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リレー小説「魔法少女忌譚修」(第13話−10/12)


2024-11-15.

・ふと気が向いて『しなこいっ』を読み返した焼津です、こんばんは。やっぱ面白ぇ〜。

 アニメ化した『武装少女マキャヴェリズム』のコンビによる連載デビュー作です。一応マキャヴェリズムとも繋がるポイントがあるけど、作品としては独立している。結構古い漫画で、連載開始はもう15年以上も前……15年!? 自分で解説していて時の流れに愕然としてしまった。もともとは「ジャイブ」という会社が出していた月刊誌“コミックラッシュ”の連載作だったんですが、ラッシュの紙書籍版が終了し電子書籍に完全移行する際、「紙媒体で続けたいから……」という理由で2011年に“月刊少年エース”へ移籍。タイトルは『竹刀短し恋せよ乙女』に変更されました。移籍作品はストーリーが途中から始まるせいもあって人気が伸びにくく、2013年に連載終了。ハッキリ言ってしまえば打ち切り作品です。しかしなんだかんだ5年も続いたマンガではあるので、リアルタイムで読んでいた私にとっては結構思い入れのある一作だ。作画面でちょっと……な部分はあるにせよ、勢いと熱があって読み返すに足る面白さを備えている。ちなみに、無印の『しなこいっ』(全4巻)はジャイブ時代の単行本で、『完全版 しなこいっ』(全2巻)は移籍に伴ってKADOKAWAから刊行されたものであり、収録内容は「ジャイブ時代の単行本+単行本未収録エピソード+連載前の読切」となっている。このためジャイブ時代の単行本→『竹刀短し恋せよ乙女』の順番で読むと単行本未収録エピソードが抜けてしまうためストーリーが繋がらなくなります、注意。

 個人的には面白いと思っていますが、ストーリーにおける重要ポイントの説明を後回しにし続けたせいで全体像がわかりにくいという欠点があり、読み出した人は「剣戟モノだということはわかるけど話がよく見えない」と戸惑うかもしれません。整理していきましょう。『しなこいっ』はダブル主人公制で、男主人公の「榊龍之介」と女主人公の「遠山桜」がいます。物語は男主人公である龍之介の母「辰子」が立ち合いのさなかに命を落とすシーンから始まる。辰子の命を奪った相手は「鳴神寅(とも)」。龍之介は母の仇である寅を討つために旅立つ……という筋書きであれば「ほう、復讐モノか」とすぐに呑み込めるでしょうが、『しなこいっ』のストーリーはやや捻れており、龍之介が倒そうとしているのは仇の寅ではなくその娘、「鳴神虎春」なのです。寅は消息不明になっており、「娘である虎春が殺したのではないか」と噂されている。鳴神家の当主だった(高齢のため現在は退いている)「忠勝」は裏社会に根を張る「組織」の創始者であり、その影響力をもってすれば人の死を隠蔽するぐらい容易だという。龍之介は虎春の居場所を掴むため、鳴神家と関係のある道場を巡って道場破りの真似事を繰り返しており、ある日女主人公「遠山桜」の通う道場を襲撃する――という形でふたりの物語がクロスしていく。女主人公「遠山桜」は「短剣道」という短い竹刀(55センチくらい)を使う競技の選手で、本人は組織云々についてはまったく知らないが、祖父の「荒馬」が組織と関わっていた。荒馬は「番号持ち」という幹部クラスの存在であったが、組織における「番号」の意味合いが変わってきたこともあってその立場から降りようとする。すんなり足抜けとは行かず揉めたみたいで、組織の関係者たちが接触した直後に不審な死を遂げている。「組織の関係者たち」と迂遠な書き方をしたが、ハッキリ書いてしまえば鳴神忠勝と鳴神寅のふたりであり、鳴神家は桜にとっても仇の可能性が高いんです。道場破りということで最初は険悪な出遭いとなってしまった龍之介と桜のふたりですが、敵が共通しているらしい(あと龍之介の母である辰子は桜にとって憧れの剣士だった)とわかってきて共闘する運びに。そんな二人を「番号持ち」の刺客が次々と襲い掛かる……大枠としてはこんな感じです。

 「組織」はあくまで物語を動かすためのギミックであり、フレーバー程度の設定しかなくそこらへんはあまり深く掘り下げられない。「恋せよ乙女」というくらいなのでラブコメ要素もあるけど、正直弱め。あくまでバトルに次ぐバトルが読みどころの剣戟アクションです。刺客だったり味方だったりする「番号持ち」は一番から十一番(予備)まで11人いますが、打ち切りのせいでまともに出番のない奴もいる。ちなみに女主人公の桜は当人の与り知らぬところで勝手に「六番」に認定されている。この番号、単純な強さの序列を示しているのではなく別の意味が込められているものの、経緯がわかるのはだいぶ先。「なんで番号持ちに認定されたヒロインが他の番号持ちに襲われるのか?」というのが複雑なところで、簡単に言うと「組織も一枚岩ではないから」になるんですが……番号持ちは組織の創始者である鳴神忠勝に盲従する「忠勝派」と、老耄がひどく暴君と化しつつある忠勝に付いていけなくなってきた「反忠勝派」、現在の鳴神家当主であり忠勝とは異なる思惑を抱いている鳴神虎春を中心にした「虎春派」の三陣営に分かれていて、桜を番号持ちに加えたいのが忠勝派、桜を組織のゴタゴタに巻き込みたくないのが反忠勝派、桜を排除したいのが虎春派――スタンス的に手が取り合えるはずの反忠勝派と虎春派が「保護か排除か」という桜の処遇などを巡って対立してしまっているので組織に蔓延る忠勝派を駆逐できないでいる。こうした詳しい事情が最終話の手前あたりでようやく判明するんですよね。打ち切りが決まって「もう尺がないから」と重要人物が次々と公園に集まってくるエピソード「かくして役者は総て壇上に」、勢いが完全にソードマスターヤマトのそれで笑ってしまう。

 最終決戦は見開きでイメージが描写された後、バッサリとカットされています。最終決戦の前に龍之介と虎春の決着は既についていたんで、「最低限ファンのやってほしかったことは叶えてくれた」と言える。まともな戦闘シーンがなく、ほぼ顔見せだけで終わってしまった「三番」の「因幡月夜」も次回作『武装少女マキャヴェリズム』のメインキャラになったしVtuberにもなったから扱いとしてはだいぶ恵まれている方だ。なおマキャヴェリズムの後半には虎春も出演している。一番可哀想なのは「八番」の「八寝間齋天」(『しなこいっ』では「八寝間齊天」だったが、どっちが正しいのかよくわからない)か……本来なら桜が次に戦う相手となっていたはずの棒術使いで、対八寝間戦を想定した修行も長めに積んでいたのに。桜の師匠「猪口安吾」(十一番)とも因縁があるらしいが、尺不足で詳細は霧に包まれている。というか若い頃の安吾師匠、何度見ても別人だなこれ。あの顔から速水奨(ドラマCDでCVを担当した)の声が出るってマジ? あとは「生死不明」という扱いにしてしまったせいで回想にちょこちょこ出てくることぐらいしかできなかった寅さん、顔芸しながら「おしまい おしまい」と嘯くシーンが好きなので残念でした。生きているのか死んでいるのかはハッキリしましたが、尺がないから「ハイ、この話題終わり! 次!」ってなっちゃうのが悲しい。いろいろともったいないところがあるマンガですけど、やっぱり好きだなぁ、と再確認しました。

『MADARA ARCHIVES』電子版がセール、全巻購入でも396円という破格の安さに、11月21日まで

 『MADARA』の豪華愛蔵版として刊行された『MADARA ARCHIVES』、全部で4セットあって各セットごとに単行本3冊が収録されているんだから1冊あたり33円(税込)になるわけでメチャクチャ安い。通常だと16280円だから概ね98%オフですね。ちなみに電子版はセット版だけでなく単巻版(各単行本をバラ売りしたもの/全12巻)もありますけど、セール対象はセット版のみ。単巻版は対象外なので間違えないよう注意しましょう。

 MADARAについて語り出すと思い入れが深いせいもあって長くなり過ぎてしまうので詳しいことは割愛して、概要のみザックリと。MADARAとはもともとゲーム雑誌に連載されたマンガであり、掲載媒体の関係もあってセリフは横書き、ページを開く方向も逆だから慣れないうちは戸惑うかもしれません。原作者である大塚英志がゲームの企画として考えていたネタであり、導入で察する人も多いだろうが手塚治虫の『どろろ』がベースになっている。生まれてすぐ化物たちに体のあちこちを奪われ、義手や義足などのカラクリ(ギミック)で補っている主人公「マダラ」が己の出生の秘密を辿りつつ壮絶極まりない闘争へ身を投じていく貴種流離譚なヒロイック・ストーリーで、本来の体を取り戻せば取り戻すほどギミックがなくなり弱体化していく……という「レベルアップして強くなる」通常のRPGとは逆に「レベルダウンして弱くなっていく」というのが企画コンセプトでした。作画を担当した田島昭宇(FGOでテスカトリポカのキャラデザをした人)の技術向上は凄まじく、初期と終盤ではほとんど絵柄が別物になっている。

 原作の大塚英志が勢いで「MADARAは108の物語から成る」と宣言したせいで途轍もなく構想規模の大きい物語となってしまったが、実際に108個もストーリーがあるわけではないのでそこは安心してほしい(108の内訳は「8の本編と100の外伝」なのだが、そもそも本編が8個もありません)。メディアミックスも盛んだったし、「これ本当に108の中に入れていいのか?」と迷うようなスピンオフ(『幼稚園戦記まだら』とか『少年忍者バサラくん』とか)まで含めると全容を掴むのも困難な一大プロジェクトながら、『MADARA ARCHIVES』はプロジェクトの「芯」に当たる部分――「田島昭宇が描いたマンガ作品」のみを収録している。

 まず『魍魎戦記MADARA』、すべての始まりとなったマンガです。他と区別するために「MADARA壱」と呼ぶこともある。セット版と1セット目と2セット目、単巻版の1〜5巻がコレに当たる。ゲーム雑誌で連載されていたマンガなので突然ステータス表示が出てくるなど「ゲームっぽい演出」が加えられていたが、ARCHIVESではステータス表示がなくなって普通のマンガっぽくなっています。出だしは「人間vs化物」というオーソドックスなファンタジーだが、進むにつれてどんどんスケールアップしていく。人気が出たおかげでゲーム化も果たしたけれど、「ファミコンソフトの発売に合わせて完結させないといけない」事情もあって終盤はやや駆け足気味。マダラはラスボス「ミロク」を追うべく次の戦場に向かって時空超越し、「戦いはまだまだ始まったばかりだ」というところで終わる。MADARAのキャラたちは何度も転生を繰り返して時代と舞台を変えて争う、いわゆる「転生戦士モノ」(現在なろう等で流行っている異世界転生モノとはだいぶノリが異なる)なんですが、全員が全員同じタイミングで転生するわけではないので若干のラグが生じることもある。

 その「ラグ」を描いたのが『魍魎戦記MADARA赤』、マダラたちが先に転生して取り残される形になった「聖神邪」をメインキャラに据えたエピソードで、時系列的には「MADARA壱」の後日談に当たる。「赤」は「アカ」ではなく「ラサ」と読む。人間同士の争い(一部人外化してるけど)が軸になっている。私が初めて読んだMADARA作品であり、田島昭宇の画風には衝撃を受けたものでした。セット版の3セット目、単巻版の7〜9巻が該当します。似たようなタイトルとして『MADARA青』(全5巻)があるが、これはもともと『ギルガメシュ・サーガ』というタイトルで発表していた「花津美子」のマンガ作品であり、MADARA関連作品ではあるがARCHIVESには収録されていない。同題のせいでややこしい「MADARA青」(田島昭宇が描いた短編)は『MADARA転生編』に収録されています。赤が完結した後『多重人格探偵サイコ』の連載が始まったこともあり、以降は田島昭宇がMADARA作品に本格的に取り組むことはなくなりました。

 『魍魎戦記摩陀羅BASARA』は「MADARA壱」や「MADARA赤」よりもだいぶ後――つまり「転生後」のストーリーを紡いでいる。「伐叉羅(バサラ)」という少年が主人公だから現在は「BASARA」となっているが、連載当時のタイトルは『魍魎戦記MADARA摩陀羅弐』。なので旧来のファンは「MADARA弐」や「摩陀羅弐」と呼ぶこともある。作中の時系列的には壱→赤→弐だが、発表順は壱→弐→赤です。セット版の4セット目(ラスト)、単巻版の10〜12巻が該当。大塚英志が「108の物語」云々と大風呂敷を広げたのもこのMADARA弐あたりからだったそうだ。転生後ゆえ大幅に状況が変わっており、MADARA壱の続編として読もうとすると最初は「???」になるかも。そもそもMADARAにおける「転生」はメディアミックスによるシェアワールド化を想定してか細部が物凄く曖昧になっている。これがたとえばガンダムの宇宙世紀モノであれば、後付けだらけとはいえ年表を持ち出して「ここらへんの出来事」と指すことができますけど、MADARAは転生する先が「同じ世界の別大陸」ということもあれば「まったくの別世界(パラレルワールド?)」ということもあり、転生の順序がハッキリせず年表に起こすことができないんですよ。「時空を超越する以上、過去に転生することもある」ので、もう何が前世で何が来世なのかワケがわからない。設定上「転生編」が最後ということになっているけど、MADARA壱が最初というわけではない(壱よりも昔に当たる「マダラの前世」が存在する)し、起点や経路を図にすることができない。とにかく俯瞰して見下ろそうとしても手掛かりが少なすぎるんです。

 『MADARA転生編』はMADARAにおける「108番目のエピソード」、つまり完結編に位置づけられる。ラジオドラマとして放送されたらしいが聴いたことないのでよく知りません。舞台を現代日本に移し、転生戦士たちの長きに渡る闘争へ終止符が打たれる……ということでファンからの期待は大きかったものの、いろいろ問題があったのかマンガ作品としては未完に終わりました。転生編がスタートしたのは1990年頃で、まだ他のMADARA作品が動いている最中だったから「完結編はもうちょっともったいぶる必要がある」って事情もあったんです。MADARAはメディアミックスも盛んだっただけにいろんな権利が絡んで、原作サイドが「そろそろ終わらせたい」と願ってもその意向が通りにくい状況に陥っていたんじゃないだろうか。マンガ版の『MADARA転生編』は短編の寄せ集めで、転生編に該当するのは「赤い綬陀矢」と「風の沙門」のみ。他はMADARA壱やMADARA赤の外伝です。言うなれば「完結編のプロローグだけ掲載している短編集」です。単巻版の6巻で、セット版の2セット目に収録されているんですが、これだけ縦書きになっていてページを開く方向が逆だから電子のセット版を購入した場合は巻末から読み出さないといけません。

 転生編の続きは『MADARA MILLENNIUM』というタイトルで小説化するも未完。後に改題加筆して『僕は天使の羽根を踏まない』というタイトルで一応小説作品としては完結します。ただ、「転生編」の後日談として書かれた小説『摩陀羅 天使篇』は未完。「天使篇」はラスボスに敗北した後を綴るEXTRAエピソードであり、雰囲気は非常に陰鬱でショッキングな展開が目白押し。「転生編」でMADARAを終わらせたかったのに諸事情から終わらせることができなかった大塚英志の鬱憤をブチ撒けたような内容、当時小学生だった私は絶句したものでした。「終わらない昭和」を背景にMADARAのみならず様々な大塚原作マンガがクロスオーバーするアベンジャーズじみた作品で、「企画書は提出済みだからKADOKAWAがその気になれば今からでも完結させられる」状態らしいが、もうKADOKAWA側に大塚英志の担当者が残っていないため目処が立たないとのこと。大塚の構想では「摩陀羅が弥勒化し並行世界すら消滅させる破壊神となってしまう」「108ある世界のうち107が既に消滅」という「主人公がラスボス化」な展開もあったらしいが、今から出すと『斬魔大戰デモンベイン』と被っちゃう(並行世界の一つでデモンベインが渦動破壊神と化し、たった一つの世界を残して他の並行世界すべてを滅ぼしてしまう、残った世界も滅亡寸前だが時間を引き延ばすことでギリギリ存続している)な……ちなみにMADARAと同じく田島・大塚コンビの作品『多重人格探偵サイコ』にも「転生編」や「天使篇」のキャラが出演していますが、これは同一世界というよりスターシステム的な奴かな。噂によると田島と大塚はかなり疎遠になっている(『僕は天使の羽根を踏まない』のイラストも田島ではないし、『多重人格探偵サイコ』も途中から田島の描きたいことを優先させたため大塚の脚本から外れていった)そうだから、よほど有能で敏腕な編集者が橋渡しするんでもないかぎり田島・大塚ががっつりコンビを組んでMADARA新作に取り掛かるなんて奇跡は起こらないでしょうね。

 結論を申し上げますと、「物凄く壮大で、田島昭宇の絵もどんどんレベルアップして読み応えのあるマンガになっていくけど、物凄く複雑で、マンガ作品としては完結していない」ため新規の方には微妙にオススメしづらいです。「続きは小説で!」なうえ小説も厳密には完結していないからなぁ……でも全巻まとめて買ってもワンコイン未満というのはやっぱり破格の安さですから、迷うぐらいならさっさと購入するが吉です。MADARAとは関係ないけど『Get Backers 奪還屋』が全39巻セットで429円というセールも開催中でなかなかヤバい。

三枝零一の新作『魔剣少女の星探し 十七【セプテンデキム】』 2025年1月10日発売予定

 えっ、将軍(三枝零一のネット上の綽名)の新作が!? そういえばウィズブレを完結させたら新作も出すとか言っていたような……私の記憶はズタボロなのでいまいちハッキリしないが、とにかく新作! 今までずっとウィズブレしか書いて来なかったから、24年ぶりの新シリーズ開幕ですね。まさかこんな日が来ようとは……。

 ウィズブレこと『ウィザーズ・ブレイン』は2001年に始まったシリーズであり、「物理学に基づく魔法を使って戦う」という非常に厨二心をくすぐるSFファンタジーで多くの読者を魅了しましたが、だいぶ遅筆で新刊がなかなか出ないことも有名であり、「9年近く新刊が出なかった」という暗黒期まで存在するほどです。それでもなんとか再開し、1年足らずの間に4冊も新刊を出して完結させた&短編集も出したんだから暗黒期についてはファンも既に水に流している。あと将軍は関係ないけど、同じ日に『錆喰いビスコ』の完結巻も出ます。少し間が空いたけどウィズブレに比べれば……という感じなのでそこはそんなに驚かなかったが、360ページで1089円(税込)という価格設定にはビックリしたな。確認しないでレジに持って行ってギョッとなる人も現れそう。

・葉真中顕の『鼓動』を読んだ。

 映画にもなった小説『ロスト・ケア』でデビューした作家「葉真中顕(はまなか・あき)」の最新作。なお『ロスト・ケア』以前にも「はまなかあき」名義で『ライバル おれたちの真剣勝負』という将棋を題材にした児童小説を出版しており、3年ほど前に現在の名義で再販しています。『鼓動』は2年ぶりの新刊で、単著としては13冊目に当たる。評価は高く第37回山本周五郎賞の候補にもなっています。ただ、ライバルが『地雷グリコ』だったせいで受賞は逃すという『エレファントヘッド』みたいな現象が……3つも賞を獲っているので他の作品について調べているときでもたびたび立ちはだかってくるんですよね、『地雷グリコ』。

 2022年、6月。まだコロナ禍のさなかにあった頃。公園でホームレスの女性が殺され、その遺体が燃やされた――通報を受けて駆け付けた警察官たちは、現場から離れようとした男性をその場で逮捕。48歳で無職だという被疑者「草鹿秀郎」は容疑を認め、「父親のことも殺した」と供述する。確認のため公園の裏手に位置する被疑者の自宅へ赴いたところ、階段脇の物置から腐敗の始まった高齢男性の遺体と凶器とおぼしき血まみれの包丁を発見。長年自宅に引きこもっていた草鹿は「末期癌の父親を介護したくなかったので殺した」と嘯く。いわゆる「無敵の人」の犯行は世間の耳目を集めると予想され、「ひとつも瑕疵がないようしっかりと裏取りを行え」と捜査員たちに指令が下った。草鹿は反省の弁こそ述べないものの受け答えはしっかりしており、事件はほぼ決着していて後は証拠固めをするのみかと思われたが、被害者であるホームレス女性の身元がなかなか掴めない。所持品として見つかった健康保険証は偽造されたものであり、記載されている住所もデタラメで現実には存在しなかった。目撃情報を頼りに少しずつ被害者の足取りを辿っていく刑事たち。その先に待ち受けていた真相とはいったい何か……。

 物語は被疑者である「草鹿秀郎」の生い立ちを回顧する過去パートと、刑事「奥貫綾乃」が事件を捜査する現在(2022年)パートが交互に進行していく形式で綴られる。奥貫綾乃は既刊の『絶叫』『Blue』にも登場するキャラであり、シリーズ作品としては3冊目に当たるが話は独立しているのでここから読み出しても問題はありません。草鹿は1974年生まれという設定なので1976年生まれの作者と同年代。私は80年代生まれだから少しズレているのですが、「ジャンプが170円だった」「ファミコンソフトに夢中になった」など読んでいて懐かしくなる要素がいっぱいで多少のズレは気にならなかった。当時を知る人なら「『BASTARD!!』のカラーページを切り抜いてクリアファイルに入れたものを学校に持って行ってオタクとイジメられた」という箇所に「あぁ〜」と溜息みたいなものが出てしまうだろう。今や『BASTARD!!』よりも煽情的な少年マンガなんて珍しくなくなっているが、80年代や90年代の頃は「『BASTARD!!』なんて人前で大っぴらに読むものではない」という空気が確実にあったし、ナイショ話で「『BASTARD!!』の単行本を持っている」ことを打ち明ける子もいるぐらいだった。もう少し時代が下ると『プリンセス・ミネルバ』とか『爆れつハンター』をコソコソ楽しむ子が増えていったかな……『ときめきメモリアル』みたいなギャルゲーも割と「恥ずかしいもの」扱いでしたね。大学卒業以降は具体的な漫画やアニメのタイトルが出てこなくなり、「社会の動き」だけで時間の流れを表現するようになるため「被疑者がオタク」というのは要素の一つに過ぎなくなる。そこは少し物足りなかったかな。「引きこもり」という要素が主で、「オタク」という属性に関しては従というかフレーバーです。

 あまり複雑な謎はないから「これ犯人の過去を掘り下げる意味があるのかな?」という疑問が湧く瞬間もあったけど、丁寧な文章でリーダビリティを高めており退屈せずスイスイと読めた。少しずつ明らかになっていく身元不明女性の素顔。やがて予想だにしなかった事実が明らかになる……という具合にサプライズ要素も仕込まれていますが、「驚天動地のどんでん返し」みたいなノリではなく「ちょっとビックリ」ぐらいのテンションです。あっという間に読み切ってしまうスピード感が売り。良くも悪くも『絶叫』や『Blue』みたいな重厚感はなくて読みやすいです。トシのせいか気合を入れて取り組まないといけないような作品には胃もたれするようになってきたんですよね……。

・拍手レス。

 俺は星間国家の悪徳領主!を読みましたがテンポよく進んで往年の勘違い物らしさがあって面白かったです。紹介に感謝

 趣味に走りつつ読者の期待に応える内容で面白いですよね。なろうは結構SF物もあるし、これからどんどんアニメ化していってくれないかなぁ。


2024-11-09.

・最近1巻が出た(出る)漫画、『聖なる乙女と秘めごとを』『ゆめねこねくと』をオススメする焼津です、こんばんは。

 『聖なる乙女と秘めごとを』は「ヤンマガWeb」で連載中のエロコメ。童貞の主人公が異世界に召喚されるところから始まり、この手のお約束として特別なスキルを女神から与えられるのですが、なんとそれがエロ限定。戦闘能力は一切なく、従って「魔王を倒せ」みたいなクエストも発注されません。主人公がこなすべきクエストは「次代の女神候補である聖女たち4人に性指導を施す」という予想外の代物。なんでもこの世界は女神の任期が1000年らしく、主人公を召喚した女神はそろそろ任期が切れるため次代の育成に本腰を入れ始めたという。女神はエッチであればエッチであるほど世界に繁栄と豊穣をもたらす――男子禁制たる花の都「マロア」で、世のため人のため異性に対する免疫ゼロの乙女をエロエロにせよ! 概要は非常にバカバカしいが、可愛い女の子たちが少しずつ性の快楽に溺れていく過程を淡々と丹念に綴っており、この静かなムードが却って興奮を煽る仕様となっている。潮を噴いたヒロインが仰向けになって両手を組み、「上はお祈り、下は大噴水、これな〜んだ?」となるシーンは芸術的な美しさだ。1話目が長いこともあって1巻は4話までしか収録されていないけど、本番は第12話の「赴くままに花を散らせば」以降。人々が見守る中で公開素股プレイをすることになった主人公とヒロイン、だが高まる気持ちを抑えられなくなったヒロインは「神よお許しください」と囁いて主人公の承諾を得ないまま挿入してしまう。「寸止めとかする気ねぇから!」と力強く言い切る内容で、もうほぼエロゲですね、これ。キスシーンもねっとり描いていて素晴らしいし、是非長期連載してほしい一作。

 『ゆめねこねくと』は簡単に言うと「『To L〇Veる』+『ドラ〇もん』」なドタバタエロコメディ。秘密道具ならぬ宇宙商品を与えられた主人公の周りで巻き起こるエッチな騒動を勢いのある筆致で小気味良く描いており、「これはアニメ化待ったナシだな」と確信させてくれる。新人なので若干画力が不安定なところはあるが、それすら気にならなくなっていくほどノリがばっこり抜群で面白い。今ならマガポケで最新話以外無料公開中です。ギャグもエロも高水準なうえ魅力的な女の子がどんどん増えていくのが嬉しいよね……ドラ〇もんポジションのナノは順調にヒロイン力が低下していっているが、委員長や先輩といった魅惑的なキャラたちがアツいデッドヒートを繰り広げていて目が離せない。ノリは異なるけど『よわよわ先生』『カナン様はあくまでチョロい』『生徒会にも穴はある!』と肩を並べて「講談社えっちコメディ四天王」となり得る資質があります。え? 上で挙げてる『聖なる乙女と秘めごとを』や『恥じらう君が見たいんだ』は四天王入りしないのかって? 本番までイッてるのは「えっち」というより「エロ」で個人的にちょっとカテゴリが違うと申しますか……最近だと『色憑くモノクローム』もあるし、四天王の面子は人それぞれかもしれません。『みょーちゃん先生はかく語りき』あたりになるとエロなのかえっちなのか分類が難しいんだよなぁ。

・前回感想を書いた京極夏彦の『狐花』、来月にもう文庫版が出ると知ってブッ魂消た。ハードカバー版が出たの7月ですよ? 半年も経っていない……なんぼなんでも早すぎない? 300ページ弱で968円(税込)と文庫にしてもそこそこお高い一品ですが、ともあれ気になっている方は文庫版が出るまで待つという選択肢が増えて良かったのではないかと。

『うたわれるもの ロストフラグ』5周年イベント「願い焦がれしあの唄を」開催中

 まあ、そう来るよね……と納得するしかない人選。ロスフラ5周年記念として今月下旬に開催される廻逅祭ガチャの目玉はハクオロ最初の妻でありヒミカの母でもある「ミコト」と確定したも同然ではないか。大物中の大物だからいつかは来ると思ったけど本当に節操ないなロスフラ!

 ミコトはハクオロがまだ「アイスマン」と呼ばれていた(つまり人類がまだ滅んでなかった)頃、アイスマンの遺伝子を複製して作られた実験体の一人であり、同世代の「ムツミ」と違ってあまり特殊な力は持っていないが、彼女がいなければ『うたわれるもの』の壮大なストーリーは始まらなかった。『うたわれるもの』のキャラにとっては神話に出てくる女神のような存在である。ロスフラのイベントストーリーにおいて「日天之神(ラヤナソムカミ)」と呼ばれるシーンがあるけど、マジで日天之神(太陽神)はミコトが由来の可能性もあります。というか、うたわれ本編だとスオンカスがカルラを讃えるときに引き合いに出す程度で割と謎に包まれた神だったんですよね、ラヤナソムカミ。単に「私の太陽」くらいの意味だろうと深く気に留めてなかったが、女性を讃えるために用いるなら女神と捉えた方が自然か……?

 他、追加ストーリーでミコト以外のいろんな情報も明らかになっています。まず、黒エルルゥは黒ウィツの依代ではないことが確定しました。黒ウィツの依代である「黒き皇」と契約して超常の力を得たのであって、ディーの先代に当たる「黒き皇」はまた別個に存在しているらしい。ディーみたいに完全に人格を消し飛ばされたわけではなく、「世界平和のためにすべての國を統一する」という願いだけが残っていて、それを叶えるために大戦を繰り広げていた模様。でもどこかで(クンネカムンがラルマニオヌを滅ぼしたあたりで?)限界が来て依代が亡くなり、思念だけの状態に戻って眠りに就いたところへディーが接触してきた……という感じなのかな。白ウィツ側に比べて黒ウィツ側は語られていないことが多くてどうしても推測だらけになってしまう。ロスフラ本編のストーリーでようやくアクタの黒い仮面が黒ウィツ由来のものと確定したけど、黒ウィツがロスフラ世界においてどれだけの影響力があるのかよくわかってないし。というか最近のロスフラ、細かい謎をうっちゃって本編を畳みにかかっているのではないかという不安もうっすらと漂う。せめて「悪漢ラクシャイン」の真相だけでもハッキリさせてほしいのだが……。

※悪漢ラクシャインとは? …… うたわれ1作目で記憶喪失の主人公「ハクオロ」はクッチャ・ケッチャの皇「オリカカン」から「お前の正体は我が義弟ラクシャインではないのか」と疑いをかけられる。ラクシャインは妻子と何百もの同胞を己が欲のために殺し、瀕死の重傷を負ったうえで行方不明になった。記憶のないハクオロは「自分はそんな悪人だったのか……!?」とショックを受け、オリカカンの言葉を信じたトウカは「悪漢ラクシャイン」と罵るが、オチをバラすとすべて濡れ衣でハクオロの正体はラクシャインではなかった。やがてオリカカンは至近距離でハクオロの顔を見るが、仮面を付けてなお別人とわかるぐらいラクシャインには似ておらず「あいつに謀られた!」と気づいて激怒した直後、吹き矢による毒針を受けて悶死する(アニメではニウェに射殺された)。

 ウルトリィの解説によるとオリカカンは強烈な暗示を掛けられ、偽りの記憶を真実と錯誤して行動していたという。暗示を掛けた「あいつ」は黒ウィツの依代たるディーだが、どこまでが「偽りの記憶」だったのかはハッキリしない。オリカカンの部下が大人しく従っていたことを考えると少なくとも「ラクシャインという義弟がいた」ことや「その妻子や同胞が死んだ」ことは確かだろう(ラクシャインや大量死自体が存在しないのであればいくら何でもクッチャ・ケッチャの連中が間抜けすぎる)が、そのラクシャインが本当に「妻子と何百もの同胞を己が欲のために殺した」のかどうかは不明。たとえばニウェが暗殺部隊を動かしてラクシャインに濡れ衣を着せた、という可能性もあるし、ラクシャイン本人が下手人だとしても「己が欲のため」ではなく他に理由があったのかもしれない。「ラクシャイン裏切り説」の場合、一人で虐殺を起こしたとは考えにくいからある程度の手勢を率いていたはずで、彼らにも裏切り者のラクシャインに従うだけの事情はあったはず。順序としては「オリカカンの妹(ラクシャインの妻)を始めとしたクッチャ・ケッチャの民がたくさん死ぬ→真偽は不明だが義弟のラクシャインが首謀者であると確信し、追い詰めたものの深手を負わせたところで取り逃す→せめて死体だけでも持ち帰ろうと捜索しているさなかにディーが接触、暗示を掛けられる→ラクシャインは生き延びてハクオロと名乗っていると思い込む」って感じだと思う。あくまで「記憶がなくなる前のハクオロはとんでもない悪漢だったのではないか」と揺さぶりをかけるのがクッチャ・ケッチャ編の狙いであって、「本物のラクシャインがどんな人物で、何を思い、何を為したか」はストーリー上あまり重要ではない。「悪漢」として罵られているという事実だけあれば充分であり、その内実は求められていなかった。下手に訳アリだったりすると「ハクオロの正体は悪漢ラクシャインなのではないか」というサスペンスがボヤけてしまう。なんであれラクシャインは死んでもおかしくないくらいの手傷を負って行方知れずになっているから、恐らくそのまま落命したのであろうし詳しい真相は闇の中……「ハクオロがラクシャインではない」と判明した時点でクッチャ・ケッチャ編はほぼ終了したも同然なので、今後も深く掘り下げられることはないだろう、と流されていたのがうたわれミステリーの一つ「悪漢ラクシャイン」です。うたわれ1作目は後半がかなりバタバタして説明の足りない部分多いから、ぶっちゃけラクシャイン云々はすぐにどうでもよくなっちゃうんですよね。

 しかしロスフラでまさかの登場を果たし、「彼に関する真実も明らかになるのでは?」と期待されました。が、今のところ判明しているのはロスフラ世界においてラクシャインは教団(カラザ)の旗長(複数の部下を率いる将軍のような役職)で「咎渇旗」と呼ばれていることと、シシクマという國からの出向者でありシシクマのために暗躍してるっぽいことくらい。元の世界における来歴はもちろん、ロスフラ世界に迷い込んだタイミングすらもわかっていない。素直に考えるなら、深手を負った直後にロスフラ世界へ転移したからうたわれ1作目では捜索隊に見つからなかった、ってことなんだろう。大社襲撃の際、繋がりが露見しないようしくじった襲撃犯たちを始末する(&始末を命じる)件があり、そこらへんを読むと「目的のためなら手段を選ばない男」「しかし冷酷に徹し切れるわけではなく『悪く思うな』などと漏らしてしまう」などといった印象が得られる。結局、彼は悪漢なのか? 悪漢ではないのか? その答えが出る日は訪れるのであろうか。

・青崎有吾の『地雷グリコ』読んだ。

 第24回本格ミステリ大賞、第77回日本推理作家協会賞、第37回山本周五郎賞と3つも賞を獲ったうえに第171回直木賞の候補にもなった(受賞は逃した)話題作だから今更解説不要の一冊ではあるが、面白かったのだから感想を書き残しておくことにします。作者の「青崎有吾」は鮎川哲也賞を受賞してデビューしたミステリ作家であり、当初は「マニアックな人気がある」という感じだったが“アンデッドガール・マーダーファルス”シリーズがアニメ化したり“ノッキンオン・ロックドドア”シリーズがドラマ化したりした末にこの『地雷グリコ』がトドメを刺して「売れっ子作家」の仲間入りを果たしたという印象がある。最近は“シャーロック・ホームズ”シリーズのパスティーシュである『ガス灯野良犬探偵団』の漫画原作を担当していて、こちらも面白いのでオススメ。1〜2巻はメンバー集めをしながらストーリー展開していくので少し盛り上がりに欠けるところはあるが、3巻あたりでだいぶキャラが出揃ってきてヒートアップします。

 話を『地雷グリコ』に戻す。ほとんどの人にとっては「変なタイトルだなぁ」というのが偽らざる第一印象でしょう。本書は連作形式で、「射守矢真兎」という女子高生をメインに据えて5つの物語(+エピローグ)を綴っている。表題作の「地雷グリコ」は一番最初の物語で、「本書がどういう趣向の小説であるか」を示す、要はチュートリアルみたいな内容になっています。漫画で言うとカイジ、ライアーゲーム、嘘喰い、賭ケグルイ、ジャンケットバンクなどに近接した「頭脳戦モノ」であり、既存のゲームをアレンジしたオリジナルゲームに様々なものを賭けて真兎が挑んでいく……という、構成自体は非常にシンプル。だんだん勝負の内容がエスカレートしていくものの、最初の「地雷グリコ」で賭けているのは「文化祭における屋上使用権」と、割合他愛もないものである。どうしてもこういう頭脳戦モノはギャンブル要素と分かちがたく、雰囲気が殺伐としてしまいがちだが、そのへんをうまくコントロールして「程々に爽やかなノリ」を生み出すことに成功しています。この匙加減が難しいんですよね……傍から見れば他愛のない勝負でも、本人たちは真剣にやっている、ということを説得力を持って描かねばならない。内容どうこうというより、この「雰囲気づくり」に成功している点が高評価の理由なのかな、と思いました。

 もちろん頭脳戦パートも抜かりなく作り込まれている。「地雷グリコ」はチュートリアルということもあってかシンプルにまとまっており、先が読めた人も少なくないだろうけど、「坊主衰弱」「自由律ジャンケン」「だるまさんがかぞえた」「フォールーム・ポーカー」と進むにつれてゲームも複雑化していき「そう来たか!」と唸る展開の連続となります。個人的に「だるまさんがかぞえた」は完全に意表を衝かれた。こういう頭脳戦モノは駆け引きが複雑化するにつれて読者の方が付いていけなくなる……という現象が起きてしまいがちですが、「読者にとって馴染みのある既存のゲームをアレンジする」工夫によってだいぶ理解しやすくなっており、頭脳戦モノが苦手な方でも比較的「付いていける」仕上がりです。

 ストーリーの後半に差し掛かったあたりで真兎と因縁があるらしい生徒の名前が出てきて「宿命の対決」みたいなノリへ移行していきますが、散々引っ張った末に「以下次巻(刊行時期未定)」なんていう噴飯物のエンドを迎えることもなく、ちゃんとこの本で因縁が決着します。ひどいのだと因縁が決着するどころか「そもそもどんな因縁があるのか」すら伏せたまま引っ張ろうとするシリーズもあるわけですから、一冊でキッチリとキリの良いところまで収めているのはポイントが高い。インタビューによると「地雷グリコ」は単発作品として書かれたもので最初は連作化するつもりもなかったそうだが、読んだ編集者が気に入ったおかげでシリーズ化することになったとのこと。これだけヒットしているのだから当然続編の執筆も視野に入っているだろうが、実は『地雷グリコ』、本にまとまるまで6年くらい掛かってるんですよね……やはりゲームと小説を融合させるのが大変らしい。このペースだと次の巻が出るのは早くても3年後とかになりそう。インタビューにおける編集者の口ぶりからすると単純な続編じゃない可能性もあり、その場合は思ったより早く出るのかもしれません。ちなみにコミカライズもスタートしており、いずれアニメ化なりドラマ化なりする可能性も高まってまいりました。分量的にちょうど1クールで収まりそうだからサイズ感としてはちょうどいい。とにかくあまり尖ったところはないけれど「こういうのでいいんだよ、こういうので」って要素で固めた、非常にバランスの良い青春頭脳戦小説です。頭脳戦モノじゃないけど青春小説と言えば『成瀬は天下を取りにいく』もイイですよねぇ、とにかく成瀬のキャラが立っていてストーリーがどうこうというより彼女の行動をひたすら追っていきたい気持ちになる。続編の『成瀬は信じた道をいく』もあっという間に貪り読んでしまった。3作目が待ち遠しい。

・拍手レス。

 面白いですよねらーめん再遊記。なんというか話作りが巧いんですよね。

 社長をやめて身軽に動けるようになったぶん、話作りの幅が広がって自由にあれこれやれる感じになってますね。


2024-11-02.

・「ラーメンハゲ」の呼び名で親しまれている芹沢サンの登場する漫画、『ラーメン発見伝』『らーめん才遊記』『らーめん再遊記』を一気読みした焼津です、こんばんは。

 三部作の第一部に当たる『ラーメン発見伝』の連載開始は1999年と四半世紀も前、さすがに古びている箇所も多いが、「ラーメンという料理そのものではなく、ラーメン店という業態にも注目している」側面のおかげで料理漫画としてのみならずビジネス漫画としても楽しめる多層的な作品に仕上がっています。脱サラしてラーメン店を開業することが目標という主人公「藤本浩平」の試行錯誤および決断までの軌跡がハッキリと見えた点に関しては一気読みして正解だったと思う。反面、10年に及ぶ長期連載をまとめて味わったため似たようなパターンの展開が目についてしまったことと、「毎回何らかのオチをつけないといけない」制約がクドく感じられた点はマイナスであったが……ラーメンハゲこと「芹沢達也」はライバルキャラとして登場し、顔芸を披露しつつビジネス的な観点が抜け落ち気味な藤本サンを揶揄する厭味ったらしい野郎として何度となく立ちはだかるが、口と態度が悪いだけでアドバイスは割と的確だから憎めない。なんだかんだで最終巻まで読み通したときに感動が押し寄せてくるの、芹沢サンの存在あってこそだもんなぁ……ちょくちょく登場するキャラと言えば「東京ラーメン花輪亭」の片山サン、反省しないし彼が出てくるとギャグ色が強くなるし三号店(つけ麺)回はギャグでごまかせないほどヒドいし、イヤな意味で印象的な人だった。キレて包丁を振り回したりなど問題行動の多い「らーめん厨房どきゅん」の武田サンは作者的に動かしやすいキャラなのか才遊記や再遊記にも顔を出していますね。野性タイプと見えて結構クレバー。逆に、レギュラーキャラになるかと思ったらあんまり出番がなかったのは「中嶋屋」の中嶋サン。湯切りのパフォーマンスを得意とする、女性客からの好感度が高いイケメン店長ってことでメディアの寵児になっているけど、本編に絡むのは六麺帝のあたりだけ。特に裏の顔があるわけではなく普通にイイ人っぽいから、漫画のキャラとしてはインパクトが弱くて出番に恵まれなかったんだろうか……あれで『喧嘩ラーメン』の「Hama竜」竜神拓也みたいなダーティ野郎だったらキャラは立つだろうけど、それだと格が落ちちゃうし、やっぱり中嶋サンは善人でいて欲しい。

 三部作の第二部に当たる『らーめん才遊記』は『ラーメン発見伝』の続編で、前作完結からほとんど間を置かずに連載開始したが主人公は藤本サンから新キャラ「汐見ゆとり」に変更されている。ラーメンハゲこと芹沢サンはゆとりの上司として続投。家庭の事情で子供の頃に一度もラーメンを食べたことのなかったゆとりはたまたま食べたラーメンに感激し、自らもラーメンに関わる仕事を志す。主な業務は不採算ラーメン店の改善提案……といった具合に、発見伝よりも「お仕事漫画」のテイストが強くなっています。そのせいもあってか発見伝を飛ばして『行列の女神』というタイトルでドラマ化も果たしました。「スキンヘッドに眼鏡の厳つい男」は実写だとアクが強すぎると判断されたのか、芹沢サンの性別が変更されて鈴木京香になっていますけど……さておき新主人公のゆとり、歯に衣着せぬというか遠慮容赦ない言動が多く、読者も作中人物も軒並みイラッとさせる絶妙なウザキャラに仕上がっています。決めゼリフの「ピッコーン!」といい、「おもしれー女」を通り越してもはや奇人の域に達している。コンペに負けて悔し泣きするゆとりの姿を見て芹沢サンがニヤニヤするの、仮にも上司たる者の振る舞いか? と思いつつホッコリしてしまう。ただ、「客が不入りなど問題を抱えたラーメン店の関係者がやってくる→問題を分析し、解決しようと試行錯誤する」というお仕事モノの王道パターンを基本フォーマットとしつつ、結局分かりやすさを優先してラーメン対決に雪崩れ込んでしまいがちなのが残念だったかな。前作に比べてライバル的なキャラの存在感が弱いため、大会編(なでしこラーメン選手権)もいまひとつ盛り上がり切らない。難波サンはあまりにもガラが悪すぎてイメージを回復できなかったし、接客はダメダメだけどラーメン作りは天才的という麻琴ちゃんも「麺神降臨!」(眼鏡パリィィィン)があまりにも……シリアスな空気を中和したかったんだろうけど、ちょっとリアリティレベルを下げ過ぎてしまった気がする。ちなみにドラマ版は大会編を全部カットしているので麻琴ちゃんの出番はありません。そんな『らーめん才遊記』も最終回まで読んだらなんだかんだで感動しちゃったわけですから私もチョロい男だ。

 三部作の第三部に当たる『らーめん再遊記』は前作の完結から6年後、才遊記のドラマ化(『行列の女神』)に合わせて連載開始しました。第二部も第三部も「さいゆうき」だから耳で聞くとややこしい。引き続き芹沢サンやゆとりが出てくるので、「発見伝のスピンオフ」的な部分もあった才遊記と比べて再遊記は「才遊記のストレートな続編」といった印象がある。ただし、主人公はゆとりから芹沢にスライドし、ゆとりは2巻を最後にほぼ登場しなくなります。寄る年波には勝てないのか、ラーメン作りに対する熱意を失いつつある芹沢……という導入が侘しくて切なくなる。発見伝でも才遊記でもカリスマ的存在だった芹沢サンが、こんなにもしょぼくれてしまうだなんて。ラーメン愛を取り戻すべく芹沢サンは社長業から退き、「自分」を捨てて末端のおっさんバイトからやり直そう、とチェーン店で働き出す。一見すると心を入れ替えて謙虚に振る舞っているかのように見えるが、酒の席で激しく罵り合う人たちを眺めながら美味しそうにゴクゴクとビールを飲むシーンや「青春の蹉跌は蜜の味だな♪」と嘯くシーンなど、「根性の悪さは変わってねぇな」と安心させてくれます。枯れつつあるけど枯れ切ってはいない、そんな中年の芹沢サンを存分に活かした話作りになっており、作劇的な意味では発見伝や才遊記よりも面白い。「完膚なきまでの復讐ほど気分爽快、ストレス解消、かつ自己の尊厳を回復させるものはない」などセリフ回しもキレッキレであり、このシリーズやっぱり芹沢が一番キャラ立ってるよなぁ、と実感します。再遊記は現在も連載中であり、これまでのエピソードは「ラーメン頂上決戦編」(1巻)→「チェーン店バイト編」(2〜3巻)→「自販機ラーメン編」(3〜4巻)→「背脂チャッチャ編」(4〜5巻)→「塩匠堂編」(5〜7巻)→「飲食店再生師・小宮山浩司編」(7〜8巻)→「インスタントラーメン編」(8〜9巻)→「天才・原田正次編」(9〜11巻)で、来年発売予定の12巻から「麺屋 炎志編」が始まる模様。個人的に好きなエピソードは「自販機ラーメン編」かな、話の転がり方が予想外でワクワクしました。「塩匠堂編」はエピソードとしてはそんなに好きじゃないんだけど、読んでいて切なくなる内容で忘れがたい。「インスタントラーメン編」は冗長に感じて少し退屈しました。実在の商品を実名で紹介しているため、そこかしこに「配慮」の空気が滲み出て勢いを削いでしまった気がする。続く「天才・原田正次編」が良かったからすぐに持ち直しましたけど。発見伝が全26巻、才遊記が全11巻、再遊記が既刊11巻なのでまとめて読むと48巻と相当なボリュームであり、なかなか気軽に「読んでネ!」とは言い難いが、芹沢サンの活躍する回をまとめた『ラーメン発見伝の芹沢サン』および『らーめん才遊記の芹沢さん』というセレクションも刊行されていますので「手っ取り早くラーメンハゲについて知りたい」という方にはこちらをオススメします。

「俺は星間国家の悪徳領主!」来年4月TVアニメ化 花江夏樹ら出演、監督は柳沢テツヤ(コミックナタリー)

 おおっ、原作が好きなのでこれは嬉しい。『俺は星間国家の悪徳領主!』『乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です』の「三嶋与夢」による異世界転生SFです。タイトルから「悪役令嬢の男版?」と思われそうだが、「死んでゲームか何かの世界の悪役に転生する」というパターンではありません。生涯を真面目に過ごしたにも関わらず妻子に去られた挙句、身の覚えのない横領の罪を着せられ借金まみれで死の床に就いている主人公が「異世界転生」という機会を得て「次はもう真面目に生きるのはやめだ……他人を踏み躙って高笑いをあげる、悪代官みたいな存在になってやる!」と決意する、言うなれば「悪役志願」のストーリーです。首尾良く星間国家の辺境貴族の息子に生まれ変わったものの、肝心の領地は荒廃し切っており、まずは立て直すところから始めないと悪徳領主にすらなれない――というわけで領地改善に取り組み、当然のように民から救世主の如く祭り上げられていく。主人公本人は悪徳領主として振る舞っているつもりなのに稀代の名領主みたいな扱いを受けるという、一種の「勘違い/忖度系コメディ」でもあります。武力面もメチャクチャ強くてほとんどの敵を瞬殺してしまえるくらいであり、本人は横暴に振る舞っているつもりなのに「果断な武闘派」として畏怖を集めていくことになります。また、前世で結婚生活に失敗している(托卵=妻の産んだ子が自分の血を引いていなかったことも明らかになる)せいか、口では「ハーレムを作る!」と豪語しつつも女性に対しては及び腰、気を許しているのはメイドロボだけ――と奥手なところもあって憎めない。メイドロボとの掛け合いが少し『終わりのクロニクル』っぽいところも個人的にツボなんですよね。

 とにかく「愉快」と「痛快」を追求したような作りのストーリーで、読んでてひたすら楽しいです。あんまり先のことは考えてないんだろうな……と窺わせるライブ感重視の展開ながら、巻ごとの読みどころをキチンと用意していて読者を満足させてくれる。毎回キリの良いところで終わるから比較的アニメ化しやすいシリーズだとは思います。アニメはたぶん1クールだろうから3巻のロゼッタ編あたりまでかな。私が好きなのは妹弟子が出てくる6巻だから2期目に早くも期待している。主人公は「一閃流」という流派の免許皆伝を有しているんですが、これはもともと詐欺師同然のオッサン「安士」がでっちあげた偽物の流派であり、奥義「一閃」(目にも止まらぬ超高速の抜刀術、と見せかけて実際は鞘から抜くフリをしているだけ。あらかじめ切れ込みを入れておいた丸太が時間差で真っ二つになる大道芸)は決して会得することができない――はずなのに、なぜか主人公はこれを再現してアップデートしてしまう。怖くなった安士は主人公のもとから逃げ出すのですが、それを「何も求めずに去るだなんて……師匠、なんて無欲な人だ」と勘違いして感激する流れは爆笑モノ。妹弟子も当然「一閃」を使えるわけで、安士師匠、自身の武芸の腕はそんなにだけど瓢箪から駒を出すワザマエに関しては天才的である。今アニメやってる『嘆きの亡霊は引退したい』的な面白さ。主人公も弟子を取るようになり口から出まかせにすぎなかった一閃流がだんだんホンモノになっていく様子を見守るの、謎の感動があります。最新刊はその安士師匠がメインなんですが、直接手ほどきを受けたせいで目が曇りまくっていて安士のことを微塵も疑わない主人公や妹弟子に対し、「本当にそんな大層な人物なのか?」と疑いの眼差しを向ける主人公の一番弟子「エレン」がイイ味出しています。

 最新刊は先月出た9巻だから、アニメが始まる頃には10巻を超えてるかな。同じ世界を舞台にした外伝として『あたしは星間国家の英雄騎士!』(既刊3冊)もありますが、面白さは本編と比べたらやや落ちる。落ちこぼれ扱いされている少女騎士が左遷先で奮起するという王道的なストーリーで、本編が変わり種というかひねくれているからこういうのも書きたくなったんだろうな……と思わせる内容です。

「エリスの聖杯」アニメ化!令嬢役は市ノ瀬加那、悪女の亡霊役は鈴代紗弓(コミックナタリー)

 売れ行きがいまひとつだったのか4巻が電子書籍のみで紙書籍が発売されなかった、なんてこともあった作品なのに、まさかアニメ化まで漕ぎつけるとは……『エリスの聖杯』は5年ほど前にGAノベルから書籍化されていた異世界ファンタジーですが、途中で書籍化が止まってしまい、ファンたちが嘆いていたところ今月から出版社を変えて再出発することになりました。なんといっぺんに5冊も刊行されます。1〜3巻が再刊、4巻が初書籍化、5巻が完全書下ろしといった内訳です。内容は簡単に言うと「悪役令嬢モノ」。といっても「現代日本から乙女ゲームの世界の悪役令嬢に転生」みたいなパターンじゃありません。10年前に稀代の悪女として首を刎ねられた令嬢「スカーレット」が亡霊として子爵令嬢「コニー」に取り憑き、コニーの問題を解決してあげる代わりに自分の復讐に手を貸すよう話を持ちかける。幼い頃にスカーレットが処刑される光景を目の当たりにしていたコニーは、やがて無二の相棒になっていく……という、一種のバディ物です。再開だけでも嬉しいのにアニメ化まで決まったんでファンはもうお祭り騒ぎですよ。正直もう悪役令嬢モノには食傷気味……という方にも試しに読んでみてほしいシリーズです。

蝸牛くも×so-binが手がける迷宮冒険譚「ブレイド&バスタード」アニメ化(コミックナタリー)

 へー、ブレバスもアニメ化するのか。原作は『ゴブリンスレイヤー』の「蝸牛くも」による小説で、内容はかなりウィザードリィっぽい……というか、版元が正式にウィザードリィの商標を取得して出版した、正真正銘のWiz小説です。ウィザードリィはノベライズ作品こそ多いもののアニメ化されるのは91年のOVA以来で、来年放送なら実に34年ぶりとなる。「ウィザードリィっぽい作品」はいくつもあるからそんなに久しぶりな気は全然しないけど。版元の「ドリコム」には「DREノベルス」というレーベルがあり、↑の『エリスの聖杯』が移籍したレーベルもこのDREノベルスです。新興レーベル(2022年10月刊行開始)なのに2本もアニメ化決定とはスゴいが、正直この2作以外の作品はあまり知らないんだよな。なにぶん新興なので弾が少ないし知名度も低い。私もさっき刊行リスト眺めて「えっ、あわむら赤光の新刊出てたの!?」ってビックリしたくらいです。『エリスの聖杯』と同じく「夕薙」がイラスト描いている『悪徳貴族の生存戦略』は結構好きなんだけど、いつまで待っても3巻が出る気配ない……って打った後に調べたら来年に1年8ヶ月ぶりの新刊が発売されるみたいで更にビックリした。

・某漫画が連載終了後に作者自らエロ絵を描きまくって物議を醸していますが、そういえば連載中なのに作者自ら「メインキャラの一人がモブ男子に脅迫されてヤられる同人漫画」をFANZAとかで売り出した『恥じらう君が見たいんだ』には衝撃度を受けたな……もともとヤング誌連載で本編も充分エロいから「イメージがぶっ壊れる」というほどでもなかったし、『BASTARD!!』という前例もあるから割合すんなり呑み込めました。

 さて、こういう「作者自ら描いたセルフ同人漫画」は結構存在するわけですが、そんな中から「この手の話題で挙がっているところを見たことがない作品」を一つ紹介します。『Blue blue lagoon』、河内和泉の『EIGHTH』非公式アナザーストーリーです。『EIGHTH』は「遺伝子工学」をテーマにしたアクション物で、『Blue blue lagoon』はヴァレリヤ(リエラ)というキャラをメインに据えた同人作品。ヴァレリヤは登場自体はかなり早い(Wikipediaによると5巻、ちなみに『EIGHTH』は全16巻)けど正体が明らかになるのはだいぶ先で、12巻になってやっと表紙を飾るまでに至っている。そして13巻と14巻でも表紙を飾っており、「唯一『EIGHTH』で表紙三連勤を果たしたヒロイン」と化しました。当初は敵対ポジションで主人公のナオヤを苦しめるけど、いろいろあってヒロインの一人に。本領発揮が遅かったため作者にも描き足りない気持ちがあったのか、連載終了後に非公式二次創作として『Blue blue lagoon』をスタートさせます。現時点で7冊(総集編だと2冊)、合計して200ページ以上の結構なボリューム。「もしナオヤとヴァレリヤが結ばれたら」という仮定に基づいて制作されており、「ナオヤとヴァレリヤ」の組み合わせが正史となったわけではないが他のヒロインが好きだった読者にとっては複雑な気持ちかもしれない。私にとっては「どういう形であれ『EIGHTH』の新作が拝めるのはありがたい」が本音でした。『EIGHTH』、連載当時ですらそこまで注目を集めない割とマイナーな漫画だったもんな……この『Blue blue lagoon』をキッカケに本編へ興味を抱いて読み出した層もいるらしい。作者の河内和泉は「公式というか権利者・作者がどう描こうが自由なのと、本人が描きたい、ないし読みたいと思ってくれる人がいると否定的な人よりも優先されます/読みたい人優先なのはずっとそうなのです/なんかやだなあと思うという気持ちはわかる わかるが 描くなは無理筋がすぎる」とコメントしている。なお、結構きわどい描写はあるものの『Blue blue lagoon』は成人指定じゃなくて一応全年齢対象です。

『うたわれるもの ロストフラグ』5周年イベント「願い焦がれしあの唄を」開催中

 

 このエルルゥ、ファンの間では「黒エルルゥ」呼びされているみたいですけど一部で「エルンガー」と呼ばれていて笑ってしまった。

 さておき今回のイベントは「白き同盟、黒き楔」(1.5周年イベント)および「いつか運命の輪の中で」(4周年イベント)の続編的な位置づけのストーリーです。「白き同盟、黒き楔」はうたわれ1作目(散りゆく者への子守唄)の数十年前、多くの国が二つの陣営に分かれて争った「大戦」の時代を描いたもので、老婆としての印象が強い「トゥスクル」が若々しい姿で登場して話題を換びました。「いつか運命の輪の中で」はまだ幼い頃のクオンがロスフラの世界に迷い込み、「ヒミカ」という少女や仮面を外した(つまり『二人の白皇』以降の)ハクオロと出逢う話。ヒミカはハクオロにとって最初の妻である「ミコト」との間に生まれた娘であり、トゥスクルやエルルゥ、アルルゥのご先祖様に当たる。なのでクオンとヒミカは生きていた時代が全然違うけど異母姉妹になるんです。時空が歪んでいるロスフラでしか紡げないストーリーである。

 で、話を戻すと画像の黒エルルゥ、あのエルルゥが嫉妬心のあまり闇堕ちした姿……ではなくトゥスクルの姉の方のエルルゥです。うたわれヒロインのエルルゥにとっては「伯祖母」(大伯母)に当たる。ややこしいけどトゥスクルの本名は「アルルゥ」で、昔話として語られる姉妹草「エルルゥとアルルゥ」に因んで命名されています。うたわれにおけるエルルゥは「病気だった妹アルルゥを助けるため、高価な薬と引き換えにムティカパへ身を捧げた伝承上の女性(伝承エルルゥ)」「伝承エルルゥが好きだったとされる花(花エルルゥ)」「トゥスクルの姉であり黒のウィツァルネミテアと関連が深い女性(黒エルルゥ)」、「1作目のヒロイン(エルルゥ)」「その他、花エルルゥに因んで命名された単なる一般女性(一般エルルゥ)」と5通りが存在しているわけで、頭こんがらがる。

 トゥスクル(アルルゥ)は姉のことを深く慕っていたが、あるとき両親村の連中(確認したらトゥスクルの両親は彼女の幼い頃に亡くなっていた)が森の主(ムティカパ)への人身御供として姉を差し出したことを知り激怒、「こんな糞虫どもと一緒にいられるか!」と村を出奔してしまいます。そして村から離れた場所で行き倒れていたところを記憶を失う前のハクオロさんに拾われ、彼からトゥスクルの名を与えられる。ハクオロさんを父のように敬愛するトゥスクルは彼のために戦場で毒ガスを散布しまくり、「腐姫」と恐れられるほど敵兵を殺しまくっていく。ハクオロ率いる「白き同盟」は当初こそ優勢だったが、思わぬ人物の裏切りによって一転して劣勢に追い込まれる。起死回生の策として敵対勢力「黒き楔」の首魁を討つべく少数精鋭で本拠地に乗り込むトゥスクル、そこにはなぜか死んだはずの姉とムティカパの姿が……というあたりで記憶が途切れており、「トゥスクルの姉の方のエルルゥ」に関してはたくさんの謎が残ったままでした。「黒き楔」側のボスはハクオロさんと違って思念だけで肉体を持たない、一種の精神寄生体みたいな存在だからディーより前の依代だったのでは? と考えられましたが、ハッキリしたことはわからないまま今に至っている。黒エルルゥにどの程度理性が残っているのか不明であるが、その言動から察するに黒ウィツに無理矢理体を乗っ取られたわけではなく、トゥスクルがハクオロさんを慕うように黒ウィツを慕っていた可能性もある。だとすると自我がある状態で妹を攻撃した(致命傷は避けた?)んだろうか。薬師として一流の腕前があるうえ「森の母(ヤーナマゥナ)」(動物と心を通わせる力)の素質も有している、更に黒ウィツから何らかのパワーを授けられている疑惑もあるんだから結構強いというかチートキャラなんですよね、黒エルルゥ。なんであれ限定キャラとしてガチャ実装されることはほぼ確定しているのでファンは震えて待つしかない。

・京極夏彦の『狐花 葉不見冥府路行』読んだ。

 タイトルは「きつねばな はもみずにあのよのみちゆき」と読む。デビュー30周年記念企画の一環として新作歌舞伎用に書き下ろした作品。京極作品にしてはやや文章があっさりしているけど脚本形式というわけではなく、ちゃんと小説になっています。時は江戸時代。「お葉」という上月家の奥女中が病み臥せっているという。聞くところによれば、お葉は「生きているはずのない男」を目の当たりにして怯え切り、憔悴しているとのこと。「上月監物」はお葉のことなど生きようが死のうがどうでもよいと思っているようだったが、彼女が漏らしたいくつかの名前が過去の悪行と関係していることに懸念を寄せていて……と、あらすじだけ読んでもピンと来ない内容です。要するに『狐花』はお葉を中心とする「死んだはずの男がうろつき回る怪事」と監物を中心とする「過去に犯した悪事」、ふたつの「事」を巡る二層構造のストーリーになっているわけです。ずっと露見せず隠し通せてきた悪事と超常的な現象、まったく独立した別々の事象なのか、それとも何か関連があるのか……雲を掴むような状況に困惑するなか、安倍晴明とゆかりのある武蔵晴明神社の宮守「中禪寺洲齋」が憑き物落としとして上月家に招かれる。

 中禪寺洲齋は「京極堂」こと「中禅寺秋彦」の曾祖父に当たる人物で、江戸時代の生まれだから“巷説百物語”シリーズとの関連もある(最終巻である『了巷説百物語』に登場する)。なので強いて言えば“百鬼夜行”シリーズのスピンオフというより“巷説百物語”シリーズのスピンオフと捉えた方が近い。なぜ「強いて言えば」と迂遠な前置きをしたのかと申しますと、この『狐花』は洲齋よりも監物たち事件関係者の方が出番が多く、洲齋が顔を出すのはプロローグに当たる「死人花」と憑き物落としのために呼ばれるラスト3章の「地獄花」「捨子花」「狐花」のみ。全9章なので半分以上影すら見せないわけです。「じゃあファンサービス程度の出演に留まるのか」と言えばそうでもなくて、洲齋の出自など個人的な事柄もガッツリ明かされる。250ページ程度と京極作品にしてはやや短い一冊であり、「腹一杯読みたい」という方には物足りないだろう。演者の存在感で魅せることを前提としているのか、小説作品として読むと「事件関係者が多い割に個々の印象が希薄」という感想になる。1000ページ超えの本が珍しくなくてなかなか気軽に手を出せない京極作品の中では「空き時間に読むのもちょうどいいボリューム」なのだが、“百鬼夜行”シリーズや“巷説百物語”シリーズ、あと“書楼弔堂”シリーズ(洲齋の息子、つまり秋彦の祖父である「輔」が登場する)に興味がない「過去の京極作品とほとんど縁のない人」だと引き込まれるポイントがほとんどないかもしれない。この本をキッカケに他のシリーズへ手を伸ばしてみる御新規さんが出てこないとは限らないが……基本的に既存ファン向けの一冊です。

 京極作品をまったく読んだことがない人にオススメする入門書的な小説は、『巷説百物語』『嗤う伊右衛門』あたりかなぁ。『巷説百物語』は「御行の又市」と呼ばれる男が妖怪や化物に対する畏れを利用して様々な仕事をこなすシリーズの第1弾で、短編集だからサクサク読めます。『嗤う伊右衛門』は『巷説百物語』の前日譚に当たる長編……というより、発表順が『嗤う伊右衛門』→『巷説百物語』だから「『巷説百物語』は『嗤う伊右衛門』の後日談に当たる」と書いた方が適切か。あくまで作中の時系列が『嗤う伊右衛門』→『巷説百物語』というだけで、物語はそれぞれ独立しており、併せて読む必要もないし前後を気にしなくてもいいです。何せ『嗤う伊右衛門』よりも過去のエピソードである『前巷説百物語』がだいぶ経ってから刊行されたくらいですし。『嗤う伊右衛門』は長編とはいえ文庫で400ページもなく、『狐花』ほどではないが割と短めなのでそこまで気合を入れなくても読み通せます。京極夏彦のデビュー作『姑獲鳥の夏』と比べて格段に読みやすい。『姑獲鳥の夏』は前半をわざとゆったりした筆致で綴っている(急展開して加速する後半のインパクトを強調する狙いがある)ので、結構な人が「とりあえずデビュー作から」と手を出しては前半に耐え切れず挫折しちゃうんですよね……単純なページ数で言えば“百鬼夜行”シリーズの中でも少ない方(新書版だと400ページちょっと、文庫版でも600ページくらい)なのに。やっぱり『姑獲鳥の夏』にもチャレンジしたい、って方もまず『巷説百物語』や『嗤う伊右衛門』で京極夏彦の作風に慣れてから挑む方が宜しいかと。どっちか一冊に絞るなら僅差で『嗤う伊右衛門』の方がオススメ。そういえば『嗤う伊右衛門』はハードカバーの新装版が出ます(解説や対談が新録されている)けど、値段が値段なので熱心なファン以外は購入を躊躇うところだろう。私はもうすぐ出る“書楼弔堂”シリーズの最終巻『書楼弔堂 霜夜』を優先して『嗤う伊右衛門』の新装版はスルーするつもりです。

・白井智之の『エレファントヘッド』読んだ。

 『Thisコミュニケーション』の感想を漁っているとき、この作品を「デルウハ殿よりもひどい」といった趣旨で評している人がいたため、気になって手を伸ばしてみました。作者の「白井智之(しらい・ともゆき)」は10年ほど前に横溝正史ミステリ大賞の最終候補に残り、受賞こそ逃したものの候補作『人間の顔は食べづらい』で小説家デビュー。第二作の『東京結合人間』は日本推理作家協会賞の候補になるも再び受賞は逃し、第三作の『おやすみ人面瘡』も本格ミステリ大賞の候補に選ばれたが受賞はできず……といった具合に評価されながらも無冠だった時期が長い作家です。去年やっと本格ミステリ大賞を獲って無冠状態から脱しました。著作は何冊か持ってるけど全部積んでいて、「なんかえげつない作風らしい」ということしか知らなかったです。『エレファントヘッド』は去年刊行された小説で、長編作品としては最新作に当たる。「あらすじを読んでもよくわからない」作品ながら読んだ人の間では評価が高く、本格ミステリ大賞の候補作にも選ばれています。ライバルが『地雷グリコ』だったんで受賞は逃したんですけども……あ、『地雷グリコ』も読んだんで次回の更新で感想書きます。

 さて、「謎もトリックも展開もすべてネタバレ禁止」だの「絶対に事前情報なしで読んでください」だのといった惹句が並んでいるせいであらすじ紹介をやりにくいことこの上ないです。私も事前情報は「デルウハ殿よりもひどい奴が出てくる」ぐらいしか知らないまま読んでぶっ飛んだから言っていること自体には同意しますが、「絶対に事前情報なしで読んでください」という文句で貴重なお金と時間を割いてくれる読者は稀であり、さすがにもうちょっと読みどころを紹介したいと思います。物語は東北に位置する架空の街「神々精(かがじょう)市」(多賀城市のもじり?)の医科大学附属病院、精神科の病棟付近で幕を上げる。「精神科」というワードで「散々話をしっちゃかめっちゃかにした末に『全部妄想でした』みたいなくだらないオチがつくパターンじゃないだろうな……?」と懐疑的になった方もおられるかもしれないが、あらかじめ書いておくと安易に妄想や幻覚で片づけるような単純なストーリーではありません。現実離れはしているが相当に複雑で入り組んでおり、奇怪なパズルが紐解かれていく様子を眺めるようなえも言われぬ面白さがあります。少しネタバレしますが、本書は「複数の並行世界でストーリーが進行する」形式になっており、「それぞれの世界線で起こした行動の影響が別の世界線へ波及する」仕組みなんです。結果、ある世界線では普通に歩いているだけの人が突如まるで風船みたいに膨らんで爆裂四散してしまう。西澤保彦がよくやっていた特殊設定ミステリとたまにやっていた猟奇ミステリをミックスしたような、眩暈がするほどバッドテイストかつバッドトリップな世界。普通の人間ならただ戸惑い翻弄されるだけの状況だが、その法則を理解し悪用しようとする奴が現れたもんだからさあ大変。パズル感覚で人を死に追いやり自らも窮地に追い込まれる最低野郎の末路を君自身の目で見届けろ!

 とにかく胸糞の悪くなる要素目白押しなので誰にでも薦められる一作ではないが、「よくこんなこと思いつくな」と感心してしまう奇想が目一杯詰め込まれているので後半の疾走感は物凄い。細かい伏線も多く、途切れ途切れに読むと繋がりを忘れてしまいかねないからなるべく短時間で一気に目を通すことをオススメします。積んでいる他の著作も読みたくなってまいりましたが、作風が作風だけにまとめて読むと胃もたれしそうだな……。

・拍手レス。

 再び色々とネタ紹介をいただきありがとうございます。フルメタル・パニック!Familyと、Thisコミュニケーションを何となく積んでいたのですが、おかげさまで読みたくなってきました。

 やっぱり「これ面白かった」って報告する場所と機会があるの、いい気晴らしになるので今後もちょこちょこ更新していきたいです。最近はホラーコメディの『写らナイんです』、霊感ゼロなのに強烈な除霊体質を持つ「橘みちる」ちゃんのキャラが立っていてじわじわ好きになってきています。

 おぉ、Thisコミュニケーション! 毎月毎月「最低」を更新していくデルウハ殿は圧巻でしたが、中でも「こんな俺でも選んでくれるか?」は凄まじかったですね……

 悪魔って案外穏やかな顔するんだな……と放心したシーンですね。



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