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リレー小説「魔法少女忌譚修」(第13話−10/12)


2025-06-28.

『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ キルケーの魔女』、今冬公開予定

 ジークアクスが円満終了した矢先にハサウェイの第二部の情報が来た! ガンダムファンのお祭りはまだまだ終わらない。ハサウェイもジークアクスと同じ「宇宙世紀モノ」であるが、「異なる歴史を歩んだパラレルワールド」であるジークアクスに対し、こちらは正史準拠である。そこを無視して作中年代だけ見ると、ジークアクスがU.C.0085でハサウェイはU.C.0105、20年後の物語に当たります。ちなみにZガンダムがU.C.0087、ガンダムZZがU.C.0088で、逆襲のシャアがU.C.0093、ガンダムUCがU.C.0096、ガンダムNTがU.C.0097です。サンダーボルトはU.C.0080前後の出来事を描いているが、ジークアクス同様パラレルワールド扱い(作者の「太田垣康男」が「辻褄合わせに汲々とするような歴史モノは書きたくない」という理由から違う世界線の物語にする承諾を取ったうえで連載をスタートさせた)なので正史には含まれない。タイトルのせいでややこしいが、『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』も「安彦良和の解釈に基づくガンダム」なので正史とは分けて考えられています。2022年に公開された映画『ククルス・ドアンの島』も商業上の理由で「THE ORIGIN」が付いてないだけで、設定はTHE ORIGINに概ね準拠しており、厳密には正史ガンダムじゃない。こんな具合に宇宙世紀モノは「正史か否か」の判定がメチャクチャ面倒臭いんですよ。増築に増築を重ねたせいで正史すらも辻褄の合わない箇所が多々ある(MSの開発時期とか配備状況とか)から永遠に議論が絶えない。

 宇宙世紀モノは初代ガンダムのU.C.0079から始まって80年代、90年代を描く作品が多く、U.C.0100以降になるとグッと空白が大きくなるんですよね。ジークアクスみたいに冒頭3話分の内容を映画として上映して、続きをテレビで放送する――という構想だったけど商業的に成功しなかったため映画1本で終わってしまったガンダムF91がU.C.0123、VガンダムがU.C.0153、アニメ化してないけど漫画作品が長期化しているクロスボーンガンダムはU.C.0133からスタートして170年代頃までストーリーが展開されている。『閃光のハサウェイ』はもともと「富野由悠季」が1989年から1990年にかけて刊行した全3巻の小説作品で、諸事情から(主に「Ξ(クスィー)ガンダムやペーネロペーの造型が複雑すぎて、動かそうとしたらアニメーターが死ぬ」という理由から)長らくアニメ化されなかったが、サンライズの「UC NexT 0100 PROJECT」(逆シャアのU.C.0093を起点に、空白の多いU.C.0100以降を「外伝」ではなく「本伝」として描く試み)の目玉として劇場三部作のアニメ化が決定、2021年に第一部が公開されました。原作の『閃光のハサウェイ』は逆シャアの没案をベースにした『逆襲のシャア ベルトーチカ・チルドレン』という小説の続編で、ハサウェイにとって初恋の少女である「クェス」の死に至る経緯が逆シャアとは違っているんですけど、アニメ版は逆シャアの設定に合わせるためそのへんを原作から変更しています。つまり、本来『閃光のハサウェイ』は正史に含まれないパラレルワールドの外伝的なストーリーだったんですが、「本伝」化するために設定を変更して正史に組み込まれた――という、これまた面倒臭い経緯があります。パラレルワールド扱いだった『Fate/Zero』がアニメ化に際して『Fate/stay night』の正式な前日譚になったのに少し似ているかな。実は奈須きのこ、「征服王インスカダル」をエクストラクラス(明言されていないが指揮官ポジションなので「コマンダー」だと思われる)の女性サーヴァントとして構想しており、「女イスカンダル」が第四次聖杯戦争に参加した物語こそが正史だったのだが、虚淵玄の書いたイスカンダルが素晴らしかったこともあり正史の方がお蔵入りになってしまった。ロード・エルメロイU世に登場した女性サーヴァントの「フェイカー」は「イスカンダルの影武者」というやや無茶な設定になっているが、このへん「女イスカンダル」の名残りとも言える。

 話が逸れた。『閃光のハサウェイ』のアニメはコロナ禍の最中ということもあって制作が遅れ、当初の予定では2020年公開予定だったのが翌年までズレ込みました。そして第二部『キルケーの魔女』はオーストラリアが主な舞台なんですが、渡航困難な時期だったこともありロケハンがなかなか進まず、これまた制作が遅延するハメに。今年2025年にやっと公開の目処が立ったというわけで、三部作なのに第一部から第二部まで4年も待たされることになりました。ホッと胸を撫で下ろす想いだが、次は4年も待たせないでほしいですね。ハサウェイ、ガルパン最終章、プリプリCH(プリンセス・プリンシパル Crown Handler)、いったいどれが一番先に完結するのやら。ハサウェイ第二部が公開されたら第三部の前に『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM ZERO』かな……本当、ガンダムは弾が尽きないのがスゴい。

◆速報◆ニンジャスレイヤー原作書籍シリーズが再起動! 第4部「エイジ・オブ・マッポーカリプス」も待望の書籍化開始!◆==

 やっとニンスレの書籍化が再開します、ヤッター。ニンスレこと『ニンジャスレイヤー』は1990年代にアメリカの出版社から刊行された小説『Ninja Slayer』を日本語に翻訳したモノ……といった体で発表されているネット小説です。事情をよく知らない本屋がつい翻訳コーナーに並べてしまうことで有名。企画は2005年頃から動いていたみたいだが、本格的に展開し始めたのは2010年あたり、そして2012年にKADOKAWAで書籍版が刊行スタートとなります。400ページ以上、時に600ページにも及ぶ厚い物理書籍がバンバカ刷られて書店に並んだわけですが、21冊目に当たる『ニンジャスレイヤー ネヴァーダイズ』を最後に刊行が途絶え、以降はコミカライズ版だけが出版されているような状態になりました。ネット上では第4部「AoM(エイジ・オブ・マッポーカリプス)」が2016年から始まっており、既に結構な量のストックが貯まっていたのですけど公式は「現時点で書籍化の予定はない」というアナウンスしかせず、このままネットのみの展開になるのか……と諦めかけていたところにこの報せが舞い込んだのだからファンは「ワッショイ!」と歓喜したわけです。

 第4部の書籍化に合わせ、第1部に当たる「ネオサイタマ炎上」の再編集総集編『ニンジャスレイヤー ネオサイタマ・イン・フレイム』も出す予定とのこと。「ネオサイタマ炎上」は書籍版の1〜4巻部分に相当(ちなみに5〜12巻が第2部で、13〜21巻が第3部に相当)しますが、現在の出版事情から再刊は困難(わざと安っぽいペイパーバック風に作っていたが、あれで割とコストが掛かっていたのだろう)ということで4冊分を1冊に圧縮した総集編を出すことで「初心者向けの入門書」にする模様です。ボーナストラックもあるので既刊を持っているファンも買ってほしい、とアピールしている。AoMは購入する気満々ですけど、「ネオサイタマ・イン・フレイム」の方はどうしようかな……最近は本棚の整理に力を入れているから、正直1冊でも余分な本は増やしたくないんですよね。商業展開が結構厳しいみたいだから、応援の意味もかねて購入したいところではあるけど……。

・高橋慶太郎の『デストロ246(1〜7)』読んだ。

 これの前日譚に当たる『デストロ016』の新刊が発売されて、「そういえば246は途中まで読んだ状態で積んでいたな」と思い出し、記憶も曖昧だったので最初から読み直して読み切った。作者の「高橋慶太郎」はアニメ化された『ヨルムンガンド』で有名な漫画家、FGOで「荊軻」や「ナイチンゲール」のキャラデザも担当している。『デストロ246』は女子高生の殺し屋や女子高生のヤクザが登場して銃をバンバカ撃ちまくり、男キャラはほとんどが登場してすぐに死ぬという「オスが長生きしない」系アクション。ヨルムンガンドの前に描いたデビュー作『Ordinary±(オーディナリー プラスマイナス)』の姉妹編だから、先に『Ordinary±』を読んでおくとより楽しめます。「文科省所属の殺し屋JK」という、それだけ書くとにんころよりも倫理がヤバそうな設定の漫画です。

 妻子を毒殺された富豪「透野隆一」は復讐を誓い、その手駒として南米マフィアによって育てられた17歳の殺し屋少女ふたりを買い取った。メイド服に身を包んだ見目麗しい二人組は冷徹な殺戮マシーンだが、「性的な奉仕はしない」という一点でプライドを保っている。復讐に取り憑かれた透野はふたりに「翠」と「藍」という名前を与え、学校に通わせる。「殺し屋」を激しく憎む透野は翠と藍に「殺し屋殺し」を指示し、その派手な遣り口は当然注目を集める。「文部省教育施設特査」(元のOrdinary±開始時点では文科省に統合される前だったのでこの名称を引きずっている、普通に考えれば現在は文科省になっているはずだが、あるいはデストロの世界では統合が起きていないのかもしれない)に所属し、「上」にとって都合の悪い存在を消す少女「的場伊万里」も翠と藍に目を付けられ、あわや交戦の火蓋が切られる……という寸前のところで逃げ出し、撒くことに成功。しかし後日、またしても顔を合わせることになり……。

 物騒な少女たちが軽口や罵声を交わしながら戦ったり戦わなかったりする、作者の“癖”が出まくった一作。これ読むと「『ヨルムンガンド』はまだ趣味を押さえて描いていた方なんだな」と実感する。高校生の頃『あぶない刑事』にハマった、とインタビューで語っている通り、豪快で大雑把なノリが全編を貫いている。イマリンや翠藍も充分にキャラが立っていますが、一番濃いのは眼鏡っ子にして現役JKヤクザの「万両苺」ちゃん。正確に言うと暴力団の看板は既に下ろしているのですが、売春組織の管理や違法薬物の売買などは続けており、コネクションもそのまんまなので「ヤクザ」以外の何者でもない。横浜全域を「シマ」と捉えており、横浜内で揉め事を起こされることを嫌う。荒事はボディガードの「佐久良南天」と「市井蓮華」に任せており、本人は非力であるが、毒物の扱いに長けているため暗殺能力は高い。翠&藍は「毒薬使い」ということで苺ちゃんに疑いの眼差しを向ける、ってのが前半の展開です。犯人探しが主軸の物語ではないからバラしてしまうが苺ちゃんは透野の妻子を殺した犯人ではなく、「毒物の扱いに関しては師匠ポジションの殺し屋から教えてもらった」ことを告白する。苺ちゃんの師匠に当たる殺し屋、それが『デストロ246』である意味ラスボス格に相当する「沙紀」です。

 その沙紀を主人公に据えた前日譚が現在連載中の『デストロ016』だ。ちなみにタイトルの「デストロ」は「デストロイ」を縮めたもので、「246」は国道246号(この周辺が主要人物たちのテリトリー)、「016」は16歳(当時の沙紀の年齢)をイメージしている。複数の勢力の思惑が交錯するせいで視点が散らばりがちだった『デストロ246』と違い、こっちは主人公(沙紀)を中心にしてストーリー構成しているので、ぶっちゃけ246よりも016の方が漫画としては読みやすいんですよね。まとめて読むならまだしも、時間を置いて読むと246の方は「どんな話だったっけ?」となってしまうのが難点。南天は可愛いけど。具体的な年代は明かされていないが、ざっくり「016は246の10年くらい前」というテイストで描かれている。246が2010年代くらいなので、016は2000年代くらいですね。時代としてはヨルムンガンドの頃に近く、実際にヨルムンのキャラもゲスト出演する。「えっ、ヨルムンとデストロって同一世界だったの!? でも246は飛行機が飛んでなかったか……?」というツッコミどころ(ヨルムンはラストで世界中の飛行機を飛ばせなくする計画が発動する)があるけど、パラレルワールドとかスターシステムとか、あるいはヨルムンガンド計画は発動しなかった(計画の発動する場面で終わっているので、本当に発動したかどうか、その状況が維持されているかどうかは定かではない)という解釈も可能だ。

 ついでに016の感想も書いたせいでなんか話が散らばっちゃったな……まだ南米にいる頃だから翠&藍は出てこないが、小学生の苺ちゃんとか幼女時代の伊万里とかも出てくるので246好きにとって016は外せない作品だし、仕方ない。主要キャラが7人(翠、藍、伊万里、苺、南天、蓮華、沙紀)もいるせいであまり「強い新キャラ」が出せなかった(強いて言えば紅雪=白頭鷲くらい?)246と違って、016は鳥に因んだ強い殺し屋少女たち(「鳥の名」を冠する殺し屋を育成する「止まり木」という組織があり、伊万里もそこの出身、コードネームは「梟」)が次々と登場するからエンタメ的に読んでも単純に面白いです。モズ、ハヤブサ、ノスリ等々。男の殺し屋も出てくるけど、作者が描いてて楽しくないからかそっちの方は瞬殺される。主人公の沙紀はレズビアンで、対戦した少女のおっぱいを役得とばかりに揉み回すのも楽しい。過去イチ作者の趣味が炸裂している漫画なんで、完結している246は後回しでもいいからとにかく『デストロ016』を読みましょう。あと、そういえば『デストロ246 ハンマーレイジ』というノベライズ作品があったな……忘れていた。オリジナルストーリーらしいので、一応目を通してみるつもりです。


2025-06-17.

・電撃文庫のXアカウントが『終わりのクロニクル』の佐山&新庄とおぼしきシルエットで新情報解禁を告知したので「なんだろう? 単なる電子化でここまで思わせぶりな予告するとは思えないし、まさかアニメ化? それとも続編開始? その両方?」とソワソワしながら待っていたらカクヨムネクストにてアイコントーク形式で連載決定というニュースだった焼津です、こんばんは。

 要は実質的なリメイクですね。小説形式だった原作を最近川上稔が力を入れているアイコントーク形式(昔のホームページでやってたアレ)にコンバートしていく模様。「加筆修正による全面リライト」「キャラクターデザインもさとやす氏によるリデザイン」ということで旧読者もふたたび楽しめるわけだ。というか、思った以上にキャラデザ変えてきてビックリ。印象の違いは塗りの影響もあるのかな……最近の『ファン学!!』はそこまでタッチの違いを感じなかったし。しかしこれ、旧バージョンの方はもう電子化しないつもりか……?

 大元の『終わりのクロニクル』は2003年6月に始まって2005年12月に終わった、分類上は「ライトノベル」ながら最終巻が1000ページを超えていたこともあって「ヘビーノベル」とも呼ばれる現代ファンタジーのシリーズです。展開期間は2年半、冊数にして14冊と、それだけ書くと「中規模サイズなのかな?」って錯覚しますが、総ページ数は約7000ページ、「一般的な文庫本」を300ページくらいと想定すると23冊以上。相当なボリュームを誇っています。量もさることながら、ストーリーのスケールも大きい。「川上稔の作品には7つの時代区分があって、これは2番目の時代『AHEAD』に位置するから『AHEADシリーズ』と冠されていて……」と説明されても川上作品に触れたことがない人には何が何やらサッパリわからないだろうから、そこらへんの解説はカットします。

 『終わりのクロニクル』は現代(刊行当時の、なんで今からもう20年以上前だけど)を舞台にした物語で、主人公の「佐山・御言」は生徒会副会長として辣腕を振るう「参謀」タイプのキャラです。超能力の類は一切有しておらず、悪辣なまでの智謀と粘り強い交渉力、ときにシンプルな暴力と運動力で困難を切り抜ける。開始時点で佐山は魔法や超科学など絵空事だと思っている、ある意味では普通の高校生だったのですが、祖父「佐山・薫」の遺した何かを受け取るために「奥多摩IAI」という企業まで赴くことになっていた。父「佐山・浅犠」が養子だったため血の繋がりはないものの、幼い頃に両親を喪った彼にとって薫は「育ての親」に相当する存在である。戦後、総会屋として散々酷いことをやってはいけしゃあしゃあ「佐山の姓は悪役を任ずる」と言い放っていた祖父が遺したモノとは? 目的地に向かう途中、悲鳴を耳にした佐山は人狼と交戦する武装少女「新庄」と遭遇する。能力を持て余し、何事にも本気になれなかった少年は、遂に「全力で取り組むべき課題」に出逢う――これは一人の少年があらゆる悪を凌駕する「悪役」と化す物語である。

 という感じで、冒頭はオーソドックスな「日常から非日常」への移行を伴うボーイ・ミーツ・ガールです。「自分を中心に世界が回っていると豪語するほどの自信家」の少年と「山奥育ちのため、常識が世間より10年ほど遅れている」少女の組み合わせ、ここにもう一つネタバレになるから書けないギミックが仕込まれていて多数の読者の“癖”を壊しました。主人公カップル以外にも複数のカップルが登場するからカップル好きにはたまらないんだよな。奥多摩IAIの地下には「UCAT」という秘密組織の施設があり、そこで主人公は「世界の秘密」を知ることになる。ちなみに「UCAT」の発音は「ユーシーエーティー」です。私は読んでる間ずっと「ユーキャット」だと思っていました。「世界の秘密」についてザックリ語りますと、佐山たちが住む「この世界」とは別にかつて十個もの異世界が存在していて、一定周期で異世界たちは交差・交流していたが、あるとき「全ての異世界が周期上で重なる」――つまり、何もしなければ「全世界」が衝突する運命の日がやってくると判明してしまった。運命の日は西暦に換算すれば1999年。各世界――隣り合って干渉し合う性質から歯車に喩えてG(ギア)と称される――には「概念」と呼ばれる独自の法則が存在しており、概念を五割以上奪い取られたらそのGは存在を保てず崩壊してしまう。生き延びるのは、奪い取った「プラス概念」のもっとも多いG。自分の住むGが生き残るため、他のGはみんな概念を失って滅んでもらおう――と関係者たちが考えた結果、世界を跨ぐ「概念戦争」が勃発した。そして「今」から60年前の1945年、第二次世界大戦の裏で概念戦争は終結。佐山たちの住む「この世界」、マイナス概念に満ちているせいで「最低のG」として蔑まれた「Low-G」が勝者となった。その勝利の立役者がUCATで、当時の中心人物の一人が佐山・薫、祖父だったのである。UCATは概念戦争に関するあらゆる情報を封印・隠蔽し、Low-Gの表社会に一部始終が漏れることなく時は過ぎていった。

 「Low-Gを生存させるために幾多もの異世界を滅ぼした」巨悪、祖父が遺したのは、生き残ってLow-Gに移ってきた各Gの難民たちとの戦後交渉。Low-Gの抱えるマイナス概念は「関西大震災」が発生した1995年12月25日に活性化を始め、計算の末に10年後の「2005年12月25日」に臨界点を超えるという結論が弾き出された。放置すれば、せっかく生き延びたこのLow-Gも他のG同様に滅ぶハメとなる。そこで各Gの概念をLow-Gに持ち込むため圧縮・物質化した「概念核」を解放し、プラス概念を加えることでバランスを取ろうという計画が立てられた。そうなればLow-Gは元の物理法則を保てなくなるが、滅亡するか否かの瀬戸際なので背に腹変えられない。移住してきた各Gの難民たちも、移住先が滅んでしまっては元も子もないので承諾してくれるだろう――というのは甘い考えで、中には「元の世界が滅んでしまったんだ、こっちの世界も滅ぶべきだろう」みたいな過激派もいて足並みが揃っていない。宥め、すかし、時には脅して概念核の使用許可を取り付ける必要がある。困難を極めるであろう任務に対し、UCATは「全竜交渉(レヴァイアサンロード)」という名を与えた……と、こんな具合で祖父から委ねられた戦後処理に尽力する主人公たちの活躍を描く冒険活劇陰謀策謀交錯譚です。シリーズ最大の特色である「世界の存亡を懸けたデスゲーム」が開始時点で既に終結しており、戦後交渉の中で少しずつ「当時どんな争いがあったのか」、どんな禍根が残っているのか明らかになっていく――っていうツイストの効いた仕組みだ。

 物語は2005年3月、春休みの最中に始まり、「臨界点」へ達する同年12月に一区切りとなる。1の上巻のプロローグは2007年の出来事を描いているので、実は時系列的に最終巻よりも後なんですよね。今読むと「こんなに早い時点からここまで情報出していたのか!」と驚くことになる。あのプロローグ、後で読み返せば書かれている意味がわかるので、初読時は「なんかよく意味がわかんないな」と思ったら流し読みしてOKです。次回作である『境界線上のホライゾン』ほどではないが、とにかく設定が多くて細かいことまで説明していたらキリがないシリーズである。ただ、主人公が「異世界とか概念とか、この作品独自の設定に関してまったく精通していない」地点からスタートするため、ホライゾンよりはフレンドリーな設計になっています。だからホライゾンがアニメ化する際に「クロニクルの方がアニメ向きだと思いますけど?」と原作者が言及して、アニメサイドに「それでもホライゾンをやりたい」と返された――なんてエピソードもあります。

 各Gは世界中の神話がモチーフになっており、任務名が「全竜交渉」なのも「神話には竜が付き物」だからである。たとえば最初の交渉相手である「1st-G」はゲルマン神話、いわゆる『ニーベルングの指輪』みたいな世界で「ファブニール」という機竜が出てきます。二番目の交渉相手である「2nd-G」は記紀神話、竜はもちろん八叉。このGの特徴として相手の意識に滑り込むような移動をすることで一切知覚されない体術「歩法」なんてものが飛び出す。「3rd-G」はギリシャ神話の世界、となれば出てくる竜はテュポーンである。出生率が異様に低下したため、労働力の穴埋めとして「自動人形」と呼ばれるアンドロイドや「武神」と呼ばれる巨大ロボの技術が発達したG。60年前に持ち込まれた自動人形たちは概念を失って停止していましたが、10年前の1995年、マイナス概念の活性化に合わせるかのように稼働を開始している。魔法や超科学など存在しない、そう素直に信じられた世界がだんだん変容していくので、そういう点も含めて「AHEAD(前へ)」なんですよね。キャラ同士の掛け合いの面白さも特徴の一つなんで、リライトによって新たな掛け合いが拝めるのも楽しみである。「大城・至」と「Sf」の遣り取りが好きなんだよなぁ……『終わりのクロニクル オリジン(仮)』、作中の年代も2005年から2025年前後に変更するのかな? とりあえず連載終了の時期をクリスマスに合わせてきそう。

 余談。↑の方で「川上稔の作品には7つの時代区分があって」という記述を読んだ時、「あれ? 6つじゃなかったっけ? 記憶違い?」と戸惑った方もおられるかもしれません。実は割と最近に「CITY」の後として「LINKS」という新しい時代区分が加わったんです。川上稔曰く「1999年の7月にTOKYOの神田、時館という時計塔で、ケリー・バンサム彗星と帝都軍が時間を巡る事件を起こして、世界が壊れた」そうで、壊れた世界を再構築?したのがLINKSになるみたいです。正直、新しすぎてまだ詳細がよくわからないんですよね。「♂だったのに目が覚めたら巨乳のダークエルフになっていた」という新シリーズ『ファン学!!』が展開中なので興味があるなら読むべし。これもアイコントーク形式だから先にカクヨム連載版を読んで感覚を掴んでからの方が良いかも。ぶっちゃけWeb連載版の方がカラーなので読みやすいんですよね……書籍版はモノクロだからアイコンの見分けがつきにくい。終わクロオリジン(仮)も書籍化されると思うので買うつもりだが、できればフルカラーにしてほしいな。お値段張ってもいいから。

堂本裕貴「愛してるゲームを終わらせたい」TVアニメ化、幼なじみの両片思いラブコメ(コミックナタリー)

 3年くらい前からやってるラブコメ漫画で、去年ちょっと長めの休載があったから心配してたけど、アニメ化に至ったのか。めでたい。「愛してるゲーム」というのはお互いに「愛してる」と言い合って照れた方が負け、という告白ゲームです。流行ったのは四半世紀も前だから今の世代には架空のゲームと認識されている節があるけど、一応それなりの年季を誇る実在のゲーム……らしい。実際にやったことがある人ってどれくらいいるんだろう? ほとんどの人にとって「聞いたことがある、やったことはない」という都市伝説みたいな存在だと思われる。さておき、『愛してるゲームを終わらせたい』は小学6年生の頃から「愛してるゲーム」を始めて、4年経った今になっても決着がついていない……という幼馴染みの男女が、「いい加減にこのゲームを終わらせて本当に付き合いたい」と考えながらも踏み込めずにいる「もどかしい」系のストーリーだ。ぶっちゃけ『かぐや様は告らせたい』の亜流みたいな企画だ(というか、かぐ告にも「愛してるゲーム」を扱った回がある)けど、ギャグ色が少ない「凡人たちの恋愛頭脳戦」なので「ピュアなラブコメが読みたい」という人にはうってつけの一作である。ヒロインの「桜みく」がメチャクチャ可愛いんだよなぁ。主人公もみくちゃん一筋で他の子に目移りしないから安心して読める。6月中はWebで無料公開分が拡大されているから、せめてポッキーゲームの回だけでも目を通しておいてほしいです。

 「サンデーうぇぶり」という小学館のWebコミックサイトで連載されている漫画なので、一応「サンデー作品」に該当するかな。かつては「ラブコメといえばサンデー」という時代があったけど、最近はマガジンやジャンプに押されて少し存在感が弱まってますね。アニメ化された『トニカクカワイイ』や、夏にアニメが放送される『帝乃三姉妹は案外、チョロい。』あたりは知名度が高めだけど、それ以外はあまり知られていないような……と感じがするのでいくつか紹介していこう。

 まず『百瀬アキラの初恋破綻中。』、とにかく画力が高くて1話目から引き込まれる。これも『愛してるゲームを終わらせたい』と同じく「主人公とヒロインはお互い相手のことが異性として好きなんだけど、片想いだと勘違いしている」両片想い系ラブコメで、ヒロインの「百瀬アキラ」は将来的に主人公の「久我山はじめ」と結婚する――という目標を掲げ、そのための遠大な計画(手を繋ぐ、家に招待するなど)を立てているけど、いつも空回りしてしまってなかなか計画通りに事が進まない。その様子を指して「破綻中」と表現しています。もう既に攻略が完了している相手を改めて攻略しようとしているわけで、空回りするのも当然だ。ややギャグ色が強く、「そうはならんやろ」という展開目白押しなので「なんか期待したのとはちょっと違う」ってなる方もおられるでしょうが、少しずつ着実に二人の関係が進展していくのでニヤニヤしながら見守っていきましょう。

 次に『となりの席のヤツがそういう目で見てくる』。主人公の「池沢」はちょっとチャラい雰囲気の男子。そこそこイケメンなのに平気でセクハラ発言をかますデリカシーのなさからモテずにいる。そんな彼は隣の巨乳メガネ女子「江口」をエロい目で見ていて、ニヤニヤ笑いながらからかうのだが、江口も江口で池沢のことをエロい目で見ているからセクハラ返しをしてくるのだった……という、下心全開系のラブコメ。要するにオープンスケベ同士でチキンレースを繰り広げるちょいエロ路線なんだけど、セクハラすることには慣れていてもセクハラされることには慣れていない池沢が羞恥に顔を赤らめる展開が多く、「どっちがヒロインかわからないな、これ」ってなる。1巻の時点で既にふたりとも下心の域を超えて普通に恋愛感情を抱き始めているのだが、双方とも「自分はあくまで性欲の対象であって恋愛対象と思われていない」と勘違いしてしまう。変型の両片想いラブコメなんですよね。傍から見ると完全に付き合っているようにしか見えないというか、いろんな段階をすっ飛ばしてしまったせいでお互いどうすればいいのかわからなくなっている、という滑稽なシチュエーションを描いています。しかし『江口さんはゲーム脳』といい、エロい女子に「江口」とネーミングする風潮はなんなんだろうな。

 『マネマネにちにち』『からかい上手の高木さん』『それでも歩は寄せてくる』の「山本崇一郎」が送る新作。「あっ、テレビCMで見たわ」って人もいるでしょう。野球部のマネージャーを務める女子3人の日常を描くオムニバス形式のコメディであり、ラブコメ要素はそんなに強くないからラブコメとして読むと少し物足りないかもしれない。が、その薄さゆえにか、『からかい上手の高木さん』や『それでも歩は寄せてくる』にいまいちハマれなかった私もこの『マネマネにちにち』にはハマった。モテたい割に異性からの好意には鈍感な「渚茜」が可愛い。あまりハッキリしたストーリーはないので、多少エピソードを飛ばして読んでも構わないあたりが気楽で良いです。

 最後に『レジスタ!』、4月に1巻が出たばかりの新作です。主人公は36歳のオッサン、過去に婚約者の不貞が原因で結婚の機会を逃して以来、誰に対しても熱い想いを抱けず索漠とした日々を送っていた。しかし引っ越し先のスーパーでレジ係の女性を目にした瞬間、死滅したはずの恋愛感情が突然甦ってしまう……という、「もう恋なんてしない」と思っていた不惑間近のオッサンが初恋みたいなパッションに翻弄されてしまうラブコメです。シチュエーション的には『スーパーの裏でヤニ吸うふたり』を彷彿とする部分があるけど、レジ係のヒロイン、実は女子高生だということが2話目で判明する(読者に対して、主人公は気づかない)ので一緒にタバコ喫んだりはしません。1話目だとあんまりエッチな描写がないけど、2話目ではねっとりしたカメラワークでヒロインの下着や太腿やお尻を映しているから、「爽やか路線だと思ったのにそこはかとなくインモラルな雰囲気が漂っている」ことに嫌悪感を覚える読者もいるだろう。作者は18禁アダルトコミック、いわゆる「エロ漫画」で活躍した経歴のある人なので完全にノリが「エロシーン始まるまでの前フリ的な日常シーン」なんですよね。「オッサンと女子高生が一線を越えるかもしれない」シチュエーションにドキドキできる人向けの漫画です。コンプラだの何だの意識しすぎて縮こまっている作品が多い中、こういう「オッサンとJKの恋愛物だなんて気持ち悪い」と叩かれそうなジャンルをまっすぐに突き進んでいく姿勢、応援したい。

 余談。ラブコメは好きだけど、浴びるほどエロゲーを味わった世代なのでやっぱり「ヤることヤらない」もどかしいストーリーにイライラしてしまう、というところはあります。大きな声では言えないにしても、やっぱり「恋愛しつつヤることヤってる」エロ漫画を読みたいって方も少なくないでしょう。そんなアナタにオススメしたい一作が『エロ小説みたいな青春Hを陽キャ彼女の水渡さんと』です。物理書籍はメロンブックス専売ですが、電子版はFANZAとかDLsiteでも取り扱われています。分類上は「同人」なので検索の際は注意。

 この作品、作者の「真白しらこ」が商業作品として発表した「Better than fiction」という短編の続編に当たります。飛ばしてもストーリーは理解できますが、「Better than fiction」を先に読んでおいた方がより楽しめる。単話販売されているのでAmazonとかでも購入可能。描き下ろし後日談のある単行本『彼女フェイス』を買うのが最上ですけど、さすがに短編ひとつのために単行本一冊の購入を薦めるのはちょっと……なので「検討してみてください」程度に留めておこう。真白しらこの商業作品はほぼすべて網羅している(「ステイタス」だけは毛色が異なる、という理由で収録されていない)からオススメではある。

 「Better than fiction」の主人公「新井」はエロ小説を読みながら「現実の女の子とこんなことが出来たら……」と夢想している陰キャ少年。ある日の放課後、客のいない小さな本屋でエロ小説を物色していたらクラスメイトでカースト上位の陽キャ女子「水渡」が話しかけてくる。彼女は「こういうの、本当に気持ちいいか試してみない?」と誘ってくるが……という感じでヤることヤって、付き合い始めてからのエピソードが『エロ小説みたいな青春Hを陽キャ彼女の水渡さんと』です。「Better than fiction」は好き(Hシーンもさることながら、ケラケラ笑う水渡さんとかHと関係ないコミカルなシーンも可愛い)だから、ちょっと高いけど買っちゃうか……同人だし高いのは仕方ない、と己を納得させながら購入したところ、想像以上のボリュームで驚いた。80ページ以上!? 元が描き下ろし含めて30ページくらいの作品なのに!? あとがきによると「アレもコレもやりたい」とネタを詰め込んだ結果、ここまで膨らんでしまったそうな。

 可愛くて巨乳で性欲旺盛で、ヤりたいシチュエーションに何でも応じてくれるという「男のロマン過積載だろ」なヒロイン・水渡さんとのヤりまくりな日々を綴った漫画であり、「やっぱりヤることヤってるラブコメはいいなぁ〜」としみじみしてしまう。事後に精液を垂らしながら日常会話しているカットとか、マジでたまらない。エロいのは当然として、水渡さんは本当に新井くんのことが好きなんだな……と伝わってくる内容に仕上がっており、股間はギンギンなのに胸がキュンキュン締め付けられる。あとがきで3作目についても触れていて、ボリュームをちょっと下げて60ページ以内にしたい、いつ頃発行できるのかはわからない、とコメントしています。体調の問題で夏コミは辞退したそうだから、最短でも次の冬コミだと思われる。たぶんその3作目で完結っぽいかな……番外編みたいなのをちょこちょこ出す可能性はあるかもですが。水渡さんと新井くんの肉欲にまみれた青春がまだ見れるだなんて嬉しすぎるぜ。というかこのふたり、あれだけ散々中出しS〇Xしまくっている割にお互いのことまだ名字で呼び合っているんだよな。付き合っていることを周囲には隠しているから、ってのもあるが……肉体関係から始まるカップルというのはエロ漫画界隈じゃ別に珍しくないけど、「名前呼びイベント」を消化しないまま粘膜接触を続けてるのはスゴいわ。あと、「付き合ってから2週間」ということで単に言及されていないだけかもしれないが、少なくとも描写されている範囲ではお互いの家を訪問するシーンがないんですよね……えっ、まさか「彼氏/彼女の部屋に上がってドキドキ」というイベントがまだ発生してないの……!? 順序がおかし過ぎてちょっと笑ってしまった。

 ちなみに、作者は以前商業で発表した漫画の続編を同人で出し続けて、その総集編に始まりの商業作品も収録した(かなり描き直したせいで絵柄が変わっている)という過去があるから、水渡さんシリーズの完結編を出した後で「Better than fiction」を含む総集編が発売されるケースもあるかもしれません。ただ、完結編すらいつ出るかわからない状況なので、総集編が出るのは何年後になるかちょっと想像がつかないな。それに総集編を出したシリーズ(先生×教え子)もまだ完結していなくて、今はシリーズ5作目(前日譚や番外編を含めると8作目)を執筆中ですし。「先生×教え子」シリーズは累計ページ数が300Pを超えるエロ漫画としては大長編に当たる作品で、シリーズ1作目「三月の雨」は先生好き好きオーラを出しまくっている少女「大塚宮子」が卒業式当日にやっと一線を越える、って話。その後は大学生になってからの話がほとんど(なんで宮子がそんなに先生のことを好きなのか、という理由を掘り下げる前日譚もあるけど、卒業式までに一線を越えちゃうと矛盾するので夢オチ)なんで、正確には「先生×教え子」というより「元先生×元教え子」ですね。宮子は真白しらこ作品の中でも特にファン人気が高いヒロインであり、今年の3月に開催されたイラスト展のキービジュアルで水渡さんと一緒に描かれていたりする。こうして並ぶと宮子の方が胸デカいんだな……とわかったりして興味深い。

・メアリー=ドゥの『悪役令嬢の矜持1』読んだ。

 最近はちょっと下火になりつつあるかな……という感じのジャンル、「悪役令嬢モノ」に属するシリーズです。同時期に副題以外はまったく同じタイトルの作品が書籍化されているせいでややこしい。向こうは『悪役令嬢の矜持 婚約破棄、構いません』と副題が固定されているのに対し、こちらは巻ごとに副題が変わる方式(たとえば1巻は「私の破滅を対価に、最愛の人に祝福を。」で2巻は「あなたが臨む絶望に、悪の華から希望を。」)なので、副題で書き分けるのもなかなか難しいところだし。ちなみにコミカライズ版もあって、そちらは副題を「婚約者を奪い取って義姉を追い出した私は、どうやら今から破滅するようです。」で固定している。実は2年以上前、新刊当時に購入して半分くらい読んでいたんですが、後半に差し掛かったところで気が乗らなくなって放り出してしまった。つい先日「そういえばまだ途中だったな」と思い出して再開し、チマチマ読み進めてやっと読み切ったんです。なんでそんなことになったのか? それを説明する前にまずストーリー紹介といきましょう。

 私の名はウェルミィ、悪名高きエルネスト伯爵令嬢である。元平民で、本来なら家督を継ぐ立場ではなかったにも関わらず、後妻になった母と貴族の父が揃って我が義姉「イオーラ」を虐げた結果、継承権がこの手に転がり込んできた。ここ数年、私のしてきたことは「悪辣」の二文字に集約されるだろう。イオーラをイジめ抜いた末、その婚約者である「アーバイン」を篭絡して婚約破棄するように仕向け、廃嫡された義姉を冷酷非情の「魔導卿」エイデス・オルミラージュ侯爵に売り渡した。生まれ育った家を離れ、遠い地に去っていくイオーラを私は満足げに眺め遣る。知っているからだ。この半年後に、私は「悪役令嬢」として断罪され、代わりに愛するイオーラ姉様が救われることを……。

 こんな具合に愛する義姉を救出するために父や母の期待に応えるフリして面従腹背を貫いていた令嬢の「破滅」を描く物語なんですが、彼女の書いた脚本通りに物語が進むのは80ページくらいまでで、そこから先は思いっきり計画が狂っていく。この作品、血縁関係が非常に入り組んでいるためテキトーに読み流してしまうとワケがわからなくなります。私自身整理する意味も兼ねてネタバレ全開で解説していきます。この話における一番の悪役である「サバリン・エルネスト伯爵」はなぜウェルミィの義姉であるイオーラを虐げたのか? という謎に関してですが、これは単純でイオーラは彼の娘ではないからです。サバリンには兄がいて、もともとはそっちが伯爵だったんですけど地方で視察中に死亡し、お腹の大きかった兄嫁とサバリンが再婚した――って経緯がある。つまりイオーラは先代伯爵の娘であり、サバリンにとっては姪に当たる(表向きには自分の娘として届け出ている)。しかし産後の肥立ちが悪く、イオーラを産んで間もなく前妻である兄嫁は死亡。血縁ではあるけど己の血を直接引いているわけではないイオーラのことが疎ましくなり、後妻(ウェルミィの母)とともに彼女をイジめていたわけです。「なんとかイオーラを始末して、自分の娘であるウェルミィに後を継がせたい」と陰謀を張り巡らせており、下手すると亡き者にされそう……とウェルミィは内心慌てつつ率先して義姉イジメを主導し、虐待の手綱を握ることでなんとか「死なない程度」に収めていたのだ。この時点でだいぶややこしい構図になっていますが、まだまだ序の口、話はここからどんどん複雑になっていきます。

 サバリンはウェルミィを「自分の血を引く娘」と信じて疑いませんが、実はウェルミィとサバリンの間に血縁関係は一切ない。後妻の「イザベラ」はサバリンと肉体関係を持った時点で既にウェルミィを身籠っており、「本当の父親」が別に存在する。それが「クラーテス先生」こと「クラーテス・リロウド」。サバリンはイオーラをこっそり呪い殺そうとして魔導具を使用しており、サバリンに気付かれないようもっとこっそり解呪すべく、ウェルミィはクラーテス先生のところに弟子入りしたのです。それが実の父とは知らずに……いや、「メチャクチャ特徴が私と似ているな? 他人とは思えないな?」と疑っていたけど、深く考え込まないことにしたらしい。少なくとも「自分ってサバリンの血を引いていない不義の子なのでは?」とほぼ確信に近い域で察してはいた模様。そういう事情もあって、伯爵家の血が一滴も流れていない自分がエルネスト家を継ごうなどとは毛ほども思っていなかったんです。正統後継者である姪っ子を殺そうとしている父(血縁ゼロ)と不義の子を産んで前妻の娘を虐げている母、ふたり諸共破滅するつもりで壮大な計画を組んだウェルミィでしたが、婚約破棄されたイオーラと新たに婚約して彼女を救うはずだった「魔導卿」エイデスはなんと公衆の面前でイオーラとの婚約破棄を宣言する。ウェルミィの計画が破綻した瞬間である。というか、100ページも進んでないのに二回も婚約破棄される令嬢なんてギャグ作品以外ではそうそういないだろう。

 ここからいろいろ遣り取りがあってウェルミィは断罪されることなくエイデスと婚約することになり、イオーラはまた別の男と結ばれることになるわけですが、それでめでたしめでたしと閉幕――にはならない。なんとこの時点で140ページくらい、まだ半分以上残っている。ここまでが「表」、ウェルミィ視点で紡がれるパートで、以降は「裏」、エイデスなど他のキャラの視点で「いかにウェルミィの計画を見抜いて欺いたのか」が綴られていく。言わば前半がひぐらしの出題編で、後半が解答編みたいな構成なんです。しかし、前半の時点でほとんどの謎は解かれており、後半で開示される新情報はそんなに多くない。舞台となる国の成り立ちとか、興味深い箇所もあるけどそのへんはあんまり悪役令嬢とは関係ないですもんね。だから「同じ展開を別の視点で辿っているだけ」な雰囲気が濃厚で、あまり気が乗らなくて読み進められなくなってしまったわけだ。後妻でありウェルミィの母であるイザベラが何を考えていたのかとか、当人視点じゃないとわかりにくい箇所を補完しているから決して蛇足じゃないんですけど。

 コミカライズが好調みたいだからコレもそのうちアニメ化しそうだが、上に書いた通り血縁関係とか出生の秘密とかが非常にゴチャゴチャしていてわかりづらい(ウェルミィはイオーラを「お義姉様」と呼んでいるけど、ふたりはほぼ同時期の生まれでほんの一ヶ月程度の差しかないとか、よく整理して読まないと頭バグりそうになる)んで、アニメのシリーズ構成をする人は大変だろうなぁ……と今から心配になってしまう。2巻は破滅を回避したウェルミィがふたたび悪役令嬢として社交界に舞い戻ってくる話みたいで、一気に登場キャラが増える。冒頭のカラー口絵だけで8人も新キャラが確認できます。まだ読んでいる途中なので断言はできませんが、たぶんこの2巻からが本格的に面白くなるシリーズなんだろう。ワクワクしています。

・拍手レス。

 EGコンバットの原作者さんのツイートで、小説の企画がストップ掛かったっぽい事が語られてましたね。秋山コンバットが読めなくなるのは悲しい物です。

 秋山瑞人が正式に「降りる」と発言したみたいですね……奇跡的に秋山版EGFが書き上がった場合は原作者(☆よしみる)も出版を止める気はないようだけど、四半世紀足掻いて書き上がらなかったんならもう……。


2025-06-08.

『Dies Entelecheia』序章の1と2が6月中は無料公開されているのでせっかくだからと読みに行ったところ、「【期間限定】Dies Entelecheia 一部無料公開のお知らせ」という記事に「 ・開発中のゲーム「黒白のアヴェスター Refusal─拒絶」に関しまして」「最終のUI修正とバグ修正をおこなっておりましたが、開発会社側の都合により進行が大幅に遅れております。事前連絡のない音信不通が続いており、対応に苦慮している状況です。」とあって「雲行き怪しくなってきたな……?」って久しぶりにヒリついている焼津です、こんばんは。

 開発会社に「Refusal(拒絶)」されてるってわけか、ガハハ。などと笑い飛ばせるはずもなく。なかなか販売開始にならないから何かしらのトラブルが発生しているのだろうと思ったけど、本当に起こってたんだな、トラブル。こっちとしては「トラブルが早く収まって無事に発売されますように」と祈る以外他にない。

 それはそれとして『Dies Entelecheia』、「序章の一部だし、さっくり読み終わるだろう」と軽い気持ちで読み出したけど……思ったより長くて読み応えタップリだった。序章の1と2、合わせて文字数に換算するとざっくり3万字、文庫本のページ数でいうと60ページ前後はある感じです。非常に読みやすくてスルスルと最後まで到達できてしまうから体感的にはもっと少ないかな。内容に関しては、やっぱり「戦真館」が出てきたことにビックリしましたね。神座万象シリーズと相州戦神館學園シリーズは完全に別世界と思い込んでいたから「えっ!?」って声が出ちゃった。戦神館の方にDiesの格ゲーが出てきたりもしましたけど、そういう「お遊び要素」の域を超えていますよ。相州戦神館學園シリーズの戦真館と神座万象シリーズの戦真館は「似て非なるモノ」、要は「YAIBAの鬼丸猛とコナンの鬼丸猛」みたいにパラレルな存在なんだろうけど、それでもクロスオーバーさせたことに驚きだった。あと、中身とは関係ないけど、ファンティアで一部のワードが強制的に伏字化されてしまうとかで「屈辱」が「屈〇」になっていたのにはズッコケた。調べてみると「子供」とか「ロリ」とか、「奴隷」「姦」「辱」「女子高生」「暴力」「痴漢」などがアウトらしい。数が多いからか機械的な一斉処理で、「セロリ」が「セ〇〇」になってしまうなどギャグみたいな現象が発生している模様。

【期間限定】「落涙の翼」開幕!

 というわけで始まりましたFGOの新イベント「落涙の翼」、イベント対象サーヴァントの面子が完全にロード・エルメロイU世関連+メカやロボなので、実質U世コラボだった「聖杯戦線 〜白天の城、黒夜の城〜」の続編みたいなストーリーだろう……と誰もが予想した通りの内容になった。シナリオ執筆はもちろん「三田誠」。ならば実装するサーヴァントはもちろん……と期待しましたが、イベント名が「翼」なので裏をかいて「イカロス」が来るのでは? と予想する向きもありました。イカロスの父に当たる「ダイダロス」は奏章Wにもチラッと出てきたので「匂わせ」を疑う人がいたんです。でも、それならイベント対象サーヴァントに「アステリオス」がいるはず(ダイダロスやイカロスが蝋で固めた翼を使って脱出したのは「ミノタウロスの迷宮」があるクレタ島)なんで、たぶん違うだろうな……と思っていました。

 正解はもはや御存知の通りな「テュフォン・エフェメロス」「聖杯戦線 〜白天の城、黒夜の城〜」から1年半ちょっと、満を持しての実装となりました。「白天の城、黒夜の城」をやってた頃からテュフォンちゃんを実装したいという話があったそうで、三田誠は去年の4月から10月にかけ、断続的にシナリオを書いていたとのこと。『ロード・エルメロイU世の冒険』にもテュフォンちゃんはゲスト出演しているから、これはもう実装する気満々だろう……と期待バリバリで待機していました。

 「白天の城、黒夜の城」プレーしていない人にテュフォン・エフェメロスがどんな存在か説明するのは難しいというか、イベントストーリーの核心に関わる要素だからネタバレせずに語るのは不可能なんですけど、期間限定イベントで今からだと新規の人がシナリオを閲覧する方法はほぼないし、バラしちゃってもいいか。なお「白天の城、黒夜の城」をクリアしてるかどうかで「落涙の翼」のシナリオも若干変わるそうです。テュフォン・エフェメロスは簡単に言うと「テュフォン」と「エフェメロス」、ふたつの神話的存在が融合した、ある種のキメラみたいなサーヴァントです。ギリシャの神々でも恐れを為し、「タイフーン」の語源にもなった怪物テュフォン(訳によってはテュポーンやテューポーンなど)と、テュフォンの力を奪った「無常の果実」が一体化したことにより誕生した。エフェメロスはギリシャ語で「無常、刹那」を意味する言葉。Fateの世界において「無常の果実」は少女型という設定になっています。テュフォン・エフェメロスと言いつつテュフォンの人格(怪物格?)はほぼ消滅しており、パーソナリティに関しては無常の果実(エフェメロス)の方が主体。テュフォンはガワと権能だけ残っていて、エフェメロスが遠隔操作しているような感じだ。イメージとしてはリゼロの「竜殻」に近いかな。エフェメロスは「あらゆる願いが叶わなくなる」力があり、ちょうど聖杯の反対の効果であることから「反聖杯」「反願望機」とも呼ばれている。そのため彼女の前で何らかの願望を口にすると「願ったな? 〇〇(例:呼符で☆5サーヴァントを引きたい)と。その願いは叶わない!」ってな具合に悉く望みを反故にされてしまう。ゆえにテュフォンちゃんの実装を望むプレーヤーたちは「うれしくない。これからまた、ずうっとテュフォンちゃんといっしょにくらさない」とウソ800な発言を繰り返すのが通例となっていたわけです。

 担当声優は「山根綺(やまね・あや)」。シャニマスの「緋田美琴」やウマ娘の「ダイタクヘリオス」、リゼロの「リリアナ」などを演じた人です。リメイク版るろ剣の「巻町操」も演っていますね。美琴さんは別として、元気というかテンション高くてちょっと騒がしい子の役が多い印象。個人的には『SHOW BY ROCK!! ましゅまいれっしゅ!!』の「ルフユ」役が印象に残っている。余談だが、ましゅまいれっしゅのキャラは「デルミン」役の「和多田美咲」が徐福役として既に出演しているので、後は「ほわん」役の「遠野ひかる」と「ヒメコ」役の「夏吉ゆうこ」がFGOに来ればましゅまいれっしゅパが完成します。遠野ひかるは負けインの「八奈見杏菜」役で一気に有名になったし、夏吉ゆうこはこれから『笑顔のたえない職場です。』で主演(「双見奈々」役)する予定だから、知名度的には来てもおかしくないんだよな……話を戻してテュフォンちゃん、「白天の城、黒夜の城」の頃から惹かれていたキャラなので私も早速ガチャを回し、引きました。さすがに呼符ですんなり……とは行かずそれなりの連数が掛かった。うっかりタップしすぎたせいで召喚演出を見損ねる、という痛恨の事態も発生。そこから残りの連数でもう一回プリテンダーが来て「2枚抜きか? 今度こそ見逃さないようにしないと……」と目を瞠っていたらテノチティトランだったというオチまで付きました。何となくストーリー召喚限定のような気がしていたけど、普通に恒常サーヴァントだったな、あの子。

 で、肝心のイベントについてはまだ手を付けていません。明日がシナリオの最終更新日らしいからそろそろプレーを開始しなきゃな……。

・ツナミノユウの『くびしょい勇者(1〜2)』読んだ。

 「ツナミノユウ」の作風は割合好みだけど、なんか「うまぴょい伝説」みたいなタイトルで心惹かれないし、とりあえずパスでいいかな……と読まずにいた作品ですが、他の情報をチェックしているときにコミプレのリンクが表示されたので何となくクリックしてみたところ、あっという間に引き込まれて単行本を買っていた。食わず嫌いは良くない、と言いたいところだけど、この情報化社会において「食わず嫌い」をせずに生きるのなんて不可能だもんな……食わず嫌いどころか、「ちょっと興味のある作品」すらチェックし切れない。私にもっと時間があれば、と毎日のように嘆いている。

 さておき『くびしょい勇者』、物語は勇者が魔王を討ち果たす場面から始まる。RPGっぽい異世界を舞台にした、典型的な「勇者と魔王」のファンタジーがベースだ。この作品における魔王は殺されても完全消滅せず、1000年くらいの眠りに就いて、また復活するらしい。斬り落とされて首だけの状態になっているにも関わらず、「寝つきが悪いからガチ寝するまで1年くらいかかるかも」と言い出す魔王。一方、魔王討伐という大業を成し遂げた勇者(少女)は抜け殻のようになってしまった。「魔王を倒せ」と言われてひたすら剣を振るった日々、故郷の村で虐待に近い扱いを受けていた彼女にとって「魔王討伐」以外の「生きる目的」など何一つ持ち合わせていなかったのだ。自分を倒した勇者がこんな有様では格好がつかない、お前には「偉大な勇者」でいてもらわないと困る……勇者「シュラ」を励まし、彼女が立派な勇者になれるようアドバイスする魔王だったが……。

 こんな感じで「首だけの魔王」と「その首を背負った勇者」の珍道中を描くコメディです。ツナミノユウ漫画の魅力の一つは「掛け合いの面白さ」なんですが、そのへんも遺憾なく発揮されている。偉大な勇者になれ、と魔王に言われたシュラは困惑したような顔で「…今からですか? 遅くないですか?」と訊き返す。目を見開いて「遅いよ!? 泥棒見てから縄をなう様な話だよ! でもなるしかないだろ!」と返す魔王。滑稽さと勢いの良さが交じり合っていて好きです。ここから更に思いも寄らぬ展開に入っていきますが、細かいところは実際に読んでみてもらおう。かなり読者を選ぶ作風だけど、そのぶん選ばれたときは「単行本! 買わずにいられない!」となる強烈さです。

 私のツボは、情緒未発達だったシュラちゃんが魔王(の首)との触れ合いの中で様々な感情に目覚めていくところですね。作中の世界には「勇者」と呼ばれる存在がシュラちゃんの他にも何名かいて、魔王が「討ち取られるならあいつがいいなって思ったこともあった」というようなことを漏らし、それを聞いたシュラちゃんはムラムラと嫉妬心に襲われる。「私 悔しい…! 一番殺されたい勇者でありたい!」「他の誰かに殺されたかったって思われたくない!!」「こんな…胸いっぱいにドロドロ苦いものが詰まった気持ち…こんなの初めて!!」と泣き出す。「勇者がヤンデレ」みたいな設定はたまに見掛けるけど、殺した後で独占欲に芽生えるケースは皆無じゃないにしろ珍しいな、って。シュラちゃん、魔王を倒すことに特化したせいで戦闘力は高いけどそれ以外の部分、特に倫理面はユルユルで、死にかけの冒険者相手に言葉でマウント取ったり、野盗みたいな連中に襲われて平然と返り討ちにしてブッ殺そうとする。「オレを倒した奴ほどの勇者が同族殺しをするところなんて見たくない」とばかりに必死で止める魔王、もう普通にシュラちゃんガチ勢で笑ってしまいます。

 とにかく勇者(シュラちゃん)の可愛さと生い立ち故の不憫サイコぶりがたまらない漫画です。途中で魔王の元部下が出てきて、「もし自分が倒されたら、あんなふうに自分の首も背負ってもらえるのだろうか」と想像して興奮するシーンがあるのですが、ちょっと気持ちがわかるような気がした。「儚げな少女に凄まじい残虐性・暴力性が備わってる」のっていいよね……面倒臭い連中に絡まれたら従わずに暴力で返す、という『刃牙道』の宮本武蔵みたいな真似を繰り返して反逆者に成り果てていくシュラちゃん、魔王の首を献上すればワンチャンあるかもだが「魔王を差し出すくらいなら反逆者でいい!」と駄々をこねる。「ガチ寝するまで約1年」なのでどのみち期限は切られているんですよね。首とともに過ごす旅の向こうで、いったい何が彼女を待ち受けているのか。見届けたいものだ。



管理人:焼津