2007年3月分


・本
 『私の庭 浅草篇』/花村萬月(光文社)
 『学園黙示録 HIGHSCHOOL OF THE DEAD(1)』/原作:佐藤大輔、作画:佐藤ショウジ(富士見書房)
 『P2!−let’s Play Pingpong!−(1)』/江尻立真(集英社)
 『鉄のラインバレル(0〜5)』/清水栄一×下口智裕(秋田書店)
 『シャドウ』/道尾秀介(東京創元社)
 『刀語(第一話〜第三話)』/西尾維新(講談社)
 『BAMBOO BLADE(1〜4)』/原作:土塚理弘、作画:五十嵐あぐり(スクウェアエニックス)
 『銀河英雄伝説1』/田中芳樹(東京創元社)
 『シグルイ(8)』/山口貴由(秋田書店)
 『泣き虫弱虫諸葛孔明』/酒見賢一(文藝春秋)
 『キスとDO-JIN!〜王子様はカリスマ大手!?〜』/小林来夏(学習研究社)


2007-03-29.

リレー小説『魔法少女忌譚修』、第10話更新

 一年近くに渡った沈黙を破り、遂に最新話が来ました。↑も久々に話数と日付を変更。そろそろ終盤も近いとあってか、『林檎の樹』が発動したりといろいろ衝撃的な展開に。これでどうやって続けるんだろう……とただの読み手ならワクワクするところですが、はい、次の番は当方です。いや、本当にどうやって続ければいいんだろう。

・小林来夏の『キスとDO-JIN!〜王子様はカリスマ大手!?〜』読了。

 前々回に紹介して「いっちょチャレンジしてみるかなー」と書きましたが、はい、チャレンジしました。今月創刊したばかりの「もえぎ文庫ピュアリー」から出ている一冊。出版社は学研です。作者は「水戸泉」という名義でかれこれ十年以上もボーイズラブ小説を手掛けてきた人のようですが、今回はBLじゃないから新規に「小林来夏」名義を取ったみたいです。そういう意味では再デビュー作に当たるのかもしれない。初の非BL作品。とはいえ少女向けのレーベルで、ヒロインが腐女子ということもあって男カップルこそ出てこないものの若干のBL臭は漂っています。一グラムでも801要素が混ざっているのはダメ、という方には強いてオススメしませぬ。

 腐女子――それは美少年(あるいは美青年)同士が愛し合う「BL(ボーイズラブ)」というジャンルの引力に魂を縛られた女たち。そう、女子高生・鈴木七海はいいとこのお嬢様であるにも関らず、15歳にして既に腐女子となっていたのだった。小さい頃から絵を描くのが好きで、ゆくゆくは漫画家になりたいという夢を持っている七海は、まず第一歩として初めての同人即売会に参加する。持ち込んだ20部のコピー本はめでたく完売。そのうえ、ひょんなことから男性向けサークルの大手の人たちとも仲良くなった。トントン拍子で仲が進展し、アシスタントを経て合同誌を出した七海。しかし、それを読んだある人物にはっきり言われてしまう。「お話がつまらない」と。ショックではあったが、「面白いストーリーがつくれない」という弱点は彼女も薄々自覚していた。問題は、自覚して更に克服していけるかどうかだったが……。

 絵がうまく、仕事も早いから、アシスタントとしての才能はある。が、話をつくることができない。一長一短な腕を持った未完の大器をヒロインにして送る同人サクセス・ストーリー。いや、まだ始まったばかりなので路線がサクセス・ストーリーに向かうかどうか分かりませんが、印象としてはそんな感じ。これが少女向けじゃなくて少年向けだったらサブタイは「〜お嬢様は腐女子!?〜」になっていたに違いあるまい。少し天然なところはあるけれど「世間知らず」というほどでもないヒロインはなかなか可愛いです。露骨な萌え描写こそ薄めにしても、「七海の頭の上で、人には見えない猫耳がピンと立った」など、マンガっぽい表現を自然に取り入れた軽いタッチのおかげで自然に頬が緩む。そこはかとなく香る淑女の匂いと、案外打たれ強い性格とのブレンドが美味。こういう微妙なバランスが保たれているのは「乙女モノ」というジャンルなればこそ、といったところでしょうか。

 反面、男性キャラのほとんどには残念ながらあまり好感を持てませんでした。もともと男ハーレム状態が好きではないということもありますが、いまいち何を考えているのか分からない奴がメインにもいて得体が知れぬ。あ、でも男ツンデレの西南北はちょっとツボでした。個人的にはこいつとヒロインのカップリングを望みたい。まあそれはさておき、本書の見所となるのはタイトルにもある「DO-JIN」、つまり同人界のことでしょう。冒頭、主人公が「はじめての即売会」に参加するシーンは「手に取ってもらえるかな(ドキドキ)買ってもらえるかな(ドキドキ)」という鼓動の高鳴りが聞こえるような初々しさで、とても臨場感が高い。こちらまでドキドキしてきます。値札を前に「さていくらにしよう」と考えるヒロインの姿に胸キュンしたのは吊り橋効果かもしれません。まだ1冊目ということもあって同人薀蓄等の掘り下げはやや浅めというか、同人を詳しく知らない人にも配慮した内容になっていますが……いきなり転売屋が登場したりと、同人の生々しい側面にもキッチリ触れている。次回のネタが「税金問題」というくらいですから、作者のやる気満々な姿勢が窺えます。

 「同人の楽しさ」を享受しながらヒロインが表現者として成長していく過程を綴ったライトノベル。文章は三人称ですが途中で急に視点が変わることがあるので混乱しました。そこを除けば特に読みにくいところはなかったです。ちょっと薄いせいもあって物足りなさが残りますが、今後も同人方面の書き込みをガンガンとディープにやっていってくれるならば読み続けたい。レーベルのせいで怯む方もおられるでしょうけれど、男性にも割と楽しめる仕上がりになっていると思います。ちなみにイラストレーターの由良って、『セイレムの魔女たち』の原画家ですよね……この人BLの仕事も結構しているというか、むしろそちらがメインだったのか。知らなかった。あと執事の名前が氷川透で、どうしても同名のミステリ作家を連想してしまう罠。あの人最近新刊出してないな……しかもHPの更新も止まっているっぽいし。大丈夫かしら。


2007-03-27.

・例によって「本やタウン」の新刊情報をダラダラと眺めていたら、久しぶりとなる秋田禎信の新刊を発見、それもハードカバーで。タイトルは『カナスピカ』。あらすじは

 3万年の周回を50年で落ちてきた人工衛星「カナスピカ」。姿は少年なのに埋められない心のもどかしさを知る加奈。ひと夏の少女の成長を描く青春小説。

 で、ちょっとファンタジーの入ったガール・ミーツ・ボーイって感じ。来月の10日くらいに出るみたいです。オーフェンで有名な秋田禎信だけど、ハードカバーは今までなかったですよね、確か。意外というか何というか。

・酒見賢一の『泣き虫弱虫諸葛孔明』読了。

 まあ、要するにロング・ロング・タイム・アゴー……イン・トゥーブレント・エイジ(乱世)にロイヤル・ブラッドのベリー・ナイス・ヒーローを二人のスーパー・ストロンゲスト・グラジエーターがサポート&アシストしながらテリブルに暴れ回り、ある晴れた日、ハーミットであったドラゴン・ウィザードまたはドラゴン・ソーサリーが出てきて、プラン・オブ・スリー・キングダムズ(天下三分の計)でまやかし、マジックやオカルティック・アートを駆使してドミネーション・オブ・ザ・ワールド(天下制覇)のために邁進していくレジェンド・ストーリー、それが『三国志』なのだっ。持ってけ、ファンタジー!

 架空の人物を主役に据えて人気を博しマンガ化および映画化した『墨攻』など、古代中国を題材に採った作品群で有名な作者が初めて挑んだ『三国志』ネタ。言うまでもなく歴史に名を残す神算鬼謀の超軍師・諸葛亮孔明が焦点となり、後半からは劉備玄徳の出番も増えてくる。ざっくばらんで軽快な筆致ながら500ページ近くとなかなかの読み応えがある分量で、既に続編となる『第弐部』も刊行されています。タイトルがタイトルだけに「は、はわわ、ご主人様、敵が来ちゃいました!」な孔明を想像していましたが、さすがにそれはなかった。というより「泣き虫弱虫」がやや羊頭狗肉気味。あくまで三度の飯より謀が好きなハッタリ野郎として書かれており、いつも宇宙スケールの自信を抱いて揺るぐことがない稀代の大変人っつー印象です。常勝不敗の口喧嘩王で、腕っぷしはさっぱりだけど、暴力に訴えられた場合は奥の手の火計(要は放火)で報復する。とんでもねぇ外道だこいつ。超自己中。しかも話は「天下」なんてもんじゃなく、「宇宙」にまでその志が達している。まさに宇宙すごい。慌てず騒がず「この孔明、既にして胸中に策ありですぞ」という雰囲気を常に放っております。ただ、三顧の礼が終わって「孔明出蘆」となるシーンで幕が降りるため本当にハッタリだらけの張り子の虎という気がしてならず、諸葛亮さんの秘められた真価はまだまだ発揮されておりません。発揮されない方が人民のためという気もしますが、第弐部に期待が寄せられる。

 さて、「ざっくばらんで軽快な筆致」と申しましたが、どれだけざっくばらんかと申せば「身も蓋もない」ってくらいにひたすらざっくばらんです。一応は小説という体裁を取っているものの、大部分が作者による解説で埋められているので、感覚としては歴史エッセイというか個人がホームページに載せている「三国志」特集ページを読むのに近い。劉備の言動を記した後で「かわいい!」とか、お前はどこの腐女子かと。「三国志」自体が正史やら演義やらいろいろとあって、更に正史の方でも諸説あって真偽が定かならぬ事項があったりするからツッコミどころが多いけれど、作者は無視を決め込むどころか「おかしいところはおかしい」とツッコミを入れまくります。そういう意味では三国志小説というよりメタ三国志小説ですね。歴史小説や時代小説は補足しないと内容が通じない部分があるため作者の注釈を合間に挟むものですが、これに関しては作者が注釈を入れている合間にストーリーが進むと書いた方がいい。当方は「三国志」に詳しくないので予備知識もなしに読み始めてよいものかどうか大いに不安でしたけど、そんな不安は十ページも読むうちに忘れてしまいました。読みやすいし、中身もするっと頭に入ってくる。いささか不謹慎とも取れる執筆態度であれ、「とりあえず『三国志』に興味を持たせる」という点では水際立ったものを見せます。

 上の斜線部は「三国志」を「Romance of the Three Kingdoms」なんてふうに英訳したら、って箇所から引用していますが、このハリウッドが『三国志』をパクって映画制作したかの如きトンチキな発想が意外にハマっていて面白かったりする。リュー・ベイ(劉備)、クワン・ユー(関羽)、チャン・フェイ(張飛)がピーチ・ガーデン・ブリッジ(桃園結議)によって「リュー・ベイ・ブラザーズ」を結成し、黄巾賊を虐殺する場面で

「ヘイ、キル・ゾーズ・フェローズ!(奴らを吊るせ!)エクスターミネイト、イエロー・ターバンズ!(黄色頭巾どもを血祭りに上げろ!)」

 と叫ぶのなんか、正にその通りの映像が脳裏に浮かび上がりました。似たようなことは『安徳天皇漂海記』でもやっていたけれど、こうやって語彙やノリを故意にズラすことでイメージをガラリと変えるのは何度読んでも目から鱗ですね。「三国志」なので戦や陰謀の要素が濃く、血腥いところや酒に酔った張飛が戯れに部下を殴り殺す「おいおい」なところもわんさかあるのに、陰惨な雰囲気は微塵も漂ってないんだからすごい。ちょっと突き抜けた感じがあります。劉備を仁徳の人ではなく巧言令色で男をコロリと惚れさせる天性の詐欺師みたいに書いてるあたりは従来のファンにとってどんなものなんだろうか。あんまり劉備に対して固定的なイメージを持っていない当方としてはこの「魔性の勘で連戦連敗する罪作りな人蕩し」という造型が面白くてたまらなかったんですが。

「われら三義兄弟、生まれた日にちは違っても、死ぬときは一緒っ(趙雲は違うけど)!」

 と露骨に子龍をハブにしてるシーンとかヒドいです。そのヒドさが却って生々しくて良い。

 カッコいい異称がないと歴史に残らない――カッコいい異称さえあれば大したことしてなくてもちゃっかり歴史に名前を連ねてしまうとか、到底シリアスな文体の歴史モノでは書けないであろう部分にまで触れている面もあって、単に「おちゃらけただけのなんちゃって三国志」にはなっておりません。いえ、まあ、多少行き過ぎで辟易するところもありますが、「三国志」を嗜んでいない当方にはこの作品がふざけているのか元々の原典がふざけているのかちょっと判別し切れない。

「真人は足跡を残さず」
 という。人類に対して、歴史に対して、真に重要なことをやった人間の名は残ることはない。逆に言えば名が歴史に残ってしまうようなやつは駄目で、じつは大した仕事はしていない、という意味である。

 このへんは無茶なことを書いてるようで案外穿っているのではないか、と思ったり。とれあれ、「三国志」初心者で知識がプアーな当方でも夢中になって貪り読む変テコな魅力を有した一冊であることに間違いはありません。パッと見が厚い(しかも税込2000円と少々お高い)ものの、とにかく楽しい本を読みたい方は怯まず着手されることをオススメいたします。第一部は最後に来る「三顧の礼」の件が長くてダレたけど、劉備軍に参加した孔明がいよいよ本格的なハッタリを飛ばすことを想像するにつけ、第弐部を読み出すのがとっても楽しみであります。わくわく。


2007-03-25.

『シグルイ(8)』読み申した焼津です、こんばんは。

 近所の書店二つを回ったら、どちらも売り切れ。大きめのところに足を運んでやっと入手しました。アニメ化決定の影響が出たにしては早すぎるし、じわじわと地道に人気が広がってきている証左と見做せるでしょうか。帯には「100万部突破!」とありますが、恐らく累計なので1冊あたり14万部強という数字に。青年コミックの売上が普通どの程度なのかよく分からないので、売れているようなそれほどでもないような……判断しにくいなぁ。

 さて、内容に関しては「藤木と伊良子の一度目の真剣勝負」です。読んだ感想を一言にすると、「9巻が同時発売じゃないのは何故!?」に尽きます。巻頭から巻末に至るまでひたすら死合いまくり、興奮が最高潮に盛り上がったところで「次巻につづく」となる鬼の如き仕様。いずれ8巻と9巻をまとめて一気呵成に読むであろう後々の読者たちを確実に嫉妬いたしました。もちろん、8巻の内容自体は無上であります。飛び出す秘剣と魔剣。容赦は微塵もなく、凄まじい殺意の応酬にぐいぐいと引き込まれる。あくまで「一度目の真剣勝負」であって、この闘いでは二人とも死なないと分かり切っているにも関らず、「死んだ!」と思うような瞬間が幾度も訪れた。最後のページで相討ち、双方斃れる――などという矛盾した展開になっても咄嗟に納得してしまかねないほどに横溢する鬼気。抗う術なし。圧倒されました。駿河城の御前試合は二人が逝く寸前に見た束の間の夢だった……そんな、まるで打ち切りみたいなオチさえアリだと思えてしまう。「過去の決闘なんだから二、三話で終わるだろう」といい加減な読みをしていた自分を羞じました。力量を等しくする者たちが互いに刃を持って向き合うとき、己を削ってでも相手の全存在を否定しなければ「勝つ」ことなどありえない。荒唐無稽のようでいて実に生々しい殺陣でした。

 とまあ儲剥き出しな感想を脇に措くとしても、今回は単なるアクション漫画として読んでも充分に面白い巻となっています。汲めども尽きぬ迫力に呑まれること請け合い。「時代劇にはどうも苦手意識が……」という方はこの最新刊からいきなり読み出してみてもイイかもしれない。ただ、技を繰り出すたびにいちいち「なんたらかんたら!」と固有の技名を差し挟んで特徴を述べるのは現代のバトル解説みたいでちょっと噴きました。カッコイイことはカッコイイけど、なんだか牛股が本部以蔵に見えてきました。

3月24日付に『刀語』の奇策士とがめ絵(TOPIA)

 『刀語』イラストとは珍しい。珍しいというか初めて見ました。とがめは萩原子荻を良い意味でデチューンしたようなヒロインであり、彼女が目当てで『刀語』を買い続けている節もあったりなかったり。にしてもこの絵師さん、『カレイドスコープのむこうがわ』の挿絵描いた人なのか……あれ、地味に評判が高いので気になっています。

『キスとDO−JIN! 〜王子様はカリスマ大手!?〜』(リンク先の一番下)

 某所で存在を知って気になっている一冊。「もえぎ文庫ピュアリー」という今月創刊したばかりのレーベルから出ています。レーベルの路線は「BL&乙女」とのこと。ヒロインが腐女子ということもあって「乙女系」に属するみたいですね。作者の小林来夏は「水戸泉」の筆名でBL作品も手掛けていて、今回はBLじゃないから別名義にした模様。

 あらすじを作者のサイトから引用すると、「主人公の鈴木七海(高校一年)は、絵は15歳にして神レベルだけれどお話がまったく作れない隠れ腐女子で漫画家志望。電波な執事さんと同居中。初めて参加した同人誌即売会で運命の人に出会う? が、運命の人は二人いて、しかも二人はカリスマ大手だった…」。これだけなら単なるウケ狙いの設定とも考えられるところですが、同人関連のネタが結構濃いらしいです。なにせ次巻の副題が「〜お兄様はタックスフリー!?〜」、「同人界の税金問題をテーマに萌えを書く」と云う……『ドージンワーク』の新刊も近く出ることだし、いっちょチャレンジしてみるかなー。

きゃんでぃそふとの新作『すうぃと!』情報公開

 タカヒロと白猫参謀が抜けてどうなるものか、進退を危ぶまれていたきゃんでぃそふと。新作はメイド喫茶モノみたいです。『パティシエなにゃんこ』『ショコラ』『パルフェ』あたりが個人的に想起する線ですね。一見すると時流に乗ったジャンルのようでいて、なかなかどうして地力を試される分野だと思います。原画はコガアツシかなー、と思ったら新規の絵師でした。その名も「病(yamai)」。

 ……って、「-L.S.D-」の病!? マジで!? 一瞬目を疑うほどべっくらこきましたよ。た、確かに絵柄は似てる……気がします。塗りのせいか、だいぶ印象は異なりますけど。生来不精なもので、CGサイトでハードリピートしているところと言えば犬江さんの「ジンガイマキョウ」を入れても十箇所に満たない当方ですが、「-L.S.D-」はその足繁くに通っているHPの一つ。「カギリミノイド」の天原埜乃が『妖刀事件』で原画家デビューしたときと同じかそれ以上の驚きを味わいました。なんかこういう、一方的にとはいえ知っている人が「○○デビュー」とかすると無性に「自分も歳を取った」って感慨が湧くなぁ……。


2007-03-23.

『Dies Irae』、発売予定が4月から6月に変更

 ガッデム。そう書くより他ない焼津です、こんばんは。いや、ここまで来て明確な発売日が決まってなかった以上、4月発売は無理だろうなーと予測していたのでそこまで深刻にショックだったわけじゃないけど、延期癖が付きやしないかと思うと不安で不安で。オルタといいロスチャといい陰影といい、燃え路線の大作(?)ソフトってすんなりとは出ない宿命なんですかねぇ。

・近所の古本屋に寄ったら銀英伝の全巻が置いてあったのでついまとめ買いしてしまった。

 だって、ほら……新装版は来月にならないと2巻が出ないし。待つつもりではいましたけど、やはり隔月刊行は遅くて我慢ができず、衝動買いの虫が騒ぎ出してしまった仕儀。新装版を買い集めるつもりだったのに我慢できなくて元のバージョンを買い込むのは“デルフィニア戦記”以来であり、当方って実に進歩ない。

 で、全巻とは書きましたが新書版の「全巻」であって、文庫オリジナルの『銀河英雄伝説外伝1 黄金の翼』は置いてなかったです。シリーズ唯一の短編集。検索してみたところamazonでも売り切れですし、今はもう品薄なのかなーと思ったら他のオンライン書店には在庫があったので注文しておきました。

 現在3巻まで読み終わったところ。2巻「野望篇」は帝国、同盟、双方の内戦を長々と描いており、ちょっと中だるみするところもありましたが後半に差し掛かると空気も過熱して盛り上がった。3巻「雌伏篇」は内乱から立ち直った帝国と同盟の小競り合い。戦いの規模こそ大きくないものの、「要塞 VS 要塞」という実に大雑把なシチュエーションが心をくすぐってたまらなかった。大艦巨砲主義万歳。局地的な戦闘の描写はあっても個々の戦闘にはあまり重きを置かない銀英伝ですが、ヤンの養子ユリアンが敵機を撃墜するシーンに紙幅を割き、軍人としての頭角を現し始めることもあって今後の展開が楽しみになりました。それにしてもヤンといいラインハルトといい、主要人物が揃って幸福とは言いかねる状況に身を置いてるせいもあってだんだん陰惨な気配が忍び寄ってくるなぁ。「英雄伝説」という割にはやっぱり暗いし重いよ銀英伝。

talestuneの『収穫の十二月』、DL販売開始

 どちらも好みの作風ということもあり、個人的に黄金コンビだと思っている上田夢人&竹田の非18禁同人ノベルソフト。今までショップ委託が為されず、「イベントのみで販売」という形態のおかげで切歯扼腕することしきりな地方民だった当方ですが、これでグッと入手しやすくなりました。物が残らないDL販売は少し抵抗感もありますけど、さすがにこれに関しては別格。ただ、まあ、「やりたくなった時に買えばいいや、売り切れるもんじゃなし」という心理が働くせいもあって、実際の購入はだいぶ先送りとなりそう。こういうのも一種の「積ゲー」に近い感覚ですね。

映画版『空の境界』、なんと七部作構想

 七部作と申したか。

 ここまで規模が大きくなると逆に不安になってきますね。『Fate/Zero』の新刊もそろそろだし、盛り上がってることは盛り上がっているTYPE-MOONだけど、そろそろゲームの新作を決めてファンたちを安堵させてやってはいかがかな。信者と新規、両方を相手にする新作だ。ワハハ。ワハハハ。

 や、本当に完全新作を期待したく思っております。何せ『Fate』から数えて既に3年。『月姫』のリニューアル、とかいった案もそれはそれで悪くないけど……もし次にそれが来たら微妙な表情を取ってしまいそうです。

・拍手レス。

 『つくしてあげたのに!』
 修羅場の予感であった。
 それを耳にした時、男主人公の背中がじわりと濡れた。
 ただ一文字変えただけで、ここまでイメージが別物になるとは……

 全文ひらがなというのが却って異様な怨念を感じさせますね。


2007-03-20.

『つくしてあげるのに!』『つくしてあげたのに!』と過去形に直しただけでドロドロな愛憎のもつれが妄想できて(*´Д`)ハァハァな焼津です、こんばんは。頭がおかしいのは春のせいではなく年中行事。

・新刊情報を眺めていたらこんなものを発見。

 『アルハザード(1) ネクロノミコンを書いた男』/ドナルド・タイスン(学習研究社)

 ぐぐってみると作者は以前に『ネクロノミコン』というのを出しているらしい。解説書に近かった『魔道書ネクロノミコン』と違って内容の本格的な再現を試みた一冊らしく、読み口としては魔道書というより「旅行記風のダーク・ファンタジー」だとか(受け売り)。今回は焦点をネクロノミコンからアルハザード自身に移し、腰を入れてゴシックロマン小説に挑戦する模様。造詣が浅すぎて『ネクロノミコン』本体には手を出す気が起きないけれど、アブドゥル・アルハザードの生涯を描くって形式なら読んでみようかな……と興味をそそられた次第。

 ちなみに『魔道書ネクロノミコン』の完全版も発売されるみたいです。続編の「ルルイエ異本」も収録だそうな。

小学館ルルル文庫のラインナップ

 ガガガに比べるとおとなしい……かな? 少女レーベルは詳しくないので作者の名前があっても「なんとなく見覚えのある人だなぁ」くらいしか思わない。“西の善き魔女”と、あと“デルフィニア戦記”は最後まで読み切った(デル戦の続編? なんですかそれは?)けど、“十二国記”は『月の影 影の海』しか読んでいないし、マリみては途中で飽きてしまったし、“運命のタロット”も半ばで止まってるし、他は“楽園の魔女たち”“流血女神伝”“足のない獅子”も全巻積読状態で、実に惨憺たる有り様。改めて紹介文を読み直すとどれもすごく面白そうなので、時間さえ取れたら崩しに掛かりたいところです。

ゆずソフト、新作『E×E(エグゼ)』のサイトをリニューアル

 ここといいコットンソフトといい、萌えゲーでデビューしたブランドがサスペンスに走るのって一つの傾向なんだろうか。どっちも新作サイトが黒背景なあたりシンクロニシティを感じたり。それにしても「魂(コード)を、解読せよ――」というキャッチコピーはこれを連想してしょうがありません。

エスクード、『ふぃぎゅ@謝肉祭(カーニバル)』のデモムービー公開

 「某所で超話題になった『ふぃぎゅ@メイト』の〜」って、やっぱりニコニコの件は感知していたのか。いえまあ感知しない方が異常な騒ぎっぷりではありましたけど。で、新作デモ。さすがに洗脳力は前より下がったものの、なかなか楽しい雰囲気でグッド。しかし「豪華限定版」を謳っているとはいえFDをフルプライス(9240円)とは強気だなー。

『恋姫†無双』の諸葛亮が抱き枕に

 孔明老師を抱いて寝るとは、日本も気の狂った素晴らしい時代に突入しましたね。それといま『泣き虫弱虫諸葛孔明』を読んでいますけど、例の萌え軍師スタイルが脳裏に甦ってくることしきり。困った。

AXLの新作『恋する乙女と守護の楯』

 『闇のイージス』を叩き直して女装潜入エロゲーに変えた印象。にしてもこの頃はこうしたボディガードとか執事とかいった「特定の誰かを守る」系統の主人公が目立つような。ブームが戦闘少女から戦闘少年(あるいは青年)――「守られたい」から「守りたい」に再移行しつつあるのかな。

・拍手レス。

 やった虚淵!虚淵!(感涙)近所のツ○ヤにはPUSHもTechGianも4月号しかなくて確認>
 >できませんでしたがそれ本当なら嬉すぎますっ!

 待った甲斐のあるソフトが来ることを願いましょう。


2007-03-18.

・公式発表はまだですが、虚淵玄シナリオの新作が出るという報せをあちこちで聞いて早速祝杯をあげた焼津です、スラーンジュ。我が世の春が来ましたね。ただもうシナリオが上がっているらしいので、規模はそんなに大きくないのかも。どうなんだろう。沙耶からこっち、随分と間が空いたから何とも言い切れないなぁ。ともあれ楽しみであることには間違いない。

・田中芳樹の『銀河英雄伝説1』読了。

 副題「黎明篇」。著者の代表作であり、オリジナルの発刊からもう25年経つのに未だ人気が衰えない“銀英伝”の1巻目。芳樹作品は『創竜伝』とか『アルスラーン戦記』、他にも『マヴァール年代記』『纐纈城綺譚』『アップフェルラント物語』『薬師寺涼子の怪奇事件簿』など、割合読んでいる割にこの銀英伝だけは手を付けたことがありませんでした。それに関して特に理由らしい理由はなくただ機会を得られなかっただけですけど、評判はかねがね聞き及んでおりましたので、新装版の発売を好機と捉えて買ってみることにした次第。最初に新書版、次に愛蔵版、それから文庫版、更に再文庫版を経て、今回で再々文庫版となりますが、なぜか出版社が徳間ではなく創元に変わってます。銀英伝は本編が10巻、外伝が5巻で全15巻あり、創元SF文庫では隔月刊行予定とのことだから、すべてが発売し終わるのは2009年の6月になると予測される。単なる新装版にしては時間が掛かりすぎ……書下ろしの16巻目が待ち構えているのではと期待したくなりますが、それなら大々的に宣伝しているはずだし、何より田中芳樹なんだから無理っぽい。

 銀河――それは地球を飛び出していった人類が新たに見据えた広大な戦場だった。敵はエイリアン、などではない。他ならぬ人類同士。彼らは宇宙に進出してなおも、互いに争うことをやめなかったのだ。強大なカリスマ独裁者の存在によって成立した銀河帝国と、そこから逃げ出した民たちが共和制を敷いて築いた自由惑星同盟(フリープラネッツ)、そして両者の間に立って一切の貿易を取り仕切る経済的覇者のフェザーン自治領。中立にあって漁夫の利を狙うフェザーンをよそに、帝国と同盟は長年に渡って幾度となく宇宙戦争を繰り広げてはそれぞれ血を流し続けてきた。帝国に「常勝の天才」と謳われる金髪白皙の美青年・ラインハルトが台頭し、また同盟に「不敗の魔術師」と持て囃される智謀家・ヤンが現れたとき、銀河の運命は激しくうねり始める……。

 「常勝の天才」と「不敗の魔術師」。勝つことに特化したラインハルトと、負けないことに腐心するヤンの相克が目を惹く華々しいスペースオペラです。なるほど、年代が古いだけあってこまごまとした小道具の選び方や扱い方にセンスのずれを感じる部分はありますが、ほとんどの箇所は今でも充分鑑賞に耐える出来を誇っている。芯が通っていて経年劣化が少ない、こうした作品こそが読み継がれていくものなんだなぁ、と素直に感心しました。今更当方が書くまでもないことだけど、これは本当に面白いです。「黎明篇」というだけあってシリーズの幕開けに位置する巻ながら、決して舞台背景やキャラクター紹介に終始した退屈な内容になっているわけじゃありません。むしろ背景的な説明をプロローグへ一気にぶち込んで消化し、キャラクターに関しても必要最低限の情報を開示してあとはストーリーの流れとともに描いていく、微塵もダルさのない描写ですんなり馴染ませてくれる。アルスラーンの初期も今読み返したって結構な面白さだし、やっぱり全盛期の田中芳樹はひと味違う。

 美貌のラインハルトと人を食ったヤンの対比が鮮明で見事にキャラ立ちしているせいもあって、一見するとタイトル通りの「英雄伝説」に映るものの、本書の見所はキャラクターや派手な艦隊戦以上に「戦争」や「軍隊」を政治の駒と見做すマクロ視点での駆け引きでしょう。軋り合う歯車の中でヤンは上層部の思惑に躍らされ、勝ち負け以前の問題に直面することになる。「どう考えたってこの戦争はやらないほうが得策だ」と思えるような作戦がいかにして可決され、いかにして修正されぬまま継続されていくか。燃えることのないグロテスクな逆境においてヤンは「勝つこと」ではなく「負けないこと」だけに心を砕いて行動しなければならず、そうした苦しすぎる状況が「英雄伝説」というタイトルとの著しいギャップを引き起こしてこちらの胸に迫ってくる。大局的に見て勝つよりも負けた方がいい戦争を任され、「早く軍人やめて民間人になりたい……」と願うヤンがかつての理想を見失った同盟の泥沼にずぶずぶと飲み込まれていく流れは悲惨ながら、「これからどうなるのだろう」としきりにハラハラさせられて手に汗握る。一方で頽廃し切った帝国のさなかにあって最高権力の座を目指すラインハルトも、ある種心地良い野望の香りを漂わせていて引き込まれます。

 たぶん高校生の頃に読んでいたら、奇策を編んだヤンがトリッキイに勝利する件とかに目を奪われて、「勝ったことでむしろ苦悩が深まる」という彼の立場を斟酌することはなかったと思う。「偉くなってください」という言葉が発言者も気づいていない「もっと敵軍の兵士を殺せ」という意味を暗に孕んでいることを察してしまったり、他の部隊よりも出した死傷者が少なかったとはいえ犠牲が出ていることに変わりはなく「あなたも他と一緒の殺人者だ」と遺族に糾弾されて打ちのめされたりと、ただ「ナイーブ」の一言に集約されないヤンの複雑な内面が針のような痛みを伴って感じられる。そういう意味では遅まきながらとはいえ今になって読み出したのも悪くないな、って気がします。刊行速度が遅いのが玉に瑕ですければこの新装版、最後まで買い揃えてみようかと。頼むから途中で発刊中止とかになんないでくださいよ……あとできれば書下ろしもやっぱり望みたいところ。

・拍手レス。

 「10ドルだって大金だ」を読み終わって三日、そろそろ、感想を書いてもよい頃合いだ。
 まさにここの紹介どおり。冗長とは無縁のCOOLな文章でした。「誰が貴婦人を〜」は傑作でしたね。
 この調子で「クライム・マシン」も近く読んでみようと思います。

 ジャック・リッチーは読めば読むほどハマりますよー。早く第三短編集が出てほしい。

 そうか…だからオクルトゥム君が消息不明なのか…と思っていいのか…
 オクル君は、きっと帰ってくる。そう信じております。

 文学少女3巻は積んでいいシロモノじゃないって。3巻であの作品は化けたんだから。
 いえ、3巻というか3冊全部……シリーズ完結するまでずっと積むかもしんないです。


2007-03-16.

『シグルイ』がアニメ化との報に「ホォオ!」となっている最中の焼津です、こんばんは。規制が懸念されるところではありますが、あんまり原作に忠実すぎるとうっかり子供に見せてしまったときにトラウマを植えつけかねないので配慮は必要でしょうな。うーん、正直言って黒歴史めいた未来がチラつくものの、注目しないわけにはいかず。期待しつつ雌伏。

小学館ガガガ文庫の創刊ラインナップがすごいような気がする件について

 最近新刊出しすぎな築地俊彦に『ハヤテのごとく!』をノベライズさせたり、新人(?)に鬼頭莫宏の『ぼくらの』をノベライズさせたりするのはまだしも……

 あの中村九郎(知らない人はこれこれを見てその片鱗にフレロ)の新作『樹海人魚』を参戦させたり、『新興宗教オモイデ教』の外伝を原田宇陀児に書かせていてしかもイラストがニトロプラスだったり、田中ロミオに小説家デビューさせたり、カップヌードルのCMを小説化したり、深見真の趣味がバリバリ出そうな新作を書かせたりと、新規レーベルのアピールにしてはやけにオフェンシブかつニッチな姿勢で当方も「これなんてファウスト?」と呆然。

 いや、もっとこう、ボーイ・ミーツ・ガールな分かりやすい冒険ファンタジーとかラブコメとかで無難に布陣してくるものとばかり考えてました。さすがにこれは想定外。なんだか不吉にさえ感じる濃厚さ。とりあえず何冊かは買ってみよう……にしてもガガガのサイト、目にうるさいというか暑苦しいデザインだなぁ。

“文学少女”シリーズ、最新刊のタイトルが『“文学少女”と穢名の天使』に決定

 咄嗟に「胞衣」を連想して「まさかヒロインが妊娠か!?」と先走った当方は“文学少女”シリーズ既刊3冊を絶賛積読中に候。

めろめろキュート、『吸血奇譚ドラクリウス』の情報公開を開始

 個人的に大ウケした『ひめしょ!』を手掛けた藤崎竜太がシナリオに参加するということで注目していたソフト……ですけど、「シナリオライター 藤崎竜太、他」というのを見るにどうやら複数ライター制みたいですね。少しガッカリ。「ピンではもうやらない」みたいなことを自サイトに書いていましたし、今後『ひめしょ!』みたいなのは期待できないのかしら。ともあれ吸血鬼モノだし、主人公の容貌も好みなのでチェックは続ける方針。

・原作:土塚理弘、作画:五十嵐あぐりの『BAMBOO BLADE(1〜4)』読んだー。

 少女はちょっとした岐路に立たされていた
 彼氏に誘われやった事もなく興味もない剣道部に入部し
 それなりに楽しんではいたが
 ボロが出て決定的な失敗
 こりゃマズったわキッツいわ
 もうやってられんわと思った
 剣道部やめようと思った
 ――でも
 彼女は目覚めた

 S

 じゃなくて剣道

 「マイナーだけど面白い漫画を紹介するスレ」で初めて存在を知り、タイトル(直訳すると竹刀)に惹かれ、検索を掛けてあらすじを読むや「なるほど、女子剣道モノか」と大いに興味をそそられ、「放課後の戦乙女(ヴァルキュリア)たち」というキャッチコピーでトドメを刺されて購入する他なくなった次第。原作は『マテリアル・パズル』を描いている人、作画はずっと以前に曾我あきお名義で『金科玉条!?お花守』を描いた人。どちらも作品タイトルには見覚えがあるものの、読んだことがないので具体的なノリは想像がつかず、もしハズレだったら……と若干ヒヤヒヤしてましたけど、これがまた見事に杞憂で一本取られました。スポ根というかスポコメですね。学園コメディの楽しさにスポーツものの面白みを足した感じで、リラックスしながら一気読みしちゃった罠。掲載誌が“ヤングガンガン”だし、表紙イラストも女の子ばかりだから「ちょいエロ有りの萌え系」かと思いきや、全然そんなことはない。一応男子部員も活躍する(やや影は薄いけど)し、お色気要素なんてあってなきが如し。「超健全」とまで謳われています。それでも一向に不満を覚えることはないし、女性キャラも全員魅力的で楽しませてくれる。いやあ、買って良かった。

 ある「賭け」をキッカケに、女子剣道部員を五人揃えて天下無敵の最強チームを作り上げようと燃え立った顧問の新米教師。竹箒を剣豪さながらの腕前で捌く一年生の女子と偶然出会い、年甲斐もなく胸をときめかせながら「剣道部に入らないか!?」とスウカトするが……といった幕開け。まあこの子は最初断るんですがいろいろあって入部し、その後もポツポツとキャラが増えてきます。ストーリー展開のスピードは、早くもなく、遅くもなく――ってところでしょうか。余計なイベントはあまり起こらないしサッサッと時間経過させて細かいところは飛ばすからダラダラした印象がない一方、スポーツものである以上は大ゴマを連発するシーンも多くて、「あれ? もうこの巻終わり?」といつの間にかページが尽きている。読み応えがどうこうというより、ただ夢中になって読んでしまうタイプの本です。まず何より勢いがある。剣道描写は激しくて結構迫力があるし、剣道から離れた日常の場面でもポーンと打てば響くような気持ちいい遣り取りがたくさんあって、つい読み耽っちゃう。ボケとツッコミで言えばツッコミの方にセンスが光るマンガですな。

 「女子剣道モノ」っていう珍しいジャンルを扱っていながらもしっかりとヒロインたちのキャラ立てを行なっているあたりがグッド。最初はまったくの素人で剣道にも興味を持ってなかった子が、いざ稽古を始めるとサド属性を開花させたりなど、ギャグすれすれのネタを本筋と絡めて話を進めていくノリが実にイイ。とりあえずテキトーに可愛い子並べてみましたー、みたいなショーウィンドウ臭いテンプレ配置と違って、一人一人に「それぞれの学園生活を送りながら剣道部の活動に勤しむ」っていう雰囲気が漂っている。それでいてメンバーが揃うとワッと賑やかになるんだからたまらない。ぶっちゃけシリアスっつーか殺伐とした展開は基本的にあんまないです、本作。それまでおちゃらけていたキャラが急に真顔になって「こ、これは……!」(つづく)と区切るので「すわ何事か」と構えても、次の回でギャグっぽいオチが付いて読者をズッコケさせたりします。この、シリアスと見せかけてコメディ――と虚を衝いてみせるフェイントが全編に渡ってたっぷり仕込まれており、何度食らってもコロリと騙されてしまう。ハズし方がすげぇ巧妙。「勘違いさせちゃいましたかwwwサーセンwwwww」っていう作者たちの笑みが目に浮かぶよう。今考えると「放課後の戦乙女たち」も随分なフカシだぜ……。

 新入部員のために竹刀や防具を買いに行くところもちゃんと描いてから稽古の場面に映り、徐々に強くなっていく過程にそれとなく触れたりと、丁寧な話作りを心がけている箇所に送り手側の静かな熱意、温かみにも似た情熱を感じます。青春学園コメディとしてだけ読んでも充分に面白く、更にスポーツ部分までしっかりとエンターテインメントしてくれるんだから、ホントもう大好き。もっと早くから知ってればよかった……という益体もない悩みに駆られることしきり。来月には5巻も出る模様ですが、このマンガに見え隠れするポテンシャルを鑑みればまだまだ「これから」が山ほどあると思います。5巻どころか10巻、20巻と続けていって容赦なくガンガンと独自の味を引き出してほしい。オススメのマンガです。あと、作画を担当している五十嵐あぐりのサイトにバンブレ関連のコンテンツがありますので読み終わったらGO。

・拍手レス。

 「大魔法峠」観ますた。肉体言語! 肉体言語!
 よく考えると「肉体言語」って卑猥な響きですね。


2007-03-14.

・日本橋ヨヲコのバレー漫画『少女ファイト』の2巻を読みましたがやっぱり面白くて満足満足な焼津です、こんばんは。

 睨み通り『少女ファイト』は日本橋ヨヲコの新たな代表作となりそうな気配。群像劇の様相が濃く、やたらとキャラがたくさん出てきた前巻に対して今回は焦点を絞ってきた分、普通にスポ根マンガとして読んでも楽しい。絵にしろセリフにしろ、とにかくキレがあって鋭い。続きへの期待は膨らむ一方です。そして伊丹さん(*´Д`)ハァハァ。気が強くて空回りしがちで、現在は主人公たちを引き立てるために存在しているかのような彼女が可愛くて仕方ありません。

巨大な少女

 まさか……これが巨神兵の真の姿か! と見るなり戦場を駆け巡る様子を想像してしまう当方は相当な邪気眼ホルダーですが、それにしてもまあなんて迫力だこと。

・西尾維新の『刀語(第一話〜第三話)』読んだー。

 今年の一月から十二月まで、各月ごとに一冊ずつ――つまり十二ヶ月連続で新作を刊行する企画“大河ノベル”参加作品。一冊あたり200ページ(42×16の一段組、つまり文庫本の字組とほぼ一緒)で、作中の解説によれば原稿用紙に換算した枚数制限が300枚ほど。量的にはギリギリ長編といった具合で大したことないが、それを毎月、しかも合間に別シリーズの新刊を出しながら書くとあっては、不可能でないにしろおよそ尋常な仕事量ではない。本当に最後まで続くのか心配になる企画です。ストーリーは主人公たちが全国各地を巡って伝説の名匠が残した十二本の奇妙な日本刀を集めて回る、いまどき珍しいくらいにクエスト要素が濃厚な代物だ。一冊につき一本回収と、展開をパターン化してくれるおかげで安心して読める面はある。この手の回収モノは進捗状況が分かりやすく、読んでいて確実に達成感が得られるので、よっぽどダレないかぎりは長期化しても興味が続く――というメリットがありますね。ただ、ライトノベルで回収モノと言えば『悪魔のミカタ』“封仙娘娘追宝録”を連想しますが……どちらも年単位の休止期間があったシリーズだけになんとなく不吉だ。

 日本刀は切れ味が鋭く携行武器としても優れているが、同時に重く、長く、容易には振り回せないので戦い方を制限してしまう。ならば――刀を棄てればいいじゃないか。刀を帯びさえしなければ、人間随分と身軽になれる。逆転の発想で刀を持たぬ剣法を編み出した、という、傍から聞けば本末転倒にしか思えない流派「虚刀流」を一子相伝で守ってきた鑢家。その末裔にして七代目当主である七花に、「天下が欲しくないか」と一人の女が誘いかける。異様に長い白髪と派手な着物を幾重も身にまとい自らを「奇策士」と名乗る謎の女、とがめ。戦国時代に打たれ「天下を左右する」とも噂される千本の名刀のうち、とりわけ存在感が強い十二本の奇刀を収集する――突拍子もない話を持ち掛けられ、いささか逡巡と躊躇いを見せる鑢七花。しかし、既に運命は動き出していた。否応もなく彼は冒険の旅に打って出ることとなるが……。

 文庫で出しても「薄い」と言われそうなボリュームの本をわざわざ箱入りにして1000円以上の値段で売るという、まあ控え目に申しても「ぼったくり」と表現したい阿漕な販売形態を取っているおかげで悪評紛々なこのシリーズ。「ファンすらも擁護しかねるつまらなさ」とか、そういった声まで聞こえてきたおかげで安穏と積んでいた当方も不安になり、当初は12冊揃えてから読み出すつもりでしたのに「やっぱそれはさすがにリスキーというかバクチだろう、まずは3冊ほど読んで去就を明らかにしよう」と考え直して着手した次第。我ながらいじましい。

 で、結論から言えば危惧していたほどでもなく、むしろ思ったより面白かった。主人公とヒロインの掛け合いは軽妙で息が合っているし、もろに少年マンガライクなストーリーもややこしいところがなくて肌に馴染む。居合の使い手が繰り出す奥義は「一閃」すら見せない「零閃」とか、千本揃って一刀と数える「千刀」とか、邪気眼的なハッタリもふんだんに振りかけられていてスパイシー。無論、コストパフォーマンスの面では誉められません。個人的には文庫サイズにして半額程度の価格設定に変更した方が妥当だと思います。が、コストパフォーマンス云々を別にすれば好みに合うシリーズではある。一応は時代劇ということで、舞台が架空の日本(尾張幕府とか書いてる)ながらも横文字の使用を控えてみたりと、それなりの配慮は敷かれています。コメディのノリが現代風だったり、「第一話なのにいきなり話が終わってしまう」だのといったメタっぽいネタが仕込まれているのも愛嬌のうち。風景描写がぞんざいなのは西尾小説のいくつかある特徴の一つだし、当時の風俗(エロい意味ではない)にほとんど触れられていないのも、まあ、省略ということで呑めましょう。さして集中力や注意力を傾けることなくサラサラと読み流せるあたりは絶妙で、実に良い塩梅で脱力できます。

 ……なんだかこういうふうに書くと「誉めてるようで貶してる」と受け取られるかもしれませんが、実際、「軽い読み物」として読めば疲れてるときでも割かし楽しめる具合に仕上がっていて「これはこれで」と思うんです。確かにある種の過剰さ、読み手を煙に巻くような独特のフットワークを縦横無尽に駆使する従来の西尾作品に比べればユルい・ヌルいといった印象は拭い切れませんし、「スカスカ」と評する人の気持ちも分かります。西尾維新がこれまでに拾得してきた武器を捨てて、それこそ虚刀流のように徒手空拳で「一から始める」ことを喜ぶファンは少ないのかもしれない。しかし、あまり忠実なファンではない当方としてはこのユルさやヌルさが却ってツボにハマる。嘘でも皮肉でもない証拠として続刊は買い続けるつもりです。

 こういう、諸手どころか片手も上げないのに読み続けてしまう類の「面白さ」も読書の醍醐味として許容されていいんじゃないかなー。良くも悪くも胃にもたれない、それでいて西尾らしいハッタリがピリッと利いた、喩えるならば「あっさり辛いラーメン」なテイスト。ちょっと薄味だし少盛で物足りないけど、なかなか食べ飽きしない。今までの西尾作品は良くも悪くも胃にもたれるところがありましたので、新機軸としてこの路線を探るのも悪くないと思います。迂闊で不器用な奇策士のとがめさん、地味にカワユス。


2007-03-12.

・そういえば書くのを忘れていましたが『Dies Irae』のドラマCD『Wehrwolf』、聴き終えました。

 一時間ちょっとだったかな。時系列的には、体験版にも収録されている第一章あたりで起こった出来事を脚本化しており、本編と被っているところはほとんどなし。「序盤の裏側」という紹介通りの内容です。体験版ではほとんど出番のなかった司狼もセリフ数が多く、補完として聴けばまずまずの仕様でした。掛け合いのテンポが良く、聴いていて楽しいから退屈しないし、ドラマCDとしても良質の部類に入るのではないかと。ドラマCDはあまり嗜まないので確とは判断できませんが、例の香澄の一人芝居とか、「声だけ」だからこそ活きてくる場面もあってグッと来る。

 また「序盤の裏側」だけでなく、第三章の予告めいたシーンも冒頭にあって製品版への期待をそそりますね。別にスルーしても本編の話は把握できると思いますので「必聴」というほど推すつもりもないのですが、何やら発売が春どころか夏に間に合うのかも心配な雰囲気が滲んできてますし、飢えや渇きを凌ぎたい方には持って来いといったところ。体験版と併せて賞味されたし。

・道尾秀介の『シャドウ』読了。

 東京創元社の叢書“ミステリ・フロンティア”の一冊。“ミステリ・フロンティア”は若手のミステリ作家を意欲的に起用しているレーベルであり、第一回配本に伊坂幸太郎の名前があったり、米澤穂信が頭角を現したり、大崎梢の書店員シリーズが話題になったりと、割合反響があって注目を集めているみたいです。本書は道尾秀介の第四長編(新潮ケータイ文庫に連載されていた『片眼の猿』をあいだに入れる場合、第五長編)に当たり、このミスで3位を獲得するなど高い評価を得た。本格推理の路線において「新鋭」「俊英」と注目が集まる著者にとって、現時点での代表作と言うべき一冊。

 人間は、死んだらどうなるの?――いなくなるのよ――いなくなって、どうなるの――いなくなって、それだけなの――。癌が再発して身罷った母との生前の遣り取りを、我茂凰介は思い出す。葬式を終えて迎える父ひとり子ひとりの暮らし。だが、幼馴染みである水城亜紀の母が医科大学の屋上から転落死し、続けざまに水城亜紀本人も事故に遭う。何かがおかしい。何かが狂い始めている。直感しながらもその実体を掴むことができない凰介。白昼夢のようによぎっていった、睦み合う男女の裸身と「よくないもの」を収めた四角い箱、そしてこちらを見る少年の顔――あの映像は幻なのか、埋もれた記憶なのか? やがて凰介の父が奇妙な素振りを示し出して……。

 構造的には、凰介を始めとした複数の視点によって構成される物語、なんですが……それぞれの視点においてとても思わせぶりな、それこそ赤マーカーで傍線を引いてるのではないかと錯角するくらい露骨な「手掛かり」が提示されるのに、「手掛かり」が具体的に何を意味するのかは一切解説せず、読者の判断に任せる形で淡々と進行していく。ミステリである以上、謎を解く手掛かりが与えられるのはごく当たり前ですけれど、あまりに露骨で無造作なその切り口は読んでいて戸惑いを隠し切れない。罠か。ただのハッタリなのか。いや、そう見せかけて普通に重要な事柄なのかもしれない。推理ファンの端くれとして慎重に迷いながら情報を整理してページをめくる。一人の女性の死を発端として不穏な事態が続く――要約してしまえばそれだけなのに、終始やけに落ち着かない空気が漂っていて、文字と文字のはざま、行間の至るところに日常が軋んでいく音がひっそりと綴り込まれているような気味の悪さを覚えます。そして、崩れ去った日常の向こう側に覗くものとは。

「たとえば、ある道を何人かで一斉に走ったとき、彼らの後ろから殺人鬼が追いかけてきたとする。このとき、いちばん殺される可能性の高いのは誰だと思う?」
「ビリの人」
「そう、ビリの人だ。彼は後ろからぐさりとやられる。そして、その人よりも前を走っていた人たちは、殺人鬼がビリを殺しているあいだに、逃げ切ることができる」
「できるね」
「でもな、凰介」
 洋一郎は凰介の顔を覗き込んだ。
「――もし殺人鬼がゴールに隠れていたとしたらどうなる?」
「一位の人が殺される……?」
「そう。真っ先にそこへ辿り着いた人が殺される。そして殺人鬼がどこにいるかなんて、事前には誰にもわからない。私はここにいますよ、なんて教えてくれる殺人鬼は、まずいないからね」

 『向日葵の咲かない夏』を読んで「やられた!」と思いましたが、今回はそれとまた違ったニュアンスで「やられた!」という感じです。執拗なまでに張り巡らされた伏線の数々は、さながら蜘蛛の巣じみた様相を呈している。それだけならまだ「よくできたミステリ」で済むのですが、この伏線は蜘蛛の糸みたいに細く、目を凝らせば見えることは見えるのですが、光の加減でいとも容易く掻き消えてしまう。ネタバレ覚悟で断言してしまえば、本書の肝となるのは作中でも触れられている「確証バイアス」。読者が露骨すぎるほど露骨な「手掛かり」に惑わされ、一度「こうだ」と決め込んでしまうと、他の手掛かりまでもがその推論に添う形でうまく配置されているように思えてきます。しかし――「あれ? これって推理じゃなくて、ただの思い込みなんじゃないのか?」と、読者自身がそう気づいた時点から、ようやく『シャドウ』のステージは幕が上がる。『向日葵〜』とは異なるコンセプトで「ミステリの陥穽」を突く作品となっています。

 分かっている、分かっているのに、引っ掛かってしまった。そうとしか言いようがない悔しさを存分に堪能させてくれる。推理ファンというのは推理するのが好きなくせに、どこかで裏をかかれたがっているというマゾっぽい気質を持っています。嘘を信じてしまうのはその嘘を信じたい心があるからだと申しますが、まさしくミステリの好事家というものは騙されたいがために騙されるもの。敗北の喜びをこれでもかと叩きつけてくる本作は言うまでもなく極上の罠として機能します。蝶に恋をした蜘蛛の歌がありますが、蜘蛛に恋をした蝶の心理を拝みたければこの『シャドウ』を読むがいい。精緻な糸に絡め取られて濡れること請け合いです。

・拍手レス。

 この手の邪気眼系自作テキストのストック>超晒して欲しいッス
 勘弁してつかぁさい。ほとんどが投げっ放しのネタですし。

 ラインバレルの人でしたら、HPに死ぬほど熱い仮面ライダーのwebコミ連載してます!!!
 むしろそっちが「いいとこで終わりすぎだよ! ああムラムラする!!」だったのでラインバレル読みました。

 邪気眼ガイドラインとDies Irreスレは住人がかぶりすぎだと思います…
 どちらも異様に居心地が良くて困ります。


2007-03-10.

・気がつくとネットで予約した新刊が小説だけで20冊近くになっている焼津です、こんばんは。あれよあれよという間に増えてしまい、中には「あれ? これ頼んだっけ」というのもあります。発売の日にちも漠然としか(上旬とか月末とか)覚えてないから、いつ頃どれが届くんだかあんまり把握してない……おまけに支払いはクレカで金が減っている感覚も薄く。なんかこういう状況は便利である一方、ちょっと怖いなぁ。恐るべしネット通販の魔力。まあ限度枠が低いから土台目玉が飛び出るほどの請求は来ないんですけど。

邪気眼のガイドライン

 誇張ではなく本気で噴いた。すごい、この溢れんばかりの瘴気(センス)。みんなルビ振るのが好きだなー。

ク  マ  ノ  フ ゚  ゥ  サ  ン
「淫らな蜜の森の穢れし露出狂」

 は特に笑った。「月刊JAKI-GUN」とか「週刊ジャキガンガン」とかマジで読んでみたい。恐らく一号読むだけでギブアップしそうですけど……ちなみに当方もこの手の邪気眼系自作テキストのストックは豊富にありますが、それらが流出しようものならば首を吊ること請け合いです。

「120mm劣化ウランエクスカリバー」

 とか、ほんのちょっぴり引用しただけでもう全身掻痒感が。でもなんだかんだでこういうノリは大好物だったりします。『Dies Irae』ちょう期待。

・清水栄一×下口智裕の『鉄のラインバレル(0〜5)』読んだー。

 「秋田書店の核実験場」こと“チャンピオンRED”で連載中の巨大人型ロボットアクションコミック。来月に6巻が刊行される予定です。どれほどの人気があるのかよく知りませんけれど、奥付を見るに結構版を重ねている(2005年7月初版の1巻は2007年3月時点で17版)し、この調子で行けば遠からずアニメ化するのではないでしょうか。幼い頃に事故に巻き込まれ、なぜか肉体が頑強になって復帰した少年・早瀬浩一。大人受けのいい優等生を演じながら裏で不良たちとつるんでいる彼は、力を求めていた。誰からも守られる必要がなく一人で生きていける力を。そして――焦がれる願いは、ヒトの形をした大鉄塊となって叶う……。

 ボーイ・ミーツ・巨大ロボ、という感じで導入は割とありふれている。謎の美少女、秘密組織、悪の軍勢。主人公が「正義の味方」となるだけの条件をひと通り揃えたヒーローものです。正直に言ってストーリー自体はさほど新味がない。ひたすらベタな展開の連続で、多少現代風のアレンジを利かせているところはあっても、大部分が既視感を誘う「お約束」まみれのテイストとなっています。「来い! ラインバレル!」「……量産型か!」「ひどい……無関係な人々を……」「こいつ、生身でロボットの攻撃を凌いでやがる!」「じゃあ、ひとつ宇宙に行ってもらおうか」「バ、バカな! なぜここに○○が!?」 だいたいこんなふうに書けば凡その雰囲気は伝わるんじゃないかなー、と。

 しかしながら、シーンごとの魅せ方は実に巧み。ベタだろうが何だろうが関係なく盛り上げてくれる。主人公はともすれば力に溺れがちな厨房臭い(というかリア厨なんですが)少年のため、個人的にいまひとつ好感が持てなかったものの、少なくとも威勢の良いバカではあり、轟音撒き散らして大暴れしてくれるのでスカッとします。なんかこう、主人公がバカ丸出しのセリフを叫ぶと妙に楽しいんですよね。「アイキャンノットスピークイングリッシュ!!」とか。好感は持てないのに、「おいおい」とツッコミを入れながらつい応援したくなる。「良い意味でDQN」なキャラクターだ。あとヒロインが「あなたって本当に最低の屑だわ!」と吐き捨てんばかりのツン状態にあるのもグッド。主人公が「本当に最低の屑」であることを否定し切れないキャラの分、ツンの矛先が余計なところに向かってないし、むしろ彼女に対して感情移入できる面もあっておもろかったです。

 「DQN大暴れ」と「正義の味方」、二つの要素の噛み合わせが若干悪い気もしますが、くどくどしい長ゼリフではなく短い一言で端的にバシッと決めて締めるあたりなどを含め、終始一貫して「魅せる」ことに情熱を注ぎ、己の美意識を顕し続けているマンガだと思います。一つ一つのシーンが目に訴えかけてくる。だいたい3巻あたりから一気に面白くなってきますし、冊数も手頃だから、今まとめ買いをすればちょうどいい塩梅になりますね。「斬新より王道」なアナタにイチ押し。

 余談ながら当方、この鉄バレを最初に1冊だけ買ったとき、間違えて1巻ではなく0巻をレジに出してしまいました。ゼロが@みたいなデザインでしたから、てっきり楕円の中に「1」と表記してあるのだとばかり。裏表紙の文章を読んで初めて気づきましたが、もう遅かった……それで0巻、お気楽なノリの番外編とラインバレルの原型になった読切短編「鋼鉄の華」、加えてラインバレルとはまったく関係ない「アンドロイド娘。」と「ロボ子ちゃん」を収録した作品集で、「強引でもいいから流行ってるうちに出しとこう」といった下心の香る員数合わせめいた一冊であり、無理に揃える必要はない。基本的に「余裕があれば購入」というスタンスで宜しいかと。まずは1巻から読み出されたし。

・拍手レス。

 ピンポン5面白いですよね
 桑田乃梨子作品は全般的に面白いですねー。

 灰色の何がヤバいって、定期的に近日発売!情報が流れるとこ ユヤファンは毎度踊りまくりです
 言うなれば文学界のぼとむれす。

 卓球……稲中を忘れちゃいけません!!!
 バット使って強引に既成事実をつくるシーンが印象的でした。


2007-03-08.

『超妹大戦シスマゲドン2』の物凄い展開に魂がもげた焼津です、こんばんは。

 さすが“ケイオス・ヘキサ”の古橋、無茶苦茶なのに熱くて滾るラストだぜ。案の定、売上は芳しくないみたいですけれど。まあ、そもそも「妹ファイト」という企画で文字通りにガチンコファイトすること自体がおかしいしなぁ……ぶっちゃけ、「女性キャラは全員妹」って設定も読んでいて失念しそうになったことが何度もあります。小技の利かせ方は巧いんだから、あとはコンセプトさえ変な方向に逸らさなければもうちょい売れるのではないかと。

佐藤友哉の『フリッカー式』、6年越しに文庫化なる

 去年の1月頃に情報が出ては立ち消えた文庫版『フリッカー式』……書影が出て「近日発売」となった以上、今度はまず確実に発売されるでしょう。長かった。本当に。この調子で『灰色のダイエットコカコーラ』も早く刊行してください、講談社。

・江尻立真の『P2!−let’s Play Pingpong!−(1)』読んだー。

 “週刊少年ジャンプ”連載の卓球マンガ。少年ジャンプのマンガって最近はネウロとSBRくらいしか買ってないし、たまには何かチャレンジしてみないとなー、っていう感じで着手。一種のスポ根ですが、ピンポンという特殊な題材を選んだせいか「打ち切られるかどうか瀬戸際の位置」にあるらしく、中にはこの1巻を100冊購入したファンがいるとかで、良くも悪くも話題になっています。タイトルや表紙からは特にピンと来るものはなかったけれど、いざ読み始めてみると数ページで「おっ」と唸った次第。スッキリとした絵柄で分かりやすく、それでいて工夫を凝らした作画をしており、嫌味のない「巧さ」が伝わってきますね。少年マンガとしてはほぼ理想の水準に達しているのではないでしょうか。

 卓球マンガと言ったら松本大洋の『ピンポン』を挙げるのが筋というものでしょうが、残念ながら当方は桑田乃梨子の『卓球戦隊ぴんぽん5』くらいしか読んだことがないのでうまく比較できませぬ……ん? 検索したら『卓球Dash!!』なんてのも引っ掛かりました。「ピンポンダッシュ」と掛けてるんですね。これも面白そうだ、チェックしとこっと。閑話休題。本作は最近のスポ根としては珍しく、主人公にあまり才能らしい才能がなくて、あくまで努力で喰らいついていくって感じのノリになっています。いざというときに眠れる才気が炸裂してイヤボーン発動とか、そういうお手軽な燃え要素はない。至って地道なタイプのストーリー。このまま進めば昔のジャンプ三原則「友情・努力・勝利」を地で行くことになりそうです。そういう意味では昔ながらのジャンプマンガってことで旧世代に対するウケは良いかもしれませんが、爆ぜるが如き爽快感を求めている(?)今の世代にはアピールするところが弱いのかもしれません。だからって「ワシのスマッシュは108式まであるぞ」みたいなことをされてもそれはちょっと……ですが。

 「最速の球技」「負けず嫌いはスポーツにむいてんだって」などなど、必要以上に飾らないシンプルな言葉がストレートに突き刺さってくるところもあって、素直に「続きが読みたい」と思えるマンガ。どうか打ち切られず、かと言って無茶なテコ入れで超展開かますこともなしに、真っ当なスタイルを貫いてほしい。主人公の「運動音痴だけど、でも、諦めたくない」という想いには胸を打たれますし、なんだか読んでいて年甲斐もなく応援したくなりますねー。

・拍手レス。

 ふと思う。もうマブラヴオルタ発売から一年たったんだなあ、発売待っている間はあんなに長く感じたのに。
 喉元過ぎればなんとやら、ですね。

 一瞬、ハイスクールオブザデッド原作の人=フッケバインの人と繋がらなかったりしました。漫画読んでみます
 フッケバインの人はマンガ原作もいいけど早く各シリーズの再開を要望したい。


2007-03-06.

『Dies Irae』の発売日がさりげなく「2007年予定」となっていることに関して嫌な予感が迸りまくってる焼津です、こんばんは。4月発売はないだろうと睨んでましたけど、この分じゃ夏に出るかどうかも怪しいな……あと作品別スレに張られていたこれ、クオリティ高くて噴きました。

『月光のカルネヴァーレ』のシナリオライター、下倉バイオのコラム

 月カルの制作秘話が書かれてます。シナリオ作成は、基本的にひとりの作業なので孤独だったりしそうですが、奈良原一鉄氏が隣で突然刀を振り回し始めたりする愉快な職場なので、それほど苦にはなりません。という箇所に笑った。奈良原のチャンバラゲーもまた遠からずプレーできるかしら。

・原作:佐藤大輔、作画:佐藤ショウジの『学園黙示録 HIGHSCHOOL OF THE DEAD(1)』読んだー。

 学園バイオハザード。ある日突然リビングデッドが大量発生して、噛まれた奴もゾンビ化してしまう地獄絵図のなか、少年少女(+教師)はチームを組んで生き残る。言わば閉鎖空間におけるサバイバルを描いた壮絶なホラーアクションですが、「最初からクライマックスだぜ!」と主張せんばかりのハイテンションな展開で足早に進行し、立て篭もったのも束の間、途中で学園を脱出してしまいます。なんか2巻以降はタイトルが形骸化しそうだなー。

 さて、佐藤大輔と言えば『凶鳥(フッケバイン)』『黙示の島』、単発作品でリビングデッド小説を二冊書いており、今回はタイトルからしても後者のノリに近いかな。ヒロインがいきなり槍を繰り出して心臓刺したりとか、ミリオタ・ガンオタの少年が登場するあたりとか。ネイルガンやドリルといった武装の選択も実にフェティッシュ。作画のレベルも高く、筋立てとしてはありふれた終末サバイバル譚でありながらキッチリと読者の興味を引き込んでみせます。それにしても、やけに乳の目立つ絵柄ですな……まるで砲弾。

 普通なら一話丸々使って「平和な日常」を描き、徐々にそれが侵蝕されていく過程を描きそうなところですが、このマンガって「平和な日常」のシーン、せいぜい5ページくらいしかありません。ひたすらゾンビ・ゾンビ・ゾンビの大群と、くどいほど丹念に描写して「世界オワタ\(^o^)/」な絶望感を叩きつける。なんつーか、濃いですわ。話も絵も。既に学園は脱出してしまったので、これからどういう展開を迎えるのか予想のつかないところは多いけれど、この調子で行けばパニックものとして上首尾な仕上がりになるんじゃないかと期待できます。ページ稼ぎのかったるい遣り取りが大嫌い、とにかく動きのあるマンガを読みたい、という方に是非ともオススメしたいです。ちなみに当方は剣道娘の毒島さんが好み。しかしゾンビもので毒島と言うとゾンリベこと『ゾンビリベンジ』の毒島力也を思い出して仕方ない……。


2007-03-04.

・花粉症のおかげで緩めに苦しんでいる焼津です、こんばんは。くしゃみ・鼻水・目の痒みが絶えませぬ。ちゃんと薬を服用しとかないと……普段飲み慣れてないからつい忘れそうになります。

『Fate/Zero Vol.2−王たちの狂宴−』、3月31日発売予定

 なかなか情報が出ないのでどうなるかと危ぶんでいましたが、3月ギリギリか……前回公式サイトで予約したら発送が遅くてやきもきしたし、今度は早く届くといいなぁ。まずは予約開始待ちですが。

・花村萬月の『私の庭 浅草篇』読了。

 タイトルからすると「浅草は私の庭のようなものだ」といった感じで連綿と綴る散歩エッセイみたいにも感じられるがさにあらず、飄々と生きるひとりの浮浪人を焦点に、幕末から明治へと激動していく時代を描いた大河巨編です。意外なのかそうでもないのか、著者の書いた小説としてはこれが初の時代物となる模様。芥川賞受賞作の『ゲルマニウムの夜』とか、代表作をほんの数える程度しか読んでいないのであまりあれこれ語ることはできませんが、花村萬月って結構「大長編化傾向のある作家」という印象がありますね。『二進法の犬』は文庫版が1000ページを超えていますし、『ぢん・ぢん・ぢん』『風転』は長すぎて文庫版だと分冊されていますし、『たびを』なんか二段組のハードカバーで1000ページ超えですし、“王国記”と“百万遍”、二つの大河モノも未だに続いてます。『私の庭』も例に漏れず、第一部に相当するこの「浅草篇」だけでも700ページを超えるのだから「大河」や「巨編」といった言葉に嘘はなく、厚い本好きの当方は見ていてウットリするもののいざ読み出すとなるとつい構えてしまう。

 ただ、厚い割に短いセリフの応酬も多くて思ったよりサクサクとテンポ良く進んでいきます。主人公の権介は幼い頃に家族を失い、名無しの老爺に育てられ、今は逆に爺さんの面倒を診ているといった状況。身分のない浮浪人だからもちろん定職なんてなく、吉原に通じる道で侍を待ち伏せして金品を強奪することで口に糊しています。絵に描いたようなアウトロー三昧の生活。しかしながら「侍を狩る」ことが痛快なのか、はたまた奪った金品を気前良くバラ撒いているせいか、庶民の間では人気があって浅草界隈ならどこに行っても大抵声を掛けられ贔屓される。そうした人気者の権介が、いつしか刀と剣術の魔力に魅せられるようになって……といった筋立て。

 この権介、いつも浮雲みたいな笑みを湛えてフワフワとうろついており、なんとも捉えどころがない。そこが魅力があり、不気味でもある長編です。しかし700ページ超とあって、やはり長い。十郎という棒組(相棒)と一緒にブラブラしながら「遠くへ行きたいなあ」と嘯いているとき、権介は爺から聞いた詳細不明な「蝦夷地」を漠然と脳裏に思い描いているのだけど、十郎は「遠くか。たまには本所に夜鷹でも買いにいくか」などとトンチンカンな受け答えをしてしまう。序盤はそんな調子でダラダラと進むせいもあって若干退屈しましたが、やがて身なりのいい侍が登場してきて、狩ろうと跡を尾行てきた権介たちの気を察し、振り返って話しかけることで制する場面から俄かに面白くなってくる。

 どうやら下々の事情に疎いらしいこの侍は権介が滔々と語る世情にいたく感じ入るとともに、権介の底知れぬ器を見て取って「どうじゃ」と勧誘を仕掛けるのですが、身分だの立身出世だのに興味を示さない権介はあっさり首を横に振る。惜しむ素振りをしながらもそれ以上の無理強いを諦め、奪われるよりも先に財布を投げ与えてから侍はその場を去っていく……今までいくつもの物語のパターンを目にしてきた当方は「ははーん」と直感しました。「ここから物語が動き出すのだな」と。侍との出会いが運命となって権介を別天地に導くのだろうと。早とちりでした。相手が隙を見せた途端、権介はそのへんにあった石くれを引っ掴んで後頭部を一撃。速攻でブチ殺します。

「さんざん能書きを並べて、金を投げて、それで助かると思ったんだろう、背中に安心安堵って書いてあったぜ。甘いんだよ」
 権介の言葉に合わせて、十郎は侍の様子を素早く反芻してみた。
「まったくだ。野郎、金を投げたとたんにゆるみきってやがったぜ」
「そのとおりだ。落ちかけた褌みたいにゆるんでやがった。それでも侍か。それでも武士か」
 血が噴きでるのはおさまったが、痙攣はまだ続いている。権介は腰に手をやって反りかえり、血溜まりのなかで小刻みに暴れる侍をじっと見おろした。

 「う、動き出さねぇ!」と思わず呻いた。まあ、このときに奪った刀が事態を変えたりもするのだけど、侍さんは大局に影響することなく退場してしまう。あるがまま、天然自然にフワフワと生きている権介は侍の垂れた能書きに別段感銘を覚えるでもなく、それまでと同じように浅草界隈をブラブラしたり、吉原に行って馴染みの遊女と戯れたり、平和な日々を送ります。死せる侍から奪った刀は当初権介が差していたものの、「欲しい」と言うので十郎に渡り、権介よりも一足早く十郎の方が刀の魔力に魅せられる。第八章「抜刀」は憑かれ始めた十郎の姿を描き、たった五ページの分量ながらも鮮明で妖しいイメージを伝えてくる。

 抜刀する。
 月の光か、雪の照り返しか、刀身が複雑に青褪め、仄かな、しかし鋭い光の尾を引き、その揺らめく残像が、鳥目の十郎に鮮やかな幻覚を見せる。
 十郎は完璧な武士となった。
 臍下丹田に気合いを込め、おもむろに振りかえる。背後の木立に向き直る。
 掌にじわりと汗がにじんだ。
 左から右に袈裟懸けに斬りおろす。
 柄を握った手よりも、肩に衝撃が抜けた。斬った、という実感が睾丸を縮ませて、昂ぶりがそのあたりから背を伝うようにして這い昇り、背筋を硬直させ、眼球の裏側で純白に炸裂する。

 この後も「積もっていた雪が落ちる→幽かながら青臭い松の芳香→木がふたつに割れる」という過程で一閃の威力を表現するなど、初めて挑む時代小説にしてはやけに堂に入った書きぶりで読み手の目を引き込む。心理描写、内面描写の豊富さもさることながら、こういった動的なシーンの簡明な文章の中にねっとりとした情念が篭もっていて、暗い興奮を掻き立てます。急に思い立った爺が権介に剣術指南を施してきたり、賭場で侍崩れの用心棒・坂崎と出会ったりと、いろいろなことから「刀と剣術」の世界に足を踏み入れる主人公。既に大政奉還は為され、戊辰戦争も大勢は決し、「刀と剣術」がもはや力の象徴ではなくなっていく潮流にあって逆らうように剣技を窮める――その業の深さには息を呑む。

「人でなし」
「ああ、そのとおりだ。俺は人じゃない。虫なんだよ。もともと虫だ」
「虫」
「そう。地虫みてえなもんかな」
「なんなんだよ、それはよぉ」
「泣き声をだすことはないだろう。いいか。教えてやろう。人は虫を潰しても気にかけぬだろう。だがな、虫だって人を咬んでも思い悩むことはない」

 人をやめ、虫となって生ける肉塊どもを鏖殺し戮滅する。ただ咬むように。そうした「虫の境地」と言うべき無造作な殺しに悲哀はなく、カタルシスも糞もない。「闇」と安易に呼ぶのも憚られる、暗い感情が発露して紙面を塗り尽くす。暗示的に何度も「爆ぜる」という言葉を使っていることも考えれば、本書における「暗さ」とは単に黒とか闇とかいった種類に属するものではなく、炸裂する光が強すぎて目を潰してしまうような意味での「暗さ」なのかもしれません。

 現時点で第二部の『蝦夷地篇』は刊行済。これから早速読むつもりでいますが、幕末どころか明治の新時代、蝦夷という当時にあって辺境の地で、権介は「ラスト剣豪」として魂の安寧を見つけ出すことができるのか。できねぇだろうなぁ、と溜息をつきつつ手を伸ばすとします。

 ちなみに。この話、ユーモラスな書き方をしている箇所が多く、「業」をテーマとして陰惨な内容を綴じ込んでいる割には案外楽しく読み通せてしまいます。特に気に入ったのは、馴染みの遊女・ふじが「やっている最中に目を閉じていた、他の女を想っていたんだろう」と嫉妬して問い詰めるシーン。

「白状おし。いったい誰のことを想っていたんだい」
 摘んだ乳首を軽く引っ張る。
「おめえのことに決まってるじゃねぇか」
「白々しい。わかってるんだよ。男が女の上で目をとじてるときは、ほかの尼のことを想ってるんだよ」
「そんなことは、ねえよ。つまらん言いがかりはよせ」
「言いがかりかねえ」
 摘みあげた乳首を抓られた。
 加減がなかった。
 権介は鋭く呻いて躯を反り返らせた。
「あれ、目尻に涙が滲んでる」
「ふじが無茶をするからだ」
「あれあれ、涙だけじゃなくて、血まで滲んじゃってるよ」
 他人事のように言うが、爪はまだ乳首に喰い込んだままである。胸から脇にかけて、汗で薄まった淡い血が幾筋か滲むように流れ落ちていく。

 この「あれあれ」がユーモラスなのにひどく怖い……「常軌を逸した虚ろな笑い声」「ふじの唇の端に泛んだ笑いは、さらに凄いものとなった」という前後の文脈から察するにこの場面でふじは笑顔になっているらしいけれど、その笑顔がどんなものか想像しただけで泣いたり笑ったりできなくなりそうです。

 にしても今回引用が多すぎたかな……ちょっと反省。

・拍手レス。

 女装主人公って言ったらFF7でしょ
 FFは5と8と10しか……我ながら中途半端。

 にゅーくりあ・しっと 知らない間にこんな天国が。
 「ヤンデレ 修羅場」でぐぐってたときに見つけました。


2007-03-02.

本格派「嫉妬・修羅場・三角関係」愛好サイト、にゅーくりあ・しっと

 まとめサイトで捕捉されていますし、そろそろうちからも紹介。トップに掲げられた このサイトは「女の子の嫉妬」をこよなく愛します。 という一文を見ただけでも本気度が窺い知れるページ、なんですが……「はじめに」の項目でみっしりと綴られている長文を読めば、もはや本気っていうレベルじゃねぇことを察するに余りある。SSS(嫉妬・修羅場・三角関係の略)大好きっ子を自認する当方もさすがにシャポーを脱ぎます。こいつぁゴチゴチの本格派ですよ。

 それもそのはず、管理人さんは修羅場SSスレでかの名作(少なくとも当方個人にとっては)「山本くんとお姉さん」シリーズを連載しているお人。「よみもの」のところに第一部と第二部が掲載されていますので、嫉妬・修羅場・三角関係に抵抗がない方は是非ご一読あれ。血の繋がった弟である主人公に対して愛情と欲情の矛先を向けるキモいお姉さん(略してキモ姉)とひと癖もふた癖もある泥棒猫たち、そして何より空気の読めない主人公を交えた軽快かつブラックな掛け合いが愉快で肌寒い一作です。コメディを基底としつつも無邪気な悪意の一滴を混ぜ込んだ世界はさながら「明るい暗黒」。絵の具でもそうですが、「黒」は少しでも垂らせば他の色を容易に侵食して濁らせる危険な代物であり、無駄に汚れを広げすぎず巧妙な筆捌きで制御して均衡を保ち、おまけに茶目っ気まで発揮してみせるその技量とセンスには惚れるしかありません。……えーと、もっと端的に書きますと、笑えて笑えないキモ姉の嫉妬深さに(*´Д`)ハァハァ。妬心神に入るとはこの事よ。山本くん家の亜由美さん、姉ながら天晴天下一ぢゃ喃。

 ただ、キモ姉も好きですけれど、どっちかと申せば当方は梓派かなぁ。「表面上クール」なツンデレ嫉妬娘。あずあず可愛いよあずあず。とはいえ笑顔がテフロン加工の藤原さんも捨てがたいし……結局のところ全員好き。ちなみにキャラ紹介を兼ねたイラストもありますので見逃すことなかれ。絵師さんは言うまでもなくあの方。

 新作「赤い帽子のまほうつかい」がスタートし、当方はこれから読むところですが、「有名RPG『Wizardry』をリスペクトした世界観」という説明の時点で既にワクワク感が隠し切れない。ベニー松山や古川日出男の作品を通じてしかWIZを知らぬ浅薄の身なれど大いに期待中。「episode.1」だけでもボリュームがたっぷりあるみたいで、これは言わば一足早いひな祭りの贈り物ですね!(←なぜかオチをつけた気になっている)

・今月のよてーい。

(本)

 『ロング・グッドバイ』/レイモンド・チャンドラー(早川書房)
 『新釈 走れメロス 他四篇』/森見登美彦(祥伝社)
 『サマーバケーションEP』/古川日出男(文藝春秋)
 『ハンニバル・ライジング(上・下)』/トマス・ハリス(新潮文庫)
 『遭えば編するヤツら』/川上稔(メディアワークス)

 挙げたのは小説作品がメインとなっていますが、今月は注目の新刊マンガが目白押し。ズラッと並べてみると『魔人探偵脳噛ネウロ(10)』『スティール・ボール・ラン(11)』『P2!−lets Play Pingpong!−(1)』『Over Drive(10)』『ハチワンダイバー(2)』『シグルイ(8)』『ジャイアントロボ(1)地球の燃え尽きる日』『鋼の錬金術師(16)』『バガボンド(25)』『夜桜四重奏(2)』『ユーベルブラット(5)』『幻影博覧会(2)』『エマ(8)』『未来日記(3)』『百目の騎士(1)』『ドージンワーク(3)』『ARIA(10)』って具合。特に『百目の騎士』は『Dクラッカーズ』の挿絵を描いていた村崎久都が作画を担当とあって期待しております。さて、話を戻してまずは『ロング・グッドバイ』。『長いお別れ』という邦題で親しまれている、チャンドラーの代表長編です。私立探偵フィリップ・マーロウのシリーズとしてもひと際人気がある一作。まだ読んだことはないし村上春樹が翻訳ということでチャレンジしてみようかと。『新釈 走れメロス 他四篇』は最近『夜は短し歩けよ乙女』がブレイク気味で若干知名度の上がっている森見登美彦の新刊。「走れメロス」を始めとする有名短編小説をモチーフにした作品集となる模様です。昨年から森見の新刊が定期的に供給されるようになって誠にありがたいかぎりだ……積んでるけど。『サマーバケーションEP』は古川の長編。「生まれつき他人の顔を憶えられない青年」を主人公とした物語らしい。なかなか人の顔を覚えられず苦労している身としては気になる内容です。『ハンニバル・ライジング(上・下)』はレクター博士の過去を描く、一種のプレストーリー。既に映画版もあります(日本ではGWに公開)が、原作ともども盛大に叩かれているみたいです。たまには叩かれている作品も読んでみようかなー、と。意外に合うかもしれない。ちなみに当方は『羊たちの沈黙』が肌に合わなくて『レッド・ドラゴン』をパスしたものの、なんとなく読んだ『ハンニバル』は割かしイケると判断したクチです。『遭えば編するヤツら』は実在のライトノベル作家を題材にし、きっとハチャメチャなことを仕出かすであろうことほぼ確実のイラストノベル。企画本で、もう予約は締め切っていますから今からだと入手するのは難しそう。忘れかけていましたが一応は予約しているのでうちのところにも届くはず……たぶん。

(ゲーム)

 なし

 強いて名前を出すとしたら『ヒトカタノオウ』パッケージ版かな。ダウンロード販売されている『ヒトカタノオウ〜アカシノクニ〜』と『ヒトカタノオウ〜ヲルノモリ〜』を一本にまとめたもので、値段も税込6090円とやや小規模。伝奇色の強いゲームらしくてチラホラと良い評判も聞こえてきますし、体験版をプレーしてから検討しようと考えております。なにげに絵柄も結構好みだ。

・拍手レス。

 BREAK-AGEは大好きです!!
 同士がいた! 素直に感激です。

 曹長どの! 洗脳先です →http://www5b.biglobe.ne.jp/~starlog/
 「SFというよりミリタリー」って聞いてましたが本当みたいですね……。

 マイナーだけど面白い漫画といえば「王様の仕立て屋」これはガチ!
 (検索中)……ああ、表紙に見覚えが。どこかの平台に並んでいたのかもしれません。


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