2014年5月分


2014-05-31.

・いい加減に巻数が溜まってきたし、積みっぱなしにもしていられないと『ちるらん』まとめ読みしたら期待以上に面白くて一気読みしてしまった焼津です、こんばんは。

 『ちるらん』は『天翔の龍馬』という坂本龍馬を主人公にした時代伝奇漫画のスピンオフなので、まず『天翔の龍馬』から紹介します。これは「もし龍馬が近江屋での暗殺を免れていたら……」というifを軸にしており、龍馬が生き延びる以上、史実通りには進みません。それどころか、本来なら維新後まで生き延びるはずの人物が途中で死んでしまうなど、「大変! 史実ちゃんが息をしていないの!」と悲鳴を上げたくなる展開目白押し。たとえば、ちょいネタバレになるけど『人斬り半次郎』こと中村半次郎(桐野利秋)が土方歳三と決闘した末にポーンと首が飛んでいってしまう。『処刑御使』並みに思い切ったFATALITYで呆然としました。いや巨大ムカデとかは出てこないんですが。「王政復古の大号令」がストーリーの焦点になっており、龍馬は薩長と徳川の真っ向衝突を回避すべく尽力する。しかし、戦乱を願う者たちの野望は挫くことができなかった……というところで「第一部・完」。盛り上がってきたところでバッサリ終了という残念な事態に陥ってしまった。打ち切りというか、掲載誌である“週刊コミックバンチ”が休刊しちゃったんです。代わりに“月刊コミックゼノン”で始まったのが『ちるらん』、副題「新撰組鎮魂歌」。『天翔の龍馬』にも歳さんをはじめとして新撰組の隊士が何名か出てくるので、その流れもあって新撰組モノに切り換わりました。『天翔の龍馬』も途中から表紙が歳さんフィーバーになったしな……3巻表紙の歳さんは正直可愛い。頭にリボンみたいなの着けてるところが萌える。

 『ちるらん』もかなり脚色が激しいけど、今のところ『天翔の龍馬』ほど史実からは逸脱していない。歳さんが試衛館に入るところからスタート(6巻にはバラガキ時代の番外編も収録されている)し、彼らのシンボルであるダンダラ模様の羽織をまとうのは5巻になってからと、前半はちょっと進行が遅いけど6巻で岡田以蔵の処刑があり、7巻から八木邸暗殺事件のエピソードに入っていくため、どんどん盛り上がってきています。最新刊の9巻では前述した中村半次郎も登場し、『天翔の龍馬』好きとして大興奮。ちなみに、壬生浪士組の名称が「新撰組」へ改まるのは8巻に入ってからです。「土方歳三の孫とおぼしき女性が永倉新八のもとに訪れて『鬼の副長とよばれた土方歳三の真実』を聞き出そうとする」、つまり新八の口からストーリーが語られる(その割に新八が知り得るはずもない情報を含んだ場面が多いけど、それはひとまず置いときましょう)体裁になっていて、詰まるところ『壬生義士伝』みたいな形式です。

 ぶっちゃけヤンキー漫画のノリで描かれた時代劇であり、「京をシメている」なんて言い回しも平然と繰り出される。八木邸の暗殺も不意打ちではなく「全身全霊の暴力でオレを殺りに来い」と芹沢鴨が直球で喧嘩を売ったことになっており、なんだか『クローズ』でも読んでいる気分になります。現代のヤンキーどもが幕末にタイムスリップしてガチの抗争をかます話です、と言われたら信じてしまいそうな雰囲気がある。もし少年誌に掲載するとしたらチャンピオンだろうな。あるいはマガジンか、『ばくだん!〜幕末男子〜』って漫画もあったし。巷に溢れる「美形揃いのイケてる壬生狼」漫画とは根本的に異なる。イケてるんじゃなくてイカレてる。血腥い描写も多く、「相手をダルマにするサディストの斉藤一」とか、イケメン目当てで読むと正直ヒくでしょう。指とか腕とか首とかがしょっちゅうポロポロと落ちよります。「ヤンキー漫画ってなんだかんだ言って結局あまり相手を殺さないのが残念、フラストレーション溜まるよなぁ」って人にはうってつけ。敵は容赦なく伊達にして帰すかブッ殺す。パイオレンス補給にピッタリの一品です。キャラクターデザインの奇抜さも特徴の一つであり、白髪(銀髪?)で髪を三つ編みにしている斉藤一はまだ可愛い方(実際カワイイ)。小振りのグラサン掛けて登場する芹沢鴨を見たときはどこのジャン・レノかと思ったわ。元を辿れば色黒白髪の坂本龍馬という時点で既に突き抜けていたが、ちょんまげがハートマークで剃り込みの入ってる松平容保(7巻には彼を主人公に据えた番外編「侠気の桜」が収録されている)、パッと見だとあしゅら男爵みたいな二色ヘアーの佐伯又三郎、ガスマスクのようなものを巻いて「シュコッ シュコー」と「これ何の漫画だったっけ?」な呼吸音を立てる山崎烝、死神の如く巨大な鎌を振りかぶってポージングする原田左之助と、進めば進むほどにエスカレートしていく。「ああ、『銀魂』のキャラデザって意外と保守的だったんだな」と痛感する。極めつけは島田魁ですね。完全にドレッドヘアーの筋骨隆々な黒人男性で、「大変! 時代考証ちゃんが吐血してるわ!」と叫びたくなります。もうそういう漫画だと受け容れて挑んでください。

 ネタっぽい部分ばかり取り上げましたけど、時代考証とかそういう細かいことが気にならなければ充分面白い作品に仕上がっています。敵対する相手が藁人形にしか見えない岡田以蔵の視点など、背筋がゾクッとする演出もある。4巻で「琴」という名のヒロイン、「土方歳三が生涯唯一愛した女」も登場してロマンスの要素が添えられるし、歳さんと以蔵の固い友情に歯噛みして嫉妬心を漏らすお孫ちゃん(?)の姿も微笑ましい。ただ、このお孫ちゃん(仮)、髪型が『天翔の龍馬』の歳さんに似ている(前髪らへんは違うけど)せいで「おっぱいの付いた歳さん」に見えてしまうのが……うん、それはそれで興奮する! さておき最新刊が9巻と、いつの間にか結構な巻数が積み上がってきましたので、これ以上放置すると10巻を超える分量になってしまい、手が出し辛くなるのではないかと愚考します。そう、読むなら今です。さあアナタも「才能がない」とか言いながら片手で巻藁を粉砕する新八さんに力一杯ツッコミを入れましょう。破壊力すさまじくて才能というレベルを超えてるよコレ……あと「撃つであります!!」「撃つであります撃つであります」「どんどんどんどんどんどんどんどんっ」「撃つでありますよぉおっ!!!」とはしゃぐ5巻後半(25話、馬関海峡を通過する英国商船への砲撃)の久坂玄瑞が個人的になんか好き。

『ワールドトリガー』TVアニメ化決定!(萌えオタニュース速報)

 え? 早すぎじゃない? 以前の感想で「このまま行けばアニメ化すら視野に入る勢い」とも書いたし、将来的にはアニメ化するだろうと見込んでいましたが、まだ単行本5巻までしか出ていませんよ。来月に6巻が出るけどそれでもまだ少ない。『ワールドトリガー』は「で、どんな漫画なの?」って訊かれると返答に窮する作品です。別に複雑というわけではなく、骨格からするとむしろ単純な方だ。異世界から侵攻してくるクリーチャーを、異世界由来の技術で打ち倒す、少年漫画ではありふれた「異物撃退型」アクションに該当する。難しいのは、「どんなふうに面白いか」を未読者へ伝えることですね。「これだ!」と指し示すことのできる際立った特徴がなくて、アピールしづらい。設定は細かくて興味深いけど、地味。良くも悪くも理詰めでその場限りのハッタリに頼らないと申しますか……「J・ガイルの『雨がドーム状に避けていた』ってのはいったい何だったんだよ!」みたいなのがない反面、掴みは弱い。ジャンプ漫画で言うと『PSYREN』みたいなポジションに佇んでいます。だから、情勢によってはそこそこの人気を集めつつ『PSYREN』同様アニメ化しないで終わりを迎える危惧もありました。それがこんな早い段階で映像化するだなんて、よっぽど弾がないんだな、今の週刊少年ジャンプ。

 原作の方は異世界が『終わりのクロニクル』並みに複数存在するとようやく判明した程度で、概念戦争的なイベントはまだ全然起こっていない。チームバトルを重視したストーリーだけにキャラ数も多く、なかなか先に進まないんですよね……主人公チームの中にはまだ訓練課程のメンバーもいるし。アニメは確実に「俺たちの戦いはこれからだ!」で終わりでしょう。気が早いけど2期に望みを掛けるしかない。とりあえず、しばらくの間は打ち切りが来ないと確定して安心しました。スタイリッシュさやケレン味を削ぎ落とした素朴な作風で、90年代頃の少年漫画が好きだった人ならすんなり馴染めると思います。ただ、前の感想にも書いたけど恋愛要素がほとんどないので、ほんの僅かでもラブコメ展開が欲しいという方にはキツいかも。しかし制作はどこなんでしょうね。これでTRIGGERだったら出来すぎなんですが。TRIGGERと言えば、『アニメを仕事に!』っていうTRIGGERの取締役による新書本を読んでいます。キツいことで有名な「制作進行」という役割について語っている。そういや『戦勇。』の春原ロビンソンも漫画家になる前はアニメの制作進行をやっていたらしい。当時の思い出を綴った『アニメ95.2』というエッセイ漫画もあります。

もっとたくさん昔のエロゲリメイクすべきだと思わないか?(2次元に捉われない)

 既に何度となく書いてきたが、『Rumble 〜バンカラ夜叉姫〜』はシステムだけ作り直して再販してほしい。江里弓子と江里盾子の双子姉妹は何度見てもかわええ。しかしメーカーのペンギンワークスはもうとっくになくなっているし、権利関係がどうなってんのかよくわからないですね。あとはやっぱりヴェドゴニア。戦闘シーンをもっと遊べる仕様にしてほしい。いやいっそもう全部テキストにしてくれてもいい。ヴェドってファントムや鬼哭街に比べて扱いが不遇という気がしてならないです。

・オーフェン特集は思ったより手間が掛かってなかなか進行していない。結局、全巻最初から読み直すことにしちゃったからな……6月20日あたりを目処にまとめる予定です。

・拍手レス。

 世の中には解説されたい病に苦しむ者もいるんですよ!よろしくお願いします!
 これがWin-Winの関係って奴ですか……私も最近は本文より解説文の類を読む方が楽しくなってきたフシがあります。読んだことがない作家の評伝を手に取ったりとか。

 ワールドトリガーがアニメ化ですよ!楽しみなアニメがまた増えました
 てっきりソーマの方が先だと思ってました。丁寧なつくりのアニメになっているといいなぁ。


2014-05-23.

・無闇矢鱈に物事を解説したくなる、この「末期解説病」を宥めるため不定期で解説コラムをやっていくことにした焼津です、こんばんは。

 思い立って始めた第1回が「夢枕獏の作品ってアレとアレが繋がっているんですよね」。多数のシリーズを持ち、主要作品のいくつかが未完のまま継続中という停滞系大河小説家、夢枕獏はさりげにシリーズ間の繋がりを作ったりしていて解説するのが楽しい。私も全作品に目を通したわけじゃないし、一度読んだ作品でも内容を忘れていたりするので余さず網羅することはできなかったが、大まかな関連が見えてくるだけでも興味を抱く人が現れてくるかな……と思ってやってみた。次回はオーフェン特集の予定。

【グロ注意】俺「おっ、和風エロゲか。パッケージからして俺好みや!買った!」→(2次元に捉われない)

 『二重影』は正直粗いところもあった(どのヒロインを選んでもその後の展開がコピペ並みに一緒だった)けど、2000年を代表する名作の一つだと冗談抜きで確信しています。発売したのは『月姫』『ヴェドゴニア』とだいたい同じ時期ですね。『月姫』の完全版(知らない人もいるかもしれないので一応解説しますが、『月姫』にはアルクルートとシエルルートだけを収録した「半月版」が存在した)が2000年の冬コミ、『ヴェドゴニア』のソフ倫版(さっきのリンク先はメディ倫版)が2001年の正月で、『二重影』が2000年の11月だから3本の中では一番早いか。非常に伝奇色の強いストーリーであり、白川静の『字統』を要素として採り入れたりする世にも珍しいエロゲーであった。というか私はこれがキッカケで白川静を知った。変移抜刀「落水」などという白土三平ばりの必殺技も飛び出すし、当時流行っていた『無限の住人』に影響を受けたとおぼしきモノクロCG演出もカッコ良かった。私が好きだったのは敵の耳長人外娘「風喜」です。SSまで書いたがPCクラッシュで消えてしまった。『二重箱』は『二重影』のファンディスクで、「二重影通常CGビュアー」とかいうコンテンツがあるからそれでCGだけを見たのだろうか。『二重箱』は当時よくあったボッタクリ……いえ、あまりコスパの良くないFDでしたが、収録されている番外編の「砦に帰す」は面白かった。本編の5年前、柳生の剣士である彩は仲間たちとともにある砦を監視する任務に就いていたが、何者かの襲撃によって次々と仲間が無惨な死を遂げていき……という殺伐とした話。こっちは『ヘルシング』の影響を受けていて笑った。紹介ページにある、廊下を埋め尽くす首なし死体のCGは未だに強烈。何年か前にリメイク的な位置付けで『陰と影』ってソフトが予定されていたが、制作は遅々として進まず、やがて公式が無期限開発停止を発表する事態に陥りました。それでも、それでもまだ『陰と影』を待ち続けてるんです……。

「月に寄りそう乙女の作法2」 キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!(【2ch】ニュー速VIPブログ(`・ω・´))

 タイトルがそのまんま過ぎて笑った。仮題とかじゃなくて、本当にこのまま発売するつもりなのか? エロゲー、特にシナリオ重視タイプはナンバリングタイトルを作ることがあまりないので珍しいですね。舞台となる世界やキャラ、設定が共通するタイトルというのはよくあるけど、「○○2」なのはヌキゲーとかやり込みゲーでもなきゃほとんど見かけないし、あっても『To Heat』や『WHITE ALBUM』、『ONE』や『とらいあんぐるハート』みたいに主要陣を一新して出すパターンがほとんどです。強いて言えば姉しよが例外か。つよきすは……うーん、違う意味で例外。今回のつり乙2が「主要陣刷新」パターンなのか「新キャラを加えて続投」パターンなのかまだわかりません(どうも前者っぽい雰囲気だ)が、購入は鋭意検討していきたい。というか前作まだやってない。


2014-05-18.

・バイオレンスブームが変に拗れた結果、現在は鳴海章の“スナイパー”シリーズを読んでいる焼津です、こんばんは。

 “スナイパー”シリーズは“狙撃手”シリーズとも呼ばれている。末期解説病患者たる当方が早速説明をいたしましょう。鳴海章(なるみ・しょう)は1991年に『ナイト・ダンサー』で第37回江戸川乱歩賞を受賞してデビューした小説家です。92年の『ネオ・ゼロ』から始まる“ゼロ”4部作(ただし作中の時系列では『ゼロと呼ばれた男』が一番古いのでこちらを開始点とする見方もある)や、外伝込みで12巻に及んだ“原子力空母「信濃」”シリーズが初期の代表作として知られる。航空サスペンス、軍事スリラー、ハードボイルド、時代小説や警察小説など多岐に渡るジャンルを手掛けていますが、なんというか器用貧乏というかマイナーメジャーというか……20年以上に渡って作家業で食ってるだけに力量は確かなんだけど、一点突破系ではないせいか、いまいちブレイクしないまま現在に至っている。最近はハードカバーで新刊を出すことも少なくなり、文庫書き下ろしがメインとなりつつあります。

 狙撃手をメインに据えた冒険小説を書き出したのは96年の『撃つ』からだが、“スナイパー”シリーズとして動き出したのは2001年の『冬の狙撃手』から。「さくら銃殺隊」(初期は「サクラ銃殺隊」表記)とあだ名される公安特殊銃隊所属のスナイパー・石本を主人公にした長編で、北朝鮮のスリーパー(潜伏休眠工作員)にして「子守唄」なるコードネームを持つ凄腕スナイパーとの対決が描かれた。作中の時期は2000年。これの前日譚として一昨年に文庫書き下ろしで発売された『夏の狙撃手』が1989年から1994年にかけての5年間を舞台にしており、時系列に沿って並べると『夏の狙撃手』『冬の狙撃手』『雨の暗殺者』で3部作になっている。で、この3部作から派生する形でいろいろなスピンオフが出て、“スナイパー”シリーズと称される大系が築き上げられていくわけです。『撃つ』を含めれば11作品、含めなければ10作品存在するが、実はシリーズに含まれない鳴海作品のキャラがゲスト出演したりもするので、関連作品を入れるともっと多くなります。私も全容は掴んでいないが、『俺は鰯』の蔡大龍(ツァイ・ダーロン)や『長官狙撃』の敵役が登場し、『狼の血』のキャラも大量出演するという。文庫解説を担当した細谷正充は、なんと総勢361名にも昇る登場人物の情報を整理し、38ページかけて一挙に紹介した。その労力を考えると気が遠くなる。

 “スナイパー”シリーズを正編と関連作に分けて刊行順に並べていくと、

(正編) 『撃つ』(1996年)→『冬の狙撃手』(2001年)→『死の谷の狙撃手』(2004年)→『雨の暗殺者』(2004年)→『第四の射手』(2005年)→『バディソウル』(2005年)→『強行偵察』(2006年)→『桔梗は驟雨に散る』(2007年、文庫版は『静寂の暗殺者』と改題)→『哀哭者の爆弾』(2008年)→『テロルの地平』(2009年)→『夏の狙撃手』(2012年)

(関連) 『俺は鰯』(1996年)→『長官狙撃』(1997年)→『狼の血』(1999年)

 こんな感じ? すべて文庫版が発売されています。『俺は鰯』は角川文庫だけど、あとはみんな光文社文庫。鳴海章はあくまで「どこから読んでも構わない」スタイルを貫きたいのか、シリーズの順序を前面に押し出すようなアピールはしたがらず、いささか相関関係がわかりにくくなっている。とりあえず初読の人には『冬の狙撃手』をオススメします。あと“スナイパー”シリーズには出てこないようだが、他の作品でも「長池」という公安刑事が頻繁に顔を出すそうで、つくづくクロスオーバーめいた試みが好きみたいだ。現在は“浅草機動捜査隊”シリーズが好調であり、今後は警察小説に軸足を移すのではないか……って雰囲気もあって“スナイパー”シリーズがこれからどうなるか分からないが、まぁチマチマと追っていくことにしよう。国際謀略色が強いものの大藪春彦リスペクト精神が全編に漲るシリーズでもあるので、B級アクション小説大好きっ子には是非ともオススメしておきたい。謀略とかアクションは苦手、興味を惹かれない、という方には『輓馬』を推す。ばんえい競馬を題材に採った再生ストーリーで、映画『雪に願うこと』の原作に当たります。ざっと数えただけでも100冊くらいの著書がある鳴海章という作家――これだけ執筆している割に世間で特集される機会が少ないというのは、なんだか不思議なことですね。

あかべぇそふとつぅが原画家:唯々月たすく氏による「騎士」をテーマにした新作を発表!『銃騎士Cutie☆Bullet』を所持されている方には無料配布!!(2次元に捉われない)

 『銃騎士Cutie☆Bullet』のオリジナルスタッフは散り散りになってしまってスケジュール調整が難しいから『銃騎士Cutie☆Bullet(完全版)』みたいなパッチは作れない、でも一応何らかの追加パッチは出せるように鋭意努力する。また購入したユーザーへの代替タイトルとして唯々月たすくを原画に迎えた新作を無償で提供する……つまり「銃騎士のささやかなパッチ」+「たすく完全新作」という、変テコな体制に落ち着いた模様である。唯々月たすくも人気のある原画家だけど、『銃騎士Cutie☆Bullet』を買った人は大半が憂姫はぐれ目当てだっただろうし、収まるかどうか微妙なところだな。代替タイトルは一般販売もする予定とのことで、そういう意味ではCuffsよりもlightの対応に近いか。『永遠(仮)』はホントにどうなっちゃったんでしょうね……『シドニアの騎士』第5話「漂流」の星白由来水を観て「トノイケダイスケ」の名が脳裏をよぎってしまったのは当方だけじゃあるまい。「濾過するとは何事だ!」と憤激するトノイケたん。

 さておき、私は『銃騎士Cutie☆Bullet』買ってないからパッチそのものには大して興味がない。「唯々月たすく原画の新作」が純粋に気になります。ライターは名のある人にオファーを出しているとのことだが、騎士モノを得手とする「名のあるライター」ってそんなにいないよな……いったい誰だろう。そしてタイトルは「恋騎士」「銃騎士」と来て次はなんだろう? 伝奇バイオレンスの波が来てしまっている(未だに去っていない)私としては、ヒロイン全員が獣形変生する『獣騎士Beauty☆Beast』を期待したい。ふわふわウルフヘアの人狼幼馴染みや額に星型の傷があるユニコーン委員長、回想シーンに入ると長話が止まらないキマイラ妹や独覚菌に寄生されているバイオニック姉など個性的な面子が集まって時空を超えつつ宇宙の果てまで進撃する。しかし幻魔はいつまで経ってもやってこない。まあそれは冗談としても、聖衣(クロス)みたいな動物モチーフの鎧をヒロインに着せるのはアリかな、と思う。それぞれの鎧に個別の能力があったりすれば話も作りやすいのではないかと。なんであれ、詳報待ちですね。

秋山瑞人『海原の用心棒』が『SFマガジン700【国内篇】』に収録!(わなびニュース)

 このアンソロジーはもともと購入する予定だったので「やったね!」って感じです。記憶が朧げになってきているので検索してみたけど、「海原の用心棒」は前篇・中篇・後篇と3回にわけて“S-Fマガジン”に掲載された短編で、後篇が2004年6月号だからもう10年前の作品ということになる。その間ずっと書籍には収録されてこなかったわけだ。「おれはミサイル」は『イマジネーションの戦争』などいくつかのアンソロジーにも収録されているから比較的読むのが簡単だったけど、これに関してはSFMのバックナンバーを探さないと読めないのでレア度が高かった。私もその気になれば読める環境(SFMのバックナンバーを揃えている図書館)にあったけど、短編集を出すって話があったんで「せっかくなら単著の方で読みたい」とみすみす機会を逃してしまった……秋山瑞人の作品集を出すって話があったのはいつ頃だったかな、確か『マルドゥック・ヴェロシティ』が出る前だったから2005年くらい? いや、日記を読み返すと2004年に言及がありますね。ともあれやっと読めるわけで嬉しい。あ、でもこれはこれとして作品集出していただいても一向に構わないですよ? 私は『おれはミサイル』(予定されていた作品集のタイトル)を待ち続ける。

 「海原の用心棒」以外にも、野尻抱介の「素数の呼び声」や桜坂洋の「さいたまチェーンソー少女」が収録される模様。「素数の呼び声」は何年か前に出版する予定となっていた野尻さんの短編集の表題作でもあった。ニコ動界隈で「尻P」として活躍している人だけど、作家業はここのところ休み気味であり、無期延期になっている本がいくつかあります。『素数の呼び声』の他にも『天穹の羅針盤』とか『シエナの花園』とか……ロケガこと“ロケットガール”や“クレギオン”もあれで完結しているのかどうか不透明なところがあるしなぁ。うーん。桜坂の「さいたまチェーンソー少女」はコミカライズ版まで刊行された作品なのに不思議と再録されたことがなかった。というか桜坂洋は短編集をまだ一度も出していないんですよね。結構あちこちで書いてるから、そろそろまとまってもおかしくないはずだが……。

前巻までのあらすじの必要性とは(主ラノ^0^/ ライトノベル専門情報サイト)

 複数のシリーズを並行して読んでいると前巻の内容に関する記憶があやふやになってしまうので、この手の「前回のラブライブ!」的なあらすじはありがたい。あらすじ読んでやっと勢力図が理解できたような作品もあった。ちっちゃい頃はたくさん本を買うことができず、ごく少数のシリーズ作品を繰り返し何度も読んで内容を頭に叩き込んでいたから「前回までのあらすじ」ページは邪魔臭いとしか思ってなかったのにな……変わるもんだ。ミステリマニアの中には「家系図やアリバイ表、建物の見取り図は読者が自分で作成するものであって、わざわざ印刷して載せるのは邪道」と主張し、登場人物一覧すら疎ましがる人までいたが、やっぱり長期化してくると情報整理にも手間が掛かるし送り手側のアナウンスはありがたいですよ。『アルスラーン戦記』もつい先日に最新刊が発売されたけど、前巻から5年半は経ってるし、情報整理しないとすんなり入っていけないんじゃないかって気がします。私が読んだのは『妖雲群行』までだけど、もう全然覚えてないな……おしっことスープ掛けて鎖を腐蝕させる、って箇所だけ記憶に残っています。86年開始だから、あと2年で30周年を迎えますね……“魔界都市ブルース”と同時期に始まった作品だなんて、とても信じられない気分に陥るな。

・拍手レス。

 実写版デビルマンはなぁ……。SF作家の山本弘に酷評されたり、文春黄いちご賞を受賞したならばともかく、映画公開後に出演者がスキャンダルにあったり、監督の那須博之が半年後にガンで亡くなったりと、まさに「呪いの映画」だったとしか言いようがないです。悪魔を題材とした作品だけに、きちんとお祓いをしてなかったから映画公開後に関係者が様々な不幸に遭ったんじゃないかと今でも思っています。
 永井豪も執筆中は消耗が激しくて他の連載を何本も切ることになったと語ってますね。漫画は結果的に成功を収めたけど、番組編成の都合でTVアニメが予定よりも早く終わることになり、それに伴って連載も打ち切りが決まるなど、『デビルマン』という物語はどうやらすんなりとは進まない星の下に生まれたようです。


2014-05-11.

・菊地、平井、横溝を経て伝奇とバイオレンスの猛烈なブームが今更来ている最中の焼津です、こんばんは。このままだと半村良や山田風太郎を経て国枝史郎や曲亭馬琴まで遡りかねない。

 が、今は永井豪の『デビルマン』『バイオレンスジャック』、それに石川賢や大藪春彦、西村寿行の作品などを読んでいる。魔界都市の「魔震」は元を辿ると『バイオレンスジャック』の「関東地獄地震」だ、とか言われたらやはり読みたくなるじゃないですか。で、BJを読む以上は『デビルマン』も着手しないと。恥ずかしながら今回が初読でした。『デビルマン』は永井豪以外の漫画家が描いたifストーリーとかanotherストーリーとか類似作品が山のように出てるんで、「どれがどれだかわからん」と長らく読む気をなくしていました。それらを全部無視してオリジナルの奴だけに絞った。しかし『デビルマン』の冒頭、飛鳥了が車中で唐突に「父が死んだ!」と叫ぶシーンは今読むとギャグのテンポだな……なんというか施川ユウキっぽい。そう言えば『少年Y』の原作者「ハジメ」が施川ユウキだと最新刊の帯で暴露されていてビックリした。さておき『デビルマン』、なんつーかパワフルなストーリー展開というか……結構勢い重視の漫画なんですね。「範馬勇次郎ポジションかと思われた悪魔王ゼノンが、だんだん本部以蔵みたいな『ほとんど戦わない解説役』の座に落ち着いていく」ってのは意外だったけど、自伝的フィクション『激マン!』を読むと最初からそうした構想があったわけじゃなく、連載しながら考えたとのことで更にビックリした。そもそも永井豪は黙示録すら読んだことがなく、聖書に関する知識は映画の『天地創造』ぐらいしかなかったという……ゼノンはアニメ版でも結局デビルマンとは戦わなかったそうで、世が世なら確実にネタキャラにされていただろうな。なんだかんだで「緻密さよりも大胆さ」がこっち方面(伝奇やバイヤレンス)の世界では重要なのかもしれない。さすがに時代を感じる出来ではあった(何せ連載していたのは40年以上も前だ)が、尋常ならざる熱気を感じたことも確かである。途中の塩の柱(ネツィブ・メラー)に関する件や明らかに尺が足りていないラストシーン(大量に湧いてくる天使)は正直意味不明だったものの、『激マン!』読んでやっと作者の意図がわかってスッキリ。他のデビルマン関連作品にも興味が湧いてきた。けど実写版『デビルマン』だけは観る気がしません。

 『バイオレンスジャック』は「現代に群雄割拠の戦国時代を作りたいから」という理由で関東地獄地震が発生することになったらしいけど、さすがの永井豪も「この設定は無茶か?」と迷ったそうだ。しかし同じ頃に小松左京が『日本沈没』で列島丸ごと沈めちゃったから「あれよりは無茶じゃないだろう」ってことで迷いを断ち切った。「群雄割拠の戦国時代」、つまり乱世を描く狙いが先にあって、叶うことなら本当に戦国時代を舞台にしたかったというが、当時「時代モノや歴史モノの漫画は売れない」って見方が強く、企画も通らないだろうと見越して現代に直したんだとか。後に「戦国魔人伝」なる番外編で戦国時代にタイムスリップする展開をやって見事豪ちゃんは本懐を遂げるわけだが、残念なことにコレは単行本未収録である。それとは関係ないが、永井豪と石川賢の対談で『虚無戦史MIROKU』は「自分が見たかった『幻魔大戦』」だった、みたいな発言も見つけて興味深かった。

石川『幻魔大戦』はね、幻魔が来るぞ来るぞって言いながらいつまでも来ないんでイライラしちゃって。「来ないんだったらオレが呼んでやるっ!」って(笑)。

 つまり『虚無戦記』とは石川版『幻魔大戦』であり、未完の呪いを背負った『幻魔大戦』ヴィジョンを引き受ける以上、虚無るのは必定の運命だったわけか……さておき、伝奇バイオレンスの歴史を辿るとどうしても国産SFの存在は無視できなくなってくるので、今は小松左京や筒井康隆、星新一や半村良、光瀬龍や豊田有恒らへんに食指が伸びかけている。手垢のついた言葉ではあるが「温故知新」を堪能する今日この頃。

・最近の小説はあまり読めてないから代わりに新刊漫画の感想でも書いておこう。

 若井ケンの『女子かう生(1)』、表紙を飾る渋谷凛似のヒロインに惹かれて購入した。「かう」だけに正体は牝牛と人間のハーフだったりするのかな、と深読みしたが特にそんなことはなかった。自由勝手気儘に振る舞う女子高生「富戸もも子」がただひたすらに可愛い無声劇漫画。擬音や説明文がちょいちょい入るくらいで、本編中セリフはまったくない。でも違和感なくスンナリと馴染むことができて、セリフがないとかそんなことはどうでもよくなる。ある意味、これが「日常モノ」の究極系か。我らの希求する「日常」にセリフなんて要らんかったんや。読み口としてはモリタイシの『今日のあすかショー』に近いものがある。穴を埋める快楽にぞくぞくする第2話「女子かう生と穴」が淫靡で良かった。

 ヤマザキコレの『魔法使いの嫁(1)』、もっと正確に言うと「魔法使いの弟子にして嫁」なファンタジー。生まれつき妖精などの「異類」を目にすることができる体質を有するヒロイン「羽鳥智世」が親戚の間で盥回しにされる生活に倦み、誘われるままオークションに参加して動物の頭蓋骨(馬? 牛?)を顔に持つ魔法使い「エリアス」に競り落とされる。かくして彼女のイングランドにおける新生活が始まった、ってな話。舞台がイングランドとはいえ、ヒロインたちの住む場所は田舎の一軒家ということもあり、異国情緒は希薄。妖精などのデザインが若干ケルトっぽい雰囲気があるかな、程度。ヒロインも、その師匠にして旦那に当たる魔法使いも、ともに表情が乏しい連中のためラブコメ的な盛り上がりはほとんどない。タイトルの「嫁」でイチャイチャ展開を期待した人はさぞかしガッカリしたのではないかと予想される。少なくとも1巻の時点では「嫁」より「弟子」の要素が強いですね。内向的だった少女が「世界の広さ」に目覚めていく様子を幻想的に描き出しており、月並みな感想だが「今後が楽しみ」という漫画。売れ行きが良くて増刷も掛かったから次巻で打ち切り、みたいな悲劇もないでしょう、たぶん。これはじわじわと面白くなっていくタイプですよ。


2014-05-03.

・気になって『一週間フレンズ。』の原作漫画読んだら、想像以上にアニメと構成が違っていて驚いた焼津です、こんばんは。

 4コマを基調としつつ時折ストーリー漫画風になるというキメラ的スタイルで、読み口としては「日常モノ」っぽい。アニメ化に際してネタの取捨選択が行われている点は別段珍しくもないが、いろいろと順序が入れ替わっている点は目を引いた。たとえばアニメ版第3話「友達の友達。」で「18」という数字をキッカケにして記憶の一部が戻る、というシーンがありましたけど、あれは原作で言うと第1話に当たる。ただし原作は「第0話」から始まるので実質的には第2話だ。ほか、アニメ版第2話「友達との過ごし方。」のデートも原作だと第2話(実質第3話)であり、エピソードが前後している。ギャグ4コマだとか、原作通り並べてもストーリーにならないタイプの漫画ではよくこういった再構成が行われるが、ストーリー物としての側面が大きい『一週間フレンズ。』でこれだけ弄っているのは意外だった。見比べてみるとアニメ版の方が構成としてよくまとまっているように思う。原作は話の組み方がちょっとたどたどしい。が、温もりの感じられるたどたどしさで、個人的には嫌いじゃない。最近はいささか忠実すぎるくらい原作に忠実なアニメが多く、ついアニメだけで満足してしまいがちだが、こういう発見があるなら原作を読むエネルギーも湧いてくる。ちょうどアニメ版の3話目までで原作の1巻を消化してるので、アニメ派の人も1巻だけ読んでみては如何。この調子だと4話〜6話で2巻の内容を消化して、4巻ぐらいまで進めるのかしら。それとも8話目あたりからオリジナル展開に入る? 差し当たってアニメ版が6話まで終わったら2巻を崩すことにしよう。アニメと言えば『シドニアの騎士』は本当に映像化の恩恵を十全に受けていると思う。原作ではいまいちイメージしにくかった戦闘シーンがアニメの後ではしっかりと像を結ぶようになった。

ラノベ『Lance N' Masques』(著:子安秀明/イラスト:茨乃)アニメ化決定! (萌えオタニュース速報)

 ハッキリとは記憶に残ってないけどなんか見覚えのあるタイトルだな……と思ったら「ぽにきゃんBOOKSライトノベルシリーズ」(2013年12月に創刊したばかりの新しいラノベレーベル)の創刊ラインナップか。一応チェックすることはチェックしたので頭の片隅に引っ掛かっていたらしい。「ぽにきゃん」は版元であるポニーキャニオンの略で、映像・音楽のソフトメーカーとして知られるところだけに、「アニメ制作会社と連携した作品作り」が行われているとのこと。『Lance N' Masques(ランス・アンド・マスクス)』の作者・子安秀明は脚本家が本業で、漫画版『紅 kureーnai』にも携わっていたりする。また「Studio五組」(アニメ制作会社、『咲―Saki―』の阿知賀編と全国編、『Aチャンネル』や『きんいろモザイク』などを手掛けている)が「編集業務に初挑戦した作品」でもあります。最初からアニメ企画込みの作品だったと見做す方が自然でしょうね。ぽにきゃんはまだ出来たばかりで著しく知名度の低いレーベルだし、アニメと絡めてポジションを確保することに必死なのだと思われます。まだこれと言って看板作品はないが、これから復刊が始まる『星くず英雄伝』あたりもアニメ化有力候補……だといいな。ちなみに私がこれまで買ったぽにきゃんの本は『キャノン・フィストはひとりぼっち1』『帰ってきた元勇者1』『これが異世界のお約束です!1』の3冊。『これが異世界のお約束です!』は「異世界」を舞台に「お約束」を遵守することに精魂を傾けるキャラクターたちの悲喜劇を描くメタ・フィクションで、「俺ツエー」や「チョロイン」などのオタク用語がふんだんに盛り込まれている。もともとは「小説家になろう」というサイトに連載されていた、いわゆる「なろう小説」であり、「書籍化されるとエタる」「(お約束を守らないと)お気に入りが減る」などのなろうあるあるネタは元を知らなければちょっとわかりにくい。内輪ノリが強いからどんなに人気が出てもアニメ化はしないだろうと思いますが……今は何が来るかわからないもんな。もしアニメ化された暁には、ガイドブックというか副読本として「小説家になろう」の歴史をまとめて解説してほしいな。『未踏の時代』ならぬ『なろうの時代』。10周年を迎えたことだし、冗談抜きでそろそろそういう感じの本が出そうな気もする。ちなみに『封仙娘娘追宝録』のろくごまるに復活! 小説家になろうで執筆!するそうだ。

・「ちょっと古めの小説」探求は継続中。

 今興味を抱いている作家は横溝美晶(よこみぞ・よしあき)。1987年に「湾岸バッド・ボーイ・ブルー」で第9回小説推理新人賞を受賞し、翌年88年にデビュー。主に90年代、伝奇バイオレンスや官能サスペンスといった分野で活躍した人です。“金田一耕助”シリーズで有名な横溝正史とは無関係。『さくらのどきどきスクールパニック』なんて少女小説も手掛けているが、本人曰く「生涯の汚点」とのことで触れてほしくないらしい。最新の著書が2004年7月の『愛人姉妹』だからもう10年近く本を出していないわけですけど、今は何をしているんだろうな……作家業はやめちゃったのかしら。

 さておき、菊地秀行や平井和正に比べるとマイナーな作家なので検索してもあまり詳しい情報が出てこない。詳細なデータベースを作るタイプの熱いファンには恵まれなかったんだな。今は本当に忘れられた作家となっていますが、一時期は夢枕や菊地に続く「伝奇バイオレンス」のホープとして本屋の棚を結構な勢いで埋めていたんですよ。「伝奇バイオレンス」自体が既に死語と化しているのでまずそこから解説しましょう。この名称は80年代から90年代にかけて流行ったジャンル名で、山田風太郎の“忍法帖”シリーズ、平井和正の“ウルフガイ”シリーズや“幻魔大戦”シリーズ、永井豪の『デビルマン』、大藪春彦や澁澤龍彦、西村寿行や勝目梓、その他様々な「伝奇の系譜」と「暴力の系譜」、両方の流れを汲んで巻き起こった……らしいが私も全容は知らない。時期的に出版物がバブル景気を迎えていた頃であり、過激な描写と非日常的なストーリーで読者の心を掴み、ガンガン本を売りまくった。平井和正はこれらを指して「妖・淫・幻・怪・魔・獣ブーム」と呼んでいます。ホント、妖魔だ魔獣だ妖獣だ聖獣だ幻魔だと、似たようなタイトルが多くて識別に苦労する。今は警察小説の書き手としてブレイクした、『ハンチョウ』や『隠蔽捜査』の原作者・今野敏も昔このジャンルに属していた。『聖拳伝説』など、一部の作品は復刊もされている。『潜入捜査』のシリーズも以前は『聖王獣拳伝』とか『覇拳葬魔鬼』ってタイトルだったんですよ、伝奇要素ほとんどないのに。

 伝奇ブームそのものは半村良の『石の血脈』を始めとする70年代の作品群を背景に齎され、栗本薫の『魔界水滸伝』や笠井潔の『ヴァンパイヤー戦争』あたりからバイオレンス色が強くなり、夢枕獏の『魔獣狩り』や菊地秀行の『魔界行』といった大ヒット作の生まれた84、5年頃に「伝奇バイオレンス」ブームが決定的なものとなる。夢枕は『魔獣狩り』で家が建つほど儲けたことから新居を「淫楽御殿」呼ばわりされたエピソードも持っています。小説ではないが『うろつき童子』もブームを後押しする要因の一つだったと言えるかもしれない。非常に曖昧なジャンルのため「何を以って伝奇バイオレンスと見做すか?」を定義するのは難しいが、すげぇ大雑把に書いてしまうとエログロまみれの超常ストーリーってところですかね。だいたい新書判で発売されていました。ターゲットは10代後半から20代にかけてとラノベよりやや高めの年齢層だが、実際には中学生も結構読んでいたという。ネットでエロ画像を見ることも出来ない、エロゲーもまだ勃興したばかり、そんな時代だけに貴重なエロ供給源でもあった。90年代半ばに出版業界が販売数のピークを迎え、「本が売れない時代」へ突入するにつれ、ブームは急速に下火となっていった。粗製濫造が相次ぎ、ジャンルの基盤をうまく築けなかったことも原因の一つだろう。話の途中で未完となった『新・魔界水滸伝』最後の巻(4巻)が1996年刊だから、概ねこのへんで終わりだったのかな。90年代に入る頃は新書(ノベルス)の趨勢も「新本格ミステリ」に移りつつあったし、ブームとして過熱していたのは実質10年ちょっとか。「超伝奇バイオレンス」とか「スーパー伝奇アクション」とか、今からすると無茶苦茶ダサくて「これは陳腐化するのも已む無し」っつージャンル名ですけど、その血が『ヘルシング』とか『月姫』とか『吸血殲鬼ヴェドゴニア』とか『PARADISE LOST』とか『あやかしびと』とかに受け継がれていったことを思うと徒や疎かにはできない。

 横溝美晶はそんな伝奇バイオレンスの世界に期待の新鋭として現れたわけですが、なにぶんブームが下火になっていく中の登場だったため、菊地や夢枕ほど作風を確立できないまま消えてしまった印象がある。もうちょっと早くデビューしていれば、あるいは……と詮無いことを考えてしまう。忘れられた作家にしては著書が多く、確認できる範囲でも73冊あります。このうち4冊は文庫化だったり他社からの出し直しだったりで、純粋な作品数は69冊。80年代に3冊、90年代に52冊、2000年代に14冊と、分布からして明らかに「90年代の作家」であった。2冊目の『ツウィンカム野獣伝』から既にバイオレンスのムードは強かったものの、「伝奇」の色彩が混ざってくるのは4冊目の『ぶった斬り』から。そして5冊目の『聖獣紀』に始まる“アーバン・ユニコーン”シリーズが彼の代表作となる。主人公・葛城乱はヤバいネタを追う情報屋なのですが、正体は一角獣と人間のハーフ。いざとなれば角を生やして大暴れ、という「ウルフガイ」ならぬ「ユニコーンガイ」なシリーズです。『聖獣紀』は3部作で一旦完結、更に続編『一角獣秘宝伝(上・中・下)』を経た後、通算7冊目となる『獣神伝』が刊行されたのですが、そこでふっつりと新刊が途切れシリーズ休止に。『獣神伝』の発売が1996年、ちょうど伝奇バイオレンスのブームが終わりを告げる頃でした。この他にも獣人(遺伝子に影響を及ぼす麻薬の副作用で獣化したジャンキー)を狩る“ビーストハンター(竹辺弾十郎)”3部作や、バイオ・テクノロジーで全身改造を施した追跡屋“チューンド・チェイサー(千堂亜門)”5部作、戦闘用バイオチップを脳に埋め込まれた“電脳獣 "J"(本田慈英)”3部作などがあり、「伝奇バイオレンス」に属する作品がざっと計算して25冊ほどあります。彼の伝奇モノは東京湾を埋め立ててつくった架空の人工島「東京都水上区」を舞台にしたものが多く、規模は小さいが菊地の魔界都市サーガみたいな試みをしていました。各作品を読み比べてみるとこまごました発見もある。たとえば『獣人ハンター』冒頭で女子高生の惨死体が発見される現場、「水上区のはずれに建つ、立体駐車場」で「地上十二階」とある。一方、『電脳獣変』で本田慈英が暴漢たちに襲われた場所は「深夜の立体駐車場」で「地上十二階」。ひょっとして同じ場所なのでは? と勘繰ったりすることもできる。あくまで内容は独立しているので、「他の本を読まないとストーリーが理解できない」ってことはないですが。ちなみに水上区は大地震と、そこからの再開発でグチャグチャになって「東洋の魔都」と化してしまったらしい。このへんの設定は菊地を意識したものかも。ただし文体はどちらかと言えば獏っぽい。推薦文寄せたのも獏だったし。

 他に手掛けた作品は伝奇色の薄いミステリやバイオレンス小説が10冊くらい。触れるだけで苦痛や快楽を与えることができる「邪香」の力を持った少年が主人公の“三日池潤矢”シリーズや、相手の性感を刺激することで思考や記憶を意のままに操る“淫導師・氷室凍馬”シリーズなど官能サスペンスの様相が濃い作品が10冊くらいあって、残りの20冊ちょっとがエロ主体の官能小説。2000年代に入ってからは伝奇やサスペンスの類をほとんど書いておらず、概ねエロ系となっている。2002年の『螺子者の血統』だけが例外です。あらすじから察するに、伝奇系統は99年の『天狐の珠』“鬼殺師・九宝剣士郎”シリーズ第4弾、「きさつし」ではなく「おにごろし」と読む)が最後みたい。

 改行の多さ(銃声の擬音だけで数行使うこともある)、濡れ場のしつこさ(官能方面に転向しただけあって描写そのものはしっかりしているが、伝奇モノを求めている身からすれば少々長ったらしい)、設定の大雑把さ(細かいことを気にしない人ならむしろ「柔軟なアイデア」と受け取ることができてアリかもしれない)などを兼ね揃えているためB級判定されても仕方ない作風ではあったが、伸びやか且つ大らかで、気楽に読めるジャンクフード的な面白さもあった。もうちょっと再評価の対象にされてもイイんじゃないかって気はします。せめて“アーバン・ユニコーン”の新作だけでも読みたいところだが……休止からそろそろ20年、横溝美晶の新作自体が出なくなってから10年近く、さすがに難しいでしょうね。

・拍手レス。

 「シナリオライターの逃亡」というと、一時期ネットでその名が一時期知れ渡った背骨ソフトのことを思い出しましたね。たとえシナリオを書くのを逃げ出しても実力があれば復帰できるといわれていますけど、ネット上でここまで広まる時代になってしまった以上、逃げ出した人はもうライター業やっていけなくなるんじゃあるまいかと感じます…。
 シナリオライターは絶対数が少ないうえ、書ける人は大手が押さえてしまってますからね。ただ、『夏色マキアート』の件に関してはライター側からの反論もあるみたいで、事実は判然としない感じになってきました。

 シナリオライターがメジャー所であればそれこそいわゆる『ときメモファンド』が効力を発揮しそうなものですがねぇ。
 クラウドファンディングを取り入れたブランドもあったっけ。もはやオクルファンドが立ち上がるのを待つしかないのか……。

 昔からそうですけど、エロゲ業界には上手い製作進行が少ないようなイメージがありますね。人が少なすぎて進行をライターなどが兼ねてることも多いみたいですし、専門の人を置くだけでも結構変わってきそうな気もするんですよね……
 マーケットが狭い業種だけに、必要最低限かそれ以下の人数で切り盛りするしかないという。で、解散するたび蓄積されたノウハウが失われ、新しいところは車輪の再発明から始めねばならない。

 平井和正には『ボヘミアンガラス・ストリート』から入った自分は割と異色かもしれない。ぶっちゃけ『きまぐれオレンジ☆ロード』の謳い文句に釣られただけですが(笑)。そっから一通り長編には目を通しましたが面白いか面白くないかで言えば、面白かったけどぶっちゃけ10巻以上も続ける内容じゃないよね。というのが大抵の長編の読後の感想
 おお、うちの閲覧者に平井ストがおられるとは感激。ボヘガラは向こう側に行った後の作品にしてはまとまってる方だと聞いたので買ってみましたが、それ以外は巻数少ない奴をメインに集めています。でも平井本人に興味があるのでエッセイ集『夜にかかる虹』が一番面白い。


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