2007年6月分


・本
 『人類は衰退しました』/田中ロミオ(小学館)
 『酸素は鏡に映らない』/上遠野浩平(講談社)
 『君に届け(4)』/椎名軽穂(集英社)
 『MONOクロ』/糸杉柾宏(秋田書店)
 『照柿(上・下)』/高村薫(講談社)
 『オイレンシュピーゲル弐』/冲方丁(角川書店)
 『鋼殻のレギオス(1〜6)』/雨木シュウスケ(富士見書房)
 『キマイラ青龍変』/夢枕獏(朝日ソノラマ)
 『聖餐城』/皆川博子(光文社)
 『僕僕先生』/仁木英之(新潮社)
 『キスとDO-JIN!〜お兄様はTAXフリー!?〜』/小林来夏(学習研究社)
 『水上のパッサカリア』/海野碧(光文社)
 『鴨川ホルモー』/万城目学(産業編集センター)
 『アキカン!』/藍上陸(集英社)

・ゲーム
 『恋する乙女と守護の楯』体験版(AXL)

・映画
 『300(スリーハンドレッド)』


2007-06-29.

・通販で届いた『恋する乙女と守護の楯』をやり込むために更新をサボりたいんですが構いませんねッ!

 と半ば本気で言ってみる焼津です、こんばんは。とりあえず体験版でプレーした範囲をザーッと流して本編を3時間ほど堪能しましたが、感触はまずまずといったところ。良くも悪くも体験版の印象を裏切らない。「主人公が女装して女子校に潜入する」という設定を活かしてこちらをニヤニヤとさせ、あわや正体がバレそうになるドキハラ感も味わわせてくれる一方、テキストはあっさり風味で説明が少なく物足りなさを覚えます。「消火器」を「消化器」、「必死」を「必至」などといった誤変換もありますし文法もたまに怪しかったりして、簡潔ではあるがやや丁寧さに欠く――といった印象かな。

 まだ序盤ながら戦闘シーンもチラッとあって、これは好感触。バトル描写自体は格別燃えるとか、そういう内容じゃなかったものの、カットインCGをテンポ良く駆使して楽しませてくれました。本作の長所を挙げるとすれば何より「くどくない」ってところでしょう。一つ一つのシーンが程好い分量に収まっていて、だるさに悩まされることなくサクサクと進められる。ストーリーに「護衛対象の命を守り抜く」という明瞭な任務が掲げられているおかげで目的を見失わずに集中していられる点もグッド。キャラクターの個性も割に立っていますから、今後よほどひどいシナリオ展開でもないかぎりは安定した面白さを保つことができるものと予想されます。「テキストが物足りない」とは申しましたが、作品のコンセプトをしっかりがっちりと把握し、それに沿った仕事ぶりを見せてくれますので、現段階ではまだ断言しかねるけれど、「少なくともハズレではない」とは請け合えそうです。

 主人公の山田妙子(変名。本名は如月修史)が「男でもいい!」と叫びたくなるくらい可愛いことは既に散々発言したので今回は言及をオミットしますが、それ以外では有里がメキメキと魅力を発揮してきておりますな。体験版の時点でも結構気になる存在の子だったけど、製品版ではますますラブリィに。ツンデレお嬢様の雪乃は青山ゆかりボイスということもあって鉄壁だ。鉄壁すぎてむしろコメントに困る。しかし、今までいろんなツンデレキャラを演じてきたというのになおも聞き飽かせないあたり、ゆかり声が持つポテンシャルは青天井かも。青山だけに。蓮、鞠奈、設子らへんは横這い。個人的な好みもあるけれど、三人はまだ「このキャラならでは」といった色を出してない感じです。今後に期待。体験版には出てこなかった「妹」の優は主人公に冷たくされても「めげない・挫けない・諦めない」の三拍子を貫く根性と愛嬌のモンスターで、キャラ的にいまひとつ地味なせいかあまり目立ってないとはいえ美味しい位置付け。全体の配置もバランスが取れているし、キャラクター面は問題なしですね。

 詰まるところ、心配なのはシナリオか。護衛任務というハッキリとした、もっと書いてしまえば「ハッキリとしすぎた」ストーリー目標が据えられていることにより目的を見失うことはないのだけれど、どうしても先の展開が読めてしまう。読めるたって、まだ攻略中である以上、当たっているとも限らないわけですが。それにしたってやっぱり設子は怪しいよなぁ……誰が見たって。もし彼女が裏切る展開とか来たら「設子! それ銃(オハジキ)やないか!」と定番ギャグを言う気ムンムンですよ?

・藍上陸の『アキカン!』読んだー。

 ある日、自動販売機で買った缶ジュースに口を付けたら、なんとそれが女の子に変わってしまった――という自然な流れで「ヒロインとのいきなりなキス」を演出する擬人化ラブコメです。そう、ヒロインは空き缶の精霊。飲み終わったらゴミ扱いでポイ捨て、拾われてもスクラップされた後に再利用される存在。破壊と再生、果てしない輪廻のサイクルから魂が誕生したとか何とか、まぁそんな理屈で進んでいきます。擬人化モノはもうだいたいバリエーションが出尽くして袋小路に入り込んでいる印象で、ハッキリ書けば「空き缶なんて萌えるわけないだろ……常識的に考えて……」な感じではありますが、「缶に口を付ける=キス」や「ジュースを飲む=体液(?)を吸う」という式が成り立つことから、なにげにエロティック。このへんを活かした序盤はなかなか笑えてよろしかったです。ドタバタ系のラブコメとしては、思ったよりもアタリだった。

 何より凄いのは主人公のおバカさ。どれくらいおバカかと申せば、それはもう『つよきす』のフカヒレにうっかり主人公属性を与えてしまったんじゃないかと疑うほど。

 大地カケルは処女が好きである。
 むしろ処女以外は大嫌いである。
 なんなのだ。あの非処女という生き物は。オレ以外の男とねんごろにしやがって。穢らわしい。話しかけてくるな。見たくもないわ。ハンッ!
 (中略)
 処女以外の女など抱く気にもなれぬわ。むこうから誘ってきてもノーサンキューよ。「非処女でもいい」なんて言ってる野郎っていったいなんなの? 変態なんじゃないの? ぺっ。

 「抱く気」も何も、主人公は童貞です。間違いありません、だって自分で「童貞だからって馬鹿にしやがって!」と叫んでいますから。ライトノベルでここまで堂々と処女厨宣言をかましている主人公は見たことがない。「――オレさ、処女ってもっと評価されていいと思うんだ。だって、世の乙女たちはみんなオレに抱かれることを夢見て貞操を守ってるわけだろう? いじらしいじゃないか。なあ?」というセリフは完全にフカヒレ声で脳に響いてきました。こんな奴でもメインヒロイン以外に幼馴染みの子とフラグが立っていてちょっと修羅場ったりするんだから、フィクションの世界はホーント都合がいいぜ。

 しかし、ライトノベルの常か、半ばに差し掛かったあたりからやや無理矢理な調子でバトル展開が始まる。アキカン・エレクト――エレクトは「勃起」ではなく「選択」の意味ですが、要するにアルミ缶かスチール缶かどちらか一つに規格を統一しようと缶精霊が殺し合いを繰り広げます。誇張ではなく、文字通りの殺し合い。一度殺された缶精霊は決して甦りません。ラブコメのくせにやけに殺伐としたムードが漂い、このギャップが埋められないまま「つづく」となっているところは少々後味が悪い気も。「インポ計画」とか、肝心の陰謀が間抜けすぎるネーミングで締まりがないのも陰惨さと裏腹でリアクションに困る。締まりと言えば黒幕がガチホモで、割合シリアスなシーンなのに「久しぶりに肛門括約筋がうずいてきたよ、フフフッ」と怪しい笑みを浮かべるのはどうよ。いっそバトルも含めて全編おバカなノリを貫き、ベタベタで中身のない、それこそ「すっからかん」のドタバタラブコメに徹した方が良かったのではなかろうか。どうもアンバランスです。

 せっかくの極上バカが主人公でシモネタもバンバンだったのに、バトルやらシリアスやらで熱血モードに入ってしまって普通に活躍しちゃうのは残念でした。熱血は嫌いじゃないんですが、ギャップが激しすぎて違和感を拭い切れません。強引なバトル要素さえ受け入れてしまえばあとは問題なく楽しめる仕上がりになっており、決してダメな作品じゃないんですけどね……うーん、やっぱり惜しい。続刊の予定はあるみたいですから、次に期待をかけるとしますか。

 ちなみに、本書のイラストを手掛けているのは鈴平ひろ。鈴平で缶ジュースと言えばこんなのが。

・拍手レス。

 lightのスタッフ日記で「ディエス発売日確定」の報が。夜が…明けたのか…?
 信じて今は待つのみ。

 28日は怪物王女でしたね。漫画版で全俺が大興奮。やっぱ血じゃなきゃっ!
 1巻しか読んでませんが、「見えざる敵」との戦いを描いたエピソードに白熱しました。


2007-06-27.

・川上稔の日記にあるぼくがかんがえた『魔法少女リリカルなのはPATRIOT』に胃痙攣起こしそうなほど激しくウケた焼津です、こんばんは。

 各話タイトルを見ただけで震えが走る。こんな調子で放映されていったらそのうち金髪ツインテの切断魔(チョッパー)と赤毛の撲殺娘(ミンチメーカー)が荒んだ雰囲気とともに現れて「化け物だろうが人間だろうが五体バラバラに刻んで……」「潰して混ぜちまえば分かんねぇんだよぉっ!」と容赦なく肉の錬金術を行使しそうな危ない予感がボルケーノ。

 ちなみに当方もなのはに関しては断片的に聞き及んだのみで鑑賞したことはありません。

・恋楯こと『恋する乙女と守護の楯』発売まであと2日。AXL恒例の嘘粗筋、これまでのネタをおさらいしますと、

 ヘルシング → ビューティフル・ドリーマー → ネギま! → フルメタル・パニック! → らき☆すた → ハヤテのごとく!

 なぜかエクスクラメーション・マークの付くタイトルが多いけれど、要するに「マンガないしライトノベルを原作としたアニメ」という点ですべて共通しています。なら、今日のネタはだいたい読めたな――と誰しもが自信満々に様々な予想をかましておりました。

 まさかこれが来るとは。

 大番狂わせもいいところ。読めぬ……傾向が、全く……。アニメ化してるとはいえ、普通に知らない人も多いと思います。やってくれるぜ、せのぴー(AXLの原画家・瀬之本久史の愛称)。明日は何がパロられるんだか、気になってしょうがない。

・万城目学の『鴨川ホルモー』読了。

 作者名は「まきめ・まなぶ」と読みます。第4回ボイルドエッグズ新人賞受賞作。先の本屋大賞で6位に選ばれ、デビュー作にしては割と注目を浴びました。2作目の『鹿男あをによし』も話題になっているみたいです。ボイルドエッグズ新人賞は「お金(エントリー料)を払って審査してもらう」という異例の制度を設けた賞であり、今までのところ6回まで審査が行なわれ、うち出版に至ったのは3冊だけ。『本格推理委員会』と、『コスチューム!』と、これです。知らない人も多いと言いますか、むしろ知らない方が普通なのでは? ホルモーの前に刊行された2作は既に読んでおりますが、「面白いところもあるけど強くプッシュする気はしないかな」といった感想で、以後はこの賞もスルーに処すつもりでいました。が、個人的に好きな作家である森見登美彦が日記で取り上げたのがきっかけで逸らしていた目を戻した次第。ちなみに手加減して殴っているシーンはこのページの下らへんにあります。ふたりとも京大出身ってことで、なんだか後輩いじめをしているような写真ですが、実は万城目の方が年上だったりする。

 ホルモー、それは京都に伝わる「隠された」競技――1000年の長きに渡って営々と受け継がれてきた伝統のお鉢が回ってきた主人公たちは、「これって何の冗談だろう?」と最初は思いつつ、しかし真相が明らかになるにつれ、引き返すことができずにずるずると飲み込まれていく。恋に勉学にホルモーにと大忙しな日々。やがてホルモーの秘密に触れ、本当に引き返すことができなくなっていく主人公だったが……。

 「ホルモー」という架空の競技を題材にした青春小説で、ノリはちょっとスポコンっぽいかな。ライトノベルにありそうな内容ながら、主人公が高校生じゃなくて大学生になっているところが若干物珍しく新鮮だった。「ホルモーとは何か?」をくどくどしい文体で綴る冒頭といい、サムいのかおもろいのかいまいち判断に困るギャグといい、店頭でパラパラと拾い読みしたときは「本当に大丈夫なのか、これ?」と心配になったものの、腰を据えて読み出したらこのくどさや微妙なサムさが心地良かったです。不思議。どうも個々のネタが云々っていうより、流れがイイんですね。ホルモー自体はそんなに面白い競技というわけでもなく、描写もかなりあっさりしていますが、「いざ実戦」という場面に差し掛かるまで全体の1/3を費やしてゆっくり外堀を埋めていくあたりは新人らしからぬ域に達した焦らしのテクニックを窺わせる。のんびり、着実に引き込まれます。

 詳しいことは書きませんが、ホルモーは大学間で行なわれる競技のため、主人公たち京大生の前には京産大、龍谷大、立命館大といった実在する大学の名前を関した学生たちが立ちはだかります。この、フィクションの中に少しだけリアリティを混ぜ込む感じがスリリングでちょいワクワクしました。「みんなで力を合わせて頑張ろう!」みたいな、一致団結を旨とする競技でもありますから、現実離れした特殊な内容ながらもごく単純にスポコン的な面白さが味わえる。しかし、「友情・努力・勝利」みたいなオールドジャンプじみた熱血には終始せず、物語は思わぬ方向へと突き進む。先の読めない展開。そこに入ってからは、ぐいぐいと読んでいけます。反面、そのへんからだんだん話が綻び始めても来ますけど。クライマックスはツッコミどころ満載。予想したよりもストーリーが広がらず、内側に収束して小さくなっちゃうのも惜しかった。ハッキリ書けば京大以外の三大学が非常に印象希薄で残念でした。「1000年間、2年に1度の代替わりを経ながら続いてきた伝統ある競技」であり、「各大学10名ずつ、総勢40名が鎬を削る」と、数字を見れば壮大な設定でもあるし、「ああ、こうやって先輩から後輩へバトンが渡されていくのだなぁ」などとサークル経験のない当方なんかはやけにしんみりしながら読みましたが……やはり、「第十七条」がどうのといったあたりから無理矢理な雰囲気が目立ってしょうがなかった。

 ヌル〜いテイストで大学サークル生活を疑似体験する、スポコン風青春ストーリー。キャラが物凄く個性的&魅力的というわけではないにしろ、人間関係がシンプルに線引きされているおかげもあって最初は誰が誰だか見分けがつかなかった人物もだんだん見分けられるようになってきます。いや、最後まで「誰だっけこいつ」な奴は一人二人いましたけども。うーん、とにかく、「ヌル〜い」のが強味でもあり難点でもある一冊。なんか肩肘張らずに読めるものが欲しい、というときにはうってつけです。まだ「ハマった」とまでは行きませんが、少しずつ万城目が気になってまいりました。

・拍手レス。

 良かったです。物語に引き込まれました。また修羅場もの(?)を読みたいです。
 ありがとうございます。修羅場モノは面白い題材があったらまた書きたいですね。

 新ジャンル「僕僕先生」・・・タカヒロならやってくれる。そう思ってた時期が僕にもありました
 それでも次回作なら……次回作ならきっと何とかしてくれる……

 ここまで延期したんだから、きっとルサルカルートが追加されているはず……っっ!
 タオルまで売っておいて萎えるオチつけるはずはない、と思いたい。切に。

 嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん」買って読んでレビュー書いてめぐるに勧めて
 「毒めぐさんなら薦めるまでもなく読む」に500ガバス。


2007-06-25.

・しばらく行ってなかったあたりの並木道を通ったら、木々の葉が異常に繁茂していて正直ヒいた焼津です、こんばんは。冗談じゃなく「緑天」と形容したくなる光景で、昼なのに仄暗くて癒されるどころか薄気味悪さを覚える始末。言い回しとしては「緑溢れる」とかよくあるけれど、溢れない程度が丁度いいと思います。

lightの新作『Dies Irae』、発売日予定が9月28日に決定

 信じてもいいんですよね……?

・海野碧の『水上のパッサカリア』読了。

 第10回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作。作者名は「うみのみどり」かと思ったら「うみのあお」でした。日本ミステリー文学大賞は第1回の頃から知っておりますが、新人賞の受賞作を読むのは第6回の『アリスの夜』以来であり、これが2度目。大層な賞名を掲げている割にこれまでのところ大きくヒットした新人は出ておらず、正直に申してしまえばミステリ読者からの注目度もあんまり高くないのでは? ほとんどチェックしていませんから得意げにあれこれ語ることはできませんが、『アリスの夜』は「面白いけど一般受けはしないだろうな」という印象でしたし。ともあれ、本書はタイトルの響きが良かったことと、北村薫の評(読後、思わず、「パッサカリア」のCDを探し、かけてしまった。要するに、そうさせるだけの作品であった。)が気になって手を伸ばした次第です。この前に店頭で見かけたときも「大増刷!」みたいな帯が巻いてあったので、巷でも注目されている様子。

 片岡奈津――入籍せず、「内縁の妻」という扱いだったので、勉の苗字である「大道寺」を名乗ることはなかった。高校中退後、ろくでもない男に騙されて家出を果たし、以降数年に渡って延々と男運に恵まれなかった奈津は、勉との穏やかな日常を享受しつつも「いつかは終わる幸せ」とばかりに一歩引いていて、なかなか心からの笑みを見せようとしなかった。彼女を喪って三ヶ月。翡翠湖のほとりに建つ、思い出の詰まった貸し家で暮らしていた勉のもとに、昔の「仲間」たちが訪れる。始末屋――弁護士を営む斯波をリーダーに据え、合法・非合法に関らずあらゆるトラブルを解決してみせる集団。かつてその一員だった勉に、ふたたび仕事をしないかと誘いかける斯波。彼は、奈津が死んだのは単なる事故ではなく、服部という男が黒幕となって仕掛けた計画的な犯行だった、と告げる。服部は、始末屋が自分の息子を破滅に追い込んだことを恨んでいると云う。「どうだ、弔い合戦といかないか」 そんな斯波の言葉に、「暇潰しにはちょうどいい」と嘯いて、足を洗ったはずの始末屋稼業に復帰する勉だったが……。

 冒頭、既に亡くなっている女性・奈津を巡る主人公の回想が繰り広げられるんですが、これがまた長い。次から次へとエピソードが投入されて終わりが見えません。「おいおい、やけに未練がましいオッサンだな」と辟易しつつ、いつまで続くのかと思ったら、なんと第一章を丸々使い切った。喪った女への鎮魂歌的な独白を連綿と綴り込んだ、いわゆる中年男性向けのセンチメンタル・ハードボイルドなのかと、率直に言って少しゲンナリしました。しかし、しばらく読み進めてみて「始末屋」の話題が絡んでくると雰囲気は変化し出します。ハードボイルドと見せかけて、実体はクライム・ノベルに近い。それも、B級テイストが濃厚な奴。「服部に命を狙われている」と聞かされた主人公は

●敵を知る。
●あらゆる事態を想定して、万全の準備を整える。
●攻撃は最大の防御である。

 という三つの信条に従って抜かりのない行動を開始します。いかにも海外のアクション映画みたいな展開で、「ここからは緊迫感溢れるシーンの連続なんだろう」と予想してしまいますが……驚くことに、この『パッサカリア』は緊張感と無縁のストーリーに仕上がっている、世にも希なクライム・ノベルなんです。まず文章からして実にのんびりしている。本を開けば分かりますが、紙上一面に渡って字がビッシリと改行少なに埋め尽くされており、B級めいたあらすじを裏切って非常に密度の高い描写が全編に行き渡っている。とても丁寧できめ細かく、しっとりと読み進めていく分にはなかなか楽しい。反面、疾走感に乏しく、結末を求めて読んでいると「なんつーくどさだ……」って具合に顔をしかめるハメになる。一長一短です。個人的には「言い回しのセンスがちょっと現代的じゃなくて時代を遡っている」という印象を受け、いまいち没頭することができなかった。ジョークも冴えているとは言い難い。ノリに馴染むことができればどっぷり浸れる文章なんでしょうが、馴染めない当方には少々、いやハッキリ言ってかなりかったるい。どう考えても三十代や四十代の文章じゃない、作者は五十代くらいの人だろう、と思って奥付を見たら1950年生まれ。納得しました。

 そんな調子でうまくハマれなかったながらも、始末屋のリーダーなくせして賭博狂でスッカラカンどころか借金まみれの斯波だとか、犬好きが昂じすぎてランク付けが「女<仕事<犬」になってしまっているヤクザだとか、穏やかな性格をしているようでいて結構えげつない主人公とか、キャラクターの個性は際立っていて面白いです。出だしで「センチメンタルな男」という印象を与えておいて、だんだんクレバーな奴だということが分かってくる流れは自然で巧い。犬好きヤクザもイイ味出しています。それに、文章は「かったるい」と思ってしまいましたけど、ストーリー構成はカッキリしていて分かりやすく、ギブアップせずに最後まで付き合うことができました。途中までは「微妙かな」という感想だったものの、クライマックスに差し掛かっていくつかの真相が見えてくると俄然面白くなる。砕けた空気が払拭されるどころか相変わらず緊張感のない、けど妙に盛り上がってしまう変テコな展開で、これはもう「オフビート」と称してもよろしいでしょう。ユーモラスというより締まりがない。なのに最後の最後はキレイにまとまっていて、胸に迫ってくるものがある。北村薫が述べたみたく、「パッサカリアを聴いてみたい」という気持ちが本当に湧き上がってきますよ。

 文章に馴染めてなくて「読むのやめようかな……」と溜息をついていたのに、我慢して結末まで読み通したら、なぜか感動が待ち構えていた。不思議な小説です。張り詰めたムードはないし、いっそ「間抜けだ」と笑い飛ばしたくなるラストなくせして、勝手に心がしんみりしてしまう。なんとも形容しがたい一作。普通、文章が気に入らない小説というのはあらゆるところが悪く見え、よしんば面白いところがあっても「惜しい」と思ってしまうところなんですが、これに関してはまったく「惜しい」とは感じなかった。たぶん、いろんな要素が密接かつ不可分に結びついていて、「ここがいい、でもあそこが悪い」みたいな評価が向かないタイプなんでしょう。人によって毀誉褒貶の差が激しそうな本でした。ハードボイルドではなかったけれど、対象年齢層は中年以上な気がするので「オッサン向けの小説」とは言えるかもしれません。この記事を見るに作者は女性なんですがね。


2007-06-23.

OVERDRIVEの新作『キラ☆キラ』、情報公開開始

 原画は片倉真二、ライターは瀬戸口廉也です。

「パンクバンドを結成→学園祭でのライブを成功させる→ワゴンに乗って全国ツアーへ」

 という青春エロゲーになる模様。当方の想起する範囲で引き出せば『ロッキン・ホース・バレリーナ』か。どうも主人公たちが結成したバンドの趣旨は「ガールズパンク」らしく、見た目が中性的な主人公は女装をするハメになるっぽい。まあ、女装モノ云々といった部分はさておいて、『SWAN SONG』以来となる瀬戸口の新作っつーことで非常に楽しみであります。華々しい特徴は持たないものの、執念さえ感じさせるあの執拗なテキストは一度読むと脳にこびりついて離れない。癖はあるにせよ、病みつきになる作風です。『SWAN SONG』のページにあるプレストーリーや、ソフマップの業界四方山話あたりも参考にされたし。

・小林来夏の『キスとDO-JIN!〜お兄様はTAXフリー!?〜』読んだー。

「兄と違ってわたしは一般読者で、限られたお小遣いの中で本を買うわけですから、才能のある人の本しか買いません。才能というのは覚悟と同義です」

 腐女子のお嬢様を主人公に据え、同人界のアレコレを描く“キスDO”シリーズの第2弾。というか、ノンブル振らずに副タイトルだけで区別する方式は表記が長くなるし何巻目かも分かりにくくなるのでイヤですね。巻数を隠すことで「単発読切」と印象付け、新規読者を引っ掛けようという意図があるのかもしれませんが、やっぱりノンブルは振ってほしい。

 さて本シリーズ。主人公が腐女子なだけに当然801な少々まぶされておりますが、せいぜいナマモノ好きの子が出てくるくらいでリアルにガチホモなキャラは登場しませんし、そういう路線が苦手な人も別に抵抗なく読めると思います。恋愛云々はまだまだメインになっていませんけれど、ストーリーの流れから行ってヒロインは誰か男とくっつきそうな気配。

 今回のテーマは「同人の税金問題」。趣味や道楽が基本の同人とはいえ本業を持っている人の場合、印刷費・交通費・イベント参加費といった必要経費を差し引いた上で年間20万円以上の純益があれば雑所得として確定申告しなければならない。学生で、しかもまだ全然売れなくて赤字が続いてる七海には無縁の問題ながら、ひょんなことから知り合った大手・東条のところに「マルサ」の男が踏み込んできて……と、これまでの同人モノではあまり扱われなかったディープなネタを描いています。疑惑の対象である東条は税金、ひいては国への不信感が強いため、修正申告を行なわず、税務署の更正にも断固として応じようとしません。地味そうなテーマに反し、ドラマチックな筋立てで進行していく。

 東条の妹が病弱だったり、マルサの水無瀬とは高校からの付き合いだったりと、人間関係の描写に紙幅を多く割いており、思ったほど「脱税」そのものの掘り下げが深くなかったのはやや不満ながら、シリーズ2作目という早い段階からこうした展開を持ってくる意欲はかいたい。水無瀬のこぼした一言が印象的でした。今後のネタとしては「パクリ・トレース問題」や「懐かしのバブル期大手」、「同人からのスカウトデビュー」なんかも予定しているそうで、数ある同人モノの中でもひと際濃い雰囲気を放ってますね。

 そして今回は新キャラの「病弱な妹」明良が良かった。同年代の中でも小柄な方の主人公より更にちみっちゃくてゴスロリを身にまとっている腐女子であり、イラストレーターの由良が描き下ろした巻末オマケマンガが特にツボです。酷い妹、略して酷妹(ひどいも)は新ジャンルの予感。

・拍手レス。

 「じょうずに あんさつ できるかな」が死ぬほどツボりました。読みてえ
 「がんばりましたが ぐりは うまく させません」「ぐらは いいました かして こつが あるんだよ」

 ジョジョ系はある意味トリックが魔法なバトルミステリ、と言えなくもない?
 実際、ミスオタの間でも結構人気があったり。

 僕僕先生。別段直接的な描写は無いのに、変にエロかったような記憶が……いや、好きなんですけどね
 僕僕先生の誘いっぷりがエロかった。ボクっ子なのに。

 ヘルシングの次にビューティフルドリーマーを先鋒に持ってくるとは、くやしいっ・・・(ビクビクッ
 今日は『ネギま!』ですね。知らない人を置いてけ堀にする芸の細かさに屈服。


2007-06-21.

嘘予告カウントダウンで有名なAXL……とはいえ、しょっぱなからコレとは。マジウケした焼津です、こんばんは。あと残り一週間分、どんなネタが待ち構えているか、一日たりとも気が抜けませぬ。

朝日ソノラマ、9月に店仕舞い

 真っ先に思ったことは「え? キマイラの続きどうなんの?」でしたが、「朝日新聞社出版本部が引き継ぎ」とありますのでひとまずは安心の模様。ここのところ新刊が少なくて再刊モノが目立ったりしていましたから、来るべきものが来たか、という感じではある。「会社はなくなりますが、ソノラマのブランドは生き続けます」ということで、読者たる我々にしてみればあまり違いはないのかもしれないものの、文庫の背表紙が黄緑色だった頃を知っている身としては若干の切なさが。菊地秀行や夢枕獏の本はあまり読まなかったけど、辻真先のはあれこれ読んだなぁ……。

『ばいばい、アース』、遂に文庫化開始

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ!!!

 発刊当初は売れなくてセールス的に敗北したものの、『マルドゥック・スクランブル』以降のヒットで品薄になってプレミア化したあの大作がようやく再来するのか! 「大作」というのは字義通りで、原稿用紙に換算すれば2500枚前後。ライトノベルなら5冊は出せる分量です。ハードカバーではそれを上下巻の2冊で出していましたが、さすがにそのまま文庫化するのは無理だったようで、「1」というノンブルが振られていますね。最低3冊、購入する層を考えれば4〜5冊に分けるのが妥当でしょうか。

 一応図書館で借りて読み通したものの、初期冲方の魅力が詰まったアレはやはり手元に置きたい。正直、かなり粗いところも多いですが、そこがまた溜まらなかったり。確か「文庫化する際には大幅な加筆訂正が必要」みたいなこと作者自身を語っていたような記憶がうっすらとありますけど、紹介文に「全面改稿」がないところを見るとそのままなのかしら。そもそも、本気で直すつもりならタイトルからして変えてきそうな気がしますし。うーん、前半はともかく、ややこしい後半はいくらか手を入れて欲しいところですが、それによって当時の熱が失われても困るしなぁ……ジレンマだ。

 あと、公式サイトの日記には「『マルドゥック』完結編をぷわぷわスタートする頃でしょうか」とあるのでこちらもちょう期待。

森博嗣原作の『スカイ・クロラ』がアニメ映画化、監督は押井守

 二重に驚愕。まさか『スカイ・クロラ』が映像化するとは、それも押井守アニメになるとは……何ともコメントしがたい取り合わせ。楽しみかどうかと訊かれればいささか首肯しかねる感情ながら、気になることは気になるので今後も情報は拾っていこうかと。作画は新書版の鶴田謙二イラストに準拠するのだろうか?

・仁木英之の『僕僕先生』読了。

 ニート meets 仙人、そして二人は旅に出る――といった内容のチャイナ・ファンタジー小説です。第18回日本ファンタジーノベル大賞「大賞」受賞作。日本ファンタジーノベル大賞は一般的な知名度こそ低いかもしれませんが、かの『リング』で一世を風靡した鈴木光司や、映画化と本屋大賞で話題になった『夜のピクニック』の恩田陸を始めとして数々の実力派を輩出してきたこともあり、読書好きの間ではそこそこ注目度の高い賞であります。Keyのシナリオライターだった(今はアクアプラスにいるらしい)涼元悠一もここで「優秀賞」を取っているし、他にも酒見賢一、佐藤亜紀、北野勇作、池上永一、宇月原晴明、森見登美彦など、多彩にして錚々たる面子が受賞リストを埋めている。受賞には達しなかった候補者にも、先に挙げた恩田陸や、藤原京、小野不由美、岩本隆雄、高野史緒、浅暮三文といった名前が。一方で優秀賞に選ばれたにも関らず作者が受賞を辞退した作品(『愛をめぐる奇妙な告白のためのフーガ』)なんかも存在していて、語り出すとキリがありません。

 かつてはそれなりに優秀な子供だったけど、県令を務めた父親が一生働かずに済むほどの金を稼いでくれたことを知って勉学や武術に励むことをやめ、22歳になっても職に就かず日がなゴロゴロとしている超ニートの青年・王弁。外に出てもただ散歩して酒家に寄り、ちびちび飲むくらいのことしかやることがない彼はある日、仙人と出会う。「僕僕」と名乗る齢何百年だか何千年だか知らない仙人は、白髪長鬚のいかにも浮世離れした老人……ではなく、なんと十代半ばくらいの綺麗な女の子だった。その気になれば変化して老人の姿にもなれるらしいが、なぜか好んで少女の格好を取っていると云う。王弁はそんな僕僕の、気取ったところも堅苦しいところもないくだけた態度にだんだんと惹かれていく。かくして弟子入りを願い、「仙骨はないが仙縁はある」と認めた僕僕がこれを許可。成り行きから連れ立って旅路に就くこととなったが……。

 仙人が爺様ではなくてうら若き少女(見た目は)。「仙人まで萌えの対象にするかよ」と驚きのストーリーも、『三国志』の漢たちをエロゲヒロインにしちゃった『恋姫†無双』と比べたらさすがにインパクトは劣るか。いや、別にインパクトを売りにした作品ではないんですが。不殺(ころさず)の誓いならぬ不働(はたらかず)の誓いを立てた現代でいうところの「ニート」、もっと端的に書いてしまえば「穀潰し」な男が主人公とあって、親父の説教を馬耳東風と聞き流して「だって働きたくないんだもん」とばかりに散歩へ出る冒頭は、残業目一杯して疲れた体を引きずりながら電車に乗った社会人で車中で読めばこめかみにビキビキィと来ること請け合いながら、少し先には一人称が「ボク」の美少女仙人が待ち構えています。堪えて読み進めましょう。

 中国の「僕僕先生」という故事が元になっているらしく、検索して『広異記』なる書物にその記述がされていることまでは突き止めましたが、詳しいことは分からなんだ。全体的に昔話や故事を題材にしたネタがまぶされているため、『山海経』等を知悉している人ほど楽しめるのでしょうけれど、知らないなら知らないで大して問題はない。時代は玄宗皇帝が楊貴妃と出会う前の頃で、ググってみるとだいたい八世紀の前半くらいか。これといって大きな流れもなく、連作形式に近いスタイルでいくつかのエピソードを綴っていきます。いきなり玄宗の宮廷に出向いてみたり、人身犬頭の商人と取引をしたり。中国のファンタジーって、知っているようであまり知らない……ということからややもすれば敬遠されそうですが、仙人が美少女という時点で分かるようにかなり柔らかい雰囲気なので、一読すれば苦手意識など春の淡雪の如くかき消えまする。

 また、のんびりとしているようでいてちゃんと盛り上がる工夫も凝らしている。個人的に一番気に入ったところは吉良という馬に乗ろうとするあたり。どう見てもヨボヨボの老馬でしかないのに「名馬」と言い張られ、眉唾しつつ騎乗しようとするんだけど、王弁を嫌ったのか吉良は絶妙なタイミングでサッとよけてしまう。何度挑んでも背中を許そうとせず、サッ、サッといやらしいフットワークで拒む。最終的にはなんとか跨ることができるものの、そこに至るまでの描写が面白かったです。時代小説にしろファンタジーにしろ、書けば確実に面白くなる場面なんですよね、乗馬シーンって。「人間と動物の交流」という要素を消化すると同時に「機動力の確保」、「新しい視界の獲得」にも繋がるのだから、盛り上がらないはずがない。馬の魅力をうまく活かしていると思います。

 物語は「脱ニート」の方向に舵を切っていきますから、どちらかと言えば成長小説に属するでしょうか。中国の創世神話も絡んできて、無知な当方でもどこかで目にしたことのある神仙たちがほとんど名前だけながら出てくるし、案外と壮大な枠組みを持っている。けれど終始人間の視点から逸脱することはないため、変に膨らみすぎて暴走することもなくキレイにまとまっています。そつのない仕上がり。ただまあ、地味と言えば地味。ほのぼのした雰囲気といい、素朴で可愛らしいイラストが飾られているあたりといい、同じファンタジーノベル大賞の『しゃばけ』を連想させます。いっそライトノベルにしても良さそうな一品だけど、「とうせいたん」こと田村登正の『大唐風雲記』が振るわなかったことを考えると難しいところかな。

 あと、作風は違いますがファンタジーノベル繋がりということで小山歩の『戒』もついでにオススメしたい。「隗より始めよ」をもじって「戒より始めよ」な話。才能に恵まれているのにあえて道化としての生を貫いた戒の姿と、丁寧すぎるくらいに丹念な文章が印象的で、この作者の受賞後第一作を待ち望んでいましたけど……出ませんでした。『戒』より始まり、『戒』のみで終わった模様。それでもイチ推しー。

・拍手レス。

 龍王院弘関係なら小学生の時、プールで双龍脚の練習をして友達一人をあの世に送りかけた思い出が・・・
 活躍しないせいでだんだん双龍脚がどんな技だったか忘れてきました。

 忠臣グラァとドリィでも可ですな(きっと同ネタ多数)
 そのふたりだとオチは「アッー!」に。

 トリックスターズは通じますよー、戯言シリーズとかといい、ラノベに純粋なミステリはみた事がないー
 純粋なミステリはどうしても求道要素が強くなるので仕方ないかも。

 ストジャ、絶望的世界観なダークファンタジーのくせに捻くれた人間賛歌が根っこにあるのが、妙に好きです
 ですね。個人的には『ヨワムシのヤイバ』がお気に入り。


2007-06-19.

・年末商戦の絵本として『忠臣ぐりとぐら』とかどうだろう? と聞き手がリアクションに困りそうな提案を季節感度外視でしてみる焼津です、こんばんは。

 四十七人の赤穂浪士の代わりにぐりとぐらが吉良上野介を討とうとする話。野鼠という特性を活かし、ふたりは忍者みたいな侵入技術で屋敷に入っていく。「さあ、 ぐりと ぐらは じょうずに あんさつ できるかな?」 しかしファンを意識して日和ったのか、最後は吉良と一緒に大きなケーキをつくって、なぜか生きている浅野長矩がおいしそうに食べながら「めでたし めでたし」。というか、ぐりぐらの内容ってもう全然覚えてない。ガズエルとガズアルみたいに赤いのと青いのが出てくるんですよね、確か。

AXLの新作『恋する乙女と守護の楯』、マスターアップ

 予約→入金も済み、あとは10日後を待つばかり。アイ・ビリービン・ガーリッシュ。

新海誠アニメの『ほしのこえ』と『雲のむこう、約束の場所』、期間限定で無料配信

 現在は予告動画とプロモーション映像が見られるだけで、公開は来月に入ってから。『秒速5センチメートル』のDVDの発売に合わせてるのかもしれません。ほしこえ・雲むこともども、「聞いたことはあるけど見る機会はなかった」という方はチェックされたし。

OVA版『ストレイト・ジャケット』、公式ページオープン

 榊一郎のライトノベルが原作。銃と魔法と自動車とモンスターが混在する世界を舞台に、魔法の使用による「呪素汚染」のせいで魔族化することを防ぐため、主人公たちが拘束鎧「モールド」を身にまとって戦うアクションものです。ストーリー自体はさしてうねりがなくて平坦ながら、「フェチ」と評したくなるほど拘った設定が美味しいシリーズ。3巻あたりから面白くなってきますので、原作に手を出すならある程度まとめ買いすることをオススメ。今月には短編集の2冊目も発売されます。

07th Expansionの新作『うみねこのなく頃に』、情報公開開始

 犯人は魔女。アリバイもトリックも全ては魔法。
こんなのミステリーじゃなくてファンタジー!

 それなんて『トリックスターズ』? と、通じるのか通じないのか若干微妙なネタは置くとして、いよいよ新作がお目見えだー。全何話になるのか分かりませんが、今回も連作形式となる模様。作品紹介の文章はなかなか挑発的でワクワクします。「プレーヤー様のプライドは私に崩されるために築いてきたんですものね」と言わんばかり。一話ずつ買ってプレーしていくとなんだか生殺しにされそうだから完結するまでは坐視するつもりですけれど、期待だけはパンパンに膨らませておきたく候。

・皆川博子の『聖餐城』読了。

 17世紀の神聖ローマ帝国を舞台に、三十年戦争のほぼ全期を描く歴史小説。タイトルからするといかにも耽美系のミステリっぽいと言いますか、オカルト色の強いゴシック・ホラーを連想しますけれど、淡々と各地の戦況を列挙していくあたりのノリはほとんど戦記モノに近いです。一段組ながら700ページを超える大ボリュームを誇り、同時期に発売された京極夏彦の『前巷説百物語』ともども店頭でかなりの威容を見せ付けていました。皆川博子はこれまでにも『死の泉』『冬の旅人』など、海外の歴史を題材とした長大なロマンを手掛けておりますが、本書ほど時代を遡った作品は初めて。耽美ムードやサスペンス色は控え目になっており、既存の著作で挙げれば『総統の子ら』に比較的似ているかも。

 内臓を掻き出されて腹を縫った馬の死体に、首だけ出す形で埋められていたアディ――傭兵に付いて回る輜重の女ザーラに拾われた彼は、好き放題に村を襲っては略奪と殺戮と陵辱の限りを尽くす傭兵たちの姿を見て「やられるのは嫌だ、やる側になろう」と決意する。身なりがいいユダヤの少年イシュア・コーヘンを助けたことからコーヘン家との縁ができ、密書を渡した礼として傭兵稼業で有名なフォン・ローゼンミュラー家に紹介してもらった。そこで騎兵の中隊長を務めるフロリアンと運命的な出会いを果たし、アディは「この人のために命を捧げよう」と誓う。一方、イシュアの兄で宮廷ユダヤ人でもあるシムションは、カトリックの皇帝とプロテスタントのボヘミア王が起こした戦争を通じて神聖ローマ帝国を掌握し、亡国の民としてヨーロッパ中に離散し居所がないユダヤ人すべてに永の安寧をもたらそうと権謀術数を働かせるが……。

 神聖ローマ帝国。実際は多数の領邦に分かれた連合体であってとても「帝国」と呼べる様態じゃなかったことは教科書でも習いましたけど、知識の大半は消失いたしました。おかげで本書にて描かれている「三十年戦争」は知っていることが何一つなく、却って新鮮な気持ちで楽しめましたよ。一兵卒から身を起こし、徐々に強くなって出世していくアディ・シュタルケ(シュタルケは「凄腕」の意味で、彼を拾ったザーラの二つ名。孤児で名字がないため、それを継ぐことになった)と、ヨーロッパ中に張り巡らせた経済・金融の網でユダヤ人の弱い立場を底上げしようと画策する商人のシムション・コーヘン。二人の人物を主人公に据え、絶え間なく降り注ぐ戦火と傭兵たちの衝突、虐げられる平民たち、利害を巡って謀を凝らす領主や宰相、皇帝のジメジメした感じを目一杯詰め込んでいます。本当、この三十年戦争はひどい。傭兵は戦争のあるときだけしか金が貰えないので、戦争がない時期は野盗そのものとなって農村を荒らし回り、各地における戦争の勝者は好き勝手に都市を蹂躙し、撤退した敗軍はヤケクソのように町を襲って被害の穴埋めに努める。たとえ味方や自国の民が相手でも、糧秣や弾薬や資金に事欠いているときは強奪を図るし、ドサマギで暴れて憂さを晴らす連中も絶えない。なんてひどい泥沼。国土がボロボロで、もうメチャクチャじゃないですか。悲惨の域を通り越して、ただただ壮絶と表現するより他ありません。あまりにも戦争の被害が大きすぎる&多すぎるせいか、文章も「一夜ごとに百の村が焼けた」みたいなひどく淡々とした調子になっている。皆川博子の「あっさり淡白なようでいて凄みのある描写」は今回も健在であり、

 まだ男を知らなかった少女たちは会陰から肛門まで引き裂かれ、下半身を血に染め恐怖のうちに死ぬ。

 くらいはほんのジャブ。ひたすら容赦のない事態を、どこか突き放した雰囲気で終始綴っていく。街が破壊されるドガァッメキャァッな擬音表現とか「ぎゃー!」「ぐえー!」「うおー!」みたいな悲鳴が一切ない、異様な静けさがむしろ怖いです。また、戦記色が濃いこともあって食糧を始めとする兵站が重大なファクターになっており、これが欠乏すると文字通り傭兵たちが餓狼と化して守るべき街に牙を剥いちゃったりするので、もう何が敵で何が味方で何が目的で何が大義なのかだんだん分からなくなってきます。戦争が戦争を生んで戦争が戦争を膨らませる、負の循環。アディはフロリアンのもとで活躍して精強な兵士に育っていきますが、それを感情移入して単純に喜ぶのも阻まれるほど、泥沼の悪化が激しい。

 タイトルとなっている「聖餐城」はシムションが昔に聞いた言葉で、芸術を愛したかつての皇帝ルドルフ2世が秘宝「青銅の首」を置いている場所だ――と序盤にて仄めかす。それが物語の核心になるかと申せばあにはからんや、聖餐城なんて話題は全編に渡って都合五回くらいしか出てきません。オカルトや耽美が好きそうな皆川博子らしいガジェットではあるのですけれど、聖餐城というのはその名の通りの「城」であってどこかに実在しているのか、はたまた何かの比喩であって現実に存在する場所ではないのか、それすらも判然としないまま三十年戦争が進行する。ハッキリ書いてしまうと、タイトルになってなければ途中で失念していただろうと思います。仕込んだネタを読者に忘れられないように、そして最近の実用書みたいに中身との関係はさておいてとりあえずタイトルで目を惹こうと考えたんでしょうか。この題名で、しかもセフィロトの樹とかがデザインされているのに内容が神秘要素の薄い戦記小説だとは、普通思いません。そのギャップが面白かったりしますけども。

 愚鈍でイシュアには「卑怯者」呼ばわりされてしまうアディながら、フロリアンへの忠誠と刑吏の娘であるユーディトとの想いに心を引き裂かれる、ちょっとしたロマンスの香りも施されていて主人公としては申し分ない。刑吏は賤民で、刑吏と接触した者は同じ賤民に落とされる掟となっており、また刑吏の娘も同業者やその家族としか結婚できませんから、アディがユーディトと結ばれようとしたら兵隊をやめなきゃいけない。ジレンマに苦しみ、それでもなお諦められずユーディトに「待っていてくれ」と頼んでしまう残酷な愚直さ。それを糾弾するイシュアはしかし、「お前が偉くなれば掟は覆せる」と示唆してアディの出世欲をいっそう煽り立てる。モチベーションの刺激を欠かさない展開で、なかなか面白い。もう一人の主人公シムションは剣や銃の代わりに金と物資で戦争を支配しようと図りながら、「ユダヤ人」という立場の弱さから思うように事を運べず、何度も失望の苦汁を舐めることになります。舐めても舐めても這い上がってくるしぶとさが見所ですね。

 非常に面白く、夢中になって楽しめた一冊ではありますが、題名と内容の乖離もあって「このストーリーは結局何が焦点だったのか?」という疑問はやや残るところですかな。アディの成長物語にしては戦争の状況が壮絶すぎて彼個人の栄達が霞むし、また彼自身もいろいろあって人間関係に悩み、最終的には「高みを目指す」という気分ではなくなる。シムションの細腕繁盛記……にしては結果が報われず、「苛められても苛められてもめげないシムたん(*´Д`)ハァハァ」な見方をするならまだしも、一般的な意味合いにおける爽快感とは無縁だ。「兵士と商人」という組み合わせ自体は抜かりがなく、戦争の枠組みを解析するうえでは効率的となっているものの、テーマ性云々で論じれば若干物足りないです。読み応えに関しては既刊と比べても遜色はありませんし、個人的には大いにオススメしたいところなれど、何を力点にして薦めるべきかは思案どころ。面白いところが散らばっていてうまくまとめられないんだぜ。差し当たって『傭兵ピエール』『双頭の鷲』を混ぜ合わせた作品、と書いちゃおうか。

 余談ながら個人的にプチ衝撃を受けた件が以下。

 神はモーゼに宣うた。汝の神はその名を〈妬み〉という、妬む神である。ゆえに、異教の神を決して許容してはならない。

 な、なんですってー。「言葉は神であった」というヨハネ福音書の一節から「桂言葉=ゴッド」の図式は既に導き出されていましたが、まさかそれ以前にテトラグラマトンさんが「嫉妬」そのものだったなんて。十戒の一つである「汝、我が顔の前に、我の他の何物をも神とすべからず」は「他の子なんか見ちゃ駄目! 私だけを見て! 私だけが○○の恋人なの! 絶対なの! そう詞認筆(レルネン)したんだからぁ!」的な意味合いだったのか。

 人間が神の似姿ならば、おにゃのこが嫉妬深いのは当然と言えましょう。

・拍手レス。

 龍王院弘といえば、初めて踵落しという技を認識したキャラというイメージしかない…w
 字面はすごいけど典善に「ひろし」と呼ばれているところが可愛い。

 恋楯体験版しましたー。設定おいしいけどテキスト浅い?が、いいところで切りよった。続きが気になります。
 体験版の評判が良かったみたいで、発売直前になって注目が集まっている様子。


2007-06-17.

propplerの『BulletButlers』、発売延期(6/29→7/27)

 やっぱり、キツかったんだなぁ。主な原因はスクリプトとのことで、妥協しようかどうかでギリギリまで迷ったのではないかと勝手に想像いたします。当方は「マスターアップを待ってから予約しよう」と注文を控えていたクチなので同情的な視点に立つことも容易ですが、オフィ通を始めとするショップのどこかで既に予約を済ませている方からすれば悲憤と落胆の絶えぬところでしょう。いくらエロゲーマーが延期に慣れっことはいえ。とにかく、来月に期待したい。

AXLの『恋する乙女と守護の楯』、体験版をプレー。

 AXLと書いて「アクセル」と読ませるこのブランド、実はよく知らないんですよね。今は亡きすたじおみりすの派生ブランド「すたじおみりす ペレット」が独立して生まれたとは聞くものの、経緯までは存じておりませぬ。それはそれとしてこの恋楯、AXLブランドとしては『ひだまり』、『キミの声がきこえる』に続く3作目であり、ペレット時代の『チュートリアルサマー』も含めれば4作目に当たる。原画は『チュートリアルサマー』の頃から一貫して瀬之本久史。ライターは『ひだまり』の長谷川藍で、他社含めて今までにシナリオで参加したソフトは5本……どれも個人的には「名前は聞いたことあるがやったことはない」ものばかりで、ライターへの期待は未知数と言いますか、ハッキリ申せば低かったです。原画の瀬之本にしても、存在そのものは『Alive』の頃から知っておりましたが、それは単に「知っている」というだけ。「好きな絵柄か?」と訊かれたら首を横に振ってしまいます。

 ブランドも、ライターも、原画も、あくまで個人的には何一つとして期待を寄せる要因がなかった。だというのに、体験版が公開されるその時まで一日千秋の焦がれる思いで指折り数えて待っていたのはなぜか? 答えは簡単、設定がド直球で当方のストライクゾーンに食い込んでくる代物だったからです。童顔のエージェントが、バッキバキに女装して、全寮制の女学院に潜入する――これはもう女装主人公スキーを誘惑するためにつくったとしか思えないじゃないですか。筋肉愛好者が世紀のマッスル映画『300』に魅了されるのと同じくらい、いともたやすく篭絡されて骨抜きにされたのは当方だけじゃないと確信いたします。美味しい。とにかく、この設定は美味しすぎる。

 シールド9――それが「アイギス」のエージェントを務める如月修史のコールサイン。表向きには警備会社となっているが必要とあれば銃器などの非合法な装備も揃えて要人護衛の特殊任務を果たす「アイギス」において、まだ若手ながら「絶対の楯」として成長することを期待されている彼に一つの指令が下る。細身の体と中性的な顔立ちを活かし、少女に化けて女学院へ潜入、然る後に対象である女学生を護衛しろ……と。修史は青褪めた。よりによって、極度の女嫌いだったのだ。他にこのミッションをこなせる人材もなく、まさか断るわけにもいかないので、嫌がる気持ちを必死で堪えつつ乙女の花園へと足を踏み入れる。大量に溢れ返っている「女の子」に辟易している暇はない。ヒラヒラするスカートとスースーする股間、暑苦しいウィッグと面倒臭いメイクを我慢して、「山田妙子」となった修史は少女たちを守り抜こうと奮闘するが……。

 女装は素晴らしい! 女装は正義! 周りがヒくのも構わず強弁したくなる当方の女装主人公趣味をこれでもか、と叶えてくれる内容でした。女装の歴史は日本神話におけるヤマトタケルまで遡り、またギリシャの鏖将アキレウスも……などとそんなことはどうでもよろしく、ただひたすらにピンポイントでこちらのツボを爆撃してきましたよ。まず、主人公はちゃんと「イヤだ!」と抵抗しているのがイイ。ノリノリで着替えちゃったり、さして抵抗もせず為すがままにされるのでもない。有無を言わさず強引に女装させられて、私情では「絶対イヤだ」と拒みつつ、ギリギリまで粘った末に「でも仕事だからしょうがない」と、渋々仕方なく引き受ける。この嫌がり感が、女装主人公スキーな当方の心をくすぐります。嫌がっているのに似合っている。言わば「心はイヤなのに体が感じてしまう」みたいな状況がハートを震わせるのです。しかも、どうやら主人公はこれが初めての女装となる模様。女装処女喪失……語呂は悪いけれど、意味するところのそこはかとないエロチックさが山吹色のオーバードライブで理性を酩酊させますぜ。

 とまあ、これだけでご飯が三杯はイケるセッティングなのですが、まだこのへんは序の口。恋楯の良いところは学園に入ってからです。主人公は護衛対象である少女(二人いる)のなるべく近くに佇んでいる必要があるため、彼女たちが所属する生徒会「撫子会」に参加します。ここで出会った三人の少女はそれぞれ可憐で優雅で清々しく友愛に溢れた人々……というのは演技に過ぎず、結構、いやかなり性格が悪かったりする。女装した主人公を「平凡」「何の取り得もなさそう」「田舎っぽい」と軽く暴言してこき下ろし、「とりあえず雑用やってよ」という運びに。こう書くといかにもDQNないじめっ娘の雰囲気ですけど、実際プレーしてみるとそんなにキツくもない。比較的マイルド。とはいえ「親しくするつもりはない」と言い切っているし、仲間として認める心づもりもゼロだ。つまり、主人公は歓迎されていないんです。少女たちも自分が護衛対象となっているとは知らないので、主人公はボディガードとして認識されず、「なんか付きまとってくる変な女」という扱いにされる。付きまとわないと護衛できない、でもあんまりべったりくっつくと逆に警戒されちゃう、まさにジレンマ。なかなか程好い逆境であります。信頼されてないからこそ、信頼を築くまでの過程がドラマとなりうるのです。最初から好意全開じゃあ、努力する甲斐がありません。確かにヒロインたちから好意らしい好意を受け取れないとストレスが溜まりますし、「それって和姦系としてはどうよ?」ですが、一応主人公にも優しくしてくれる設子さんというオアシスが存在している。清楚な笑顔とおっとりした声で、癒しの態勢は万全なり。

 そしてやっぱり、主人公がヘタレではない。ここが大きい。何せボディガードなんだから、ぐだぐだ考えてる暇があったらさっさと体を動かして対象の安全を確保しないといけないわけで、悲鳴が聞こえたら即座に駆けつけるし、一緒にいられるときは一緒にいて、可能なかぎりそばに控えるよう努める。職業設定を裏切らない行動派の男です。おかげでプレーしていてストレスが溜まらなかった。正体は男なうえ、更に鍛え込んでいるからいざ戦うとなったら超つおい。「ヒロインに守られる弱い主人公」が増えてきた昨今、こうした「ヒロインを守る強い主人公」は原点復帰めいた爽快感が漂う。まあ「俺TUEEEEEEEEEE!」なノリが行き過ぎても萎えますが、本作はバトルがメインでもなく、そこまで厨スペックに陥ることもなさそうだから、余裕で許容範囲内。是非とも主人公にはガンガン活躍してほしいものです。ただし、この主人公はうっかりミスを繰り出す迂闊属性があるみたいで、そこが心配と言えば心配かも。

 テキストは……んー、特に個性を打ち出している箇所もなくてありふれた調子と言いますか、淡白でやや物足りなかったかなー。ギャグやコメディも別段卓抜した要素は感じず、笑いが起こる場面も少なかった。説明シーンが長引かないおかげで退屈しなかったのは良いにしても、この淡白さはクライマックスになって響きそうな予感がヒシヒシ。体験版が終わって以降、いきなり主人公がヘタレ化して、「体験版のあれはなんだったんだ!?」と問い詰めたくなる――なんてケースもないことはないし、本編に関しては「ひょっとしたら微妙かも……」という疑いを拭い切れない。先ほども述べましたが、なにげに迂闊属性あるようだし。シチュエーションとキャラ配置、視点人物である主人公の魅力、この三点は実に好みで申し分ありません。それだけに、本編も面白いといいなぁ、と願っていますが、さてはて。

 迷いが捨て切れたわけではないにせよ、『BulletButlers』が延期してしまった以上、もう今月はこれの他に買いたいものがありません。奇しくも「もし仮にこれ(『BulletButlers』のこと)が延期してしまった場合は『恋する乙女と守護の楯』あたりを後釜に据えようか」と日記に書いた通りの流れに差し掛かっていて、なんだか苦笑い。恋楯もマスターアップはまだだから、予約に走るのはもうちょっと後にしようか。最後に書いておきますが、体験版をプレーして気に入ったのはやはり、主人公でした。妙子かわいいよ妙子。育ての父親におちょくられて、周りに女装がバレてないことにホッとしつつ落胆し、性格の悪いヒロインに一方的にいじめられるわけでもなくバランスを保ち、体育の時間にたぶん真っ赤な顔をして「今日は生理で……」と告げたであろう彼のことを思うと、かつてない感情が湧き上がる。「女嫌い」の設定が徐々に無意味化していってる気がするのは残念だし、どうせならボイスも付けてほしかったけど……それでもなお女装主人公スキーにはこたえられない味わいでした。ごちそうさまー。

・拍手レス。

 誰だ!はるぴーとかがみんの見分けがつかないオタは!
 あかりとバルサミコ酢の見分けがつかな(ry

 Bullet延期のおかげで恋盾をやる時間ができそうです。良かった良k……
 結果的には良かったかもしれないけれど、複雑な心境ですね……

 沃野最高でした!!焼津さんのヤンデレ小説次回も期待しています!!!
 ありがとうございます。至って気分屋なので次回は未定ですが、全力でブチ込みたく。


2007-06-15.

・宣伝書き込みの削除が面倒臭くなってきましたので、トップページからBBSへのリンクを撤去することに決めた焼津です、こんばんは。リンクを外すだけで、掲示板自体は残すつもりー。ついでにメアドの「@」も変えておこう。これで少しは迷惑メールが減るかしら。

9月にスニーカー文庫から『らき☆すた殺人事件』発売、作者は……

 二重の意味で目を疑う情報。このタイトルはマジか? この作者名はマジか? 率直な感想を申せば「ありえないんだぜ」の一言に尽きる。一応この作者を知らない人に説明しておきますと、卓越しすぎたギャグセンスが濡れ場シーンにまで侵蝕して「抜かばたちまち雷神の生贄ぞ!」と言わんばかりの惨状を生み出す、そんな異才を有するエロゲーライター兼CDドラマ作家兼ライトノベル作家。ことシモネタの鋭さにかけては「ヴァギナって攻撃魔法っぽくね?」の藤崎竜太と並ぶ存在です。「忠介が陰毛を抜き始めた」のインパクトは未だ忘れがたい。いやまあ、そういうキワモノめいた部分は置くとしても、ハイテンションかつ独創的なセンスによって繰り広げられる「笑い」の空間が魅力だったりします。

 それはそれとして、あらすじ。死体の脇で漫才するノリというのもなかなかヒドいですな。ミステリ作品では死体に唾を吐いたり犯人から財宝を脅し取ったりと散々な悪行を重ねた末に首チョンパで殺される某探偵が一番好きな当方でも「大丈夫か?」と心配せざるをえない。無論買いますけどね。

AXLの新作『恋する乙女と守護の楯』、体験版公開

「狂気のさた……?」

「This is Cross Dresser!(これが服装倒錯だ!)」

 つーわけで自分でもどうしてこんなにワクワクするのか分からないほど妙に期待している女装潜入エロゲーですよ。なんとなく『300』ネタ使っちゃいましたけど、別にガチムチスパルタ兵が女装して100万人くらい蹂躙するようなハードコア鬼畜ゲーではありませんのであしからず。まだDL中でプレーしておりませんが、山田妙子(主人公の変名)を見ているだけで胸が高鳴り申す。小冊子に載ってる「女装趣味なんて、これっぽっちもないっ」「というか、この任務自体、俺には無理だあああっ」の叫びがメチャクチャ可愛くて心臓止まりそう。女装少年がボディガードという位置付けは実に美味しい。『西の善き魔女』にも似た展開があったっけ。

・夢枕獏の『キマイラ青龍変』読了。

 最近、と言っても三ヶ月くらい前からですけど、ハードカバーで刊行された完全版の『キマイラ』(全8冊)を読み始めました。キマイラ――夢枕獏の代表作であり、二十五年経った今もまだ終わっていないことを考えればライフワークと称しても過言ではないシリーズです。朝日ソノラマ文庫で16冊、それを合本して8冊にしたものが完全版であり、文庫版のときは主人公・大鳳吼の名前を取って「キマイラ・吼」としていたのを単に「キマイラ」としたのは、ここのところ本編ですっかり吼の出番がなくなったからでしょうか。あらすじを述べれば「美貌の持ち主でいじめられっ子だということを除けばごく普通の高校生だったはずの大鳳吼が『キマイラ』と呼ばれる謎の力に触れて徐々に人間以外の何かへと変質していく」といった感じで、吼のキマイラ化を止めて元の人間に戻すことがストーリーの目的とも言えますが、多種多様なキャラクターが登場して群像劇の側面が濃くなったせいで相対的に吼の存在感が薄れ、途中から「あれ、主人公って誰だっけ?」状態に陥ります。文庫で13冊目の『梵天変』以降はキマイラの謎を解くため時代が過去に遡り、なかなか現代に復帰しないせいもあって本編最新刊の16冊目に至るまで吼の出番はまったくナシ。面白いことは面白いけど、本当にいつか終わるのか? このシリーズ……と不安になってくる。

 本書は文庫版から数えれば17作目、ハードカバーとしては9冊目に当たるシリーズ最新作です。再刊ではない、初のオリジナルなハードカバー本でもあります。位置付けとしては番外編。本編に登場するキャラクターの一人、龍王院弘にスポットを当て、彼が師・宇名月典善に出会って天与の才を開花させる過程を描く。言ってみればこれも過去編であり、舞台となるのは本編の10年前なわけですが、すっかり昔話モードに入った最近の本編よりもグッと現代に近づいていて、「ああ、キマイラが戻ってきた」と実感できます。番外編だというのに。

 さて、龍王院弘。大仰な名前と異様な美貌という点では大鳳吼や久鬼麗一といったキャラと属性が被るところだけど、実を申せば当方、キマイラシリーズの中で一番好きな登場人物がこいつなのである。なぜか? 答えは簡単、「弱いから」です。登場した時点では吼の兄弟子である九十九三蔵を圧倒し、いかにも「格闘の天才」っぽい強そうなオーラを漂わせたのも束の間、キマイラとして目覚めつつある吼のパワーに滅茶苦茶ビビって尻尾を巻いて敵前逃亡しちゃいます。以後はヤムチャ化の一途。九十九三蔵と拳を交えてそこそこ好戦を繰り広げたものの、「女を人質に取ろうとする」という敗北フラグをうっかり立ててしまってブチのめされる。気絶から覚めて起き上がり「負けた……年下のガキに……」と呆然としていたら謎の外国人フリードリッヒ・ボックが現れ、散々侮辱された挙句にあっさりと叩きのめされます。三連続黒星。それだけに飽き足らず、居酒屋に入り浸って普通の酔っ払いたちに絡まれ、なんとこれにも負けてしまう。もうヤムチャ以下。キマイラ広しといえどもここまで零落の激しいキャラは他にいない。底の底、どん底まで落ちた「地を這う龍」が、ふたたび天空へ翔け昇らんと覚悟を決める――そういう美味しいところで本編は止まっています。彼とは対照的に「才能はないが執念はある」という、典善の新たな弟子・菊地良二も面白いキャラですけど、やっぱりシリーズを通読して気になるのは弘の再起が成功するのかどうかでしょう。

 そんなわけで『青龍変』、非常にワクテカしながら読み始めたのですが――期待に違わず、楽しめました。大まかな流れとしては「いじめられっ子の弘、典善と出会う→いじめっ子に報復→道場破り→ヤクザと喧嘩→典善と因縁のあるキャラが登場→ラストバトル」って具合で、なんだか本編の吼と似通っているところもあると言いますか……ぶっちゃけ、新鮮味は皆無の展開です。いかにも夢枕獏が書きそうだなぁ、というストーリーそのまんま。にも関らず、盛り上がりはシリーズで一、二を争う。やはり龍王院弘と宇名月典善――この二人がいい。怪しい老人と、妖しい少年(青龍変の時点で既に19歳だが、見た目は10歳前後)。この組み合わせに胸が躍らないわけがない。二人ばかりじゃなく、端役の橋本なんかも「負けると分かっていて仕掛ける」とか、イイ味出してます。

 番外編ということもあってキマイラシリーズの割には伝奇要素がほとんどないに等しく、『餓狼伝』『獅子の門』などの格闘小説と同じ味わいを持ちながら、それでいて本編の流れを密かに汲んでいる。いささか誇張気味かもしれませんが、本書を読むためにキマイラシリーズに挑んだ、と申しても差し支えありません。改行使いすぎとか、「拳。/拳。/拳。」みたいな文章が手抜きにしか見えないとか、そういう面も否定できませんけれど、龍王院弘の内面描写をねっちりと行なってくれますし、本編では危なげないバトルをすることの多い典善が追い詰められる箇所もあったりで、夢中になって没頭いたしました。本を読み終えるごとに何かしらの達成感を覚える傾向がある当方ながら、この『青龍変』に関しては読み切るのが勿体ない、もっと読み続けたい――という気持ちを抱かされて往生した次第。

 本編を未着手でも充分に「読める」一冊。が、本編で弘や典善に愛着を寄せておけば感慨もひとしお。どうせならまた龍王院弘ネタで書いてほしいところだけど、あとがきを見るにそれは望み薄か。残念。龍王院弘が出てくるもう一つの番外編『崑崙の王』でも読むとしようかな。ただ、こっちは『闇狩り師』シリーズにも属しているので、先に『闇狩り師』を崩した方がいいのかも。うーん。

・拍手レス。

 「DIVE!」の漫画がサンデーにて開始してましたね。割と悪くなさげ(かも)
 飛込みのインパクト――水と肉体の饗宴をどこまで描けるかがポイントになりそう。

 凄ぇ。まさに夢の饗宴ですね>「沃野」IN修羅ダービー
 麻耶と胡桃が立て続けに出走していて噴いた。

 「ムシウタ」読んでみました。こういうダークヒーロー像は新鮮で面白かったです。
 特殊能力系アクションの中でも特に「代償」の要素が色濃い。個人的に初季が好きです。


2007-06-13.

『鋼殻のレギオス』既刊6冊を読み終えた焼津です、こんばんは。

 主人公が最強クラスの力を出し惜しみしている理由が個人的に「なんだかなぁ」って感じだったし、学園モノにしてはシリアスとコメディの混ぜ具合がいまひとつ中途半端な気がして始めのうちはなかなかハマれなかったのですけど、三巻あたりから徐々に上向き、四巻以降は素直に「続きが読みたい」という状態になりました。やはり原動力として大きかったのはフェリ先輩。ストレートの長い銀髪が特徴となっている無表情系美少女で、類希な能力を持ちながらすこぶるやる気がないのですが、巻が進むにつれて主人公に寄せる好意の量が増大していく。それがたまらない。作者の術中に陥っていると理解していても、無表情っ子の靡き具合にページをめくる手が止まりません。ああフェリかわいいよフェリ。「先輩」と呼ばれるのが嫌で年下の主人公に名前を呼び捨てさせている彼女が、他のヒロインに対してさりげなく嫉妬心を発露しているっぽい描写もあったりで、胸奥で沸々と滾るものがあります。

 このレギオス、なにげに主人公LOVEなヒロインが多い(少なく見積もっても四人はいる)し、ついつい移動都市云々や主人公の成長といったシリアス展開よりもラブコメ展開や修羅場展開を期待してしまう。まだ女同士のぶつかり合いまでには至っておりませんが、これからの話に期待が渦巻く一方です。ただ、最新刊の6巻から第二部に突入し、「世界の秘密に挑む」みたいな大風呂敷モードに差し掛かったことでそうした展開が減っちゃうのではないか……という不安も拭えません。あと今月末に刊行される番外編『リグザリオ洗礼』は主人公たちが生まれる遥か以前に遡るようなので、読もうかどうか若干躊躇。うーむ。

マーガレット・アトウッドが来日

 この人の『昏き目の暗殺者』はすんごく長かったけど、それに見合う面白さがあって虜にされました。作中作のSFがなにげに魅力的だったり。記事に書かれている『侍女の物語』は新潮社版の他にハヤカワepi文庫版も出ています。アトウッド作品で文庫になっているのはこれ一冊だけなので、入門用として最適かと。当方は未読ですが。

『七姫物語』のイラスト

 電撃大賞の情報を調べているときに見つけました。おおお、かなり好み。これで選考委員奨励賞なのか。技術的なことはチンプンカンプンなので「ツールに頼りすぎ」とかいった評はよく分からないのですが、ともあれ、この人のイラストが付いた本の出る日をいまや遅しと待ちかねる思い。そして『七姫物語』の新刊もいまや遅しと(ry

OVA版『よつのは』のページ

 のんさんの絵がバストアップ→全体像と、微妙に変わっておりますな。この内股気味な足運びとオーバーニーソに掛かる影がフェティッシュで宜しい。けど……なんか頭身上がっているように見えるのは目の錯覚でしょうか? 足が長いと言いますか。気になって毒めぐさんにも訊ねてみましたが、ののistの氏からも同意を得た次第。やはり、股下が長くなっている。

 猫宮ののは予想以上に伸びていた。

 いや、だからどうということもなく、続報が楽しみなのは以前と一緒でありまする。

・拍手レス。

 電撃だと問題作とか実験作とか言われるけど、ファウスト系で考えると普通なのが不思議だ御影
 五歳児が園児服着ていても普通だけど、二十歳過ぎが着ると問題視されるようなもの御影

 むしろ干柿を思い出しました ボクちゃん探偵シリーズしか知らない私
 ああ、二階堂黎人の幼稚園児ハードボイルド。

 BOXに限らず西尾維新のはトレカやCD付きだったり装丁が凄かったりで高くて感覚が麻痺する…付き合うが
 実は『ニンギョウがニンギョウ』だけ回避。

 『300』・・・実際は同性愛関係の2人をツーマンセルにして結束を固めたみたいですね
 互いに死力を尽くすけど、恋愛関係がグチャグチャになると戦闘もグチャ化する諸刃の剣ですね。


2007-06-11.

『一瞬の風になれ』全3巻セットを衝動買いした焼津です、こんばんは。

 4515円――エロゲーやDVD-BOXに比べればまだ安いものです。この『一瞬の風になれ』、直木賞候補になったり吉川英治文学新人賞を受賞したり本屋大賞で1位になったりと話題を呼んでいたのは知っていましたが、なんとなく買いそびれていたんですよね。全巻セットが発売されたのでちょうどいいや、とばかりに購入しました。まあ、セットと申しても単に箱が付いてくるだけなんですけど。「分売可」とあるし、中身は変わらない。しかし話題作とはいえ箱入りで全巻まとめて売り出すとは……講談社BOXの戦略がじわじわと他部署にまで浸透し始めているのかしら。

「沃野」の二人が修羅ダービーに参加している件について

「ゆこう」
「ゆこう」
 そういうことになった。

 というわけで不倶戴天の胡麻コンビが風塵渦巻く競女フィールドに足を踏み入れまする。RIG2さんからのオファーをいただくや一瞬の躊躇もなくOKサインをつくり、内輪ネタとなりかねないことも気に留めなかったあたりは「悪ふざけ(オイレンシュピーゲル)の焼津」、その本領発揮。ランダムで選ばれるみたいですから、今はただ出走の時を待つばかり。

『300(スリーハンドレッド)』観てきました。

 300名のスパルタ兵 VS 100万から成るペルシア軍。圧倒的な戦力差で繰り広げられる紀元前の闘争を描いた肉弾アクション映画。さすがに「300」や「100万」は誇張気味で実際はもっと多かったり少なかったりしますが、それでも絶望的な開きがあることには変わりない。テルモピュライの戦いという史実に基づいて制作されたとのことですが、レオニダスとかクセルクセスとかいった名前すら知らなかった人間なので細かいことは気にせずに堪能した次第。いやはや、なんとも血腥く、そして男臭い映画でした。女性で主だったキャラクターは王妃と、あとはせいぜいデルフォイの巫女くらい。ひたすら男ばっかりが画面を埋め尽くしています。しかも半裸。一応R-15のエンターテインメント作品ですから究極神拳めいた残虐殺戮ばかりでなくちょっとした濡れ場やお色気シーンも用意されていますけど、いつ「アッー!」な展開が始まるか気が気ではなかった。幸いそうしたシーンは皆無、杞憂に終わってホッと胸を撫で下ろしましたよ。

 アジアの国々を支配し、その巨大な指先をギリシャにまで伸ばしてきたペルシア帝国――スパルタの王レオニダスは彼らの降伏勧告を退け、「狂気の沙汰だ」と呟く使者に「これがスパルタだ!」と叫んであっさり殺害。かくして戦争の火蓋は落とされた……のだが、デルフォイの信託で戦争を禁じられたため、スパルタ全土を挙げての進軍はできず、仕方なく精鋭300名だけを連れて敵陣へ向かうレオニダス。相手は総員数十万、いや数百万にも及ぶと噂される大軍勢。精強勇猛なスパルタの戦士たちは果たしてこれを粉砕することができるのか……とストーリーは本当に「300人 vs 1,000,000人」って感じで、スパルタ側に裏切者が潜んでいるなどのサブエピソードも敷かれていますけど、基本的にただただ血で血を洗うバイオレンスの連続。みなさん肉体言語で雄弁に語ってくれます。

 不具の赤子は間引き、立てるようになった男子は早速訓練を始め、死ぬほどしごいて一級の戦士に仕立て上げる。ひとたび戦場に出れば一切の退却も降伏も許されない。「名誉ある死」を想像して微笑むようなバーサーカーたちで固めた最強無比の不退転集団。画面は血飛沫ともげた手足、生首で溢れ返り、湧き上がる雄叫びに合わせて思わずニヤニヤと頬が緩んでしまう。大量のCGを投じ、すべてブルースクリーンで撮影した映画だけあって他では見られない映像美と迫力を存分に味わうことができたものの、やっぱりCGを使いすぎなせいか却ってショボさが際立つシーンもいくつかありました。特に人・人・人で埋め尽くすような場面は密集感が薄く、なんだか閑散としてる。いまいち「大軍勢」というイメージが伝わってこない。こういう部分では桁外れのエキストラを集められる中国映画なんかに比べると見劣りするかなー、と。あんまり密集しすぎない方が見易くていいのかもしれませんが。

 しかし、ファランクスでの激突を嚆矢として、単純に眺めていて体温の上がる戦闘シーンには事欠きません。通常の歩兵や騎兵でダメと知るや、忍者みたいに仮面を付けた不死軍団(イモータル)を送り込んだり、鎖で繋がれた巨漢をここぞという時に解き放ってレオニダスに襲い掛からせたり、フードローブを着込んだ魔術師たちに火薬壺を投擲させたり、終いには犀や象を突っ込ませたりと、やりたい放題なペルシア軍は恐ろしいというより面白い。中盤でペルシアの王クセルクセスがレオニダスの前に堂々と仁王立ちして姿を現しちゃう件はさすがにギャグすれすれ、「これなんて少年マンガ?」でしたけど、逆に言えば少年マンガ的な「お約束」の世界を受け入れれば問答無用で楽しめる。仕方ないとはいえペルシア軍の扱いがザコっぽいことや、いかにもアメリカ映画的な自由礼賛のメッセージが執拗でだんだんうざったくなってくること、終盤の展開がやや呆気ないことなど、トータルバランスの点で語ればいろいろと残念な箇所はあります。とはいえスパルタ軍を「狂気の軍団」として描くことには成功していますし、一点突破的な内容で言ったら「見ても損なし」っていう一本と請け合える。

 時代にかなり隔たりがあるとはいえ、ギリシャ繋がりで『イリアム』を読んでいたことも程好く作用した気がします。やっぱ肉弾戦&集団戦はいいですねぇ。影絵と血飛沫で構成されるスタッフロールもカッコ良かった。この前見た『Vフォー・ヴェンデッタ』といい、凝ったセンスのスタッフロールはついつい最後まで眺めてしまう。

・拍手レス。

 最高です。神ですあの時の感動がまだ残ってます自分にとってこのssが本当に沃野です。生きていて良かった
 ありがとうございます。「沃野」という題名は大して深く考えずに決めたこともあって人に言われると少し気恥ずかしい心地もしますが、楽しんでいただけたならこれに勝る幸いなしです。

 照柿が照姉に見えて、何その萌える小説?とか思ってしまった。
 弩クールな姉が弟の前だとほんのり頬を染めて照れりこ照れりこしてしまうわけですね。

 例の電撃の新刊個人的にはヤンデレではありませんでしたよ。話は好きですけども。感想を聞いてみたいっす
 今月の電撃、新人がふたりとも評判になっていますから、遠くないうちに手を伸ばそうかと。

 毒メグ様の所で、焼津さんのレビュー読んでからみてみようかな、と言われてた作品が気になる。
 気になるなら買っちゃいなよ、ユー。

 何故、問題作とかそういうフレーズは人の心を捉えるのか
 誉めているのか貶しているのか、よく分からないからよろめくのかも。


2007-06-09.

修羅ダービー開催中(にゅーくりあ・しっと)

 「この情熱はいったいどこから湧いてくるのだろう」と毎回不思議でならない異様な凝り具合の企画がまたもや「にゅーくりあ・しっと」、略して乳歯にて催されております。修羅場ダービーとは何か? それはサイトの方で詳しく書かれています……というか、詳しく書きすぎ。捏造っぷりの凄まじさに却って読んでいるこちらが心配になってきます。歴史認識をオーバーキルして留まるところを知らないRIG2さんには、いずれ文部科学省の秘密検定組織から毒インク仕込みのボールペンを携えて強制的に修正・訂正・是正するエクスキュージョナーが送り込まれることでしょう。くわばらくわばら。

 ダービーの列に連なっているヒロインは我妻由乃やら桂言葉やら芙蓉楓やら当真未亜やらといったいずれ劣らぬ烈娘ばかり。まだ始まったばかりで試用運転中ということもあり、本格的にイベント化するのはこれからみたいですけれど、ともあれ今後は巡回ついでにポチポチ女券買いしてみんとします。

『Fate/Zero』、3巻は7月27日、4巻は2007年末に発売予定

 「4巻は夏コミに合わせる」という話もありましたが……やっぱりキツかったみたいです。昨年12月に1巻が出た時点でまだ4巻は書き上がっていなかったということですから、間に合うかどうか傍から見てもギリギリな雰囲気ではあった。まあ、待つことには慣れてます。飛浩隆の『空の園丁』は待ち姿勢に入ってからそろそろ4年近くが経ちましたか。依然として期待は衰えず、虎視眈々と発刊の時を狙っている次第。

lightが『Dies Irae』のデモムービー第2弾を公開

 あのさぁ……こっちも餓鬼の遣いじゃないんだからさぁ……こんなデモムービー一つで誤魔化される訳がないでしょう、lightさん……いい加減発売日決めようや、な……?

 などとタイプしているうちにダウンロード終了しましたので早速見てきますね。(見てきた)予想に反して穏やかな導入には戸惑ったものの、終わりは『ヴェドゴニア』のOPみたいなノリでちょいウケしつつ気合充填完了。上にも書きましたが、待つことには慣れています。しっかりと仕上げてくだされ。

・冲方丁の『オイレンシュピーゲル弐』読んだー。

 副題「FARGILE!!/壊れもの注意!!」。2月に『スプライトシュピーゲル』と同時刊行されたシリーズの2冊目で、スプライト〜も来月に2冊目が出る予定となっています。マルドゥック関連と違ってシュピーゲル関連の動きは早いなー、と感心していましたが、実はパソコンが大破したらしくこれでも遅れた方なんだとか。1年に9冊新刊を出した年もあるくらいだし、5日で1冊書き上げた(たぶん『蒼穹のファフナー』ではないかと)こともあるそうなので、冲方が本気を出せばオイレンとスプライト、併せて年間20冊出すことも不可能ではないのかもしれない。……さすがにそこまで行くと作者自身が「壊れもの注意!!」になりかねないので、今くらいのペースがちょうどいいと思います。

 さて、連作形式だった前巻に対し、今回は長編。確か書き下ろしのはず。物語の舞台となる街はかつて「ウィーン」と呼ばれていたミリオポリス――増加&凶悪化する犯罪とテロに対抗するため、十代の少女までもが駆り出されて治安の維持に当たっている国際都市。身体の一部を機械化された彼女たちは「特甲」という武装によって強大な力を得、犯罪者やテロリストたちからは「特甲児童」と恐れられていた。涼月・陽炎・夕霧は「三人で一頭の獣」、遊撃小隊ケルベロス(漢字で書くと「犬」が「森」みたいに三つ)として様々な事件に身を投じている。墜落したロシアの人工衛星にとんでもないものが隠されていたことから、市内に潜伏していた7つのテロリストグループが一斉に行動を開始し、ケルベロスの面々はそれぞれ対応に追われることになるが……。

 正直、前巻を読んだときは「面白いけど、ちょっと微妙かなー」という印象で、好みの上では「スプライト>オイレン」という判定を出していましたが――この2巻を読んで「スプライト=オイレン」とひとまず均衡を保った次第。「とんでもないもの」を巡って派手な戦闘と陰湿な策謀が繰り広げられる冒険小説っぽい緊迫のシーンが連続する展開もさることながら、今回はキャラクターの魅力がかなり活きてきたように感じる。小隊長の割に存在感がやや地味だった涼月には熱い役回りが、ニヒルに標的を撃つスナイパーとして描かれていた陽炎には乙女チックな位置付けが、不思議ちゃんな言動で若干浮いていた夕霧には美味しい場面が、きっちりと与えられていて「やっべ、三人とも好きだぜ、どうしよう」という気持ちにさせてくれる。「三人で一頭の獣」という部分もストーリーの上でだいぶ補強された雰囲気があるし、1巻は読んだけどいまいち惹かれなくて2巻を読もうかどうか躊躇している……という方にもオススメしたい仕上がりです。

 というか、陽炎が可愛いんですよ。こう、好意を持っている相手の前で素直になれなくて強引に無表情を保とうとしているあたりとか。切なかったり誉めてほしかったり失望されるのではないかと怖がっていたり、内面の描写が逐一行なわれるおかげであたかも少女マンガを読んでいるような錯覚に陥ってくる。ええわー、この絶賛トキメキ中な感じ。萌え度の点においてはスプライトの鳳(あげは)さんをも上回ったかもしれません。読んでいて彼女の恋路を応援したくなってきます。

 スプライトの連中もセリフはないながらチョイ役で出演しますし、この巻を読むならオイレン1巻とスプライト1巻の両方に目を通しておくのがベターですな。ヴェロシティの後だったこともあっていささか過剰な期待が掛かっていたシュピーゲルシリーズ、別段急ぐでもなくしかし着々とした足取りで進んでいる感触を得ました。来月のスプライト2巻も楽しみー。

・拍手レス。

 ボルヘスの「バベルの図書館」を連想させる壮大な夢ですね
 見た目は壮大ですが、降りるときが大変というか虚しかった……。

 実際に何かのイベントでやったら結構面白いかもしれませんよ。
 現実では高所恐怖症なので何があっても参加したくないですねー。

 Dies irae 広報ムービー更新。 こう連続で更新されると発売もうすぐかと期待しちゃいますな〜
 ただ、ムービーの最後のベイのセリフが
 発売日連続延期の事を言っている気がしてならない(放置プレイ)

 螢の「私たちはね、とても鈍感になっていく」というセリフも開発者の心境を表しているかのようで不安。

 どうせだからその夢正夢にしたら?エロゲなら余裕で出来そう。
 ひょっとするとバベルの塔は古代人がつくったエロゲーだったのかも。


2007-06-07.

・先日すごい夢を見た焼津です、こんばんは。

 などと唐突にドリームトークを始めても聞き手の方々は白けるだけと知っていてあえて話しますが……なんか物凄い数の組み立てパーツが送られてきて、これを数日掛かりで完成させたら高さ60メートルくらいの塔になりました。「で、これって何よ?」と送り主に電話で聞いてみると、なんとこれがある作家の新刊だというのです。塔には突起や窪みが無数にあり、手や足を掛けてロッククライミングの要領で登っていくことができる。実際に取り付いてみると表面に細かい文章の載ったページが貼り付けられていました。登るルートは複数あって、開始地点によって物語の様相はガラリと変わり、また途中でも「どちら側に登るか」とルートを選択して分岐するマルチシナリオ形式になっている。簡単なルートでは真相が明らかにされないまま終わり、難しいルートを踏破してようやく全体像が掴めるんだとか。「体を動かしながら読んでいく、アウトドア派も納得な新ジャンル『登る小説』だ!」ってことでしたが、インドア派の当方にはまったく納得がいきませんでした。ちなみに書かれていた話の内容は明らかに『マークスの山』のパクリで、どうもこれがオチに当たるらしい。

 他にも日本と中国が全面戦争に突入し、東京へ大陸間弾道ミサイルが雨霰と降り注ぐ黙示録的な夢も見て非常に目覚めが悪かったです。もっとこう、脳内嫁と仲睦まじく過ごすダダ甘な夢は見れないものか。

・糸杉柾宏の『MONOクロ』読んだー。

 “チャンピオンRED”に連載していたライトエロコミック。全1巻で完結済です。てっきり続刊モノだと思っていたのでラストの急展開にビビりました。作者は成年指定の方で2冊出しているようですが、一般ではこれが初の単行本となる模様。帯によれば“チャンピオンREDいちご”で『キミキス』の漫画を連載中とのこと。

 存在感は路傍の石ころ並み――そんなイガグリ頭の少年が物に乗り移る能力を獲得した! 石ころに憑依してローアングルからスカートの中を覗いたり、いっそパンツそのものになってみたりと、やりたい放題な濫用ぶりを見せるが……といったストーリー。設定で『へんし〜ん!』というエロゲーを少し思い出しました。まあ、作者がエロ漫画家とはいえ一般なんだから寸止めを基調とした「お色気」程度のエロスに留まるんだろう、とか考えつつページめくったらいきなり主人公の姉が昼下がりのオナニーに耽っていて仰天。これ、本番シーンを描写しないだけで描いていることはほとんどエロ漫画じゃないか。最近は一般エロの作品でもそういうのは増えてきていると知っていましたが、よもやここまでとは。しかし、そうしたエロシーンよりも「ここからはイメージ映像でお楽しみください」みたいなちょっとしたギャグが面白く、むしろエロを抑えて学園コメディの色合いを強くしてほしかったなぁと思う当方は異端でしょうか? と共感してもらいたがっているウザい文言をわざわざくっつけてみる。

 設定が面白い反面、読切の様相が濃いせいもあって「通読する楽しみ」はやや薄らいでいる印象があるし、やはり後半は急展開でもったいない気がする。この設定で長期間持たせようとするのも苦しいだろうけど、もうちょっと尺を増やしてほしかったというのが正直なところ。とはいえ話自体はキレイにまとまっている方なので、「あえて本番を求めずギリギリなエロさを堪能したい」って向きにはうってつけかと思われます。しかし、一番のサプライズはあとがきに「チャンピオンREDが少年誌」って書いてあることですね……総ルビなんて言われるまで気づかなかった。そりゃ『シグルイ』連載している雑誌を少年誌とは捉えませんよ、フツー。

・高村薫の『照柿(上・下)』読了。

 照柿、か。あれは、老朽化した炉の断末魔の悲鳴の色だ。それとも、俺の脳味噌の色か。

 「文庫化する際、徹底的な加筆修正を行なう」というスタイルを取っているせいで作品が文庫落ちするまでかなりの時間を要する著者ですが、10年掛かった『マークスの山』に対し今回は12年。干支がぐるりと回っています。面白いのはこの『照柿』、ハードカバーで出版された当時は『マークスの山』よりも分量が多かったのに、文庫版ではむしろページ数が『マークスの山』よりも少ないんですよね。つまり、今回は「書き足す」のではなくて「削り込む」ことによって作品の完成度を底上げする路線に走っています。概算ですけど、文庫の枚数で100ページくらいは減っているんじゃないかしら。いずれ読み比べてみたいとは思っています。

 気が狂うような猛暑の夏――合田雄一郎はその女と出会った。乗り合わせていた電車が駅のホームで人身事故を起こし、直前に揉み合う男女の姿を目撃していた合田は、現場から逃げ出した男の追跡を後輩である森義孝に任せ、自らは死体の検分を済ませた後に現場に居合わせた「もう一人の女」と接触する。彼女は逃げた男の妻だった。警視庁所属の刑事とはいえ、この事故(ないし事件)は管轄外であり、合田が捜査活動を行なう謂れは何一つとしてない。しかし、彼は女の大きくつぶらな、葡萄の粒を思わせる瞳に惹き込まれ、衝動的に名前を聞き出す。佐野美保子。やがて、その女が自分の幼馴染みである野田達夫と不倫の関係にあると知ったとき、合田の奥に怒りとも嫉妬ともつかぬ昏い感情の炎がじりじりと舌を伸ばし始めて……。

 『罪と罰』と同じ灼熱の真夏を舞台に、例の酒鬼薔薇聖斗と名乗る少年が引用して有名になった『神曲』の一節(訳は違うけど)をエピグラムに掲げた合田雄一郎シリーズ第2弾。元のバージョンは神戸で事件が起こる3年前に刊行されていますから偶然の一致に過ぎませんが、ついつい連想せずにはいられない。さて、この小説、なんともジャンル分けに困る一作です。冒頭で合田雄一郎は「銀座のホステス殺し」を捜査しており、これがいくつかの謎や不明点を抱えているものの、決して物語の焦点にはなっていません。クローズアップされるのは合田が18年ぶりに再会した幼馴染みの野田達夫であり、また「犬のような目」という印象的な描写が施されている女性、佐野美保子でもある。合田は美保子に奇妙な「一目惚れ」をして、彼女と特別な関係を結んでいる野田に対し攻撃的な感情さえ発露させます。もう一人の主人公である野田は同様に合田に対して曰く言いがたい嫉妬の念に憑かれつつ、職場の炉の不具合、ムカつく新入り、父親の葬儀、醜い遺産争い、すっかりボケた母親、父が描いた青い絵画、夫婦間に走る亀裂、息子との断絶、終わらない勤務、絶えざる不眠といったストレスを経て「変調」を加速させ、徐々に常軌を逸して壊れていく。その丹念な書き込みが凄まじく、まるで警察小説と恋愛小説と犯罪小説とサイコ・スリラーが渾然一体となって説明不能なドロドロのスープに化した印象を湧き上がらせる。「ミステリーを書いているつもりはない」発言で一部の読者から顰蹙をかった高村薫ですが、これを読むといろんな意味で頷けてきます。

 まず、「謎解き小説」として読むとひたすら肩透かしを喰うこと。物語を組む以上、この『照柿』にもいくつか謎は配置されていますが、それでも通常のミステリに比較して「解くべき謎」が少なく、あっても解かれないまま放置されたりする。そもそも答え合わせ――模範解答を示す「解決編」が非常に素っ気なく、いくらでも細部の解釈を自己流で決められる構成となっています。解説らしい解説は本編中にほとんどない。だからと言ってEVAのような投げっぱなしストーリーかと申せばさにあらず。表面的には事件がすべて解決するため、特に気にしなければ謎を謎として機能させないまま読み終えることも可能なのです。こうした「自由さ」と、あえて説明しないことによって生み出される異様な迫力は鬼気迫るばかりなれど、腑に落ちない方も出てくるでしょう。更に、刑事である合田雄一郎が「一目惚れ」によって、判断を誤るどころか私情に衝き動かされて暴走してしまうこと。「ラブロマンスの禁止」を含む二十則を唱えたヴァン・ダインがこれに目を通したらこめかみの血管が破れるのではないかと無駄な懸念を寄せてしまう。本当、この「一目惚れ」はそこらのラブコメよりも強引かつ不可解で、「不条理」と言い包めることもできるけれど当方は素直に「なんじゃこりゃ」と首を傾げることしきりでした。三十も半ばになって正道を踏み外して転落の瀬戸際に近づく合田、転落どころか破滅へ向かってまっしぐらな野田の姿はある種の仄暗い爽快感すら漂っており、軽いノワールの味わいが堪能できると、そんなふうに割り切った方がいっそ楽です。

 やたらと評価が高い『マークスの山』や『レディ・ジョーカー』に比べれば地味で、「失敗作」の謗りを受けることもあり、高村薫の話題で盛り上がっているときでもついつい存在を忘れてしまいがちな『照柿』。だが、失敗作だからこそ持つ破格の雰囲気というものも有しており、こいつを無視してしまうのはさすがにもったいないと思います。エンジンが掛かるまでが長いから上巻はやや退屈させられましたが、下巻に入ってからの勢いには圧倒された。不眠によって誘発される朦朧とした意識の流れを描き出す箇所は際立っています。読んでいるこちらもちょうど真夜中で眠くて意識がフラフラしていたけれど、違和感なくスッと脳に入り込んでくる文章の巧みさには恐怖を覚えて気がつけばすっかり目が冴えていました。過剰に綿密な描写も、前半はその濃密さに辟易させられてただダルかっただけなのが、後半では鮮やかなくらいに活きてきて読むのがやめられなくなった次第。確かに、「面白い作品」や「よくできた作品」ではないのかもしれませんが、それでもなお「すごい作品」であることまでは否定できない。痛打でした。

 タイトルは「照柿」は色の名前で、「晩秋の西日に照らされて映える熟柿の色」を表しているそうです。読む前はパッとしないタイトルだなぁと思ってましたが、読み終わってみるとこれほどしっくり来るものはない。高村薫が付けた題名の中で一番気に入りました。照柿、か。「失敗作」の先入観で着手したもののどうしてなかなか心に残る一作でした。

・拍手レス。

 おたぐらの未収録分シナリオも忘れないでください… あれどっちが悪いんだろ
「ウオオオいくぞオオオ!」
「さあ来いロミオ!」
 おたぐらの完全版がいつか発売されると信じて…!

 西尾維新は少女漫画だけでなく上遠野、森、京極とか同業者の影響受けまくりだったと公言できるのは凄いな…
 最近はそういう公言派の作家も多いですね。

 キャラが立ってて設定が活きてて、面白かったです
 うちのSSのことでしょうか? 勘違いでしたらすみませんが、ありがとうございますー。

 サトウと名がつく人は皆、何か続編が遅い気がします
 佐藤ケイも『天国に涙はいらない』の続き出してないな……。


2007-06-05.

『酸素は鏡に映らない』を読んだらいつも通り上遠野ワールド全開な内容でむしろ安心した焼津です、こんばんは。

 ミステリーランドの作品には作者の別シリーズとリンクしてるようなのもありますけど、この『酸素は〜』に至ってはリンクというより「あくまで上遠野小説」というスタンスを守っている感じ。どこから読んでも構わないけれど、すべてを読まなくては把握できない――という、正に「ワールド」なノリ。

 酸素は生きていくうえで必要だが、同時に毒でもある。同じように、生きていくうえで必要なのにどうしようもなく毒を孕んでいる「あるもの」を少年が逆手に取って窮地から脱しようとする。無造作に「世界の支配者」を持ち出しつつテンポ良く進んでいくストーリー、それ自体はさして込み入ってるでもなくごく普通の流れで結末に向かって行きますが、なんの飾り気もないプレーンな話だからこそ却って作者の持ち味がよく出ている気がしました。言うなれば上遠野ダシのお味噌汁ってところ。あっさりしているのにキレがある。どこが面白いとかいうより、単にページをめくって読むことが楽しかった。最近はこういう「単に楽しい」読書に恵まれていてありがたいかぎりです。

『よつのは』がOVA化決定

「寒うない」

 焼津の胸の内には猫宮ののが燃えていた。

 明らかに季節違いなネタはともかく、いよいよののたんがアニメになるのかー。動くののたんを想像するだけで体温がものっそ上がり、いっそう暑苦しくなります。しかし『よつのは』、相変わらず表に出るヒロインがののばっかりですな。トップページもこんな有り様ですし。このうえ更に『ののと暮らそ!』というアプリケーションや、複数種類のフィギュアまで出す予定らしい。

 つ…か このグッズ量は異常

ライアーソフトの新作は双六風ファンディスク

 双六風って……なんとなく分かる気もしますが、珍しい形式ですね。『Forest』以降のソフトが対象みたいで絵師的には多彩。というかメイン原画が吉田音で少し驚く。「ビっ子さん」とかで有名だった人ですね。うちもいっときリンク張ってました(モチ無断で)。調べてみると去年出たNDSソフトのキャラデザもやってたみたい。あと同名の小説家はやっぱり別人だったのか。

・椎名軽穂の『君に届け(4)』

「わたしみたいに可愛くて人気者は努力するしかないんだからね――――!」

 こんなことを真顔で平然と口にできるくるみが本当に可愛くて仕方ありません。というわけで貞子(本名:爽子)のライバルキャラとして1巻の頃から存在が仄めかされていたくるみ、実際の登場は3巻からで、本格的な参戦はこの4巻からとなります。果たして風早くんのハートを鷲掴むのはどっちだ!? ってまあ普通に考えれば貞子の方ですよね。身も蓋も言い方をすると「メインヒロイン」なんだし。しかしながら恋のライバルキャラはただいるだけで面白いし、しかもこうまでイイ性格した子ともなると「どれほど愉快な修羅場になるんだろう」とワクテカ逸る心を止められない。個人的には貞子もくるみも好きなので両方応援したい心境ではあります。

 そんな感じで割と邪に読み進めておりましたが、終盤に差し掛かってだんだん湿っぽくなり、いつしか目が潤みそうになっている己に気づく寸法。修羅場とは違う、修羅場とは違うんですが……やばい、この状況、骨抜きにされそうだ。『君に届け』は恋愛描写よりも友情描写が濃厚で、特にその傾向が顕著なのが2巻だったんですが、下手するとあの名場面をも凌ぎそうな嵐が近づきつつある予感。あああ続きが読みたくてしょうがない。ここまで心を奪われる少女マンガに出会うのは何年ぶりだろうか。

 ちなみにこのマンガ、西尾維新もハマっているらしい

・拍手レス。

 焼津さんによる九郎ゴッドの書評……すごく読んでみたいです。
 書店でアリフレロの冒頭を立ち読みしたら案外面白そうでした。

 きっと「人類は衰退しました」の世界は、最果てのイマと同じ世界なんすよ
 やはりみんな思うことは同じですか。

 東方project回りのSSが熱すぎる
 東方関連はうどんげくらいしか識別できない……。

 Bullet Butlers、前作でトリガーハッピーだったのが銃に進化してて吹きました
 『あやかしびと』やってるとベイル・ハウターの声はウケますね。


2007-06-03.

・最近気に入っているエロゲムービーは『E×E(エグゼ)』『恋する乙女と守護の楯』な焼津です、こんばんは。別段夢中になるほどでもないんですが、時間が空くとつい見てしまう。特に恋楯。瀬之本久史の絵柄はあまり好みじゃないのに、いちいちツボを突く絵が多くて困ります。プレーするかどうかはまだ分かりませんが、これだけはハッキリと言える。いざプレーしたら、やり終わる頃には「あまり好みじゃない」とこぼしていた瀬之本絵の虜になっているだろう――と。そんな予感にビシバシと苛まれています。『E×E』の方はスタッフ雑記「ゆずNOTE」にある妹四コマが程好い黒さで笑った。

Marronの新作『ひまわりのチャペルできみと』、発売日決定

 おお、遂に。情報公開が始まったのは05年のクリスマス前だったから1年と10ヶ月……もっと待ったような気もしますが、実際その程度だったとは、むしろ驚き。間にドラマCDやライトノベルも出していたとはいえ、Marronのソフトとしては実に4年ぶりとなります。今の世代は『秋桜の空に』を知っているんだろうかなぁ。「文庫本20冊以上のボリューム」「4.5MBのシナリオ量」という、Fateやひぐらしにも迫るスケールを誇示しているけど、その労力を分割して中規模サイズの新作を数本つくれなかったのかと思わないでもなく。ともあれ竹井10日のギャグセンスは好きなのでロックオンしときます。

・田中ロミオの『人類は衰退しました』読了。

 ある意味驚異的なラインナップとある意味瞠目なブックデザインで特定方面にのみ衝撃をもたらした小学館ガガガ文庫――別に小学館のライトノベルレーベルはこれが初めてではなく、少年向けでは『果南の地』などが収録されたスーパークエスト文庫、少女向けでは『封殺鬼』のキャンパス文庫やBL系のパレット文庫が存在しており、ガガガやルルルは「新生」というより「再生」に近いかもしれません。いえ、どれも守備範囲外だったので詳しいことは分かりませんが。ともあれ、創刊時点で三人もエロゲーライターを招聘し、更にはどれほど筆を尽くしても解説どころかネタバレすら不可能な「詩的カオス」と名高い中村九郎まで喚んだ陣容はまさに現代の巨神兵。「小学館はじまったな」とも「小学館オワタ\(^o^)/」とも囁かれており、なんだか見ていて胸の奇妙な高鳴りが止まらない。

 さて、それはそれとして田中ロミオ。「美少女ゲーム界のカリスマ・シナリオライター」なんて紹介もされてますが、ご存知でない方もおられるでしょう。ザッと説明しますと、もともとは山田一名義でD.O.に所属していたライター。『加奈〜いもうと〜』『家族計画』といったソフトを手掛けて人気を博したものの、じきにD.O.を退社してフリーランスとなります。契約の関係で「山田一」の筆名が使えなくなり、以降は『CROSS†CHANNEL』を皮切りに田中ロミオ名義で活躍。複数ライターの一人として参加することもままあり、ピンで書いたロミオ名義のソフトはC†C以外だと『神樹の館』『最果てのイマ』『おたく☆まっしぐら』の3つです。「ロミオ節」と呼ばれる独特の作風でコアな人気を獲得していて、噂によれば「仕事は早い」とのことですけど、並行処理する作業量があまりにも多いせいか一つ一つのボリュームはそれほどでもない感じです。ライターとしてではなく「監修」としてスタッフに連なるソフトもあったりで、今はどんな新作に取り掛かっているのかハッキリしませんが、多くのファンが待ち望んでいるのは『霊長流離オクルトゥム(仮)』。C†Cと同じ松竜を原画に起用した伝奇モノということで期待は高まっている反面、いつ出るのか……それ以前に本当に発売するのどうかも不明で、位置付けは『俺たちに翼はない』『陰と影』『クルイザキ(仮)』に等しい。あと『昆虫デスウィッシュ』なる謎の企画(2006年1月6日付参照)についても仄めかされており、ファンの本音としては「こんなところで小説出してる暇があったらオクルトゥムやデスウィッシュを出せよ! だ、出せよぅ……」といったところ。

 しかしそうは言ってもいざ発売されるとウキウキしちゃって買わずにいられないのが儲のSa-Ga。喜び勇んで購入し一気に読み通しました。タイトルはいかにも終末モノ臭いですが、『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』式メソッドで、つまり本編とはそれほど関係がないと作者自らあとがきでバラしています。「何か」が起こって文明が後退し、全人口が一億人を切るまで減じた未来――ホモ・サピエンスは滅び行く運命を従容と受け入れ、地球を「新たな人類」に明け渡すべくほそぼそと暮らしていた……といった感じ。殺伐とした色合いはなく、むしろ牧歌的な雰囲気が漂っている。ヒロインの一人称で綴られており、ムードも柔らかい。が、そこはロミオ。語彙を始めとするテキストセンスは「ジュヴナイル調のほんわかとした世界」に安住することを潔しとしない。ボウガンや月経ネタが出てこないところを見るといくらかは自制したみたいですが、バイオハザードのパロネタがあったりと、結構いつも通りのノリです。セリフ回しも振るっており、ファンならたとえストーリーをぶっちしても問題なく楽しめてしまうでしょう。

 そしてファン以外の、「田中ロミオって誰?」な人や「名前は聞いたことがあるんだけどなー」な人に薦められるかと申せば……いささか言葉を濁すかな。評判はイイみたいなんですが、骨子となる部分はライトノベルというより児童文学で、「こども向けの小説を魔改造してみました」的な雰囲気が漂っており、ジュヴナイル好きの人に推すのはやや憚られます。ロミオ作品としてはそんなに毒の混入していない方ながら、逆に見ればその「毒のなさ」が刺激に欠けるとも言える。結論らしい結論、仕掛けらしい仕掛けもありません。ボーイ・ミーツ・ガールでもなければスリルとサスペンスの冒険譚でもないし謎と神秘の伝奇ストーリーでもない。辛うじてハートウォーミングと言える、かな。淡々として寂しさを感じさせず、あっけらかんと滅亡を謳歌してみせる終末観や、文化人類学的な薀蓄を交えたトークは面白いです。微かに背筋をヒヤリとさせる要素もある。が、続くのか続かないのかハッキリしないあやふやさで幕を下ろすため、据わりがいまひとつ。うーむ。

 ロミオ節の補給分としては満足の行く出来ではありました。ですます調の喋りが与える清楚かつ奥床しい印象を裏切って実はイイ性格してる、なのに人見知りがとんでもなく激しいヒロインが可愛い。人見知り描写の丁寧さは感心したと言いますか、かなり身につまされました。彼女のキャラクターがあってこそ愉快な掛け合いも成立するというものだ。ファンにしか分からない表現をすればミキミキや葉子がヒロインを務めているかのような本です。

 というわけで、「田中ロミオのファンならOK」なんつー読む前から歴然としているつまらない結論に、「田中ロミオを知らない人もどうぞ」をプラスする踏ん切りが付くには至らなかった。今後の続刊によって態度は変えるかもしれませんが、現時点で一見のお客さんに笑顔を向けて「オススメだよ!」と捻じ込むブレイブは当方にありませぬ。差し当たって2巻以降、あるいは更なる新作の出版を待ちたい。ちなみに、上で書いた「山田一=田中ロミオ」は一応ソースがあるものの公式に認められたわけではなく、あくまで「別人」と見做す向きもあります。一応念のため。

・拍手レス。

 沃野とても素晴らしかったです
 ありがとうございます。楽しんでいただけたなら無上の幸いです。


2007-06-01.

・前回分、更新したにも関らずアップロードするの忘れてた焼津です、こんばんは。何度目か数えるのもうんざりな恒例のミス。ちと凹みました。早く新型の学習機能を脳内に搭載したいものです。

『バカとテストと召喚獣』の2巻に手を伸ばしたらすぐに夢中になって、あっという間に読み切ってしまった。依然としてバカゲージがMAX。霧島翔子は完璧にキモストーカーと化していてステキです。ラ板のスレに「何故かCROSS†CHANNELの曜子ちゃんが出てくるよ」という書き込みがありましたけど正にそんな感じ。ストーリーの勢いは1巻に比べやや落ちた気もしますが、堪能しました。でも秀吉の魅力が青天井で釣り上がっていく事態は本気でどうにかした方がいいんじゃないかしら。そのうち「バカテスのヒロインは秀吉」という共通認識が平気の平左で罷り通ることになるやもしれぬ。

lightの新作『Dies Irae』、ページ更新

 「Before Story」に「Last Summer」を追加。そして発売予定が「2007年春」から「2007年」へ(製品情報のページでは「2007年秋」)。もはや夏は絶望的ですかそうですか。分かり切ってはいましたけど。いましたけど。ともあれ待つより他に術もなし。あと『しょぱん!』とかいうダウンロード販売ソフト(パッケージ版も発売する模様)が発表されていて、どうもこちらの方が先に出そうな気配でなんだか苦笑いせざるをえない。

・今月の予定

(本)

 『秘曲 笑傲江湖(一)』/金庸(徳間書店)
 『Damons(6)』/米原秀幸(秋田書店)
 『キスとDO-JIN! 〜お兄様はTAXフリー!?〜』/小林来夏(学習研究社)
 『ロスト・チャイルド』/桂美人(角川書店)
 『五日性滅亡シンドローム(1)』/ヤス(芳文社)

 電撃文庫の購入予定が0。珍しい月もあるものだ。まあ、その分7、8月の予定がすごいですけど。ともあれ武侠小説の大家・金庸の最高傑作とも言われる『笑傲江湖』が遂に文庫化。Gガンダムに登場するマスターアジア「東方不敗」の元ネタもこの『笑傲江湖』なんだとか。全七巻と結構長い物語ですが、毎月一冊ずつ出してくれるようなので今年中には完結する計算になりますね。『Damons(ダイモンズ)』は交換可能な義手を「ゼスモス」と呼ばれる情念で操って仇どもを屠る、「これぞまさしくチャンピオン漫画」なバイオレンスに満ちた復讐ストーリー。暗く熱い怨嗟の滾りに肌を炙られます。最近はややヌルい気がしないでもないですが……盛り返しに期待。『キスとDO-JIN!』は少女レーベルのシリーズで、一見すると「なんじゃこりゃ?」なタイトルながら「同人」という要素に対し意欲的に取り組んでます。何せこの2冊目のテーマが「同人の税金問題」。ディープです。「ワイルド系脱税大手」「クールビューティー税務署員」といった用語にキュンと来るものがあったら是非チャレンジしてみてください。『ロスト・チャイルド』はエセリアルの風が吹き荒ぶ谷間で魂の慟哭を響かせ……ごめんなさい、たまソフトとは何の関係もありません。横溝正史ミステリ大賞の受賞作です。社会的な問題を扱った作品が受賞しやすい江戸川乱歩賞と違って特に傾向らしい傾向を持たない横溝賞。強いて言えばエンターテインメント性の強い作品が来やすいか? 同日発売の『首挽村の殺人』ともども注目してます。『五日性滅亡シンドローム』は『とらドラ!』の挿絵で知名度が上がっているヤス初の単行本。内容はよく知りませんが、とりあえず押さえておこうかと。『棺担ぎのクロ。』の新刊も同時発売。忘れんようにしなきゃ。

(ゲーム)

 『Bullet Butlers』(propeller)

 遂に「なし」の呪縛から解かれたぞヒャッホウ! つーわけで弾丸執事一本に賭けようかと思います。竜とか神とか出てくる異世界ファンタジーなのに、銃と車も出てきてリザードマンがスーツ着ているチャランポランな設定。ライターは『あやかしびと』と同じ東出祐一郎で、今回も粘り強いシナリオを見せてくれるはず。もし仮にこれが延期してしまった場合は『恋する乙女と守護の楯』あたりを後釜に据えようか。ボディガードの少年が女装し、いざ護衛対象の通っている全寮制女子校へ! な一本。主人公がちゃんと女装を嫌がっていて、けど似合っていて、「ああもう、とにかく任務はこなさなきゃ!」とひたむきに頑張っている感じが伝わってきて、とても宜しゅうございます。

・拍手レス。

 Dies irae[BeforeStory]更新!! 発売日、07年秋に変更
 え・・・・・・・・・・・・『秋』??・・・6月は秋だっけ?

 たたかわなきゃ、既知感(ゲットー)と。


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