2025年11月〜12月


2025-12-30.

・年末なので今年の一年を振り返ってみようと思う焼津です、こんばんは。

 1月、冬アニメ放送開始。最後まで観た作品は十数本、そのうち最もハマったのは『BanG Dream! Ave Mujica』です。メディアミックスが盛んな「バンドリ!」プロジェクトに属するアニメ作品の1つ、TVシリーズとしては通算5期目に該当します。5期目と言っても1〜3期との繋がりは薄いので、「Ave Mujicaって評判になってるから興味あるんだよな、でもバンドリ全然知らないから迷ってる」って人は生真面目に1期目から視聴しなくてもOKです。4期目(It's MyGO!!!!!)とは繋がりが深いと申しますか、「実質的にMyGOの続編」「本に喩えると『下巻』に当たるエピソード」だからMyGO→Ave Mujicaの順で鑑賞することをオススメします。

 「現役女子高生たちがバンドするアニメ」なのにキャッキャウフフな遣り取りが小数点以下のパーセンテージに留まり、後はひたすら昼ドラみたいなドロドロした展開が続く。1話1話手探りでストーリーを作っていっただけあって「着地点が見えない」というライブ感は凄まじく、私もすべてのエピソードを複数回視聴するぐらい熱中しました。正直ズッコケるような部分もあったけど、毎週「早く続きを観せろ!」とここまで焦れたアニメはまどかマギカ以来ですね。私は基本的にアニメってリアタイしない(録画or配信で観る)んですが、コレだけは例外で全話リアタイしましたよ。だから最終回のライブが閉幕した後、続編アニメの告知来たときはテンションがブチ上がって夜中だというのに雄叫びを上げかけました。しかも続編アニメは「Mujicaの新作劇場版」「MyGOとMujica共通の続編に当たる新規TVシリーズ」と2つもあるんだからたまらない。ちなみに、同じクールの話題作として『メダリスト』があります。「米津玄師」の主題歌「BOW AND ARROW」のPVに「羽生結弦」が出演して驚愕しました。ただこのPV、公開が結構遅くて3月になってからだったんで1月じゃなくて3月の話題で触れるべきだったかな……いいや、3月のところでもう一回言及することにしよう。

 訃報は「デヴィッド・リンチ」、カルト的な作品でコアな人気を誇っていた映画監督です。高校生の頃に『ロスト・ハイウェイ』を観て「ワケわかんねぇ〜」と呻いたっけな、懐かしい。あの当時あったレンタルビデオ店はもう全部潰れてしまった。高校卒業した後にツタヤとかゲオが出来たから、市内にまだレンタル店は残っているけど……。

 2月『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀 最終章』公開。2016年から始まった日台共同制作の布袋劇が10年近い年月を費やし、遂に完結へ至りました。興味ない人は全然チェックしていないかもしれませんが、TVシリーズを4期までやって劇場版も最終章含めて3つあるという結構なボリュームの作品です。舞台となるのは「萬興(ばんこう)」なる中華っぽい国、200年ほど前に発生した魔界の軍勢による侵攻「窮暮之戰」で中央地帯が呪われた領域になり、東西が行き来できなくなった。西側を「西幽(せいゆう)」、東側を「東離(とうり)」と呼ぶようになり、もはや別々の国として歩み出すしかないのか……と人々が諦めかけていたところ、通れるはずのない中央地帯を踏破して西幽から一人の男がやってきた。その名は「殤不患(しょう・ふかん)」。果たして彼の目的とは? ……と、大掴みに書いたらこんな話。「武侠片」の一種なんで、大義よりも個人的な事情を優先して闘っている連中がほとんどです。殤不患の相棒みたいなツラして出てくる「凜雪鴉(りん・せつあ)」というキャラが本当に最悪で、敵ならブッ飛ばせば済む話なんだけど一応味方だからこいつ殴っても何も解決しないんだよな……と厭らしさが極まっていてスゴい。殤不患のCVが「諏訪部順一」で凜雪鴉が「鳥海浩輔」だからDiesファンにとっては「双首領やんけ!」って組み合わせで自動的にPANTHEONを思い出して切なくなる。

 で、PANTHEON復活を夢見ている「正田崇」と「Gユウスケ」はどうしているかと申しますと、「戦略的迂回案」としてそれまで進めていた第零神座の物語『事象地平戦線アーディティヤ』を中止し、大雑把な構想だけ語られていた第五神座の物語『Dies Entelecheia』を開始しました。このへんファン以外にはわかりにくいのでざっくり解説していきますが、かつてゲーム会社に所属していたシナリオライターである正田崇には「神が交代するたびに世界が作り変えられる」という壮大な連作“神座万象”シリーズの構想がありました。「第〇神座」というのは「〇番目の神が作り変えた世界」って意味で、アニメ化した『Dies irae』は「第四神座」の末期に当たる。まぁ「神の交代する瞬間」が一番盛り上がるんで、だいたいは各時代の末期が舞台となります。正田崇の構想だと「第九神座が最後の神座世界になる」予定でしたが、そのへんをエンタメ作品として成立させることが難しく「構想だけで終わるかもしれない」という危惧がありました。しかし、『Dies irae』のアニメ化に伴ってソシャゲ企画が持ち上がり、「神座万象シリーズの締め括り」に当たる作品として『Dies irae PANTHEON』が告知されます。細かい部分を無視して平たく言えば「FateにとってのFGO」みたいなポジションです。しかし、いろいろあって企画は実現せず、正田の所属していたゲーム会社も潰れました。それでも諦めず、「PANTHEONでやるつもりだった物語」を支援サイトに掲載し、同人小説として再出発することになります。

 再出発後、最初に完成したのが第一神座(初代の神が君臨した世界)の物語『黒白のアヴェスター』。これに続いて発表されたのが第零神座の物語、つまり神が君臨する前の「空位の時代」を描いた『事象地平戦線アーディティヤ』だったんですが、見切り発車で書き出したこともあって暗礁に乗り上げました。「シリーズ全体の整合性を取るために先に第五神座の話を書いた方がいい」と判断し、今年2月から始まった新たな物語が『Dies Entelecheia』です。位置的には「『Dies irae』の後日談」であり「『神咒神威神楽』の前日譚」となる。私は支援プランに加入していないから連載は追っていませんが、無料開放期間のときに序章の一部だけ読んでいます。面白かったので書籍化が待ち遠しい。他にも『黒白のアヴェスター』のゲーム化企画が動いている……はずなんですが、どうも開発会社との間でトラブルがあったみたいで順調に進んでいないみたいなんですよね。つくづくファン泣かせなシリーズだ。ゲームと言えばこの月にインディーズゲームとして発売された『都市伝説解体センター』が各所で話題を呼びました。私も買ったけど、まだ途中までしかやってない……。

 3月、35年の歴史を誇る雑誌“ドラゴンマガジン”が休刊。遂に紙媒体で「ライトノベル文芸誌」というジャンルが消滅しました。文庫で書き下ろしの長編を出して雑誌にノリの違う短編を載せる、『スレイヤーズ』や『オーフェン』や『フルメタル・パニック!』でお馴染みの手法も過去のものとなってしまった。なろうやカクヨムなどの投稿サイトが伸長したことで雑誌の役割がなくなった、というのが大きいのだろう。ちょっと前に新刊が出た『キノの旅』も元々は新人賞に落選した作品で、「選考委員からはあまり評価されなかったが、読者がどう評価するかわからない」ため試しとばかりにライトノベル文芸誌へ全文掲載してみたところ、反響が大きくて書籍化が決まった……という経緯があり、「雑誌の時代」の恩恵を受けた最後の世代って印象がある。アニメ化までした問題作『撲殺天使ドクロちゃん』も雑誌で募集していた短編新人賞の落選作品で、誰かが連載を落としたときの備え、いわゆる代原(代理原稿)としてストックされていたものです。ちなみに連載を落としたのは『Hyper Hybrid Organization』の「高畑京一郎」。ライトノベル関係の話題で言うと、『東京レイヴンズ』が6年ぶりくらいに新刊を出してビックリしましたね。

 先述しましたが『メダリスト』の主題歌「BOW AND ARROW」のPVに「本物のメダリスト」である羽生結弦が出演し、世間がどよめきました。「BOW AND ARROW」はフィギュアのショートプログラムを意識した再生時間になっていますが「曲調が速過ぎてこれを踊れる選手なんてほとんどいない、そこが難点だ」と言われ、「じゃあ踊れる人を連れてくればいいじゃない」とばかりに羽生結弦のショートプログラム版まで配信するの、控え目に表現しても「力業」でしょう。既に2期も決定している『メダリスト』ですが、ストーリーはここからどんどん面白くなるのでアニメ勢の方々も期待していいです。

 4月、春アニメ開始。いろいろあったけど、一番の話題作は『機動戦士Gundam GQuuuuuuX(ジークアクス)』か。「スタジオカラー」と「サンライズ」が手を組んで制作した異色のガンダムアニメで、パッと見アナザーガンダム(宇宙世紀に属さないガンダム、最近は「オルタナティブ」と呼ぶらしい)っぽいのに蓋を開けてみれば「ガンダム(RX-78)にアムロではなくシャアが乗った世界」という大胆すぎるifを描いたパラレルワールド系のUC(宇宙世紀)作品でした。『Beginnig』と称して冒頭を全国の劇場で先行公開し、興行収入35億円という特大のヒットを飛ばしたのには度肝を抜かれた。ガンダム映画の興収トップは『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』で50億超えていますが、Beginnigはそれに次ぐ2位。あくまで先行公開、「待っていればテレビで放送される」のにここまで観客が集まったのは制作サイドにとっても予想外だったそうだ。

 『水星の魔女』に続く女性主人公のガンダムで、内容を『水星の魔女』と比較されるのではないかと予想されていましたが、大量に埋設されたネタの数々に「それどころじゃない!」とガンダムファンたちは毎週必死で考察と議論を交わすハメになりました。4話のタイトルが「魔女の戦争」だったから『水星の魔女』と絡めてネタにする流れはあったし、公式も後に#ガンダム魔女界隈なる謎のフレーズとともにハロウィン特別イラストを公開したりしていますが、4話に登場したオリジナルキャラクター「シイコ・スガイ」の強烈さに脳を焼かれる視聴者が続出しそれどころではなくなった。「モブ顔」「少女のような若々しさ」「なのに子持ちの人妻」「そしてメチャクチャ強い」とキャラ立ちの凄まじさで瞬間的に主人公のマチュ(アマテ・ユズリハ)よりも話題になった。1クールしかないのでメイン以外のキャラはそんなに出番多くないが、サイコガンダムのパイロット「ドゥー・ムラサメ」も忘れられない子でしたね。やってることはテロリストだけど、「人の造ったニュータイプか」と呟かれて「自らの意思で進化したボクらこそニュータイプに相応しい!」と吼える姿はその直後に容赦なく撃墜されたことを鑑みると「蟷螂の鎌」そのもので趣深い。「主題歌を手掛けた米津玄師が脚本を見せてもらって爆笑した」という噂が流れ、本人が「そら笑うだろ」とコメントしましたが「爆笑ポイントが多過ぎてどこで笑ったのか絞り込めない!」とファンたちも頭を抱えました。EDテーマを歌った「星街すいせい」が、指名手配犯になってしまって呆然とするマチュに被さるようにして流れる「もうどうなってもいいや」という自身の歌に対し「いやどうなってもよくないだろ」とツッコミを入れる珍事も発生。シャアとシャリア・ブルが人気になってananの表紙になったり、マルちゃんの「赤いきつね」「緑のたぬき」とコラボしたりと好き放題かましてるのも笑ってしまう。マルちゃんのコラボは少し前に『水星の魔女』でもやっていますが、そのときはスレッタとミオリネだったのに……なんでマチュとニャアンを差し置いておっさんコンビが出張ってるんだよ! マチュたちのコラボCMこそ作られたものの、パッケージはそのままだし、おじさん優遇コンテンツになってしまった。

 ジークアクス以外で良かったのは『ロックは淑女の嗜みでして』、『ウマ娘 シンデレラグレイ』、『アポカリプスホテル』、『ざつ旅 -That's Journey-』、『日々は過ぎれど飯うまし』、『忍者と殺し屋のふたりぐらし』あたり。ショートアニメの『リコリス・リコイル Friends are thieves of time.』も新作への「繋ぎ」として楽しめました。シンデレラグレイは恐らく完結までアニメ化してくれるだろうが、それとリコリコ以外の作品は続きが放送されるかどうか不安だな……ひび飯は特に雰囲気が良かったんで、何としても2期3期とやってほしいんだけど。それにしても、今年はやたら「青山吉能」のCVを聞く機会が多かった気がする。『ぼっち・ざ・ろっく!』の「ぼっちちゃん」こと「後藤ひとり」役をしている声優です。『Wake Up, Girls!』というアニメでデビューした人で、芸歴的にそろそろ「新人」から「中堅」に移行するポジションの方なんですが、ぶっちゃけぼっちちゃん以外ではあまり当たり役に恵まれていなかった。しかし今年になって『ある魔女が死ぬまで』の「メグ・ラズベリー」、ひび飯の「小川しのん」、『フードコートで、また明日。』の「山本」、『ブスに花束を。』の「鶯谷すみれ」、『帝乃三姉妹は案外、チョロい。』の「帝乃三和」、『転生悪女の黒歴史』の「イアナ・マグノリア」と印象的な役を立て続けに演じている。面白いのは一番知名度の高いぼっちちゃんではなく「ある魔女」の「ズベリー」で認知されている傾向が強いことですかね。「図太い性格したお調子者、でも根は優しい」というズベリーのキャラが青山の演技とマッチしているせいか。ちなみにズベリーという愛称(?)は本編に出てくるネタで、視聴者が勝手に言い出したわけではありません。

 5月、実写映画『岸辺露伴は動かない 懺悔室』公開。岸辺露伴の映画としては2本目に当たる。前作『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』は原作が120ページくらいの中編であるのに対し、『懺悔室』はなんと50ページ弱の短編。原作は本当に岸辺露伴がほとんど動かず懺悔室で「罪の告白」を聞くだけの内容なんで、「これを2時間近くの映画にしたの!?」と驚かざるをえない。興行収入は8億円強、12億超えたルーヴルに比べるとやや苦戦した印象です。

 20日に出た夢枕獏の『キマイラ聖獣変』、これで“キマイラ”シリーズは暫定的に完結となりました。“キマイラ”シリーズはかつて“キマイラ・吼”と呼ばれていたシリーズで、1982年に開始し、40年以上に渡って展開していましたが、構想が膨らみ過ぎて「書いても書いても終わらない」という終着駅のない旅みたいな状況に陥っていました。作者が大病を患ったこともあり、「寿命が尽きるまでに書き切れるかどうかわからない」ため現時点で考えている最終巻の内容を書いて先に出そう――ということで発売されたのが聖獣変です。内容的には完結編というより後日談の体裁で、「いろいろあって俺たちもイイ歳になった」みたいな雰囲気でストーリーを締め括りに入っている。一応、これが“キマイラ”シリーズの最終巻という位置付けになっていますが、聖獣変に至るまでの過程がいっぱい欠け落ちているので、これから空白を埋めていく作業がまだまだ残っている。SAOで喩えると「アインクラッドの攻略はもう終わったけど、そこに到達するまでの過程を大幅に省いちゃったから、補填するべくプログレッシブを書いている」ような状況。空白を埋め切る前に作者が体調面の理由で書けなくなる可能性はあるし、体調が安定していたとしても書いているうちに聖獣変と繋がらなくなっちゃった……となる可能性もある。本当の意味で「終わった」と思っているファンはほぼいないはずだ。もう疲れて追う気のなくなった人はいるかもしれないけど、そういう人のための「区切り」として用意されたのが聖獣変なのかもしれませんね。

 一方、長年最終章が発売されなかった小説『E.G.コンバット』は原作者である漫画家「☆よしみる」が小説版の作者である「秋山瑞人」の正式な降板を発表。既に幻となりかけていたEGF(『E.G.コンバット Final』)は本物の幻となって霧散しました。☆よしみる曰く秋山がスランプに陥り書けなくなってしまった、とのこと。『E.G.コンバット』は☆よしみる本人が漫画版として最初から最後まで描き直すことになったらしい。あくまで「秋山版『E.G.コンバット』」を待ち望んでいた私のような読者にとっては辛いニュースであるが、「とにかく『E.G.コンバット』の完結を見届けたい」という方は☆よしみるをフォローして報告をひたすら待ちましょう。

 6月、映画『国宝』公開。「吉田修一」の小説を映画化したもので、公開前からそれなりに期待する声はあったが、あまり派手な宣伝は打たれず割合ひっそりと上映が始まった。すると口コミでどんどん評判が広まり、普通は日数の経過に伴って減っていくはずの客足がむしろ増えていくという異常事態に。初週は『リロ&スティッチ』と『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』の後塵を拝し動員ランキング3位だったのに、2週目で2位に上がり、3週目でようやく動員ランキングのトップに立って、その後も勢いが止まらずV4をキメた。あれよあれよという間に興行収入は100億円を突破、その後もロングランが続いて10月に「150億円突破」のニュースが舞い込み、11月には173.7億を突破して『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』(173.5億円)を追い抜き実写邦画のトップとなりました。既に180億円も突破しており、年末年始も興行を重ねて来年には200億円すら上回りそうな勢い。

 配給は「東宝」ですが、自社製作ではなく製作委員会方式です。東宝の取締役がインタビューで「2018年(原作の単行本が出た年)時点で既に『国宝』を撮ろうと提案する社内プロデューサーが存在していたが、歌舞伎界という大衆ウケしにくい題材で、自社製作なんかにしたら到底費用を回収できないと思った、見る目がなかった」といった趣旨のことを語っています。興収面に関してどれだけ期待されていなかったかと言いますと、原作小説は朝日新聞で連載されていたにも関わらず「朝日新聞社」が製作委員会に入っていない……つまり版元の朝日さえも「映画はそんなに客入んないだろうし、お金出したくない」と渋るくらいでした。原作小説は単行本(ハードカバー)で出版された後に文庫化されていますが、単行本の時の部数が6万部、文庫版は映画が公開される前の時点で35万部くらい、上下巻なので巻割20万部程度、売れていることは売れているが特大ヒットが見込めそうな規模ではなかったんです。ちなみに現在は累計200万部を突破し、巻割でも100万部以上となっています。原作者の吉田修一が東宝の試写室で『国宝』を観て「100年に一本の映画ですね」とコメントした逸話も残っており、これがそのまま宣伝文句に転用された。私も観ましたが、奈落から迫り上がってくるシーンが巨大ロボの発進シークエンスみたいで好きです。あと「この贋物(ニセモン)がァッ!」と喜久雄を蹴る観客役の俳優が誰なのか気になって仕方がない。

 面白いのは、『国宝』の映画で製作幹事を務めたのは「MYRIAGON STUDIO(ミリアゴンスタジオ)」というところで、なんと「アニプレックス」の子会社。そう、アニヲタなら誰でも知っているあのアニプレックスです。もともとは「オリガミクスパートナーズ」という会社だったけど、アニプレが全株式を取得して完全子会社化し、名称を変更。アニプレがこれまでアニメ作品で培ってきたノウハウを活かして「実写作品のプロデュース」を行うために魔改造したんです。ここのところアニメ作品ばかりが興収ランキングの上位を占める状況が続いていますけど、アニプレはこの状況を喜ぶどころか逆に憂慮しており、「このまま邦画が衰退していったら映画界全体の活気がなくなってしまう」と邦画の振興へ舵を切ることにしたそうだ。ミリアゴンに改称したのが2023年で、『国宝』がミリアゴンとしての初プロデュース作品(正確にはミリアゴンが生まれる前のアニプレックス時代から企画を立ち上げているが)。「大量生産品ではなく伝統工芸品のような、オートクチュールの映画を作る」というコンセプトで12億円もの制作費を投じた。

 あくまで「制作費」のみで、宣伝や広報なども含めると数字はもっと大きくなる。朝日が「とても元が取れない」と出資に二の足踏んだのもむべなるかな。母体がアニプレだから『鬼滅の刃』や『魔法少女まどか☆マギカ』などの経験を元に「クオリティ向上のために巨費を投じられる」のがミリアゴンの強みという。ミリアゴンとしても国内興行のみでのリクープ(利益回収)は難しいと考え、海外展開によって帳尻を合わせる――みたいな目算だったらしいが、予想に反し国内だけで充足するほどの興行収入になった。『国宝』の原作単行本が出たのが2018年、監督の「李相日」が実写映画の『キングダム』を観て「吉沢亮」に目を付けたのが2019年、企画が立ち上がったのが2020年、クランクインが2024年で、2025年にやっと公開。『国宝』のプロデュースで中心的に動いた人物は『キングダム』の企画プロデュースをしたPでもあり、その実績を買われ2020年にアニプレへ入社してミリアゴンの設立にも関わったとのこと。『キングダム』の実写化が成功していなければ、『国宝』もどうなっていたかわかりません。アメリカで公開されてアカデミー賞の「国際長編映画部門」と「メイク&ヘアスタイリング部門」の2部門で候補になった、というニュースにもビックリしたが、度肝を抜かれたのは大晦日に銀座の「歌舞伎座」で特別上映会を行うという告知。松竹のお膝元である歌舞伎座で、松竹のライバルたる東宝の映画を流すというのはなかなか信じがたい事態である。『国宝』効果で松竹の歌舞伎興行も上向きになったから、無視できない存在なのは確かなんでしょう。「映画の内容を全肯定することはできないが、魅力のある作品であることに間違いはない」といった感じかしら。「松竹・東宝 主催」の表示がまぶしい。表記順からしてこの企画、松竹が主導ってことだもんな。

 7月、夏アニメ開始。個人的にあまり数はこなせなかったけど、良作に恵まれて楽しく過ごせた。話題作は『その着せ替え人形は恋をする Season2』、『瑠璃の宝石』、『サイレント・ウィッチ 沈黙の魔女の隠しごと』あたりかしら。私がもっともハマったのは『わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?)』、アニメの出来が良かったから各話3度以上は周回しちゃった。原作は「みかみてれん」のライトノベル、紙書籍版持ってるのにセールのときについ電子版も買ってしまうぐらい好き。コミカライズのクオリティも高かったが、「百合はジャンルとしてニッチすぎるからそこまで力の入ったアニメではないだろうな」とさして期待していなかったんです。ところがどっこい、「えっ、百合アニメにここまで手間を掛けてるの!?」という出来で驚愕しました。残念ながら原作からカットされているシーンも多かったが、このクオリティでアニメ化したうえ「残り5話も制作します!」と宣言してくれたのだから感謝しかない。13話〜17話の『ネクストシャイン!』部分は来年1月1日の午前1時という一般人なら寝ている時間帯に一挙放送されます。ありがとう、ありがとう。この調子で2期も頼む。/p>

 ライトノベルといえばかつてアニメ化し、「現実に負けた」と話題になった『りゅうおうのおしごと!』本編が完結。放送後に主演声優の「内田雄馬」と「日高里菜」が結婚したことで話題になった。なお内田雄馬の姉「内田真礼」は今年の9月に「石川界人」と結婚。内田雄馬と石川界人が義理の兄弟になったと界隈がどよめいた。このふたり、もともと仲良し声優として有名で同じマンションに住んでた時代もあるんですよね。「じゃあ姉と結婚しても不思議じゃないか」と納得する人多数。一応界人が義兄になるが、雄馬の方が歳上です。

 18日に『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』公開。総集編的な特別上映や先行上映を除いた『鬼滅の刃』の映画としては2本目に当たる。シリーズの最終章『無限城編』を三章に分けて公開する、という試みです。ラスボス「鬼舞辻無惨」の本拠地が「無限城」と呼ばれる異空間で、ここに飛び込んだ主人公たちは無惨率いる「十二鬼月」の幹部たちと最終決戦を繰り広げることになる。前回の映画『無限列車編』は興行収入400億円というバグみたいな数字で業界関係者も腰を抜かしましたが、コロナ禍という特殊な状況だったし、まだ原作の連載が続いていた当時と違って今は連載も終了して時間もだいぶ経っているから、さすがに「また400億」は難しいんじゃないかな……ブームが下火になったとはいえファンの人気は根強いから100億は確実に超えるだろうけど、200億、300億あたりのラインは厳しいのでは? みたいな下馬評が囁かれていましたが、まさか初動が前回を上回るとは。満席に次ぐ満席で、あまりにも忙しくてポップコーンや氷を切らす映画館が続出、バイト従業員が口を揃えて「俺らがこれから出勤するのは地獄だ」と表現する阿鼻叫喚の大混雑。私は混んでるのがイヤだから、かなり時期をズラして観に行きました。夏映画として公開されたのにまだ各地で上映が続いており、このまま年を越してお正月映画戦線に混じることは確定しています。下手すると春休みの時期でもまだやってる映画館ありそうだな……。

 今回は世界興収も凄まじく、日本円にして1000億を優に超える。ハリウッド映画とかだとそこそこ見掛けますけど、日本の映画で世界全体の興収が1000億円超えた作品は他に存在しないのでとんでもないことです。米ドルに換算するとざっくり7億ドルくらい、アニメ映画としては『カールじいさんの空飛ぶ家』くらいの規模ですね。ちなみにアニメ映画として世界一の興収を誇っているのは今年公開された中国の3Dアニメ映画『ナタ 魔童の大暴れ』。米ドル換算で約22億ドル。日本だとテレビでCM打ちまくっていた『ヨウゼン』よりも知名度が低いけど、中国国内の人気は桁違いで観客動員数が3.2億人、22億ドルのうち19億ドルくらいは中国での稼ぎです。「魔童の大暴れ」はシリーズ2作目に当たり、前作『ナタ〜魔童降臨〜』(2019)は7.4億ドルくらいだったから一気に3倍になっている。ちなみに『ナタ転生』という中国のアニメ映画もあるけど、直接的な繋がりはありません。『ヨウゼン』含めてみんな『封神演義』が元ネタってだけです。『封神演義』を知らないと話がわかりにくいので、中国以外の国だとそこまで大きくヒットしていない(それでも現地の華人や華僑が観に来るのでそこそこ稼いでいる)。

 閑話休題。『鬼滅の刃』の制作会社「ufotable」は無限城の構築に難航し、他のラインを止めてスタッフを結集させることで何とか第一章の完成に漕ぎつけたという。明言されていないが、止めたラインは恐らく『原神』と『魔法使いの夜』と『活撃 刀剣乱舞』劇場版と『ガールズワーク』(はさすがにもうポシャっているか? 未だに公式サイトが残っているので判断つかないんだよな……)。そりゃ全世界で1000億超えるような作品を完成させるためならラインを止めるのも仕方ないか、と他作品のファンは諦めるしかなかった。逆に考えれば「無限城編作るような会社がまほよのアニメを制作するのマジ?」って感覚である。ufoとアニプレは『空の境界』劇場版をキッカケに躍進した経緯があり、アニプレのプロデューサーが鬼滅アニメ化の際にufoへ声を掛けたのも「『Fate/Zero』で夜間の戦闘シーンに関しては実績があるから(鬼滅の敵たちは陽光を浴びると消滅するため、戦闘シーンは概ね夜間)」で、TYPE-MOON・アニプレックス・ufotableのトライアングルは切っても切れない関係にあります。無限城編は三部作なのであとは第二章と第三章の公開を待つばかりであるが、具体的な予定はまだ告知されていない。間が空いて多少ブームが下火になると仮定してもそれぞれ興収300億ぐらいは固いだろうから、国内だけで累計1000億円は狙えるわけか。全世界では……どこまで行くのかもう想像がつかないや。

 8月、「FGO」こと『Fate/Grand Order』が10周年ということでいろんな施策が行われましたが、もっとも話題になったのは「聖晶石1000個の配布」。シナリオの最新章をクリアしていること、って条件はありましたが熱心なプレーヤーのほとんどは発表があった時点で既にクリア済だったため実質「1000個もの石が突然降って湧いた」ように感じられて狂喜しました。FGOのガチャは石3個で1回(大昔は4個で1回だった)、更に10回ガチャるごとにオマケで1回追加されるんで、1000個あれば333回+33回で計366回もガチャを回すことができます。ピックアップ対象の☆5サーヴァントは「329回ガチャって一度も出現しない場合、330回目で確定になる」仕組みですから回すガチャを絞れば最低1騎は好きな最高レアリティのサーヴァントが手に入る、言うなれば「交換チケットを配布したに等しい状況」ゆえ大盛り上がりでした。同日実装された「所長」こと「オルガマリー・アニムスフィア」に全部突っ込んで宝具5以上にするプレーヤーなんかもいる一方、「目当てのキャラが来るまで取っておこう」と貯蓄に回したプレーヤーもいました。私? 私は玉兎(水着式)が天井だったのでそこでほぼ消えましたね……今年は配布含めて26騎のサーヴァントが実装されましたが、微課金勢の私でも「小野小町」と「ダンテ」の2騎以外は入手できたのでまずまずの結果だったと思います。

 他は……「うえお久光」の復活かな? 『悪魔のミカタ』というシリーズで一時期は「西尾維新」に並ぶ人気があったものの、15年ほど前に最後の新刊を出してからパタッと消息が途絶えていた作家です。現在『闇のセンパイ』というホラーを連載中で、これが終わったらずっと止まっている『悪魔のミカタ』や『シフト』の続きも書いてくれる……かも。訃報は「土師孝也」、『北斗の拳』の「トキ」役やハリポタのスネイプ先生の吹替で有名だった声優です。FGOのモリアーティやプリンセスプリンシパルのノルマンディー公、あとは何と言ってもファフナーの溝口さんが印象的でした。

 9月『劇場版 チェンソーマン レゼ篇』公開開始。TVシリーズがあまりパッとしなかったこともあり、公開前の段階だとそこまで騒がれていなかった印象ですが、いざ封切りしてみると「良かった!」「絶対に見るべき!」という高評価が続出。東宝のお偉いさんも初日の反応に手応えを感じて「これなら50億狙える!」と宣言しましたが、あれよあれよという間に国内の興行収入は99億円を突破。ギリギリ年内に100億行くかもしれない。世界各地でも人気が跳ねて、国内と合わせた興収は280億円! 鬼滅のせいで感覚がおかしくなっていますが、これもかなりスゴい数字ですよ。激しいバイオレンスシーンがあることも影響して観客の大半は男性ながら、意外に女性客も「デンジとレゼの切ない恋物語」みたいな視点で恋愛映画として受容しており、デート目的のカップル客も多いそうな。米津玄師の主題歌による効果も大きいのか? ただしファミリー層は壊滅的です。アメリカだと年齢制限が厳しく、「娘が『彼氏とのデートでレゼ篇を観る』というから映画館まで送ってあげたところ、R指定(17歳未満は保護者の同伴が必要)と言われ、急遽一緒に観るハメになって気まずかった」という珍エピソードも報告されている。親を連れていくのはハードルが高いし、兄とか姉とかいとことか、「歳の近い保護者」がいない子は鑑賞するのも困難だろう。それでもボックスオフィスで1位を獲ってるんだからスゴい。

 制作スタジオはTVシリーズと同じく「MAPPA」。配給は国宝や鬼滅などと同じ東宝ですが、珍しいことに『チェンソーマン』はMAPPAの単独出資。アニメでよくある製作委員会方式ではなく、ぜ〜んぶMAPPAがお金出して「制作」も「製作」もやってるんです。『呪術廻戦』などで稼いだ金をオール・イン。非常にハイリスクですが、こうすることで製作委員会の連中から口出しされることなく純粋にクオリティを上げる映画作りが可能になったという。『鬼滅の刃』は製作委員会に参加する企業を集英社・アニプレックス・ufotableのたった3社に絞ることで意思疎通のしやすい制作環境を構築しましたが、MAPPAの方がより自由度の高い環境で、もはやアニメスタジオの目指す「究極」と申しても過言ではない。単独出資のアニメ映画は、たとえば「スタジオジブリ」の『君たちはどう生きるか』がそうなんですが、あれが公開されるまでろくに宣伝を行わなかったのはテレビ局や広告代理店が製作に一切関わっていなかったからです。「あえて宣伝しない」というイカれた戦略を取るためにジブリが全部金を出したのだ。「鈴木敏夫」プロデューサーは「今回に限っては、回収できない自信がある。だから参加しないでほしい」と周囲に言って回ることで製作委員会の編成を阻止したそうな。回収できなくてもいい、と嘯きながら世界興収でキッチリ400億も稼いでいるあたりはいかにも鈴木敏夫らしいというか。単独出資はアタれば儲けを総取りできるが、コケれば損失を全部自社で被ることになる。リンクの分散が許されず、端的に言って「賭け」です。結果的にMAPPAは大勝しました。レゼ篇の制作費は推定で5〜9億円、宣伝とか諸々の費用を考慮するとだいたい10億円はブッ込んでるかと思われます。興収のうち半分は劇場の取り分、残りを配給と分け合う形になりますが、配給の取り分は概ね20%、残り80%――つまり280億円のうち112億円がMAPPAの取り分。10億ブッ込んで112億帰ってきたんなら税金でごっそり持って行かれることを考慮しても大成功でしょう。続編『チェンソーマン 刺客篇』の制作も決定しており、とりあえず第1部「公安編」は完走できそうな雰囲気になっています。とにかくジャンプアニメは押し並べて好調で、ヒットの規模が他とは桁違いな印象ですね。

 10月、秋アニメ開始。『野原ひろし 昼メシの流儀』がなぜかニコニコで大人気になったりと予想外の事態はあったが、いまひとつパンチに欠けるクールだったかな。原作が好きでダンス表現に期待していた『ワンダンス』も「う〜ん……」な出来だったし。『グノーシア』や『アルマちゃんは家族になりたい』、『最後にひとつだけお願いしてもよろしいでしょうか』など面白いアニメはいくつかあったものの、「ハマる」ところまではいかなかった。強いて言えば『私を喰べたい、ひとでなし』かな? 原作は「待てば無料」系のところでだいたい読んでいたけど、アニメの出来が良くてまとめて読み返したくなったから単行本全部買っちゃった。あとヒロアカの最終章が盛り上がっていたみたいだけど、私は原作を途中までしか読んでないんで付いていけなかったんです……ライトノベル方面では「キネティックノベル大賞」が受賞作の大量取り消し措置を行って物議を醸していたっけ。

 時事ニュースに目を向けると、自民党の「高市早苗」総裁が第104代首相に選出され、日本初の女性総理大臣が誕生。フィクションだと『攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG』の「茅葺総理」が「日本初の女性首相」でしたが、あれは西暦2030年あたりという設定なんで現実の方が僅かに早かったですね。あとはノーベル賞に日本人科学者が2名も含まれていたことが大きなニュースになっていたっけ。

 11月、競走馬の「フォーエバーヤング」がアメリカのレース「BCクラシック」に優勝。日本の馬としては初の快挙ということで話題になりましたが、馬主が『ウマ娘』の運営「Cygames」の親会社「CyberAgent」の社長である「藤田晋」、誕生年月日が「2021年2月24日」でちょうど『ウマ娘』のサービス開始日……優勝直後に『ウマ娘』への登場を匂わせる投稿があってお祭り騒ぎになりました。『ウマ娘』プロジェクトを開始→CMに「武豊」を起用→武の勧誘に押し切られた藤田社長が馬主になることを決意→フォーエバーヤングを落札(命名は落札後)→様々なレースを制したうえでBCクラシック優勝という流れなので、『ウマ娘』プロジェクトが現実の競馬史に影響を及ぼしたという信じがたい事例である。「馬主から許可を取るのが大変だし、自分たちで馬買ってレースに勝たせて実装すればいいんじゃないか」みたいな冗談は初期からありましたが、まさか本当に自給自足し始めるとは……仮に来るとしても「ハルウララ」みたいな「強くはないが愛敬のあるマスコット路線」がせいぜいと思っていました。フォーエバーヤングは他にも海外のG1を制しており、獲得賞金額が日本円に換算して30億近く、額面だけで言えば国内最高額(時代が違うと物価も異なるため単純比較は難しい)で、どれだけ優遇しても「身内贔屓」と非難できないほどの戦績を誇っている。いずれ彼(彼女)を主役にしたアニメも制作されるんじゃないかな。いやサウジがもう作ってるんですけど。難点は「ライバルがほとんど海外勢」で実名を使えないだろう、ということか。そもそもモデルが現役競走馬のため、ウマ娘に実装されているキャラとは時代が重ならないんですよね。せめて父に当たる「伝説の名馬リアルスティール」がいないと絡ませづらい。アニメ3期にはそのリアステをモデルにした「ゲンジツスティール」が登場しており、しれっと名前変えればキャラデザは使い回せるだろうが……。

 MLB(メジャーリーグベースボール)のワールドシリーズ(ナショナルリーグの王者とアメリカンリーグの王者が対決する優勝決定戦)で「ドジャーズ」がカナダの「ブルージェイズ」を破り、2連覇を達成。「先に4勝した方が優勝」というルールゆえ早ければ10月中に決着するはずだったが、互いに3勝3敗のまま最大試合数である第7戦までもつれ込み、その第7戦も延長11回まで争う激闘ぶりで多くの野球ファンが熱狂しました。第7戦の舞台はブルージェイズにとってホームに当たるトロント。事前の予想だとブルージェイズの方がやや有利と見られ第7戦でもブルージェイズのファンが「勝った!」と思う瞬間は何度かあったが、最終的に「中0日」で登板したドジャーズの投手「山本由伸」によってその夢を阻まれた。「山本がいなければ勝ててたのに……」とブルージェイズのファンが悲嘆に暮れただけのことはあって、ワールドシリーズのMVPに選ばれたのも山本由伸。彼は英語圏だとなぜか「傲慢な大口を叩く自信家」として弄られており、「実際には言っていない語録」がミーム化しているという。「何としても負けるわけにはいかないので」という発言が拡大解釈されて「Losing isn't an option(負けるという選択肢はない)」と宣言したことになってしまい、捏造フレーズを刻んだTシャツまで作られた挙句、優勝後のスピーチで本当に「Losing isn't an option」と口にするハメになった件は笑えるようでいて時代を映している面もあり、興味深い。ヨシの言ってない語録で好きなのは「リリーフ陣の負担を減らせるように少しでも長いイニングを投げたい」という発言が誇張された「ブルペンのドアを施錠しておけ」です。

 映画は『果てしなきスカーレット』が21日に封切り。前作『竜とそばかすの姫』が興収66億だったこともあり業界人は「順調なら50億前後、内容次第で100億も狙えるのではないか」と読んでいたらしい(ハコの押さえ具合からして東宝も本気で100億超えに挑んでいた節がある)が、蓋を開けてみれば記録的な不入りで逆に話題となった。最終的な興収はまだ確定していないが、現時点で6億円前後。興収のデイリーランキングでも圏外に消えてもはや集計するのも困難な状態となっており、ここからの伸びはあまり期待できない。「6億は超えるけど7億には届かない」くらいで決着しそう。竜そばの1/10にも満たないという、製作費(概算25億円)を顧みれば「危機的」としか言いようがない数字です。ざっくり22億円の赤字ですからね……監督インタビューで「もちろんスタジオ地図としてはね、この映画がヒットしなければもう潰れるしかない、 でもいつも常に映画作りってそうなんで、そういう風な格好でいつもやってます」と語っており、「マジでヤバいのでは?」と不安になる。300館規模の公開で3000万円〜4000万円程度とおぼしき『ChaO』(8月公開)や250館規模で概算5000万円の『トリツカレ男』(11月公開)に比べればまだ数字はいい方だけど、座席数が全然違う(果てスカの初週座席数はChaOやトリツカレ男の10倍近い)ので……ブロックバスター(特大ヒット作)となることを期待されていたタイトルだけに着席率の低さが信じがたいレベル(5%前後)でした。今年の映画は興収が二極化しましたね……100億円を超える大ヒット作が3本(コナン、国宝、鬼滅)生まれ、「100億超えるだろう」と目されているヒット作も2本ある(チェンソーマン、ズートピア)一方で大半は10億円に満たなかった。邦画・洋画すべて合わせて今年公開された映画の本数はざっくり1500本くらい、そのうち日本国内で興収10億円を超えた作品は50本前後です。

 鬼滅のせいで何もかも感覚がおかしくなっているが、本来「興収10億円」というのはかなり高い壁なんですよ。毎年「日本映画製作者連盟」という団体が興収10億以上の映画をまとめて公表していますが、去年(2024年)は公開本数1190本に対し邦画が31本、洋画が10本、全体の3.5%以下です。過去を振り返ると、あれだけオタク業界に大きな影響を及ぼしたハルヒの劇場版『涼宮ハルヒの消失』(2010)も8億ぐらいでした(来年リバイバル上映される予定だから、そこで2億以上積めば10億超えますが)。2011年に公開された『映画 けいおん!』が深夜アニメの劇場版として初の10億円を突破(最終的には19億円まで到達)し、2013年の『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ[新編]叛逆の物語』が初の20億円突破、更にこの記録を『ラブライブ!The School Idol Movie』(2015/28.6億円)や『ガールズ&パンツァー 劇場版』(2015/24.4億円)、『劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-』(2017/25.2億円)が追い抜いていきましたが、なかなか30億円突破は果たせず「この『30億の壁』を超えていった作品が次の時代を作るだろう」と囁かれたものでした。しかし皆さんご存知の通り『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』(2020)が400億円を突破しまして……「刻むだろっ!普通もっと…!段階をっ…!」となったわけです。『鬼滅の刃』、原作はジャンプ漫画だしもっと昔なら残酷描写を減らしたうえで夕方か夜の浅い時間帯に放送していたんでしょうが、2000年以降どんどん「深夜アニメ」というスタイルが定着していったため「わざわざ残酷描写を減らさなくても深夜にそのまま流せばいいだろう」と集英社の意識も変わり、視聴者が「放送よりも配信を重視する」スタイルに移ったおかげで鬼滅、呪術(あと未達成だけど近々達成しそうなチェンソーも)と「深夜アニメ発の100億円超え映画」が連発される結果になりました。ちなみに「ジャンプ原作」を禁止カードにすると興収30億を超える深夜アニメ映画はまだ出てきていません。え? ジークアクス? アレは本編の放送が始まる前の先行公開なんで「深夜アニメ発」と言っていいのか微妙なところ。劇場公開された時点では「深夜アニメである」ことすら明かされておらず、公開からだいぶ経った後に放送時期が告知され、そこでようやく「深夜アニメだったのかよ!」とわかって驚いたぐらいです。

 そもそも興収が20億超えた作品も先述した4つ以外だと、今年2月に公開された『ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-』のみ。全国85館というやや小規模な館数でスタートし、4月に10億突破。劇中で繰り広げられるラップバトルの勝敗を毎回「観客がスマホアプリで投票した結果」に基づいて判定し、上映内容が48通りに分岐する(投票ポイントが5つあって、まず6つのチームが3組に分かれて1対1でラップバトルして各試合の勝利チームを選び、更にその中から決勝に進むチームを1つだけ選んで、決勝で待ち構えている女王チームと雌雄を決する……2×2×2×3×2=48通り)という、超特殊な「インタラクティブ(双方向)映画」です。7つあるチームのうち、「どこのチームが優勝したか」でエンディングも変わる寸法だ。つまり、最低でも7回見ないと全エンディングを制覇することができない仕様なんですが、「大阪の劇場で観るとほぼ確実に大阪のチームが優勝するため他のエンディングを見られない」っていう票の偏り問題も発生したんだとか。新宿チームが勝つところを見たければ新宿の映画館に、池袋のチームが勝つところを見たければ池袋の映画館に……と「遠征」「越境」するファンも続出したらしい。一旦上映終了になった後もアンコールの声に応えてリバイバル上映を繰り返し、10月には動員数100万人、興行収入25億円を突破した。100館以下の公開館数で延べ100万人以上を動員した映画は日本初です。

 逆に言えば、そこまで熱烈なファン層を動員してもなお「30億の壁」は破れなかったという証明でもあるわけだ。来年公開されるまどかマギカの新作『ワルプルギスの廻天』が伸びれば「ジャンプ原作でない深夜アニメ発の映画」として初の「30億突破」という記録を残せるかもしれないが……『叛逆の物語』から12年以上、往時に比べて熱心なファンが減ってるのか増えているのかよくわからないんですよね。普通に考えれば「間が空き過ぎ」「いくら日5で再放送されたとはいえ『始まりの物語』『永遠の物語』『叛逆の物語』すべてを押さえていることが前提なのはキツい」「ファミリー層は絶望的だし、カップルがデート映画として選ぶかと言うと……」ってな具合に不安材料が次々と見つかるから、「内容次第」と保留しつつ「コアなファン層が初週に集まって、二週目以降はガクンと落ちてそんなにロングランしない」超初動型になりそうな予感がします。個人的には超楽しみにしていますけどね……本当、内容次第では二度三度と行くつもりです。

 訃報はミステリ作家の「西澤保彦」、ループ体質の主人公が事件を未然に防ごうとしたり、人格が次々と入れ替わる状況で「〇〇の肉体で殺人を行ったのは誰なのか」を突き止めようとしたりなど、SFやファンタジーのような設定を導入した「特殊設定ミステリ」と呼ばれる作品を数多く手掛け、界隈に大きな影響を与えました。日本推理作家協会賞は獲っているが、作品数の割に賞レースとほぼ無縁で、このミスなどのランキング本で1位になった作品もなく、タイミングに恵まれなかった作家です。未読の方にはやはり鉄板の『七回死んだ男』をオススメしたい。

 12月、遂にFGOの第二部が「終章」で完結の時を迎えた。FGOはサービス開始の時点で「どこまでやれるか」不透明だったが、遊んでくれたプレーヤーへの礼儀としてどんなに儲けが厳しくても最低限第一部はやり切ると覚悟を決めていたそうです。そのうえで可能ならば第二部もやるつもりであちこちに仕込みを済ませていた。もしFGOがヒットしていなければ某PANTHEONの如く幻となっていた第二部が遂に幕を引く――長年プレーしてきたファンにとっては万感の想いが押し寄せる瞬間です。FGOは2015年にサービスを開始し、2016年末に第一部が完結、2017年は「1.5部」という繋ぎのエピソードを展開し、同年末に第二部のプロローグを配信、そして2018年から満を持して第二部の本編が始まりました。つまり、第一部の展開期間は「約1年半」なんですけど、第二部は「約8年」と長さが全然違う。そんな待ちに待った終章において、全ての始まりである特異点「炎上汚染都市 冬木」が作中世界においても「原初の特異点」であることが判明して衝撃が走りました。確かに「特異点」という概念、FGO以外のFate作品には存在しないので「冬木の聖杯戦争に無理矢理介入した結果生じた」と考えれば平仄が合う。

 そしてラスボスとなる「〇〇〇・〇〇〇〇〇」も登場、なんか……凄まじい出自に反してあっという間に化けの皮が剥がれていくスピード感が面白くて……倒される前からマスコット化するという予想外の事態に。プレーヤーから「〇〇〇ちゃん」呼ばわりされてる様子に笑ってしまった。レイド戦では宝具に「超巨大特攻」のあるふじのんと「人類の脅威特攻」のあるバサトリアが大暴れ、伐採完了すると夢火を落としてくれるから林檎かじって周回に励みました。しかし大量の空想樹もみるみる伐採されていき、本腰を入れて周回しようと思った時にはもう枯れてる、という事態が頻発。結局予定していたほどは回れずしょんぼりです。本編のラストバトルは演出をじっくり見せることに特化した内容で、難易度自体はさほどでもなく令呪を使わないまま終わった。一番活躍したグランド鯖は剣トルフォで、次がふじのん。バサトリアは「たぶん強すぎてクエストがすぐに終わってしまうだろうから」と出撃自体させなかった。現状ラストバトルは1回しかプレーできないので、まだクリアしてない方は令呪使用を前提にじっくり時間かけて味わってほしいです。

 ほか、ネットの一部では「スピキ」と呼ばれるミームが大流行。元ネタは韓国産のソシャゲ『トリッカル』で、「スピッキー」というキャラの本国版声優の演技が非常に特徴的だったことに端を発するミームです。スピッキーは「不気味な」とか「薄気味悪い」を意味する英単語「SPOOKY」がネーミングの由来なんですが、韓国語は長音をあまり重視しない(たとえば「高速道路」を「コーソクドーロ」と言っても「コソクドロ」と言っても同じ言葉だと認識するし、「スーパースター」の発音も「シュパスタ」になる、日本人からすると韓国語が早口気味に聞こえるのはこのへんも影響している)ため発音が「スピキ」になります。韓国版プレーヤーが7月に投稿したMAD動画が10月になってグローバル版プレーヤーたちに発掘され(時間差があるのはグロ版のサービス開始が今年の10月からなんで)、11月頃から日本でこの「スピキMAD」を作る人が大量発生し、12月頃からYoutubeのオススメ欄へ頻繁に出てくるようになったせいもあって『新感染』ばりの勢いであっという間に広まってしまった。韓国では「疫病」と表現されていて笑った。

 ミーム化する過程で本来の「スピッキー」と「スピキ」はかけ離れた存在になっており、もはや別のキャラ扱いだ。要するにスピッキーの偽物がスピキなんですが、ややこしいことにスピッキーは「周囲の認識を操作して別人になりすます」能力を保有しており、修道服みたいな衣装に身を包んでいるのも「シスターだから」ではなく「ある宗教団体のトップの物真似をしているから」です。何か深遠な目的があって変装したわけではなく、「服が可愛いから」真似しただけ。なりすましで勝手に作った教義を信徒に押し付けようとしたのも「できるからやってみた」程度の思惑しかない。悪意はないけど思慮もなく、当然の成り行きとしてとっちめられても「悪いことしてないのに〜」と泣き出して被害者ヅラする。「反省する」という機能が付いていない、非常にタチの悪いクソガキなんです。つまり「本物のスピッキー」もある意味で「偽物」。だから、MADの中では「スピキのフリをするスピッキー」や「スピキをスピッキーに変えてしまうスピッキーウイル保持者」などというスピキに輪をかけてワケの分からない存在が登場する。

 『トリッカル』の運営は「EPID Games」という中小企業で、害のないパロディやミームに対しては好意的だからスピキMADも黙認……どころか公式MADまで投稿する始末。「公式も乗っかった」ことでますます勢いづき、日韓双方でスピキMADブームが過熱していった結果、韓国版スピッキーの声優がクリスマスキャロルを歌う動画がアップロードされたり、スピキに「粉雪」を歌わせるMADが話題になったり、日本版スピッキーの声優がスピキの真似をする動画をアップロードしたりしています。韓国版声優お気に入りのスピキ動画は「スピキはばかじゃないんですから!「完全版」feat.スピキ M/V」で、なんと100万再生を突破している。公式サイドは「なんでCMに起用したコミーより、バターやスピッキーの方が人気あるんだ」とボヤきながらもブームに全力で乗っかり、「謎のペット出現!」と煽ってスピキの実装を匂わせた挙句、「目に涙を浮かべたスピッキーを模して作ったぬいぐるみ」という扱いで本当に実装を告知してしまった。この『トリッカル』、会社の代表が自宅を担保にして資金調達した逸話が有名(ちなみに権利書はまだ取り戻せていないらしい)で、収益面に関しては結構厳しいみたいだからなりふり構ってられないのだろう。この貪欲さは見習いたい。

 最後に、今年観た映画のベスト選出。私的な今年のトップは『バーフバリ エピック4K』。本国では2015年と2017年に、日本では2017年に少し間隔を空けて公開された『バーフバリ 伝説誕生』と『バーフバリ 王の凱旋』、2本(前後編)の映画を編集して1本に作り直した、まぁ簡単に言うと総集編です。『バーフバリ』は国内で上映されたノーカット版と海外向けに歌とダンスのシーンを大幅に削ったインターナショナル版の2種類あり、ノーカット版が5.5時間くらいに対しインターナショナル版が5時間弱。『エピック4K』はそこから更に1時間近く削って225分、4時間弱に編集しています。それでも長いから途中で10分くらいのインターバル(休憩時間)が入る。アヴァンティカ(ヒロイン)のシーンがだいぶ減っていることはさすがにわかったけど、私の記憶力がよわよわなせいでどのへんが追加映像なのかは区別が付かなかったな。何であれ、スクリーンでの鑑賞に値するド迫力映画であることに変わりはない。『バーフバリ』2部作は地元で上映しなかったからBDで視聴するしかなく、当時かなり悔しい思いをしたものだけど、『エピック4K』のおかげでようやくその悔しさが晴れた。それも込みでトップに据えたくなるわけですけど、あくまで「純粋な新作」で選ぶとしたら「延々と殺戮劇が続く踊らないインド映画」『KILL 超覚醒』か「映像と音響の快楽を追求したアニメの極北」『劇場版 チェンソーマン レゼ篇』の2択かな。鬼滅、国宝、ゾンサガ、わたなれ、落下の王国あたりも良かったけど「映画としての満足度」に関しては『バーフバリ エピック4K』(1位)、『KILL 超覚醒』『チェンソーマン レゼ篇』(同率2位)って感じでした。

・そういえば「どじろー」の『陰キャ同士のセックスが一番エロいよね』の単行本が発売されました。連載当時から話題を喚んでいた18禁アダルトコミック、要はエロマンガです。とにかく陰キャ女子の「天野」が可愛くてエロいので「最近エロマンガってあんまり買ってないな〜」という方もこの機会にどうぞ。電子版はFANZA限定なのでエロマンガの物理単行本を家に置いておけない方はFANZAで購入しよう。(※追記)……って、更新後にチェックしたらAmazonで『陰キャ同士のセックスが一番エロいよね』の取り扱いがなくなっている!(在庫切れどころかページ自体が消滅) 記事を書いていた頃には確かにあったのに! もおお、これだからAmazonは! 仕方ないので紙書籍版が欲しい方はFANZAかとらのあなかメロンブックスあたりで買ってください。

 「紙書籍版を買うつもりだけど、一冊だけだと寂しいな〜」って方に併せ買いして欲しい単行本もオススメしておこう。「ぱてくらー」の『変態世界の歩きかた』と「犬江しんすけ」の『お隣の贄』、比較的最近出た新刊です。『変態世界の歩きかた』はヒロインの名前がスゴすぎることでバズりまくった「御奈新ヶ万出機内さんはオナニーが我慢できない」を収録しているナンセンス・エロギャグ集。『お隣の贄』は犬江さん(今はSNS主体でサイトの方は更新されていないけど、実はうちのサイトとほぼ同期で相互リンクしていた時代もあります)が同人で出していた同題シリーズをまとめたもの+描き下ろし、同人版の総集編もあるけど商業版の方が安いです。NTR(寝取られ)物がイケる人なら『アブカノ+』あたりもイイかもだが、これ、同人作品だった『アブカノ』(1作目)を商業化したもので描き下ろしが30ページ程度なんで、電子版でも大丈夫な人はFANZAで同人版を買った方がリーズナブルです。今なら半額セール&20%OFFクーポンで220円(税込)、続編の『アブカノ2』と一緒にポチっても440円(税込)、ワンコインでお釣りが出るレベル! 超安い! あ、「電子でもOK」の方はさっき挙げた『変態世界の歩きかた』はFANZA以外のところで買った方がいいです。FANZAって基本的に新刊の値引きはあんまりしないしポイント還元もないので、クーポン使えるところとかで購入した方がオトク。ただ、ショップによっては消しが濃かったりするから注意しましょう。

 エロ以外でオススメなのは『ARIA完全版 [ARIA The MASTERPIECE] (8)』、本編完結後に発表されたエピソードや未収録番外編をまとめた愛蔵版です。『ARIA The MASTERPIECE』の7巻が出たのは8年前だから、ARIA好きな人でも8巻が出たことを意外と知らなかったりする。私もアンテナ低かったせいで発売ギリギリになってようやく知ったくらいですからね。価格は2200円(税込)、大きさ・分厚さを考慮すると文句のない値付けではあるが、8年前に出た7巻が1500円(税込、当時は消費税8%時代なので本体価格1389円)だったことを考えると少し遠い目をしてしまう。なかなか気軽に本の買えない時代になってしまった。

クリストファー・ノーラン監督の新作『オデュッセイア』、2026年公開予定

 映画ファン待望の新作情報がようやく明かされました。「クリストファー・ノーラン」監督というのは簡単に言うと『ダークナイト』とか『インセプション』を撮った監督です。近年は『インターステラー』(2014)、『ダンケルク』(2017)、『TENET』(2020)、『オッペンハイマー』(2023)といった大作映画を手掛けており、「3年周期だからそろそろ来るのでは?」と囁かれていました。ノーランは物凄くこだわりの強い監督で、撮影には未だにフィルムカメラを使用している。『オデュッセイア』を撮るために新型70mmフィルムカメラまで開発されたというのだから並外れています。大作映画の監督でここまでフィルムにこだわっているの、今じゃノーラン以外だと「クエンティン・タランティーノ」くらいじゃないでしょうか。タランティーノはフィルム上映可能な映画館「ニュー・ビバリー・シネマ」や「ビスタ・シアター」のオーナーにもなっているという筋金入りのシネフィル(映画狂)です。

 さておき『オデュッセイア』、原題は"The Odyssey" 。そのまま訳せば「オデッセイ」(オデュッセイアの英語読み)ですが、日本語版のタイトルはギリシャ語読みとなっています。これは2015年に公開された映画 "The Martian" (原作小説の邦題は『火星の人』)を日本公開時『オデッセイ』というタイトルにしてしまったため、被りを避けるために仕方なく……という感じでしょう。日本人からすると「オデッセイ」はホンダの車を連想してしまいがちだから、というのもあるかもしれない。『オデュッセイア』は古代ギリシャの詩人「ホメロス」が残した叙事詩で、作中の時系列としては同じくホメロスの叙事詩『イリアス』の後日談みたいなところがあります。『イリアス』はいわゆる「トロイア戦争」を描いた叙事詩で、古代ギリシャ側がトロイアのことを「イリオン」と呼んでいた(トロイアの築いたのは「トロス」という王様で、その子供が「イロス」、つまり「イロスの国」という意味)ことに由来する。トロイア戦争にはいろんな英雄が参戦しましたが、その一人が「トロイの木馬」の立案者として名高い「オデュッセウス」。彼は終戦後、妻子が待つ故郷の国「イタケー」に向けて船を出すが、海神「ポセイドン」を怒らせてしまったせいもあって様々なトラブルに襲われ、なかなか帰り着くことができない……という内容の叙事詩が『オデュッセイア』です。なんと戦後のトロイアを出立してから紆余曲折を経てイタケーに帰郷するまで10年くらい掛かっています。前フリに当たる『イリアス』はトロイア戦争が長引き過ぎて10年目に差し掛かった頃、総大将のアガメムノンがアポロンに仕える神官の娘「クリュセイス」を妾にして寵愛した結果アポロンが怒って疫病の流行を招いたため、神の怒りを解こうとオデュッセウスがクリュセイスを返しに行く……というような場面から始まる(有名なシーンで、「クリュセイスを父親のもとへ送り届けるオデュッセウス」という絵も描かれている)。要するにオデュッセウスは戦中・戦後含めて20年くらい故郷を留守にしていたことになります。引き連れた部下ともども「家に帰りたい」想いは半端じゃなかっただろう。

 故郷に辿り着くまで様々なトラブルに遭遇したことから「オデッセイ」は「長大な冒険」や「放浪譚」の代名詞にもなりました。映画にもなったSF小説『2001年宇宙の旅』の原題も "A Space Odyssey" 。アイアイエーという島(伝承によっては半島としているケースもある)で魔女「キルケー」と懇ろになったエピソードや怪物「セイレーン」の歌声に魅了されて理性を喪失したときの備えとして部下に命じ己を船の帆柱(マスト)に縛り付けさせたエピソードなど、後世の創作でネタにされた逸話や要素は枚挙に暇がない。たとえばオデュッセウスの妻の名前が「ペーネロペー」……そう、来年劇場版第二部がやっと公開される『閃光のハサウェイ』のモチーフの一つが『オデュッセイア』なんです。読み物としては『イリアス』よりも『オデュッセイア』の方が圧倒的に面白い。なのに、オマージュ作品はあっても『オデュッセイア』そのものはあまり映画の題材にはされてこなかった。一応『ユリシーズ』がある(ユリシーズはオデュッセウスの英語読み、「オデュッセイア→オデッセイに比べてオデュッセウス→ユリシーズは違いすぎじゃない?」と思うでしょうが……オデュッセウスの名前をラテン語読みに変換する際、何かの手違いでDがLになって響きが変わってしまったそうです)けど、70年も前の作品だ。原作が有名で、面白いエピソードも山盛りなんですけど、山盛りすぎて取捨選択が難しく「どのエピソードを残してどのエピソードを削るか」でみんな途方に暮れてしまうんです。ホント『オデュッセイア』、「面白いけどコレは削っても成立するな」ってエピソードが多いんですよ。イタケーに到着する手前あたりで「ナウシカアー」なる王女(『風の谷のナウシカ』の「ナウシカ」は彼女に由来するネーミング)に惚れられるけど、ペーネロペー一筋なオデュッセウスを見たナウシカアーは彼を引き留めず「私もことも忘れないでください」と囁き、そっと送り出す……っていうしっとりめのエピソードがあります。脚本を構成する立場の人からすると「キルケーと懇ろになる逸話」を消化した後でこれまでやるのはさすがに映画としてクドい、ってなるでしょう。なかなか帰ってこない父を心配して息子の「テレマコス」が捜索の旅に出る、という「テレマコスの冒険」要素まで入れたら高確率で収拾がつかなくなる。かと言って枝葉末節を削り過ぎて「イタケーに帰る」という本筋しか残さなかったら『オデュッセイア』の混沌とした魅力も薄らいでしまう。「雑多なエピソードの寄せ集め」だからこそ冒険譚としてワクワクする面がありますので。「『オデュッセイア』、やりてぇ〜」と思いつつ二の足を踏む監督がほとんどだったと予想しています。

 あと、上半身は美しい娘の姿をしているが下半身は恐ろしい怪物の「スキュラ」、一つ目の巨人「キュクロプス」など、ファンタジーめいた存在が次々と登場してくるため、そのへんをどう処理するのかって問題もある。キュクロプスはドラクエの「サイクロプス」(キュクロプスの英語読み)みたいな単純に力の強い巨大な原始人として描くのか、それとも「天目一箇神」にも通じる鍛冶神の一種として描くのか? 神話上だとキュクロプスは鍛冶神「ヘファイストス」の徒弟として神々の武器や防具の作成に従事したことになっており、ゼウスの雷霆「ケラウノス」もキュクロプスが作ったとされている。古い時代の鍛冶師は火の温度を測るため火を直視せざるを得ず、「片目の視力を失う」のが職業病だったことから鍛冶師の象徴は「単眼」とされていました。『オデュッセイア』におけるキュクロプスは「人喰いの単眼巨人」でしかなく鍛冶要素はオミットされているが、由来を含めて深読みすれば「実は鍛冶師の集団」と見做すこともできる。こんな具合に各エピソードの「表象」と「本質」に関してはかなり議論の余地があるわけで、「オデュッセウスが苦労の末に故郷へ帰る話」をどう彩るか、非常に悩ましいわけだ。そもそも「ホメロスという詩人」は実在せず、あくまで象徴として冠されている名前であって、実際のところ『イリアス』や『オデュッセイア』は各地の吟遊詩人(アオイドス)が歌った内容をまとめた、日本で言うところの『平家物語』みたいなものじゃないか、という見方もあります。ストーリーにあまり一貫性がなく、エピソードが継ぎ接ぎに見えるのもそのせいだ、と。私はとりあえず期待しているが、評価はだいぶ割れそうな予感がするな。既に「時代考証的に鎧や衣装のデザインがおかしい」と批判する人が現れているらしいですし。個人的に鎧や衣装のデザインくらいはええやろ……の心境ですが。

「デモンベイン/継接の世界《パッチワークバース》」幕開けにあたり

 やっと……やっと『斬魔大戰デモンベイン』が本格始動する……! 「待望」の二文字では言い表せない想いに胸が熱くなります。うちのサイトってデモベの二次創作を掲載するために始まったんだもんなぁ。そもそも「デモンベイン」とは何か? ということについてはリンク先の記事に詳しく書いてあるのでザッと触れる程度に留めますが、要は2003年にニトロプラスから発売された「巨大ロボットの出てくるエロゲー」です。もともとは「虚淵玄」主導で「ロボット系のエロゲー企画」を進めていましたが難航し、「もっと若い感性を持ったクリエイターに委ねよう」ということで当時個人サイトを運営していた「鋼屋ジン」(当時は違うハンドルネームだったけど、そのへんの説明は割愛)に声を掛け、「ロボットが出てくる」部分を引き継いで鋼屋ジンの提案した企画が「クトゥルー神話をベースにしたスーパーロボット物」であり、「邪神を滅ぼす」ということで『斬魔大聖デモンベイン』のタイトルが決まった(CS移植版は『機神咆吼デモンベイン』)。デモベの企画を考えるうえでもっとも参考になった、いわゆる「元ネタ」に当たる小説が『タイタス・クロウの事件簿』から始まる「タイタス・クロウ・サーガ」で、デモベの主人公「大十字九郎」もタイタス・クロウから来ている。「大(タイ)+(足す)九郎(クロウ)」。なお、余談ですが、虚淵は鋼屋の友人である「東出祐一郎」(この人も当時は違うハンドルネームだった)にも声を掛けようか思案したそうです。しかし東出は「一般企業に就職しました」と当時のHPで報告していたため「カタギをこの業界に誘うのは……」と躊躇って取りやめたんだとか。結局その企業をやめてクリエイターとしてデビューすることになるんですが、タイミング次第では「ニトロゲーを出す東出祐一郎」もあり得たでしょう。

 デモンベインの詳しいストーリーについて述べると歯止めが利かなくなるためやめておきますが、簡単に言うと「並行宇宙」が重要なポイントになってくる物語です。エンディングによっては大十字九郎が「旧神(エルダーゴッド)」と呼ばれる超常的な存在になったりするし、人のままハッピーライフを送るルートもある。で、「別のエンディングの未来」が次元を隔てた他ルートの運命に影響を及ぼすことがしょっちゅうある。続編『機神飛翔デモンベイン』には「九朔(くざく)」という新キャラが登場しますけど、この子は「別の世界線」で生まれた九郎の息子なので本名は「大十字九朔」。彼のいた世界では「魔導大戦」という規模の大きな争いが発生しており、『機神飛翔〜』も分類上は「魔導大戦モノの一部」という扱いになっている。『機神飛翔〜』の後日談として雑誌に掲載された短編「D2」(現在は「機神大嵐」というタイトルで非公式同人誌『DEMONBANE FANZIN Vol.1 UNOFFICIAL CHRONICLE DEMONBANE CAUSAL SEQUENCE』に収録されている)で「より大きな戦いが始まる」ことが予告され、その「より大きな戦い」について掘り下げるのが最新企画の『斬魔大戰デモンベイン』です。

 2022年に公式書籍として『斬魔大戰デモンベイン』が刊行。『斬魔大聖デモンベイン』におけるifルートの一つ、「大十字九郎がヒロイン(アル・アジフ)を喪い、狂乱状態に陥ってデモンベインと合一、邪神のみならず全ての並行宇宙さえも滅ぼす大災厄『渦動破壊神』に成り果ててしまう」という最悪の結末から始まる。開幕時点で並行宇宙はたった一つを除いて全部滅び去っており、残されたラストワンも「昇滅」を目前に控えている。三千大千世界が塵芥と化す一瞬手前の猶予に時空介入し、「デッドエンド」を食い止めることが物語の目標となります。主人公の「ボク」はRPGやソシャゲを意識してあまり細かく設定が作り込まれておらず、「無知な存在」=「プレーヤー/読み手の分身」といった性格が強い。名前や性別も可変。解説でも「いつの間にか性別が変わる」とされている。そんなことある!? と叫びそうになるが、「ボク」の正体、どうも渦動破壊神に殺されたアザトースの残りカスっぽいので……この本の在庫はまだ公式通販にありますが、電子書籍版も売っているから「サイズの大きい本は置き場に困る」という方はそっちで読むのも手です。

 諸事情からデモンベインを商業作品として展開することは難しいみたいで、今後は支援サイトで散発的に小説を発表する形式になるとのこと。どっかのPANTHEONみたいな話ですね。本編を読むのには支援が必要らしいが、本編前の番外編に関しては無料とのことで、「昔デモベにハマってたな〜、懐かしい〜」という方や「デモベ? よくわかんないけど巨大ロボは好き」という方は気軽に読んでみてはいかがだろう。ちなみにデモベは外伝作品もいくつかあります。絶対に押さえておきたいのは『機神胎動』から始まる「古橋秀之」版のデモベ、いわゆる「古橋デモベ三部作」ですね。デモベのライターである鋼屋ジンは古橋秀之の大ファンで、その作風に関してはかなり古橋の影響を受けている(ついでに書くと「秋山瑞人」の影響も受けており、デモベ本編にも『猫の地球儀』ネタが混ざっています)。20年くらい前の本だからさすがに新品はもう売ってないだろうが、現在電子版は全巻Kindle Unlimited対象だから読み放題、今ちょうど年末年始のセール中で1冊100円ちょっとの投げ売り状態ゆえまとめてポチってもさして懐は痛みません。

 それと、タイトルにデモンベインとは入っていないが鋼屋ジン原作の『ダイン・フリークス』(全3巻)も関連作品で、確か「渦動破壊神」の名前が出たのもコレが初だったはず。「D2」では存在が仄めかされるだけで名前とかは明かされていなかった。私はやってないから知らないが、ニトロプラスの格ゲー『ニトロプラス ブラスターズ』に『ダイン・フリークス』のヒロイン?である「寄車むげん」が登場し、「D2」から『ダイン・フリークス』に繋がる間のエピソードが語られる模様。寄車むげんの左眼(金瞳)は「ヨグ=ソトースの瞳」であり、「因果律を自在に操る」とされているがそれでも渦動破壊神には敵わなかった……流れとしては、『斬魔大聖デモンベイン』のBADエンドの中で渦動破壊神が誕生し、並行世界全てを昇滅させる超特大レムリア・インパクトを発動→完全に昇滅する寸前で「銀の鍵」により残り僅かな時間が無限大に引き延ばされる→寄車むげんがヨグ=ソトースの瞳を駆使し、最後の宇宙(ダイン・フリークスの世界)を捻出→襲来してきた渦動破壊神に寄車むげんが敗北、最後の宇宙さえも昇滅は確定となるが、まだ抗う者たちがいた……という感じです。正統な宇宙はもう総て粉砕されたんだけど、その欠片を寄せ集めることでギリギリ成立している「継接の世界(パッチワークバース)」が『斬魔大戰デモンベイン』の舞台となります。断片化した世界を特異点よろしく巡りながら渦動破壊神に立ち向かっていく、「鋼屋ジンとNiΘだけでFGOみたいなことをやろうとする」かなり無謀でワクワクする企画なのだ。

 さあ、古参も新規もレッツ・デモベ!

「ブチ切れ令嬢は報復を誓いました。」TVアニメ化、ティザーPV公開 大西沙織が主人公役(コミックナタリー)

 えっ、アレ、アニメ化すんの!? ビックリした……調べてみると今年の8月、最新刊(7巻)が出た時に「アニメ化企画進行中」の告知があったみたいですね。ぶっちゃけ5巻あたりであまり話が進まなくなってダレてしまい、「もうちょっと話にケリがついてからまとめて読もう」とチェックを疎かにしてしまった。一応好きなシリーズなのにアニメ化の情報をキャッチするまで4ヶ月も遅れるとは。

 『ブチ切れ令嬢は報復を誓いました。』はなろう連載作品で、2022年から書籍化を開始しています。3年かけて7巻まで出てるから、だいたい年2冊くらいのペース。簡単に言うと「バカ王太子の婚約者だった公爵令嬢が『他に好きな娘ができた』という理由で婚約破棄され、国や実家からの救済も見込めず『この国、もうアカンわ』と見限って隣国に逃亡、舐め腐った真似をしやがった祖国へ報復の鉄槌を下すべく動き出す」異世界ファンタジーです。少し前までアニメやっていた『最後にひとつだけお願いしてもよろしいでしょうか』をもう少し陰湿にした感じの話ですね。

 1巻がKindle Unlimitedの対象だったから読んでみたんですよ。表紙も明るいし、言うてそれほど苛烈な報復ではなくバカ王太子が「ギャフン!」と言う程度のコメディっぽい調子だろう、と。予想を裏切る結構ガチな報復っぷりで少しヒきました。報復対象はカス揃いですが、巻き添えで無辜の人々も被害に遭ってるし。それに対しバカ王太子どもがもっと非道な行為をすることでヘイト管理しようとしており、治安が『北斗の拳』並みになっている箇所もある。ネタバレというほどでもないが、本編の合間合間に「未来の出来事」を綴る断章があり、そこでは主人公の祖国「ハルドリア王国」は既に滅亡している。加えて主人公は歴史上の偉人として各地に名を残しているらしい。つまり、「報復は完遂された」ことを先に明示したうえで「この国が滅亡するまでの過程をお楽しみください」っていうノリで進むストーリーなんです。そのへんちょっと『幼女戦記』っぽいところがある。主人公の復讐にかける熱意はガチで、孔濤羅ばりに慈悲の欠片もなく戮滅していくから『鬼哭街』めいた雰囲気もあります。襲ってきた野盗を嬲った末にブチ殺したりする(片腕斬り飛ばして「お、俺の腕ェェェ!」と狂乱している野盗に「ほら、返すわよ」と投げつけ、受け取ろうと咄嗟に伸ばした残りの腕も切断する――という件は何度読んでもヒく)し、「これ本当にテレビで流せるの?」って心配になったり。明らかに最ひとのスカーレットよりヤバい。

 作中の世界では魔力を物質化させて「神器」と呼ばれる各自固有のアイテムを生み出せる設定(スタンド能力みたいなものと思ってもらって構わない)になっており、主人公の神器は「七つの魔導書」……本来ならそれぞれ一つしか持てない神器を「七つで一つだから」という屁理屈で七種類も使い分けられるブッ壊れチートです。強さ的には「『精霊幻想記』のリオくんよりは控え目かな」というくらい。一度暴れ出すともう手が付けられない。逃げ延びた隣国で商会を起こし、財を貯えながら地位を確立していく、なろう系で言うところの「内政」に相当するパートが長くてちょっとダレがちなのは難点かな。正体不明の女の子を拾って懐かれ、ひっそり母性本能を満たしていく展開も好みが分かれるところかもしれない。最初は順調だった報復のペースもだんだん落ちてくるし……アニメは1期の範囲ならまだ大丈夫だろうが、2期の範囲に差し掛かると盛り上がりに欠けるかもしれません。

 私もなろう版は詳しくチェックしてないのでよくわかりませんが、なろうでの連載は3年前、書籍版の2巻が出たあたりから更新が止まっているみたいです。無事に完結できるのかしら、このシリーズ……あと、アニメ化と言えば『ルリドラゴン』もアニメ化します。しかもスタジオは「京都アニメーション」。京アニがジャンプアニメを作る時代かよ! これはメイドラゴンとのコラボへの期待も高まる。

・藤孝剛志の『即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。〈後始末篇〉』読んだ。

 アニメ化もした「即死チート」の本編完結後ストーリー、いわゆる「後日談」です。本編がキレイに終わっていたこともあり、あまり後日談に興味が湧かず刊行時はスルーしていましたが、少し前にKindle Unlimitedのラインナップに加わっていたので「タダなら読んでみるか」と気軽にダウンロードしてみました。

 ネタバレになるけど、もったいぶってもしょうがないので書きますと、本編14巻(完結巻)で主人公「高遠夜霧」たち一行は異世界を支配する神の如き存在「大賢者」を斃し、大賢者によって神の座を逐われた旧き神がその権能を取り戻したことで元の世界に送り返され、無事ハッピーエンドを迎えました。帰還してすぐに話が終わってしまうこともあり、「あれから彼らはどう過ごしているのか?」って気になっていた読者向けに差し出されたのがこの「後始末篇」というわけです。一部のキャラ……いや、ハッキリ書いた方がいいか。「花川大門」(アニメしか観てない人には「モブ顔のデブ」と言った方がわかりやすいかもしれない)はチート能力で無双したいからと異世界に残る決断をしており、後日談ながら「現代日本のエピソード」と「異世界のエピソード」が混ぜこぜになっています。このオフビートぶりが「即死チート」の魅力とも言えますが、少々取り留めのない印象があることも確かです。

 構成としては雑多なエピソードを寄せ集めた「ACT1」、神のような存在が別の神のような存在に向けて高遠夜霧に関する忠告を行う「ACT2」、そしてアニメの宣伝パート(刊行時はちょうどアニメの6話あたりが放送されるタイミングだった)の3部に分かれていますが、正直「ACT1とACT2に分ける意味あったか?」と首を傾げる内容。本編の形式に合わせたかったのかもしれないが、ホント形式だけ合わせてるムード。各エピソードを短く紹介して感想を述べていきます。

 「初めての異世界」 … 花川が異世界に初めて召喚されたときのエピソード。つまりこれに関しては後日談(アフターストーリー)じゃなくて前日譚(プリクエル)です。アニメで観た人も記憶が薄れているかもしれないので念のため解説していきますが、花川とか一部のクラスメイトは修学旅行のバスが異世界に飛ばされるよりも前に一度異世界へ召喚されたことがある、という設定になっています。そこで魔王(やその背後にいる裏ボス)を倒したら用済みとばかりに現代日本へ送り返されたわけですが、「誰が魔王や裏ボスを倒したのか」という点も掘り下げている。これ単独で読むと意味が良くわからず困惑しますが、「軌刃」とか後のエピソードと繋がってくるのでモヤモヤを抱えたまま読み進めてください。ぶっちゃけ、これだけ読むとそんなに面白くはない……いつもの藤孝剛志のノリだな、とは感じますが。

 「獣人」 … ここからが後日談のスタート。異世界から帰還した面々は数ヶ月後、心の整理を付けるためにとカラオケ店でパーティを開くことになったが、参加者はまばらで盛り上がらない。異世界に召喚される前から「獣人」という特殊な出自を持つ「鳳春人」は、獣人たちを統べる宗家が壊滅状態に陥っていると聞かされて……という感じで夜霧くんは登場せず、春人が主人公みたいなエピソードになっています。獣人たちの本拠地は「黒神島」という孤島で、『姉ちゃんは中二病3 夏合宿で人類滅亡!?』の舞台にもなっている。つまりこのエピソード、『姉ちゃんは中二病』というやや半端なところで打ち切られたシリーズともリンクしているのだ。でも読んだの10年以上前だから、あんまり覚えてなかったです。作者もあとがきで「島に上陸して遺跡を調査して……という話のつもりだったのですが『姉ちゃんは中二病』を読み返すと島が沈んでいました。何余計なことしてんだよと、過去の私に文句を言いたくなりました」と書いているぐらいだし、まぁ覚えていなくても平気な内容です。『姉ちゃんは中二病』は全巻Kindle Unlimited入りしてるので気になる人は先に読んでおくのも一興。ここから春人が獣人界のトップに成り上がっていくストーリーも書けなくはないのだろうが、あまり作者に「書きたい」という熱意がなさそうである。

 「名前」 … ヒロイン「壇ノ浦知千佳」が使う古武術「壇ノ浦流弓術」に関するエピソード。書籍化していないが、同じ作者がなろうで連載している「壇ノ浦流弓術でどうにかなりますか? 〜即死チート外伝〜」(カクヨムだと「無理ゲーみたいな異世界ですけど、壇ノ浦流弓術でどうにかなりますか? 〜即死チート外伝〜」と微妙にタイトルが違う)の主人公「極楽天wヌ」もチョイ役で登場する。壇ノ浦流弓術はもともと『姉ちゃんは中二病』に出てきた「壇ノ浦千春」(知千佳の姉)が使っていた古武術で、この「名前」にも千春が登場するから「『姉ちゃんは中二病』のスピンオフ」という側面も有している。こう書くと「よほどの藤孝ファンしか楽しめない話」のような気がしてくるが、内容は「wヌちゃんに壇ノ浦流弓術の技を教える際、なんかカッコいい技名を付けといた方がいいんじゃないか?」という至ってしょうもない代物なんで予備知識とかは不要です。作家が必殺技のネーミングをこねくり回している舞台裏を覗き見る感じで楽しかった。

 「異能」 … 「イヅナ」という危険な異能力者が「機関」の収容施設から脱走した。彼は脱走する際、収容されていた他の異能力者たちも逃がしており、「機関」は大混乱に陥っている。「機関」所属のエージェント「キャロル・S・レーン」は異世界でコンビを組んだ誼だからと、「二宮諒子」にイヅナたち脱走者を捕縛する任務の手伝いを頼み込むが……雑多なエピソードの寄せ集めである本書だが、一応この逃亡者たちがストーリーの軸になっています。このへんから短編集っぽさが薄れてちょっと長編っぽいノリになる。前フリみたいなエピソードだからキャロルたちがイヅナ一派を捕縛するために動き出すのは次以降です。

 「ロボ」 … 日本の裏社会を牛耳る、獣人たちの支配者「皇家」。当主である「皇楸」が急死したことで後継者争いが勃発し、孫娘の「皇槐」はあれよあれよという間に没落していった。今は安アパートの一室で両親と倹しい三人暮らしを送る日々。「このままだと将来的にヤバいのでは……せめて高校くらいには通った方がいいんじゃないか?」と不安がる槐を、昔馴染みの高遠夜霧が訪ねてくる……と、ここでようやく本編主人公の夜霧が登場。「獣人」とも繋がる話になります。私はアニメ途中で観るのやめたからよく知らないが、槐ちゃんの出番はたぶんカットされただろうし、アニメ勢からすると「誰?」と戸惑うでしょうね。「即死チート」の小説版は書籍限定の書き下ろしとして夜霧が日本で過ごしていた頃の前日譚を収録(プレオーフェンみたいなノリ、と書けば古いラノベ読みには伝わるか?)しており、そこに登場するキャラが槐ちゃんです。夜霧にとって貴重な「殺したくない相手」であり、それを利用すべく「見た目が槐にそっくりなアンドロイド」が刺客として制作された――という経緯がある。暗殺計画自体は阻止したが、外見が槐に酷似しているロボを処分するのは忍びない……ということでロボの処遇をモデルになった皇槐本人に委ねる、といったエピソード。ワケが分からないでしょう? でも「即死チート」全巻読んだ人にとっては「これこれ、このワケ分かんなさが藤孝イズムなんだ!」って嬉々としてしまう。「異能」の続きに当たるエピソードですから「異能」を飛ばすと更にワケが分からなくなりますゆえ注意。

 「悪霊」 … イヅナが逃した異能力者の中には「悪霊」としか呼びようがない、不可視で名前もない奴がいた。そいつは解放後もこれといった目的を持たず本能のまま貪る暮らしを送ろうとしていたが、たまたま「壇ノ浦もこもこ」のテリトリーに入ってしまい……という、もこもこさんメインのエピソード。知千佳の守護霊としてアニメ勢にもインパクトを残したと思われるもこもこさんだが、悪霊を暴力でボコボコにする様子は端的にただ「つよい」と述べるしかない。彼女の本領発揮であり、遂に壇ノ浦流弓術が「弓術」である所以が明かされる。こんなエピソードで明かしちゃうの!? もこもこさんファン必見の一編だ。

 「軌刃」 … 逃亡異能者グループの首魁「イヅナ」がメインのエピソード。彼はもともと「対象を切断する」異能を所持しており、異世界に召喚された際もそのチカラを使って好き勝手に振る舞っていた。日本に帰還後、異世界で強化したチカラによって「機関」から脱走した彼は、暇潰しに壇ノ浦流弓術の道場に赴いて「道場破り」をしようと試みるが……書かなくてもわかると思いますが、出迎えた知千佳がアッサリ一蹴して終わりです。異世界だと戦力がインフレしていてあまり目立たなかった知千佳だけど、やっぱり常人離れした強さだな、と再確認しました。

 「異世界ハーレム計画」 … 花川の後日談。異世界でチート無双できるほど高レベルの勇者になっていた花川だったが、「ここで調子に乗るとまた痛い目に遭う、あくまで慎重に、慎重に……」と欲望を隠しながらもハーレム建立を夢見ていたが……詳しいオチについては触れないでおくが、誰が読んでも「うまく行かないんだろうな」と察してしまうハーレム計画に涙。これがノクターンなら花川のアッチも大活躍できていただろうに。ちなみにノクターン系のコミカライズで最近オススメなのは『異世界ラクラク無人島ライフ』、程好いエロさでワクワクします。

 「氏族」 … 「獣人」関連のエピソード。熾烈を極める皇家なき世の後釜争い、遂に鳳春人のところにも刺客が送り込まれてきて……という具合の話なんだが、修羅場を潜ってきた春人が容易く撃退することはわかりきっているので特にコメントすることがない。さすがに獣人云々で引っ張るのも限界でダレてきた印象が漂う。

 「ベータテスト」 … 霊体だけど電子機器を駆使することで資金を得ているもこもこさん、今度は新たなソシャゲをリリースすることで稼ごうと目論むが……といった感じで異世界での経験をベースにFG〇とかプ〇コネみたいなガチャ搾取ゲームを制作しようとする、本書の中でもっともしょうもないエピソード。一応本編にも「詫び石でガチャを回す」スキルのキャラが出てきたからその繋がり、と言えなくもない。ちなみにガチャで使う石の名前は「星結晶」、3個で1回引けて、30個で10連が回せる。うん、昔のFG〇だな(FG〇は4個で1回、40個で10連の状態からスタートし、やがて3個1回・30個10連にディスカウント、更にそこから30個で11連に改修……という歴史を辿っている)。

 「蛇足」 … 「全知」の存在である「僕」が新たに神格を獲得した「君」に向けて高遠夜霧の危険性をレクチャーする、という二人称小説。ノリとしては『エースコンバットZERO』の「あいつのことか ああ 知っている 話せば長い そう 古い話だ」に近い。いくら宇宙を破壊することができる力を得ても夜霧(アレ)には手を出すな、と親切心から忠告する「僕」に対し「君」はまったく聞き入れる気配がなく、「最強」を目指して鼻息荒く高遠夜霧に喧嘩を吹っ掛ける。結果は記すまでもない。

 「TVアニメ放送中!」 … 宣伝として書かれた文章、恐らく紙書籍版では折り込みチラシのように挟まれていたモノだろう。とっくに放送が終わって2期の兆しもない今、特に語ることもない。強いて言えば、「あまりにも次々といろんなキャラが死んでいくため声優の兼ね役が多く、ある声優は『死ぬ相手』と『そいつを死なせる相手』を交互に演じるハメになった」というこぼれ話が面白かった。

 読切エピソードばかりでは間が保たないからか「イヅナ」というキャラを軸に連作長編としても読めるような構成になっていますが、本編主人公である夜霧の出番が少なく、ほとんど他のキャラの視点で夜霧と関係ないエピソードが紡がれているせいもあって「即死チート」の後日談として読むと、なんというか大人しい……あまりイカレっぷりを感じない内容で正直微妙でした。イヅナ自体にあまり魅力を感じないし、夜霧くんも現代日本で大虐殺はマズいからと異世界ほど大暴れはしません。本編みたいなムチャクチャっぷりを楽しみたい人にとっては「コレジャナイ」な一冊でしょう。続けようと思えば続けられる雰囲気で終わっていますけど、あと少しで刊行から2年経つのに全然音沙汰がないところからしてたぶんコレで完結か。個人的には「どうしても続きが読みたい」というほどではない。もし〈後始末篇2〉みたいなのが出て、Kindle Unlimitedの対象になったら読むかもな、というテンション。

 〈後始末篇〉と言いつつあんまり後始末が出来ているようには感じられない、そんな本です。つまらなくはない、どちらかと言えば「面白い」寄りだけど、「読み返すことないだろうし、Kindle Unlimitedに入るまで待ってて良かった」というのが本音です。今は全巻がアンリミ対象なので、「アニメは観てた」という人もこの機会に原作を読んでみてはいかがだろう。えーと、アニメは篠崎がドラゴンになるあたりで終わっているのか。原作で言うと4巻あたりなので、5巻以降を読めばOK……のはず。


2025-12-22.

『ナイツ&マジック』4年ぶりの新刊が出ると聞いて昂っている焼津です、こんばんは。

 うおおおお! 4年も間が空いたから正直11巻の内容あまり覚えてないけど楽しみだぜ! 確か空島みたいなところに行って現地の戦いに巻き込まれる話だったっけ? 戦いが一段落して次の展開が始まるとか、そんなんだったような……我ながら記憶があやふや過ぎる。たぶん新章だと思うからあんまり覚えてなくても楽しめる、はず。巨大ロボ好きの主人公が異世界の美少年に転生し、エンジニア魂を炸裂させて当地の常識を覆す新機体を次々と生み出すロマン重視のロボアクション・ライトノベルです。アニメ化から8年以上経ったけど、さすがにもう2期目は望み薄かなぁ。コミカライズも終わっちゃったし。ヒーロー文庫の本はちょいちょいアンリミに来るんで、読んだことなくて興味のある人はKindle Unlimited対象になったら既刊をまとめて読んでみてもいいんじゃないかと思います。

TVアニメ『わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?)』(略称:わたなれ)の続編(第13〜17話)、放送・配信日が決定!新年早々、全5話を一挙公開!

 時期的に捻じ込めそうなのが年末年始のあたりしかないんで大晦日か正月の二択だろうな、と思っていました。正月早々にネクストシャインとは幸先がいい。初日の出と掛けることもできますからね。午前1時放送ということは、大晦日恒例のFate特番を視聴する習慣のあるオタクはほぼそのままの流れで雪崩れ込む感じになるかな?

 なお、SNSとかでは勘違いしておられる方々が散見されましたけど、わたなれの第13〜17話は「2期の前半」ではなく「1期の終盤」です。もともとわたなれのアニメは「全17話」として企画されており、恐らく「5話分の放送枠がないから少し間が空くけど年末年始のあたりに一挙放送しよう、その間何もないと視聴者の熱が冷めてしまいかねないし、イベント的に先行上映して話題作りしよう」程度のノリで公開されたと思われるのがネクストシャイン、ってわけです。観に来るのが一部のファンだけだとしても、そのファンたちが「スゴかった! 期待していいよ!」と熱を込めて周りに伝えてくれれば劇場まで足を運ばなかった人々もテレビ放送を心待ちにしてくれるだろう……ぐらいの狙いで上映したら満席続出になって関係者も相当ビックリしたという。

 観に行きたかったけど遠すぎてムリだった方、行動範囲内だったけど都合が合わなくて鑑賞できなかった方も是非この放送を観ていただいて「これを……映画館で流したのか……!?」と戦慄してほしい。放送終了後に「TVアニメ2期決定!」のニュースが報じられることを信じて私もワクワクしながら待機するとします。

岩代俊明「PSYREN -サイレン-」TVアニメ化!ジャンプでの連載終了から約15年を経て(コミックナタリー)

 ティザーサイトの時点でURLが「https://psyren-anime.com/」、カウントダウンとともに表示される「ベルが鳴り続ける公衆電話」……「誰がどう見たって『PSYREN -サイレン-』じゃねぇか!」とジャンプ好き界隈が沸きました。名作であることに間違いはないけど、連載終了から15年も経っているし、今更望み薄かな……と諦めかけていた頃に「TVアニメ化決定!」の報が舞い込んだんだからテンション上がるのもむべなるかな、です。Animejapanの「アニメ化してほしいマンガランキング」に3度ノミネートし、うち2回が10位以内にランクインした作品なんですが、正直あのランキングってそこまで効果があるとは思ってなかったんでPVの中に「3度ノミネート」と出てくるのはビックリした。

 もう少し細かく解説しよう。『PSYREN -サイレン-』(正確にはRが左右反転した鏡文字になっている)は“週刊少年ジャンプ”誌上において2007年から2010年にかけ約3年間連載されたマンガです。単行本は全16巻。ベルが鳴っている公衆電話の受話器を取るところから物語が転がり出すため、ティザーサイトの「鳴り続ける公衆電話」を目にした瞬間ピンと来たファンも多かった。個人的には『フォーン・ブース』という映画の方を先に連想しちゃうけど。出だしはサスペンスっぽい雰囲気ですが、ゴリゴリの異能バトルコミックです。作者の「岩代俊明」は『みえるひと』という作品でデビューし、『PSYREN -サイレン-』完結後は『カガミガミ』という新連載をスタートさせるも、全5巻という短さでひっそりと終わってそのまま“週刊少年ジャンプ”誌上から姿を消してしまった。「いまひとつ華はないけどマンガが上手い」と評価する人も多く、その作風を引き継いだ元アシスタントたちが『ブラッククローバー』『怪獣8号』をヒットさせています。

 私はリアルタイムでずっと連載を追っていたわけではなく、「そろそろ大詰めっぽい」という噂を聞いて単行本まとめ買いしたんですよね。確か13巻が出たあたりだったかな? 面白いんだけど、未読の人に「どこが面白いのか」を伝えるのが難しい内容で、そのせいもあっていまいちブレイクし切らなかった印象がある。眼鏡っ子の割に性格が大人しくないヒロインが魅力的で、読んだ人は「じゃ ここにいなよ… えいえんに…」とか「腕一本もーらった」とかインパクトのあるセリフを口にする雨宮さんに夢中になること請け合いなんですが……読んでない人にはそのへんのニュアンスが伝わりづらい。ストーリーが本格的に盛り上がってくるのが4、5巻あたり、そこまで読めばもう後は一直線ながら、御新規さんをそこまで引っ張り込むのが非常に難しかった。アニメ化のおかげで「引きずり込みやすくなったぞ!」と満悦することしきりです。主人公が弱い状態から徐々にパワーアップしていってインフレ化していくのではなく、むしろ「強すぎて危険な力を制御し、性能を落としながら使い勝手を良くしていく」という「デチューン」に重きを置いたあたりが新鮮で面白かった。ちなみに私の好きなキャラは「天樹院マリー」です。

 アニメ化まで漕ぎつけられなかったこともあって壮大なストーリーの割に全16巻というやや微妙な巻数で終わってしまったが、これでも当時は「よくここまで頑張った」「正直数巻で打ち切りになるかと思った」って声が相次いだんですよ。ライトノベルで言うと『Dクラッカーズ』みたいなポジションの作品。丁寧にやれば3クールぐらいで収まりそうだが、まぁ良くて分割2クールとかでしょうね。主人公「夜科アゲハ」役の声優は「安田陸矢」、まだ20代の若手であまり目立つ出演作はないかな……『さわらないで小手指くん』の小手指くんとかやっていますが。ヒロイン「雨宮桜子」役は「風間万裕子」、『魔法少女にあこがれて』の「アズールはもう駄目だ」でお馴染み「マジアアズール(水神小夜)」が有名か。監督は「小野勝巳」、シンフォギアのG以降とかヒプノシスマイクのTVシリーズ(劇場版は別の人が監督)などを手掛けている。シリーズ構成は「吉田伸」で、『遊☆戯☆王』関係の仕事を数多くやっている模様、そのとき小野監督とも一緒に仕事したことがあるみたい。制作スタジオは「サテライト」、結構古くからあるところで『創聖のアクエリオン』や『マクロスF』、シンフォギアシリーズなどが代表作です。ただ、『マクロスF』のメインスタッフは「エイトビット」、シンフォギアシリーズのメインスタッフは「スタジオKAI」と、それぞれ別のスタジオに移っているため、面子はだいぶ入れ替わっているんですよね。割と最近のところでは『Helck』や『ユーベルブラット』、『戦隊レッド 異世界で冒険者になる』などを制作しています。全体的に「期待できるけど不安もある陣容」かな。

 集英社も「アニメにしっかりと力を入れれば世界的なヒットが見込める時代になった」ことは認識しているハズなので、今回もそれなりの資金とマンパワーを投じてくれるだろうが……とにかく今のアニメ界は人手不足で、「金があってもなかなか巧い人が集まらない(ほとんどが別の現場で拘束されている)」という苦境に陥っています。出来がどうなるかは結局蓋を開けてみないとわからない。ドキドキしながら放送の日を待つとしよう。

“最凶”中華料理マンガ「鉄鍋のジャン!」TVアニメ化、あおきえい×TROYCAで2026年に(コミックナタリー)

 『PSYREN』もビックリだけど、こっちもこっちでまさか過ぎる! 90年代の“週刊少年チャンピオン”に連載されて一世を風靡した外道料理マンガです。「主人公が悪役」「ダークヒーローを超えてもはやヴィラン」と形容されるぐらい凶悪な顔立ちで、言動もかなりヒドい。コンプラ重視の方針なら絶対にアニメ化できない作品。審査員のペットを勝手に調理して提供したり毒ガスを散布して物理的に料理対決を妨害しようとするようなキャラまで出てくるというムチャクチャぶり。対戦相手がガスマスクしてる料理マンガなんて初めて読んだな……。

 監督は「あおきえい」、『喰霊-零-』や『放浪息子』、『Fate/Zero』などを手掛けた人です。この人はもともと熱心な『鉄鍋のジャン』ファンで、何年も前からアニメ化を熱望していました。制作は「TROYCA」、あおきえいが取締役をやっているスタジオ。『アルドノア・ゼロ』とか『やがて君になる』とか、最近だと『ATRI -My Dear Moments-』を作っている。クオリティもさることながら、「本当に原作通りの内容をやるつもりなのか?」という点が大いに気になりますね。PVでは予防線張りまくって「原作発表当時の世相・表現を尊重し過激な表現が含まれる場合があります」と江戸川乱歩の復刊作品みたいな注意書きしてることに笑ってしまう。発表当時でも充分異端だったよ! だから今までアニメ化されなかったんじゃないか!

 どうしてもアレな部分ばっかり目立ってしまうが、「鮫肉を調理せよ」みたいなミッションが興味深くて普通に料理マンガとして読んでも面白い部分はあります。今では当たり前になっている「XO醤」や「刀削麺」なども当時としては新しく、物珍しかった。後半はかなりゲテモノ路線に突入していくからなかなかキツいんだけど、さすがにそこまではアニメ化しないかな? あとキャストはまだ発表されてないが、PVの声を聞いた感じだと主人公「秋山醤」役は「戸谷菊之介」かしら。『チェンソーマン』の「デンジ」を演ってる声優さん。しかし、ジャンのアニメ化が成功したら往年のチャンピオン連載作品アニメ化ラッシュとか来ちゃうのかな……『ウダウダやってるヒマはねェ!』と『覚悟のススメ』は一応OVAがあるけど尺が短いし、フルリメイクの可能性はゼロじゃない。あとは『フルアヘッド!ココ』とか、『アクメツ』とか、マンガ版『スクライド』とか、『ギャンブルフィッシュ』とか。個人的には『刀真』という単行本すら出なかった打ち切り作品が好きなんで、単行本化&劇場アニメ化のコンボをキメてくれたら最高だなって。

・金子玲介の『死んだ石井の大群』読んだ。

 メフィスト賞作家「金子玲介」の受賞後第一作。平たく書けば「2冊目の本」です。金子玲介は2024年5月に『死んだ山田と教室』でデビューし、8月に本書を、11月に『死んだ木村を上演』を刊行した。3ヶ月に1冊という新人としては驚異的なペースである。すべてタイトルに「死んだ」の三文字が入っていることから「死んだ三部作」と見る向きもあるが、キャラとかストーリーの繋がりはなく、それぞれ独立した長編小説になっています。なので気になった本から読み出せばいいし、食指が動かないのであれば無理に読む必要もありません。

 突然、真っ白な部屋の中で目覚めた「石井唯」。彼女の周りにいた人々は何か黒い首輪のような物を嵌めていた。角度的に見えないが、恐らく自分も嵌められているのだろう。ワケもわからず戸惑う人々に、どこからともなくアナウンスの声が響く。<大変お待たせしました><これより、第一ゲームのルールを説明いたします> まるで絵に描いたようなデスゲームの開幕。しかも、隣にいた女の子の名前は「石井灯莉」――自分と同じ「石井」姓。会場の壁面に投影されたリストには、唯含めて333人もの「石井」の名が連ねられていた。まさか、全国から石井姓の人間だけ攫ってきてデスゲームを開催するというのか? いったい何のために? 困惑しながらも、次々と首輪が爆発して生首が飛んでいく現実を前に、夢現の心地で流されていく唯だったが……。

 強制的にデスゲームに参加させられた「石井唯」視点から始まり、何の前触れもなく失踪した石井姓の人間を捜索する私立探偵「伏見と蜂須賀」、言わば「内部と外部」の視点を交互に切り替えながら進行していく一風変わったデスゲーム小説です。探偵の捜索パートは結構退屈で、デスゲーム部分を目当てに読み出した人はここでテンションが落ちてしまうかもしれません。極端なアドバイスになりますが、「探偵パートがあまりにもつまらない」と感じた場合はいっそ飛ばして唯視点の章だけ読み進めてもOKです。一応、デスゲームの結果が出るあたりで物語にも決着が付く仕様になっていますから、探偵パートは読まなくてもオチを理解することは可能になっている。どうしても細部が気になる、という場合のみ遡って探偵パートを読めばいい。

 全1冊、250ページ弱で終わるように構成されているためデスゲームの数もそんなに多くなく、探偵パートを飛ばすと1、2時間程度で読み通せます。開催されるゲームは3つ、「デッド・ドッジ・ボール」と「禁字しりとり」と「最初からグー、永遠にグー」。デッド・ドッジ・ボールは壁から射出されるボールに当たってキャッチし損ねたり、ラインの外側に出ると即死亡。当たった人以外がバウンド前にボールを拾った場合はセーフです。あと顔面セーフで、後頭部に当たった場合もセーフ。非常にシンプルなゲームで、映像化したらここのシーンが予告編とかで使用されまくりそう。というかコミカライズもあるんですよ、この作品。そもそも『死んだ石井の大群』のマンガ版を1話だけ読んで金子玲介に興味を持ち、『死んだ山田と教室』から読み出した……という流れだったりする。ついでに書くと『死んだ木村を上演』のコミカライズもあります『死んだ山田と教室』もちょっと前にマンガ版が始まったらしいが、そっちはまだ読んでいません。舞台化もしているからそのうちドラマ版とか映画版も来そうだな。

 「禁字しりとり」は通常のしりとりに「使ってはいけない字」を混ぜた特殊ルールで、たとえば「ご」が禁字だった場合は「しりとりの『り』からです」と言われて「り、りんご!」と答えた途端に爆死します。禁字を含んだ返答はすべて無効と見做され、この場合次の人はまた「り」で始まる「禁字を含まない答え」を考えないといけない。アウトが出ることで禁字の特定が進み、セーフと判定されることで安全な字もわかってくる。「禁字かどうかわからない字を極力使わず、安全とわかっている字だけで返答する」のがセオリーになり、ちょっとだけ頭脳戦要素が出てきます。「り」と「ん」が安全と判明したから「倫理」と答えてアウトを避けつつ「り」攻めする……みたいな感じ。デスゲーム物が好きな人はこの章が一番興奮するんじゃないでしょうか。しりとりだけじゃなくて「じゃんけんグリコ」の要素も入っていて、「答えた字数の分だけ階段を上がってゴールを目指す」ルールになっていますから「安全を取りつつなるべく長い言葉を答える」ことで勝利に近づく。たぶん福本伸行がこのネタでマンガ描いたら最低3年は引っ張るんじゃないか、と思うぐらいの面白さなんだけど、金子玲介は若い(1993年生まれ、まだ32歳だ)から60ページ弱でこの章を終わらせています。制限時間の短いゲームだしちょうどいいスピード感なんですが、正直勿体ないとも思いましたね。必要最小限の描写しかしていないので、「こいつ……『り』攻めしやがった!」みたいな心理描写もほとんど省かれている。私個人はもうちょっと引き伸ばしていいと感じましたが、このへんはデスゲーム好きでも意見の分かれるところかもしれない。

 最後のゲームは説明が難しいし、ネタバレになりかねないので説明は省略します。恐らく読んでいる人のほとんどは途中で「仕掛け」に気付くと思います。だって333人も「石井」を集めてデスゲーム開催するなんて、あまりにも大掛かり過ぎるから「納得のいく設定」を考えたらどうしても候補は絞られてくる。「清涼院流水」とか「西尾維新」だったらこの程度のブッ飛んだ設定は何の衒いもなくかましてくる可能性がありますけど、『死んだ山田と教室』を読んだ感触からすると金子玲介は至って常識人っぽいので……「仕掛け」「オチ」「どんでん返し」みたいな部分に期待する人にはちょっとオススメしにくい。純粋に「軽く読めるデスゲーム物が読みたい」という方には推せます。

 良くも悪くも「納得のいく」デスゲーム小説。デスゲーム物に対して無茶苦茶だったり、理不尽だったりという「不条理要素」を求める人が読むとガッカリするかも。「『蒼穹のファフナー』を無理矢理1冊の小説にしたらこんな感じになるか?」と思った一品でした。新規性は薄いけれど作者の器用さが伝わってくる。決して王道的な作品というわけじゃないが、斬新なモノ、奇抜なモノを受け付けなくなってきた私みたいな人間にはちょうどいい出来栄えです。

・拍手レス。

 往年のラノベ読者なら触れたことはありそうな阿智太郎先生の消息がこんなところでわかるなんて…という記事を見かけたのでシェアを https://dengekionline.com/article/202510/50743 びっくり…

 筆名の「エチタロウ」で噴いた。同人エロゲの制作費がどれくらい掛かったのかとか、赤裸々に書いていてコラムとしても面白いです。シェア感謝。


2025-12-14.

・サボり気味だったFGO、何とかソロモンが加入するところまで進めて第2部終章を迎える準備が整った焼津です、こんばんは。

 クエストクリア条件で加入する初の☆5サーヴァントがまさかコイツになるとは……要求する素材も比較的おとなしめで、割と簡単にスキルマさせられるのがありがたい。サポーター系かと思ったら意外とアタッカー寄りだった。そして、終章に備えて始まった363騎のサーヴァントをピックアップする『サーヴァント全騎ピックアップ召喚』。データ量多すぎてガチャ画面を開くだけで重たくなる。回したいピックアップもないではないが、年始からバレインタインにかけて怒濤の新規ガチャが来そうなので我慢、我慢。今はただ始まりの地、「炎上汚染都市 冬木」で第2部の終わりを見届けることに専念するとします。

ウンベルト・エーコの『薔薇の名前』、【完全版】を12月25日に刊行予定、上下巻で合計6820円(税込)

 海外ミステリの中でも一、二を争う名作でありながらなぜか文庫版が発売されないことでお馴染みの『薔薇の名前』、日本語版の発行から35年の時を経て遂にニューバージョンのお出ましだ。「完全版」とはいうものの、内容的にはそこまで大きく変わらないみたいなので、ファンやマニア以外は旧バージョンで妥協してもOKかと。正直、カバーデザインに関しては旧版の方が格好良いもんな……私も買い直そうかどうか少し迷ったりしたが、旧版はもうだいぶボロっちくなってきたのでこの機会に買い直すことにしました。出版不況のこの御時世、紙の新装版が出るだけでもありがたいと思わなくては。

「コードギアス」最新作「星追いのアスパル」制作決定!「奪還のロゼ」のテレビ放送も(コミックナタリー)

 派生タイトルが多いことで知られるコードギアスにまたしても新たなタイトルが! 『星追いのアスパル』、現時点ではタイトルとスタッフと「完全新作である」ことしかわかっておらず、どんな内容なのかは一切不明。ギアスのスピンオフの中には江戸時代に相当するあたりの年代を描いた『漆黒の蓮夜』みたいな作品もあるので、舞台となる時代がルルーシュとかとは全然違う可能性もあるし、そもそも同一世界なのかどうかすら怪しい。監督は「野村和也」、比較的最近の作品だと『憂国のモリアーティ』をやった監督ですね。シリーズ構成は「野アまど」、ひたすら「変な小説」を釣瓶打ちして定期的にSNSでバズっている『野アまど劇場』でお馴染みの作家です。アニメファンには珍作『正解するカド』や『バビロン』、映画『HELLO WORLD』の人として認識されているかもしれない。アニメの方には関わっていないが『ファンタジスタドール イヴ』という前日譚(プリクエル)も書いている。『ファンタジスタドール』は『コードギアス』の監督「谷口悟朗」が関わった作品でもあり、その縁で来たのかな? 変わった作品の多い作家だが、「試しに1冊くらい読んでみてもいい」というのであれば『know』あたりがオススメ。

 『奪還のロゼ』は去年(2024年)に劇場で先行上映された後、Disney+で独占配信されていた作品らしい。なんかタイトルはチラッと見た覚えがあるけど、Disney+に加入してまで観たい気持ちがなく、あまり深く調べていなかった。『復活のルルーシュ』の5年後、ブリタニア人の傭兵兄弟「アッシュ」と「ロゼ」がネオ・ブリタニア帝国に占領された合衆国日本の「ホッカイドウブロック」に潜入し、「皇サクヤ」を救出する作戦に従事する……というようなストーリーを全12話で紡いでいる模様。ヒロインの皇サクヤは「皇神楽耶」の親戚で、CVは「上田麗奈」。本当に仕事が途切れないな、うえしゃま。

『ラブライブ!蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ Bloom Garden Party』、2026年5月8日に全国劇場公開

 “ラブライブ!”プロジェクトの1作でありながらアニメが制作されていなかった「蓮ノ空」、遂に劇場タイトルとして来年に全国公開される運びとなりました。「蓮ノ空って何?」という方向けにまずは軽い解説から。『ラブライブ!』自体は知っていると思うので省略しますが、無印(2013)→サンシャイン(2016)→ニジガク(虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会、2020)→スーパースター(2021)と来て5番目のプロジェクトに当たるのがこの『ラブライブ!蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ』、公式略称「蓮ノ空」です。「Link!Like!LoveLive!」という「現実の時間と連動しているラブライブ!アプリ」を中心に展開しているプロジェクトで、2023年頃からスタートしています。

 物語の舞台は石川県金沢市の山奥に佇む「蓮ノ空女学院」。100年以上の歴史を誇る伝統校で、全寮制。「こんなところで青春を浪費するのはイヤだ!」と脱走を計画した主人公「日野下花帆」がスクールアイドルに出逢って思い直し、スクールアイドルの全国大会である「ラブライブ!」への出場を目指して頑張る、というような話です。「100年以上の歴史を誇る伝統校」なので生徒たちは「1年生」「2年生」「3年生」という区切りとは別に、宝塚みたいな「〇期生」という分類でも呼ばれる。主人公の花帆ちゃんは103期生です。「〇期生が入学した年」を「〇th」としてカテゴライズしているため、物語の開始点は「103th」。花帆ちゃんたちは101期生の先輩が卒業するところを見送って、次章「104th」へ向かう。後輩の104期生を迎え、いろいろと恩のある102期生の卒業を見送り、物語は遂に最新章「105th」へ移行。映画『Bloom Garden Party』はこの「105th」に該当するエピソードなので、蓮ノ空に関する予備知識がまったくない状態で観ると混乱を来す可能性が高いです。観に行くつもりであれば事前に公式が用意しているダイジェスト集に目を通しておくことをオススメします。ダイジェストどころか本編ストーリーもYoutubeで配信されていますから、時間があるのであればそれを全部視聴するのがベストなんですが……累計で3、40時間くらいあるのでよっぽどのガッツがないと厳しい。とはいえ「蓮ノ空に入学するところからの付き合いだった103期生(花帆ちゃんたち)が遂に卒業の時を迎える」「涙ながらに卒業を見送った102期生(先輩たち)がOGとして再登場する」って趣旨の映画なんで、ファンと感動を分かち合いたいのであればやはりある程度の予習が必要かと。蓮ノ空は現実の時間とリンクしているおかげで「作中のキャラクターたちと同じ時間を共有している」ような感覚が味わえるのが醍醐味なんですが、その仕様のせいで後から入ってきた新規層が若干居づらいという「閉じた(コアなファンだけで固まった)コンテンツ」となっている面があります。閉じているからこそ心地良い、という面もあり、単純に良いとも悪いとも言い切れない特徴である。

 脚本を担当するのは「丸戸史明」、数々の名作エロゲを手掛けたシナリオライターであり、『冴えない彼女の育てかた』の原作者でもある。リコリコと同じクール(2022年夏)に放送された『Engage Kiss』のシリーズ構成と脚本も担当している。この人は「ヒロイン同士の掛け合い描写」に定評があり、先述した冴えヒロの原作にも『Girls Side』というシリーズがあるくらいだ。ちなみに、蓮ノ空の原作シナリオを手掛けているライターの一人が「みかみてれん」――アニメが大ヒットしている「わたなれ」こと『わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?)』の原作者で、この劇場版に関しても協力していると明言しています。監督は「黒ア豪」、2021年のアニメ『シキザクラ』を作った人です。制作スタジオも「サブリメイション」で、やっぱり『シキザクラ』を作ったところ。黒アはサブリメイションの取締役だから当然そうなるよね、っていう。サブリメイションの制作したアニメ、『シキザクラ』以外だと『サイダーのように言葉が湧き上がる』くらいか? 面白いかどうか以前に、近場で上映するかどうかを心配しないといけない感じかもしれません。

「令和のダラさん」TVアニメ化!ともつか治臣のオカルトコメディ(コミックナタリー)

 パッと見「画力の凄まじいホラー漫画」、でも実際に読んでみると意外とコメディ寄りの作風、かと思いきや読み進めるうちにガチホラー要素も出てきて……というツイストの利いたコミック『令和のダラさん』が遂にアニメ化とな。やったー!

 「ダラさん」こと「屋跨斑(ヤマタギマダラ)」が嵐の夜に壊れた祠から復活する、という導入そのものはホラーの定番なんですけれども、復活を目撃した肝心の子供たちがダラさんを恐れずなんか懐いてしまったせいでなし崩しにほのぼのした雰囲気になってしまう。読み口としては『江戸前エルフ』に近いモノがあるかな? ダラさんのモデルは言うまでもなく都市伝説の「姦姦蛇螺」、もとはTwitterやニコニコ静画で連載されていた作品であり、プロトタイプ版ではハッキリ「姦姦蛇螺」と名乗っている。商業化に際して「そのままではマズいから……」と変更されました。スマホやタブレットに「カドコミ」というアプリをインストールすれば「初回無料」で読めますので、「気になるけど単行本を購入する踏ん切りがつかない」という方はまずカドコミで読んでみてから判断すれば宜しいかと。個人的にはこの漫画、紙媒体で読んだ方が面白いと思いますけどね。

 監督は「まほあこ」こと『魔法少女にあこがれて』の「鈴木理人」(ちなみにまほあこの監督は二人体制で、もう一人が「大槻敦史」)。アニメーション制作もまほあこの「旭プロダクション」であり、ほぼ「まほあこがヒットしたから制作が決まった」ようなものと思ってもいいんじゃないでしょうか。なんであれ放送が待ち遠しいです。

・金子玲介の『死んだ山田と教室』読んだ。

 第65回メフィスト賞受賞作。えっ、第65回!? 昔は「メフィスト賞を制覇してやる!」と意気込んで受賞作が出る度に買って読んでいましたが、いつしかチェックだけで済ませるようになり、気付けばチェックすらやめて今何回までやってるのかもわからなくなっていました。この作品は2024年発売ですが、刊行されている中では最新の受賞作です。第66回は『女王陛下に捧ぐ、王家の宝の在処』に決定しているが、まだ具体的な刊行予定は立っていません。この機会に振り返ってみたが、私がメフィスト賞を熱心に追っていたのは第31回の『冷たい校舎の時は止まる』までですね。「辻村深月」のデビュー作。この次の受賞者が「真梨幸子」で、受賞作のタイトルが『孤虫症』だったからどうしても食指が動かず、コンプリートを断念してしまった。以降は読んだり読まなかったりで歯抜け状態。メフィスト賞は募集を開始したのが1995年だから、そこを起点にすると今年で30周年。しかし「メフィスト賞」という名称が決まったのは翌年の1996年だから、来年が30周年になります。だいたい年に2作は受賞作を刊行していた計算になるか。一番多い年は1998年で6冊も出ている。当時は私も高校生だったから、お小遣いの工面には苦労しました。

 思い出話はこのへんで切り上げるとして、『死んだ山田と教室』。ハッキリ言って変なタイトルです。「教室」というからには学園モノかな、って程度のことしか伝わらない。帯の推薦文からして感動路線っぽい。実写映画化して、予告編でメロウな主題歌が流れる中、俳優たちがドタバタ騒いだ後に大仰な演技で「山田ァーッ!!」とか絶叫してそう。ぶっちゃけ興味を惹かれるかどうかで言えば、あまり惹かれない一冊である。しかし、受賞者の「金子玲介」は精力的に書きまくっており、デビューから1年半で5冊も著書を出している。いくつかの作品はコミカライズも始まっているし、さすがにちょっと気になってきた。「とりあえずデビュー作から読もうか」と手に取った次第です。

 山田が死んだ。飲酒運転の車に轢かれて、あっさりと。啓栄大学附属穂木高等学校、通称「穂木高」の二年E組に所属し、クラスメートの誰からも慕われる人気者だった山田の急逝で、クラス全体が沈んだ空気になった。気分転換させようと席替えを提案する教師に対し、生徒たちの反応はいまいち薄い。<いや、いくら男子校の席替えだからって盛り下がりすぎだろ> どこからともなく入ったツッコミの言葉、それは紛れもなく死んだはずの山田の声だった。声はスピーカーから響いてきていたが、放送部のイタズラなどではない。どうも山田の魂が教室のスピーカーに乗り移ってしまったらしい。こうして影も形もないのに声だけはある、幽霊なのか何なのかよくわからない存在に成り果てた山田と二Eの面々による奇妙な青春延長戦が始まった……。

 という具合で、分類上は「幽霊譚」。おどろおどろしい雰囲気や湿っぽいムードもそんなにない(皆無というわけでもない)ので、比較的ポップなノリの青春ストーリーに仕上がっている。クラスメートは死んだはずの山田と会話できることに喜び、生前と同様のバカバカしいトークに興じるが、時は流れ進級の日を迎える。これでもう二Eのみんなとはお別れか……山田、このまま成仏してしまうのかな、と思いきや全然そんな素振りではなくて普通に存在し続けています。え? じゃあ山田、このままずっと地縛霊みたいになってしまうの……? と不穏な空気が漂い出してからが本番です。

 「姿がなく、教室でしか会話できない幽霊」という設定が絶妙で唸りました。高校の教室って出入りが激しいから、一旦進級してクラスのメンバーが入れ替わってしまうと「こっそり山田に会いに行く」のが難しくなるんですよ。放課後でも誰か残っていたりするし。かと言って誰も来ないような夜の時間帯は学校に忍び込まないといけないからハードルが高い。人目を盗みながら死んだ山田と言葉を交わす元二E勢だったが、だんだん山田に会いに行くのが面倒臭くなってくる奴も当然出てきます。というか、「生きてる山田は好きだったけど死んで声だけになった山田は不気味」と拒否反応を示す生徒もいる。本来なら悲しみを乗り越えて悼むべき存在が中途半端な形で存続してしまっているせいで、悲しみが宙ぶらりんになっちゃっている。徐々にギスギスしたムードへ変わっていくので、コメディを期待した人にとってはちょっと苦しいかもしれません。かつては人気絶頂だったのにつまらなくなって読者が離れていって、でも打ち切るほど売上が悪いわけじゃなく、連載がダラダラと続いてしまって終わりの見えなくなった漫画を眺めるみたいな、心がキュッとなる話です。

 個人的にも身につまされる小説ですね。誰もいない夜の校舎で寂しさを紛らわせるために延々とラジオパーソナリティの真似事をしている山田とか、アクセス数の減ったサイトで延々と更新し続けている自分の姿を眺めているかのようで……自分自身で読み返す日記みたいなものとして書いているからモチベを保てているだけで、他人の反応に飢えていたらとっくに更新をやめていたと思います。イイ歳して何やってんだ……という感じがしないでもないが、去年はいろいろあってモチベが底を尽きかけて閉鎖宣言した後にモチベが回復し、何事もなかったかのように更新を再開するというクソダサいムーブをかましてしまったし、もはや恥の意識など微塵も残っていない。

 ある意味で『CROSS†CHANNEL』の続きを目の当たりにしているような気分に陥る一作。取り残されて、みんな大人になっていく中で「バカな男子高校生」として振る舞うしかないピーターパンのアイロニーを紡ぎ出している。ハッピーエンドかどうかは受け取り方次第だが、少なくとも「胸糞悪い現実だけ書いて終わり」の小説ではありません。読み終わって、席替えのところを読み返すとしんみりしてしまう。それにしても久保の現況にはビックリした。これ、次回作の布石とかじゃなくマジで単なる一生徒の消息に過ぎないの? ホントに?


2025-12-07.

・ネットに溢れる「スピキ」のミームにだいぶ脳を汚染されてきた焼津です、こんばんは。ぼんやりしていると何処からともなく「チョワヨーチョワヨー」という幻聴が聞こえてくる……!

 該当のミームについて詳しく知りたい人はピクシブ百科事典をお読みください。元ネタは今年日本での配信が始まった韓国産ソシャゲ『トリッカル』のキャラクター「スピッキー」。シスター服のような格好をしていて、「他人になりきる」ことに執着を燃やす幽霊キャラという設定。名前は「スプーキー」のもじりだそうだ。韓国版の声優がなんというか癖になる独特な甲高いボイスをしており、MADが作られまくったんです。その結果、「四つん這いで移動し、ごく少数のセリフしか口にすることができない、スピッキーによく似た謎の生物」として独立していき、鳴き声から「スピキ」と呼ばれるように。可愛いんだけど不憫な境遇がよく似合う。スピッキーは幽霊なんだけど、このスピキに関しては幽霊なのかそうじゃないのかよくわからない。「謎の生物」としか言いようがない。

 とにかく動画サイトに大量のMADを投稿している人がいて、1個見ると2個3個と際限なく見てしまう。そういう点ではなかなか危険なミームだ。もうサジェストされるオススメがスピキに染まりつつある。抜けられるか、この沼から……?

『落下の王国 4Kデジタルリマスター』を観てきました。評判に違わぬスゴい映画だった。観終わった直後よりも反芻が進んだ少し後の方でスゴさが沁み出してくる遅効性の一本。

 インド出身の映画監督「ターセム・シン」が構想から完成まで30年近くの時を費やした映画である。日本では2008年に公開され、翌年DVDとブルーレイも発売されているが、売り切れた後は再販されず配信でもラインナップに上がらなかった。この映画を作るためにターセム・シンは私財を擲った末に破産し、権利関係が複雑になっているんだとか。「たまにBSで放送される程度、地方のレンタル店もどんどん潰れているので、観たくても観るのが難しい」ポジションになっていました。今回の4Kデジタルリマスター版は新規カットも追加されているとのことで、全国の落下erは手ぐすねを引いて公開の時を待っていたらしい。私はアンテナが低いので、この映画に関しては4Kデジタルリマスターの上映を伝えるニュースで初めて知りました。というかターセム・シンの代表作『ザ・セル』も観たことない……馬の輪切りのアレは当時飽きるぐらい予告編見せられたから知っている。『インモータルズ -神々の戦い-』は観たことあります。正直「映像センスはスゴいけど話が面白くない」という感想でした。

 『落下の王国』の舞台はロサンゼルスにある病院。時は1915年、まだ「映画」という概念が世間にそれほど広く普及していなかったものの、映画に関わる仕事をする人間が増え始めていた頃。スタントマンの青年「ロイ」は恋人を同業者(映画俳優)に盗られ、失恋のショックでヤケになり「命綱もなしに鉄橋から飛び降りる」という無謀なスタントに挑み両足を骨折。身動き一つできず、「もう死にたい」と世を儚んでいた。同じ病院に入院している5歳のおしゃまな少女「アレクサンドリア」を手懐けて自殺用のモルヒネを盗って来させようと画策したロイは、彼女が夢中になるような「お伽噺」を即興で語り出す。「これは愛と復讐の叙事詩(エピック)だ」とフカしながら……。

 物語は「現実パート」と「お伽噺パート」に分かれています。お伽噺パートは思いつきでストーリーを転がしているから、ひたすらその場しのぎで支離滅裂な展開が続く。登場人物も病院の職員やロイの関係者など、近くにいる人たちをモデルにしてテキトーに配役しています。悪役の「オウディアス総督」は恋人を寝取った俳優で、当然の如く私怨も混じっている。ロイの話はガバガバで穴だらけだからところどころアレクサンドリアちゃんのツッコミが入りますが、そのたびに「再現映像」めいたお伽噺パートが止まったりやり直しになったりします。真顔でキメポーズ取ってたお伽噺のヒーローたちが「あ、リテイクですね」とばかりに場面を修正する。あのへんのテンポはお笑い芸人のコントみたいで面白かった。アレクサンドリアちゃんの生い立ちがなかなかハードなこともあり、「心の弱いクズ男に利用される純真な幼女の話」として観ると感動が削がれる部分もあるけど、アレクサンドリアちゃん可愛いからどうにか切り抜けられた。子役の女の子が幼いため演技をさせるのではなく「ほぼアドリブで喋らせる」という方針で撮ったらしい。子役の「カティンカ」はロイ役の「リー・ペイス」が本当に歩けないと思い込まされていたと云う。

 「ロイの語り」と「アレクサンドリアの想像」が重なり合ってメタな物語が紡がれていくあたり、往年の名作エロゲ『Forest』を彷彿とさせます。この映画の特徴は何と言っても映像表現の凄まじさ、極力CGを使わず(時代設定と矛盾する電柱や電線だけCGで消した)アナログな手法で「観たことがないような世界」を描き出している。とにかく意味がわからなくても格好良くて見惚れてしまう。いくら「キメポーズ」や「キメシーン」が格好良いからと言ってそればかり繋いでいたら普通はMADにしかならないはずなんですが、この映画は監督の豪腕じみたセンスによって不思議と「映像による物語」が成立している。超絶技巧としか言いようがないのに、やってることは「女の子に指摘されてしれっと話を修正する」しょうもない詐欺師のコントで、このギャップに笑ってしまう。どうしても「お高く止まったアート路線の映画」と偏見を抱かれがちなんですが、あくまでこれ、娯楽要素バリバリのエンタメ映画です。「エンタメ」と「アート」は必ずしも対立しない、否、むしろ高め合えさえするのだと示してくれます。自棄的になっているロイのお伽噺はクライマックスで悲劇に突入し、アレクサンドリアちゃんは泣き出してしまう。「俺の物語(人生)はハッピーエンドじゃないんだよ!」と酒に溺れながら叫ぶロイに向かって「『あなたの』じゃない、『私たちの』物語よ!」と言い返すアレクサンドリアちゃん。「語り手」と「聞き手」の共同作業によって物語が見出されていく、「ボクは君におとぎ話をしてあげよう」なド級のド直球ファンタジーである。

 インタビューによると監督は学生の頃からこの映画の構想があったらしいが、理解して金を出してくれる存在がなかなか現れず、やがてデビュー作の『ザ・セル』が当たったことで懐に余裕のできた監督が自主製作で撮り始めたそうだ。実は最初から4Kで撮っていたが、当時は4K画質で上映できる映画館が限られていたため、日の目を見ていなかったらしい。「カルト映画」みたいな扱いを受けているようだけど、実のところカルト要素はほとんどない。ただ再販や配信がないせいでそういうイメージを持たれただけであって、内容はあくまで愛と救済の英雄譚です。「お伽噺の世界」が過剰なほどカラフルでケレンに満ちているのも「幼児が持つイマジネーションの豊富さ」を表しており、対比するために現実パートの映像を少し色褪せたような風合いにしている。「子供だけが遊びに行ける空想の王国」を再現している映画なので、観る者のノスタルジーを喚起するんですよね。

 予告編で映像美のスゴさはある程度伝わると思いますが、やっぱりデカいストリーンで鑑賞したときの迫力は別格というか完全に別物でした。『劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト』と一緒で、「映画館で観てナンボ」な作品。観に行ける範囲でまだ上映中ならば、足を運ぶことを強くオススメいたします。全国43館という小規模公開ながら、興収はあっという間に1億円を突破。満席続出ということで話題を呼んで上映館も次々と追加になり、まだ上映を開始していない館も含めて全国90館くらい、倍以上のスケールとなっています。

『わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?)ネクストシャイン!』、続映決定!

 2週間で終わる予定が3週間に延びました。最近でもウルズハントの劇場版が期間延長してたし、ジークアクスの先行上映なんて一旦上映が終了した後に再上映までしてるから前例がまったくないわけじゃありませんが……そのへんは「ガンダム」というブランドを背景にしていることを考慮すると、ネームバリューがそこまでない「わたなれ」がしれっと期間延長をキメてるのスゲェな、って。映画館からすれば「集客できる作品なんだからもう少し続けたい」ってことなんでしょうね。2週目は上映回数が増えたり上映シアターが大きくなったりした影響で動員ランキングの1位や2位になる映画館が出てきました。わたなれは上映館が少ないから興収ランキングとかには食い込まないけど、そのぶん1つ1つの映画館に客が集中しやすいんですよ。3週目にはなぜか突然応援上映が生えてきたし、あまりに行き当たりばったりすぎる興行で面白い。このままズルズルと延長に延長を重ねてクリスマスと年末年始も乗り越えてほしいが、さすがに厳しいか。『ズートピア2』(初日4.1億円、土曜までの2日間で10億円突破、アナ雪2すらも上回るペースゆえ興収100億超えはほぼ確実な勢い)という巨象が劇場を席巻している中で1週間サバイブできるだけでも充分破格である。

 僅かながら上映館も追加されて、これで全国34館に。上映館の存在しなかった長野と和歌山に来たおかげで範囲が22都道府県にまで広がりました。一番インパクトがあるのは「立川シネマシティ」の参戦ですね。あそこは音響にこだわりのある映画館として有名で、「香穂ちゃんのASMR」を極上の音質で聴けるとあっては「馳せ参じねば……!」となっているファンも多いだろう。緊急決定につき1週間限定という非常にタイトなスケジュールになっていますが、席の埋まり具合によっては「おかわり」もあるかも。とにかく、私の言いたいことは「うちの地元の映画館でもやってくれ!」ということです。

空前の惨敗 『果てしなきスカーレット』の興行をどこよりも早く総括する(Real Sound映画部)

 わたなれと同日公開された『果てしなきスカーレット』、コケっぷりがスゴいことになってるな……初週3位でしたが、2週目はなんとTOP10圏外。金ローで冒頭7分放送という施策まで打ったのに、地方では既に1日1回、朝早くか夜遅くの辺鄙な時間帯にこじんまりしたシアターでひっそりと上映している状態であり、もうシネコンの中では完全に存在感を失っています。今年は『宝島』も大コケしていた(製作費25億円に対し興収6億円)が、過去の作品で言うと実写版『テラフォーマーズ』(製作費15億円に対し興収8億円)あたりまで遡らないとここまでの大コケはないですね。コケている映画自体はいくらでもありますが、「製作費が10億円を超えているのにその回収すらままならない超大作」というのは数えるほどしかないです。

 そもそも日本の映画で製作費を10億円以上掛ける作品自体が珍しく、更にその中で大コケした映画となるとかなり数が絞られる。ジブリの『かぐや姫の物語』も製作費52億円に対して興収25億円だから大赤字っちゃ大赤字ですが、これは単純に製作費を掛け過ぎただけであって少し事情が異なるかな。ジブリの受けたダメージは大きかったけど、製作費に目を瞑れば動員はそこまで悪くないので、各地の映画館もさして痛手を被ってはいない。知名度があって、且つコケっぷりが凄まじく、映画館も多大な影響を受けた作品は3Dアニメ版『ファイナルファンタジー』ですね。日米合作で制作費150億円、プロモーション費用も含めると200億円近く掛かったのに、日本国内の興収は10億円止まり。全世界でも100億円程度で大赤字になって、スクウェアがエニックスと合併するハメになった伝説の一本です。あれに比べればスカーレットのコケっぷりはまだ可愛い方。まぁ「アレと比べないと可愛く見えない」のは相当深刻だし、当時はフィルムがデジタル化されておらず物理的なフィルムで上映する関係上「一日の上映回数に限界があった」とか「シネコン」という業態がまだ珍しく全国には普及していなかったため「上映できるスクリーン数が少なかった」という別の事情も絡んでくるから話は複雑です。

 FFの頃と異なり今はフィルムがデジタル化しているため、鬼滅やコナンみたいに複数のスクリーンを使って一日に何十回も上映することが可能になっています。この「電車の時刻表」とも形容される過密スケジュールによって「当たればデカいんだけど外れたら劇場にとって大ダメージ」というギャンブルめいたハイリスク・ハイリターンな状況がもたらされる。「鬼滅シフト」や「コナン・シフト」を敷いていたときは期待通りヒットしてくれていたからリスクが顕在化することはなかったものの、先月敷かれた「スカーレット・シフト」が遂に各映画館の興行に大きな穴を穿ってしまった。そういう意味では確かに「空前の惨敗」と言えます。「一回の上映で入った観客が100人」と「十回の上映で観客が計100人」というの、配給側からすれば「数字的には一緒」ですけど映画館にとっては天と地ほどの違いがあります。シアターを稼働させる費用が10倍掛かるわけですし、「他の映画に回していれば……」と後悔するような機会損失も発生している。スカーレット・シフトを組んでいた11月21日〜27日は一日あたりの来場者が急減したわけで、劇場にとっては悪夢を見ている気分だったでしょう。「ガラガラの映画館」で誰よりも蒼褪めるのは制作陣や配給会社の職員ではなく映画館の支配人です。当然、リスクを承知したうえで極端なシフト組んだんだからコケた作品を恨むのは筋違いだが、映画館関係者が今後「細田守監督作品」に対してトラウマのような感情を抱くことは避けられません。『ズートピア2』の公開が始まったことで世間はもうこの件に対する関心を半ば失いつつあるように見えるが、映画関係者は「細田監督クラスでも一歩間違えればこうなってしまうのか……」と心胆寒からしめられたに違いない。「失敗の原因」を分析し、「こういう事態を避けるための対処法」について真剣に議論を交わすはずだ。ケーススタディの材料として長く語り継がれることになるだろう。

 公開から10日間での興収は4.1億円で、最終的な興収は恐らく7、8億円程度に落ち着くと見られる。『サマーウォーズ』のだいたい半分、今年公開された映画だと『ひゃくえむ。』ぐらいのスケールですね。9月19日に全国203館で公開し、初週約1億、1ヶ月かけて5億、2ヶ月かけて7億を突破しました。『果てしなきスカーレット』もロングランできればあるいはもっと上を狙えるのでは……という感じですが、現状だと難しそう。まだ「海外市場での挽回」という線も薄く残っているが、細田作品って海外評価は高いけど興行的にはそんなに……なんですよね。例えば『未来のミライ』はカンヌ国際映画祭の監督週間に選出されてプレミア上映されたり、アカデミー賞、ゴールデングローブ賞、放送映画批評家協会賞などにノミネートされたり、アニー賞やフロリダ映画批評家協会賞を受賞したりでかなり注目を浴びた(このため英語圏では「『サマーウォーズ』の」とか「『竜とそばかすの姫』の」ではなく「『未来のミライ』の細田守監督」と紹介されることが多い)けど、1000館以下の小規模公開だったこともあり興収は81.2万ドル(当時のレートで約9000万円)です。『竜とそばかすの姫』は1300館公開で336万ドル、当時のレートで3.8億円ぐらいと結構稼いでいる。今は円安だし、この10倍あれば何とかなりそう。全米での公開は今月12日からの予定ですが、これは先行上映であり、通常上映は来年2月から始まる段取りとなっている。このぶんだと国内では早期に上映終了して来春あたりアマプラとかネトフリとかサブスクの見放題に来そうかな。「テレビやスマホの小さな画面じゃなく劇場の大スクリーンで鑑賞したい」という方は早めに出かけた方が良さそうです。

川原礫の小説「デモンズ・クレスト」TVアニメ化 堀口悠紀子の描き下ろしイラスト公開(コミックナタリー)

 「デモクレ」アニメ化か……簡単に言うと「現実とゲームが混ざり合った異常な世界で小学生たちがサバイバルを繰り広げる」という、SAOをより殺伐とさせたような内容です。結構バタバタと人が死ぬ。「主人公たちが小学生」という点で倫理的に問題があるのでは……とアニメ化を危ぶまれていましたが、企画通ったんですね。作者がSAOの合間に書いてるようなシリーズなので刊行ペースは遅く、概ね1年1冊で今年ようやく4巻目が発売された。なのでストック的に人気が出たとしても2期はないか、あるとしても相当先になると思います。割とえげつないノリなので、ゾンビ物とかデスゲーム物が苦手な人はパスした方がいいかも。逆に悪趣味展開大好きピーポーは要チェックです。

藤本タツキ「ルックバック」2026年実写映画化、監督は是枝裕和 2種のビジュアル公開(コミックナタリー)

 「いやいや、実写化って……」と呆れかけたが「監督は是枝裕和」でさすがに顔色が変わりましたね。2018年に『万引き家族』でカンヌ国際映画祭のパルム・ドールを受賞した実力派の中の実力派です。2023年の『怪物』も話題になりました。映画好きの藤本タツキ(『ルックバック』の原作者)がこんな話を断るはずもない。パルム・ドール持ちの是枝が監督で、原作は興収100億突破が確実視されている『チェンソーマン レゼ篇』のタツキ、加えて2024年にアニメ映画化していて高い評価を得ている作品となれば配給も力を入れてガンガン宣伝しまくるでしょう。

 既に撮影は終了していて現在は編集(ポスプロ)段階に入っているとのこと。キービジュアルで主人公たちは背中を向けており、キャスティングについて一切触れられていない。是枝監督の新作でもないかぎりまずやらないような告知だ……漫画の実写版にはあまり興味が持てない人間だけど、さすがにこれは映画館で観ようかな。

・市川哲也の『あの魔女を殺せ』読んだ。

 鮎川哲也賞受賞作家による長編ミステリです。著書としては6冊目に当たる。刊行されたのはもう2年ほど前ですが、もうすぐ市川哲也が『シュレディンガーの殺人者』という新作を出すってことで「そういえば『あの魔女を殺せ』まだ読んでなかったな」と思い出して手を伸ばした次第です。人里離れた山奥の館で凄惨な事件が巻き起こる、というシチュエーション自体はよくある「クローズド・サークル」ながら、この作品はある異常な要素を追加した「特殊設定ミステリ」になっている。勿体ぶっても仕方ないので書いてしまいますが、「魂を入れ替える魔女の秘術」が実在することになっているんです。

 グロテスクなのに目が離せない、蠱惑的な生人形を制作するアーティスト集団「常夜三姉妹」。彼女たちは吊り橋を渡らないと辿り着けない、俗世から隔絶した山の奥の瀟洒な館に棲んでいた。客人たちを招き入れ、「新作」をお披露目した翌日に惨劇の幕が上がる。完全に閉鎖されているわけではないが、扉を施錠されて「密室」に近い環境で黒焦げの焼死体となって発見された長女「朝子」。次女の「夕子」と三女の「夜子」は思わせぶりな発言をしながら館中の人形を破壊し、廃棄して回る。いったい彼女たちは何を恐れているのか? なおも惨劇は止まらず、外界との連絡が断たれた中で流血の宴が続く。何も知らない者は慌てふためくばかりだが、事情を知る者は静かに察する。これは「魔女」が被るべき当然の酬いなのだと……。

 常夜家は欧州から流れてきた「魔女」の家系で、その始祖は魔女狩りの嵐が吹き荒れていた時代に権力者に取り入って己の身を守るため「魂を移し替える魔術」を編み出した――という設定になっています。死期が近づいていた権力者の妻の体から魂を引き剥がし、代わりの器として用意した年若い侍女の肉体に移植する。すると死にかけていた妻は若々しく健康な体を手に入れて甦り、侍女本来の魂はしばらく宙を彷徨っているが寄る辺もなくなってやがて消滅するように霧散してしまう。大枠としてはこんな感じです。更に「ご苦労だったな、お前はもう用済みだ」と権力者から口封じされることを防ぐため、「移植された魂」は「術者の魂」とリンクする仕組みになっており、術者が死ぬと移植された魂(例え話だと「妻」の魂)も死ぬ。設定そのものは異常だけどルールがキチンと存在していて、それが謎を解く手掛かりになっているわけだ。

 この魔術が使えるのは常夜の血を引く女だけで、術者たる常夜家の人間たちは移植魔術に対する抵抗が強いため「魂の移し替え」ができない。たとえば常夜家の老婆が娘や孫に命じて自分の魂を他の何かに移し替えようとしても、魂が「他人の肉体」を拒否してしまうせいで移植が成功しない。常夜ファミリーは他者を疑似的に若返らせることはできるが、自分たちにはそれを適用することはできない、という皮肉な仕様になっています。他にも「移し替えは一度だけで、二度三度と行うことはできない」などのルールがありますけど、煩雑になるので列挙はやめておきましょう。

 実のところ「三姉妹に強い恨みを持っている存在」は早い段階で明かされます。常夜三姉妹と言っているけど本当は四姉妹で、四女に当たる「命」のモノローグが冒頭に綴られています。常夜は魔女の家系ゆえか子供ができにくく、四姉妹の祖母「黄泉」は跡継ぎを絶やさないため娘に次々と男をあてがったせいで四姉妹の父親は全員別人となっている。異常な環境で魔術を叩き込まれたこともあり、姉妹たちに「肉親の情」なるものは存在しない。だから事件の首謀者として真っ先に読者が思い浮かべるのは常夜命なのだが、そもそも命は館に来ていないんですよね……「こっそり付いてきてどこかに隠れているのでは?」という考えが脳裏をよぎりますが、第一の事件があった後に「殺人鬼がどこかに潜んでいるかもしれない」と捜索するパートも入るんですよ。そのときに見逃した可能性もゼロじゃないが、「潜伏して殺人の機会を虎視眈々と狙っている」と考えるのはかなり無理がある。彼女は魔女の血を引く者であっても忍者じゃないんですから。あくまで「魂を移し替える魔術」だけが伝えられているのであって、気配を消したり箒で空を飛んだりするような魔法が使えるわけじゃない。

 じゃあ人形作家の館であちこちの部屋に人形があるんだから、魂を人形に移し替えて『チャイルド・プレイ』ばりの大暴れを繰り広げたのでは……というアイデアも、さっき書いたルールであっさり否定される。常夜家の人間は「魂の移し替え」自体ができないし、仮にできたとしても「移し替えは一度だけ」なので元の体に戻ることができません。「憑依(ポゼッション)」みたいな感覚で気軽に使える能力ではない。というか、根本的な問題として「無機物に魂を移し替えても駆動させる仕組みがないので動けない」んですよ。黄泉の日記に「軍から戦闘用のゴーレムを造れないかという相談があったが、できるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリだった!!)」みたいな記述もある。これがもっと未来ならアンドロイドのボディに人間の魂を移植して……という代理人形(プロクシード)みたいな真似もできたかもしれませんが、一応現代設定なのでそういうSFチックなテクノロジーは絡んでこない。「WHO」と「WHY」は明確なのに「HOW」が見えてこない、他に怪しい登場人物もいるけど筋がキレイに繋がらない……というもどかしい状態が延々と続きます。展開もかなりスロースターターで、300ページもないのに館で事件が起こるのは100ページ以降だから、気の短い人はちょっとイライラするかもしれません。

 しかし、ラスト数十ページで真相が解明されていくと「ああ、特殊設定のルールはここと繋がって……結果的にそうなるわけか!」と膝を叩きたくなるぐらいウマくハマっていきます。一部、ルールの解釈を巡って際どい部分もあります(矛盾というより、ルールを勘違いしそうになる箇所がある)けど、「異常な設定に相応しい異常な真相」が拝みたい人であれば満足の行く結末になっているでしょう。無理があるかどうかで言えば、正直無理寄りかな。このへんはちょっとノイズだったな……ってポイントもあるから手放しで賞賛できるわけじゃないにしろ、「型破りなミステリ」を目指したことに関しては素直に拍手を送りたい。

 まとめ。「変なミステリ」や「悪趣味なミステリ」を読みたい人にうってつけの一冊。事件が終わってからようやく警察が駆けつける話なんで、「ストーリーに警察がまったく絡んでこない本式のクローズド・サークル」が読みたい方にもオススメです。読み終わって真っ先に某作家の名前が思い浮かび、その作家が好きな人にもプッシュしたくなったが、それをやると逆算で真相が見えてしまう……という悩ましい状況のせいで泣く泣く名前を伏せるしかなかった。謎解き要素が多いからミステリの文脈で語るべき作品ではあるけど、意匠的にはホラーとして読んでも全然大丈夫だと思います。普通に「うげっ」ってなりますから。


2025-12-01.

・ブラックフライデーセールということで、去年完結した『くまみこ』がeBookJapanで99円均一、全巻まとめて買っても1980円だったから思わず買っちゃった焼津です、こんばんは。

 セール対象は本編のみでスピンオフの『くまみこちゃん』や公式アンソロジーは通常価格。アニメにもなりましたね……2016年放送だから来年で10周年になります。程好く力の抜けたノリと可愛くてイイ性格してる主人公を楽しんでいたら、原作の内容を変なふうに解釈したラストで何もかもブチ壊しにして終わった伝説の一品。ちなみに作者の「吉元ますめ」は現在『ほのぼの異世界転生デイズ』というなろう系のコミカライズを連載中。『くまみこ』のセールは今月4日までなので気になる方はお早めにお買い上げください。

劇場版『わたなれ』の反響でアニメ映画界激震 唯一無二の“ゴミ”映像体験を見逃すな(リアルサウンド)

 念のため書いておきますと「ゴミ」というのは作中に何度か出てくる印象的なフレーズを指しているのであって、映画そのものの出来をどうこう言うものではありません。観た人が「ゴミ映画」と言いたくなるの、非常に気持ちはわかるけどかなり語弊があるんだよな……「れな子が下した決断に、きっとあなたの涙腺と腹筋は崩壊する――」「感動しました!」「笑い過ぎて涙が止まらないです!」「――この冬、《ゴミ泣き》しませんか?」「「せーのっ、『わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?)ネクストシャイン!』サイコー!」」みたいなクソCMが脳裏をよぎってしまった。

 さておき「わたなれ」の映画、『わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?)ネクストシャイン!』。あくまでテレビ放送に先駆けての先行上映ゆえ全国31館、2週間限定というイベント的な興行なんですが、予想外の動きを見せています。あちこちで観客が押し寄せ、初日から満員になる劇場が続出。初週は全上映のうち半数くらいがチケット完売だったらしい。用意していた来場者特典はあっという間に枯渇。「イオンシネマ大宮」(埼玉県)では週間動員ランキングの2位、「イオンシネマ岡崎」(愛知県)では1位と、公開前からは信じられない光景が広がっている。限定的な興行ということでほとんどの映画館は100〜150席程度の小さめなシアターを当てていたのですが、この結果を受けて劇場によっては「わたなれに広くて音響の良いシアターを回す」決断を下しているところもある。先述したイオンシネマ大宮は「THX」という音響設備のある「1番スクリーン」(最大475席)を29日の土曜日以降、1日に2回もわたなれに割いている。

 「2週間で興行を終える映画なのに、1週目はちんまりしたシアターで上映されていた作品が、2週目で倍以上のデカい箱に移される」のはかなり異例です。スケジュール調整の問題もあるから「絶対にない」とまでは言いませんが、通常の映画興行だと初週が一番多くてその後はどんどん下がっていく「初動型」が基本だから2週目で大きなハコを用意してもあまり意味がないと申しますか、率直に言って「無駄遣い」である。それに、映画館によく行く人なら知っていると思いますが、「その劇場でもっとも広くて設備の良いシアター」は普通、興行の目玉となるようなキラータイトルにしか回されない。局所的にではあるが、『私がキラータイトルになれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?)ネクストウィーク!』な現象が起こったのです。

 席は増やせても配布する特典は急に増やせないので、館によっては2週目の特典が初日の金曜日で枯れてしまったところもあるとか。甚だしいところでは初日どころか初回の上映で配り終えてしまった劇場もあるという。恐らく公式サイドはネクストシャインを「わたなれの知名度を上げるためのプロモーション」程度に捉えていて、興収とか動員とかにはそこまで大きな期待を寄せていなかったんだろう。想定外の人気ぶりに公式も対応に追われているみたいだが、どうも「2週間限定」という予定は覆らないようだし、上映枠が拡大しても上映館が増える兆しはない模様です。最初から「テレビで放送する予定」と宣言しているし、たぶん上映が終わる4日か5日くらいに放送日の告知を行う段取りなんじゃないでしょうか。早ければ12月中に放送だと思われるので、延長するかどうか悩んでいるのかも。上映枠拡大のおかげでギリギリ都合がつくようになったし、私も観念して隣県まで遠征して鑑賞してきました。

 劇場によっては開場案内のアナウンスでタイトルを省略しているところもあるそうですが、私の行ったところはちゃんと「ネクストシャイン!」までフル詠唱していて感動した。「単なる先行上映イベント」にしては破格の大きさのスクリーンが割り当てられていたのも嬉しい。300弱の座席が体感5割、ザッと150席くらい埋まっている印象で、特典が追加されたとはいえ2週目に入った映画としてはかなり盛況。ちなみに特典はランダムフィルムなんですが、私が貰ったのは香穂ちゃんの催眠音声喰らっているあたりのフィルム(これの一番左)でした。構成としては、まず冒頭でOP。テレビでお馴染み「ムリムリ進化論」を大音量、大スクリーンで堪能できます。それから13話〜17話をぶっ続けで流し、ED(2種類)、最後に2期の到来を匂わせるシーンで〆。本当にテレビで放送する予定のエピソードをそのまま繋げてお出ししただけなんで、「あっ、ここでCMだな」とか「これで〇話終了か」というのが丸分かりな内容でした。何せタイトルに「劇場版」の文字が入っていないくらいなので、映画としての体裁を整えていない。鬼滅の『無限列車編』みたいに「いかにも劇場版」といった雰囲気ではなく、ミリマスとかシャニマスの先行公開版に近いタイプ。隣席の客が堪え切れずに何度も息を漏らしていたのが最高に生(ライブ)って感じだった。原作未読の人が多かったのか、クライマックスのアレには静かなどよめきが館内を走り抜けていきましたね。私も「ゴミ」のところは笑いを我慢するので必死でした。

 もういっぺん観たいから、是非上映期間延長&上映館拡大で地元の映画館でも観れるようにしてほしいです。年末でいろいろと興行が立て込んでいる時期だし、もうすぐ『ズートピア2』という今年最後のキラータイトルが上陸するタイミングなんで難しいだろうが、関係者には頑張っていただきたい。

「灰原くんの強くて青春ニューゲーム」4月にTVアニメ化、上村祐翔&高尾奏音が出演(コミックナタリー)

 アニメ化のニュース自体は7月に報じられていたけど、やっと詳報が来ました。制作は「スタジオコメット」、80年代に創業したスタジオで当初は有限会社だったが90年代に株式会社化、ジュエルペットやマイメロディなどを手掛けており、去年は『変人のサラダボウル』をやっていました。監督は「星野美鈴」、『最近雇ったメイドが怪しい』や『道産子ギャルはなまらめんこい』の人。シリーズ構成は「大知慶一郎」、いろいろ手掛けているせいで却って「これが代表作」とは言いにくい脚本家。最近だと『ある魔女が死ぬまで』とか『Summer Pockets』、『忍者と極道』をやっていますね。

 声優も公開されています。主人公の「灰原夏希」役は「上村祐翔」、一般的には『文豪ストレイドッグス』の「中島敦」あたりが有名? 最近は『公女殿下の家庭教師』の主人公「アレン」を担当しており、「ラノベ原作の主人公役」としては申し分ないキャストと言えるか。メインヒロイン「星宮陽花里」役は「高尾奏音」、バンドリの「豊川祥子」役で知られている。他は100カノの「華暮愛々」、プリコネの「プレシア」、スタレの「ケリュドラ」など。

 内容としては「無駄にイキって方々に迷惑を掛け、灰色の青春を過ごした夏希くんが大学卒業を間近に控えたある日、高校入学直前のタイミングまでタイムリープする」という、平たく書けば「やり直し青春ストーリー」です。まず入学までに体型を絞り、ファッションにも気を遣って「雰囲気イケメン」になりすました夏希くんはクラスの上位グループへ潜り込むことに成功。前回の反省を活かして徹底的に振る舞いを改善し、片想いしていた少女・星宮さんと仲良くなって「あわよくばお付き合いを……」と目論むが、彼の落ち着きに満ちた態度のせいで別の異性も引き寄せてしまい……という感じで、ターゲットは「ラブコメ好き」になると思われるが、「コメ」の要素は比較的薄くて「友情と恋心の狭間」を真面目に描いていく。ラブコメアニメというより青春アニメの様相が強い。「青臭さ」が売りなので単純明快なラブコメを期待すると厳しいが、刺激ばかりが先行するラブコメにうんざりしていて「もっとじっくり腰を据えて『青春』を追求してほしい」と思っている方にはオススメできそう。夏希くん、恋愛ばかりにかまけるわけではなく、「あのとき味わえなかった『青春』を今度こそ謳歌したい」とバンド活動を始めたりしますからね。好きなシリーズだけど、結構地味だからアニメ化は大変だろう。HJ原作のアニメって正直あまりアタリがない印象だけど、今度こそ大丈夫……だといいなぁ。


2025-11-23.

・新作発売に合わせて『フルメタル・パニック!』の既刊が99円均一の大セール中、「久々に読み返したいけど紙版が手元にないや」という方にオススメしたい焼津です、こんばんは。セールの開催は12月3日までの予定。

 対象は小説版のみで、コミカライズやRPGリプレイは対象外です。長編シリーズが全12巻、短編シリーズが全9巻、サイドアームズが全2巻、アナザーがSS含めて全13巻、計36巻でまとめて購入してもたった3564円、安い! 安すぎる! えっ? 『よりぬきボン太くん』? あれは……よっぽどのマニアか、コンプしないと気が済まない人か、「こんだけ安かったらちょっとぐらい御布施してもいいか」という気持ちの方以外は別に買わなくてもいいと思います。

 アナザーは全13巻を一つにまとめた合本版も出ていますが、そちらはセール対象外なので注意してください。あくまで対象はバラ売りされている単巻版です。なおKindle以外でもあっちこっちのショップで開催されているセールですから、クーポンとかの使えるところで買えばもっと安くなりますよ。20%OFFぐらいでも3000円を切る価格になる。「面倒だからいつものAmazonでいいや」という方は、現在ブラックフライデーまとめ買いキャンペーン中ですので、先に高い本を買ってからフルメタのセール品を買うと15%ポイント還元が付いてきてオトクです。まとめ買いキャンペーンは上限15冊なので、先にセール品を買っちゃうとそれで枠が埋まってしまう。今回のセールでフルメタをまとめ買いするつもりの人も、値引き率の低い『Family』を先に買っといた方がベターです。ただし最新刊のFamily3巻はまとめ買いキャンペーン対象外(まとめ買いキャンペーンは開催後に発売された商品は対象外のことが多い)ですから、買う順番はどっちでもいいです。何なら次のキャンペーンまで待ってもいい。「大人になったテッサが登場する」という誘惑に耐えられるのならば……。

『わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?) 〜ネクストシャイン!〜』、公開中

 遂に公開されました、映画わたなれ。「映画」と言ってもいずれテレビで放送される予定のエピソードを先行上映するだけという「独立した映画作品ではない」一本ゆえ、公開規模も小さい。情報公開時はたった14館、その後追加されて31館まで拡大したが、全国47都道府県のうち僅か20都道府県での上映である。上映している県よりもしてない県の方が多い! 私が住んでいるところは田舎ですから「してない」派閥です。隣県まで行けば観れないこともないが、片道ざっくり3時間、往復で6時間も掛かるのでさすがに都合がつかず諦めました。しかし中には「新幹線に乗って観に行く」という覚悟の決まったファンもいるみたいで、初日は満席の劇場が多かったようですね。そもそも用意されているハコ(シアター)が小さいからすぐ満杯になってしまう。「ただの先行上映だし、熱心なファンしか来ないだろう」と劇場側もタカを括っていたようで、各予約サイトを眺めるとあまりの埋まり具合にいっそ笑ってしまった。聞いた話では初日の着席率(予約を締め切るまでに販売された席の割合)が8割を超えていたそうです。他が200館以上、およそ7〜9倍の公開規模(割り当てられたスクリーンを考慮すると座席数は数十倍、作品によっては100倍以上)なのに初日のデイリー9位に入ったというんだから凄まじい。私がギリギリまで検討していた隣県の映画館も金・土・日と3日間連続で前日のうちに予約完売。「当日券余裕っしょ」と予約せずに劇場へ足を運んだ人は愕然としたでしょう。

 「着席率」は「劇場の期待(あらかじめ用意した席数)に対してどの程度の客入りだったか」を表す指標で、公開規模が小さいほど大きくなる傾向になる。極端な話、「たった一つの映画館で、30人しか入らないシアターを用意して一日一回だけの上映」だったら観客たった30人でも「着席率100%」となるわけです。つまり公開規模が全然違う映画だと比較対象になり得ない――と念頭に置いたうえで語りますと、コロナ禍のときに座席を間引いて販売した『劇場版 Fate/stay night [Heaven's Feel] III. spring song』の初日着席率は90%超、今年7月に公開された鬼滅の無限城編が80%超です。「公開規模が違いすぎるけど、劇場の期待に対する客入りは無限城編並み」だったことになります。

 映画館にとって損益分岐点となる着席率がおよそ「15〜20%」、ただしこれはスクリーン数が多いシネコンの場合であって、小規模な劇場だと最低でも「25%」は上回らないと厳しいらしい。逆に「10%」切るといわゆる「ガラガラ」の状態で、もっと小さいシアターに変えるなり上映を早めに終わらせるなり対応を迫られる。ネクストシャインも地域によってはガラガラだったらしいが、それでも8割超えたということは「一部地域以外で席が全然足りていなかった」わけだ。初日に用意された座席数は「(公開館)31館×(1日の平均上映回数)約1.5回×(1回あたりの平均座席数)約100席」、ざっくり4650席くらいで、この8割強……だいたい3800人分の来場があった計算になります。数としてはそこまで大きくない(一日の来場者としては公開からだいぶ経った鬼滅や『国宝』の方がまだ多い)けれど、割合としてはやっぱり異常ですよ。同日公開された『果てしなきスカーレット』なんて、初日に全国で74万席ぐらい用意されたのに埋まったのは3万席、着席率にするとたった4%だ。いや、これは『果てしなきスカーレット』の方が異常な数値だな……わたなれの160倍近い席を用意したのに観客数が8倍程度にしかなっていません。前作『竜とそばかすの姫』が初日動員数15万人ぐらいだったから1/5まで急減した勘定になります。細田守作品としては不振だった『未来のミライ』と比べても半分以下。東宝がゴリ押ししたのか今週公開されている映画の中でもっとも多くのスクリーンが割り当てられていますけど、初日(金曜)の動員数が2位、2日目(土曜日)が4位。同日公開の新作どころか先週以前に公開された作品すら下回っている。予想値ですけど、金・土・日の3日間(いわゆるオープニング)で恐らく動員10〜15万人、興収2〜3億円程度で、比較対象になるのは『劇場版「オーバーロード」聖王国編』あたりですね。この調子だと最終的に10億届くどうか……制作費だけでも20億円は掛かっているという観測なので、興行としては壊滅的である。出足が悪すぎて、上映スケジュールを組んだ人も頭抱えてるんじゃないか。

 昔話になりますが、今のこういう「全席指定型シネコン」が普及する前は「座る席はないけど観ることはできる」という「立ち見」が存在していたんですよね。私も一回やったことがあるけど、物凄く疲れたからもう二度とやりたくない。閑話休題、ネクストシャインはもともと「2週間限定公開」というイベントなので12月5日に上映終了となる予定ですが、この盛況ぶりに免じてうちの地元まで拡大上映してくれないかしら。『ズートピア2』の公開も近づいているし、いくら何でも無理かな。

パチンコ・パチスロ化→アニメ次回作が実現? タイアップがもたらす“Win-Win”の関係(ENCOUNT)

 一番有名なのはEVAですね、パチンコマネーが大量に入ったおかげで新劇場版をやる目処がつき、完結に至った。円盤があまり売れなくてもパチやスロのおかげで2期が決まるケースは稀にあります。最近だと「まほいく」こと『魔法少女育成計画』、1期目は2016年に放送され「半分に減らすぽん」でちょっと話題になりましたが円盤の売上は振るわず、確か1巻あたりの本数は2000も行かなかった。2016年あたりだと配信の普及もあって円盤の売上自体が下がり始めた頃ですけど、同じライトノベル原作の「このすば」や「リゼロ」が1巻あたり1万本以上売り上げているので「2期は絶望的だな……」と思える数字です。ちなみに2016年でもっとも円盤が売れたTVアニメは『ユーリ!!! on ICE』、『呪術廻戦』や『チェンソーマン』の「MAPPA」が制作して1巻あたり6万本以上、深夜アニメの中では十指に入る売れ行きである。諸事情で劇場アニメが制作中止になったことが悔やまれる。

 話が逸れた。まほいくは放送から6年経った2022年にパチスロ化しており、これが好調だったおかげで翌年2023年に新作アニメ『魔法少女育成計画restart』の制作が発表されました。パチスロになっていなければ絶対にありえなかった2期です。来年の2026年に放送予定ですから、実に10年ぶりの続編となる。私の好きな『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』は今年からパチンコとスロットの両方が稼働開始していて、結構調子がいいらしいし来年あたり新作アニメの発表が来るんじゃないかな……と淡い期待を抱いている。遊技機人気が高いアニメと言えば『戦姫絶唱シンフォギア』、あれはパチマネーが大量に入ったおかげでその気になれば何期でもやれるぐらいだったらしいが、「さすがにこれ以上やったらグダグダになる」という判断に基づき5期目で終了となりました。

 「それにしてもなんでパチやスロはアニメ作品が多いの?」という疑問に関しては『パチンコがアニメだらけになった理由(わけ)』って本が15年くらい前に出ているので、詳しく知りたい人はそっちを読んでください。要約すると、「液晶パネルの性能が向上して小型化・高画質化した」「高画質だから表示する映像をいちいち内製すると費用が掛かる」「既に出来上がっているアニメや特撮の映像や音楽を流用すれば安く済むのではないか?」「使用料が安いからガンガン使っていたら思った以上に人気が出て定着した」ってな具合で、あまり深い理由はありません。アニメを観る層とパチやスロを遊ぶ層はあまり被っていないので、「使用料ガッポガッポ」だけでなく「新しいファン層を発掘する」という思わぬ効果も獲得しました。制作費もそんなに掛からないから、という理由で新作映像が追加されることも多い。先述したレヴュースタァライト、アニメでは「露崎まひる」というキャラが主人公「愛城華恋」の水筒に口を付けようとしてギリギリで思いとどまる、という際どいシーンがあるのですが、なんとスロットでは「水筒に間接キスして幸せそうな顔をする当たり演出」が追加されて界隈が大騒ぎになりました。

 界隈の外からすれば「バカバカしい話」で済まされるような一件なんですが、パチやスロにはこういう「せっかくの新規映像なのに、遊技機以外には流用しにくいモノ」が大量にあって、そのほとんどがアーカイブ化されていない……という問題があります。会社によってはPVめいた映像をつべとかにアップしてくれますが、先述したような「当たり演出/外れ演出」の映像を逐一残すところはまず存在しません。まどかマギカなんかも相当な量の新規映像が作られたらしいが、今となっては確認も困難。まぁパチやスロほどじゃなくてもゲーム作品だってハードがレトロ化したら確認が難しくなりますけど。この手の演出で一番騒然となったのは『CRフランダースの犬と世界名作劇場』か……「あのラストシーンを再現した『昇天予告』は激アツ」という一文はもはや伝説。

 でも正味な話、「遊技機のおかげで2期が決まった作品」なんてそんなにあるかな? という疑問はありますね(シンフォギアも続編のGはパチマネーが入る前から制作していた)。「アニメのパチ化・スロ化」が定着してきてからはそもそもマイナーな作品が遊技機化するケース自体少なくなっていますし、「パチやスロが好調なのに2期が来ない作品」も割とあります。『緋弾のアリア』は2011年に1期目を放送し、2014年にパチンコ化、前日譚に当たる『緋弾のアリアAA』が2015年に放送、その後パチンコは新台を作られまくっているのに未だ本編の続きがアニメ化されていない。最近の台だと「アニメでは登場していないキャラがオリジナル映像&オリジナルキャストで登場する」始末らしい。『織田信奈の野望』も4台目に当たる新機種『P織田信奈の野望 下剋上』が今年から稼働しているが、2期なんて影も形もない。強いて言えば『バジリスク〜甲賀忍法帖〜』がパチンコのおかげで『バジリスク〜桜花忍法帖〜』をやれたんじゃないかな……という気もするが、あれ原作者が違うから2期というよりスピンオフなんですよね。「とても2期やれるような売上じゃなかったのにパチやスロのおかげで2期が出来た」というのは非常にレアケースで、あまり一般的な出来事じゃないんです。ほとんどの場合、もともと人気があるからパチやスロとは無関係に2期が決まる。なので私も冒頭に「パチやスロのおかげで2期が決まるケースは稀にあります」と書きました。アニメ業界は今人手不足で、座組(制作に必要なスタッフを集めること)が大変だから「金を積めば2期が出来る」というものでもない(クオリティに対するこだわりがまったくないのであれば話は別だが)。

KENT「大怪獣ゲァーチマ」アニメ化企画が進行中、描き下ろしのお祝いイラスト公開(コミックナタリー)

 どう発音するのかよくわからないことで知られる『大怪獣ゲァーチマ』がアニメ化とな。「げぁーちま」は新潟の方言で「オタマジャクシ」を意味するらしく、作者が推奨する発音は「ぎゃーちま」だが読者の中には「げあーちま」派や「がぁーちま」派もいてあまり統一されていない。特にこだわりがなければ「ぎゃーちま」が無難だと思います。1巻が発売されたとき帯に「樋口真嗣」の推薦文が載ったからいずれ特撮化するかな、と予想していましたが、アニメ化の方で来たか。

 主人公「杜野宮矢子」の故郷である港町は突如現れた大怪獣によって被災。人的な被害が割と少なかったこと、怪獣消滅後に海産物がよく獲れるようになったことから「豊穣の神ゲァーチマ」と讃えられ、キャラクターグッズも飛ぶように売れたことから町のシンボルとして定着してしまった。親しい人が被害に遭ったこともあり、宮矢子はゲァーチマを讃えればいいのか呪えばいいのか、心の整理がつかずに煩悶している。ゲァーチマ出現から10年後、同じ町にまた怪獣が現れる。しかし、その怪獣はゲァーチマではなかった……。

 こんな感じで、「ゲァーチマは人類の味方なのか、それとも……」といったテイストで進行していく。言うまでもなく『ゴジラ』や『ガメラ』の影響が色濃く反映されている。人間ドラマもあるけど、「怪獣プロレス」として読んでも充分面白い。様々な能力を持った怪獣が次々と現れる展開はちょっと『ぼくらの』っぽいかも。『ぼくらの』って「子供たちが悲惨な目に遭って死ぬ」残酷なところばかりクローズアップされ、「多種多様な敵を相手に機転と工夫で立ち向かう」特撮バトル・チックな面はスルーされがちなんですよね。ともあれ、今月7巻が出たばかりなので仮に2期があるとしてもだいぶ先になりそうだが、とりあえずアニメの出来が良くなることを祈っておこう。まだ「企画進行中」で制作スタジオとか監督も発表されていないが……。

 以前も書きましたが、「アニメ化決定」と「アニメ化企画進行中」は似ているようで違います。関係者曰く「放送するテレビ局の企画会議を通ったかどうか」、つまり「企画進行中」はまだテレビ局の企画会議を通っておらず、通った時点で晴れて「決定」に格上げとなる。進行の度合いで言えば決定>企画進行中だが、少なくとも「企画進行中」の段階でそれなりの人員と費用が動いているため、発表した後に企画中止となることは稀です。その「稀」なケースとして私の好きな『導きの星』があるのは泣きたい気分だが……(2016年に「アニメ化企画進行中!」と報じられ、「2018年秋映像化企画進行中」という発表もあったのに以降音沙汰がなく、もうポシャった可能性が高い)。

 そういう一部の例外を除き、企画が流れる恐れがほぼなくなってから発表されるわけですし、ほとんどは公表される前にポシャります。ポシャったアニメに関してはなかなか話が表に出ないので噂レベルに留まることも多いが、『空手小公子 小日向海流』は原作者自ら企画書の一部を公開している。結局スポンサーが集まらなくて流れちゃったみたい。22巻まで出ていた頃、というと2006年あたりか。格闘大会の「RAGNAROK」が終わったあたり。『リコリス・リコイル』で有名になった「足立慎吾」も「XEBEC」所属時代に『タビと道づれ』をアニメ化するべく企画書も作って上層部に嘆願したらしいが、「あと一息制作費が集まらない状態」と言われ叶わなかったらしい。リコリコが当たった今なら資金も集められそうだが、そのリコリコの新作で忙しそうだし、無理か。『serial experiments lain』のスタッフが再結集した「大正lain」とも言うべき『ですぺら』もアニメ化企画が進行していたらしいが、監督の「中村隆太郎」が体調不良になったため企画中止。少し経った後に逝去されました。他に、ソノラマ文庫から出ていた『星虫』も「アニメ化企画決定」と帯に書いてあったのに実現しませんでしたね。脚本家が言うには「資金が集まらなかった」「脚本は出来ていた」「劇場映画にする予定だった」そうな。

「描くなるうえは」TVアニメ化、ティザーPV公開 メインキャストに村瀬歩と鈴代紗弓(コミックナタリー)

 “ヤングアニマル”で連載されているマンガ家マンガ。より正確に書くなら「マンガ家志望者のマンガ」です。主人公の男子高校生「上原勇紀」はマンガ家としてデビューすることを夢見て、勇気を出して原稿の持ち込みをしてみたが「何かあんま面白くねーなー」「リアリティーがないっつーか」「共感もないし人間も描けてない」と編集者にバッサリ斬られ、心がバキバキに折れてしまった。落ち込んでいたところ、クラスメイトのギャル「宮本仁衣奈(ニーナ)」にその原稿を見られ、揶揄われる……と身構えた矢先、思わぬ賞賛を浴びる。ニーナもまたマンガ家志望だったのだ。担当から「恋愛まんがなのにリアリティがない」と言われたことを気に病んでいた彼女は、上原に「あたしと付き合ってくれない?」と提案する。取材目的の偽カップル、しかしふたりの間に「偽」ではない感情が生まれ始めて……といった具合にラブコメのテイストが強いです。ニーナの体型が非常にエッチでお色気要素も強いのだが、上原くんは真面目に頑張っているので割と好感が持てる。あとライバルキャラが登場して恋の鞘当ても始まるので三角関係好きにはうってつけ。制作スタジオは割と新興の「ROLL2(ロールツー)」、元請作品としては『恋は双子で割り切れない』、『きみが死ぬまで恋をしたい』(未放送)に続く3作目。監督は「石川俊介」、『ブルーロック』の1期目で副監督を担当した人で、劇場版『EPISODE 凪』が初監督作品。TVシリーズの監督はコレが初かな?

 それにしても、「鈴代紗弓」がまたギャル系ヒロインやるのか……最近多くない? クラ婚の「石倉陽鞠」、だんじょるの「犬塚日葵」、いもウザの「小日向彩羽」と今年だけでも該当するキャラが3人いるぞ。

・貫井徳郎の『不等辺五角形』読んだ。

 著者の最新長編。6月刊行で、7月に「王様のブランチ」で紹介されて話題になったらしい。『慟哭』『愚行録』といった貫井徳郎の代表作を引き合いに出して「新たなる到達点」と喧伝していますが、先に述べておきますと「面白かったことは確かだが、新たな代表作として認めるほどではない」というのが私の偽らざる気持ちです。ちなみに私が一番好きな貫井作品は『乱反射』

 小学生の頃からの知り合いで、表面的には「仲良し5人グループ」の男女たち。社会人になってから少しずつ疎遠になっていったが、アラフォーの歳になって久々に5人で集まることになった。しかし殺人事件が発生し、グループの1人が逮捕されてしまう。「あいつが殺人なんて……」と他のメンバーたちは呆然とする。殺されたのもグループのメンバーなんで、どう心の折り合いを付ければいいのかわからない。情状酌量の余地を見つけるため、弁護士は残されたメンバーひとりひとりから聞き取り調査を行うが……という形式のサスペンスです。5人グループは男2人女3人という構成。殺されたのは女性の「雛乃」で、捕まったのも女性の「梨愛」。長い付き合いだから何かしら含むところはあったのかもしれないが、「殺害」という極端な方法に走るほど深い恨みがあったとは思えない、と他の3人は口々に証言します。インタビューは男→男→女の順で行い、「証言の食い違い」や「聞き漏らし」の確認のためもう一度男→男→女の順で聞き取り、最後に捕まった梨愛視点の章で幕を降ろす。

 さすがに「藪の中」ほど内容が食い違うことはないが、証言者たちにも「口にしたくないこと」や「明かしたくない本音」があり、そのへんからどうしても平仄に合わない部分が出てきます。被害者である雛乃の人物像も、インタビューを重ねるうちにだんだん曖昧になっていく。一貫しているのは梨愛を悪く言うメンバーがいない、というところですね。公然とではないにしろ、みんなさりげなく庇うような発言をしており、その点では情状酌量の余地を見つけようとしている弁護士と利害が一致するはずなんです。しかし、梨愛本人が頑として動機を口にしないため、擁護の糸口が見つからず四苦八苦する。この5人はいったいどういう関係だったのか、そして梨愛はなぜ口を閉ざすのか……という興味で物語を引っ張っていっています。

 「証言」と「分析」と「独白」だけで構築された枷の多い内容であるにも関わらず、5人の人物像が少しずつ明確になっていくあたりは貫井徳郎ならではといったところ。エモーショナルな要素をなるべく排し「理詰め」で物語を組み立てようとしているため、人によっては「心を揺さぶられない」と不満を感じるかもしれませんが、下手に扱えばベタベタと湿度の高いストーリーになってうんざりしてしまいかねないところを巧妙なバランスによって「一定の距離を置いて楽しめる読み物」に仕立て上げている。正直、「証言の一周目」はちょっと退屈で、二周目に入ったあたりからどんどん面白くなっていきます。

 良い思い出も悪い思い出もあるけど、それでもやっぱりこの5人には絆があったんだな……と飲み込めて切なくなってきます。オチの部分はハッキリと明言せず、含みを残して終わっていますが、ちゃんと真面目に読んでいれば(覚えていなくても読み返せば)わかる仕組みとなっています。どんでん返し的なサプライズを期待すると落胆するかもしれません。正直、オチとしては無理があるというか、目論見崩れるよな、コレ……と思ってしまう。作者としては「この目論見は到底成功し得ないが、失敗に終わるところをわざわざ書いたりはしません」という感じなんだろうか。確かに、目論見だけ明かしていて「成功した」とは書いてないんですよね。書いたら野暮、というのもあるんでしょうけど。

 曖昧な物言いばかりでは訳が分からないと思いますのでもうちょっと具体的なことを書きますと、この5人は好意の矢印がうまく繋がってないんですよ。AはBに想いを寄せているけどBはCが気になっていて、でもCにはその気がなくて……といった塩梅で、イイ感じのラブコメにならない。そこからタイトルの「不等辺五角形」が来ている。「うまくいかなかった青春ラブコメとかトレンディードラマの末路」を観ているようでちょっと切なくなります。

 最初に書いた通り『慟哭』や『愚行録』に比べるとかなり落ちる内容です。貫井徳郎の作品を読んだことがないで、衝撃や刺激に飢えている人は素直に『慟哭』や『愚行録』を読んだ方がいい。ただ、『慟哭』や『愚行録』は人によってかなりキツいストーリーなので、「あんまりキツいのはちょっと……ほどほどの刺激でイイです」という場合はあえてこの『不等辺五角形』で手を打つという選択肢もアリです。貫井小説は「気合入れて読む必要がある作品」と「気楽に読める作品」の差が結構大きいんですけど、『不等辺五角形』はちょうど中間ぐらいの位置に収まるからリトマス試験紙としては丁度良い。読んで「物足りない」と思うならもっと歯応えのある貫井作品に挑めばいいのです。というわけで読もう、『不等辺五角形』。

・拍手レス。

 西澤保彦さん亡くなっていたのか…。中三の時に読んだ「七回死んだ男」でミステリ沼に引きずり込まれました。チョーモンインシリーズの続き読みたかったな。ご冥福をお祈りします。

 実家の書庫を漁ったら未読の『聯愁殺』『パズラー』が見つかったので、これらを読みながら偲ぶことにします……チョーモンインは本当に完結まで読みたかったですね。

 西澤保彦 好きな作家です 焼津さんの「自意識と向き合って書いたのだろう」意見 新刊を読むと切に思います 「進行性の肺腺ガン」のキャラを出す 亡くなった後に考えると凄味がある 新作を期待していた作家さんなので とても残念です 焼津さんも「沃野」とか読むと お好きだと思ってました

 西尾維新もインタビューで「西澤保彦のミステリから影響を受けている」ことを率直に語っていますし、ミステリやエンタメの裾野を広げた作家の一人ですよね……追悼ポストの数々で「ああ、この人たちも西澤作品が好きなんだ」と知ることができて、しんみりしつつも少し嬉しくなったりしました。


2025-11-15.

・映画館にあったフライヤー(チラシ)で存在を知り、「面白そうだな」と思って観に行ったインド映画『KILL 超覚醒』が期待通りの面白さでホクホク顔な焼津です、こんばんは。

 「インド映画」と聞くとどうしても「歌いながらダンスするシーン」を思い浮かべてしまう人もいるでしょうが、この作品にダンスシーンはない。全体的に映画の撮り方もインド映画というよりハリウッド映画に近く、人によっては「今のインド映画ってこんな感じなのか!」と衝撃を受けるかもしれません。あらすじは簡単に書くと「寝台列車に乗り込んだ30人以上の強盗集団、手際良く制圧して金品を奪っていくつもりだったが、軍の特殊部隊に所属する主人公がたまたま車内にいたせいで計画が狂い出す」っていう、いわゆる『ランボー』みたいなワンマン・アーミー系のアクション物です。

 寝台列車という空間的に狭く、脱出が困難な舞台で40人もの強盗たち(途中で車外にいた連中が合流する)相手にひたすら濃密なバイオレンス劇を繰り広げる。雑な形容になりますが、『ダイ・ハード』と『ジョン・ウィック』を混ぜたような作品です。というか実際に『ジョン・ウィック』の監督がハリウッド・リメイクする話が進んでいるらしい。主人公が「超覚醒」してからが見所で、強盗どもを容赦なくブッ殺す展開がとにかく爽快。ムカつくことに強盗集団(どうも全員親族らしい)は仲間思いな連中で、警備兵や人質は平然と殺害するのに味方が殺られると大声で叫んで泣き喚く。『忍者と極道』の極道よろしく「たった数名の人質を殺したくらいで……血も涙もねえ!」と慟哭する。まぁ背景として貧富の差っていう問題があるんだけど、それでも「勝手なこと言いやがる」という印象は拭えない。「薄汚ねぇ強盗一族の血を絶やしてやるぜ」と言わんばかりに獅子奮迅の活躍を見せる主人公に「いけーっ役立たずの狛犬!」と声援を送りたくなります。無双系っちゃ無双系だが、主人公のアムリトもボロボロになりながら闘うのでだいぶ痛々しい。「カッコいい」というより「痛そう」な暴力満載なので、スタイリッシュ・アクションを求める人にはキツいかもしれません。逆に「スタイリッシュ・アクションにない『痛み』を望んでいる」方にはうってつけ。内なる蛮性と獣性を解き放て。

 しかし、こんなに面白いのに初日のレイトショーはガラガラで、私含めて観客は7人くらいしかいなかった。圧倒的に知名度が足りてないです。この調子だと来週あたりからほとんどの映画館で上映回数減らされそうだし、気になる人は早めに行った方が吉。ちなみにインドではこういう武装強盗団を「ダコイト」と呼ぶらしく、昔監督の乗っていた長距離列車がダコイトに襲われたことが脚本の発端になっているという。監督本人は寝こけていて、襲われたのも隣の車両だったから被害はなかったそうだが。

作家の西澤保彦さん死去、64歳…「異分子の彼女」で日本推理作家協会賞(読売新聞オンライン)

 ショックで情緒おかしくなるわ……「西澤保彦(にしざわ・やすひこ)」は1995年、『解体諸因』という様々な解体(バラバラ)事件を扱った連作集でデビューしたミステリ作家です。デビュー前に何度か鮎川哲也賞に応募したらしいが、結局賞は取れず講談社から無冠の出発となった。『七回死んだ男』という「ループ物」みたいな設定の長編で名前が売れ始め、「SFやファンタジーで見掛けるような特殊な設定を使ったミステリ」、いわゆる「特殊設定ミステリ」を書きまくります。私がミステリにハマったのは1996年で、5冊目の『人格転移の殺人』が出たあたりから追いかけ始めたんですよね。刊行ペースが速くて、年に4冊くらい出るから結構大変だった。

 多作家で一編一編の仕上がりが軽めだったせいか、正直ミステリ界の本流からはそんなに評価されていない人でした。2023年に「日本推理作家協会賞」を獲っていますけど、それ以外だと「センス・オブ・ジェンダー賞」というSF寄りの賞しか貰っていない。中には力作もあるんだけど、いまひとつブレイクし切らない……という感じで、『七回死んだ男』や『腕貫探偵』などの例外を除いて作品数の割に語られる機会が少なかった印象があります。『猟死の果て』(後に『殺す』と改題)や『彼女はもういない』(後に『狂う』と改題)など、胸糞悪くなる猟奇ミステリも手掛けており、個人的に「櫛木理宇」の小説を読むと西澤(猟奇サイド)を思い出したりする。

 シリーズ作品もいくつかあり、中でも「超能力者問題秘密対策委員会(チョーモンイン)」という「超能力を悪用した犯罪を取り締まる」ことに特化した組織が出てくる“神麻嗣子の超能力事件簿”シリーズは当時結構盛り上がっていましたが、あまり売上が伸びなかったのか8冊目でパタッと刊行が止まってしまった。「ドラマ化とかアニメ化が決まって再開しないかなぁ」と夢見てたのに。シリーズ4冊目に当たる番外編『夢幻巡礼』が好きだった。警察官なのに連続殺人鬼という「奈蔵渉」が語り部を務める異色作。この奈蔵がシリーズのラスボスになる……と思ってたのに、対決するところまで話が進まなかった。

 ファン人気が高いのは“匠千暁”シリーズ。初期は“タック&タカチ”シリーズとか言ってたけど、複数の出版社を転々とするうち「もう“匠千暁”シリーズでいいだろ」という感じになっていった。デビュー作の『解体諸因』から続くシリーズで、酒好きの大学生(時系列バラバラだから卒業後のエピソードもあるけど)が様々な事件に遭遇する。「無人の山荘になぜか大量のビールがあった、それを飲みながら『なぜこんなところに大量のビールがあるのか』を推理する」という『麦酒の家の冒険』みたいなバカバカしい話(一つの謎に対して複数の推論や解釈を展開するという「多重解決」に取り組んだ作品なので、ミステリとしては真面目)もある一方、「高瀬千帆(タカチ)の過去を掘り下げる」『スコッチ・ゲーム』や「匠千暁(タック)の過去を掘り起こす」『依存』みたいなシリアス長編もあります。シリーズとしては6冊目の『依存』が白眉で、それ以降は下火な印象。そして10冊目の『悪魔を憐れむ』を最後に新刊が出なくなってしまった。チョーモンインの方と違ってこっちは『依存』でシリーズの核心を描き終わっていたから続きが出なくなったこと自体はそんなに残念じゃなかったが……。

 単発作品も良作が多いけど、あれもこれもと言及していったらキリがない。個人的に好きな一冊に触れて〆ましょう。『黄金色の祈り』、「黄金色」と書いて「きんいろ」と読ませます。主人公はかつて中学校の吹奏楽部に所属していたが、ある年、部で人気がある少女の使っていた楽器(アルトサックス)が紛失する。状況的に誰かが盗んだと思われるが、犯人も楽器の行方も判然としないまま卒業。やがて母校たる中学校は廃校になるが、その校舎の天井裏から白骨死体と消えたアルトサックスが発見される。この事件を小説のネタにしようと、吹奏楽部の元部員たち相手に取材する主人公だったが……とにかく読んでいてイヤな気分になる、「イヤミス」の走りみたいな作品です。ノベルゲームの選択肢をひたすら間違え続けていくようなストーリーなんですよね。主人公が抱える「根拠のない自己評価の高さ」を他人事と割り切れない人ほど深い傷を負う。青春の愚かさを訥々と綴っている。タイトルの「黄金色」は管楽器のイメージであるとともに「スポットライトを眩しく浴びる人生」を指しているが、主人公自身の青春は至ってどどめ色。「アメリカに留学」「女子校の講師」「35歳で作家デビュー」と、主人公の履歴がそのまま西澤保彦に当てはまっているあたりも味わい深いです。きっと西澤保彦も自意識と向き合って書いたのだろう。それだけにひと際胸を抉る出来です。

 評判はいいけどタイトルのせいでいまいち気乗りしなかった『腕貫探偵』シリーズもそろそろ崩そうかな……このシリーズ、ほとんどの作品がKindle Unlimited対象なので、面白いかどうかはわかりませんが「西澤保彦の本は読んだことない」って方がお試しでチャレンジしてみるのにちょうどいいと思います。

「NEEDY GIRL OVERDOSE」TVアニメ化、PV&キービジュアル公開 制作はYostar Pictures(コミックナタリー)

 最近のゲームに疎い私でも知ってるくらい人気なソフトなのでアニメ化は楽しみ……だが、これ製作サイドで揉め事が発生していて絶賛係争中なんですよね。NGOの発売は2022年、低価格のインディーゲームだからというのもあるがなんと300万本も売り上げている超ヒット作です。企画を立てたのは「にゃるら」というクリエイターで、シナリオも手掛けているから「NGO開発の中心的な人物」と見做されているが、開発に必要な資金と人材(エンジニア)を集めるためパブリッシャー(販売元、書籍で喩えると「出版社」に当たる存在)へ企画を持ち込んだ――という経緯がある。このパブリッシャーが「株式会社ワイソーシリアス」で、「開発に必要な出資を行い、様々な面倒を診た」ということで現在NGOの権利を持っています。ワイソーシリアスには「WSS playground」というインディーゲームを販売するレーベルがあり、NGOはそこから出ています。

 NGOは一度延期もあったりしたけど何だかんだで完成し、売れ行きも好調でめでたしめでたし……となりかけましたが、ディベロッパー(開発者)であるにゃるらやディレクターの「とりい」が「ゲーム発売後にWSSからの発注で様々な作業を行ったのに、その対価が払われていない」と抗議する声明をアップロードしたのです。詳細不明ですが、お互い弁護士を介して遣り取りするような状態に陥っており、誰がどう見ても「関係が悪化している」としか言いようのない有様です。揉めているのが明らかになったのは今年からなんで、恐らくアニメの企画は両者の関係が拗れる前から動いていたのでしょう。少なくともアニメ制作陣はディベロッパーやパブリッシャーと揉めておらず、板挟みになっている模様。

 にゃるらはアニメの脚本と監修も手掛けていますが、現在は制作陣から抜けているためアニメの公式的な宣伝活動には参加していないし、現時点でNGOの権利はWSSにあるためアニメに関する報酬も支払われないという。WSSが「にゃるら氏より「NEEDY GIRL OVERDOSE」原作チームからの離脱の申し入れがあり、当方はこれを受諾いたしました」とコメントしているのに対し、にゃるらは「nyalraを外さないとアニメを中止にする」とWSSが宣言したせいでイベント出演やインタビュー活動などができなくなった、と主張しており、見事なくらい両者の言い分が食い違っている。WSSのプロデューサーは「ヒロインを5人出す」という案に反対して1人に絞るよう説得したり、当初2021年の6月5日に発売する予定だったのに「もっと凄いものにしたい」と言い出したにゃるらのために6月1日という本当にギリギリのタイミングで延期の調整をしたりと、NGOの開発にも深く関わっている人物なので「あんなに一緒だったのに 夕暮れはもう違う色」という歌詞が脳裏をよぎっていってしまう。

 ゴタゴタに関しては目を背けたいレベルでヒドいが、アニメそのものは出来が良さそうなので普通に期待しています。ちなみにシナリオ担当のにゃるらは熱狂的な美少女ゲーム好きで、特に「瀬戸口廉也(唐辺葉介)」の影響を深く受けている。刷り部数が少なかったこともあって所有者がほとんどいない小説版『CARNIVAL』も当然のように持っている。ちなみに私もまだコレ持っています。まどかマギカがヒットした頃、瀬戸口のところにもオリジナルアニメの企画が来たらしいが、結局実現しないでポシャったらしい。瀬戸口ファンのにゃるら作品がアニメ化したんなら、それはもう瀬戸口作品がアニメ化したようなものではないだろうか?(グルグル目)

・斜線堂有紀の『ミステリ・トランスミッター 謎解きはメッセージの中に』読んだ。

 映画『恋に至る病』の原作者「斜線堂有紀」による短編集。5つの短編を収録しており、すべて「小説推理」という雑誌に掲載された作品であるが、相互に繋がりはないから好きな順番で読んでも構わない。「頭から順に読む」ことにこだわらない人はいきなり2編目の「妹の夫」から読み出してみてもいいでしょう。

 斜線堂有紀は作品数の多い作家で、「名前は見たことあるけど、詳しいことはよく知らない」という方もおられるだろう。経歴としては「第23回電撃小説大賞」の「メディアワークス文庫賞」を獲って2017年にデビューした小説家で、どちらかと言えばライトノベル寄りの立ち位置というか「ライト文芸」方面の作家であったが、2020年に刊行した『楽園とは探偵の不在なり』がミステリ系の各種ランキング上位に食い込んだ影響もあってミステリ方面でもそれなりに名が売れている。ペンネームも島田荘司の『斜め屋敷の犯罪』にあやかって中学生の頃に考案したもので、好きな島田荘司作品は『ネジ式ザゼツキー』だから「場合によってはペンネームがネジ式ザゼ太郎になっていた」と冗談めいたコメントも残しています。インタビューによるとデビュー前から「メフィスト賞や講談社ノベルス系、それこそ倉知淳先生とか」が好きだったが、体系的にミステリを読んでなかったのでデビュー後に勉強した、とのこと。ちなみに映画化した『恋に至る病』の原作も『楽園とは探偵の不在なり』と同じく2020年刊行なので、だいたいそのへんからブレイクし始めた感じです。

 このまま勢いで好きな斜線堂作品について語りたくなるが、長くなるからやめておこう。話を『ミステリ・トランスミッター』に戻し、各編のあらすじと感想を書いていきます。

 「ある女王の死」 … 数十年に渡りヤミ金業界の女王として君臨していた「榛遵葉(はしばみ・じゅんよう)」が死んだ。何者かにナイフで刺されて、殺されたようだった。73歳、老齢と言っていいトシでありながら見た目は若々しく、「ヤミ金の女王」というイメージに反して気品のある佇まいをしており、現場に到着した刑事は戸惑う。彼女はチェスが趣味で、現場には対局途中とおぼしき盤があった。刺される直前まで犯人とチェスを指していたのだろうか? 何であれ、恨みを買うことの多い稼業だから、すぐに容疑者は浮かび上がってくると思われたが……現場にあった金庫を開錠し、刑事たちが中身を確認するシーンの直後に時代が遡り、榛遵葉の来歴が綴られる。15歳、つまり60年近く前に両親を金貸しの苛烈な追い込みによって喪った彼女は、父と母を死に追いやった金貸し「真壁」の情婦兼右腕となることで生き延びる。やがて真壁のすべてを奪って彼を自殺に追い込み、「女王」としての道のりを歩み出す。非常に我慢強く執念深い遵葉さんが、己の命までも駒にして何事かを成し遂げる、そういう物語です。あっと驚くような仕掛けはないし、派手なトリックが繰り出されるわけじゃないが、ちょっとしんみりしてしまう話。本来なら数百ページかけて書くような「女王の一代記」を40ページちょっとにまとめているため、タイパ重視の人にとってはオトクかもしれない。濃縮還元的に想像を膨らませられる人向けで、ザッと斜め読みして単純にスカッと気晴らししたい人には向かないかな。

 「妹の夫」 … 数百光年先までワープする技術がようやく確立された未来。単独有人長距離航行のパイロットに選ばれた「荒城務」は遙かなる宇宙の彼方、太陽系の外へ向けて旅立った。まだ結婚して3年も経っていない妻を残して。ウラシマ効果によって二人の間に流れる時間はどんどん食い違っていく。じかに会うことは、今生でもうないだろう。辛い覚悟とともに銀河鉄道の片道切符を手にした務は、「一方通行でもいいから地球で過ごす君の姿が見たい」と自宅にカメラを設置するが、それに映し出されたものは……と、2編目はいきなりSFになります。「ある女王の死」に「三河」という刑事が登場するから、今後のエピソードにもちょこちょこ顔を出すんじゃないかな……とか想像していたがそんな次元の話ではなかった。具体的な年代は記されていないが、「翻訳機の発達によって英語が必修科目ではなくなった」と書いているくらいだから数十年後どころではないだろう。そんな世界で「翻訳家」という仕事をしている務の妻「琴音」は迷う彼の背中を押す。このまま『ほしのこえ』みたいな切ないストーリーになるのかと思いきや、家に残してきたカメラによって「妻が殺害される光景」を見せつけられる。カメラに映っていた犯人の顔は「妹の夫」だった、とここでタイトルに繋がります。正直「ワープしてる場合じゃねぇ!」という状況ですが、動き出したプロジェクトを務ひとりの判断で止められるはずもなく、ワープは強行される。ワープ終了後、急いで地上ステーション本部と通信して事件を伝えようとするが、肝心の翻訳装置が壊れていてお互いの言葉がわからない。務は身振り手振りで「妻が殺された、犯人は妹の夫だ!」というメッセージを送ろうとする。「翻訳」が機能しない状況でのアンジャッシュ状態を描いた一編で、読み口としてはミステリというよりコメディに近い。東野圭吾のブラックユーモア短編集(『怪笑小説』『毒笑小説』)に収録されていてもおかしくないノリ。オチがどうこうというより、ラストシーンの書き方に斜線堂有紀の作家性が滲み出ていて好きです。

 「雌雄七色」 … 大ヒットドラマ『虹の残骸』を手掛けた脚本家「水島潤吾」へ、息子の「潤一」が送ったメール。それは潤吾に捨てられた母「水島一花」が遺した七通の手紙を読むよう要求するものだった。紫色から赤色へ、虹のグラデーションを描く封筒。かつての潤吾が「雌犬」と罵った女は、いったい何を告げようとしているのか……メールや手紙で構成される、いわゆる「書簡体形式」の短編小説です。ただメールや手紙の内容が表示されるだけで、潤吾が実際にこれらを読んだのかどうかは最後までハッキリしない。読者の想像に委ねられている。タイトルの「雌雄」は虹のことを指しています。検索すれば出てくると思いますが漢字の「虹」は龍(あるいは蛇)の一種で、虹(こう)がオス、霓(げい)がメスで、雌雄合わせて「虹霓」と呼ぶ。ハッキリと見える虹、気象用語で言うところの「主虹」がオスの虹で、その外側にうっすらと見える「副虹」がメスの虹、つまり霓です。ミステリでは「エピソードの順番によって意味合いが変わってくる」仕掛けは珍しくない。映画になりますが『メメント』が有名だろう。仮に「A」と「B」、ふたつのエピソードがあるとして、Aに「B本編では説明されない重要な情報」を入れて、Bに同じく「A本編では説明されない重要な情報」を入れることで「AとBどちらから読んでもビックリする物語」を作ることができます。たとえば、Aに「タカシ(Bの主人公)とマユミ(Bのヒロイン)は兄妹だけど血が繋がっておらず、タカシは近々マユミにプロポーズする予定」と書いて、Bの方に「アユム(Aの主人公)は立ち居振る舞いが男っぽいけど女性で、タカシに好意を抱いている」と書く。こうするとA→Bの順で読んだ人とB→Aの順で読んだ人で物語の印象が丸きり変わってくる(Bに「マユミがタカシの部屋に泊まった」みたいな記述があった場合、Bから先に読んだらその時点では特に気にならないがAの後だと意味深に感じてしまうし、Aに「アユムがタカシに馴れ馴れしく接する」とか「アユムはマユミに嫌われている」という描写があっても、Bを先に読まないと「マユミはアユムにタカシを盗られるんじゃないかと警戒している」ことがわからない)わけです。この「雌雄七色」も「手紙を読む順番」が重要なわけですが……こうまであからさまに「読む順番が大切ですよ!」とアピールされたら仕掛けわかっちゃうよね、という。仕掛けがわかっても構造が面白い作品ではあるので、いっそ構造分析と割り切って読むのも手です。

 「ワイズガイによろしく」 … 時は1968年、ケネディが暗殺された年。シチリアにルーツを持つギャングスタ、「シャックス・ジカルロ」はニューヨークで謎めいた忠告を受けていた。明日強盗に行くとき、東からではなく西から回って向かえ。なぜ襲撃計画のことを知っているんだ? 訝りながらも「こいつは嘘をついてない」と直感で悟ったシャックスは助言に従い、ルートを変更したおかげでトラブルに巻き込まれることなく難を逃れた。以前もシャックスは謎の声に導かれて目的を果たしたことがあり、「あれは幻聴じゃなかったのか」と驚きつつ謎の声を囁く謎の男に「賢い男(ワイズガイ)」というあだ名を与える。その後も、まるで未来を知っているようなワイズガイのアドバイスに従うシャックスだったが……タイトルが一瞬「ズワイガニによろしく」に見えた。というわけで4編目は海外を舞台にした、翻訳小説風のエピソードです。「ラベンダーの香り」ならぬ「トマトグレービーの香り」が漂う中、『時をかけないギャング』が迎える結末とは? 読んでて真っ先に連想したのは『無職転生』の「ヒトガミ」ですね。主人公が人生の岐路に差し掛かるたび夢の中に現れて予言のような忠告を残していく存在。シャックスはワイズガイのおかげでいくつかの危機を切り抜けるが、やがて「ワイズガイの助言に従った結果、危機に陥る(危機自体は助言のおかげで切り抜けられる)」というシチュエーションに直面し、「このままワイズガイを信じていいのか?」と迷い始める。これも分類上はSFになるのかな。非情な冷血漢でありながら「血の掟」は絶対遵守のギャングスタ、シャックスに魅力を感じたおかげで楽しく読めた。とにかく頻繁にトマトグレービーが出てくるのでパスタを食べたくなってしまうのが唯一の難点。

 「ゴールデンレコード収録物選定会議予選委員会」 … 1977年、無人宇宙探査機ボイジャー号に載せられた金色のレコード。それは宇宙人に向けて地球人類の文化とメッセージを伝えるために作られた、ファーストコンタクトを祈るボトルメール。当然、その収録内容をどうするかを巡って侃々諤々の議論が交わされた。収録内容、特に写真に関しては「一般から公募で集めよう」という話になり、かくして「ゴールデンレコード収録物選定会議予選委員会」が編成されることに。日本から招待された委員会メンバーのひとり、「御竈門玖水(みかまど・きゅうすい)」に強烈なキャラクターに圧倒されながらも委員長の「カール・セーガン」は会議に臨むが……カール・セーガンは実在の人物で、「核の冬」や「テラフォーミング」といった用語を普及させた人です。御竈門含む12人の委員会メンバーとセーガンが円卓を囲んでプレゼン大会を開催する、「セーガンと円卓の奇人たち」といった趣のエピソードです。概要としては、各メンバーが持ってきた写真を見せて「ゴールデンレコードにこれを収録するべきだ」と主張し、その根拠を解説、他のメンバーが疑問点や問題点を指摘して「本当に収録するべきか否か」を話し合う。ちょっと『ダンガンロンパ』っぽい雰囲気のあるコンペティション小説です。メンバーが持ってきた写真には大抵何かしらの粗があるんで、そこを突っついて落とす――というのが基本的なムーブとなる。正直かなり地味な内容で、バランスを取るために御竈門のキャラを濃い目にしている。濃すぎてちょっとしつこい印象もありますが、『都市伝説解体センター』を凄く小規模にしたような感じでなかなか面白い。御竈門玖水の再登場を願いたくなるが、今のところこの作品にしか出ていないみたいだ。

 まとめ。「謎解き要素がある」点では共通しているが、一編ごとにタッチを変えてバラエティ豊かなムードにしているミステリ系短編集。個人的な好みとしては「ゴールデンレコード収録物選定会議予選委員会」>「妹の夫」>「ワイズガイによろしく」>「ある女王の死」>「雌雄七色」といった順になるが、一番下の「雌雄七色」もハズレというほどではない。ちなみに発表順で並べ替えると「雌雄七色」→「妹の夫」→「ある女王の死」→「ワイズガイによろしく」→「ゴールデンレコード収録物選定会議予選委員会」になります。


2025-11-06.

・いまひとつ「目玉」に欠ける秋アニメ勢ですが、個人的に『私を喰べたい、ひとでなし』『アルマちゃんは家族になりたい』『嘆きの亡霊は引退したい 2期』『東島丹三郎は仮面ライダーになりたい』『グノーシア』の5本を毎週楽しみにしている焼津です、こんばんは。

 『私を喰べたい、ひとでなし』、公式略称「わたたべ」は「女が女に巨大感情を向ける」という時点で広義の「百合」に属する作品であるが、恋愛要素はほとんどないため普通に伝奇スリラーとして観ても問題ない内容になっています。主人公「八百歳比名子(やおとせ・ひなこ)」は幼い頃に交通事故で両親と兄を亡くし、自身も体に深い傷を負って真夏でも袖の長い服装をしている少女。「死にたい」「早く家族のところに行きたい」と願いながらも、「比名子だけは生きて」という言葉が忘れられず、辛うじて命を絶たずに済んでいる。そんな彼女の前に現れた、潮の匂いがする、海のように深く青い瞳を持った少女「近江汐莉(おうみ・しおり)」。彼女は「人魚」の妖怪であり、妖怪に好かれる匂いを放つ比名子を「私のもの」「誰にも渡すつもりはない」と宣言する……という、『うしおととら』と『アトラク=ナクア』を混ぜたような伝奇ストーリーです。

 主人公が死にたがりとあって話の雰囲気が暗く、友人「社美胡(やしろ・みこ)」の明るさで中和しようとした結果、妙に気合の入ったキャラソン「太陽、なってあげよっか?(はぁと)」が作られるという珍事態が生じている。美胡ちゃんの過去エピソードを知っている原作読者はあまりの温度差に「お、おう……」と絶句するしかない。メインストーリーが暗すぎて作者もしんどいからかコミカルなパートも結構混ぜられているわたたべ、実は初期の構想だともっとコメディ寄りの漫画だったらしい。比名子が死にたがっておらず、汐莉の知能がもっと低い感じ(でも正体がグロいのはそのまま)でドタバタする内容だったとか。単行本でも初期汐莉が「くらーい!」と本編の展開にツッコミを入れるおまけページがあったりします。「人喰いの妖怪」という本来なら恐れ慄いて然るべき存在を、「死にたがり」ゆえむしろ歓迎する……という倒錯に本作の妙味がある。

 原作は7巻でひと区切り付けて、新キャラをチラ見せしつつ8巻から新章開始――という流れだからアニメも恐らく7巻で終わりだろうけど、原作の最新刊が11巻なんで2期やるほどのストックがまだ貯まってないんですよね。新章に入ってからキャラが増えるんで是非2期もやってほしいが、現実的には難しいだろうな。百合系のアニメで2期が来ることってほとんどないし……あの名作『やがて君になる』や、「キマシタワー」の語源である『ストロベリー・パニック』さえ続編は作られていない。始祖『マリア様がみてる』と中興の祖『ゆるゆり』だけが特異点と化している。今は新鋭わたなれ(『わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?)』)が突破口を開いてくれることを祈るしかない。

 『アルマちゃんは家族になりたい』はAIエンジニア「神里エンジ」とロボット工学者「夜羽スズメ」がタッグを組んで製造した少女型兵器「アルマ」がふたりを「おとうさんとおかあさん」と認識して疑似家族関係を展開する、ほのぼのファミリー譚(メカ要素あり)です。原作者は「ななてる」、以前「天城七輝(てんじょう・ななき)」というペンネームを使用していましたが「ななてる」というあだ名の方が浸透したため15年くらい前に切り替えた。特に何かと戦うことを想定しているわけじゃないのに兵器として作られているあたりよくわからない作品ですが、アルマちゃんが可愛いので全て帳消しである。やはりアニメ界はロボ好きが多いのか、そんなに予算が潤沢とも思えないのに謎なくらい作画が凝っていて見応えがあります。タイトルで観る気がしない、という方も騙されたと思って冒頭数分だけでも鑑賞してほしい。

 『嘆きの亡霊は引退したい 2期』は1期目から1年、分割にしてはちょっと掛かったな……という雰囲気で始まった2期目です。原作小説の書籍版4巻あたりからスタートしている。原作は地の文が多く、みっしりと字が詰まっていて読み応えがあるのですが、情報量が多すぎるせいでアニメ版はだいぶ削っています。原作ファン的には「端折り過ぎだろ」と思う箇所がなくもないが、アニメのテンポを考えると仕方ないかな……と受け入れています。別にヒロインというわけではないけど、やたら不憫な目に遭うせいで印象に残る「ティノ」が相変わらず可愛い。あとクライたちに執着するせいでどんどん厄介事に巻き込まれる「アーノルド」、原作では活躍シーンが省略されまくっているのですが、アニメスタッフが「可哀想」と思ったのかちょっとカッコいいカットが盛り込まれていましたね。

 原作4巻の内容が終わって現在5巻の範囲に差し掛かっていますが、クライの義妹「ルシア・ロジェ」やスマート姉妹の兄「アンセム・スマート」というアニメではちょっとしか出番のなかったストグリメンバーがいよいよ本格的に活躍するので原作ファンとしてすごく楽しみです。ちなみにストグリのメンバーはもう一人存在する(幼なじみではなく途中参加なので回想シーンには出て来ない)けど、登場するのは3クール目かな……1クール目が1巻から3巻まで、同じペースで進行するなら2クール目は4巻から6巻までかな、と予想していたが2クール目の5話(通算18話)で細部を端折りまくって5巻の半分くらいエピソードを消化していたから7巻まで終わらせるつもりと思われる。7巻は「武帝祭」という天下一武道会みたいな催しを描くエピソードなんで、あそこで終わると収まりがいいんですよね。原作の9巻と10巻は前編と後編みたいな関係であり、8巻はその前振りに当たるエピソードだからまとめて3クール目にしてほしかったし。ただ、欲を言うなら2期で原作4〜6巻のエピソードをやって、7巻(武帝祭編)は劇場版として上映してほしかった。「嘆きの亡霊(ストレンジ・グリーフ)の前に立ちはだかったのは……嘆きの悪霊(ストレンジ・フリーク)!?」みたいな予告まで妄想していましたよ、私は。

 『東島丹三郎は仮面ライダーになりたい』は『エアマスター』や『ハチワンダイバー』の「柴田ヨクサル」による漫画が原作。当然「石森プロ」や「東映」の許可は取っています。子供の頃から仮面ライダーが大好きで、「大きくなったら仮面ライダーになる!」と誓ってストイックな修行の日々を送っていた主人公「東島丹三郎」。しかし40歳になり、いい加減「己は仮面ライダーになれない」という現実を受け容れようとしていたところ、ショッカーの戦闘員に扮した「ショッカー強盗」なるものが世間を騒がせる。偽物とはいえショッカーをブチのめせることに歓喜する丹三郎、しかし事態は彼の予想を超えて激しく変転する……という、イカレているようでいて「ライダーとは何か」「ヒーローとは何か」を巡るアツい物語になっています。

 故・大迫純一の「闘いとは、拳を叩きつけることではない。強さとは、負けないことではない。勝利とは、敵を倒すことではない」という言葉を思い出す。40歳という今更生き方を変えるのも困難になった年齢でようやく運命と出会うことができる、ってあたりは牧野修の短編「翁戦記」(『忌まわしい匣』所収)を少し連想する。邪神復活に備えて古代(縄文時代)から現代日本に転生した戦士たち、しかし復活のタイミングが数十年ズレたせいで戦士たちは盛りを過ぎ、すっかり爺になってしまった! 老衰で亡くなる仲間も出てくる中、いよいよ待望の邪神が目を覚ます……という『幻魔大戦』のパロディみたいな伝奇小説なんですが、老いさらばえた体で必死に強大な敵へ立ち向かっていく切なさに涙を禁じえないマイ・フェイバリット転生譚です。さておき『東島丹三郎は仮面ライダーになりたい』、アニメは演出が凄まじくて原作の良さを何倍にも増幅しています。あの「島本和彦」も悔しがるクオリティの高さ。是非リアルタイムで味わってほしい。

 『グノーシア』は「プチデポット」という4名のスタッフで構成されるインディーデベロッパー、簡単に言うと同人サークルみたいなところが作ったインディーゲームを原作にしたアニメです。比較的近い例で言うと『天穂のサクナヒメ』、あるいは『真月譚 月姫』や『ひぐらしのなく頃に』みたいな感じ。最近は『8番出口』も実写映画化したし、インディー発のゲームが表舞台でメディアミックスされるのも珍しくなくなってきました。次はアクおど(『アクアリウムは踊らない』)あたりかしら? ともあれ『グノーシア』は2019年にPlayStation Vitaで発売され、その後ハードを変えながら販売され続けている。いわゆる「人狼ゲーム」をベースにしたADVです。

 人狼ゲームについて解説すると長くなるので詳細は省きますが、要するにミス研とかがよくやる「犯人当てクイズ」をゲームにしたようなノリ。対人要素が強く、麻雀みたいに面子を集めないと遊べないところがネックで、『グノーシア』はそのへん工夫して「一人で遊べる(CPU戦のみの)人狼ゲーム」として構築している。プレーヤーは宇宙船という脱出不可能な環境の中で、乗員に紛れ込んだ「グノーシア」と呼ばれる「生前の人間そっくりに振る舞うがもう人格はとっくに死んでおり、人間を皆殺しにすることを至上の命題とする怪物」を暴くための「議論」に参加することを強制される。果たして主人公は生き残れるのか……と、こんなシチュエーションです。アニメ版は1話目をチュートリアルと割り切って進行し、「やり方はわかったね? じゃあここからが本番だ」という形で2話目がスタートする。2話目のタイトルが「ループ」なのでネタバレもクソもないが、もう一度開始地点へ戻って「議論」に再チャレンジします。「えっ? でも1話目で誰がグノーシアか判明してんじゃん、即終了では?」と疑問に思うかもしれませんが、そこからもいろいろと波乱があるワケだ。原作知識があっても「誰がグノーシアか」はアニメスタッフの匙加減次第なんで原作ファンもアニメ勢と一緒に頑張って推理するしかない、という面白い状況になっています。ミステリ要素の強い作品はアニメ化が難しいとされているが、こういう方法で切り抜けるのは新鮮で素直にワクワクしています。

『みなみけ』5期のサブタイトル決定、『みなみけ これから』

 あの『みなみけ』5期が遂に実現とは……思わず「“幻想(ユメ)”じゃねえよな…!?」の顔になってしまった。調べてみると「TVアニメ新シリーズ製作決定」というニュースは去年の七夕に出ていて、私も見たはずなんですが完全に忘れていました。『みなみけ』は「桜場コハル」による南家の三姉妹を中心にした日常マンガで、2004年に連載開始ですから今年で21年になる。「この物語は、南家三姉妹の平凡な日常を淡々と描く物です。 過度な期待はしないでください」という前置きも懐かしい1期目のアニメが2007年放送で、2期目が2008年、3期目が2009年に放送され、4期目はちょっと間が空いて2013年。5期目の放送が来年だとしたら13年ぶりであり、「ちょっと」どころではない間の空きようだ。

 日常マンガだからストーリーらしいストーリーは特になく、レギュラーキャラもほとんど増えないので1巻どころか10巻くらい飛ばしても問題がない。私も読んでない巻が結構あるけど平然と「ヤンマガweb」で最近のエピソードを摘まみ読みしています。単行本も一時期持っていたけど、置いていた場所が悪かったせいでヤケがヒドくて処分してしまったな。『みなみけ』のアニメ化が始まった頃はまだそこまで「原作再現」にうるさくなかった時代で「原作とはだいぶ絵柄が違うけど、まぁいいか」と割かし寛容に受け止められていましたが、オリジナル要素をブチ込んだ2期目(おかわり)だけは非常に評判が悪く、未だに『みなみけ』ファンの前でおかわりの話をすると機嫌が悪くなるほどです。4期目(ただいま)は作画がだいぶ良くなっており、絵柄もかなり原作に寄せたファンにとって理想の仕上がりになっている。正直、1〜3期は今観るとキツい部分が幾許かあるのですが、4期に関しては現代のアニメと比べてもそこまでギャップがなくて満足の行く出来栄えです。なんだかんだ1期目の印象が強いので、久々に4期目を見返すと「ここまで作画良かったっけ?」ってビックリする。

 願わくば5期目(これから)も4期のクオリティに並ぶか、追い越す仕上がりになってほしいものだ。ちなみに私の好きなキャラは一貫して「内田ユカ」。可愛くて性格も良いのにアホで幸薄そうなところがたまらない。Youtubeで無料配信も始まっているし、放送までワクワクが持続しそうだ。

TVアニメ『千歳くんはラムネ瓶のなか』、第6話以降の放送は「制作上の都合および本編クオリティ維持のため」延期、12月に再開予定

 万策尽きちゃったか……チラムネこと『千歳くんはラムネ瓶のなか』は分割2クールでの放送を予定しており、1〜3月の間に休んで4月から2クール目を開始する段取りになっていましたが、この調子だと2クール目を無事始められるかどうかも怪しくなってきたな。やっぱり人手不足なんでしょうね。今アニメは海外市場での売上が凄くて、円安の影響もあるだろうがもはや国内よりも海外の稼ぎの方が大きい(2024年は国内1.6兆円に対して海外2.1兆円)から「とにかくどんどん作って海外に売りまくろう」と現場は人材の奪い合いになっているそうです。穴埋めで流す番組が既存の映像を使い回した総集編とか声優が出演する特別番組とかじゃなく、まったく関係ない『うーさーのその日暮らし』の再放送というのが現場の限界を証明している。

 『千歳くんはラムネ瓶のなか』の原作を出しているレーベルは小学館の「ガガガ文庫」、ここのアニメはお世辞にも予算が潤沢と言えず、過去には『俺、ツインテールになります。』で悲惨な作画崩壊を引き起こしていた(作品そのものは愛されていて原作は大団円&完結後も記念本が出ている)。レーベルのカラーを変えた大ヒット作『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』も、1期目は露骨な低予算アニメで事前に期待する人はほとんどいませんでした。『やはり俺の〜』が当たったことで流れが変わり、2024年に『負けヒロインが多すぎる!』という突然変異みたいな良質アニメが放送されて「ようやくガガガアニメ=ラノベ原作アニメの中でもひと際『う〜ん……』な出来という呪縛から解き放たれたのか」と思っていたのに……。

 1クール目は全13話の予定でしたが、11〜13話に関してはどうなるか今のところ決まっていません。過去の例で言うと、2011年に『魔法少女まどか☆マギカ』が東日本大震災の影響で11話と12話(地域によっては10話も)の放送が延期になったり、2012年に『ガールズ&パンツァー』が制作の遅れから2回も総集編をやって11話と12話の放送が間に合わなくなったりしています。もう少し近いところでは2021年、『マギアレコード』の2期目がたった8話しかなく、明らかに制作が遅れたであろう4話分を「Final SEASON」と言い張って翌年放送している。2024年、つまり去年には『ささやくように恋を唄う』が「制作上の都合」から「特別編」と称し2週連続で総集編を流し、遅延した11話と12話を半年後の年末にまとめて放送しています。似て非なるケースとして未だに語り草なのが『レガリア』というオリジナルアニメ、2016年に夏アニメとして放送開始しましたが、「本来意図していたクオリティと相違がある」という理由で一旦放送を中止し、作り直したうえでまた1話目から放送するという異例の対応を取っています。チラムネに関してはガルパンやささ恋の状況に近い感じですかね。

 チラムネの制作会社は「有限会社feel.」、あの「すべてのロボットアニメは道を譲れ!!!!!!」というコピーで顰蹙を買った『JINKI:EXTEND』が初の元請作品である。地上波の限界を攻めた『ヨスガノソラ』やきらら系の中で「もっとも汚い」と言われた『おちこぼれフルーツタルト』を手掛けているが、『ヒナまつり』みたいな作品もやっています。最近だと『Summer Pockets』がなかなかイイ感じだった。今年はサマポケに加えてチラムネと同じクールに『ちゃんと吸えない吸血鬼ちゃん』もやってるからキャパオーバーしちゃったのかな。私自身はアニメ観てなかった(原作は途中まで読んでる)けど、ラブコメ系ラノベ作品の中でも特に期待されていた一本だけに今の状況は心配である。正直、今のアニメ界は「作り過ぎ、アニメスタッフは無限に存在するわけじゃないんだぞ」という状況なんだろうけど、落ち着くのはまだまだ先なんだろうな。

・芦花公園の『極楽に至る忌門』読んだ。

 乱暴な書き方をすると、いわゆる「因習村」を舞台にしたホラー。もう少し丁寧な書き方をするなら、「民俗学的な要素を取り入れつつ自業自得な末路を迎える人々の姿を描く連作短編集」。四国の山奥に位置する架空の村で祀られている、「ほとけ」なる謎の存在を巡って登場人物たちがヒドい目に遭う。

 著者の代表作である「佐々木事務所シリーズ」のスピンオフに当たる作品ですが、既刊を読んでいなくても別に問題はありません。佐々木事務所シリーズには車椅子姿ながら「最強の拝み屋」「最後の手段」「最終兵器現人神」と畏怖される人物「物部斉清(もののべ・なりきよ)」が登場するのですけど、その物部さんですらどうすることもできずに匙を投げてしまった……という最悪のケースを綴ったのが本書なんです。『呪術廻戦』で喩えると「五条悟」が事態の収拾を諦めて帰っちゃった感じ。だから佐々木事務所シリーズを先に読んでおくと「マジかよ、あの物部さんでもどうにもならないのかよ……」という絶望感を味わえるものの、「匙を投げた=あまり活躍しない」ということでシリーズ知識が要らない作品に仕上がってもいる。一個一個のエピソードが短いこともあってかコミカライズ版も連載されており、そちらから入るってルートもあります。シリーズ本編は結構バトル要素が強くて、冗談抜きで領域展開ばりの異能を駆使するキャラとか出てきます。1作目の『異端の祝祭』は言うなれば「ウィッカーマンとかホルガ村をブッ潰しに行く話」だし。

 収録されている短編は「頷き仏」「泣き仏」「笑い仏」「外れ仏」の4つ。「頷き仏」は平成15年、友人の里帰りに付き合って舞台となる村に足を踏み入れた青年の物語。チュートリアルみたいなエピソードなので、これを飛ばすとワケがわからなくなる。友人の祖母は村八分みたいな扱いを受けており、村民たちの態度は「よそよそしい」の域を超えていた。それとなく理由を聞いた友人に対し、祖母は「頷き仏をね、家に近づけたのよ」と謎の返答をする。その言葉を耳にして俯く友人。いったいこの村で何が起こっているのか? 友人が姿を消した後に何処からか電話が掛かってきて、「ととをくうちょるんですよねえ」と意味不明なフレーズを投げかけられる。このフレーズが印象的で、読み終わった後も頭蓋にこびり付く。直接的なグロい描写とかはないんだけど、とにかく厭らしさに満ちています。この時点では物部斉清は登場せず、代わりに「津守日立」という別の拝み屋が出てくる。要するに、津守が下手を打って、その尻拭いとして斉清さんが出陣することになるも、時すでに遅し――ってのがこの本の大枠となっています。なんとこの「頷き仏」、試し読みとして全文丸々ダ・ヴィンチWebに掲載されているので、気になる人は今すぐ無料で読むことができる。私の感想文なんか読んでいる場合じゃないぜ!

 続く「泣き仏」で「てんじ」なる化物――「猿神」の一種――に関する説明が入り、少しずつ村に棲まう異形の正体が見えてくる。3編目の「笑い仏」でようやく斉清さんが降臨し、「きた!斉清さん来た!これで勝つる!」と喜んだのも束の間、関係者たちが愚か過ぎてせっかく伸ばされた蜘蛛の糸をフイにしてしまう。ホラー系のノベルゲームで「最悪の選択肢をチョイスしたルート」を覗き見るような暗い愉悦とともに、奈落へ向かって真っ逆さまに墜ちていく人々を傍観する以外に道はない。そう、これは「バッドエンドになることが分かり切っている」タイプのホラーなんです。救いはありません。

 ラストの「外れ仏」は単一のエピソードというより、物語全体のエピローグに相当する章です。「ほとけ」として祀られているはずの「てんじ」がなぜ人々に災いを為す厄神と堕してしまったのか、種明かししていく。ミステリであれば解決編なんですが、もう解決もクソもない有様ですからね。事件関係者が全員死亡した後で等々力警部に真相を話している金田一耕助のような、途方もない虚しさが漂う。超常的な現象が起こる話ではあるが、「イシュタルの冥界下り」と絡めて儀式の実相を解釈していく流れなど、謎解き部分の魅力はしっかりしている。たとえば一編目の「頷き仏」、一見するとよくあるお地蔵さまみたいだが、普通のお地蔵さまに比べてどこか俯きがちで、まるで首肯しているかのよう。しかし、その本当の意味は……といった具合に「謎が解けることでゾッとする」仕組みになっています。さっきも書いたけど「頷き仏」はダ・ヴィンチWebで全文公開されているから気になった人は読んでみてください。ちなみにカドブンのサイトでも同様に全文読めます。

 怖いというより「胸糞悪くなる」系統のホラーです。避けられたはずなのに、ことごとく選択を誤って悲惨な結果に辿り着く。それもこれも、生きているうちに「極楽へ行くこと」を望んで、そのためならどんな犠牲を払っても構わない――などと欲深く振る舞ったからだ。果たして外道どもは望み通り極楽へ到達することができたのだろうか? それは……しんでみなくてはわからないですねえ


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