2004年8月分


・本
 『斬魔大聖デモンベイン 機神胎動』/古橋秀之(角川書店)
 『そして、楽園はあまりに永く』/浅井ラボ(角川書店)
 『パンク侍、斬られて候』/町田康(マガジンハウス)
 『キマイラの新しい城』/殊能将之(講談社)
 『新本格少女りすか』/西尾維新(講談社)
 『ブルー・ハイドレード』/海原零(集英社)
 『夢見る猫は、宇宙に眠る』/八杉将司(徳間書店)
 『Mew Mew!』/成田良悟(メディアワークス)
 『ロボット妹』/佐藤ケイ(メディアワークス)
 『空ノ鐘の響く惑星で(3・4)』/渡瀬草一郎(メディアワークス)
 『冷たい校舎の時は止まる(下)』/辻村深月(講談社)
 『Kishin−姫神−1』/定金伸治(集英社)
 『9S <ナインエス> (3・4)』/葉山透(メディアワークス)

・ゲーム
 『神樹の館』体験版(Meteor)
 『DUEL SAVIOR』体験版(戯画)
 『てこいれぷりんせす』体験版(propeller)


2004-08-30.

・六節薙刀(刃の部分が三節、棍の部分も三節)を振り回す金髪の暗殺者に、鎖付きのフライパンで立ち向かう夢を見た焼津です、こんばんは。明らかに武器が不公平。腕をザクザク切られて痛かった。

『下級生2』『重装機兵ヴァルケン』の凄まじいマイナス話題で持ち切りだったこの週末。当方はどっちも思い入れがないというか詳しく知らないので対岸の火事を見る気分でしたが、これだけボウボウ燃え盛っているのを見ると逆にプレーしたくなる心境。下2の方にはツンデレキャラもいるということですし。ただ熄むことを知らない不評に反して市場では売上が良いらしいから、中古待ちですか。ヴァルケンはスーパーファミコン版を見かけ次第確保することにしておきます。

・葉山透の『9SV』『9SW』を読了。

 パッと見タイトルが分かりにくいこのシリーズ、「9S」は「The Security System that Seals the Savage Science Smartly by its Supreme Sagacity and Strength」を略したもの。意味は……えーと、各自エキサイト翻訳とかでお願いします。

 内容は大まかに言ってしまえばボーイ・ミーツ・ガールなハリウッド系SF風味アクション。人でありながら人知を超えた発明品を次々生み出したあげく、ろくな管理もしないでフイッと姿を消してしまったマッド・サイエンティスト、峰島勇次郎が物語の中心となります。某地球最強の生物が連想される名前ですが迷惑ぶりは彼よりも遥かに上。刃を超振動させることでありとあらゆるものを破壊する剣などを始めとした、放っておいたら世界中を混乱の渦に叩き込みかねないトンデモ遺産を巡り、いろんな陣営が衝突したり結託したり裏切り合ったりと鎬を削る。そうした一種の疑似科学的な要素をメインに据えている一方、主人公は一見平凡そうな少年。でも実は「禍神の血」を引いており、「鳴神尊」と呼ばれる短刀を抜くとたちまち殺戮者として覚醒する厄介なボーイです。二重人格で「もう一人の自分」は超人的殺人術を会得しているだなんて、設定としてはベタベタ。そしてヒロインもヒロインです。狂科学者の娘、峰島由宇。天才的頭脳を持ち、生まれてこの方ずっと地下の奥深い施設に閉じ込められてきた少女で、ハニバル・レクター並みの凶悪さを覗かせながらも「外の世界」へ焦がれる心を抑え切れない子だったりします。中年オヤジどもに囲まれて育ったせいで口調が男っぽく、また身近に比較対照がなかったせいもあって「自分の容姿は醜いんじゃないか」という過度のコンプレックスを抱いているうえ、ぱんつはいてない。「ありがち」な造型のキャラといえばそうですが、ここまで狙い澄まされるとストレートに来られても回避しにくいもんです。このふたりの出会いがドラマの開幕、といった具合にストーリーが進行していく。

 1巻と2巻が一話完結を意識した物語だったのに対して3巻と4巻は続き物、言わば上下巻の関係に近い。3巻でようやくシリーズ化が確定したという事情もあって、ストーリーも大きく動き出す。個人的にこの9S、1巻は「まあまあ」、2巻は「いまひとつ」って感想でした。文章は読みやすいけれど特に惹き込まれるモノがなかったし、設定も結構ベタで新鮮味を感じなかったので一時は見限ろうかと検討しました。しかし、前作に当たる「ルーク&レイリア」のシリーズが好きだったこともあって、もう少しだけ見守ってみようかなー、とあやふやな心情でトライしてみたこの2冊。判断を保留しておいて正解だった、と思えるくらいの好感触です。両巻あわせて700ページ、充分な量が用意されているだけあって数多くのキャラクターを捌き、話をうまく盛り上げることに成功している。またスリルとサスペンスを弁えた構成と展開が効を奏して、2冊分の長さがちっとも苦にならない。特徴のない、けれど読みやすい文章がページを繰る手をスムーズにし、ハリウッド級のスピード感を醸造する助けとなっています。

 それでいてユーモアも忘れず、合間合間に気の抜けた遣り取りを挟むことで緩急まで付けているのだから、「エンターテインメントのツボを心得ている」と述べても過言ではないでしょう。真目家の次期当主候補でありながらお兄ちゃん子で「兄さんは……」「兄さんが……」と闘真に関してブラコン発言を頻発する麻耶、ちょっとした経緯から「顔は可愛いけど、頭は可哀想なのね」という目で見られてしまう由宇、自分の命を狙う暗殺者とは知らず親切心を示してのほほんと会話する闘真など、どんなに状況が切迫していても「『微笑ましさ』を注入しておきますね」といった態度を崩さないおかげで安定したリズムができている。それぞれのキャラに魅力があって、群像劇としての面白さも機能しているわけです。ほんのりした「萌え」と「笑い」、一方で死体がごろごろ転がる疾走感に満ちた話運び。殺伐の中にもユーモアを忘れないその筆遣いは「ライトノベルに何が求められているか」をキッチリ知っています。

 皮肉屋で斜に構えていて喋りはオヤジ臭いけど意外に乙女チックな面のある天才少女や、歳に似合わぬ冷徹さを身に纏おうとする一方で兄(闘真)を見る目が魚眼レンズ並みに偏っているお嬢様、そしてカラータイマー付きのポン刀武装少女暗殺者に、そこはかとなく苦労を滲ませるオヤジ連中など、とにかく明快で魅力があって楽しい、そんな「ライトノベルらしいライトノベル」が読みたいならオススメです。変にヒネったところがない分、面白さは一直線。


2004-08-28.

・更新のことをコロッと忘れていた焼津です、こんばんは。ハハハ、「なんか忘れてるなー」とすら思いませんでした。もはや水棲生物からやり直すべきかもしれず。

propeller『てこいれぷりんせす!』体験版をプレー。

 オマケのHシーン、エヴァンジェリンの帽子が烏帽子に見え、あたかも平安貴族にナニされている気分になって心中複雑でした。

 それはさておき、荒川工をはじめ、伽遠蒔絵やJ・さいろーなど、エロゲーマーからは割と注目される面子で陣容を固めたこの一作。「てこいれ」が何なのか分からないままやり始め、なんとなく分かったような分からなかったような曖昧さとともに終了しました。とりあえず、内容としては「行きて帰りし」系統の異界訪問ファンタジーのようです。定期的に自分の世界とあっちの世界を行き来する○学生が主人公。「女の子には興味があるけど恋をしたことはない」という少年が、ファンタジーな世界で少女たちと触れ合ううちに……といった塩梅。体験版で遊べるプロローグはほとんどコメディチックな遣り取りに終始し、シリアス展開については毛先ほどしか開陳されないため、本編、特に後半あたりがどんな具合になるんだか読めなんだ。ひとまず始まってしばらくはプロローグと同様のドタバタじみた応酬が続きそうな気配です。

 シリアス展開に言及できない以上、話題として持ち出せるのはコメディ部分やヒロインたちに関する事柄ですが……うーん、ギャグのキレ味は正直期待に及ばず。荒川工と伽遠蒔絵は好きなライターだけど、今回は彼ら特有のヒネリや黒さがうまく滲み出ていないような。悪くないものの過去作に惚れたファンとしては不満。なにぶん体験できる尺は短いので判断が早計との見方も可能とはいえ、この調子だと「笑い」の要素を濃厚に求めるのはやめた方が賢明って雰囲気です。ヒロインたちについては大過なく魅力に溢れていてヨシ。メインっぽい割に二面性を感じさせるメルヴェールは声優さんの演技が巧い。上チチを露出し「ほーっほっほっ」笑いをフクロウの如く乱発するアルトワネットは高慢お嬢様だけに日常イベントとエロシーンのギャップが非常に美味しい。被服面積の小ささと酒臭さがそのまま一つのイメージに直結し実像とぴったり適合するフランシェスカはお色気要員としての役目を果たしている。一言で表せば「ロリメーテル」といった容姿のエヴァンジェリンは「わがまま」と「素直じゃない」の中間点で、デューク東郷ばりの細目はやや怖いがそこを除けば普通に可愛い。キャラの存在感で作品が支えられている状態ですね。絵にちょっとクセがあるところは難だけど。でもアイキャッチのチップキャラは密かに好き。

 「笑い」の期待が満たされなかった一方、「キャラ」が期待以上だったので、結果的にはトントン。主人公のキャラクターが「小動物系」と微妙にショタを狙ったような造型で、いまいちピンと来ないこともあって「購入確定」とまでは行きませんが、それでも一応「注目作」の枠からは外れない。発売する頃の状況次第で買うかもしれず、買わないかもしれず。差し当たっては評判待ちか。9月は『ままらぷ』『Tears to Tiara』『サムライジュピター』と注目していたソフトが揃って冬へ逃亡してしまったので、購入の枠にちょっとだけ余裕があります。同日発売の『ABANDONER』とどっちを選ぶかの二択になりそう。

・定金伸治の『Kishin−姫神−1』読了。

 これはとてもいいツンデレですね。

 『ブラックランド・ファンタジア』が面白かったので、「これは是非他の作品も読んでみるべきだな」と思い、着手してみました。『ジハード』の方にしようかとも迷いましたけれど、伊藤真美のイラストを見るにつけ「読みてぇ」との欲望を抑えきれず、結局こっちに落ち着いた次第。副タイトルが「邪馬台王朝秘史」というのも興味をそそられました。

 内容は古代日本を舞台にしたファンタジー。卑弥呼が没し、新たな王を求めている大倭に「私が王になろう」と宣言する少女が現れる。万幡豊秋津師姫、通称台与(トヤ)。暗い目をした十三歳の娘だった。その身に卑弥呼の魂を降ろし、皇子──つまり卑弥呼の息子である忍穂(オシホ)を夫に迎え、自ら大倭の巫女王にならんとするが……。

 「あなたが私の夫になるだけだ。私はあなたの妻にはならない……私の心身は誰にも与えるものか」と、か弱い体つきでありながら少しも儚げな風情を漂わさず、傲慢に自分の要求を突き通そうとする台与の姿が印象的。「夫になれ」と言われて渋る忍穂に「拒むなら力ずくで奪う」なんて物凄くストレートに言い放つあたりとか、もう話の筋を通そうっていう小細工が全然ないんです。「でも、私は与えない。私のほうが狩って奪うのだ」というセリフにも聞き分けのない強情さ、せせこましい駆け引きを嫌う頑是無さが溢れている。柔軟性のないヒロイン。しかし一重に幼さがあるせいか、目の離せない魅力もさざなみの如く押し寄せてきます。

 それから冒頭でツンデレと書きましたが、しかし残念なことにこの1巻で目立つのは「ツン」ばかりで、「デレ」らしい要素はほとんどない。話自体も国を巡るシリアスな代物ですし、今後進んでいってもそうそう露骨な「デレ」には遭遇しないんじゃないかな、って気もします。でも、読んでみる感じ、脈がないわけでもないんですよ。

「そうとわかっていて、何故おれを選んだ。他にも選択肢はあったろうに」
 答えるのをためらった様子で台与はくちびるを結んだ。しかし、しばらくして諦めたように口を開いた。
「私は幼い頃からあなたがたを観察していた。そしてあなたが一番ましだと判断した。それだけだ」
「一番ましと判断した、というのは一番好みだったということか」
 笑って少女に尋ねると、また台与は目を遠くに向けて機嫌の悪そうな横顔を見せた。
「能力的にましだと思っただけだ」
 素っ気なく台与は言った。

 という遣り取りから見てもそれは明らか。「機嫌の悪そうな横顔」というところがポイントですね。不機嫌具合をさりげなく、しかし分かりやすく漏らしているあたりがいかにも素直じゃなくて、「ツンデレの予感」を湧き立たせる。「私の好みなんて関係ないだろう」と言わんばかりのツンケンっぷりが食指をそそります。他にも、「……何故あなたは、そこまで私に尽くすのだ。何か狙いでもあるのか」と不安そうに訊いて「単なる一目惚れというやつだよ」と答えられるや、「……私はおまえなんか嫌いだ」と頬を赤らめ掛け布団代わりの鹿皮に潜り込む遣り取りなど、実にツボを心得ている。古代日本とか関係なしにお熱くて恥ずかしいふたりだ。

 もちろん、ヒロインの魅力ばかりに頼っているわけでもなく、物語としてもちゃんと面白い。巫女王の不在によって堕落し荒廃した大倭の人心を再起させ、周囲の国々と渡り合いながらふたたび絶対的な治世をもたらそうとする主人公コンビ、そしてふたりを取り巻く人々の思惑。戦記モノとしての盛り上がりが期待できそうです。1巻しか買ってませんでしたけど、これは早く続きを調達しないと。


2004-08-25.

・たこ焼きにナンプラーを使う焼津です、こんばんは。いえ、割と合いますよ?

・女子マラソンは終わりの方だけ見ましたが、2位のヌデレバが「私は走る。運命となって」な感じでドキドキしましたな。髪型も別の意味でドキドキさせられましたが。

三十路になっても……な覇道瑠璃(戦場には熱い風が吹く。)

 個人的に彼女はもうちょっと設定年齢が上だったらなぁ、と思ったりしましたので、女王化するのは非常にナイスであり、たとえ攻略対象外になろうが一向に構わない心境。

・辻村深月の『冷たい校舎の時は止まる(下)』

 6月に上巻、7月に中巻、そして今月にこの下巻──と3ヶ月連続刊行してきた冷校もやっとこさ完結。ライトノベルやマンガで続きを待たされるのはよくあることだけど、ミステリでこうも焦らされる経験はなかなかない。物凄くハマった、というほどではなかったけど、真相が気になって「早く続きを読みたい」と思わされたことは確か。現在は待つ必要なしに上中下を一気に読み通せるわけですし、「待たされることがない」という意味で新規の読者がちょっと羨ましい。

 「時間が静止した学校」という形態の精神世界に取り込まれた8人の男女。彼・彼女らは脱出の手段を模索する傍ら、この精神世界の主は誰なのか、推理に推理を重ねて論議する。8人の中に「犯人」がいるに違いない。脳裏をよぎるのは、校舎の屋上から飛び降りる影。だが記憶に迷彩が掛かり、その影が誰なのか、どんなに考えても判明しない。甦る断片的な記憶──学園祭の最終日に投身自殺を遂げた「あいつ」の名前は何だったか。「思い出した?」と訊ねる、何者かの声。そして答えが出せないまま、ひとり、またひとりと精神世界からの「退場」を余儀なくされていき……。

 『そして誰もいなくなった』『そして扉は閉ざされた』から美味しいところを採取したようなシチュエーション。いっそタイトルも『そして冷たい校舎の時は止まった』なら気持ちよかった気もしますが、長すぎるし語呂が悪いので現行のままでいいです。上中下、全部合わせると800ページ近い分量になり、ミステリとしてはなかなかのボリュームですが、その大半を占めるのは「犯人」候補──精神世界に現れた「容疑者」たちのエピソード。学園祭最終日当日の記憶だけではなく、その人物の背景を支えている様々な情報を挿話の形で公開していく。8人全員について事細かに語っているおかげでこうも話が膨れ上がって分冊するハメになったわけです。「容疑者」に関する情報を詳細に明かすのは悪くない手法ですが、語り口は淡々としており、文章は読みやすいものの全体的に平坦なので、少し退屈する場面もチラホラ。中巻あたりは結構かったるかった。考え方次第では、分冊で順々に刊行されていたからこそ興味が持続して最後まで読破することができた、と受け取ることも可能です。さすがに一気だと途中でダレたかも。やっぱり長いよなぁ、これ。もう少しキャラ減らしてもよかったんじゃないかな、せめてひとりくらい。

 扱っているネタが「精神世界に閉じ込められる」というマイナー気味の超常現象だけに、基本として「なんでもあり」なムードが漂ってしまうのはミステリ的に痛いところ。「犯人」、つまり精神世界の主は取り込んだ人間の記憶をある程度操作できるため、都合の良い状況をお膳立てできることになっているんですが、その「ある程度」がどこまでなのか、ルール設定が曖昧で読み辛かった。異常な状況をセッティングするタイプのミステリ自体はよくある(西澤保彦作品など)ものの、この手のネタは「何がOKで何がNGか」をハッキリさせつつ読者が見逃しやすい盲点を堂々とつくっておく、タイトロープダンサーじみたバランス感覚がとても重要になってきます。本作はそのバランスがあと一歩という地点で不安定だったゆえに、ここぞというシーンでのサプライズが減衰してしまった印象があり、非常に惜しい。謎解き要素よりも個々人のエピソードが読み所とはいえ、もっと「なんでもあり」臭を削ってギリギリの綱渡りを演じた方が威力はガツンと増加したはず。

 不満は漏らしてしまいましたが、結論を言えば佳編だと思います。シチュの特異性を脇に除けば実に堅実で地味〜な青春ミステリ。その「地味〜」な部分に味わいがあって旨い。いえ、「地味に滋味」とかいうネタをかましたいわけではないです。こういう、奇を衒っているようでいてちゃんと押さえておくべきところは押さえている作品、最近のメフィスト賞──というよりこれまでのメフィ賞を振り返ってもそうそうないかと。完成度が高いとは言い切れませんが、瑕疵はあまり目立たない。一定のラインに達した面白さを供給してくれるので、その点ではオススメしやすい一作です。文体は似ていませんが、作風は恩田陸に通じるものを感じます。

 ただ、新人らしい荒削りなチャレンジスピリッツが滲み出していないトコは、一メフィ賞ファンとして残念。過去話が頻出するせいで現在の舞台の印象が希薄化してしまうのも閉鎖系サスペンススキーとして残念。普通の読者には割とどうでもいいことだと思うんですが。

 ちなみに全体通して当方の好みに合致するのは菅原のエピソード。あそこが一番面白く読めました。でもキャラは昭彦が一番好き。景子の口調はギャルゲに出てくる冷めた性格のヒロインみたいで読んでいて複雑でした。具体的には『雪桜』の玲先輩とか。そして、作者と同じ名前のキャラが出ていることも……うーん、微妙。


2004-08-23.

・巾着から取り出された数珠。それは弾帯で出来ていた……

「わたしの実家が機甲折伏隊(ガンボーズ)だからです!」

 イヤな光景を幻視してしまった焼津、ここにあり。こんばんは。そんな乃梨子を仏契めそうな志摩子は見たくないです。あ、でも重機動聖女と化したマリア像は見たいかも。

・第35回星雲賞、日本長編部門に小川一水の『第六大陸』

 おめでとうございます。星雲賞については詳しいことを知らないのであんまり語れませんが、『第六大陸』(全2巻)がとても面白い作品であることは当方も激しく同意するところ。10月に出る3巻で完結する新作『復活の地』も負けず劣らずの面白さ。官僚視点での国家復興を描く変り種のSFだけど読み応えはたっぷり。

・渡瀬草一郎の『空ノ鐘の響く惑星で3』『空ノ鐘の響く惑星で4』読了。

 決まった季節に空の彼方から鐘の音に似た響きが降ってくる世界が舞台。「空ノ鐘」の世界はまだ科学が発展しておらず、中世チックな雰囲気が漂っています。また「御柱」と呼ばれるモノを通じて異なる世界とも繋がっていて、そっちの方はかなり科学が成長を遂げているような感じになっています。言わばSF的世界。主人公のフェリオはファンタジーサイドの住人で、ヒロインたるリセリナはSFワールドからひょっこりやってきたトラベラーなんだけど、帰り方が分からないと来ているからさあ大変。おまけに追っ手も掛かっているらしく、彼女の命を狙う刺客までSF世界からファンタジー世界に侵入して……といった具合に「ファンタジー+SF」のライトノベルです。ファンタジーとSFを接合する試みは別段珍しいものではなく、どっちかと言えばありふれている。その点で言えばこのシリーズ、独創性はあまりありません。諸設定が「お約束」を押さえているものの、斬新な狙いは特に見えない。

 一話完結方式じゃなくダイナミックに連続していくので、1巻を読んだ時点ではそれほど明確な手応えは得られないと思います。「話づくりの態度が真摯」ということで注目されている著者だけに、新シリーズと聞いて興味を抱いてまず最初の巻を読みましたが、そのときの感想は芳しくなかった。つくりは丁寧だし、キャラもひとりひとりが個性を放っていて、基礎的な部分は高水準だったんですが……どうにも全体の印象が地味でした。シリーズ通しての目標も見えないまま「つづく」になってしまったため、期待を抱いていいのかどうか不透明なまま2巻を待つことに。しかしクオリティが高くとも、「地味」という弱点を抱えた作品は、読み手の興味をそそるのが難しい。2巻が出てすぐのときもなかなか食指がそそられず、読み出すのは随分遅れました。

 ただ、2巻はきっちり盛り上がって面白かった。1巻で明かされていたSF要素がすっかりナリを潜め、王宮内での政争を描いた戦記モノ風のストーリーに変貌してしまい「前巻のあれは何だったんだ」と思わせつつも目が離せない展開の連続で、「いっそSF要素を棚上げにしてこのままのノリを保持して欲しい」と願うほど。そして実際、3・4巻は2巻の展開を踏襲した、戦記テイストの波乱に満ちた物語に仕上がっているわけです。歓喜しました。王族、ひいては国レベルの問題へと発展するゴタゴタを複数の視点で縒り上げていく手つきは危なげがなく、安定している。群像劇としても一級なんですが、それでいて今時のライトノベルには不足がちである正統派ファンタジーとしての要件も充足させているところはポイントが高い。

 今更当方が騒ぐまでもなく評判の高いこのシリーズ、唯一の難点は……あんまり売れてない、ってことでしょうか。最新刊の4巻は日販の文庫売上ランキングでも20位以下で圏外。このままでは途中で打ち切られてしまうんじゃないか、と不安視する向きもあります。よくできてはいるんですけど、何分地味で、パッと人を惹きつける「華」の要素が欠けているんですよね……文章も「読みやすい」「分かりやすい」「テンポがよい」と三拍子揃っているものの、それが自然すぎて逆に目立つ特徴がなくなっています。キャラだって女の子からオヤジに至るまで余さず魅力を発揮しており、最高の群像劇に仕上がっているにはいるけれど、「萌え」を喚起する「記号」としてはいまいち弱い。つまり、いろいろなところが淡白。

 そんなこんなですが、このシリーズはもっと売れてほしいなぁ、と。潜在的な読者が静観していたせいで適切な完結に漕ぎ着けなかったりしたら、多方面的に悲劇です。「興味はあるけど、強く惹かれるものはないし」と手を伸ばさずにいる方には再考を促したい。1巻はぶっちゃけ微妙ですが、2巻以降の面白さは当方のみならず様々な方々が保証しています。「なんか、タイトルがピンと来ない」とか言って見逃しているのは損。話の方も4巻でひと区切り付いてますし。

 で、キャラについてですけれど、もちろん当方は渡瀬印の幼馴染み──つまりウルクに胸キュン。いや、キュンというかバックバク。1巻ではそれほど活躍しないのに、2巻では何かが乗り移ったみたいにパァンと鮮烈な印象を撒き散らし、続く3巻と4巻でも「Remember Osananajimi!」とばかりに用意された見せ場において獅子奮迅の可愛らしさを炸裂させます。明らかに言葉がおかしくなっていますが、当方の偽らざる心境を反映した結果です。4巻の52-53ページは強烈。TKO。「このまま読み進めるのは危険っ……! 一旦小休止を取らねばっ……!」と咄嗟に本を閉じ、思わず溜息をつきました。渡瀬は恐ろしく勘所を心得た攻め手ですね。

 その次はエンジュに(*´Д`)ハァハァ。いえ、♂ですけど。いえいえ、ショタだからというわけではなく。弓兵なので、スナイパー属性のある当方としては目を付けずにはいられない。自覚なき神業狩人。彼の存在が広げる波紋は要注意ですな。


2004-08-21.

・オリンピックにはあまり興味がなかったクセに、ふとテレビを付けるとちょうどライブでメダルを獲る瞬間だったりして、なんとなく画面に見惚れていることが多い今日この頃。こんばんは、焼津です。

セイバーさんブロック崩し「ジンガイマキョウ」経由)

「当たった瞬間、『これは俺じゃない』って、そう思い込むんだ!」

 当方はいつの間にミラージュなんていう高等テクニックを体得しましたか? と錯覚するくらい気持ちよくボールを取りこぼし、己のヘボ加減を思い知らされた深夜。ぶっちゃけ当方、ゲーム歴の長さとゲームの腕が全然比例していないヌルゲーマーです。『STORM CALIBER』とか『PSYVARIAR』みたいな「かすらせSTG」をやっても、かすらせるつもりが思い切りブチ当ててボガーン。もちろん弾幕張られたら高確率で死にます。『ESPRADE』をいろり目当て、『ぐわんげ』を小雨目当てでプレーしましたが、どっちもコンテニューなしだと2面で終わりましたね、何度やっても……成長しないにも程がある。

・佐藤ケイの『ロボット妹』読了。

 ホント、電撃文庫はやりたい放題でなんでもありだなぁ。正式タイトルは『ロボット妹改め人類皆兄妹!〜目醒めよ愛の妹力〜』。無闇に長いので呼ばう際は『ロボット妹』だけで充分です。副タイトルとかいちいち付けなくても微妙すぎるインパクトが有り余っていますね。「ロボット妹」って、字面がなんとなく「オランダ妻」と似(以下略)。

 マッドサイエンティストが搭乗型のロボットを開発し、レトロに熱い主人公が意気揚々と乗り込んで悪と戦う──概要は『マジンガーZ』みたいな、ごくごく王道的ロボットもの。しかしよりによって乗り込む先が「ロボット妹」なんです。チャンピオンの「ロボこみ」みたいハッキリそれと分かる造型でもなく、表紙を見ての通り、外装は普通の少女と変わらない。そのうえサイズは等身大。「妹」ですから、主人公の身長よりも小さいわけです。どうやって搭乗するのか。当然のごとく疑問が湧きます。等身大の妹ロボに「乗る」なんて言われても卑猥な図しか浮かびません。けれど逆転の発想、乗り込む際は主人公の方が小さくなるわけです。ラバーズみたいに。「史上最弱はもっ(中略)しい! マギー!」の。とにかくそんな具合で神にも妹にもなれる脅威の力を得た主人公が、遠い宇宙からやって来た侵略者と戦います。ただし非暴力。ロボット妹にとっての武装は「萌え」。敵を徹底的に萌えさせることで「争いなんて無益だ、妹は素晴らしい」と感動させて戦意を喪失させてしまう。一種のネゴシエーションです。もはやここまで来るとイヤ展ですね。

 「これが応募作だったら二次落ちしていた」というコメントが端的に本作の出来を表しています。『激突カンフーファイター』並みに「刊行されたこと」そのものが奇跡(もう角川のサイトで検索してもヒットしませんね、カンフーファイター……)。元は「電撃ヴんこ」に掲載された省略バージョンだったらしいですが、それが好評を博したという時点で現代のライトノベル世相が窺えてしまうというか何というか。さておき、勢い任せのようでありながら露骨に計算されており、佐藤らしいシニカルなセンスがチラリズムで感じられます。恒例の薀蓄やオタク考察は薄くなっているけれど、理性に頼りながら感性に訴えかける佐藤節は健在。が、基本なノリはバカ。それも起伏に富まない平坦なバカ。妹なんかいない異星人が、いきなり「お兄ちゃん」に目醒めてしまってそのまま話が進行していく。まじめに読んだら「なんじゃこりゃ」となること請け合い。こんなタイトルの作品をまじめに読む人は存在しえない気もしますが、とにかく逃げも隠れもしない不退転のナンセンスです。フラットな無意味さ加減を楽しんでください。佐藤ケイの作品を読んだことのない人でも大丈夫。ネタの構造自体はロジカルで分かりやすいから、合う合わないは別にしても「意味不明」とまではならないはずです。

 電撃文庫もますます居心地の良いカオスを極めてきました。こんなライトでいて濃いレーベル、他にはない。


2004-08-19.

・近所の工事騒音がうるさくて安眠できない昨今の焼津です、こんばんは。ほとんどハウリングみたいになってますよ……。

村山由佳、“小説すばる”9月号より『天使の卵』の続編『天使の梯子』短期集中連載開始

 おお、『天使の卵』といえば当方が初めて読んだ村山由佳作品。……いや、『もう一度デジャ・ヴ』の方が先だったかな? ともかく、あれの続編が出るなんて寝耳に水です。正直に言って「どうだろうなぁ」という思いも湧きますが、無視はできそうにありません。完結して本にまとまるのは来年あたりでしょうからのんびり待ち姿勢を取ろうかと。その間に『天使の卵』も再読を済ませておく予定。もう細部とかすっかり忘れています。

・成田良悟の『Mew Mew!』読了。

 副タイトルは「Crazy Cat's Night」。前回の更新に引き続きまた「猫」です。佐渡島と新潟を結ぶ予定だったのに建設途中で放棄されてしまった「越佐大橋」、その真ん中に位置する名前のない「島」が舞台。要は『バウワウ!』の続編。主要キャラはほとんど入れ替わっているけど、いろいろネタを触れているところも多いし、先に『バウワウ!』読んでおいた方がいいです。

 さて今回は表紙を飾る少女がヒロイン。ギュンギュスカー商会のメイドよろしく前髪で顔を隠し、喋る際にもいちいち自信がない気弱な子です。というか、常時強気ではっちゃけている前髪迷彩っ子なんていないでしょう、まず。前髪フェイスは地味キャラの特権なんですから。もちろん、作者は成田なんだから前髪少女をただの地味キャラで終わらせるわけはない。世にも異形な「爪」を持った猫として描いています。ぶっちゃければ「チェーンソー二刀流」。どっかで見た気もするスタイルですが、それをヒロインにやらせている時点で成田は悪ノリしすぎ。こんなだから「成田悪悟」とか言われてしまうんです。

 やっていることは概ね前作と同様、いえ、もっと話を拡大して今までの成田作品とだいたい同じ。変なキャラが東奔西走右往左往活躍暗躍してゴタゴタしているうちに話が過熱して、気が付けばなんだか八方丸く収まっている。引っ掻き回してから整頓。クライム・ストーリーの王道ですね。でも今回はいつもに比べてちょっとおとなしかったかな。長さの割にはそれほど入り組んでいないし、サプライズも少し弱い。ただその分、落ち着いてキャラクターたちに目を向けることができた。「島」を舞台にしたシリーズの作品として巧い具合に魅力を引き出せている。思わせぶりに言及しておいたくせにまともな出番がなかった奴がいるなど、つくりは甘いのだけど、『バウワウ!』と合わせて読めばしっかり楽しめるはずです。恐らく出るであろう更なる続編にも期待。

 個人的に好きなキャラは八十島美咲。不幸にして不運の少女。カジノの制服姿にもハァハァですが、アンラッキーモンキーな毎日にもハァハァ。いずれまた再登場してほしい。そしてより不幸に。


2004-08-17.

・12年ぶりのシリーズ最新作『暗黒館の殺人』は上下合わせて2730円(税込)。値段からして読み応えのありそうな分量が推測でき、思わずワクワクします。辰巳装丁を意識した京極夏彦の装丁も見ているだけで多くの想いが溢れてきますなぁ。率直に書くと、綾辻の文章は平坦ですから、読み切るには苦労しそうな気がしないでもない。かと言って「見送る」なんていう選択肢もなく。あと20日ほどの焦らされデイズに耐えるとします。

『乳忍者』恐るべし。

戯画の新作『DUEL SAVIOR』体験版をプレー。

 横スクロール形式のACT。弱攻撃と強攻撃を組み合わせ、わらわら湧いてくるモンスターどもにコンボをブチ込んでは倒しまくる。単純明快で爽快感のある内容。体験版ではアクションパートしか体験できず、ストーリーがどんな具合かあんまり分からない。そこがちょっと残念。

 ゲームパッドがないのでキーボードでプレーしました。使うキーはZXCとテンキー。テンキーで移動したりジャンプしたり、ZXCの3キーで攻撃したりガードしたり。遊んだ感覚ではスーパーファミコンくらいの頃のアクションゲームみたいで、少し懐かしかった。もう十年以上は経っていますか。CAPCOMの『ファイナルファイト』を猿のようにやり込んだ……というか連射パッド使ってズルしてたんで「豚のように貪った」とでも形容した方が適切。ソドムをハメ殺したなぁ。

 この手のちょっとした操作や反射神経が求められるゲームは久しくやっていなかったせいでだいぶ腕がへたれていて(元から大したことなかったんですが、それ以上にダメっぽく)、クリアするまでに5回くらいトライするハメとなりました。けど、面白かったし、頑張ればなんとかなりそうなレベルなので10月の購入は確定。とりあえずパッドを調達しないと……。

・八杉将司の『夢見る猫は、宇宙に眠る』読了。

 『百万回死んだ猫』と『百万回生きた猫』、どちらのタイトルがお好みでしょうか?

 第5回日本SF新人賞受賞作の本作はタイトルに「猫」が入っており、第2回受賞作の『ペロー・ザ・キャット全仕事』に次ぐ猫派SFと言えます。でも、もろに猫だったペロー・ザ・キャットに対し、こっちの「猫」は比喩的な意味合いが強い。『百万回生きた(or死んだ)猫』を意識したようなエピソードが語られ、「この世界は不死の猫が宇宙を漂いながら見ている夢なのかもしれない」なんて言ったりするわけです。あれですね、テトリスとかぷよぷよとかスパイダーソリティアとか猛烈にやり込んだ後に目を瞑ると、瞼の裏でもゲームが延々繰り広げられる現象──俗に脳内ぷよぷよとか脳内テトリスとか呼ばれるあれ。何千、何万もの年月を様々な暮らしとともに過ごしてきた猫だからこそ、同様の原理でブランニューな脳内ライフが楽しめるんじゃないかと。カーズに足りなかったのはきっと経験なんだ。

 突如緑化した火星を舞台に、心象現実化──「無から有をつくり出す謎の力」を巡ってストーリーが展開していく。ナノマシンでなんでもあり、という設定になっているので大雑把と言えば大雑把。しかし文章は読みやすかったし、要所要所でこちらの興味を惹くよう巧く仕上がっている。退屈はしない。ラストは急ぎ過ぎな気もするけど……うーん、もう少し尺が欲しかったかな。

 ネタとしてもそれほどマニアックな代物はなく、「SFの定番ネタ」を少し知っているくらいでも安心して付いていける内容です。まったりした前半にさえ「弛み」が見えないところは評価したい。然れども、全体を俯瞰すれば特にこれといって際立った面白さを発揮するポイントがないから、最終的な印象は「地味」の二文字。ただ「地味」とはいえ、良作か否かで言えば一応良作の部類。強烈な個性こそ見られないものの、読んで楽しむには充分な出来映えでした。


2004-08-15.

・久々に再会するや否や「『虎の穴』って獣姦臭い響きだよな」と隙のない下品ぶりを見せつける旧友の姿に怯懦の絶句を強いられた焼津です、こんばんは。『年上ノ彼女』を読みながら「貧乳はソードオフの魅力に通じるものがある」と嘯く彼は変態動物園に収監されても文句を言えない気がします。その場で貧乳論を戦わせた当方もきっと同じ運命ですが。

・アテネ五輪の開会式見ようかと思ってたんですが、フジで『大脱走』やってたのでそっち見ちゃいました。好きなんです、脱獄モノ。ジョゼ・ジョバンニの『穴』とかマイケル・ギルバートの『捕虜収容所の死』とか最高。「穴を掘る」という行為からして既にたまりませんね。いえ、変な意味ではなく。

・あまりにも長期間ほったらかしにしていたリンクページを更新。当方の巡回先が概ね露呈されています。

Nitro+CHiRAL、OHP公開

 噂のニューブランド。BL(ボーイズラブ)、要は女性をターゲットにしたブランドの模様。BLブランドといえばアリスブルーが休止状態になったことだし、実際大丈夫なのかなぁ……。

 当方はそんなにBLへの抵抗はありませんが、かと言って興味もさしてない。スタッフの情報とかもまだ分かりませんし、しばらくは様子見します。

残暑見舞Fate絵(Crazy Clover Club)

 夕暮れの波打ち際と見えない風。涼しくなる一枚。

・海原零の『ブルー・ハイドレード』読了。

 スリルとサスペンスの連続。とにかく読者を楽観不可能な展開の数々で以って圧倒していきます。舞台が深海で、内容も潜水艦バトルがメインになっているため、漂う雰囲気は暗く重苦しい。表紙はおにゃのこですし、二つ折りのカラーイラストも表面は同じおにゃのこが裸で(ただしバストアップ)映っていますが、むしろ中身を象徴しているのは裏面のどんよりと辛気臭い絵の方です。上のリンク先でも「少女たちが世界を殺す!!」とか謳ってますからね。『銀盤カレイドスコープ』同様、萌えイラストで先入観を抱いてはダメ。

 深海の中に身を置いているときだけは安全で、陸に上がると途端に発症して死に至る謎のウイルスが惑星全体に蔓延した、という設定で人類が深海都市に住んでいる理由を説明するのはかなり強引ですけど、そのへんは読み進めているうちにあっさり気にならなくなりました。関心は大雑把な設定から逸れ、「飽きさせない、落ち着かせない、予測させない」の三拍子揃ったストーリーへと移っていきます。読み出したら止まらないジェットコースターノベルといった趣。

 ただ、問題は登場人物のどいつもこいつも──全員揃いも揃ってDQNで腹黒い連中ばかりってこと。カラーイラストで朗らかな笑顔を見せているおにゃのこも、ラスト付近では「クックックッ……」な邪笑を放つ有り様。銀カレも銀カレでヒロインが傍若無人というか、かなりアレな性格でしたけれど、今回もそのへんのノリは変わっていない。いえ、対象がヒロインに留まらずキャラみんなに拡大しているのだからむしろパワーアップしていると言っていいかも。各人の動機付けもいまひとつ弱いし、キャラクターに感情移入して読むタイプの人にはツライやもしれません。加えて視点がコロコロ変わって安定しないところも、人によっては「読みにくい」と思うかもしれず。

 クセはありますが、一気に読めるくらい面白かったです。続きも是非期待したい。でも、オススメするのは少しためらわれる。「誰が読んでも面白い」とは保証できません。ある種のストレスを感じながら楽しむタイプの話ゆえ、爽快感を求める人には向かない。それとまだシリーズの目処も立っていないようですし、もうちょっと区切りが付くまで静観しておくのも手です。しかし、キャラへの感情移入とかをあまり重視していなくて、疾走感に満ちた読み応えを求めている人は今のうちにチェックしておいた方がよろしいかと。これ、シリーズになったら「化ける」可能性あります。


2004-08-13.

・お盆です。予定? もちろんメインは積読・積ゲー崩しですよ。速度上げてリストの項目を間引かないと管理が追いつきやしない。あとは付き合いがいくつか。特に華々しいスケジュールでもないです、はい。

『キマイラの新しい城』読んでタイカレーに食欲をそそられ、食べに行きました。グリーンカレーというからナメック星人みたいな色合いのルーを想像していたんですが、そんなに大して緑色でもないですね。なかなか辛かったけれど、ココナッツの風味が利いていて一風変わった美味しさでした。また食べてみようかと。

・西尾維新の『新本格魔法少女りすか』、書き下ろしの第三話「不幸中の災い。」だけ読みました。一話と二話は“ファウスト”掲載時に読んでいるので。で、この三話目を読んで初めてりすかが面白いと思えるようになった次第。やってることはこれまで通り魔法バトルで、ノリはまんまジョジョ──というかこれまで以上にジョジョっぽくなっている。主人公・創貴の語りが完璧ジョジョ口調。話の展開もまるきりスタンド戦。スピーディでなかなか楽しめました。りすかとの関係についても突っ込んでいるし、単行本未収録の「敵の敵は天敵!」を含めたシリーズ全作の中でも特に読み所のあるエピソードかと。文章は相変わらずクドくて水増し気味ですが、不思議とサクサク読めるんですよねぇ。ともあれ次は『ネコソギラジカル(上)』。分冊とはいえページ数は結構あるみたいなので期待しています。


2004-08-11.

『ロリータ℃の素敵な冒険』を読んでつくづく自分は大塚スキーだという事実を噛み締めるに至った焼津です、こんばんは。活動が行き当たりばったりでムラありすぎで正直そろそろ愛想を尽かしたい気分だけど、それでも彼の小説を「面白い」と思ってしまうことは確か。……日記読み返してみたら去年も同じこと書いてました。やれやれです。

Meteor『神樹の館』体験版、プレー。

 シナリオライターが『CROSS†CHANNEL』の田中ロミオということで注目した一作ですが、内容は山奥の洋館を舞台にした閉鎖環境サスペンスとのことゆえ、ロミオの名前を差し引いても楽しみです。綾辻の“館”シリーズとか、好きだからー。屋敷の名が「那越邸」なところからして「霧越邸」を連想したり。

 明治時代に建てられ、増改築を繰り返しながらも当時の趣を残している那越邸。同級生の四ツ谷麻子が館主の親戚に当たるとのことで、興味を惹かれて卒論を手掛ける傍ら訪れた主人公。しかし、着く間際になって雨が振り出す。あたりの地盤は緩みやすいから、このまま帰るのは危険だ──と諭されて雨がやむまでの間、屋敷に宿泊することになったふたり。現代にそぐわぬ、しかし館の雰囲気にしっかりと馴染んでいるメイド姿の女中。望まない客人に警戒と怯えを見せる双子。そして、姿を現そうとしない館主。何が、というよりも、全体としてどこか不思議な空間。雨は降りやまず、幾日にも渡って館に滞在するうち、次第に現実感が失われていく……。

 座敷牢キタ━━(゚∀゚)━━!! マヨイガキタ━━(゚∀゚)━━!! といった具合に館モノでありながら土俗的ムードの香るクローズド・サークル伝奇。マップ移動形式というのがいかにも伝統的。システム面ではクリックのレスポンスが悪く、いまいち快適にプレーできなかった。文章表示直後にクリックしても文が送られなかったり、クリックしてから画面が切り替わるまで微細な間があったり、チマチマしたところでストレスが溜まる。シナリオの方も日常シーンが割とかったるい。テキストはときたま言い回しが迂遠になったり、前後の繋がりが怪しくなったりしている。また、いちいち説明しないでプレーヤーに読み取らせようとする箇所も多く、漫然とやっているだけでは把握しづらいことも。どこまで狙ってやっているのか判断しにくいですが、好みが分かれそうな文体です。

 とはいえ終盤に入ってからは謎めいたスリルで話を盛り上げてくれるし、製品版への期待は充分なだけ抱かせてくれる。伝奇モノ、館モノは久々だし、実に楽しみ。麻子たんの程好いオパーイに(*´Д`)ハァハァしながら来月を待つとします。


2004-08-09.

・ガンダルフとガンタンクの響きがちょっぴり似ていることに気づいた焼津です、こんばんは。そうか、だから「ナイトガンダム物語」でガンタンクは僧侶だったのか。

・ハバネロカレーを食べてみました。味蕾を突き抜ける爽快なまでの辛さ。その後に飲んだ味噌汁が甘く感じられる不思議体験。辛いものってしばらく食べていないとつくった耐性が消えてしまうもんなんですね……。

・殊能将之の『キマイラの新しい城』読了。

 またしてもやってくれたな、殊能。といった感じの新作です。とにかく一筋縄ではいかない作風の殊能ゆえ、「今回もただじゃ済まさないだろうな」とは予測していましたが、ここまでとはね。もう笑うしかない。

 テーマパークの社長が「わたしは十字軍に参戦したエドガー・ランペールだ」と言い張り、「剣と魔法のファンタジー」を標榜する園内に完全再現された中世の城「シメール城」で7世紀半前に起きた自らの死の真相を解き明かすことを要求するところから物語は始まる。13世紀のフランス人に取り憑かれたと主張する社長の姿に社員はみな「頭がおかしくなった」と悲嘆するが、スキャンダルを嫌ってか、入院させようとはしない。彼らのひとり、大海は事態を解決すべく、自称「名探偵」の石動戯作に真相究明を依頼した。かくして750年前の事件に挑むこととなった石動。手掛かりは社長の妄想めいた証言と、現場である城のみ。さしもの「名探偵」も「 ど う す れ ば い い ん だ 」と悩んだ挙句、突飛な手を打ったが……。

 750年前、本当にあったかどうか、資料の上では確認できない事件を巡って迷走する長編小説。ン百年前、ン千年前の謎を解くといった趣向のミステリ自体はそんなに珍しくないんですが、さすがに゜「亡霊に取り憑かれた」なんて力技をかます作品はそうありません。それだけでも「やってくれた」感は強いんですが、この「現代に甦った亡霊」の思考から言動までいちいち詳細に作り込んでいるせいで、物語はかなりマヌーな雰囲気を帯びます。カレーを「地獄の泥」と形容したり、六本木ヒルズを「ロポンギルズ」と言ったりする部分など、全体的に芸が細かい。地の文も地の文で「百数十億年前、ビッグバン直後の宇宙に、まだ六本木は存在していなかった」ってな具合に電波が混じっているところがあります。殊能の文章は「濃やかだけど平易」といったノリが基調で、その代わりやたらといろんなネタを仕込むせいで衒学的とも言える雰囲気を帯びることもあるのですが、あくまで「読みやすさ」は損なわれません。しかしながら終始一貫して普通の文を紡ぎ続けるのが嫌なのか、たまに実験的ともふざけているとも取れる奇怪な章が入り込む。妙な癖です。

 さて、「750年前の事件に挑む」ってトコは特に何も言い添える必要がなく平凡に面白そうなんですが、「わたしはこの『社長』に取り憑いた亡霊である」と主張する語り手に関しては……やっぱりキナ臭いものを感じました。ぶっちゃけ、バカミスだと。殊能だからひと味違う作品で勝負してくるだろうとは読んでいましたけど、さすがにこういった設定で攻めてくるとは予想していません。「いや、むしろこれを足がかりにして新しい展開がきっと……」という思いも虚しく、最後の方までこの設定のままズルズルと進んでいきます。本格ミステリを期待していた読者はどんどん不安に苛まれる。そんな気持ちをよそに、話はあれよあれよと「本格ミステリじゃない方向に」面白くなっていく。

 それでも一応「謎解き」の要素はあり、サプライズを演出するトリックも地味に仕掛けられています。驚きの度合いとしては「な、なんだってー!?」とキバヤシに叫び返すクラスじゃなく、「ああ、そういえば!」と膝を打つ程度。作中で揶揄するように言われている「驚天動地」とは趣が異なります。大掛かりなネタもあるにはありますけれど、かなり強引で「驚天動地」系のパロディといった風情が濃い。石動戯作シリーズはもともと本格ミステリを皮肉する傾向にあり、石動戯作というキャラの造型・役割も徹底的に「名探偵」の像を嘲笑っています。本作品でもよくある「密室講義」を道化的に一席ぶっている。本格ミステリに幻想を持っている人が読めば眉を顰めかねない。だからと言ってこのシリーズが本格嫌いの読者を対象にしていると言えばそうでもなく、むしろ本格好きの読者じゃないと分からないネタが多いわけです。本格ミステリへの幻想を失いつつありながら、それでも本格ミステリを愛する人にこそ美味しく召し上がれる一品かと。

 素直に本格ミステリを期待してページを開いたら「おとといきやがれ」と叩き出される怪作。本格ミステリとファンタジーを横断するキマイラっぽい複合テイストに戸惑わされる。ある種のタイムスリップものだし、こっそり活劇シーンもあったりするので実は冒険小説としても楽しめる面が存在しており、サービス精神は充分。できれば既刊のシリーズ作品(最低でも『黒い仏』『鏡の中は日曜日』の2冊)を押さえておいてほしいところですが、ここから読み出しても面白いことに変わりはありません。「テーマパークの社長が騎士の亡霊に取り憑かれる」なんつーヤバげでダメ臭い設定がなんとなく活用されてキレイにまとめられる絶技をご覧ください。


2004-08-07.

・うとうとしながらボンバヘェを見ていたときに地震が。結構揺れたのでビックリして目が覚めました。幸い積読・積ゲーの山に被害はなく、当方のビビりゲージが少しばかり上がっただけで済んでホッとひと安心。

・新刊ラッシュです。注目していた作品が一気にドバッと発売されました。『空ノ鐘の響く惑星で4』『9S IV』『キマイラの新しい城』『冷たい校舎の時は止まる(下)』『サウダージ』『復活の地2』の6冊を購入。他にも『ロボット妹』『ダビデの心臓』『僕たちの戦争』『綺譚集』など気になる本はあったんですが、10冊も買ったところで積読山の肥やしになるのみゆえ、次の機会に譲りました。

『Phantom INTEGRATION』、発売延期

 8月27日→9月17日。『天使ノ二挺拳銃』と接近しそうな気配が。

・町田康の『パンク侍、斬られて候』読了。

 見る者の目を逸らさせずにはいられないアホもあれば、見る者の目を惹きつけて離さないアホもあるわけです。「世界は巨大な条虫の腹の中にある」と説き、条虫の体内から脱出して外なる真の世界へ向かうことを至上とするカルト集団「腹ふり党」。彼らは条虫に排出してもらうため、無闇矢鱈に己の腹を振る。左右に振る。「ああ」とか「うーん」と唸りながら振る。振って振って振りまくり、四拍子のリズムに乗って恍惚としながらなおも振る。国を滅ぼしかねない脅威の馬鹿どもに立ち向かうパンク侍──とこれほどまでに魅惑的なアホ小説、探してもなかなか見つかりません。

 侍というからには時代モノですが、素直にテレビの時代劇まんまのノリや、池波正太郎とか最近だと乙川優三郎みたいな真っ当な時代小説をやるかというと、もちろんそんなことはない。なにせ作者は町田康だし、タイトルには「パンク侍」だし。平気で横文字や現代口語が飛び出します。「どこまでソウルのふざけた妹でしょう」とか書いている時点でこれはどこまでもソウルのふざけた小説だと思います。時代モノにあるまじき軽快さでもって当方も爆笑することしきり。やってること自体は「アホ」の一言なんだけれども、文章は分析的な面が強く、アホはアホでも知性の宿ったアホ、つまりは「冷静に分かっててやっているアホ」なんです。自覚的でありながら、いやむしろ自覚的であることそのものも計算に織り込んで、こちらの横隔膜が痙攣し喘ぐほどの強烈な笑いを生み出す。もはや錬金術的なまでの手際。作者の才能に畏怖を禁じえません。

 一読し、笑い疲れました。「腹ふり党」といういかにも間抜けな語感・字面に惹かれるものがある方には文句なくオススメ。清々しいくらいにナンセンスです。

『雲のむこう、約束の場所』予告編ムービー公開

 ステキ。こればかりは何が何でも見に行かなきゃ。


2004-08-05.

・クラシックジンジャーエールを飲んで喉がムズ痒くなった焼津です、こんばんは。確かにちょっとヒリヒリするけど「辛口」とは少し違うような。

・それにしても今月は注目作が少ない。小説の方は古橋秀之と浅井ラボの新作が既に購入済なので、あとは殊能将之の『キマイラの新しい城』、垣根涼介の『サウダージ』、辻村深月の『冷たい校舎の時は止まる(下)』、小川一水の『復活の地2』、加賀美雅之の『監獄島(上・下)』くらいが確定、江戸川賞の『カタコンベ』と上遠野浩平の『ソウルドロップの幽体研究』は確定に近い検討で、そこそこ数はありますが、ゲームに至っては『そらうた』一本のみという有様。これを延期されたら本当に買うものがない。

・浅井ラボの『そして、楽園はあまりに永く』読了。

 いまスニーカーでもっとも暗いシリーズ、“されど罪人は竜と踊る”の最新作。陰気で内向的な少女を書かせればスニーカー随一とされる高瀬彼方さえ「浅井ラボだけには『暗い』とか言われたくない」といった旨の発言をするほどにダークネスかつネガティヴなこのシリーズ。ダラダラと垂れ流されるタール並みに重く黒いガユスのマイナス思考、バンバンと際限がなくてどれだけ転がせば気が済むんだか分からない大量の死体、ズンズンと腹に響くビートで情け容赦なく繰り広げられる鬱展開……そうした暗夜行と相反する能天気なギャグの数々も「たかいたかーい、ズドン」と読者の気分を持ち上げては放り出し叩き落す凶悪コンボの地獄門にも似て、イヤガラセもここまで来ると芸の一種だな、と感心させられます。

 話は前巻『くちづけでは長く、愛には短すぎて』のダイレクトな続き。まだ読んでいない方はこちらを先にお読みください。「地層になーれ」「椅子を積みげただけの平和な光景も、ギギナの目には輪姦の場面に見えるらしい」と相変わらず狂ったセンスが炸裂している点、アクションシーンにおいて化学的魔術と超常的体術が混在し派手派手しくケレン味溢れる魅力を発している点などは既刊のファンも安心ですが、本筋の方では読者を読者とも思わないラボ流我道邁進ぶりをこれでもかこれでもかとたっぷり見せ付ける。凹むか「痺れる憧れるゥ」となるかはあなた次第。とはいえ現時点でファンの多くが膝を屈し手をついて「_| ̄|○」のポーズそのままに衝撃と傷心の渦へ叩き込まれていることは事実です。クオリティはともかく内容の面ではファンすらも安心させない。

 最初、つまり1巻目の『されど罪人は竜と踊る』からしてかなりアクが強く、2巻目の『灰よ、竜に告げよ』も新人とは思えない分量+「なぜこれでNGじゃないんだ」と疑問になるほどハードな展開だったため、ほとんどの読者はこの『そして、楽園はあまりに永く』に至るまでの過程で試練を経てきたことになるのですが、それでもなおキツイわけです。一ファンたる当方は夢中になって読み耽り、予定調和的に「_| ̄|○」な気持ちを味わいました。“されど罪人は竜と踊る”シリーズが未経験という方にオススメしたい代物かと問われれば逡巡せざるをえない。ストーリーが前巻の続きだということは単に前巻の『くちづけでは長く、愛には短すぎて』からオススメすれば問題ではなくなりますが、むしろ問題の焦点は浅井ラボが筆先から滴らせる「毒」にあります。毒も少量なら薬と同じ働きを見せることがあり、毒を毒として楽しめる読者もいるでしょうが、そういった耐性に欠く人は易々とトラウマ体験入門をしてしまいかねない。当方が言える範囲のことは、作品に漂うどんよりした雰囲気から用量・用法を正しく読み取り、適切に処方していってほしいってくらいのことです。あー、でも「暗い」「残酷」「鬱」に期待して読み出すと却って拍子抜けかもしれません。そういった方面が平気な人の場合はそれこそ全然平気でしょうから。そっち方面に耐性のない人が生半可な好奇心で着手すれば臓腑を抉られますけど。

 あくまでクオリティで言えばシリーズ最高の一冊。発売延期によって前巻から7ヶ月待たされたことも不問にしたい。もはやスニーカーというレーベルを超え、当方にとってはライトノベル全体でも十指に入るほどの期待シリーズとなってきました。


2004-08-03.

・縁に躓いた途端、足を攣ってしまった焼津です。こんばんは。思わず何かの槍がふくらはぎを突き抜けて行ったかと錯覚しましたよ。ビクンビクンとさながら陸に打ち上げられた海老のごとく身体を折ったり仰け反ったり、正に「無様」の一言に尽きる仕草を路上公開。幸い五秒ほどで激痛の波は去っていきましたが、躓いただけでこむら返りを起こすなんて初めて。物凄くイヤな新鮮さでした。

・古橋秀之の『斬魔大聖デモンベイン 機神胎動』読了。

 日記を読み返すと3月8日付で初めて話題に触れていますね。「古橋秀之がデモベの外伝を手掛ける」というニュースを目にしたときの心境は「ぶっちゃけありえない」の一言に尽きました。第2回電撃ゲーム小説大賞を受賞し、それなりに華々しくデビューしたものの、“ケイオス・ヘキサ”シリーズは狭く濃いコアな人気を集めるばかりで一般受けせず、続く作品(タツモリ家)の評判も低調……といった感じで徐々にライトノベルの表舞台から存在感を消臭していった作家、古橋秀之。ここ3年の間にも『サムライ・レンズマン』『IX』『蟲忍』と散発的に作品を刊行していますが、広く認知されるには至らなかったし、ファンの目から見ても「完全復活」とは受け取りるには微妙な状況でした。概ね年一冊ペースを守っているけれど、いつ何をキッカケにふっつりと出さなくなるかも知れず、いろいろとハラハラさせられるものがあります。

 解説にもある通り、デモンベインのシナリオは“ケイオス・ヘキサ”シリーズの影響が顕著に見られる代物です。サイバーパンクかつオカルトパンク。何せクトゥルー神話的世界で魔術師たちが巨大ロボット活劇を繰り広げるほどの荒唐無稽っぷりですから。吸血鬼が禹歩するようなノリを地で行っています。PC版に当たる『斬魔大聖デモンベイン』とPS2版に当たる『機神咆吼デモンベイン』の二種類ありますが、どちらも骨子は同じなので一方をプレーすればOK。PS2版の方は操作性が悪いらしいですが、総合的にはオトクとのこと。

 さて、外伝に当たるこの『機神胎動』は時代を遡り、だいたい19世紀末頃が舞台。物語において重要な位置を占める割に本編ではあまり語られなかった「覇道鋼造」を主人公に話を進めていきます。本編のキャラは他にもアル・アジフとかが出てきますが、基本的にはオリジナルキャラがメイン。アルもどちらかと言えばサブキャラに近い扱いとなっています。「萌え」に類する描写も一切と断っていいほどナシ。「燃え」一辺倒。ステッキがバルザイの偃月刀に変化するシーンをただ「変化する」ものとして書くのではなく、「鍛え直す」ものとして描写するなど、細部への配慮も心憎いばかり。

 ただ、古橋秀之なんだから、ある意味、なんかこう──「いやもうこれはデモンベインじゃないだろ」みたいな破天荒ぶりを予想していたと言いますか期待していたのですが、蓋を開けてみればすごく真っ当な出来映えの外伝でつい驚きました。正統派熱血ストーリー。書けないとは思っていませんが、まさか書くとは思っていなかった。かなり失礼な気もしますが偽らざる感想です、はい。

 描き出す景色、醸し出す空気は原作と見事に一致しています。筋立ても、読んでいて単純にワクワクするような冒険小説のツボを押さえている。1冊で完結する外伝としては過不足なく、ほぼ理想的なノベライズ作品に仕上がっています。欲を言えばもっと黒古橋っぽい持ち味を活かしてほしかったところですが、まぁそれはファンの戯言ということでテキトーに聞き流してくだされ。代わりに熱血古橋を目撃することができましたし。都合3ヶ月も発売延期したことを除けば概ね満足。覇道鋼造イイね。もうひとりの主人公を完全に喰っちゃってる。やはり古橋の書いたデモベが読めるなんて最高。

 ただし「穴の開いた魔導書」を当方がまったく別の意味合いに取りそうになったのはここだけの話です。いや、マジ勘弁して。


2004-08-01.

『夏と冬の奏鳴曲』を「『冬のソナタ』のパクリ?」と言われた気持ちを誰かに察してほしい焼津です、こんばんは。『螢』まだですかね。

・今度こそ『ハバナの男たち』ゲット。もちろん『斬魔大聖デモンベイン 機神胎動』『そして、楽園はあまりに永く』の二冊も忘れていません。ゲームは『サフィズムの舷窓〜an epic〜』のみ購入。某FDはかなり評判がしょっぱいので回避。ともあれ、この日曜が楽しみになるラインナップです。

ぱじゃまソフトの新作『プリンセスうぃっちぃず』、情報公開開始

 勢いのあるストーリー紹介に早くも心惹かれる一作。「今冬(?)発売予定」の「(?)」が不安を誘発しますが、現時点ではほぼ購入確定の駒。

『ままらぶ』、発売予定日が9月17日に決定した模様

 価格が6825円(税込)と少し安めなのが却って懸念要素だったり。シナリオライターが丸戸史明なので、どの道購入は確定していますけど。

『小学六年生』9月号付録「ぼくたちがセックスについて話すこと」(石田衣良)

 つい先日『娼年』を読んだので興味津々ですが、さすがに手は出しにくいなぁ……。

(追記) 調べてみたら書き下ろしではなく『4TEEN』に収録された短編でした_| ̄|○。どうもこの「小六キッズ文庫」というのは過去に発表した作品の再録みたいです。


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