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2026-07-29.

・ヤングアニマルの新連載『星を継ぐアイドル』、もちづきさんの最新話を読みに訪れた際、視界に入ったので何となく読んでみたが「またトンデモない漫画が始まったな!?」とブッ飛んだ焼津です、こんばんは。

 原作は『魔法少女イナバ』の「猫にゃん」。さすがに2作も連載を並行させるのはキツいからか、作画は別の人になっています。作画担当は「橘夏々」。ストーリーは「娯楽一切禁止でスマホの所持すら許されず厳しく育てられたお嬢様『綺羅星 耀(きらぼし・かがや)』、彼女はふとした事から往年のアイドル『セイコ』の動画を見てしまい、その輝きに目を焼かれてしまう……」という、「ほーん、抑圧されているお嬢様が『自分らしく』生きるためにアイドルを目指すストーリーなのね。わかりやすいっちゃわかりやすいけど、ありがちかな」って代物なんですが、進むにつれ加速度的に話がおかしくなっていく。

 「あの学園では アイドルとしての才で 人の価値が決まる」「入学すれば スタァになるか さもなくば死」「当学園では 日本国憲法及び刑法を採用してませんニャ」――なんとまぁ『魁!!男塾』とか『七つの魔剣が支配する』みたいなノリの漫画なのである。2話目で人を殺そうとするアイドル候補生とか普通に出てくるしな……こいつも気が付いたら飛影みたいにしれっと味方ポジションに収まっていたりする可能性もあります。まだ始まったばかりなのでここからブレイクするかどうかはわからないが、以前「マガポケ」でやってた『雄(オス)!マスラオ学園』に次ぐくらいのインパクトはあった。

 ちなみに、タイトルの元ネタとおぼしきホーガンの『星を継ぐもの』とは今のところ何の関係もないが、このテンションなら「月面編」に突入しても不思議ではない気がする。月人(ルナリアン)アイドル「カグヤ」、「耀(かがや)」といい感じで対になりそうだから案外冗談ではないかも。

亜月ねね「みいちゃんと山田さん」2027年アニメ化!2人の声が入ったスペシャルPV(コミックナタリー)

 最近のアニメ界はあまりにもバーリトゥード(何でもあり)すぎるな……まさか『ヤニねこ』に続き、コレまでアニメ化するとは。

 「みい山」こと『みいちゃんと山田さん』はもともとツイッターで連載していた個人制作マンガで、Kindleインディーズ(要するに同人)を経て講談社の「マガポケ(マガジンポケット)」というアプリで連載し、商業化した作品です。商業化の際にスケールが膨らんでおり、単行本はこれまでに6冊出ている。連載は既に終了済みなので、7巻で完結です。

 ストーリーは語り部の「山田さん」が墓参りをするシーンから始まり、2012年1月、まだ山田さんが歌舞伎町のキャバクラで働いていた頃まで遡る。墓参りの際に「もうあれから何年経ったんだろうね?」というセリフがあるので、「現在」は概ね2020年前後と思われます。山田さんはキャバクラの店内で「みいちゃん」と呼ばれる子に出会う。本名は「中村実衣子」。源氏名と本名を使い分ける事もできず、トンチンカンな受け答えばかりしていたみいちゃんは、やがて何者かに殺され、死体となって発見される。そんな感じで、山田さんがみいちゃんと出会って別れるまでの12ヶ月間を綴るストーリーです。

 殺人事件が絡んでくるが、別にミステリではない。強いて言えば『嫌われ松子の一生』『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』に近いかも? 山田さんとみいちゃんの交友をメインに描きつつ、みいちゃんがこれまで辿って来た人生の道のりを振り返っていく。描き込みの少ないあっさりした絵柄なのでビジュアル的なインパクトは薄まっているが、内容は割とえげつない。路線としては『闇金ウシジマくん』寄りです。みいちゃんは何らかの障害があるのではないかと思われるが、本人も家族もそれを頑として認めようとはしないため、明確な診断は下されない。若葉睦の「モーティス」と一緒で、いくら「症状」があっても診断を受けないかぎり、病気や障害は「ない」扱いになってしまう。そういうセンシティブな題材を選んでいるが、お世辞にも慎重な手つきとは言えず、「煽情的」「悪趣味」という誹りは免れない内容です。読んだ人の間でも好悪の差が激しく、大っぴらに「好き」とは言いにくい漫画だ。私は「嫌い」というほどじゃないが、じゃあ「好き」なの? と訊かれると返答に困る。率直に言って「嫌いじゃないけどそんなに何度も読みたくはない漫画」です。

 それはそれとしてCV、山田さんの方は「潘めぐみ」だろうけど、みいちゃんは誰かわからないな。相変わらず私の音感は弱い……よほど特徴のある声以外は当てられない。一発で聞き分けられる声ヲタってスゴいっスよね。

ゆずソフト『千恋*万花』が2027年アニメ化決定。原作キャスト完全続投、主題歌はKOTOKOが担当(電撃オンライン)

 「期待はしていたけど実現するとは思ってなかった」な1本だ。『千恋*万花』は「ゆずソフト」が2016年に発売したソフトであり、もうかれこれ10年前になる。和風伝奇っぽいノリで、ある意味『E×E』のリベンジみたいなところはあるかな? 世界展開に成功したとかで、全世界セールスは100万本に到達していると云う。スゴい。そりゃアニメ化もするわ。

 エロゲー、婉曲表現すると「美少女ゲーム」は翻訳含むローカライズが成功すると海外でもセールスが結構伸びるらしく、「今が一番売れている」というブランドもいくつか存在するらしい。国内市場ではかなり存在感が減っていてしょっちゅう衰退論が唱えられるエロゲー界だが、まだまだ滅びるのは先の話のようだ。

 しかし、10年前のソフトがアニメ化するなら「あれも。これも」と期待してしまうな。近い時期のソフトだと『時計仕掛けのレイライン』、『見上げてごらん、夜空の星を』、『サクラノ詩』、『オトメ*ドメイン』、『千の刃濤、桃花染の皇姫』、『景の海のアペイリア』、『金色ラブリッチェ』あたり?

  ふたたび還って来るというのか、エロゲー原作アニメの黄金時代が……。

作家・東野圭吾さん死去、68歳 映像化作品多数『容疑者Xの献身』『白夜行』『マスカレード・ホテル』『流星の絆』…(オリコンニュース)

 は? 嘘でしょ?

 あまりにも唐突なニュースでそれ以外のリアクションが思い浮かばなかった。どこかのタチの悪いジョークに引っ掛かってしまったんじゃないだろうな……と震える手でチェックしたが、どうも本物のニュースらしい。絶句しました。言わずと知れた「ガリレオ」シリーズの原作者であり、100万部を突破した著書は数知れず。3年前に「国内累計発行部数1億部突破」の報も流れた、小説家としては最強クラスのベストセラー作家です。それがまさか、60代の若さで亡くなるとは……タイプする指から力が抜けてしまう。

 長々と綴る気力もないので手短にまとめますが、私が彼の著書を読んだのはEVAの旧劇場版『シト新生』公開日だった。上映まで少し間があるので、それまで時間を潰そうと手に取ったのが『変身』だった。なんで選んだのかは思い出せない。正直、時間を潰せれば何でもいいとさして深い考えもなく掴んだ気がする。結果、ほとんど総集編に近かった『シト新生』よりも遥かに衝撃を受け、そこから東野作品の数々を貪るように読み耽った。1997年、もう30年近くも前の事だ。

 東野圭吾がブレイクしたのは1998年の『秘密』がヒットしたからで、それ以前はごくマイナーな扱いだった。本好きの集まりに出て「いま東野圭吾にハマってる」と熱心に語ってもほとんどは「誰それ?」といううっすい反応。辛うじて知っている人がいたとしても「あー、乱歩賞作家の。読んだ事はないな」で話が終わってしまう。「マジでスゴい小説家なんだよ!」と熱弁しても「ふ〜ん」と暖簾に腕押しで、誰も読もうとしてくれなくて悔しい思いをした。ゼロ年代に入ってからはそんな状況が嘘みたいにヒットを飛ばしまくったが、鳴かず飛ばずで読書家にすら顧みられなかった時期があったんですよ……ハァァ〜、溜息しか出ない。受け容れ難い想いが強く、冥福を祈れるようになるまでもうちょっと時間が掛かると思います。今はただ目を閉じ無心で合掌するのみ。


2026-07-25.

『機動戦士ガンダムRG XARX-ZERO(アレックスゼロ)』……遂に公表されたガンダムの新作は監督・シリーズ構成「神山健治」、SF設定監修「円城塔」! まさかの神山・円城ガンダムだ! 予想できるかこんなもん!

 神山健治は90年代頃から「Production I.G」で活動している演出家で、代表作は『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』。他だと『精霊の守り人』や『東のエデン』でも監督をやってるが、ここしばらくは目立つ仕事やっていなかったから完全にマークを外していた。仮に何か出るとしても攻殻関連かな、と思ってたし。円城塔はハヤカワ出身のSF作家で、文学方面でも評価されており、芥川賞も獲っている。最近だと士郎正宗の原作漫画準拠版『攻殻機動隊』のシリーズ構成と脚本を担当している。つまり、今回は『攻殻機動隊』と縁のある座組なのだ。まぁこれを以って「攻殻機動戦士ガンダム」と言い張るのはかなり無理があるけども……。

 ゲームの『GUNDAM ROGUE ORBIT』と連動する企画として構想されており、ROGUE ORBITの100年前がXARX-ZEROに当たるらしい。ゲームからするとアニメは前日譚(プリクエル)、アニメからするとゲームは後日談(アフターストーリー)になるワケだ。こういう連動企画って大抵コケるイメージがあるけど、大丈夫なんかな……既にROGUE ORBITの情報公開時点で「こんなのガンダムじゃない!」と騒いでいたガノタもいたし。しかし設定だけとはいえ、まさか円城塔がガンダムに関わるとはなぁ。長谷敏司や野尻抱介あたりなら「ギリあり得る」という感覚だったが、円城塔は「知名度を考慮すればあり得なくもないが、選択肢としての可能性はかなり薄い」という印象でした。ハッキリ言って円城は思弁的(スペキュラティヴ)な作風で、わかりやすい見世物(スペクタクル)が要求されるガンダムには向かないと思ってましたし。ぶっちゃけストーリーを読んでもあまりピンと来ないが、面白いものに仕上がっているといいですね。私は根が単純だから面白ければ結果オーライであり、面白くなかったら「……うん、次に行こう」とさっさと切り替えていくタイプですゆえ。

 それはそれとして、そろそろ虚淵ガンダムもお願いします、サンライズさん。

『風の白猿神(ハヌマーン)』新装版が刊行決定。滝川羊によるファンタジア文庫の人気作。新装版のイラストレーターは『伝勇伝』のとよた瑣織(ファミ通.com)

 令和の世に『風の白猿神』が甦る……あまりにも「“幻想(ユメ)”じゃねえよな…!?」案件すぎます。今月の頭から富士見ファンタジア文庫がSNSで「あの伝説の作品を復刊します」みたいな匂わせ投稿をしていたので「まさか『風の白猿神』の再始動かい?」とジョークのつもりで言っていたら真実(マジ)だったんで古のラノベ民たちがブッ魂消ている。第6回ファンタジア長編小説大賞「大賞」受賞作で、1995年の刊行だから31年ぶりの復活だ。比喩抜きで暴走族神(ゾクガミ)が「よう 神(オレ)だぜ」と電話掛けてきたような衝撃である。白猿神(ハヌガミ)……!

 ファンタジア長編小説大賞は第21回で「ファンタジア大賞」と名称変更されたが、変更前の20年間で「大賞」を獲った作品は『風の白猿神』含めて僅か4冊である。他の3冊は五代ゆうの『はじまりの骨の物語』(第4回)、貴子潤一郎の『12月のベロニカ』(第14回)、川口士の『戦鬼 ―イクサオニ―』(第16回)。実は神坂一も冴木忍も秋田禎信もろくごまるにも雑賀礼史も榊一郎もあざの耕平(旧名義は字野耕平)も鏡貴也も葵せきなも、みーんな大賞は獲っていないんです。

 ファンタジア、昔ながらの賞なので募集要項に「未完の作品は選考対象外となります」と記載されており、続ける余地があるかどうかはともかく「明らかに話の途中で終わっている作品」はNGでした。どちらかと言えば「完成度の高い作品」や「売れる作品」を求めるというより、「作家としての腕前を見せてもらう」事を重視した賞なんです。なので冴木忍やろくごまるにの受賞作は刊行されなかったし、「受賞したけどデビューには至らなかった」作家も初期だとゴロゴロいる。『スレイヤーズ!』という例外中の例外を除けば受賞作のほとんどは長期シリーズ化しておらず、「受賞作でデビューして2作目以降のシリーズが代表作になる」というパターンが多い(『ポートタウン・ブルース』でデビューして「ザンヤルマ」シリーズで名を馳せた麻生俊平、『ひとつ火の粉の雪の中』でデビューして「オーフェン」シリーズで有名になった秋田禎信など)。『ザ・サード』や『風の聖痕』、『ご愁傷さま二ノ宮くん』あたりも例外的な存在かな。

 要するに、「最初から売れるシリーズを投稿しろ」って賞じゃないんです。なので「売れる見込み」よりも「ちゃんと完結している事」が重視される。どんなに面白くても、話が途中で終わっていたら容赦なく選考対象外。少なくともその応募作だけでエピソードがまとまってないといけません。だが、何事にも例外というモノはあるワケでして、『風の白猿神』は「明らかに続編含みの終わり方だろ」って内容であるにも関わらずあまりのハイ・クオリティと面白さから富士見側が「話終わってない」という事実に目を瞑って大賞を与えた……という伝説的な作品だったんです。当然、読者も続きを熱望した。一時は「2巻が出る」という話も流れた。しかし、「滝川羊」で検索すれば分かる通り、この31年間で出版された本は『風の白猿神』だけです。レギュレーションに反しているにも関わらず大賞を獲って、それなのに続きが出ないという、トンデモない矛盾で多くの読者の心に消えぬ傷痕を残していった。その点も考慮して「伝説」なんです。当時の滝川羊は高校の国語講師で、「『副業禁止』の規程に引っ掛かってしまって出したくても出せない状態になってしまったんじゃないか」という噂がある。真偽は不明ながら、そうとでも考えなければ納得できないほど異様な沈黙期間の長さでした。

 「1」とノンブルが打たれているから今度こそは2巻が出せる……と信じたい。さすがに31年も経てば公務員を退職して自由になった可能性が高いですし。ただ、惜しまれるのは、やはり何と言ってもイラストレーターの「いのまたむつみ」が既に亡くなっている事か……「中津宗一郎」という編集者が「いのまたむつみさんがお亡くなりになったということで衝撃を受けている。何度も原稿取りにいった記憶やらが思い出されて……。滝川羊さんにも知らせないと。」と呟いており、ひょっとするといのまたさんの訃報がキッカケになって再刊企画が動く事になったのかもしれません。あくまで憶測の域を出ませんが。

 とにかく……待望の2巻を出して欲しい。言いたい事はそれだけです。これで「再刊した1巻が売れなかったから2巻は出ませぇぇぇぇぇん!」みたいなオチだったら、さすがに温厚な私もぶちギレ金剛待ったナシですよ。信じていいんだよな? 富士見……。

・睦月準也の『マリアを運べ』読んだ。

「オーケー。行くか」仁が続けた。「相手がその気なんだし、おまえもハンターナイフ程度は携行しておけよ。選んでやるから」
「武器はあまり持ちたくない」
「おまえはこの国の憲法か? 一緒だよ、既におまえは“俺”という武器を所持している。身につけているかどうかの違いだ」

 第14回アガサ・クリスティー賞「大賞」受賞作。『同志少女よ、敵を撃て』というヒット作(本屋大賞受賞、直木賞の候補にもなっている)を送り出しているものの、まだまだ世間的な知名度は低いと思われるアガサ・クリスティー賞……去年刊行された受賞作『ボスポラス 死者たちの海峡』のタイトルを挙げてピンと来る人は正直少ないんじゃないでしょうか。本書の作者である「睦月準也(むつき・じゅんや)」は9月に『月下の盤』という500ページ近い大作を刊行する予定であり、この「アガサ・クリスティー賞=マイナー」な状況を変えて欲しいものだ。

 17歳の若さでありながら裏社会の運び屋として名を馳せている「風子(ふうこ)」。偽造免許証は持っているが、当然無免。しかしドラテクに関しては右に出る者はいないと自負している。先代の運び屋「タツヒコ」が深夜のパーキングエリアのトイレで臍の緒が付いたまま泣いている赤ん坊を拾って育てた――それが風子の身の上だ。今回もいつも通り、怪しげなブツと怪しげな依頼人を搬送する仕事を引き受けたが、出発して早々に怪しげな車に付きまとわれる。何とか撒いたものの、その後も刺客とおぼしき連中が次から次へと現れる。これは「いつも」以上にヤバい案件だな――積み荷は「新種のバイオ医薬品」と聞いているが、それほど貴重な代物なのか? 訝りながらも、運び屋を辞めたら違法風俗店で客を取らされる道しか残っていない風子は万難を排し、目的地「諏訪」に向かうが……。

 歯切れの良い、非常に研ぎ澄まされた無駄のない文体。250ページもないくらいの薄い本だったから正直「読み応えなさそう」という印象を抱いていたが、良い意味で予想を裏切ってくれた。「極上のスリラー映画を鑑賞したような気分」にしてくれる、「大賞」を獲ったのも頷ける秀逸な1冊です。運び屋の少女が主人公という事でカーチェイスのシーンも多く、私は読んでいて頭の中にユーロビートが流れ出してしまったが、今の世代には『頭文字D』のネタは通じないだろうか。

 主人公である風子には「一度でも走った事のある道はほとんど忘れない」という走り屋としての天性が備わっており、この抜群の記憶力と走行プランによって峠を攻めて追っ手をブッ千切っていく。フェード現象やべーパーロック現象を活かして相手のフットブレーキが利かなくなるよう仕向ける描写なんかもあり、このへんは普段車を運転しない人にはわかりにくいかもしれません。私は田舎住まいで山間のところを走ったりもするので、ギアを低速に変えるシーンで「やるんだな! 今……ここで!」とテンション上がりました。

 風子はヤクザからの依頼を受ける闇社会の住人ですが、彼女自身は組に所属しているワケではない。だから「どこかのヤバい筋」に狙われている時、依頼したヤクザもケツを持ってはくれない。むしろケツをまくろうとする。彼女自身には戦闘能力がないため、別途「傭兵」を雇って対処する事になります。それが全体の1/5くらいで登場する「殺し屋」こと「仁滉一郎(じん・こういちろう)」だ。風子、依頼人、仁のトリオは刺客を警戒しながら諏訪へ向かう。そこに運んでいる「ブツ」の取引相手がいるらしい。途中で警察が依頼人「志麻百合子」の全国指名手配を行った事を公表して、雰囲気はどんどん緊迫していく。志麻は研究所からブツを盗み出したらしいが、いったいどんなモノを盗ったら即日で全国指名手配されるハメになるというのか? 「ブツの中身」と「刺客からの防衛」、ふたつの興味を軸に物語が進行していきますが、先述した通り250ページのない分量なのであっという間だ。ノンストップではないけど「ノンストップ級」のスピード感がある。

 依頼を仲介したヤクザすらビビり、タダモノではない雰囲気を漂わせる刺客の連中が「現実離れしたシロモノ」と仄めかすブツ――「何なんだよ、勿体ぶらずに早く書けよ!」と私の胸倉を掴んで揺すぶりたくなる人もそろそろ出てくるだろうから、ハッキリ書いてしまおう。ネタバレが嫌な人は読み飛ばしてください。ズバリ、ブツの名は「MARIA」。無論、タイトルの『マリアを運べ』はここから来ている。処女懐胎の逸話で知られる「聖母マリア」に因んで命名されたそれは、「精子を必要とせず、卵子だけで『単為生殖』する事を可能にする薬」だった。まさに「そういえばiPS細胞というので同性の間でも子供ができるらしいです」の世界だ。百合界の救世主(メサイア)……!

 自然界で単為生殖を行う動物の多くはハチやアリなどの小型無脊椎動物で、通常の有性生殖と単為生殖を切り替え可能。脊椎動物だと主に魚や爬虫類が行うが、「複雑な構造を持つ脊椎動物」は遺伝的多様性を確保できなくなるため、進化の過程で単為生殖する機能を失っていったと考えられる。特に哺乳類は「ゲノムインプリンティング」という、「父親のみ」「母親のみ」って条件で発現する事が決まっている特定の遺伝子が存在するせいで片方の性だけでは不完全な生殖になってしまう。しかし、哺乳類にも「もしも」の場合に備えて単為生殖を実行する遺伝子が受け継がれているはずだ、と考えたのがMARIAの出発点だった。眠っている「単為生殖を促す遺伝子」を覚醒させ、女性のみでの出産を可能とするバイオ医薬、それこそが風子の運んでいるブツだったのである。動物実験までは終了しており、これから臨床試験を開始する……という直前で志麻が盗み出した。クローンと違って遺伝子が組み喚わるため単純な「複製」ではないが、精子がないぶん、当然遺伝的多様性は減少する。女性は性染色体のY染色体を持たずX染色体しか持たない(例外もあるらしいが、ここでは例外ケースまでは考えないものとする)から、生まれてくる子も当然女性になります。そして、その子もMARIAを使うならば……極論、この世界に男は必要なくなる。そこまで極論に走らなくても、「『産み分け』の必要なく女性が女性を増やす事ができる」と考えれば男女比が偏っている地域の突破口ともなり得る。

 国どころか全世界を揺るがしかねないヤバすぎるブツで、もはやSFの領域に差し掛かってしまっているが、あくまで物語の焦点は「MARIAの輸送」であって「MARIAによって具体的に社会がどう変化するか」ではない。なのでSFめいているもののSFではなく、ジャンルとしては「スリラー」のままでいいと思います。政府から「研究成果と原薬をすべて寄越せ」と要求され、志麻は高跳びを決意したと語る。目的地が諏訪なのは協力者のユダヤ人と落ち合うためで、「太古の昔、古代ユダヤ人たちが極東にある日本まで渡り、諏訪の地で共生していた可能性がある」「旧約聖書に出てくるエピソードや古代イスラエルの信仰が、諏訪に伝わる神事や風習と酷似していた」とMMRみたいな「真実」を告げ始めるので、「世界の真実」――というか陰謀論に興味がない人は「お、おう」となるかもしれません。いわゆる「日ユ同祖論」の一つですね。興味のある方は『アマテラスの暗号』あたりを読んでみてください。「御神渡り(おみわたり)を見たユダヤ人は〈モーセの海割り〉を連想したでしょうね」 そ、そうかなぁ? 要するに「処女懐胎」と重ねるために話を「聖書モチーフ」で統一しようとしているワケなのですが、さすがに面食らった。

 よんどころのない事情でMARIAは一旦「強大なバック」を持つ連中によって奪われてしまうが、それであっさり引き下がっては運び屋の名が廃る、と風子はかなり強引な奪還劇を繰り広げる。一度依頼を受けた以上、必ずブツは目的地まで運ぶ――プロ意識の強さに惚れ惚れします。無免だけど。

 風子はしばらく空を見上げていた。それから見上げるのをやめた。
 空には、道はなかった。

 地を這う運び屋だからこそ、道のない空なんて見上げて感傷に浸るのは無意味でしかない。あくまで走るべき「道」を見据え続ける。非常に秀逸なスリラーだったが、クライマックスで急に『DOKURO―毒狼―』のような新興宗教が出てきて「すごい数の信者が集まってきている」になったり、志麻が「悲しき過去」を告白し始めたりするせいで脳内に浮かぶ映像が猿渡哲也タッチになってしまった。最後まで運ぶから尊いんだ。誇りが深まるんだ。美学をもて……風子のように。

 まとめ。「17歳の無免許ドライバーである少女が運び屋をやっている」という無茶な設定を押し通す事でリアリティーラインを下げて物語のムードをうまく調整している、と好意的に見る事も可能だが、やっぱり「リアリティーがない」点はネックになると思います。あまりにも漫画的過ぎると申しますか。それこそ猿渡哲也作品みたいな、「画力は高いが突飛な話運び」という印象です。パートナーに相当する仁も分量の関係で掘り下げきれなかったし、ラストで明かされる「真相」も伏線を張っていたとはいえマジで猿展開クラスの飛躍だから、かなり好みは分かれると思うが……「猿渡哲也が描いたイニD」みたいな話を読んでみたい方にはオススメです。


2026-07-16.

「私をセンターにすると誓いますか?」TVアニメ化、ティザービジュアル公開(コミックナタリー)

 顔は整っているのに、いつも無表情でファンにも塩対応。「やる気が感じられない」と叩かれているアイドル「夏野瑞希」こそが、主人公「奥田幸一」の推しだった。ある日、父親の再婚相手の連れ子、これから幸一の「妹」になる子として引き合わされたのがまさに夏野瑞希本人で……という、いかにもマガジンらしい「ドキッ!推しの子と同居生活」なラブコメ漫画が原作です。講談社の漫画アプリ「マガポケ」連載作品。絵柄が好みという事もあってダラダラ読み続けていたが、途中結構長めの休載期間(確か半年くらい?)があったので、アニメ化を期待するどころか打ち切りを心配していた作品だった。それだけにこの報せはビックリです。

 で、あらすじを読むと「マガジンらしくラッキースケベが連発するお色気寄りの作品なんだろうな」って印象を受けるじゃないですか。それが案外とそういうサービスシーンは少ないんですよね。主人公の存在がだんだん薄くなっていって、ヒロインである瑞希が「人気最下位」の状態からグループのセンターを目指す、どちらかと言えばスポ根に近い路線のアイドルストーリーに切り替わっていく。恐らく当初の予定としては「アイドルとして未熟な瑞希がアイドルオタクである幸一のアドバイスを取り入れて徐々に問題点を克服していく、その過程で二人も親密になり、少しずつ距離が近づいて行って……」というオーソドックスなラブコメを目指していたのではないかと想像されるが、「アイドルオタクでしかない主人公が上から目線でああだこうだと指示を下す」、いわゆる「指示厨」「マンスプ(マンスプレイニング、説教癖。相手の女性を無知と決めつけて教師のような態度で知識をひけらかしたり、正しい方向へ導いてやろう、と得意げになったりする行為全般を指す)」みたいな態度が不快という意見が多かったのか、次第に「アイドルの女の子たち」をメインに据えた話に変化していきましたね。こういう融通の利くところが連載作品の良さでもある。

 ラブコメを期待するとガッカリかもしれないが、ポテンシャルを秘めた新人アイドルの子が頑張るアニメとして楽しめば宜しいんじゃないでしょうか。そんなに大ヒットする未来は見えないが、そこそこ好評で原作の売上が伸びたりはしそう。

七井海星「傷口と包帯」TVアニメ化、2027年1月放送開始 制作はJ.C.STAFF(コミックナタリー)

 『傷口と包帯』!? 連載開始当時から読んでるけど、まさかアニメ化するとは……主人公はヤクザの若頭「切谷剛(きりたに・ごう)」、顔に大きな向こう傷の跡が走ったゴチゴチの武闘派だったが、あるとき組長の娘「鷲巣理世」の教育係になるよう命じられる。なんでも「俺の手には負えん」「あのままじゃ見合いもできねぇ」と。大人しいお嬢様なんだ、一度ビシッと言ってやればすぐに更生するはず……しかし、切谷の見込みは甘かった。理世は屈強な男が悲鳴を上げたり苦悶の声を漏らしたりといった「弱り」に性的な興奮を覚えてオナニーする、言わば「ヨワラー」だったのだ!

 ヒロインのオナニーに関する話題が頻繁に出てくるのに微塵もエロくないという異色のコメディ。何度かSNSでバズった事があるので実際に漫画の絵を見たら「ああ、アレか」ってなる人もいるでしょう。理世が「ヨワラー」の生態に関してレクチャーする展開が延々と続き、その中で少しずつ切谷と打ち解けて若干イイ雰囲気が流れるのだが、やがて理世に縁談が持ち上がって……という感じです。

 普通ならそこで切ないロマンス……みたいな感じになるのでしょうが、この漫画の場合だと「縁談の相手もヨワラーで意気投合する」という斜め上の展開に入っていくんですよね。ただ、同じヨワラーであっても「微妙に主義が異なる」という不穏な要素も抱えている。なので強いて言えば性癖バトル漫画というか、いや本当になんなんだろうな、この作品。理世は性的興奮を覚えている時にハイライトの消えた独特の目つきをするんですが、↑の記事で「狂気を宿した目」と表現されていて笑った。作中では「目勃起」などと呼ばれています。ホンマにアニメしていいヤツなのか? お下劣ながら意外に女性読者人気もあるとかないとか。とりあえず担当声優は「家族を人質に取られたのか」って言われそう。

あきやまえんま「のあ先輩はともだち。」TVアニメ化!ティザービジュアル公開(コミックナタリー)

 別に付き合っているワケでもない、単なる後輩の青年を相手に、まるで「束縛の強いカノジョ」の如く面倒臭く付きまといながら「ともだち」と言い張って憚らない図々しさMAXな「のあ先輩」(フルネームは「早乙女望愛」)をメインに据えたオフィス・コメディ。ヒロインのノアパイに関しては「ヒドイン」「悪女」「クソ女」「やらせずぶったくり」「令和の妖怪」「女体化した子泣き爺」「特級呪物先輩」などネットでは散々な言われようである。

 パッと見は可愛いんだけど、言動の一つ一つが面倒臭くて帳消しというか、こんな先輩相手に淡々と応対して怒ったりしない主人公の「大塚理人」が聖人に見えてくる。読者の決まり文句が「理人くん、そんな女とは縁を切れ」ですからね。のあ先輩は仕事がデキるし可愛いところもあるのだが、それ以上に厄介なポイントが多すぎるというか……理人が「夏休みの最後に実家に帰って3日くらい滞在する予定」といった旨を伝えたところ、「2日にしない?」「3日もいたらあたしと遊ぶ日が減っちゃうじゃん!」と要求してくる。

 コワいのはコレ、ノアパイと理人くん、別に男女交際しているワケじゃないんですよ。あくまで「歳の差を無視した友達関係」であって、ノアパイが馴れ馴れしく接してきているだけなんですよね。恋人でもない後輩の男子を「ともだち」と言い張って束縛しようとする、「カノジョ面した先輩」に生理的な恐怖心を抱いてしまう読者が多いんです。理人くんが鉄の理性を有した聖人だから淡々としたラブコメとして成り立っているのであり、これが凡人主人公だったら距離感のおかしいノアパイに悶々とし続けるお色気マンガになっていたと思います。つまり、『のあ先輩はともだち。』は実のところノアパイではなく理人くんのキャラで保っている作品なんですよね。

 監督の「柳伸亮」はラノベ原作アニメをよく手掛けている人。代表的なところは今月原作が完結した『りゅうおうのおしごと!』か。最近だと『弱キャラ友崎くん』をやってますね。制作スタジオは「feel.」、エロゲ原作とか漫画原作、ラノベ原作をいろいろと手掛けているところ。最近の作品だと『Summer Pockets』とか『千歳くんはラムネ瓶のなか』がある。個人的には『スパイ教室』の続きをやって欲しいが、難しいかな。アニメは原作の1巻から4巻まで、あと短編集の内容もやってるのでだいたい5冊分くらいエピソードを消化しているんですが、『スパイ教室』の原作は今月出る本編の最新刊が15巻、短編集が6巻、スピンオフ「side『鳳』」が2巻で、ざっくりアニメでやった3倍以上のストックがあるんですよね。「最後の『鳳』って何?」という方のために軽く解説しますと、5巻から登場する『灯』のライバルチームです。5巻は香港みたいな国「龍沖(ロンチョン)」が舞台で、落ちこぼれ生徒の寄せ集めチームである『灯』に対し、成績上位者を集めた精鋭チームである『鳳』が「お前らみたいな連中の引率としてクラウス先生を使い続けるのは宝の持ち腐れだ、俺たちのチームに寄越せ」と要求してくる。『鳳』は精鋭チームであるにも関わらず、監督役(ボス)が不在という苦境に陥っていたのだ。クラウス先生がいなくなった『灯』――早々に瓦解する事は目に見えているので、なんとかリリィたちは先生を奪われまいと龍沖での任務に躍起となるが……って感じです。早く2期と3期が決定してくれ!

ippatuのサバイバルSFアクション「虎鶫」TVアニメ化、ティザービジュアル&PV公開(コミックナタリー)

 最終巻で細田守も賛嘆してたし、劇場アニメ化はありえるかも……と思っていたが、まさかのTVアニメ化か。『虎鶫(トラツグミ)』はフランス先行で連載が始まった珍しい漫画で、現地では『TSUGUMI PROJECT』というタイトルで発刊された。フランスは独立系の出版社が少なく、ほとんどの漫画は大企業ないし大企業の子会社が発刊する形となっているが、『TSUGUMI PROJECT』は独立系の比較的規模が小さい出版社「Ki-oon(キューン)」が出しているとのこと。以前ジャンプ+で連載されていた『リバイアサン』もキューンが版権を握っていてフランスで先行展開している。まだ連載が続いているものだと『魔女のエデン』もキューン作品。

 さておき『虎鶫』、まだTVアニメ化が発表されただけでスタジオ、監督、スタッフ、キャストなどについては不明だが、まさかの細田守監督作品もありえるのか……? ちなみに原作はあの「つくし卿」こと「つくしあきひと」も「僕はつぐみちゃんが大好きです!!」とコメントしています。それでだいたいの内容を察してください。

・吉良信吾の『沈黙と爆弾』読んだ。

 第4回警察小説新人賞受賞作。「聞いた事ない賞だな?」って方も多いでしょうが、なにぶんまだ若い賞なので仕方ない。小学館が主催している賞で、文字通り募集内容を「警察小説」のみ(ある程度拡大解釈して捕物帖とかでもOK)に絞ったニッチな賞。これまでに本書含めて3つの受賞作が刊行されている。「第4回なのに?」と訝ったかもしれませんが、第3回は「受賞作なし」だったんで……第1回が『恩送り 泥濘の十手』、第2回が『県警の守護神 警務部監察課訟務係』。第4回が本書(応募時のタイトルは『それぞれの正義』)です。実は「警察小説新人賞」の前に「警察小説大賞」というよく似た名前の前身となる賞が存在したのですが、こっちの方も知らない人がほとんどだろう。第3回まで開催されたが、あまりパッとしなかったためか、賞名を「警察小説新人賞」に変えて再出発したワケです。名称を改めていなければ「第4回」は「第7回」になるはずでした。前身時代も含めた「受賞作一覧」が掲載されている出版社のページもあるので興味がある方はチェックしてみてくださいませ。賞金額は300万円とそこそこ高額(ちなみにミステリ系の新人賞としてもっとも有名な江戸川乱歩賞は500万円、賞金が高い事で知られる『このミステリーがすごい!』大賞は1200万円、マニア人気が高い鮎川哲也賞やメフィスト賞は0円で印税オンリー)だが、ぶっちゃけ世間的な注目度は低いんじゃないかな……キラータイトルがまだ1冊も出ていませんので。

 愉快犯なのか、熊本県の各地で空き家に爆弾を仕掛ける「爆弾魔」が県民を騒がせていた。空き家なので人的な被害はなく、せいぜい畳が焦げてボヤ騒ぎになる程度だったが、悪質な犯行である事に変わりはない。県警の威信にかけて逮捕しなければ……と張り切っていた刑事たちが運悪く爆発に巻き込まれ、1名が意識不明の重態に陥った。「澤守竜人(さわもり・りゅうじん)」。周りから「竜さん」と呼ばれている、厳つい容姿でマル暴並みに「ヤクザと見紛う」ような男。彼は爆破に巻き込まれる前、非違事案(公務員として相応しくない不祥事)を起こしていた疑惑があった。居酒屋でヤクザとおぼしき男を相手に激しい暴力を振るったのだという。目撃者も多数存在していた。相手がヤクザなら面子が潰れるのを嫌って被害届を出す事はないだろうが、もしこの件が世間にバレたら警察幹部の首が飛ぶ。監察課の「阿玉清治(あだま・きよはる)」は事実関係の調査を命じられた。家族の不祥事によって出世コースから外れ、「自主退職勧告」を受けながらもキッパリと断って組織に残り続けている異端、それが阿玉である。厄介事の始末ばかり回されるせいで「お掃除ロボットのルンルン」と揶揄される阿玉だったが、家族を養うために屈辱を忍んで警察にしがみついていた。彼は新任の「船場新太(せんば・あらた)」巡査部長とともに調査に乗り出すが……。

 というワケで、破天荒な悪徳刑事がメイン……と思わせてすぐに退場し、代わりに「周囲から煙たがられている監察官」が登場して新人と組むバディ小説に変貌する警察小説。無論、タイトルに入っている「爆弾」もメインストーリーに絡んでくるが、そっちの捜査は別の班が行うので阿玉たちは直接タッチしない。なお、もう一方である「沈黙」は、2016年の熊本地震で飼っていた犬が瓦礫に押し潰されて亡くなったショックで息子の「善徳(よしのり)」が失声症になってしまい、一言も喋れなくなってしまった事を指しています。現代の熊本が舞台という事で、やはり地震の話題は避けられない。熊本地震を思い出したくない人は読まない方がいいかもしれません。地震そのものがストーリーの中心に来るワケじゃありませんが。

 澤守には妻子がいるが、息子・卓矢は結婚前に妻・茜音が産んだ子供で、澤守と血の繋がりはないという。元「組対(組織犯罪対策部)」、いわゆる「マル暴」の刑事であり、「暴力団員との癒着・情報漏洩・賄賂の受け取り」といった容疑で監察対象になった事もあったが、「証拠不十分」として放免されている。澤守の身上調査に並行し、阿玉の息子である善徳が「血まみれのナイフを持って猫の死体の脇に佇んでいた」という事案が発生。当然、猫を殺害した容疑が降りかかるが、阿玉は「善徳はそんな事をする子じゃない!」と信じる。しかし善徳は失声症のため上手く意思表示できず……と、こんな具合で「爆弾騒ぎ」「澤守の非違事案調査」「息子の動物殺し疑惑」という3つのストーリーラインが交錯する物語になっています。こう書くと「何だか混乱しそうな話だな」という印象を受けるかもしれませんが、丁寧な筆致で一つ一つの物事を整理して綴っているので割とすいすい読める。「文章力の高さ」が長所の一つと言えるでしょう。

 しかし、熊本が舞台だからか、警察が取り調べに来ているのに16時の時点で平然と酒を飲みながら受け答えする居酒屋のオッサンとか出て来てビックリするな……熊本県民にとってはビールくらい水と同じ感覚なのか? 阿玉たちもビールを勧められるが勤務中なので当然断っている。祐天寺にゃむも20歳を過ぎたらガッパガッパ飲むようになるのかな……あ、ちなみに方言の類は出て来ません。熊本弁バリバリの掛け合いを期待するとガッカリかも。

 澤守の事を詳しく知るため、直属の上司にあたる「垣脇一策(かきわき・いっさく)」警部補や部下の「鷲尾諒(わしお・りょう)」巡査長にも事情聴取を行う阿玉。そこから見えてくる彼の人物像とは? 一方で爆弾事件の捜査も進み、使われた爆発物が「硝酸アンモニウム」――あの『AKIRA』のワンシーンみたいな大爆発で全世界に衝撃を与えたレバノンの「ベイルート港爆発事故」と同じ物だった事が判明する。なぜ今までボヤ騒ぎが起こる程度の爆弾もどきしか仕掛けなかった奴が、踏み込んできた刑事を爆殺しかねないほど威力の高い爆発物を急にセットし始めたのか? やがて澤守が暴行を加えていたチンピラが見つかる(それとは別口で爆弾事件の犯人も捕まるが、精神状態に問題があってまともな供述が取れない)。だがチンピラは口を噤み、澤守の暴行について証言しようとはしなかった。こいつは澤守の捜査によって所属していた組を潰され、暮らし向きも悪くなっている。澤守を恨みこそすれ、庇う理由など微塵もないはずなのに……そして善徳の通う学校で「動物殺し」が発生し、またしても血まみれの刃物を持った善徳が衆目に晒される。善徳、お前は本当にやってないんだよな? 信じていいんだよな?

 複雑に入り乱れるストーリーは、やがて阿玉たちを「ある真相」に導く。それは警察にとって望ましくない、忌むべき代物であった……という具合に重々しいクライマックスへ向かっていきます。組織は「正義」よりも「秩序」を重んじる。公表すれば警察の威信は地に落ちるだろう。事実を隠蔽するべく、監察としての報告を捻じ曲げるよう露骨に「圧」を掛けてくる上層部。監察の仕事は「正義の実現」ではなく「組織の維持」、それを骨身に沁みるほど理解している阿玉の下した結論とは……。

 明かされた真相は正直「ええ……」となるようなモノで、ハッキリ言って爽快感とかそういうのを求める人には向かないです。胸糞悪い、というほどでもないが、間違ってもスカッとするモノではない。とはいえ、お偉いさんによって首輪を付けられた走狗、「意思を持たないお掃除ロボット」として蔑まれていた阿玉が「監察としての意地」を貫くラストは素直に熱かった。あのシーンだけでも映画化して欲しいな、と願うほどです。

 まとめ。読み出した当初は「これいったい何の話なんだ? タイトルに『爆弾』と入っている割に、主人公たちは爆弾事件の捜査に直接携わるワケじゃないみたいだし……」と戸惑ったが、複数のストーリーラインが絡み合っていく過程が面白くてだんだんと熱中しました。映画にもなった呉勝浩の『爆弾』と比べたら事件の派手さ・先の読めなさ・キャラクターの強烈な個性などといった点でどうしても見劣りしてしまうが、「あっちはあっち、こっちはこっち」と切り離して読めば充分満足の行く一冊に仕上がっている。「組織」とは別に「家庭」の要素も掘り下げているため、主人公に人間味や人間臭さを求める人にはうってつけかも。でも、これが大ヒットするかって言うと、うーん……正直、地味だよね、って感じでした。ちなみにサブキャラの澤守の部下・鷲尾諒が結構好きです。いや、決してイイ奴じゃないし、ムカつくところもあるんだけど、クズってほど悪くもないし、こういう奴がデレて態度軟化させるとつい萌えちゃうよね、っていう……うん、チョロいな、私。

・拍手レス。

 今更ながらシラートみました。体験重視なだけあって、田舎の劇場でしかも洋画なのに人結構入っていて驚きました。ネタバレなしで書き込むのは本当に難しい映画ですね。とりあえず序盤はエステバン君のファッションに釘付けで、終盤は怒涛のタイトル回収展開に吹きました。二時間以下でまとまってるから、地上波のロードショーも余裕のカンヌ・アカデミー映画でした(絶対にやらないだろうが)

 エステバンくん、最初は女の子だと思って見ていたので帰宅後に情報調べて男の子だと知り、ビックリしました。あれはおうち環境で見ると魅力半減どころじゃないし、劇場で上映されているうちに是非とも鑑賞して欲しいですよね。かなり小規模の興行だけど国内での興行収入は1億円を突破しているそうなので割とロングランしそう。



管理人:焼津