2023年9月〜12月


2023-12-28.

・年の瀬も迫る中、今年の夏アニメとして放送された『夢見る男子は現実主義者』をやっと観終えた焼津です、こんばんは。放送当時に1話目だけ視聴して「何か違うな……」となってしまい、2話目以降に目を通すことにあまり気が進まなかったせいもあります。録画用HDDの空きが少なくなってきて残すか消すかそろそろ決心しないといけなくなり、重い腰を上げた次第。

 『夢見る男子は現実主義者』はライトノベルが原作の青春ラブコメで、原作4巻あたりまでの範囲を多少構成を変えたりしながらアニメ化している。原作は「主人公である男子高校生の日常をシームレスに描いている」ことが特徴であり、その繋ぎ目のなさゆえに読者も没入して楽しめるという大きな魅力を持っているのだが、反面で映像化する際に「切り所を見つけるのが難しい」という難点を抱えていました。案の定、アニメは「えっ、ここで終わり?」って拍子抜けする回が多く「シリーズ構成によっぽど難儀したんだろうな……」とスタッフの苦労が偲ばれる出来上がりになっている。作画は、さじょっち(主人公)の顔がいまひとつ安定しないことを除けばそこまで気にならなかった。あくまで「HJアニメ作品」という枠組みの中では、という但し書き付きになるが恵まれている部類だろう。比較的キャラ数の多い作品だけに、端役に至るまでちゃんとビジュアル化されているのは素直に嬉しい。しかし演出面ではかなり不満が残るというか、明らかに「テンポがおかしい」と感じるシーンがいくつもあって引っ掛かりを覚えずにはいられなかった。ヒロインである「夏川愛華」が物言いたげな顔をして黙り込む/さじょっちが気まずそうな表情をして言葉に詰まる、というカットがあまりにも多く、会話やモノローグが大幅に刈り込まれているアニメでは「心の揺れ動き」という要素も伝わりにくくなっている。尺の都合もあって仕方ないとはいえ、アニメだと夏川が「なぜ佐城渉が自分から距離を置き始めたのか」ってことについて真剣に考え込んでおらず、ただ戸惑っているだけみたいに映るんですよね。ラブコメアニメを観る層が期待するであろう「青春の甘酸っぱさ」や「良い意味でのもどかしさ」が原作からだいぶ減衰している印象でした。アニメは夏休みが終わって「さあ、これから2学期だ」という場面で終わっており、原作も2学期編が本格的にスタートする5巻からアニメでは特にいいところのなかったクロマティさんが活躍する最新刊の8巻までとストックが充分にある状況だけど、ハッキリ言って2期目は望み薄だな。というか放送期間中に原作の新刊が一冊も出ておらず、なろうでの連載も止まっている状態だからエタらないかどうか心配でそれどころじゃないというのが本音である。

 原作ファンとして放送前に夢想していたクオリティには到底届かないが「ヒドすぎる」と嘆くほどヒドくもなく、なんと言うかリアクションに困るアニメだった。とりあえず芦田は可愛かったです。CV誰だろうと思ったら「花守ゆみり」か……やたら聞き覚えある気がしたけどFGOのクリスマスイベントで耳にしまくっているネモ役の人だった。しかしクロマティこと東雲クロディーヌ茉莉花はチョイ役ながらも出番があるからまだいいとして、佐々木有希(主人公のクラスメイト・佐々木の妹)は本編だと声しか出てこないから完全に「OP映像に出てくるツインテの子、誰?」ってなっちゃってるなぁ。それ言ったら本編に声の出番すらなかったオルガちゃん(『魔弾の王と戦姫』)の立場がないんだけど。アニメ公式サイトのキャラ紹介でCV表記がないにも関わらず添い寝用ベッドシーツ(リンク先だいぶ下の方)まで作られたオルガちゃん、冷静に考えると唯一無二な存在だ。

 HJ作品と言えば今度は『モブから始まる探索英雄譚』のTVアニメ化企画が進行中とのこと。異世界に転生したり転移したりするのではなく、現実世界にダンジョンやモンスターが発生するタイプのファンタジー、いわゆる「現代ダンジョン物」です。私は1巻の冒頭しか読んでいないので詳しい内容は知りません。HJで最近注目しているシリーズは『灰原くんの強くて青春ニューゲーム』とか『最低ランクの冒険者、勇者少女を育てる』ですが、このふたつがアニメ化まで行くかどうかはわからないし、それを望むべきかどうかについても今のところ結論は出ていない。とにかく原作がキチンと続いていずれ円満完結するところまで進んでほしいことは確かだ。

しょたん「君は冥土様。」2024年TVアニメ化!元殺し屋のドジっ子メイドに家族ができるまで(コミックナタリー)

 たまにタイトルが「冥途様」だったか「冥土様」だったかわからなくなることで有名な『君は冥土様。』がアニメ化とな。個人的には好きな漫画ですが、「元殺し屋」というヒロインの経歴をギャグとして処理しようとする部分とギャグにするには重すぎる設定(天与の才能があるからという理由で年端も行かぬ頃に両親を殺害されたうえ攫われて殺しのエリートとして育てられた。心が凍りついてしまったため情緒面も幼女のまま止まっている)の噛み合いが悪く、そのへん若干人を選ぶかもです。『SPY×FAMILY』のヨルさんと違って殺し屋って裏稼業を微塵も隠そうとしないので、倫理観がよりガバガバに感じられるという……それはさておきスタイリッシュ系のアクションも魅力の一つゆえ、作画と演出次第ではあろうけれどアニメ化を契機にブレイクする可能性も出てきましたね。

 この漫画、ヒロインの雪さんが3話目の食事をキッカケに「勝田ソース」というとんかつソースに病的なレベルでハマってしまうという展開があり、その後何度も勝田ソースが出てくるから普段は醤油派の私もこの漫画読んでるとソース使いたくなるんだよな……アニメ化記念ということでサンデーうぇぶりで4巻まで無料公開中だから気になる人は読んでみてください。公開期間は年内いっぱいです。

「陰の実力者になりたくて!」完全新作劇場版“残響編”制作決定、墓に落ちる影の主は(コミックナタリー)

 「スタッフとしては3rd seasonもやりたいんだろうけど、具体的な予定は決まってないんだろうな……」という雰囲気で終わった『陰の実力者になりたくて! 2nd season』、まさかの完全新作劇場版が制作決定です。これは2nd seasonの続きをそのまま映画でやるってことなのか……? ティザービジュアルから判断するにオリアナ王国編の後の〇〇編に関係していることは確かなんだろうが、詳しい説明がないので確信が持てない。というか、原作では最後にアレしていたベータがアニメではアレしていないので展開が変わる可能性も出てきてる。ただ、ややこしいことにYoutubeで公開されている「かげじつ!せかんど」の最終話では原作同様ベータがアレしたことになっており、「どっちを判断材料にすればいいんだ?」と混乱を来しています。単にアニメ本編では尺の都合で該当シーンを削っただけなのか、それともすり合わせかがうまく行かなくてかじげつ!の方だけ原作準拠になってしまったのか……謎は深まりばかりだ。どっちにしろ映画は観に行くつもりです、近場で公開されるのなら。

綾辻行人のミステリー小説「十角館の殺人」実写映像化、「どうやって?できるの?」(映画ナタリー)

 いわゆる「新本格ブーム」の嚆矢となったあの『十角館の殺人』が実写化だと? 私はミスヲタなので新本格について語り始めるとクソ長くなる(エドマンド・クリスピンやニコラス・ブレイクなどによる「英国新本格」や60年代の笹沢左保を中心とする「昭和新本格」についても言及しないと気が済まない)から割愛するが、とにかく『十角館の殺人』は後続の作家たちに並大抵ではない影響を与えた作品です。Fateで有名な奈須きのこもコンビニバイトしていた頃に店で買った『十角館の殺人』に衝撃を受けたとインタビューで語っている。

 『十角館の殺人』は綾辻行人のデビュー作であるとともに“館”シリーズの1作目でもあります。“館”シリーズは「中村青司」という異形の建築家が各地に建てた奇怪な館を巡る作品群であり、タイトルはすべて『〇〇館の殺人』で統一されている。9作目まで完成しており、現在は10作目『双子館の殺人』を連載中。連載は今年始まったばかりなので、いつ頃になったら終わるのかまだ見通せない。ちなみに掲載誌の“メフィスト”はかつて雑誌として書店で一般販売されていましたが、2020年10月に一旦休刊。2021年10月から再開したものの、Mephisto Readers Club(メフィストリーダーズクラブ)の有料会員のみに配送される仕組みとなっており、今は「雑誌」じゃなくて「会誌」という扱いです。

 現在書店で売られている『十角館の殺人 <新装改訂版>』は2007年に発行されたもので、割と最近出たような気がしていたのにもう16年経っていてビビったが、それはともかく一番最初のバージョン(講談社ノベルス版)は1987年発行。もう36年も前の作品ということになる。少し前にコミカライズ版も出た(全5巻で完結済み)が、この36年間ずっとドラマや映画になったことがなかった『十角館の殺人』が遂に実写映像化するということで、「やっと……」というより「ど、どうやって?」な戸惑いの念が強く湧き上がる。『十角館の殺人』はごく簡単に言うと「仕掛けのあるミステリ」なんですが、文章ならともかく映像でやると仕掛けがバレバレになってしまう。なのでずっと映像化していなかったわけですが、コミック版もあるくらいだし遣り方次第ではうまくやれる……のかなぁ。コミック版は1話目を試し読みしただけなのでよく知らないんですわ。

 最後に豆知識的なトピックをいくつか。1つ目。“館”シリーズは現在連載中の『双子館の殺人』が10作目と書きましたが、作者の綾辻行人は以前から「“館”シリーズは全10作で完結する」と宣言しており、『双子館の殺人』がシリーズ完結編となる予定です。「シリーズ全体の大きなオチがあるような物語にはなりません」「何気なく10作目を書いて終わりにする、というイメージ」らしく、従って「“館”シリーズ最終作!」みたいな仰々しい宣伝はされていない。気が変わってしれっと11作目を書く可能性もなくはない? 2つ目。「館シリーズって、そういえば佐々木倫子が何か描いてなかったっけ?」とうっすら覚えている人もおられるかもしれませんが、『月館の殺人』は綾辻行人原作だけど「つきだてのさつじん」なのでそもそも館モノではありません。作中世界に中村青司が存在することを仄めかしているので関連がないわけではないが、とにかく“館”シリーズにはカウントされていない。3つ目。実は“館”シリーズって一度ゲーム化しているんです。タイトルは『ナイトメア・プロジェクト 〈YAKATA〉』。1998年発売だからまだPSの時代である。ゲーム好きの綾辻行人が監修した一本ながら、ジャンルはADVではなくRPG。小説の舞台となった館とそっくりな場所(似せているが原作の見取り図を完全再現しているわけではない)を歩き回ることができる、という意味ではファンにとって嬉しい内容であったが、モンスターと戦ってレベルアップするようなゲームなのでコレジャナイ感も強い。珍作ではあるけどクソゲーではなく、綾辻もこのゲームの制作を通じて「キャラクターを立てることを少し学んだ気もする」と語っており、その経験が後の『Another』へと繋がっていく。物凄く売れたわけではないのにコミカライズが出ていたり攻略本が3種類もあったりします。このコミック版『YAKATA』も一応“館”シリーズの関連作ではあるので、機会があれば読んでみてはいかがだろう。

・晴夢の『エロゲファンタジーみたいな異世界のモブ村人に転生したけど折角だからハーレムを目指す』読んだ。

 「晴夢」は「はれむ」と読む。PNで堂々とハーレム好きを宣言している著者による異世界転生ハーレムファンタジーです。18禁なろうこと「ノクターンノベルズ」で連載されている作品であり、イラスト自体はおとなしめというか乳首券すら発行されていないが、本文においてヤることはしっかりヤっています。正確な年齢については言及されていないが、主人公たちは概ね十代前半くらい(下手すると10に満たないかも……)、この手の話にしてはだいぶ幼いところから始まるのでロリ系が苦手な人だと盛り上がれないかもしれない。そこらへんに注意すべし。

 異世界トラックに轢かれてナーロッパ転生を果たしたまでは良かったものの、知識チートできるほど実用的な知識を備えておらず野に埋もれかかっていた主人公「アレク」。彼は己に魔力があることを自覚し、ようやく未来への展望が開け始めた。この世界において魔法が使えるのは竜の血が混じっている人間だけであり、能力の強さに応じて「貴竜」「準貴竜」「雑竜」の3つに分類される。アレクは雑竜、個体数がもっとも多いランクだ。身体強化などの無属性魔法しか行使できず、属性魔法を自在に操る貴竜や準貴竜にはまったく敵わないザコ……とされているが、実のところアレクは貴竜を相手取れるほどの力を有していた。竜の血を引く者は押し並べて「欲」の力が強く、アレクの下半身もまた性豪の如き荒々しさを誇っている。まだ幼く男に慣れていない準貴竜や貴竜の少女を組み敷き、目指すはハーレムの建造。尽きぬ精力を頼りに見果てぬ夢を追いかけるアレクだったが……。

 「異世界トラック」だの「ナーロッパ転生」だの、「主人公がなろう読者である」ことが既に前提となっているあたりに時代を感じてしまう一冊である。精神年齢的には20代相当の主人公が年端もいかない女の子を「攻略」してしまうの、倫理的にはかなりマズいがまぁこれは「エロゲファンタジーみたいな異世界」なので……竜の血を引いてる人間は実年齢と見た目が一致しないことも多く、合法ロリババアも存在するみたいだから「稚い容姿の少女とまぐわう」ことはこっちの世界じゃNGじゃないっぽいです。ちなみにタイトルに「エロゲファンタジー」とあるが、あくまで「みたい」であり、主人公が生前遊んでいたエロゲそっくりの世界に転生してゲーム知識で無双する……という話ではありません。「ステータスオープンしてみようとしたけどステータスという概念がなかった」とわざわざ言及しているシーンもあり、「ゲームっぽいけどゲームの世界ではない」ことをさりげなく強調している。

 一応主人公も戦闘技術を磨こうとしていたりなど、努力要素は盛り込まれているもののオマケ同然であり、基本的には脳天気にヤりまくるだけのあっ軽いエロファンタジーです。主人公の行動を妨害しようとしたりヒロインにコナかけようとしたりするお邪魔虫も出てきますが、鎧袖一触あっさり蹴散らかされる。商業ライトノベルであればクライマックスでもっと主人公に対抗しうるような存在が出てきたり、ヒロインが窮地に陥ったりするのでしょうが、そういうストレス要素になりかねない展開はすべて除去されています。非常に単調だし、正直もう少し話が引き締まるようなシリアス展開が欲しかったところだけど、「俺はこういう平和なハーレムファンタジーが好きなんだよなぁ」という作者の“癖”が充分に伝わってくる内容で「これもこれでアリか」と思い直しました。貴竜や準貴竜は魔力で構築した衣服を纏っており、意志一つで自由にお着替えできるとか、股間を守る下着は特に堅牢に構築されており魔力に乏しい男などチ〇コを近づけただけで去勢されてしまうとか、エロゲファンタジーっぽい設定が細かく作り込まれているあたりは好きです。主人公は魔力の強さに任せチ〇コで下着バリアを突き破って挿入する暴れん棒将軍であり、前述の設定によって征服感がいっそう増す仕組みになっていて面白い。火属性の子のアソコは熱く、氷属性の子はひんやり、雷属性の子はピリッとするなどファンタジー設定がエロに反映されているところも好みだ。肝心の主人公もイイ性格しているというか「身勝手なサイコパス」といった趣で、「こういう思考回路の奴じゃないとハーレムなんて目指せないんだろうな……」と深く頷いてしまう。

 イチャイチャハーレムを盛り上げるためだけに設定を作り込み、「起伏のあるストーリー展開」を潔く諦めた割り切りの良いエロファンタジーです。血沸き肉躍るような冒険譚をお求めの人は退屈するでしょうが、「せっかくファンタジー世界が舞台なのにエロ方面の作り込みに関しては浅い作品が多い」という不満を抱いている人にはうってつけかもしれません。続刊を匂わせるような終わり方になっているので是非とも2巻を出してほしいところだが、一迅社ノベルスはマイナーレーベルなのでどうなるかわかんないんだよな……同じノクターン連載の『ギルド受付職員兼パートタイム冒険者な僕のえっちな日常』も好きな作品なんだけど続きが出るかどうか今のところ不明確。ただ信じて待つしかない。

・拍手レス。

 WEB原作の小説は結構打ち切りあるのが怖いですよね…通常出版の奴も打ち切りが無い訳ではないですが…

 WEB連載で本編が完結していても、「書籍版は売れなきゃ途中で打ち切り」って事情そのものは変わらないですからね……やっぱり紙で読み出したものは紙で最後まで読みたいです。


2023-12-19.

・Kindleやkobo等、各種電子書籍サイトで『宵闇眩燈草紙(1〜7)』がセール中、全巻まとめて買っても2000円しない安さ! 紙版持ってるけど電子版も買っとこうかな、と迷い中の焼津です、こんばんは。前に半額セールやってたときは踏ん切りがつかなくてやめたけど、今回はほぼ70%オフだし……うーん。

 ついでに『仙木の果実』『塊根の花』もセールしてないかな、って調べたらそもそもこの二つは電子化してないんかい。たまたま本屋で見かけて何となく手に取り即日ずっぷりハマった『仙木の果実』から早四半世紀……今や八房龍之助は「スパロボOGの漫画描いてる人」のポジションに収まっているが、かつては伝奇色の強い「ルール無用、何でもあり」な漫画を生み出す人だったのだ。“ジャック&ジュネ”シリーズの再開する可能性がどんなに低くても私は待ち続ける所存。「『宵闇眩燈草紙』が好きな人はコレも好きでしょ」と並べて挙げられることの多い『足洗邸の住人たち。』も最近電子化が始まったが、アレに関してはA5判サイズとB6判サイズの両方持ってるからさすがにセールが来ても買い直さないかな……うーん、そのときの気分次第かしら。

雨森たきび「負けヒロインが多すぎる!」2024年にTVアニメ化、記念ビジュアル&PVも(コミックナタリー)

 負けヒロ、アニメ化するのか。原作がガガガ文庫のラノベアニメって久々な気がするな……調べてみるとガガガ原作のTVアニメは『弱キャラ友崎くん』と『月とライカと吸血姫』をやってた2021年が最後で、2022年と今年は1本もなかったようです。アニメ映画は2022年に『夏へのトンネル、さよならの出口』をやってたみたいですが、観てないからスッカリ忘れてた……アマプラで配信してるみたいだし、年末年始に観よう。

 負けヒロこと『負けヒロインが多すぎる!』はラブコメ漫画なんかで主人公にフラれて途中退場するヒロイン、いわゆる「負けヒロイン」のような子たちのその後を描く……というか、周りにやたら負けヒロインがいる! っていう奇妙な状況をスラップスティック(ドタバタ劇)調に綴った青春モノです。幼馴染みの少女とか体育会系の子とか、「いかにも負けそう」って造形のキャラが次々と出てきては「主人公」(各々が想いを寄せていた相手)の選んだ子――俗に言う「正妻」「勝ちヒロイン」に対して複雑な感情を抱く様子を見せていく。多角関係モノで女の子がライバルに嫉妬するようなシーンが出てくるのは別に珍しくないが、勝敗が決した後で延々と粘着する姿を映すような話は少ないからだいぶ特殊な設定のラノベである。掛け合いのテンポが良く、ギャグのセンスにもキレがあるので個人的に結構好きなシリーズだったりする。年2冊ペースで、ライトノベルにしてはあまり刊行速度の速くないシリーズだから心配していた時期もあったが、アニメ化するんなら当面は大丈夫かな。イラストは「いみぎむる」、シリーズが始まった頃は「『この美術部には問題がある!』の人」と紹介するのが鉄板だったが、今は「『リコリス・リコイル』のキャラクターデザインをした人」と書く方が通りが良いっていう。来年は他に『弱キャラ友崎くん』の2期とか『変人のサラダボウル』も放送が予定されており、ガガガアニメの逆襲が3年ぶりに始まりそうな気配である。

 ちなみに、ガガガ初のTVアニメ化作品は田中ロミオの『人類は衰退しました』。2012年なのでもう10年以上前だ。劇場作品も含めると2011年の『とある飛空士への追憶』が最初となる。最大のヒット作は『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』、2013年に1期目、2015年に2期目、2020年に3期目と足かけ8年で3期も続けて完結を迎えました。原作の方は『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。結』という新シリーズを展開中、刊行ペースは「2年に1冊」レベルで激遅だが静かに待ち続けている。他、作画崩壊で話題になってしまったけど個人的には好きだった『俺、ツインテールになります。』(2014年)や下ネタ乱打もさることながら声優たちの熱演もスゴかった『下ネタという概念が存在しない退屈な世界』(2015年)などが印象に残っている。というか、ぶっちゃけ下セカ以降に放送されたガガガアニメの新作って1話か2話で脱落してしまい、最後まで付き合えたのが1本もないです。負けヒロアニメは完走できる仕上がりだといいな。

・樽見京一郎の『オルクセン王国史1』読んだ。

 副題は「野蛮なオークの国は、如何にして平和なエルフの国を焼き払うに至ったか」。異世界ファンタジーではエルフの森が何かと焼かれがちだけど、そもそもオークとかゴブリンとか魔族はなぜ多大な労力を費やしてまでエルフの森や村を執拗に焼こうとするのか? という素朴な疑問に立脚している作品です。「小説家になろう」で連載されていた頃から評判が良く、ずっと書籍化を心待ちにしていましたけど、今月になってやっと1巻が発売されました。漫画家の「野上武志」がオルクセンのファンで、なんと書籍化前に同人誌も出していたという……「もしこの作品をコミカライズするとしたら?」という仮定に基づいて描かれていたが、実際に野上武志作画によるコミカライズが決定したとのこと。胸の熱くなる話だ。

 星暦875年。北海に面し、豚頭族(オーク)が支配する広大な国「オルクセン王国」で一人の傷ついたデックアールブ(ダークエルフ)が保護された。名は「ディネルース・アンダリエル」。エルフ族の国「エルフィンド王国」でアールブ(白エルフ)による民族浄化が始まり、彼女は虐殺の魔の手から逃れ命からがらオルクセンまで辿り着いたのだと云う。エルフィンドに戻って決死の反抗に挑もうと思い詰めるディネルースを諭し、オルクセンの王「グスタフ・ファルケンハイン」はダークエルフたちの移住を促した。結果、7万人いたダークエルフのうち、オルクセンへの亡命に成功した者は約1万2000人。残りは殺されたか、あるいは強制労働に従事する奴隷として連れ去られたか。いずれにしろ、新たなオルクセン国民となったダークエルフたちはかつての祖国を憎悪した。必ず、必ず奴らに思い知らせてやる。決してこのままでは終わらせない。彼女たち(エルフは女性しか存在しない種族)の尽きぬ悲憤、冷めぬ怒りを前にグスタフは痛ましげな顔をしながらも、国家のためにそれを利用しようと冷徹な判断を下すのであった……。

 弓や槍ではなく銃火器が戦場の主役になった異世界を舞台とする、「銃と魔法」のファンタジーです。雑に書いてしまうと「佐藤大輔っぽいミリタリー色の強い小説」だ。ネット小説が原作で「銃と魔法」というと『幼女戦記』を連想する人もおられるでしょうが、派手な魔法が少ないせいもあって、あちらに比べてだいぶ地味め。基本的にこっちの魔法使いは空を飛ばない(有翼種族を除く)ですし、探知・通信系の魔法がメインになっています。ノリ的にほぼ「異世界転生版『皇国の守護者』」である。読めばすぐ勘づくだろうと思うのでバラしてしまったが、オルクセンの国王グスタフは異世界転生者です。知識チートで国を改革しまくって「オークの国ってこんなんじゃなかっただろ!?」ってぐらい発展させたわけだが、着手から100年掛かってようやく改革が実を結び始めた……という設定(オークもエルフ同様に長命種ゆえ100歳超えは珍しくない)なので、読者の見えないところで苦労してきたことになっている。ヒロインのディネルースも120年前にオルクセンと戦争してオークを殺しまくった過去があり、あまりの変化に愕然とするハメになります。

 「知識チートのおかげでどれほどオルクセンが富み栄えたか」という部分に多くの紙幅が割かれており、ストーリーそのものはあまり進まない。副題には「エルフの国を焼き払う」とあるが、実のところ1巻の時点ではまだ開戦にすら至らない。「エルフに恨み骨髄のダークエルフを新国民として受け入れた」っつー外交上の火種を抱え、いつ戦争が勃発してもおかしくない緊張状態に突入する――引き金に指を掛けたところまでで終わっていて、トリガーを引くのは次巻以降になる気配です。物凄く丁寧なんだけど、なろう小説でここまで展開が遅いのも珍しいな……物語の視点も徹底して「オルクセンに亡命したダークエルフたち」に絞っており、エルフィンド王国サイドの視点で綴られている章は一つもありません。なろう小説だとわかりやすく「敵のクズっぷり」をアピールする章が挟まれることが多いのだが、この作品はそういう安易な遣り口を避けているみたいだ。おかげでエルフィンドの連中が何を考えているかよくわからない、存念や真意の見えてこない不気味な靄と化しています。現時点だと選民思想にかぶれた奴らが調子こいてジェノサイド始めたせいで自滅の道を歩み始めたようにしか見えないが、「白エルフ」のキャラはまだ一人も出てきていないんですよね……意図的に情報を伏せているのだとすれば、ここから物語が二転三転する可能性は否定しきれない。意表を突く行動でオルクセンを窮地に追い込むかもしれず、ワクワクさせられる。オークを舐め腐った高慢エルフどもが順当にすり潰されていく鉄板展開へ入るのだとしても一定以上の面白さが保証されているし、もうどっちに転んでもおいしいんだわ。

 1巻はまだ仕込みの段階でエルフの森に火を点けるところまで進まず、あくまで比喩表現だが「森の周辺に油を撒いた」ところで幕となるから「タイトル詐欺じゃねぇか!」と言われても仕方のない内容だ。が、仕込みの段階でも充分にワクワクさせてくれる作品である。なるべく早めに続きを出してほしい。とにかく打ち切りだけは勘弁な!


2023-12-08.

総合書店「honto」、本の通販サービスを終了へ ネットサービス縮小 大日本印刷が発表(ITmedia NEWS)

 12月1日のニュースなので今更ではあるが、お知らせを確認していなかったせいで数日遅れでビックリするハメになってしまった。hontoはbk1時代から使っていた通販サイトなので「遂に、か……」って溜息をつきたくなる。bk1時代は一度に10000円以上の注文をすると1000円分のポイントがつくキャンペーンをやっていたので、地元の書店で手に入らなかった本を月末にまとめて購入するのが習慣となっていたっけ。注文履歴を確認すると2008年に初めて利用したみたいだから、かれこれ15年か。最近は大きなポイントが付くキャンペーンもなくなり、他のネット書店で在庫切れになっている本を注文する程度の利用しかしなくなった。今年に限ると数える程度しか使っていない。電子書籍ストアの方は割引が多くて結構愛用してるんですけどね……電子書籍販売サービスが終わるのであればオオゴトですが、通販サービスが終わるだけなら影響は限定的……。

 いや、違った。私、hontoの新刊通知サービスに依存してるんでした。hontoはキーワードを登録しておくと(たとえば「東野圭吾」とか「加賀恭一郎」とか)タイトルやあらすじ、商品紹介にそのキーワードを含む新刊が登録された時点で通知メールを送ってくれるんですよ。このサービス、特定の作家やシリーズの新刊を知りたい場合はもちろん「著者や出版社を問わず『土方歳三』や『五稜郭』、『蝦夷共和国』について言及している本は全部チェックしたい」というような人にとってはスゴく便利なんですよね。電子書籍の販売は続けると記されているからメールサービスも続行すると思いますが、世の中すべての本が電子化されているわけではなく、「物理書籍しか販売されない」新刊もあったりするわけで……サービス終了後は外部通販ストア(e-hon)と連携し、「紙の本をご購入される場合は、hontoサイトからe-honサイトへ誘導し、お客様のご購入をサポートして参ります」とあるから商品情報自体は登録され続ける=メールサービスも継続する、と捉えていいんだろうか。hontoのメールサービスがなくなったら冗談抜きで一大事だぞ……。

電撃文庫、来年2月の新刊に『9S<ナインエス>』12巻と13巻を予定

 ナ、ナインエス!? 新刊のラインナップとして予想だにしなかったタイトルを挙げられてびっくらこいた。『9S<ナインエス>』は2003年9月、今から20年以上前に始まったライトノベルのシリーズなので結構古い。どれくらい古いかと申しますと、『とある魔術の禁書目録』もまだ始まっていなかったぐらいの古さです。ちなみにナインエスの主人公の名前が「闘真(トウマ)」、他レーベルだけど近い時期に始まった『さよならトロイメライ』の主人公も「冬麻(トウマ)」だったので、とある〜が出たときは「またトウマかよ!」ってツッコミが殺到した。2003年というのは『涼宮ハルヒの憂鬱』でハルヒシリーズが始まった年だが、ハルヒと同じく「いとうのいぢ」がイラストを手掛けた『灼眼のシャナ』がヒットした翌年でもあるので、「アクション+ラブコメ」みたいなバトル物が増えていた時期です。ナインエスもラブコメ要素があり、ブラコンの妹(主人公と腹違い)なんかも出てきますが内容としては「菊地秀行系の伝奇アクション+ハリウッドSF大作ばりのスケール」で描かれるスリラー。初期は良好なペースで新刊を繰り出していたのですが、「作者の病気」というやむをえない事情によってペースが鈍化しました。途中でイラストレーターの交代を挟みつつ、本編11巻(なお本編とは別に番外編が2冊ある)までは刊行されていたのですけれども、12巻以降については長らく未定のままだった。11巻の発売が2012年……10年以上も経ってからの新刊なんで、そりゃびっくらこきますよ。20年前に始まったシリーズではあるが、20年のうち半分以上が動きのない期間だったことになるんだよなぁ。今年は1993年創刊の電撃文庫が30周年を迎えたメモリアルイヤーということもあり、「ファン待望、あの名作の新刊がついに!」と称してシャナの新刊ネトゲ嫁の最終巻を発売したから恐らくその流れでナインエスも来たのだろう。

 待望の12巻と13巻を同時刊行し、シリーズは無事に完結を迎えることとなります。これで古参ラノベ読みの心残りが一つ減った……折に触れて読み返しながらじっと新作を待ち続けてきた熱心なファンもおられるでしょうが、その一方で痺れを切らして脱落してしまった、「もう既刊は全部処分してしまったよ」というかつての読者たちも少なくないでしょう。私も正直、別件で書庫に入って埃まみれのナインエス既刊を発掘したときは「もう待つのに疲れたし、いっそこのまま古紙回収へ……」って思いが脳裏をよぎりましたよ。一旦保留にしておいて良かった。2月にはウィザーズ・ブレインの短編集も出るし、まこと古参に優しい采配だ。この調子で他の未完作品にケリをつけていってほしいな。『DADDYFACE』とか。『悪魔のミカタ』とか。イラストを手掛けた「藤田香」は既に故人ですけれど……それから『剣と炎のディアスフェルド』、メチャクチャ面白い&初稿はラストまで提出済みだというのに売れなかったのか3冊で打ち切られてしまった。今でも夢に見るのよ、ディアスフェルドの4巻以降が刊行されて完結まで漕ぎつける風景。『Fランクの暴君』は3冊どころか2冊で打ち切られたけど、たまに思い返すくらい好き。作者もだいぶ構想を練っていたらしく続き書きたがっていたが、様々な事情から断念せざるをえなくなり未完宣言を出してしまった。悲しい。あとは何と言っても『E.G.コンバット』か……☆よしみるの口ぶりからすると秋山瑞人が自分の文章に納得できなくて何度も書き直してるっぽいが。俺たちはデストロイの季節が到来するのをいつまで待ち侘びればいいんだ?

鈴木央「ライジングインパクト」Netflixでアニメ化!久野美咲、花守ゆみりら出演(コミックナタリー)

 ライジングインパクト!? こっちもこっちでびっくらこいたわ。このタイトルに反応する時点で年齢がバレそうではあるが、『ライジングインパクト』は「鈴木央」が1998年から連載を開始したゴルフ漫画で、人気があまり伸びなかったのか翌年1999年にはもう連載を打ち切られてしまった。が、「復活させてくれ」という読者の要望があまりにも強かったのか、それとも単行本の売上が良かったのか、ほんの3ヶ月くらいで連載を再開し2002年に再度打ち切られるまで続けました。単行本は全17巻。「ゴルフ」というあまり少年漫画向けではない題材に「アーサー王伝説」という要素を加えることでうまく盛り上げていた作品です。主人公の名前が「ガウェイン」でライバルが「ランスロット」、これをキッカケに円卓の騎士を覚えたという人も少なくない。

 今でこそ『七つの大罪』やその続編『黙示録の四騎士』で売れっ子漫画家として認識されている鈴木央ですが、『七つの大罪』がヒットするまでは「面白い漫画を描くんだけど、あともうちょっとというところでブレイクに至らない漫画家」として苦しんでいました。ジャンプからサンデーに移って連載した『ブリザードアクセル』と『金剛番長』はそれぞれ10巻以上単行本が出るくらいの人気はあったもののアニメ化するところまで行かずに終了。チャンピオンで連載していた時期もあり、「ジャンプ→サンデー→チャンピオン→マガジン」と四大少年漫画誌を巡礼した末にやっとブレイクを果たしたという特殊な経歴の持ち主です。『七つの大罪』効果で過去作の新装版が発売されたりはしましたが、まさか20年以上も前に終わった初連載作品がアニメ化しようとは……さすがに作者もビックリしているみたいです。ネトフリはこういう常道から外れた真似ができるのがスゴいよな……って、ネトフリで思い出したけど冲方丁が原作、荒川弘がキャラ原案を手掛けるとかいう『ムーンライズ』はどうなったの? 今年は全然続報が来なかったんだけど、来年中に配信が間に合うのか?

SF作家・豊田有恒さん死去 「鉄腕アトム」「ジャングル大帝」など名作の脚本手がける

 『モンゴルの残光』など歴史を題材にしたSF小説をいくつも手掛けていますが、アニメの脚本で記憶している人も多いのではないだろうか。脚本家デビュー作は『エイトマン』、漫画原作を担当していた平井和正がアニメの脚本も書くことになったものの「一人で全話書くのは労力的に無理だ」と豊田を誘ったのが始まりだったという。ちなみに『エイトマン』の原作は『8マン』だが、TBSサイドが「8は8チャンネル(フジテレビ)を連想させる」という理由でカタカナ表記に変えさせたとのこと。あまり熱心に追っかけていた作家じゃないが、それでも寂しさは感じるな……確か高校生の頃に『遥かなり幻の星』とか『悪魔の城』とか卑弥呼の話とか、何冊か著作を買って積んでいたはずだから今度実家に帰ったら書庫を漁ってみよう。

・原作:うほごりくん、漫画:okamaの『無冠の棋士、幼女に転生する(1)』読んだ。

 前世で男だった主人公(おっさん)が何やかんやで幼女に転生する、いわゆる「TS転生モノ」に当たる漫画です。原作は「小説家になろう」連載の小説ですが、そちら(小説版)に関しては今のところ書籍化されていない。TS転生モノはアニメ化した『幼女戦記』『英雄王、武を極めるため転生す』などがあるものの、ジャンルとして流行っているかどうかは微妙な線だ。特に英雄王〜は幼女の期間が短いから「ぅゎょぅι゛ょっょぃ」が見たい人にとっては物足りなかっただろうし。純粋に「幼女が大暴れする話」を読みたい人には『凶乱令嬢ニア・リストン』あたりを薦めたいところ。幼女じゃなくてもいいなら『TS衛生兵さんの戦場日記』が最近のお気に入りです。

 本書『無冠の棋士、幼女に転生する』は前世でプロ棋士として奮闘したもののタイトルの一つも獲得できないまま世を去った主人公がいつの間にか「空亡さくら」という幼女に転生していた……という、異世界とか魔法とかいった要素のない「現代社会転生」を描く漫画です。意外とTS転生モノは現代社会に転生するパターンが多く、『悪役令嬢、庶民に堕ちる』みたいな悪役令嬢モノもあるし、『美少女にTS転生したから大女優を目指す』『おっさん、転生して天才役者になる』みたいに読んでいなかったら混同しそうなくらい似た設定の作品があったりする。TSじゃない奴だと『ホラー女優が天才子役に転生しました』なんてのもあります。3巻がなかなか出なくて打ち切りかと落胆していたけど、来年1月にやっと出るらしい。500ページ超えとはいえ1001円(税込)という価格設定にビビる。

 話が逸れた。とにかく主人公は双子である空亡姉妹の姉として生まれ変わるのだが、前世の知識と経験はほとんどロストしており、駒の初期配置と動かし方程度しか分からず飛車角桂香落ちの祖父にボロ負けする。残っているのは将棋愛と「今世こそタイトルが欲しい」という渇望だけです。なので転生モノなのに「前世知識で無双する」展開にならず、一からリスタートしステップアップ形式で強くなっていくというやや悠長な構成となっています。妹の桜花は「姉がやっているから」という理由で将棋に興味を持って指し始めるのですが、一瞬で詰み筋を見抜くなど天性の才を有しており、下手するとこっちの方がより主人公っぽい。直感力が優れている反面、記憶力はガバガバで定跡を覚えるのが苦手という欠点もありますが、無理に定跡を覚え込ませようとして苦手意識を植え付けるのではなく、長所を伸ばそうと教え方に工夫を凝らす……といった具合に「妹の育成」要素もあって面白いです。

 「記憶ほとんど残ってないし、これ、前世がおっさんだった設定要るの?」と訊かれたら返答に詰まるところではあるが、逆に言えば「前世からの因縁」云々といったタルい要素に足を引っ張られることなく伸び伸びとストーリーを紡いで行けているので、結果的に「前世の記憶が粗方消失している」という設定にして正解だったかと。題名にそそられない、って方もまずは冒頭だけ試し読みしてみてはいかがだろう。私も最初はそんなに乗り気じゃなく、「okamaさんの新作ならとりあえずチェックしておかなきゃな」と半ば義務感で読み出したが、すぐに購入を決意しちゃった。そう、作画を担当しているのは『CLOTH ROAD』『めぐりくるはる』のokamaなのだ。ヘレン・ケラーの伝記漫画を描いたりライトノベルのコミカライズをしたりオリジナルを手掛けたりと最近も割合いろいろやってるんですが、正直あまり関心が持てなくてどれもチェックしただけで終わっていました。単行本買うのは『CLOTH ROAD』の最終巻以来だから実に12年ぶりだな……幼女描写が巧みだし、ハマリ役だと思います。アニメ化するぐらいヒットするといいなぁ。


2023-12-04.

・FANZAで『プレミアムアーカイブス 山田 一』が500円になっていたので「500円かー……500円!?」と思わず二度見してしまった焼津です、こんばんは。

 田中ロミオがかつての名義「山田一」でシナリオを書いたD.O.のソフト6本を詰め合わせにしたものです。山田一という名義を使う権利はD.O.側に残ったため途中から(『腐り姫読本』の対談に参加するあたりから)筆名を「田中ロミオ」に変えざるをえなかった、という事情がある。厳密に言うと『黒の図書館』と『ドーターメーカー元気いっぱい』は「監修」という肩書で参加していたのだが、「監修と言いつつほとんどのシナリオを自分で書き直すハメになった」なんて例もあるし、実際どの程度関わったのかはよくわからない。逆に『神樹の館』なんかは田中ロミオ名義で出たけどシナリオのほとんどは「希(マレニ)」が書いたんだっけ。ともあれ、『加奈…おかえり!!』と『星空☆ぷらねっと〜夢箱〜』と『家族計画〜追憶〜』(ついでに『そしてまた家族計画を』も)の3本まとめて500円というのは「価格破壊かよ」って安さですので、「田中ロミオは知ってるけど昔の名義のソフトは知らないんだよな〜」って方にはオススメです。たとえ肌に合わなくてもワンコインなら浅手で済む。

 ちなみに、山田一時代の作品は何度かリメイクされているのでそのへんも解説しておこう。山田一名義でのデビュー作『加奈〜いもうと〜』は1999年6月、つまりKeyの『Kanon』と同じ月に発売された。原画は「米倉けんご」、当時の常としてボイスなしである。この作品がヒットしたことで山田一というシナリオライターは一躍有名になり、5年後の2004年には『加奈…おかえり!!』というシナリオはそのままでCGをすべて差し替えたリメイク版も発売されました。原画は「綾風柳晶」、このときにキャラボイスが付きました。なお2010年に発売されたPSP移植版『加奈〜いもうと〜』は米倉けんご版をベースにしつつ全ボイスを再録している。『プレミアムアーカイブス 山田 一』に収録されているのは「ボイス付き」「原画:綾風柳晶」の『加奈…おかえり!!』であり、米倉けんご版をプレーしたい人は『加奈〜いもうと〜 Windows7対応版』を別途購入しないといけません。これもセール中で500円だから別に高くないし、「どうしても最初期バージョンでないと」って人はどうぞ。

 『星空☆ぷらねっと』は山田一(田中ロミオ)がD.O.に入社する前から温めていた企画「魔術大戦」を確実に通すために用意したダミー企画だった(本命の企画書の横にわざと手を抜いた企画書を置くことで本命がより良く見えると計算した)が、「魔術大戦」はどう考えても予算が掛かりそうな企画だっただけに結局『星空☆ぷらねっと』の方が通ってしまったという……発売は『加奈〜いもうと〜』の翌年である2000年、これも声なしだったが3年後に『星空☆ぷらねっと〜夢箱〜』というフルボイス版がリリースされました。

 2001年、山田一名義で出したソフトとしては最後に当たる『家族計画』、地味なタイトルも相俟って発売前はあまり注目されていなかったが、これが山田一時代最大のヒット作となりPS2、PSP、PS3と三度に渡ってCS移植されることになります。2001年の『家族計画』は例によってボイスなしだったけれど、ヒットの影響もあって翌年2002年にはフルボイス化、親父の声がどう聞いてもあの有名声優だと話題になりました。ただ、売り方は汚かった。『家族計画〜絆箱〜』という一種のアペンドディスクとして販売されたのだが、タオルだのマグカップだの余計な物理特典が満載でアペンドディスクなのに6800円(税抜)もしたっていう……箱が大きくて持って帰るのもひと苦労でした。私は秋葉原にあったナカウラの「あんこう」って店で買ったが、店員が奥から出してきたパッケージを見て「マジかよ……」って気分になりましたよ。2005年発売の廉価版『家族計画〜追憶〜』は最初からアペンドディスクの内容を適用したフルボイス版である。その前年、2004年に出た『家族計画〜そしてまた家族計画を〜』はFDのようなもので、本編の後日談めいたシナリオが収録されている。ボリュームは短く、オマケ程度だと捉えた方が精神衛生的には宜しい。2013年には原画を「さめだ小判」に変更したリメイク版『家族計画 Re:紡ぐ糸』も発売されました。これは『プレミアムアーカイブス 山田 一』には収録されていないが、例によってセール中なのでたったの500円です。つまり米倉けんごバージョンの『加奈』やさめだ小判バージョンの『家族計画』を加えてフルセットにしても僅か1500円で済む。安い、安すぎる。ほとんどの人はそこまでこだわらないでしょうから素直に500円出して『プレミアムアーカイブス 山田 一』だけ買えば充分です。どれも20年以上前のソフトなので古臭い印象は否めないでしょうが、どうか気軽に山田一(田中ロミオ)の世界を体験してほしい。そして気が付けば『おたく☆まっしぐら』(シナリオは極上の面白さだけどバグだらけでまともに遊べないソフト)に手を出すガチ勢になっていてほしい。

「FGO」蘆屋道満の生前を描く読み切り、“ありがたい鳥”に祝福された一家の秘密(コミックナタリー)

 『バベルハイムの商人』(古海鐘一のオリジナル漫画)が好きな私にとってはご褒美みたいなもんだよ……というわけで唐突に蘆屋道満を主人公にした読切漫画がTYPE-MOONコミックエースに掲載されました。なんで急に、とは思うものの古海鐘一の新作をタダで拝めるんだから文句なんてないです。サーヴァントとして召喚される前、まだ法師陰陽師だった頃の道満はこんな感じだったんだよ、とお見せしてくれる。道満はいろいろあってサーヴァントとして召喚された後は変質しまくってますからね。「へー、プレーンな道満ってこんな具合かー」と興味深く読むことができました。是非この調子で連作化して単行本を出せるところまで行ってほしいものだ。

 ちなみに『バベルハイムの商人』は無印と『輪典バベルハイムの商人』の2種類がありますけど、簡単に言うと「輪典」の方が完全版です。無印に加筆修正を施して新規エピソードを足したもの=輪典、となっている。特にこだわりがない方は輪典だけ読めばOKです。ただし輪典は電子書籍版のみの販売となっており、紙書籍版はありません。品切になったわけではなく、元から紙版が用意されていないのです。電子版を買うのはイヤ、どうしても紙で読みたい、って人は旧バージョンに当たる無印で妥協するしかないのが現状だ。私も輪典が紙書籍化する可能性に賭けてしばらく待ってみたが、一向に出る気配がないから結局電子版買いました。

「株式会社マジルミエ」TVアニメ化!ファイルーズあい&花守ゆみりが魔法少女に(コミックナタリー)

 マジルミエは好きな漫画なので嬉しいな。2021年から連載を開始した、比較的新しめの作品です。単行本の最新刊は10巻。ジャンプ+で大半のエピソードが無料公開されている(12月12日まで)ので気になる方は直接読んだ方が早い。ジャンルとしては「魔法少女モノ」ですが、幼い女の子が人目を忍んでコッソリ変身し悪と戦う……みたいなタイプではなく自然発生する「怪異」を退治する職業として「魔法少女」が社会に認知されている、という設定です。昔は巫女的な存在が戦っていたため本当にうら若き少女しかいなかったが、技術水準が進歩した現在は社会人女性しか就くことのできない職業になっています。なので魔法少女と言いつつ普通に成人女性が従事しており、ある程度トシが行ってる場合は「マホジョ」とも呼ばれている。頑張り屋ではあるものの努力が評価されず就活に失敗しまくってる新卒の「桜木カナ」は、成り行きで魔法少女企業に入社することになって……と、「お仕事モノ」のカラーが強い一作になっています。魔法少女だけど現代社会が舞台だからデジタルデバイスを多用していて、絵面的にはSFに近いのが特徴か。川上稔作品っぽさを感じるところもある。

 人の役に立つ仕事がしたい、と懸命に頑張るカナちゃんが健気で応援したくなります。フリフリな衣装を纏って魔法少女のコスプレしている社長(♂)が出てくる(コスプレなので実際に戦えるわけではない)など、クセの強い部分もあるけれど全体としてはケレン味の少ない、まっすぐでオーソドックスな成長ストーリーだ。最初の頃は右も左もわからない初々しい新人魔法少女だったカナちゃんが様々な出会いと現場(戦場)を経て立派な魔法少女へ変わっていく展開、シンプルながら胸が熱くなります。進むにつれて政治的な暗闘とか、「単純な対怪異ではなく人間同士で足を引っ張り合うような争い」に突っ込んでいくあたりは好みの分かれるところでしょうが……たぶんアニメではそこまで進まないと思いますし、あまり重くならず程好い気楽さで盛り上がれるでしょう。原作では第二章が始まっており、いろんな意味で第一章とのギャップに驚かされる展開となっている。

 個人的に好きなのはミヤコ堂の魔法少女「葵リリー」。怪異退治専門の企業ではなく化粧品会社の魔法少女部署に勤務している(怪異が自然発生する世界なので大き目の企業は怪異対策を行うことが義務になっている)人で、会社が会社だけに「美しく在ること」が重要になってくるという変わり種です。「こういう魔法少女も存在するんだ……!」とカナちゃんの視野が広がっていくのであのへんのエピソードは気に入ってますね。あと、魔法少女が主力だから男キャラはどうしても後方支援に徹する役割となりますが、みんな魔法少女たちを支えようと必死になっているので男衆も結構好きだったり。

「戦姫絶唱シンフォギア」劇場版の制作を発表、新プロジェクト名も明らかに(コミックナタリー)

 劇場版だとォ!? 儀礼的に驚いてみたが「たぶんやるだろうと思ってた(期待していた)」というのが本音です。一応XV(5期目)で完結ということにはなってるけど、人気のあるシリーズだから公式サイドもまだ続けたいんでしょう。無論私もまだまだ付いていくつもりなので楽しみである。しかし、来年でXVから5年になるってマジ……? まだ3年も経ってないイメージなんですけども。

 あと私はプレーしていなかったので特に思い入れはないのだが、アプリ『戦姫絶唱シンフォギアXD UNLIMITED』は2024年1月31日にサービス終了する模様。2017年6月開始だから6年半、アプリゲーとしては割と続いた方なんじゃないでしょうか。いろんなところとコラボしてたゲームってイメージが強いです。いろんなところとコラボするゲーム、と言えばラスバレこと『アサルトリリィ Last Bullet』はもうすぐ3周年か。ゲームパートはもう全部オートで流していてリザルト画面しか見ないような状態だが、シナリオパートのノリが好みで続けてるんですよね。調べてみるとシンフォギアXDはもともとポケラボが運営していたアプリらしく、途中からキングポーンへ移管されている。シンフォギアのシナリオを担当している金子彰史が移管後の対応について「素晴らしくクオリティがアップしました!」と褒めちぎっているところを見るに、ポケラボ時代はよっぽど……だったようだ。ポケラボというのはラスバレの運営なんですが、手掛けていたゲームのほとんどはサービス終了か運営移管になっている。なので現在運営しているタイトルはラスバレとシノアリスのみ。シノアリスもサービス終了が予告されているので来年からラスバレ一本になります。う〜ん、メモリアシナリオとか結構積んでるけどそろそろ崩しに掛かった方がいいかな。

「プリティーシリーズ」新作TVアニメが来年4月放送開始、続報は1月に(コミックナタリー)

 『ワッチャプリマジ!』のアニメが放送終了した2022年10月以降、ずっと途切れていたプリティーシリーズのTVアニメ(WEBアニメだと『アイドルランドプリパラ』配信中)が遂に再始動する……! 下手するとあのままプリティーシリーズの展開が止まってしまうかも、と心配だっただけにホッとした。何せ11年半に渡って続いた(初期三部作が2011〜2014年、プリパラ二部作が2014〜2018年、キラプリが2018〜2021年、プリマジが2021〜2022年)アニメ放送枠が「一旦」という但し書き付きとはいえ消滅してしまったんですもの、不安にならないわけがない。

 今のところ新作のタイトルや内容については不明ながら、「新シリーズ始動!」と銘打っているからにはプリマジの2期とかではないのだろう。少し残念ではあるが、ワクワクするってことに変わりはない。しかし、PV観ていて衝撃受けたのは来年で『プリパラ』放送開始から10年になるって事実ですね。感覚的にはせいぜい5年前くらいかと……私は放送開始と同時に視聴したわけでなく、途中から観始めたので2014年はまだタイトルしか知らない状態だったはず。周りが盛り上がっていることは認識していたけど、当時はプリティーシリーズ未履修のため尻込みしてしまった。もう記憶がだいぶ曖昧になってきているけど、だいたい30話前後、つまり2015年になってから気まぐれで最新話を視聴して「なんだこのヤバいアニメは!?」とようやく気づいてハマりましたね。変則的な入り方をしたせいで、語尾に「ぷり」付けてる子と委員長が同一人物だと理解するのにしばらく掛かったという。待ち切れないし、久々にプリパラを視聴し直そうかな。

・恩田陸の『puzzle パズル』読んだ。

 こないだ『生存者、一名』の感想を書いたときに言及し、「そういえばまだ読んでなかったな」と思い出して何となく読みたくなり、実家の書庫を漁って発掘してきました。『生存者、一名』と同じく2000年10月の刊行なんで23年物の積読だ。かつては人が住んでいたけど過疎化の末に放棄された無人島「鼎島」で3人の男性の遺体が発見される……と、オープニングが『生存者、一名』に似通っている。それもそのはず、『生存者、一名』や『puzzle パズル』はかつて400円文庫で「無人島」というテーマのもとに競作した書き下ろし作品なんです。無人島テーマの書き下ろし作品は他に近藤史恵の『この島でいちばん高いところ』と西澤保彦の『なつこ、孤島に囚われ。』があり、この4つを一冊にまとめた『絶海』というアンソロジーもありました。現在400円文庫のほとんどは新品で入手することができず、古本屋を利用するか電子書籍を買うかのほぼ2択といった状態ながら『puzzle パズル』に関しては例外的に今でも新品が売られている。すごいな恩田陸パワー。ただし381円だった本体価格は今や460円と2割以上も高くなっており、否応なく物価の上昇を実感させられます。本当に文庫本は高くなった……実家の書庫を漁っていると80年代の海外翻訳小説とか出てくるんですけど、価格が500円代で「安すぎる!」と叫びたくなります。先日、カドカワの新刊をチェックしている最中『カラス殺人事件』というミステリが目に留まり、2200円(税込)だから「ハードカバーの海外物にしては安いしソフトカバーかな?」ってよく見たら文庫本で絶句してしまった。もう文庫の翻訳物が2000円の時代なのかよ……さすがにこれは例外的な事象で、ハヤカワとか創元の翻訳文庫はまだ1000〜1500円くらいですけど、その2社も追随する日は遠くないのかもしれない。

 鼎島で見つかった3人の男性遺体はそれぞれ死因が別々であった。ひとりは廃墟と化した学校の中で餓死、ひとりは廃墟と化した映画館の中で感電死、ひとりは廃墟と化したビルの屋上で墜落死。解剖の結果全員がほぼ同じタイミング(誤差2日もない程度)で亡くなっていると判明し、「いったい何が起こったらこんなことになるんだ」と捜査に携わった警察官たちは困惑する。無人島ながら廃墟マニアに人気があるスポットなので人の行き来は割とあり、「たまたま不慮の死が重なった」可能性もゼロではないにしろ、あまりに不可解すぎる。餓死はまだしも、無人島になった時点で送電を切られた映画館でどうやって感電死したのか、ビルの下ならともかくビルの屋上へどうやれば墜落死するのか、皆目見当がつかない。不可思議な事故か、手の込んだ自殺か、何者かの仕掛けた殺人か、それとも人知の及ばぬ超常現象なのか……島に上陸した検事「関根春」は同僚の「黒田志土」とともに謎へ挑む。手掛かりは、遺体から発見されたいくつかの「コピー用紙に印刷された記事」だったが……。

 本文はちょうど150ページ目で終わっているが、400円文庫は1ページあたりの字数が少ない(35字×13行で最大455字、ライトノベルでも40字×16行の最大640字くらいはあるから3割近く少ない)ため一般的な文庫に換算すると120ページ切るくらいのボリュームになるのではないかと思われます。中編サイズなので割とあっという間に終わる。物語は「T piece」「U play」「V picture」の三部構成になっており、「T piece」は遺体から発見された記事の内容を羅列し、「U play」は春と志土が現場検証に励む様子を描き、「V picture」は過去に遡って「鼎島で何が起こったのか」という真相を開示する。バラバラすぎて繋がりがまったくわからない記事群、現場検証してもまったく見つからない手掛かり、あまりにも掴みどころのない状況に呆然としてしまうが、なにぶん尺が短いから急転直下で真相解明編に突入していく。「そんなんアリかよ!」って真相なので真面目に推理していた人は本を壁に叩きつけたくなるかもしれない。が、少なくとも「宇宙人にアブダクションされかけて藻掻いた結果UFOから墜落してビルの屋上に叩きつけられた」とか「電気を発生させるサイキックパワーが暴走して自ら感電死してしまった」とかそういうレベルの無茶苦茶ではなく、あくまでミステリというジャンルに留まる範疇内での「そんなんアリかよ!」なんで程好く唖然としたい方にオススメです。恩田陸特有の「開幕段階ではすごくワクワクするのに、終幕へ向かうにつれて尻すぼみになっていく」アレは健在にせよ、短い作品なので落胆の度合いはかなり少ない。恩田陸の作風に慣れたいというか耐性を付けたい人にはちょうど良いかもしれません。ワクチン感覚で読むべし。


2023-11-28.

『クロスアンジュ』が来年で放送10周年を迎えると聞いて「もうそんなに経つのか……」と遠い目をしてしまった焼津です、こんばんは。

 クロスアンジュ、正式なタイトルは『クロスアンジュ 天使と竜の輪舞(ロンド)』ですが、このアニメは2014年10月に放送を開始――つまり秋アニメとして世に出ました。制作はサンライズとキングレコード、原作を持たないオリジナルアニメです。ジャンルに関しては作中(次回予告)で「美少女ロボットアニメ」と自称している。「マナ」というエネルギーを操る特殊能力が一般化した社会、マナを操ることができない人間は「ノーマ」と呼ばれ迫害されていた。ヒロインの「アンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギ」はミスルギ皇国の第一皇女として何不自由ない生活を送っていたが、16歳の誕生日に皇太子(兄)によって「彼女はノーマだ!」と暴露され、身分剥奪のうえ追放されてしまう。かくしてただの「アンジュ」へと落とされた少女の苦渋に満ちた日々が始まった……という、今で言う「追放モノ」みたいなストーリーが繰り広げられるわけですけれど、1話目のラストで裸に剥かれた主人公が股間から出血しながら呆然と涙を流すシーンが映る「最初からクライマックス」な展開で視聴者の度肝を抜いた。「アニメ版『女囚さそり』」とも謳われ、あまりにもガラが悪いアンジュの言動によって彼女が元皇女であることすら忘れてしまう人も後を絶たなかった。毀誉褒貶は激しかったものの、「先の展開が読めない」という点では肯定派も否定派も意見が一致していました。

 完結後にゲーム版が出た以外は目立った新展開がなく、だんだん話題に上る機会も少なくなっていった作品ですけれど、「アンジュ役を務めた水樹奈々の演技はすごかったな〜」「あのメタネタ満載で巫山戯過ぎな次回予告はどうにかならなかったのか」と折に触れて思い返す忘れがたき珍作みたいなポジションに収まっていきました。2クールアニメなので作画がちょっとアレになる回もあったものの、声優陣が豪華なこともあって飽きることなく最終回まで追いかけることができたな。シリーズ構成はレヴュースタァライトで有名な「樋口達人」、最近だとウマ娘3期の脚本を書いてますね(第3話「夢は終わらない」と第5話「自分の証明」)。ちなみにクロアンと同じクールで放送されたアニメは『甘城ブリリアントパーク』『異能バトルは日常系のなかで』『俺、ツインテールになります。』『ガンダム Gのレコンギスタ』『グリザイアの果実』『四月は君の嘘』『SHIROBAKO』『Fate/stay night [Unlimited Blade Works]』『魔弾の王と戦姫』『結城友奈は勇者である -結城友奈の章-』など(50音順)。グリザイアは三部作やり切って現在ファントムトリガーのTVアニメ化も控えているが、俺ツイは作画が力尽きていたこともあってか負の方向で話題になってしまい、劇場版とか2期とかは来なかったのが残念だ……原作は大団円を迎えたし、去年は10周年記念で未来から主人公の娘がやってくる特別編も出してくれたけど、やっぱりアニメの続編が観たかったです。アニメ化された範囲は原作の4巻までなんですが、5巻が映画化を希望してしまうくらい面白いんですよ。当時の日記読み返すと「読むのに熱中しすぎて昼食抜いた」みたいなこと書いてある。「アニメは観たことあるけど原作読んだことないな〜」って方は機会があればどうぞ。「アニメも観たことないや」って方はせめて1話目だけは視聴してみてほしい。作画のことでいろいろと言われたアニメですが、1話目の出来は良かったんですよ……それだけに落差が目立つ形となってしまったわけでして。もう少し評価されていいと今でも思っています。

藤原ここあ「かつて魔法少女と悪は敵対していた。」TVアニメ化、制作はボンズ(コミックナタリー)

 少し泣いてしまった。リンク先の記事にも書かれている通り、「まほあく」こと『かつて魔法少女と悪は敵対していた。』は2013年から2015年にかけて“ガンガンJOKER”で連載されていた4コマ漫画です。御存知ない方は「随分と前の作品じゃないか、それを今頃アニメ化するの?」って不思議がるかもしれません。作者の藤原ここあは「まほあく」の前に『妖狐×僕SS(いぬぼくシークレットサービス)』という作品で人気を博しており、当時のファンたちからは「いぬぼくに続いてまほあくもアニメ化されるのではないか」と大いに期待されていました。しかし2015年、藤原ここあの訃報が突然伝えられ、まほあくの連載も中止となってしまった。絶筆となったまほあくの3巻はシリーズ外作品を収録してなお100ページちょっとしかなく、その「続くはずだったものが理不尽に断ち切られた」ことを示す薄さに我々は涙したものです。

 人気があった(2巻の時点で累計40万部を超えていた)とはいえ、作者急逝によって未完となった作品だけに今後映像化することはないだろう……と半ば諦めていました。予期せずこんなニュースが舞い込んできたらそりゃあ少しは泣いちゃいますよ。シリーズ構成と脚本を担当するのは「綾奈ゆにこ」、バンドリのアニメに初期から関わっている人で、最近だと『BanG Dream! It's MyGO!!!!!』が話題になっていましたね。原作が未完だからラストの展開はアニメオリジナルになると思われますが、綾奈ゆにこなら……綾奈ゆにこなら何とかしてくれる、はず。声優のキャストはまだ後悔されておらず、ドラマCDの面子(小野友樹、中原麻衣など)から変更になるのかそのままスライドするのか気になるところだ。

 結局いぬぼくのアニメ2期は来なかった(ストーリー構造が複雑な作品だし、2期に関しては原作者も乗り気じゃなかったから仕方ない面はある)が、こうして藤原ここあ原作のアニメを新たに拝める日が来ようとは。世の中まだまだ捨てたものじゃない。あと、まほあくとは関係ないけど「かつて敵対関係にあったカップルの話」と言えば少し前に『組織の宿敵と結婚したらめちゃ甘い』というのがあったな。冷たい眼差しで敵意を向け合っていた者たちがいろいろあって熱々イチャイチャのバカップルになるの、ギャップ物ジャンルの中でも好物の部類である。

・FGO、ぐだぐだイベント2023クリスマスイベント2023の開催を告知

 このスケジュールだと奏章Uは来年以降になりそうかな。というか「昭和キ神計画 ぐだぐだ龍馬危機一髪! 消えたノッブヘッドの謎」(2021年開催のぐだイベ)から派生したイベントである「CBC2023 カルデア重工物語 〜君と僕のBtoB〜」(舞台が昭和キ神計画と一緒)を今年の3月に開催したから「新しいぐだイベは来年かも」って思ってましたよ。まさか年に2回もぐだぐだ系イベントを楽しめるとは、望外の喜びである。

 まだイベントタイトルや新規実装サーヴァントは公表されておらず、恐らく29日配信予定の「Fate/Grand Order カルデア放送局 ライト版 〜ぐだぐだ2023〜」で明かすつもりなのでしょう。開発が間に合わない、直前で不具合が見つかった、などの理由がなければ開催は「この後すぐ!」のパターンだと予想される。これまでのぐだイベは、2015年の本能寺、2017年の明治維新、2018年の帝都聖杯奇譚、2019年のファイナル本能寺、2020年の邪馬台国、2021年の昭和キ神計画、2022年の新邪馬台国、そして今年3月のカルデア重工物語(昭和キ神計画の続き)といった具合に、「戦国時代」「幕末」「昭和」「弥生時代」と大まかに4つの時代区分のいずれかに該当するストーリーが展開されてきました。ややこしいけど昭和キ神計画は「明治維新が起こらなかった代わりに昭和維新が起こっている埼玉」が舞台なので実質幕末モノです。また、邪馬台国を舞台にしたイベントも、区分的には弥生時代なんだけど「新選組の因縁を決着させるストーリー」だったり「戦国時代の恨みに起因するストーリー」だったりするため実質幕末モノを兼ねていたり実質戦国時代モノの様相を帯びていたりするため一筋縄では行きません。〇〇時代が舞台だからといって〇〇モノとは限らない、その融通無碍な内容がぐだイベの魅力でもあるわけですから。

 「新選組の隊士は揃ってきているのに未だに近藤勇がいない、いよいよ近藤さんメインのイベントが来るのでは?」とか「来月に経験値(ぐだイベの中心的存在)の新刊『ぐだぐだ太閤伝ZIPANG』が発売されるからそれに合わせて秀吉実装だろう」とか「欧州死徒戦線を諦めない」とかいろいろ言われていますが、ぶっちゃけ「何が来るか全然わからない」というのが本音です。「邪馬台国で闇の新選組と戦う」とか「新邪馬台国でぶっちぎり茶の湯バトルする」とか、事前に予想できる方がおかしいでしょ。私は大穴狙いで「飛鳥の空を越えて ぐだぐだ大化の改新〜イルカヘッドを追え〜」と予想しておきます(刎ねられた蘇我入鹿の首が遠くまで飛んで行ったという伝承が各地に残されている)。ピックアップ☆5はトリトンみたいにイルカに乗ったライダー「蘇我入鹿」、ピックアップ☆4はアーチャー「中臣鎌足」、配布は☆4キャスター「聖徳太子」で。与太はともかく、ぐだイベの熱烈なファンとして知られる漫画家「ピロヤ」原作のアニメ『でこぼこ魔女の親子事情』放送中に新規ぐだイベが開催されるとは、また数奇な巡り合わせだ。

 そしてクリスマスイベントの新規開催は久々ですね。FGOのクリスマスイベントはボックスガチャ形式で開催されるのが習わしとなっており、素材に飢えているマスターたちが必死になって周回するので「周回の邪魔にならないように」との配慮なのかイベントシナリオそのものは小規模なものになる傾向が強かった。2015年の「ほぼ週間 サンタオルタさん」、2016年の「二代目はオルタちゃん」、2017年の「冥界のメリークリスマス」、2018年の「ホーリー・サンバ・ナイト」、2019年の「ナイチンゲールのクリスマスキャロル」、2020年の「栄光のサンタクロース・ロード」、2021年の「メイキング・クリスマス・パーティー!」と、一昨年までは毎回新規イベントが開催されていたが去年は「栄光のサンタクロース・ロード」を復刻したのみで新たなクリスマスイベントは行われませんでした。年末っていろいろと忙しいし、クリスマスイベント自体を廃止したがっているのでは……と見る向きもありましたが、2年ぶりの開催が確定して「きっとボックスガチャが来る!」とマスターたちも湧き立ったわけです。これまでのクリスマスイベントには必ずサンタ系の配布サーヴァントがあったので、もしぐだイベにも配布サーヴァントがあるなら「二連続で配布鯖が貰える」という美味しい状況になります。今年は誰がサンタになるのだろうか。「トラオムクリア」が条件なのでトラオムに登場した誰か、という線が有力です。ただトラオムは登場キャラがかなり多いので絞り切るのは困難。私はテキトーにサンタ張角と予想しておこう。黄色そうなサンタだな……ピックアップサーヴァントに関しては「予測不能」としか言いようがない。FGOのクリスマスイベントってサンタ化するのは配布だけで、ピックアップの方は普通のサーヴァントってのが通例だった。実はFGOってソシャゲにしては「季節系の衣装が少ない」アプリなんですよ。ジャック・ザ・リッパー、ナーサリー・ライム、イシュタル、エレシュキガル、ブラダマンテ、アストルフォ(セイバー)、ヴリトラと、過去の面子を振り返っても特に規則性らしきものは見出せない(強いて言えばランサーが多い?)。一昨年の「メイキング・クリスマス・パーティー!」に至っては新規実装0だった。今年のクリスマスイベントも配布だけで新規サーヴァントはいない可能性あります。何であれ、夏イベントで枯渇した石もだいぶ貯まってきて来年の2月か3月くらいには天井分までイケそうだから私は引き続きガチャ禁に励みまする。

・小林泰三の『セピア色の凄惨』を読んだ。

 積読の整理をしているときに見つけ、なんとなく読み出して気が付いたら読み切っていた一冊。奥付を確認すると発行日は「2010年2月20日」、つまり13年物の積読である。さすがに30年物の積読はない(と思う)が、20年物ならゴロゴロしている私の蔵書においてそこまで珍しい本ではない。文庫書下ろしとして発行された一冊であり、増刷されたかどうかは知らないが新装版とかは出ていないので現在はやや入手困難になっている模様。電子版があるので今ならそっちがオススメかな。

 作者の「小林泰三」はホラー、サスペンス、ミステリ、SFといった様々なジャンルで活躍した人です。既に故人(2020年没)ですが、最近でも『人獣細工』『AΩ』など過去の作品の新装版が刊行されている。来月には『肉食屋敷』の新装版も出る予定。ちなみに「泰三」は「たいぞう」ではなく「やすみ」と読みます。小林泰三(こばやし・たいぞう)という字がまったく同じで読み方の違う人物が別ジャンルにおられるので注意。さて、そろそろ作品紹介に移りましょう。『セピア色の凄惨』は「わたし」が探偵事務所を訪問するシーンから始まる。その探偵は「わたし」の前で居眠りをかますなど非常にやる気がなさそうな態度で、本当にここで大丈夫なのかどうか不安に駆られたものの、迷った末に人探しを依頼する。捜してほしい人物は「レイ」という女性。レイは「わたし」にとって友人、いや親友と言って良い存在だったはずなのだが……なぜか記憶が薄れていて名字が何だったのか、どこに住んでいたのか、細かいことが一つも思い出せない。手掛かりが少なすぎる、とボヤく探偵だったが、「わたし」から渡された4枚の写真をもとに調査していくことを約束する。果たしてレイは存命なのか、それとも……。

 物語は「『わたし』と探偵の遣り取り」と「探偵の報告書」を交互に掲載する構成となっており、探偵は「わたし」が告げた4枚の写真にまつわる断片的な記憶――線香花火がうまく点かなくて何度も点け直した小学校低学年くらいの記憶、川まで水を汲みに行った中学生か高校生の頃の記憶、知人の結婚式でレイが花嫁のブーケを取る際に他の女性にぶつかった記憶、レイの小さな兄弟?と一緒に祭りの夜店に行った記憶――だけを拠り所に、それぞれの写真に映っている人物のところに聞き込みへ赴く。被写体となった人物たちはハッキリしたことは思い出せない、と言いながらもレイという名前に僅かな反応を見せる。通常のミステリであればここから少しずつレイの情報を集めていって彼女の人物像や生い立ちが徐々に明らかになっていくとか、そういうわかりやすい展開になるはずなんですが、本書は脱線の嵐でみんながみんなレイとは全然関係ない話をし始める。いくら読んでもレイがどんな人物なのかまったくわからない。「こんな報告書、いくら読んでも意味がない!」と怒る「わたし」同様、進めば進むほど読者も困惑の度合いを深めていくことになるだろう。不鮮明で色褪せた写真から出発する、奇妙に生々しくて常識から逸脱した述懐の数々。「セピア色」という風化のイメージに抗うビビッド且つ不可解な光景の群れが読者の精神を蹂躙する。

 一応最後にオチはつくが、それがこの作品の本質というわけではない。「提示された謎が解決される過程を楽しむ」というミステリみたいな構造をしているわけではなく、「大方としては理解不能なんだけどほんの僅かに理解できてしまう」異形の感覚に震えるホラーです。一つ目の報告書「待つ女」の時点で既におかしな事態となっていますが、それは序の口に過ぎない。圧巻なのは二つ目の報告書「ものぐさ」、度を越した面倒臭がりでほとんど家事をしたがらず家がだんだんゴミ屋敷になっていった女性の証言を綴っているのですが、頭がおかしくなりそうな内容で「これは小説以外の形式で表現するのは困難だな」と呻きました。三つ目の報告書「安心」は不安症が常態化して「悪い想像を実際に試してみないと安心できない」心理に囚われてしまった女性が破壊試験じみた日々を送るというものであり、エグいことをあまりにも淡々と書いているので「ひょっとしておかしいのはこれに衝撃を受けている自分の方なのか?」と懐疑が己に向かって行ってしまう。最後の報告書「英雄」はだんじりに命を懸けている町というハナっからフルスロットルで常軌を逸した社会を描いており、もはや薩摩のぼっけもんが理性的に見えてくるぐらいです。正直レイ云々がどうでもよくなるレベルで各報告書の内容が凄いので、「他人の悪夢を覗き見たい」という方にはオススメしておきたい。「安心」は動物がヒドい目に遭う描写があるため「人間が死ぬのは平気だけど犬や猫が可哀想なやつはちょっと……」って方は避けましょう。ヒドい、と思いつつ少しだけ気持ちがわかるのが怖いんだよな……私って推しのキャラが極限状況に追い込まれるとテンション上がるタイプなので。「推しにヒドい目に遭ったり曇ったりしてほしいわけではないが、極限状況へ放り込まれた推しが苦難に対しどう処するのかは見たい」んですよ。

・拍手レス。

 一瞬、佐藤賢一が死亡!?に見えたけど、どっちにしろショックが半端ない。酒見賢一は兼業作家だったので本業引退したあとの余生にバンバン新作出ると期待していたんだけどなぁ...個人的には小説よりも『中国雑話』みたいなエッセイがサクサク読めて好きでした。

 『中国雑話 中国的思想』、私も好きです。酒見さんの本は『聖母の部隊』以外だいたい買ってます。電子化してるし、他の積読を読み切ったら『聖母の部隊』購入しようかな。


2023-11-16.

作家の酒見賢一さん死去 「後宮小説」でデビュー、中国史題材に執筆

 59歳って……いくら何でも若すぎる。ショックでしばらく言葉が出てこなかった。デビュー作である『後宮小説』は第1回ファンタジーノベル大賞「大賞」受賞作で、同じ回の最終候補作として岩本隆雄の『星虫』もノミネートされています。代表作の一つ『墨攻』は原作よりもコミカライズの方が有名かもしれない。あれって原作は200ページもないくらい薄い本なのに、漫画版は全11巻とかなり膨らませているんですよね。十数年前には実写映画化も果たしているが、小説版ではなく漫画版の方を原作にしていることもあってか、既に小説版が存在しているにも関わらず映画のノベライズが出るという奇妙な現象も発生しました。

 私が酒見さんにハマるキッカケとなったのは『泣き虫弱虫諸葛孔明』シリーズ、一応「三国志の解説書」という体裁は取っているが、「関羽は嫉妬深い男であり後宮の女官よりも陰湿」と言及して具体的なエピソードを挙げたり、「残酷な天使のテーゼ」の歌詞と孔明の行動を重ね合わせたりなど全編に渡って好き放題にやりまくっているネタまみれの本だ。三国志に対して苦手意識を抱いていた私もあれで一気に興味が燃え上がりましたよ。『パリピ孔明』が出てきたときも『泣き虫弱虫諸葛孔明』のおかげでだいぶ受け入れやすかった。

 文庫化やコミカライズを除いた純粋な新作はもう6年ぐらい出ていなかったけど、「のんびり待っていればいずれ何かしら発売されるだろう」と悠長に構えていました。まさかこんな突然訃報が飛び込んでくることになろうとは露ほども予期しておらず……全13巻の巨編『陋巷に在り』は未だに積んだままとなっており、追悼の意も込めてそろそろ手を付けたいところだが、その気力が湧いてくるまで時間が掛かりそうなのでひとまず『泣き虫弱虫諸葛孔明』を読み返すとします。

『フルメタル・パニック! Family』、来年1月発売予定

 本編完結から13年以上、遂に満を持してフルメタ正統続編が発売されます。ドラマガに掲載された短編が中心になると思われますが、たぶん書き下ろしもあるはずです。フルメタは残念ながらアニメの展開が途中で止まっていて終幕まで辿り着いておらず、アニメ派の人にとっては「未完」のイメージが強いかもしれませんけど原作はとうに大団円を迎えている。『フルメタル・パニック! Family』はその大団円から20年後の未来を描く。結婚して子供もできた相良宗介の騒がしい日々を連作形式で綴る「ちょいコメディより。だけど「ふもっふ」ほどはドタバタじゃない」ストーリーで、一応「新シリーズ、開幕!」と謳っているがどれくらい続くかは今のところ不明らしい。単行本の売れ行き次第ってところもあるだろうな。本編終了から十数年後(つまりFamilyよりは前)を舞台にした『フルメタル・パニック! アナザー』は作者が賀東じゃないせいもあっていまいち乗り切れず、途中で脱落してしまった私もFamilyには割と期待している。文庫ライトノベル市場はここ10年で規模が半減してしまった(体感的に打ち切りが多くなったような気もする)けど、フルメタの新作が起爆剤になってまた盛り上がるといいな。

 ドラマガと言えば発売直後に買ってからずっと積んでいた『ライトノベル史入門  『ドラゴンマガジン』創刊物語―狼煙を上げた先駆者たち』をやっと読み終えました。ドラマガ創刊の経緯を資料とともに振り返る一冊であり、イラストレーターの「あらいずみるい」は表紙イラストを手掛けるのみならず本文でも長めのインタビューを受けている。竹河聖や新城カズマのインタビュー記事も読み応え抜群で満足しました。『風の大陸』に美形キャラが多かったの、菊地秀行からアドバイスされた結果だというのがあまりにも腑に落ちる種明かしで笑ってしまった。あくまで「ドラマガの黎明期とそれを取り巻く時代」に焦点を絞っており、90年代後半以降のドラマガとともに青春を過ごした世代にとっては物足りない内容となっていますが、こういう関係者の証言とかはキチンと残しておかないとすぐ忘却の波に飲まれていってしまうので研究書の類は今後もどんどん出されていってほしいものだ。

・歌野晶午の『生存者、一名』読んだ。

 実家の書庫(という名の乱雑に本が押し込まれた空間)を整理しているときに見つけた一冊。特に理由らしい理由もなく、何となく読みたくなって読んだ。発売は2000年の10月、出てすぐに買ったはずだから23年物の積読である。本体価格は381円、当時の消費税は5%だったので税込だとちょうど400円。祥伝社は「400円文庫」と銘打って書下ろしの中編を連発していた時期があり、『生存者、一名』もその一つ。160ページちょいとかなり薄いうえ、1ページあたりの文字数も少ない。『生存者、一名』自体は既に絶版しているけれど、『そして名探偵は生まれた』という中編集に同じ話が収録されているからそちらを購入すれば現在でも読めます。400円文庫として刊行された作品で今でもそのまま入手可能なのって恩田陸の『puzzle』くらいじゃないかな……しばらく見ないうちに値上げされて506円(税込)になってるけど。

 都内で発生した大規模なテロ事件。その実行犯であるカルト教団の信徒たちは「国外逃亡の準備が整うまで一旦無人島に渡って息を潜めていてほしい」と幹部に頼まれ、何の疑いも抱かずに、度重なる災害で放棄されて久しい絶海の孤島へ上陸した。しかし幹部がモーターボートとともに姿を消し、置き去りにされた腰巾着が「お前らを国外逃亡させるつもりなんてハナからなかったんだよ、テロを『過激派の暴走』で片づけるためにこの島で全員飢え死にさせて上層部の命令を『なかったこと』にするつもりだったんだ!」と暴露したことから絶望感が漂い始める。彼らがいる島は地元で「屍島(かばねじま)」と呼ばれており、かつては流刑地として使われたこともあると云う。死体にならないと出られない島。滅多に船が通りかかることのない、ラジオの電波さえ夜間にならないとまともに入らない世界の果てみたいな場所で彼らを待ち受けるのは「生存者、一名」という現実……といった具合に、早い段階で彼らの末路を新聞記事という形で開示して「いったい誰が生き残ったのか?」を読者に考えさせるミステリです。

 こういうシチュエーションを提示されると反射的に突飛な回答を考えてしまうのがミステリ好きのSa-Gaであり、ぶっちゃけ私もオチはすぐにわかったが、「絶対に『オチはすぐにわかった』とドヤる読者が出てくるだろうからもうひと捻りかふた捻り加えたろ」と未来を予期した作者の工夫が随所に仕込まれている。ただ、「絶海の孤島に取り残されてしまった!」という前提が絶望的すぎるせいか、一人、また一人と死んでいく……というお約束の展開にあまりハラハラしない点はマイナスかな。やはり恐怖には鮮度があるんだな、と再認識。それが偽りであれ何であれ、程好く希望を見せないと恐怖って感情は盛り上がらない。恐怖を取るかオチを取るかでオチを取った作品という感じです。


2023-11-06.

・映画の『ゴジラ-1.0』観てきた焼津です。こんばんは。

 ゴジラ70周年記念作品。『ALWAYS 続・三丁目の夕日』の頃からゴジラ映画を撮りたがっていた「山崎貴」が念願叶って監督・脚本を担当した一本です。山崎貴の名前で過去に監督した『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』が脳裏に甦って映画館へ足を運ぶことを本能的に拒否してしまう方もおられるでしょうが、結論から先に述べるとそこまで悪い内容じゃなかったです。ゴジラ映画としては傑作の部類でしょう。人間ドラマパートはいちいち大仰でクサいというか山崎貴カラー全開なところに辟易してしまったけど、ゴジラが登場する場面にはちゃんと絶望感が立ち込めていて「劇場で観て良かった〜」と満悦しました。今回のゴジラはリジェネ持ちなので「これなら致命傷だろ!」→ボコボコボコッ(瞬時に細胞が再生)→「嘘でしょ……」とドン底のゾコな気分を味わわせてくれる。「やっぱ初代リスペクトなら銀座は粉々にしないとなぁ!」って街を丁寧に瓦礫の山へ変えていくスタッフたちの破壊に対する情熱と気合が伝わってくるのも嬉しい。後半はちょっと「予算が尽きたのかな……」って雰囲気も漂う(本音を申し上げるともっとあちこちブッ壊してほしかった)し、話の作りが実直すぎて先の展開が容易に読めてしまうのも退屈だけど、総合的には「面白かった」という結論になります。もう映像も公開されているので書いてしまうが、ゴジラ出現の報によって自沈処分の予定を撤回された重巡「高雄」がシンガポールから駆けつけてくる展開だけでチケット代の元は取れるでしょう。海戦描写があるところは大いに評価したい。他にもアレやコレが出てきて仮想戦記みたいな絵面になるの好き。『シン・ゴジラ』とは路線が違うので同じノリを期待すると肩透かし食らうにせよ、国家が機能不全に陥っていて米軍も頼りにならない状況で元軍人たちがなんとかゴジラを斃そうと手持ちの札だけで勝負するの、シチュエーションとしてはベタっちゃベタながらアツい。人間ドラマ部分のかったるさを我慢してでも大スクリーンで鑑賞する価値のある作品だと判断いたします。きっと山崎監督もこれ一本じゃ満足できないだろうし、今後も続々とゴジラ映画作っていってほしいところですね。

遠山えま「ヴァンパイア男子寮」2024年TVアニメ化、長山延好監督&待田堂子のタッグで(コミックナタリー)

 知らない作品だしとりあえずチェックしておこうか、と作者名を見たら「遠山えま」とな。そろそろデビュー20周年のベテラン漫画家です。単行本はざっくり100冊くらい出している。最近の作品で比較的有名なのは『異世界で最強魔王の子供達10人のママになっちゃいました。』だろうか。主戦場は少女漫画だが、『ぽちゃぽちゃ水泳部』『きつねとパンケーキ』といった男性読者もターゲットに含めた作品をいくつか発表しています。私が好きだったのは『ココにいるよ!』、もう10年どころか15年くらい前のシリーズだという事実に震えている。正直ここ10年は作品を読んでいなかったので『ヴァンパイア男子寮(ドミトリー)』のこともアニメ化記事を目にするまで知らなかったのだが、懐かしさも相俟って少し興味が湧いてきたな……両親を亡くし住むところもなく男のフリをしてバイト生活に明け暮れている主人公が「長年ずっと血が飲めないでいた美貌の吸血鬼」と出逢うところからストーリーが動き出す恋愛色強めの現代伝奇みたいだ。タイトルは女であることを隠して男子校の寮で暮らすところから来ているのか。今月12巻が出る予定という長期シリーズなので人気が出ればアニメも2期目が訪れるか?

「俺は全てを【パリイ】する」TVアニメ化!才能のない男が極めたパリイですべてを弾く(コミックナタリー)

 マジかよ俺パリがアニメ化すんのかよ。嬉しくて声を上げそうになってしまった。俺パリこと『俺は全てを【パリイ】する』はなろう連載の異世界ファンタジー(転移や転生の要素はナシ)で、ジャンルとしては「勘違いモノ」に分類される。勘違いモノというのはたとえば主人公が私利私欲で行動しているにも関わらず周囲が勝手に深読みして「あれは一見私利私欲に基づいて行動しているようでいて実はとんでもない善行を積んでいるのだ!」と解釈し、聖人だ聖女だと持て囃す……みたいなボタンの掛け違いを楽しむ、一種のコメディです。本作の場合、主人公は己のことを「才能がない」「弱い」と思い込んでおり、とても自己評価が低いのだけど実はぶっ壊れ級の強さで自国の王様すら一目置くレベルだったりする。具体的に書くと、魔法の才能がないから「プチファイア」しか使えないんだけど、常人では真似できないような方法で工夫を凝らしているので下手な上級魔法より強い……万事この調子で「常識破りが常態化している」のだが主人公はその特殊さに全然気づかない。本来遭遇するはずのないような場所で強敵「ミノタウロス」と出くわしても「単なる暴れ牛」と勘違いして「都会の牛は随分と見た目が違うんだな」とかそんな呑気なことを考えながら容易く鎮圧してしまう。周りも主人公がその化物じみた強さに対して自覚がないだなんて露ほども思わず、会話が噛み合わないままお互い無意識に齟齬を「勘違い」というパーツで埋めることによって何となくコミュニケーションが成立しているような錯覚を起こすのです。ひたすらアンジャッシュ状態が続くからその点はアニメ向きのシリーズである。

 ストーリー構成としては1巻と2巻が前編と後編みたいな関係で、3巻から「神聖ミスラ教国編」という長めのエピソードに入って5巻でやっとそのミスラ編が終わるんで、2クールならともかく1クールだと分量的に2巻までかな。メチャクチャ圧縮すれば1クールで5巻まで駆け抜けられなくもないだろうが、丁寧にやるならやっぱり1クールで2巻までが限度だろう。ミスラ編は長くてちょっとダレる箇所もあるけれど、ひたすら主人公が目立っていた1・2巻とは異なりサブキャラの見せ場も増えてくるので、ファンとしては是非とも映像化してほしいな……って心境だ。ちなみに6巻からは新章「商業自治区編」に突入し、続きの7巻がもうちょっとで発売される予定。大まかな刊行ペースは年2冊、ボリュームを考慮するとそこまで遅くないのだが、正直少し焦れる気持ちはある。同じ勘違いモノの陰実よりは全然速い方(陰実は概ね年1冊ペース)なんだけども。

たけのこ星人の『フェイト/エクストラ CCC FoxTail』、連載開始10周年

 おめでたいけど「もう10年経ったの!?」という驚きの念が隠せない。『フェイト/エクストラ CCC FoxTail』(以下FoxTail)は2013年に発売されたPSPソフト『フェイト/エクストラ CCC』(以下CCC)のスピンオフ漫画であり、ゲーム発売から約半年後に連載開始しました。こないだ「CCC発売10周年」とかやってたんだからそりゃあFoxTailの10周年も続いて訪れるのは当然っちゃ当然なんだよな……CCCはプレーヤーの分身である主人公(FGO同様に性別と名前は変更可能)が相棒となるサーヴァントを4騎の中からセレクトしてスタートします。FoxTailは男主人公とキャスター(玉藻の前)の組み合わせで始まるため「CCCのキャス狐ルートを軸に描くのかな?」と思いながら読者はページをめくることになりますが、始まって早々に「ヴァイオレット」や「キングプロテア」というゲームには登場しなかったハイ・サーヴァントが暴れ出して「ゲームと全然違うじゃねぇか!?」と度肝を抜かれるハメになります。ゲームに登場したハイ・サーヴァント(アルターエゴ)は「パッションリップ」と「メルトリリス」のみ、これに3名加えて「サクラファイブ」にする予定だったが諸事情により没となった。このへんの設定についてはマテリアルで言及されていましたがラフ画程度の情報しかなく、スピンオフにガッツリ出演するのは予想外だったのです。

 「鈴鹿御前」というオリジナルサーヴァントも登場し、単なる「CCCのスピンオフ漫画」ではなく「独自の作品」として認識されるようになっていったFoxTail。ただ、前提としてエクストラシリーズの知識をまったく持っていない人が読むと混乱するかもしれません。CCC自体が「もし『フェイト/エクストラ』で行われている月の聖杯戦争に邪魔が入ったら」というifをもとに紡がれており、CCCの別ルートというか「異なるif」を綴ったのがFoxTailなんです。未プレーの人によく勘違いされがちですが、CCCは『フェイト/エクストラ』の続編であっても「エンディングの続き」ではなくストーリーの途中から分岐する形となっている。内容的にも『フェイト/エクストラ』の裏面を描いたような話であり、そこで起こった出来事は「エクストラシリーズの正史」から外されています。ストーリー上『フェイト/エクストラ』の続編に位置するのは『Fate/EXTELLA』であり、EXTELLAにおいてCCCの出来事はなかったこと扱いというか「うっ……頭が」的な事象として有耶無耶にされている。なおアニメ版のエクストラこと『Fate/EXTRA Last Encore』は「もし『フェイト/エクストラ』の最終決戦に主人公が敗れていたら」という最悪のifを描いたものです。

 FoxTailはだんだん単行本の刊行ペースが鈍ってきている(以前は年2冊出ることもあったがここ6年ぐらいは年1冊ペース、というか今年は1冊も出していないし今のところ刊行予定もないのでそれすら怪しくなってきている)けれど、それでも10冊以上続いているシリーズなのでスピンオフ漫画ながらかなりの読み応えを誇っている。Fate系コミカライズの中でもバトル描写が優れている漫画の一つだけにもっと多くの人に読んでほしい気持ちがある。カルナvsガウェインの太陽対決は白眉。FGOのおかげで「エクストラシリーズの設定はよくわからんけど鈴鹿御前やBBちゃん、カルナやガウェインには馴染みがあるから」って気軽に入ってくる方もおられるようだし、その点に関してはFGOがブレイクして良かったと思います。もしFGOがコケていたらいろんな作品が影響を蒙っていただろうな。想像しただけで恐ろしくなる。

 ダ・ヴィンチWebに掲載されたたけのこ星人と奈須きのこの対談記事で水着鈴鹿が実装されたサバフェス2023の思い出などが語られていますが、きのこがサラリと「200KBで終わらせる予定のシナリオが350KBにまで膨らんでしまいました」って言っていてビックリします。長い長いとは思ったけど350KBもあったのか、サバフェス2023……「イ・プルーリバス・ウナム」が300KBだから普通に本編並みだぞ。その長さを期間限定イベントで終わらせちゃうんだから頭のおかしいアプリだ、FGOは。インタビューでも触れられていますがFoxTailは既に終盤に差し掛かっており、興味のある方はそろそろ手を出す頃合かと。今なら電子版がセール期間中で既刊全部(11巻まで)まとめて買っても3300円を切るくらいの価格になっており大変オトクです。紙版で揃えている私も電子版買い直そうかな、と少し迷っている。

・「古橋秀之」が原作として関わっている新作『スパイダーマン:オクトパスガール』の第1巻が発売中。作画は「別天荒人」、つまり『ヴィジランテ』のコンビです。

 スパイダーマンに登場する悪役(ヴィラン)の一人「ドクター・オクトパス」は墜落し地面に叩きつけられる間際、己の精神と記憶をスペアボディに移す窮余の秘策を発動した。すると、なぜか交通事故で入院していた東京の女子中学生「奥田宮乙葉(オクタミヤ・オトハ)」の体に入り込んでいた! 乙葉の精神もまだ体に残っており、ふたりはひとつのボディに同居する状態となってしまう。なんとか元に戻ろうとするドクター・オクトパスだったが、彼(彼女)の前にスパイダーマンのような「糸」を使う謎の少女が立ちはだかり……というアメコミ+憑依モノなマンガです。「乙葉の体から出ていく」という明確な目標があるため、そこまで長期の連載に及ぶ題材ではないと思われる。オリジナルの乙葉ちゃんが可愛いのに憑依したドクター・オクトパスが勝手に髪型を変えて「元の自分」に近い容姿へしてしまう展開がちょっと残念だけど、古橋には頑張ってほしいから応援したいところだ。


2023-10-27.

「花ざかりの君たちへ」中条比紗也が死去、心臓の病気により50歳で(コミックナタリー)

 さすがに言葉を失った。花君(花ざかりの君たちへ)は少女漫画をあまり読まない私でも嗜んでいたシリーズです。主人公(♂)が女装して女子校に通うフィクションは珍しくないけど、主人公(♀)が男装して男子校に通うフィクションは今でもあまりないからその希少性は一向に薄れることがない。アニメ化はしなかったもののTVドラマ版が「2007年版(堀北真希主演)」「2011年版(前田敦子主演)」と国内だけで2種類あり、更に台湾版と韓国版も含めたらなんと4種類も制作されている。まだ若いのに、こんな突然に訃報を聞くことになるだなんて……ショックとしか言いようがないです。

「八咫烏シリーズ」より「烏は主を選ばない」がTVアニメ化、来年4月NHKで放送開始(コミックナタリー)

 八咫烏シリーズは和風大河ファンタジーながら一作目『烏に単は似合わない』が松本清張賞受賞作という変わり種です。簡単に解説しますと「松本清張賞」は小説新人賞の一つで、直木賞や芥川賞、山本周五郎賞や三島由紀夫賞や大藪春彦賞みたいに発表済みの既存作品から選ばれるものではなく、公募してその中から受賞作を決めます。賞の性格的に応募作は社会派推理小説や時代小説・歴史小説が多く、ミステリ要素があるとはいえファンタジー色の強い『烏に単は似合わない』が受賞したときは若干の驚きを感じました。江戸川乱歩賞と比べたらマイナーな松本清張賞ですが、創設から既に30年が経っており横山秀夫や岩井三四二、青山文平、故人であるが山本兼一や葉室麟といった錚々たる面々を輩出しています。最近も『ノウイットオール』というジャンルごちゃ混ぜ小説に賞を与えて話題になっている。

 『烏は主を選ばない』は八咫烏シリーズの2作目。八咫烏シリーズは現在11冊刊行されていて、第一部が全6冊で完結済み、現在は第二部が進行中で3冊目まで出ている。残りの2冊は外伝をまとめた短編集。短編集のタイトルは『烏百花 〇〇の章』で統一されています。あとはファンBOOKもあるけどこれはカウントしなくていいか。基本的に刊行順に読めばOKなんですが、「刊行順がよくわからない」という方は公式サイトのガイドを参照してください。偉そうなこと書いたけど私は全巻積んでいるので内容は知りません。作者のコメントによると「コミカライズのアニメ化ではなく、原作小説のアニメ化」ということで、コミック版とはビジュアルが異なる可能性が高そう。開始から10年以上経つ長期シリーズであるが、デビュー時の年齢が20歳だったこともあって作者はまだ30代、まだまだここから盛り上がっていくことが期待できる。私もいい加減既刊を崩すべきか……。

「魔王の俺が奴隷エルフを嫁にしたんだが、どう愛でればいい?」2024年にTVアニメ化(コミックナタリー)

 どう愛で、やっと放送予定が固まってきたのか。1年前くらいに「アニメ化企画進行中」と報じられていたが、正直もう半ば忘れていた。2017年に開始したシリーズなので8年目にやっとアニメ化、ということになる。魔王「ザガン」と奴隷エルフの「ネフィ」、不器用なふたりが少しずつ心を通わせていく様子を描く溺愛系ファンタジーであり、コミカライズの出来が非常に宜しいので未読の方にはまず漫画版から入ることをオススメしています。あと「どう愛で」は私が勝手に呼んでる略称であり、公式略称は「まどめ」です。

 権力・経済力・腕っぷしなどが優れているスーパーダーリンからひたすら寵愛を受けるという「溺愛系」は主に女性向けライトノベルで流行っており、こないだアニメ化された『わたしの幸せな結婚』も一応溺愛系に分類される。溺愛度は比較的低めなのでジャンルを代表する作品というわけではないのだが。「溺愛」で書籍検索すると大量の本がヒットするせいでなかなか全体像を把握し辛いが、もともとは2000年代にBL方面で「溺愛モノ」がジャンルとして定着し、2010年代に入ったあたりから徐々にBL以外の女性向けジャンル(少女漫画、レディコミ、ライトノベルなど)にも波及していった……らしい。ケータイ小説からの流れも汲んでいるとか何とか。専門外のジャンルだから聞きかじり程度の知識しかありません。どう愛では男性向けライトノベルで展開された溺愛系という珍しい一品であり、シリーズ累計発行部数180万部となかなかの数字。アニメ絡みの仕事で忙しいのかここ最近は刊行ペースが少し鈍っている(去年の新刊は2冊だけ、今年もまだ1冊しか出ていない)が、現在の最新刊は17巻、来年か再来年には20巻を突破するかしら。

 ちなみに原作者の「手島史詞」はファンタジア出身の作家で、2007年デビューだからどう愛ではちょうどデビュー10周年のときに開始したシリーズである。アニメ化はこれが初ということもあり一般的にはあまり存在を知られていない。どう愛で以外で10巻以上出せたシリーズは「影執事マルク」だけだもんな……。

『パーフェクト・ケア』観た。

 原題は "I Care a Lot" 。日本では2021年に公開された映画です。犯罪をテーマにしているのでサスペンス映画やスリラー映画に分類されますが、ゴールデングローブ賞の主演女優賞(ミュージカル・コメディ部門)を受賞しているところを見るに本国での扱いは「ブラックなコメディ」ってところみたいだ。実は日本公開時に近場の映画館で上映されていたのですが、当時は気分が乗らなかったためスルーしてしまいました。翌年レンタルが開始された頃に借りてみようかとも思ったけど、DVDのみでブルーレイのレンタルがなかったこともあり、やはり気が乗らなくてスルー。「アマプラの見放題とかに来たら観るリスト」に入れてそのまま忘れかけていましたが、先月「レンタル100円キャンペーン」のラインナップに入っているのを見かけて「100円くらいなら……」と借りた次第です。期限ギリギリになってようやく重い腰を上げて再生し、期待以上の面白さに引き込まれてあっという間に観終わった。

 主人公「マーラ・グレイソン」は法定後見人。本来は認知症を患ったり健康状態が悪くて日常生活に支障を来している高齢者たちのサポートをする職業なのだが、マーラは医師や介護施設とグルになって制度を悪用し裕福な高齢者どもを食い物にする悪徳後見人であった。「私は捕食者(プレデター)、奴らは獲物(プレイ)」と嘯き、良心の呵責など微塵も感じていない。ある日、身寄りがなく犯罪歴もなく、資金をたっぷり蓄えているお誂え向きの高齢女性に狙いをつけ、「認知症の疑いがあり緊急で処置が必要」と医師に偽の診断書を書かせて本人不在のまま裁判命令をゲット。介護施設に軟禁して薬漬けにし、本人の同意も何もないまま勝手に家財を処分して彼女の住処はたちまちのうちに「売家」と化した。いつも通り順調、と呑気に構えて貸金庫のダイヤモンドを横領するマーラだったが、彼女は虎の尾を踏んだことにまだ気づいていなかった……。

 主人公が法律を盾にやりたい放題かます悪党で、うっかりヤバい筋の女に手を出してしまった――という、大筋としては「よくあるクライム・サスペンス」です。本作の特徴は「ヤバい筋の女に手を出してしまった」と発覚した後も主人公はビビったりせず「オラ! こっちは法律を盾にしてんだぞ! 来るなら来いや!」と強気に出まくるところです。仮にも捕食者(プレデター)を自称しているので、ロシアン・マフィアごときが噛みついてきても退いたりしないんですね。いや、普通はロシアン・マフィアが出張ってきた時点で尻尾巻いて逃げ出すだろう。どんだけ命知らずなんだこの主人公は。「合法のクズ」たるマーラと「無法のクズ」たるロシアン・マフィア、「悪vs悪」の構図で繰り広げられるバトルが非常にアツく「いいぞ! お互い潰し合って共倒れしろ!」と両方を応援したくなります。「福祉社会の闇」を描いた一本であるが、胸糞の悪さと爽快感が同居している変な映画だ。タイトルでイメージが伝わりにくく、そこはちょっと損をしてるなって思います。『プレデターvsロシアン・マフィア』ぐらい分かりやすい方が良かったんじゃないかな。

 「こんな根性の据わった悪徳後見人がいるか!」って感じで、リアリティがあるかないかで言えば全然ないんだけど、むしろリアリティをかなぐり捨てているところが魅力となっている。もはや犯罪映画というより肉食動物の生態を映したネイチャードキュメンタリーの如き味わい。「自然界は弱肉強食が常、その環境は絶えず過酷です」「縄張り争いが始まりました」くらいのノリで視聴に臨みましょう。主人公は生い立ちについて「貧乏だった」的なことをポツリと漏らすくらいで詳しく語らず、「彼女にも哀しき過去が……」みたいなダルい掘り下げが一切ない点もポイント高い。強いて言えばロシアン・マフィアの遣り口が手ぬるいあたりは不満だけど、連中を問答無用な極悪人にすると反撃の余地がなくなっちゃうから難しいところだな。とにかく最初から最後まで疾走感に満ちていて飽きることなく一気に鑑賞できる、「近頃集中力が続かなくって流行りのエンタメ観るのもしんどい」とこぼしちゃう人にもオススメの映画だ。

・赤城大空の『【悲報】お嬢様系底辺ダンジョン配信者、配信切り忘れに気づかず同業者をボコってしまう〜けど相手が若手最強の迷惑系配信者だったらしくアホ程バズって伝説になってますわ!?』読んだ。

 タイトル長すぎなガガガの新シリーズです。今年の6月からカクヨムで連載を開始したばかりの作品なのだが、想定以上の人気が出たため書籍化がスピード決定したという。作者の「赤城大空」はアニメ化した『下ネタという概念が存在しない退屈な世界』(シリーズ完結済)で有名な人。現在ガガガで『出会ってひと突きで絶頂除霊!』(既刊10冊)と『僕を成り上がらせようとする最強女師匠たちが育成方針を巡って修羅場』(既刊5冊)と『淫魔追放』(既刊3冊)の3シリーズを並行して展開しており、これで4つ目の現役シリーズとなります。病気の影響で執筆ペースが鈍っているらしいけど、今年だけで5冊も新刊を出しており「鈍ってこれなのか」と戦慄させられる。病状が悪化する前に書き溜めていた分があるおかげとも語っているので、来年から刊行速度が落ちるのかもしれません。

 さておき本作、ジャンルとしては「現代ダンジョン」+「配信者」です。現実世界の各国にダンジョンが出現して数十年、「探索者」が職業の一つとして認識されている世界で最近盛り上がりを見せているのが「ダンジョン配信者」――ダンジョン攻略のコツを教授したり、「〇〇やってみた」とチャレンジ的な内容に挑んで視聴者を楽しませる人々だった。日本政府もダンジョン攻略を推進するため国策としてダンジョンを題材にした漫画やアニメの制作に補助金を出しており、主人公「山田カリン」もそんなプロパガンダとエンターテインメントが相半ばするアニメ『ダンジョンアライブ』を幼少期に観た影響で探索者を志すようになる。アニメに登場するドレス姿のお嬢様キャラに憧れ、自らも「お嬢様系探索者」になろうと心に誓ったカリンはとても攻略には向かないようなドレスを身にまとい、アニメキャラのように観る者へ元気を与えるべく配信者デビューする。しかし、企業に所属していない個人勢ということもあり、ふざけた格好でダンジョンに挑む彼女の動画を真面目に視聴しようとする者はなく、たまに人が来ても「なんだフェイク動画か」とすぐに去っていく始末だった。配信デビューから1年、いまだチャンネル登録者数が増えず落ち込んでいたカリンはダンジョン下層で迷惑行為に及ぼうとしていた探索者を見かけ、咄嗟にドロップキックをかましたうえで説教&折檻でボコボコにしてしまう。相手は病院送りとなったが、界隈では有名な迷惑系配信者だったこと、一部始終が生配信されていたことからカリンはむしろ賞賛を集める。当然の成り行きからカリンが注目されることになり、ようやく世間は彼女の異常性に気づき始める……。

 基本的に勢い任せで進行していくコメディであり、「主人公が無茶苦茶なことをする→周囲が騒ぐ」の繰り返しが病みつきになっていく。読み口としては『ブレイドスキル・オンライン』に近い。「なぜカリンがここまで強いのか?」という疑問に対するエクスキューズはなく、「ただ純粋に強い」としか言いようがないので人によってはそこが引っ掛かるところかもしれません。私はあまり詳しくないが「ダンジョン配信」はもはや一つのジャンルとして成立しているらしく、検索すると該当作品がいっぱい出てきます。傾向としては「ブラック企業で心身を病んだ社畜とか多額の借金を背負って追い詰められている人とかがヤケクソ気味にダンジョン配信をしたら大バズして生活環境がガラリと変わる」みたいなのが目立つかしら。もともと現代ダンジョン物って「ダンジョン=一発逆転のフロンティア」みたいな扱いをしている作品が多いし、「当たれば大きい」という意味でも配信者物との相性は抜群なんだろう。作者もあとがきで触れているが、「配信」という形式にすることで地の文ではなく「モブのリアクション」によって自然な設定説明ができるという大きなメリットもあります。おかげで非常に読みやすく、あっという間に読み切ってしまった。

 この「お嬢様配信者」というイメージは明らかににじさんじのVtuber「壱百満天原サロメ」を意識したものと思われるが、ハッキリ言ってお嬢様要素よりも「アニメキャラに憧れてアニメキャラすら超えた無双性能を手に入れた異常者」という要素が強烈すぎてサロメ嬢的なイメージはどんどん霞んでいきます。バトルシーンにあまり尺を割かず、ワンパンマン級のサクサクぶりで攻略していくのが心地良い。「強すぎてギャグになっている」カリン様の最強無敵ぶりに君も酔い痴れよう。本人は余裕なのに観戦している視聴者たちのSAN値がゴリゴリ削られていって笑えます。カリン様の強さ、ぶっちゃけ主人公に許される強さじゃないんですよね。普通の漫画やアニメだったらこう、「新章・〇〇編」から登場するそれまでの常識が一切通用しないタイプのニューギミック満載な強キャラと申しますか……インフレの激しいソシャゲで「かつては廃人クラスでも突破は困難とされた超高難易度クエスト」を新規実装されたブッ壊れユニットが試運転感覚で蹂躙するのを眺めているような気分に陥ります。

 フィジカルつよつよ、おつむはいささか残念な自称お嬢様の大暴れ劇場。爽快感に全振りしたシリーズのため、独自性だの深みだのといったモノはなきに等しく、1巻目だと人間関係さえもほとんど掘り下げられない。清々しいほど割り切った内容になっており、ここから赤城大空に入ってくる初々しい読者たちもいるんだろうな……って思うと少し興奮する。赤城大空作品としては比較的お上品なノリの一冊であるが、そこは赤城大空だから当然下ネタ要素も混ざっています。是非ともアニメ化してカリン役の声優が「〇。〇〇〇。。〇」と叫ぶシーンを観せてもらいたいものだ。

・拍手レス。

 EGコンバットについて、☆よしみる氏から、「"第4巻"は、2023年10月現在、秋山瑞人くんの手により鋭意執筆中!!」 という発言が来ましたね。アツい。Final、と書かれてない事が気になったりもしますが。

 Finalは長くなるので2冊に分ける案もあった、みたいな話を過去に聞いた覚えがあるから4巻目では終わらないかもしれませんね。内容さえ良ければ第5巻や第6巻まで延びてもどんと来いですが、「E.G.コンバットの完結巻が発売されたのは2030年代のことだった」みたいなのはさすがにやめてほしいです。


2023-10-17.

・秋アニメとりあえず十数本チェックしたけど、やはり『ウマ娘 プリティーダービー Season 3』が抜きん出て面白いな……と思っている焼津です、こんばんは。

 1期と2期の内容を踏まえたうえで更に面白いアニメを作ろうという気概に溢れており、鉄板すぎてあまり語る内容が浮かばない。ただ楽しむのみだ。語りたくなる、という意味では『16bitセンセーション ANOTHER LAYER』が一番か。若木民喜がみつみ美里や甘露樹、その他多数の業界関係者から聞いた話をもとにして90年代の美少女ゲーム業界を描いたフィクション『16bitセンセーション』をアニメ化したもの。ただし「ANOTHER LAYER」とあるようにストーリーはだいぶ変わっている。原作はみつみ美里をモデルにした「上原メイ子」(ただしエピソードのすべてがみつみ由来というわけではなく他の人の体験談も混ざっている)が主人公ですが、アニメ版は「秋里コノハ」というオリジナルキャラクターが主人公を務めている。コノハは2023年の現代を生きるイラストレーターながらレトロエロゲ好き。奇妙な経緯で入手したDOS版『同級生』のプラパッケージを開いた途端、その『同級生』が発売された1992年にタイムリープしてしまう――という、ギャグみたいな展開になっています。アニプレックスが制作に協力しているおかげか、FGOやマギレコの広告がそのまま出てくるし、elfやLeaf、Keyのエロゲパッケージもモザイクなしで堂々と映しています。HなCGが映らないよう配慮された構図にはなっていますが、『痕』や『Kanon』や『遺作』のPC版パッケージが深夜アニメとはいえこうも包み隠さずお披露目されるだなんて、少し感動してしまった。1992年というのは沙織事件の翌年であり、かつガイナックスの『電脳学園』が有害図書に指定されたり(アンダーヘアーの描写で引っ掛かった)ソフ倫(コンピュータソフトウェア倫理機構)が設立されたりした年でもあるので業界的に大きな転換点である。

 原作からしてエロゲ業界を戯画的に(いや、ヴァリアブル・ジオ出してたブランドのことじゃなく)描いている作品だから全体としてはあまりリアリティがないタイプのスラップスティック・コメディに仕上がっていますが、部分的には相当リアルな要素も混ざっていて古参エロゲヲタが観たら小一時間語りたくなる内容です。でも『同級生』は実のところ世代じゃないんだよな……1992年発売なんだから、あれにリアルタイムで熱狂していた層はもう50代でしょう。当時小学生だった私は指を咥えてファミ通か何かに載った『同級生』の微エロCGを眺めるしかなかった。平成初期はまだ割合大らかな時代だったので、コンシューマーのゲーム誌にもたまにエロゲの情報が載ったりしたのだ。絡みのシーンはさすがに載せられなかったが、おっぱいを剥き出しにした女性が拘束されているCGくらいは載っていてキッズのみんなはそのページを大切に保管したものです。

 話が逸れた。原作の『16bitセンセーション』は『同級生』や『同級生2』、『雫』や『痕』、そして『To Heart』によって激変していくエロゲ業界を背景に、上原メイ子が『こみっくパラダイス』という元ネタが何なのかは言うまでもないソフトを開発していく過程がメインとなっています。こみパが発売された日のエロゲショップに『Re-leaf』やとらハ、『まじかるカナン』、『脅迫 〜終わらない明日〜』、『Flowers 〜ココロノハナ〜』のパッケージが並んでいる光景、懐かしすぎて泣いちゃう人もいるんじゃないかな……まぁ、話の都合上「98年末」ということになっているけど『こみっくパラダイス』のモデルである『こみっくパーティー』が実際に発売されたのは1999年5月、『Kanon』の一週間前だから同期の面子は全然違うんですけどね。アニメ版は『16bitセンセーション』に存在しないはずの『こみっくパーティー』をサラッと出しており、「コノハのいた世界線は完全に原作とは別」って明示されています。登場時点で小学生だった「六田守」の年齢が15歳に引き上げられていることを考えると、タイムリープ後の1992年も原作とは異なる世界線である。つまり原作を読んでいても先の展開が読めなくて面白い。未来からやってきたレトロエロゲ好きのコノハちゃんが原作主人公である上原メイ子たちとともに「美少女ゲームが熱かった時代」で理想のソフトを制作しようと奮闘する、ノスタルジックだけどロマンのあるアニメになりそうでワクワクしてます。ちなみにコノハ役の声優は「古賀葵」、『かぐや様は告らせたい』の「四宮かぐや」役で有名な人です。FGOだと「クリームヒルト」、今期のアニメだと『でこぼこ魔女の親子事情』の「アリッサ」などを演じている。原作主人公のメイ子は「堀江由衣」、メイ子の先輩に当たる「下田かおり」は「川澄綾子」……マルチとあかりじゃねーか。アニメ版『To Heart』が原因でエロゲにハマった(アニメは1クールだけなので物足りずPS移植版を買うが、それもすぐにクリア→ネットで検索して二次創作小説、いわゆる「SS」の文化があることを知って読み耽る→ちょくちょく知らないキャラが出てきて「?」となり、調べたら『雫』や『痕』のクロスオーバーSSだと判明→『雫』や『痕』をプレーしたくなり家電量販店でWin版を購入、そう、当時は家電店でエロゲが売られている時代だった→あとは底なし沼一直線な)人間には懐かしすぎるぞ、このキャスト。

 原作付きだと『葬送のフリーレン』『陰の実力者になりたくて! 2nd season』『ゴブリンスレイヤーU』『シャングリラ・フロンティア』あたりも高クオリティで毎週楽しみにしている。『ラグナクリムゾン』はアニメの出来がどうこうというより「あの小林大樹の漫画がこうしてアニメになるだなんて……」という感動で胸がいっぱいになった。思わず久々に1巻を読み返しましたね。原作は既に新章へ入っているため、アニメでやってる範囲を見ると無性に懐かしくなってしまう。それにしても、顔はお披露目されたのに出番を削除されたうえ公式にも名前を間違えられた第11位階のバロム・シュエラさんが不憫すぎる……原作読者でも「あいつ名前なんだったっけ?」となりがちではあるが。

【期間限定】10月15日、リリース3000日突破キャンペーン!

 タイトルの「3000」だけ見て「あれ? 3000万DL記念? 2900万DL記念がまだだったんじゃないか?」と不思議がりそうになったが、リリース3000日突破キャンペーンですか。FGOの「リリース〇〇日突破キャンペーン」は通常だと聖晶石を10個配ってハイ終わり(1000日突破2000日突破のときも石を配っただけ)なんだが、今回に限ってやたら豪華な内容になっている。いつも通り10個貰えるうえに該当ポスト(ツイート)のリポスト(RT)が10万超えたら聖晶石30個プレゼントも達成済み、つまり合計40個も配布してくれたわけで、既にこれだけでも充分美味しい。更に☆4サーヴァント配布まであるんだから言うことナシだ。今回は珍しく恒常とスト限のみならず、なんと期間限定も対象。さすがにロクスタとか水着クロエなど今年実装された期間限定☆4サーヴァントは対象外(恒常だとトラロック、スト限だとドゥリーヨダナも同じく対象外)ですが、私の欲しかったスト限サーヴァント「クリームヒルト」はちゃんといます。ワンジナPUでちょっと回したけど全然出る気配なかったからすぐに諦めて撤退したんですよね。あのとき下手に粘らなくて良かった良かった。

 恒常にどうしても欲しい☆4サーヴァントがいる、というのであれば恒常キャラを交換するのも一つの手です。「恒常」といえども来ないときはトコトン来ませんからね。が、迷っているならやはり入手機会の少ないスト限や期間限定のキャラに候補を絞るのがオススメです。たとえばセイバーだと「バーゲスト(妖精騎士ガウェイン)」「斎藤一」「山南敬助」あたり、アーチャーだと「バー・ヴァンシー(妖精騎士トリスタン)」「浅上藤乃」あたり、ランサーだと「カイニス」や「謎のアルターエゴ・Λ(水着メルトリリス)」あたり、ライダーだとサモさんこと「水着モードレッド」、キャスターだと「シバの女王(ミドラーシュのキャスター)」「大黒天」「美遊・エーデルフェルト」あたり、アサシンだと「加藤段蔵」「虞美人」あたり、バーサーカーだと「クリームヒルト」「鬼女紅葉」あたり、エクストラクラスだと「水着マルタ」「水着エリセ」「パッションリップ」あたり。期間限定サーヴァントは水着キャラが多いので、欲望の赴くまま水着だけに選択肢を限定しても猶よりどりみどりの状況です。私もクリームヒルトが引けていたら水着武則天を交換していただろうな。はらたけ絵が好きなんです。で、それとは関係ないけど一覧を眺めて「ドン・キホーテってランサーだったのか」と少し驚いた。ロシナンテが影響しているせいか、なんとなくライダーのイメージがあった……サポートで借りた記憶はあるくせしてクラスに関してはまったく覚えておらず。我のメモリー、ポンコツすぎない?

 交換チケットの「配布期限」と「交換期限」は微妙にズレているのでそこらへんも注意。欲しい☆4があるなら早めにログインしてチケットをゲットし、遅滞なく速やかに交換するが吉です。配布キャンペーンのたびに「ギリギリまで悩もう」と選択を保留して交換期限過ぎちゃう人が必ず出てきますから……もはや風物詩。期限前日の23日までに交換を済ませておいた方が安全だ。あと注意しないといけないのは交換した時点では「仮加入」扱いであり、条件(霊基再臨1回以上と絆レベル3達成)を満たして初めて正式加入になる――ってことです。宝具レベル上げ目的の場合でも絆レベルが低いとヤバいんじゃないかな。こっちの期限は10月いっぱいまでだから比較的余裕がありますけど、お知らせをよく読まず11月になってから初めて条件を知った……なんて悲劇もきっとどこかで起こるのだろう。

 「ストーリーが面白いと聞いて最近始めた、特に好きなキャラとかはいないのでストーリー攻略のために性能の良いヤツが欲しい」って新規プレーヤーの方は、相談する相手にもよりますがだいたいは「ヘラクレス」を推されると思います。恒常のバーサーカーだけど素で強いし、絆レベルを10まで上げれば今に至っても依然ぶっ壊れと名高い概念礼装「雪の城」が獲得できる。あれを装備したヘラクレス、メチャクチャしぶといですからね。タフって言葉はヘラ坊のためにある。ただ本当に始めたばかりの戦力だと絆レベル10は結構遠いというか途中で飽きて投げ出す人も出てきそう、という心配はあります。飽きない自信がない方は「茨木童子」や「ニトクリス(アサシンではなくキャスターの方)」が使いやすくてイイかもしれません。バラキーはスキルが優秀なのでゴリ押しでも突破できる局面が多いし、ニトクリスは全体即死宝具をブッパすることができるので超便利。「強さとかどうでもいい! 俺は西出ケンゴローの描く巨乳を思う存分視姦したいンだ!」という方は己の性癖に従ってゼノビアを交換するがいい。いえゼノさん見た目だけじゃなくてユニットとしてもキチンと強い(私も剣エネミーの周回でちょくちょく使う、宝具レベルが上がった際は聖杯を投入することも検討している)んですけどね、ただ初心者が育てるのはキツいかなー、という。再臨とスキル上げで鎖をかなり(具体的に書くと60個)食うし、フリスビー(英雄の証)の消費も激しい。今はクエストクリア報酬で素材が貰えるし、素材と交換できるナタデココ(ピュアプリズム)もあるから昔より断然楽になっていますけど、古参プレーヤーは「ワシの時代そんなんなかったわ」となるだけに「最近の初心者にとってのサーヴァント育成難易度」がどの程度なのか感覚的にわかりづらいんですよ。なので古参ほど却ってアドバイスしにくいところもあり、「自分より少し前に始めた人」くらいの方が話が合いやすかったりします。

 それと☆4配布に興奮しすぎて言及するのを忘れていたが、モルガンとアルトリア・キャスターのピックアップも来ています。「リリース〇〇日突破キャンペーン」でPUガチャが来るのってこれが初なんじゃない? どちらも超有能なうえキャラ人気も高いユニットだから「リセマラで両方手に入れてからプレー開始したい!」って初心者も多いんだろうな。初心者以外のマスターもPU概念礼装である「エイペックス」の価値がトネリコの実装によって跳ね上がったからモルガンPUを回したがっていそう。私は引き続き来年の正月までを目処にガチャ禁の予定です。とにかくクリームヒルトを貰えたのがありがたかった。来年のバレンタインに間に合うタイミングでくれるだなんて、運営の太っ腹に感謝したい。この調子なら3000万DL記念キャンペーンが開催された暁には期間限定含む☆5サーヴァント配布の可能性も……? ちなみに私が今一番欲しい期間限定☆5は「シャルルマーニュ」です。恒常のニトクリスオルタも欲しいけど、今年実装だから対象外だろうし。


2023-10-11.

『ジョン・ウィック:コンセクエンス』『イコライザー THE FINAL』と、私好みのブッ殺し映画を短期間に立て続けで浴びることができて満足な焼津です、こんばんは。

 『ジョン・ウィック:コンセクエンス』は「愛犬を殺された仕返しとしてロシアン・マフィアを壊滅させた」ことでお馴染み「ジョン・ウィック」を主人公とするシリーズの4作目です。一応、完結編でもある。当初の予定だと前後編にして5作目で終わらせるつもりだったらしいが、いろいろあって一本にまとめることとなった。そのせいか、上映時間がすごく長い。なんと169分もある。「一応」と書いたのは「これだけヒットしているんだから会社側としては続けたい」という事情があり、具体的な企画は固まっていないもののコンセクエンスの続編となる5作目が既に動いている……という話もあるからです。さておき『ジョン・ウィック:コンセクエンス』、ほとんどの人は既存のシリーズを観てから劇場に足を運ぶでしょうが、いきなりココから観始める人もいるかも……という配慮から「これまでのあらすじ」が挿入される。ジョン・ウィックは「ストーリーがキチンと終わっている」のが1作目だけで、2作目以降はシリーズ化を意図した終わり方になっており、だいたい「ジョン・ウィック、危うし!つづく」な幕切れとなっている。ゆえに飛び飛びで観ていると話の繋がりを見失いがちだ。1作目の公開が2014年だから来年で10周年、前作「パラベラム」でさえもう4年前であり、「よくこの方式で続けられたな……」と感心してしまう。無敵で最強なジョン・ウィックさんが大暴れするという点に関してはこれまで通りの内容だが、コンセクエンスにはジョンの友人であり、家族を人質に取られてやむなく敵対するハメとなった盲目の殺し屋「ケイン」(ドニー・イェン)という存在感抜群なサブキャラが登場する。ジョンとケイン、凄腕ふたりの衝突が描かれたりなど見どころ満載であるが、やはり上映時間が長すぎて集中力は維持できず、意識が散漫になるシーンもあった。配信されたらもう一度観たい。ちなみにタイトルの「コンセクエンス(consequence)」は「(当然のものとして訪れる)結果」、こんな真似したらどんな結果を招くかわかっててやったんだよな?おおん?というニュアンスで、つまり「因果応報」。原題は単に "John Wick: Chapter 4" です。あとジョン・ウィックは出てこないが同一の世界を舞台にした『ザ・コンチネンタル』というドラマシリーズもアマプラで配信中。

 『イコライザー THE FINAL』はイコライザー・シリーズの3作目で、これまた完結編。デンゼル・ワシントン演じる海兵隊(マリーン)上がりの元DIA(国防情報局)エージェント「ロバート・マッコール」が、引退後は静かに暮らす予定だったのに成り行きで悪党どもをブッ殺すことになるアクション映画です。80年代にアメリカで放送されたテレビドラマ『ザ・シークレット・ハンター』(原題が "The Equalizer" )をリブートしたものだが、ザッと調べた感じだと主人公の名前以外はほとんど別物みたいだ。映画とは別にリメイク版のドラマシリーズ(タイトルはまんま『イコライザー』)もあり、そちらは主人公が「ロビン・マッコール」という女性になっている。映画版は予告編でやたら「19秒で始末する!」とアピールしていたので印象に残っている方もおられるやもしれませんが、あれ本当は「現役時代なら16秒で片づけられた連中を倒すのに19秒も掛かってしまった」とマッコールさんが己の老いを実感するシーンです。日本の会社が変な方向にアピールしてしまっただけで、マッコールさん自身に何か「19秒」に関するポリシーがあるわけではございません。「ショボいジジイと思った奴がとんでもなくヤバい奴だった!」という展開でワクワクさせてくれた1作目に対し、スカッとする部分が少なくなって陰惨な面ばかり目立ってしまった2作目はちょっと……な出来だっただけに『イコライザー THE FINAL』も観る前は不安だったが、蓋を開けたら大当たり。「これこれ、私が観たかったブッ殺し映画はコレだよ!」と大満足の仕上がりでした。庭の雑草を抜く感覚でイタリアン・マフィアどもを鏖殺するマッコールさんの雄姿に惚れ惚れ。イタリアン・マフィアの凶悪ぶりも「やりすぎだろ!」ってレベルでリアリティ云々を通り越してもはやシュールでさえあるのだが、わざわざ映画館に足を運んでまで『イコライザー』の最新作を目にしたい観客が何を求めるのか計算し尽くした内容になっており、フークア監督の映像美も相俟って久々に「終わるのが勿体ない」と感じた映画でした。これも原題は単に "The Equalizer 3" だし、しれっと4が出ないかな……デンゼル・ワシントンの年齢的に厳しいか? 続編に関して監督のアントワン・フークアは「脚本のリチャード・ウェンクが素晴らしいネタを持ってきたら考えないこともない」といった口ぶりなのでまったく望みがないわけじゃないです。

「ワンルーム、日当たり普通、天使つき。」TVアニメ化!キャスト、PVなど一挙解禁(コミックナタリー)

 あっ、好きなシリーズなのでアニメ化は嬉しい。『ワンルーム、日当たり普通、天使つき。』は以前アニメ化された『ベルゼブブ嬢のお気に召すまま。』の作者「matoba」によるラブコメ漫画です。『ほしのこ!』『魔女の心臓』の頃から好きだった漫画家だけに波に乗れている様子なのはホッとすることしきり。ちなみに『さえずり少女、しんしん鎌倉』という作品もあるが、これに関しては読んだことがあるかどうかさえ思い出せなかった……記録を確認すると買ってすぐに読んだみたいだが、まったく記憶に残っていない。加齢のせいか年々記憶の虫食い化が進んでいる。

 さておき、『ワンルーム、日当たり普通、天使つき。』は古式ゆかしい「落ちモノ」(ある日突然空から可愛い女の子が降ってくる、みたいな感じで平凡な男の子である主人公が唐突にヒロインと出逢う物語類型)、要はボーイ・ミーツ・ガールです。「空から可愛い女の子が降ってくる」というのはだいぶ比喩的な言い回しだが、このシリーズの場合は「朝起きたら羽の生えた女の子がベランダで寝ていた」という本気で空から落ちてきたような導入になっています。PVから察するにアニメでは羽が生えてない状態で登場するっぽいけど。見知らぬ少女「とわ」は天使を自称し、他に行くあてもないので主人公と同居生活を送ることになる。後の展開は……言うまでもないでしょう。若干お色気要素もありますが、基本的には主人公とヒロインふたりの甘々イチャイチャな日常を見せつける砂糖菓子の如きラブコメです。お互い意識してるんだけども踏み込めない、そういうもどかしさもmatobaさんの画力が加われば無二の味わいとなる。ゆっくりと雰囲気作りしていくタイプのため1巻時点だとあまり盛り上がらないが、キャラが増えて賑やかになる3、4巻あたりから面白さが安定してきて「ずっと続いてほしい……」という気持ちが湧いてきます。

 メインヒロインのとわ役を演じる声優は「遠野ひかる」、例の「えい、えい、むん!」で話題になったウマ娘のマチタン(マチカネタンホイザ)役あたりが有名でしょうか。アニメだとSB69の「ほわん」役とかアサリリの「王雨嘉(わん・ゆーじあ)」役なども演っている。私はスタリラやってるから夢大路栞の印象が強いですね。アニメ化するなら原作の連載も当面は続くだろうし安心しました。

・川江康太の『鵺の陰陽師(1)』読んだ。

 今年の5月から連載が始まったジャンプ漫画です。春の新連載4連弾のラストとして送り込まれた作品だが、4連弾のうち『テンマクキネマ』と『ドリトライ』は既に打ち切られており、もうコレと『キルアオ』しか残ってないっていう。分類上は「現代陰陽師が活躍する伝奇アクション」になるだろうけど、ノリとしては変身ヒーロー系かな。『呪術廻戦』と比べてこっちの方はやや特撮っぽい雰囲気が漂っている。作者名の「川江康太」で検索すると読み切り作品の情報がいくつか出てきますが、連載作品はこれが初のようだ。一番古い作品は「旅立ちの夜」、2019年に掲載されているから単行本が出せるようになるまで少なくとも4年以上は掛かったことになります。

 「幻妖」という常人には見えないオバケのようなモノが生まれつき見える主人公「夜島学郎」は、入学直後の高校で「鵺」と名乗る人型の幻妖と出遭う。鵺は美しい女性の姿をしていたが、どこか底の見えない恐ろしさが漂っていた。敵意がなく友好的に接してくる鵺に戸惑いながら、なし崩し式に学郎は幻妖が異常発生する町「篝弥市」で陰陽師として戦うことになる……と、こんな感じの割とベタな導入です。現代において幻妖はそのほとんどが滅び去っており、今や篝弥市くらいでしか見かけない――という設定になっているので「各地の封印が解かれた!」みたいな展開にでもならないかぎり町の外へ出ていくことはないだろうと思われる。というかこの漫画、学郎くんが篝弥市の外に転校したら即座に終わってしまうのでは? 学郎くんの父親も陰陽師だったみたい(学郎くんが「幻妖」という用語を知っているのもたぶんその影響)だが、学郎くんが幼い頃に大型の幻妖と戦って命を落としており、現在の家庭環境がどうなっているのかは1巻時点だと不明だ。鵺さんを「血の繋がらない姉」として押し通している以上、恐らく本物の姉とかはいないと思われるが……。

 初連載ながら画風は定まっており、1話目から引き込まれた。シリアス要素とコメディ要素の配分がとても独特(最近はそうでもないが初期は「ジャンプの彼岸島」と呼ばれていた)ながら、その味わいが癖になる。単行本が出る前から人気が炸裂していた作品ですけど、実際に読んでみるとその理由がよくわかる。1話目に登場する「膳野」は特殊な力とか持っていない普通のクラスメイト、いわゆる「モブキャラ」なんですけどおかっぱ眼鏡というモロにいじめられっ子みたいな見た目をしておきながら勝ち目のない相手にも平然と抗っていく気骨の強さを持っており、ブリーフ一丁で幻妖に立ち向かっていく(スライムレベルの幻妖は常人には見えないが、寄り集まってキングスライム状態になった幻妖は常人でも視認可能)シーンはあまりにも雄々しく「膳野……!」って胸が熱くなります。繰り返すけどメインキャラではなくモブキャラです。鵺をはじめとする女性キャラ陣営も魅力的に描かれており、お色気要素は膝枕とかパンチラとか「腕におっぱいが当たっている……!」程度ですけれど抑制されたエロスがむしろオープンなエロスよりもエロいと申しますか、作中のセリフで表現すると「エッチすぎんだろ…!!」、これに尽きる。スラッとしているのに胸が結構大きくて太腿を見せびらかしてくるヒロインたちの波状攻撃で全国のジャンプキッズの性癖が歪んでしまいそうだ。「単行本の刊行よりも早くエロ同人誌が出た、しかも1巻には出てこないキャラの」というんだからそのエッチ力は伊達じゃない。ただヒロインがどんどん増えるせいもあって「忘れろビーム先輩」こと「周防七咲」は最近の本誌だとあまり出番がないらしいが、ここから巻き返せるのだろうか。食感がゼロ年代や10年代の美少女ゲームなんで「あー、これは〇〇ルート準拠のコミカライズだから七咲は途中からフェードアウトするんだよね」と言われてもうっかり納得してしまいそうなところがある。きっと鵺さんルートは他のヒロインたちのシナリオをクリアして「篝弥市の秘密」に迫ってからじゃないと解放されない仕様なんだろうな……序盤で「篝弥市の外に転校する」という選択肢をクリックすると数ヶ月後に篝弥市壊滅のニュースが流れて日本中に幻妖が跋扈しちゃうヤツですよ。

 まだまだ本格的に盛り上がってくるのはこれからといったところだが、この人気ぶりからすると当面打ち切りの心配もないだろうし、ゆくゆくはアニメ化の期待も持てるので安心して推していいと思います。ちなみに本作のプロトタイプに当たる読み切り「鵺ん家」はボイスコミック化されてようつべで公開されているので興味のある方はアクセスしてみよう。ボイコミ聴いてて思ったけど「鵺さん」と「姉さん」って微妙に響きが似てるんだよな……。


2023-10-03.

・どうせまた延期するでしょ……という「信頼のなさに対する信頼」が篤過ぎて発送メールが届くまで『それは舞い散る桜のように-Re:BIRTH-』発売のことをすっかり忘れていた焼津です、こんばんは。インストールは済ませたけどプレーは次の連休までお預けかな。

 サムレムに気を取られていたせいもあるが、まさか本当に出るとは。「少数ロットでの追加生産が難しい」という理由でパッケージ版は既にロットアップしており、店頭在庫がなくなり次第パッケージ版は完売となる模様です。買い逃したら後はもうダウンロード版しかない。古参エロゲーマーは今でもパッケージ派の人が多いみたいだが、最近のPCは光学ドライブが付いてなかったりするし「ハナからDL版にするつもりだった」って人も多いのかな。私は所有欲を満たしたいパケ派なんで「Steam配信のみ」のPCゲームとかは「やりたくなったタイミングで買えばいい」とついつい後回しにしちゃいます。瀬戸口廉也シナリオの『BLACK SHEEP TOWN』も未だに「パケ版が出るかも」と期待しているせいで購入に踏み切れていない。瀬戸口廉也といえば『ヒラヒラヒヒル』って新作も出る予定らしいけど、ANIPLEX.EXEだからこちらに関しては『ATRI』や『徒花異譚』みたいに後日ゲーム本編ディスクを収録したサントラが発売されるのではないかな、と思って静観の構え。

『マギアレコード』、10月3日17:00より『魔法少女まどか☆マギカ scene0』を配信開始

 遂にシナリオ「下倉バイオ」による新章が配信開始です。スケネオーこと「scene0」はマギレコ本編の一部ではなく『魔法少女まどか☆マギカ』の外伝という扱いになり、マギレコ本編との直接的なストーリーの繋がりはありません。具体的に書くとマギレコの暁美ほむらが「みんな死ぬしかないじゃない!」と狂乱するマミさんに遭遇する前、まだ眼鏡に三つ編みだった頃――いわゆる「メガほむ」時代であるのに対し、scene0の暁美ほむらは恐らく「もう誰にも頼らない」って眼鏡を外して三つ編みを解く前後――つまり「クーほむ」が生まれるあたりの出来事と予想される。確実なのは『魔法少女まどか☆マギカ』本編よりは過去、まどかが「夢の中で逢った、ような……」ってデジャ・ヴる前の出来事を描くってことです。

 要約すると、

 まどか10話(途中まで)→マミさんが「みんな死ぬしかないじゃない!」ってなる前のループ(ここでマギレコ本編に分岐するルートが生まれ、そっちだとscene0に繋がらなくなる)→scene0→まどか10話(後半)→まどか1話(「夢の中で逢った、ような……」)

 こうなります。位置づけとしては「まどマギの前日譚」なのだが、時系列的には10話の中に含まれているし、ループとしてはマギレコよりも後の世界になる。

 scene0はほむら自身とほむらが接触している魔法少女以外は知覚できないはずの「時間停止」を例外的に知覚できる魔法少女「愛生まばゆ」をメインに据えた物語です。本編以外はボイスレスが基本のマギレコにしては珍しく「最初からフルボイスで実装」と告知されている。不明だったCVも「早見沙織」とようやく明かされました。マギレコでは「美国織莉子」のCVを担当していたから兼ね役ですね。「はやみんフルボイスでの実装、これはプレーヤーたちからガッツリ石を絞り取るつもりやな……ゴクリ」と生唾飲み込んだが、なんと愛生まばゆは配布キャラだ。ストーリーを進めるだけで入手可能となっています。「じゃあガチャの目玉はどうするんだ?」と首を傾げたら鹿目まどか scene0 ver.というまどかのバージョン違いが来る模様。10月3日(今日)はまどかの誕生日(虚淵がまどマギの初稿を上げた日)だからその絡みもあるんでしょう。この調子ならほむらのscene0 ver.も登場するんだろうな。

 愛生まばゆは後付けのキャラだから当然まどマギ本編には登場しませんが、辻褄を合わせるため「事情があってその存在は忘れ去られてしまった」ということになっており、その「事情」を綴るのがscene0って形になります。タイミング的に『ワルプルギスの廻天』と連動しているのでは……って予想もある。下倉バイオの弁によると、もともとはまどマギと関係なく「ループ物の企画」を練っていて「アニメにできないかな」とプロデューサーにアイデアを話したところ「これはまどマギでいけるんじゃないか」と言われ関係各所に話を通した結果scene0になった、という経緯だそうだ。なので「『ワルプルギスの廻天』合わせで企画が立ち上がって下倉バイオに声が掛かった」みたいな流れではなく、まったく連動していない可能性もあります。でもマギレコプレーヤーとしてはワル天にチラッと一瞬でもまばゆちゃんが映るような演出があったらそれはとっても嬉しいなって。

 音声収録は既に終了しているそうだが、シナリオ全体のボリュームは「20万字」にも上るという。字数換算は馴染みが薄くてピンと来ない方もおられるでしょうが、10万字でだいたい薄めの文庫本1冊分。改行の程度にもよるが、20万字というのは文庫だと450〜500ページに相当します。KB換算だと約400KB、FGOで言うと「イ・プルーリバス・ウナムよりは長いがキャメロットよりは短い」くらいです。まばゆ演じる早見沙織はscene0で合計5000ワードものセリフを収録したそうだが、売れっ子声優なのでスケジュールの確保に苦労したらしく、「1日〇時間」の収録を何度も重ねて数ヶ月掛かりで完成したという。scene0が発表から配信まで2年以上もの時間を要した理由の一つはコレだろうな。ちなみに「ワード」というのは主にゲーム業界で使われる用語であり、単語数ではなく「メッセージウィンドウにいっぺんに表示されるセリフ」をまとめて1ワードとして数えます。極端な話、「あっ!」とか「えっ!?」とか「………(息を呑む音)」もそれぞれ1ワードだし、ウィンドウの端から端までびっちり埋まるような解説セリフやモノローグも1ワードとしてカウントされる。アニメの場合は拘束時間に応じてギャラが支払われるため「セリフが多くても少なくてもギャラは一緒」だが、ゲームの場合はワード数に応じて報酬が決まるから「セリフが多ければギャラも増える」わけだ。「スマホゲーってやたら声優陣が豪華だよな」と不思議に感じる方もおられるでしょうが、「ワード数がそのまま稼ぎに直結する=アニメよりも遥かに実入りがいい」ので声優もゲーム関係の仕事を前向きに引き受けるって事情があります。逆に言うとアニメ出演は声優にとって重要なステータスだから薄給でも耐えてしまう(足りない分をゲーム等の仕事で補う)という事情がある。1ワードがいくらなのかは契約次第なので何とも言えませんが、早見沙織クラスだとたぶん200円を切ることはないと思うし、最低でも愛生まばゆボイス収録のギャラだけで100万円は掛かっている勘定になります。そんなまばゆちゃんを配布で済ませると言い出すのだから「マギレコの運営はどうかしているのか?」と正気を疑われているワケダ。ボリュームがボリュームだから恐らく何度かに分けて配信することになるだろうし、最後の配信に合わせて「アルティメットまばゆ」みたいな限定キャラを実装して費用を回収する腹積もりなのかもしれません。本当に来るかどうかはわからないがアルまば(仮)に備えて0まどかと0ほむらのPUは我慢する所存です。


2023-09-26.

・原作が「サンドロビッチ・ヤバ子」ということで深く考えずほとんど機械的に購入した『一勝千金』、読んでみたら「ヤバ子作品史上最高に好きかも、これ」とあっさりハマった焼津です、こんばんは。

 アニメ化した『ケンガンアシュラ』とその続編『ケンガンオメガ』、同じくアニメ化作品であり主題歌のインパクトが強かった『ダンベル何キロ持てる?』を手掛けたサンドロビッチ・ヤバ子による4つ目のシリーズ、それが『一勝千金(いっしょうせんきん)』です。舞台となる世界はすべて共通しており、たとえば『一勝千金』のメインキャラクター「本郷姫奈」が通っているのはダンベルの主人公たちと同じ「皇桜女学院」だ。というかダンベルのキャラたちもモブ役ながらチラッと映っている。繋がりはあるけどストーリーそのものは独立しているから「ケンガンもダンベルも知らない」「ダンベルのアニメは観たけど4年以上前だしあんまり覚えてない」という方も気にせず手を伸ばしてOKです。とにかく姫奈ちゃんがヤバい。「国家転覆を図ったカルト教団『神の軍勢』教祖の養女」で、教団秘蔵の特殊部隊で徹底的に戦闘スキルを叩き込まれたという『高校事変』の「優莉結衣」みたいな経歴を持つ女子高生なのだが、降りかかる火の粉を払うために殺戮も厭わない結衣と違って姫奈は能動的に戦場を求めているフシがある。「神の軍勢」が武装蜂起を試みたのも、姫奈が教祖を唆したからでは……という疑惑まである始末。普通に考えるとメインキャラってよりラスボスのポジションなんですよね。表紙ではにこやかな笑顔を浮かべているが、この子は表情があまり変わらないタイプ――というか普通に笑いながら殴りかかってくる。相手をKOしているシーンの表情はよく見えない(隠している?)けれど、被弾して出血しているシーンでも表紙と同じような顔してるのが不気味すぎる。『天空侵犯』の仮面みたいな怖さがあります。しばらくは裏格闘団体でのバトルが続くみたいだが、どんどんスケールが拡大していって取り返しのつかないところまでイッてしまうのでは……とハラハラしつつもワクワクしてしまう。2巻の発売が楽しみだ。

鳴見なる「渡くんの××が崩壊寸前」アニメ化決定、原作は本日発売の月刊ヤンマガで完結(コミックナタリー)

 移籍前から読んでた作品だけど、完結間近ということもあってアニメ化は想像だにしていなかったからビックリ。『渡くんの××が崩壊寸前』『ラーメン大好き小泉さん』の原作者として知られる「鳴見なる」が手掛けたラブコメ漫画です。細かい説明を省いて超単純に書いてしまうと「三角関係モノ」だ。いえ、ヒロインは3人いるから正確には四角関係なんだけども、3人目の子は影が薄いというかたまにうっかり存在を忘れそうになるレベルなんで……後半だとサブキャラの「嶋田さん」の方が存在感あるし。1巻の紹介では「ブラコンの妹」もヒロイン扱いしているが、妹のすずちゃん(渡鈴白)は割と早い段階で精神的に成長してヒロインレースから外れます。なので兄妹禁断の関係みたいなノリを期待するのはやめた方がいいです。「日常崩壊ラブコメ」と謳って初期は若干サイコ・サスペンスっぽい演出も混ぜてきたが、進むにつれてサイコ要素は薄れて「それぞれの家庭事情」にスポットを当てた手堅い調子の青春ラブコメに変容していく。かれこれ9年くらいやってる作品ゆえ連載開始当初と最近のエピソードでは絵柄もノリもだいぶ違う。読者のヒロインに対する印象もだんだん変わっていくだろうと思います。現に私は最初〇〇派だったけどストーリーの影響もあって最終的には××派になった(具体的にヒロインの名前を書くと展開に予想がつきそうなので伏せる)。原作の方は爽やかな雰囲気で最終回を迎えそうだが、アニメはたぶん1クールだろうからドロドロしたところで終わるんじゃないかな。お色気シーンもそこそこあるのでどうぞ気軽に視聴されたし。

「Re:Monster」スタジオディーン制作でアニメ化!ティザーPV公開、ゴブ朗は佐藤拓也(コミックナタリー)

 『無職転生』の作者「理不尽な孫の手」もこの作品に影響を受けて「小説家になろう」での執筆活動を始めた、と語るぐらい結構古めのシリーズです。なろう発の「書籍化された異世界転生モノ」としては最初期に位置する。具体的に言うと『異世界迷宮でハーレムを』より前。『オーバーロード』と同時期の刊行です。リモンやオバロよりも古いのとなると『ゲート』『リセット』まで遡ることになる。ただ、厳密に書くと『ゲート』はArcadia発でなろうに掲載されたことはありません(オバロもArcadia発だがなろう掲載作でもある)。リモンとオバロと異世界迷宮あたりのヒットで急激に異世界転生(転移)ジャンルの熱が高まっていったが、ぶっちゃけ当時の私は異世界転生(転移)モノにあまり興味がなかった(『ハイランディア』とか『ゼロの使い魔』は好きだったが、ジャンル自体には関心を抱けなかった)からほとんどスルーしていました。読んでたのはせいぜい『百錬の覇王と聖約の戦乙女』『落ちてきた龍王と滅びゆく魔女の国』くらいか。このふたつは「転生(転移)モノだから」というより「戦記モノだから」読んでいた感じですね。2012年〜2014年あたりは体感的にまだまだ「転生(転移)じゃない異世界モノ」の方が主流だった。あくまで主観的なものだが、「無視しようとしてもできないほどラノベ売り場で転生(転移)モノが目立つようになってきたな」と感じたのが2015年頃。ちょうど『ウォルテニア戦記』が再書籍化し始めたあたりである。『ありふれた職業で世界最強』『精霊幻想記』『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』の書籍化スタートもこの頃だったか。

 話を戻して『Re:Monster』、最初のうちは3、4ヶ月に1冊新刊が出るぐらいペース良好だったけど4巻あたりから刊行速度が鈍り始め、2017年の9巻で一旦展開がストップします。翌2018年にタイトルを『Re:Monster 暗黒大陸編』と改めて刊行再開するも、2020年の暗黒大陸編3巻を最後に書籍版が出なくなる。エタったわけではなくWeb上の連載はまだ続いているみたいだが、とにかくそんな状態だったので今頃になってアニメ化の話が持ち上がったことには驚きました。「大丈夫なのか?」という思いは少しあるが、実際に観てみるまでは何とも言い難い。すごい出来で大ヒットして、『ゴブリンスレイヤー』とコラボするような未来が訪れたら楽しいだろうな。

エロゲの友人キャラになった主人公描く「マジカル★エクスプローラー」アニメ化企画進行中(コミックナタリー)

 好きなシリーズなので「待ってました!」な一報である。副題は「エロゲの友人キャラに転生したけど、ゲーム知識使って自由に生きる」、表紙のデザインではメインタイトルよりもこっちの方が目立っています。『マジカル★エクスプローラー』は2019年から書籍化が始まったライトノベルで、もともとは「小説家になろう」連載作品。イラストはポリフォニカやゴブリンスレイヤーでお馴染みの「神奈月昇」。気が付いたら前世でやり込んだエロゲの友人キャラになっていた――という、もはや「トラックに撥ねられて」とか「通り魔に刺されて」とかそんな手続きすらなく「理由はわからないがとにかく転生しちゃったぜ!」な爆速オープニングで幕を上げます。この「友人キャラ」というのは学園に入学したばかりで右も左もわからないゲーム主人公にあれこれ情報を与えて解説してくれる、要はときメモの「早乙女好雄」みたいなポジションの奴を指しており、いわゆる「悪役転生モノ」ではない。ジャンルで言えば「モブ転生」に当たります。

 主人公が前世で遊んだエロゲ『マジカル★エクスプローラー』はダンジョン探索型の周回を前提にした「やり込みゲー」であり、その知識をフル活用して物凄い速度で成長していく。副題の「ゲーム知識使って自由に生きる」でノホホンと気楽に生きるイメージを抱いた方もおられるやもしれませんが、主人公の突き進む道は結構過酷です。なぜなら彼はゲームに登場するヒロイン、全員が幸せな学園生活を送れるよう不幸な展開へ分岐するフラグを全部潰すつもりでいるからです。そう、原作ゲームにさえ存在しない「全ヒロインハッピーエンド」を目指し茨の道(同時攻略)の踏破に励むのである。恋愛的な意味でヒロインたちを狙っているわけではないが、困難に立ち向かっていく彼の姿にみんな次々と惹かれていく……という「なりゆきハーレム」なノリ。主人公は割とスケベな奴ですけどあくまで一線は越えず、そこらへんがややもどかしいところかな。

 こういうモブ転生系のストーリーだと「本来の主人公」が身勝手な正義を振りかざすような鼻につく野郎となることが多いんですが、マジカル★エクスプローラーの場合は「本来の主人公にも強くなってもらわないと全ヒロインハッピー計画が達成できない」ため引き立て役的な「嫌な奴」と化すことはない。悪く言えば「本来の主人公を自身の目的のために利用している」わけですけど、別に騙しているわけじゃないし「本来の主人公」も強くなりたいと自らの意志で願っているのでWinWinの関係である。現時点での最新刊は8巻、もうすぐ9巻が出る予定なのでストックは充分だ。最近のパターンから言って恐らく分割2クールになるのではないかと予想している。3巻がひとつの節目だからそこで一旦区切って、2クール目で6巻までアニメ化して後は反響次第ってところかしら。魔法で女体化して女学園に潜入する7巻(表紙手前の炎を操ってる子じゃなくて奥に見える銀髪が女体化した主人公)は是非アニメで観たいから3クール目もやってほしいところですが……。

 しかし、自販機暗殺者の2期が決まって、『最強出涸らし皇子の暗躍帝位争い』『転校先の清楚可憐な美少女が、昔男子と思って一緒に遊んだ幼馴染だった件』『クラスで2番目に可愛い女の子と友だちになった』のアニメ化まで進んでいるとは、スニーカー文庫もえらく羽振りがいいな。後進レーベルに押されて死に体だった時代が嘘のようだ。文庫系のライトノベルは売上がだいぶ下がってきている(アニメ化したSAOの影響もあって絶頂だった10年前に比べ半減している)というけど、まだまだ活気は失われていないらしい。


2023-09-19.

『BanG Dream! It's MyGO!!!!!』放送開始前に「MyGO!!!!!メンバーの日常」というショート動画がようつべにアッブロードされていたと聞いて早速観に行ったけど、「このユルめの動画を眺めて『〇〇ちゃん可愛い〜』と笑ってた人たちに向けてお出ししたのがあの1〜3話だったのかよ」と改めて戦慄した焼津です、こんばんは。長崎そよが「甘々ママ」と呼ばれてる動画に至っては「完全に別世界線では?」という疑惑が立ち上ってしまうレベル。

 「ふわふわお姉さん」どころか「不和不和お姉さん」ぶりを見せつけてきた本編そよさん、私はIt's MyGOが初MyGOだったから特に違和感なく「そういうもの」として受け入れたが、先にこの「MyGO!!!!!メンバーの日常」観てイメージ膨らませていたらキツかっただろうな……アプリ(ガルパ)でも実装されるや否や開口一番「……ケンカ売ってるの?」だもんな。続編の『BanG Dream! Ave Mujica』も発表されて期待が高まる一方の今日この頃、MyGOの影響でバンドリ熱が再燃してきたのでこの機会にバンドリアニメの歴史を振り返っていこう。「数年がかりのプロジェクトだし、膨大な量に上るのでは」と尻込みしてしまう方もおられるだろうが、なぁに、ガルパで配信されている途方もないシナリオの量に比べればアニメのボリュームは些細なものだ。MyGO含めても30時間程度、すぐに追い付けます。一部を除きほとんどがアマプラで配信されているからハードルも低いです。

 バンドリこと“BanG Dream!”プロジェクトは2014年頃からスタートしたメディアミックス企画であり、小説家の「中村航」が原作およびストーリー原案として深く関わっている。2016年に発売された小説版『BanG Dream! バンドリ』はプロジェクトの原点であり、一部のファンから「聖書」や「聖典」とも呼ばれています。主人公の「戸山香澄」が引っ込み思案な女の子になっていたり、「牛込りみ」が忍者だったり(「シューレス・ニンジャ・ガール」というボクシング編が始まりそうな異名もある)、「山吹沙綾」だけ定時制に通っていて同じ机を使っている香澄と手書きのメッセージで交信していたりなど、現行のバンドリとはかなり設定が異なるものの「バンドリの原典というか原液」ゆえ「そもそもバンドリとは何か?」という疑問にぶち当たったときに読むが吉です。「体のなかに星が満ちて、自分と夜空がつながっている気がした」といったなにげない文章の数々が「星の鼓動」や「キラキラドキドキ」などのキーワードを理解する補助線になる。つまり香澄ちゃんにとって夜空は身体の延長であり星々こそが己の心臓、数多の「星=生命」の鼓動が眩しく輝く音楽(キズナ)を奏でて宇宙(カラダ)から溢れ出すので「天の光はすべて歌」なんですよね(グルグル目)。少し真面目に書くと小説版の香澄は開始時点で「星の鼓動」が聞こえない状態に陥っており、ランダムスターとの出逢いを通じてもう一度「星の鼓動」を取り戻すという流れになっている。つまり失くした星を捕まえて復活する、「どんなに劣勢でもスターを取れば無敵になって逆転できる」マリオカート奪還と再生の物語(ロマンス)でもあるのだ。なおこの初期設定のバンドリをベースにした『BanG_Dream![星の鼓動(スタービート)]』という漫画作品もあります。アニメと並ぶプロジェクトの柱、アプリ「ガルパ」こと『バンドリ! ガールズバンドパーティ!』は2017年3月16日――つまりアニメ1期目の放送中にサービス開始しました。現在も配信継続中というか、つい先日6.5周年を迎えたばかりです。メインストーリーは香澄たちが高校1年生のシーズン1、2年生のシーズン2が終わって今はシーズン3。徐々に卒業の時が迫ってきている。

 最初のアニメ作品『BanG Dream!』は2017年1月から4月にかけて放送されました。第1話の放送が1月下旬という冬アニメとしては遅めの開始だったこともあり最終回が4月にズレ込んだのです。ファンの間では「1期目」や「無印」と呼ばれている。本編は13話で完結しているが後日談的なOVAが1話あり、それも加えると全14話。描かれる主な内容は主人公・戸山香澄のバンド「ポピパ(Poppin'Party)」結成とライブハウス「SPACE」の閉店です。後半で沙綾をバンドに勧誘しようとして軽い喧嘩になったり、ストレスで香澄が歌えなくなったりなどのシリアス展開を挟むが、全体としては「和気藹々としたムードのアニメ」に仕上がっています。1期目はあくまでポピパがメインで他のバンドの掘り下げはない(一部のキャラはちょい役で出演する、OVAだとRoselia全員のセリフがある)。ポピパの面々が通う「花咲川女子学園」(MyGOの椎名立希が通っているところでもある)、メンバーのひとり「市ヶ谷有咲」宅の蔵、そしてSPACE――ほとんどのエピソードはこの3ヶ所を行き来する内容になっており、まだ作中世界が狭く広がりを見せていない。大まかな筋立ては「紆余曲折を経て結成したバンドでオーディションに合格し、ライブを成功させる」の一行で済むわけだが、「キラキラドキドキ」「星の鼓動」「やりきったかい?」などのキーワードが初見では消化しにくく、「現行のバンドリ」を形作った重要なアニメであるが「バンドリ入門にはあまり向かない」という奇妙なポジションに落ち着いている。時系列に沿うのなら当然1期目から観た方が良いわけだけど、新規の人にいきなり1期目を観てもらったら途中で脱落されるリスクもそれなりに高い。今は「サンジゲンによる3DCGアニメ」として認識されているバンドリですが、1期目はライブシーンや電車などの一部を除きほとんどの場面が手描きのアニメーションで制作されています。おかげで作画に安定感がなく「味のある顔してるな」と思いながら見ていたキャラが急に美人になってビックリする。個人的に手描き時代のバンドリも結構好きというか、今観ても充分イケると感じるのだが、止め絵が多いし作画にこだわる層からすると厳しいかも。グリグリ(Glitter*Green)やCHiSPA(中学時代の沙綾が所属していたバンド)といった2期目以降出番のない(メンバー自体は登場するが演奏はしない)バンドが目立っているの、逆に言えば2期目や3期目から遡って視聴しても新鮮に感じられるポイントなので「何が何でも1期目から観ないといけない」わけではなく、バンドリ初心者は1期目を飛ばしていきなり他のところから観始めても全然OKです。正直、2期目はかなり話が飛躍する(1期最終回から数ヶ月に渡る空白期間が存在する)んで1期から順番通り視聴しても新キャラのラッシュを前に「誰だよこの子たち……」と戸惑うことになるでしょう。

 次のアニメ作品は『BanG Dream! ガルパ☆ピコ』、2018年にバラエティ番組『バンドリ!TV』内のミニコーナーで放送された公式パロディ系ショートギャグです。1話あたり3分で全26話。タイトルに「ガルパ」とある通り、アニメ版のパロディではなくアプリ版(『バンドリ! ガールズバンドパーティ!』)のパロディとなっている。そのため「ガチャ演出の再現」みたいなガルパをやってないとわからないネタも含まれていますし、「1期目には登場しないけどガルパには登場するキャラ」がたくさん出てきます。ただ「ガルパ本編の合間に起きた出来事を綴る」とかそういう形式ではなく、「ピコ時空」とでも呼ぶべき独自のアナザーワールドが顕現する。客席に向かってチョココロネをバラ撒くりみ、歯ギターを練習しているたえなど、かなり早い段階でキャラ崩壊を起こして好き放題暴れまくる内容になっています。カオスこそ真理。世界共通だよ、覚えて(強要)。ついさっき「バンドリ初心者は1期目を飛ばしていきなり他のところから観始めても全然OK」と書いたばかりだが、さすがにここから視聴スタートするルートはあまりオススメしないかな……ガルパ☆ピコは特有のノリで突き進むアニメだから手ぶらで挑んでもそれなりに楽しめるのだが、言ってみれば「麻雀のルールを知らずに読む『アカギ』」みたいなものであり、ちゃんとバンドリ知識を蓄えてからチャレンジする方が面白い。ぶっちゃけ私も「バンドリ本編は途中で観るのやめてガルパ☆ピコのシリーズだけ観続けた」過去がある人間(ショートギャグアニメ好き)なのだが、ちゃんと本編履修してから改めてガルパ☆ピコを視聴したときの方がより楽しかったです。私の好きなエピソードは第18話の「蔵迷宮」と第24話の「フタゴリズム」です。あとピコの前にパスパレ(Pastel*Palettes)をメインにしたミニアニメ「ぱすてるらいふ」も放送されているが、こちらはピコと比べてややまったりしたノリ。シスコンの自覚がない日菜ちゃんが喋り倒す第2話がツボです。

 本編の続きとなる『BanG Dream! 2nd Season』は2019年1月から3月にかけて放送されました。単に「2期目」と呼ばれることが多い。全13話。2018年の時点で「2nd Season」と「3rd Season」が制作されることは告知済みだったので、実質的には「分割2クールの前半」ですね。香澄たちが2年生になり、香澄の妹「戸山明日香」が「羽丘女子学園」の高等部(MyGOだと燈や愛音、祥子が通っているところ)に入学する。そう、物語はまた春から始まるのです。バンドリのガールズバンドは5人編成が基本になっており、アプリ版(ガルパ)は配信開始時点でポピパ含む5組のバンドがメイン……つまり5×5で25人もの主要メンバーが存在していました。2期ではこの25人に加え、更なる新バンド「RAISE A SUILEN」も参戦し「メインだけで30人」という途轍もない大所帯となっている。2期では各バンドの紹介的なエピソードを挟みつつポピパ初の主催ライブに向けての準備と、その裏で進行するRAS(RAISE A SUILEN)メンバー集結の過程を描いていく。バンドリはアニメ1期の評判が芳しくなかったことからブシロード代表の木谷高明はプロモーションをアプリ(ガルパ)全振りにするよう路線変更しました。結果、アプリの方が反響大きく売上も上々だったため、2期目からは「ガルパプレーヤーをメインターゲットにしつつ新規視聴者をガルパに誘導する」方向へと舵を切っていきます。別に1期目の内容を「なかったこと」にしたわけではないが、アニメだと「1年次の2学期から3学期にかけて」が空白期間となっているため、2期目から出てくるバンドは開幕時点で「既にポピパと面識がある=ガルパのシナリオを前提にしている」状態だったり、映像面でも手描きだった作画を3DCGに切り替えたりなど大幅な仕切り直しを図っている。香澄が主人公ポジションを占めていることに変わりはないにせよ、花女だけではなく羽丘も主要な舞台となっているし、だいぶ群像劇の様相が濃くなっています。中でもポピパに憧れて岐阜から上京してきた「朝日六花(ロック)」は2期と3期の裏主人公と見做してもいいような存在だ。「キャラ多すぎ」という点にさえ目を瞑ればここからバンドリワールドに飛び込むのも悪くない選択肢だと判断いたします。3DCGアニメになったことで何気ないちょっとした仕草やキメシーンの表現がかなり向上してるんですよね。OP(キズナミュージックが流れる方)の今井リサがピックを咥えてベース担ぐカットとか、9話のロックがギターを弾くシーンとか。個人的に好きなのはハロハピ(ハロー、ハッピーワールド!)回である第4話「ゴーカ!ごーかい!?のっびのびワールド!」、ある意味ピコよりも狂った内容で視聴者のリアリティラインを崩壊させる。ミッシェル(ピンク色したクマのキグルミ)にハッピーフライトモードなるものが搭載されていることが判明し、猛然と空を飛行し始めたときは「こんなのもう劔冑じゃん」と呟いてしまった。ハロハピの掛け声である「ハッピー!ラッキー!スマイル!イエーイ!」は誓約の口上だった……? 踊り続けるように闇を斬り明日へ走るミッシェルと悪鬼スマイルを浮かべたこころんとモーニングビューティタァイムに耽る薫も想像しちゃったが、それはさておきこころんの異様な身体能力の高さ(誰もツッコんでないけど散歩感覚で校舎の3階から飛び降りてるんじゃが)といい、ハロハピだけ明らかにバンドリの世界観を逸脱してるの嫌いじゃないです。というか、実のところ私の最推しはこころんだったりする。行動原理は圧倒的善なのに金と権力があるせいでサイコ系の悪役じみた振る舞いになっているギャップが好き。独善と博愛の狭間に位置し、悲しみすべてに呵責なく干渉する、ただそこにいるだけで見る者の不安と焦燥を灼き尽くさずにはいられない太陽系ファム・ファタールである。スマイルジャンキー、笑う侵略者(インヴェイダー)、好奇心過剰摂取(オーバードーズ)、黄金の獣、破顔公(ハガン・ヘルツォーク)、ドンここタロウ(ん? 今笑顔って言ったわね? これであなたとも縁ができたわ!)、ポジティブ・デウス・エクス・マキナすぎてMyGO出禁の女の子、終わりなきハピネス、常時ドーパミン垂れ流しな弦巻こころをよろしくお願いします。ちなみにCVは「伊藤美来」、プリコネのコッコロ(本名・棗こころ)役の人である。感情の浮き沈みとか起伏が非常に乏しく、喜怒哀楽でいうと「喜」と「楽」しかないキャラのため演技面では結構苦労したそうだ。

 本編3期目に当たる『BanG Dream! 3rd Season』は当初2019年10月から放送開始する予定だったが、延期して2020年1月から4月にかけて放送されました。3期が放送されていた時期はちょうどコロナ禍が始まった頃であり、バンドリもリアルライブの開催日程で大きな影響を受けるハメになりました。話数は2期と同じく全13話。実質的には「分割2クールの後半」であり、2nd Seasonと3rd Seasonは合わせて一つの作品みたいなところがあるから総計して「全26話」と捉えても特に問題はありません。よほど億劫な人以外は素直に2期目→3期目の順で観た方が宜しいでしょう。ストーリーは2期最終話、ポピパ主催ライブから4ヶ月後の秋に始まる。延期しなければ秋アニメとして放送されるはずだったので、リアルの時期と合わせる狙いもあったのかもしれない。決勝戦で武道館ライブを行うバンドオーディションイベント「夢を撃ち抜け!BanG Dream! Girls Band Challenge!」の開催が告知され、いよいよポピパは「武道館ライブ」という目標に向けて走り出す。一方、ギターは巧いのにバンドを組むことができず燻っていた六花にようやく手を差し伸べる存在が……てな感じで「バンドリ」のタイトル回収に成功しつつ物語は終幕へ向かっていく。果たして武道館の大舞台に立つバンドはどこなのか? 結末は君自身の目で見届けてほしい。個人的に好きなポイントは2話冒頭の風呂に漬かってオッサンみたいな溜息をつく六花ちゃんです。OP曲の「イニシャル」はスタリラのバンドリコラボでレヴュー曲として実装されたときにしこたま聴いた記憶があるのだが、サビの部分しかないショート版だったせいで歌い出しを耳にしても「んん?」なのだけど歌詞が「ときに曖昧で」へ差し掛かると「あっ、これかぁ!」ってなります。ともあれバンドリアニメはこの3rd Seasonで概ね「やりきった」つもりなのか、放送終了から3年経った現在に至っても4thや5thといった正式続編(ナンバリングタイトル)は出ていません。これ以降はスピンオフとか劇場版とか番外編とかです。ブシロの木谷は「『バンドリ!』はやっぱり『ガンダム』にしたい」「40年50年と続くものにしたい」「ずっと続いていく物語にしていきたい」と語っているので、Ave Mujica以降の展開も考えているんだろうけど3年生になった香澄たちの活躍を描くナンバリングタイトルが到来するかどうかは不透明……今はただ待つしかない。

 ピコシリーズの2作目『BanG Dream! ガルパ☆ピコ〜大盛り〜』は2020年、3作目『BanG Dream! ガルパ☆ピコ ふぃーばー!』は2021年に放送開始。それぞれ全26話……シリーズすべてを合計すれば78話、時間にして234分(約4時間)になります。ピコも積もれば山となる。1作目の時点で既にフリーダムだった作風は進むにつれどんどん歯止めが利かなくなっていき、ふぃーばーに至ってはもう「暴走」としか言いようがない状態に突入。EDのキメっぷりもヤバく、視聴者が「もうやりきっただろ!」とタオルを投げ入れたくなる有様となった。MyGOが終わった後のMyGOピコやAve Mujicaが終わった後のMujicaピコ、来てほしい気持ちと「来ないでくれ!」と叫びたくなる気持ちが鬩ぎ合う。仮に来るとして「眩しいわね」ノルマの処理がどうなるか、という懸念は残る(ピコシリーズの1話目は必ず友希那が「眩しいわね」と発言する暗黙の了解がある)。お気に入りエピソードは大盛りだと第6話の「美咲禁断症状」と第8話の「カードファイト!!お姉ちゃん!」、ふぃーばーだと第18話の「ねこねこタイム」と第20話の「ゲームセンターともえ」です。

 2021年にはスピンオフアニメ『劇場版 BanG Dream! Episode of Roselia』が公開されました。前後編で、前編に当たる「T.約束」が4月、後編に当たる「U.Song I am.」が6月公開。ちょい役とはいえアニメ1期から登場しているバンド「Roselia」の結成秘話を描く。アプリ(ガルパ)ではバンド単位で物語を紡ぐ「バンドストーリー」というものが配信されており、「Episode of Roselia」はRoseliaのバンドストーリーやイベントストーリーを映画化したものとなっています。TVシリーズでは触れられなかった要素が満載なんだけど、ガルパの膨大なシナリオを取捨選択した結果少しダイジェスト気味になっており、事情を知らない(バンドリのアニメをまったく嗜んでいない)人が観たら「TVシリーズの総集編か?」と勘違いしそうになる構成だ。父の果たせなかった夢を叶えるため我武者羅に目標へ邁進する「湊友希那」とRoseliaのメンバーたちとの出逢い、衝突、深まる絆を描いており、ライブシーンの迫力は圧巻です。バンドがバラバラになりそうなハラハラする展開もあるが、乗り越えた後の雨降って地固まった感は格別。しかしこれ観るとバンドリアニメ本編の友希那は随分丸くなったな、って思います。頑なで周囲に対して打ち解けなかった氷河時代の友希那が観られるアニメはEpisode of Roseliaだけ! あこちゃんの可愛さも見どころです。MyGOから入ってきた層は優秀で天才肌な双子の妹「氷川日菜」への劣等感剥き出しな「氷川紗夜」に熱い視線を注ぎそう。姉妹が和解する過程はすっ飛ばしているので「いつの間に関係修復したの!?」って驚くでしょうが。一応ポピパやAfterglowの面々も出てくるけど最初から最後までRoseliaがメインであり、そこは譲っていない。キャラクターを絞っているぶん、本編から入るよりもエピロゼから入った方が馴染みやすいかもしれません。ちなみにバンドリで私の一番好きな曲はRoseliaの「FIRE BIRD」ですが、残念ながらエピロゼでは演奏されず。話の流れ的に入れにくい曲だから仕方ない。「Neo-Aspect」や「Song I am.」も好きなので不満感はないです。

 2022年1月には『劇場版 BanG Dream! ぽっぴん'どりーむ!』が公開。1日公開という正真正銘のお正月映画だったが、年明け早々にバンドリ映画を観に行く人なんてそんなにいるわけが……結構いました(←地元最速で観に行った人間による観測)。バンドリの非スピンオフ劇場版は「ぽっぴん'どりーむ!」の前に『BanG Dream! FILM LIVE』『BanG Dream! FILM LIVE 2nd Stage』の2作が公開されていますけど、これらは演奏シーンとMCのみで構成された「ストーリーのない疑似ライブ映画」であり、感覚的には「豪華なMV集」である。なので解説は割愛します。「ぽっぴん'どりーむ!」は3期の後、オファーを受けた香澄たちが海外でライブをすることに……という話。TVシリーズの後日談も兼ねたお祭りムービーです。残念ながら現状では配信されておらず、1万円近くする『夏に閉じこめて』限定盤特典BDにのみ収録されている状況であり、気軽に視聴する方法がありません。私も久々に観直したいので困っています。

 2022年3月に放送された『バンドリ! ガールズバンドパーティ!5th Anniversary Animation -CiRCLE THANKS PARTY!-』はタイトル通り5周年記念アニメです。全2話。この場合の5周年はガルパ(2017年3月配信開始)に掛かっており、まりなさんが画面のこちら側に語りかけるシーンもある(ガルパにおいてプレーヤーは「まりなの部下」という体裁になっている)。7つのバンド、計35人のメンバーがライブハウス「CiRCLE」の感謝イベント「CiRCLE THANKS PARTY!」に参加して合同ライブを開催する――というお祭りアニメ。「物凄く長尺のファンサービス・ムービー」といった趣だ。さすがに一人一人キャラ紹介するだけの余裕はないので「全員知っていることが前提」で進行していく。新規の人が視聴することはあまり想定していないつくりである。「“BanG Dream!”プロジェクトに5年も付き合ってくれてアリガトウ! これからもまだまだやっていくよ!」という送り手のメッセージがぎゅうぎゅうに詰まっており、他ジャンルファンなら「ここまでしてもらえるなんて羨ましいな……」と羨望の眼差しを向けてしまうこと間違いナシ。

 最後はスピンオフアニメ『BanG Dream! Morfonication』、2022年7月に特別番組として放送された作品です。全2話。本編3期が放送されていた頃にガルパへ実装された7つ目のバンド「Morfonica」をメインに据えている。Morfonicaはお嬢様学校である「月ノ森女子学園」(MyGOのそよや睦が通っているところ)で結成されたバンドで、「Morfonication」はそんな彼女たちの夏休みにスポットを当てている。Morfonicaのメンバー「倉田ましろ」は内気かつ劣等感の塊みたいな少女であり、「何の取り柄もない自分」から脱却しようと日々もがいています。そんな彼女と久しぶりに再会した中学時代の同級生が「倉田さん、ちっとも変わってなくて良かった」と発言したことにショックを受け、深く落ち込む。発言した同級生に悪意は微塵もなかった(月ノ森というお嬢様学校に進学して遠い世界の人になってしまったような寂しさを感じていたぶん、雰囲気がほとんど変化していなくてホッとした)のだが、繊細なましろはあたかも「何の進歩もないね」とか「まるで成長していない……」と糾弾されたかのような気分に陥ってしまったのである。「変わっても変わってなくてもましろちゃんが好きだよ」と、Morfonicaのみんなが本音を言ってくれたおかげもあって彼女のメンタルは回復します。要約すると「ましろが凹んでから立ち直る話」であり、「感受性の強い女の子」の世界を丁寧に描いている。ましろんのメンタルはアルミ缶並みでしょっちゅうベコベコに凹みまくるのだが、そこからキチンと立ち直れる子でもあるのだ。

 ってな具合にバンドリのアニメはいろいろあるわけですが、ゴチャゴチャと難しいことは考えず好きなところからスタートして構いません。It's MyGOの評判からバンドリに興味を抱いた人も、別に予習とかしなくていいのでいきなりMyGOから観始めちゃいましょう。MyGO観終わった後は本編の2期と3期を視聴するコースがオススメかな。「あっ、ここがMyGOのあそこと繋がっているのか!」ってなるポイントがいくつもある。1期は後回しでも大丈夫だけど時間があるなら観ておいた方がいい。ツッコミどころが多いとはいえ「これがなかったら今のバンドリもなかった」わけですから。数々の積み重ねの果てにMyGOがあることを実感してほしい。時間経過が曖昧なタイプではなくキチンと折々の季節が過ぎていく物語ゆえ、接するほどに愛着は深まるでしょう。最終的にバンドリの世界を完全理解したくなったらガルパをインストールしかないのだが……ついこないだ6.5周年を迎えたようなアプリなので蓄積されたシナリオの総量は半端じゃない。やるなら生活の一部を捧げる覚悟で臨んでほしい。そう言う私はどうなのか、って? ぶっちゃけ音ゲーが苦手なのであまり触ってないです。ただ昨年オートライブが実装されたからコツコツやっていけば音ゲー苦手勢でも何とかなりそうな環境にはなってきています。ガッツリやり込みたいならともかく、イベントシナリオを解放するだけなら始めた直後でもそんなに難しくない(オートライブかけて放置すればいい)のでMyGOメンバー実装で興味を持った方は気軽にどうぞ。

「劇場版 まどか☆マギカ〈ワルプルギスの廻天〉」2024年冬公開、本編映像の特報(コミックナタリー)

 やっとワル天の本編映像がお目見えだ。作画のクオリティが凄まじく、蒼樹うめのテイストをキチンと残しつつも一段と観応えが増したビジュアルになっています。タイトルの割にワルプルの方はあまり目立たないが、ひょっとして今回は舞台装置に徹するだけでワルプル自身の掘り下げはあんまりないのか……? ファンが長年ずっと気にしている「ワルプルギスの夜が正位置になったら具体的に何が起こるのか問題」だけはハッキリさせてもらいたいものだが。それにしても包帯グルグル巻きの怪人みたいな格好のさやかちゃん、いったい何が起こってるんです? マギレコのアニメでもホミさんの砲火に腕がもげて一瞬で再生するようなタフネスぶりを見せていたさやかちゃん(恭介の怪我を治したい、という願いから魔法少女になったため治癒能力は高い)がここまでボロボロになるなんて……悪魔ほむら討伐のために体を痛めつけてエクソシズム紫電掌の特訓でもしたのかしら。

 公開は2024年冬、この表記だと最短で1月、最長で12月だが……さすがに1月ってことはないだろうな。延びそうな気配もあるし「早くて12月」程度に思った方が良さそう。個人的に「〇〇年冬」という表記を見るとDiesの当初の予定だった「2006年冬」を思い出してしまって嫌な気分に陥るんだよな……17年経ってもまだそういう感情が薄れないんだからスゴいよな。もはや呪いである。

『マギレコ』×『リコリス・リコイル』コラボ決定。錦木千束と井ノ上たきなが魔法少女姿で登場(ファミ通.com)

 一方、マギレコの方ではリコリコとのコラボが決定していた。マギレコは過去にシャフト繋がりで化物語と、魔法少女繋がりでなのはとコラボしたことがあります。化物語コラボはシナリオがなかったためひたぎたちがなぜ魔法少女になっているのか分からず終いであったが、なのはの方はもともと魔法少女ということもあってかシナリオ付きでした。「錦木千束と井ノ上たきなが魔法少女姿となって登場する」となると理由作りが難しそうだから化物語と同じでシナリオなしのパターンかしら……前にも書きましたが、千束役の「安済知佳」はオルガ役として、たきな役の「若山詩音」はヘルカ役としてマギレコに参戦済であり、ついでに言うとフキ役の「河瀬茉希」も観鳥令役、クルミ役の「久野美咲」も千歳ゆま役、ミズキ役の「小清水亜美」もリズ役で既にいます。なので現時点でも「リコリコごっこ」ができるわけだが、まさかごっこではなく本物のリコリコ編成が可能になるとは。

 少し前に悪魔ほむらが実装された(現在はピックアップ終了)ことで話題になったマギレコ、リコリココラボが気になって始めようかどうか迷っている方もおられるやもしれませんので念のため注意事項を書いておきます。まず、先ほども触れましたが「コラボイベントが開催されると言ってもシナリオ付きとは限らない」こと。そもそもマギレコはたるマギやすずマギ、マギレポなどといったまどマギの派生作品(いわゆるスピンオフ)とのコラボイベントは積極的に行いますが、他社作品とのコラボは化物語となのはしかなく、参考となる前例が極めて少ない。ゆえに「千束とたきなの新しい掛け合いが見られる」とは確約できないのです。そして二つ目、「マギレコは本編以外のシナリオは基本的にボイスレス」である。グラブルみたくフルボイスでイベントシナリオを紡ぐような豪華なつくりにはなっていないので、たとえシナリオが付くとしても声は付かないものと思ってほしい。魔法少女として実装される以上、戦闘時のボイスやホーム画面でのセリフはちゃんと収録されるでしょうけれども。

 マギレコは200連で天井だから石5000個(あるいはそれに相当する枚数のガチャチケット)を集めれば確実に千束かたきなは手に入る。たぶんピックアップは別々でも天井で交換できる対象が千束・たきな両方になるタイプのガチャ(ブルアカをイメージしてもらえるとわかりやすい)でしょうから200連以内にどっちか1枚引ければ残りも入手確定となるはずゲーム内のお知らせを確認しましたが、ピックアップごとに天井が分かれる形式なので両方を確実に入手するには400連分必要です。彼女たちが欲しいのであればイベント開始よりも前にアカウント作ってプレーしておいた方がいいです。リセマラという手段もあるが、マギレコはチュートリアルが長い(30分くらい掛かる)ゲームだからよほど時間に余裕がある人以外にはオススメしにくい。過去の例から言って最低1人は配布だと思いますけどね……化物語コラボではひたぎ、なのはコラボでははやてが配布されました。千束とたきなだけとは考えにくいので、それこそフキとかくるみあたりも来るだろうと考えられます。ミズキは……さすがに歳が……いや今やってるマギレコのイベントに登場する「イナミマン」こと伊並満は31歳なので無理というほどじゃないんですが。ちなみに伊並満のCVは「豊田萌絵」、ユーフォの川島緑輝(サファイア)、バンドリの松原花音、ブルアカの浦和ハナコなどを演じている声優。キャラデザは「アラサーマミさん」の呼び名で親しまれている『巴マミの平凡な日常』の作者「あらたまい」である。来月で10周年、単行本の最新刊(10巻)も発売されるというのだからスピンオフ漫画ながらも息の長さに驚くばかりだ。

(09/21追記) リコリコとのコラボイベント「Agent Magica〜マギアレコード×リコリス・リコイル〜」は9月22日開催、シナリオ付きのイベントみたいです。千束・たきな両名ともにガチャ実装で配布キャラはいないみたい。千束とたきなでそれぞれ天井が別になるらしく、沼った場合は両方引くのに400連、10000個もの石が必要になる模様。初心者が掻き集めるにはかなりしんどい量だと思います。しかしコラボCM、ソウルジェムを持った千束とたきなの絵面がもたらすインパクトヤバいな……まるでコラ画像だ。

『落第騎士の英雄譚』19巻、12月発売予定。画集付き特装版画集&タペストリー付き特装版も予約中。

 前巻から実に3年半ぶり。イラストの「をん」の絵柄もだいぶ変わったな……『落第騎士の英雄譚(キャバルリィ)』、かつて1クールだけアニメを放送したこともあるので記憶に残っている方もおられるのではないかと思います。原作1巻は2013年7月発売だったから既に10周年を過ぎている。どうも10周年に合わせて7月くらいに予約を開始していたらしいが、私はつい最近になってようやく知りました。情報キャッチするの遅すぎ。停滞気味の期間もあったとはいえ番外編の零も含めて20冊にも及ぶ長大なシリーズである。アニメ化されたのはごく一部、3巻まで(と零の一部)です。1〜3巻は全国大会に出場する生徒を選抜する「校内編」であり、4〜9巻が「大会編」、10〜15巻が「皇国編」、16〜17巻が「大炎編」、18巻から「最終章」に突入――ってところで続きが出なくなっていました。最終章というから何冊か掛かると思い込んでいたけど、表紙の感じからして19巻で完結か? 無駄にダラダラと引き延ばされるよりはマシ……かなぁ。うーん。

 アニメ観て続きが気になっている人は是非原作も読んでほしいけど、大盛り上がりする大会編はともかく皇国編は少しダレるのがネックかしら。個人的に「夜叉姫」西京寧音vs「砂漠の死神(ハブーブ)」ナジーム・アル・サーレム戦は大好きなんだけど、逆に言うとそれ以外のバトルは強く印象に残らなかった。大炎編はサブキャラたちにスポットを当てた内容で、アニメだと噛ませ犬の印象しかない桐原静矢(「あ、そーれワーストワン!」の音頭と「じゃんけんで決めよう!」のセリフで有名なCV.松岡禎丞のキャラ)にも見せ場が用意されています。結局アニメの2期は来ないまま終わりそうな雰囲気なのが残念だけど、とにかく未完のまま放置されなかったことは喜びたい。

【予告】期間限定イベント「ワンジナ・ワールドツアー! 〜大精霊と巡る世界一周〜」開幕決定!

 発表が京まふだったから和系のぐだぐだイベントかと思いきや、舞台はオーストラリアの都市「シドニー」。派遣される面子もかなりカオスでトンチキの予感がぷんぷんと漂う。実装される新規サーヴァントは「ワンジナ」、夏イベントの核心的な存在だ。これ実質「サーヴァント・サマー・フェスティバル2023!」の続編では? ワナジナ、キャラクターグラフィックも作っているくらいだし、いつかはサーヴァントとして実装されるかも……とは思っていたがこんなに早いのは予想外だ。「世界一周」ということはシドニーを起点にぐるっと地球上を移動していく形式になるのかな? マシュ以外の面子が「宗矩、クリームヒルト、太歳星君、アルテラサンタ、ドゥムジ、エリセ、ボイジャー」とかなり謎めいており、展開を想像するのが困難である。太歳星君とボイジャーはなんとなくワナジナに通じるものを感じるし、アルテラも出自を考えると宇宙繋がりと言えなくもないが、宗矩とクリームヒルトとドゥムジは本気でわからん。おまけになぜか言峰も特攻対象だし。いったい何が起こるんだ? 霊基にバールー(アボリジニ神話における月の神)が混ざっているからそれ関係?

 ピックアップは当然☆5フォーリナーのワナジナ。「くん」を付ければいいのか「ちゃん」を付ければいいのか迷う。胸膨らんでるしビキニっぽい格好しているから女の子寄りなんだろうが、そもそも性別とかなさそうだもんな。「ブーメランあるし大気の精霊だから風雲拳の使い手」という説は笑った。配布サーヴァントに関しては明言されていないが、この感じだとなさそう。今回欲しい絵柄の概念礼装もないし、夏イベントで散財した傷も癒えていないからガチャはお休みしたいところだが、ピックアップ☆4サーヴァントがクリームヒルトなのでちょっと悩む。クリームヒルトさんはスト限ゆえ入手機会が少ないんですよね。いずれ☆4配布で交換できるようになるだろうけど、3000万DL記念は☆4じゃなくて☆5配布の可能性が高いし、だいぶ先(3500万DLとか)になりそうな気配。今なら来年のバレンタインにも間に合うし、少しだけ呼符使っちゃおうか……って誘惑に駆られてしまう。グッと我慢して正月あたりまでガチャ禁したいところであるが、果たしてどうなることやら。なお10月下旬には聖杯戦線があるとのことで、今年はハロウィンイベントなさそうな感じ? それとも次の聖杯戦線がハロウィンイベントなのか? 現状判明しているのは三田誠シナリオによる「聖杯戦線としては異例のボリューム」のイベントということのみ。続報を待つしかない。ワナジナイベントと聖杯戦線の間が2週間くらい空きそうなんで、そろそろ2900万DL記念キャンペーンも来そう。奏章Uは11月か12月くらいかなぁ。

・拍手レス。

 祝「空鳥の碑」が発売 来週とは信じられない気がしてきました

 “ 幻想(ユメ)”じゃねえよな…!? もはや懐かしさすら覚える分厚さに恍惚(ウットリ)。しかし久々に講談社ノベルスのHPへアクセスしたら2020年で更新が止まっていて悲しくなった罠。講談社ノベルスやカッパ・ノベルスなど新書系小説レーベルが毎月新刊を出していた時代も随分と遠くなり申した。あと使っているエディタの関係で「空鳥(ヌエ)」の漢字が出せないので代用表示にしました、すみません。


2023-09-05.

・なんとなく懐かしくなって久々にlightのサイトにアクセスしたら2年近く前に株式会社グリーンウッドが事業継続のお知らせを出していたこと知って今更驚いた焼津です、こんばんは。

 継続と言ってもスタッフは移籍済なので具体的に稼働する予定もないみたいだが、それでも「生きとったんかワレェ!」という気持ちになるな。パンテオンへの期待が鎌首をもたげそうになるのを宥めつつ、後方で生暖かく見守るとしよう。

・ジャンプ漫画の新刊が出る時期ですが、個人的にオススメしたい新作は『タマロビ in アウト』です。

 魂を体の外にまろび出せる体質、すなわち「マロビスト」の主人公が安倍晴明の子孫に当たる陰陽少女「安倍クラリス」とともに悪霊へ立ち向かっていく伝奇コミック。基本的なノリはギャグ漫画のそれですが、一応真面目なストーリーもある(クラリスの祖先である晴明は転生を繰り返して「ある陰謀」を成就させるために暗躍している)。絵柄の粗さをテンションの高さで補っており、簡単に言うと「SUN値高めのボーボボ」です。ネタの密度が濃いので1話1話の満足度が大きい。パロネタが多すぎるところは好みの分かれるところかもしれないけど、まずは1話目だけでも読んでみてほしい。アマゾンの「試し読み」でも読めるのでどうぞ。愛が重たいヒロインのクリラスは無論好きですが、途中から出てくる承認欲求剥き出しの自称・魔法少女(実際は法力少女)の子「レンカ」も面白い。お連れのマスコット「ゲビビン」が「汚いケロちゃん」としか言いようのない見た目なのがアレですけども……。

 短期連載であることは作中でも明言されており、ジャンプラの方では既に最終決戦へ突入しています。ジャンプラ作品って連載終了するまでは「初回無料」で全話読めますので、駆け込むならそろそろのタイミングだ。お早めにGO。

・録画していた『BanG Dream! It's MyGO!!!!!』を一気に崩しました。12話まで観ても終わりそうにないムードだから「ひょっとしてこれ1クールアニメじゃなくて2クールアニメだったの?」と首を傾げていたら13話目で最終回とのこと。「続きはアプリで」ってことなのか、分割2期なのか、主人公を変更して新作やるのか、現状ではよくわからない。

 まず簡単な解説。『BanG Dream! It's MyGO!!!!!』はアニメやアプリを中心に展開しているメディアミックス企画「BanG Dream!」(以下バンドリ)の4つ目に当たるTVシリーズです。ナンバリングタイトルではなく派生作品(スピンオフ)という扱い。これまでの作品に登場したキャラクターもしょっちゅう顔を見せますがあくまで脇役止まりで主要陣は刷新されており、バンドリのアニメを1個も嗜んでいない人も不安がることなくIt's MyGOから入ってOKな作りとなっています。ファンのためいろんなキャラの見せ場を用意しないといけないナンバリングタイトルと違ってスピンオフは特定のキャラやバンドに絞ってドラマを描けるから深掘りしやすく、そういう意味では初心者向けなんですよね、It's MyGO。バンドリは「中学生や高校生の女子たちが部活感覚で音楽バンドを組む行為が大流行している世界」を舞台にしているが、現実世界同様にバンド内の人間関係でいろいろと揉める傾向にあり、ちょくちょく感情が行き違って険悪な雰囲気が漂うことから「バンドリ特有のギスギスした展開」を指す「ギスドリ」なるスラングも一部で流通している。It's MyGOはギスドリ濃度がかなり強めで「女の子たちが和気藹々とキャッキャウフフする癒しアニメ」を求めている層に対しては劇薬じみた効果を発揮します。8〜9話のあたりが特にキツいので、覚悟をキメて10話まで辿り着いてほしいが、そもそも1〜3話の時点で充分メンタルをやられる内容に仕上がっている。

 まず出だしからして暗い。篠突く雨が降りしきる中、いきなり「仲良しバンドが崩壊するシーン」を上演する。女子中学生5人によって結成されたバンド「CRYCHIC(クライシック)」は初ライブを終えた矢先、メンバーのひとりである「豊川祥子(とがわ・さきこ)」が理由も告げずに脱退表明したことをキッカケに5人の心がバラバラとなり、あっという間に消滅してしまう。時は流れ春、ゴールデンウィーク前という奇妙な時期に転入してきた少女「千早愛音(ちはや・あのん)」は、周囲から浮いていて「不思議ちゃん」扱いされている同級生「高松燈(たかまつ・ともり)」(収集癖が行き過ぎて道端の石を拾う行為に没頭したりする子)にバンドを組まないかと誘いかけてみるが、燈は崩壊したCRYCHICの元メンバーであり、今もバンド解散のショックを引きずっていた……と、1話目から「訳アリの少女が多すぎるだろ」って言いたくなるストーリーです。OPで愛音と燈を含む5人の子が曲を演奏しているから「この子たちが『MyGO』ってバンドを結成して、CRYCHICの元メンバーたちと和解して終わりなのかな」と最初は思ってました。バンドそのものは4話目あたりで一応結成されるものの、目立ちたがりの愛音がろくにギターも引けない腕前だとバレるなどのっけから波乱含み。どうにかこうにか取り繕って7話目で初ライブ、いろいろボロボロだけど5人の心がようやくまとまった……と安堵しかけた矢先に事件が起こる。そしてあの微妙にミーム化した、「長崎そよ(ながさき・そよ)」が物凄い剣幕で口にするセリフ「なんで『春日影』やったの!?」(公式切り抜き)へ繋がります。

 「春日影」はCRYCHIC時代の曲であり、高松燈がCRYCHICのメンバーひとりひとりを想って作詞したものなので、オリジナルメンバーが欠けている状態で演奏することは過去(CRYCHIC)に執着するそよからすれば聖域を土足で踏み躙る行為に等しい。ライブに来ていた祥子(春日影の作曲者でもある)は「あの頃に戻りたい」気持ちを刺激されながらも「自分の居場所はもうない/自分で壊してしまった」現実を突き付けられ、ズタズタに心を引き裂かれて涙をこぼしながら走り去っていく。その様子を目撃してしまったそよは深く傷つき、他のメンバーが体を揺らしながらノリノリで演奏するのとは対照的に棒立ちで俯いて演奏終了後に感情を爆発させる。穏やかなお嬢様、というソトヅラをかなぐり捨てて金切り声で叫ぶ姿はインパクトが大きかっただけにミーム化するのもわからなくはないが、「思い出」という花壇を突然踏み荒らされたら平静を保つことなどできない――という、逆鱗に触れられた彼女の気持ちが痛いほど伝わってくるので胸が苦しくなります。そよ、ことあるごとに爪をいじる癖があって「こりゃ内心相当ストレスを溜め込んでるな」と匂わせていたし、いずれ爆発するだろうことは予見されていた。自宅にまで押しかけてきた愛音を嫌そうにではあるが割とあっさり部屋に上げることもあり、「彼女にとって自宅はプライベートな空間だけど生活臭はあまりなく『要らない』とまで言い切った愛音に侵入されることにもそこまで拒否感がない……あくまで彼女にとっての『聖域』、譲れない場所、護りたかった花園、魂の在処はCRYCHICだったんだな」って考えて切なくなる。「周りに合わせられない」燈と「つい周りの顔色を窺って合わせてしまう」そよで対比になっているが、どちらにしろ生きづらさは変わらないんだな、ってしみじみしちゃう。9話や10話で特撮の悪役みたいな口ぶりになるのは笑ってしまったが。取り繕うのをやめて本性をさらけ出して愛音相手に悪態つくようになってからのそよの方がキャラ的に「合ってる」気がするというのは面白い。和解した後も念入りに「『春日影』はやらないから」と地雷アピールして釘を刺すの良い。12話目でようやくバンド名が「MyGO!!!!!」に正式決定となり物語もひとつの区切りを迎える中、CRYCHIC崩壊のトリガーを引いた祥子も新しいバンドを結成しようと画策していて……と、2クール目(あるとすればだが)に向けての動きも鮮明になっていきます。祥子率いる新バンド、いったい何ムジカなんだ……?

 かつて「ボーカル必死過ぎ」と嘲われた燈が「私は! 必死にやるしかできない! だって、私の歌は心の叫びだから!」と決意を漲らせて叫ぶシーン(「燈の歌詞は、心の叫びですから」という祥子の言葉が元になっている)は最終回に持ってきてもいいようなぐらいの盛り上がりなのに、ここから更に心をバキボキに折る展開を持ってくるのホント公式は鬼だな……と拍手したくなります。「令和のレインボーライブ」という評には噴いた。重要な場面でやたら歩道橋が出てくるから連想しやすいってのもある。「バンドリってCMとかは目にしたことあるけど本編に関してはまったく知らないんだよなぁ……」って人や「だいぶ前に1期を観たけど、きらきら星のところでリタイアしちゃって……」という人も気にせずいきなりIt's MyGOに吶喊しよう。それにしても「自分だけ羽根がなくて、まるで地べたを転がっているダンゴムシみたいだ」と感じている燈、猛烈に羽田鷹志みがあるな……もし音楽やってなかったらグレタガルド的な世界に旅立っていたんじゃないかしら、この子。燈と言えば幼少期の回想に出てきた「みおちゃん」、7話のCパートで初華と並んで「みお」の名前が読み上げられているのは単なる偶然なのか、それとも「昔の女燈の幼馴染み」として再登場するフラグなのか。

 『ぼっち・ざ・ろっく!』からの流れでガールズバンドアニメに興味を持って観始めた人は昔の昼ドラ並みに「ドロドロ、ぐちゃぐちゃ」な展開の連続にちょっとヒいてしまうかもしれないが、キツい箇所を耐え切ればきっと新しい性癖に目覚めていることでしょう。ガールズバンドアニメと言えば『ガールズバンドクライ』という東映のオリジナルアニメも制作中らしく、「世はまさに大ガールズバンド時代」って趣が漂い出したな……時代がバンドリに追い付いてきた。あと「後輩・年下キャラ」というイメージの強い宇田川あこがMyGOでは「あこちゃん先輩」と呼ばれていることに時間の流れを感じて震えてしまった。


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