2006年5月分


・本
 『剣豪将軍義輝(上・中・下)』/宮本昌孝(徳間書店)
 『早春賦』/山田正紀(角川書店)
 『銀輪の覇者』/斎藤純(早川書房)
 『Assault』/浅井ラボ(角川書店)
 『毒蟲 VS. 溝鼠』/新堂冬樹(徳間書店)
 『とらドラ2!』/竹宮ゆゆこ(メディアワークス)
 『虎の城(上・下)』/火坂雅志(祥伝社)
 『ルート350』/古川日出男(講談社)
 『覚醒少年』/北山大詩(富士見書房)
 『タクティカル・ジャッジメントSS2』/師走トオル(富士見書房)
 『天馬、翔ける(上・下)』/安部龍太郎(新潮社)
 『安徳天皇漂海記』/宇月原晴明(中央公論新社)
 『駿女』/佐々木譲(中央公論新社)
 『ロックンロール七部作』/古川日出男(集英社)

・ゲーム
 『委員長は承認せず!』体験版(Chien)
 『機神飛翔デモンベイン』(ニトロプラス)


2006-05-31.

西尾維新本人による解説書『ザレゴトディクショナル』の表紙

 ある程度完全公開!

 誰が見ても「どっちだよ!?」とツッコミたくなる帯文。本気で戯言だと感心した焼津です、こんばんは。それにしても白い……。

・古川日出男の『ロックンロール七部作』読了。

 「流転(ロール)」をキーワードにひたすら物語を転がし続けていく、疾走感に溢れすぎた連作長編です。タイトルが告げる通り七部構成になっていて、さんざっぱら話を散らかした後、エピローグに当たる「第○部」できっちりまとめてオチをつける。一気読みするのが実に気持ちいい本。全体的にデザインがケバケバしいせいもあり、アナクロニズムたっぷりのサブカル臭を漂わせていますが、別にそうした空気が苦手であっても無視しちゃって読めば「あれ?」と首を傾げるくらいすんなり楽しめます。ロックンロールの専門知識もほとんど必要なし。素人とかそれ以前に「ロックンロールって、つまり何?」みたいな、ほとんど認識ができてなかった当方でも差し障りなく堪能できた。

 あらすじを書くのははっきり言って難しい。とにかく、いろんなものが流転(ロール)しまくるところが本書の醍醐味なんです。20世紀を「ロックンロールの世紀」と定義し、1901年1月1日から2000年12月31日まで、ほぼ100年の期間を用いて世界各地あっちこっちに視点が移る。あっという間に登場人物、舞台となる場所、焦点となる年代が入れ替えてはがっつんがっつんとエピソードを列挙し、ドミノ的な連鎖を積み重ねてはエネルギュッシュにロックンロールの炎を飛び火させ、地球全土に燃え広がらせていく。100倍速で上映されるロードムービーの如き異常なスピード感覚。畳み掛ける巧みなストーリーテリングの魔力によって内圧が制御され、不揃いでいて均一なクオリティを保った「読む快楽」を徹頭徹尾休みなく提供してくれます。ただ単に「口語だから読みやすい」とか、そういう域に留まらないハイテンポな文章だからこそ可能な技でしょう。

 筋だけを追えばしっちゃかめっちゃか。勢いだけに任せている部分もありそうな気がしてなりません。けれど、あくまでロックンロールをモチーフに、20世紀の地球をテーマとして、「流転(ロール)」というキーワードが虚仮威しにならない気迫で以って物語を紡いでいる。どんなに暴れ回っても、転げまわっても、常に芯がぶれていない。軸がある。そう、スピンドルに差されたレコードのように。……ごめんなさい、「今ちょっとウマイこと言った」とか思ってしまいました。

 どこで読んだか忘れましたが、著者最新刊の『ルート350』の書評として「絶えず音楽が響き渡っている」みたいなことが触れられていましたけど、こっちはもうわざわざ注釈するまでもなくガンガンと大音量のビートが刻まれていて耳が聾される錯覚まで襲ってくる(ってのは言い過ぎかもしれないにしても、いい具合に砕けていて且つ骨太なところの残っているエンターテインメントと請け合って推せることは確か)。古川文体が心地良くてすっかり馴染んでしまった。ピロシキやボルシチやブリヌイといった料理がストーリーに絡んでくるロシアン・ロックンロールの「第三部」、なぜか格闘技小説になっている南米タンゴ式ムエタイ・ロックンロール「第六部」が個人的に気に入った次第。

・そういえば、7月に『アラビアの夜の種族』の文庫版が出る模様。全3冊。日本推理作家協会賞を取ってるのは知ってましたが、日本SF大賞まで受賞していたとは。けど最近の角川文庫は分冊しすぎじゃないかなぁ。

・拍手レス。

 (デモベ)よく似た状況でございますwアクションはもともとそう難易度高くないみたいですね。たまに普通の
 ノベルパートの演出ごときで間があいたりしてどきり、とします。

 難易度はキーボードでも充分クリアできる程度でしたね。アクションはともかく、ノベルパートでもたつかれるのはなんというか、切ない心地がしました。

 修羅場スレ……、最近のお気に入りはBloodyMaryですね〜。
 「BloodyMary」、ちょっと路線が修羅場SSとは違う気もしますが、作品として面白いことは確か。団長のサイ娘ぶりが良。それにしても修羅場スレ、10日そこそこでもう新スレが立ってますね。

 鎌倉幕府成立前後の話なら永井路子の『北条政子』いちおし。政子さま乙女ちっくできゅんきゅんしますよー。
 尼将軍もさることながら、弟の義時も気になるところですね。


2006-05-29.

・動作の重すぎる機神飛翔を何時間もぶっ続けでやったせいか、現実世界さえスローモーションに感じられてきた焼津です、こんばんは。身の周りがこう、速度は変わらないのにコマ落ちしているような具合。感覚と認識の恐怖を思い知りました。

あかべぇそふとつぅ、新作発表&予告

 るーすぼーい作品としては完全新作の『G線上の魔王』と、ファンディスクの『車輪の国、悠久の少年少女』が来る模様。気になるのはやはり完全新作の方。タイトルからして音楽モノなのか。それとも比喩的な意味合いで付けられているのか。そういえば亜愛一郎シリーズに「G線上の鼬」って話がありましたが、どんな内容だったか忘れてしまったなぁ……。

lightの新作『Dies irae Also sprach Zarathustra ディエス・イレ アルゾ・シュプラーハ・ツァラトゥストラ』(MOON PHASE 雑記)

 シナリオライターは『PARADISE LOST』の正田崇。パラロスは好きなので、期待の新作ってことになりますが……お、覚えにくいタイトルだなぁ。Dies iraeは「怒りの日」、Also sprach Zarathustraは「ツァラトゥストラはかく語りき」とのこと。内容からして以前言っていた「学園伝奇バトルオペラ」とは別物? それとも企画変更? ひとまず詳報待ち。

ニトロプラスの『機神飛翔デモンベイン』、プレー終了。

 コンプリました。だいたい12時間くらい? アクションパートにてこずったから、ノベルパートは7、8時間程度かもしれません。事前にも告知されていましたが、話としては『鬼哭街』並みのボリューム。脇に逸れるような日常シーンがなく、徹頭徹尾本筋を追い続ける構成になっていますので短さは感じなかった。なかなか濃密な印象。それでいて前作より読みやすい。嬉しい仕上がりです。「劇場版デモンベイン」と評する向きもあり、正にそれかと。

 ストーリーはとにかく熱かった。なんでもありのお祭り騒ぎで、ちと羽目を外しすぎているきらいもありましたけど、ラインがはっきりしているおかげで筋を見失うこともなしに楽しめた次第。「うおおおおお!」「ああああああ!」「チクショウ!」「クソが!」「死ねぇぇぇ!」「○○○○(何かの名前)……○○○○ッ!」「今だ! ×××××(必殺技)!!」みたいな、ひたすらに叫び声を張り上げる場面が多く、さすがにちょっとシャウトしすぎな気もするけれど、下手すりゃ陳腐になりかねないそういうシーンも、声優さんの名演で素敵に凌がれてますよ。アズラッドの「アイオーン!」と少し震え気味に高らかに呼ばうところとか。個人的に一番好きなボイスは、冒頭の秘密図書館でアナザーブラッドが口にする「お望みとあらば!」。あれで胸がキューンとしました。狭心症?

 んで、話にしてもゴリ押し力押しな部分が目立ち、自認している通りの「荒唐無稽な御都合主義」。けどまあここまでパワフルに押し切ってくれると気持ちいい。シリアスムードで重たくなってきたところでも敢えてコメディを注入して、思わずくすりと笑ってしまった地点から一気に明るく元気良く勢いに任せてポジティヴな方面へ突っ走ってくれるあたりは心憎い。御都合主義は御都合主義でもよく訓練された御都合主義。一応全年齢なのにエロとかパロとかも割と露骨にチラつかされていて、そのへんのノリは特に変わっていません。ただ、必然的とはいえエロスのすべてが寸止めになっているのは憎い。心憎いのではなく憎い。にしー絵からロリっぽさが抜けてきて、程良く当方の好みに近づいてきたというのに……邪神とかよりもまず「全年齢」という名の絶望を打ち砕いてほしかった。やる前は「18禁じゃないの? まいっか」と軽く考えていたものの、実際に絶妙な寸止めを食らわされると豹変せざるを得ず。

 アクションパートは「ダッシュして逃げ→飛び道具で削る→魔力なくなってきたら溜め」の繰り返しでだいたい勝てました。EASYモードのせいか、ラスボスだろうと誰だろうとパターンが単調ゆえ悠々とハメ殺せます。なんか卑怯臭いですが、こちとらロースペックのスローモーな世界で無理矢理プレーしている身ですから。真っ当にぶつかり合ったら画面で何が起こっているかも分からなくなってしまう惨状。一番最初の戦闘をやったときはグチャグチャで、終わった瞬間、「え? どっちが勝ったの?」とマジで判断がつかなかったですよ。面白い/面白くない以前の問題。カットインCGはカッコ良かったです。特に地球皇帝閣下のは( ゚д゚)ポカーンと思考停止に陥るほどのカッコ良さで、思わず操作が疎かになって瞬殺されちゃいました。いやあれは死ぬって。

 続編ってよりはFDを待ち受けるような態勢で臨んでいたこともあり、まずまず満足の行く成果がゲットできました。「物語」の体裁を強く意識した内容で、他社ソフトながら『Forest』を連想したり。そもそも「デウス・エクス・マキナ」という言葉自体が元は演劇の用語らしいし、舞台を外から覗き見る造りとなっているのも別段不思議な試みではない、かも。ともあれ堪能せり。ますますデモベにハマりました。夏予定の古橋デモベも激烈に期待。最後に余談ですが、シュリュズベリイ&ハヅキと「Dr.SUPERSONIC」は相性良すぎ。あれが流れているときのふたりはすんごく活き活きしている気がします。


2006-05-27.

・いま、パソコンが熱い……!

 物理的に。理由は↓の焼津です。こんばんは。

ニトロプラスの『機神飛翔デモンベイン』、プレー開始。

 こればかりはさすがに積めないんで、ちまちま進めていた『蠅声の王』を休止して取り掛かりました。3年前に発売された『斬魔大聖デモンベイン』(あるいは2年前の移植版『機神咆吼デモンベイン』)の、限りなく続編に近い番外編。倒したはずの敵が甦ったりと、ありえない展開を力技で敢行してくれるのがファンとしては嬉しい。テキストもだいぶ読みやすくなった。余分なイベントをばっさり削ってくれたおかげで話に集中できる仕組みになってるし、演出など細かい部分でも洗練されている印象があります。ただ前作やってないとストーリーが激しく意味不明ですね。あと小説版(古橋秀之著作の方)も読んでないと。

 戦闘シーンの一部は対戦型3Dアクションになっており、要求するハードのスペックもやや高め。当方の機ではどうにかギリギリで動いている状態。はっきり言ってコマ落ちしまくりです。良く言えばション・ウーの世界、普通に言えば紙芝居モード。そのうえ一瞬固まることもあって、いつかフリーズするんじゃないかと冷や冷やしながらやってます。ボタン押してもたまに反応しないし。一つ一つの戦闘に時間が掛かってしまうのが難だけど、敵の動きが鈍いので操作に慣れればサクサクと倒していけます。難易度? もちろんEASY。

 前作や小説版のキャラが軒並み登場するのも楽しいけれど、やっぱり新キャラが目立ってイイ味出してますね。今回の主役に位置する九朔、立ち位置の微妙さが興趣をそそるし、何より普通にカッコいい。ヒロイン?のアナザーブラッドも、ちょっとキてる口調が最高。声優さんとの相性が抜群です。そして若々しい爺シュリュズベリイの年甲斐なさも熱い。彼のテーマミュージックと化しているBGMがツボに入りました。CGも新規に描き直されているカットが多く、ちょっと画風が変わっている感じですが、これはこれでいい。アクションパートをプレー時の「パソコン大丈夫か?」的スリルとサスペンスを脇に置けば大いに寛げる内容。そんなに長くもなさそうだし、週末までにちゃきちゃきコンプしたろうと思います。アナブラたん(*´Д`)ハァハァ、九朔きゅん(*´Д`)ハァハァ。

・佐々木譲の『駿女』読了。

 「駿馬(しゅんめ)」に掛けたタイトル……なんですが、妙にエロく見えるのは気のせいでしょうか。鎌倉幕府が成立する直前の頃を描いた時代長編です。頼朝の手を掻い潜って平泉に逃げ延びた義経が藤原秀衡の臨終に立ち合うところから物語の幕は上がる。前々回の更新で紹介した『天馬、翔ける(上・下)』は義経が平泉へ向かう道の半ばで終わっていたため、続きが読みたいな〜と思っていましたが、正にグッドタイミング。いえ、義経が出てくるのはプロローグだけですぐに討たれてしまい、あとの本編は「駿女」たる由比が主人公を務めるんですが。

 義経公には遺児がいた──鎌倉殿・頼朝に屈服し、父の遺言に背いて義経を討った藤原泰衡は、遅滞なく「遺児狩り」を敢行した。糠部に押し入った泰衡の手勢は由比の両親を殺し、弟・弥彦を義経の落胤と取り違えて攫っていった。「もはや手遅れだろう」と諦める伯父たちを尻目に、馬に乗って単身で弟の救出に馳せる由比。敵は十二騎。一人で手向かうには無謀な数だが、馬と弓の技を駆使して巧妙に立ち回る。しかしやがて窮地に陥って……。

 もとより派手好みではなく、地味な積み重ねを作風とする佐々木譲ですが、今回はいっそう淡白な印象を受ける。「義経の遺児」云々といった設定は創作らしく、調べてもそれらしい情報は見当たりませんでしたが、あまりにも淡々と話が進んでいくものだから「ひょっとして史実?」と信じそうになることもありました。前半は女だてらに馬を駆って弓を放つ由比の存在感が強烈なものの、後半に入ると「大河兼任の乱」に「義経の遺児」という要素をプラスして、虚実取り混ぜたストーリーが盛り上がってくる寸法。おかげで進むにつれてぐいぐいと興味をそそられていきました。その分、由比の存在感がだんだん希薄になってしまう惜しさはありますけど。うーん、敵役の鬼功部三郎にしろ、「蝦夷の豪傑」というイサリカイにしろ、美味しい奴らなのに脇役みたいな位置付けで大して目立たないんですよね。キャラクターをあまり立てない方針で書いているのかしら……落胤たる義兼が最期の戦場に従容と赴くシーンは「え? いつの間に死ぬ覚悟決めたの?」と訊ねたくなるし、キャラに関してはもうちょっと描き込んでほしかったところ。

 長くもなく、短くもなく、程良い分量で奥州対鎌倉の顛末がまとめられている。これ単体ではちょっと食い足らなさを感じる内容ですけれど、頼朝・義経・奥州藤原氏の関係について予備知識を得た後で読めばグッと味わいを増します。ちょうどいい頃合に遭遇できました。戦が敗北で決するのは分かりきっているため爽快感は乏しいにせよ、最後の最後で迎えるオチは心憎い。あとは恋愛要素がもっと濃ければ完璧だった気が個人的にします。「地味な佳作」というより、「淡白な佳作」といったところかな。

・ここ最近の読書のせいか、ふとNHKドラマでやっていた『義経』のことが気になり検索。Wikiで概要を知りましたけど、「義経ドッカーン」の件に爆笑。今度はこっちで検索をかけてハリボテ弁慶を目にし、ますます腹がよじれました。こんなに愉快なドラマをみすみす見逃していたとは不覚です。とまあ、そんなネタを脇に置いても、今なら視聴したいなぁと率直に思ったり。


2006-05-25.

「とぼけまいぞ」
「うぬらもユダと同じく 銀貨で 儂を売るのであろう」
「白状せえ!」

「誓うて左様なことは……」

 四十九日ぶりに覚醒した 救世主は ユダの裏切りを予知するや 憤怒の形相に変じ

「儂の目は節穴ではない うぬらも祭司長の飼い犬ならん!」

 それ以上の晩餐は不可能となっている

・他にネタがないのか。ないんです。と、懲りもせずにシグルイネタをかましてみる焼津です、こんばんは。

・で、今日が『キミキス』の発売日ですっけ……他の人が書いたプレー日記でも読んで擬似的に楽しもうかと思います。いえ、率直に言えば買いに走りたいところなんですけれど、そろそろ己の物欲に右往左往させられることに疲れてきたのでここは一旦見送り。Best盤か何かが出る頃には身辺の積みを整理して、プレーする気力が湧いてる……といいなぁ。

・宇月原晴明の『安徳天皇漂海記』読了。

 時代伝奇を得意ジャンルとする著者の最新作。つい先日に山本周五郎賞を受賞しました。そんなに厚い本ではないので2000円近い価格設定がやや高めにも思えますが、二部構成のストーリーはギュッと身が詰まっていて充実感を覚える内容に仕上がっており、個人的には満足。物語の焦点に据えられるのが安徳天皇なだけに、舞台は鎌倉時代となっています。直前に『天馬、翔ける(上・下)』を読んでいたことが幸いして、するっと本筋に没入していくことができました。

 波の下にも都があるのですよ──そう囁く祖母に抱かれ、天皇の証たる神器を身に帯びたまま壇ノ浦の海へ入水した安徳帝。御歳八つ。肩の先まで伸ばした髪が少年とも少女とも判別の付けがたい容姿をもたらしていた、あまりにも幼く、儚い存在だった。平家の滅亡を決定付けた戦から二十六年、源頼朝の子にして征夷大将軍の実朝は、「天竺の冠者」と名乗る妖術師に導かれ、琥珀色の玉の中で眠る安徳天皇と対面する。彼は千尋の水底に沈みながらも、神器の力に守られて死を免れていたのだ。荒ぶる少年天皇を鎮めるため、実朝はありとあらゆる手を尽くすが……。

 作中で引用される『平家物語』の文章でも、ひと際印象的なのが、やはり安徳帝入水のシーン。草薙剣が失われることになった場面であり、『天馬、翔ける』を読む以前からもずっと脳裡にこびりついていました。まさかこうして直球で安徳天皇の漂流譚を目にすることができるとは、正に僥倖です。実朝に近侍していたという人物が回想形式で語っていく第一部は古式ゆかしい純和風な時代伝奇の色調が貫かれており、どちらかと言えば「伝奇」よりも「時代」がメインとして描かれていますから、センセーショナルな要素は希薄。それでもあくまで文章に弛みはなく、淡々と切々と連綿と綴られていく語り手の想いは色鮮やかでしんみりとさせられます。主従の在り様がひどくまっすぐで心地良い。

 ゆるゆると第一部が幕を引き、このまま話が終わってもおかしくない雰囲気の中で始まる第二部は、それまでの展開を踏み板に飛翔期へ突入します。目次でも書いていますからバラしますが、中心人物はマルコ・ポーロ。第一部の話を人伝てに聞いた彼が解釈に移るや、物語は一転して時代伝奇からファンタジーに再構成される。鮮明さはそのままに、色だけを塗り替えてしまうような大胆な試みが効を奏して俄然盛り上がってきます。最初に時代小説臭の濃厚な第一部があったからこそ、がらりと調子の変わる第二部が映えてくるわけですよ。マルコがいる大陸では南宋が元によって滅ぼされようとしているところで、そこらへんを源平と対比して重ね合わすのも、興味をそそる趣。安徳天皇と南宋最後の少年皇帝との微笑ましいボーイ・ミーツ・ボーイも挟まれていて、頬が緩む。

 提示されていた謎は最終章で紐解かれ、すべてが収まるようにピタッと収まって落ち着く結末も爽やか。草薙剣、神璽(勾玉)、八咫鏡が「表の三種の神器」だとすれば、安徳天皇は「裏の三種の神器」と呼ぶべきものを持っている……みたいな設定が絡んでくることもあり、伝奇色が弱めとはいえ伝奇小説として楽しめる部分があったのも確かです。できれば安徳天皇視点の章も読みたかったなぁ、などと惜しむ気持ちもあるものの、内容的にはさほど不足を感じません。分量の割に、なぜか大長編を読み切ったかの如き手応えが得られる一冊。ちなみに、第二部以降は名前しか出てこなくなるけど、一番心に残ったのは源実朝にまつわる諸々ですね。上記の感想は第一部<第二部と言わんばかりの書き方で、実際盛り上がってきたのは第二部からにせよ、好みで選ぶとすれば第一部の方かな、と。


2006-05-23.

・最近の修羅場SSスレは進行が早くてチェックもひと苦労。今は「リボンの剣士」の先が気になっている焼津です、こんばんは。剣道を嗜む活発幼馴染みと計算高い泥棒猫、そろそろ直接対決も近そうでワクワクしますね。

・安部龍太郎の『天馬、翔ける(上・下)』読了。

 戯れに「隆慶一郎の後継者」でぐぐってみたら引っ掛かった作家──それがこの安部龍太郎でありました。時代小説を漁り出すキッカケとなったのは隆慶一郎の『鬼麿斬人剣』だったし、ちょっと前に読んでハマった『剣豪将軍義輝』の作者・宮本昌孝も「隆慶一郎の流れを汲む」とか何とか言われていたこともあって、俄然興味が湧いた次第。初期の代表作『彷徨える帝』や、戦国時代が舞台の『神々に告ぐ』『信長燃ゆ』『関ヶ原連判状』あたりを読もうかと思案しましたけれど、いざ本を目の前にしてみるとあっさりした装丁のこれが気に入ってしまい、最近作ながら初読として取り掛かることにしました。検索によれば中山義秀文学賞の受賞作で、連載時のタイトルは『天馬の如く』だったとか。頼朝・義経の源兄弟を主人公に据えた、双視点形式のストーリーです。

 いざ武門の棟梁とならん──長い雌伏の時を経て、源頼朝は起った。後白河法皇が下した「平家討伐」の院宣。血気盛んな義経がおとなしくしていられるはずもなく、藤原氏の統べる奥州から出奔し、勇みに勇んで兄頼朝のもとへ馳せ参じた。しかし、頼朝は弟の来着に喜ぶ気配もない。「冷たい人だ」という印象を受ける義経。一方、頼朝は頼朝で、自分本位の性格を隠そうともしない傲岸不遜な義経に眉をひそめていた。生き方も理想も国の行末に見る未来もすべて異なるふたりは、平家を滅ぼした後に決裂を余儀なくされ、骨肉相食む仲となっていく……。

 義経視点と頼朝視点で交互に描いていきますが、頼朝視点は政治的な遣り取りが多いせいもあってか頼朝本人の印象が薄く、強いて言えば義経の方が主人公。歴史上の敗者ではあるけれど、「判官贔屓」という言葉もあるくらいでやたらと人気の高い義経は大抵のストーリーで英雄として美化される傾向にありますが、本書ではそうした美化があまり為されていない。武芸は秀でているものの他人の気持ちに疎く、カッと熱くなると周りが見えなくなってしまう。正に「無思慮な若者」といった感じの造型です。対比して頼朝を魅力的に描くかと言えばそうではなく、頭の巡りが良い代わりに神経質で猜疑心の強い恐妻家ってキャラにされており、なんと言いますか……どっちもどっちです。両者とも生々しすぎて感情移入しづらい。また、義経と頼朝が顔を合わせるシーンは少なく、後半で相争うことになるとはいえ「義経 VS 頼朝」という図式が徹底されているわけではありません。義経を主人公と捉えて頼朝を敵と認定する──あるいはその逆──みたいな、一方に肩入れするタイプの読み方は難しいでしょう。感情移入を抜きにして読むと、兄弟の相克が決して本人たちの感情のみに因らない、「如何ともしがたい事態の流れ」の結果として訪れるものであることが明確に分かり、英雄譚を超えた味わいが滲み出してきます。

 木曾義仲の最期、壇ノ浦の平家敗北、そして頼朝と義経の対立と、諸行無常や盛者必衰を地で行く歴史のうねりを追った展開もさることながら、彼らを取り巻く人々のドラマも濃密。北条政子が出てくる場面は合戦よりも怖かった。「魔王」「大天狗」と呼び称される後白河法皇の、あっちに付いたかと思えばこっちに付くコウモリぶりも、呆れを通り越して一つの境地を覗くような感動さえ覚える。源平云々というより、その時代でがむしゃらに生きるしかなかった人物たちの「必死さ」が染み渡ってきた。上巻がなかなか盛り上がらなかった分、下巻で挽回するように白熱してくれて、最後まで読み切れば「面白い」と言える作品でした。


2006-05-21.

・扉に中指の爪を挟んでしまい、もろに内出血。タイピングもひと苦労な焼津です、こんばんは。五月雨打ちするのって何年ぶりだろう……。

・北山大詩の『覚醒少年』読了。

 第5回富士見ヤングミステリー大賞「奨励賞」受賞作。超能力を持った少年が、違うタイプの超能力を保有する少女たちと組んで、彼らを狙う組織に立ち向かう。という、概要だけ取り出せばかなり古臭いムードの漂うサイキック・サスペンスです。しかし、肝心の「超能力」が実はそんなにすごくないというか、サイコキネシスやパイロキネシスといった念動系ではなく、透視などの情報探知系がメイン。なので、超能力絡みにしちゃストーリー展開は結構地味です。「そんなにすごくない能力をうまく活用して行動する」という、ちょっとストイックなノリが却って美味しい。

 ある事故をキッカケにして、霧元透は透視能力に目覚めた──見晴らしの良い高所に立てば10キロ先の字を読むことさえできる異常視覚は、「光の当たる場所しか見えない」「向きは一定で、物の裏側を見ることはできない」といった制限を持ちながらも、充分な利用価値を秘めていた。探し物なら合法非合法問わずなんでも見つけてみせるHP「エクスプローラー」の活動要員(エクサー)となった彼は持ち前の能力を活かして仕事をこなし、ガンガン稼ぐ。が、ひょんなことから似たような能力持ちの少女と出会い、否応もなく謎の組織との暗闘に巻き込まれていくことに……。

 ささやかな超能力を持った人間たちが寄り集まる、というとブギポの『「パンドラ」』を連想する当方としては、後半でシリアスな展開に入るとしても前半は割合のほほんとした内容だろう……とか思っていました。いざ読んでみるとコメディ的な掛け合いは添え物に近く、基本的に最初から最後まで緊張感が持続する筋立てとなっております。組織のやってることも悪どく、書き方次第ではメチャクチャ殺伐とした話になりかねない。主人公たちの性格をウジウジ悩まない行動派にし、エグい展開を極力抑えたことで暗ーい雰囲気に陥ることは避けています。おかげで読み口は良い。文章もみっちり詰まっていて、内容的にも凝縮されていますから、「歯応えのあるサスペンス、ただしあくまで雰囲気はライト」という要望があったら正にピッタシかと。富士ミスで言えば『ブラインド・エスケープ』に近いかな。

 超能力モノではあるけれどバトル要素が少ない、西澤保彦みたいなサプライズもない、富士ミスが標榜する「L・O・V・E」も薄めと、全体的に華の欠ける仕上がりではありますが、キャラクターの魅力に頼らない構成のおかげでサスペンスとしてはほぼ磐石。続編も出ているのでいずれ読もうと予定していますけど、組織云々といったメインの筋とは別に、こまごました探し物の依頼をこなしていくような話も読みたいところですね。

・あと富士ミス繋がりで師走トオルの『タクティカル・ジャッジメントSS2』も読了。

 シリーズ8冊目、短編集としては2冊目。副題の「はじめてのさいばん りろーでっど」が示す通り、前回の短編集で好評を博した「はじめてのさいばん」──中学校で行われる学級裁判、要は裁判ごっこを描いた話──を拡張する形式になっています。安直といえば安直なスタイルですが、その分グッと面白くなった。弁護士のタマゴ・しのぎが新ヒロインとして登場。純真な彼女が山鹿に感化され、徐々に悪の道へ染められていく過程は読んでて楽しかったです。「証人はどいつもこいつも嘘つきだ!」「しょ、証人はどいつもこいつも嘘つきです!」と洗脳されるシーンには笑った。タクジャ未読の方はここから読み出してみてもいいかも。キャラの関係が分かりづらいかもしれませんが。

・拍手レス。

 Web拍手のお父さん、かっこよすぎですw
 禅僧・イズ・クール。

 …………焼津さん、最高 by九重
 重畳。

 設定を読んで、何処の蓬莱学園かと思ったのはヒミツです<委員長は承認せず
 やはりそうですね。読んだことのない当方でも「巨大学園=蓬莱」という図式が成立している有り様。

 戦国無双で高虎を見つけるとなんかビクってなりません?
 戦国無双は未プレーです。ただ、前はキャラ名とか見てもサッパリだったのに、最近は少しずつ分かってきたおかげでコーエーのゲームにも興味が。


2006-05-19.

・とりあえず「ジンガイマキョウ」のTOP絵にひれ伏しておこう、と自然に思った焼津です、こんばんは。やはりデモベ絵には特別感慨が湧きますね……見惚れるあまりパンチラにも気づきませんでした。五秒ほど。

・昨日挙げた『委員長は承認せず!』、スタッフコーナーを見るとどうやら例の「二回クリック」は廃止される模様です。改行、改ページのレスポンスって地味ながら重要かと。かぐやも一時期それで不評を呼んだことがありますし。

・古川日出男の『ルート350』読了。

 短編集。ふと気づきましたが、当方にとって古川日出男は「結構気になる作家」なのに、今のところ本として読んだのはこれと『砂の王1』だけです。以前に雑誌掲載された短編も読みましたが、だいぶ記憶が朧げになっていて、それが本書に収録された「メロウ」であると思い出すまで少々時間が掛かった次第。修学旅行先で先生が狙撃されて死亡した。小学六年生の主人公たちは遺体を暗渠に放り込んで水葬すると、ただちにスナイパーへの逆襲を企てる……という話です。初読時は作者の言う「自意識過剰」な文体が馴染めず、素材は面白いと感じたもののどうにも受け付けなかった。再読となる今回は収録されている他作品を読むうちに徐々に耐性が築かれていって、難なく楽しめましたけど。冒頭の「お前のことは忘れないよバッハ」はスッと入りやすい一編ですし、収録順というか作品の配置が絶妙な具合になっています。

 絶えず読者に向かって語りかける「自意識過剰」な文体は一見して饒舌にも感じますが、はっきり言って本書は薄い。ページ数にして240ページ弱です。厚さ信仰とでも言いますか、とにかく分厚い本への傾倒が著しい当方にとってはかなりの物足りなさで、購入の際に躊躇を覚えるほどでした。そこに8つの短編が収められているんですから、平均して30ページ。量的には大したことありません。なのにいざ読み出してみると凄く濃密。饒舌のようでいて、とても圧縮されています。おまけにこれがまた随分とカッコいい。たやすく魅了されてしまった。

 たとえば「カノン」には「the MOUSE」という章があり、

 ア・マウスは別れる前に、アニメーターを床から凝視する。アニメーターもまた、ア・マウスを凝視し返す。俺が死んだら──と、ア・マウスはいう──あんたの守護神になろう。俺はネズミだから長生きはしない、だから──と、ア・マウスはいう──魂だけの存在(もの)になったら手助けにいこう、このただのネズミから、唯一のネズミになろう。
 それは不滅になることだ。
 ザ・マウスに。

 なんてことが書かれています。「カノン」は東京湾のテーマパークを舞台にした話であり、「ザ・マウス」が何を指すのかは一目瞭然なのですが、茶化しているとも大真面目とも受け取れる筆致でこうも綴られると、グッとせずにはいられない。個人的にミッキーはあまり好感を持っていないけど、ザ・マウスなら好きになれそうな気がしました。そしてこのカッコいい文体を、常時エロ妄想を炸裂させる十五歳の少年の一人称に惜しみなく注ぎ込む「ストーリーライター、ストーリーダンサー、ストーリーファイター」、一発で惚れました。『タイタニック』を評して「あれはいい映画だった。純愛とすかさず/ただちに激しいセックス、そして死。人生の縮図だ!(中略)教訓だらけの映画だった。生きろ、はめろ、疾走しろ」。ある女子に触れて「たぶんクラスの男子は一度は彼女でマスターベーションのおかずにしたはずである。僕は四度」。すごくテンポが良く、それでいてシャープに頭が悪い。まさかこんな話が読めるとは思わなかった分だけ、得した気分になりました。

 やはり、「お前のことは忘れないよバッハ」が掴みとして成功しています。なんかもうタイトル見ただけで読みたい、読まなければって焦燥感に駆られますし。手に取った当初は本の薄さが気になったのに、読み終わってみると「これぐらいがちょうどいい」って満足してしまった不思議。内容が濃厚ゆえ300とか400になるとさすがに疲れるでしょう。一気に目を通せる分だけ現状が最適かと。期待を上回る手応えがありました。

三島由紀夫賞に古川日出男、山本周五郎賞に宇月原晴明

 お、なんかちょうどいいタイミング。『安徳天皇漂海記』は近々読む予定です。


2006-05-17.

・今頃『宵闇眩燈草紙(6)』を読んで「八房は明るく悪趣味だなぁ」と再確認した焼津です、こんばんは。前半はまったりと旅行記っぽいノリで舞台説明に徹し、後半はいつも通りの乱戦に雪崩れ込む。狂信者の群れがステキ。そして「次巻へつづく」。一冊完結じゃなかったの、USA編……時期的にはそろそろかな、7巻の刊行って。

Chienの『委員長は承認せず!』体験版をプレー。

 絵柄が好みで、結構前から注目していた新作。声優さんも聞き覚えのある人ばかりで豪華です。ジャンルは学園コメディ。クラブ活動なども含め、何でもかんでも委員会が組織され、各種委員会の働きによって運営されている巨大学園を舞台に、「委員会を取り締まる委員会」監査委員会へ所属するハメとなった主人公の波乱に満ちた日常を描く。といっても「会」とは名ばかりで、監査委員は主人公ひとりのみ。個人の力で集団に立ち向かっていくことはできるのか……と妙に熱くなりそうなお膳立てとなっております。

 体験版そのものはあまり長くありません。飛ばし飛ばしやって30分程度、まじめにプレーしても1時間掛かるかどうかと言ったところ。登場するヒロインもふたりだけで、話の雰囲気を掴むにはやや物足りない。テキストのテンポはそこそこ良さげであり、学園コメディとして楽しむ分には問題なさそうな気配。勢い良く王道を突っ走ってくれそう。パロディネタのセンスは正直微妙だと思いますが。あとシステム面で気になったのは、ボイスが流れているときは二回クリックしないと次ページに移れないことと、用語解説を見るためにわざわざ委員長システムを起こさなきゃいけないこと。この手の用語解説機能は文章中の用語を直接クリックして読めるようにしてほしい。

 すごく惹かれる、というほどではないにしろ、危惧していたほどひどくもなかった。主人公にあんまり好感が持てなかったものの、本編で挽回してくれる気がしなくもない。やっぱり絵柄が好みなのでチェックしておきます。延期とかなければ来月発売ですね。ちなみに、パッと見で麟瞳とメアリーの区別がつきません……これは何かの罠ですか。

・火坂雅志の『虎の城(上・下)』読了。

 戦国時代を駆け抜いた藤堂高虎の生涯──60年近いスパンで以って描く歴史大河ロマン。不勉強ゆえ高虎の名前は本書を読むまで知らなかったのですが、懇切丁寧に逐一綴ってくれるおかげで安心して最後まで読み通すことができました。上下2段詰のハードカバーで800ページ、これで読み応えがなかったら嘘でしょう。ただ、タイトルや装丁の印象がゴテッとしているせいかちょっと堅苦しそうな感触があり、手を出す際はいささか迷いが生じました。が、いざ読み出してみると文章は平易で気取ったところがなく、またサラリーマン向けであることを意識しているのか、「──課長に昇進させる。ただし、給料は上げぬ。/というようなものである」など実に率直な比喩や説明も多かった。当方みたいに歴史小説に不慣れな読者でも充分楽しめる内容です。

 堂々たる偉丈夫であり、槍働きで名を挙げながらも、幾度となく主を変えてきた藤堂高虎──豊臣家から徳川家へ乗り移る鮮やかな手際から、後世「風見鶏」と評される彼は、決して没義道の人ではなかった。武力を誇りとしながらも「これからは猪武者のままで渡っていける世ではない」と悟り、絶えず自己変革を促し算術や兵法を始めとした様々な知識を実体験とともに吸収し続けてきた人生。城造りの名手として歴史に名を残す存在となった高虎が抱く信念とは……。

 姉川の合戦で初陣を飾り、賤ヶ岳の戦い、朝鮮出兵、関ヶ原の戦い、大坂の陣と数々の合戦に従軍し、徹底して「現場主義」を貫いた武将。ここ最近俄かに戦国時代への興味が出てきた身としては、これほど美味しい逸材はありません。タイトルに「城」とあるように、築城家でもあった側面がクローズアップされていて興味深かった。しかし、全体の色調はやや地味め。合戦シーンは淡白だし、忍者なんかも登場するものの「情報収集」の面が強調されていて派手な忍術バトルはないし、「血沸き肉躍る戦国絵巻」みたいなノリからは程遠い。とはいえ下手に飾らなくとも充分に絢爛な人生を送っているので読んでいて退屈することはありません。変にだらだらと引き延ばして枚数を稼いでいるところもなく、重厚な分量の割にサクサクと読み進めることができました。秀長という主君を得て、経営や建設のノウハウを身につけていった結果として外様大名でありながら家康の信頼を勝ち取った高虎の、苦労に満ちた信念が命の遣り取りと比べても遜色ない熱さを放っている。時代小説の「時代」とは、単に「昔の時代」という意味ではなく、「現代の目から見た一つの時代」として浮かび上がってくるものだということを実感させてくれた。

 脇役として施薬院全宗や金地院崇伝など、他の著作で中心人物として描かれるキャラクターも顔を出すので、自然と「『全宗』『黒衣の宰相』も読みたいなぁ」って気持ちになります。にしても、やっぱりタイトルはゴツゴツと堅苦しいムードがありますね……いっそ、もっとこう、親しみやすい題にしても良かったのでは。『たかトラ!』とか。さすがに砕けすぎですか。


2006-05-14.

・『宮廷無双 チャングムの狂い』

 「もはや明らかに昔日のチャングムではない」「王は曖昧なまま列に加わった」「女官の瞳孔が猫科動物の如く拡大した」というナレーションが流れるNHKドラマを妄想した焼津です、こんばんは。CMぐらいで本編を見たことはなく、どんなストーリーなのかいまいち分かってませんが。

・竹宮ゆゆこの『とらドラ2!』読了。

 なぜか帯に奈須きのこの推薦文が載っている、シリーズ第2弾。目つき最悪・性格穏和の主人公と見た目ラブリィ・性格凶暴なヒロインの、何と言ったらいいのかよく分からない関係は「恋愛未満」というより「恋愛以前」で、ラブコメとして読むにはラブ成分の希薄さが気に掛かった前作に引き続き、今回もラブ要素は低い。その代わり、新キャラを投入することで大いに状況を掻き乱し、学園コメディっぽい面白さが一層強調されています。複雑化していく事態は、次の巻で完結なんて真似を許しそうにはない。「このシリーズってもしかして短期決戦なんじゃ……」という不安を抱いていた当方としては、まだしばらく続きそうな気配に安堵することしきりです。たっぷり楽しめそうだ。

 で、今回の肝となる新キャラ。表紙を飾る少女がそれです。特に伏線とかはなくていきなり登場するんですが、あまりにもインパクトを有したヒロインにつき、顔出しの唐突さとか気にしている余裕もありません。いえ、別段斬新な子ではないんですよ。読めば「ああ、このタイプか」とすぐ分類できるキャラではある。が、実際目にしてみると、なんつーか「すごい」の一言に尽きます。よくこんなヒロインを書けるものだ。そして「こんなヒロイン」を描き切ってみせたからには、今回の話が盛り上がるだろうことは自明です。前巻も「熱い」と感じましたけど、負けず劣らずの熱量。

 大筋ではベタベタ。しかしながら、ありふれたネタを使いこなし、ラブコメとは思えない疾走感とともに表現する作者の腕っぷしに惚れ惚れ。学園コメディの麗しき典型。勢い任せで強引になってる展開もいくつかあったにせよ、笑って熱くなれるイイ話に仕上がっていますね。この調子でどんどん行ってくれると嬉しい。

 ちなみに、一番笑ったのはあとがきの冒頭三行。本編が終わった途端、あんな切り出し方されたら呼吸困難に陥るのも無理はないかと。


2006-05-12.

・一週間ほど前にインストして途中まで進めていた『蠅声の王』の存在をすっかり忘れかかっていた焼津です、こんばんは。いかん、日曜あたりにまとめてプレーしないと本気で忘れてしまいそう。

・新堂冬樹の『毒蟲 VS. 溝鼠』読了。

 過激な暴力と品格に欠いたギャグが渦巻く黒新堂作品の中でも際立って悪趣味な長編として話題を呼んだ『溝鼠』の続編。B級ホラーみたいなムードが溢れるタイトルもさることながら、内容の低俗さと凄惨さはレッドゾーンを通り越しています。女性読者がターゲットの恋愛小説を始めとして、まったく逆方向の作品を提供する白新堂とは似ても似つきません。

 金さえ貰えればどんな依頼でも受ける──大黒の「別れさせ屋」と、鷹場の「復讐代行業」。裏の業種であることは共通しているが、範囲がダブらないせいで接触することのなかった両者。ある案件を境に、数奇な運命の糸がもつれていく。ヤクザの抗争を生き抜いた鷹場の前に立ち塞がる大黒。タランチュラやサソリといった猛毒の虫をこよなく愛することから「毒蟲」と恐れられる彼は、鷹場への汲めども尽きぬ恨みがあった。敢行される、復讐代行業者への復讐。「溝鼠」の異名を取る鷹場はもちろん黙って受けるはずもなく、更なる熱意を篭めて報復を開始した。毒蟲と溝鼠、死神と悪魔。負の両雄が激突する……。

 サディストの変態たちが揃いも揃って壮絶なバイオレンスを繰り広げる一大地獄絵巻。分量自体は前作よりも減りましたが、密度はむしろ上がっている気配があります。復讐代行業という面白いネタを題材に選んでおきながら、メインとなる軸が「ヤクザ絡みの二億円強奪」、加えて鷹場家の血を巡るノワールに未練を残しつつ、結局やってることが大半ただのクライム・ノヴェルと変わらなかった前作に対し今回はあくまで「復讐」というテーマに絞っている。ノワールへの色気も捨てた。400ページ未満ながら、中途半端なところがありません。さすがに初期作ほどの勢いはなく、書き慣れたテクニックで凌いでいるところも目立ちますが、少なくとも「続編になった途端、ガクンと落ちる」みたいな惨状は回避してます。むしろ「復讐」に絞ってコンセプトを徹底した分だけ、昇華しているとも言えましょう。最近はマンネリ気味だったけれど、久々に楽しめました。

 良い意味で無内容の極北たるエンターテインメント。「VS」が象徴する通り、最低と最悪の対決が一種理想的なマッチとして描かれています。胸糞悪い暴力と悪意を、よくもこれだけ詰め込んだものだと感心させられることしきり。とにかく徹頭徹尾グロテクスな描写が続くので、耐性のない方が読めば吐き気を催すかも。耐性のある方なら普通に面白いと思います。やっぱりボリュームが少ないせいで物足りなさを覚えますし、ひたすらバイオレンスが続くためややテンションが単調になってしまったきらいはある。大傑作とまでは謳えません。が、低級バイオレンス好きなら読んで損はないクオリティかと。あと、未読なら『溝鼠』の方をオススメします。前作のあらすじにも言及しているとはいえ、先に読んでおいた方がより一層味わいを増すことは確かです。

・拍手レス。

 北の国から、がPCエンジェルで復活してましたよ。
 確認しようと思いましたが、近所にP天売ってません……orz

 拍手にSSを下さい by九重
 では「禅僧パズル」という即興ショートショートを。


2006-05-10.

・ジメジメとして不快極まる日にこんばんは、焼津です。蒸し暑いとはこのことか。油断すると額から汗が流れましたよ。周りも似た感じで不快の相乗効果。除湿でもしなけりゃやってけませぬ。

・浅井ラボの『Assault』読了。

 “されど罪人は竜と踊る”シリーズ8冊目。短編集としては4番目に当たります。といいますか、もうここのところずっと短編集続きですね。現時点で最新の長編が刊行されたのは2年前の8月。そろそろ本編の再開も願いたいところ。いえ、愚痴は棚上げしとくとして、今回は本編以前に当たる「ジオルグ咒式事務所時代」のエピソードを収録した初の本です。ジオルグやクエロといった、ガユスとギギナの過去を語る際に挙げられたキャラクターたちが登場する、ファン待望の一冊。収録作の一つであり表題作でもある「Assault」の初出は2004年4月、単行本派にとって「ようやく読める……!」と感慨の深いことが容易に察せられましょう。

 ガユスが「黄金時代」と口にして恥じない、ジオルグ咒式事務所で過ごした日々──エリダナに流れ着き、瀕死で行き倒れていた野良咒式士の彼を文字通り拾い上げた事務所の面々は、揃いも揃って変人ばかりだった。美貌と闘争本能と家具をこよなく愛する心を併せ持ったギギナ、周りが気を抜けばいつでもどこでも死のうとする自殺志望のストラトス、実力の割にいまいち威厳がない所長のジオルグ、「不殺」の信念を貫こうとする女咒式士のクエロ。互いに仲間と認め合い、たまに喧嘩しながらも協力して血腥いキリングフィールドを戦い抜いた。やがて来る喪失の時を知る由もなく。睦み、愛を交わしながらも、刃を向けて殺意を応酬する関係に堕してゆく弱き男と運命の女。それでもなお、輝かしい思い出を忘れ去ることはできずにいる……。

 ガユスの黄金時代です。青春時代です。本編を先に読んだ身としては吹き出す以前に不吉な暗雲をビシバシと肌で感じずにはいられないスメルにしてムード。饐えた絶望を常に漂わせる本編と違ってひどく前向きで無駄に希望を抱かせる明るさが、却って喪失感を際立たせて切ない気持ちに陥る。でもやっぱり、この当時の空気に浸る限りでは楽しいんですよねぇ。事件らしい事件が起こらない日常のワンシーンも描かれていて、鬱だの悪趣味だのと謳われる『され竜』の魅力がそればかりではないことを再確認させてくれます。まあ、性的な描写や惨殺シーンがちゃんとあって、菊地秀行的な伝奇バイオレンス臭もキッチリあるわけですけれど。微笑ましさと殺伐の混合ぶりをたっぷり味わってみるのが吉かと存じます。

 短編集と前述しましたが、中には100ページとか150ページに達するものもあって、感覚的には長編を読んでいる気になってくるところもあります。全体で450ページというのもライトノベルにしては結構な厚さですが、文章や描写もギチッと詰まっているせいもあって、通常比2冊分の満足度が得られますよといかがわしい深夜の通販みたいな解説を加えてみたり。ただ、アクションに関してはやや控え目で、特有の派手さがあまりなかった気もします。何やらいろんな事情で刊行ペースが落ちて存続が危ぶまれているシリーズですが、こうして飢えと渇きを癒す新刊を出してくれるようならまだまだ付いて行けると覚悟を装填しました。やっぱり好きです。パンハイマさんとか。


2006-05-08.

このページに記載されている深沢美潮の新作が、『サマースクールデイズ』というタイトルのせいでド凄い修羅場小説のようにしか思えない焼津です、こんばんは。最初は本気でノベライズかと錯覚しかけました。

・斎藤純の『銀輪の覇者』読了。

 発売当時はほぼノーマークだったのに、年末になって「このミス」で10位以内にランクインして話題になった作品。表紙を見れば一目瞭然ですが、自転車モノです。戦前を舞台に、一攫千金を目論む男たちが必死の形相でレースを繰り広げる。最近のマンガで言えば『スティール・ボール・ラン』みたいなノリ。いえ、『シャカリキ!』『Over Drive』を挙げた方が例としてはいいのかもしれませんが、ぶっちゃけどちらもまだ読んでませんので……。

 昭和九年、「本州縦断」を掲げ、参加者三百名の大規模な自転車レースが開催された。賞金目当てのレーサーたちにはズブの素人も数多く混じっており、彼らは完走することなく脱落していくだろうと予測されていた。ゴーグルを着用した偏屈な選手・響木はそんな素人の中から、見込みのありそうな人間をピックアップし、即席のチームをつくりあげる。レースのイロハを教え、彼らを導いて勝利に辿り着こうとするが……。

 レーベルは「ハヤカワ・ミステリワールド」。だから当然、話の展開もレースばかりに終始するわけではなく、ミステリっぽい要素が絡んできます。それぞれが事情を抱えた選手たち。秘められた思惑。そして存続が危ぶまれるレース。ジャンルにすれば本格ミステリよりも冒険小説に近い様相を呈しています。もちろんのこと、レース描写は丹念で、迫力はバッチリ。ひとりひとりのキャラに個性があるだけに、より一層レースのハラハラ感が伝わってくるのだと思います。読んでるこちらにまで疲労が沁みてくるような、苛酷を極める走行。熱くなって当然の筋立てです。

 人間関係が絡み合うせいもあって分量が膨れ上がり、原稿用紙換算で1000枚ほどになっていますが、さすがに膨れすぎという気がしないでもない。謎を追及するパートが頻繁に出てくるせいでレースに向かう集中力が削げる部分もあり、もっとミステリ色を切り詰めてレースへ専念できる構成にしてほしかったというのが個人的な要望。けれどクライマックスの熱狂ぶりは尋常じゃなかったし、「大規模な自転車レース」ってところに興味を惹かれたなら読んで損はない長編だと思います。キャラクターはやっぱり響木が好きですね。即席のチームを通じて徐々に友情めいた連帯感が生じていくあたりはツボでした。

・拍手レス。

 らくえんフルボイス+おまけ付き発表!…さて、『夏予定』は秋か冬か。
 2008年あたりの夏だったりして。

 あやかしびと新ヒロインは逢難でCVは朴さんだそうで、どうなるのか楽しみですね。
 まさかの大穴が来ましたね。戸惑いもちょっとありますが、ひとまず続報待ち。

 http://www.gindokei.jp/otaku/index.html
 「ぜんいん☆ビョーキ!!」が好きです。

 修羅場スレのSS読みました〜。かなりよかったです。 次の紹介もコッソリ期待してますw
 「合鍵」、「優柔」、「不義理チョコ」あたりもオススメ。正に「ぜんいん☆ビョーキ!!」の世界。

 こないだ雑誌で虚淵氏の新作進めているとでじたろう氏が言ってました。待ってた!待ってたよ!
 熱望。


2006-05-06.

・連休明けの方が規則正しい生活で、逆に元気になっている焼津です、こんばんは。もう長期休暇が体に馴染まなくなってきた……。

LOST SCRIPTの『蠅声の王』、プレー開始。

 購入から少し経ってしまいましたが、どうにか手をつける目処が立ちました。かつてアボガドパワーズでシナリオライターとして活動し、雑誌“PC Angel”において連載コラム「北の国から」を執筆していた大槻涼樹。もはや「懐かしい」とさえ言える彼の名前が復活します。ゲストデザイナーには虚淵玄。「本業はどうした」と問い詰めたくなるものの、素直に喜ぶこととしましょう。

 赤道直下、軌道エレベーターの建造された南米へやってきた主人公たち。かつては吸血鬼たちの支配下にあったこの地だが、奴らはとうに駆逐された──はずだった。寂れた廃村を棲家にして、当地の再支配を試みる奴らの目的とは何か……。吸血鬼や喰屍鬼といった異存在を排除する特殊機関に所属している主人公たちが、吸血鬼の「城」に潜入して秘密を探る。もちろん、途中で吸血鬼や喰屍鬼との戦闘もあり。エログロもあり。いっそわざとらしいぐらいに古臭い雰囲気が香るストーリーです。語り口もゲームブック調。設定はいささか衒学的とも思えるほどのこだわりを見せ、より一層胡散臭い伝奇のムードを盛り上げているのがたまりません。

 タイトル画面がファミコンを彷彿させるシンプルさで思わず笑いましたが、本編でもあのフォントが続くのはちょっと……見辛いし、ルビが潰れてほとんど読めないこともあります。あとメッセージスピードも、もっと細かく調節させてほしかった。システム面での不満は主にこの二点。あとはだいたい良かったです。プレーする前は「デジタライズド・ゲームブック」という、わざわざコンピューターゲームでゲームブックを再現する試みに戸惑いを感じていましたが、いざやってみるとゲームには変わりないんですんなり馴染めますね。数値の管理を全部こっちでやらなくちゃいけないのが面倒にしても、予想していたほど煩雑じゃありませんでした。マップが左下に表示されるのは地味ながらなにげに良い。

 キャラクターに声が付いていないせいか会話のテンポにいまひとつ乗れないけど、戦闘時や緊急時にダイスを振って出目で展開を決めるのはワクワクします。その気になればいくらでもズルできる場面で、あえて愚直にやるのが楽しいというか。これがもし強制的にダイス振らされて否応なく負けさせられたりするのであれば、多少は苛ついていたと思います。話の方はまださして進んでおりませんので特に感想はなく。これからチマチマ読んでこうかと。現時点ではカザトとウルリーカ様に(*´Д`)ハァハァ。

・山田正紀の『早春賦』読了。

 江戸時代初期の八王子郷を舞台にした青春時代劇。方言で刻まれる会話文が目に楽しい。デビュー時はSF作家、90年代頃からミステリ作家としての印象が強くなった著者ですが、硬質な文体を武器にしてジャンルに囚われない活躍をしており、こういう作品を出してもおかしくないところはあります。

 風一、林牙、火蔵、山坊──武田家の遺臣が暮らす村にあって彼らの名前は特段珍しいものでもなかったが、「風林火山」の4人が揃って力いっぱいに遊んだ幼少期は掛け替えのない思い出になっていた。大久保長安の死を契機に、徳川家へ完全なる恭順を示すか、徹底抗戦を試みるかで割れた八王子郷。千人同心の小人頭衆と石見屋敷の陣衆は刃を交え、同士討ちを始める。火蔵の弟・火拾に父親を斬殺され、幼き日の友と戦うことになった風一の胸を去来するのは、決して寂しさや虚しさばかりではなかった……。

 普段は土地にしがみつく百姓として暮らし、有事のときに武具を取る半農半士の郷士。武田家に仕える侍だったという誇りが忘れられぬ父親と違い、「士」としての意識が薄い風一。合戦の経験もない彼が否応なく殺し合いの渦中に立たされていきます。と書くと何やらハードでサスペンスでバイオレンスな感じがしますけど、あくまで「青春時代劇」の延長線上としてチャンバラが繰り広げられるのであって、そんなに暗くて殺伐とした話ではありません。むしろまっすぐな成長小説としての様相が濃い。しんみりしてしまいそうな場面でもあえて前向きな雰囲気を漂わせながら進めており、タイトルに相応しい明るさと温かさが全編を包んでいます。「解死人」という、あらかじめ村の犠牲になって死ぬことを目的として養育された、一種のスケープゴートである林牙すらも運命に屈することなく立ち向かっていく姿が壮絶であり、ただのダークヒーロー的な魅力に終わらないものを発散する。

 アクションが主体じゃないからといって、そこで手を抜く著者でもなく、当たり前のように殺陣が素晴らしかった。道化を装っていた萩原が得体の知れぬものを覗かせ、手槍を持ちながら「手向かい許す。かなわぬまでも存分に戦って果ててはどうか」と迫ってくる中盤付近、呑気に会話を交わしているようでいて独特の緊張感をピンと張っています。スーパー忍術とかスーパー剣術とかが飛び出したりしない至って地味なチャンバラ劇ですけれど、少なくとも退屈はさせられません。太刀筋の一つ一つが鋭い。手に汗握りました。硬質でいてねちっこい正紀語り、まさかこれほど時代小説の形式に馴染むとは。期待はしていましたが、それでもちょっと予想外なくらいでした。

 結末はなんというか、「主人公たちが出てこないシーンは関係ねーじゃん」とばかりにバッサリ端折っているところもあり、かなり呆気なく淡々と迎えるため、物足りなさがあります。しかし分量を考えればよくまとまっていると思いますし、熱い見所も少なくありません。「小粒ながら」ということわりを入れた上でなら良作として推せる一冊です。


2006-05-04.

・惰眠を貪る→起きる→本を読む→本を整理する→本を買いに行く。概ね五過程で終わる休日を飽くことなく続けている焼津です、こんばんは。積読が溜まっているから買いに行く必要はないんですが、どうも時間が有り余っているとつい。もはや購買行動が精神安定に欠かせない要件となりつつあります。買い物依存症という奴ですか。

 最近は急速に時代小説・歴史小説への関心が高まったせいもあって、今まで本屋で無視していた作家や作品に目を向け直す時期に来ており、それが原因で購入冊数が増える傾向に陥っています。ただ、反面で「買うものを厳選する喜び」にも目覚め、「ああ、これもついでに買っとくか」みたいなついで買いが減り、買い物行為自体の満足度は上昇。惰性で買っていたシリーズも切り、無闇矢鱈に新人の作品を漁るのもやめて、「買ったけど読む気がしない」という惨状だけは避けています。だからって現況が良いかと言えばそうでもなく、積んでる本はすべて「読みたい」と思うものばかりなのに体は一つ、どれから手をつければいいのか大いに迷う仕儀。書痴の病は深し。

・宮本昌孝の『剣豪将軍義輝(上・中・下)』読了。

 本屋の平台で見掛けた最新刊『風魔』が気になって注目を始めた作家ですけど、ネットで検索して探し当てた紹介文を読むかぎりではなんだかこっちの方が面白そうだったので、『風魔』を後回しにしてこれから着手してみました。すると、速攻でハマりましたとさ。読みやすい文体もさることながら、全編に篭められた並々ならぬ気迫に圧倒されてしまった。『シグルイ』『刃鳴散らす』の影響で剣豪モノに興味を覚え、佐藤賢一作品で歴史のロマンとそこに生きる人々の姿に魅了され、隆慶一郎と藤沢周平で時代小説の豊穣に目が向きつつあった当方が、遂にこれに辿り着いた……という感慨さえ得た次第。

 足利十三代将軍、義輝──三十に満たぬ若さで夭折した彼は、塚原卜伝の教えを受けた剣豪将軍であった。内実空虚の足利家で燻ることを潔しとせず、乱世を終わらせるために尽力した生涯。数々の武将に知己を得て駆け抜けた青春の日々が、全3巻、総計1200ページに渡って描かれています。斎藤道三、織田信長、武田信玄、上杉謙信、明智光秀、徳川家康など、日本史に疎い当方でも見覚えのある名前がズラリと登場して実に絢爛豪華。1000ページを超える分量でありながら息切れの覗く部分が少しもありません。20年弱の期間を以って描かれるストーリーは変幻自在にして骨太。凛とした佇まいでいて堅苦しさがない。すこぶる付きのエンターテインメントです。

 時代小説だけに言い回しも時代掛かっていて、たまに大仰にも映るところが散見されますが、会話文やそれに伴う所作の描写は砕けていたりコミカルだったりで、かなり読みやすい。もちろん、いざ決闘や合戦となれば痛いくらいに引き締まって熱い血潮の感触を浴びせてくる。侍たちの剣戟ばかりでなく忍者の術比べも矢継ぎ早に繰り広げられます。デビュー作ではないにしても、本格的な時代小説を初めて手掛けておいてコレとは、なかなかに信じがたい。少年期がメインとなる上巻は瑞々しい年頃のきらめくような世界が心地良くて没入。諸国漫遊を経て塚原卜伝の元へ辿り着く中巻は更なる世界の広がりを感じさせられて忘我。そして己の運命に真っ向から対峙して逃げることをしない凛々しさが胸に熱い下巻で一気に畳み掛けられるや、当然の如く夢中になってしまいました。長さが苦にならないのは文体の良さもさることながら、ひとえに惜しみなくエピソードを投げ込んでくる密度にあります。一つの話が無用に長引くことはありませんし、それどころかまだ消費期限の残っているネタさえバッサリと捨てて「次! はい! 次!」と新鮮な具材をどんどん持ってくる大盤振る舞いの豪儀さがたまらない。極上のストーリーテラーが本気を出すとここまで面白くなる、その具体例だと言っても差し支えありません。

 これだけの長さでダレることなしに、しかも尻切れで終わったりせず過不足ゼロにて終幕する本作はまっこと「傑作」の二文字に値する小説かと。最近はヤンマガの『センゴク』も面白くなってきたし、この頃(16世紀)を舞台にした作品をますます目にしたくなりました。とりあえず、「義輝異聞」と題された同作者の『将軍の星』や、出番はさほど多くない割に強烈な印象を残した斎藤道三がメインの『ふたり道三』あたりを読んでみようと思います。時代小説とか歴史小説とか、中高生の頃は世界史や日本史に苦手意識があったせいで敬遠していましたけど、いざ読み出してみると滅法面白いですね。なんか新たな鉱脈を発見した気分です。

『蠅声の王』はインストールだけ済ませました。明日からプレーに入ります。


2006-05-02.

・連休の皺寄せか、昨日と今日は死ぬほどくたびれた焼津です、こんばんは。これでやっと連中にありつける。ひゃっほう。また皺寄せが来そうな土曜あたりはなるべく考えない方針で。

・今月の購入予定をピックアップ。

(本)

 『制覇するフィロソフィア』/定金伸治(集英社)
 『七王国の玉座1』/ジョージ・R・R・マーティン(早川書房)
 『デトロイト・メタル・シティ(1)』/若杉公徳(白泉社)
 『かたつむりちゃん(1)』/今井神(芳文社)
 『ジョン・ランプリエールの辞書(上・下)』/ローレンス・ノーフォーク(東京創元社)

 先月から緊縮策を打ち出してみましたが結局購入冊数は一割しか減らなくて本当に緊縮したのかどうか疑わしい状況の中、上記の5作に注目。『制覇するフィロソフィア』は『ジハード』や『Kishin−姫神−』を書いた定金伸治の新作。結構久々。「やや地味だけどしっかりとした良作を書く」っていう、電撃で当てはめると渡瀬草一郎あたりに相当する作家ゆえ、危なげなしに期待してます。『七王国の玉座1』はハードカバーで出ていた海外ファンタジーの文庫版。上下巻が全5巻に。大ファンなので当然の如く文庫版も買うつもりです、はい。『デトロイト・メタル・シティ』はやたらと評判を聞くので物は試しに挑んでみます。実物見たことないんで絵柄は知りませぬ。『かたつむりちゃん』は『ニードレス』の作者による4コママンガ。路線は違うみたいですが、普通にギャグがおもろいマンガ家なんで心配ないかと。『ジョン・ランプリエールの辞書』は待望の文庫化。ハードカバーは5000円(税抜)もするんでさすがに買いかねていました。まあ、文庫も上下で2000円超えますけど。あと電撃の新刊も6冊くらい買うつもり。……緊縮の二文字はどこへ行った。

(ゲーム)

 『機神飛翔デモンベイン』(ニトロプラス)

 最近はゲームへの関心が目減りしてきました。エロゲー板もここのところ覗いてませんし。葱板は見てますが。機神飛翔はノベルパート目当てなので、アクション部分は半ば捨てるつもりで。動くなら越したことはないなぁ、と未練を残しつつ。

・拍手レス。

 PS2あやかしびと、刀子さんルートってどうするんですかねぇ?子会長の運命や、如何に!
 薫ルートも根本的な書き直しが必要になりそう。自然、追加エピソードが増えることになるかと。

 修羅場スレで現在修羅場進行中の"沃野"も面白いですよ
 修羅場まとめサイト、今は沃野がオススメです。是非に!

 奇しくも同じコメントが二つ。「沃野」は次の回で完結ですね。


>>back