込んだワケで、情緒がおかしくなった次第です。続きが出るのは嬉しい!→でも最終巻か……→い、いや、それでも出ないよりはいいだろう、うん……→えっ、電子専売で紙書籍ナシ!? アニメ化までしたシリーズの最終巻なのに!? ともうグッチャグチャ。恐らく全部の伏線を回収して畳むのは無理だろうから、最低限「これだけは」という部分だけ決着させるつもりでしょう。となると焦点はやはり「六魔侯」か。

 魔王にはかつて「六魔侯」と呼ばれる6名の配下が付き従っていていたのですが、500年後に復活した時点でそばにいたのは「煌灼侯」マキナのみ。「血術侯」マルキュスは時代遅れの魔王を見限り、叛旗を翻して1巻のボスキャラとなります。で、残りの4名はどうなったのか? を調べるのが2巻以降の主なストーリーとなるワケです。若干ネタバレになりますが、「天忌候」メイは体を乗っ取られ、半ば洗脳されたような状態で「敵」として登場。「黒竜候」シルヴァルドは生存していて割とすんなり仲間になります。「業剣候」ゼノールは本編開始前(統合暦2055年なので44年前)マルキュスによって「不死炉」にくべられ、魂を「薪」にされて死亡。このへんの詳しい描写は5巻にあります。

 以上のように5/6に関しては消息が判明しているのですが、残る「青雷侯」ラルシーンだけ不明のままでした。原作におけるこれまでの記述をまとめると、「魔王が勇者に討たれた後、ラルシーンが六魔侯のまとめ役になって魔王復活まで揃って息を潜める事にする」「しかし本編開始の80年前に現想融合(ファンタジオン)で世界が崩壊」「マルキュスも関わっていた『不死狩り』から逃れるため六魔侯は散り散りになる」「マキナをはじめ六魔侯の面々はラルシーンのその後についてまったく知らない」「ポジションとしては魔王の政を補佐する宰相、実質的には不死の王国のナンバー2だった」「性別は男、『錫杖を持った青みがかった黒髪の人間』と描写され、ですます調の丁寧語で喋る」……5巻までやってこれぐらいの情報しかありません。あまりにも生きている痕跡がなさ過ぎて作中でも「死んだんじゃないの〜?」みたいな扱いを受けています。恐らく、最終巻はこれまでずっと謎に包まれていた「ラルシーンの行方」について掘り下げる内容だと思われますが……もし最終巻でも全然出て来なかったら伝説になっちゃうな。

・『東京レイヴンズ』最終巻 来年1月 発売決定

 遂に「東レ」こと『東京レイヴンズ』が完結の時を迎える……休止していた期間が長いシリーズだけにしみじみしてしまった。2010年に刊行開始したシリーズで、2013年から2014年にかけてアニメ版が放送、当初は刊行ペースも速かったがアニメ終わったあたりからだんだん鈍ってきて、2018年に16巻を出した後、長い沈黙のシーズンへ入る。17巻が出たのは2025年で、約7年ぶりでした。来年出る18巻でやっとフィニッシュ。本編とは別に短編集が4冊、あと円盤特典として書き下ろされた番外編が2冊(『東京レイヴンズ lost-girl with cat』と『東京レイヴンズ two-dogs were left』)あるから全24冊、いや完結後にもう1冊くらい短編集が出そうな気もするから全25冊になるかな? 「霊災」が多発するパラレルな日本で陰陽師を育てる教育機関「陰陽塾」に通う主人公たちが激しいバトルを繰り広げる、ある意味で『呪術廻戦』を先取りしたような和風伝奇アクションです。個人的には毛利志生子の「カナリア・ファイル」シリーズを連想するノリ(あっちは陰陽師じゃなくて呪禁師だけど)。

 ちなみに、夢枕獏の「陰陽師」シリーズは現在も続いており、今年の1月に単行本最新刊『氷隠梅ノ巻』も出ている。蘆屋道満を主人公にしたスピンオフ『黒い陰陽師』に至っては8月に出たばかりだ。こっちはもう作者の寿命が尽きるまではずっと終わらないだろうな……。

・天野雪人の『ガララリア戦記』読んだ。

 副題「姫将軍に見初められた傭兵が、戦場で英雄になるまで」。架空の大陸「ガララリア」を舞台にした戦記ファンタジーの1冊目。元はカクヨム連載作品で、カクヨムの方では既に完結しています。全5章で1章の内容が書籍版の1巻に相当するから、加筆量にもよるけど全5巻程度で終わるんじゃないでしょうか。7月に出たばかりなのにもうKindle Unlimitedの対象になっており、プライム感謝祭で新しいKindleデバイス買って「Kindle Unlimited3ヶ月無料」の特典を利用し久々にアンリミ会員になった事もあり、前々から気になっていたコレを早速借りて読んでみました。

 元は小さな王国に過ぎなかったが、ガララリア大陸を統一せんとして方々の国を蹂躙する侵略者と化した「ガゼルダ帝国」。今まさにそのガゼルダに滅ぼされんとしている小国「ハウ王国」に雇われた傭兵「鉄狼団」の面々は、敗色濃厚な戦場でとっととトンズラする準備をしていた。報酬は前払いで受け取っている、本隊が崩れ伏兵である自分たちに撤退命令も出せないような壊滅状態に陥っている以上、もう付き合う義理はない。だが、団長のラースは遣る瀬無い想いを抱え、独り前線に残って無意味と知りつつも鬱憤を晴らすべくひと暴れしていた。彼は「紋章持ち」という超常的なパワーを持った戦士のひとりだったのだ。しかし、侵略者たるガゼルダにも、当然のように紋章持ちはいる。3つあるランクの最上に位置する「神」の紋章を持った「エデルナ・エル・ガゼルダ」――「エル」は皇位継承権を持つ皇族だけが名乗る事を許された名であり、5人いる皇帝の子の中で「第二王女」に当たる存在。ラースの紋章は最下位の「獣」(ちなみに真ん中のランクは「竜」)であり、戦いは「エデルナの勝利」に終わった。しかしエデルナは「獣」にしては異例の強さを有するラースに興味を抱き、己の臣下にならないかと誘いかける。ガゼルダ帝国の第二王女と鉄狼団。この出会いが、やがてガララリアの歴史を大きく変えていく事になるのだが……。

 という感じで、まぁ非常にコッテコテな戦記ファンタジー小説。『魔弾の王と戦姫』とか、最近の作品だと『捕虜英雄』を思い出しちゃうよね。こっちの方は別に捕虜になったとかではなくて、王女からじきじきにスカウトされて「悪くない話だ」と納得し軍門に下る流れなんですけども。「戦いはエデルナの勝利に終わった」というのも力を示すための模擬戦みたいなものだし。

 ハッキリ言って読み始めの段階ではあまりにもコテコテ過ぎて面白いポイントを見出せず、「ハズレ引いちゃったかな?」という不安もちょっとよぎりました。プロローグとエピローグ、あと巻末の番外編を除くと本編は6章構成になっており、1章目が勧誘(エデルナとラースの模擬戦含む)、2章目が鉄狼団とエデルナが抱える部隊の模擬戦、3章目で「次の戦争」に向けて動き出して、4〜6章が策謀渦巻く「ルルベ大森林攻略戦」……といった具合であり、ぶっちゃけ前半はほぼ溜め回です。つまらないというほどではないが、大きく盛り上がる事もない。後半、「ルルベ大森林攻略戦」が始まってからが本番。鉄狼団の面々はいったい何を目的として戦っているのか? エデルナ第二王女が胸の裡に秘める想いとは? そして帝国の「敵」に当たる様々な国々の英傑たち……戦記要素が大いに盛り上がってきてワクワクします。

 ガゼルダ帝国は小さい国をどんどん侵略して併呑していっているワケですが、中にはなかなか攻略できず手こずっている大国も当然ながらあります。その一つが北の宗教国家「フーレイ法王国」。「神」を3人も抱えている(ちなみに帝国も姫将軍エデルナを含め神の紋章持ちが3名存在する)うえ高い国力を有しており、侵攻開始から随分と経っているにも関わらず陥落する気配がない。法王含む20人の権力者、言わば「二十人委員会」めいた連中が合議制で動かしている国だが、「何名かの要人が暗殺された」という噂も囁かれており、どこか不穏な空気が漂っている。そして帝国に抗うもう一つの強力な国が大陸東部の「獣王国」。この国には「神」が存在しないが、「特殊紋章」と称される「神の紋章に匹敵するパワーが宿った、文字通り特殊な紋章」を持った英傑が2名いる。「獣王」と「幻獣」。特殊紋章持ちを擁するだけではなく、「獣の紋章を持った兵士たちが他国に比べて多い」という特徴もあります。銃火器の発達によって戦争は帝国有利に進んでいるものの、そうした事情からなかなか攻め切れずにいる。更にガララリア大陸から離れた東の島国「東国」(そのまんまやん……)には「風神」と「雷神」、ふたりの「神」がいて……ってな具合に勢力図が明らかになっていき、「くぅ〜、これこれ、こういう戦記ファンタジーが読みたかったんだよね!」ってとても満足しました。たった1人で戦況を覆しうる「神」、ファンタジー戦記ならではのケレン味ですよね。

 まとめ。「リアリティがある」とか「重厚」とか「格調高い」とか、そういう路線ではなくて「ポップコーンやポテチを片手にコーラ流し込みながら鑑賞する」タイプの娯楽方面に振り切ったファンタジーです。「鉄狼団」という名称でオルフェンズの「鉄華団」をちょっと思い出したりしたが、オルフェンズにはこういう「クレバーに立ち回りながら彼らなりの目標達成を目指す傭兵団」みたいなのを求めていたんだよなぁ……と少ししみじみしてしまった。興趣を削がないよう、説明を省いた部分も多くあまり内容が伝わっていない気もするが、「アンリミで1巻を読み終わった直後に2巻を購入した」という事実から私がこのシリーズにどれだけ魅了されたかを察してください。2巻は獣王国との戦いにエデルナ軍が参戦、このままだと滅ぼされてしまうと危惧した獣王国は長年確執のある東国に頼み込み、極東の島国から2人の「神」がやってくる――というストーリー。程好くライトで程好くシリアス、テンポ良くサクサク進んでいくので面白いです。早く3巻以降も読みたいぜ。1巻には次巻予告があったけど2巻には3巻の刊行告知がなかったから、まだ決定してないのかな? 書籍版で読み始めたから最後まで書籍版で読み通したいが、状況によっては3章以降をカクヨムの方で読む事になるかもな……。


2026-10-20.

・『BanG Dream! Ave Mujica prima aurora』観てきた焼津です、こんばんは。

 近場でやってないからわざわざ隣県まで遠征して観に行ったぞ。去年の冬アニメとして放送された『BanG Dream! Ave Mujica』の完全新作劇場版です。「prima aurora」はラテン語で「夜明け前」の意味。総集編とかではなく全編オリジナルのまさに「完全新作」ですが、上映時間は僅か56分なので感覚的には映画というよりOVAですね。二章構成になっており、第一章はバンド「Ave Mujica」が「シークレットマスカレード」と銘打ったライブ&劇を開催する、という体裁で4つの曲を演奏する。バンドリファンには「フィルムライブ」と言えば通じるかも。第二章はストーリー物で、アニメ最終話の続き、そして来年やるマイムジTVアニメの前フリみたいな内容をやっています。復活ライブ(10月)の半年後、という事で一気に時間が経過して祥子たちも進級している。と言っても学園風景とかは描かれていないので「進級した」という感覚はあまりない。バンドリは「主要キャラが進級する毎にシーズンが新しくなる」のが通例になっており、それに沿うなら「シーズン4」の領域に差し掛かっています。TVシリーズ1期目〜3期目の主要キャラだった香澄たちは、留年していなければ既に卒業しているハズだ。と言ってもバンドリは今年からアプリを旧来の「ガルパ」と新規の「アワーノーツ」、2つに分ける作戦を採っており、アワーノーツの方にはどうも「シーズン」という概念がなさそうな雰囲気なんですよね。それぞれのバンドのストーリーが時系列バラバラで語られていて、足並み揃えて合流するのはだいぶ先になりそうな感じ。話をprima auroraに戻すと、Ave Mujicaはこれからどうしていくべきのか? という方針を巡って話し合うが、ハッキリした結論が出ないまま幕が引かれる。そのため「えっ、もう終わり!?」という感じです。ストーリーを期待して観に行くとガッカリかもしれません。

 その代わり、と言っては何だが第一章のライブシーンは圧巻で観応え&聴き応えが存分にあります。私が行った回はシアターがガラガラで、私含めて片手で数えられる程度の観客しかいなかった事もあり、ほぼ貸し切りに近い感覚で堪能する事ができました。臓腑にまで浸透してくる大音響、そして佐々木李子の圧倒的な歌唱力に酔い痴れ、ムジカメンバーたちの顔面つよつよぶりにウットリ。まさしく「映画館でしか味わえない体験」で満足しました。スタッフロールでひたすら「Diggy-MO'」という文字列が続く箇所は見ていて笑ってしまった。「BADDY BADDY」が好きなのでもう一回聞きたい。

 「上映時間が短い(56分)」「特別興行扱いなので鑑賞料金が高い(各種値引きサービスの対象外で1900円、ムビチケ使っても1700円)」、この2点を承服できるならムジカアニメが好きな人には充分推せる一本。だが、平日とはいえ公開初日であのガラガラっぷりとなると、興行的にはかなりヤバいんちゃうかな……と危惧してしまう。新作が公開される23日以降はグッと回数を減らされると思うので、気になる人は早めにチェックしておいた方が良さそうです。

・「ゆめねこねくと」TVアニメ化、ティザーPV公開 小林裕介が遊日役、篠原侑がナノ役(コミックナタリー)

 「マガジンのTo LOVEる」こと『ゆめねこねくと』がアニメ化! 連載開始当時から目を付けていた漫画だけに嬉しい。一昨年(2024年11月9日)の日記で触れているから引用しておこう。

 『ゆめねこねくと』は簡単に言うと「『To L〇Veる』+『ドラ〇もん』」なドタバタエロコメディ。秘密道具ならぬ宇宙商品を与えられた主人公の周りで巻き起こるエッチな騒動を勢いのある筆致で小気味良く描いており、「これはアニメ化待ったナシだな」と確信させてくれる。新人なので若干画力が不安定なところはあるが、それすら気にならなくなっていくほどノリがばっこり抜群で面白い。今ならマガポケで最新話以外無料公開中です。ギャグもエロも高水準なうえ魅力的な女の子がどんどん増えていくのが嬉しいよね……ドラ〇もんポジションのナノは順調にヒロイン力が低下していっているが、委員長や先輩といった魅惑的なキャラたちがアツいデッドヒートを繰り広げていて目が離せない。ノリは異なるけど『よわよわ先生』や『カナン様はあくまでチョロい』、『生徒会にも穴はある!』と肩を並べて「講談社えっちコメディ四天王」となり得る資質があります。(引用ここまで)

 掲載はマガジンなのでTo LOVEるに比べるとネタがより下品というか、シモに振り切った印象です。「珍宝閣四人衆 チンフォー」というエピソードタイトルを見ただけで何となく察してもらえると思います。アニメは原作以上にお色気要素を増やし、「毎回乳首を出す」と監督自ら宣言している。なんて頼もしいんだ……この調子で『聖なる乙女と秘めごとを』(あまりにもエロすぎるというか普通にセックスしまくってるのでマガポケなどのアプリでは配信できない漫画)もアニメ化して欲しい。

・こかむも「ぬるめた」TVアニメ化、2027年に放送開始 スタッフ&ビジュアル公開(コミックナタリー)

 遂に『ぬるめた』がアニメ化だ。「こかむも」による4コマ漫画で、掲載誌は“まんがタイムきららMAX”。4コマ漫画はページあたりのネタ濃度が高いため、だいたい2巻くらいあれば1クールアニメにできる事もあり、人気作は2、3巻くらいで「アニメ化決定!」の報が流れるのが通例です。『きんいろモザイク』は2巻が出た8ヶ月後くらい、『ご注文はうさぎですか?』は2巻が出た9ヶ月後くらいに発表していましたね。『けいおん!』なんて2巻が出る前にアニメ化を発表しています。逆に遅かった事で有名なのは『三者三葉』、11巻が出た後という異例過ぎる遅さでした。

 『三者三葉』ほどではないが、『ぬるめた』は今年の1月に6巻が出ており、きらら系の作品としてはかなりアニメ化が遅い部類に属します。公式も「アニメ化しないままついに第6巻!」とイジっていたくらいです。さておき、『ぬるめた』の内容は見た目が人間そっくりの人造人間(正式には「人工生命体ヌルロイド1号」)「くるみ」が普通の女子高生たちの輪に混ざって駄弁ったりドタバタ騒ぎを繰り広げたりする、既存の作品で喩えるなら『日常』+『ゆゆ式』な学園コメディです。もともとはニコニコ静画等の投稿サイトに掲載していた趣味の漫画を商業化したモノで、旧バージョンは『ぬるめた アーキタイプ』というタイトルでまだ掲載続行しているから興味のある人は読んでみてください。

 監督の「五十嵐海」はTRIGGER所属のアニメーター兼演出家で、今月『五十嵐海ラクガキ画集』という本も出す予定。シリーズ構成は「��橋龍也」、もうすっかりアニメ脚本家としての仕事が板についてきたな……『きんいろモザイク』の頃にはもう脚本家として活動していたし、そろそろ「ベテラン」と言っていい領域に立っているだろう。「日常アニメは海外ウケが悪い」みたいなジンクスがあるけど、果たしてこれはそのジンクスをブチ破る突破口になるだろうか。

・道尾秀介の『I(アイ)』を読んだ。

 シンプル過ぎるタイトルに戸惑う人もいるであろう本書、「ゲオスミン」「ペトリコール」という2つの物語によって構成されるサスペンス小説です。「仕掛け」小説の一種で、読む順番によって結末が変わる……というのがセールスポイント。冒頭で「どちらかの順番で読むと、二人の主人公を含め、多くの人が命を失います」「別の順番で読むと、彼ら(彼女たち)は生き残ります」「殺すか、救うか」「あなたの選択が、人の生死を決定します」「後戻りはできません」と仰々しい警告文のようなものが記されており、「仕掛け」がある事は堂々と明かしています。道尾秀介は以前、『N(エヌ)』という「6つの章の読む順番を変える事で720通りの物語が生成される」奇抜な本を出しており、それの精神的続編みたいな一冊です。話そのものの繋がりはない……ハズ。ぶっちゃけ私は『N』をまだ読んでいません。買ってはいるのだが、積んでる。「そろそろ『N』と『I』を崩したいな〜」って気持ちがふと湧き上がって来て、最初は刊行順に沿って『N』から崩すつもりだったのですが、「6つの章のどれから読み出すかを考えるのが面倒だな……エピソードが2つしかない『I』の方を先に崩すか」と日和ってしまったのです。こっちなら「ゲオスミン」→「ペトリコール」か「ペトリコール」→「ゲオスミン」、2種類の読み方しかないですからね。

 かなり変わった印刷法を取っており、上下逆の章を互い違いに繋ぎ合わせたような製本になっています。『倒錯の帰結』や『ダブル・ミステリ 月琴亭の殺人/ノンシリアル・キラー』、『風の裏側』あたりを知っていると「ああ、ああいうヤツか」ってピンと来るかもしれません。ただ、こういう製本だと普通「表紙(裏表紙)から読み始めて、本の中央で2つの章が合流する」形式になる事が多いんですが、『I』は本の中央部分にそれぞれの章の冒頭があって、表紙(裏表紙)に向かって……つまり、「必ず本の真ん中から端に向かって読んでいく」形式になっています。他の本と同じように表紙から読み始めようとすると上下反転した状態で章の結末部分が出てくるんですから「なんだこれ?」と驚くこと請け合いだ。

 それぞれの章の内容を簡単に説明しましょう。

 「ゲオスミン」 … 語り手は男性。娘の死が原因で夫婦関係が壊れ、妻とは別居中。仕事も休職しており、フラフラと街を彷徨っているような状態。彼はある時「野宮」と名乗るホームレスと知り合う。野宮は元刑事で、彼も娘の死がキッカケで人生の歯車が狂ったらしい。どちらの娘も、その死は自らの選択……つまり自殺だった。まるで運命が引き合わせたかのような二人は、互いにシンパシーを抱くが……。

 「ペトリコール」 … 語り手は少女。両親を惨殺され、姉は失踪中というハードな過去を背負っている彼女は、バイト先の先輩である「堀口」に惹かれていた。どこか一歩引いたような態度を取る堀口にグイグイと迫り、何とか動物園デートに漕ぎ着ける。どこかミステリアスな雰囲気を放っている堀口は、デートの最中にその理由を告白する。「俺、戸籍がないんだよね」 何らかの事情で出生届が提出されないまま成長した「無戸籍者」――免許が取れず、結婚する事もできない、そんな、日本に約1万人は存在すると推定される人々の一人だったのだ……。

 ネタバレにならない範囲でざっくり解説しますと、作中の時制を曖昧にしているため「ゲオスミン」→「ペトリコール」の順で読むと「ゲオスミン」の出来事が過去になり、「ペトリコール」→「ゲオスミン」の順で読むと「ペトリコール」の出来事が過去になる……この「認識の差」を利用してそこにトリックを仕込んでいるワケです。どんなトリックかは本書の肝なのでさすがに伏せておきます。

 道尾秀介はベストセラー作家として鳴らしてきただけあって文章は非常に読みやすく、「仕掛け」抜きで読んでも充分に面白いです。少女視点の「ペトリコール」でどうしても文体に隠し切れぬ「オッサン臭さ」が漂う箇所もありますが、そのへんは些細な問題だ。しかし、やはりと申しますか、「仕掛けのための仕掛け」みたいになってしまっているぶん、小説として見ると少々イビツなところが出てしまっているな……という感覚も否定できません。「A→Bの順で読むとAが過去になる」という趣旨の事を書きましたが、あれはあくまで理屈であって、Aの後にBを読んでいる最中「BってAの過去であっても話が成立するのでは?」って思考がどうしても脳裏をよぎってしまうんですよね。「騙し絵の見方」をうまく切り替えられない感じに似ていると申しますか。なので、「仕掛け」自体は凝っているんだけども存分に機能しているかどうかで言うと若干怪しい、と言わざるを得ません。正直、この「仕掛け」が煩わしいという読者も出てくるでしょう。

 結論。「仕掛け」にあまり期待し過ぎるとガッカリするハメになるかもしれませんが、それ抜きでも小説として面白いのでオススメかどうかで言えば断然オススメ。こういう「どちらから読んでもサプライズがある」形式のミステリは過去にも存在しており、例えば吉村達也が『金閣寺の惨劇』と『銀閣寺の惨劇』を「双方向ミステリ」と謳って出しています。それぞれ別々の事件を描いているのですが、両方読む事で隠された「真相」が浮かび上がる。まぁ正直、この『I』に比べると「仕掛け」はチャチい部類でしたが、あれはあれで味わいがあったので現在は電子書籍も出ておらず古本屋で探すしかないというのは悲しいな。世間的な評価はあまり高くなかったが、私ヨシタツのミステリが結構好きだったんですよ。「朝比奈耕作」シリーズとか「氷室想介」シリーズとか。ホラー文庫から出てた『ふたご』とか。地味なところだと会社ミステリの『それは経費で落とそう』も好き。

・拍手レス。

 正直な話、ここまで古い漫画や平成期のエロゲのリメイクや新作が出るのなら、平成期のヒットしたラノベ(完結済)のテレビアニメ化とかの企画が出てもいいと思う。それこそ野村美月の文学少女は劇場アニメ化までしたんだから。ラノベのアニメはリメイク以外は刊行中の作品しか出来ないとかそういう縛りあるのかな?

 今のアニメは「海外配信でリクープ(利益回収)する」モデルが主流らしく、アニメのプロデューサーが集まると「海外でウケるかどうか」という点をまず気にするそうです。完結済で、リメイクじゃない=一度もアニメ化していないラノベとなると、「海外ウケ」は狙いにくく、また原作ファンの購買力も期待できないから現実的には難しいんじゃないかと……、



管理人:焼津