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2026-08-12.

「ドカ食いダイスキ! もちづきさん」TVアニメ化!制作はパッショーネ(コミックナタリー)

 もちづきさんがアニメ化する事自体は、作品がメチャクチャな勢いでバズっていたし、先月頃から公式が匂わせるようなポストしてたから特に驚きはない……が、またパッショーネか! 『生徒会にも穴はある!』、『FX戦士くるみちゃん』、『ニセモノの錬金術師』と、ここのところ話題作な漫画のアニメ制作告知でたびたび目にしていたスタジオです。『異種族レビュアーズ』や『ぬきたし THE ANIMATION』を作ったところ、と書いた方がわかりやすいだろうか? 「ヤバいアニメをよく手掛けるスタジオ」というイメージになりつつある。

 『ドカ食いダイスキ! もちづきさん』はややぽっちゃり気味な主人公「もちづきさん」(本名は「望月美琴」)が仕事や日常生活で受けたストレスを趣味の「ドカ食い=過度な暴飲暴食」で発散させる、という「健康は投げ捨てるもの」なホラー食事コミック。路線としては『てんむす』など一時期流行ったフードファイト物に近いが、もちづきさんは別に誰と競うでもなく、純粋に趣味で大食いをしている。「ドカ食い趣味がバレるのは恥ずかしい」という想いもあるのか、家族にさえ隠そうとしています。その摂取カロリーは凄まじく、一日で5000キロカロリーを超える事も……もはや「命を削る」レベルにまで達している。おかげで「死神さん」が半レギュラーキャラと化している始末だ。

 真似すると危険というか、真似したくても日本人の胃袋にとってコレはキツいんじゃないですかね……肥満率の高いアメリカならそうでもないのかな? アメリカ人の摂取カロリーは、よく食べる人だと4000キロカロリーに及ぶそう。食べたぶんだけ運動すればまだマシなんですが、もちづきさん、デスクワークのうえプライベートでもあんまり運動してないんだよな……あらゆる臓器が悲鳴を挙げてそう。「打ち切りが決まったら主人公死亡エンドになる」とも噂されている本作、何とか生きたまま最終回を迎えて欲しいものだ。

「Destiny Unchain Online」TVアニメ化、吸血鬼少女になったゲーマー少年の青春冒険譚(コミックナタリー)

 公式略称は「DUO」。フルダイブ型のMMORPGをやり込むという、平たく言えば「シャンフロみたいなやつ」です。原作は小説ですがたった3冊しか書籍化されておらず、コミカライズの際にかなりアレンジされているらしい(小説版は未読)ので、たぶん漫画版準拠でアニメ化されると思う。シャンフロとの違いは「主人公の容姿が可愛い事」ですね。主人公の「満月紅(みつき・こう)」は中学3年生の少年、もともと中性的な顔立ちだったが、父親の開発したゲーム「Destiny Unchain Online」にテスターとして参加したところ、バグか何かでアバターが女の子になっちゃった! という一種のTS物です。

 フルダイブ型のゲームで肉体的な性別を変更すると「リアルに深刻な影響が出る」という理由で禁止されているハズなのだが……しかも父親は「3ヶ月ずっとログインし続けてくれ。あっ、学校はログインしたままオンライン登校できるから」と言い出す。ふざけるな、と思いながらログアウトしようとしたが――ログアウトできない! ってな感じで「デスゲーム要素はないけどログアウト不能なプチSAO」状態です。「父親が茅場晶彦」とか、あまりにイヤすぎる……説明が面倒なので「正体は男」という事実を隠し、謎の美少女ゲーマー「クリム」(紅=クリムゾン、でクリム)となり、レア種族「ノーブルレッド」(要は吸血鬼)としてその名を轟かせる紅。彼はいつしか「赤の魔王」と呼ばれるようになっていた……ってところから副タイトルの「吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました」が来ています。

 漫画版1巻ラストの仄めかしからすると紅の母親はホンモノの吸血鬼(真祖?)で、父親が人間だから紅はハーフヴァンパイアに当たるっぽく、ゲーム内アバターが女の子になったのも「肉体の性別が可変」ゆえじゃないかと予想され、精神に釣られて現実側の肉体まで女の子になりつつあるようだが……本編はずーっとゲーム攻略に話が費やされており、最新刊で母親の話が出てきたから久々に思い出したというか、リアル周りのアレコレは「そういえばそんな設定もあったっけ」レベルに記憶があやふやになっていました。まだ期限の「3ヶ月」が経過していないし、ハーフヴァンパイア疑惑云々は一旦棚上げしてもOKです。

 紅の知り合いもゲームをプレーしており、「古谷聖(ふるや・ひじり)」(プレイヤーネームは「フレイヤ」)が一応ヒロインのポジションに位置している……が、シャンフロ同様「ヒロイン(?)」状態であり、ラブコメ要素はほとんどありません。フレイヤちゃん、おっぱい大きいし可愛いんだけど、個性はそんなにないんだよな。他に弟子ポジションの子など多彩なキャラクターが次々と登場するため、「進めば進むほど面白くなる」あたりはシャンフロと共通している。個人的に好きなのはメンバー全員が褐色バニーで統一されている「黒兎組」というギルドなんだが、確か登場が9巻あたりなのでアニメだと早くても2クール目あたりの登場になりそうなんだよな。シャンフロ並みに長く続くアニメになって欲しい……まだ制作スタジオもメインスタッフもキャストも何もわかってないので何とも言えないが、気合の入った作画してくれるところだと嬉しいです。やはり「絵の良さ」が魅力の一つですからね。

・岡崎隼人の『ハンドレッドノート 名探偵 司波仁の事件簿』読んだ。

 こいつの千里眼について、「ギフテッド」だの「天賦の才能」だの言うやつがいる。
 んなわけあるかよ。仁の体はきっちりツケを払わされてんじゃねえか。ギフトどころか、これは一種の呪いじゃねえか? むしろこれさえなければ、仁は名探偵なんて因果で危険な仕事に就かなくてもよかったんじゃないか? そんなことすら思う。

 20XX年──少子化対策の成功・一極集中化・移民によって人口爆発が起こり、3000万人を突破したTOKYOは治安も最悪となり、「犯罪都市」の汚名を蒙っていた。処理能力がパンクした警察は完全にお手上げ状態となり、民間の探偵組織に捜査活動を外注(アウトソーシング)し始めた。日本一の民間探偵組織、それが「ネスト」である。ネストは捜査活動に従事する構成員を「名探偵」と呼び、なんと既に100人もの「名探偵」を擁していた。推理能力以外はいろいろと欠如しているモノが多い「名探偵」たちを支えるため、「記録者(レコーダー)」という補佐役を2名ずつ配属させ、「3人1チーム」を原則としてあらゆる事件捜査の依頼を受け付けている。「司波仁(しば・じん)」も「名探偵」の一人であり、現場に残された様々な痕跡を即座に見抜くその能力は「千里眼」と呼ばれていた。ゆえに仁をトップとするチームの名称は「ホークアイズ」である……と、こんな感じの設定でお送りする「ちょっと緩めのJDC」なシリーズの1冊です。漫画版も複数あるが、これは小説版。

 『ハンドレッドノート』は講談社が展開するメディアミックス的なシェアワールド企画であり、YouTubeやTiktokでの動画配信を主体としている。なので名探偵を補佐するメンバーが「助手」ではなく「記録者」と呼ばれているワケだ。企画の開始が2023年5月なので、そろそろ3年が経ちます。動画配信以外だとコミカライズが盛んで、マガポケ読んでるとたまに「1話目を読んだらポイントプレゼント」で作品を見かける。ネスト所属の名探偵チームには序列があって、事件解決の功績に応じてランキングが決まる。本書の主人公である仁のチーム「ホークアイズ」は序列21位。他のチームは序列100位(つまり最下位)の「アグリーダック」、序列63位の「コフィンロビン」、序列50位「ナイトアウル」、序列17位「スワロウテイルズ」、序列9位「クラウンクレイン」といった感じ。ホーク(鷹)、ダック(アヒル)、ロビン(駒鳥)、アウル(梟)、スワロウ(燕)、クレイン(鶴)――チーム名は全て鳥類で統一されています。序列1位のチームは今のところ公表されていないが、「エンペラーペンギン」だったりするのか……?

 シェアワールド物ですが、「舞台は近未来(スマホがもう使われていなかったり現金が珍しくなっていたりする)」、「警察の検挙率がダダ下がりしているせいもあって民間の探偵組織が権威化しつつある社会」、「ネストは一般の依頼も引き受けているが警察からの委託で動く事もある」、このへんの設定さえ飲み込んでおけばどこから読んでもOKです。司波仁は『ハンドレッドノートーホークアイズー』というコミカライズでも主人公を務めているが、そちらも話としてのダイレクトな繋がりはない(舞台とキャラクターが共通しているだけでエピソードはそれぞれ独立している)から別に読む必要はない。読んでおくとビジュアルイメージを掴むのが楽、という程度。コミカライズ読んだり動画を見たりすればすぐわかりますが、このハンドレッドノートという企画、基本的に女性向けなんですよね。なのでこの小説版からいきなり読み出すと表紙を飾っている仁以外のビジュアルイメージが大きくズレてしまう可能性が高い。実際、私も読み終わった後に「枯柳杖道(かれやなぎ・じょうどう)」の容姿を確認して思わず叫んでしまった。「どこが『おっさん』やねん! Vtuber並みの若々しいルックスやないか!」と。ちなみに年齢設定は30歳です。

 ぶっちゃけ『ハンドレッドノート』という企画そのものにはほとんど関心がなかった。マガポケやコミックDAYSでポイント欲しさに各コミカライズを1話だけ読んだりしているが、ほとんど流し読みに近いため内容もあんまり覚えていない。ホークアイズの話も複数回読んでるハズだが、キャラ名を全然記憶していなかった。「じゃあなんでこの本読んだんだよ」って話になりますが、単純に作者の「岡崎隼人」が好きだからです。メフィスト賞作家で、デビュー後長らく沈黙していましたが、少し前に復活してポツポツと新作を出している。

 本書『名探偵 司波仁の事件簿』は連作短編の形式を採っており、プロローグとエピローグを除くと4つの事件を取り扱っている。それぞれの事件は独立していますが、進むにつれて作中の人間関係が変化していくので頭から順番に読む事をオススメします。エピソードごとに語り手が変わるのも特徴の一つか。

 冒頭一発目の「第一話 祝福された子供たち ―司波 仁の憂鬱―」はチュートリアルめいたエピソード。「この作品はこういうノリでお送りします」とわかりやすく伝えてくれる。金持ちや犯罪者など、後ろ暗い事をしてあぶく銭を稼いでいる連中たちを襲撃し、大金を奪っていく強盗グループ――通称「影法師」。防犯カメラで撮影された映像から、実行犯のほとんどは年端も行かない子供たちだと推測されている。警察の威信をかけて捜査に取り組んでいたようだが、遂に音を上げたらしく、ホークアイズにお鉢が回ってきた。現場に臨場した仁は、すさかず床に「SOS」の文字が残されている事を見抜く。被害者の指によって書かれたモノだが、被害者は頭部を撃たれて即死しており、とてもダイイングメッセージを残せるような状態にはなかった。じゃあ誰が残したメッセージなのか? 仁の千里眼は現場に残留した「もう一つの手掛かり」を見逃さなかった……スピーディな展開で読者の興味を惹き、映像向けの派手な大捕り物もキチンと織り込んでいるお手本のような一本。この事件を経てホークアイズは「凪人」と呼ばれる孤児を引き取る事になります。本書はこの凪人の成長譚といった側面もある。

 「第二話 squeed!!!!!!!!! ―物怪瑠衣の当惑―」は視点を「記録者」の一人、「物怪瑠衣(もののけ・るい)」に変更して進行する。「squeed(スクウィード)」というシューズのブランドが流行し、「エアマックス狩り」さながらの「squeed狩り」が横行して世間を騒がせていた。squeed狩りの被害によって意識不明の重態になった青年「藤本圭吾」の姉「沙良」は「弟を襲撃した犯人たちを捕まえて欲しい」とホークアイズに依頼する。捜査を進めるうち、瑠衣の中で疑問が膨らんでいく。姉が心臓の病気を抱え、治療費が家計の負担になっているため進学を諦めるほどだった圭吾が、なぜ高価で数も少ないsqueedの靴を履いていたのか……? 非常にわかりやすく伏線を敷いているおかげで意外性とかは全然ないエピソードだが、依頼人である沙良のセリフが印象に残る。

 「第三話 夢の護り手 ―枯柳杖道の後悔―」。視点はチーム最年長の杖道に移る。両親がドラッグディーラーで、警察に捕まった事から児童養護施設に送られる運びとなり、そこで壮絶なイジメに遭って施設を脱走、「ハレルヤモール」という大昔に潰れたモールの跡地に築かれたスラムで少年時代を過ごした「早瀬匠海」。そんな過酷な生い立ちにも関わらず、必死にバスケの腕を磨いてプロ選手になった彼は地元にとって「期待の星」だった。しかし、チームのトップリーグ昇格をかけた大事な試合だというのに、匠海の動きは鈍かった。調子が悪いのか? 否、仁の千里眼が出した答えは違った。「わざと手を抜いている」――地元の星の八百長疑惑を巡るエピソードです。これもストーリー展開は割とシンプルで、意外な展開とかはない。試合開始後に「事件」を察知し、試合が終了するまでに素早く解決するRTAぶりを楽しむべし。

 ラストを飾る「第四話 star, dust, stardust ―柏手凪人の告白―」は第一話の事件関係者だった凪人を視点に据えて展開し、「ゴミは一生、ゴミのままだ」という諦念に立ち向かっていく締め括りのエピソード。凪人にとって「古巣」に当たるハレルヤモールが何者かによって襲撃された……ミラーレンズつきのフェイスマスクで顔を隠し、迷彩柄のタクティカルジャケットで武装した、体格からして男とおぼしき襲撃犯は夜中にモール跡地へ侵入し、寝ている子供たちを撃って回った。使われたのは非殺傷のライオットガン、「非殺傷」とはいえプロボクサーのパンチ並みの威力があり、直撃すれば骨折、当たり所が悪ければ死亡する事もありえる。状況からして人狩り(マンハント)の「ゲーム」をやっていたと考えられるが……これも事件自体はごく単純で、推理要素はそんなにない。行き場を失い逃げてきた子供たちの吹き溜まりであるハレルヤモールを蹂躙しようとした犯人たちに叩きつけた凪人の「答え」。胸糞の悪い事件ながら、読後感は爽やかです。

 石田衣良のIWGP(池袋ウエストゲートパーク)シリーズと、大沢在昌がたまにやってるSFっぽい設定のハードボイルド(『B・D・T [掟の街]』とか『影絵の騎士』の「ヨヨギ・ケン」シリーズみたいな)をミックスしたが如き読み口で、なかなか好みの一冊でした。一個一個の事件はそこまでインパクト大きくないのだが、いろんな要素を詰め込んでコンパクトにまとめる手際が良い。「メディアミックス物だから……」「シェアワールド物だから……」と敬遠せず、「近未来の探偵モノ」がイケるクチの人なら是非とも試してみて欲しい。ただ、全体的にあっさりめの文体で、「おっさんは言った」とか「おっさんが言う」みたいなテキストが頻出するから、読み応えのある文章を期待すると少し辛いかもしれない。表現技法の一種とはいえ、「言った」「言う」というテキストが10回も出てくる83ページはさすがにやりすぎだと思いました。

 シェアワールド物だけど、他の探偵チームやネスト本部に関する描写が出て来ないところも「読みやすい」と感じる一因になっているかな。「100人もの名探偵が在籍している」という設定から清涼院流水のJDC(日本探偵倶楽部)シリーズみたいなノリを期待すると肩透かしかもしれませんが、逆にそのへんの設定にヒいちゃっている人はコレを読んでみて「あっ、割と普通の話なんだ」と気付いてみるのも一興。作者のファンは、「メチャクチャ面白い」というほどではないにしろ普通に楽しめるでしょう。いやホント、良くも悪くも「普通におもろい本」なんですよね……これといってネタ的な要素がないので、ハンドレッドノートや岡崎隼人に興味がない方にはアピールするポイントが少ないと申しますか。アニメ好きよりも海外の刑事ドラマ好きの方が肌に合うかも。

・拍手レス。

 星を継ぐアイドルは本当に人が死ぬタイプのライブで驚きましたねー。今後の展開が楽しみです

 まだアニメ化とかは期待する段階ではないので、差し当たって「打ち切られませんように」と祈っています。

 自分のファースト東野圭吾は『分身』でしたね。レモンを丸かじりというフレーズが子供ながらに印象に残りました。ここ数年は、それまでやってなかったジュブナイルへの挑戦(クスノキの番人)などもしていたので、高齢作家の二度目の羽化を期待していました。非常に残念。

 『分身』は積んでますね。たぶん実家の書庫にあると思うので今度捜しに行こう。ガリレオ以外の「加賀恭一郎」シリーズや「マスカレード」シリーズ、「五代努」シリーズが全部宙に浮いてしまった事を思うと残念でならないです……。


2026-07-29.

・ヤングアニマルの新連載『星を継ぐアイドル』、もちづきさんの最新話を読みに訪れた際、視界に入ったので何となく読んでみたが「またトンデモない漫画が始まったな!?」とブッ飛んだ焼津です、こんばんは。

 原作は『魔法少女イナバ』の「猫にゃん」。さすがに2作も連載を並行させるのはキツいからか、作画は別の人になっています。作画担当は「橘夏々」。ストーリーは「娯楽一切禁止でスマホの所持すら許されず厳しく育てられたお嬢様『綺羅星 耀(きらぼし・かがや)』、彼女はふとした事から往年のアイドル『セイコ』の動画を見てしまい、その輝きに目を焼かれてしまう……」という、「ほーん、抑圧されているお嬢様が『自分らしく』生きるためにアイドルを目指すストーリーなのね。わかりやすいっちゃわかりやすいけど、ありがちかな」って代物なんですが、進むにつれ加速度的に話がおかしくなっていく。

 「あの学園では アイドルとしての才で 人の価値が決まる」「入学すれば スタァになるか さもなくば死」「当学園では 日本国憲法及び刑法を採用してませんニャ」――なんとまぁ『魁!!男塾』とか『七つの魔剣が支配する』みたいなノリの漫画なのである。2話目で人を殺そうとするアイドル候補生とか普通に出てくるしな……こいつも気が付いたら飛影みたいにしれっと味方ポジションに収まっていたりする可能性もあります。まだ始まったばかりなのでここからブレイクするかどうかはわからないが、以前「マガポケ」でやってた『雄(オス)!マスラオ学園』に次ぐくらいのインパクトはあった。

 ちなみに、タイトルの元ネタとおぼしきホーガンの『星を継ぐもの』とは今のところ何の関係もないが、このテンションなら「月面編」に突入しても不思議ではない気がする。月人(ルナリアン)アイドル「カグヤ」、「耀(かがや)」といい感じで対になりそうだから案外冗談ではないかも。

亜月ねね「みいちゃんと山田さん」2027年アニメ化!2人の声が入ったスペシャルPV(コミックナタリー)

 最近のアニメ界はあまりにもバーリトゥード(何でもあり)すぎるな……まさか『ヤニねこ』に続き、コレまでアニメ化するとは。

 「みい山」こと『みいちゃんと山田さん』はもともとツイッターで連載していた個人制作マンガで、Kindleインディーズ(要するに同人)を経て講談社の「マガポケ(マガジンポケット)」というアプリで連載し、商業化した作品です。商業化の際にスケールが膨らんでおり、単行本はこれまでに6冊出ている。連載はもうすぐ終了なので、7巻で完結です。

 ストーリーは語り部の「山田さん」が墓参りをするシーンから始まり、2012年1月、まだ山田さんが歌舞伎町のキャバクラで働いていた頃まで遡る。墓参りの際に「もうあれから何年経ったんだろうね?」というセリフがあるので、「現在」は概ね2020年前後と思われます。山田さんはキャバクラの店内で「みいちゃん」と呼ばれる子に出会う。本名は「中村実衣子」。源氏名と本名を使い分ける事もできず、トンチンカンな受け答えばかりしていたみいちゃんは、やがて何者かに殺され、死体となって発見される。そんな感じで、山田さんがみいちゃんと出会って別れるまでの12ヶ月間を綴るストーリーです。

 殺人事件が絡んでくるが、別にミステリではない。強いて言えば『嫌われ松子の一生』『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』に近いかも? 山田さんとみいちゃんの交友をメインに描きつつ、みいちゃんがこれまで辿って来た人生の道のりを振り返っていく。描き込みの少ないあっさりした絵柄なのでビジュアル的なインパクトは薄まっているが、内容は割とえげつない。路線としては『闇金ウシジマくん』寄りです。みいちゃんは何らかの障害があるのではないかと思われるが、本人も家族もそれを頑として認めようとはしないため、明確な診断は下されない。若葉睦の「モーティス」と一緒で、いくら「症状」があっても診断を受けないかぎり、病気や障害は「ない」扱いになってしまう。そういうセンシティブな題材を選んでいるが、お世辞にも慎重な手つきとは言えず、「煽情的」「悪趣味」という誹りは免れない内容です。読んだ人の間でも好悪の差が激しく、大っぴらに「好き」とは言いにくい漫画だ。私は「嫌い」というほどじゃないが、じゃあ「好き」なの? と訊かれると返答に困る。率直に言って「嫌いじゃないけどそんなに何度も読みたくはない漫画」です。

 それはそれとしてCV、山田さんの方は「潘めぐみ」だろうけど、みいちゃんは誰かわからないな。相変わらず私の音感は弱い……よほど特徴のある声以外は当てられない。一発で聞き分けられる声ヲタってスゴいっスよね。

ゆずソフト『千恋*万花』が2027年アニメ化決定。原作キャスト完全続投、主題歌はKOTOKOが担当(電撃オンライン)

 「期待はしていたけど実現するとは思ってなかった」な1本だ。『千恋*万花』は「ゆずソフト」が2016年に発売したソフトであり、もうかれこれ10年前になる。和風伝奇っぽいノリで、ある意味『E×E』のリベンジみたいなところはあるかな? 世界展開に成功したとかで、全世界セールスは100万本に到達していると云う。スゴい。そりゃアニメ化もするわ。

 エロゲー、婉曲表現すると「美少女ゲーム」は翻訳含むローカライズが成功すると海外でもセールスが結構伸びるらしく、「今が一番売れている」というブランドもいくつか存在するらしい。国内市場ではかなり存在感が減っていてしょっちゅう衰退論が唱えられるエロゲー界だが、まだまだ滅びるのは先の話のようだ。

 しかし、10年前のソフトがアニメ化するなら「あれも。これも」と期待してしまうな。近い時期のソフトだと『時計仕掛けのレイライン』、『見上げてごらん、夜空の星を』、『サクラノ詩』、『オトメ*ドメイン』、『千の刃濤、桃花染の皇姫』、『景の海のアペイリア』、『金色ラブリッチェ』あたり?

  ふたたび還って来るというのか、エロゲー原作アニメの黄金時代が……。

作家・東野圭吾さん死去、68歳 映像化作品多数『容疑者Xの献身』『白夜行』『マスカレード・ホテル』『流星の絆』…(オリコンニュース)

 は? 嘘でしょ?

 あまりにも唐突なニュースでそれ以外のリアクションが思い浮かばなかった。どこかのタチの悪いジョークに引っ掛かってしまったんじゃないだろうな……と震える手でチェックしたが、どうも本物のニュースらしい。絶句しました。言わずと知れた「ガリレオ」シリーズの原作者であり、100万部を突破した著書は数知れず。3年前に「国内累計発行部数1億部突破」の報も流れた、小説家としては最強クラスのベストセラー作家です。それがまさか、60代の若さで亡くなるとは……タイプする指から力が抜けてしまう。

 長々と綴る気力もないので手短にまとめますが、私が彼の著書を読んだのはEVAの旧劇場版『シト新生』公開日だった。上映まで少し間があるので、それまで時間を潰そうと手に取ったのが『変身』だった。なんで選んだのかは思い出せない。正直、時間を潰せれば何でもいいとさして深い考えもなく掴んだ気がする。結果、ほとんど総集編に近かった『シト新生』よりも遥かに衝撃を受け、そこから東野作品の数々を貪るように読み耽った。1997年、もう30年近くも前の事だ。

 東野圭吾がブレイクしたのは1998年の『秘密』がヒットしたからで、それ以前はごくマイナーな扱いだった。本好きの集まりに出て「いま東野圭吾にハマってる」と熱心に語ってもほとんどは「誰それ?」といううっすい反応。辛うじて知っている人がいたとしても「あー、乱歩賞作家の。読んだ事はないな」で話が終わってしまう。「マジでスゴい小説家なんだよ!」と熱弁しても「ふ〜ん」と暖簾に腕押しで、誰も読もうとしてくれなくて悔しい思いをした。ゼロ年代に入ってからはそんな状況が嘘みたいにヒットを飛ばしまくったが、鳴かず飛ばずで読書家にすら顧みられなかった時期があったんですよ……ハァァ〜、溜息しか出ない。受け容れ難い想いが強く、冥福を祈れるようになるまでもうちょっと時間が掛かると思います。今はただ目を閉じ無心で合掌するのみ。


2026-07-25.

『機動戦士ガンダムRG XARX-ZERO(アレックスゼロ)』……遂に公表されたガンダムの新作は監督・シリーズ構成「神山健治」、SF設定監修「円城塔」! まさかの神山・円城ガンダムだ! 予想できるかこんなもん!

 神山健治は90年代頃から「Production I.G」で活動している演出家で、代表作は『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』。他だと『精霊の守り人』や『東のエデン』でも監督をやってるが、ここしばらくは目立つ仕事やっていなかったから完全にマークを外していた。仮に何か出るとしても攻殻関連かな、と思ってたし。円城塔はハヤカワ出身のSF作家で、文学方面でも評価されており、芥川賞も獲っている。最近だと士郎正宗の原作漫画準拠版『攻殻機動隊』のシリーズ構成と脚本を担当している。つまり、今回は『攻殻機動隊』と縁のある座組なのだ。まぁこれを以って「攻殻機動戦士ガンダム」と言い張るのはかなり無理があるけども……。

 ゲームの『GUNDAM ROGUE ORBIT』と連動する企画として構想されており、ROGUE ORBITの100年前がXARX-ZEROに当たるらしい。ゲームからするとアニメは前日譚(プリクエル)、アニメからするとゲームは後日談(アフターストーリー)になるワケだ。こういう連動企画って大抵コケるイメージがあるけど、大丈夫なんかな……既にROGUE ORBITの情報公開時点で「こんなのガンダムじゃない!」と騒いでいたガノタもいたし。しかし設定だけとはいえ、まさか円城塔がガンダムに関わるとはなぁ。長谷敏司や野尻抱介あたりなら「ギリあり得る」という感覚だったが、円城塔は「知名度を考慮すればあり得なくもないが、選択肢としての可能性はかなり薄い」という印象でした。ハッキリ言って円城は思弁的(スペキュラティヴ)な作風で、わかりやすい見世物(スペクタクル)が要求されるガンダムには向かないと思ってましたし。ぶっちゃけストーリーを読んでもあまりピンと来ないが、面白いものに仕上がっているといいですね。私は根が単純だから面白ければ結果オーライであり、面白くなかったら「……うん、次に行こう」とさっさと切り替えていくタイプですゆえ。

 それはそれとして、そろそろ虚淵ガンダムもお願いします、サンライズさん。

『風の白猿神(ハヌマーン)』新装版が刊行決定。滝川羊によるファンタジア文庫の人気作。新装版のイラストレーターは『伝勇伝』のとよた瑣織(ファミ通.com)

 令和の世に『風の白猿神』が甦る……あまりにも「“幻想(ユメ)”じゃねえよな…!?」案件すぎます。今月の頭から富士見ファンタジア文庫がSNSで「あの伝説の作品を復刊します」みたいな匂わせ投稿をしていたので「まさか『風の白猿神』の再始動かい?」とジョークのつもりで言っていたら真実(マジ)だったんで古のラノベ民たちがブッ魂消ている。第6回ファンタジア長編小説大賞「大賞」受賞作で、1995年の刊行だから31年ぶりの復活だ。比喩抜きで暴走族神(ゾクガミ)が「よう 神(オレ)だぜ」と電話掛けてきたような衝撃である。白猿神(ハヌガミ)……!

 ファンタジア長編小説大賞は第21回で「ファンタジア大賞」と名称変更されたが、変更前の20年間で「大賞」を獲った作品は『風の白猿神』含めて僅か4冊である。他の3冊は五代ゆうの『はじまりの骨の物語』(第4回)、貴子潤一郎の『12月のベロニカ』(第14回)、川口士の『戦鬼 ―イクサオニ―』(第16回)。実は神坂一も冴木忍も秋田禎信もろくごまるにも雑賀礼史も榊一郎もあざの耕平(旧名義は字野耕平)も鏡貴也も葵せきなも、みーんな大賞は獲っていないんです。

 ファンタジア、昔ながらの賞なので募集要項に「未完の作品は選考対象外となります」と記載されており、続ける余地があるかどうかはともかく「明らかに話の途中で終わっている作品」はNGでした。どちらかと言えば「完成度の高い作品」や「売れる作品」を求めるというより、「作家としての腕前を見せてもらう」事を重視した賞なんです。なので冴木忍やろくごまるにの受賞作は刊行されなかったし、「受賞したけどデビューには至らなかった」作家も初期だとゴロゴロいる。『スレイヤーズ!』という例外中の例外を除けば受賞作のほとんどは長期シリーズ化しておらず、「受賞作でデビューして2作目以降のシリーズが代表作になる」というパターンが多い(『ポートタウン・ブルース』でデビューして「ザンヤルマ」シリーズで名を馳せた麻生俊平、『ひとつ火の粉の雪の中』でデビューして「オーフェン」シリーズで有名になった秋田禎信など)。『ザ・サード』や『風の聖痕』、『ご愁傷さま二ノ宮くん』あたりも例外的な存在かな。

 要するに、「最初から売れるシリーズを投稿しろ」って賞じゃないんです。なので「売れる見込み」よりも「ちゃんと完結している事」が重視される。どんなに面白くても、話が途中で終わっていたら容赦なく選考対象外。少なくともその応募作だけでエピソードがまとまってないといけません。だが、何事にも例外というモノはあるワケでして、『風の白猿神』は「明らかに続編含みの終わり方だろ」って内容であるにも関わらずあまりのハイ・クオリティと面白さから富士見側が「話終わってない」という事実に目を瞑って大賞を与えた……という伝説的な作品だったんです。当然、読者も続きを熱望した。一時は「2巻が出る」という話も流れた。しかし、「滝川羊」で検索すれば分かる通り、この31年間で出版された本は『風の白猿神』だけです。レギュレーションに反しているにも関わらず大賞を獲って、それなのに続きが出ないという、トンデモない矛盾で多くの読者の心に消えぬ傷痕を残していった。その点も考慮して「伝説」なんです。当時の滝川羊は高校の国語講師で、「『副業禁止』の規程に引っ掛かってしまって出したくても出せない状態になってしまったんじゃないか」という噂がある。真偽は不明ながら、そうとでも考えなければ納得できないほど異様な沈黙期間の長さでした。

 「1」とノンブルが打たれているから今度こそは2巻が出せる……と信じたい。さすがに31年も経てば公務員を退職して自由になった可能性が高いですし。ただ、惜しまれるのは、やはり何と言ってもイラストレーターの「いのまたむつみ」が既に亡くなっている事か……「中津宗一郎」という編集者が「いのまたむつみさんがお亡くなりになったということで衝撃を受けている。何度も原稿取りにいった記憶やらが思い出されて……。滝川羊さんにも知らせないと。」と呟いており、ひょっとするといのまたさんの訃報がキッカケになって再刊企画が動く事になったのかもしれません。あくまで憶測の域を出ませんが。

 とにかく……待望の2巻を出して欲しい。言いたい事はそれだけです。これで「再刊した1巻が売れなかったから2巻は出ませぇぇぇぇぇん!」みたいなオチだったら、さすがに温厚な私もぶちギレ金剛待ったナシですよ。信じていいんだよな? 富士見……。

・睦月準也の『マリアを運べ』読んだ。

「オーケー。行くか」仁が続けた。「相手がその気なんだし、おまえもハンターナイフ程度は携行しておけよ。選んでやるから」
「武器はあまり持ちたくない」
「おまえはこの国の憲法か? 一緒だよ、既におまえは“俺”という武器を所持している。身につけているかどうかの違いだ」

 第14回アガサ・クリスティー賞「大賞」受賞作。『同志少女よ、敵を撃て』というヒット作(本屋大賞受賞、直木賞の候補にもなっている)を送り出しているものの、まだまだ世間的な知名度は低いと思われるアガサ・クリスティー賞……去年刊行された受賞作『ボスポラス 死者たちの海峡』のタイトルを挙げてピンと来る人は正直少ないんじゃないでしょうか。本書の作者である「睦月準也(むつき・じゅんや)」は9月に『月下の盤』という500ページ近い大作を刊行する予定であり、この「アガサ・クリスティー賞=マイナー」な状況を変えて欲しいものだ。

 17歳の若さでありながら裏社会の運び屋として名を馳せている「風子(ふうこ)」。偽造免許証は持っているが、当然無免。しかしドラテクに関しては右に出る者はいないと自負している。先代の運び屋「タツヒコ」が深夜のパーキングエリアのトイレで臍の緒が付いたまま泣いている赤ん坊を拾って育てた――それが風子の身の上だ。今回もいつも通り、怪しげなブツと怪しげな依頼人を搬送する仕事を引き受けたが、出発して早々に怪しげな車に付きまとわれる。何とか撒いたものの、その後も刺客とおぼしき連中が次から次へと現れる。これは「いつも」以上にヤバい案件だな――積み荷は「新種のバイオ医薬品」と聞いているが、それほど貴重な代物なのか? 訝りながらも、運び屋を辞めたら違法風俗店で客を取らされる道しか残っていない風子は万難を排し、目的地「諏訪」に向かうが……。

 歯切れの良い、非常に研ぎ澄まされた無駄のない文体。250ページもないくらいの薄い本だったから正直「読み応えなさそう」という印象を抱いていたが、良い意味で予想を裏切ってくれた。「極上のスリラー映画を鑑賞したような気分」にしてくれる、「大賞」を獲ったのも頷ける秀逸な1冊です。運び屋の少女が主人公という事でカーチェイスのシーンも多く、私は読んでいて頭の中にユーロビートが流れ出してしまったが、今の世代には『頭文字D』のネタは通じないだろうか。

 主人公である風子には「一度でも走った事のある道はほとんど忘れない」という走り屋としての天性が備わっており、この抜群の記憶力と走行プランによって峠を攻めて追っ手をブッ千切っていく。フェード現象やべーパーロック現象を活かして相手のフットブレーキが利かなくなるよう仕向ける描写なんかもあり、このへんは普段車を運転しない人にはわかりにくいかもしれません。私は田舎住まいで山間のところを走ったりもするので、ギアを低速に変えるシーンで「やるんだな! 今……ここで!」とテンション上がりました。

 風子はヤクザからの依頼を受ける闇社会の住人ですが、彼女自身は組に所属しているワケではない。だから「どこかのヤバい筋」に狙われている時、依頼したヤクザもケツを持ってはくれない。むしろケツをまくろうとする。彼女自身には戦闘能力がないため、別途「傭兵」を雇って対処する事になります。それが全体の1/5くらいで登場する「殺し屋」こと「仁滉一郎(じん・こういちろう)」だ。風子、依頼人、仁のトリオは刺客を警戒しながら諏訪へ向かう。そこに運んでいる「ブツ」の取引相手がいるらしい。途中で警察が依頼人「志麻百合子」の全国指名手配を行った事を公表して、雰囲気はどんどん緊迫していく。志麻は研究所からブツを盗み出したらしいが、いったいどんなモノを盗ったら即日で全国指名手配されるハメになるというのか? 「ブツの中身」と「刺客からの防衛」、ふたつの興味を軸に物語が進行していきますが、先述した通り250ページのない分量なのであっという間だ。ノンストップではないけど「ノンストップ級」のスピード感がある。

 依頼を仲介したヤクザすらビビり、タダモノではない雰囲気を漂わせる刺客の連中が「現実離れしたシロモノ」と仄めかすブツ――「何なんだよ、勿体ぶらずに早く書けよ!」と私の胸倉を掴んで揺すぶりたくなる人もそろそろ出てくるだろうから、ハッキリ書いてしまおう。ネタバレが嫌な人は読み飛ばしてください。ズバリ、ブツの名は「MARIA」。無論、タイトルの『マリアを運べ』はここから来ている。処女懐胎の逸話で知られる「聖母マリア」に因んで命名されたそれは、「精子を必要とせず、卵子だけで『単為生殖』する事を可能にする薬」だった。まさに「そういえばiPS細胞というので同性の間でも子供ができるらしいです」の世界だ。百合界の救世主(メサイア)……!

 自然界で単為生殖を行う動物の多くはハチやアリなどの小型無脊椎動物で、通常の有性生殖と単為生殖を切り替え可能。脊椎動物だと主に魚や爬虫類が行うが、「複雑な構造を持つ脊椎動物」は遺伝的多様性を確保できなくなるため、進化の過程で単為生殖する機能を失っていったと考えられる。特に哺乳類は「ゲノムインプリンティング」という、「父親のみ」「母親のみ」って条件で発現する事が決まっている特定の遺伝子が存在するせいで片方の性だけでは不完全な生殖になってしまう。しかし、哺乳類にも「もしも」の場合に備えて単為生殖を実行する遺伝子が受け継がれているはずだ、と考えたのがMARIAの出発点だった。眠っている「単為生殖を促す遺伝子」を覚醒させ、女性のみでの出産を可能とするバイオ医薬、それこそが風子の運んでいるブツだったのである。動物実験までは終了しており、これから臨床試験を開始する……という直前で志麻が盗み出した。クローンと違って遺伝子が組み喚わるため単純な「複製」ではないが、精子がないぶん、当然遺伝的多様性は減少する。女性は性染色体のY染色体を持たずX染色体しか持たない(例外もあるらしいが、ここでは例外ケースまでは考えないものとする)から、生まれてくる子も当然女性になります。そして、その子もMARIAを使うならば……極論、この世界に男は必要なくなる。そこまで極論に走らなくても、「『産み分け』の必要なく女性が女性を増やす事ができる」と考えれば男女比が偏っている地域の突破口ともなり得る。

 国どころか全世界を揺るがしかねないヤバすぎるブツで、もはやSFの領域に差し掛かってしまっているが、あくまで物語の焦点は「MARIAの輸送」であって「MARIAによって具体的に社会がどう変化するか」ではない。なのでSFめいているもののSFではなく、ジャンルとしては「スリラー」のままでいいと思います。政府から「研究成果と原薬をすべて寄越せ」と要求され、志麻は高跳びを決意したと語る。目的地が諏訪なのは協力者のユダヤ人と落ち合うためで、「太古の昔、古代ユダヤ人たちが極東にある日本まで渡り、諏訪の地で共生していた可能性がある」「旧約聖書に出てくるエピソードや古代イスラエルの信仰が、諏訪に伝わる神事や風習と酷似していた」とMMRみたいな「真実」を告げ始めるので、「世界の真実」――というか陰謀論に興味がない人は「お、おう」となるかもしれません。いわゆる「日ユ同祖論」の一つですね。興味のある方は『アマテラスの暗号』あたりを読んでみてください。「御神渡り(おみわたり)を見たユダヤ人は〈モーセの海割り〉を連想したでしょうね」 そ、そうかなぁ? 要するに「処女懐胎」と重ねるために話を「聖書モチーフ」で統一しようとしているワケなのですが、さすがに面食らった。

 よんどころのない事情でMARIAは一旦「強大なバック」を持つ連中によって奪われてしまうが、それであっさり引き下がっては運び屋の名が廃る、と風子はかなり強引な奪還劇を繰り広げる。一度依頼を受けた以上、必ずブツは目的地まで運ぶ――プロ意識の強さに惚れ惚れします。無免だけど。

 風子はしばらく空を見上げていた。それから見上げるのをやめた。
 空には、道はなかった。

 地を這う運び屋だからこそ、道のない空なんて見上げて感傷に浸るのは無意味でしかない。あくまで走るべき「道」を見据え続ける。非常に秀逸なスリラーだったが、クライマックスで急に『DOKURO―毒狼―』のような新興宗教が出てきて「すごい数の信者が集まってきている」になったり、志麻が「悲しき過去」を告白し始めたりするせいで脳内に浮かぶ映像が猿渡哲也タッチになってしまった。最後まで運ぶから尊いんだ。誇りが深まるんだ。美学をもて……風子のように。

 まとめ。「17歳の無免許ドライバーである少女が運び屋をやっている」という無茶な設定を押し通す事でリアリティーラインを下げて物語のムードをうまく調整している、と好意的に見る事も可能だが、やっぱり「リアリティーがない」点はネックになると思います。あまりにも漫画的過ぎると申しますか。それこそ猿渡哲也作品みたいな、「画力は高いが突飛な話運び」という印象です。パートナーに相当する仁も分量の関係で掘り下げきれなかったし、ラストで明かされる「真相」も伏線を張っていたとはいえマジで猿展開クラスの飛躍だから、かなり好みは分かれると思うが……「猿渡哲也が描いたイニD」みたいな話を読んでみたい方にはオススメです。



管理人:焼津