2006年4月分


・本
 『ソラにウサギがのぼるころ』/平坂読(メディアファクトリー)
 『ブロッケンブラッド』/塩野干支郎次(少年画報社)
 『狙うて候』/東郷隆(実業之日本社)
 『ナポレオン(2〜5)』/長谷川哲也(少年画報社)
 『サイレント・ジョー』/T.ジェファーソン・パーカー(早川書房)
 『棺担ぎのクロ。(1)』/きゆづきさとこ(芳文社)
 『無頼の掟』/ジェイムズ・カルロス・ブレイク(文藝春秋)
 『ゆりかごで眠れ』/垣根涼介(中央公論新社)
 『シグルイ(6)』/山口貴由(秋田書店)
 『犬はどこだ』/米澤穂信(東京創元社)
 『射G英雄伝(1〜5)』/金庸(徳間書店)
 『暗礁』/黒川博行(幻冬舎)

・ゲーム
 『男土下座地獄』(半端マニアソフト)


2006-04-30.

・深夜、修羅場まとめサイトにて「妹(わたし)は実兄(あなた)を愛してる」を一気読みした焼津です、こんばんは。「そのうちまとめて目を通そう」と思いつつなかなか読み出せないでいたSSですけど、いやあ、これがまたアタリでしたわ。実妹たる楓が「かまえorDIE!」な依存っ娘で犯罪的に可愛すぎる。こう、精神の糸がプツッと切れてる方面で。そのうえ、

 これからの私は。
 ただ一人の男性を篭絡するためだけに。
 駆動する。

 と宣言するライバル樹里の存在感もくっきりしていて惹き込まれます。文章もかなり好み。修羅場とは関係ない外伝も、楓の人格形成に触れられていて味わい深い。欲を言えば、「楓と樹里が友人」という設定を補強するエピソードがほしかったところ。しかし、二章構成でたっぷり読ませてくれる内容は是非ともオススメいたしたく。個人的に第二章の五話から八話に掛けての展開は、ドキドキワクワクのゲージが振り切れるかと思いました。

判決文に暗号が

 訴訟沙汰になっていたのは知っていましたけど、何やってるんですか裁判官。笑いました。

・黒川博行の『暗礁』読了。

「桑原さんはゴルフせんのですか」
「あんなもんはおまえ、与太者の遊びや。とまってる球を打つより、動いてる人間をしばき倒すほうがおもろいやんけ」

 再びあの凸凹コンビが帰ってきました。『疫病神』『国境』に続く“疫病神”シリーズ第3弾。本人は堅気だけど親父がヤクザだったせいで自然とヤクザ相手に商売をすることになった建設コンサルタントの二宮、今時珍しいイケイケ武闘派のヤクザである桑原。彼らは互いに「桑原さん、あんたは疫病神や」「二宮くん、そらおまえやろ」と険悪な挨拶を交わすぐらい嫌い抜いていて、しょっちゃうムカっ腹を立て合うのだけれど、毎回なし崩しで一緒に仕事をするハメになる。二宮が調子に乗って生意気な口を利き、桑原が脅して黙らせる、言わばボケとツッコミのような関係が絶妙で楽しい。会話のテンポも最高。

 発端は、大手運送会社による現職警官への接待麻雀をターゲットにしたケチなシノギだった。桑原の紹介で員数合わせとして参加した二宮は、打ち合わせ通り雀荘の店員とイカサマをして200万の大勝。取り分として60万を懐に収め、満足した矢先、賭け麻雀を嗅ぎつけた刑事たちが訪ねてくる。やがて、麻雀をセッティングした運送会社の背後にキナ臭い裏金が潜んでいることを知った桑原が、成功すれば億単位のでかい儲け話を持ち込む。二宮に拒否権はなく、あれよあれよという間に泥沼にハマっていき……。

 産廃処分場、北朝鮮、と来て今回は癒着して腐敗しまくりな警察と運送会社の裏金が俎上にのぼる。結構分量があって、2作目の『国境』とだいたい同じか、やや少ない程度。あっちは文庫で800ページ超えていましたし、かなりの読み応えがあります。癒着や裏金といった事情を説明するため費やされる前半は展開が遅く、なかなかエンジンが掛からなかったものの、主人公が罠にハメられたあたりから俄然盛り上がってくる。命の危険に晒された二宮は桑原に泣きつき、縋られた桑原は二宮を見棄てたいと思いながらも、裏金をぶん奪るためには彼を利用しなくてはならないと計算して渋々助けるの○太とドラ○もんじみた構図。主人公は粗暴で短気な桑原を恐れているけど、いざヤクザが来襲してくるとすかさず桑原の背中に隠れて盾にする習性が身についているものだからイイ根性してます。義侠も友情もへったくれもない、しかしなぜか金の縁だけは切れないという、ふたりの不思議な腐れ縁。笑えてくる。

 途中舞台が本土から離れる場面があったりと、中だるみしてきそうなところで急展開を迎える仕組みになっていて、一旦流れに乗れば最後まで飽きずに読み切れます。冷静に考えてみると舞台変更の過程がちょっと強引だし、そこでの話も引っ張りすぎな気もしますが、読んでる間は楽しいので問題なしかと。「喧嘩の星の王子さま」と揶揄されるだけあって桑原が巻くゴロは素敵。淡々とした文体でシャープなバイオレンス描写を行い、コメディにもシリアスにも傾かず飄々としたノリを保てるのはすごいなぁ。やっぱり好きなシリーズです。ごちゃごちゃぬかす愉快さと問答無用で行く痛快さを余すことなく披露してくれる抜群のエンターテインメント。ヤクザ絡みの犯罪小説で、ヤクザがちゃんと怖いのに、終始徹底して明るい妙な雰囲気が却ってツボ。


2006-04-28.

・連休はまだか。こんばんは、まだしばらく仕事が忙しい焼津です。『蠅声の王』もせっかく届いたのにプレーする暇がなかなか。こんなの、時間があれば崩せるのに……くやしい……! というかさっさと開封しないと。

・最近は金庸の『射G英雄伝』全5巻を読んだりしました。

 時代は宋とか金とかジンギスカーンとか、あのあたり。長い割に展開が目まぐるしく、ドタバタコメディみたいな慌しいノリがほとんど最初から最後まで続きます。とにかく出てくるキャラの誰もがせっかちで感情的、本来戦う理由もないのに「貴様がやったのか!」「てめえの仕業だな!」とあっさり勘違いしては拳を向け合う。ちょっと目まぐるし過ぎる気もしましたけど、いい意味で長さを感じさせない話でした。2巻のラストから出てくる「老頑童」こと周伯通の存在感は特に強烈。口を開けばすかさずしゃべくりモードに突入し、あれよあれよという間に興味を引きつけてしまう。危うくこいつの方が主人公だと思いそうになったこともありました。モノホンの主人公たる郭靖は「愚鈍な少年」という役どころで、ワトソンよりもひと回り鈍い。「城壁のように鈍く、牛のようにのろい」を地で行くキャラ。その分あんまりストーリーに悲愴感が湧かず、結構な登場人物がゴロゴロと死ぬくせに明るく爽やかなまま希望を残して終わったし、却って好感が持てましたね。ヒロインの黄蓉も賢しらでいて一途な少女、「割れ鍋に綴じ蓋」って言葉がしっくり来る心憎いカップルになっており、存分に和んだ次第。5巻目が終わってもまだ話が続きそうな雰囲気を漂わせているのは、実際『神G剣侠』という続編があるからだろうか。そちらもいずれ読もうと思います。

・生存報告ついでに拍手レス。

 いまさらあやかしびとやってここに流れつきましたよ。刀子さんハァハァ!!
 刀子さんは戯れの出来ぬ女。だがそれがいい。

 あやかしびとPS2移植決定だそうですね。
 オリジナルヒロインというのは既存のサブキャラが攻略対象になるのか、まったく新しい子が出てくるのか。気になりますね。


2006-04-25.

・いつの間にか30万ヒット。ありがとうございます、焼津です。こんばんは。カウンターが回るのと同じく積読も増えていく一方。一度作家やシリーズにハマると、読む目処が立たなくてもひとまず揃えておこうとセットで購入してしまうのが原因のひとつ。「こいつの全著作を買ってやりたいんですが構いませんねッ!」みたいな。「揃えよう」「集めよう」とする心理を克服しなければどうにもなりそうにありません。

 オタクにしろ書痴にしろ、コレクター欲さえ疼かせなければもっと心穏やかに過ごせそうな気がするなぁ。

第19回山本周五郎賞候補作(Mystery Laboratory)

 読んでるのは福井のだけです。伊坂のも評判がいいみたいですし、そろそろ崩し頃か。

・米澤穂信の『犬はどこだ』読了。

 6冊目の著書。このミスで8位にランクインと結構な高評価を受けています。紺屋長一郎を主人公にしたシリーズの第1弾であり、職業的な探偵が出てくる話としてはこれが初めて。犬捜し専門の調査会社を開いたはずが、なぜか依頼第一号は失踪人捜し。続いて舞い込んだのが古文書の来歴調査。それこそ「犬捜しはどこに行ったよ」な感じでストーリーを展開していく。まさかタイトルが犬の居場所を探し回るイメージではなく、そもそも捜すべき犬が出てこないことの暗示だとは。逆説というか、メタというか。

 失意のうちに東京を去り、郷里で犬捜しを始めたはずの私は失踪人を捜すことになった。私と同じく東京で働いていた佐久良桐子。彼女は突然仕事を辞め、両親とも祖父母とも連絡を断ち、現在行方不明になっているという。本人の意志で姿を消したものと思われるが詳しいことは分からない。断ろうかとも考えた依頼だが結局受けることにした。その後、古文書の調査も依頼されるがそっちは急遽雇った高校時代の後輩に任せた。「どうせなら犬捜しの方がいいなあ」と内心愚痴りながらも捜査を続けるうち、彼女が失踪した理由が見えてくるが……。

 やる気のない探偵と、探偵に憧れる後輩。他にも口の悪い妹なんかが出てきて、キャラクター配置に関しては抜かりありません。ハードボイルドタッチとはいえ過度に気取ったところはなく、適度にウィットとユーモアが利いていてくすりと笑わされる場面がいくつかあった。ハードボイルド自体あまり読み込んでいないジャンルですが、国内作品は海外のそれに比べてどうも野暮ったく、板についていない傾向が強いって印象が濃厚です。この作品も野暮ったいと言えば野暮ったいところもありますけど、むしろ逆手にとって雰囲気に馴染ませているような具合で、巧いし面白い。文章のテンポが絶妙ですいすいと読めました。

 「失踪人捜し」という題材そのものは手垢についたもので……というか、この説明自体が他の作品でも何度かやっているくらいで、わざわざことわるのも面倒なほど。取っ掛かりとしての目新しさは、主人公がまだ仕事を始めたばかりだということ、本当は犬捜しの方をしたがっていることの二点くらいで、つまりはそう珍しくもない出だしです。しかし、上にも述べた古文書を始めとした一見本筋とは関係のなさそうな要素がだんだんと結びついて流れをつくっていくあたりは読み応えが充分。失踪人捜しに食傷している人でも興味を惹かれると思います。雑学知識やネタもふんだんに盛り込まれていて飽きさせません。かなり練られています。砕けた筆致も雰囲気を壊していないし、本当、隅々まで楽しめた。

 畳み掛けるような後半に呑まれて深夜に一気読みを余儀なくされましたが、睡眠時間の削減を上回る満足感が得られて素直に「いい本読んだ!」と思えた次第。米澤の過去作品が好きなだけに今回も鉄板だろうと予想していましたが、正直言ってここまでやってくれるとは期待していなかった。もっと単純なハートウォーミング系ミステリかと思いきや、さすが『さよなら妖精』の作者。半端は許さない。キャラクターに関しては主人公コンビが可愛らしい『春期限定いちごタルト事件』の方が好みではあるものの、一冊の本としてはこれまで読んだ米澤作品の中で掛け値なしにトップと言い張ってみたり。是非オススメしたい。

・拍手レス。

 最後のクラス写真、SFM掲載紙で保持してます。…そうか、処分時かしら(本の山
 あと、web私立桃夭学園掲示板は、Oβ開始1週間後のTMO張りに敷居高いです…とほほ

 本を処分できないのは書痴の基本的性質……桃夭学園の連絡帳は系統立った情報を入手するのが困難という面も作用してる気が。

 シグルイ六巻、虎眼先生が本当に怪物に転生したかと思ったですよ。(sf)
 濃尾三天狗(のうち二人)が斬殺された以降の展開は悪夢を見ている気分でした。「こ、こは時代劇にあらず」


2006-04-23.

『魔法少女忌譚修』、一年ぶりに更新されたということをトップニュースで伝えてみる焼津です、こんばんは。待ちに待った第9話。実に1年ぶりとなります。↑のリンクも半ば飾りになっていましたけど、久々に書き換えることができて嬉しい。

 未読の方や既読だけど内容がうろ覚えになっている方は、まとめサイトもありますのでそちらを覗かれると効率的に読むことができます。

田中ロミオの新作『おたく☆まっしぐら』ホームページ公開

 今回は監修じゃなくてじかにシナリオ書いているんだろうか? それにしても仕事を選ばないライターだなぁ。オタクものとか秋葉原ものはエロゲーでも何本かありますし、題材自体は珍しくない。ストーリーで「エウリアン」とか書いてるのは少し笑ったけど。オクルトゥムまでまだまだ間がありそうだから繋ぎとして買ってしまうかもしれません。

『シグルイ(6)』、読み申した。堪能。大まかな展開は既に聞き知っていましたけど、実際読んでみると段違いのすごさだなぁ。「マジンガー虎眼」と言わんばかりの暴虐ぶり。剣戟描写も冴え渡る一方で、いま正に脂の乗っているマンガです。あっという間に読み終えてしまったのでもう一度頭から読み直して再度堪能。本を閉じた後は思わずボーッと呆けていた次第。そろそろ次巻から御前試合へ向けて動き出すみたいだけど、この分ではまだ決着しないでしょうね。もう少し藤木や伊良子と付き合えそうだ。


2006-04-20.

・ぱじゃまソフトの『プリンセスうぃっちぃず スーパーアペンドCD』、届きまして候。読書が一段落し次第取り掛かる予定の焼津です、こんばんは。こういう届いてもすぐに開けようとしない、悪い意味で泰然とした態度が積みの弊害を生むんだろうなぁ……。

・垣根涼介の『ゆりかごで眠れ』読了。

 このミスの隠し玉とかで告知していたときのタイトルは『黄金の藁で眠る子ども』とかそんなのだった気がするけど、いつの間にか改題していた様子。原稿用紙900枚。『ワイルド・ソウル』以来、久々に「力作」って表情のある長編です。『ワイルド・ソウル』までは上がり調子なのに、それ以降は下がり調子というか、『君たちに明日はない』みたいにちょっと趣を異にした作品があったとしても、初期三作で惚れた一読者としてはなんとなく煮え切らない微妙な状態で不安視していた作家なだけに結構切実な期待を掛けて読みました。

 愛は十倍に、憎しみは百倍にして返せばいい──コロンビア、アンティオキア州に伝わる古い歌。それがリキたちネオ・カルテルの鉄則だった。味方は決して見棄てないが、裏切り者は一族郎党ひとり残らず容赦なしに殺す。徹底した掟をもとに拡大したリキの非合法組織。しかし、カルテルで別の組織をまとめるボスが彼の足を引っ張ろうと、部下である殺し屋・パパリトを警察に売った。速やかに為さねばならないのは、報復と救出。かくして日系コロンビア・マフィアのリキ・コバヤシは計画を練るが……。

 貧民街で拾った元乞食の少女・カーサ、日本で出会った元刑事の妙子、ふたりの女性キャラクターも交えて展開するストーリーは、クライム・ノヴェルのくせしてやたらと爽やか。ラティーノのノリという奴でしょうか。そのため同じ犯罪サスペンスであっても『ヒートアイランド』のような緊迫感は欠いており、「クライム・ノヴェル」を期待して読むと肩透かしかも。マフィアの構成員が概ね陽気で、残酷ではあるにせよ変に憎めないキャラたちばっかり。主人公のリキも非情で「どんなことがあっても涙を流さない」性格をしているものの、六歳のカーサと遣り取りするコミュニケーションは微笑ましく、普通に和んでしまう。妙子が出てきたあたりからカーサの存在感が霞み始めるのは残念だったかな。

 リキの過去が徐々に明かされていくあたりが内容・構成ともに抜群で引き込まれた。コロンビアというと、イメージとしては「コーヒー」「麻薬カルテル」「誘拐ビジネス」って感じでなんだか殺伐たる国と思っておりましたけど、その歴史も含めて語っていってくれるため分かりやすく且つ興味深い。しかし、本筋の方は後半に入ってようやく救出作戦が動き出すくらいで、かなりスローペース。もっとスケールが拡大していってリキやカーサもだんだんと歳を取るような壮大さを期待していた分、こぢんまりとしたクライマックスで拍子抜けって気もします。しかし、ようやく垣根涼介が孕んでいた「熱」が戻ってきたところもあって、待ちに待った復活の兆しも見出せる。過去作を上回る、とまで感激しなかったにしても、もうしばらくは彼の作品を読み続けてみようと心を固めた次第。

 やはりカーサのキャラクターが良かったです。それだけに、もっと彼女が活きてくる場面が欲しかったなぁ。


2006-04-17.

・こんばんは、web私立桃夭学園には不登校気味の焼津です。というより、全体像が把握できないせいかBBSに書き込むことに気後れしている次第。「桃夭学園どきどき日誌」が始まるまでは様子見を続けようかと。

半端マニアソフトの『男土下座地獄』

 某所でタイトルを見かけて心惹かれ、脊髄反射的にプレー開始。「大阪番長」なる超獣じみた益荒男に「命惜しくば土下座しろ」と迫られるところからゲームは幕を上げる。大阪番長に妹をレイプされ、親友の目玉を抉り取られた主人公は膝を屈する気がしない。だが力の差は歴然としている。ここは憎悪と屈辱を肚に呑んで土下座すべきか? 激しい葛藤──極限状況における選択を、勢いとデタラメなセンスだけで描き切った怪作。

 割と小品で、総当り的に選択肢を取っていけば10分そこらで終わります。時間は掛かりませんので気になったら迷うことなくサッサとプレーするが吉。いきなり土下座を命令される場面から始まり、経緯がまったく不明なままストーリーが進んでいくため「極限状況」ってムードはあまりないんですけれど、男臭い不条理低級ギャグ……言わば『家政婦が黙殺』の「中坊ですよ」系テンポが無駄に迫力溢れるCGと緊密な文章で綴られていて楽しい。前後の脈略を完膚なく破壊しておきながら「意味不明」や「支離滅裂」に陥らないギリギリのシュール・ギャグ。どれぐらいギリギリかと言えば、崖から転落して地面に叩きつけられるコンマ一秒前くらいのギリギリ感。

 神奈川番長のエロ妄想が特に秀逸。「憎しみは憎しみしか生まない」に反論する件は素で感心した。あとバッドエンド時に大阪番長自らヒントを喋り、そのほとんどがヒントになっていない仕組みは心憎い。

・ジェイムズ・カルロス・ブレイクの『無頼の掟』読了。

 著者にとっては7冊目、邦訳としては1冊目の本。原題"A World of Tieves"。1920年代、禁酒法時代のアメリカを舞台にしたクライム・ノヴェルです。根っからのアウトロー気質である二卵性双生児の叔父・バックとラッセルに共鳴し、自らも犯罪者の道を進む青年が主人公。高学歴だし、望めば政府や法曹など真っ当に荒稼ぎできる「表世界の強盗」にもなれたのに、あくまで銃声と血と暴力に彩られた「裏世界の強盗」を志願するノートゥモローぶりが却って清々しい。クライム・ノヴェルなのに全体の色調は明るめで、殺伐とした展開があっても重くなりません。賭博で「いかさまをしている」と難癖をつけられ、相手がカミソリを振り回してきたというシーンの描写も、

 ラッセルが左手でよけると、ざくっ。小指が消えた。そしてまたざくっ。隣の薬指も第二関節からなくなった。そこでラッセルは小型の拳銃を引き抜いて、そいつの心臓に一発見舞った。
(中略)「とんでもないな。そいつを殺したのか?」
「どうしろってんだよ、ロニー?」とラッセルは言った。「肘まで切り刻ませるのか?」

 まるで小噺でもしているかのようなノリ。もう一人のバックにしたってかなり凄惨な目に遭っているんですが、それでも彼らは因果な商売を決してやめようとしない。感化された主人公も、ルイジアナで運悪く逮捕され、更に運悪くうっかり警官を殴殺してしまい、「脱獄不可能」と謳われる広大無辺なアンゴラ刑務所へぶち込まれてしまう。環境は超劣悪。もちろん主人公は脱獄を図って駆け出すわけで、身一つと叔父から叩き込まれた悪党の知恵を手本にして状況打破を試みる。この「悪党的な打破」が全編に渡って徹底されており、主人公たちは結構えぐい真似しています。とはいえ彼らも「これ以上あとに退いたら悪党ですらなくなる」という最低限のラインを弁えていて、おかしな話ですが、切羽詰ったときほど律儀な行動を取る。その瞬間の人情味と滑稽味を引き出そうと練られた文章がまことに気持ちいい。「旅と青春と家族」っていうテーマと「派手な銃撃戦」が見事に両立しています。

 しかし、疾走感溢れる脱獄シーンに比べると、その後のロードムービー的展開はいささか間延びして牧歌的に見えすぎるきらいがあった。主人公が殺してしまった警官の父親ジョン・ボームズがひたひたと迫ってくる断章など、緊張を削がないための工夫も凝らされているのですが、そのせいでむしろ余計に主人公パートの散漫さが目立った気も。散漫だからこそ、道中で拾った娘ベルとのロマンスが絡んでくる余地もあるわけで、決して悪いわけではありません。

 そしてクライマックスが良かった。高潔とも言える決意を胸に秘めて修羅の渦中へ進む姿は悪党云々を超えてただひたすらに凛々しい。ラストはほんの数ページで締め括られていて、物凄く短いのに異常なくらい研ぎ澄まされた緊迫感がある。文句なしの幕切れ。邦訳第2弾の『荒ぶる血』も書店に並んでる頃だろうし、そっちも早く確保しておきたいものだ。


2006-04-15.

・「最後のクラス写真」(ダン・シモンズ/『夜更けのエントロピー』所収)を読んで涙目になった焼津です、こんばんは。冒頭の掴みからして巧みで、一気に読まされた。

 ギース先生は新しい生徒が一年生の運動場を横切ってくるのを、学校の古い校舎の鐘楼という見晴らしのいい場所から見ていた。レミントン三○−○六の銃口を下げ、子供の姿を照準器の十字線の中心にとらえる。早朝の光の中に、その姿がくっきりと浮かび上がった。

 いきなりこれですよ。読むのをやめられるわけがありません。ジャンルとしてはリビングデッドもので、終始淡々と物悲しく乾いた筆致で綴っており、異様なストーリーがごく日常的な風景として目に浮かんでくる。緊迫感たっぷりの場面もあります。そして迎えるラストシーン。グッと来ました。この作品を「泣けるよ!」と言って薦めたら人格を疑われてしまいそうですが、久々にリビングデッド小説のアタリを発見してホクホク気分。同短編集の表題作「夜更けのエントロピー」も良かった。

・拍手レス。

 東郷隆の冒険小説・・・定吉七番?
 角川文庫版と講談社文庫版がありましたね。

 蠅声の錬金術師は0ヒットでした(原型を留めてない
 「ハバネロ錬金術師」が300件くらいヒットしてビビりました。

 魔法少女忌譚修再開しますよー。
 久々に使います→ キタ━━(゚∀゚)━━!!

・きゆづきさとこの『棺担ぎのクロ。(1)』読了。

 ストーリー色の強い4コママンガ。ファンタジー世界を舞台にしたロードムービーということで最初は『キノの旅』を連想したり。とはいえ奇天烈な国は出てこないし、特に寓意やオチもないまま話が進んでいくので、スタイルは違いますね。なぜかいつも棺を担いでいて、喋る蝙蝠と一緒に旅を続けている謎多き主人公と、途中で出会う猫耳猫尻尾の双子幼女が、行く先々の町でのんびりと過ごしながら交流・衝突・進展を繰り返す、「人間関係」に重きを置いたストーリー。ほのぼのとしたコメディはあっても派手なギャグや派手な冒険はなく、いっそストイックなくらいに落ち着いている。

 「ファンタジー世界」という曖昧なイメージをいとも容易く伝えてくるほど作画のレベルが高い。パラパラとめくって絵を眺めるだけでも雰囲気に浸れます。だからって「雰囲気マンガ」という枠に収まるわけではありません。双子幼女のニジュクとサンジュに遭遇するあたりから、ストーリーが確固たるものとして意識されていく。日々起こること自体はさして大事でもないんですが、そういう「ありふれた毎日」を通じて染み出してくる感情に「動き」があって、この物語が決してサザエさん時空みたいな状況に陥っていないことがはっきりと分かります。

 たとえば巻頭の一編ではせいぜいマスコットキャラにしか見えなかったニジュクとサンジュが、正規の時間軸に沿って読み進めると、単なる「(*´Д`)ハァハァ」に留まらない魅力を発揮していることに否応なく気づかされます。ニジュクがそこはかとなく姉属性を芽生えさせたりとか、サンジュがプチ反抗期を迎えたりとか、サラッと流しているようでいてキャラひいては物語の根幹にも関わる場面が幾多もひっそりと織り込まれている。あくまで「ネタ」という個別的な範囲として見れば弱い側面を持っているにせよ、「話」という全体のスケールにおいては強固。数ページを読んだだけではピンと来なくても、半分を過ぎる頃にはどっぷり肩までハマっている……という読者も結構いそう。

 クロが旅をする事情など、1巻の時点では意味ありげにほのめかされるだけで明らかにされない要素もあるけれど、それでも読むに値する「雰囲気+α」が備わっていると感じました。最近はロリキャラに食傷気味で関心が薄くなっている当方すらニジュク・サンジュの姉妹には夢中になってしまった次第。なるほど、これがロリの灯か。


2006-04-12.

・所有本リストを整理していたら『タクティカル・ジャケット』という謎のタイトルを見つけた焼津です、こんばんは。どうも『タクティカル・ジャッジメント』と打つつもりでいたところに『ストレイト・ジャケット』が混ざってしまった模様。ストジャの方には「タクティカル・ソーサリスト」って用語もあるし、余計に間違えてしまったのか。

『蠅声の王』、一週間延期

 4/21→4/28。『この青空に約束を─』といい『PRINCESS WALTZ』といい、小パンチ系の小刻みな延期が最近とみに目立ちますね。ともあれこれが最後の延期となることを願うばかり。

・T.ジェファーソン・パーカーの『サイレント・ジョー』読了。

 口は閉じ、眼は開けておけ。そこから何か得るものがあるかもしれない。

 そう言ったのは、養父であるウィル・トローナ。彼が目の前で射殺されるのを防げなかったジョー・トローナは深い自責の念に陥る。富豪ジャック・ブラザックの十一歳になる娘サヴァナを何らかの形で助けようとしていたウィルは、望みを果たせずして死んだ。ならば受け継ぐまでと、ジョーは銃撃戦のさなかにはぐれたサヴァナを捜索する一方で、「父がなぜ殺されたのか」という謎を追う。失踪した少女と、敏腕政治家のウィル。ふたりを結ぶ接点とは何か。真相を容易に看破することはできなかった。誰が敵で誰が味方か、慎重に見極めながら捜査を続けるジョー。やがて彼は事件を越え、自分自身の人生にまつわる課題とも直面する……。

 幼い頃に父親から硫酸を浴びせられ、顔の半分が焼けてしまい、八度に渡る手術を経ても完治することがなかった──容貌の特異さから「怪物」と畏怖や揶揄を向けられながらも、努めて紳士的に振る舞うことを常としている、そんな保安官補ジョーを主人公に据えた長編ハードボイルド。MWA賞を受賞していたり、日本でもこのミスの海外部門1位にランクインして、評判は高い。しかしそういった前評価から期待して読み出すと少し辛いかもしれません。語りのテンポがかなりゆったりとしていて、なかなか話が進まないんです。全体が600ページを超える分量というのもあります。なんだかんだで読み通すのに三ヶ月は掛かりました。

 つまらないわけではないです。むしろ面白い。養ってくれた父ウィルへの愛と敬意、硫酸を浴びせたもう一人の父ソアへの憎しみと葛藤、混濁する想いを胸に秘めて暮らすジョーの姿が淡々とした文章によって浮き彫りにされていくのが興味深かった。養護施設で育ち、「規則正しさ」に安らぎを覚える心を持った彼は通常の人間なら気の滅入るような場所、つまり刑務所での勤務も苦痛ではなく、凶悪犯や異常犯とも物静かに対応できる。凝視されたり、逆に目を逸らされたりすることの多い顔面については、屈託があるにしても「相手が礼を失したからといってこちらも礼を失することはない」という態度で臨んで恥じることがない。策謀と陰謀が混じり合い、入り組んだ様相を示す事件もさることながら、次第に主人公自身の試練と成長にも焦点が当たっていくところに本書の肝があります。主人公の内面に分け入りながら、同時に事件を解きほぐす。あらゆる感情と打算でもつれた糸が解かれたとき、ごく当たり前な結論として「人と人との絆」という別段珍しくもない言葉に行き着きます。目には見えなくとも、ただそこにある絆を絆として受け止められるようになるまでの長い長い物語。父の死や恋愛を体験し、桎梏から解き放たれたジョーの穏やかなる境地に胸がスッとした。

 過激なバイオレンスやアクションはほとんどなし。ちょっと長引きすぎて流れに乗れなかったところもあるにせよ、最後まで読み通すとえも言われぬ達成感が湧いてくる一冊です。勢いに任せて一気に読んでも面白いでしょうが、ゆっくりゆっくりページをめくっていっても楽しむうえで差し支えはありません。できれば続編が読みたいところだけど単発のようだし、他の作品にも手をつけてみるかな。


2006-04-10.

・白髪だと思って抜いたら毛根のあたりと先端だけ白く、真ん中が黒々とした斑色の毛。探すと他にも何本かありました。そんなわけですっかり山猫気取りの焼津です、こんばんは。

・長谷川哲也の『ナポレオン(2〜5)』読了。

 コルシカ島生まれの一青年が革命の動乱に乗じてフランス軍の将軍に成り上がり、果ては皇帝にまで上り詰める生涯を、原哲夫っぽい劇画調の絵柄で描く。1巻は刊行当時に話題となっていたので読みましたが、最初は「そんなに……」と大して感銘を受けず。しばらくしてから読み直すと「結構面白いかも」と内部評価が上昇。佐藤賢一の諸作を平らげてからは「滅法面白い!」となり、正に読めば読むほど面白さの質が変わっていきました。フランスが舞台なのに高貴なイメージを取ることなく野卑に駆け抜ける勢いの良さは両者に通じるところだと思います。

 歴史に疎いせいもあってどのへんが史実でどのへんが創作なのかも分かりませんが、話として面白いことは確かです。様々な人物が次々と登場し、様々な事情が語られていくために一度読んだだけでは把握するのが難しく、初読だと「そんなに……」という感想になってしまうかもしれません。冗長さを排すためか構成もかなり切り詰められており、作者のテンポに慣れないとチグハグに映る場面もあります。もっとゆったりとした筆致で綴った方が一般ウケしやすい気もする。ただ、このハイテンポな展開があってこそセリフやシーンに異様な迫力が満ちるという面もあり、「荒削りな作風が好き」って人にはかなり向いているかと。泥臭さが力強いんです。有名な「優しいルイおじさんをどうする気です」「死刑」や「私は童貞だ」にしても、小綺麗な構成や絵柄で描いていたらああも鮮烈に見えたかどうか疑わしい。ハマってくると、もう他の作風では読みたくなくなってきます。特に3巻で登場するディミゴエ将軍は長谷川節の真骨頂でしょう。老将軍ステキ。最高。

 少し前に読んだ『黒い悪魔』の主人公・デュマ将軍も出てくるかなー、と密かに楽しみにしております。最近は劇画調のマンガが目立たなくなってきましたが、こういう作品が頑張っている以上はまだまだやれるジャンルではないかと思ったり。


2006-04-08.

・なんとはなしげに「鋼のジェンキンス氏」でググってみたら結構引っ掛かって驚いた焼津です、こんばんは。悔しいので「これはないだろう」と検索してみた「カポネの錬金術師」は0件。溜飲を下げました。

・拍手レス。

 あ、やっぱり「家政婦が黙殺」を連想しましたか。なんだか篠房六郎氏と同じ匂いがして。
 画力がありセンスがあり、やってることはアホ。才能の浪費感がゴージャスなマンガだと思います、両者ともに。

 ブロッケンブラッドは作者が衣装のデザインに関する質問に(続く)
 (続き)「普通の感性の人が着たらトラウマになるようなものを」と答えているのが笑えました

 表紙絵の時点で「こ、こは何事?」と狼狽えたくなる違和感がビンビン肌に伝わってきますね。

 はるはろ!のキャラ紹介で真っ先に五味淵氏と相馬氏のプロフィールを見た私です。
 女性キャラよりもまず男性キャラに視点が行くこのごろ。
 優れた教師は学校の宝であります

 「男キャラがイイ味出してるエロゲー(ギャルゲー)は面白い」ってジンクスもありますね。

・東郷隆の『狙うて候』読了。

 副題「銃豪 村田経芳の生涯」。第23回新田次郎文学賞受賞作。村田銃の開発者を主人公に、幕末から維新にかけての激動する時代を描いています。史実に基づき、ところどころで説明や注釈が入るため、構成は小説より伝記に近い。とはいえ主人公の心情描写や、引っ切りなしに出てくる薩摩弁が活き活きとした躍動感をもたらしており、一個の時代小説として気楽に読んでも差し支えない出来であります。当方が本書に惹かれた理由は、まず単純に分厚い(600ページ超)こと、ついで隆慶一郎や藤沢周平の著作を読んで時代モノに関心が湧いてきたこと、そして最たることが「狙撃手(*´Д`)ハァハァ」だから。なぜか知らんのですけど、銃器には疎いくせしてスナイパーは中高生の頃から大好きでして、狙撃シーンにいっとう興奮する気質を持っている次第。キッカケはどうにも思い出せません。ゴルゴにはさして興味を覚えなかったし、スティーヴン・ハンターを読み始めたのは先にスナイパー属性を保有していたからですし……。

 鉄砲狂い──薩摩生まれの村田は、まさしくそれに尽きた。遠くの標的を一撃せしめる威力を目にして銃・砲の魅力に取り憑かれた彼は藩随一の射手となり、戊辰戦争で奮戦した後に洋行、ヨーロッパの国々で射撃の腕を披露して名を広める。若き頃より戦乱の世に生き、政治には関心を示さず、ただ国産の鉄砲を開発することに情熱を燃やし続けた男の願ったこととは……。

 薩英戦争、戊辰戦争、西南戦争。なるほど、これらに触れていれば本も分厚くなるわけだ。ってなことで国産銃開発者の一生にまつわる伝記的小説でありながら、たっぷりと読み応えのある時代戦記に仕上がっています。西郷隆盛や大久保利通といった有名人物も登場して錚々たる陣容。鉄砲狂いなのに無鉄砲という血気盛んな薩摩隼人ぶりが非常に楽しい。度胸試しである胆練り(火縄銃を天井から吊るし、吊り縄をよじって緩やかに回転、やがて発砲させる。言わばロシアンルーレット)のシーンで火が吹きそうになった直前、友人の藤左衛門に「危ない。首を引っちめなんせ」と注意したら「チェストー、おいは逃げんぞ。死んでみする」と言い返されるなど、周りも負けず劣らずの剛胆者ばかり。

 特に読み応えがあるのは戊辰戦争のあたりか。手持ちの武装が心許なくなってきた劣勢の中で、

「必中を期すため敵二十間に入るまで放つな。弾薬が無うなれば銃剣を使え。銃剣折れたれば、刀を用いよ。刀折れたならば拳を使え。たとえ身は砕くとも、魂魄をこの地に止めて敵を討滅せよ!」

 と鼓舞する件は極めて気迫が篭もっています。戊辰戦争が終結してからの後半はやや淡々とした展開になりますが、洋行時のエピソードが面白くてグイグイと引きつけられましたね。「藩で一番の鉄砲名人」から「世界一の射撃王」と呼ばれるに至るまで、当時のヨーロッパの空気を交えつつ描かれています。チョイ役ながら榎本武揚が出てくるのも嬉しかった。『武揚伝』が印象深かっただけに「戦に負けるということは辛いものだ」という一言にしんみりとしたり。『武揚伝』も本書と同じく新田次郎文学賞を受賞しているのには少し因縁を感じます。

 タイトルがゴリゴリにスナイパーっぽさを打ち出しているだけにもっと冒険小説色の強い話かと先入観を抱いていたので、伝記の体裁を主としているのは意外でした。懇切丁寧な説明のおかげで銃器に疎い当方も「分かった気」になりながら楽しく読めた次第。時代小説・歴史小説は作者が違っても時代や舞台が一緒だと重なる部分も出てくるのが面白いですね。


2006-04-06.

web私立桃夭学園に登録してみた焼津です、こんばんは。男女比で見ると女生徒が少ないらしいのでネカマしてみようかと迷いましたが、素直に楽しみたいのでやっぱり男に……するつもりがチェックボックスが「女」のままでした。……どっちとも取れる名前だったし、いいか。

・塩野干支郎次の『ブロッケンブラッド』読了。

 『ユーベルブラット』と同じ作者だし、主人公は女顔の美少年だし、タイトルも似てるから話のノリはだいたい一緒……かと思いきや全然違うじゃないですか、これ。篠房六郎で喩えると『ナツノクモ』『家政婦が黙殺』くらい違う。もちろんこっちが『家政婦が黙殺』派。男であるにも関わらず魔女っ娘として変身し、恥ずかしいコスチュームでバトるハメになった主人公の深い苦悩を追及することなくハイスピードで置き去りにして展開する非常にアホっぽいハイテンションバカマンガ。つまりハイテンションなバカがいっぱい出てきて一応常識人の主人公が目一杯ヒいたり冷めたりするマンガです。そういう意味ではむしろローテンションか。アッパーかつローテンション。形容しがたい雰囲気ではありますものの、様々な格好を「嫌々」させられて「不本意」ながらも似合ってしまう主人公が愛くるしいので絵柄買いしても差し支えないかと。わざわざカッコ書きしましたが、女装モノは「嫌々」「不本意」が守るべき筋であると考える当方にはなんとも美味しい一品でした。

 「魔女がいないなら創ればいいじゃない」と見事に本末転倒を遂げた錬金術師。彼の魔力を付与した「血」は何世紀も経ってすっかり科学が優勢となった現代にも続いていた。子孫に当たる少年・守流津健一は、本人の意向をまったく無視された状態で妹ともども魔女っ娘にされてしまい、否応なくドピンクのステッキを握って戦うことに。とりあえず魔法も使ったりするけどフィニッシュはステッキで殴る! 撲つ! 日々溜まる強制女装への鬱憤を晴らすべく、ここぞとばかりにフルスイングする守流津少年。しかし、気づけばなぜか「美少女アイドル」として芸能界デビューを果たしていて、状況は悪くなる一方だった……!

 デタラメで脱力していて一見すると「やる気がない」って思われても仕方ないストーリー。けれど描画や演出には凝っているし、細かいところで発揮される小ネタの数々も絶妙にヌケていて最高なテンポとセンス。みっちり詰まっている割にはあんまし雑然としていないと言いますか、暑苦しさがなくて読みやすい。魔女っ娘とか魔法少女をおちょくったパロディものが好きなだけに堪能しました。本当の魔女っ娘である妹(九歳と年齢もストライクゾーン)が完全にオマケとなっている部分はイイ皮肉で、ともすれば暴走しがちな本編にとって彼女の「普通すぎる普通さ」が適度なガス抜きになっていると思います。


2006-04-04.

・平坂読の『ソラにウサギがのぼるころ』読了。

 我らの平坂読がフルアクセルで帰ってきた。

 『ホーンテッド!』シリーズ完結から7ヶ月、数えてみればそれほどの月日でもないですが、なんとなく「遂に」とか言いたくなる期間を経てお目見え。「空からゴスロリ少女が降ってきて三角関係のラブコメに」という、糸を引きそうな設定で展開されるドタバタ劇は一見ありふれているようでいて特殊すぎる。どれだけ特殊か解説したいところではありますけれど、これは読んでのお楽しみってことであえて伏せます。いやはや存分に吹っ飛びました。

 ネタ選びが結構ヤバいのは『ホーンテッド!』の頃から感じていました。今回はヤバいどころではありません。「バストは量だよ兄者!」くらいはまだ可愛いもので、「かつてとある偉人は初体験の最中にこう言った。『もっとセックスする!』──と」なんて書いた挙げ句にナポレオンの「哲学的な経験」まで引用し、「俺も哲学する! もっと哲学する!」と結論づけるセンスはダヴーも驚愕。ヲタが共通言語とするネタを踏み台にして更なる高みを目指す先鋭さは、もはや本来のターゲットである中高生をさっくり突破しているのではないかと不安になります。ラブコメはラブコメなんですがメタっぽいラブコメですし、「本筋を極力省いてシチュエーションの継ぎ接ぎで食い繋ぐ」、土台はあっても柱はない異端の叙述感性を武器にしたストーリーは行き当たりばったりに見えなくもない。しかし仮に、ブレーキが壊れているからこそできるドライビング・テクなんてものがあったとしたら、本書はそれに相当することでしょう。やはり彼のセンスは並にあらず。

 『ホーンテッド!』以来の平坂ファンであっても震撼を余儀なくされる奇作。平坂テイストを400%くらい濃縮して還元に失敗したえげつなさが全編を覆っています。ある意味『殺×愛』系のカオス。ぶっちゃけ一冊こっきりで終わっても全然不思議じゃない。続きが出るならすげぇ読みたいんですけれど。あくまで計算でここまでやれる作者に畏怖。やがて恍惚。そしてあとがきに脳死。

・拍手レス。

 ロス茶、麻宮とか菊池とかボー○マンとか・・・まだOP見ただけだけどな!
 ボーズマン?

 獏センセイの生命の完結と作品の完結とではどっちが速いのでしょうな……
 センセイが長生きしても読者の方が完結まで持つかどうか……。

 アイレムのHPを見ました。私ゃてっきり、水滸伝の熊のような豪傑たちと囲まれて愛を育む
 恋愛AVGかBLものかと思っていましたよ。残念。個人的には魯智深が好き。

 じゃあ折衷案としてハクサンシーの正体は「百八の豪傑が合体しヒュドラ化していた」という説で。


2006-04-01.

・勤務が明けたところでようやく本日がエイプリルフールであることに気づき、真っ先にアイレムのHPへ向かった焼津です、こんばんは。4月1日=Irem、これは揺るがせませんね。

告知『コトノハデイズ』

 手には一鋸、仇を誤認。シュラバーパンク武狂片『鬼言街−The Thiefcat Slayer−』は未来永劫発売日未定。

積読推進委員会!

 触発され、我が家のトーチカと化した積読原について滔々と書き綴ってみましたが、読み返すに想像を絶する痛々しさでしたのでやっぱり消します。部屋の面積が居住スペース<本の置き場という自堕落ぶりに絶望。

 ちなみに母は指輪物語全巻、父は火の鳥全巻を積んでます。

情報流出した工画堂

 「弊社スーパーハッカー」って用語に噴いた。

『葉桜ロマンティック』

 アエギ先生、Mなのか……。あとINFORMATIONの方でもネタがいろいろと。

・今月の予定。

(本)

 『ゆりかごで眠れ』/垣根涼介(中央公論新社)
 『天使のレシピ』/御伽枕(メディアワークス)
 『シグルイ(6)』/山口貴由(秋田書店)
 『夏期限定トロピカルパフェ事件』/米澤穂信(東京創元社)

 積読が一向に減らないことを憂慮し、今月から緊縮策に乗り出してみようかと。『ゆりかごで眠れ』は垣根涼介の新作。正直、『ワイルド・ソウル』あたりを頂点に伸長が停滞している気もするんですが、まだまだ先が突破できる作家だと思うので一縷なりとも期待を寄せたく。『天使のレシピ』は確か改題前のタイトルが『超告白』だった作品。面白そうなラブコメなんじゃないかとセブンセンシズが囁いています。『シグルイ』は言わずもがな。『夏期限定トロピカルパフェ事件』は『春期限定いちごタルト事件』に続く「小市民」シリーズ。小鳩くんと小佐内さんのコンビに心臓を撃ち抜かれた当方としてはなにげに待望の一冊。

(ゲーム)

 『蠅声の王』(LOST SCRIPT)

 「四度目の正直」になることを切に願うばかり。というか4月1日ネタの『東京こぐまものがたり』が割と本気で欲しい。あれで18禁だなんて……無性にワクワクします。


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