2007年11月分


・本
 『ダンダラ(1)』/赤名修(講談社)
 『中国雑話 中国的思想』/酒見賢一(文藝春秋)
 『俺たちのフィールド(1〜18)』/村枝賢一(小学館)
 『あっちこっち』/異識(芳文社)
 『約束の地で』/馳星周(集英社)
 『遊戯』/藤原伊織(講談社)
 『クジラの彼』/有川浩(角川書店)
 『日常(2)』/あらゐけいいち(角川書店)
 『ミサイルマン』/平山夢明(光文社)
 『戦線スパイクヒルズ(5〜7)』/原作:原田宗典、漫画:井田ヒロト(スクウェア・エニックス)
 『大奥(1〜2)』/よしながふみ(白泉社)
 『オイレンシュピーゲル参』/冲方丁(角川書店)
 『スプライトシュピーゲルV』/冲方丁(富士見書房)
 『陪審法廷』/楡周平(講談社)
 『アストロベリー(1)』/金田一蓮十郎(スクウェア・エニックス)
 『とある科学の超電磁砲(1)』/原作:鎌池和馬、漫画:冬川基(メディアワークス)
 『灼眼のシャナXVI』/高橋弥七郎(メディアワークス)
 『とある魔術の禁書目録14』/鎌池和馬(メディアワークス)
 『魔王(1〜2)』/原作:伊坂幸太郎、 漫画:大須賀めぐみ(小学館)
 『ゾンビ屋れい子(1〜3)』/三家本礼(ぶんか社)
 『サタニスター(1)』/三家本礼(ぶんか社)
 『弾正の鷹』/山本兼一(祥伝社)
 『ダイヤルAを回せ』/ジャック・リッチー(河出書房新社)

・ゲーム
 『こいびとどうしですることぜんぶ』体験版(シリウス)


2007-11-30.

・映画「ボーン」シリーズの原作者、ロバート・ラドラムの名前には――『とらドラ!』が含まれている。本気でどうでもいいトリビアとともにこんばんは、焼津です。ラドラムとフォーサイスの区別がたまに付かなくなることは冒険小説読みとしての恥。

徳間書店の新レーベル、5次元文庫

 やばい、この文庫、出オチだ……!

・ジャック・リッチーの『ダイヤルAを回せ』読了。

 3冊目となる邦訳短編集。表題作含む15編を収録しています。出版社は前作の『10ドルだって大金だ』同様、河出書房新社。ほんのつい2年前まで知る人も少ないマイナー作家だったリッチー、そんな彼の作品を集めた本が年1冊ペースとはいえ定期的に読めるだなんて、ホント嬉しい時代です。海外ミステリは読者人口が少ないため書籍の値段も高く、ハードカバーともなれば2000円〜3000円が当たり前の世界であり、「出たら必ず買う」という根強い支持層が存在するおかげでどうにか破綻せず続いている状況。だというのに、昨今における海外古典ミステリの豊作ぶりは異常なくらいですよ。名前だけは知っていた作家、あるいは名前すら知らなかった作家の長編ミステリや短編集が陸続と訳出され、それを安定して読める……ひと昔前のミスヲタだったら涎を垂らして喜びそうなお膳立て。実際、『ジョン・ディクスン・カーを読んだ男』『虚空から現れた死』を見たとき当方は比喩じゃなく生唾をゴクリと飲み込んだものです。解説によればリッチーの短編は350個ほどあるそうで、既に50編が邦訳されているとはいえあと300編、本にして20冊分は残っている。つまり、あと20年は安泰ということだな……それまで海外ミステリ市場の命脈を保てれば、の話ですけれど。

 さて、キレが良く鮮やか、くどくどしい説明はなく至って簡潔な描写だけで事態を理解させる卓抜した腕は健在ながら、さすがに3冊目ともなると作風に慣れてくるし、今回はチトいくつかの編でオチの具合がいま一歩だったことと、状況設定が似通った話が数点あって、若干バリエーションの欠く印象はありました。たとえば、私立探偵に「相棒が殺された、真相を明らかにしてくれ」と泥棒の片割れが依頼する話の次に、「相棒が殺されたかもしれない、真相を明らかにしてくれ」とまた違う泥棒の片割れが依頼する話が来るあたりなど、狙って配置してるのかもしれないとはいえ、思わず「同じパターンかよ!」とツッコミたくなった。もちろん展開やオチは違うし、決して「マンネリに陥った」というわけじゃないんです。ただ、『10ドルだって大金だ』で見せてくれた多彩さに比べると全体的に少しパワーダウンした感は否めない。

 ただ、今回はカーデュラに並ぶシリーズもの、「ターンバックル部長刑事シリーズ」の扱いが良かったので、そんなに不満は高まらなかった。一応解説しておきますと、「探偵カーデュラシリーズ」の主人公カーデュラはヨーロッパ某国出身で、夜間しか行動せず異様なパワーとタフネスを誇り、文字通り「血に飢える」ことがあったり鏡に姿が映らなかったりと、正体はまあ皆さんの予想通りなお方。そもそも「Cardula」という名前自体が単なるアナグラム(綴り替え)ですから。で、もう一つのターンバックルものは刑事が主人公を務めるシリーズなのですが、いっつも推理が飛躍しすぎで滅多に当たらず、外れまくりだというのに事件はなんとなく解決している、実に迷探偵チックなユーモア・ミステリ連作。第一短編集『クライム・マシン』には「こんな日もあるさ」と「縛り首の木」の2編しか収録されていませんでしたが、『10ドルだって大金だ』で「誰も教えてくれない」「可能性の問題」「ウィリンガーの苦境」「殺人の環」「第五の墓」と一気に5編に増え、今回の『ダイヤルAを回せ』でも「未決陪審」「二十三個の茶色の紙袋」「殺し屋を探せ」「ダイアルAを回せ」「グリッグスビー文書」の5編が後半にズラリ。しかも短編集のタイトルからしてターンバックルものなわけで、かなり優遇されてます。

 「未決陪審」は陪審員として選ばれた人たち3人が立て続けに自殺して、「自殺じゃない、これは連続殺人だ」とターンバックルが訴える話。あたかも有罪に投じた陪審員たちに恨みを抱いた被疑者(ないしその家族・友人)が復讐しているかのようですが、調べてみれば3人はみな「無罪」に投じていて、有罪派との折り合いが付かずその裁判は結局お流れになっていた。仮に殺人だとして、誰が如何なる理由で3人を殺しているのだろうか? なかなか魅惑的な謎で一転二転と先が読めない調子で進むものの、オチでズッコケ。これがターンバックルの妙味という奴です。ちょっとしたロマンスの要素もあって面白い。「二十三個の茶色の紙袋」は、撃ち殺された男が乗っていた車の後部座席に23個の茶色い紙袋が置かれていて、中身は全部石鹸だったけれど、レシートを見るにどれも違う店で買われている――と、これまた魅惑的な謎によって幕開け。例によってズッコケ展開が挟まりますが、普通にミステリとして読んでもイケる仕上がりになっています。佳編。

 「殺し屋を探せ」は四人の裕福な女性が立て続けに殺され、いずれの夫にもアリバイがある、という事件をターンバックルが「これは夫たちが殺し屋を頼んだに違いない」と看破する話。もっとも喜劇色が強く、「魅惑的な謎」がこれといってない地味なエピソードながら、展開はロジカルだしスラップスティックなシチュエーションが用意されていて弛むことなく楽しめます。「ダイアルAを回せ」は表題作。自殺か殺人か、頭部を撃ち抜かれた男性の死の真相を巡って進行する。「ターンバックルが出てくる意味はあるのか?」というくらいスピーディな展開を見せ、たったの8ページで終わります。ミステリにおいて散見されがちな「この程度の推理なら名探偵じゃなくても出来るんじゃね?」というロジックのチャチさを皮肉っているかのよう。

 ラストを飾る「グリッグスビー文書」は位置付けがやや特殊。ターンバックルものは合計して27編ありますが、それ以前に書かれたプロトタイプ的な作品が2つあり、うち1つが「グリッグスビー文書」。ターンバックルのフルネームは「ヘンリー・S・ターンバックル」なんですが、これが「グリッグスビー文書」では「ヘンリー・H・バックル」と少し違う名前になっている。迷探偵っぽさは相変わらずですし、別段劇的に異なるわけではありませんが、豆知識として押さえておきましょう。市長の息子を逮捕してしまったせいで閑職に飛ばされたバックル部長刑事が、資料室に眠る文書から100年以上前に起こった未解決殺人事件の存在を知り、その謎を暴こうとする……ってストーリー。事件の関係者は既に全員亡くなっていると見てもよく、たとえ解いたところで捕まえる犯人などいない。もはや紙の上に残った記録でしかない事件に迫る、言わば歴史ミステリの要素が混じっており、ドライな筆致のリッチーにしては珍しく風情のある小説になっています。

 わたしは手書き文書の分厚い束を取りだした。この書類が書かれたのは、公文書の書式やタイプライターの導入前の時代なのだ。

 とバックルは当時の資料を目にして時代を感じるわけですが、当方からしてみれば手書きよりも「タイプライター」の方が余計に時代を感じさせるので、一種の捩れが生じますね。バックル刑事は文書を執筆したグリッグスビー保安官の気持ちを推察しつつ読み耽り、「100年前の事件」を追体験する。グリッグスビーは特に難航した様子もなくトントン拍子で捜査を進めていく。しかし、未解決事件として扱われているのですから当然真相は解明されません。関係者すべてがこの世を去り、かつてそういう事件があったことすらバックル以外は誰も知らない。ランキンの『甦る男』で過去の未解決事件に取り組む教科を「死体の盗掘(レザレクション)」と呼んでいましたが、まさしく忘却の墓に収められた事件を暴きたてようとするかの如く、バックル刑事は「埋もれた謎」との格闘を繰り広げます。想像力を刺激する内容で、書かれていることよりも、書かれていないことに関して思いを馳せてしまう。ある種のロマンすら湛えている好編(微妙に恋愛要素もあり)ながら、締まりのないハプニングに遭遇してばかりで不運が続くバックルの姿はなるほどターンバックルの原型だ。

 単発作品の中にも面白い話はあった(個人的には「いまから十分間」と「三階のクローゼット」)が、やはりターンバックルシリーズの印象が濃い一冊でした。このシリーズ、バックル時代も含めて単行本に収録されていない作品や未訳作品がまだ17編あり、今後も出るであろうリッチーの短編集に収録される日を待ち望むばかりです。いやむしろ、『ヘンリー・ターンバックルの冒険』とかいって分厚い一巻にまとめてくれないかしら。きっと迷探偵スキーにとっては垂涎の大著となりますよ……って、巻末を読み返したら著書リストに "The Adventures of Henry Turnbuckle" なるまんまな本が出てるじゃないですか。たまげたなぁ。どうもリッチーの死後に出版されたらしく、バックル含むターンバックルもの29編を全部収録しているみたいです。いかん、実在すると知ったらなんかホントに涎が湧いてきた。

・拍手レス。

 オーフェンシリーズを全冊まとめ買いしてむさぼる様に読んでいたのも今ではいい思い出です
 「魔術の構成を編む」という発想が新鮮でやたらカッコ良く見えたものでした。

 今日の日記ですが私は初めてのライトノベルがドラゴンクエストVだったので読んでいて懐かしく思いました。
 ドラクエでちゃんと最後までやったソフトはXだけなので、当方も格別の思い入れがあります。

 魔韻の書とはまた懐かしい…… 続編をwktkしながら待っていたので、真には落胆したなぁ……
 「韻」を記憶するキッカケとなったのもあのシリーズ。真とて悪くはない、悪くはないんですけどね……。


2007-11-28.

・ライトノベルを読み始めた頃に印象深かったのはなんだろう、と懐古に耽ってみる。

 児童文学(ジュブナイル)は小学生の時点でいくつか読んでいましたが、「初めてのライトノベル」は10歳のときに読んだ『小説ドラゴンクエスト』。リンク先は新装版ですけれど、当方が手に取ったのは文庫版で、いのまたむつみのイラストに惹かれた記憶があります。当時やっていたファミコンやスーファミのゲームがほとんど断片的なストーリーしか持っていなかったこともあり、キッチリと細部まで有した「小説」によって作品世界を捉え直す行為は実に新鮮でした。その後、いのまた繋がりで『風の大陸』に手を伸ばしたり、学校の図書館に置いてあった『創竜伝』『オーラバトラー戦記』もちょろっと読んだけど、そのへんはあまり印象に残ってない。ただ、オーラバトラーの方には少しエロいシーンが挟まれていたため、「小説=エロ」のイメージが植えつけられ始めます。

 当方の世代のラノベ読みでほぼ共通体験となっている『フォーチュンクエスト』は無論通過。しかし、面白いとは思ったもののさして感銘を受けなかったというのが正直なところ。むしろ『極道くん漫遊記』の方に影響を受けたと思います。あれは今で言う「中二病」の要素が結構濃い反面、普通にロマンス要素も混じっていてツボでした。まあ、大学生の時に読み返したら説教臭さが鼻に付きましたが……『スレイヤーズ!』『魔術士オーフェン』を読み出したのはかなり遅く、もう既に『ブギーポップは笑わない』が発売されていたような。マンガだったら数冊は掛かりそうなストーリーを1巻に圧縮できる部分や、文字情報であるにも関らずイラストと相乗して視覚的なイメージをハッキリと結ばせる部分、あるいは絵にすることが難しい箇所をサクッと描写する部分にスリリングな刺激を感じたものでした。

 辛うじて覚えている範囲で挙げていけば、丘野ゆうじ作品、『魔韻の書』『摩陀羅 天使篇』あたりが思い入れのある作品かな。丘野ゆうじは未だに現役で活躍していますが、当方が読んでいたのは集英社スーパーファンタジー文庫時代のシリーズ。星魔バスター、ネオ・エンジェルズ、スターウィザード、ハイランディアらへんです。『こちらエルフ探偵社』シリーズも読んだけどビックリするくらい記憶に残ってません。最近はどうか知りませんが、当時の丘野ゆうじは「とにかく美形キャラが主役を張って超能力か何か使いながら化け物たちと戦う」っつータイプの話ばかりで、正直バリエーションには富んでなかった。ただ、エログロに関しては読者から苦情が来るほどだったこともあり、表紙に釣られて買った当方の嗜好にはぴったりフィットした次第。普通の高校生が異世界に飛ばされる、今で言う『ゼロの使い魔』みたいなシチュエーションのハイランディアが特に好きでした。なにせヒロインが主人公にオスガキと間違われて「ボクは女の子だよっ!」と憤慨する、ベッタベタなボーイ・ミーツ・ガール・ファンタジーでしたから。ただ、残念なことに途中で母胎のスーパーファンタジーが潰れたことから未完になってしまいました。今更再開されたとしても取り組む気力は湧きませんが、序盤あたりは機会があったら読み返したいところ。スーパーファンタジー作品は他に『イズミ幻戦記』『カナリア・ファイル』(リンク先はシリーズ通してベストと思っている『水蛇』)も好きだったな。

 『魔韻の書』はマイナーなので名前を出してもまず通じないと思います。当時はゲームにハマっていたこともあり、金銭の余裕があまりなかったため古本屋の廉売コーナー(○冊で100円とか)で購入するのが日常となっておりまして、つまり必然的に古い作品やマイナーな作品を買い漁って読むことが多かったわけです。イラストに惹かれて読み始め、「魔韻の書」というマジックアイテムが絡む重厚な(うろ覚えですが、そういう印象を受けた)冒険ファンタジームード、「体が冷えてる……裸で添い寝して暖めなきゃ」とラブコメチックなロマンスの香りに夢中となりました。このシリーズはレーベルどころか出版社そのものがポシャッてしまったせいで最終巻の5巻が発売されないまま放置状態に陥りましたが、『真・魔韻の書』というシリーズ全体を2冊にまとめたダイジェスト版で一応完結してます。ダイジェストゆえ駆け足気味な展開になってしまったこともさることながら、何よりイラストレーターが変更になったことがショックでした。そういやハイランディアも4巻から絵師が変更されてたっけ……。

 『摩陀羅 天使篇』はオーラバトラーで形作られた「小説=エロ」のイメージを決定付けたシリーズ。マンガ版が好きだったこともあるけれど、やはり田島昭宇の表紙イラストに痺れたのが買いに走った主な要因です。摩陀羅は108のエピソードから成る、と口を滑らせて無駄にでかいことを言ってしまった大塚英志が自分で蒔いた種を刈り取るようにスタートさせた「108番目のマダラ」です。現代に転生したかつての戦士たちが、使命や力を失いながらも運命に翻弄される伝奇ストーリー。著者が初めて手掛ける小説って事情もあり、様々な大塚英志原作マンガともリンクして「終わらない昭和」という壮大な世界を築き上げていきます。いっとき流行った(というより摩陀羅自身がその一角だった)「転生モノ」に対する皮肉を濃厚に詰め込んだ内容で、スナッフビデオ云々といったブラックなネタが仕込まれていたり、以前のエピソードとは全然違うカップリングになったり、メイン級のキャラが雑魚敵に喰い殺されたり妄想が昂じて発狂したりと、イヤガラセに近いほどブラックでヘヴィでショッキングな展開の目白押し。怯えて押入れの奥深くに封印した時期もありました。出版元と喧嘩したせいで3巻から先が出ないままはや10年が経ちましたが、これに関しては何年待たされても続きが出たら買うつもりでいます。それほど呪縛は強い。

 身も蓋もない結論を書いてしまえば「どれも発端は絵買い」の一言に尽きるわけですけれど、こうして思い返してみるとラ板のデフォ名である「イラストに騙された」という経験があまりないような気がするのは記憶がフィルタリングされているせいだろうか。だから、まだライトノベルを読み始めたばかりの人には自信を持ってこう言おう。絵にはガンガン釣られたまえ、と。

・山本兼一の『弾正の鷹』読了。

 表題作含む5編を収録した短編集。全体で230ページ程度と薄く、その分ダレることなくサクッと読み終わる。話のテーマは「信長を殺そうとした者たち」で統一されており、雑賀孫市や松永久秀といった有名人も登場してくるが、メインを張る刺客たちは恐らく架空の存在。彼・彼女らが「信長暗殺」の任務に失敗することは読まずしても分かるところながら、戦乱の中で思うがままに生きられなかった悲哀を淡々と描き、大気にちらちらと舞う塵にも似て儚い輝きを見せ付けます。

 「下針」と「ふたつ玉」は両方とも鉄砲撃ちが主人公。枝に吊るされて風に揺れる小さな針をも精確に撃ち抜くことから「下針」の二つ名で呼ばれる雑賀党の男と、ナマズそっくりの面構えで周りから疎まれているが一度に二つの玉を詰めて撃ち放つ手際が図抜けている坊主、それぞれが信長を狙撃するべく鉄砲担いで危地に赴く。ふたりとも理由が女絡みで、無謀さと愚かさを掛け合わせて雰囲気が漂い、結末も呆気ない。決してカッコ良くはないのだけれど、幕切れに微かな余韻を残していきます。

 「弾正の鷹」は松永久秀に囲われていた女性が、韃靼人の鷹匠から手ほどきを受けて暗殺用の鷹を育て上げるエピソード。鷹に殺人を覚えさせるため韃靼人の鷹匠が何処からともなく罪人や悪人を引っ張ってきて生きた標的にする、などといった書き方次第では凄惨になりかねない箇所をあっさりとした筆致で綴り、血腥い内容にしては爽やかな読み心地を醸す。鷹匠に抱かれたとき、その体は空の匂いがした――という件はロマンチックというか若干ハーレクインロマンっぽいというか。案の定信長は殺し損なうがオチは別にあり、読み終わってつい納得してしまう。

 「安土の草」は甲斐の乱破、つまり武田家に忠誠を誓っている忍者の青年が主人公。「草」というのは言わばスパイの一種であり、一般人のフリして潜伏すること数年から数十年、時には何代にも渡ってその土地に浸透して情報を流し続ける。なんとも気が遠くなる話ですが、それでこそ「忍」たるの本領。番匠として職人たちに紛れ込み、安土城の築城に関った彼へ向けて衰亡著しい武田から「城を焼け」という命が発されるが、「あれは、おれの城だ」と煩悶に苦しむ。彼の他にも飯炊き女として紛れ込んだ幼馴染みの「草」がいて、その子はひたすら頑固に使命を果たそうとします。板挟みの要素が面白くて読み応え充分、もっと長い分量でも持ちこたえるストーリーだったと思います。誰か時代モノの巧いマンガ家に全1巻くらいでコミカライズしてもらえないものか。

 ラストを飾る「倶尸羅」は遊女が主人公。将軍足利義昭が閨でこぼした「信長を殺してほしい」という願いを受け、「じゃ、ちょっくら殺してくるわ」と毒薬を携えた彼女は、己を献上品として天下の覇者に身を委ねる。といっても倶尸羅(遊女の名前)は義昭に飽きていて、「毒殺したるわー」と告げたのは単なる口実であり、本音はただ信長に会いたかっただけだったりします。んで、実際に会って信長に惚れるわけですが、なにぶん相手は天下の覇者、だんだん接する機会が乏しくなって構ってくれなくなる。他の女のところへ行ってるんだわ! きぃ悔しい! と嫉妬して持ってる毒薬を使いたくなるものの、この世において愛しい男は信長のみ。ああ殺るべきか殺らざるべきか。こんな調子で、他の作品とはちょっと趣が違いますね。これももうちょっと長い尺で読みたかったところかしら。

 総じて読みやすくそこそこ面白いものの、これといってインパクトのない地味な連作短編集です。『いっしん虎徹』に詰まっていた熱気を期待すると肩透かし。山本兼一はどちらかと言えば長編向きの作家なのかもしれません。個人的には「安土の草」と「倶尸羅」が好きだけど、やっぱりちょっと物足りない。

・拍手レス。

 >このゲーム女より男の方にときめかない? まさにそれが東出祐一郎。あと美都子が中あふん生だと最近知っ
 て驚きました。

 出番少ないけどリックの兄も気になっていてもしやこれは恋? 中○生は辛うじて「NG」の範囲ですけど小○生だったらただの犯罪でしたね。

 (@ ̄□ ̄@;) それはもしや、かのラバ御大の…!
 ラバ御大は先に人格的な魅力を発揮してくれたからいいものの、恩田はハナからキモいのがな……。


2007-11-26.

・名前だけは知っていたものの手を伸ばす機会がなかった漫画家・三家本礼の『ゾンビ屋れい子(1〜3)』『サタニスター(1)』を読みました。

 少女漫画ながらJOJOばりの激しい異能バイオレンスを描いている、ということでもう何年も前から注目していたにも関らず、レーベルがマイナーなせいもあってなかなか見かけなかった『ゾンビ屋れい子』。依頼を受けて死者の魂を呼び戻し、一時的にゾンビとして甦らせる「ゾンビ屋」の稼業を連作形式で綴った1巻は序盤こそ「世にも奇妙な物語」系のノリであまりJOJOっぽくありませんでしたが、後半になって超人めいた殺人鬼が登場するあたりから暴走し、2巻ではゾンビを召喚して戦う連中――言わば「ゾンビ使い」たちのグロテスクなバトルが突然始まって「おいおい、少年漫画か?」という状態になります。いくらなんでも梃入れしすぎでしょう、もうホラーっていうよりスプラッターですよ、これは。と呆れる反面、そんな急展開にワクワクしてしまうのが少年漫画スキーのSa-Ga。「一人につき一体だけゾンビを召喚して戦わせる」「ゾンビは何らかの特殊能力を保有している場合がある」「使役している本体を潰せばゾンビは消える」といった基本設定がいかにもJOJOのスタンドを彷彿とさせるが、作風そのものは『シグルイ』以前の山口貴由に近いかもしれない。「雰囲気はコミカルだけどグロい」っつーところが特に。

 読んだのは3巻までですけれど、驚くことにこの『ゾンビ屋れい子』、「れい子にとって不倶戴天の敵が登場、宿命の戦いが幕を上げる!」という壮大げなストーリーを2巻から広げたというのに、3巻でもう決着が付いて巻の途中から別の話が始まってる。展開早すぎ。とにかくハイテンションかつハイスピード。結構な数のキャラクターが登場してはバトって死に、また新たに登場してはバトって死に……と目まぐるしく入れ替わっていく。JOJOの第三部を十倍くらい濃縮したらこうなるんじゃないかしら。ひょっとしたら死んだ連中があとの巻でゾンビとして再生するのかもしれませんが、そうだと仮定してもこの「やりすぎ」な感じは一向に薄れません。ぶっちゃけ個人的には2、3巻のゾンビバトルよりも「ゾンビ屋稼業」を淡々と描いていた1巻の方が好きかな。ともあれ4巻以降も買い集めたいと思います。

 『サタニスター』は最近の作品だけあって絵柄が変わってますね。ゾンビ屋以上に初期山口貴由っぽい。「悪魔寄りのシスター」ということでサタニスター、十字架でも逆十字架でもない「ダブルヘッド・クロス(上下の辺の長さが同じ)」を持ち、トゲ付き手甲を得物とするヒロインがイカレた「特殊殺人鬼」どもに鉄拳を下す、「悪には悪を」なバイオレンス・アクションです。1話と2話が殺人鬼のエピソードに割かれていて、3話になってようやくサタニスターが登場する遅参ぶりだから、最初はどんなストーリーなのかいまいちよく分からなかった。どうやら、4年に1度開催される闇の殺人鬼オリンピックを巡って進んでいくみたい。如何なる理由でかはまだ明らかになっていないが、「殺人鬼狩り」を己がタスクと定めているサタニスターは大量の特殊殺人鬼を一網打尽にするため、「世界最強殺人鬼決定戦」と銘打たれた虎口に飛び込む。バトル描写が上達していることもあって普通に楽しめました。こちらはまだ連載中みたいなので、のんびり追っていくことにしよう。

黒セイバーフィギュア

 なんかもう、ほとんど歌舞伎みたいな相貌。メイドライダーとはまた違った意味でそそられます。最近のフィギュアは侮れないものばかり。リインフォースUも、知らないキャラなのですが愛らしゅうてたまりません。思わず我を忘れて予約したくなりますが、これ一個がキッカケとなって箍が外れてしまうことはミエミエなのでジッと我慢の子を貫きましょう。あ、でもamazonのカートに保存しておくくらいはいいよね。ポチッとな。(←自爆フラグ)

OVERDRIVEの『キラ☆キラ』、プレー中。

 お、恩田正雪がキショすぎる……。

 恩田とは女装した主人公に惚れる美男子キャラの名前なんですが……こいつ、禁断のワード「 男 で も い い 」を発動させやがった。ああ、尻の穴のムズムズしてきてンギモヂワルイ。精神衛生上これ以上の展開を見るのは辛いと判断して一旦休止、回復後に再開する予定です。野郎め、生理的にダメなキャラが出てきてプレーを中断するのなんて『好き好き大好き!』のみるく以来だぜ……あれはホントにキツかった。

 バンドものだというのになぜか京都の名所を観光するイベントがあって、妙にそこを引っ張るからだんだん「あれ? これってなんのゲームだったけ?」と首を傾げるハメになりますが、そういうどうしようもないダラダラしたノリが好きすぎて困る。今のところ派手な展開もないし、下手すれば「体験版のラストが一番のクライマックスだった」ってことになりかねないけれど、めっさ性に合うソフトだから別にいいや。キャラは最初カーシー(樫原)がお気に入りだったのに、徐々に千絵姉に惹かれつつあります。声とイメージの合致具合が素晴らしい。幼馴染み特有の狎れた雰囲気も程好くブレンドされ、地味に好感が湧いてくる。ジワジワ系の魅力ですね。

etudeの『そして明日の世界より――』もプレー中。

 「あと少しで彗星が落ちてきて人類が滅ぶ」というスケールの大きさに反して刺激的な展開が少なく、ゆったりトロトロと進行するためだんだん瞼が重くなっていく時期もあったが、徐々に平静を保てなくなってきた人たちが壊れた振る舞いを見せ始め、盛り上がってまいりました。まさか、がんちゃん(主人公)が追い詰められて○○を××しようとするとはな……ポルナレフも出動しそうな驚愕展開。痺れるような言い回しは頻出せず淡々と手堅い筆致で「終末の近づいた世界」を描くため、「設定の割には地味だな」という印象が拭えませんが、丁寧に形のない恐怖、実体の乏しい焦燥を綴って雰囲気を編んでいる点は賞賛したいところであり、そんな自分に健速乙。

 これが例えば瀬戸口廉也(『キラ☆キラ』のシナリオライター)だったりしたら前作の実績からどんな展開が来てもビックリしないというか「その程度じゃまだまだ甘いな」と余裕を持って構えてしまうところですが、やはり健速だと「ええ……!?」な感じが出せて新鮮だ。エロビデオでセックスシーンが出てきても動じないのにテレビの生放送でポロリやチラリがあったら興奮してしまうのと同じ。なまじ健速の作風を知っているだけに、先入観が邪魔して却って太刀筋が読みにくい。眠い箇所が存在するのは否定できませんが、アンビエントに終始するわけでもなさそうなので期待したい。今のところ爺ちゃんが好き。

propellerの『Bullet Butlers』もプレー中。

 贅沢と言えば贅沢ですが、並行プレーは疲れるのが難点。これ以上時間を割くと読書などにも差し支えが出ますので、仕方なく『ひまわりのチャペルできみと』『夏めろ』の二つを落とし、以上の三本に絞りました。

 BBは十貴竜会議が終わって、現在フレシェットという車に試乗しているあたり。目を輝かせるリックに萌えた。きーやん声のベイルといい、このゲーム女より男の方にときめかない? 回想形式の過去と今現在とを視点が頻繁に行き来する構成となっていることもあり、話の進行がちょっとスローテンポ気味で、面白いところとそうでないところの落差が生じています。東出祐一郎のテキストは熱意に溢れ、丁寧でムラがない代わり、あまり緩急が付かないという難点を抱えている気がする。ともあれ、チャッチャと本編を片付けて早く小説版に取り掛かりたいものだ。

・拍手レス。

 公式略称はNG恋(ダメコイ)みたい。途中ですが理と美都子の関係の変化が丁寧に描かれて好感触&楽しい。
 理にとって美都子が最優先というのは不変で、体験版時点で気に入った人ならなおのこと楽しめるかと。

 評判宜しいみたいなので、今年はもう無理無理ですが、来年あたり視野に入れようかと。


2007-11-24.

・遅れ馳せながら『とある魔術の禁書目録14』を読み終わり、「それにしても表紙の五和(いつわ)、服装がエロ過ぎね? 限度越えてね?」と本筋をブッチして興奮した焼津です、こんばんは。あの格好で揉みくちゃにされてポロリがないなんて絶対おかしい。

 とか中坊神経たっぷりな発情反応はともかく、今回はガツンと来る大きな一撃がない反面、細かい見所の多い巻だったと思います。アクションの描写や駆け引きの面白さ自体はやや下がりましたが、これまで一本調子に陥りがちだったクライマックスの展開にいくつもの工夫を凝らし、アクション以外の部分で巧い具合に盛り上げてくれる。ヒキも凶悪にして絶妙であり、「早く続きが読みたい」と願うことしきりです。それと、変人個性の強いヒロインが多いシリーズにあって随一の普通っぷりを見せ付ける五和は、もはや一周して新鮮な魅力を発揮しますね。普通っぽすぎるので本編への再登場は難しいかもしれませんが、番外編か何かでメインを張ってほしいな。

恋楯ドラマCDのキャストに有里がなかったのはやっぱり単なる記載漏れだったみたいですね。今はちゃんと書かれています。

・原作:伊坂幸太郎、 漫画:大須賀めぐみの『魔王(1〜2)』読んだー。

 来年あたり文庫化するであろう『魔王』をベースに、『グラスホッパー』に登場したキャラクターも交えて展開するサスペンス・ストーリー。伊坂ファンにとっては嬉しいクロスオーバーだし、伊坂を知らない人は却って先入観なく『魔王』×『グラスホッパー』な世界に馴染むことができるわけで、どちらにもメリットのある試みだと思います。原作では安藤兄弟の兄が語り手を務める「魔王」と弟視点の「呼吸」、この二作で構成されていましたが、マンガ版はどうなるか今のところよく分かりません。ストーリーの根幹を成す安藤兄の超能力は小説版、マンガ版ともに一緒ですが、安藤兄弟が高校生に若返っていたり、政治家だった犬養が自警団のリーダーになっていたりと、設定面でかなり大きな変化があって話自体はほとんど別物です。

 自警団「グラスホッパー」――新都心計画の煽りを食らって荒廃が進む猫田市で、アテにならない警察に変わって治安を守る集団には、裏の顔があった。暴力に対し、更なる力で以って粛清する容赦なき顔。グラスホッパーを率いる犬養の言葉に心打たれた安藤は、犬養を新世界の担い手として期待したい一方で、「あれは魔王なのではないか」と恐れる心を隠し切れなかった。やがて、安藤は何者かに命を狙われることになるが……。

 心の中で強く念じた言葉を、付近にいる対象にそのまま言わせる(言っている最中、本人の意識はなく、記憶にも残らない)力、称して「腹話術」。『コードギアス』の主人公ルルーシュが持つギアス(相手の意思に関係なく命令に従わせる力)を縮小したようなささやかな超能力を手にした主人公が「魔王」に立ち向かっていく。と言っても2巻までの時点で主人公の肚は決まっておらず、「立ち向かう」という覚悟を結ぶのは3巻以降になりそうだ。原作はサイキックものにしちゃ動きが少ない地味な小説で、これを如何にしてコミカラズするのだろうかと疑問に思っていましたが、大胆に設定やストーリーを変更して少年マンガらしい筋立てに仕上げられています。展開も遅すぎず早すぎず、ちょうどいいテンポ。

 ただ、漠然とながらも「国を誤らせるかもしれない」という危険な雰囲気を漂わせた原作の犬養に対し、マンガ版の犬養はもっと直截的で、妖しくはあるが卑近とさえ言えるレベルでの恐怖感を味わわせるため、「魔王」のイメージが「ファシズムの体現者」から「カリスマ的な悪役」にすげ替わっている感が否めない。『グラスホッパー』の殺し屋たちが一斉に集結したせいもあって舞台が「国全体」ではなく一つの「街」に限定され、「新都心計画を巡る対立」という段階にまでスケールダウンしているところや、年齢が高校生に下がり、追い詰められて命乞いするシーンなんかによって主人公の無力さがより強調されているところなど、悪くすれば「ショボい」「ヘタレ」とマイナス方向で受け取られかねない部分もあります。まだまだ今後次第ですね。

 今まで何事も「見て見ぬフリ」で通してきた臆病な少年が、孤立無援のなか「相手の口を操って一言だけ望むことを言わせる」というチャチな超能力のみを武器に、得体の知れない連中たちと渡り合わねばならない羽目になる――「チャチな超能力」系のネタが大好きな人間にはとりあえず薦めておきたいシリーズ。しかし、縦ロール巨乳な新聞部部長はいかがなものだろう……いろんな意味で合わない気がするけれど。

・エロゲーは『キラ☆キラ』『そして明日の世界より――』『Bullet Butlers』『ひまわりのチャペルできみと』『夏めろ』を並行してプレー中。

 途中で挫折していたものも含めてできれば年内に片付けたい、という思いからこんな暴挙に出てみた。すみません、さすがに5本もまとめてやると頭がグチャグチャになってきます。とりあえず『キラ☆キラ』はダラダラしたノリだけど面白いです、とだけ。本当は『CLANNAD』『月光のカルネヴァーレ』も再開したいし、『リトルバスターズ!』『群青の空を越えて』『よつのは』あたりに至ってはインスコすら済ませていないわけだけど、人間には限界があるんですから仕方ない。

・拍手レス。

 シャナの後に話題を持ってくるとは・・・これは間違いなく確信犯
 ……? あ、そうか、アニメ版では声優がくぎみーでしたね。


2007-11-22.

『灼眼のシャナ』最新刊はイイ具合に激動していて楽しめた焼津です、こんばんは。

 8巻あたりから本編の展開が異様に遅くなり、「どれだけ引き伸ばすつもりだ」とうんざりさせられた時期もあったけれど、ようやくクライマックスに向けて走り出したみたいで、かつての熱が甦ってきました。考えてみれば今月でちょうど5年になるんですよね、このシリーズ。それまで男臭いSFアクションを書いていた高橋弥七郎が、いきなりポン刀担いだロリヒロインの活躍する学園伝奇アクションに転向するってことで不安や危惧も感じたけれど、今や本編・外伝・番外編併せて18冊、アニメは第2期が放映され、マンガ版は2バージョンが連載中と、疾風怒濤の勢い。ラ板の初代876スレに常駐していた身としてはなんだか夢みたいな話だ。今回はシリーズの過去を振り返る、言わばアニメの総集編みたいな場面があっただけに一層懐かしさが込み上げてきます。

 シャナは5冊ごとに「起・承・転・結・外伝」のワンセットを構築し、更に1巻から5巻までが全体の「起」、6巻から10巻までが「承」、11巻から15巻までが「転」といった位置付けになっていますので、この16巻は「結の起」に当たります。終わりが近いとはいえ始まったばかりなのだから小手調べ的な遣り取りに終始するのかと思いきや、さにあらず。ヒキが凶悪で有名な作者の面目躍如、エゲツない展開を炸裂させて「次回はどういう話になるんだ!?」と読み手を悩ませる。続きが気になって仕方ありません。あとがきの口振りからみるに次の新刊は番外編っぽく、まだまだ焦らすつもりでいるらしいけれど、なに、遅くとも再来年あたりには完結するはずです。途中でダレたこともあるとはいえ思い入れの強いシリーズなので、その日が来るまで襟元を正しつつ待つ所存。もっと熱心なファンは「襟など関係あるか」とばかりに着衣を脱ぎ捨てて全裸で待機姿勢を取っている模様ですが……ちなみに今回一番面白かったところは星黎殿のシーンかな。通称「ムシキング」のイベントが良かった。

『恋する乙女と守護の楯』、来年2月にドラマCDを発売

 妙子(修史)の声は誰が演るの? と興味津々眺めてみたら……まさかこの人とは。声優に疎い当方ながらググるまでもなく名前だけで分かります。これは買わざるを得ない。しかし、キャストを見るにどうも一人欠けているような。まさか、彼女の出番はないのですか? ちゃんと絵に映っているのに。絵に映っていない優すら出てくるというのに。単なる記載漏れであることを祈ります。

OVERDRIVEの『キラ☆キラ』etudeの『そして明日の世界より――』、プレー開始。

 脱走者が続出した(具体的には『G線上の魔王』『ピリオド』『Dies irae』)11月戦線、しかしそれでもなお注目作は数多く残り、実際に購入するソフトを絞り込むまで懊悩を重ねる日々が過ぎていきました。最終的には上記の2本と30日発売の『こいびとどうしですることぜんぶ』、計3本にて確定いたしましたが、他にも『世界でいちばんNGな恋』『赫炎のインガノック』、最近体験版をやった『明日の君と逢うために』あたりとてまだ後ろ髪を引っ張りまくりであり、ともすれば追加購入に走りかねない危うさを抱えているのが現在の当方です。

 さて、そんな事情はともかく、『キラ☆キラ』は瀬戸口廉也の新作です。瀬戸口はシナリオライターで、知名度は決して高くないし万人ウケするとも言いがたい作風なのですが、ある種の執念深さを湛えつつもリズミカルに紡がれる文章が目に心地良い書き手。……すみません、のっけから儲感丸出しでアイタタタな発言ですけれど、テキトーに読み流してください。今回の『キラ☆キラ』は少年少女4人がパンクバンドを結成し、受験間際であるにも関らず「オンボロ車に乗って全国ツアー」という明日なき放蕩に打って出る青春ストーリーと、結構キャッチャーな路線を狙ったソフトのせいか発売前から注目が高かった。体験版をやってみたら文章も格段に読みやすくなり(前がそんなに読みにくかったわけでもないですが、確実にクセは減った、と思う)、「瀬戸口? 誰それ、知らねーよ」な人にもそこそこ薦めやすい塩梅となっていました。製品版に関しての感想は、まだ体験版の範囲をスキップしただけであまりやっていないから控えますが、何が何でも今月中にやり通してやろうと熱意は豊富だったりします。

 『そして明日の世界より――』は、「植田亮原画の美麗CG」と「健速乙」の二本柱。絵買いはしない主義の当方でも思わず金を払いたくなるビジュアルのゴイスさもさることながら、近年良くも悪くも話題になってきている「健速乙」をもう一度この目で確かめ直す好機であろうと捉えて購入いたしました。超大雑把に解説しますと、健速(たけはや)が手掛けるシナリオでは主人公が場の空気を読んで果断に行動するアビリティを保有しており、なぜか鈍感やヘタレには事欠かないエロゲー界において「主人公がイイ」ともっぱら評判。ある種の理想ともされていますが、終盤に入ると「相手のことを慮って潔く身を引こうとする(相手の意思とかは無視)」みたいな挙に出ることもあり、その頑なな自己犠牲精神が生理的に合わない人もいる模様です。

 またライター自身が過去に自演行為を肯定した疑惑があることから「健速を誉めている奴はみんな健速本人」と見做す傾向が生まれ、それが「健速乙」という用語を定着させるに至りましたが、時が経つにつれ段々と形骸化しつつあり、今や単なる反射として遣り取り、あるいは説明しがたい一つの抽象的な概念を表すものとなり、強いて言えば「健速を能く褒むる者のみが辿り着く合一的な境地」と化している気がします。これをただのネタと割り切るのは楽なことですが、個人的に「健速乙」は念仏じみて聞こえ、もはやその実体をしっかりと確認しないことにはモヤモヤした想念を抱え込む羽目になりそうなので「プレーする時間を確保できるかなぁ」と不安を感じながらもインストールしたわけですよ。『キラ☆キラ』と並行して進めるつもりですが、どちらが先に終わるかは気分次第ということで。


2007-11-20.

・昔は好きだったけど最近は読んでない漫画家とか、そういった存在の心当たりは誰しも一人や二人おられることでしょう。で、当方にとって正にそうした作家の一人である金田一蓮十郎の『アストロベリー(1)』を発掘。懐かしいのが半分、積読を消化したいのが半分で早速読み始めました。

 一応はラブコメを謳っていて、話もボーイ・ミーツ・ガールの体裁を守っている(男の方はボーイと呼ぶにはやや薹が立っているが)。しかし、可愛い絵柄に反して決して一筋縄には行かず、何らかの毒を篭めねば気が済まない作風の金田一だけあって、セリフ回しの遠慮なさはなかなか爽快だった。奴隷・愛玩用のクローン人間をつくるために異星からやってきた青年博士ベティは「こいつならピッタリだろう」と、穏やかで優しく従順な性格をした少女・桜まこの思考パターンをサンプルにして二体のクローンを作成したが、どうにも予定と違う人格(巨乳痴女&口煩いショタ)が出来上がってしまった。目論みが外れたのは自分の責任じゃない。きっとサンプルの少女にどこか問題があるはずなのだ。己の過ちを認めようとしないまま、ベティはまこの生活を四六時中監視して「問題点」を洗い出そうとするが……とまあ、こんなストーリー。

 「奴隷・愛玩用のクローン人間」という設定はエグいが、あくまでラブコメであって展開そのものにキツいものはなく、掛け合い等に多少の毒が散見される程度です。「パイパン」「肉奴隷」といった直球のシモネタが連発される部分は読み手を選ぶところかな。当方は「処女=デッドストックマンコ」な『ひめしょ!』が大好きな人間ですから「いいぞ、もっとやれ」でしたが。明るく天然なまこが普通に可愛いものの、ベティが断ずるところによれば彼女にはどこか「問題点」があるわけで、それが何なのか――と興味を持たせることで雰囲気を引き締めて飽きさせなくしています。1巻ではヒロインに片想いしている幼馴染みの少年が登場するけれど、まだまだ主要人物が少なくて話を広げていく余地はありそうだ。代表作『ジャングルはいつもハレのちグゥ』で多彩かつ奇抜なキャラクターたちによる微妙に入り組んだ人間関係を描いた作者のこと、この作品も2巻3巻と進むにつれて面白くなっていくことだろう、とamazonで「アストロベリー」を検索。果たして続刊は何冊出ているのか、もう完結しているのか……。

 1巻しか出てませんでした。

 なんでも『ニコイチ』(幼い息子を持った青年が家では女装して「ママ」を演じ、外では普通のサラリーマンとして働いているコメディ)の連載に合わせて休止状態に陥ったとのこと。しかも「連載開始→掲載誌廃刊→移籍して再開→掲載誌また廃刊……」のループを繰り返しており、休止するまでの間に四つの漫画誌が廃刊したそうな。なんて流浪のコミックだ。3年に渡る沈黙を経て、今年ようやく再開と相成ったらしい。うーん、続きが出ていないってことで処分しようかとも思ったが、再開したならもう少し待ってみるかな……いや、これだけ間が空くと新装版が発売されるかもしれないし……とりあえず無難に「保留」としておきましょう。

・あと気になっていた『とある科学の超電磁砲(1)』がようやく読めました。

 『とある魔術の禁書目録』をコミカライズした外伝。「超電磁砲」は「レールガン」と読ませる。もう一つのマンガ版である『とある魔術の禁書目録』が本編の内容に沿っているのに対し、こちらは本編よりも過去、夏休みに入る少し前の地点からスタートしています。つまり上条さんがアレしちゃう以前のストーリーなわけですが、アレしちゃったこと自体が本編ではあんまり大した扱いをされていないので、特にノリとかは変わりません。出だしは読切短編みたいな調子で進みますが、やがて話の軸になるとおぼしき要素が現れてきて徐々にストーリー性が高まっていく。

 本編で人気が高い(その割に出番が少なく、「絶妙なタイミングでスルーされる」ことが半ば伝説となっている)電撃女子中学生・御坂美琴がメインということもあって「御坂ファンうってつけの派生作品」であるのはもちろんのこと、本編とは独立した物語が紡がれますので、小説版を未読でも楽しめる寸法。ただ、まだ1冊目なのでストーリーは中途半端なところで終わってます。話を堪能するよりも、単純にキャラの魅力を味わう読み方が現段階ではベターかもしれません。評判通り、作画を手掛けている冬川基の腕はなかなか。メディアミックスではどうしても「うーん……」と感想の言葉を濁してしまうような人材が起用されがち、という古来から脈々と続いてきた傾向をあっさり裏切るアタリっぷりです。ちょっとした表情の見せ方といい、動きの感じられるタッチといい、コミカルな表現とシリアスな引き締めの釣り合いといい、実にキチンとしています。強烈な個性こそないものの、違和感なく原作の雰囲気とマッチしている。当方は美琴も、相方(?)の白井黒子も結構好きなので、随喜の涙に咽びつつ――とまで書くと大袈裟すぎるので言い直しますが、一ページ一ページをめくるたびに頬が緩むような嬉しさを感じました。以降もこの具合で行くなら「黒歴史」とは呼ばれない、それどころか本編を読み始めた新規の人に「こっちも併せてどうぞ」と薦められる良質スピンオフ作品になってくれそうだ。作品スレで得た情報によれば「原作の3巻を漫画化したい」という編集の思いから出発した企画とのことで、そこそこ長期化するのかもしれません。

 ファン必携のなんたら、という言い回しは出版社の魂胆が透けて見えるのでちょっと嫌いですけれど、ともあれ御坂美琴や白井黒子の常盤台シスターズが気に入っている本編読者は迷わず吶喊してよろしいでしょう。しかし、超能力少女繋がりな『絶対可憐チルドレン』の新刊とほぼ同時期に発売されている奇遇が面白いといいますか、前後して読んだら脳内で設定が混ざって噴いた。チルドレンに翻弄される当麻とか美琴にビリビリ電撃喰らわされる皆本とか。ふたりの状況の変わらなさに。

インターネットラジオ「ねぶら」第123回に王雀孫が出演

 とりあえず生存確認が出来ただけで満足。それ散るで終わり方が尻切れトンボになってしまったことは開発側も遺憾に思っているらしく、俺翼のシナリオは各章並行して書き、満遍なく仕上げようとしているとのことです。会議で重役たちから吊るし上げを食らっている王雀孫の図は想像して噴きましたが、執拗にハゲネタを繰り返すのは……そんなにヤバいんでしょうか、王の円形脱毛症。

・拍手レス。

 シュピーゲル後書き、陽炎はともか冬真まで流血コメディな夢を見てるのが毒されているとゆーか何とゆーか…
 周りの人間にどういった印象を抱いているか、もろに露呈されてますね。

 M部みゆきだろ模倣犯的に考えて…
 MYB(ミーヤーベー)のノベライズは……『ICO』がイマイチだったからあまり期待できない心境。


2007-11-18.

・「オススメの漫画」とか、そういう類のスレを覗くと確実に諭吉さんが失踪するハメになる焼津です、こんばんは。10巻や20巻を越える作品をまとめて購入する快感を覚えてしまい、もはや買い物症候群に歯止めが掛かりません。買った漫画はちゃんと面白いから救いはありますが、おかげで「今後継続して購読したいシリーズ」がどんどん増えてしまい処理が追いつかず、気分は伸び切った補給線そのもの。

 オススメといえばamazonがときどきイチ推しの本を案内するメールを送ってくるのですが、わかつきひかるの『AKUMAで少女』をチェックしたから、という理由で『白い砂丘』とかいう経済小説をプッシュしてくるのはなんなんでしょう? 両者の繋がりがまったく見えず当方困惑。

『恋する乙女と守護の楯』の無料配布小冊子3、データ公開

 ネタバレ大量につき未プレーの方は注意されたし。キャラクター紹介+嘘予告程度の内容ながら、ファンの心をくすぐる落書きが随所に仕込まれていてニマニマしてしまいます。早くFDとか続編とか、恋楯に関する動きはないものか。余計に焦れてきた。

・楡周平の『陪審法廷』読了。

 第20回山本周五郎賞の候補に選ばれた、ということで注目した一作。アメリカの陪審制度に焦点を据え、殺人罪で起訴された少年が有罪であるか無罪であるかを巡って論争が繰り広げられます。楡周平はデビュー当時から知っていますけれど、考えてみれば小説作品を読むのはこれが初めてです。『ナポレオン 獅子の時代』の長谷川哲也が作画を務めているマンガ版『青狼記』には目を通しましたが、原作の方は未だに積んだまま。「スケールの大きな話が得意」というイメージがあり、そうした先入観からすると本作品の小規模な造りはやや意外といったところでしょうか。

 幼くして親を亡くし、グアテマラからアメリカに密入国を果たしたパメラ――彼女は強制送還されることもなく、アメリカの収容施設で育った。やがて医師・看護師の夫妻に養子として引き取られ、幸せな生活を送ることになる……養父が本性を露わにする、あの夜までは。度重なる性的暴行に耐えかねたパメラは、隣家の日本人少年・研一に養父への殺意を告白する。パメラに想いを寄せていた研一は「僕が代わりに殺す」と申し出て、彼女がアリバイをつくっている間にすべてを終わらせようと目論んだ。しかし、完全犯罪の計画は僅かな誤算で綻び、脆くも崩れ去った。逮捕された研一はすぐさま裁判に掛けられる。「研一は服用していた薬によって正常な判断が行えない心神喪失状態にあった」として無罪を勝ち取ろうとする弁護側、「計画は入念に練られており、現場には彼が為した殺人の証拠も残されている。犯行の事実と責任の所在は明らかだ」と有罪を主張する検察側。無罪か、有罪か。二者択一の判断は選出された十二人の陪審員たちの手に委ねられた……。

 まず冒頭1/3で裁判に至るまでの過程を描き、あとの2/3はひたすら法廷での遣り取りに終始する。分類すれば「リーガル・サスペンス」というジャンルに該当する小説ですけれど、いわゆるドラマ的な「思わぬ証拠」「新たな証人」「隠された真実」「反則スレスレの奇抜極まる法廷戦術」といった派手派手しい要素が一切ない、とても地道かつ丹念な筆致で描かれた長編です。『逆転裁判』めいたトリッキイな展開を期待して読めば肩透かしを食うかもしれません。あくまで「殺人を犯したこと自体は明白な15歳の少年に無罪を与えるか有罪を宣告するか」という一点にのみ狙いが絞られている。

 もし有罪が確定すれば研一は第一級殺人ないし第二級殺人に当て嵌められ、最低でも25年の懲役、最悪なら仮釈放なしの無期懲役に処せられます。「好きな少女を救うため、幾度となくレイプを繰り返してきた養父を殺した」、あながち気持ちが分からなくもない少年の未来を、法に精神に照らし合わせて閉ざすべきか否か。サプライズを排し、「理非を問う」ことに専心して物語が進行します。言ってみれば飛び道具ナシの肉弾戦を仕掛けるようなもので、下手すれば「退屈だ」と切り捨てられかねない危うさを持っていますが、テーマに忠実な路線を迷いなく貫いているおかげか、法廷シーン以降は巻措くにあたわざる盛り上がりを見せてくれました。逆に言えば、裁判始まるまでがちょっとだけ長かったかも。文体がやや硬いから、「15歳の少年少女」という視点人物の若さにそぐわなくて違和感があるんですよね。あと、元が連載小説の所為もあり、一つのことについて同じような説明が頻繁にリピートされる構成となっていたのは少々うざったかった。「それはもうさっき聞いたよ」の連続。でも全体としては過不足ない分量に収まっていて、投げ出さずに読み切るにはちょうど良いサイズに仕上がっていると思います。

 エンターテインメントとして読めば物足りなさの残る小説だし、ミステリ好きにはウケないかもしれないが、法廷上の遣り取りに「目の離せない面白さ」が宿っていたことは確か。何が何でもオススメ、と熱心に推すつもりはありませんが、リーガル・サスペンスにありがちな逆転・逆転・また逆転、とオセロゲームみたいな白(無罪)と黒(有罪)の引っくり返し合いには疲れる、もっと落ち着いて「陪審制度」や「人を裁く」といったテーマに向き合って欲しい……って方には密かにオススメしておきます。

・拍手レス。

 NG恋カウントダウンボイス、ゲームプレイ時の注意事項が修正パッチの確認て、、、吹きました
 初歩中の初歩ながら、致命的なバグでもないかぎり当てないままの方が多いかも。


2007-11-16.

・「鏡音リン(かがみね・りん)」を「鐘音リン(かねのね・りん)」だと勝手に思い込んだ挙句、「略称は伯林で決まりだな」と悦に入ってほざいていた焼津です、こんばんは。

 関係ありませんがキャラデザのせいか、たまにミクやリンが特甲児童のように見えてきます。耳に付けているヘッドフォンや頭部のリボンは巧妙に擬装した飾り耳(オーア)なんですよ、きっと。「ヴォーカロイド如きがなんぼのもんですのぉー!」と叫ぶ鳳(あげは)や公共の電波には乗せられない不謹慎ソングを独創し独奏し独走する夕霧とカラオケ対決をしたりとか、それなりにコラボレーションできそうな気もする。いやむしろヘッドフォンが基本装備の雛(ひびな)をヴォーカロイドに仕立てるという道も……無理か。

 ならもう「飢餓音タタン」や「四音カール」でいいや。

・よしながふみの『大奥(1〜2)』読んだー。

 中学生からこっち、「本とゲームは積むのが当たり前」となっている当方ですが、シリーズものはそろそろ新刊が出るっつー時期に差し掛かると「崩し頃」と判断して着手する傾向があります。この『大奥』も来月に3巻が発売されるので、惰性買いにならぬようせめて1巻だけでも目を通しておくべえか、と積読の山から掘り当ててシュリンクを破った次第。作者のよしながふみはドラマ化した『西洋骨董洋菓子店』が代表作ですが、『大奥』は一時話題になった同題ドラマのコミカライズ……ではなく、まったく無関係な作品です。タイトルがシンプルすぎるせいでうっかり勘違いされている方も結構多いんじゃないでしょうか。

 大奥=ハーレムということで女ばっかりが出てくると思うところですが、まずはその予想から裏切りに来る。なんと作中に出てくる「大奥」は逆ハーレム、つまり男ばかりを集めた逆転世界なんですよ。「お殿様のおな〜り〜!」ってお約束のシーンで着物羽織った美女じゃなくて裃付けたイケメンたちがズラーッと並んでる様は壮観。これなんてホストクラブ? 若い男子だけに掛かる流行病が猛威を振るい、男性人口が女性の1/4にまで落ち込んだ「日本」、貴重な種として持て囃されるようになった男に代わり、女性たちが職を継ぐ労働者となっていて、それは天下の徳川将軍家とて例外はなかった。三つ葉葵の威光を翳し、掻き集めた男は三千人(公称、実際はもっと少ないらしい)。夭折した先の将軍に代わって城へ足を踏み入れた女こそ、八代・徳川吉宗であった……。

 と、概要だけ聞けば「世の中にはトンデモない設定の少女マンガがあるものだなぁ」と辟易して敬遠の姿勢を取ってしまいそうな話ながら、あまりにも評判が良いもので試しに買ってみて、しかしやはりなかなか読む気が起こらず今までずっと放置しておりました。一読し、最初に浮かんだ率直な感想は「いかん、面白すぎる……!」でした。他の予定もあるので1巻だけ目を通すつもりだったのに、たまらず2巻も立て続けに読破しちゃいました。食わず嫌いがいかに駄目なことか、久々に痛感させられましたね。

 確かにギョッとするような設定で、「逆ハーレム」という部分に抵抗感を覚える方もおられましょうが、この話は決して安易なBLや「鬼面人を驚かす」じみたインパクト勝負の一発ネタでもありません。「○○は女だった」というレベルに収まらない、センス・オブ・ワンダー溢れる奇抜で秀逸な時代劇です。とにかく物語の見せ方が巧いので、ムチャな設定でもスルスルと飲み込めてしまう。そして何より、匂い立つばかりの色気。男でも色気を醸せるというのは別段珍しいことではありませんけれど、これでもか、これでもか、とばかりにちょっとした仕草や目付きに篭められた淫靡さをえも言われぬ風情で強調するのだからムズムズ来る。「この発想はなかった」と降伏宣言するしかない、素晴らしきニュー・ワールド。

 良い意味で「な、なんだってー!?」の連続に見舞われるパラレル時代劇。「男だらけの大奥」なストーリーですから「ウホッ」や「アッー!」なシーンもあるにはありますが、そこはかなり軽くサラッと流されていて、むしろ描写の薄さに不満を感じる向きがあるのでは、と危惧を抱くほど。自分の好みで選んでいたら一生手に取らないであろうマンガですが、いざ手に取ったら意外と好みに当てはまる箇所が多くて困りました。衆生を救うために僧侶を志した美青年が策謀に絡め取られて堕ちていく過程を綴った2巻は「この設定ならでは」といった魅力を見せつける。来月の3巻もすごく楽しみだ。

・冲方丁の『オイレンシュピーゲル参』『スプライトシュピーゲルV』も読み終わり。

 微妙にリンクし合ったシリーズを別々の出版社で並行して展開するという、本当に続くのかどうか危ぶまれた企画“プロジェクト・シュピーゲル”。オイレンとスプライト、両方併せて今年だけで6冊も刊行したことを考えれば少なくとも失敗ということはありますまい。まあ、企画が成功かどうかは一読者にとってみればどうでもよく、単純に「2冊一気に読めるなんて幸せだなぁ」と享受させていただいた次第。このシュピーゲル2連、はじまった当初こそ続きが楽しみなような、「それより早くマルドゥックの3作目書けよ」と言いたくなるような、ちょっと微妙な気分に陥りましたけれども、現在はただページをめくるたびにワクワクさせられるシリーズとなっています。記号と体言止めを多用する例のクランチ文体もだいぶ洗練されて読みやすくなりましたし、もうこれはこのまま突っ走ってほしいですね。

 同時刊行したくらいなのでオイレンもスプライトもほぼ同時期のことを描いていますが、複数の日にちに跨ってストーリーが展開するオイレン参とは違い、スプライトVは「獅子祭(レーヴェフェスト)」真っ最中の午後12時を起点として1時間刻みでストーリーが進行し、翌日の午後12時に至るまでのちょうど24時間で終了する。まさに冲方版『24(トゥエンティフォー)』といった趣。と、こんなふうに解説すればオイレン参よりもスプライトVの方が面白そうに見えますが、個人的にはオイレンの方が好みでした。なぜかと申せば、スプライトVは『24』じみた構成のせいでひっきりなしに「事件」が綴られるため、ヒロインたちが送る「日常」の描写がほぼ皆無と言っていい状態にありますから。「個人」に焦点を据えるか、「組織」すべてを包括するか、の差異もある。オイレン参は連作形式の体裁を取りつつ長編めいた造りに仕上がってますけれど、仕事がオフの日にひょんなことから騒動に巻き込まれる――といった具合に緩急付いていて、組織の総員を上げ休みなく働くことにより始終緊迫感が持続するスプライトVよりも疲れず、随行しやすい。

 ただ、満遍なく楽しめる構成にしたツケか、クライマックスの盛り上がりがやや薄かったかな。シリーズの核心となる情報が明かし、「気になるじゃねぇかよ」とソワソワさせたところであっさり幕。なかなか凶悪なヒキです。一方、スプライトVは緊密な構成が後半でジワジワと利いてきて、クライマックスに差し掛かってからは中断しようにも中断できないくらいのヒートアップぶりを見せつける。あくまで当方の好みからすればオイレン参に軍配が上がりますが、決してスプライトVも悪くない、それどころかニヤリとさせられるイイ出来でした。

 もはやマルドゥックだのばいアスだのを引き合いに出すまでもなくハマってきました、シュピーゲル。次は書き下ろし長編で大胆にリンクさせる予定とのことだし、大いに期待したい。それにしても、水無月は出てくるたびに男っぷりを上げるなぁ。あと陽炎バイアスが掛かりまくったミハイル中隊長の描写はあんまりにもセクスィーすぎて男の自分が読んでもドキドキさせられます。そして相変わらず陽炎の可愛いリアクションにときめき死にそうでした。もうね、このふたりがひたすらイチャイチャラブラブするだけのエロゲーとか出たら予約して購入しますよ。涼月や夕霧がおまけ扱いでも一向に構いません。涼月は涼月で、夕霧も夕霧で好きなんですけどね。

・拍手レス。

 ジャンゴのノベル………いや、何があったんだニトロと虚淵と佐藤大
 生温かく見守ることにいたしましょう、遠目から。

 今宵の膳は一汁一菜、白米の他には茹でた白菜、ポン酢、そして箸。
 そこには質素を絵にした様な光景が広がっていた。
 ……私はせめて豚コマぐらいはほしいですな。太るけどw

 一日一食にすれば ふとらないよ!(ふとらないよ!)(AA略)

 ガンダムバトレイブ・・・ようやくGガンダムが市民権を獲得したんですね
 Gガンダムと言えば「東方不敗」の元ネタになった武侠小説の文庫版がそろそろ全巻揃いそうです。

 普通に考えれば森博嗣でしょうかね。
 改行が多かったり語尾の長音が消えてたりやけにポエミィな言い回しが目立ったら森博嗣でしょうね。

 キラキラにノイシュヴァンシュタイン桜子さんがゲスト出演しないかなぁという妄想が頭の中をぐるぐると
 際どいパンクファッションに身を包んだ桜子たんが涙目でステージに進みつつ歌は明日香ちゃんの吹き替え……むしろ舞台裏でシャウトしまくってる明日香に萌えそう。

 Mといえば舞城王太郎もいますね。
 舞城は奈津川サーガを書け。


2007-11-14.

『惑星のさみだれ(4)』『サイコスタッフ』と併せて買った『ぴよぴよ』の破壊力に抱腹絶倒した焼津です、こんばんは。短編集だからと軽く見て掛かったのが運の尽きでした。どちらかと言うと水上悟志はギャグっていうよりもまったり系のコメディだと認識していたのに、こうも魔球めいたネタを飛ばせるとは。こりゃ残る『げこげこ』『散人左道』も収集しないとな。

etudeの新作『そして明日の世界より――』、マスターアップ

 ギリギリまで粘っていたので「ひょっとしたら延期かも……」と危ぶんでおりましたが、無事発売となる模様です。良かった、これでやっと今月の予定が立てられる。22日はそし明日と『キラ☆キラ』、30日に『こいびとどうしですることぜんぶ』の計3本で確定。こんぶもなにげにマスターアップしてますし。『世界でいちばんNGな恋』『赫炎のインガノック』は後ろ髪引かれるものの一旦様子見、『最果てのイマ フルボイス版』は大幅なシナリオ追加が確認されれば即座に四足獣の勢いで回転襲歩かましつつ買いに馳せる心づもりですが……まあ、ないでしょう。いっときは地獄になるんじゃないかと心配した11月戦線も順当な感じに収まりそうですね。

『デスノート』のノベライズ第2弾、作者は「M」

 M……M……もしや麻耶雄嵩!?

 なわきゃないか。

・原作:原田宗典、漫画:井田ヒロトの『戦線スパイクヒルズ(5〜7)』読んだー。

 創刊当時は「なんかパッとしない面子だなぁ」「どうせすぐにコケるよ」と期待らしい期待も寄せられなかった“ヤングガンガン”、しかし巷の予想に反しなんだかんだで良い弾が集まり、アニメ化した『すもももももも』『バンブーブレード』の他にも『ユーベルブラット』『WORKING!!』などと結構見所のある陣容を形成しています。この『戦線スパイクヒルズ』は原田宗典の『平成トム・ソーヤー』を原作としたコミカライズ作品であり、タイトルを変えているくらいなのでオリジナル要素もかなり混じっているみたいです。原作は読んだことないのでどの程度変わったのかは、あとがきから察するしかありませんが。

 スリの才能を持った主人公が「スウガク」というあだ名の少年に誘われ、「早慶大学の入試問題を盗む」という犯罪計画に加担する青春クライム・ストーリー。ヤクザが横流しするつもりで持ち出した入試問題を横から掻っ攫う、ってのが計画の概要なので、もしバレたら最悪殺されかねない。主人公は「キクチ」という天真爛漫な女生徒と出会って甘酸っぱい恋愛を繰り広げたり、「チサト」と呼ばれる凄腕の婆さんに付いてスリの修行を重ねたりして計画実行の時を待つ。そして遂に危ない橋を渡る時が訪れ……。

 もともとは一冊で完結する小説ながら、連載期間2年以上、単行本7冊と大した分量に仕上がりました。まあ、世の中には短編小説を原作に10冊近く単行本を出しているマンガもありますし、世界名作劇場の「母をたずねて三千里」なんてオリジナルは原稿用紙40枚程度ですから、そんなに度を越したボリュームでもありません。「スリの才能」というのは平たく書いてしまえば「相手に気取られぬよう静かに素早く抜き取る」ことなんですが、あまり細かいテクニックを説明せず、ハッタリの利いたマンガ的な表現で押し切るせいもあって徐々にサイキックっぽく描かれるようになるあたりは好みの分かれるところでしょうか。掲載元が青年誌だから主人公が途中で童貞を捨てたり大麻を吸ってみたりと思い切った展開が許されていて、良い意味で「ガンガン」のイメージを裏切る。線が細くサッパリしている割に攻撃的な絵柄で、絶妙な青臭さを醸しているのもグッド。全編に渡って非常に読みやすいテンポを刻んでおり、一度手を付けたらなかなか中断できない魅力があります。ただ、長引いた割にはクライマックスがやや呆気なくて拍子抜けしたかな。燃えるシーンもあるけれど、「あれ、これで終わり?」な物足りなさが後に残ります。綺麗にまとまっていることはまとまっているものの、もうひと押し欲しかった。

 「スリの力は攻撃にも使える」ということで最終的にはアサシンみたいな領域に到達するのがちとアレでしたが、「スリ」という繰り返し表現するのが難しい素材をうまく話に溶け込ませた点では賞賛したい。クライム系のストーリーで且つ青春モノ、ってのは総数からして少ないし精妙な匙加減が要求される分アタリを引くのが難しいジャンルなんで、割と貴重な一作だと思います。原作もそのうち読んでみようかしら。


2007-11-12.

・ゴキブリがお口に吶喊してくる惨事を「最高のギグ」と表現する『日常』2巻のセンスに屈服した焼津です、こんばんは。

 前巻から僅か3ヶ月で発売されたシュールかつナンセンスな逸脱系日常コメディ。2冊目ということもあって1冊目よりかはインパクトを感じなくなったし、笑える話とそうでもない話とで結構差があるんですが、ツボにハマるエピソードは本気で腹が捩れます。ボケまくる友達をあえてツッコむまいとゆっこが忍従する「日常の28」、必死で我慢しているツッコミどころを他の生徒にあっさり取られて「田中のヤロ――――!!!」と瞳孔バリバリに開きながら鉛筆をへし折るシーンは中んずく丹田に直撃。来年に刊行されるであろう3巻がイマから待ち遠しいです。

・それとは別に平山夢明の『ミサイルマン』も独特なセンス横溢で堪能しました。

 恐怖実話系(『怖い本』みたいな)を多く手掛けている著者の第二短編集。第一短編集『独白するユニバーサル横メルカトル』の表題作が日本推理作家協会賞を受賞したり、本自体が「このミス」の1位に選ばれたりして話題になった平山夢明ですが、個人的には高校生の頃に読んでちょいトラウマになった『SINKER』の印象が強い。サイコダイバーみたいな能力を持った主人公が警察の依頼を受けて快楽殺人者の精神にダイブし、殺人者が目にした光景=記憶を追体験して身元を特定しようとするサスペンス。殺人法がいちいちグロくてエゲツないのですけれど、ショックを受けたのはそういう部分よりむしろ、片目がない女の子の義眼を外し、そこらへんに落ちていた汚い小石を眼窩に詰め込む、という本筋にさして関係しない「子供の悪戯」の方だった。肉を裂いたり血を飛沫かせたりするスプラッターめいた描写よりもこういうのがツラい。

 何かとグロい描写が大量に仕込まれていて、「デブのレオタードみたいに食い込んでやがるぜ」といった下品な比喩やセリフ回しが頻発するせいもあっていかにもB級っぽいムードを濃厚に漂わせる彼の作品だが、ただ単に「B級」の一言で片付けてよいものかどうか迷うところはあります。『SINKER』と並ぶもう一つの長編小説『メルキオールの惨劇』はグロとユーモアが混ざり合って曰く言い難い境地に達しており、悪趣味なホラーであるにも関らずうっかりすれば「爽やか」と形容してしまいかねない。決して何かこう、「深いテーマ性を感じさせる」だとか、読者をスノッブな気分に浸らせてくれるものはなくて、良くも悪くもスッカラカンなんだけども、変なところで細部に拘っていて侮れない作風ではあります。

 『ミサイルマン』はあっちこっちのアンソロジーに掲載した作品を寄せ集めた一冊で、傾向らしい傾向もなくやや統一感に欠く内容ではありますが、収録されている作品はどれも異常にテンポが良くて最後までサクサクと読めてしまう。家賃が破格の安さを誇る訳有り物件に引っ越して、案の定日常を怪異に侵蝕される――という「或る彼岸の接近」はフレームだけ見ればありがちなんですが、「侵蝕」のイメージがどこか淡々としながらも偏執的であり、「怖がらせホラー」路線を放棄して白昼夢の如き幻想世界を捻出することに成功している。もっともシンプルな骨組みのストーリーだからこそ、分かり易く作者の特徴が滲み出ています。

 しかし、一番面白いと思ったのは「枷(コード)」か。主人公を「あなた」と二人称形式で綴る一編。昔、女を殺したときに神秘的な現象と遭遇した「あなた」はそれを「顕現」と名付けて、以降ふたたび「顕現」と巡り会うために女を殺し続け、「顕現」の痕跡を秘密の地下室に蒐集する。初出のアンソロジーが『蒐集家(コレクター)』なので「コレクター」が重要な焦点となっており、タイトルの由来ともなるレコード屋の解説セリフが秀逸だった。

「コレクターっていうのはもう病気なんだよ。居ても立ってもいられない。集めたい物は何でもかんでも欲しいんだ……でも、それじゃどんな金持ちだってもちゃしない。だからみんな自前の枷をはめるのさ。いわば孫悟空の輪っかだね」

 どんなジャンルであれ、一度ハマってしまえばそりゃあもう奥が深くて極めようがない。経済的・時間的な問題から、ある程度取捨選択して「厳選」することがコレクターの宿命となっています。

「(中略)彼らは自分の欲求を鎮める防衛策として枷を作る。例えばグループは駄目だ、女性は駄目、それにオリジナルでなければとか廃盤のみとか……。こういう具合に枷を作って絞っていけば何とか自分の生活を崩壊させない程度の出費で済む。(中略)但し、これにも強烈な副作用がある……」

 ストーリーの核心にも触れる部分ですから反転して伏せますが、副作用とは→一度枷を作ってしまったら二度と外せない、条件に合致するものを発見すれば買わずにはいられなくなる、もし見逃せば今までのコレクションが無意味になる←ということ。このへんの件は身につまされるというか、やけに納得して何度も頷いてしまいました。コレクターという人種の心は「余裕」と「強迫観念」の狭間で絶えず揺れ動くものなのです。

 恐怖実話系は好みに合わない、ということで平山夢明の著書は大部分が未購入のままですが、こうも小説作品が面白いと折角付けていた「枷」が壊れ、新たに組み直されてしまいそうで悩ましい。ザッと調べた感じ彼の本は50冊くらいありますから、これを改めて蒐集するならば掛かる費用や読む時間は如何ほどになるか……考えただけでゾッとするのに、いざ具体的な手順や方策を練ってみると楽しくて仕方がない自分がいます。こりゃ確かにビョーキだ。

ガンダムパトレイヴ

 ちょっとカッコイイと思ってしまった……くやしい……キャッチコピーは「あなたの電子レンジと、合体したい」でお願いします。

「うるさい!だまれ!」に替わる言葉思いついたwwwww(⊂⌒⊃。Д。)⊃カジ速≡≡≡⊂⌒つ゚Д゚)つFull Auto)

 113の「指をくわえて黙って見てろ!→ユビークワイエット」がツボりました。

・拍手レス。

 白菜はうまい!ポン酢で頂くのが最高にうまい!これだけをおかずに飯食えます。(ほんとに
 激同。シグルイ風に述べると「茹でた白菜の美味き事、おかず一食分の働きは充分にするものと覚えたり」。

 オクルトゥムの雑誌掲載もかくのごとき蝉の騒がしき日であったような
 18禁ゲーム界最後の色男(ロミオ)が産み落としたシナリオに、異能の原画家が挑む残酷無惨伝奇活劇、開幕……してくれ……!

 ジャンゴのノベライズ、タイトルが…
 売る気とか、そういうのが全然ないんでしょうね。


2007-11-10.

・鍋の具は白菜が好きな焼津です、こんばんは。好きというより超好き。食感といい味の沁み具合といい、あれはもう麻薬ではなかろうか。目の前で肉を取られたって何の痛痒も感じないけれど、仮にごっそりと白菜を奪われたら明確な殺意を抱く自信があります。

Navelの『俺たちに翼はない』、発売日決定(2008年6月28日)

「親父殿、おれつばの発売日、あれは7ヶ月後にござるか」
「左様」
「左様って…」

 “あと231日”――それはおよそ一切のブランドに聞いたことも見たこともない奇怪な告知であった。とまで書くとさすがに大袈裟ですが、それにしても呆れるほど長期。まるでこれから開発に取り掛かるソフトみたいじゃないですか。改めて振り返ってみると、おれつばの情報が初めて雑誌に掲載されたのは2005年3月。既に2年半以上が経過しており、もし告知通りの日に発売されたとしても余裕で3年掛かったことになります。どれだけ大作なんだ。

 一応の発売日が決まったことは嬉しくないこともないんですけれど、いくら何でも7ヶ月後というのは予定が立たないし、「とりあえずメモ帳に書いておくかな」って次元です。それに遅筆と名高く、5年前にリリースされた『それは舞い散る桜のように』、略して『それ散る』以来1本として新作を出さなかった王雀孫がライターを担っているんですから、「これだけ余裕のあるスケジュールなら大丈夫だろう」などと安心する気持ちにはなれません。むしろこれだけ長いと開発側の気が緩んで完成が間に合わず告知した6月の直前になって延期し、以降もズルズルと小刻みな延期を乱発しそうな予感がヒシヒシ。当方も王雀孫の作風は好きですからなるたけ辛抱強く待つ所存ではおりますが、現在の『Dies irae』みたいな持久戦を来年も強いられるなんてのは勘弁してほしい。

 あと、言われて気づきましたが、6月28日って『それ散る』の発売日なんですよね。うん、確かにあれは6月、夏の入口でした。発売日当日に購入したので覚えています。最初はまったくチェックしてなかったけども、巡回していたサイトの先々でやたらと「もうすぐ発売、楽しみ」な記述が目に付いたので、物は試しと買ってみたのです。プレーし始めた最初のうちはあまり面白い感じがしなかったけど、進むにつれてだんだん加速度的に面白くなっ(以下長い長い昔話が続くけど割愛)しかし、『それ散る』の発売日って同時に『D.C.(ダカーポ)』の発売日でもあったり。今は亡きBasiLと今もなお猖獗を極めている曲芸……両者の歩んだ道の違いにふと眼差しが遠くなります。

・藤原伊織の『遊戯』読了せず。

 『ダックスフントのワープ』でデビューし、江戸川乱歩賞と直木賞のダブル受賞で話題になった『テロリストのパラソル』にてブレイクしたものの、今年の五月に癌で亡くなってしまった著者の遺作。1月に中編集『ダナエ』を刊行し、これがラストになるのかと落胆しかけましたが、この『遊戯』および最後の長編『名残り火』『てのひらの闇』続編)が出版されて文字通り彼の名残りを感じることができ、少しホッとした次第です。で、本書。遺作と書きましたが、正確に申せば「未完の遺作」となります。執筆が中断した一年後に、作者がこの世を去ってしまったのです。

 連作形式で紡がれており、男女ふたりの重要人物が登場して交互に視点を切り換えながら進む構成となっています。ふたりはネットで知り合い、意気投合したことからオフで会う運びとなり、その後徐々に親密な仲になっていく。これだけ書けばただの平凡な現代ロマンス小説ですが、一応はミステリであるからしていくつかの謎が絡んできます。ふたりの周りに出没する謎の中年男。本間透(♂)の父親が残したブロウニングと、その弾丸にまつわる疑問点。そして父親が幼かった透に施した残酷な「遊戯」。いおりんらしい「オヤジの理想」たっぷりなハードボイルド的内容(夜中に自転車が突っ込んできても慌てず騒がず冷静に身をよじり前輪を蹴って回避するとか)は今回も健在で、ヒロインの造型を始めとして随所に「伊織節」がお目見えするのですが、ちょうど話が盛り上がってきたところで

(藤原伊織さんは二○○七年五月十七日、逝去されました。連作短編「遊戯」「帰路」「侵入」「陽光」「回流」が未完となりましたことをご了承願います)

 となるんだから泣くしかない。もし完成していたら、現状の倍くらいにはなっていたことでしょうか。長身の女性・朝川みのりがCMタレントとして頭角を現していく流れが面白かっただけに、「ずっと未完のターン」であることが悔やまれてならない。『遊戯』もうやめて、読者のライフはもうとっくにゼロよ。併録されている短編「オルゴール」は単発作品なので、こっちに関しては静謐な潤いと余韻をたっぷり味わうことができます。亡き妻が遺したオルゴールよりこぼれ出るトロイメライの旋律。斜陽の只中にいる男の胸に去来する想いとは。短いし地味だけど、よくまとまった佳編。

 あくまで「未完の遺作」であり、無事完結していたならば藤原伊織の新たな代表作となっていた可能性もある作品ですが、よほどのファンじゃないと不満を覚える一冊となります。いえむしろ、「よほどのファン」にとっては「不満」の二文字では言い尽くせない悔しさにまみれる一冊、と言った方が宜しいでしょうか。しかし、未完とはいえお蔵入りにしてしまうのは勿体ない内容であり、「幻の作品」として封印されることなく読めたことは単純に嬉しい。せめて構想や今後の展開に関するメモが付されていればな、とは思いますが、そうしたものを残さずスッパリと「未完は未完」でぶった切ったのは潔いとも思う。簡素でいて深みがあり、微かどころではないオッサン臭さで愛嬌に満ちているいおりんワールド、その片鱗を堪能させてもらいました。ごちそうさま。でもあえて「読了はしなかった」ということにしておきたい。

・有川浩の『クジラの彼』読了。

 著者初の短編集。表題作含む6編を収録しています。自衛隊にスポットを当てたオムニバス形式の恋愛モノで、中には『空の中』『海の底』といった既刊の番外編もあり、「有川ファン向けの一冊」と言える。具体的には「クジラの彼」と「有能な彼女」が『海の底』、「ファイターパイロットの君」が『空の中』の後日談。独立した短編として読めなくもないのですが、後日談ですからやはり先に本編を読んでおいた方がベターですね。作者自身が「ベタ甘ラブロマ」と謳うくらいなのだから尚更。

 特に他との繋がりがない単発作品は「ロールアウト」「国防レンアイ」「脱柵エレジー」の3つ。航空機メーカーと自衛隊員との間で発生した「トイレ論争」の顛末を描く「ロールアウト」はモノが「トイレ」だけにともすれば間抜けな状況に映りかねませんが、「少しでも軽量化&省スペース化したい」と考えるメーカーと「長く使うものだから最低限の快適さは欲しい」と要望を出す隊員たちとの対立は案外深刻であり、両者の和解に向けて下品にならない程度に「排泄」の問題を抉っていく。「小便なら見られても平気」という感覚は当方には馴染めぬところですが、こういう普通なら無視するどころか考えられることもないネタは新鮮で面白い。「国防レンアイ」はWAC、つまり女性隊員との精神的な距離感にまつわるもどかしさを描いた話で、一番恋愛モノとしての色合いが強いかな。割とストレートな内容で、特に感想はありません。「脱柵エレジー」は脱柵、つまり「脱走」をテーマとした興味深い一編。離れている恋人逢いたさに規則を破って抜け出す、もっとも青春スメルの濃厚な内容で、愚かしくもあり微笑ましくもあり。「ベタ甘」を旨とする他の諸作に比べて若干ストイックです。個人的にはこれが一番好き。

 浅田次郎も自衛隊に入っていた頃の思い出をもとにして『歩兵の本領』という短編集を書きましたが、あれに目一杯シロップをぶち撒けたらこんな感じになるのかもしれない。口語の文体が少女マンガっぽくてクセもありますけれど、全体的にこなれた内容で、ノリさえ合えばスルスルと読めます。カラーページに置かれたイラスト(各編の内容をドリンクに見立てて表現している)が絶妙なのでお見逃しなきよう。


2007-11-08.

・フラフラと絵買いした『あっちこっち(1)』(異識)が割と良かった焼津です、こんばんは。

 学園ラブコメで、トラブルメーカーに話を牽引されながら多人数でワイワイと楽しい日常を送るタイプの四コマであり、ハッキリ言ってしまえばネタとかギャグとかはそんなに高威力ではなく「お約束」の範疇に収まるんだけれども、チビで目付き悪くてキモチを素直に表現することのできないヒロイン・つみきたんが可愛らしゅうてたまらず、他の一切は瑣末事と成り果てる次第。彼女のやや陰気な眼差しを見ているとこう、ほんのりとした温もりが宿りまする。寒い筈はない。当方の胸のうちにはつみきたんが燃えていた。

lightの新作『Dies Irae』、発売延期(11/16→12/21)

 あのね、わたし、lightちゃんのことを信じてずっと待っていたのよ。
 なのに……なのに、散々引っ張ったあげく萎えるオチつけるなんて――いったいどういうつもり?

「冬に出せば……いいもん」

 馬鹿にしてっ…!

 というのは冗談(特に「lightを信じていた」という件)ですが、ともあれ『Dies Irae』は依然として既知感(ゲットー)の内側から抜け出せないみたいです。『ロストチャイルド』『おまかせ!とらぶる天使』と同列視されるのもむべなるかな。何度目だディエスイレ、って感じでコメントを捻り出すのも疲れてきましたが、最後にもう一度。

 馬鹿にしてっ…!(←最近これが気に入っている)

OVERDRIVEの新作『キラ☆キラ』は無事マスターアップ

 マスターアップ宣言ボイスが複数用意されているみたいですが、「発売日までもう少しだけお待ちください、ファッキン」とかそんなノリで噴いた。さて、これで確定が一つ消えた代わりに一つ決まりました。あとは『そして明日の世界より――』『世界でいちばんNG(だめ)な恋』『こいびとどうしですることぜんぶ』、この3本の動向を窺って今月の予定を固めたい。そし明日とダメ恋は『キラ☆キラ』と発売日が一緒だから合わせて注文できますけど、こんぶだけちょっとズレるのが若干悩みの種。

・馳星周の『約束の地で』読了。

 北海道を舞台にしたオムニバス形式の短編集。収録作は「ちりちりと……」「みゃあ、みゃあ、みゃあ」「世界の終わり」「雪は降る」「青柳町こそかなしけれ」の5つで、本のタイトルはオリジナルです。いっとき流行るんだか流行らないんだかよく分からない雰囲気で持て囃された「ノワール小説」の旗手として認識された馳星周――昔は古神陸という名義でライトノベルやエロゲーノベライズを書いてましたが、ノワールに転じてからはエルロイの影響が色濃い小説を連打して売れっ子となり、しかしあまりにも変わり映えしない作風から「マンネリ過ぎる」と批判され、最近はちょっとずつ幅を広げようとしている動きが目立ってきた。本書は良くも悪くもノワール臭さを打ち消した一冊であり、パッと見では馳と分からない文体になっています。それでもよく読めば文章のリズムは「いかにも馳」って具合だったり。

 事業に失敗して何もかも失った男は、死に場所を求めて故郷に戻ってきた。一人暮らしの父が大金を貯め込んでいることを知ったのは、知人を通じてだった。火事で死亡した母と妹の保険金が下り、退職金も重なって、その額はゆうに五千万を越えるという。死ぬぐらいだったら、いっそその金を奪って再起を目指すべきではないか。父の住む小屋を見張り、金の在り処を探り当てようと躍起になるが……「ちりちりと……」。事故で足を悪くしてサッカーを諦めた先輩が、半ば押し付ける形で売ってきたスクーター。乗ってみたら案外すぐに気に入ってしまい、今までなら行けなかった場所まで遠出するようになった。誰も居ない広大な、そして荒廃した風景。そこは世界の果て。何もかもすべてそこで終わっていた。世界を終わりを実現させなくては、という妄想に駆られた少年は、湧き上がったプランを着々と実行に移すが……「世界の終わり」。

 本の題名からして安易な感動路線に逃げたんじゃないかと一抹の不安を覚えたものの、やはり馳は馳。静かながら全編に言い知れぬ焦燥感とドン詰まりな雰囲気が満ちていて、「始まる前から終わっている」感じが濃厚に匂ってきます。しっとりとした文章で丹念に風景と行動と心情を切り取り、鮮やかに読み手の脳裏へ投射する。目立った「巧さ」ではないけれど、スピード任せの文体とは違った領域に達した心地良さがあります。一編一編は独立したエピソードながら、細かい部分でリンクする箇所が仕込まれている(例えば「雪は降る」の主人公は「世界の終わり」の少年にスクーターを売りつけた男、つまり「事故で足を悪くしてサッカーを諦めた先輩」本人)ので、時折ニヤッとさせられますね。ただ、読み通せば何がしかの全体像が見えてくるとか、そういう凝った仕掛けはありません。本当にただリンクしている程度のこと。

 「ちりちりと……」は雪の降る擬音を「ちりちり」と表現するところから来ていて、のんびりとした序盤を抜けると「父親から金を奪う」、クライムノヴェルじみた展開へ差し掛かる。犯罪がどうこうってより、「それにつけても金の欲しさよ」な部分が過去の諸作を連想させます。「みゃあ、みゃあ、みゃあ」は小猫の鳴き声。介護疲れしている独身女性が徐々に心を削られていく一編であり、あまり激しい動きのないストーリーが却って痛みを増加させる。「世界の終わり」は終末妄想に取り憑かれた少年が主人公で、歯車の狂わせ方がやや強引ながら、「狂うにつれて澄んでいく世界」の表現はやけに生々しい。「雪は降る」は一言でまとめれば逃避行。淡々とした筆致で「未来は無限に開いていて、同時に無限に閉じている」という虚ろに行き詰まったイメージを湛え、今回の中では一番深く刺さった。「青柳町こそかなしけれ」は夫のDV(家庭内暴力)に悩まされている女性の話。他の暴力夫の行状を窺い知って我が身を振り返る場面が少し印象的でしたが、緩やかな前半に対し後半はやや急展開で、バランスが悪い気はしました。

 総じて、地味ではあるけれどファンなら割かし楽しめる佳作、って位置に落ち着いています。絶望と頽廃と暗黒の向こう側にあるものが何か、確かめるようにじっくりとペン先でほじくっている、そんな様子が浮かび上がってくる。完全にマンネリを打破したわけじゃなく、依然として「同じような内容の繰り返し」の部分はあるものの、「マンネリでもいいじゃない、好きな作家なんだもの」と思っている当方からすればさして問題でもない。掘り下げすぎないのがちょうど良い。あえて中途半端さを味わえ。ってな一冊です。

・拍手レス。

 「そのおっ!」「えんどぉっ!」 ……死ぬかと思ったぞこん畜生。恐ろしく濃密な濡れ場が描かれてそうだ。
 発売した暁にはイイ意味で死ねることを祈っています。

 摩陀羅とはまた懐かしいですな。原作者に話を完結させる気が無いのか未だに終わりませんが
 「マダラは108のエピソードから成る」という発言も何も考えず勢いだけで述べたらしい。


2007-11-06.

・思い出せる範囲で一番最初に衝撃を受けたマンガは『MADARA赤』だった、と唐突に書いてみる焼津です、こんばんは。小学生の頃に買っていたゲーム雑誌で読みました(途中で掲載誌変更になったっけ)が、その頃は摩陀羅シリーズを知らなかったのでストーリーはいまひとつ理解できなかったけれど、絵の力だけで容易く呑まれました。別にそういう路線の話ではないのですが、「耽美」という感覚を肌で知ったのもアレが初めて。なんてことないシーンや男の裸さえエロかった。田島昭宇絵が当方の嗜好にかなり強く影響を及ぼしたことは疑いないです。とりあえず褐色肌属性が付いたのはエピローグで成長したレラが出てきたおかげ。

・いつの間にかamazonの分割発送の配送料に関する規約が変わってますね。以前は一度に頼んだ商品の合計金額が1500円以上だったらいくら分割しても原則タダだったのに、これからは注文した商品一つ一つが1500円以下だったら合計金額の如何に関らず送料300円を個別に取られるみたいです。

 留意すべきなのは「1500円以下の一発送につき300円」ではなく「1500円以下の一商品につき300円」ということ。たとえば、同じ発売日の文庫本4冊(600円前後)と少し発売日がズレるハードカバー(1500円以上)を一緒に注文して分割指定すると、送料は「300円×4+0円」の1200円になるわけです。実際やってみて噴きました。この場合、「発送が遅くなってもいいや」と開き直って一括指定にするか、文庫本ズとハードカバーを別々に注文するのが正解。まるでパズルだ。「発売日がバラバラの文庫本や漫画本を分割発送してほしければ、おとなしくアマプラの軍門に下れ」というメッセージでしょうかこれ。

 今年あたりからamazon以外のネット書店もぼちぼち使うようになったから個人的にはさして痛手でもありませんけれど、今後ますます使用頻度が落ちるだろうことは確実。

・村枝賢一の『俺たちのフィールド(1〜18)』読み終わり。

 不朽の名作サッカー漫画であり、今読んでも少しも古びたところを感じさせないシリーズであります。連載期間は92年から98年まで、当方が小学生の頃から高校生になったあたりまで続いていたのですが、実を言うとリアルタイムでは存在すら知らない作品でした。嵩張って処分が面倒だから雑誌は買わない主義の当方、根っからの単行本派であり、格別興味を抱くジャンルでなければ手を出すこともなかった。小学生のときにサッカー部へ入ったものの、ほとんどボールを回されることもなく、フィールドの中に立ちながらも傍観して過ごすのがデフォルトとなった記憶が災いしてか、キャプテン翼をはじめとするサッカー漫画には毛先ほどの興味も惹かれない状態だったのです。連載終了からしばらくして高校時代の友人が「俺フィーまじ超面白ぇ、一番好きな漫画だよ」と絶賛したことにより遅まきながら興味を抱くものの、外伝含めて35冊と巻数が多いせいもあってなかなか着手する機会が訪れなかった。大学生になって『RED』『仮面ライダーSPIRITS』といった新作の方を先に読んで村枝賢一の凄さを実感しつつ、ようやく俺フィーと向き合う覚悟を決めたのはつい先月。一抹の不安とともに取った1巻が「テメエそんなん杞憂に決まってんだろ」と勢い良く不安を吹っ飛ばして景気づけてくれたので、あとはひたすら無心に堪能しながら崩していくだけでした。

 高杉和也は父に憧れてサッカーをはじめ、幼馴染みで勝ち気な性格の愛子と一緒に練習に励み、謎の転校生にして小学生とは思えないテクニックを持つ騎場拓馬というライバルを得て、熱く幸せな少年時代を送っていた――道路に飛び出した子供を庇った父が車に轢かれて事故死するまでは。深い悲しみに囚われ、「もうサッカーはやりたくない」とボールを蹴らないまま高校へ進学、普通の生徒として平凡な日々を送っていた和也の前にひとりの男が現れる。末次浩一郎。サッカーボールを追って道路に飛び出し、和也の父に命を救われた少年。運命は仮借なく激動し始め、和也たちの心を狂熱の世界へと浚っていく……。

 まず一番に驚いたことは「絵が変わっていない」ということ。漫画家は時間の経過とともに画風が変化していき、単純に巧くなって綺麗な絵柄となることもあれば、俗に珍化と呼ばれる「昔の方が良かった……」な惨状へ進んで引き返せなくなってしまうこともあります。最新刊の絵に釣られて1巻を買ってみたら詐欺かと思うくらい絵柄が違っていた、という経験は漫画読みなら一度はあるはず。『RED』と『仮面ライダーSPIRITS』で村枝にハマり、俺フィーに遡ることを決心した際に「始めが期待を裏切るようなものだとしても我慢しよう」と思ったりしたわけですが、そんな失敗がいとも容易く無駄になってしまった。確かに細かく読み比べてみれば相違点は見つかるし、全然上達していないなんてことはなく、進むにつれていろいろとバージョンアップしていきます。けど、もっと根本的で抽象的な部分、一瞬パッと視界に収めて即座に脳味噌へ叩き込まれるパルスに「村枝賢一」と刻印されている、とでも表現すればいいのか……とにかく、相違点はあれども違和感がまったくない。おかげで拍子抜けするくらいスンナリと俺フィーの世界に馴染めました。

 マフラーなびかせ颯爽とボールを操る騎場との出会い、父親の死、そして父親に救われた子供が刻苦に耐えてゴールキーパーとなり「俺から一点でもゴールを奪ってみせろ」とばかりに挑戦してくる。これだけドラマティックな展開も冒頭部分に過ぎず、当方の読んだワイド版では1巻にすべて収録されています。冒頭だけでこれなら、本編の激動ぶりは如何ほどか。それはもうすごいです、いきなり他のキャラたちと別れを告げて南米へ飛ぶなど、思い切った展開の連続。いちいち抜き出していったらキリがないほどうねりに満ちたストーリーであり、時も巻数も忘れて引きずり込まれます。少年漫画だから「成長→強敵出現→更に成長して突破→更なる強敵出現→更に更に成長して……」みたいなインフレっぽいところもあるし、倒した強敵が新たな敵の噛ませ犬に使われちゃう「お約束」とて無縁ではありません。それでも個々の登場人物に気を配り、決して安易なパワーアップを施さず、読者に飽きさせないよう徐々に底上げしていく配慮と工夫が凝らされていて、唸ってしまう局面がわんさかあった。「不朽」の二文字は伊達じゃない。思った以上にラフなプレーが多く、荒っぽさが目立つ部分もあるにせよ、後の『RED』や『仮面ライダーSPIRITS』で惜しみなく照覧させる村枝流のダイナミズムには息を呑むばかり。

 あくまでスポーツ要素がメインだからヒロインとのロマンスは添え物程度に留まっていて、三角関係だとかいった複雑な恋愛模様が描かれることはないけれど、フィールドの外で応援したり叱咤を飛ばしたりブラウン管越しにじっと見守ったりする女性キャラたちの存在感もなかなかです。間違いなく和也の母親は当時読者であった少年たちの幾人かにヅマ属性を植えつけていったことでしょう。幼馴染みで昔は一緒にボールを蹴り転がしていた仲の愛子、熊本の野生児タクローの妹にして苦労人気質な水希、和也を口説いて愛子から掻っ攫ってしまうあきら、南米で出会う強敵ダミアンの妹エリサ、ちょっと登場が遅くて全体的な出番も少ないけれどママンと並ぶ清涼剤の玉緒お嬢様。これだけ出てきてロマンス要素がちょびっとだけってのもなんだかもったいないが、あんまりドロドロした恋愛劇をやってもアレだし仕方ないところか……。

 サッカーが好きだの嫌いだの、そんな細かいことに左右されない強靭な魅力によって裏打ちされた熱く静かな青春ストーリー。足を怪我して必死に冷やしている最中の騎場との遣り取り、

「おまえの足……あとどんぐらいもつ…?」
「そうやな……あと…10分ってとこか…」
「…………………………(歯を食いしばる)………………足んねえな。あと30分は出ててくれ…!!」

 の表情が強烈で、「高杉和也はどんな奴か」というのが余すところなく表現されていると思います。個人的には騎場の方が好きですけどね。「行く手を阻む連中をマフラーなびかせゴボウ抜き」のビジュアルがカッコ良すぎた。あと、タクローも最初はチョロチョロと落ち着きがなくてうざったかったのですが、味方に回すと頼もしいうえに程好く緊張感をほぐしてくれるムードメーカーで、いつしか好悪が逆転していました。他にも良いキャラが沢山いて、とても語り尽くせそうにない。とりあえず言えることは、あんなに小さかったエリサが最終巻付近ですっかりイイ女になって出てくるのは期待を裏切らず、とても興奮したということです。やっぱり褐色肌はエロいですね。さておき、ワイド版の17巻(単行本だと33巻と34巻に相当)は言い知れぬ熱さに涙が滲みました。熱いぜ熱いぜ熱くて死ぬぜ。

・拍手レス。

 怒りの日はとうとう今冬予定になっちゃった…ちくしょういったいどうしてこんなことに
 まさかこの期に及んでマスターアップ宣言も延期発表もないとは……。

 怒りの日は本当にマスターアップ告知が無いですね、という訳でNG恋をキープしたでありんす
 本当にチキンレースみたいな気分になってきました。


2007-11-04.

・自分の日記を読み返して思ったこと。「正直、云々かんぬん」という言い回し使いすぎ。正直、もっとなんとかしたい焼津です、こんばんは。でもなんとかするつもりはありません。正直、面倒なので。

シリウスの新作『こいびとどうしですることぜんぶ』、体験版をプレー。

 なんというフェイスクラッシャー……! これを一切ニヤけずにやり通すのは至難の技であります。

 11月30日に発売予定日を控えている本作『こいびとどうしですることぜんぶ』、正式略称「こんぶ」はシリウス通算9本目のソフトです。メーカーであるシリウスの設立は調べてみたら98年とのことで、そろそろ10年になりますね。当方は5年前の『One and Only』が契機となって存在を知りましたが、そのあたりからは既に「ミヤスリサのブランド」みたいな感じになっていました。ミヤスはシリウス以外のところでも精力的に活動しており、同人方面でも人気を得ているそうですが、まだちょっとマイナーかもしれません。目の描き方に特徴があり、また「奇乳」と呼ばれがちな独特の乳表現でも有名。「こんぶ」は複数のヒロインを攻略するスタイルが常識となっている昨今において、珍しく「たったひとりのメインヒロインだけとイチャイチャする」という、ストイックなのかむしろ煩悩度が高まっているのか、とにかくちょいと冒険じみた路線を徹底させています。正にこのソフトこそがワン・アンド・オンリー。

 これで肝心のメインヒロインに魅力がなかったら目も当てられませんが、幸いその心配は玖羽たんのラッチェ・バムな威力を前にして杞憂に終わりました。いわゆる「素直クール」という奴か、ヒロインの園生玖羽は感情を顔に表すのが苦手で口数が少なく無愛想に見えるけれど、無表情のままストレート極まりない爆弾発言をかます最愛兵器彼女ぶりを示してプレーヤーの心を蕩けされる。やや天然気味なところもその味わいを引き締めています。例の手作り弁当の件には主人公とシンクロして「そのおっ!」とツッコミそうになった次第。体験版の範囲では主人公とヒロインは互いに「遠藤」「園生」と名字で呼び合っていて、感情が昂ぶると「そのおっ!」「えんどぅ!」とひらがな表記になるのですが、ついつい掛け声のように錯覚しちゃう。『獅子の門』の「ぶんぺえ!」みたいな。

「えんどお!」
 渾身の力を込めた。
 彼のモノを、膣内で抱き締めるようにして、絞めた。
 自分の腕の中で、呻き声がした。
 それでも力を込める。
 どうしてイかないのか。
 陽介がである。
 大きなこの少年をイかせることが、こんなに大変なことであったのか。
 歯を軋らせながら力を込めた。
 腕の中で、陽介がもがいている。
 いや、もがいているのではない。
 もっと違うものだ。
 痙攣であった。
 玖羽の膣の中で、陽介の陽根が痙攣しているのである。
 生き物の、温かい肉が、彼女の中で震えていた。
 今夜最後の震えだ。
 びくびくと、その肉の感触が伝わってくる。
 玖羽の身体も震えた。
「えんどおおお!」

 もちろん実際の濡れ場はこういう夢枕文体ではありませんし、そばで黒尽くめの久我重明さんが視姦していることもありませんからご安心を。体験版はさわりを収録しているのか、序盤のあちこちが端折られていて話の飛びっぷりに困惑するものの、製品版ではちゃんとそのへんがしっかりと書かれるといいな、と思ったり。エロシーンになるとベッドヤクザになりがちな他所の主人公と違って、陽介は常にテンパった感じが濃厚であり面白い。日常シーンの描写があっさりしていて物足りない反面、要所要所で陽介のみならず玖羽の内面描写も挿入されるみたいだし、イチャイチャゲー・バカップルゲー・ダダ甘ゲーを期待している人の気持ちは裏切られないはず。ヒロインの声優を務めているのは如月葵で、役柄のせいもあってかいまひとつ馴染んでない感じもするにせよ、『恋する乙女と守護の楯』の穂村有里で見せた演技力を以ってすれば何とかしてくれると信じている。個人的には「この粘りならよいでしょう」と涎小豆の太鼓判を押したい。マイナーブランドだからかソフトのつくりに安っぽさが散見される(あのアイキャッチはちょっと……それとボイスが流れる際自動的にBGMの音量が下がる機能も任意でON/OFFできるようにしてほしい)が、まあ瑣末な問題。陽介と玖羽のイチャラブ時空に早く赴きたいものだ。

 ところでチカ先生の手の構えがなんか指揮者みたいで妙に気になる……。

・酒見賢一の『中国雑話 中国的思想』読了。

 映画化されて話題になった『墨攻』を最近になって読み、200ページ足らずの分量にも関らず熾烈な城塞都市攻防戦を堪能させてくれて大いに盛り上がったけれど、『泣き虫弱虫諸葛孔明』に見られる行き過ぎた諧謔精神が覗くことは欠片ほどもなく、その不満を補うために手を伸ばしたのが本書『中国的雑話 中国的思想』です。“NHKラジオ中国語講座”に連載されたエッセイをまとめたものであり、「劉備」「仙人」「関羽」など八題を俎上に載せてあれこれ語っている。

 結論から言えば、『泣き虫弱虫〜』のノリを期待した気持ちはあっさり裏切られた。掲載誌を慮ったのか終始おとなしい文体で綴られ、唐突にEVAネタや神聖モテモテ王国ネタが飛び出すことはない。多少は砕けた筆致ながら、あくまで淡々とお題に沿った内容を繰り広げています。そんなせいもあって読み始めた当初は肩透かしを食らった気分でしたが、第五題「孫子」あたりから徐々に面白くなってくる。

 ちなみに「武」の字をして、
「戈を止めることが武である」
 というようなもっともらしい解釈があるが、儒者のこさえた解釈であり、間違いである。「止」は「歩」の略形であり、戈を執って勇猛果敢に前進する歩兵の様子が「武」なのである。

 というトリビアが個人的に印象的でした。「戈」と「止」の位置関係から申してもそっちの解釈の方がしっくりと来る。兵法の知識をざっくりと開陳する「孫子」および第六題「李衛公問対」で文体のおとなしさがどうでもよくなるほど引き込まれました。しかし、メインとなるのはこれ以降。第七題「中国拳法」と第八題「王向斎」の興味深さは圧巻であり、これらだけを目当てに本書を購入しても充分です。量的にもこの二題が半分近くを占めている。知っているようで知らない中国拳法の人物伝と各種エピソードをこれでもか、とてんこ盛り。まるで夢枕獏の小説を濃縮して味わっているような夢心地に誘ってくれる。これはもう酒見の新作に中国武術をテーマにした格闘小説が来るフラグ立ったと判断して宜しいのかしら?

 とはいえ、正直に述べれば『泣き虫弱虫〜』の抱腹絶倒な世界も恋しい。あのシリーズ、酒見賢一への入門書としては極上すぎて他の著作に満足できない躯となってしまうのが難点ですね……雑誌連載されているという第三部が本にまとまる日を今か今かと待ち遠しく念ずるばかり。

・拍手レス。

 予約後お金を振込み、その日の夜に発売延期を知ったときのあの絶望感ときたら…今度は逃げるなよlight
 気分はまさにチキンレース。

 そういえば未来日記の新刊は購入しないのですか? 相変わらずヒロイン(ユッキー)が可愛いですよ。
 今日買ってきました。あと気持ちは分かりますがヒロインはあくまで「ちょろいっっ!!!」の人ですよ。

 空の境界の文庫版は全三冊です。(中)12/14、(下)2008/1/16発売予定だそうです。
 講談社のメールマガジンにあったので確かだと思いますよ。

 みたいですね。奈須の大幅な書き直しはないだろうし、あとは武内の描き下ろし次第かなー。

 『Dies irae』てっきり発売日11月末かと思ってたら残り二週間切ってた。なんか妙に得した気分。
 まだマスターアップ宣言が来てませんよ……油断は禁物。


2007-11-02.

・積読を少しでも整理しようと考え、差し当たって「買ったまま存在を忘れていた本」のチェックを始める。これがまた膨大で一冊一冊を挙げていくとキリがないのですが、その中でひとつ目を引いたのが赤名修の『ダンダラ(1)』

 『勇午』の作画を担当している人が描いた時代コミックであり、タイトルで察しがつく通り新撰組モノです。刊行されたのは4年前、つまりNHKの大河ドラマ「新選組!」がブームだった頃。1巻では芹沢鴨が粛清されるところまで描かれています。その先は2巻以降で……となるはずが、検索してみてもこの『ダンダラ』は1巻しか発売されていない模様で、「打ち切られたのか」と思いましたが調べてみるとそもそも短期集中連載だったらしく、打ち切りっていうより「第一部・完」となったまま再開の目処が立っていない感じですね。画力は非常に高く研ぎ澄まされているし、時代劇にしては長々と諄い解説が入ることもなくシンプルにまとめられていて読みやすい。本の造りも豪華で凝ってますね。第三話「居場所」で繰り広げられる沖田総司の殺陣は少しケレン味が過ぎる気もしましたが、新撰組にあまり興味のない当方でも引き込まれる巧さがあって面白かったです。『勇午』が一段落してからまた再開してくれないかしら。

R・A・サルバトーレの『アイスウィンド・サーガ』、復刊再開決定(編集者ブログ10月31日付)

 11月はじまって早々に嬉しいニュースが来ました。『アイスウィンド・サーガ』はD&D(ダンジョンズ&ドラゴンズ)内世界観の一つである「忘れられた領域(フォーゴトン・レルム)」を背景としたファンタジー小説で、サルバトーレの処女作。作中の時系列に沿えば『ダークエルフ物語』の次に当たり、ここから来年邦訳予定の『ドロウの遺産』へと繋がっていく。日本では91年から93年にかけて文庫版で全6巻が刊行されたものの絶版、長らく入手困難が続き、全巻セットなら1万円越えも珍しくない状態となりました。

 そして10年以上の時を経て、ようやく2004年に復刊が始まり、ファンたちもやっとこさ苦境から救われた……かに見えましたが、ターゲットの年齢層を下に絞りすぎたせいかあっさりコケてしまい、全9巻で復刻する予定だったのが全3巻までのところで止まってしまったというオチ。『ダークエルフ物語』が切欠でフォーゴトン・レルムの世界にハマった当方はもちろん『アイスウィンド・サーガ』も入手しようと躍起になりましたけど、これがもう尋常じゃない品薄っぷりで、今年になってようやく旧版の文庫1巻と2巻をゲットできた程度。ああ、いったいいつになったら全巻読み通せる日が来るのだろう、と暗い気分に浸っていたものですから、この報せは朗報というより他ありません。

 「再復刊」ではなく「復刊再開」なので、止まっていた3巻の次がいきなり発売されることになります。ちょっとややこしいので整理しますと、まず『アイスウィンド・サーガ』の原書は "Crystal shard" 、 "Streams of Silver" 、 "Halfling's Gem" の全3冊から成る――つまり本国では3部作として刊行されたわけです。これをそのまま邦訳すると結構な分量になってしまいますから、最初の邦訳である文庫版は各部を2冊に分けて全6巻としました。

  "Crystal shard" →「第1巻 魔石の復活」「第2巻 水晶宮の崩壊」
  "Streams of Silver" →「第3巻 暗殺者の影」「第4巻 暗黒竜の冥宮」
  "Halfling's Gem" →「第5巻 海賊海峡の死闘」「第6巻 冥界の門」

 要するにこういう具合。復刻版は3巻まで刊行されている=「暗殺者の影」で止まっているのだろう、と考えてしまいそうになりますが、違います。ブログでは「子供〜大人まで楽しめるように」と書かれていますが、ぶっちゃけ復刻版は小学生くらいの年代を捕まえようと漢字を少なめにして、文体を幼い調子に変え、のみならず1冊あたりの厚さまで減らそうと画策し、文庫版で2冊に分けられていた第1部 "Crystal shard" を更に分けて3冊にしちゃったのです。

  "Crystal shard" →「第1巻 魔石の復活」「第2巻 水晶宮の崩壊」→「第1巻 悪魔の水晶」「第2巻 ドラゴンの宝」「第3巻 水晶の戦争」

 細かく分冊する遣り口が許せない狭量な当方はこの仕打ちに耐えかねて復刻版の購入を見送りました。今回続刊として出される第2部(文庫版の3巻と4巻に相当)は一切分冊なし、分厚い全1巻でリリースとのことであり、二重の意味で嬉しい。文庫版は2巻まで揃えているから、発売されるまでに読んでおけばそのまま取り掛かれるって寸法です。発売時期が「2008年夏〜秋」というのは正直に申し上げてかなり遅い気がするのですけれど、これで古本屋を渡り歩いて探し回らなくても済むのだと思えば待てない長さでもありません。残る第3部の刊行は「検討中」とのことで、非常にやきもきさせられるけれど、無事出版されることを祈ってまずは第2部の購入を「確定」としておきましょう。

 しかしフォーゴトン・レルム、内容はとても面白いというのにやたらと知名度が低いのは、やはり「入手困難だから」の一言に尽きるのではないかと思います。「全巻セットならヤフオクで1万円オーバー」な文庫版だけでなく、『ダークエルフ物語』や復刻版の1〜3巻も既に絶版しているんだから、ホントどうしようもない。現在新品で購入できるのは姉妹編の『クレリック・サーガ』のみ。こっちはちょっと前に2巻が出ましたが、果たして最後(5巻)まで全部刊行できるかどうか、まだ怪しい感じは残ってます。それでも買わずにいられないフォーゴトン・レルム&サルバトーレスキーな己の身がうらめしい。

シリウスの新作『こいびとどうしですることぜんぶ』、先行体験版公開

 しかし重い。こりゃプレーできるのは明日かな。

・今月の予定。

(本)

 『スプライトシュピーゲルV』『オイレンシュピーゲル参』/冲方丁(富士見書房・角川書店)
 『CYNTHIA_THE_MISSION(6・7)』/高遠るい(一迅社)
 『HELLSING(9)』/平野耕太(少年画報社)
 『豪兵伝』/花田一三六(ソフトバンク クリエイティブ)
 『絶体絶命教室』/ゴージャス宝田(コアマガジン社)
 『The Book 〜jojo's bizarre adventure 4th another day〜』/乙一(集英社)
 『紅〜醜悪祭(上)〜』/片山憲太郎(集英社)

 今月は遂に『空の境界』が文庫化されます。恐らく映画化に絡んでの文庫落ちかと。内容に関しては解説するまでもないので省略しときますが、一応触れておくと文章がかなり粗いです。そのせいで読み始めてすぐに挫折する人も多いそうですが、当方の経験から言えばだいたい3話目あたりから慣れてきて後は普通に楽しめるようになりましたので、未読の方は気を長めに持ってチャレンジしてください。しかし、今月文庫化されるのはどうやら上巻だけみたいなんですよね。しかも予価が600円と割合少額になっていますので、たぶん上・下巻の2分冊から上・中・下巻の3分冊構成へ変更されるのではないかと。同人版、講談社ノベルス版と買い揃えてきた当方ですが、文庫版はさすがに回避しようかな、と思案中。

 『スプライトシュピーゲルV』および『オイレンシュピーゲル参』は“シュピーゲル”シリーズの最新刊。2巻は発売時期がちょっとズレましたが、今回は1巻のときみたく同時発売。1巻刊行時点での評価はオイレン<スプライトだったのに、2巻ではオイレン>スプライトと逆転しましたので、今度はどっちがどうなるか単純にワクワクしております。で、高遠るいの『CYNTHIA_THE_MISSION』も新刊2冊が同時発売。流行なんざイートシット、と言わんばかりに作者の趣味全開臭いのがステキなマンガです。なんか凄まじい展開をしているとは風の噂に聞き及んでいますがさてはて。ヘルシングは体感的に2年ぶりって気がしたけど実際には1年ちょっとですね。刊行ペースが遅くても中身はしっかり充実していますからまだまだ追い続ける所存。

 『豪兵伝』は“戦塵外史”、かつてのファンには「士伝記」の名で認知されていたシリーズの最新刊。雑誌掲載されながらも単行本にはまとめられなかった未収録作品を寄せ集めた待望の一冊であり、こんなひと昔前には幻に等しかったものをあっさりと文庫で買えてしまう今の状況には興奮せざるをえない。『絶体絶命教室』は著者久々の新刊。くっきりとした線で描かれる可愛いロリっ子と、ページに詰め込まれた濃密な妄念とのギャップは凄まじく、エロマンガに詳しくない当方が胸に刻んでいる数少ない作家の一人です。それにしても『おりこうぱんつ』と『おりこうチャンネル』に登場する鬼畜教師は何度眺めてもヘルシングのドク見える罠。

 乙一の新刊は副題を読めば分かりますがジョジョ第4部を材に採ったノベライズ作品です。雑誌掲載された短編をもとに長編化して刊行する予定だったものの、なかなか納得の行くものが仕上がらなかったとかで、6年近くの月日を要して遂に完成させたそうな。まさしく難産の極み。難産と言えば『紅』も延期を繰り返して前作から1年以上も間が空いてしまいましたね。サブタイトルが発表されたことだしもう延期はないと思いたいところですけれど……しかし(上)って、(下)はいつ出すつもりなんですか。成田良悟みたいな連続刊行をしろとまでは言わないから、せめて三枝零一くらいのペースは保ってくださいお願いします。

(ゲーム)

 『Dies irae』(light)
 『キラ☆キラ』(OVERDRIVE)
 『そして明日の世界より――』(etude)
 『こいびとどうしですることぜんぶ』(シリウス)

 こうしている間にも『Dies irae』の延期が告知されやしないか不安で不安で仕方ないんですが、とりあえずこの4本。『Dies irae』……この期に及んで逃げたりするなよ。『キラ☆キラ』はライター目当てでチェックしていて、体験版やったら思ったよりもシナリオと雰囲気がマッチしていたため期待が倍増したソフト。パンク以前に音楽自体が興味のない分野ながら、迸る青春のエキスは芳醇であり、一滴残らず飲み干したい。『そし明日――』は体験版やった感じシナリオが地味というか全体的に慎重で、もっと大胆に攻めてほしい感じはするものの、雰囲気は好み。しかし発売日が『キラ☆キラ』と被るのが悩みの種。「購入確定」とは書いたけど、『キラ☆キラ』を優先させるためにあえてスルーという手も検討しています。資金面で言っても先月マンガの大人買いとかしてかなり使い込み、苦しいですからね……。『こいびとどうしですることぜんぶ』、略称「こんぶ」はただひとりのヒロインと終始ひたすらのべつまくなしに甘々イチャイチャラブラブキャッキャッウフフする、ありふれていそうでなかなかない路線の一本。攻略可能なヒロインを一人に限定してしまうと多様なニーズに応えられず、リスクをヘッジできなくなるので実は結構バクチだったりします。フルプライスだったら尚更。RUNEの『Ricotte』も見事にコケました……出来自体は良かったのに。『こいびとどうしですることぜんぶ』はタイトルからしてそそられるし、シリウスというブランドも活動年数の割に知名度が低く、もうちょっと知られてもいい気がしますので大ブレイクと言わずともプチブレイクくらいは果たしてほしい。

 他に注目しているところでは『世界でいちばんNGな恋』『赫炎のインガノック』『ピリオド』、それに『最果てのイマ フルボイス版』かな。『世界で〜』はHERMIT皆勤ライター丸戸史明の新作で、これまでのHERMITソフトと同じく売れ線よりも丸戸の趣味を優先させた雰囲気が漂っている。体験版をプレーしてみたところ、導入はやや地味で盛り上がりに欠きましたけど進むにつれてどんどん面白くなり、終わる頃には素直に「続きがやりたい」と思うように。しかしよく考えると丸戸シナリオ作品は『ままらぶ』が途中で止まっていて、『この青空に約束を――』に至っては体験版の時点で投げちゃったから、たぶん買っても高確率で積むか頓挫するかしそうです。一旦パスする予定。インガノックはライアーソフトの新作。体験版をプレーしてみましたが、どうも『Forest』を意識している模様でかなり強いクセが出ています。クセ自体は嫌いじゃないんですが、キャラに関しては「鋼鉄の娘」ルアハ以外魅力を覚えることができなかった。いくら主人公に事情があるにせよ、切り札をもったいぶってるように見えちゃうのがなぁ……しっくり来ないので様子見するつもり。『ピリオド』はLittlewitchの新作。例によって大槍葦人がメイン原画を務めています。大槍絵は個人的にいくら眺めていても飽きないくらい好みなので、思わず絵買いしたくなるのだけども、複数ライター制を採用していると知って躊躇。複数ライターものって滅多にアタリがないんですよね……素直に自選画集の方を買っとこうかな。amazonでも取り扱っているみたいなんですよね。『最果てのイマ フルボイス版』はその名の通り『最果てのイマ』に声を付けたバージョンアップ的なソフト。追加シナリオはサブキャラのHシーンのみ。本当に「ボイスを付けただけ」なテイストが濃く、なんでロミオ連れ戻して「完全版」のシナリオを書かせないのか小一時間問い詰めたい。拾い切れなかった伏線を無理矢理消化するために繰り広げられたラストの強引な解説は未だに思い出して萎える。『おたく☆まっしぐら』ともども、本気でなんとかしてほしいですアレは。

・拍手レス。

 今、サンデーで連載されている「魔王」もおすすめですよ。
 伊坂幸太郎が原作をしていて今月に二巻同時に発売するので読んでみては?

 調べてみたらマンガ版は『グラスホッパー』ともクロスオーバーしてるんですね。あれは結構好きなので楽しみ。


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