2007年9月分


・本
 『最後の一球』/島田荘司(原書房)
 『ライアーゲーム(1〜4)』/甲斐谷忍(集英社)
 『虎の道 龍の門(上・中・下)』/今野敏(中央公論新社)
 『日常(1)』/あらゐけいいち(角川書店)
 『武士道シックスティーン』/誉田哲也(文藝春秋)
 『レインツリーの国』/有川浩(新潮社)
 『ドラゴンキラーいっぱいあります』/海原育人(中央公論新社)
 『バカとテストと召喚獣3』/井上堅二(エンターブレイン)
 『ニニンがシノブ伝(1〜4)』/古賀亮一(メディアワークス)
 『フルセット!(1)』/梅田阿比(秋田書店)
 『クドリャフカの順番』/米澤穂信(角川書店)
 『刀語 第九話 王刀・鋸』/西尾維新(講談社)
 『解剖医ジョン・ハンターの数奇な生涯』/ウェンディ・ムーア(河出書房新社)
 『ゆるめいつ(1)』/saxyun(双葉社)
 『ひろなex.(1)』/すか(芳文社)
 『みなみけ(4)』/桜場コハル(講談社)
 『螺子とランタン』/桂明日香(角川書店)
 『明日のよいち(1〜4)』/みなもと悠(秋田書店)
 『スパイシーピンク(1)』/吉住渉(集英社)
 『ショートソング(1)』/原作:枡野浩一、漫画:小手川ゆあ(集英社)
 『アキカン! 2缶めっ』/藍上陸(集英社)
 『嘘喰い(1〜5)』/迫稔雄(集英社)
 『ゴルゴタ』/深見真(徳間書店)
 『ハチワンダイバー(4)』』/柴田ヨクサル(集英社)
 『ライアーゲーム(5)』/甲斐谷忍(集英社)
 『ブリザードアクセル(11)』/鈴木央(小学館)
 『さよなら絶望先生(10)』/久米田康治(講談社)
 『もっけ(7)』/熊倉隆敏(講談社)
 『大東京トイボックス(2)』/うめ(幻冬舎)
 『鉄球姫エミリー』/八薙玉造(集英社)
 『一撃殺虫!!ホイホイさん』/田中久仁彦(メディアワークス)
 『死のロングウォーク』/スティーヴン・キング(扶桑社)
 『レヴィアタンの恋人』/犬村小六(小学館)
 『ねくろま。2』/平坂読(メディアファクトリー)


2007-09-29.

・腰を上げたり下ろしたりする際についつい掛け声が出てしまう年寄りの焼津です、こんばんは。しかもなぜか「よっこいショイヨル」と微妙にSFネタで。SFと言えばグレンラガンの最終話タイトルがフレドリック・ブラウンのアレで、復刊されているのかと思えば未だに絶版したままだと知って少し驚きました。タイトル見ただけで惚れる人も多いというのに勿体ない。ちなみにブラウン作品は『火星人ゴーホーム』が大好き。

 「復刊」と書いて更に連想しましたが、長らく入手困難だったジャック・フィニイの『完全脱獄』が復刊されて喜び勇んで注文したらあまりにも薄くて度肝を抜かれた。300ページちょっとで861円(税込)……地味に高い。店頭で見かけていたら買うの躊躇していたかもしれない。同時復刊の『盗まれた街』は来月に映画のリメイク版が公開されるからとはいえ、『完全脱獄』よりも厚くて安かったから余計に複雑。けど、当方はそんなハヤカワでも、『五人対賭博場』を復刊してくれたら許せる気がします。

水月郁見の『護樹騎士団物語』、11月と12月に上下巻を連続刊行

 通算7冊目と8冊目になりますね。6冊目の『幼年学校候補生』が刊行されたのは今年の2月で、なかなか続刊情報が出ないな〜、と思っていたところにこの知らせが飛び込んできて体温が跳ね上がりました。「水月郁見」は「夏見正隆」の別ペンネームで、ちょっと文章が安っぽい部分はあるけれど読み始めたら止まらないノンストップ・スリラーを書かせると巧い人です。ノンストップなうえノーカット、つまり困難な状況を突破する際に「ぼくたちはなんとかして建物内に潜り込んだ」みたいな省略を極力使わずその「なんとかする」一部始終をいちいち丹念に書き込むので、枚数がドッと膨れ上がってしまう。いつも物語の終盤で帳尻合わせに四苦八苦する、というのが彼の特徴ですね。今回は上下巻ということで尺もたっぷりあるだろうし、帳尻合わせに困ることはたぶんないかと思います。思いたい。とにかく楽しみにしているシリーズなので11月と12月が待ち遠しい。

『続・殺戮のジャンゴ 〜地獄の賞金首〜』、体験版公開

 なんで今更……と首を傾げたくなるものの、ともあれ「ちょっと気になるけどタイトルとかやっぱアレだしなぁ……」って調子で迷っていた方はプレーしてみてはいかがでしょうか。けど、よく考えると虚淵ゲーで体験版がアップロードされるのはこれが初めてだなー。たぶん、よっぽど売れてな(ry

・犬村小六の『レヴィアタンの恋人』読んだー。

 ゲームのシナリオやノベライズを手掛けてきた著書初のオリジナル小説作品、とのこと。創刊からまだ四ヶ月少々とはいえ、パッとしない本ばかりで目玉に欠けるガガガにおいて、比較的好評な部類に入るっつー感触を得て読んでみました。タイトルの「レヴィアタン」はLeviathanで、つまり旧約聖書に出てくる終末の獣。個人的には「リヴァイアサン」の響きの方に馴染みがありますね。

 Original Sin――「原罪」という名のウイルスに侵蝕され、あっという間に全人口の99パーセントを失った日から60年。2077年の日本は文明が荒廃し、住民たちは前近代的な生活水準のなかでいくつものコロニーに分かれ、互いの交流を断ちながら閉鎖的に暮らしていた。東京最大のコロニー「調布新町」、ここでは17歳の少女・久坂ユーキを軍備の要としている。ウイルスの影響による突然変異で常人の百倍にも達するポテンシャルを手にした「特進種」。それも、呼吸器系変異体。増強された肺が空気を吸い込んで練り上げる「気」は爆発的な運動能力を実現させるだけでなく、溜めたエネルギーを物質化させて閃光の剣として放つことさえ可能にする。襲い掛かってきた名前のない特進種の男を撃退して下僕にした後、彼女は以前所属していたコロニー「姫路」から侵攻してきた軍勢と対峙することになるが……。

 弱肉強食のバイオレンスジャックな終末世界を舞台としたB級伝奇風味軍記アクション。「名前のない特進種の男」がヒロインであるユーキと戦って負け、孫悟空の頭に嵌まった輪っかみたいなウイルスを体内に仕込まれて、ヒロインが笛を吹くと猛烈な苦しみを与えられて命令に服従するよりなくなってしまう。挙句に付けられた名前が「タマ」。「ポチ」でないだけマシかもしれませんが、このへんの描写は若干Mの素養がないとちょいとキツいかも。中盤でギルの笛みたいな奴は破壊されて自由を得ますから、「一生ヒロインの命令を聞かなくてはならない」という苦境からは脱せられます。まあ、よく考えると緊箍児っぽいウイルス自体は除去されていないので、次巻であっさり復元した笛に悩まされているのかもしれない。腕がもげたり眼球抉られたり内蔵こぼれたりと、容赦のない暴力描写に溢れた作品ながら、意外なことに濡れ場が一つもなくてビックリした。絶対に強姦シーンとか入れてると思ったのになぁ。まあ、エロがないだけで、基本的には80年代の菊地や夢枕と相通ずるノリです。

 兵装がナイフや弓、サーベル、鉾などと前近代的で銃火器が出てこない代わり、気とか験力みたいな不可思議パワーが唸りを上げてミュータント生物をブッチめる。「一人一能力」が流行する以前の伝奇バトルじみた戦闘は懐かしくて心地良かった。擬音表現に頼らず、「涵養」や「迂愚」といった厳しい語彙を駆使する文体も気合いが滲み出ています。しかし、ストーリーはさして盛り上がらなかった。アクションとしては悪くないものの、戦記としては起伏に欠けるきらいがあり、クライマックスの展開もベタベタでうーん……せっかく丁寧に素地を整えたのだから、もっと派手にやりたいことをやっても良かったのでは? 過去の情景を切り出して物語背景を説明するあたりとか、理解するために必要な情報はちゃんと明かしてますけど、小さくまとめてしまった印象が拭えない。ヒロインのユーキにまつわる事情はボンヤリとしか触れられておらず、今回名前だけしか登場しなかった重要人物なんもいますので、その気になればまだまだ続けられるのでしょうけれど、こう、壮大なストーリーの開幕を予感させて胸が弾むような兆しはないと言いますか……今後の展開を想像してもいまひとつワクワクしません。端的に述べれば、ヌルい。なまじ細部の作り込みがしっかりしているだけに惜しいです。

 全体的に良く出来ていて手堅いけれど「売り」がない、そんな一冊。ヒロインたちの魅力をうまく引き出してキャラクター小説的な面を補強し、なおかつ群雄割拠な世界観をダイナミックに表現することができれば一気に化けるんじゃないカナ。ユーキの心情変化が急すぎる感じもしたが、あの調子でふたりの仲を進展させるというのも悪くない。個人的には前半の修験道バトルが好き。2巻は11月発売とのことなので、チェックしておきます。

・平坂読の『ねくろま。2』も読んだー。

 「ヒロインが○○」という恐らく前代未聞の異世界魔法ファンタジー。タイトルは「necromancy(死霊魔術)」から来ている模様です。デビューした時点では「西尾維新のフォロワー」と見做されたものの、その後徐々に自らの個性を発揮してファン層を築き上げていきましたが、『ホーンテッド!』『ソラにウサギがのぼるころ』もいまひとつ人気が振るわなかったのか、両方とも4冊で打ち切られている。そうして始まった3番目のシリーズである『ねくろま。』、設定が異常なせいで破れかぶれにも見えますけど、著者にしては驚くほど真っ当で売れ線を狙った内容であり、旧来のファンからは「物足りない」という声も上がった反面、売上は良好みたいで1巻は発売後すぐに増刷されたとのこと。「3巻が出るかどうかは2巻の売れ行き次第」とコメントしているため、まだまだ予断は許されないみたいですが、うまく行けば著者の代表作となるかもしれません。展開次第ではアニメ化も夢ではない。ほら、最近は深夜枠だともうなんでもありですから。

 今回は富士ミスで言うところの「LOVE寄せ」が強化されており、つまりラブコメ系のイベントが主体になっていて、ストーリーそのものの目立った動きはありません。明らかに「ノリノリになって書いたな」と分かる箇所が複数あって楽しかったです。表紙を飾るシェンファ先輩(年下の幼女ながら先輩という倒錯)もさることながら、主人公をライバル視している少女キャロルがこれでもかとばかりにプッシュされていました。一応「ツンデレ」という位置付けながら、もう完全にデレ期へ移行しています。著者はもともとメタなジョークを好むタイプであり、今回は「はいはいツンデレツンデレ」など作中におけるツッコミが顕著で少しクドいくらいでしたけれど、「私もう死にます! かっ、勘違いしないでくださいねっ、べつにせんぱいのために死ぬんじゃないですからっ!」みたいなイカれたセンスが発揮されているおかげもあって問題なく楽しめました。しかしこれはなんと言うんだろう。「ツン死に」? あと「体内に宿す大宇宙最強虚空龍(アルティメットコスモドラゴン)ドルバゲルギアスの力によって深海五千億メートルでも自由に活動できる。できるのだ」は不覚にも噴いた。

 『アキカン!』の2冊目と同じで、ストーリーとか考えないでひたすらラブコメチックなドタバタを楽しめばいいと思います。平坂にこういうノリを望んでいたのか? と自問すればやや返答に苦しみますが、まあ表紙イラストの金髪ツーテールオッドアイ幼女の笑顔が可愛いから別にいいじゃないか、って心境。出番は少なかったものの、無表情で呪いの人形にプスプスと針を刺しながら「泥棒猫泥棒猫泥棒猫……」とエンドレス気味に呪詛を漏らす黒髪陰鬱少女のヒカリは愛い奴。そういえば「平坂夜見」というよく似たペンネームが二次元ドリーム方面に出没したこともあって「すわ同一人物か」と話題になりましたが、結局別人だったみたいです。1巻に引き続き2巻の売上もそんなに悪くなかった様子ですし、のんびり3巻の発売を待つとします。

・拍手レス。

 ゴキ殺すのにモノを使う必要なし。玄関で一晩放置したら干からびて死んでいました。今年の暑さは異常ですな
 なんか全然「秋」って感じがしませんねぇ。徐々に涼しくはなってきましたが。

 Dies体験版2の出来に延期の怒りはすべて吹き飛びました
 くやしい……! 怒っているのに……感じちゃう!(ビクビクッ)

 []
 イタリック掛けると平行四辺形に見える……。

 「沃野」が好きすぎでとうとうmixiでファンコミュを作ってしまいました。事後承諾になってすみません。
 「私は一向に構わんッ!」ですので、運営の方は頑張ったり頑張らなかったりしてくださいませ。


2007-09-27.

・今日の晩御飯はキーボードのコーラ漬けだー、とばかりにアグレッシブな勢いでコカコーラ・ゼロ(300ml)を今打っているこのキーボードにブチ撒けてしまった焼津です、こんばんは。

 事故っていうのは起こった瞬間「は?」って感じで何が何だかよく分からないですよね。全体の半分くらいビチャッというかメメタァというかパパウパウパウとコーラ浸しになり、慌てて拭きにかかったものの、こりゃ絶対に壊れたな、と試してみたら――意外と何の異常もなく動作してやんの。アルェー? 昔お茶をこぼしてキーボード・クラッシュさせた経験のある人間として思わず狐につままれたような顔をしてしまいました。最近のキーボードは防水が強化されているのかしら。しかし、コーラが近くに積んである本やゲームに掛からなくてホント良かった……。

『吸血奇譚 ドラクリウス』、通常版が10月26日に発売

 値段も安くなるみたいだし、そろそろ査収しとこうかな……と思った矢先に「PS2へ移植」とのニュースが舞い込んで来ました。タイトルが『吸血奇譚 ムーンタイズ』に変更となり、新キャラ、新シナリオ、新規CGが追加される模様。「藤崎竜太、他」となっていたライター名表記が「藤崎竜太」だけになっているところからして、『ひめしょ!』同様完全に藤崎ピンでやるんでしょうか? 『ドラクリウス』は藤崎竜太がシナリオ書きすぎたせいで後半が削られ、結果的に尻すぼみの中途半端な内容になってしまった……という真偽不明の噂があり、もしこれが本当だったら「実質的な完全版」が陽の目を見る機会を得た、ということになります。

 ただ、移植となるとエログロの表現に対する規制が掛かって描写がマイルドになってしまう恐れが多大にあり。ドラクリは吸血鬼モノということで結構エグいシーンが多かったみたいですし……それにHシーン、藤崎の書くエロは実用性こそ低いものの、読んでいて楽しくなる奴が仕込まれているからバッサリ削られるとなると辛い。加えて通常のテキストにも危険な言い回しが山ほど紛れ込んでいて、そうした18禁ならではのネタがお蔵入りしちゃうのも悲しい。漏れ聞いていた「ヴァ○ナって攻撃魔法っぽくね?」や「マンカスまみれのチーズ臭せぇ手で人のオトコにさわるんじゃないわよ!」は絶対にカットされるでしょう。

 うーん、結論としては「『ムーンタイズ』を逆移植してエロゲーに」というパターンを望みたい……ところなんですが、あかべぇのアレみたいに「エロを抜き新要素追加して移植→新要素そのままエロを足して逆移植」って荒業を駆使するメーカーは実のところ少ないんですよね。サーカスあたりはやっていてもおかしくありませんが、たとえばLeafもPS版『ToHeart』逆移植したことがありますけど、『ToHeart2 XRATED』みたいにエロを追加したわけではなくほぼベタ移植でしたし、ニトロプラスもデモベのDVD版を発売する際に逆移植バージョンにすることもできただろうに、ただメディア変更のみで済ませましたし。となると、PCの通常版を買うかPS2の移植版を買うかの二択になりそうです。テレビ画面でノベルゲーをプレーするのはかなり辛かった(『あやかしびと−幻妖異聞録−』はほーにゃんルートをクリアしただけでギブアップ)から、できればPC版を買いたいところだけど、やっぱり完全版がやりたいよなぁ……迷います。

・田中久仁彦の『一撃殺虫!!ホイホイさん』を読みました。

 近未来、ゴキブリをはじめとする家庭の害虫たちはあらゆる殺虫剤を克服して我が世の春を謳歌していた――もはや奴らを駆除するには直接物理的な手段を用いるしかない。そうして生み出されたのが手乗りサイズのメイドロボ、ホイホイさん。10センチ程度のサイズながら付属のウェポンを装備して、今日も憎いアンチキショウどもを覆滅する。前半は1ページ1ネタの読み切りギャグ、後半はストーリー性の強くなってくるマンガです。ところで皆さんは作者の田中久仁彦をご存知でしょうか? 本業はイラストレーターでかれこれ10年以上も活躍している人ですが、出る出ると言われていた画集が現在こんな具合であり、ファンなら知らない人がいないくらいの遅筆家。マンガの単行本もホイホイさん以外はファム&イーリーの1巻しか出ていない凄まじさです。それでもまだ根強いファン層が残っているんですから、確かな実力を持った方ではあります。

 ホイホイさんはサイズ的に玩具の範疇ですが、一応広義の「メイドロボ」に属するキャラクターです。なぜかメイドさんが銃とか刀を持って戦うのが当たり前になってきている昨今の風潮に習い、二挺拳銃等の武装でカッコ良くゴキどもをやっつける。ロボものはどうしても人格やそれに類する何かを与えようとする流れができてしまいがちですが、ホイホイさんには「心」を窺わせる描写がまったくなく、「壊れたら買い換える」と普通にドライな消費社会が下地になっています。ロボをあくまで物と捉えてプラモやラジコンの延長線上に置かれていることに抵抗感を覚える方もおられるやもしれません。個人的にはこの割り切りがちょうど良くて逆に安心して読めました。序盤は「ホイホイさんと過ごす日常」を綴るギャグ要素込みのコメディだったのが、だんだんホイホイさんに掛けるお金が大きくなってきてマニアの業を感じさせるようになり、加えて人間関係の動きも絡んでくるなど、進むにつれて良くも悪くも欲張った展開が目立ってきます。一冊で完結させようとしたせいか始まりと終わりで少し落差ができてしまった気もしますけれど、「害虫退治にメイドロボ」という発想は面白かったし、画力もしっかりしていて楽しめました。

 先日発売された“電撃黒マ王”に番外編「一撃殺虫!!ホイホイさんLEGACY」が掲載されたそう(つーより、電撃黒マ王関連のニュースでそれ聞いて今更ホイホイさんのことを知ったという経緯)だから、待てばいつか2巻目が刊行される日も来る、かも。

・スティーヴン・キングの『死のロングウォーク』読了。

 ギャラティは今、道を歩きながら考えた。ジャンは正しかった。おれはたしかに、自分のしていることがわかってなかった。
 だけどおれは今でもわかっていない。それが最悪なんだ。純粋に単純に、たまらない。

 俗に「デスゲーム小説」と呼ばれるジャンルがあります。作中で何らかのルールが制定され、それを破った者には速やかな死が与えられる、言わば苛酷なゲーム形式で進行するストーリーのこと。日本では『バトル・ロワイアル』が有名ですが、世界的に見ればやはりキングのこれが代表格ではないでしょうか。リチャード・バックマンという別名義で発表した初期作であり、元々大学生時代に書いた原稿で『キャリー』以前に概ね完成していたことから「実質的な処女長編」とも言われています。「分隊」がアメリカを支配し、軍事政権を打ち立てたとおぼしきパラレルな世界(背景説明は為されないので詳細は不明)を舞台に、参加者きっちり100名の「ロングウォーク」というデスゲームが開催される……というのが大まかなあらすじ。

 ロングウォークとは制限速度を守って歩く、ただそれだけの競技です。制限速度は時速4マイル。1マイルが約1.6キロメートルなのでだいたい時速6.4キロメートルですね。徒歩が時速5キロ程度なので駆け足とまではいかず、早足くらいとなります。これは下限であって上限ではなく、従って極端な話全速力で走っても構わないわけですが、別にロングウォークは速さを競うゲームではありません。持久力を競うのです。なので、わざわざ体力を消耗する必要は皆無であり、参加者はみな一定の早足を維持することに神経を傾ける。もし歩行が制限速度を下回れば警告が飛び、三度の警告を経てなお速度が保てなければ「切符をもらう」――すなわち随行する兵士によって射殺されるのです。どんなに速く走ろうが、距離を稼ごうが、速度を落としてしまえばたちまち死に近づく。一見緩慢でいてその実シビアなルール。「この次にスピードを落としたら死ぬ」という恐怖が焦燥を生み、ペース配分を狂わせて破滅を喚ぶんだから、このルールを考えた奴は悪魔ですね。まあ、そもそもロングウォークには既定のゴールが用意されておらず、100人中99人が脱落して「最後の一人」が決まるまで終わりませんので、ペース配分もクソもない。気合と根性すら突き抜けてもはや解脱できそうなデンジャーゾーンへ猛進していく。読んでいてつくづく参加したくないゲームだと思いました。

 本書の特徴を述べるとすれば、ほとんど前フリがないってことでしょうか。『バトル・ロワイアル』は殺し合いが始まる前に現在日本の置かれている状況や、BRルールの説明をひとしきり行ってましたけど、こっちはほんの20ページくらいでいきなりゲームがスタートし、後追いする形で徐々に上記のルールが明かされていきます。つまり、読み始めた時点で読者はロングウォークというのがなんなのかよく分からないんですよ。参加するキャラたちは予備知識を持っていて、ロングウォークをごく当たり前のものと捉えているから、最初は感情移入も滑らかに進まない。しかし、「負ければ死」という緊迫感がヒタヒタと背中を追ってくるせいもあって、細かい疑問点は洗い流されてしまう。わけも分からないまま読み進め、経緯を汲み取るにつれて登場人物たちに共感が芽生え、気づけばいつの間にかスルッと物語に呑み込まれている。若書きっぽいところも幾ばくかあるけれど、「実質的な処女長編」とは思えない巧みな構成でこちらの心を鷲掴みにします。

 参加者たちの事情はそれぞれですが、ロングウォークは決して強制参加のゲームではなく、『バトル・ロワイアル』みたいに無理矢理参加させられた――という者はいない。まずテストを受け、それに合格してから正選手か補欠かの選出があり、更に参加取消の猶予期間を設けてそれでも下りなかった人間だけが「死の行進」に加われる。勝者はどんな願い事でも叶うと言われ、望みもせずにクラスメイトとの殺し合いを強要させられるBRに比べれば恵まれた内容ではあります。でも、やっぱり「最後の一人」以外は全員殺されてしまうんだから、悲惨であることには変わりない。あらすじを聞いてだいたいの結末が予測できてしまう方も多いでしょうし、実際この小説はサプライズを売りにした作品ではないので、予想を裏切られることはまずないと思います。

 なのにページを繰る手が止まらない。読み手を魅了する魔力がこの一冊には備わっています。切実な欲望も野心もないままに、ただ流されるようにしてロングウォークに参加し、ゲームの中で後悔を募らせていく主人公たち。彼らの無目的で無謀、ひたすらノーフューチャーな雰囲気と、それを見世物にして楽しんでいる群衆の対比が生々しくておぞましい。自分自身がこのロングウォークに参加しているようであり、同時に他人事として好奇の目で眺めているギャラリーにも化していて、奇妙にねじれた臨場感が胸を満たす。たかだか減速しただけで無情に撃ち殺される、冗談じみたゲームを見るにつれどんどん感覚が鈍磨していきます。この世界ではロングウォークなんて恒例行事であり、「お祭り騒ぎで熱狂していいもの」とされていて、死と隣り合わせで歩くロングウォーカーたちが浮かれ騒ぐ群衆や冷徹にルールを管理するゲームの仕掛人に対して抱く怒りははっきりとした手応えを有しながら、どこか新鮮さを失っている。スタート地点での号砲が始まりの報せではなく終わりを告げる弔鐘だったと、途中で気づいても遅すぎるのです。既に終わっている人々の、死へ向かう歩みではなく、「死」そのものと言える足取り。リビングデッドならぬウォーキングデッド。敵同士だというのに連帯感を覚え、すぐに喪われることが前提となっている絆を結ぶ様子が、ありきたりの切なさを超えて百から成る足音のエコーとなって響き渡ります。

 ホラー要素を抜けば恩田陸の『夜のピクニック』になりますが、「休みたい、何もかも投げ出したい」という強烈な誘惑に抗って足を振る姿の悲壮さ、漲る憎悪と極限の緊迫感はデスゲーム小説ならではの味付けであり、読み終える頃に夜ピクとはまた違ったものが込み上げてきます。なにげなく棚から引っ張り出して読み始め、盛り上がらなかったら途中で投げるつもりだったけど、結果はご覧の通り。ほぼ一気読みでした。ちなみにぐぐって初めて知りましたが、今月の頭にこんな番組があったみたいですね。テレビ見ないから全然気づかなかった。

・拍手レス。

 もうすぐ延期一周年ですね。恐ろしい…オルタ・ロスチャフラグが立ってしまうのかと戦々恐々。
 少女病フラグさえ立たなければそれで……


2007-09-25.

・今になって「アマオト」(『アメサラサ』の主題歌、リンク先の一番下)をハードリピートしている焼津です、こんばんは。一聴しすぐさま虜になりました。時間が空くとつい掛けてしまう中毒性の高さに慄然。雨の日に再生すると実にしっくりと来ます。ええ曲と出会えました。

・そしてこっちはやっぱりかチクショオ!(『Dies Irae』の発売予定日、10月26日→11月16日)

花田一三六の未収録短編集『豪兵伝』がGA文庫より刊行

 今まで一冊も買ったことのなかったGA文庫を買う日が遂に来たみたいです。『おと×まほ』は設定とイラストに惹かれたものの、いまいち踏ん切りが付かなくて見送り中。戦塵外史も旧版持ってるけど「新版買おうかな」と迷っているところ。ともあれ、まずは『豪兵伝』待ち。発行が絶望視されていた士伝記(シリーズタイトルが「戦塵外史」と決まる前の通称)の未収録作品群が読めるなんて、ああなんていい時代なんだ。

・休日に買い込んだ新刊マンガを合間合間に読み耽って至福な日々を過ごしております。

・柴田ヨクサルの『ハチワンダイバー(4)』

 3巻はちょっと失速した感じが否めなかったものの、それもこの巻でアッサリ挽回してみせました。2巻に登場した「二こ神」こと神野神太郎が再登場し、斬野と対戦して敗北を喫した主人公を弟子入りさせ、24時間徹底的に将棋の訓練を施してシゴキ上げる。文明から遠ざかり、川で魚を釣って飢えを凌ぐ特訓の光景はとても将棋マンガとは思えませんが、問答無用の迫力に溢れているせいもあってツッコミを入れる暇がない。とにかくハイテンション、こと勢いに関してはそこらのアクションマンガに負けはしません。将棋にまったく興味がない人にも充分オススメ可能な作品です、未読の方は騙されたと思って是非。

・甲斐谷忍の『ライアーゲーム(5)』

 ドラマ化して話題になったコン・ゲーム・コミックの最新刊です。前巻に続き「密輸ゲーム」の攻防が描かれる。始めた当初は「1億円を守り切る」みたいな単純なゲームでしたけど、進むにつれてルールも複雑化しており、チームを組みつつ頭脳戦で鎬を削る読み応えのあるストーリーになってきました。細かい数字の計算が徐々に煩雑になってきてますが、そこらへんは「計算法」だけ理解して読んだいけばさして混乱することもありません。コン・ゲームは極論すれば「騙すか/騙されるか」の二パターンしかなく、「最終的には主人公が騙されたフリして騙し返すんだろうな」と大まかな趨勢があらかじめ読めてしまうところもありますが、そんなのは格闘マンガのバトルやスポーツマンガの試合と同じで、やはり結果より過程の部分が面白いわけです。駆け引きの妙に酔い痴れるべし。

・鈴木央の『ブリザードアクセル(11)』

 2年に渡って連載されたフィギュア・スケート漫画の完結編です。マッケンジーの弟子となった主人公・吹雪と、かつてマッケンジーの弟子であった「四回転の悪魔(クワドデビル)」ガブリエルとの宿命の対決、および後日談が収録されています。やっぱり打ち切りだったのかなー、と思うような展開の慌しさで、少し駆け足気味に見えましたけど、クライマックスではこれ以上にない見せ場をキッチリと決めてみせた。もっと続きが読みたかった、まだいろいろと描いてほしいものがあった、特にラブコメ的な部分。と悔やみは残るものの素直に次回作を期待したい。

・久米田康治の『さよなら絶望先生(10)』

 まさかのアニメ化を果たして人気も最高潮な風刺系ギャグ漫画。アニメは1クールだったらしく、もう放映も終わっているようですがよく知りません。先々月くらいにハマって1巻から9巻までを一気読みし、余勢を駆って『かってに改蔵』にも手を伸ばしてみましたが、個人的には絶望先生の方が好きと言いますか、改蔵は合わなかった。時事ネタの風化はともかくとして終わりに近い巻は絵柄もほぼ一緒だし、ブラックジョークを基調としたノリも同じなんですけれど、キャラ配置という点では断然絶望先生に軍配が上がります。アニメ化の影響か女性キャラをプッシュする話が多く、おもねりや媚びといった要素も感じる一方、コメディとして程好く馴染んでいる気がして良い手触り。「第三選択市」でマンガの新人賞をAに与えようかBに与えようか議論が白熱した末、なぜかCに渡ってしまう漁夫の利めいた流れ……小説賞で似たような例を聞いたことがあり、笑うに笑えなかった。あとがきに相当する「紙ブログ」にて疾風(ハヤテ)をNGワード扱いするところは元アシの畑健二郎との確執を窺わせるものの、これは言わばプロレスの「アングル」みたいなもんでしょうか。あと「人間として軸がぶれている」を更に強化して「人間として軸が折れている」と言い切るセンスに脱毛。脱毛と言えば、当方も近頃抜け毛が激しくて臼井影郎関連のネタが笑えないんですが……。

・熊倉隆敏の『もっけ(7)』

 来月からアニメが放映される妖怪マンガ。瑞生の姉である静流が全寮制の女子高に上がったため、静流パートと瑞生パートが完全に分断される形となってしまいましたが、静流と同じ「見鬼」の体質を持った少女・御崎が登場したことにより新たなステージに上った感触もあって面白さは依然として継続。見鬼である点は共通しているとはいえ、御崎の育てられた環境は静流とかなり違うせいでお互い相容れぬところがあり、細かな衝突を繰り返して溝が埋まっているのか深まっているのかいまいち判然としないもどかしさが最後まで保持されます。ほのぼのとしたノリが好きな御仁ならば「早く仲良くなれよ」とイライラするところかもしれませんが、少々マゾいところのある当方はこの焦らされっぷりがたまらない。御崎のつれない態度に微興奮中。「助け合いたい」というお人よしな思考が抜け切らない静流と、「独りで強くならなければいけない」と頑なに協調を拒否する御崎。今回は「経過」に位置する部分なので派手な動きはない反面、これからの展開を想像してハラハラドキドキさせるところがあります。おまけページでも御崎を誘ってすげなく断られている静流たん(*´Д`)ハァハァ。百合趣味はございませんけれど、このふたりの関係は誠においしゅうございます。

・うめの『大東京トイボックス(2)』

 前作『東京トイボックス』2冊も新装版が発売され、全巻揃え易くなったゲーム開発青春ストーリー漫画。ちなみに新装版は多少おまけページが追加されたものの、基本的に旧版と変わりないので買い換える必要はないみたい。値段も80円アップしてるし。うーん、せめて1巻の発売に合わせて新装版出してくれたらなぁ……ともあれ、大の大人たちが理想と現実の鬩ぎ合いで魂を懸けながらゲームを制作していく熱い調子は健在。派手な部分はなく、「地味」と評しても差し支えないストイック路線ながら、キャラクターの魅力と話の面白さがジワジワ利いてきます。地味と申したものの印象的なシーンを紡ぎ出すセンスは抜群であり、トイボを知らなかった方も新装版が出たのを機会と捉えて4冊まとめて購入されてみてはいかがだろうか。個人的には「東京」よりも「大東京」の方が好きなので、まず大東京の1巻を読んでから東京の1巻と2巻へ遡り、また大東京の2巻に復帰する――という読み方をオススメしたい。掲載誌があのローゼン打ち切りを行った“コミックバーズ”だということ以外は不安材料のない作品。そういえば「うめ」ってPEACH-PITと同じくユニット名なんですよね。

・八薙玉造の『鉄球姫エミリー』読み終わり。

 第6回スーパーダッシュ小説新人賞「大賞」受賞作。漢字の部分は「てっきゅうき」と読みます。ずっと「てっきゅうひめ」だと思ってました。歴史が浅いうえ母体となっているレーベル「集英社スーパーダッシュ文庫」自体が微妙極まりないだけに注目度も微妙なラインを這っている新人賞ながら、『銀盤カレイドスコープ』『電波的な彼女』『戦う司書と恋する爆弾』と、そこそこの傑作を出しているところではある。原稿用紙換算で電撃なら「250〜410枚」、富士見なら「250〜350枚」が新人賞の枚数制限となっており、よほど加筆しないと厚い本は出ないのですが、スーパーダッシュは「200〜700枚」とかなり幅があるため、時には分冊を余儀なくされる長さの受賞作さえ現れることもあります。今のところ、『銀盤カレイドスコープ』(vol.1とvol.2が受賞作)くらいしか例はありませんが、この『鉄球姫エミリー』も結構なボリュームだったせいで分冊が検討された時期もあったそうな。結果的には「スーパーダッシュ文庫最厚」の400ページ超で刊行される運びになりました。「400ページ」と書くとそんなに分厚くない気もしますが、ここのレーベルはさりげなく紙質が厚いから実物を目にすると驚きます。カバーの折り方も「無理矢理合わせました」なギリギリ感が漂っていてちょっぴり微笑ましい。

 鎖鉄球の付いた鉄槌を自在に操ることから、付いたあだ名は「鉄球姫エミリー」――母は側室ながら王の第一子として生まれ、いずれ国を継ぐ女王になるであろうと期待されながらも、正室の子であり腹違いの弟に当たるガスパールが生まれたことによってあっさりお払い箱となり、醜い権力争いに巻き込まれることを嫌って辺境の地に雌伏することとなった16歳の少女は、どうにも荒れていた。病弱なガスパールは擁立に能わぬとしてエミリーを旗印に反乱を目論む貴族たちの動きが活発になっており、下手な真似をすれば国王側に「叛意あり」と見做されかねない状況に窮屈していたのだ。そして実際、王女エミリーの存在が邪魔になりつつあるガスパール派のノーフォーク公爵は、彼女に叛意があろうとなかろうと消えてもらわねばならない――と非情な決断を下し、密かに暗殺者を放つ。厳重な管理体制の網目を潜って密造された「大甲冑」を身に纏い、如何なる手段を講じてでも確実に対象を葬る、この世にあってはならぬモノ――故に「亡霊」と呼ばれる重機甲の暗殺者たちは、エミリーが座す辺境の城に強襲を仕掛けてくる。老練の騎士マティアスと若き青年騎士アルバートはエミリーを守り抜こうと決死の防衛線を張るが……。

 ってなわけで異世界ファンタジーです。16歳のお姫様を主人公に、「醜い権力争い」が齎した凄惨な虐殺の顛末を描きます。まずエミリーたちの所属する王国があって、そこは現在隣の国が侵攻してくるのではないかという懸念を抱えていて、なのに一つにまとまることができず現王派と反王派に割れている……といった状況を背景に進んでいく。異世界ファンタジーとはいえ「剣と魔法」ではなく「剣」一徹で、謎の魔術師だとか古代の秘法だとかいった要素はまったく出てきません。その代わり、「輝鉄」というレアメタルが話のキーポイントとなってきます。細かい理屈はともかくとして、この輝鉄を鎧や兜に使うと着用者の生命エネルギーを代償としてすんごいパワーを引き出し、人間が動かせるレベルじゃない超装甲も軽々と着こなしてメチャクチャ重い鉄球も楽々ぶん回せてしまう。更に、足に使えば脚力強化、手に使えば腕力強化、頭に使えば感覚強化と、部位によって異なる特徴が現れる。なんともRPGチックで呑み込み易い設定です。やや安直な感じもしますが、変に凝らないでとにかく分かりやすいように書いてくれるおかげでいちいち立ち止まる必要もなしに読み進めていけるのがありがたい。

 さて、タイトルに「鉄球姫」なんてあるせいでいかにもギャグっぽく見えるし、事実主人公のエミリーはことあるごとに下品な暴言を吐き散らすけれど、キャラ死にが出る場合は情け容赦なく徹底的に殺す、割合ハードなストーリーです。際立ってグロい書き方をしているわけではありませんが、放置された死体が腐って鳥に啄ばまれたり、鉄槌で叩き潰されたせいで体がひしゃげて縮んでしまったりと、そのくらいのことは平気で描写してくる。生々しい殺され方が苦手な方は注意されたし。トミノ級とまではいかなくとも結構なSATSUGAIぶりであります。

 冒頭を読み始めた時点では、キャラクター同士の掛け合いがあまり面白くないせいもあってやや退屈しました。コミカルと言えばコミカルなんですけれど、こう、サムい漫才みたいな浮ついたテンポにいまひとつ馴染めなくてペラリペラリと足早にめくっていった次第。ストーリーも文体もこれといって特徴のない代物だし、正直に言って「ハズレ引いちゃったかな」と思わなくもなかったんですが、暗殺者たちによって城攻めが開始されるあたりからは眠気が覚めるようなテンションへ突入し、見事に熱中させられました。だいたい全体の1/4か1/3あたりかな。それ以降はほぼ一気に読みました。何が面白かったかと言えば、やっぱり戦闘シーンでしょう。本作最大の見所はバトル描写にあると思います。「輝鉄」という設定を組み込んだことにより、普通ならありえないデタラメなアクションを心置きなく展開させられるようになっている。「鎖鉄球付き鉄槌」という主人公の武装からしてブッ飛んでおり、他にも破城級の必殺技をかます野郎とか、鉄槍大の矢を射出する弓兵とか、映像化したらカッコイイだろう奴がいっぱい。活字ながらも良く出来たアクション漫画並みの臨場感を醸し出す。このへんの部分に関しては完全に予想以上で大きな収穫でした。

 が、前述した通り「情け容赦なく徹底的に殺す」という場面の連続で、基本的に虐殺モードがONになったまま戻らない調子が最後まで行くから、読み終わった後に達成感よりも強く虚脱感が残ってしまうところは最大のマイナス要因かもしれない。エミリー側と暗殺者側、両方の視点を交互に紡ぎ、それぞれの立場に肩入れさせるタイプの書き方をしているため、どっちに感情移入していいのか分からないまま終幕に至る構成も響いてくる。ちょうど富樫倫太郎の『女郎蜘蛛』みたいな塩梅。血の余韻から冷めた後のアフターフォローも弱いから「お祭りが終わって呆然とする感じ」が尾を引く。結局なんだったのだろう、この物語は……と振り返ってみても漠とした印象が漂うばかりで、確たる答えは出てこなかった。

 お世辞にも「爽快」とは言いかねる内容だし、御都合ハッピーエンド主義の人には辛い一冊かもしれない。けど、「鬱小説」の一言で片付けられるような暗さに支配されているわけでもなくて、そこに何らかの前向きな意欲と勢いは感じられます。作品の底に息づくテーマが何だったのか、読解力が不足している当方にはうまく言葉にできないものの、二段三段と掛かるブースターの波に浚われて夢中で読み耽った体験は決して悪いものではなかったです。スローペースなせいか分量に比して思ったほどスケールが広がらなかったのはやや不満であるにせよ、せのぴー(瀬之本久史)のイラストに釣られて良かった(白黒が鉛筆画っぽいけど)と思う一冊。ハイパー重騎士が斧とか槍とか鉄槌とか鉄球とかを振るって激しくぶつかり合い火花を散らす甲冑バトルが観覧されたい方はどうぞお手に取ってみてください。しかし、斧か……ドタマをかち割るシーンがありますから、本書も規制の対象となるやもしれませんね。

・拍手レス。

 ママレードボーイどころか、その前のハンサムな彼女からファンだった自分がいます…
 スパピンで興味が湧いたものの、刊行点数が多くて過去作品を攻略する気力が……<吉住渉コミック

 …怒りを通り越して「呆れの日」になりつつある今日この頃、いかがお過ごしでしょうか
 既知感云々、と繰り返すのも飽きてきました。


2007-09-23.

・なんかイベントのトークショーで「『Dies Irae』の10月発売は無理、11月になりそう」って趣旨の発言があったと小耳に挟んで、9月に引き続き10月の最終金曜日に有休取った当方涙目。こんばんは、堪忍袋がバーストしそうな焼津です。怒りの日、遠ざかりすぎ。そして11月は本格的に死ねそう。

・迫稔雄の『嘘喰い(1〜5)』読んだー。

 例の『つよきす2学期』騒動に絡んでタカヒロのHPへ訪れたところこのマンガがオススメされていましたんで、他の新作を買い込むついでに査収し、家に帰って一気読み。迫力満点な作風、言い方を変えれば大ゴマ連発系ですから5冊くらいはサクサクと読めます。遊ぶ金欲しさで借金にまみれた「ありがち」な青年が主人公で、彼がたまたま稀代のギャンブラーと出会うところから物語の幕が上がる。斑目貘――通称「嘘喰い」。相手のイカサマやブラフを的確に見抜く才を持ち、十重二十重に策謀を巡らせる生粋の賭博人たる貘とともに大金の舞う戦場を潜り抜け、主人公は次第に後戻りできなくなっていく……。

 『カイジ』みたいにギャンブルを題材に扱ったコミックであり、心理戦やイカサマといった要素が加わってくるためコン・ゲーム的な味わいもあります。同じヤンジャンでやってる『ライアーゲーム』とは「嘘」繋がりですね。1巻は違法カジノで大勝するエピソードから始まり、主人公の借金をチャラにするエピソード、ビデオ屋へ延滞料金を払いに来たはずがあべこべに大金を毟り取ってしまうエピソードを経て、本格的な長編ストーリー「廃ビル脱出勝負」がスタート。この「廃ビル脱出勝負」はまず最初に1000万の現金が詰まったバッグを受け取り、それを携えて無事ビルの外へ出ることができれば勝利というごく簡単なルールのサバイバルゲーム。「負ければ死」という、実に殺伐とした単純さでスピーディに展開します。キングの『バトルランナー』という小説をちょっと思い出した。知っているのはあらすじだけで、読んだことはないんですが。

 2巻も引き続き「廃ビル脱出勝負」が描かれており、息詰まる駆け引きが見所ではあるものの、少し話が長くて間延びした印象を受け、個人的にはいまひとつ楽しめなかった。うーん、期待ハズレだったかなー、と落胆しながら着手した3巻が一転して面白く、ようやくこのへんでハマり出した次第。今まで貘の背中に隠れてときどきサポートするだけだった主人公が「ひとりでできるもん」とばかりに単身ヤクザと渡り合い、やっと見せ場らしい見せ場をつくる。4巻と5巻も素直に熱中できる内容で、読み終わるや「はやく6巻出ないかな」とソワソワする心地に陥りました。一気買いしたので気づきませんでしたけど、5巻が今月の新刊だったんですね。だから6巻が出るのは12月とのこと。待たねばならぬ。残念。

 あくまでコンゲームとして読むと、大仰に感心して膝を打つほどトリッキイではありません。ちゃんと伏線を敷いているし、ミステリチックな「イカサマ暴き」も面白いけれど、このシリーズの魅力は勢いのある絵柄とケレン味の強い設定でしょう。頭脳戦を主としつつもバイオレンスなシーンがちょくちょく挿入され、B級テイスト濃厚な「愉しさ」をより一層高めてくれる。勝負を仕切る「賭郎」という組織からしてハチャメチャで、「織田信長は賭郎の取立てを喰らって本能寺で死んだ」と板垣恵介ばりのハッタリを平気でかまします。立会人の一人・夜行妃古壱がジジイキャラのくせして滅法強く、その八面六臂な活躍ぶりには股間が濡れる。ヒロインと呼べる存在がまったくいない『嘘喰い』において彼はほぼ唯一のオアシスと言えましょう。

 端的に書けば、「第二部あたりのJOJOが大好き」って方には問答無用で推したい。実際に荒木飛呂彦も絶賛してますし。ぐぐってみたら2巻発売の頃に対談もしていたみたいです。これと出会うキッカケになった点で『つよきす2学期』騒動には感謝を示したいところですが、発表時期からして完全に『すうぃと』の梯子を外す形になっており、原画家さんのサイトに通っている身としては心中複雑。それにしても、佐田国の容姿がアンデルセン神父に見えてしょうがなかった……。

・深見真の『ゴルゴタ』読了。

 タイトルは言うまでもなくイエス・キリストの処刑地です。ヘブライ語で「されこうべの場所」を意味し、ゴルゴ13の「ゴルゴ」もここから来ている。「ゴルゴ」と最後が濁る表記や発音の方に馴染んだ人もおられることでしょう。当方もその一人。なのでさきほど慌てて書き直しました。危ない、危ない。

 本書は深見真の最新刊にして初のハードカバー作品、価格も初めて四桁に昇りました。2002年、「ミステリー」と銘打たれたデビュー作『戦う少女と残酷な少年』がトンデモ極まりないトリックを使っていたため「地雷作家」の汚名を着ることになり、同年『アフリカン・ゲーム・カートリッジズ』という大奇作を発表したにも関らず存在すらろくに知られぬままスルーされてしまう。翌年2003年、シリーズ作品が立て続けに打ち切られ、その後もポツポツと新作を出すもののパッとしなかった。ほとんど忘れられそうになっていた2005年、『ヤングガン・カルナバル』が「深見にしては珍しく面白い」と評判になってささやかなブレイクを果たし、以降徐々に「地雷作家」の汚名を雪いできた深見。今もなお各地で「深見=地雷」の認識は蔓延しており完全に撤去されてはいませんが、それでもだいぶ支持者は増えてきています。現在はYGCの他に『疾走する思春期のパラベラム』『武林クロスロード』といったシリーズを展開し、来月にはYGCの新刊と『ヴァンガード』なる新作、11月には『武林クロスロード』2巻と『アフリカン・ゲーム・カートリッジズ』文庫改訂版の刊行を予定しており、順調に進めば今年は都合9冊かそれ以上の冊数を出すことになります。正直大丈夫なのかと心配になるペースだ。

 自衛官・真田聖人の愛しい妻が殺された。このうえもなく無惨な方法で。厳粛な法の裁きを望んだ真田の気持ちは、いとも容易く裏切られる。殺人を実行した五人の少年はすべて未成年で、「犯行に悪意はなかった」として家庭裁判所からの逆送すらなしに少年院へ送られ、ほんの短い期間を経て出所してきた。さりげなく加害少年たちをストーキングして彼らの会話を拾ったが、反省の色など皆無だった。もはや忍耐する理由はなかった。自衛官を辞め、極秘裏のうちに銃火器を調達し、入念な計画を練った末に真田聖人は状況を開始する。無論、ターゲットは――。

 冒頭、日本に漂着した北朝鮮の工作員たちと交戦するシーンが用意されており、軍事色の強い内容が続くせいもあってミリタリー小説かと思いましたが、真田の妻が殺されたところから物語は急転、クライム・ノヴェルの雰囲気が濃いサスペンス・スリラーへと変貌を遂げていきます。変貌した後の方が、圧倒的に面白い。というより、序盤はちょっと読みにくいです。銃器のスペックやら特殊部隊の情報やら、ミリタリー薀蓄的な解説がずらずらと羅列するせいもあって正直眠くなってくる。固有名詞の連打と専門用語の洪水で、何の気なしに読み始めた人は出だしで挫折するんじゃないかと勘繰ってしまうほど。そこを越しさえすればあとはすいすいと流れに乗って読み進めていくことができます。「序盤にめげるな」がこれから読む方々へのエール。

 深見真の文体は平易で、あまりにも淡々としているせいでときに「下手」「書き殴り」といった印象を与えることもあるのだけど、ストーリー展開の速度とバイオレンス描写の濃度、両者に関するバランスを取るのがうまく、慣れると非常に読みやすい作風をしています。ただ、良くも悪くもB級めいたムードが強烈であり、どうにも「安っぽさ」の拭えないところがありました。今回もそんな調子でいつもの深見汁満載ドンブリだろう、と予想していただけに、実際読んでみて驚きました。「これホントに深見?」と聞き返したくなるくらい抑制の利いた筆致です。確かに素っ気ない文章だし、銃とかの薀蓄以外は淡白なあたりいかにもフカミって感じですけれど、冷たい炎を思わせるこごったムードが全編を支配していて、まるで「燃え」の対極を目指しているかのよう。怒りや暴力の描写を、省きまではしないが最低限に控え、悪趣味な部分だけで興味を引っ張ったりはしない。細部にもこだわり、ひと皮剥けようとする意欲が滲み出ています。

 それが必ずしも良い方向に作用しているか、と思案すれば若干疑問が残らないでもない。意欲を見せた割にラストの展開が若干尻すぼみで、「ゴルゴタ」というタイトルの意味が判明する段に差し掛かってもやや盛り上がりに欠く。前半の軍事要素と後半の復讐譚が完全には溶け合っておらず、作者の好きなものをブチ込んではみたけど消化し切れなかった、みたいな不満感が残ります。個人的にミリタリー色はもっと減らしてもよかったのではないかと思う。あと、キャラを出しすぎて一人一人の印象が薄くなってるのもマイナス。しかしそのへんは充分直していける範囲かもしれないし、「これからの深見」に対する期待は反故にされなかった。

 怒りと憎しみを大義に変えてしまう溶鉱炉の如き精神。英雄とも怪物とも言い知れぬ何かが産声を上げる過程がひっそりと静かに描かれている。硬く渋くストイック。深見真もこういうのが書けるのだな、と認識を新たにできた点では収穫でした。「銃声がした」と書いた後で「銃声はしなかった」と改めている不自然な部分があったり、「〜とAは思う」と書いてから急に「〜とBは思った」と視点をぐらつかせてAとBどちらが主体か分かりづらくなる場面があったり、詰めの甘さを感じる箇所はあるものの致命的なところは免れているのではないかと。なかなか面白かったです。今後もこういう路線にはどんどんチャレンジしていってほしい。blogによれば来年はAGCの続編も出せそうとかで、すごく楽しみだ。

・拍手レス。

 ママレード・ボーイ懐かしいなあ…小学生の時見てましたよ。女子の話に加わったら意外そうな顔された記憶が
 懐かしいですねー。この話題って結構通じる人が多いですけれど、「隠れて見てた派」の比率はどんくらいかなぁ。

 小手川ゆあは死刑囚042がお勧めです。
 タイトルを「072」と見間違えて「ああ、ギャグ漫画か」……そんなふうに思っていた時期が、当方にもありました。

 同人誌なら「瑞穂×妙子」とか…
 元ネタ知らない人が表紙に釣られて買ったら憤死しそう。

 「甘くて苦い」アレのせいで、一体どれほどの健全なる小学生“男子”が道を踏み外したことかッ!
 当方はもともと不健全(三度の飯より妄想が好き)だったので員数外。


2007-09-21.

・ひとり漫画祭り開催中の焼津です、こんばんは。今日も刺身の上にタンポポを置くような手つきで漫画の感想ばっかり書くとします。

・みなもと悠の『明日のよいち(1〜4)』

 主人公がラッキースケベに遭遇するたびヒロインが青筋を立ててドツき飛ばす、というパターンを飽くことなく繰り返す典型的なお色気コメディ。幼い頃から父親とふたり山奥で修行に明け暮れていたため、時代錯誤な服装と言葉遣いをしている少年・烏丸与一――現代に生き残ったサムライたる彼は山から下り、父と付き合いのある斑鳩道場へ居候することになったが、なんと道場に住んでいるのは長女・いぶきを筆頭とした斑鳩の四姉妹だけ。女だらけの環境にドキッとして時に鼻血を噴き出すような体験をしながらちょっとずつ現代社会に馴染んでいく与一だったが、やがて何者かの意志により彼の命を狙う刺客たちが放たれて……。

 メインは着替えの最中に出くわしたり手が滑って胸を揉んだり股間に顔を突っ込んだりといったアクシデンタルなサービスシーンですけれど、一応主人公がサムライとあってアクション要素もあります。まあ、登場した時点で武力的にはもう成長のしようがないほど最強で向かうところ敵ナシだから、燃えるバトルとかは期待しない方が良さげ。話のまとめ方も悪くはないけど、誤解が無理矢理だったり和解が速攻だったりいちいち強引なので、あくまでポロリまくるエロを堪能する作品と捉えるべき。作画のレベルは連載開始時点から既に高く、それでいて進行とともに益々巧くなっていくものだから人気が出るのも頷ける。あざといと言えばあざといが、こういう露骨に少年マンガ的なエロスを満たす王道系も必要だと思うのですよ。エロスなくして育ったマンガ好きはいない。

 ただ、ことあるごとに竹刀で与一をぶちのめす長女は完全にキシャー!状態に陥っており、「体罰志向な性格で、相手が子供でも躊躇わず打擲するほど乱暴者。だが、心根は優しい」と須々木隼人チックなエクスキューズは為されていますが、与一が他の女の子にデレデレするたびブッチめるのは行き過ぎというか「付き合っているわけでもねーのにカノジョ面すんなよ、PEッ!」って感じです。終わクロの出雲と風見みたいに相思相愛でアルティメットな夫婦喧嘩(というより一方的な制裁)を繰り広げるならまだしも、好きかどうかも曖昧なままバイオレンスに走るのは萎えます。キシャー!の元ネタである夕菜にしたって主人公への好意は明確にしていたしなぁ。むしろツンデレな貧乳次女・あやめが主人公に想いを寄せつつ脇役の鷲津とフラグを立てていくあたりの方がラブコメとしては面白い。脳天気なお色気サムライ・コメディとはいえ、すべてのヒロインが主人公に一点集中してハーレム化しているわけじゃなく、ある程度分散して縺れているのが興味をそそります。個人的にはアンジことアンジェラがお気に入り。お化け屋敷でのコスチュームはこのマンガの中で一番グッと来ました。あと、文句を書きはしたけどメインヒロインのいぶきも決して嫌いではないです。あの子はある意味魔王みたいなもんだから荒ぶるのは仕方がない、とも思いますし。

・吉住渉の『スパイシーピンク(1)』

 原作を読んだことはないけど小学生のときにアニメを見てハマった『ママレード・ボーイ』、あれの作者による恋愛マンガです。ママボ、当時は視聴していることがバレるのが恥ずかしくて友達にも言わなかったものでした。思えばアニメで「わたし、彼と寝たのよ」的セリフを耳にしたのはあれが初めてだったな……当方が嫉妬・三角関係・修羅場を好きになった遠因なのかもしれません。さておき、このスパピンは26歳の独身女性が主人公で、「結婚には興味ない、ただ仕事だけに集中したい」といった具合にまったく男っ気がないのですが、合コンで会った美形の男と成り行きで付き合うことになる。最初は「お、いい男」と思い、じきに無礼なことされて「なんだこいつ」と不快になり、やがて見直して「悪くない奴かも」と上方修正、終いには元カノに嫉妬したり独りでいるときに「会いたい」と想いを募らせるまでに至ります。

 展開自体に際立って独創的なところはなく、ひたすら手堅い王道路線を突き進んでいる。ちょっと凹んでいるときに慰められてグラッと来たりとか、ありきたりながらも要所要所で丁寧に主人公の心情変化を織り込んでいて少女向け恋愛マンガにちょっと苦手意識を抱いている男性読者でもあまり抵抗感を覚えずに読んでいけます。何より、本書の見所はヒロインの職業。なんと少女マンガ家です。連載枠をもらったことはあるけどイマイチ芽が出なくて単発読切の仕事をポツポツいただいている地味めな位置付け。売れっ子じゃないけどなんとかやっていけてるし、「好きなことで頑張れる」という嬉しさもある。自分と同じ職業にしたせいで却って想像力が働かず苦労した……とあとがきで語っていますが、読んでいて苦労がしのばれる痕跡はなく、しっかりと調理されている。「少女マンガ家の生態を暴露」みたいなノリをあえて外し、「働く独身女性像」に重くない程度のリアリティを付与することに成功してます。こまごまとしたエピソードにほのかな生々しさが漂いますが、カラッと明るく処理されているせいもあって総合的には楽しい出来。1巻のラストも程好く凶悪なヒキで続きを期待させてくれますね。設定に惹かれて買いましたが、見事なアタリで満足。

・原作:枡野浩一、漫画:小手川ゆあの『ショートソング(1)』

 「短い歌」――そう、短歌を題材に採ったマンガです。5・7・5・7・7の三十一文字。原作は同題の小説、つまりこれなのですが、何度か書店で見かけたものの手に取る機会が得られずにいました。中高生の頃に『おっとり捜査』を読んでいましたから作画を担当している小手川ゆあは知っていたし、「物は試し」とこの漫画版を購入してみました。

 ジャンルとしては青春モノかな。ハーフで顔は格好良いのに女の子と付き合ったことがない童貞の主人公・国友克夫。彼は大学で知り合った舞子先輩に想いを寄せていた。それはもう「童貞を奪われたい」などと夢想するほどであり、休日にデートに誘われ、すっかり浮かれるのも仕方がなかった。舞子には伊賀という既に付き合っている男がいて、そいつに克夫を見せつけて動揺させるのが狙いだったなんて、当然気づくわけもない。克夫が「女の子と付き合ったことはない」と口を滑らせてしまい、偽装彼氏計画が破綻したことを悟った舞子は可及的速やかに逃亡。当て馬にされたことを知って戸惑った克夫だったが、後日喫茶店で泣いている舞子を偶然見かけて話しかけると、「ふられちゃった」とのこと。とうとう彼にもチャンスが到来した……ハズだった。歌人として伸び悩んでいる伊賀が、ド素人であるにも関らず短歌の才能を秘めた克夫に嫉妬さえしていなければ。未練なのか対抗心なのか、克夫に渡すのが癪で舞子とのヨリを戻す伊賀。大好きな先輩と付き合っている伊賀に「お前、短歌続けろよ。才能あるよ」と誉められて心中複雑な克夫。かくして恋と短歌に染まる青春が幕を開けたけども……。

 「好きな先輩に彼氏がいて目の前でイチャつかれる」という精神的ブラクラじみたシチュエーションながら、その「彼氏」=伊賀に才能を見出されて成長していくわけで、意外と読み心地の良い作品だったりします。伊賀はかなりのモテ男で、舞子以外にもフラグを立てているヒロインが何人かおり、そのうえ話には出てこないけど他にもまだ関係のある女がいるようで……非モテ系読者から寄せられる憎悪が凄いことになりそうなキャラだけど、克夫の才能は否定せずにちゃんと認めているし、克夫も克夫で曰く言い難い心情に悩まされつつ伊賀の短歌には憧れている。ドロドロしたところのない、割と爽やかな師弟関係です。前半は克夫−舞子−伊賀の三角関係が読みどころとなりますが、後半では瞳という女性が出てきて更に縺れてきます。錯綜する恋愛模様の合間に短歌を挟むことで物語に程好いテンポを刻んでおり、「短歌の青春漫画」というイメージを裏切る面白さは充分にある。

 ただ、やっぱり後半は瞳絡みの描写が多いせいか、舞子先輩との関係が詰まるんだか遠ざかるんだかハッキリしない停滞ぶりを見せ、ちょっと脇道に逸れている感覚もありました。短歌自体に関してもあまり突っ込んだ話がなく、『かるた』『とめはねっ!』みたいな「マイナージャンルならではの興味深さ」は希薄。現時点では恋愛要素がウリってところです。2巻以降は3人の関係(克夫−舞子−伊賀)の進展と、「短歌ならでは」の面白さを期待したい。

・藍上陸の『アキカン!2缶めっ』

 「漫画の感想ばっかり書く」と申しておきながら平然とライトノベルを混ぜる無節操な自分が好きです。いや、たまたま読み終わったのでついでに書いておこうかと。キスしたら女の子になってしまう、世にも奇妙な空き缶との暮らしにも慣れてきたカケル。幼馴染みのなじみと約束したデートをやり直すことになって、ふたりで水着をまとってプールへ赴くが、気になったのか空き缶どもも後を尾行けてきて……と普通の学園ギャルゲーにあるイベントみたく平和一直線な日常を多量のネタとともに描いているシリーズ2冊目。授業中に突然カバディを始めたり、カポエラ・ダンスを踊り出したり、朗々とホーミーを木霊させたりと、ネタが行き過ぎてコメディというよりギャグに近い。それがいい、って部分もありますけど結構ギリギリ。そうしたハッチャケネタよりも「ねえカケル。群馬県ってどこ?」「貴様、『ツル舞う形の群馬県』という格言を知らんのか。日本の中心で勇壮に翼を広げて、となりのモアイ像みたいな形の栃木県を侵略せんとしているのが群馬だ」みたいな地味ネタの方がじわじわと利いてきます。この人のネタセンスは結構好きかもしれない。

 おバカなコメディの皮をかぶっておきながら空き缶同士にガチな殺し合いを繰り広げさせた前巻に対し、今回はあくまでラブコメチックな内容に終始するため殺伐とした雰囲気がなく安心して読めました。どうせならこの調子で「バトルとかどうでもよくね?」なノリをずっと続けてほしいが、それだと話が進まないので次巻あたりから戦いは本格化していくのでしょう。負けても「怪我しちゃった、てへっ☆」で済むんならまだしも、「攻撃喰らえば壊れてオシマイ」というシビアな設定なので気が重い。とはいえ今更死んだ空き缶を安易に甦らせるのはやめてほしいし、ちゃんと話にケリをつけてくれることを願う。それにしても鈴平ひろのイラストがハマっているというか、こういうコテコテのラブコメ絵柄も使えるんだなぁ、この人。

ライアーソフトの新作『赫炎のインガノック』、詳報公開開始

 細かい字でびっしりと書き込んであるから読んでいて目が潰れそう。目がー、目がー。にしても、設定やビジュアルを見ているだけで勃起してきますね。これ。ライターの桜井光はあんまり知らないけれど、原画・大石竜子は異形の名作『Forest』を手掛けた方ということもあって期待してしまう。やばいですなぁ、11月はただでさえ注目ソフトが多いというのに……丸戸の『世界でいちばんNGな恋』まで戦線に加わってきましたし。もはや死ねる勢い。

バカテス番外編「俺と翔子と如月ハイランド」、後編公開

 お待ちかねの後編です。一種の先行公開みたいなものだからかイラストはトップページの一枚しかありませんが、「本になったらここは絶対に挿絵が付くな」などと想像してみると楽しい。今回主役を務めている雄二は本編の主人公・明久をおちょくる言動が多かっただけに、攻守逆転しておちょくられまくる倒錯ぶりが面白かったです。いま「絞首逆転」という凄い誤変換が出ましたけど、あながち間違っていない気もする。話の関係もあって後半はギャグ少な目でしたが、次に刊行されるという短編集への期待は弥が上にも増すばかり。なかなか理想的なラブコメに仕上がってきてますな、バカテス。

ジャック・ヨーヴィル(キム・ニューマン)のウォーハンマー・ノベル三部作、表紙イラスト公開

 さあてどんな感じに――って、これは ひ ど い 。手抜きにもほどがあるでしょう……常識的に考えて。売るつもりがあるのか本気で疑問ですけれど、中身が良ければ許すとしたい。

・拍手レス。

 せんぴーのハヤテエロ同人を発掘 せんぴーには是非とも太線で絵を描いて欲しいと思った
 恋楯の同人誌が出たら買ってしまいそう。「ユーリの御託!」とか。


2007-09-19.

“電撃黒マ王”で連載を開始した「灼眼のシャナX」の素敵さにチビりそうな焼津です、こんばんは。ただでさえ10巻はシャナの中で一番好きな話だからなぁ……気が早いけど単行本にまとまるのが楽しみ。2号からは緋鍵龍彦や邑澤広士の連載も始まるらしいのでチェックせねば。

アニメ版『School Days』、最終回の放送を見合わせ

 違う意味で想像を絶した展開に。つくづくスクデイは伝説と縁のあるソフトですね……。

翠星石のギャルゲーですぅ(ネタなべ。)

 しょーもない一発ネタと見せかけて実は丁寧に作り込まれています。ところどころで地雷選択肢を設けて誘惑してくるのが心憎い。ギャルゲーはやはり選択肢を見た時点でワクワクさせられるものじゃなきゃね。

・マンガをいろいろ読んだのでつらつらと書いてみるテスト。

・saxyunの『ゆるめいつ(1)』

 7月に出た本ですが、もう2刷になってました。上京してきた予備校生・相田ゆるめが「メゾン・ド・ウィッシュ」なる名前ばかりご立派なボロアパートで慎ましげに暮らしつつ隣近所の住人たちと繰り広げる緩めの日常をユルユルと綴った四コマ漫画。事件らしい事件は何も起こらず、ただ暇と貧乏に飽かして楽しく無為に時間ばかりが過ぎていきます。消力しまくりのだらけきった空間に郭海皇も呻くこと間違いなし。あまりにも緩いせいで「面白いのかこれは?」と最初判断に困ったものの、レギュラー陣の性格がハッキリしてきたあたりからこう、ヌルま湯に浸かっているような心地良さが込み上げてきて楽しくなります。ネタそのものより、呼吸や間の取り方がグッド。タイトルといい、帯の「なんかもう今日は、どうでもいいや。」といい、絶妙に醸された「やる気のなさ」がじんわり脳をほぐしてくれる。緩いのと同時に爽やかでもある変な作風。表紙を見て何か惹かれるものを感じた人にはオススメしたい。

・すかの『ひろなex.(1)』

 これは6月だったかな。『五日性滅亡シンドローム(1)』『棺担ぎのクロ。(2)』と一緒に刊行されました。ちなみに、『ゆるめいつ』ともどもこの人の日記(8/24)で目にしたのがキッカケで購入。どこかの「、」が付く人みたいな探検家に触発されて「探検隊を結成しようと思う!」と宣言した少女・中村広菜が幼馴染みの女の子や下級生を巻き込んでドタバタする四コマ漫画です。タイトルは「exploration」か何かの略かしら。探検とはいえ、隊長の広菜は虫が苦手で方向音痴、そのうえカナヅチで泳ぐことができないどころか浮き輪を付けても器用に溺れてしまうヘッポコぶりなので、ただ元気に騒がしく日常生活を過ごしているだけ。『ゆるめいつ』同様なんともユルユルとした世界が立ち現れています。個々のキャラクターはいまひとつ個性が弱いし、腹筋がクラッシュするほどのギャグも仕込まれていないけれど、徐々に蓄積されていく低刺激な面白さがあって気に入った。無愛想な下級生だった沢木めぐみが探検隊に加わってから少しずつ感情表現豊かな子に変わっていくあたりなど、地味〜にポイント稼いできます。当方は断然美緒派ですが。チーッス、美緒先輩チーッス。

・桜場コハルの『みなみけ(4)』

 背景白い、顔の見分けつかない、なぜか口が半開き、でお馴染みのユルコメディ漫画、約1年ぶりとなる新刊です。なんか立て続けにユル系統の作品ばっかり読んでるな……この漫画、解説不要なノリですけど、一応書いておくと三人姉妹の「南家」を中心とする1話あたり8ページのオムニバス形式コメディ。内容を理解するにはまず顔ではなく髪型と服装でキャラを判別するアビリティが必要となりますが、髪フェチの当方にはなんてことないぜ。今回も相変わらず不思議なテンポとそこはかとない可愛らしさの嵐によって知らず知らずのうちに読者を暗礁へ誘ってサックリ難破させるローレライぶりを発揮しております。キャラの関係や特性がちょっと込み入っていて久しぶりに読むと「あれ? こいつとこいつがなんだったっけ?」なハメに陥りますが、一旦ハマるとそうしたややこしい部分も含めてたまらなくスパイシーになるのだから人間の感性とは異なもの味なものだ。当方は南家三女チアキの友人・内田ユカが程好い不遇感を発していて大好きです。ネタとしてはカナの「もちあがらないバックドロップ」が可愛すぎて最高でしたが。ところで、チアキの頭頂部にある毛がらっきょうに見えて仕方ないんですが……髪全体はタマネギっぽい。

・桂明日香の『螺子とランタン』

 これだけ旧刊ですね。買ったまま忘れていた奴で、棚の整理をしているときにひょっこり出てきてパラパラ読み出した、という経緯。3年近く放置していたせいか、背表紙が少し色褪せていてアンニュイ。単行本として出たのは2冊目ですが、収録されている1話目が著者のデビュー作に当たります。幼くして両親を亡くし、僅か8歳で「女侯爵」の地位に就いたココ――彼女が10歳になった頃、屋敷に一人の無愛想な家庭教師がやってきて……といった具合に19世紀の英国を舞台にして送る「青年と幼女」形式のほのぼのロマンス・コミックです。ロリロマだと語呂が悪いのでペドロマとでも呼びましょうか。地位は高くとも自信のない幼女と、成り上がりたい野心を抱いている青年の組み合わせながら、「この幼女を利用してやろう」と腹黒く画策したりすることはないので安心して読めます。

 ただ、そこそこ風呂敷を広げたくせに1冊でまとめようとした影響か、後半の展開が若干強引で錯綜気味となっており、ストーリー的には物足りなさが残る作品でした。帯に「小さな恋の物語」とある通り本当に小さいと言いますか、まだ仲良くなっただけで恋物語に発展するのはこれからじゃないかなぁ、と惜しむ気持ちが強い。しかしながら、ヒロインのココは可愛かったです。それはもう幼女的魅力が破裂しそうなくらいパンッパンに詰まってますよ。一つ一つの言動に滲むラブリィさもさることながら、チラリとドロワーズが見えるシーンもあり、思わず伊良子涙(ようやくまことの幼女にめぐり会い申した)が噴出して熄むことなし。家庭教師に近づく女を敵視していっちょまえに嫉妬心を燃やすシーンも僅かながら存在してて興奮。幼女のヤキモチはまことに美しゅうございます。ああ、こんな調子でココとの甘々ブリティッシュ・ライフを延々と堪能させてくれたらなぁ……。

・他にもまだあるけどちょっと疲れてきたので次回に。

・拍手レス。

 どうも妙子が抱き枕になりそうな展開が。 ゴ、ゴクリ……。
 瑞穂、準、そして妙子……「男枕」の歴史にまた一ページ。ちなみに「だきまくら」の変換第一候補が「唾棄枕」だった罠。


2007-09-17.

・未だに「グレンラガン」を「グレンガラン」と間違えそうになる焼津です、こんばんは。そら紅蓮の裸眼より紅蓮の伽藍がカッコええやん……。

せんぴーこと瀬之本久史がイラストを手掛ける『鉄球姫エミリー』はスーパーダッシュ文庫初の424ページ

 なるほど、価格が700円とやけに高かったのはそういうわけか。ここの新人賞は枚数制限が緩い(原稿用紙200〜700枚)ので『銀盤カレイドスコープ』みたいに受賞作が分冊されることもあったんですが、よく考えると1冊が分厚い本ってのは見かけたことなかったですね。ザッと調べてみたところ、これまでの最厚は恐らく『テイルズ・オブ・リバース3』の379ページだから45ページ増という計算に。

 最終巻が1000ページを超えた『終わりのクロニクル』のせいで感覚が麻痺してますが、ライトノベルで400ページ超えは大したものです。「このボリュームで受賞作を出版できるライトノベル文庫はうちだけだと思う」というコメントにツッコミを入れたい人も多いでしょうけれど、確かに「受賞作」で400ページ超えなんて他だと『龍炎使いの牙』とか『杖術師夢幻帳』とか『イミューン』くらいしか思いつかない。『ゆらゆらと揺れる海の彼方』『トリックスターズ』は「デビュー作」ではあるけれど「受賞作」じゃないしなぁ。などと少し厭味っぽく書いてみましたが、厚い本スキーとして楽しみなことには変わりありません。祥伝社が『魔獣狩り』とか『魔界行』とか『魔大陸の鷹』とか『有翼騎士団』とか旧作シリーズを1冊にまとめて600ページ超の完全版を出したり、双葉社が1冊平均700ページオーバーの新装版『餓狼伝』を刊行したり、復刊モノとはいえ分厚い本に恍惚とする趣味の持ち主にはイイ時代になってきました。

・西尾維新の『刀語 第九話 王刀・鋸』を読み終わりました。

 今回の対戦相手である汽口慚愧さんは奇人・変人・人格破綻者のオンパレード・マーチな西尾小説にしては珍しく、一本気で糞真面目、張り詰めた糸の如く常にテンパっているような方でちょっとビックリ。作者もそのへんの自覚があるのか、やたらと「真人間」の要素を強調しますね。見開きでは「汽口さん、めっさ怒るの図」が描かれていて和んでしまった。しかし、西尾小説じゃ異端のキャラだけあって突然脈絡もなく惨死を遂げるのではないか……と読んでいて気が気ではなかったです。戯言シリーズが終わってからもう2年近くが経ったせいか「萌えキャラ殺し」の威名は薄れつつありますけれど、殺るときは躊躇いもなく殺るタイプの作家であることはファンの誰もが忘れていないはずだ。存在自体が死亡フラグみたいな汽口さんは最後にどうなってしまうのか。それはあえて語らないことにしたい。

・そしてウェンディ・ムーアの『解剖医ジョン・ハンターの数奇な生涯』も読了。

 18世紀イギリスに実在した外科医ジョン・ハンターを題材に採った、ややエンタメ寄りの伝記です。原題 "The Knife Man" 。麻酔や消毒といった概念がなく、血と脂で汚れたエプロンを平然と着回し、「手術」は系統立った理論が構築されていないことから成功率が低く「博奕」の同義語みたいなもの、かてて加えて世に名高い「瀉血」が無闇矢鱈に横行し、溺れた人が病院に担ぎ込まれて来ても蘇生法なんて知らないからとりあえず静脈切って血を抜いていた――今からすると凄まじいとしか言いようがない医療水準下の時代にあって、死体解剖を通じて人体構造に知悉し、あくまで科学的な思考と方法に則って手術を敢行してきた男の破天荒なエピソードの数々を寄せ集めている。「伝記」と言えば子供向けにまとめられた偉人伝がついつい連想してしまうけれど、こんなにも血腥い内容じゃ到底子供向けには直せそうもありません。下手するとトラウマものだ。何せ表紙からして「解剖された子宮の中に収まる胎児の絵」だもんなぁ……。

 キリスト教の教義がいろいろと絡んでくる関係から、外科医たちは解剖用の死体を合法的に調達できず、「リザレクション・マン」――つまり墓を暴いて死体を盗んでくる泥棒集団と裏で手を組み、毎夜こっそりと「調達」を済ませては解剖に勤しむといった行為が常態化していた……というような解説をイアン・ランキンの『滝』で目にして興味を抱いたのが本書を手に取る切欠となりました。死体盗掘とセットで成長した解剖学。スコットランド出身のハンターが生涯かけて何千という遺体を切り開き人体の働きや仕組みを解き明かしたメインエピソードはもちろん、盗賊団が土を掘り返して墓の中から棺を露出させ、まだ土が上に乗ったまま隙間をこじ開けて楔噛まして死体を取り出し、更に装飾品を剥がして棺に戻す(装飾品まで盗ると犯罪になる、死体だけ盗んだ連中を裁く法が当時はなかったらしい)といった作業を僅か15分で終わらせるほど熟練させたなど、サブエピソードに至るまで面白い話の目白押しでした。軍医時代に、負傷兵を衛生環境の悪い戦場で無理に切開して体内から銃弾を取り出すよりも、放っておいて自然治癒力に任せた方が却って治りは早くなる、といった事実を発見し、弟子たちにも「手術は必要に迫られるまで妄りに行なうべからず」と教えるようになったあたりが印象深かった。珍しい病気に罹った患者を治してやると訃報が聞こえてくるまで待ち、その遺体を引き取って標本にした……という熱心すぎる研究精神にはなんだか苦笑いが起こりました。

 冒頭で手早く読者の関心を掴むためのカードとして切り出された第1章「御者の膝」を始めとして様々な話が盛り込まれています。貧しく健康な人から歯を抜いて虫歯になった富裕層の口に移植する、という第7章の「煙突掃除夫の歯」とか、死後の解剖を拒んで逃げ回っていた「アイルランドの巨人」チャールズ・バーンの遺体を盗ませる第13章「巨人の骨」の他、多数の動物実験を実行してきたことも描かれており、必ずしも読み手に感動ばかりを与える「偉人」ではありません。膿を使ってわざと性病(淋病と梅毒の混合)に罹患し、経過を逐一観察する『自分の体で実験したい』級の真似をやった疑惑まであるのは、もう感動の域を突破してる。良くも悪くも破格の人物。著者のハンター贔屓と言いますか執拗とも思える擁護意見は、「成した大業の割に後世ではあまり知られていない」という事情が背景にあるにしても、ハンターの対立者たちへの攻撃的な描写が山盛りなこともあってちょっと鼻に付く部分はありました。が、そうしたバイアスを考慮してなお読み応えのある一冊には仕上がっています。

 解剖や手術が「汚れ仕事」と見做され、本当の医者は離れた場所で講義や支持を行うものだ――などという王大人の「死亡確認」じみた思想が蔓延る時代にあって盗掘者たちと進んで手を組み、「汚れ仕事」を厭わなかった稀代のサージャン。解剖・検死とともに歩んだ人生を「血腥い」「腐臭に満ちた」と形容するのは失礼な気もするが、きっとこの人は香水でも誤魔化せないようなすっげぇ匂いを体に染み付かせていたんだろうなぁ。あくまで「物語」の観点から俯瞰すれば後半はややダレるけれども、縛り首になった罪人の死体を巡って争奪戦がスタートするシーンとかコミカルで絵になる箇所も少なくないゆえ、「伝記」という形式に敬遠しないでご一読くだされ。

・拍手レス。

 フルセット!のヒロインは主人公、繰り返す、フルセット!のヒロインは主人公、反論は認めない
 いやいや今の段階で決め付けるのは早計、これからの展開も勘案してじっくりねっとり見守りましょう。

 >『腐り姫』、DL販売開始   な、なんだってー!!(AA略
 かつて新作として見かけたソフトがロットアップしてDL販売……時の流れを感じまする。


2007-09-15.

・あ……ありのまま今日起こった事を話すぜ!

「おれは『新ゲノム』面白いな、と思っていたらいつのまにか古賀亮一の全著作を揃えていた」

 な……何を言っているのか(ry

 というわけでほんの数日で古賀亮一にずっぽりハマった焼津です、こんばんは。『ニニンがシノブ伝(1〜4)』以外だと新品で置いてるのは『忠犬ディディー』と『新ゲノム』2冊くらい、ディディーは単発作品なんで後回しにして「多少話が分からなくとも目を瞑ろう」と勇んで新ゲノを注文したところ、僅か数ページで撃墜されてメロメロに。キャラの関係とかまったく分からないのにネタが素晴らしすぎて読む手が止まらなかったですわ。音速丸の暴走感も好きですけれど、パクマンは下ネタとセクハラのゲージが更に上がっている具合で、ネタとしてはニニシノより新ゲノの方が好きかもしれません。キャラの魅力で言えばやっぱりニニシノだけど。なにせゲノムは旧作読んでないからキャラクターの位置付けが掴み切れない……なら旧作も買えばいいじゃない、という流れで『ゲノム』全4巻を注文しちゃいました。

 言うまでもなく『新ゲノム』の前作。版元のビブロスが倒産したせいで絶版し、オークションでも全巻揃いは定価越え級の高値が付くプチプレミア作品です。書痴ゆえ古本も嗜む当方ですが、「定価以上の値が付いたものは買わない」という割とどうでもよさげなポリシーを持っており、市場価格に従うのは業腹でした。なにせ『ゲノム』は存在をまったく知らなかったわけじゃなく、書店に置いてあるのを過去何度も見かけていたんだから尚更。が、已むを得ません。「くやしい……! でも……注文しちゃう!(ビクビクッ)」とクリムゾンっぽくクリック。いや思ったより安い出品を見つけたおかげで定価は下回ったんですがね。ついでに『忠犬ディディー』を購入する手筈も整えて準備万端。当方もまた古賀信徒の末席へ連なる身に相成り申し候。秋葉原にある書店で『ゲノム』3巻の表紙を目撃して以来かれこれ6年、随分と遠回りしてしまったものです。今後はリアルタイムで揃えていきましょうぞ。ただまーこの人はだいたい年1冊ペースのようで今年は既に刊行済だし、次の新刊は来年かしら。にしてもゲノム1巻、今とは絵柄も芸風もキャラ配置も全然違うなぁ。パクマンが所長の下っ端っぽいし。

ファミ通文庫◆FB Online◆にて『バカとテストと召喚獣』の番外編、前編を公開中

 新刊売上ランキング等でも徐々に上位へ食い込みつつあるバカテス、web上では何度か番外編が公開されており、今回で恐らく三度目になります。主人公が明久から明久の友人・坂本雄二に代わり、タイトルに「†」が付く某ゲームのとあるヒロインにクリソツとの声もある霧島翔子と波乱に満ちたデートを繰り広げる。エピソードとしては2巻と3巻の間に位置しており、先に本編を読んでおくと内容が分かりやすい。ただ、今回は番外編の様相が濃いデートイベントなので、本編を未読でもだいたいの雰囲気は掴めるかと。主人公が変わってもコメディの軽妙さは相変わらずで楽しいです。そして本編の主人公たる明久もチョイ役で出演しますが、端役程度でもそのバカっぷりを遺憾なく発揮してみせるのはさすがだなぁ、と感心することしきり。後編は21日公開とのことだし、忘れないようにしなければ。

ライアーソフトの『腐り姫』、DL販売開始

 5年前に発売され、「初回特典は修正FD」と揶揄された挙句デモムービーまで入れ忘れていたものの、内容的には高い評価を受け、コメディ・バカゲー路線の印象が強かったライアーを「シリアスもイケるブランドなんだな」と再認知させる切欠となったソフトです。ロットアップ以降は中古でプレミア価格が付いたこともあり、DL販売が待望されていました。「640×480/ハイカラー → 800×600/フルカラー」と、画質も良くなったみたいですね。

 記憶喪失の主人公が謎の少女「蔵女」と出会い、似ているようでどこか違う「四日間」をひたすら繰り返しながら少しずつ記憶を取り戻していく、ループ形式のサスペンス・ストーリーです。ジャンル表記は「インモラル・ホラーADV」となっていますが、これは主人公の実妹・樹里が物語の重要な位置を占めているから。本編開始時点で既に死んでいるけれど、主人公の思い出の中では息遣いさえ感じられるほど生々しく鮮やかに匂い立ち、甘い幻痛で彼の心を悩ませる。善悪の区別がまったくなく、ただ主人公の愛だけを求めるその唯兄論者ぶりはヤンデレという言葉すら生温い。当方もまたクライマックスにおける「赤い婚礼」のシーンに胸を貫かれた一人です。そうした樹里のインパクトもさることながら、他のキャラクターひとりひとりも内面に清濁併せ持った存在として描かれ、「腐る」というテーマに沿って捌かれていく過程がスリリング。個人的には盲目の義母・芳野さんが印象的でした。「立ち絵」という概念を引っくり返す自由な画面構成、「繰り返される四日間」という設定なのに同じ展開が一つとしてない歪んだループ構造など、一見地味ながら意欲的な試みの数々が各所で施されていて飽きさせません。散々延期を重ねた末に完成して現在は入手困難となっているムック『腐り姫読本』、これにゲストとして田中ロミオや虚淵玄、奈須きのこといった錚々たる面子が寄稿し対談に参加したのも頷ける。「腐」というタイトルが禍々しくおどろおどろしいムードを醸していますが、グロっぽいところは控え目(まったくないわけじゃない)で、耽美や幻想に属する妖しい味付けがメイン。怯むことなかれ、オススメです。

 ところでうちのPC、「姫」と変換しようとしても「火目」と出ます。こいつ、当方が密かに『火目の巫女』スキーなことを知ってやがるのか。1巻の弓描写には痺れました。「沃野」の胡桃は最初剣道部にするつもりだったけど『火目の巫女』の影響で弓道部になったんですよ、これ豆知識な。

・米澤穂信の『クドリャフカの順番』読んだー。

 副題は「「十文字」事件」。『氷菓』『愚者のエンドロール』に続く古典部シリーズの第3弾で、来月には第4弾にして短編集の『遠まわりする雛』が刊行される予定となっています。作者の米澤穂信は『氷菓』により第5回角川学園小説大賞ヤングミステリー&ホラー部門(この部門は第5回で設立された)の 「奨励賞」を受賞してデビュー。処女作の『氷菓』と『愚者のエンドロール』は最初「スニーカー・ミステリ倶楽部」というレーベルに収録されていましたが、早期でポシャったため現在は普通の角川文庫に籍を置いています。カバーもイラストから写真に変更になりました。旧版の『愚者のエンドロール』は高野音彦がイラストを担当していて結構好きだったのになぁ……で、『さよなら妖精』『春期限定いちごタルト事件』を経てようやくこの『クドリャフカの順番』が出版されるに至ります。前作『愚者のエンドロール』からは3年も間が空いており、買ってから更に2年積んでいた当方にとっては5年ぶりの古典部。さすがに記憶も朧げでしたが、「こんなキャラいたっけ?」と思いつつも引き込まれる内容でキッチリと楽しんだ次第です。

 三日間に渡って開催される神山高校の文化祭、通称「カンヤ祭」。四人の部員でつくった文集「氷菓」を頒布するために参加した古典部はある一つの問題を抱えていた。発注ミス――30部程度の小部数を発行するだけに留めるはずだったのに、手違いがあってなんと200部も刷られてしまったのだ。ダンボールにみっしりと詰まった「氷菓」・「氷菓」・「氷菓」。今更返品するわけにもいかない過剰在庫の山に、部員たちは呆けた。印刷の費用は数万円、どうにかすれば埋められない穴でもないが、せっかく出来上がった努力の成果をむざむざ「燃えるゴミ」にするよりかは売れるだけ売って、その上で損を減らしたい。かくして古典部は「文集の販促」というミッションに取り掛かる。部長の千反田えるは交渉を、福部里志は宣伝を、漫研と掛け持ちしている伊原摩耶花は委託話の切り出しを、省エネ主義の折木奉太郎は店番を、それぞれ担当。特別棟四階のどん詰まりという立地の悪さ、「古典部? そんな部活あるの?」という知名度の低さ、販売が可能なのは文化祭をやっている三日間だけという期間の短さ。数多くの制約に悩まされるメンバーを尻目に、カンヤ祭の各所で「十文字」を名乗る怪盗が跋扈していて……。

 所属していた三年生がみんな卒業していったせいで部員ゼロになって一旦廃部しかかったものの、新たに入学してきた一年生たち四人が入部したことでどうにか存続……したまではいいが、先輩不在の状況につき何をしたらよいものやら見当が付かない、という一種間抜けな状況に陥っている「古典部」を軸とした学園青春ミステリの3冊目です。今回は文化祭がテーマとあって賑やかな内容になっています。もともと人が死なずに謎だけが発生するジャンル、いわゆる「日常の謎」に位置する作品だけあって殺伐とした雰囲気が少なく、ドロドロしたミステリが苦手な人でも割合安心して読めるシリーズではありましたが、今回は何せ「クドリャフカ」。あの宇宙に打ち上げられて死んじゃったワンコロの名前を冠している。こりゃあきっと今までと違って悲惨というか凄惨というか無惨というか陰惨というか、とにかく「惨」の字が似合うビター極まりない代物になっていんるだろう。などと思い込んで及び腰になっておりましたものの、別にそんなことはなくてただの杞憂で済んで拍子抜けしました。いつも通り部長のえるが「わたし、気になります」と好奇心を爆発させてホータローが「やれやれ……」という感じで動き出す。記憶が朧げとはいえ微かに残っているイメージがそのまま甦ってくるノリに思わず頬が緩みました。

 本書の興味は「氷菓」の過剰在庫と「十文字」騒動、主にこの二つです。刷りすぎてしまった文集を少しでも多く捌くために慣れないネゴシエーションに望むえる、発注したのは自分だからと責任を感じている摩耶花。ずーんと沈んでいる女性陣に対し、「なんとかなるさ」と比較的鷹揚に構えているホータローと里志。「こいつら本当に事態を打破できるのか?」と不安になってくる読み手の心情を測るように、「残り○○部」といちいち細かく残数表示する演出が心憎い。そして「十文字」、神出鬼没にして正体不明の怪人ながら、盗っていくものが缶ジュースだとか碁石だとかタロットカードとか微妙にセコいものばかりで目的がよく分かりません。現場にわざわざカードを残していくあたりといい、単なるルパンかぶれの愉快犯なのか? 「誰にでも犯行が可能、極端に言えば1000人の生徒すべてが容疑者」という文化祭ならではのスケールが大きいシチュエーションにもワクワクさせられますが、古典部の面々は「騒ぎに便乗すれば『氷菓』も売れるのでは」と画策し、各方面へ働きかけるのだから話が盛り上がらないわけがない。古典部 VS. 十文字。姿なき怪盗に在庫処分の願いを託す、そんな倒錯が実に微笑ましいです。

 クライマックスではちゃんとシリアスになると言いますか、例によって米澤の特徴でもある「普段と打って変わって異様に研ぎ澄ました文体でシリアスなムードを高騰させる」っつーテクニックを駆使して「なにこの劇画」とツッコミたくなる真剣10代しゃべり場空間を醸成します。傍から見ればその真剣さに辟易するところもありますけれど、当人にとってそれは真実熱意を燃やすべき事柄なのだ、という雰囲気はビンビンに伝わってくる。「他人事を我が事のように実感する」に特化した作風であり、適切な感情移入さえ促すことができれば深みに誘える一方、作中人物との距離感を把握させ損ねると何もかもズレてしまった違和だけが残留する諸刃の剣。個人的には胸に鋭く刺さってくるビタースイートな痛みを覚えつつも、「動機との関連がこじ付け臭いよなぁ」と思わずにいられなかったり。

 何はともあれ文化祭、活気のあるお祭り騒ぎが全編を覆っていて単純明快に楽しかったです。四人の部員をトランプのスーツに見立て、スペードとハートとクラブとダイヤ、四パート=四視点で物語を紡ぐ形式にも意欲を感じました。「クドリャフカ」というタイトルで脅えてしまう方も中にはおられるかもしれませんが、怖がる必要はまったくございません。楚々としているようでいて頑固一徹、「わたし、気になります」と言い出したら止まらない部長とそれに振り回されるホータローさんの微ラブコメな空気を堪能されたし。今回は応用編として「わたし、気になりません」もあって噴いた。『春期限定いちごタルト事件』や『夏期限定トロピカルパフェ事件』の小市民シリーズもツボだけど、やっぱり米澤の原点たる古典部シリーズも良い。来月の短編集も楽しみー。が、その前に『インシテミル』を崩しておかないと。

・拍手レス。

 『G線上の魔王』体験版やってみた 魔王のキャストに脳汁出まくり。 ガッシュウコクニッポン!
 ここに「自慰の騎士団」を結成する!

 なにはともあれエンシェントミステイを読むべきだ
 読みましたよー。ユニバーサル・メイドのエリアールと賞味期限切れ処女のリコリスが好きです。↑で『腐り姫』を思い出していたこともあって一層楽しめました。


2007-09-13.

・今更ながら最近になって読んだ『ニニンがシノブ伝(1〜4)』が初古賀だった焼津です、こんばんは。ずーっと以前にどこかで「竹井10日のギャグセンス好きなら古賀亮一がオススメ」みたいな話を聞いて、かれこれ5年くらい気になっておりましたが、なかなか着手する機会が得られないままズルズルと徒に月日を過ごしてまいりました。ひまチャきをプレーしているおかげでふと件の言葉を思い出し、ようやく手に取った次第。

 『ニニンがシノブ伝』は忍者学園に通うくノ一の忍(しのぶ)を主人公にしたギャグマンガで、基本的に一話読切形式、各エピソードのボリュームが8ページと、パッと見はこぢんまりとした作品なのですが……マスコットキャラの音速丸が所狭しとばかりに暴走して奇怪なアクションと脈絡を削ぎ落とした決めゼリフ的な下ネタ、そして執拗なセクハラを繰り返す、実に賑やかで落ち着きの欠如した内容に仕上がっています。とにかく、一話につき8ページとは思えないほど濃い。一コマ一コマにみっしりとネタが詰まっている。饅頭にしたら餡子が多すぎて餅の部分まで黒く見えてしまうんじゃないか、ってほど。1巻の時点ではキャラの役割がそれほど明確になっていないせいかやや緩い印象があるのですけれど、2巻、3巻と進むにつれて尻上がり且つ桁外れにテンションと面白さが増幅されていく。異常なハイテンション、時に意味不明で時に鋭く深いネタの数々、そして何度読み返しても色褪せないテンポの良さ。特に4巻のうねりに満ちたワンダーな楽しさは神懸かっています。

 変身して全裸状態から衣装を纏うや、間髪入れず「トゥゥリィヤアアーッ!!」と服を引き千切ってふたたび裸んぼ、いったい何のために変身したのかまったく分からないあのシーンで腹筋が壊れそうになりました。「ちんこついてる ついてない ついてる ついてない……」の花占いとか、「股間にかざした葉っぱを意味あり気に動かし 敵の注意を集める…」「そして!! ある程度うっとりし始めたらそこをすかさず撃つ!! これぞ忍法ウフフ手裏剣!!」など、セリフ回しのアホらしさも加速する一方でさっぱり歯止めが利かず、紙面を唾で汚さないようにするのが大変でした。我慢できず噴き出した瞬間、咄嗟にクイッと下唇を突き上げて唾液スプラッシュの矛先を己の顔へ逸らした当方はもっと評価されて然るべき。

 まさに4巻あたりが脂に乗った絶頂期……だというのに、それで完結とはいかなる仕打ちですか。おおお。今はただ悲しみに暮れながら『新ゲノム』の如くヒョッコリと何食わぬ顔で再開される日を待ち望むのみ。音速丸と泉の絡みとか、もっと見たかったなぁ。

・それと梅田阿比の『フルセット!(1)』も読んだ。

「ぼくは…もう 逃げたくないんです」

「嫌なコトやこわいモノの ぜんぶから逃げてしまったら… ぼくにはもう何も残らないんです」

 週刊少年チャンピオンで連載中のバレー漫画です。表紙見返しの作者コメントで「少年まんがであえて、滑稽なほどまっすぐで一生懸命な主人公を描いてみたい、と思っていました」と述べるだけあって、いまどき珍しいくらい泥臭いノリで、努力一点張りの少年が主人公を務めています。病弱な体質のため周りから疎まれ、転校することにまでなった中学生・入谷火野――半ば成り行きからバレー部に入るが、「今度こそは逃げない」と決意を固めて迫り来る障害の数々に立ち向かおうとひたすら頑張り続ける。廃部の危機と背中合わせのまま。

 生まれつきの才能だとか、ある日突然目覚めた謎の力だとか、「努力すること」を極力外す形のストーリーが普及し、才能も謎の力も一切ない主人公が愚直に我武者羅に特訓だ練習だと地道な努力を重ねて少しずつ上達していく……みたいな旧来のスポコン文法が通用しなくなり、昨今の風潮では血と汗と泥を排し、スマートに和やかに伸びていって恋や友情に主眼を置くタイプが持て囃されるのだそうです。もはや「根性」や「熱血」は死語。「弱い奴が無謀と知りながらも強い奴に挑む」パターンもすっかり古びてしまい、ガツガツと何かに飢えているような少年も誌面から減っていく一方です。時代の変化はしょうがないものとはいえ、オールド少年マンガに馴染んだ身の上としては寂しいかぎり。

 そこに来てこのマンガと遭遇したわけで、当方内部の錆付いた熱血メーターが久々に唸りを上げてレッドゾーンを振り切りました。実に痛快。良い意味で「古臭さ」に満ちたスポコン漫画でしたよ。1巻はまだまだ導入に過ぎず、「負けたら廃部」という条件を掲げられた市の総体に向けて猛特訓および部の団結に励んでいるところであり、まだまだ素人の域を出ない主人公の技量やら、ともすればバラバラに空中分解しそうな部員たちの心やらに悩まされる段階。「バレーって難儀だよな …絶対 独りじゃできないもんな」と、チームプレーありきの団体競技であることを強調するセリフもあるくらいで、これからどれだけ連帯感を強めていけるかがストーリーのポイントになりそう。『DIVE!!』は逆に「独りじゃなきゃできない」飛込みを題材に採っていて、「チームワークを活かせる競技だったら、俺たちライバルじゃなくて味方同士になれたのにな」と、個人競技には個人競技の難儀さがあることを書いていましたが、ともあれサッカーやバスケ以上に「エースが一人いたってしょうがない」協調性重視なバレーの世界がいっそうスポコンムードを盛り上げてくれるのではないかとワクワクしております。

 1巻には7話まで収録されていて、女子バレー部のメンバーが登場するのは7話目になってから、っつーくらい女っ気の少ないマンガですけれども、どんなに邪険にされても決してめげない主人公と、運動神経抜群でバレーの才能は随一ながら「オレは他の部に行く」と広言して憚らない会田雅矢との遣り取りに魅せられていたせいで、7話目に入った途端「え? ヒロイン? あっ、いたの?」と素っ頓狂な顔を晒した始末。濃厚に匂い立つ「努力一本槍」のスメル、そして次回以降からちょっとずつ混入されていくのであろうラブコメの要素に対して期待が膨らむばかりです。突然こんな作品が出てくるんだから、チャンピオンは本当に面白いなぁ。

実際に起きたラノベっぽい出来事まとめ

 何と言ってもカレー先輩がオススメ。副主将とぼくは「アッー!」な雰囲気を楽しみたい方に。そして斬鍵剣は本当になんなんだか気になりますね……まるでラノベ新シリーズのプロローグみたいだ。

 でも一番笑ったのはスレにあった「だがら天然ボケじゃなくてわざとだから!逆!人工ボケだよ!」の一文。

 て、天然すぎる……!


2007-09-11.

・「テンポってる」と言おうとして「インポってる」と口走ってしまった焼津です、こんばんは。

 心情はまさに「恥!!! 恥だ!!! 恥ずかしい!!!」。

・いろいろ読み終わったので短めの感想を三連発。

・有川浩の『レインツリーの国』

 『図書館内乱』のスピンオフというかコラボレーションな関係にある一冊らしいが、図書館シリーズの方は読んでいないのでよく分かりません。中学生の頃に読んだライトノベル『フェアリーゲーム』――始まりは痛快娯楽SFアクションだったのに、結末は読み手が戸惑うようなバッドエンドを迎えたシリーズ。あの理不尽な苦みが忘れられなくて、ネットでタイトルを検索に掛けたところ、一つのホームページに辿り着いた。読んだ本の感想文を主体としたサイトで、名前は「レインツリーの国」。そこに掲載されていた『フェアリーゲーム』の評にひどく心を打たれ、管理人にメールを出したら即座に返事が来た。思い出の作品にまつわる談義ですっかりと意気投合し、いつしか「この人と会いたい」という気持ちを抑え切れなくなって、オフで顔合わせしないかと打診するが……。

 ネットで知り合うところを起点とした恋愛小説。派手なSF展開や組織的な陰謀はありません。あくまで個人レベルに留まる枠内で淡々と話が進んでいきます。短いせいもあってか描写の一つ一つに無駄がなく、するすると喉越しの良い素麺みたいなスピードで読んでいける。詳しい内容を書くとネタバレになってしまうのでボンヤリとした書き方をしますが、「ここが引き際か正念場か」という判断を強いられた状況において極力引くまいと踏ん張る主人公の姿勢をポジティブと受け取るかエゴイズムと受け取るかで好悪が分かれそう。個人的にはやや違和感を覚えるところもありましたが、全体的には楽しめました。あと、作中の説明からして『フェアリーゲーム』のモデルは笹本祐一の『妖精作戦』だろうな、と思ったら巻末の参考資料にちゃんと載っていて噴いた。

・海原育人の『ドラゴンキラーいっぱいあります』

 7月に出た『ドラゴンキラーあります』の続き。すったもんだの末、便利屋の事務所に素手で竜をも殺す超人リリィを迎え入れたココ。しかし、軍人時代の上官が酔っ払いのろくでなしとして彼の前に現れた日から事態は悪い方へ転がっていく。新たに出現したドラゴンキラーの女・アイロン。事務所の経営も苦しいココは半ば行き当たりばったりのヤケクソ方針で状況の打破を試みるが……。

 飛び出す罵倒の勢い良さは『されど罪人は竜と踊る』を彷彿とさせるものの、さすがに浅井ラボに匹敵するほどの毒や鬱はありませんので、B級アクション好きには程好い加減な悪趣味テイストに収まっています。ただ、続編の割に話のスケールが前回よりも小さくなっているのは如何なものだろうか? 「銃の腕前と持病の頭痛以外は何も持っていない」というほぼドン底だった前回に対し、今回は「金はないけど人間相手なら必勝間違いなしのドラゴンキラーが相棒」って状態で始まるせいもあって危機感があまりなく、後半に入るまでなかなか盛り上がらないのがマイナス。そしていざ後半に差し掛かって盛り上がってからも、アイロンの陣営に関して描き込み薄いおかげで最終決戦がいまいち燃えず、なんか有耶無耶な気分のままケリがついてしまった。具体的に何かが悪いというより、歯車がうまく噛み合っていない印象。荒削りながらスピード感のある筆致で引き込んでくれるし、シリーズとしては気に入っているんですが……3冊目のタイトルは『ドラゴンキラー売ります(仮)』とのことで、この調子で行けば年内発売かな? まだ「積極的に人に薦めよう」というところまで行かないけれど、ひとまず買い続けてみたい。

・井上堅二の『バカとテストと召喚獣3』

 今年デビューしたライトノベル系の新人の中でもっとも注目している作家の最新作。まあ、単に今年は新人をほとんどチェックしていないだけってのもありますが。いよいよ始まった文月学園の強化合宿――吉井明久は謎の人物から脅迫されたり、覗きの濡れ衣を着せられたりと散々な有り様だった。ムッツリーニこと土屋康太の調査報告によって「明久の脅迫者」と「覗きの真犯人」が同一人物であり、「どこかのクラスに所属する女子」の可能性が高いという結論が出た今、するべきことはただ一つ。既に判明している犯人の身体的特徴「尻に火傷の痕」を確認するため、女子たちすべての裸を肉眼で目視すること。彼は仲間たちとともに全裸真実を求め、立ちはだかる邪魔者を排除しつつ、脇目も振らず一直線に女風呂目指してひた走る……。

 ちょっと前なら「いま、覗きにゆきます」みたいなキャッチコピーが付きそうなストーリーでした。全身全霊、命を懸けて、たとえ立ち塞がるのが教師だろうと構わず直進し、理想郷(アガルタ)への到達を悲願とする。全編がほぼそれだけで埋まった一冊。ひたすら笑えます。確かに泊り込みの合宿というシチュエーションで「女風呂を覗く」ってのはお約束だけど、普通のラブコメならイベントの一つとして消化するのみで、丸ごと一冊引っ張ろうとは考えないだろう。徹頭徹尾アホなノリを貫いた末に幕。いくらなんでもここまでシリアス要素の欠如した内容になって別種の感動を催すとは想像だにしませなんだ。おバカなラブコメならでは脱力オチがついたのも束の間、エピローグでは急激なポルナレフ展開。先が気になって仕方ない。△関係! △関係! SHU・RA・BA! SHU・RA・BA! これで次に出る奴が本編じゃなくて短編集だというのは強烈な生殺しですねぇ。そして秀吉は当方の嫁ということでFA。

・拍手レス。

 それは確実に斬殺エンドフラグじゃないスか!?>>武士道スクールデイズ
 「ノコギリがうねった! 折れず曲がらずを常識とする竹刀に慣れた身の上にとって、この光景は――」


2007-09-09.

恋楯スレのこの遣り取りに爆笑した焼津です、こんばんは。元ネタは「ちんぽなめたい! ふしぎ!!」で検索すると引っ掛かります。

R・A・サルバトーレの『ドロウの遺産』、翻訳決定

 1巻が2008年8月、2巻が12月なのでまだ先の話ですが、『ダークエルフ物語』が大好きな人間としては「遂に……!」という感激で胸がいっぱい。『ダークエルフ物語』はD&D(ダンジョンズ&ドラゴンズ)というTRPGにある世界設定の一つ「忘れられた領域(フォーゴトン・レルム)」を背景にしたシリーズで、「残忍で偏屈、上昇志向が強く親兄弟にも容赦しない」という性格が一般的なダークエルフとして生を享けながら、穏やかで正義感の強い心を持った少年になってしまった主人公ドリッズド・ドゥアーデンがダークエルフの棲家たる地下社会から脱出し、地上で「肌が黒い……貴様ッ、ダークエルフだな!?」と差別と不遇を経ながらレンジャーとして成長していく過程を綴った冒険ファンタジー。全3巻です。4年くらい前、ハリポタの影響で海外ファンタジーへの関心が高まっていたというか昂ぶっていた時期に読んでハマりました。「主人公がダークエルフ」という物珍しさから手に取り、濃厚に漂うビルドゥングスロマンの香りと骨太な冒険活劇描写の連続に呑まれて没我した次第。

 ドリッズドのシリーズはこれ以前に『アイスウィンド・サーガ』が書かれていますが、これは時系列的に見ると『ダークエルフ物語』の後に当たる。つまり、『アイスウィンド・サーガ』を書き終えたサルバトーレが「過去に遡ってドリッズドの成長を描こう」として取り組んだシリーズ2作目が『ダークエルフ物語』だったわけです。ちなみに来月2巻が刊行予定の『クレリック・サーガ』は同じ「忘れられた領域」が舞台の五部作で、扱いとしては姉妹編になる。ドリッズドこそ顔を出さないものの、これに登場したキャラクターが後々のドリッズドシリーズに関係して来るそうな。

 『ドロウの遺産』は『ダークエルフ物語』の次に刊行されたドリッズドシリーズの3作目ですが、作中の時間に合わせて並べれば「ダークエルフ → アイスウィンド → ドロウ」の順番になります。ダークエルフは現在ちょっと入手が困難。アイスウィンドは、一番最初に訳された版が10年以上前でしかも人気があるから「ちょっと」どころではなく極めて入手困難(全巻揃いはオクに出せば一万円超える)で、3年ほど前に復刊されたバージョンは途中で刊行が止まっています。そんなわけで『ドロウの遺産』、ファンにとっては待望の翻訳となりますが、新規の読者は非常に入りづらい状況。当方もアイスウィンドは古本屋を駆け回って旧版の1巻だけをどうにか手に入れた程度で、『ドロウの遺産』はまだ読めない……正直、先にアイスウィンドをどうにかしてくれよ、って感じです。

 『ドロウの遺産』は原著が四部作で日本語版が全何巻になるか分かりませんが、このシリーズはまだまだ続きがありますので邦訳コンプリートへの道のりは遠そうだ。D&Dとかまったく知らないズブの素人たる当方でも存分に楽しめる傑作シリーズなんだから、もっと気軽に人に薦められる環境が整ってほしいナァ。

・誉田哲也の『武士道シックスティーン』読了。

「……磯山さんて、やっぱり西荻さんが、好きだったのね」
「なっ」
 急に、なにを言う――。
「ちょっと、やめてくださいよ、そんな」
「いいのよ、隠さなくたって。素敵よ、そういうの」
「河合さん……勘弁してくださいよ……」

 上記引用部に出ている「磯山」「西荻」「河合」はすべて女性キャラクターの名前。磯山と西荻が同学年で、河合が先輩。これだけ見るとなんだか百合の香りさえ漂ってくるのですが、本書は剣道部に所属するふたりの女子高生を軸にした青春スポコン小説です。『BAMBOO BLADE』『鹿男あをによし』がきっかけで女子剣道モノに興味が湧いてふらっと手を伸ばしてみました。作者は『ダークサイド・エンジェル紅鈴』という作品で一旦伝奇方面からデビューし、その後仕切り直す形でサスペンス小説を発表して再出発、『ジウ』『ストロベリーナイト』で人気を高めて一定のファン層を築くに至る。まだまだブレイクと呼べるほど話題を集めておりませんが、いずれ一発当ててもおかしくない雰囲気にはなってきています。

 磯山香織――武蔵の『五輪書』を愛読書とし、『バガボンド』全巻にも目を通している武蔵フリーク。短く切り揃えた髪に三白眼。骨を折るくらいの厳しい修行を経て、常に「斬るか斬られるか」を意識しながら戦う精神を得た彼女は正に現代の兵法者であり、周りすべてを敵と捉えていた。西荻早苗――日本舞踊から剣道に転向した変り種。独特の足捌きを有するが、勝ち負けに拘らない呑気な性格で、ただ自分の成長だけを目的に伸び伸びとした剣道を心掛けている。まるで火と水のように対照的なふたりは、高校の剣道部で顔を合わせる前に中学三年の大会で試合をしたという因縁があった。結果は早苗の勝利。自分を負かした相手は当然強敵であるべきだ――という、一種の理想を抱く香織に戸惑って「私は強くない」と言い張る早苗。やがて両者は好敵手同士としてふたたび激突することになるが……。

 先に書いておこう。磯山香織はツンデレだと。これはもう間違いようのない事実です。最初は防具付けていない脇腹に竹刀をブチ込むほどのツンっぷり(というかイジメだこれは)だったのに対し、後半では図星を差されて「素敵よ、そういうの」とダメ押しまでされてしまう域に達したデレ。途中のあたりでも「あんなやつ……」と思いながら気になって気になってしょうがなく、チラチラと動向を窺っちゃう。百合の趣味がない当方でもこれは思わずニヤニヤしてしまった。いや、別にそういう趣旨の小説ではありませんので、百合とかが苦手な人は気にせずスルーしてください。でも早苗視点で書かれる香織の可愛さは下手なエロゲーを超えているぜ……凶暴な部分も含めて。

 さて本書、剣道モノではありますけれど、剣道描写自体は割と軽くサラッと流しています。初心者が読んで「ふむふむ」と頷くような濃い薀蓄の類もあまりなかった。そのへんがスポーツ小説として読めば物足りないところかな。試合のシーンも結構あっさりしてるし。となるとやはり、読みどころは香織と早苗の複雑に屈折した友情。香織は「自分を倒したから」という理由で早苗を強い剣道家と思いたいが、実際再戦してみるとあの日はまぐれだったのかと疑いたくなるほど弱っちくて混乱する。一方、早苗は香織のことを「同じ剣道仲間」と捉え、仲良くなるため「一緒に下校しよ」と誘ってみるつもりだったのに、訳も分からぬまま脇腹を竹刀でぶっ叩かれて好意を無碍にされるどころか微塵に粉砕されてしまう。普通ならここから「参れ武蔵オタク。貴様の大事な『五輪書』とやら、今日この己が粉と砕いてくれる!」って感じでどんどん憎しみと確執が広がっていくところですが、早苗の方がとってもお気楽な性格をしているせいでケロリと恨みを忘れてしまい、また香織のことを剣道仲間と見做して親しげに声を掛けにいきます。めげない子だ。まあ、抑えつけた感情は後々になって噴出するんですけども。『五輪書』危うし。

 別に、青春小説としてもスポーツ小説としてもこれといった新味はありません。徹頭徹尾、ありがちな展開の連続と言える。非常にベタベタだ。しかしながら、適切かつ丁寧に読み手のツボを把握していて、押さえてほしい場面は軒並み押さえてちゃんと見せてくれます。ただ、「イィーッ、痛いッ」とか、文章を崩している部分が軽妙さを醸しているというよりも、ちょっと安っぽい雰囲気を出しちゃっていて脱力させられる。そこは微妙だけれど、総合的にはソツなく仕上がっていると思う。あんまりグチャグチャと派手な愛憎劇にしなかった点では好感が持てます。余計な鬱展開は一切ナシ。「著者初の、人が一人も死なない青春エンターテインメント」と謳うだけあって爽やかな読後感を残していきます。

 友情なのか百合なのかはともかくとして、因縁の出会いと再会を経由した少女たちが誰かの借り物ではない自分たちだけの「武士道」を見つけに行く流れが清々しかった。面白いというよりも、「楽しい」の一言がよく似合う小説。戦っている最中に「まるで、ペアで踊ってるみたいじゃない?」と心の中で嘯く早苗は結構神経が太い。案外イイ性格してますね。読む前はもっとこう、「優しさで溶かす」ってタイプに属する聖母マリアの如きヒロインを予想していたけれど、ぶっきらぼうで素っ気ない対応をする香織を「照れ屋」と察してニマニマするあたりはむしろ男主人公みたいですな。おかげで程好く感情移入できました。聖母マリアと言えば、↑の引用した「河合さん」は実際に作中で「聖母マリアのような」と形容されている。そのくせ一人の男を巡って別の女と三角関係を繰り広げたらしいことがチラッとほのめかされていて、想像するだに興奮してしまう。そのへんの経緯を詳しく綴った番外編、『武士道スクールデイズ』と銘打って刊行してくれませんかね?

・拍手レス。

 空気嫁のログのせいでアジフライが気管に…ゲホゲホ!どうしてくれよう。(犬江
 笑撃の刺客はネットのあらゆるところに潜んでおりまする、努々油断なされぬよう。

 「あかべぇそふとつぅ」の『G線上の魔王』、邪気眼臭がムンムンするぜ。だが期待。車輪の国はよかったし。
 タイトルのダサカッコ良さからしてもうメロメロ。ちなみに「G線上の〜」と聞くと「鼬」を連想する当方は泡坂妻夫ファン。


2007-09-07.

暁さんとメッセしてるときに読んだこのログに胃痙攣起こしそうなほど笑った焼津です、こんばんは。レスに合わせて貼るイラストがまたイイ味出してやがるぜ……。

ジョジョが米科学誌の表紙に

 特有の叫び声とか破壊の擬音がないのは残念ながら、表紙をいきなりこんな荒木イズム溢るる代物にされて戸惑う定期購読者の顔を想像するといろいろ満たされるものがあります。229のレス「荒木飛呂彦の経年変化を科学誌が取り上げたのかとオモタ」には噴いた。

・あらゐけいいちの『日常(1)』読んだー。

 最初は不定期で読切を掲載し続け、好評を博したのか正式な連載に漕ぎ着けた、ほのぼのシュールでナンセンスなギャグ漫画。先々月に出たばかりですが、10月にはもう2巻が発売される予定となっています。

 面白かった。それは確かだ。確かなんだが……どう形容しろと言うのですか、このセンスを。たとえば箸から落としたウィンナーを掴もうとしてタイミングが合わず鉤打ちしてしまい真横にすっ飛んで行って、たまたまその先で屈み込んだ男子生徒のモヒカンヘアーにぶち当たって、「終わった!」と様子を傍観していた子が思ったのも束の間、「まだだ、まだ終わらんよ!」とばかりにモヒカンを貫通してなおも飛んでいくウィンナー目指し走って追いかける女子高生の眩しい勇姿、そんなものがいっぱい詰まったこのマンガを理性的な言葉で表現する余裕は当方にありません。腹を抱えて笑うか、白けて壁に投げるか、二つに一つです。

 ってなわけで、話題になっているのは知っていたけれど面白いかどうか、いまいち判断が付かなくて購入をためらっていたこの一冊、いざ読み出してみれば見事なアタリでした。いわゆる「あずまんが」とか「ぱにぽに」とか、ああいう「女の子たちの面白おかしい日々を連作形式で綴ったマンガ」の系譜に連なる作品と言えばそうなのですが、非常にナンセンスな内容に仕上がっていて、ハマる人と冷める人の温度差が激しい。「自分がロボだということは周りの生徒にバレていない」と思い込んでいながら本当はめっさバレバレな事実に気づいていないロボ子や、その開発者であるロリ博士など、割と露骨に萌えを狙っている部分もあります。思考を停止して「可愛いナァ(*´Д`)ハァハァ」と和むこともできなくもない。

 しかし、大部分はセンスに任せたデタラメな展開と、勢いで押し切る変にエネルギッシュな演出の数々で構成されており、そこらへんで笑えるか否かの篩に掛けられる。「エロと笑いのツボは個人差が激しい」というだけに、当方みたく深夜になんとなく読んで滅茶苦茶ウケる読者がいる一方で苦笑や溜息で済ませてしまう読者もいることでしょう。とりあえず、シュールで意味不明な箇所があってもいちいち聞き返したりしないマインドは必要になりそうです。

 うっかりノートに記してしまった801系の落書きを抹消するため命を燃やして全力疾走する15話目では『ぼくらの。』のOPテーマが脳裏をよぎっていった。アンインスト〜、アンインスト〜。でもあれ本音を言えば「杏仁酢豆腐」って聞こえて仕方ない。秋桜のドラマCDにもそんなネタあったな……。

・拍手レス。

 聖水ゲー、本体は持っているもののFDの存在は知らず。しかしその為だけに新パケ買うのも…。
 FDは☆画野朗のカルマが深化 絵柄が変化していて那波すらもロリっちくなっていたのが残念でした。


2007-09-05.

・最初に話を聞いたときは鼻で笑っていたものの、予告映像を目にして俄然見たくなったヱヴァンゲリヲン、地元での公開は10月以降と知って涙目のルカと化す焼津です、こんばんは。これだから地方は……。

 ご他聞に漏れず当方もリアルタイムでEVAに熱中した世代。シナリオ集やフィルムコミックまで買い込んで頭から尻まで暗唱してみたエピソードもありました。はじめは綾波レイが好きだったけど、全国の綾波ファンがその歪んだ愛を思う存分叩きつけた作品をアンソロジーとかで山ほど読まされてゲンナリし、「綾波はもういいや」な気分に陥ったことも今となっては懐かしい。ノスタルジーに耽りながら膝を抱えて公開日まで待つとします。

『水月』のパッケージリニューアル版が10月26日に発売

 奇しくも『Garden』の発売日に合わせる形に。

 解説しますと、『水月』は2002年の4月に発売されたエロゲーで、後にCUFFSへ移るトノイケダイスケ(シナリオ)と☆画野朗(原画)を主なスタッフとするソフト。二人はこれ以前にも『Canvas』の開発に参加してますが、あれは複数ライター・複数ゲンガーであり、余人を交えず取り組んだ作品は『水月』が初となります。大枠としてはよくある学園恋愛モノながら、主人公が記憶喪失だったり、ヒロインが「山の民」の血を引いていたり○○の末裔だったり、重要なキーワードとして『遠野物語』でも触れられている「マヨイガ」が出てきたりと、全編に渡って様々な伝奇要素を散りばめられています。それでいてバトルに頼らない展開は実に渋い。なにげにカニバリズムなシーンもありますが、あっさり流しているのでドギツい印象はありません。

 伏線を拾い損ねたとおぼしき箇所がいくつもあってシナリオの完結度は決して高くなかったし、声が付いていないということで難色を示す向きもあったものの、しっとりと潤いのある丁寧な筆致で日常のこまごまとした機微を掬い取るテキストがえも言われぬ魅力を放っていて虜になるプレーヤーが続出し、特に「琴乃宮雪」という主人公のメイドへ募る人気は絶大。「控え目で/献身的で/しかし性欲を持て余している」――今考えてもなかなか奇跡的なバランスの上に成り立ったキャラです。個人的には「七変化」の花梨(ちょくちょく髪型や服装が変わる)や「黒ロングストレートは正義」な那波(その黒髪赤瞳ぶりは初音様と並ぶ美事さ)の方が好きでしたけどね。また「わはー」こと大和鈴蘭の出典も『水月』です。今のソフ倫じゃ到底攻略させてくれない幼さに、当時のエロゲーマーたちもすこぶる震撼したものでした。

 『水月』の次にトノイケと☆画野朗のコンビで『ARIA』というソフトをつくるって話もありましたが、なんやかやで流れて二人とも退社、そしてCUFFSへ移籍。夏コミで発売されたファンディスク『みずかべ』に関与したのが最後で、以降の移植等にはノータッチ、完全に「手を離れた」ソフトになってしまいます。『水月』のキャッチコピーが「だから、僕はその手を離した」だってことを考えれば皮肉というか何というか。発売当初は売上が芳しくなかったせいで一時期ワゴン行きになったこともありました(当方はその頃に購入、さして期待してなかったけどプレーするや即座にハマった次第)が、しばらくして人気や評価の高まりとともに持ち直し、生産数の少なかった『みずかべ』はプレミアが付くほどになりました。

 今回のリニューアル版には『みずかべ』が同梱されるそうだし、それで価格が7140円(税込)というならボイスレスを考慮しても悪くない。ここ数年のエロゲーはそんなに変化の激しくない分野ですから、5年半前のソフトとはいえ問題なく楽しめると思います。縦書きモードも搭載されていましてこれが案外読みやすく、なかなかしっくりと来る。なんだか書いていて久々にやり直したくなってきた。未プレーの方はこの際にチェックされてみては如何? と宣伝っぽく締めてみる。

 それにしても、「こなかな」といい「漏れ日の」といい、最近のF&Cってやけにリニューアルものが多いなぁ。

・今野敏の『虎の道 龍の門(上・中・下)』読了。

 ノベルスを主戦場にかれこれ20年以上に渡って執筆活動を続け、著書も100冊を超えるB級エンターテインメントのベテラン作家。年季の割にいまひとつ知名度が低く、ノベルスで出たっきり文庫化していない作品も結構多いです。アクションやバイオレンス、警察小説、サスペンス、冒険スリラー、SFと、娯楽小説における様々なジャンルをひと通り手掛けていますが、そのせいで却って器用貧乏な印象がなくもありません。一昨年の『隠蔽捜査』で吉川英治文学新人賞を受賞してようやく注目が集まってきた感がありますね。当方は『隠蔽捜査』以外だと『アキハバラ』くらいしか読んだことがないのですが、印象としては「華やかさに欠ける代わり堅実で読みやすく、クライマックスできっちり盛り上げてくれる作風」ってところです。

 南雲凱――詐欺師に騙されて人身売買の餌食となり、シベリアの森林地帯で苛酷な伐採作業に従事させられた過去を持つ青年。樵としてハードな仕事をこなし鍛え抜いた丈夫な肉体のみならず、天性の格闘センスまで備えた彼は格闘技団体「沼田道場」に所属するレスラーとして連戦連勝を重ねる。「金になるならどんな試合だって構わない」という言葉に偽りはなく、ブラジルでバーリ・トゥードの大会に出場したことさえあった。麻生英治郎――裕福な家庭に生まれ、大学に通う傍ら伝統派空手の道場へも通い、「この流派でいいのか、本当の空手を知ることができるのか」という疑問に駆られて協力者とともに新たな道場「輝英塾」を設立した男。金に無頓着で、道場の経営面には一切関心を示さず、ただひたすら「真の空手」を追い求めて日々型の研究に勤しんでいる。アスリートじみた体躯の選手とスポーツさながらの激しさを要求される「試合用の空手」ではなく、術理を理解すれば老若男女を問わず誰でも身に備えることができる「護身用の空手」を完成させるため、沖縄古流の型に着目した。

 力と技とタフネスをすべて兼ねたプロレスラー、術の真髄に生きる空手家。本来なら決して交わるはずのないふたりは、やがて異種格闘技大会のリング上でぶつかり合うことになるが……。

 南雲凱と麻生英治郎、対照的な生い立ちの格闘家が激突し、「いったいどっちが勝つンだ!?」という興味で引っ張っていく格闘ロマン長編。上・中・下と3冊に分かれていますが、1冊1冊が薄いせいもあって全体は700ページもありません。なのでちょっと物足りなさが残ったことも確かながら、最後まで夢中になって読める面白さがあったこともまた確かです。物語は凱の視点から始まり、章の変更に合わせて英治郎視点へ切り替える形式となっている。上巻では接点がまるでなく、中巻でそれぞれ雑誌や新聞を通じて互いの存在を知り、下巻のラストでようやく対決に雪崩れ込む。淡々とした展開ではあるものの、じわじわと熱が高まっていく構成にぐいぐい惹き込まれてしまいます。

 あくまで「格闘」が主題であって、バイオレンスが控え目になっているあたりが特徴。これが夢枕獏だったら絶対に一回はヤクザに囲まれて因縁をつけられ、たった一人で四、五人をのしてしまうシーンが挟まれるところですけれど、本書だと冒頭のシベリア脱出行以外ではそうしたB級チックな描写がない。その気になればもっと暴力が渦巻くストーリーにもできただろうに、あえてそれを抑えることにより終始一貫して「戦うことの意味」や「強さとは何か」といったテーマを描くことに成功しています。バランスの取り方がうまいんですよね。たとえば南雲凱をもっとガツガツとした、血に飢えた獣みたいに書いていたら英治郎の存在は霞んでしまうところだった。「金になるならどんな試合だって構わない」なんてセリフを嘯いて「金の亡者と化した外道」的なイメージを与えるくせに、戦っても戦ってもなかなか金にならなくて苛々する、そのツイてない感じが程好く凱のヒール性を中和しています。「こんなことしても金にならない、いっそ石油や金でも掘りに行きたい」とこぼして「いつの時代の話をしてるんだ」とツッコまれるところは特にユーモラス。暴力に対しての執着も薄く、「こんなリングの上で半裸の野郎とくんずほぐれつするなんてあー気持ち悪」と冷めた思いを抱きながら着実に勝っていく。そうしてだんだん「戦う意味」を肌で掴み取っていく凱はありがちな粗暴レスラーや寡黙で頑固一徹な巨漢キャラとは一線を画していて面白かった。

 英治郎も凱に喰われないだけの魅力を放っている。気が弱いせいで試合にもあまり勝てなかった彼は、沖縄古流空手の型に触れるうち、「大切なのは型を練ることだ」という確信を得て試合偏重の現代空手から距離を取る……つもりだったのに、「輝英塾を発展させたい」という弟子たちの熱い願いを退けることができずに押し切られて、予想の規模を超えて発展する道場に気持ちを振り回されてしまう。弟子たちも決して英治郎を軽んじているわけではなく、むしろ慕ってくれていると分かっているからこそ、「この流れは何か違う、正したい、元の方針に戻したいのに……」というもどかしい思いに苛まれる。そうした悩みを振り切るために型の研鑽を積み重ねるストーリーは地味と言えば地味だが、凱のパートとはまた違った興味が満たされるおかげもあって退屈させられません。普通、交互に視点が切り替わる小説だと「こっちのパートよりもあっちのパートを読みたいのにー」みたいな不満を抱くことが多々あるものですけれど、この『虎の道 龍の門』に限っては両パートとも非常に面白く、「こっちもあっちも早く読みたい」なんてジレンマに駆られるほどです。

 抑制の利いた筆致で格闘技の魅力を鮮やかに紡ぎ出してくれる三冊。一旦読み始めたら、あとはクライマックスまで手が止まらなくなること請け合い。全身の骨を折られても立ち上がり、血みどろの体を引きずって咆哮を上げつつ拳と拳を交錯させる――というようなドロドロのバトルシーンはないにしても、一発一発に緊張感が漲っていて目が離せません。今野敏の格闘小説は全11巻の大長編『孤拳伝』が代表作らしいので、こちらも是非読んでみたい。

・拍手レス。

 時代小説といえば、藤沢周平初心者には何がオススメですかね?
 藤沢周平ならやっぱり隠し剣。というか、藤沢作品は孤影抄と秋風抄しか読んだことがありません、すいません。

 うみねこでヴァン・ダイン?ノックス?フェアプレイ?クソくらえだ。って開き直りすげぇ。
 むしろ「うみねこ三十法」とか新しいルールでも制定する勢いプリーズ。

 腕相撲ランキング、形成(笑)が螢や神父より上という事実に素で驚いた今日この頃。
 「蟹とは違うのですよ、蟹とは」と例のボイスで言っているシュピたんが脳裏に浮かびました。

 10月26日は、俺の誕生日。神様、ありがと〜
 9月28日生まれでなくて、すいません

 自分の誕生日が来る頃には発売される……そう思っていた時期が、当方にもありました。


2007-09-03.

・三角関係新聞、略して三係新聞を購読してみたいと考える焼津です、こんばんは。連載や何やで進行中のマンガやアニメやライトノベルや新作エロゲーの修羅場を嗅ぎつけてきては逐一報告してくれるのですよ。「白昼堂々の凶行、無表情に刃物を振り回す姉」とか「体が目当ての世代――恋人の存在を忘れてよろめく主人公たち」とか。「慌てず騒がず冷静に火へ油を注ぐ――三角関係の心得十か条」みたいな大して役に立ちそうもないコラムや、「調査の結果『病むとスゴい子』の6割は清純派」みたいな根拠の怪しいデータを熟読して暇を潰したい。

Marronの『ひまわりのチャペルできみと』、プレー再開。

 やっとフラグを立てて個別ルートに入ることができたので、自転車レースも初観戦。結構長いですね。ここだけで1時間くらい掛かりました。実況の権田原天と解説の野々宮美駿がイイキャラしているというか、いくら野々宮家とはいえ頭にイルカはないだろ美駿……天(そらり)の実況は地口とパロネタが多いせいで読んでいるとレース展開に集中できないと申しますか、正直言って疲れますね。このへんに関しては声有りの方が良かったなー、と痛感。ストーリーとはまったく関係のない学園内輪ネタ(教師の誰それが不倫しているとか)が多数織り込まれているあたりは面白かったです。いやひょっとするとあそこで出てきた人たちは後々再登場するのか……?

 流行とか売れ線とかを気にしている素振りがほぼ皆無で好き勝手にやりまくっている感じが気持ちよく、もうこのまま最後まで10日イズムを貫いてほしいものです。ところで『らき☆すた』のノベライズ読みましたけど、いくらネタだからって作中にひまチャきの宣伝入れすぎじゃないっスか……物には限度があるかと。

・甲斐谷忍の『ライアーゲーム(1〜4)』読んだー。

 今年ドラマ化して話題になったマンガ。ジャンルはコン・ゲーム(confidence gameの略)であり、「ライアーゲーム事務局」なる謎の集団がプレーヤーたちに無理矢理億単位の金を貸し付けて争い合わせるという、やや強引な設定ながら、極端にゲームっぽいシナリオにしたおかげで変な生々しさもなく、単純にストーリーへ没入しやすい内容となっています。いまいち事務局の恐ろしさが伝わったこなかったりとか、登場人物たちの「追い詰められ感」が薄かったりとか……といったあたりは絶望と焦燥に満ちている福本伸行作品なんかと比較すれば少々物足りないところか。しかし、主人公となる女性が人を疑わない「バカ正直」で、すぐにホイホイと騙されてしまって「ドラ○も〜ん!」と言わんばかりの勢いで天才詐欺師に泣きつく描写はスラップスティックで微笑ましい。このへんは福本マンガにない魅力だと思います。泣き顔の似合うヒロインと「なに、心配するな。策はある」と嘯く詐欺師。詐欺師の方は凶悪な表情が似合いすぎて笑える。

 1巻の「1億円奪い合い」と2巻の「少数決」は割とシンプルなゲームになっており、複雑なコン・ゲームになることを予想して取り組むと肩透かしですが、3巻の敗者復活戦や4巻の密輸ゲームらへんから徐々にルールが複雑化して面白くなっていきます。多少ややこしいところもありますけど基本は「人と人との駆け引き」を主体としたストーリーなので、「ああ、なるほど、こういう騙し方があるわけか」程度の関心でも充分付いていけます。とにかく、長引かないのがいいですね。密輸ゲームはまだ終わってなくて5巻に続きますが、それ以外のゲームはどれも1冊以内で終了している。あまりにも展開がトロいせいでカイジシリーズを途中で投げてしまった人間にはちょうどいいペース。程好く奇抜で程好く堅実な仕上がりです。

 ただ、他の方々の感想に目を通したところ、いろいろ疑問点が多くて意見が割れているみたい(特に敗者復活戦、「リストラされたら場に1億を置く」と「Mチケットの1億を返済する」の解釈で混乱が生じている。敗者は場に1億を置いた後で更にMチケット返済の1億、つまり合計2億を出さないといけないのか、単に場に1億を置いただけで「Mチケットの返済」と見做されて負け抜けできるのか? 「負けても場に1億払うだけ」という文章も出てきましたが、これは参加者の思考であって事務局側が請け合っているわけではありません。「リストラの1億」と「Mチケット返済の1億」が同じか否か、そのへんが不明確)で、当方のようにそういうところがさして気にならない読者か、「ツッコミどころ大好き」な読者じゃないと楽しみにくいかもしれません。

 若干無理は目立つものの、騙されっぱなしだったヒロインが徐々に主人公としての性質に芽生え始めてくる過程は面白い。ヒロインの造型が「いかにもお人よしで、放っておけばカモにされるバカ正直人間」でなければ、たぶんこのマンガにはそれほど惹かれなかったはず。彼女の間抜けぶりが話に丁度いいメリハリをもたらしている。5巻は今月の19日頃に発売ということ。再来週を楽しみにしよう。

・拍手レス。

 沙耶もいることだし気になるけど、昨今のコンボゲーに嫌気がさしている人間としては手が出しにくいですなー
 当方は派手な必殺技が気持ち良く決まりさえすればそれでいいや、な「コンボ系も読み合い系も苦手派」です。

 ディエス延期に同志軍曹達が泥水をすすり耐える中、ロスクリの長靴と被らなくてホッとしてる裏切り者の俺
 (続き)です。いや、やっぱ2本は年取るときついし・・・。

 長靴は紹介ページやデモを見てもなんだかピンと来ない……でもwebコミックは地味にツボ。

 ブロッケンブラッドと紅の新刊が9月に出るとの噂が
 紅は10月以降ですね(公式サイトの予定表)

 延期/(^o^)\ 給料一杯だから余裕だっぜ。とか思ってたらぁぁorz 脳裏に浮かぶ、らきすた13話
 のアニメ店長が浮かびます。 フェイントでしたぁぁぁ→あああぁぁぁぁっ!!!

 「怒りの日、迫る」→「高まる期待」→「怒りの日、遠ざかる」の鮮やかな3hitコンボゥ!!(サイバーボッツ風に)

 lightスタッフ日記(8/16)に、ナチ軍団腕相撲ランキングなんてあったんですね。
 カニ4位とか、ゾーネンキントにしか勝てない水星さんとか、見所あるなあ。

 当方と同じ星座の人は9位かぁ……朝の占い並みに微妙なランク。

 HxH連載再開事件がこの後発生するコトを思うと、凄まじい既知感っぷり。
 ハンタハンタもまた獅子の鬣の一本。思い返してみるにつけ鬣のなんと多いこと……。

 Dies Irae延期と聞いて、ロスチャの二の舞になる未来を幻視した今日この頃
 末期、少女病と同じ轍を踏みさえしなければ構いませぬ。

 富樫が書くんだからほかの作家も書いて…、両手じゃ足らないんですけど…。
 両手に余る悲しみを踏み越えて人は引き返せぬヲタとなる。

 十年前格ゲーにはまってたとおっしゃる焼津さんにはこちらをー!→
 →(ニコニコですが)http://www.nicovideo.jp/watch/sm501294

 「ねお☆じお」にちょっと笑いました。ネオジオCD所持してましたけど、ロードがクソ長くて合間に『樽』とか読んだりしたなー。


2007-09-01.

・悲しいお報せがあります。

lightの新作『Dies Irae』、発売延期(9月28日→10月26日)

 こうなることを当方はあらかじめ予測していましたけど、だからと言って爽やかに笑って許せるものだろうか?

 否、断じて否。

 心境はまさに「ギャー、なぜ延期しやがったー」。嘆いても仕方ありませんので足の痺れを我慢して待ちますけれど、これでまた延期でもされたら恨みが骨髄通り抜けて霊髄を回しちゃいますよ。って自分で書いてて切なくなってきた。

 一応解説しますが「霊髄」は『ソウル・アンダーテイカー』の用語。「ここから比呂緒の伝説が始まる――」というストーリーで丹念な描写が結構面白いのに、始まっただけで全然続かない、現時点において1冊きりのライトノベルです。ハンターハンターも再開するんだからこれとダブリも再起動してくれんかのぅ……。

・島田荘司の『最後の一球』読了。

 リンク先を見れば分かります通り、表紙にはボールを投げた直後のピッチャーが描かれています。このタイトルと来てこの表紙と来れば当然中身は野球関連、少し前に『DDD2』で投手と打者の一騎打ちに焦点を据えた「S.vs.S」を読んでるからタイミング的にはバッチリだぜー、といった具合に棚から引っ張り出して着手した次第。一応、御手洗潔シリーズの最新長編ではありますが、内容的には番外編です。時代も少し過去に遡って1993年の夏、時期的には『ロシア幽霊軍艦事件』の後に当たる模様。最近の御手洗モノは過去エピソードばっかりだなぁ、と思いつつページをパラパラめくっていきました。が、なんか持ち込まれた事件は全然野球と関係ないし、あっれー? 首を傾げながらなおも進めると、事件現場に硬球が転がっているのを発見して、そこからようやく「最後の一球」にまつわる物語へと流れていきます。以降御手洗と石岡の出番はほぼ消失し、今回彼らは前座というか端役みたいな位置付けであることが判明する寸法。

 悔いを残さぬよう、すべてを篭めた一球だった――借金苦によって父が自殺し、母とふたり金銭的に貧しい家庭で暮らすことを余儀なくされた「ぼく」にとって、野球だけが唯一の生き甲斐だった。いつかプロ野球の選手になって、母に楽な暮らしをさせてやる。そればかりを念じて、ひたすら努力に努力を重ねた青春。しかし、プロへの道はなかなか開けない。幾度となく諦めの気持ちが襲い掛かってきたが、それでも何かに縋りつくようにボールを投げ続けた。球速はいまひとつで球種も乏しいが、ただ一つ「精確無比な制球力」を武器とするぼくに、天性のスラッガーにして野球界のスパースターとなる素質を持った男が「バッティング投手にならないか」という話を持ちかけてきて……。

 「青春は野球とともにあり、野球以外に何もなかった」と言わんばかりの環境が「S.vs.S」のシンカーとダブって見えてしょうがありませんでしたが、こっちのピッチャーは変化球を投げるのが苦手みたいでいまひとつ地味なキャラクターに映ります。もともと野球に関しては詳しいないのでテキトーに理解したフリをしながら読み進めていきましたが、腐っても島荘、きっちり読み手を引き込むエネルギーは発揮してグイグイと最後まで引っ張ってくれる。260ページ程度で比較的短いサイズの本とはいえ、休まず一気に読み通せるような勢いを出してみせるのだから大したものです。

 「野球ミステリ」という先入観に反して、ミステリの要素はほとんど皆無に等しかった。いっそ御手洗たちを登場させずにピッチャーとバッターの友情ストーリーに徹してもよかったのではないか、と思わなくもないが、それだとたぶん読者が引っ掛からないから仕方ないか。消費者金融等の問題を取り上げて社会派チックな側面も築いており、ちょっと作者の主張が前に出すぎてラスト付近はクサさが鼻に付くものの、同時に「やっぱり島荘はこうでなくっちゃ」という感想を抱いてしまう自分はなんだかんだで彼の作風がクセになっているんだろうな。いろいろと限界を感じる部分もあるにせよ、たまに読むと和みます。今回は穏やかな語り口調が雰囲気とうまくマッチしていて心地良かったです。途中の試合描写では結構ハラハラさせられたから、いつか本格的なスポーツものを書いてほしいなぁ、とも思ったり。

・今月の予定。

(本)

 『ウォッチメイカー』/ジェフリー・ディーヴァー(文藝春秋)
 『ゴルゴダ』/深見真(徳間書店)
 『黒博物館 スプリンガルド(1)』/藤田和日郎(講談社)
 『少女ファイト(3)』/日本橋ヨヲコ(講談社)
 『鉄球姫エミリー』/八薙玉造(集英社)
 『ウォーハンマーノベル(1〜3)』/ジャック・ヨーヴィル(ホビージャパン)

 今月は火坂雅志の『虎の城(上・下)』が文庫落ち。NHK大河ドラマ化が決定した『天地人』よりも読みやすく且つ骨太なストーリーに仕上がってますので、火坂作品を読んだことがない人には大プッシュしたい。藤堂高虎を主人公にした戦国時代小説。当方もこれが初読で火坂にハマりました。既に発売中です。冲方丁の大長編『ばいばい、アース』の文庫版第1巻も先月から延期して今月に発売予定。荒削りですが、今の冲方とはまた違った魅力に横溢しています。それと、映画化が進行している雫井脩介の『犯人に告ぐ』、劇場型犯罪に対抗すべく劇場型捜査に乗り出す刑事小説ですが、これも上下巻で文庫化。緊迫感溢るるタッチで引き込まれます。ハードカバーのときは横山秀夫、福井晴敏、伊坂幸太郎の三氏が揃って絶賛して話題になりました。新作の『ビター・ブラッド』は今読んでいるところ。

 『ウォッチメイカー』は作者がディーヴァーで出版社が文藝春秋、そう、リンカーム・ライムシリーズの最新刊です。ディーヴァーはたまにイマイチな作品も書きますけど、ライムシリーズに関してはガチなので期待が沸き上がるばかりで一向に鎮まらない。海外モノは他にマイクル・コナリーの新刊『クローザーズ』も要注目。『ゴルゴダ』は深見真にとって初となるハードカバー。『アフリカン・ゲーム・カートリッジズ』はソフトカバーでした。ジャンルは軍事だか戦記だかよく知らないが、とにかく最近の深見はいろいろと吹っ切ったのか滅法おもろくなってるので買う。『黒博物館 スプリンガルド』はファン待望の新シリーズ。きっと全編に渡ってひとしきりジュビロ節が炸裂して我々のハートを粉微塵にしてくれようぞ。女子高生たちのバレーボールを描いた『少女ファイト』はあんまり話題になっていない気もするが、個人的には「なんでこんなにゾクゾクするのだろう」というくらい鳥肌三昧のマンガ。今月はSTBやセンゴク、みなみけ、もっけ、絶望先生、パンプキンシザーズ、Over Drive、ブリザードアクセル、ハチワン、 大東京トイボックス、ブロッケンブラッド2、ユーベルブラット、BAMBOO BLADE、よつばとなどなど、えらい勢いで良作マンガが押し寄せてくるんだから大変だ。当方震撼。

 『鉄球姫エミリー』はスーパーダッシュの新人賞作品で、挿絵が恋楯の瀬之本久史だからチャレンジしてみようかと。アタリだったらいいんですが……。ジャック・ヨーヴィルはキム・ニューマンの別名義であり、「ウォーハンマー」というTRPGの世界観をもとにして書いたそうな。三部作のうち『ドラッケンフェルズ』は一度翻訳されてますが、残りの『吸血鬼ジュヌヴィエーヴ』と『ベルベットビースト』は今回が初訳。ニューマンのドラキュラ三部作は大元の『吸血鬼ドラキュラ』自体を読んでないためスルーしましたが、その評判に関しては気になるところがあったのでこれを好機と捉えて買ってみるつもり。他にジャッチ・リッチーの新刊『ダイアルAを回せ』や佐藤友哉の『世界の終わりの終わり』、佐々木譲の『警官の血(上・下)』、垣根涼介の『借金取りの王子』、藤原伊織最後の長編『名残り火』などがありますけど、さすがに買い切れないのでいくつか見送りするかもしれません。

(ゲーム)

 なし

 泣不動の如く血涙を流してじっと耐え忍ぶ当方の姿からすべてをお察しください。

 抑えのソフトとしては一応『姫さまっ、お手やわらかに!』あたりをチェックしてます。体験版もやってみましたけど、口先だけの喧しい姫君(CV.金田まひる)が最高に憎たらしくてラブリィな反面、話の方はあんまり盛り上がりそうな気配がなく微妙。「なんとしても続きが見たい」という衝動に駆られないため、ちょっと迷っています。んー、ひとまず様子見か。

 そういえば、月末はニトロプラスのヒロインたちが骨肉の争いを繰り広げる対戦格闘ゲーム『ニトロ+ロワイヤル−ヒロインズデュエル−』も一般販売されるらしい。十年前まで格ゲーにハマっていた一人として買っておこうかな。値段にもよりますけど。

・拍手レス。予想通り嘆きの声続出。

 Dies Iraeのスレって腹の探りあいばっかでウザいと思わね?
 そうですか? 流し見状態なこともあって特にそうした印象は受けませんが……。

 「アーネンエルベの1日」聞いたー ジョージの渋さは異常。そして観光客ni
 ヴァー 打ち間違えた。とにかく観光客には噴いた、お ま え か。 あと月姫勢出番多めで満足

 そういえば『月姫』のリメイクが出るとかいう話はどうなったんでしょうね。

 『Dies irae10月26日に発売延期』 やっぱりな〜 わかってたよ、うん。 わか………畜生
 来ると分かっているパンチでも喰らうと痛い。

 dies irae延期……! だがまだまだ慌てるような時間じゃない…筈!
 次あたりから慌てる気力もなくなると予想。

 ヤバいです。文学少女5巻のせいでMY BEST小説ランキングの一位が二位に転落した。
 さすがにそろそろ崩そうかな……いやあえて完結まで待つか。

 []
 スクウェア?

 Dies延期に毎日がもう怒りの日。これで半端な出来だった日には……
 憤激の域を通り越していっそ悟りが開けるかもしれません。

 怒りの日……、いや、もう何も言うまい……
 オレたちはようやく登りはじめたばかりだからな、このはてしなく遠い怒り坂をよ……(未完)

 UWAAAAAAここにきて延期って…。lightめ、やってくれたな…! くやしいのうwwwくや(ry
 ギギギ……おどりゃlight、マスコットキャラにあんな格好させたからってワシらの溜飲が下がるとでも……だいぶ下がったけど。


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